[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。先ず、図1に示すシステム図を参照して、本発明に係るエンジンシステムの全体構成を説明する。図1に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置45と、エンジン本体1にガソリンを主成分とする燃料を供給する燃料供給システム150と、を備えている。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2内に収容されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、典型的には複数の(例えば4つの)気筒を有する多気筒型のものであるが、図1では簡略化のため、1つの気筒2のみを図示している。図2には、エンジン本体1の断面図と、ピストン5の平面図とが併せて示されている。ピストン5は、気筒2のボア径に応じた外径を有し、所定のストロークで往復摺動可能に気筒2内に収容されている。ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動に応じて中心軸回りに回転駆動される。
ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。燃焼室6には、後述するインジェクタ15からの噴射によって前記燃料が供給される。供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。燃焼室6を区画する燃焼室壁面は、気筒2の内壁面、ピストン5の上面である冠面50、及び、シリンダヘッド4の底面である燃焼室天井面6U(吸気弁11及び排気弁12の各バルブ面を含む)からなる。燃焼室天井面6Uは、上向きに凸のペントルーフ型の形状を有している。
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、15以上30以下、好ましくは15以上18以下の高圧縮比に設定される。幾何学的圧縮比を15以上の高圧縮比に設定することで、燃焼室6内において混合気に圧縮着火が発生し易い環境とすることができる。
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN2が組み付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)及びクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出する。水温センサSN2は、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。
シリンダヘッド4の燃焼室天井面6Uには、燃焼室6に向けて開口する吸気ポート9及び排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。本実施形態のエンジンのバルブ形式は、図2に示すように、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。このため、1つの気筒2について、2つの吸気ポート9及び2つの排気ポート10が備えられている。吸気弁11は、2つの吸気ポート9に対しそれぞれ1つずつ設けられ、排気弁12は、2つの排気ポート10に対しそれぞれ1つずつ設けられている。なお、2つの吸気ポート9のうちの一方には、当該吸気ポート9を開閉可能なスワール弁17が設けられている(図1)。
吸気弁11及び排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13、14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気VVT13aが、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気VVT14aが、各々内蔵されている。吸気、排気VVT13a、14aは、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁11、排気弁12の開時期および閉時期を同時にかつ同量だけ変更する。
シリンダヘッド4には、インジェクタ15(燃料噴射弁)及び点火プラグ16(点火装置)が組み付けられている。インジェクタ15は、燃料供給システム150から供給される燃料を燃焼室6内に直接噴射する。点火プラグ16は、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と、吸気ポート9を通して燃焼室6に導入された空気とが混合された混合気に点火を行う。シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6の圧力(筒内圧力)を検出する筒内圧センサSN3が設けられている。図2に示されているように、インジェクタ15は、燃焼室天井面6Uの径方向中心付近であって、ペントルーフの頂部付近に先端のヘッド部15Aが表出するように配置されている。また、点火プラグ16は、燃焼室天井面6Uにおけるペントルーフの斜面部であって、一対の吸気ポート9A、9B間において先端部(電極部)が表出するように配置されている。
インジェクタ15は、ヘッド部15Aに複数の噴孔15Bを備えた多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔15Bから放射状に燃料を噴射することが可能である。図2中の符号Fの領域は、各噴孔15Bから噴射された燃料の噴霧を表している。ピストン5の冠面50には、その径方向中央領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹没させてなるキャビティ51が形成されている。インジェクタ15のヘッド部15Aは、燃焼室6の径方向中心付近においてキャビティ51と対峙するように燃焼室天井面6Uに配置され、このキャビティ51に向けて噴孔15Bから直接燃料が噴射される。
噴孔15Bにはデポジットが堆積することがある。前記デポジットは、噴射された燃料が噴孔15B付近に付着し、その付着燃料が燃焼室6での燃焼によって焼き固められることによって生成される。デポジットの堆積によって噴孔15Bが詰まる、或いは噴孔15Bの開口が狭くなると、所要の燃料が燃焼室6に供給されなくなり、燃焼状態が悪化する。本実施形態では、エンジンの運転状態に基づいて噴孔15Bへのデポジット堆積量を推定し、そのデポジット堆積量が所定値以上となると、噴孔15Bから噴射させる燃料の燃圧を上昇させて前記デポジットを除去するクリーニングモードが実行される。この点は、後記で詳述する。
ピストン5のキャビティ51は、図2に示すように、ほぼ平坦な面からなる底部511と、底部511の側周縁から上方に向けて湾曲して立ち上がる側壁512とを含む。冠面50におけるキャビティ51よりも径方向外側には、燃焼室天井面6Uのペントルーフ形状に対応して上方に突出した稜線部513と、半円状の平坦面からなるスキッシュ部514とが形成されている。
インジェクタ15に燃料を供給する燃料供給システム150は、燃料タンク151、低圧燃料ポンプ152、高圧燃料ポンプ153(燃圧調整機構)、燃料レール154及びパージ通路155を含む。燃料タンク151は燃料を貯留するタンクである。低圧燃料ポンプ152は、インタンク式のポンプであり、燃料を燃料タンク151から汲み上げて高圧燃料ポンプ153へ送り出す。高圧燃料ポンプ153は、往復式のポンプであって、低圧燃料ポンプ152から送り込まれた燃料を昇圧して燃料レール154に供給する。燃料レール154は、各気筒2に備えられているインジェクタ15に燃料を分配する。パージ通路155は、燃料タンク151内で気化した燃料を回収し、吸気通路30に導入して燃焼させるための通路である。
高圧燃料ポンプ153は、インジェクタ15に供給される燃料の燃圧を調整する機構として機能する。高圧燃料ポンプ153は、プランジャーと燃圧調整用の電磁バルブとを含む。前記プランジャーは、排気弁12を駆動するカムシャフトに取り付けられたポンプカムに当接して駆動され、燃圧を高める。前記電磁バルブは、インジェクタ15に供給する燃料の燃圧が設定値となるように調整するバルブである。
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するように、シリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30及び吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35とが設けられている。
