本発明は、作業地を走行する作業車及びこの作業車の走行を支援する走行支援システムに関する。
作業車は、走行機構を有する車体と、この車体に装備された作業装置からなり、車体の走行にともなって、作業装置が作業を行う。例えば、田植機やコンバイン、耕耘装置を取り付けたトラクタなどがそのような作業車に属する。
最近、予めその位置がわかっている、車両走行の障害となる障害物、例えば、作業地の外形を規定する柵や畦、作業地内の存在する池や構造物や岩石との干渉を避けるため、GPSなどを用いて算出される自車位置に基づいて障害物との位置関係をチェックして、障害物との干渉を回避する機能が作業車に備えられている。
例えば、特許文献1による、トラクタ車体に作業装置(耕耘装置)を装着した自律走行作業車両では、車体の全長と作業装置の幅で占める四角形の面積を、走行作業車両が走行時に占める、仮想的な最大占有領域と定義して制御装置のメモリに保存する。走行時には、自律走行作業車両の最大占有領域が圃場外と重複していないか判断する。設定範囲内に入っていない場合、車体が圃場内の設定範囲内に位置していても作業装置の後端や側端が圃場外に位置している可能性があるので、自律走行は開始せずに、運転者が自律走行作業車両の進行方向を調整する。なお、最大占有領域の形状は四角形に限定せず、この四角形の外接円とすることで旋回時に畦等との干渉を認識し易くすることも提案されている。
しかしながら、作業車の場合、作業装置の幅が車体に比べて大きいものが多く、車体と作業装置によって規定される作業車を外接する四角形や円の面積を作業車の最大占有領域とすれば、作業装置や車体の形状によっては、作業車の周辺の比較的大きな領域も、最大占有領域に含まれてしまう。このことは、作業地内に存在する障害物などとの干渉を回避するためにそのような最大占有領域に障害物が入らないような走行軌跡を選択すると、作業車が障害物に近づけなくなり、作業ができない領域が大きくなってしまうという問題が生じる。
上述した実情に鑑み、作業を伴う直線走行や旋回走行、あるいは作業を伴わない直線走行や旋回走行などの走行時における障害物との干渉を避けるために用いられる、作業装置によって規定される作業装置の仮想的な最大占有領域を、適切に設定することができる技術が要望されている。
車体と前記車体に装備された作業装置とを有する作業車の作業地における走行を支援する、本発明による走行支援システムは、走行時に前記作業地に対して占める前記作業車の仮想的な作業車占有領域を、前記車体が占有する車体占有領域と、前記作業装置が占める作業装置占有領域とに分けて管理する作業車占有領域管理部と、測位データに基づいて前記作業地における前記作業車の位置である自車位置を算出する自車位置算出部と、前記自車位置と前記作業車占有領域とに基づいて、前記作業車の走行を支援する走行支援部とを備えている。なお、作業車の走行には、作業を伴う直線走行や旋回走行、あるいは作業を伴わない直線走行や旋回走行などの走行が含まれている。
この構成によれば、車体と作業装置とがそれぞれ作業地に対して占める仮想的な占有領域が、別個に、つまり車体占有領域と作業装置占有領域とに分けられて管理されるので、作業装置の幅が車体に比べて大きな場合でも、全体としての作業車占有領域に、作業車の部材が存在しないデッドな領域が含まれることがない。例えば、車体占有領域及び作業装置占有領域が障害物に接近してもいずれかの占有領域が障害物と干渉しない限り、当該走行を許容するような走行支援が行われても、無駄に非作業領域が残存してしまうという不都合を抑制することが可能となる。
車体占有領域や作業装置占有領域を設定する主な理由は、障害物との干渉を避けるために必要となる自車の領域を、実物より簡単な仮想形状に置き換え、その干渉可能性を、できるだけ簡易に算出することである。したがって、前記走行支援部は、前記車体及び前記作業装置と前記作業地に存在する障害物との干渉可能性を判定する機能を有することが好ましい。なお、作業地に存在して、それ自体は移動しない障害物は、作業地の境界付けている柵や畦などの外囲障害物、作業地に存在する井戸や電柱や岩石などの内在障害物である。もちろん、作業車が障害物検出機能を備えている場合には、人や動物や作業車などの移動障害物も、本発明における障害物として取り扱うことができる。
したがって、作業地を境界付けている畦や柵、あるいは作業地内に存在する電柱や井戸や岩石などの障害物の位置や大きさが予め管理されていると好都合である。さらには、車業車自体が障害物検出機能を備えている場合には、走行中に検出された障害物の位置や大きさがその時点で管理されると好都合である。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業地の障害物の位置と大きさを含む障害物情報を管理する作業地管理部が備えられている。この場合、走行支援部は、障害物情報も考慮して作業車の走行を支援することも可能である。
作業車には、種々の走行状態が生じる。例えば、走行状態を決定する要因として、作業装置の姿勢変更、低速走行や高速走行、直線走行や旋回走行、高負荷作業や低負荷作業、さらには、凹凸が激しい走行地面や泥濘走行地面などが挙げられる。走行状態によって、作業車の操舵安定性や制動性が変動する。作業車の操舵安定性や制動性が悪くなる走行状態では、作業車占有領域をより大きくすることで、安全性を高めることができる。このことから、前記作業車の走行状態に応じて前記作業車占有領域の大きさが変更される機能が備えられると好都合である。
特に作業車の車速は、作業車の操舵安定性や制動性に大きな影響を与えるだけでなく、自車位置の算出精度にも影響する。このことから、前記作業車の車速に応じて前記作業車占有領域の大きさを変更する構成を採用することは、利点がある。
作業装置の対地高さが高い場合、作業装置は、作業地内の存在する背の低い岩石や井戸などの障害物や、高さの低い畦や柵などの障害物とは接触しない可能性が高い。このような作業装置と障害物との高さに関する干渉関係が予め把握できている場合には、作業装置との干渉を走行時に考慮する必要がない障害物を確定することができる。本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業地に存在する障害物の対地高さが前記作業装置の対地高さより低い場合、少なくとも当該障害物の周辺を走行している間は、前記作業装置占有領域が縮小または消滅される。これにより、無駄に作業装置と障害物との干渉を考慮して、走行の効率を悪化させる問題が低減される。
作業車の車体に昇降機構を介して装備される作業装置がある。このような作業装置では、対地高さの位置によって、障害物に対する干渉可能性が異なってくる。このため、前記作業装置の対地高さを変更する昇降機構を介して前記作業装置が前記車体に装備されている場合での、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記対地高さに応じて前記作業装置占有領域が変更されるように構成されている。これにより、無駄に作業装置と障害物との干渉を考慮して、走行の効率を悪化させるという問題が低減される。
