JP2020533281A - デキストラン硫酸の新規使用 - Google Patents

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Abstract

デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体が、グリア細胞およびニューロンの分化を誘導するために使用される。デキストラン硫酸の細胞分化誘導は、神経変性疾患、脱髄性疾患、神経虚血性疾患および神経筋疾患を含む神経疾患を罹患している対象に対し好ましい効果を有する。【選択図】図12

Description

本実施形態は、一般に、神経学的および線維性状態に関し、特に、このような状態との闘いにおけるデキストラン硫酸の使用に関する。
アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および多発性硬化症(MS)などの神経疾患、外傷性脳損傷(TBI)、脳卒中およびくも膜下出血(SAH)などの中枢神経系(CNS)または末梢神経系(PNS)への損傷では、乏突起膠細胞およびシュワン細胞などのニューロンおよびグリア細胞の分化の喪失は、最初の疾患ステージの1つであり、その後細胞死が続く。代謝機能およびミトコンドリアのエネルギー代謝の低下および酸素ストレスの上昇に見られるように、細胞の機能も同様に損なわれる。損傷ニューロンはさらに、近くのニューロンに対する興奮毒性作用を有するグルタミン酸を放出し、次に、さらなる細胞損傷および細胞死を引き起こす。
よって、神経疾患、障害および状態で発生する多数の有害な機序が存在する。従って、このような有害な機序と闘うのに効果的で、それにより、このような神経疾患、障害および状態を罹患している患者にとって有益であり得る薬物の一般的必要性が存在する。
米国特許出願公開第2011/0014701号は、前駆細胞の生存率を改善するためのポリ硫酸化ポリサッカライドの使用に関する。この米国特許出願は、前駆細胞の分化を調節するためのポリ硫酸化ポリサッカライドの使用も開示している。種々のポリ硫酸化ポリサッカライドが試験された。ポリ硫酸化ポリサッカライドの多硫酸デキストラン(M=5,000Da)は、前駆細胞の分化を下方制御または抑制すると結論付けられた。
神経学的および/または線維性状態に罹患している患者に有用な薬物を提供することが一般的な目的である。
これおよびその他の目的は、本明細書で定義の実施形態により実現される。
本発明は、独立請求項により定められる。本発明のさらなる実施形態は、従属請求項で定められる。
本実施形態は、神経学的および/または線維性疾患、障害または状態に罹患している患者に対するいくつかの有利な効果を有するデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体に関する。
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体は、特に、グリア細胞およびニューロンの分化の誘導、ニューロンおよびグリア細胞の酸化ストレスの低減、グルタミン酸興奮毒性の低減、ニューロンおよびグリア細胞のミトコンドリアの代謝機能およびエネルギー代謝の改善、ならびに身体の内因性修復機序の活性化を行うことができる。デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体はまた、TGF−βなどの線維形成因子を抑制し、繊維分解を活性化して、それにより、既存の瘢痕組織を分解して、組織リモデリングおよび組織の治癒の実現を誘導することにより線維形成を防止できる。デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体はまた、免疫または炎症反応を消散させることにより、神経炎症状態を含む種々の炎症性および自己免疫性状態にも効果があった。
そのさらなる目的および利点と一緒に、いくつかの実施形態は、添付図面とともに、以下の説明を参照することにより最も良く理解され得る。
図1は、マウス皮質ニューロンのヨウ化プロピジウム(PI)含量を示す。細胞は、DNAに結合するPIで染色された。DNA含量に基づいて、細胞を細胞周期の異なる期に分類できる。DNA含量は細胞周期中に変化するので、PI染色は、細胞周期の進行を示すことができる。データは、ほとんどの細胞が細胞周期のG1期に留まる(点線の矢印)が、低分子量デキストラン硫酸(LMW−DS)は、G2/M期の細胞の数を増加させるように見える(実線の矢印)ことを示した。 図2は、ヒト運動ニューロンのPI含量を示す。データは、ほとんどの細胞が細胞周期のG1期に留まる(点線の矢印)が、LMW−DSは、G2/M期の細胞の数を増加させるように見える(実線の矢印)ことを示した。 図3は、ヒトシュワン細胞のPI含量を示す。データは、ほとんどの細胞が細胞周期のG1期に留まる(点線の矢印)が、LMW−DSは、G2/M期の細胞の数を増加させるように見える(実線の矢印)ことを示した。 図4は、マウス皮質ニューロン中のβIII−チューブリン発現の代表的な写真である。 図5Aおよび5Bは、マウス皮質ニューロン中のβIII−チューブリン発現に対するLMW−DSの効果を示す。グラフは、陽性細胞の全体強度(図5A)および平均サイズ(図5B)を示す。 図5Aおよび5Bは、マウス皮質ニューロン中のβIII−チューブリン発現に対するLMW−DSの効果を示す。グラフは、陽性細胞の全体強度(図5A)および平均サイズ(図5B)を示す。 図6Aおよび6Bは、ヒト運動ニューロン中のβIII−チューブリン発現に対するLMW−DSの効果を示す。グラフは、陽性細胞の全体強度(図6A)および平均サイズ(図6B)を示す。 図6Aおよび6Bは、ヒト運動ニューロン中のβIII−チューブリン発現に対するLMW−DSの効果を示す。グラフは、陽性細胞の全体強度(図6A)および平均サイズ(図6B)を示す。 図7は、ヒト運動ニューロン中のβIII−チューブリン発現の代表的な写真である。 図8Aおよび8Bは、ヒトシュワン細胞中のミエリン塩基性タンパク質(MBP)発現に対するLMW−DSの効果を示す。グラフは、陽性細胞の全体強度(図8A)および平均サイズ(図8B)を示す。 図8Aおよび8Bは、ヒトシュワン細胞中のミエリン塩基性タンパク質(MBP)発現に対するLMW−DSの効果を示す。グラフは、陽性細胞の全体強度(図8A)および平均サイズ(図8B)を示す。 図9は、ヒトシュワン細胞中のMBP発現の代表的な写真である。 図10は、陰性対照(ビークル)、陽性対照シクロスポリンA(cyclo)およびLMW−DSに対するマウスのEAE誘導後の平均実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)重症度スコアを示す図である。 図11は、陰性対照(ビークル)およびHGFに対するマウスのEAE誘導後の平均EAE重症度スコアを示す図である。矢印は、治療の開始を示す。 図12は、脳グルタミン酸レベルの変化を示す図である。 図13A〜13Dは、アデニンヌクレオチド(ATP、ADP、AMP)およびATP/ADP比の変化レベルをミトコンドリアのリン酸化能力として示す図である。 図13A〜13Dは、アデニンヌクレオチド(ATP、ADP、AMP)およびATP/ADP比の変化レベルをミトコンドリアのリン酸化能力として示す図である。 図13A〜13Dは、アデニンヌクレオチド(ATP、ADP、AMP)およびATP/ADP比の変化レベルをミトコンドリアのリン酸化能力として示す図である。 図13A〜13Dは、アデニンヌクレオチド(ATP、ADP、AMP)およびATP/ADP比の変化レベルをミトコンドリアのリン酸化能力として示す図である。 図14A〜14Dは、酸化型および還元型ニコチンコエンザイムの変化レベルを示す図である。 