吸気通路30の適所には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN4と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN5、SN7と、吸気の圧力を検出する第1・第2吸気圧センサSN6、SN8とが設けられている。エアフローセンサSN4及び第1吸気温センサSN5は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量及び温度を検出する。第1吸気圧センサSN6は、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間であって、後述するEGR通路451の接続口よりも下流側の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の圧力を検出する。第2吸気温センサSN7は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の温度を検出する。第2吸気圧センサSN8は、吸気通路30におけるインタークーラ35と吸気ポート9との間の吸気の圧力を検出する。
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33には、締結と解放とを電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が付設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達され、過給機33による吸気の過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による前記過給が停止される。
吸気通路30には、過給機33をバイパスして吸気を流通させるためのバイパス通路36が付設されている。バイパス通路36には、当該バイパス通路36を開閉可能なバイパス弁37が設けられている。バイパス通路36は、過給機33よりも上流側で吸気通路30から分岐し、インタークーラ35の下流側において吸気通路30に合流する合流部38を形成している。この合流部38は、図略のサージタンクの近傍に配置される。なお、バイパス通路36は、後述するEGR通路451と前記サージタンクとを接続する通路でもある。
排気通路40は、各気筒2の排気ポート10と排気マニホールド41を介して連通している。各燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10、排気マニホールド41及び排気通路40を通じて外部に排出される。排気通路40には、排気ガスの流通方向における上流側、下流側に、各々上流触媒コンバータ42、下流触媒コンバータ43が設けられている。上流触媒コンバータ42には、三元触媒421及びGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)422が備えられている。三元触媒421は、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を捕集する。GPF422は、排気ガス中に含まれる煤に代表される粒子状物質を捕集する。下流触媒コンバータ43は、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した触媒コンバータである。
排気通路40における上流触媒コンバータ42よりも上流側の部位には、排気ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するリニアO2センサSN9が配置されている。リニアO2センサSN9は、酸素濃度の濃淡に応じて出力値がリニアに変化するセンサであり、その出力値に基づいて、混合気の空燃比を推定することが可能である。また、三元触媒421とGPF422との間には、排気中のNOx濃度を計測するNOxセンサSN10が配置されている。
外部EGR装置45は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路451と、EGR通路451に設けられたEGRクーラ452及びEGR弁453とを有している。EGR通路451は、排気通路40における上流触媒コンバータ42よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ452は、EGR通路451を通して排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を、熱交換により冷却する。EGR弁453は、EGRクーラ452よりも下流側のEGR通路451に配置され、当該EGR通路451を流通する排気ガスの流量を調整する。
また、車両には、アクセルペダル18が備えられている。また、アクセルペダル18の開度を検出するアクセルセンサSN11が設けられている。
[電源装置の構成]
図3は、前記エンジンシステムが備える電源装置60の構成を示す図である。図3には、上述のエンジン本体1と、クランク軸7に連結された変速機TMとが模式的に示されている。エンジン本体1には、電動機としての機能と発電機としての機能を有するISG61(発電装置)が付設されている。ISG61は、ベルト611を介してエンジン本体1のクランク軸7に連結されている。このベルト611による連結によってISG61は、エンジン本体1により駆動されて発電を行うこと、並びに、電動機として動作してクランク軸7に駆動力を与えるトルクアシストを行うことが可能とされている。
電源装置60は、高電圧回路60Aと低電圧回路60Bとを含む。高電圧回路60Aは、Liバッテリ62(バッテリ)と、このLiバッテリ62で駆動される高電圧電気機器64とを含む。低電圧回路60Bは、鉛バッテリ63と、この鉛バッテリ63で駆動される低電圧電気機器65及びスタータ66とを含む。
Liバッテリ62は、充放電が可能なリチウムイオン二次電池を備えるバッテリである。Liバッテリ62は、ISG61及び高電圧電気機器64と高電圧ラインL1にて電気的に接続されている。高電圧電気機器64は、例えばシートヒータを含む。Liバッテリ62は、高電圧電気機器64に電力を供給して動作させる。また、Liバッテリ62は、ISG61により発電された電力を蓄電する。
ISG61は、巻線界磁型の同期回転電機であり、ロータコイルが巻回されたロータと、ステータコイルを有するステータとを含む。前記ロータが、ベルト611を介してクランク軸7と連動して回転する。前記ロータの回転時に、直流電流からなる界磁電流が前記ロータコイルに供給されることで回転磁界が生成され、前記ステータコイルに誘導電流が発生する。つまり、ISG61は発電する。前記界磁電流の供給に伴う電磁界の発生により、ロータには回転負荷が発生する。換言すると、ISG61が発電動作を行う際には発電トルクが発生し、エンジン本体1はこの発電トルクを負担することになる。前記ロータコイルへ前記界磁電流を多く供給させる程、発電トルクが大きくなり、発電量も大きくなる。なお、界磁電流が前記ロータコイルに供給されない場合には、前記発電トルクが発生せず、ロータの回転負荷は殆ど発生しない。
一方、前記界磁電流に加え前記ステータコイルに交流電流(モータ駆動電流)が通電されると、ISG61は電動機として動作し、ロータ自体がモータトルクを発生する。この場合、前記モータトルクがエンジン本体1の発生するトルクに重畳される。つまり、ベルト611を介してクランク軸7にモータトルクが伝達される。このように、ISG61の発電機の機能によって回生時にLiバッテリ62に充電させる一方、アイドリングストップからのエンジンの再始動や加速時等には、Liバッテリ62を駆動電源として動作するISG61の電動機の機能によって、エンジン本体1をアシストさせることができる。なお、ISG61には、当該ISG61の温度を計測するISG温度センサSN12が取り付けられている。
鉛バッテリ63は、充放電が可能な鉛蓄電池を備えるバッテリである。鉛バッテリ63は、比較的低い電圧で動作する低電圧電気機器65及びスタータ66と低電圧ラインL2を介して電気的に接続され、これらに電力を供給する。低電圧電気機器65は、例えば、電動式パワーステアリング機構(EAPS)、電動式ブレーキ、エアコン、オーディオ機器、各種の照明装置等である。スタータ66は、エンジン本体1を始動するための装置である。スタータ66は、ギヤ駆動式の装置であり、エンジン本体1のフライホイール7Fに歯合されたピニオンギヤ661を有する。スタータ66の駆動力は、ピニオンギヤ661及びフライホイール7Fを介して、クランク軸7に伝達される。