車体占有領域や作業装置占有領域は、主には障害物との干渉を回避する走行を実現するために走行支援部で用いられる。また、障害物との干渉時の損害は、作業装置の種類によっても異なる。干渉時の損害が大きな走行では、作業車占有領域を大きくすることにより、障害物との干渉の危険性を低減することが好ましい。このことから、作業地毎に、あるいは走行毎に、車体占有領域及び作業装置占有領域がもつ重み、言い換えるとその占有領域の大きさがもつ重要性が異なることになる。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記車体占有領域の大きさと作業装置占有領域の大きさとがそれぞれ独立して設定可能である。これにより、安全性と走行の効率との両者を考慮して適切な走行を選択することができる。
さらに、上述した走行支援システムを組み込んだ作業車も本発明に含まれる。そのような本発明による作業車は、車体と、前記車体に装備される作業装置と、作業地での走行時に前記作業地に対して占める仮想的な作業車占有領域を、前記車体が占有する車体占有領域と前記作業装置が占める作業装置占有領域とに分けて管理する作業車占有領域管理部と、測位モジュールからの測位データに基づいて自車位置を算出する自車位置算出部と、前記自車位置と前記作業車占有領域とに基づいて走行を支援する走行支援部とを備えている。このような作業車も、上述した走行支援システムと同じ作用効果を得ることができ、また上述した種々の好適な実施形態を取り入れることも可能である。
特に、前記走行支援部が、前記車体及び前記作業装置と前記作業地に存在する障害物との干渉可能性を判定する機能を有すると、判定された干渉可能性に基づいて、障害物との干渉を回避する走行が実現可能となる。
したがって、そのような作業車には、作業地を境界付けている畦や柵、あるいは作業地内に存在する電柱や井戸や岩石などの障害物の位置や大きさを含む障害物情報、さらには、走行中に検出された障害物の位置や大きさを含む障害物情報を管理する作業地管理部が備えられることが好ましい。
さらに、作業地を走行する作業車は、手動操舵または自動操舵により案内走行経路に沿って走行することができる。手動操舵を行う作業車では、前記干渉可能性を報知する報知部が備えられると、運転者は報知された干渉可能性により、障害物との干渉を回避する運転を行うことができる。また、自動操舵を行う作業車では、案内走行経路に沿って走行するように自動操舵する自動走行制御部が備えられているので、この自動走行制御部が、前記干渉可能に基づいて、前記障害物を回避するように自動操舵するように構成することができる。
作業車の仮想的な作業車占有領域が、車体が占有する車体占有領域と、作業装置が占める作業装置占有領域とに分けて管理されることを説明する説明図である。
作業装置と障害物との高さ関係に応じて作業装置占有領域が拡縮することを説明する説明図である。
作業車の実施形態の1つを示すトラクタの側面図である。
トラクタの制御系を示す機能ブロック図である。
車体占有領域及び作業装置占有領域のサイズ調整を行うための操作画面図である。
本発明による走行支援システム及び作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて、走行支援システムの基本原理を説明する。ここでは、作業車は、走行機能を有する車体1と、車体1に昇降機構31を介して装備されている作業装置30とからなる。さらに、この作業車には、GNSSモジュールなどによって構成される衛星測位モジュールが備えられており、車体の座標位置(以下単に自車位置と称する)を示す測位データが出力される。なお、測位データで表される自車位置は、アンテナの位置が基準となるが、自車位置は、アンテナの位置ではなく、車両の最適な位置になるように位置補正処理が行われる。
図1には、作業地の外周境界領域を形成する畦または柵及び作業地内に存在して作業車の走行の障害となる設置物が障害物とみなされ、その障害物の作業地を占有する領域を障害領域OBとして図示されている。作業地に設定された、作業車の走行目標となる走行経路LNは、ここでは、互いに平行に延びている直線経路と各直線経路を接続する180°旋回経路とから形成されている。作業車が運転者による手動操舵で走行する場合には、作業車が走行経路LNに沿って走行することを支援するため、走行経路LNと自車位置とのずれを報知する機能が働く。また、作業車が走行経路LNに沿って自動操舵で走行する場合には、走行経路LNと自車位置とのずれを修正するように操舵輪が制御される走行支援機能が働く。
図1の例では、障害物の地図上の座標位置及びその大きさと地上高さが、予め作業車の制御系に登録されており、当該障害物に対応する障害領域OBが設定されている。さらに、作業車を構成する車体1及び作業装置30と障害物(障害領域OB)との位置関係、つまり干渉可能性の演算を簡単にするため、車体1及び作業装置30の複雑な形状を簡単で仮想的な形状である、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAに置き換えている。車体占有領域VAと作業装置占有領域WAとは、平面視における地上での大きさを示しており、車体占有領域VAと作業装置占有領域WAとによって、作業地での走行時に作業地に対して占める作業車の仮想的な作業車占有領域が決定されている。なお、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAと自車位置との位置関係は予めテーブル化されており、作業地における車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの位置(地図上の座標位置)がリアルタイムに算出可能である。
図1に示されているように、車体占有領域VAは、車体1の平面視での外形を覆う楕円形または円形であり、作業装置占有領域WAは、作業装置30の平面視での外形を覆う楕円形または円形である。車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの形状は、四角形などの多角形であってもよいが、実際の車体1や作業装置30を内包することができる大きさに設定される。
障害物と車体1との干渉は障害領域OBと車体占有領域VAとの重なりとして算出され、障害物と作業装置30との干渉は障害領域OBと作業装置占有領域WAとの重なりとして算出されるので、そのような重なりが生じないように作業車を導くことで、障害物と作業車との干渉を回避することができる。
車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAのそれぞれの大きさは、任意に設定可能である。障害物との干渉を回避する安全率を大きくしたい場合には、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの大きさを大きくすればよい。このような観点からは、例えば、作業車の走行が高速の場合は、低速に比べて、制動精度や操舵精度が劣るので、高速走行時には、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの大きさを、低速走行時に比べて拡大すると好都合である。このような車速に応じた領域拡縮は自動的に行われるようにすることも可能である。さらには、運転者の技量や走行の種類によって、障害領域OB及び車体占有領域VAの大きさを拡縮することも可能である。