図14A〜14Dは、酸化型および還元型ニコチンコエンザイムの変化レベルを示す図である。 図14A〜14Dは、酸化型および還元型ニコチンコエンザイムの変化レベルを示す図である。 図14A〜14Dは、酸化型および還元型ニコチンコエンザイムの変化レベルを示す図である。 図15A〜15Cは、酸化ストレスを表すバイオマーカーの変化レベルを示す図である。 図15A〜15Cは、酸化ストレスを表すバイオマーカーの変化レベルを示す図である。 図15A〜15Cは、酸化ストレスを表すバイオマーカーの変化レベルを示す図である。 図16は、NO媒介ニトロソ化ストレスの測定値としての硝酸塩の変化レベルを示す図である。 図17A〜17Cは、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)およびその基質の変化レベルを示す図である。 図17A〜17Cは、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)およびその基質の変化レベルを示す図である。 図17A〜17Cは、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)およびその基質の変化レベルを示す図である。 図18は、ミトコンドリアの機能(不全)に対する酸化ストレスの効果を模式的に示す。 図19は、グルタミン酸シグナル伝達経路に関与する分子を模式的に示す。 図20は、原発性開放隅角緑内障(POAG)を罹患し、生理食塩水対照またはLMW−DSで治療した対象の角度におけるラミニン免疫反応性の変化を示す図である。 図21は、POAGを罹患し、生理食塩水対照またはLMW−DSで治療した対象の角度におけるフィブロネクチン免疫反応性の変化を示す図である。 図22は、アミロイドβモノマーおよびオリゴマー調製物を示す。アミロイドβ(1−42)Aまたはアミロイドβビオチン(B)のオリゴマー(レーン1、2、5〜7)またはモノマー(レーン3および4)の調製物。それぞれのペプチド調製物の50pmole(レーン5)、100pmole(レーン1、3および6)または200pmole(レーン2、4および7)をゲルにロードした。進行中のウェスタンブロットのタンパク質を抗アミロイドβで免疫標識した。予測オリゴマーおよび分子量マーカーを示している。 図23は、アミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用に対するデキストラン硫酸ナトリウム塩(DSSS)およびLMW−DS競合を示す。 図24は、外傷誘導の30分後に実施した漸増用量のLWM−DS(1、5および15mg/kg体重)の単回投与の有無の場合の、TBIの2日後に屠殺したラットの脱タンパク脳ホモジネート中で測定したNAAの濃度を示す。対照は、シャム手術された動物である。値は12匹の動物の平均である。標準偏差は、垂直バーで表される。*対照に対し、p<0.01で有意差有り。**sTBI 2日後に対し、p<0.01で有意差有り。 図25は、漸増用量のLWM−DSの投与(1、5および15mg/kg 体重の単回投与および15mg/kg体重の反復投与)の有無の場合の、sTBIの7日後に屠殺したラットの脱タンパク脳ホモジネート中で測定したATPの濃度を示す。対照は、シャム手術された動物である。値は12匹の動物の平均である。標準偏差は、垂直バーで表される。*対照に対し、p<0.01で有意差有り。**sTBI 2日後に対し、p<0.01で有意差有り。 図26は、漸増用量のLWM−DSの投与(1、5および15mg/kg体重の単回投与および15mg/kg体重の反復投与)の有無の場合の、sTBIの7日後に屠殺したラットの脱タンパク脳ホモジネート中で測定したアスコルビン酸の濃度を示す。対照は、シャム手術された動物である。値は12匹の動物の平均である。標準偏差は、垂直バーで表される。*対照に対し、p<0.01で有意差有り。**sTBI 2日後に対し、p<0.01で有意差有り。 図27は、漸増用量のLWM−DSの投与(1、5および15mg/kg体重の単回投与および15mg/kg体重の反復投与)の有無の場合の、sTBIの7日後に屠殺したラットの脱タンパク脳ホモジネート中で測定したグルタチオン(GSH)の濃度を示す。対照は、シャム手術された動物である。値は12匹の動物の平均である。標準偏差は、垂直バーで表される。*対照に対し、p<0.01で有意差有り。**sTBI 2日後に対し、p<0.01で有意差有り。 図28は、漸増用量のLWM−DSの投与(1、5および15mg/kg体重の単回投与および15mg/kg体重の反復投与)の有無の場合の、sTBIの7日後に屠殺したラットの脱タンパク脳ホモジネート中で測定したNAAの濃度を示す。対照は、シャム手術された動物である。値は12匹の動物の平均である。標準偏差は、垂直バーで表される。*対照に対し、p<0.01で有意差有り。**sTBI 2日後に対し、p<0.01で有意差有り。
本実施形態は、一般に、神経学的および線維性状態に関し、特に、このような状態との闘いにおけるデキストラン硫酸の使用に関する。
神経障害は、身体神経系、すなわち、それらを結びつける脳、脊椎および神経の何らかの障害である。脳、脊髄またはその他の神経中の構造的、生化学的または電気的異常が一連の症状を生じ得る。脳および脊髄は強靭な膜により取り囲まれ、頭蓋骨および脊椎骨の骨中に閉じ込められ、また、血液脳関門により化学的に隔離されているが、それらは、危険にさらされると、極めて影響を受けやすい。神経は、皮膚下の深い位置にあると思われがちであるが、それでも、損傷にさらされる場合がある。個別のニューロン、ならびにニューラルネットワークおよびそれらが形成する神経は、電気化学的および構造的破壊を受けやすい。神経再生は、末梢神経系で発生し得、従って、ある程度損傷の周りで克服または機能するが、それは脳および脊髄では希であると考えられている。
神経学的な問題の具体的な原因は様々であるが、遺伝性障害、先天性異常または障害、感染、生活習慣、栄養障害を含む環境的な健康問題、および脳損傷、脊髄損傷または神経損傷が含まれ得る。問題は、神経系と相互作用する別の身体系で始まる場合もある。例えば、脳血管障害は、血管、すなわち、脳に供給する心臓血管系に関連する問題による脳損傷を含む;自己免疫障害は、身体自身の免疫系により引き起こされる損傷を含む;ニーマン・ピック病などのリソソーム蓄積症は神経症候増悪に繋がる場合がある。
神経変性疾患、障害または状態は、ニューロンの死を含む、ニューロンの構造および/または機能の進行性消失を引き起こす疾患、障害または状態である。
このような神経変性疾患、障害、または状態の非限定的例には、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)が挙げられる。
ADは、大脳皮質および皮質下領域でのニューロンおよびシナプスの消失を特徴とする。ADの古典的な神経病理学的知見には、アミロイド斑、神経原線維濃縮体、およびシナプスおよび神経細胞死が含まれる。白質疾患(WMD)は、神経病理学的検査で、ADに高頻度に認められる。ミエリン、軸索および乏突起膠細胞の減少を伴うほぼ全体に近い組織消失、ならびにアストロサイト増加として定義される。
PDは、CNSの神経変性疾患である。PDの運動症状は、黒質中のドーパミン生成細胞の死に起因する。罹患神経では、軸索の周りのミエリン鞘が侵食され始める。神経炎症は、PDの病理学的特徴であり、ニューロン損傷の部位での活性化ミクログリアおよび浸潤性T細胞を特徴とする。