高電圧ラインL1と低電圧ラインL2とは、DC−DCコンバータ67を介して連携されている。DC−DCコンバータ67は、高電圧ラインL1から低電圧ラインL2に供給される電力の電圧を降圧するための装置である。Liバッテリ62の出力電力及びISG61によって発電された電力は、DC−DCコンバータ67によって電圧が降圧されて低電圧電気機器65に供給される。また、ISG61によって発電された電力の余剰分を、DC−DCコンバータ67を介して鉛バッテリ63に供給させ、鉛バッテリ63を充電させることが可能である。
[制御系統]
続いて、上述したエンジンの制御系統について説明する。図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。制御系統はECU20(制御ユニット)を備える。ECU20は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
ECU20には各種センサによる検出信号が入力される。ECU20は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、筒内圧センサSN3、エアフローセンサSN4、第1吸気温センサSN5、第1吸気圧センサSN6、第2吸気温センサSN7、第2吸気圧センサSN8、リニアO2センサSN9、NOxセンサSN10、アクセルセンサSN11及びISG温度センサSN12と電気的に接続されている。これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、筒内圧力、吸気流量、吸気温、吸気圧、排気ガスの酸素濃度、NOx濃度、アクセル開度、ISG温度等)は、ECU20に逐次入力される。
ECU20は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU20は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スワール弁17、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁37、EGR弁453及び高圧燃料ポンプ153等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
本実施形態の車両には、上記の機器に加えて、ISG通電回路612(発電トルク調整機構)及び電池残量計68(充電率検出ユニット)が備えられている。ISG通電回路612は、ISG61を発電機として動作させる際に、ISG61のロータコイルに適宜な界磁電流を通電させるための電気回路である。ISG通電回路612が生成する界磁電流を調整することで、ロータの回転負荷、つまりISG61の発電トルクが調整される。また、ISG通電回路612は、ISG61を電動機として動作させる際には、ISG61へ前記モータ駆動電流を通電させる。電池残量計68は、Liバッテリ62の充電率(SOC;State of charge)を検出するユニットである。電池残量計68としては、インピーダンストラック方式を採用した計測装置を用いることができる。
ECU20は、所定のプログラムが実行されることによって、全体制御部21、噴射制御部22(燃料噴射弁を制御する制御ユニット)、点火制御部23(点火装置による点火タイミングを制御する制御ユニット)、吸気制御部24、EGR制御部25、デポジット推定部26(デポジット推定ユニット)、クリーニング制御部27、燃料温度導出部28、ISG制御部29(発電トルク調整機構を制御する制御ユニット)及び記憶部20Mを機能的に具備するように動作する。
全体制御部21は、エンジンの運転シーン等に応じてECU20の各制御部22〜25、27、29、デポジット推定部26及び燃料温度導出部28を統括的に制御し、必要な演算及び制御を実行させる。
噴射制御部22は、インジェクタ15による燃料の噴射動作を制御する制御モジュールである。点火制御部23は、点火プラグ16による点火動作を制御する制御モジュールである。本実施形態では、後述するインジェクタ15のクリーニングモード実行の際、燃圧上昇によって生じる過剰トルクの一部又は全部を発電トルクで相殺できない条件下のときには、点火プラグ16の点火タイミングを通常時よりもリタードさせる制御を行う。
吸気制御部24は、燃焼室6に導入される吸気の流量や圧力を調整する制御モジュールであり、スロットル弁32及びバイパス弁37の各開度や電磁クラッチ34のON/OFFを制御する。EGR制御部25は、燃焼室6に導入されるEGRガスの量を調整する制御モジュールであり、吸気VVT13aおよび排気VVT14aの各動作やEGR弁453の開度を制御する。
デポジット推定部26は、エンジンの運転状態に基づいて、インジェクタ15の噴孔15Bへのデポジット堆積量を推定する処理を行う。デポジット推定部26は、単位時間(例えば100ms)当たりのデポジット堆積量である単位堆積量を運転状態に応じて求め、この単位堆積量を積算してデポジット堆積量を求める。つまり、デポジット堆積量は、基本的にはエンジンの運転時間によって決まる。但し、デポジット推定部26は、前記単位堆積量の各々を、インジェクタ15の燃料噴射時期、燃圧、噴射量に応じて補正した上で積算する。
クリーニング制御部27は、デポジット推定部26が推定したデポジット堆積量が所定値以上となったときに、インジェクタ15の燃圧を上昇させて噴孔15B付近に堆積したデポジットを除去するクリーニングモードを実行する。このクリーニングモードの実行の際、Liバッテリ62の充電率が所定の閾値(第1の所定値)よりも低い充電率である場合には、クリーニング制御部27は、ISG61の発電トルクを増加させる制御を行う。この制御は、ISG61を発電機として動作させ、その発電電力をLiバッテリ62に充電させる制御である。
クリーニング制御部27は、機能的に、燃圧制御部271(燃圧調整機構を制御する制御ユニット)、過剰トルク算出部272、発電トルク算出部273及びトルク配分決定部274を備える。
燃圧制御部271は、高圧燃料ポンプ153の出力を制御することによって、インジェクタ15に供給される燃料の燃圧を調整する。燃圧制御部271は、本来的には、エンジンの運転状態(エンジン負荷及びエンジン回転数)及び燃焼形態に応じて予め定められている基本燃圧マップ(図6、図7)を参照して、前記燃圧を設定する。また、燃圧制御部271は、インジェクタ15の噴孔15Bへのデポジット堆積量が所定の閾値以上となると、デポジットを除去するクリーニングモードを実行させるべく、デポジット除去マップ(図8)を参照して前記燃圧を設定する。クリーニングモードでは、特定の運転領域において燃圧を上昇させるように高圧燃料ポンプ153が制御される。燃圧上昇によって、噴孔15Bの内面乃至は近傍に堆積したデポジットを噴射燃料にて剥がす、或いは削る動作が行われることになる。
過剰トルク算出部272は、前記クリーニングモードでの燃圧上昇によって、エンジン本体1が、アクセルペダル18の踏み込み量に基づく目標トルクに対して過剰に発生することになる過剰トルクを算出する。発電トルク算出部273は、Liバッテリ62のSOC、ISG61の温度、目標トルクなどを参照して、ISG61に発電させることが可能な発電量(発電トルク)を算出する。トルク配分決定部274は、前記過剰トルクを発電トルク及び点火リタードにて相殺させるにあたり、両者に担わせる配分を決定する処理を行う。これらクリーニング制御部27の各部については、後記で詳述する。
燃料温度導出部28は、燃焼室6に供給される燃料の温度を求める処理を行う。具体的には燃料温度導出部28は、第2吸気温センサSN7が検出する吸気の温度と、水温センサSN2が検出するエンジン水温とから、燃料の温度を推定する処理を行う。なお、例えば燃料レール154に温度計を設置して燃料温度を計測させ、その計測値が燃料温度導出部28に入力される態様としても良い。燃料温度が所定値よりも高い場合、前記クリーニングモードによる燃圧上昇は回避される。これは、燃料が高温化している状態において燃圧を上昇させると、さらに燃料が高温化し、当該燃料に気泡が発生するなどの不具合が発生することを防止するためである。
ISG制御部29は、ISG通電回路612を制御して、ISG61の発電動作時には所要の界磁電流を生成してISG61に供給させ、モータ動作時には所要のモータ駆動電流を生成してISG61に供給させる。
記憶部20Mは、エンジンの制御のための各種プログラム、設定値、パラメータなどが記憶される。この他、記憶部20Mは、図5に示した運転マップ、図6及び図7に示す基本燃圧マップ、図8に示すデポジット除去マップなどを記憶する。
[デポジットの堆積予測]