なお、上述したように、この作業車では、作業装置30が車体1に昇降機構31を介して装備されているので、作業装置30の地上高さが変動する。したがって、図2で示すように、障害領域OBの地上高さが作業装置30の地上高さを下回っている場合、作業装置占有領域WAを消滅(または縮小)させることができる。もちろん、車体占有領域VAはそのままであるので、車体1が障害領域OBとの干渉を回避するよう走行するための走行支援が実行される。また、車体1の前部、例えばボンネット(フレームを含む)が前輪より前方に延びており、その結果、車体占有領域VAが前輪より前方に延びているような場合では、障害領域OBの地上高さがボンネットの地上高さを下回っている限り、この障害領域OBに対する車体占有領域VAを縮小させることができる。これにより、車体1が障害領域OBとの干渉を回避しつつ、非作業領域が残る問題を抑制できる。
上述した例では、障害物(障害領域OB)は既に作業地の障害物情報に記述されており、その地図上の座標位置も作業車のメモリに記憶されている。自車位置が算出されると、付近の障害物の地図座標とともに車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAが自車位置に応じて導出され、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAとの間隔からその干渉可能性が算出される。障害物情報に記述されていない障害物の場合、特に移動障害物の場合、作業車に監視カメラや超音波やレーザーなどを用いた障害物検出装置が備えられておれば、その検出結果から、リアルタイムに障害領域OBが生成され、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAとの間隔からその干渉可能性が算出される。また、監視カメラや超音波、レーザーなどを圃場に備えておき、その検出結果を障害物情報として作業車に送信する手段も考えられる。
次に、本発明の走行支援システムを組み込んだ作業車の具体的な実施形態の1つを説明する。この実施形態では、作業車は、図3に示されているように、畦によって境界づけられた圃場(作業地)に対して走行作業を行うトラクタである。このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体1の中央部に操縦部20が設けられている。車体1の後部には油圧式の昇降機構31を介してロータリ耕耘装置である作業装置30が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、その操舵角を変更することでトラクタの走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は操縦部20に配置されているステアリングホイール22の操作によって可能である。トラクタのキャビン21には、GNSSモジュールとして構成されている衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GPS信号やGNSS信号を受信するための衛星用アンテナがキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、衛星測位モジュール80には、衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを含めることができる。
もちろん、慣性航法モジュールは、衛星測位モジュール80とは別の場所に設けてもよい。
図4には、このトラクタに構築されている制御系が示されている。この制御系は、図1を用いて説明された、障害物情報と自車位置と作業車占有領域(車体占有領域VA及び作業装置占有領域WA)とを用いた走行支援システムを実現するように構成されている。この制御系の中核要素である制御ユニット5には、入出力インタフェースとして機能する、出力処理部7、入力処理部8、通信処理部70が備えられている。出力処理部7は、車両走行機器群71、作業装置機器群72、報知デバイス73などと接続している。車両走行機器群71には、操舵モータ14をはじめ、図示されていないが、変速機構やエンジンユニットなど車両走行のために制御される機器が含まれている。作業装置機器群72には、作業装置30の駆動機構や、作業装置30を昇降させる昇降機構31などが含まれている。通信処理部70は、制御ユニット5で処理されたデータを遠隔地の管理センタKSに構築された管理コンピュータ100に送信するとともに、管理コンピュータ100から種々のデータを受信する機能を有する。報知デバイス73には、ディスプレイやランプやスピーカが含まれている。ランプやスピーカは、走行の障害となる障害物に対する接近情報、自動操舵走行での目標走行経路からのずれを示す偏差情報など、報知したい種々の情報を運転者や操作者に報知するために用いられる。報知デバイス73と出力処理部7との間の信号伝送は、有線または無線で行われる。
入力処理部8は、衛星測位モジュール80、走行系検出センサ群81、作業系検出センサ群82、自動/手動切替操作具83などと接続している。走行系検出センサ群81には、エンジン回転数や変速状態などの走行状態を検出するセンサが含まれている。作業系検出センサ群82には、作業装置30の地上高さや傾きを検出するセンサ、作業負荷などを検出するセンサなどが含まれている。自動/手動切替操作具83は、自動操舵で走行する自動走行モードと手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。例えば、自動操舵モードで走行中に自動/手動切替操作具83を操作することで、手動操舵での走行に切り替えられ、手動操舵での走行中に自動/手動切替操作具83を操作することで、自動操舵での走行に切り替えられる。
制御ユニット5には、図1を用いて説明された、車体占有領域VAと作業装置占有領域WAとに区分けして作業車占有領域を管理する作業車占有領域管理部60が構築されている。そのほかに、制御ユニット5には、走行制御部50、作業制御部53、自車位置算出部54、走行支援部55、作業地管理部56、経路生成部57、報知部58が備えられている。
作業地管理部56は、作業が行われる圃場に関する情報である圃場情報(作業地情報)を管理する。圃場情報には、圃場の地図位置、形状、大きさ、作付け品種などのデータに加え、圃場に存在する、走行の邪魔となる障害物に関する情報である障害物情報が含まれている。この障害物情報には、障害物の位置と形状、対地高さなどが含まれている。障害物には、圃場内の井戸や電柱などの施設や岩石だけでなく、圃場を境界付けている周囲の畦や柵も含まれている。圃場情報は、遠隔地の管理センタKSや農家の自宅に設置されている管理コンピュータ100、あるいは運転者が持参する携帯形通信コンピュータからダウンロードされる。