HDは、筋協調に影響を与え、認知機能低下および精神学的問題に繋がる神経変性疾患である。この疾患は、ハンチンチンと呼ばれる遺伝子の常染色体優性変異により引き起こされる。この遺伝子の一部は、トリヌクレオチド反復と呼ばれる反復部であり、これは、個体間で長さが変化する。この反復部の長さが特定の閾値に達すると、それは、変化した形態のタンパク質を生成する。ハンチンチン遺伝子によりコードされたタンパク質(Htt)は、100個を超える他のタンパク質と相互作用し、複数の生物学的機能を有する。Httの変異型は、特に、脳中の特定の細胞型に毒性である。HDは、神経上のミエリン鞘に対する損傷を特徴とする。末梢血中の増大した活性化T細胞がHD患者中で特定された。
ルー・ゲーリック病とも呼ばれるALSは、様々な病因を伴う消耗性疾患であり、急速進行性の脱力、筋萎縮および線維束形成、筋痙縮、構音障害、嚥下障害および呼吸困難を特徴とする。ALSは最もよくある運動ニューロン疾患である(ALS、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球麻痺(PBP)および仮性球麻痺)。ALSの病状の基本的特性は、脊髄の前角中および脳幹の運動核中の運動神経細胞の消失である。これにより、対応する筋肉の二次的萎縮が生じる(筋萎縮症)。神経炎症は、ALSの病理学的特徴であり、ニューロン損傷の部位での活性化ミクログリアおよび浸潤性T細胞を特徴とする。「側索硬化症」は、皮質脊髄路変性(脊髄の部位の側面)を意味する。実際に、ミエリン消失は皮質脊髄路で起こる。硬化症であるALSの硬化は、側索、または皮質脊髄路を含み、二次的現象である。
神経疾患、障害または状態は、脱髄性疾患、障害または状態であり得る。脱髄性疾患、障害または状態は、ニューロンのミエリン鞘が損傷される神経系の疾患である。このような損傷は、罹患神経のシグナル伝導を低下させ、それにより、損傷に関与する神経に応じて、感覚、運動、認知およびその他の機能の欠損を生じさせる。
このような脱髄性疾患、障害、または状態の非限定的例には、多発性硬化症(MS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、中枢神経系(CNS)神経障害、橋中心髄鞘崩壊症(CPM)、脊髄症、白質脳症および白質ジストロフィー(全てCNSを冒す)、ならびにギラン・バレー症候群(GBS)、末梢神経障害およびシャルコー・マリー・トゥース(CMT)病(全て末梢神経系(PNS)を冒す)が挙げられる。
MSは、炎症性疾患で、脳および脊髄の軸索の周りの脂肪質ミエリン鞘が損傷を受け、脱髄および瘢痕形成ならびに広範囲の徴候および症状に繋がる。MSは、脳および脊髄の白質に対する免疫応答を誘導するT細胞が関与する。MSは、ミエリンの疾患であり、元来、神経細胞の疾患ではない。ミエリンは神経系全体にわたり発生するので、病変は複数の部位で発生する可能性があり、通常、複数の部位に存在する。しかし、疾患は中枢神経系ミエリンのみを冒し、末梢神経のミエリンを冒さない。従って、症状はCNS特異的障害である。
ADEMは、脳の免疫媒介疾患である。これは、ウイルス、細菌または寄生虫感染後に発生する、あるいは、自然発生的に出現する。ADEMは、CNSの神経を攻撃し、それらのミエリン絶縁体に損傷を与え、これは、結果として、白質を破壊する。それは、自己免疫性脱髄を伴うので、MSに類似しており、MS領域疾患の一部と見なされる。ADEMは脳および脊髄中、特に白質中に複数の炎症性病変を生成する。ADEMは、ミエリン反応性T細胞により分泌されるサイトカインを必要とする。
CNS神経障害および末梢神経障害を含む神経障害は、一群の罹患神経に対する損傷または神経を冒す疾患であり、罹患神経の種類に応じて、感覚、運動、腺または器官機能、またはその他の健康状態を低下させ得る。共通の原因には、糖尿病またはハンセン病などの全身性疾患;ビタミン欠乏;薬物、例えば、化学療法剤、一般に処方される抗生物質;外傷;虚血;放射線療法;過剰な飲酒;免疫系疾患;セリアック病;またはウイルス感染が挙げられる。神経障害は急性であり得るまたは急性である。急性神経障害は緊急の診断を要する。筋肉を制御する運動神経、感覚神経、または心拍数、体温、および呼吸などの自律機能を制御する自律神経が罹患し得る。2つ以上の神経が同時に罹患し得る。
CPMは、脳幹、より正確には、主に医原性病因の脳橋と呼ばれる領域における神経細胞のミエリン鞘の重度損傷により引き起こされる神経疾患である。これは、急性麻痺、嚥下障害、および構音障害、およびその他の神経学的症状を特徴とする。
脊髄症は、脊髄に関連する何らかの神経障害を言う。外傷による場合、それは一般に、脊髄損傷(SCI)として知られ、炎症性の場合、それは一般に、脊髄炎として知られ、および性質上血管性である場合、それは血管性脊髄症として知られる。ヒトで最もよくある形態の脊髄症の頸椎症性脊髄症(CSM)は、頸部脊椎の関節炎変化(脊椎症)により引き起こされ、これは、脊柱管の狭小化(脊柱管狭窄)が起こり、最終的に脊髄の圧迫をもたらす。
白質脳症は、白質ジストロフィー様疾患の広義語である。それは、分子的原因が既知であるか否かにかかわらず、全ての脳白質疾患に適用される。白質脳症は、具体的には、進行性多巣性白質脳症、中毒性白質脳症、白質消失病、神経軸索スフェロイドを伴う白質脳症、可逆性後白質脳症症候群、皮質下嚢胞を伴う大頭型白質ジストロフィーを意味する。
白質ジストロフィーは、脳内の白質の変性を特徴とする一群の障害の1つである。白質ジストロフィーは、神経線維の周りの絶縁体として機能する脂肪被覆である、ミエリン鞘の不完全な成長または発生が原因である。白質に損傷が発生すると、免疫応答が、ミエリンの消失と共に、CNS中で炎症をもたらし得る。白質ジストロフィーは、運動機能、筋肉剛性の低下、および最終的に視力および聴力の低下を含む特定の症状を特徴とする。特定の種類の白質ジストロフィーには、副腎脊髄ニューロパチー、アレキサンダー病、脳腱黄色腫症、遺伝性CNS脱髄性疾患、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー、ペリツェウス・メルツバッハ病、カナバン病、白質消失病、副腎白質ジストロフィーおよびレフスム病が挙げられる。
ランドリー麻痺またはGuillan−Barre−Strohl症候群(ギラン・バレー症候群)とも呼ばれるGBSは、PNSを冒す急性多発性神経障害である。GBSでは、免疫細胞がミエリン鞘(神経線維を覆う脂肪物質)を攻撃する。上行性麻酔は、一般的な症状である。GBSは、感染により誘発された異常なT細胞応答を伴う免疫媒介疾患であると考えられている。おそらく、細胞性および体液性免疫機序がその発生に関与しているのであろう。ほとんどの患者は、GBSの発症の数週間前の感染性疾病を報告している。多くの特定された感染病原体が、GM1およびGD1bなどの特定のガングリオシドおよび糖脂質と交差反応する抗体の産生を誘導し、これが末梢神経系のミエリン全体にわたり分配されると考えられている。
CMTは、身体の種々の部分にわたる筋組織および触覚の進行性消失を特徴とする一群の様々な末梢神経系の遺伝性障害である、遺伝性運動感覚ニューロパシーの1つである。CMTは、以前には、筋ジストロフィーのサブタイプとして分類されていた。
神経障害では、ニューロンならびに乏突起膠細胞およびシュワン細胞などのグリア細胞の分化の消失が疾患進行の第1の段階の1つである。一般に、この障害では、その後、このようなニューロンおよびグリア細胞の細胞死が進行する。
したがって、神経細胞およびグリア細胞の分化を促進できる薬物が、神経疾患、障害、または状態を罹患している患者にとって有益であろう。このような分化誘導薬物は、神経保護性であり得、例えば、神経疾患、障害、または状態の治療に有用であり得る。
本明細書で提示される実験データは、実施形態のデキストラン硫酸が、ニューロンおよびグリア細胞の分化を誘導できることを示す。このデキストラン硫酸の効果は、皮質ニューロンおよび運動ニューロンの両方に対し認められ、また、マウスおよびヒト起源の両方由来のニューロンに対しても認められる。それに対応して、デキストラン硫酸は、グリア細胞の1種を構成するシュワン細胞の分化を誘導できる。