デポジット推定部26による、インジェクタ15の噴孔15Bへのデポジットの堆積予測の具体的手法について説明を加えておく。基本的にはデポジット堆積量は、エンジン本体1の運転時間に比例して増加する。しかし、デポジット堆積量は単純に運転時間には比例せず、例えばピストン5のキャビティ51からの噴霧Fの跳ね返り発生の有無、燃料噴射量、燃圧等によって変動する。既述の通り、デポジット推定部26は、例えば100ms当たりのデポジット堆積量である単位堆積量を運転状態に応じて求め、この単位堆積量を積算してデポジット堆積量を求める。但し、上述の通り、様々な要因でデポジット堆積量は変動し得るので、これら要因を考慮して単位堆積量を補正することが望ましい。
例えば、燃料噴射時期によっては噴霧Fのキャビティ51からの跳ね返り付着に起因するデポジット堆積が生じる。逆に、前記跳ね返り付着が実質的に発生しないタイミングに噴射時期が設定されている場合、跳ね返り付着分を除くように補正して単位堆積量を導出することが妥当であると言える。この点を踏まえてデポジット推定部26は、燃料噴射時期が、ピストン5の上死点に対して比較的近い時期に設定された場合の単位堆積量より、上死点に対して比較的遠い時期に設定された場合の単位堆積量の方が少なくなるように補正する。
また、エンジン本体1において燃料噴射量が多く設定されている運転領域では、多量の燃料が噴孔15Bから噴射されることから、デポジット堆積が生じにくくなる。逆に、燃料噴射量が少なく設定されている運転期間ではデポジットが堆積し易い傾向が出る。従って、燃料噴射量に応じてデポジット堆積量の調整を図るように、単位堆積量をオフセット補正することが妥当である。さらに、基本燃圧マップにおいて燃圧が高く設定される運転領域での運転された期間では、デポジット堆積が生じにくく、むしろデポジットが除去される傾向が出る。
以上に鑑み、デポジット推定部26は、次式を適用して、上記単位堆積量を求める。
単位堆積量=運転時間堆積量×(回転負荷係数×燃圧係数+噴射量オフセット係数)・・・(1)
上記(1)式において、運転時間堆積量は、デポジット推定量の処理計算周期である単位時間(例えば100ms)当たりのデポジット堆積量である。例えば、1msの燃料噴射を行った場合に噴孔15Bに堆積すると想定されているデポジット堆積量を、単純に単位時間の長さ分だけ乗算したものが運転時間堆積量であり、運転時間に応じて増加する値である。
回転負荷係数は、燃料噴射時期に応じて定まる補正係数である。エンジン負荷及びエンジン回転数によって燃料噴射時期が変更されることがある。回転負荷係数は、燃料噴射時期(ピストン5のTDCへの近さ)に起因する、噴霧Fの前記跳ね返り付着の発生度合いに応じて前記単位堆積量を補正するための係数である。燃圧係数は、実質的にデポジットが除去されるような燃圧が設定される運転領域において、前記単位堆積量をマイナス側に補正するための係数である。噴射量オフセット係数は、燃料噴射量が多量であるときは少量である場合に比べてデポジットが堆積し難いという堆積傾向に応じて、(回転負荷係数×燃圧係数)の乗算値をマイナス側(あるいはプラス側)にオフセットさせるための係数である。
[運転マップ]
図5(A)〜(C)は、エンジンの運転領域を燃焼形態の相違により区分けした運転マップである。図5(A)〜(C)では、エンジンの暖機の進行度合いとエンジンの回転速度/負荷とに応じた燃焼制御の相違が示されている。本実施形態では、エンジンの暖機が完了した温間時に用いられる第1運転マップQ1(図5(A))と、エンジンの暖機が途中まで進行した半暖機時に用いられる第2運転マップQ2(図5(B))と、エンジンが未暖機である冷間時に用いられる第3運転マップQ3(図5(C))とが用意されている。温間時の第1運転マップQ1には、燃焼形態の異なる第1、第2、第3、第4、第5領域A1、A2、A3、A4、A5が含まれており、半暖機時の第2運転マップQ2には、燃焼形態の異なる第6、第7、第8、第9領域B1、B2、B3、B4が含まれている。冷間時の第3運転マップQ3は、第10領域C1の一つからなる。
<温感時>
第1運転マップQ1において、第1領域A1は、エンジン負荷が低い(無負荷を含む)低負荷の領域から高速側の一部の領域を除いた低・中速/低負荷の領域である。第2領域A2は、第1領域A1よりも負荷が高い低・中速/中負荷の領域である。第4領域A4は、第2領域A2よりも負荷が高くかつ回転速度が低い低速/高負荷の領域である。第3領域A3は、第4領域A4よりも回転速度が高い中速/高負荷の領域である。第5領域A5は、第1〜第4領域A1〜A4のいずれよりも回転速度が高い高速領域である。
第1領域A1では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点からその周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことである。CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で、混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
SPCCI燃焼は、SI燃焼時の熱発生よりもCI燃焼時の熱発生の方が急峻になるという性質がある。SPCCI燃焼による熱発生率の波形は、SI燃焼に対応する燃焼初期の立ち上がりの傾きが、その後のCI燃焼に対応して生じる立ち上がりの傾きよりも小さくなる。SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも混合気の燃焼速度が速いため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時の熱発生率が過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となる熱発生率が過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。従って、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
第1領域A1では、リーンな環境で上記のSPCCI燃焼が行われる(SPCCI_λ>1)。すなわち、スロットル弁32の開度が、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入される開度に設定される。具体的には、ECU20は、吸気通路30を通じて燃焼室6に導入される空気(新気)と、インジェクタ15によって燃焼室6に噴射される燃料との重量比である空燃比(A/F)が、理論空燃比(14.7)よりも大きくなるように設定した状態で、燃焼室6内の混合気をSPCCI燃焼させる制御を実行する。
第1領域A1の多くの領域において、燃焼室6に既燃ガスを残留させる内部EGRが実行される。ECU20は、吸気VVT13a及び排気VVT14aを制御して、排気上死点を挟んで吸気弁11及び排気弁12の双方が開かれるバルブオーバーラップが形成されるように当該吸気弁11及び排気弁12を駆動し、排気上死点を過ぎるまで(吸気行程初期まで)排気弁12を開弁させる。これにより、排気ポート10から燃焼室6へと既燃ガスが引き戻されて、内部EGRが実現される。バルブオーバーラップの期間は、所望のSPCCI燃焼の波形を得るのに適した筒内温度が実現されるように設定される。
第2領域A2では、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比に略一致する環境下で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される(SPCCI_λ=1)。スロットル弁32の開度は、理論空燃比相当の空気量が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるような開度に設定される。なお、第2領域A2では、EGR弁453が開弁されて外部EGRガスが燃焼室6に導入される。このため、第2領域A2では、燃焼室6内の全ガスと燃料との重量比であるガス空燃比(G/F)は、理論空燃比(14.7)よりも大きくなる。従って、第2領域A2での運転時には、G/Fが理論空燃比よりも大きくかつA/Fが理論空燃比に略一致するG/Fリーン環境を形成しつつ、混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。EGR弁453の開度は、A/Fベースでは理論空燃比が実現される開度に設定される。
第3領域A3では、燃焼室6内のA/Fが理論空燃比よりもややリッチになる環境下で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される(SPCCI_λ≦1)。中速・高負荷に対応するには相応の燃料噴射量が必要となるため、リッチ環境が設定される。一方、高負荷ではあるが低速の運転領域である第4領域A4では、A/Fが理論空燃比に略一致する環境下で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される(SPCCI_λ=1)。第5領域A5では、比較的オーソドックスなSI燃焼が実行される。A/Fは、理論空燃比もしくはこれよりもややリッチな値に設定される(SI_λ≦1)。なお、これら領域A3〜A5においても、A/FはEGR弁453の開度にて調整することができる。