経路生成部57は、圃場情報から、圃場の外形データを読み出し、この圃場における適正な走行経路LNを生成する。この走行経路LNの生成は、作業者によって入力される基本的な初期パラメータに基づいて自動的に行われてもよいし、作業者によって入力される走行経路LNを実質的に規定する入力パラメータに基づいて行われてもよい。また、走行経路LN自体も管理コンピュータ100からダウンロードされる構成を採用してもよい。
いずれにしても、経路生成部57で取得された走行経路LNは、メモリに展開され、自動操舵走行または手動操舵走行にかかわらず、作業車が走行経路LNに沿って走行するために利用される。
作業車占有領域管理部60には、車体1が占有する車体占有領域VAの設定を行う車体占有領域設定部61と、作業装置30が占める作業装置占有領域WAの設定を行う作業装置占有領域設定部62とが含まれている。車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAは、この実施形態では、作業車の車速に応じて、それぞれの占有領域の大きさが変更され、高速走行時には、低速走行時に比べて占有領域が小さくなる。さらに、作業装置占有領域WAは、作業装置の対地高さが障害物の対地高さより高くなった場合、縮小または消滅される。したがって、作業車占有領域管理部60には、走行系検出センサ群81に含まれている車速検出センサに基づく車速データ及び作業系検出センサ群82に含まれている作業装置高さ検出センサに基づく作業装置高さデータが入力される。
この実施形態では、車体占有領域VAの大きさと作業装置占有領域WAの大きさとがそれぞれ独立して調整設定可能である。この領域調整設定は、タッチパネル付きディスプレイに表示される領域調整設定画面4を通じて行われる。図5に示すように、領域調整設定画面4には、車体占有領域VAを設定する車体占有領域設定区画4Aと、作業装置占有領域WAを設定する作業装置占有領域設定区画4Bとが配置されている。車体占有領域設定区画4Aには、車体占有領域VAの縦方向のサイズを調整する縦サイズ調整部41と、車体占有領域VAの横方向のサイズを調整する横サイズ調整部42と、縦横方向のサイズを同時に調整する縦横サイズ調整部43とが配置されている。車体占有領域VAのサイズ調整のために、拡大ボタンと縮小ボタンが配置されている。さらに、車体占有領域VAの調整レベルを確認する調整レベル表示部44a及び車体占有領域VAの形状を選択する領域形状選択部44bも配置されている。この実施形態では、選択可能な車体占有領域VAの形状は四角形と楕円形(円形を含む)である。同様に、作業装置占有領域設定区画4Bには、作業装置占有領域WAの縦方向のサイズを調整する縦サイズ調整部45と、作業装置占有領域WAの横方向のサイズを調整する横サイズ調整部46と、縦横方向のサイズを同時に調整する縦横サイズ調整部47とが配置されている。作業装置占有領域WAのサイズ調整のために、拡大ボタンと縮小ボタンが配置されている。さらに、作業装置占有領域WAの調整レベルを確認する調整レベル表示部48a及び作業装置占有領域WAの形状を選択する領域形状選択部48bも配置されている。選択可能な作業装置占有領域WAの形状も四角形と楕円形(円形を含む)である。
自車位置算出部54は、衛星測位モジュール80から送られてくる測位データに基づいて、自車位置を算出する。報知部58は、ディスプレイやスピーカなどの報知デバイス73を通じて運転者や監視者に必要な情報を報知するための報知信号(表示データや音声データ)を生成する。
車両走行機器群71を制御する走行制御部50は、このトラクタが自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、手動走行制御部51と自動走行制御部52とが含まれている。手動走行制御部51は、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71を制御する。自動走行制御部52は、走行支援部55からの操舵変更データに基づいて自動操舵指令を生成し、出力処理部7を介して操舵モータ14に出力する。作業制御部53は、作業装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に制御信号を与える。
走行支援部55は、自動走行時と手動走行時とにおいて、異なる制御処理を実行する。
自動走行時には、自車位置算出部54によって算出された自車位置と経路生成部57によって生成された走行経路LNとを比較評価し、自車位置と走行経路LNとに位置ずれが生じておれば、車体1が当該走行経路LNに沿うように、操舵変更データを生成して、自動走行制御部52に与える機能を実現する。さらに、そのまま走行を続けることで、作業車の輪郭、実際は、作業車の仮想的な作業車占有領域である車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAと、障害領域OBが重なると判定された場合(干渉可能性)、作業車が障害物と干渉することを避けるための障害物回避操舵データを与える。あるいは、作業車を停止し、障害物の回避操舵を運転者に委ねてもよい。
走行支援部55は、手動走行時には、自車位置算出部54によって算出された自車位置と経路生成部57によって生成された走行経路LNとを比較評価し、自車位置と走行経路LNとに位置ずれが生じておれば、位置ずれデータを報知部58に与える機能を実現する。これにより、位置ずれが報知デバイス73を通じて運転者に報知される。また、そのまま走行を続けることで、作業車が障害物と干渉する可能性が発生すると判定された場合には、その干渉可能性データを報知部58に与え、障害物の回避操舵を運転者に促す。もちろん、必要に応じて、作業車を緊急停車させることも可能である。
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態のトラクタに、障害物検出装置が搭載されている場合には、障害物検出装置によって検出された障害物の検出データから算出される障害領域OBが走行支援部55に与えられる。これにより、作業地管理部56で管理されていない障害物、特に移動障害物に対しても、障害物との干渉回避のための走行支援が可能となる。または、障害物検出装置によって検出された障害物の検出データから算出される障害領域OBを作業地管理部56に与えてもよい。
(2)上述した実施形態では、作業車として、ロータリ耕耘機を作業装置30として装備したトラクタを取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、コンバインなどの農作業車、あるいは作業装置30としてドーザやローラ等を備える建設作業車等の種々の作業車も、実施形態として採用することができる。
(3)図4で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。
本発明は、走行しながら対地作業を行う作業車及びそのような作業車の走行を支援する走行支援システムに適用可能である。