実施形態のデキストラン硫酸はさらに、CNSの炎症性脱髄性疾患インビボモデルで好ましい効果を示した。このモデルは、現在最も広く受け入れられているMSおよびADEMの動物モデルである。
実施形態のデキストラン硫酸によるニューロンおよびグリア細胞の細胞分化の誘導に関するこれらの結果は、デキストラン硫酸(M=5,000Da)が前駆細胞の分化を誘導せず、むしろ下方制御または抑制すると述べている米国特許出願公開第2011/0014701号を考慮すると、極めて意外であった。従って、実施形態のデキストラン硫酸の細胞分化能力は、細胞型特異的であり、それにより、潜在的にニューロンおよびグリア細胞に限定され得ると思われる。先行技術データは、デキストラン硫酸が実際に、上述の米国特許出願における前駆細胞により示されている、他の細胞型に対しては逆の効果を有することを示している。
神経細胞とも呼ばれるニューロンは、電気的および化学的シグナルを介して情報を処理および伝達する電気的に興奮性の細胞である。ニューロン間のこれらのシグナルは、シナプスの他の細胞との特殊結合を経由して発生する。ニューロンは、相互に結合してニューラルネットワークを形成できる。ニューロンは、CNSの脳および脊髄のコア成分であり、PNSの神経節のコア成分である。特殊なタイプのニューロンには、後でシグナルを脊髄および脳に送る感覚器官の細胞に影響を与える、接触、音、光およびその他の全ての刺激に応答する感覚ニューロン;脳および脊髄からシグナルを受信し、筋肉収縮を生じ、腺出力に影響を与える運動ニューロン;およびニューロンをニューラルネットワーク中の同じ脳または脊髄領域内の他のニューロンに結合させる介在ニューロンが含まれる。
典型的なニューロンは、細胞体(神経細胞体)、樹状突起、および軸索からなる。用語の神経突起は、特にその未分化段階の、樹状突起または軸索を表現するために使用される。樹状突起は、細胞体から生じる細い構造体で、多くの場合数百マイクロメートル伸び、複数回分岐して、複雑な「樹状突起樹」を生じる。軸索はまた、ミエリン化されると、神経線維とも呼ばれ、軸索小丘と呼ばれる部位で細胞体から生じ、一定距離伸びる特殊な細胞伸長部である。神経線維は、多くの場合、線維束に束ねられ、PNSでは、線維の束が神経を構成する。大部分のシナプスでは、シグナルが1つのニューロンの軸索から別の樹状突起に送られる。
ニューロンは、細胞分裂を受けない。ほとんどの場合、ニューロンは、特殊なタイプの幹細胞により生成される。星状膠細胞は、幹細胞に特徴的な多能性のためにニューロンに変わることが同様に観察された星形グリア細胞である。ヒトでは、ニューロン新生は成人期の間ほとんど停止されるが、2つの脳領域の海馬および嗅球では、実質的な数の新規ニューロンの生成の強力なエビデンスが存在する。
実施形態のデキストラン硫酸は、β−チューブリン中、特にβIII−チューブリン中でニューロンの発現の増加を誘導できる。
βIII−チューブリンはまた、クラスIIIβ−チューブリンとも呼ばれ、もっぱらニューロン中で発現される微小管要素である。微小管細胞骨格は、ニューロンの発生と生存に不可欠である。微小管は、チューブリンヘテロダイマーから構築され、これは、異なるチューブリンアイソタイプを含む。微小管は分極され、ニューロン中でそれらの「マイナス末端」は通常、細胞体中の中心体の方を向いており、一方、それらの「プラス末端」は軸索の先端に向かって突き出ている。微小管の極性は、分化および成体ニューロンの両方で重要な機能を果たす。分化の間、チューブリンは細胞中で増加し、分化しているニューロンを、シナプス後標的に向けた方向性成長を維持するために、ガイダンス合図に応じて成長している軸索を延長または後退させる微小管を構築する。それらの活性は、細胞遊走、軸索発生およびガイダンスにとって不可欠であり、成体ニューロンの機能および生存能力にとっても必要である(Bioscience Reports(2010),30:319−330)。
ニューロン中のβIII−チューブリンの増加した発現は、実施形態のデキストラン硫酸がこれらの細胞の分化因子として機能することを示す。
ある実施形態では、ニューロンは、皮質ニューロンおよび運動ニューロンからなる群から選択される。
運動ニューロンは、細胞体が脊髄中に位置し、軸索が脊髄の外側に突き出て、直接的にまたは間接的にエフェクター器官、主に筋肉および腺を制御する神経細胞である。運動ニューロンの軸索は、脊髄からエフェクターシグナルを運び、効果を生成する遠心性神経線維である。
運動ニューロン疾患(MND)は、選択的に運動ニューロンに影響を与える神経障害である。これらのMNDは、ALS、HSP、PLS、PMA、PBP、仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症(SMA)およびポリオ後症候群(PPS)である。それらは、本来、神経変性的であり、身体障害を漸増させ、最終的に死を引き起こす。
遺伝性痙性対麻痺、家族性痙性対麻痺、French settlement disease、またはストランペル−ロレイン病とも呼ばれるHSPは、主な特徴が進行性歩行障害である一群の遺伝性疾患である。この疾患は、進行性硬直(痙直)および下肢の収縮を呈する。この症状は、脊髄中の長い軸索の機能障害の結果である。罹患細胞は、一次運動ニューロンであり、従って、疾患は上位運動ニューロン疾患である。HSPは、タンパク質、構造タンパク質、タンパク質を維持している細胞、脂質、および他の物質の細胞を通る輸送の障害により引き起こされる。
PLSは、随意筋中の進行性筋力低下を特徴とする希な神経筋疾患である。PLSは、上位運動ニューロンのみを冒す。
デュシェンヌ−アラン型筋萎縮症としても知られる、PMAは、下位運動ニューロンのみを冒すMNDの希なサブタイプである。
PBPは、延髄筋肉の神経を攻撃する疾患である。これらの障害は、大脳皮質、脊髄、脳幹、および錐体路中の運動ニューロンの変性を特徴とする。これは特に、舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、および舌下神経(XII)を含む。
仮性球麻痺は、咀嚼および発声などの顔面運動の制御不能を特徴とする病状であり、種々の神経障害により引き起こされる。咀嚼および嚥下の困難を経験した患者は、舌および延髄領域の反射および痙直が増大し、不明瞭発語を示し、時には無制御感情的爆発も示す。この状態は通常、脳幹のニューロン、特に皮質延髄路(脳神経運動核への上位運動ニューロン路)への損傷、両側性の変性により引き起こされる。
常染色体劣性遺伝近位の脊髄性筋萎縮症および5q脊髄性筋萎縮症とも呼ばれるSMAは、運動ニューロン消失および進行性筋消耗を特徴とし、多くの場合、早期死亡に繋がる希な神経筋障害である。障害は、全ての真核細胞で広く発現し、運動ニューロンの生存に必要なタンパク質である、SMNをコードするSMN1遺伝子の遺伝的欠陥により引き起こされる。より低レベルのこのタンパク質は、脊髄の前角の神経細胞の機能の消失および続いて生じる組織全体にわたる骨格筋萎縮を生じる。
ポリオ後症候群またはポリオ後遺症とも呼ばれる、PPSは、以前の小児麻痺(神経系のウイルス感染)の最初の感染による急性攻撃から生存した人の凡そ25〜40%を冒す状態である。症状には、急性または増大した筋力低下、筋肉疼痛、および疲労が含まれる。同じ症状は、非麻痺性ポリオ(NPP)感染後数年で発症する場合もある。PPSを起こす正確な機序は未知である。その多くの特徴が、慢性疲労症候群と共通するが、その障害と異なり、進行する傾向があり、筋肉強度の低下を起こす可能性がある。
皮質ニューロンは、脳の大脳皮質の細胞である。思考、知覚作用、および随意運動を可能とするほとんどの脳の複合体活性は、皮質ニューロンの活性に関連付けられている。