<半暖機時>
半暖機時の第2運転マップQ2において、第6領域B1は、第1運転マップQ1における第1・第2領域A1,A2を併合した領域に対応している。第7領域B2、第8領域B3及び第9領域B4は、それぞれ第1運転マップQ1の第3領域A3、第4領域A4及び第5領域A5に対応している。
第6領域B1では、第1運転マップQ1の第2領域A2と同様に、燃焼室6内のA/Fが理論空燃比に略一致する環境下で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される(SPCCI_λ=1)。第6領域B1の少なくとも一部の領域において、バルブオーバーラップ期間を設定して燃焼室6に既燃ガスを残留させる内部EGRが実行される。過給機33は、第6領域B1の比較的高負荷の領域と、比較的高速側の領域とでON状態とされ、それ以外の領域ではOFF状態とされる。
第7領域B2、第8領域B3及び第9領域B4は、それぞれ第1運転マップQ1の第3領域A3、第4領域A4及び第5領域A5と同様な制御が行われる。すなわち、第7領域B2では、燃焼室6内のA/Fが理論空燃比よりもややリッチになる環境下で混合気をSPCCI燃焼させる(SPCCI_λ≦1)。第8領域B3では、A/Fが理論空燃比に略一致する環境下で混合気をSPCCI燃焼させる(SPCCI_λ=1)。第9領域B4では、オーソドックスなSI燃焼が実行され、A/Fは、理論空燃比もしくはこれよりもややリッチな値に設定される(SI_λ≦1)。
<冷間時>
冷間時の第3運転マップQ3は、第10領域C1のみからなる。第10領域C1では、主に吸気行程中に噴射された燃料を空気と混合しつつSI燃焼させる制御が実行される。この第10領域C1での制御は、一般的なガソリンエンジンの燃焼制御と同様である。
[燃圧マップの具体例]
既述の通り、燃圧制御部271は、運転状態に応じてインジェクタ15に供給される燃料の燃圧を設定する。燃圧の設定に際し燃圧制御部271は、記憶部20Mにアクセスし、エンジン負荷(燃料噴射量)とエンジン回転数とに関連付けて各々燃圧設定値が予め定められている燃圧マップを参照する。そして、燃圧制御部271は、燃圧マップから現状のエンジン負荷及びエンジン回転数に対応する燃圧値を読み出し、高圧燃料ポンプ153を制御して規定の燃圧を設定する。
図6は、SI燃焼及びSPCCI_λ=1燃焼において、インジェクタ15の燃圧設定の際に用いられる、基本燃圧マップの一例である。図6の縦軸はエンジン負荷、横軸はエンジン回転数(rpm)、燃圧の単位はMPaである。大略的に、低負荷〜中負荷の領域において、エンジン回転数が低回転の領域では燃圧が低く設定(40MPa)され、高回転の領域では高く設定(60MPa)されている。一方、中負荷〜高負荷の領域では、比較的燃圧が抑制されている(低回転域は30MPa、高回転域は40MPa)。これは、高圧燃料ポンプ153の機械負荷の増加に起因する燃費性能の悪化を回避するためである。既述の通り高圧燃料ポンプ153は、排気弁12を駆動するカムシャフトによって駆動されるため、エンジン本体1の補機損失となる。このため、中負荷〜高負荷の領域では燃圧を低めに設定することによって、補機損失を抑制している。
図7は、SPCCI_λ>1燃焼において、インジェクタ15の燃圧設定の際に用いられる、基本燃圧マップの一例である。図7の縦軸はエンジン負荷に対応する燃料噴射量(mg)、横軸はエンジン回転数(rpm)、燃圧の単位はMPaである。このSPCCI_λ>1燃焼では、エンジン負荷及びエンジン回転数に拘わらず、燃圧は40MPaに設定されている。これは、リーン燃焼では燃料噴射量が少なく、わざわざ補機損失を増加させてまで燃圧を上昇させる必要がないからである。
図8は、SI燃焼及びSPCCI_λ=1燃焼において、インジェクタ15のクリーニングモードが実行される際に用いられる、デポジット除去用の燃圧マップの一例である。上述の通り、燃圧制御部271は、インジェクタ15の噴孔15Bへのデポジット堆積量が所定値以上となると、当該デポジットを除去するクリーニングモードを実行する。クリーニングモードでは、燃圧を上昇させて、噴孔15B付近に堆積しているデポジットを、燃料の噴孔15Bからの吐出圧力で剥ぎ取る。このクリーニングモードの実行の際、燃圧制御部271は、図6に示す基本燃圧マップから図8に例示するデポジット除去用燃圧マップに切り替えて、インジェクタ15の燃圧を設定する。
図8のデポジット除去用燃圧マップでは、低負荷〜中負荷の領域(0.125〜0.35/0.45)であって、エンジン回転数が低回転(500〜3000rpm)の運転領域において、燃圧が前記基本燃圧マップでは40MPaであったものが60MPaに設定されている。つまり、当該運転領域では、クリーニングモードが実行される際には燃圧が上昇される。かかる燃圧上昇によって、噴孔15B付近のデポジットが除去される。
一方、デポジット除去用燃圧マップにおいて、燃圧が上昇されず基本燃圧マップの通りに燃圧が設定される領域がいくつか存在する。まず、低負荷〜中負荷の領域であって、エンジン回転数が高回転(3000〜6500rpm)の運転領域では、燃圧が60MPaのままに維持されている。これは、そもそも当該運転領域では基本燃圧マップにおいて既に、デポジットを除去可能な60MPaという高燃圧が設定されており、これ以上は燃圧を上昇させる必要がないからである。
また、デポジット除去用燃圧マップにおいて、エンジン負荷が高負荷の領域(0.4/0.8〜1.4)であって、エンジン回転数が低回転(500〜2750rpm)の運転領域では、燃圧が基本燃圧マップと同じく30MPaのままに維持されている。これは、高負荷の領域で燃圧を増加させると、エンジン本体1において高圧燃料ポンプ153を駆動させる補機損失が増大することから、これを回避するためである。また、高負荷の運転領域では燃料噴射量が多くなることから、燃圧を上昇させずとも、多量の燃料の吐出によって噴孔15Bのデポジットを除去することが可能であることも、燃圧を上昇させない理由である。
さらに、エンジン負荷が高負荷の領域(0.8〜1.4)であって、エンジン回転数が高回転(3000〜6500rpm)の運転領域でも、燃圧が40MPaのままに維持されている。これもまた、高負荷・高回転の領域で燃圧を増加させると、高圧燃料ポンプ153の補機損失がより増大するので、これを回避するためである。また、高回転の運転領域では、噴孔15Bが開口しているトータル時間が長くなり、単位時間当たりの燃料噴射量が多くなる。従って、燃圧を上昇させずとも、多量の燃料の吐出によって噴孔15Bのデポジットを除去することが可能であることも、燃圧を上昇させない理由である。
以上に対し、SPCCI_λ>1燃焼においては、燃圧制御部271はクリーニングモードのための燃圧上昇を実行させない。SPCCI_λ>1燃焼の実行時のようにリーンな混合気を生成して燃焼を行わせる状況において、インジェクタ15の燃圧を上昇させると、当該インジェクタ15からの燃料噴射量のリニアリティが確保できない傾向が生じる。具体的には、燃圧制御部271は、インジェクタ15に対して噴孔15Bの開弁期間に対応するパルス幅を有する駆動パルスを与えて噴射動作を実行させる。リーン燃焼の場合は、インジェクタ15からの燃料噴射量は比較的少量となるため、前記パルス幅は比較的小さい値に設定される。この状況において燃圧を上昇させるとなると、単位時間当たりの噴射量が増えるため、所定の噴射量に止めるためにはパルス幅をより小さくせねばならない。
汎用のインジェクタ15の特性として、駆動パルスのパルス幅が小さくなりすぎる領域では、燃料噴射量のリニアリティが低下する。つまり、噴孔15Bの開弁期間と噴射量とが比例しない傾向がある。前記リニアリティが低下した場合、企図する混合気分布を燃焼室6に形成できなくなり、燃焼安定性が悪化するという不具合が生じる。SPCCI_λ>1燃焼においては、燃料噴射が複数回に分割して行われる場合もある。この場合、もともと少量である目標燃料量を複数回に分けて噴射するため、1回当たりのパルス幅はさらに小さいものである。従って、SPCCI_λ>1燃焼において燃圧を上昇させると、燃焼安定性が悪化し易い状況となってしまう。この点に鑑みて、SPCCI_λ>1燃焼の実行時にはクリーニングモードを実行させない設定とし、それゆえデポジット除去用燃圧マップは用意されていない。
[過剰トルクの相殺]