1 :車体
30 :作業装置
31 :昇降機構
4 :領域調整設定画面
4A :車体占有領域設定区画
4B :作業装置占有領域設定区画
5 :制御ユニット
50 :走行制御部
51 :手動走行制御部
52 :自動走行制御部
53 :作業制御部
54 :自車位置算出部
55 :走行支援部
56 :作業地管理部
57 :経路生成部
58 :報知部
60 :作業車占有領域管理部
61 :車体占有領域設定部
62 :作業装置占有領域設定部
73 :報知デバイス
80 :衛星測位モジュール
LN :走行経路
OB :障害領域
VA :車体占有領域
WA :作業装置占有領域
本発明は、作業地を走行する作業車及びこの作業車の走行を支援する走行支援システムに関する。
作業車は、走行機構を有する車体と、この車体に装備された作業装置からなり、車体の走行にともなって、作業装置が作業を行う。例えば、田植機やコンバイン、耕耘装置を取り付けたトラクタなどがそのような作業車に属する。
最近、予めその位置がわかっている、車両走行の障害となる障害物、例えば、作業地の外形を規定する柵や畦、作業地内の存在する池や構造物や岩石との干渉を避けるため、GPSなどを用いて算出される自車位置に基づいて障害物との位置関係をチェックして、障害物との干渉を回避する機能が作業車に備えられている。
例えば、特許文献1による、トラクタ車体に作業装置(耕耘装置)を装着した自律走行作業車両では、車体の全長と作業装置の幅で占める四角形の面積を、走行作業車両が走行時に占める、仮想的な最大占有領域と定義して制御装置のメモリに保存する。走行時には、自律走行作業車両の最大占有領域が圃場外と重複していないか判断する。設定範囲内に入っていない場合、車体が圃場内の設定範囲内に位置していても作業装置の後端や側端が圃場外に位置している可能性があるので、自律走行は開始せずに、運転者が自律走行作業車両の進行方向を調整する。なお、最大占有領域の形状は四角形に限定せず、この四角形の外接円とすることで旋回時に畦等との干渉を認識し易くすることも提案されている。
しかしながら、作業車の場合、作業装置の幅が車体に比べて大きいものが多く、車体と作業装置によって規定される作業車を外接する四角形や円の面積を作業車の最大占有領域とすれば、作業装置や車体の形状によっては、作業車の周辺の比較的大きな領域も、最大占有領域に含まれてしまう。このことは、作業地内に存在する障害物などとの干渉を回避するためにそのような最大占有領域に障害物が入らないような走行軌跡を選択すると、作業車が障害物に近づけなくなり、作業ができない領域が大きくなってしまうという問題が生じる。
上述した実情に鑑み、作業を伴う直線走行や旋回走行、あるいは作業を伴わない直線走行や旋回走行などの走行時における障害物との干渉を避けるために用いられる、作業装置によって規定される作業装置の仮想的な最大占有領域を、適切に設定することができる技術が要望されている。
車体と前記車体に装備された作業装置とを有する作業車の作業地における走行を支援する、本発明による走行支援システムは、走行時に前記作業地に対して前記作業装置が占める仮想的な作業装置占有領域を管理する作業車占有領域管理部と、測位データに基づいて前記作業地における前記作業車の位置である自車位置を算出する自車位置算出部と、少なくとも前記自車位置と前記作業装置占有領域とに基づいて、前記作業車の走行を支援する走行支援部とを備え、前記作業地に存在する障害物の対地高さと前記作業装置の対地高さとの関係に応じて、前記作業装置占有領域の大きさを制御する。なお、作業車の走行には、作業を伴う直線走行や旋回走行、あるいは作業を伴わない直線走行や旋回走行などの走行が含まれている。
この構成によれば、作業装置が作業地に対して占める仮想的な占有領域が、作業装置占有領域として管理される。例えば、作業装置占有領域が障害物に接近しても作業装置占有領域が障害物と干渉しない限り、当該走行を許容するような走行支援が行われても、無駄に非作業領域が残存してしまうという不都合を抑制することが可能となる。
作業装置の対地高さが高い場合、作業装置は、作業地内の存在する背の低い岩石や井戸などの障害物や、高さの低い畦や柵などの障害物とは接触しない可能性が高い。このような作業装置と障害物との高さに関する干渉関係が予め把握できている場合には、作業装置との干渉を走行時に考慮する必要がない障害物を確定することができる。本発明によれば、無駄に作業装置と障害物との干渉を考慮して、走行の効率を悪化させる問題が低減される。
また、車体と前記車体に装備された作業装置とを有する作業車の作業地における走行を支援する、本発明による走行支援システムは、走行時に前記作業地に対して前記作業装置が占める仮想的な作業装置占有領域を管理する作業車占有領域管理部と、測位データに基づいて前記作業地における前記作業車の位置である自車位置を算出する自車位置算出部と、少なくとも前記自車位置と前記作業装置占有領域とに基づいて、前記作業車の走行を支援する走行支援部と、を備え、前記作業装置の対地高さを変更する昇降機構を介して前記作業装置が前記車体に装備されている場合、前記昇降機構によって変更された対地高さに応じて前記作業装置占有領域が変更される。
作業車の車体に昇降機構を介して装備される作業装置がある。このような作業装置では、対地高さの位置によって、障害物に対する干渉可能性が異なってくる。本発明によれば、無駄に作業装置と障害物との干渉を考慮して、走行の効率を悪化させるという問題が低減される。
したがって、作業地を境界付けている畦や柵、あるいは作業地内に存在する電柱や井戸や岩石などの障害物の位置や大きさが予め管理されていると好都合である。さらには、車業車自体が障害物検出機能を備えている場合には、走行中に検出された障害物の位置や大きさがその時点で管理されると好都合である。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業地の障害物の位置と大きさを含む障害物情報を管理する作業地管理部が備えられている。この場合、走行支援部は、障害物情報も考慮して作業車の走行を支援することも可能である。
作業車には、種々の走行状態が生じる。例えば、走行状態を決定する要因として、作業装置の姿勢変更、低速走行や高速走行、直線走行や旋回走行、高負荷作業や低負荷作業、さらには、凹凸が激しい走行地面や泥濘走行地面などが挙げられる。走行状態によって、作業車の操舵安定性や制動性が変動する。作業車の操舵安定性や制動性が悪くなる走行状態では、作業装置占有領域をより大きくすることで、安全性を高めることができる。このことから、前記作業車の走行状態に応じて前記作業装置占有領域の大きさが変更される機能が備えられると好都合である。
特に作業車の車速は、作業車の操舵安定性や制動性に大きな影響を与えるだけでなく、自車位置の算出精度にも影響する。このことから、前記作業車の車速に応じて前記作業装置占有領域の大きさを変更する構成を採用することは、利点がある。