皮質ニューロン消失は、ADなどのいくつかの神経変性疾患で発生する。
神経膠細胞とも呼ばれることがある、グリア細胞は、恒常性を維持し、ミエリンを形成し、CNSおよびPNS中のニューロンの支持および保護を提供する非ニューロン細胞である。グリア細胞は、次記の4種の重要な機能を有する:ニューロンを取り囲みそれらを所定位置で保持すること;栄養素および酸素をニューロンに供給すること;相互からニューロンを絶縁し、病原体を破壊すること;および死んだニューロンを除去すること。
CNSまたはPNS中に存在する多くのタイプのグリア細胞がある。CNS中に存在するグリア細胞型には、星状膠細胞、乏突起膠細胞、上衣細胞、放射状グリアおよびミクログリアが挙げられる。PNS中に存在するグリア細胞型には、シュワン細胞、衛星細胞および腸管グリア細胞が挙げられる。
アストログリアとも呼ばれる星状膠細胞は、CNS中の最も豊富なタイプのマクログリア細胞である。星状膠細胞は、ニューロンをそれらの血液供給路に固定する多数の突起部を有する。それらは、過剰イオンを除去し、シナプス伝達中に放出された神経伝達物質を再利用することにより、ニューロンの外部化学的環境を調節する。星状膠細胞は、代謝物が血管作用性であるアラキドン酸などの物質を生成することにより、血管収縮および血管拡張を調節し得る。
乏突起膠細胞は、CNS中で軸索をそれらの細胞膜でコートする細胞であり、ミエリンと呼ばれる特殊な膜分化を形成し、いわゆるミエリン鞘を生成する。ミエリン鞘は、電気シグナルをより効率的に伝達することを可能とする、軸索に対する絶縁を提供する。
脳室上衣細胞とも呼ばれる上衣細胞は、脊髄および脳室系を覆う。これらの細胞は、脳脊髄液(CSF)の生成と分泌に関与し、それらの繊毛を撹拌し、CSFの循環を支援し、血液−CSF関門を構成する。それらはまた、神経の幹細胞として機能するとも考えられている。
放射状グリア細胞は、ニューロン新生の開始後、神経上皮細胞から生ずる。それらの分化能力は、神経上皮細胞と比べて、制限がより多い。神経系の発生では、放射状グリアは、神経前駆細胞および新生ニューロンがその上を移動する骨格の両方として機能する。成熟脳では、小脳および網膜が特徴的放射状グリア細胞を保持する。小脳では、これらはバーグマングリアであり、これは、シナプス可塑性を調節する。網膜では、放射状ミュラー細胞は、主要なグリア細胞であり、ニューロンとの双方向性通信に関与する。
ミクログリアは、脳および脊髄全体に位置する一種の神経膠細胞である。常在性マクロファージ細胞として、それらはCNS中で最初の、主要な形態の能動免疫防御として機能する。ミクログリアは、全体脳維持で重要な細胞であり、それらはCNSを掃除して、プラーク、損傷または不要ニューロンシナプス、ならびに感染病原体を常に除去している。
シュワン細胞は機能的には乏突起膠細胞に類似であるが、CNS中ではなく、PNS中に存在している。従って、シュワン細胞は、PNS中の軸索に対しミエリン形成を可能にする。それらはまた、食作用活性を有し、細胞残屑を除去して、PNSニューロンの再生を可能とする。
サテライトグリア細胞は、感覚性、交感神経、および副交感神経神経節中のニューロンを取り囲む小細胞である。これらの細胞は、外部化学的環境を調節するのを支援する。それらは、損傷および炎症に対し極めて感受性であり、慢性疼痛などの病理学的状態の一因となるように見える。
腸管グリア細胞は、消化器系の内因性神経節中に認められる。それらは、腸管系で多くの役割を有し、一部は、恒常性および筋性消化過程に関連していると考えられている。
実施形態のデキストラン硫酸は、グリア細胞中のミエリン塩基性タンパク質(MBP)発現をさらに増大させる。
MBPは、神経系の神経のミエリン形成過程で重要なタンパク質であり、乏突起膠細胞およびシュワン細胞のミエリン鞘の主要な構成成分である。MBPは、ミエリンの適切な構造体を維持し、ミエリン膜中の脂質と相互作用する。MBPへの関心は、脱髄性疾患における、特にMSにおけるその役割に重点が置かれている。
軸索ミエリン形成は、脊椎動物CNSの正常な機能動作には、不可欠な過程である。PNSでは、ミエリンはシュワン細胞の細胞膜の分化により形成される。神経損傷後に起こる軸索接触の消失は、ミエリン遺伝子発現の下方制御に繋がる(Progress in Neurobiology(2000),61:267−304)。シュワン細胞の分化と損傷末梢神経中でのMBPの増加は、損傷後の再生にとって不可欠である(Frontiers in Neuroscience(2015),9:Article 298,1−13)。
グリア細胞中のMBPの発現の増加は、実施形態のデキストラン硫酸がこれらの細胞の分化因子として機能することを示す(Physiological Reviews(2001),81(2):871−927,Journal of Neurochemistry(2013),125(3):334−361)。
ある実施形態では、グリア細胞は、有髄化細胞、すなわち、隣接するニューロンの1つまたは複数の軸索の周りに巻き付けられたミエリン鞘を形成する細胞である。従って、特定の実施形態では、グリア細胞は、シュワン細胞および乏突起膠細胞からなる群から選択される。
実施形態のデキストラン硫酸は、CNSおよびPNSの細胞の分化を誘導するだけでなく、神経疾患、障害および状態にも有益である。本明細書で提示された実験データは、実施形態のデキストラン硫酸が、外傷性脳損傷(TBI)などの神経疾患、障害および状態で認められる代謝変化との闘いで好ましい効果を有することを示す。従って、多くの神経疾患、障害および状態は、細胞エネルギー状態およびミトコンドリアの機能に関連する種々の代謝物の調節を特徴とする。さらに、アミノ酸代謝における調節は、多くの神経疾患、障害および状態で認められる。これらの代謝変化は、酵素活性ならびに病理学的組織応答を示す遺伝子およびタンパク質発現の変化に影響を与える初期細胞シグナルである。実施形態のデキストラン硫酸は、損傷組織中の細胞代謝をよい方向に調節するように機能し、それにより、有害転帰の一因となるその後の酵素活性ならびに遺伝子およびタンパク質発現のいずれかの調節を阻害するかまたは少なくとも抑制する。
より詳細には、実施形態のデキストラン硫酸は、グルタミン酸興奮毒性のレベルを低減させることができ、代謝恒常性の有害な変化を回復し、それにより、ミトコンドリアの機能を効率的に保護し、神経保護効果を提供する。実施形態のデキストラン硫酸は、エネルギー代謝およびミトコンドリア機能に関連する種々の化合物に対しよい影響を与えた。特に興味深いのは、ミトコンドリアのリン酸化能力の測定値としてのアデニンヌクレオチドの濃度およびATP/ADP比である。
実施形態のデキストラン硫酸はまた、酸化ストレスの有意な減少に繋がった。特に、主要な水溶性脳抗酸化剤としてのアスコルビン酸のレベル、および主要な細胞内スルフヒドリル基(SH)ドナーとしてのグルタチオン(GSH)が有意に改善された。加えて、膜リン脂質の多価不飽和脂肪酸の最終生成物としての、および、従って、活性酸素種(ROS)媒介脂質過酸化のマーカーとして用いられるマロンジアルデヒド(MDA)レベルは、デキストラン硫酸投与後、有意な減少を示した。デキストラン硫酸治療後に、上記酸化ストレスマーカーは全て、抗酸化剤状態の回復の改善を示した。
デキストラン硫酸投与はまた、急性および慢性期両方の神経疾患、障害および状態における硝酸塩濃度を有意に低減した。したがって、実施形態のデキストラン硫酸は、NO媒介ニトロソ化ストレスに対し好ましい効果を有する。
N−アセチルアスパラギン酸(NAA)は、脳特異的代謝物であり、TBIなどの神経疾患、障害および状態後の悪化または回復をモニターするための有用な生化学的マーカーである。NAAは、アスパラギン酸およびアセチル−CoAからアスパラギン酸N−アセチルトランスフェラーゼによりニューロンで合成される。実施形態のデキストラン硫酸は、NAAレベルの有意な改善を示した。