続いて、上述のクリーニングモードの実行時における過剰トルクの相殺について、図9を参照して説明する。インジェクタ15のデポジットの除去には、燃圧上昇は有効である。しかし、燃圧上昇によって単位時間当たりの燃料噴射量が増加することから、1サイクル当たりの燃料噴射量が増加することになる。図9に示すように、通常運転モードでは、運転者のアクセル踏み込み量に応じて燃料噴射量が設定され、要求トルクを達成する。しかし、クリーニングモードにおいて、デポジット除去を企図して燃圧上昇を行わせると、その燃圧上昇に伴う燃料噴射量の増加分にて過剰トルクが発生する。結果として、アクセル踏み込み量に基づく要求トルクよりも大きなトルクを、エンジン本体1に発生させてしまう。この場合、運転者に違和感を与えてしまうことになる。
本実施形態では、この過剰トルクを活用して、ISG61に発電動作を行わせる。つまり、過剰トルクをISG61の発電トルクで相殺させる。これにより、デポジットを除去しつつ、過剰トルクを活用してLiバッテリ62への充電を行わせることができ、しかも運転者に過剰トルクの付加による違和感を与えずに済むようになる。但し、発電トルクで過剰トルクを相殺しきれない分については、点火プラグ16の点火タイミングを遅角させる点火リタードにて補うようにする。一般に、点火リタードによりエンジン本体の発生トルクは低下する。つまり、点火リタードの結果として、トルクに寄与しない燃焼割合が増えることとなり、いわば過剰トルクを熱として廃棄することになる。従って、発電トルクでの相殺を優先し、点火リタードは、あくまで、発電トルクで相殺できない過剰トルクを、補足的に相殺させる扱いとする態様とすることが望ましい。
発電トルクによる過剰トルクの相殺を優先するとしても、Liバッテリ62が充電可能な状態であるかを考慮する必要がある。つまり、Liバッテリ62のSOCによっては、過剰トルク分の発電トルクをフル発生させることが妥当でない場合がある。この場合は、点火リタードで積極的に相殺を補填させることが望ましい。図9に示す状態(A)〜状態(D)は、Liバッテリ62のSOCと過剰トルクの相殺態様との関係を模式的に示している。
図9の状態(A)は、Liバッテリ62のSOCが、低レベルのSOCであるか否かを区分する第1閾値Cth1(第1の所定値)よりも低い低SOC状態を示している。この低SOC状態では、単純にISG制御部29がISG61の発電トルクを増加させるように、ISG通電回路612を制御する。すなわち、Liバッテリ62のSOCに、さらなる充電を行わせる余裕があるので、過剰トルクの全てを発電トルクで相殺させるようにする。ISG制御部29はISG通電回路612に、過剰トルクに応じた発電量(発電トルク)が得られるよう、ISG61に界磁電流を供給させる。なお、低SOC状態であっても、他の要因で過剰トルクの全てに相当する発電トルクを発生させることが妥当でない場合には、点火リタードにて補わせるようにしても良い。
状態(B)は、Liバッテリ62のSOCが、高レベルのSOCであるか否かを区分する第2閾値Cth2(第2の所定値)よりも低いものの、第1閾値Cth1よりも高い中SOC状態を示している。中SOC状態は、Liバッテリ62のSOCに十分な余裕がなく、過剰トルク分の発電トルクを発生させると、Liバッテリ62が過剰な充電状態となり得る状態である。つまり、過剰トルクの一部を発電トルクで相殺できない条件である。この場合、点火制御部23による点火リタードが並行して実行される。この場合、過剰トルクは、発電トルクと、点火リタードによるトルク低下とによって相殺されることになる。この中SOC状態では、第1閾値Cth1を超過するSOCであるとはいえ、ある程度は充電を行わせる余裕があるので、発電トルクが点火リタードに比べて優勢である例を示している。
状態(C)は、Liバッテリ62のSOCが、充電上限値として予め定められた値以下ではあるものの、第2閾値Cth2よりも高い高SOC状態を示している。この場合、Liバッテリ62を充電させる余裕が少ないので、発電トルクの増加が抑制される一方で、点火リタードによる過剰トルクの相殺度合いが高く設定される。ここでの「抑制」は、ISG61へ供給する電流を、状態(A)や(B)のときに比べて少なくし、発電量を制限することの他、ISG61へ電流を供給させずに発電を停止させることも含む。すなわち、状態(C)の上段に示す通り、発電トルクよりも点火リタードを優勢にして過剰トルクを相殺させる態様、若しくは、下段に示す通り、点火リタードのみで過剰トルクを相殺させる態様を含む。但し、下段の態様は燃費ロスを招来するため、なるべく回避することが望ましい。
状態(D)は、Liバッテリ62のSOCが、当該Liバッテリ62の充電上限として定めた上限充電率に至っている上限SOC状態を示している。上限SOC状態は、Liバッテリ62を充電させる余裕が全く存在しない状態である。この場合は、たとえデポジット推定部26が求めたデポジット堆積量が所定の閾値以上となっていても、デポジット除去のための燃圧上昇動作、つまりクリーニングモードの実行が中止される。
なお、Liバッテリ62のSOCに応じて、単純に発電トルクによる過剰トルクの相殺と、点火リタードによる過剰トルクの相殺とを切り換えるようにしても良い。例えば、上記の第1閾値Cth1を用い、Liバッテリ62のSOCが第1閾値Cth1よりも低い場合には、発電トルクを増加させる。つまり、発電トルクだけで過剰トルクを相殺させる。一方、Liバッテリ62のSOCが第1閾値Cth1よりも高い場合には、点火リタードだけで過剰トルクを相殺させる。このように、両者を切り換えて過剰トルクを相殺させるようにしても良い。
[ISGの動作例]
続いて、クリーニングモードにおけるISG61の実際の動作例について、図10を参照して説明する。一般にリチウムイオン二次電池は、満充電状態や低充電状態とすると寿命特性が悪化する。このため、Liバッテリ62においては、SOCの上限と下限を設定し、その上下限の範囲内で使用することが望ましい。図10では、上限がSOC=80%、下限がSOC=40%に設定されている例を示している。
図10において点線の特性C_noにて示す通常運転モードでは、Liバッテリ62は、下限SOC(40%)よりやや上位に設定される下限閾値Th_L付近のSOCで使用される。これは、最も寿命特性の優れるSOC領域でLiバッテリ62を使用するためである。例えば、時刻t1でLiバッテリ62のSOCが下限閾値Th_Lまで下降すると、ISG制御部29はISG61に電流を供給して発電動作を開始させ、Liバッテリ62に充電させる。続いて、時刻t2で、下限閾値Th_Lから数%程度上昇した所定のSOCに到達すると、ISG61への電流供給が停止され、Liバッテリ62は専ら放電する。そして、再びSOCが下限閾値Th_Lまで下降すると、ISG61への電流供給が再開される。
これに対し、図10において実線の特性C_clにて示すクリーニングモードでは、過剰トルクの相殺のため発電トルクを増加させることから、通常運転モードよりもワイドにLiバッテリ62のSOC領域が使用される。図10の時刻t1が、デポジット推定部26によりデポジット堆積量が所定値以上と推定されたタイミングであるとする。この場合、全体制御部21はクリーニング制御部27にクリーニング実行指示を出す。つまり、時刻t1よりクリーニングモードに入る。
クリーニング制御部27は、クリーニング実行指示が「有」の状態となっても、常時デポジット除去のための燃圧上昇を行うのではなく、Liバッテリ62のSOCを参照しつつ、間欠的に燃圧上昇を実行する。時刻t1から実際にクリーニングモードが開始される。具体的には、燃圧制御部271が参照する燃圧マップが、図6の基本燃圧マップから、図8のデポジット除去用燃圧マップに切り換えられる。従って、所定の運転領域では、燃圧が40MPaから60MPaに上昇されることになる。
ISG61による発電動作の実行は、上記の燃圧上昇に連動する。既述の通り、燃圧上昇により過剰トルクが発生するため、これを発電トルクで相殺させるべくISG制御部29はISG61に発電動作を実行させる。このため、Liバッテリ62のSOCは、特性C_clで示すように比較的急峻に上昇してゆく。
その後、Liバッテリ62のSOCが、上限SOC(80%)よりもやや下位に設定される上限閾値Th_Hに至る時刻t2になると、クリーニングモードは中断される。これは、Liバッテリ62のSOCの過度の上昇を回避するためである。具体的には、燃圧制御部271はデポジット除去のための燃圧上昇を中断し、これに伴いISG制御部29もISG61の発電動作を停止させる。つまり、時刻t1〜t2が発電トルクの発生期間となる。