作業装置占有領域を設定する主な理由は、障害物との干渉を避けるために必要となる自車の領域を、実物より簡単な仮想形状に置き換え、その干渉可能性を、できるだけ簡易に算出することである。したがって、前記走行支援部は、前記車体及び前記作業装置と前記作業地に存在する障害物との干渉可能性を判定する機能を有することが好ましい。なお、作業地に存在して、それ自体は移動しない障害物は、作業地の境界付けている柵や畦などの外囲障害物、作業地に存在する井戸や電柱や岩石などの内在障害物である。もちろん、作業車が障害物検出機能を備えている場合には、人や動物や作業車などの移動障害物も、本発明における障害物として取り扱うことができる。
さらに、上述した走行支援システムを組み込んだ作業車も本発明に含まれる。そのような本発明による作業車は、車体と、前記車体に装備される作業装置と、作業地での走行時に前記作業地に対して前記作業装置が占める仮想的な作業装置占有領域を管理し、前記作業地に存在する障害物の対地高さと前記作業装置の対地高さとの関係に応じて、前記作業装置占有領域の大きさを制御する作業車占有領域管理部と、測位モジュールからの測位データに基づいて自車位置を算出する自車位置算出部と、少なくとも前記自車位置と前記作業装置占有領域とに基づいて走行を支援する走行支援部とを備えている。
また、本発明による作業車は、車体と、前記車体に装備される作業装置と、作業地での走行時に前記作業地に対して前記作業装置が占める仮想的な作業装置占有領域を管理し、前記作業装置の対地高さを変更する昇降機構を介して前記作業装置が前記車体に装備されている場合、前記昇降機構によって変更された対地高さに応じて前記作業装置占有領域が変更される作業車占有領域管理部と、測位モジュールからの測位データに基づいて自車位置を算出する自車位置算出部と、少なくとも前記自車位置と前記作業装置占有領域とに基づいて走行を支援する走行支援部とを備えている。
このような作業車も、上述した走行支援システムと同じ作用効果を得ることができ、また上述した種々の好適な実施形態を取り入れることも可能である。
作業車の仮想的な作業車占有領域が、車体が占有する車体占有領域と、作業装置が占める作業装置占有領域とに分けて管理されることを説明する説明図である。
作業装置と障害物との高さ関係に応じて作業装置占有領域が拡縮することを説明する説明図である。
作業車の実施形態の1つを示すトラクタの側面図である。
トラクタの制御系を示す機能ブロック図である。
車体占有領域及び作業装置占有領域のサイズ調整を行うための操作画面図である。
本発明による走行支援システム及び作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて、走行支援システムの基本原理を説明する。ここでは、作業車は、走行機能を有する車体1と、車体1に昇降機構31を介して装備されている作業装置30とからなる。さらに、この作業車には、GNSSモジュールなどによって構成される衛星測位モジュールが備えられており、車体の座標位置(以下単に自車位置と称する)を示す測位データが出力される。なお、測位データで表される自車位置は、アンテナの位置が基準となるが、自車位置は、アンテナの位置ではなく、車両の最適な位置になるように位置補正処理が行われる。
図1には、作業地の外周境界領域を形成する畦または柵及び作業地内に存在して作業車の走行の障害となる設置物が障害物とみなされ、その障害物の作業地を占有する領域を障害領域OBとして図示されている。作業地に設定された、作業車の走行目標となる走行経路LNは、ここでは、互いに平行に延びている直線経路と各直線経路を接続する180°旋回経路とから形成されている。作業車が運転者による手動操舵で走行する場合には、作業車が走行経路LNに沿って走行することを支援するため、走行経路LNと自車位置とのずれを報知する機能が働く。また、作業車が走行経路LNに沿って自動操舵で走行する場合には、走行経路LNと自車位置とのずれを修正するように操舵輪が制御される走行支援機能が働く。
図1の例では、障害物の地図上の座標位置及びその大きさと地上高さが、予め作業車の制御系に登録されており、当該障害物に対応する障害領域OBが設定されている。さらに、作業車を構成する車体1及び作業装置30と障害物(障害領域OB)との位置関係、つまり干渉可能性の演算を簡単にするため、車体1及び作業装置30の複雑な形状を簡単で仮想的な形状である、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAに置き換えている。車体占有領域VAと作業装置占有領域WAとは、平面視における地上での大きさを示しており、車体占有領域VAと作業装置占有領域WAとによって、作業地での走行時に作業地に対して占める作業車の仮想的な作業車占有領域が決定されている。なお、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAと自車位置との位置関係は予めテーブル化されており、作業地における車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの位置(地図上の座標位置)がリアルタイムに算出可能である。
図1に示されているように、車体占有領域VAは、車体1の平面視での外形を覆う楕円形または円形であり、作業装置占有領域WAは、作業装置30の平面視での外形を覆う楕円形または円形である。車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの形状は、四角形などの多角形であってもよいが、実際の車体1や作業装置30を内包することができる大きさに設定される。
障害物と車体1との干渉は障害領域OBと車体占有領域VAとの重なりとして算出され、障害物と作業装置30との干渉は障害領域OBと作業装置占有領域WAとの重なりとして算出されるので、そのような重なりが生じないように作業車を導くことで、障害物と作業車との干渉を回避することができる。
車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAのそれぞれの大きさは、任意に設定可能である。障害物との干渉を回避する安全率を大きくしたい場合には、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの大きさを大きくすればよい。このような観点からは、例えば、作業車の走行が高速の場合は、低速に比べて、制動精度や操舵精度が劣るので、高速走行時には、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAの大きさを、低速走行時に比べて拡大すると好都合である。このような車速に応じた領域拡縮は自動的に行われるようにすることも可能である。さらには、運転者の技量や走行の種類によって、障害領域OB及び車体占有領域VAの大きさを拡縮することも可能である。