本明細書で提示の実験データはそれにより、実施形態のデキストラン硫酸が、疾患および損傷神経系中の酸化ストレスおよび/またはグルタミン酸興奮毒性により発生する細胞消失に対して保護できることを示す。細胞代謝を保護することにより、実施形態のデキストラン硫酸は、脳卒中、ALS、MND、MS、認知症、TBI、SCI、網膜損傷、などの虚血性、酸化性または外傷性損傷により細胞が進行性に失われる多くの変性状態の有用な保護治療薬であり得る。これらの神経疾患、障害および状態は、全ての状態で発生するニューロンの神経機能の死および損傷の観点から共通の関連性を有する。このニューロン死の原因には共通性がある。特に関連性があるのは、瀕死ニューロンから放出される高レベルの神経伝達物質グルタミン酸が原因の毒性である。実施形態のデキストラン硫酸は、グリア細胞中の放出されたグルタミン酸の除去作用を誘導し、それにより、神経細胞間隙での毒性量のグルタミン酸の蓄積を防止する。これは、ニューロンが瀕死状態にある、急性および慢性両方の全ての神経変性疾患、障害および状態で有用であろう。
興奮毒性は、神経細胞が神経伝達物質、特にグルタミン酸による過剰の刺激により損傷を受けるまたは死滅する病理過程である。これは、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体およびα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体などの興奮性神経伝達物質グルタミン酸に対する受容体が、グルタミン酸作動性ストームによりまたはニューロンが損傷を受けるか死に、それらのグルタミン酸含量を放出する際に過剰活性化される場合に起こる。
興奮毒性は、SCI、脳卒中、TBI、難聴(ノイズへの過剰暴露または聴器毒性による)、およびMS、ALS、PD、アルコール中毒またはアルコール離脱および特に、極めて急速なベンゾジアゼピン離脱などのCNSの神経変性疾患、ならびにHSにも関与し得る。ニューロン周辺で過剰のグルタミン酸濃度を生じる他の一般的な状態は、低血糖症である。
正常な状態中は、グルタミン酸濃度は、シナプス間隙中で1mMまで増大し得、これは、数ミリ秒の経過で急速に低下する。シナプス間隙周辺のグルタミン酸濃度が低減できない、または高レベルに到達する場合、ニューロンは、アポトーシスと呼ばれる過程によりそれ自身を殺す。この病理学的現象は、TBI、およびSCIなどの脳損傷後にも発生し得る。損傷の数分内に、病変部位中の損傷神経細胞がグルタミン酸を細胞外間隙に流出させ、そこで、グルタミン酸はシナプス前のグルタミン酸受容体を刺激し、さらなるグルタミン酸の放出を高める。脳外傷または脳卒中は、虚血を引き起こし得、その場合、血流が不適切なレベルまで低下する。虚血に続いて、細胞外液中でグルタミン酸の蓄積が起こり、細胞死を引き起こし、これは酸素およびグルコースの欠乏により悪化する。虚血および関連する興奮毒性から生じる生化学的カスケードは、虚血性カスケードと呼ばれる。虚血およびグルタミン酸受容体活性化から生じたイベントが原因で、脳損傷の患者で、脳の代謝率、酸素およびグルコースの必要性を下げるために、およびグルタミン酸を積極的に除去するのに使用されるエネルギーを節約するために、深い化学的昏睡が誘導される場合がある。
さらに、増大した細胞外グルタミン酸レベルは、ミエリン鞘および乏突起膠細胞上のCa2+浸透性N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体の活性に繋がり、Ca2+流入およびそれに続く興奮毒性が生じやすい乏突起膠細胞を残す。サイトゾル中での過剰カルシウムの有害な結果の1つは、切断型カスパーゼプロセシングによるアポトーシスの開始である。サイトゾル中での過剰カルシウムの別の有害な結果は、ミトコンドリア透過性遷移孔(オルガネラが過剰なカルシウムを吸収する場合に開口するミトコンドリア膜中の孔)の開口である。孔の開口により、ミトコンドリアが膨張し、活性酸素種および種々のタンパク質を放出させ、アポトーシスにつながり得る。孔はまた、ミトコンドリアにさらに多くのカルシウムを放出させ得る。さらに、アデノシン三リン酸(ATP)の産生が停止され、ATPシンターゼが、ATPの産生ではなく、実際にATPの加水分解を始め得る。
脳外傷から生じた不十分なATP産生により、特定のイオンの電気化学的勾配が除去され得る。グルタミン酸トランスポーターは、グルタミン酸を細胞外間隙から除去するために、これらのイオン勾配の維持を必要とする。イオン勾配の消失は、グルタミン酸取り込みの停止のみでなく、トランスポーターの逆転も生じる。ニューロンおよび星状膠細胞上のNaグルタミン酸トランスポーターは、それらのグルタミン酸輸送を逆転させ、興奮毒性を誘導できる濃度でグルタミン酸の分泌を開始する。これは、グルタミン酸の蓄積およびグルタミン酸受容体のさらなる有害な活性化をもたらす。
分子レベルでは、カルシウム流入は、興奮毒性により誘導されるアポトーシスに関与する唯一の因子ではない。近年、グルタミン酸曝露または低酸素性/虚血状態の両方に誘発されて、シナプス外のNMDA受容体活性化によりcAMP応答エレメント結合(CREB)タンパク質遮断が活性化され、これが次に、ミトコンドリア膜電位の消失およびアポトーシスを引き起こすことが明らかになっている。
従って、毒性レベルのグルタミン酸の蓄積を防止または少なくとも抑制するための、グリア細胞中での実施形態のデキストラン硫酸によるグルタミン酸トランスポーターの活性化は、グルタミン酸の興奮毒性から効果的に周辺ニューロンを保護することになる。その結果、実施形態のデキストラン硫酸は、これを用いない場合にこのグルタミン酸興奮毒性の結果として起こる損傷および細胞死からニューロンを保護する。
また、酸素/エネルギー供給の変化に特に感受性が高いCNSおよびPNS、および脳を含む任意の組織は損傷または罹患すると、細胞へのエネルギー供給が損なわれる。その結果、CNS、PNSまたは脳などの組織中の細胞は、効率的に機能できない。したがって、実施形態のデキストラン硫酸による酸化ストレスの低減、すなわち、ミトコンドリアのエネルギー供給の保護は、生存細胞がより効率的に機能することを可能とし、さらに、損なわれたニューロンをアポトーシスによる死から保護する。
従って、実施形態のデキストラン硫酸は、重度TBI(sTBI)などの脳損傷があるしている対象の極めて不均衡なミトコンドリア関連エネルギー代謝の回復に効果的であり、三リン酸プリンおよびピリミジンヌクレオチドの濃度に対し好ましい効果があった。特に、ATPレベルは、対照である健康な対象の値より16%だけ低く、一方、未治療sTBI対象では35%の低下が認められた。注意すべきは、デキストラン硫酸で治療したsTBI対象中のNAA濃度は、対照である健康な対象の値より16%だけ低く、一方、sTBI対象ではこの化合物の48%低い値が認められた。この知見は、再度、NAAの恒常性と適切なミトコンドリアのエネルギー代謝との間の厳密な関連を強く確証し、ミトコンドリアの機能動作に対し、好ましい方向に作用できる薬理学的介入の重要性を強調するものである。
デキストラン硫酸投与により生成された脳代謝の全般的回復はまた、ニコチンコエンザイムおよび遊離CoA−SHおよびCoA−SH誘導体の代謝を伴った。これは、デキストラン硫酸治療対象は、sTBIに罹患しているにもかかわらず、正確な酸化還元反応を補償し、TCAサイクルの良好な機能動作を可能とする準正常コエンザイムを有していたことを意味する。