時刻t2以降は、クリーニング実行指示が「有」の状態ではあるが、Liバッテリ62の放電を待つ期間となる。すなわち、Liバッテリ62から高電圧電気機器64若しくは低電圧電気機器65に電力が供給され、Liバッテリ62のSOCが低下するのを待つ期間となる。そして、時刻t3でSOCが下限閾値Th_Lまで下降すると、クリーニングモードが再開される。つまり、燃圧制御部271はデポジット除去のための燃圧上昇を実行し、ISG制御部29もISG61の発電動作を実行させる状態に移行する。以下、デポジットが除去されたことをデポジット推定部26が推定し、全体制御部21がクリーニング実行指示=「無」に設定するまで、同様なサイクルが繰り返される。
[発電トルクと点火リタードとの連携]
図11は、過剰トルクの相殺のための、発電トルク及び点火リタードの具体的導出例を説明するための模式図である。ステップ#1で、デポジット除去要否が判定される。この判定は、既述の通りデポジット推定部26によって推定されたデポジット堆積量が、所定の閾値を超過するか否かに依存する。デポジット除去要と判定された場合、クリーニングモードが発動する(ステップ#2)。これは、先に図10に基づき説明した、クリーニング実行指示=「有」の状態に相当する。
この場合、燃圧上昇による過剰トルクの処理が必要な状態となる。過剰トルク算出部272(図4)は、例えば40MPaから60MPaへの燃圧上昇によって、アクセルペダル18の踏み込み量に基づく目標トルクに対して、エンジン本体1が過剰に発生することになる過剰トルクを算出する。以下のステップ#3、#4では、この過剰トルクを、発電トルクと点火リタードとでどのように分配して相殺するかが決定される。
ステップ#3では、発電トルク算出部273が、現況においてISG61に発電させることができる発電量、つまり、ISG61で発生可能な発電トルクを演算する。発電トルクを求めるに際して考慮されるのは、少なくとも電池残量計68によって導出されるLiバッテリ62のSOCと、ISG温度センサSN12によって検出されるISG61の温度である。
Liバッテリ62のSOCが高いと、発生可能な発電トルクは小さくなる。図12(A)は、ISG61の発電トルクとLiバッテリ62のSOCとの関係を示すグラフである。SOCが比較的低いポイントP1で発生可能な発電トルクに比べ、P1よりもSOCが高いポイントP2における発電トルクは小さくなる。また、ISG61の温度が高いと、発電動作を抑制させる必要があるので、やはり発生可能な発電トルクは小さくなる。図12(B)は、ISG61の発電トルクとISG61の温度との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、ISG温度が所定の温度P3を越えると、ISG61が発生可能な発電トルクは急激に小さくなる。
以上は、物理的に発電トルクが制限される要素である。これら要素に加えて、発電トルク自体を発生させることは可能な状態であるが、他の理由で発電トルクを制限させるべき要素である「発電トルク制限要素」も考慮される。具体的には、発電トルク算出部273は、目標トルクを参照し、発電トルクをさらにエンジン本体1に担わせることができる余裕度を求める。例えば、エンジン本体1の最大出力トルクのうち、目標トルクの達成のため70%を使う必要がある場合、残りの30%のトルクの大半を発電トルクに消費し、急なアクセルの踏み込みに対する余裕度の無い運転状態を作ることは好ましくない。発電トルク算出部273は、SOC及びISG温度に加え、このような発電トルク制限要素に相当する係数を採用して、発電トルクを決定する。図12(C)は、ISG61の発電トルクと目標トルクの関係を示すグラフである。目標トルクが比較的低いポイントP4に比べ、比較的高いポイントP5に設定される場合、両者の差分のΔTrだけ発生可能な発電トルクは小さくなる。
続くステップ#4では、点火リタードで補うトルクが求められる。つまり、過剰トルクのうち、発電トルクで相殺できないトルクが演算される。具体的には、トルク配分決定部274が、燃圧上昇による燃料噴射量の増量によってエンジン本体1が発生することになるトルクT1と、ステップ#3で求められた現状で発生可能な発電トルクT2と、現状のアクセル踏み込み量に基づく目標トルクT3とを加減演算する。
発電トルクT2で過剰トルクを全て相殺できる場合、つまり、T1−T2=T3となる場合は、点火リタードで補う必要がない。従って、トルク配分決定部274は点火リタードによる相殺分をゼロと決定する。一方、発電トルクT2で過剰トルクを全て相殺できない場合、つまり、T1−T2>T3となる場合、その差分を点火リタードで補うことができるように、点火リタードによる相殺分を決定する。
このようにしてトルク配分決定部274が、過剰トルクを相殺させるに際しての発電トルクと点火リタードとに各々担わせる配分を決定したならば、デポジット除去動作(クリーニングモード)が実行される(ステップ#5)。具体的には、ISG制御部29がISG61に前記発電トルクを発生させる界磁電流を決定し、ISG通電回路612に当該界磁電流を供給させる。また、点火制御部23が、前記点火リタードを実現する点火タイミングで、点火プラグ16を駆動する。
[燃圧切り替え制御フロー]
続いて、上記のエンジンシステムの動作をフローチャートに基づいて説明する。図13は、クリーニングモードの実行要否の判定処理に相当する、ECU20(図4)によるインジェクタ15の燃圧切り替え制御の一例を示すフローチャートである。ECU20は、図4に示す各センサSN1〜SN12や他のセンサから各種信号を読み込み、エンジン本体1の運転状態に関する情報を取得する(ステップS1)。取得された情報に基づいて、現状の運転ポイントが図5(A)〜(C)に示す運転マップQ1〜Q3のどの領域に該当するかが特定される。
次いで、デポジット推定部26が、今回の処理周期における単位堆積量を運転状態に応じて求め、この単位堆積量を積算してデポジット堆積量を求める処理を行う(ステップS2)。この処理においてデポジット推定部26は、先に詳述したように、上記(1)式を適用し、運転状態に応じて補正された単位堆積量を導出する。すなわち、デポジット推定部26は、記憶部20Mに予め格納されている補正用の回転負荷係数マップ、燃圧係数マップ及び噴射量オフセット係数マップを参照して、運転時間と運転状態とで定まる運転時間堆積量にこれらマップの係数を乗算して前記単位堆積量を求める。
その後、クリーニング制御部27は、現状の運転領域を判定する(ステップS3)。ここでは単純化のため、運転領域が、SI燃焼の領域(図5(C)の第10領域C1)か、SPCCI_λ=1燃焼の領域(図5(B)の第6領域B1)か、或いは、SPCCI_λ>1燃焼の領域(図5(A)の第1領域A1)かを判定するケースを示している。運転領域がSI燃焼又はSPCCI_λ=1燃焼が実行される運転領域ではない場合(ステップS3でNO)、つまり、SPCCI_λ>1燃焼が実行される運転領域である場合、クリーニング制御部27は、燃圧制御部271に、図7に示したSPCCI_λ>1燃焼の基本燃圧マップを参照して、インジェクタ15の燃圧を設定させる(ステップS4)。すなわち、SPCCI_λ>1燃焼の実行時には、燃料噴射量のリニアリティが低下する問題を考慮して、燃圧を上昇させるクリーニングモードは実行されない。
一方、運転領域がSI燃焼又はSPCCI_λ=1燃焼が実行される運転領域である場合(ステップS3でYES)、クリーニング制御部27は、ステップS2でデポジット推定部26が求めたデポジット堆積量が所定の閾値Th1を超過しているか否かを判定する(ステップS5)。閾値Th1は、噴孔15Bからの燃料噴射特性を悪化させるようなデポジット堆積量に至る手前の適宜な値に設定される。デポジット堆積量が閾値Th1を超過していない場合(ステップS5でNO)、クリーニング制御部27は、クリーニングモードを実行しない。この場合、燃圧制御部271は、図6に示したSI燃焼及びSPCCI_λ=1燃焼の基本燃圧マップを参照して、インジェクタ15の燃圧を設定する(ステップS7)。
デポジット堆積量が閾値Th1を超過している場合(ステップS5でYES)、クリーニング制御部27は、今回の処理周期において、燃料温度導出部28が第2吸気温センサSN7の検出値と水温センサSN2の検出値とから求めた燃料温度を参照する(ステップS6)。燃料温度が所定の閾値Th2以上である場合(ステップS6でNO)、つまり燃料温度が相当の高温である場合、クリーニング制御部27は、クリーニングモードを実行しない。この場合、燃圧制御部271は、SI燃焼及びSPCCI_λ=1燃焼の前記基本燃圧マップを参照して、インジェクタ15の燃圧を設定する(ステップS7)。これは、たとえデポジット堆積量が閾値Th1を超過しているような状態であっても、燃料が高温化している状態において燃圧を上昇させてしまうと、さらに燃料が高温化し、気泡発生などの燃料障害が発生し得るからである。