なお、上述したように、この作業車では、作業装置30が車体1に昇降機構31を介して装備されているので、作業装置30の地上高さが変動する。したがって、図2で示すように、障害領域OBの地上高さが作業装置30の地上高さを下回っている場合、作業装置占有領域WAを消滅(または縮小)させることができる。もちろん、車体占有領域VAはそのままであるので、車体1が障害領域OBとの干渉を回避するよう走行するための走行支援が実行される。また、車体1の前部、例えばボンネット(フレームを含む)が前輪より前方に延びており、その結果、車体占有領域VAが前輪より前方に延びているような場合では、障害領域OBの地上高さがボンネットの地上高さを下回っている限り、この障害領域OBに対する車体占有領域VAを縮小させることができる。これにより、車体1が障害領域OBとの干渉を回避しつつ、非作業領域が残る問題を抑制できる。
上述した例では、障害物(障害領域OB)は既に作業地の障害物情報に記述されており、その地図上の座標位置も作業車のメモリに記憶されている。自車位置が算出されると、付近の障害物の地図座標とともに車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAが自車位置に応じて導出され、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAとの間隔からその干渉可能性が算出される。障害物情報に記述されていない障害物の場合、特に移動障害物の場合、作業車に監視カメラや超音波やレーザーなどを用いた障害物検出装置が備えられておれば、その検出結果から、リアルタイムに障害領域OBが生成され、車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAとの間隔からその干渉可能性が算出される。また、監視カメラや超音波、レーザーなどを圃場に備えておき、その検出結果を障害物情報として作業車に送信する手段も考えられる。
次に、本発明の走行支援システムを組み込んだ作業車の具体的な実施形態の1つを説明する。この実施形態では、作業車は、図3に示されているように、畦によって境界づけられた圃場(作業地)に対して走行作業を行うトラクタである。このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体1の中央部に操縦部20が設けられている。車体1の後部には油圧式の昇降機構31を介してロータリ耕耘装置である作業装置30が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、その操舵角を変更することでトラクタの走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は操縦部20に配置されているステアリングホイール22の操作によって可能である。トラクタのキャビン21には、GNSSモジュールとして構成されている衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GPS信号やGNSS信号を受信するための衛星用アンテナがキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、衛星測位モジュール80には、衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを含めることができる。
もちろん、慣性航法モジュールは、衛星測位モジュール80とは別の場所に設けてもよい。
図4には、このトラクタに構築されている制御系が示されている。この制御系は、図1を用いて説明された、障害物情報と自車位置と作業車占有領域(車体占有領域VA及び作業装置占有領域WA)とを用いた走行支援システムを実現するように構成されている。この制御系の中核要素である制御ユニット5には、入出力インタフェースとして機能する、出力処理部7、入力処理部8、通信処理部70が備えられている。出力処理部7は、車両走行機器群71、作業装置機器群72、報知デバイス73などと接続している。車両走行機器群71には、操舵モータ14をはじめ、図示されていないが、変速機構やエンジンユニットなど車両走行のために制御される機器が含まれている。作業装置機器群72には、作業装置30の駆動機構や、作業装置30を昇降させる昇降機構31などが含まれている。通信処理部70は、制御ユニット5で処理されたデータを遠隔地の管理センタKSに構築された管理コンピュータ100に送信するとともに、管理コンピュータ100から種々のデータを受信する機能を有する。報知デバイス73には、ディスプレイやランプやスピーカが含まれている。ランプやスピーカは、走行の障害となる障害物に対する接近情報、自動操舵走行での目標走行経路からのずれを示す偏差情報など、報知したい種々の情報を運転者や操作者に報知するために用いられる。報知デバイス73と出力処理部7との間の信号伝送は、有線または無線で行われる。
入力処理部8は、衛星測位モジュール80、走行系検出センサ群81、作業系検出センサ群82、自動/手動切替操作具83などと接続している。走行系検出センサ群81には、エンジン回転数や変速状態などの走行状態を検出するセンサが含まれている。作業系検出センサ群82には、作業装置30の地上高さや傾きを検出するセンサ、作業負荷などを検出するセンサなどが含まれている。自動/手動切替操作具83は、自動操舵で走行する自動走行モードと手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。例えば、自動操舵モードで走行中に自動/手動切替操作具83を操作することで、手動操舵での走行に切り替えられ、手動操舵での走行中に自動/手動切替操作具83を操作することで、自動操舵での走行に切り替えられる。
制御ユニット5には、図1を用いて説明された、車体占有領域VAと作業装置占有領域WAとに区分けして作業車占有領域を管理する作業車占有領域管理部60が構築されている。そのほかに、制御ユニット5には、走行制御部50、作業制御部53、自車位置算出部54、走行支援部55、作業地管理部56、経路生成部57、報知部58が備えられている。
作業地管理部56は、作業が行われる圃場に関する情報である圃場情報(作業地情報)を管理する。圃場情報には、圃場の地図位置、形状、大きさ、作付け品種などのデータに加え、圃場に存在する、走行の邪魔となる障害物に関する情報である障害物情報が含まれている。この障害物情報には、障害物の位置と形状、対地高さなどが含まれている。障害物には、圃場内の井戸や電柱などの施設や岩石だけでなく、圃場を境界付けている周囲の畦や柵も含まれている。圃場情報は、遠隔地の管理センタKSや農家の自宅に設置されている管理コンピュータ100、あるいは運転者が持参する携帯形通信コンピュータからダウンロードされる。
経路生成部57は、圃場情報から、圃場の外形データを読み出し、この圃場における適正な走行経路LNを生成する。この走行経路LNの生成は、作業者によって入力される基本的な初期パラメータに基づいて自動的に行われてもよいし、作業者によって入力される走行経路LNを実質的に規定する入力パラメータに基づいて行われてもよい。また、走行経路LN自体も管理コンピュータ100からダウンロードされる構成を採用してもよい。