さらに、上述の脳代謝の改善は、他の顕著なデキストラン硫酸効果、すなわち、グルタミン酸興奮毒性の消滅の一因であった。さらに、デキストラン硫酸は、硫黄含有アミノ酸に影響を与えた。おそらく、この効果は、S原子を含むデキストラン硫酸分子に関連する可能性がある。この原子のバイオアベイラビリティの増大は、これらのアミノ酸の生合成で純増加をもたらした。その内の1つの(MET)は、メチル化反応および所謂メチルサイクルで極めて重要である。
さらなる記録された好ましい効果は、デキストラン硫酸の投与を受けたsTBI対象における抗酸化剤の増加および酸化/ニトロソ化ストレス生化学的痕跡の減少であった。デキストラン硫酸の効果がsTBIの2日後よりもsTBIの7日後にさらに明らかになったことは、妥当なことである。これは、デキストラン硫酸投与による脳代謝の全般的回復は、一過性の現象ではなかったことを強く示唆する。
実施形態のデキストラン硫酸はさらに、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用で競合する親和性を有し、これは、AD、プリオン病またはアミロイドーシスを罹患している対象で有益な効果を有するであろう。
本明細書で提示される遺伝子発現データは、実施形態のデキストラン硫酸が、アポトーシスに対する保護;血管新生の誘導(HUVEC中で);細胞の増大した遊走および移動;増大した細胞生存率および生存;ならびに細胞分化の誘導に関して、シュワン細胞、ニューロンおよびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)中で一定の役割を有することを示す。
HUVEC細胞モデルからの結果は、実施形態のデキストラン硫酸は、細胞損傷に対し保護でき、脳卒中またはその他の虚血状態後などの損傷または患部組織中で新規血管の発生を促進することを示す。
重要な分子経路の分析は、デキストラン硫酸が、ミトコンドリアに対する酸化ストレス効果を低減し、シュワン細胞中の有害なグルタミン酸の取り込みを増大させたことを示した。その結果、遺伝子発現データにより、TBIの動物モデル中で認められた結果が確証された。特に興味深いのは、実施形態のデキストラン硫酸は、複合体IIIを阻害したという知見であった。複合体IIIの阻害は、次にミトコンドリアの酸化ストレスの低減に繋がる。さらに、実施形態のデキストラン硫酸はまた、カルモデュリン(CALM)(多官能性中間体カルシウム結合メッセンジャータンパク質);Gベータ−ガンマ複合体(Gβγ)(1つのGβと1つのGγサブユニットからなる、堅く結合したダイマーGタンパク質複合体);代謝型グルタミン酸受容体7(GRM7);およびCキナーゼ1と相互作用するタンパク質(PICK1)のタンパク質複合体の発現を誘導した。図19に模式的に示すように、このタンパク質複合体は、次に、シナプス前ニューロンからのグルタミン酸放出を抑制する。
シュワン細胞での結果は、実施形態のデキストラン硫酸が、疾患および損傷神経系中の酸化ストレスおよび/またはグルタミン酸興奮毒性により発生する細胞消失に対して保護できることを示し、これは、例えば、神経変性疾患およびTBIに該当する。
ニューロンからの結果は、実施形態のデキストラン硫酸が、アポトーシスの防止および抑制、アミロイドβおよびレビー小体病態ならびにミトコンドリアのフラグメント化および機能障害に対するその負の効果、およびその後の損傷の防止、ならびに阻害性脂肪酸酸化の抑制を行うことができることを示す。実施形態のデキストラン硫酸はまた、ミトコンドリア機能を改善し、Hおよび活性酸素種のミトコンドリアレベルを低減した。
デキストラン硫酸により調節された遺伝子の上流制御因子の分析は、実施形態のデキストラン硫酸が細胞上の既存の成長因子の効果を高めたことを示した。表12〜14に示すように、実施形態のデキストラン硫酸は、いくつかの成長因子の効果を、それらの活性化を高めることにより、またはそれらの阻害を減らすことにより、調節できた。これは、実施形態のデキストラン硫酸が、これらの成長因子の活性の増大または阻害の低減が患者に有益であり得る疾患、障害および状態に使用できる可能性があることを意味する。このような疾患、障害および状態の非限定的例には、ALS;脳卒中;SCI;うつおよび気分障害および双極性疾患などのその他の精神障害;および代謝障害が挙げられる。
仮説としてはは、デキストラン硫酸が成長因子分子に結合し、それらの受容体への結合を促進するということである。この仮説はまた、HUVEC中のデキストラン硫酸誘導差次的遺伝子発現(正常対照培地は既にヘパリンを含む)は、シュワン細胞中(正常対照培地はヘパリンを含まない)より相対的に少なかったという観察により裏付けられる。この作用機序はまた、成長因子が存在する場合には、TBIの急性段階でデキストラン硫酸が主として効果的であるが、初期の修復の試みが既に縮小されている場合に、もっと後の段階では効果が少ないのはなぜかを説明する。
従って、実施形態のデキストラン硫酸の少なくとも一部の治療効果は、デキストラン硫酸により増幅される既存の修復機序に依存する可能性がある。このような場合では、組織に十分な修復潜在能力がある場合、いずれの神経変性疾患、障害または状態においても、デキストラン硫酸は、疾患、障害または状態の初期段階で投与されることが一般に推奨される。
細胞代謝を保護することにより、実施形態のデキストラン硫酸は、虚血性、酸化性または外傷性損傷により細胞が進行的に失われる多くの変性状態の有用な保護治療薬であり得る。このような変性状態の非限定的例には、脳卒中、ALS、MS、認知症、TBI、SCI、網膜損傷、AD、などが例示される。実施形態のデキストラン硫酸は、残っている内因性修復機序を高めながら、損傷組織を支援して、一部の失われた機能を回復し得る。
従って、遺伝子発現データにより、デキストラン硫酸がニューロン生存、分化および最終的に修復を促進し得る場合、神経変性疾患、障害および状態のために、血行再建の促進、二次的組織損傷の低減、および修復促進による、損傷された状態のCNSおよびPNSにおける実施形態のデキストラン硫酸の潜在的治療有用性が確証される。
実施形態のデキストラン硫酸のさらなる興味深い効果は、細胞接着に影響を与えるということである。細胞接着は、ニューロンおよびシュワン細胞において主に影響を受け、実施形態のデキストラン硫酸が細胞剥離および移動を促進した。細胞接着に対する効果は、主として、メタロプロテイナーゼ型酵素の発現による。この知見は、実施形態のデキストラン硫酸の抗瘢痕形成効果も説明する。この結果は、組織リモデリングを支援し、損傷組織中の線維形成性(瘢痕形成)シグナルを遮断する分解酵素を活性化することにより、抗瘢痕形成効果が、実施形態のデキストラン硫酸により媒介されることを示唆する。
実施形態のデキストラン硫酸により活性化されるメタロプロテイナーゼ型酵素が瘢痕を形成する線維状分子を分解することにより具体的に作用する。表10〜11を参照されたい。これらの酵素は、損傷組織中に遊走する細胞により放出される。したがって、実施形態のデキストラン硫酸は、これらの細胞をより移動性にして、それらの細胞の接着性を低減することにより、より良好な修復のために、それらの細胞より良好に遊走させて、瘢痕分解酵素を放出させ、組織を再構築させる。
従って、実施形態のデキストラン硫酸の抗瘢痕形成作用は、線維増殖性(瘢痕形成)状態の治療への使用可能性を示す。これらには、例えば、緑内障、増殖性硝子体網膜症、脳脊髄外傷性傷害、脳のくも膜下出血、侵襲的外科手術、術後癒着、腱板損傷、火傷、再建手術、潰瘍状態(糖尿病)などが含まれる。その他の線維性疾患および状態には、肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、進行性塊状線維症および癌治療後の放射線誘発肺損傷などの肺の線維症;肝硬変および胆道閉鎖症などの肝臓の線維症;心房線維症、心内膜心筋線維症、陳旧性心筋梗塞などの心臓の線維症;グリア性瘢痕などの脳の線維症;膵炎;関節線維症;クローン病;デュピュイトラン拘縮;ケロイド;縦隔線維症;骨髄線維症;ペロニー病;腎性全身性線維症;後腹膜線維症;強皮症または全身性硬化症が挙げられる。