これに対し、燃料温度が閾値Th2未満である場合(ステップS6でYES)、クリーニング制御部27はクリーニングモードの実行指示を出す。すなわち、燃圧制御部271は、参照する燃圧マップを前記基本燃圧マップから、図8に示したデポジット除去用燃圧マップに切り換える(ステップS8)。これにより、所定の運転領域(低負荷〜中負荷の領域)に属する場合には、燃圧が基本燃圧マップよりも上昇され、噴孔15B付近のデポジットが除去されることになる。
[燃焼制御フロー]
図14は、ECU20が実行する燃焼制御の一例を示すフローチャートである。ECU20は、図4に示す各センサSN1〜SN12や他のセンサから各種信号を読み込み、エンジン本体1の運転状態に関する情報を取得する(ステップS11)。次いで、噴射制御部22が、アクセルセンサSN11が検出するアクセル開度に基づいて、基本要求トルクを算出する(ステップS12)。換言すると、基本要求トルクに応じた燃料噴射量が決定される。
その後、全体制御部21は、クリーニング制御部27がクリーニングモードの実行指示(図13のステップS8)の有無を判定する(ステップS13)。クリーニングモードの実行指示が「有」の場合(ステップS13でYES)、全体制御部21は、過剰トルク算出部272に、クリーニングモードでの燃圧上昇分によって生じる過剰トルクを算出させる(ステップS14)。
これを受けて噴射制御部22が、ステップS12で求めた基本要求トルクに過剰トルクを加算して、最終要求トルクを算出する(ステップS15)。つまり、噴射制御部22は、基本要求トルクに応じた燃料噴射量に、過剰トルクに相当する燃料噴射量を加算する補正を行い、最終的な燃料噴射量を決定する。なお、クリーニングモードの実行指示が「無」の場合(ステップS13でNO)には、ステップS14はスキップされる。この場合、ステップS12の基本要求トルクが最終要求トルクとなる。
続いて、吸気制御部24が、ステップS15で決定した最終要求トルクを達成するのに必要な目標空気量を算出する(ステップS16)。つまり、最終要求トルクに対応する燃料を燃焼させるのに必要な空気量が算出される。そして、吸気制御部24は、求めた目標空気量に応じて、スロットル弁32の開度、吸気弁11及び排気弁12のバルブタイミング、過給機33の動作条件等を制御する(ステップS17)。また、噴射制御部22が、目標空気量に応じてインジェクタ15の燃料噴射量を制御する(ステップS18)。
さらに、点火制御部23が、目標空気量に応じて、点火プラグ16による混合気への点火時期を制御する(ステップS19)。ここでの点火時期は、過剰トルクをISG61が発生する発電トルクで完全に相殺できる場合には、目標空気量にて単純に定まる点火時期となる。一方、過剰トルクの一部又は全部を発電トルクで相殺できない場合には、点火制御部23は目標空気量にて決まる点火時期をリタード側に補正(点火リタード)する。この点火リタードによって、前記過剰トルクの残部が相殺される。
[ISGの制御フロー]
図15は、クリーニングモードにおけるISGの発電制御の一例を示すフローチャートである。ECU20は、各センサSN1〜SN12や他のセンサから各種信号を読み込む(ステップS21)。そして、全体制御部21が、クリーニングモードの実行指示の有無を判定する(ステップS22)。クリーニングモード実行指示が「無」の場合(ステップS22でNO)、クリーニングモードに連携したISG61の制御は不要であるので、以下の処理はスキップされる。
これに対し、クリーニングモード実行指示が「有」の場合(ステップS22でYES)、クリーニング制御部27の発電トルク算出部273が、Liバッテリ62のSOCやISG温度等を参照して、現状の運転状態においてISG61が発生可能な発電トルクを演算する(ステップS23)。また、発電トルク算出部273は、基本要求トルク等を参照して、発電トルクの制限演算を実行する(ステップS24)。これらの演算により、ISG61の発電トルクが決定される。これらステップS23及びS24の詳細は、図11のステップ#3において説明した通りである。
その後、クリーニング制御部27は、ISG61の発電トルクで過剰トルクの全てを相殺できるか否かを判定する(ステップS25)。発電トルクで過剰トルクの全てを相殺できない場合(ステップS25でYES)、トルク配分決定部274が、点火リタードによる過剰トルクの相殺分、つまり点火リタード量を演算により求め、設定する(ステップS26)。この演算の詳細は、図11のステップ#4において説明した通りである。トルク配分決定部274は、演算にて求めた点火リタード量を点火制御部23に与える。この点火リタード量は、図14のステップS19の処理の際に参照される。
その後、ステップS24で求められた発電トルクを発生するよう、ISG制御部29がISG61の発電トルクを制御する(ステップS27)。すなわち、ISG制御部29は、発電トルクを達成できる界磁電流をISG61に供給する。なお、発電トルクで過剰トルクの全てを相殺できる場合(ステップS25でNO)、ステップS26はスキップされる。
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係るエンジンシステムによれば、インジェクタ15の噴孔15Bへのデポジット堆積量が所定値以上となると、ECU20が燃圧を上昇させ、デポジットを除去する処理を実行する。この燃圧上昇によって、単位時間当たりの燃料噴射量が増えるため、エンジン本体1は運転者のアクセル踏み込み量に基づく要求トルクに加えて、過剰トルクを発生する。ECU20は、この過剰トルクを、ISG61の発電トルクで相殺させる。すなわち、Liバッテリ62が充電可能な状態であること、つまりLiバッテリ62のSOCが所定値よりも低い充電率であることを前提として、ECU20はISG61の発電トルクを増加させる。これにより、デポジットを除去しつつ、過剰トルクを活用してLiバッテリ62への充電を行わせることができ、しかも運転者に過剰トルクの付加による違和感を与えずに済むようになる。
また、ECU20は、前記燃圧の上昇によって生じる過剰トルクの一部又は全部を前記発電トルクで相殺できない条件下のときには、点火プラグ16の点火タイミングをリタードさせる点火リタード制御を並行して実行する。混合気への点火タイミングをリタードさせることは、エンジン本体1のエンジントルクの低下をもたらす。例えば、発電トルクの増加だけでは過剰トルクの全てを相殺できない場合に、点火リタードによって残部の過剰トルクの相殺を補わせることができる。従って、発電トルクと点火リタードとのコンビネーションによって、過剰トルクを相殺させることができる。
[変形例]
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取ることができる。
(1)上記実施形態では、発電装置の例として、電動機としての機能と発電機としての機能とを備えたISG61を例示した。電動機としての機能は省いても良く、例えば発電装置としてオルタネーターを用いるようにしても良い。
(2)上記実施形態では、図10に示すように、クリーニングモードにおいてISG61が、Liバッテリ62の下限SOC(40%)付近の下限閾値Th_Lと、上限SOC(80%)付近の上限閾値Th_Hとの間で、発電動作と休止動作とを行う例を示した。図16は、クリーニングモードにおける、ISG61の発電動作の変形例を示すタイムチャートである。この変形例では、実線の特性C_claで示すように、初回の発電動作では、Liバッテリ62を下限閾値Th_Lから上限閾値Th_Hまで充電させる。この点は、図10の例と同じである。しかし、2回目以降の発電動作では、下限閾値Th_LまでLiバッテリ62を放電させず、上限閾値Th_Hに比較的近いSOCの下限閾値Th_LAまで放電が進んだら充電を再開させる。下限閾値Th_LAは、例えば、上限SOC(80%)と下限SOC(40%)との中間(SOC=60%)よりも、さらに高いSOC(SOC=70%程度)に設定することができる。この変形例によれば、細かいサイクルでLiバッテリ62の充電と放電のサイクルが繰り返されるので、クリーニングモードにおいて燃圧上昇の休止期間(図10の時刻t2〜t3の期間)を短くすることができる。
(3)上記実施形態では、図8のデポジット除去用燃圧マップにおいて、高回転、高負荷の運転領域では燃圧を上昇させない態様を例示した。これは一例であり、前記高回転及び高負荷の運転領域においても、クリーニングモードの実行時に燃圧を上昇させるようにしても良い。
(4)上記実施形態では、SPCCI_λ>1燃焼の実行時にはクリーニングモードを実行させない例を示した。これに代えて、一時的に例えば燃焼形態をSPCCI_λ>1燃焼からSPCCI_λ=1燃焼に変更する等、リーン燃焼を燃料リッチ側に修正した上で、燃圧を上昇させるクリーニングモードを実行させるようにしても良い。