いずれにしても、経路生成部57で取得された走行経路LNは、メモリに展開され、自動操舵走行または手動操舵走行にかかわらず、作業車が走行経路LNに沿って走行するために利用される。
作業車占有領域管理部60には、車体1が占有する車体占有領域VAの設定を行う車体占有領域設定部61と、作業装置30が占める作業装置占有領域WAの設定を行う作業装置占有領域設定部62とが含まれている。車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAは、この実施形態では、作業車の車速に応じて、それぞれの占有領域の大きさが変更され、高速走行時には、低速走行時に比べて占有領域が小さくなる。さらに、作業装置占有領域WAは、作業装置の対地高さが障害物の対地高さより高くなった場合、縮小または消滅される。したがって、作業車占有領域管理部60には、走行系検出センサ群81に含まれている車速検出センサに基づく車速データ及び作業系検出センサ群82に含まれている作業装置高さ検出センサに基づく作業装置高さデータが入力される。
この実施形態では、車体占有領域VAの大きさと作業装置占有領域WAの大きさとがそれぞれ独立して調整設定可能である。この領域調整設定は、タッチパネル付きディスプレイに表示される領域調整設定画面4を通じて行われる。図5に示すように、領域調整設定画面4には、車体占有領域VAを設定する車体占有領域設定区画4Aと、作業装置占有領域WAを設定する作業装置占有領域設定区画4Bとが配置されている。車体占有領域設定区画4Aには、車体占有領域VAの縦方向のサイズを調整する縦サイズ調整部41と、車体占有領域VAの横方向のサイズを調整する横サイズ調整部42と、縦横方向のサイズを同時に調整する縦横サイズ調整部43とが配置されている。車体占有領域VAのサイズ調整のために、拡大ボタンと縮小ボタンが配置されている。さらに、車体占有領域VAの調整レベルを確認する調整レベル表示部44a及び車体占有領域VAの形状を選択する領域形状選択部44bも配置されている。この実施形態では、選択可能な車体占有領域VAの形状は四角形と楕円形(円形を含む)である。同様に、作業装置占有領域設定区画4Bには、作業装置占有領域WAの縦方向のサイズを調整する縦サイズ調整部45と、作業装置占有領域WAの横方向のサイズを調整する横サイズ調整部46と、縦横方向のサイズを同時に調整する縦横サイズ調整部47とが配置されている。作業装置占有領域WAのサイズ調整のために、拡大ボタンと縮小ボタンが配置されている。さらに、作業装置占有領域WAの調整レベルを確認する調整レベル表示部48a及び作業装置占有領域WAの形状を選択する領域形状選択部48bも配置されている。選択可能な作業装置占有領域WAの形状も四角形と楕円形(円形を含む)である。
自車位置算出部54は、衛星測位モジュール80から送られてくる測位データに基づいて、自車位置を算出する。報知部58は、ディスプレイやスピーカなどの報知デバイス73を通じて運転者や監視者に必要な情報を報知するための報知信号(表示データや音声データ)を生成する。
車両走行機器群71を制御する走行制御部50は、このトラクタが自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、手動走行制御部51と自動走行制御部52とが含まれている。手動走行制御部51は、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71を制御する。自動走行制御部52は、走行支援部55からの操舵変更データに基づいて自動操舵指令を生成し、出力処理部7を介して操舵モータ14に出力する。作業制御部53は、作業装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に制御信号を与える。
走行支援部55は、自動走行時と手動走行時とにおいて、異なる制御処理を実行する。
自動走行時には、自車位置算出部54によって算出された自車位置と経路生成部57によって生成された走行経路LNとを比較評価し、自車位置と走行経路LNとに位置ずれが生じておれば、車体1が当該走行経路LNに沿うように、操舵変更データを生成して、自動走行制御部52に与える機能を実現する。さらに、そのまま走行を続けることで、作業車の輪郭、実際は、作業車の仮想的な作業車占有領域である車体占有領域VA及び作業装置占有領域WAと、障害領域OBが重なると判定された場合(干渉可能性)、作業車が障害物と干渉することを避けるための障害物回避操舵データを与える。あるいは、作業車を停止し、障害物の回避操舵を運転者に委ねてもよい。
走行支援部55は、手動走行時には、自車位置算出部54によって算出された自車位置と経路生成部57によって生成された走行経路LNとを比較評価し、自車位置と走行経路LNとに位置ずれが生じておれば、位置ずれデータを報知部58に与える機能を実現する。これにより、位置ずれが報知デバイス73を通じて運転者に報知される。また、そのまま走行を続けることで、作業車が障害物と干渉する可能性が発生すると判定された場合には、その干渉可能性データを報知部58に与え、障害物の回避操舵を運転者に促す。もちろん、必要に応じて、作業車を緊急停車させることも可能である。
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態のトラクタに、障害物検出装置が搭載されている場合には、障害物検出装置によって検出された障害物の検出データから算出される障害領域OBが走行支援部55に与えられる。これにより、作業地管理部56で管理されていない障害物、特に移動障害物に対しても、障害物との干渉回避のための走行支援が可能となる。または、障害物検出装置によって検出された障害物の検出データから算出される障害領域OBを作業地管理部56に与えてもよい。
(2)上述した実施形態では、作業車として、ロータリ耕耘機を作業装置30として装備したトラクタを取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、コンバインなどの農作業車、あるいは作業装置30としてドーザやローラ等を備える建設作業車等の種々の作業車も、実施形態として採用することができる。
(3)図4で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。
本発明は、走行しながら対地作業を行う作業車及びそのような作業車の走行を支援する走行支援システムに適用可能である。
1 :車体
30 :作業装置
31 :昇降機構
4 :領域調整設定画面
4A :車体占有領域設定区画
4B :作業装置占有領域設定区画
5 :制御ユニット
50 :走行制御部
51 :手動走行制御部
52 :自動走行制御部
53 :作業制御部
54 :自車位置算出部
55 :走行支援部
56 :作業地管理部
57 :経路生成部
58 :報知部
60 :作業車占有領域管理部
61 :車体占有領域設定部
62 :作業装置占有領域設定部
73 :報知デバイス
80 :衛星測位モジュール
LN :走行経路
OB :障害領域
VA :車体占有領域
WA :作業装置占有領域