線維症はまた、腎臓、肺、肝臓、心臓、などの臓器移植に関連して、およびランゲルハンス島、肝細胞、インスリン産生細胞、幹細胞、前駆細胞などの細胞療法および細胞移植に関連して発生し得る。
興味深いことに、遺伝子発現データはまた、実施形態のデキストラン硫酸は、デコリンと呼ばれる天然の瘢痕低減分子の産生を活性化し、これは、線維芽細胞による瘢痕形成を刺激する成長因子を「後片付けする」により瘢痕作製をさらに阻止することを示す。
デコリンは、90〜140kDの平均分子量の糖タンパク質である。これは、小さいロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)ファミリーに属し、コンドロイチン硫酸またはデルマタン硫酸からなるグルコサミノグリカン(GAG)鎖を有するロイシン反復を含むタンパク質コアからなる。これは、デコリンI型コラーゲン結合領域を介して、I型コラーゲンフィブリルに結合する。
デコリンは、形質転換増殖因子ベータ1または2(TGFβ1/2)アンタゴニストとして作用し、瘢痕形成を低減する。報告は、急性瘢痕形成では、デコリンの主要な効果は、TGFβ1/2の中和による炎症性線維症の抑制を介した抗線維形成性であることを示している。デコリンはまた、コラーゲンに直接結合し、その機能の1つは、創傷治癒中にコラーゲンの組織化に対し影響を与えることである。
デコリンは、脳病変、水頭症、および慢性脊髄創傷のモデルで瘢痕形成の抑制に関して記載された。デコリンはまた、緑内障モデルの既存の線維柱帯網瘢痕の線維分解を誘導する。
まとめると、実施形態のデキストラン硫酸の抗瘢痕形成作用は、瘢痕形成が問題となっている全ての臨床状態の治療への使用可能性を示す。デキストラン硫酸は、新旧の瘢痕に有効に機能するはずである。これは、実施形態のデキストラン硫酸が、緑内障の眼中の線維柱帯網中の既発生瘢痕要素の分解を誘導できたことを示す実験データで確認される。デキストラン硫酸が線維症および有害な瘢痕形成を阻害または少なくとも抑制するのに使用できるのみではなく、既に確定した瘢痕も分解できるので、これは、実施形態のデキストラン硫酸の重要な利点である。これは、実施形態のデキストラン硫酸が、より良好な修復を行うために、瘢痕分解および組織リモデリングを可能とすることを意味する。
デキストラン硫酸は、複合組織ならびに疾患生物学および一般組織生物学をモデル化するヒト一次細胞ベースアッセイのパネルで評価された。アッセイからの結果は、炎症および創傷治癒生物学において、デキストラン硫酸が免疫活性化および/または免疫消散応答の調節に関与することを示す。
炎症性のマーカーの調節は、ALSなどの炎症性の成分を含む複数の慢性および急性炎症状態および疾患の治療におけるデキストラン硫酸の有用性を示す。
損傷後の最初に、自然/炎症促進性応答および後天性免疫応答免疫応答の選択成分が上昇制御され、外来性病原体に対し防御を維持し、損傷部位に存在する組織残屑を除去し、創傷応答に関連する組織リモデリング、細胞増殖および血管新生過程を組織化する。しかし、適切な創傷治癒を進行させるためには、この最初の炎症反応は、マトリックスの再建、再細胞化および組織リモデリングを可能とするように、調節または停止される必要がある。このような免疫消散活性は、デキストラン硫酸により誘導され、MMP−1、PAR−1およびuPARの活性化を含み、こうしなければ有害な線維症形成を生じたはずの神経外傷を含む外傷により損傷を受けた組織の治療に有用性を有する誘導免疫消散を示す。
実験データに示すデキストラン硫酸の炎症消散における効果は、デキストラン硫酸が自己免疫疾患、特に、中枢および/または末梢神経系に影響を与える自己免疫疾患の予防、治療または少なくとも抑制に有用であり得ることを示す。デキストラン硫酸による炎症消散は、線維形成を阻止する観点からも重要である。さらに、実験データから認められる炎症の消散およびミクログリア応答の抑制は、神経変性疾患、障害および状態においても重要である。
したがって、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体は、神経炎症および神経炎症状態の予防、治療または少なくとも抑制に有用であろう。このような神経炎症状態の例には、PD、ALS、MS、ADEM、脊髄炎およびGDSが挙げられる。
結論として、デキストラン硫酸は、外傷または疾患後の組織中に存在する炎症を正常化および消散させるように見え、それにより、これらの結果は、遺伝子アレイおよび動物研究で認められたデキストラン硫酸の効果と一致する。
一般に、神経系の機能は、神経細胞の数、神経細胞の健全なエネルギー代謝および神経細胞間の健全な結合に依存する。神経変性疾患および障害、ならびに神経変性を生ずる損傷は通常、異なる誘因および原因を有するが、全ては、同じ最終結果、すなわち、神経変性に繋がる。このような疾患、障害または損傷の機能的効果は、多くの場合、比較的大きな数の神経細胞が死んだ後にのみ認められるが、一方、疾患または障害の誘因は、症状が発生する数年前に存在し得る。
したがって、神経変性を治療または抑制するための新規手法が必要である。このような手法は、神経細胞の健全なエネルギー代謝および神経細胞間の健全な結合を含む神経系の実行可能な機能を強化することを含むべきである。また、ニューロン死に繋がる誘因を低減することにより、および誘因が存在する場合でも、さらなる病状を予防することにより、さらなる神経変性は防止または少なくとも減速されるべきである。加えて、神経系の再生能は強化されるべきである。
従って、神経変性および損傷の間、全てがニューロンの欠損の一因となるニューロンアポトーシスの複数の誘因が存在する。これらの誘因には、グルタミン酸興奮毒性に繋がる神経伝達物質の調節不全およびミトコンドリア機能障害に繋がる酸化ストレスが含まれ、それにより、ニューロンへのエネルギー供給が制限される。また、調節不全神経フィラメントは、運動性の低減およびニューロン生存に必要な因子の供給の制限に繋がる。さらなる誘因には、二次的細胞損傷および瘢痕形成を引き起こす炎症メディエータの放出が含まれる。さらに、血管障害は、神経変性の状態に一般的に見られる。
グルタミン酸はニューロン中で産生され、ニューロンにおける学習と記憶を支えるシグナル伝達機序に重要である。健全な脳組織中で放出された過剰グルタミン酸は、グリア細胞により除去され、毒性レベルになるのを防ぐ。デキストラン硫酸は、グリア細胞によるグルタミン酸取り込みの増大を誘導し、一方、ニューロン中でのグルタミン酸産生は、デキストラン硫酸により変化しなかった。従って、学習および記憶に必要なグルタミン酸は、デキストラン硫酸投与により影響を受けないが、一方、グルタミン酸の有害な毒性量は、グリア細胞により除去される。したがって、デキストラン硫酸は、グルタミン酸興奮毒性に繋がる神経伝達物質の調節不全を弱める。
神経変性の酸化ストレスは、ミトコンドリア機能障害に繋がり、それにより、ニューロンへのエネルギー供給が制限される。デキストラン硫酸は、アミロイドβおよびレビー小体を含む、酸化ストレスを誘導する分子の産生を低減し、酸化ストレスを少なくした。従って、デキストラン硫酸は、酸化ストレスにより誘導されたニューロン死を防止し、ニューロン中のミトコンドリア機能障害を防ぐ。これは、酸化ストレスの存在下で、デキストラン硫酸がミトコンドリア機能の正常化を促進し、このような酸化ストレスの存在下でのニューロンのエネルギー危機を防止することを意味する。したがって、デキストラン硫酸は、これをしなければミトコンドリア機能障害をもたらしたはずの神経変性の酸化ストレスを弱める。
神経変性におけるさらなる誘因は、調節不全神経フィラメントであり、これは、運動性の低減および生存因子の供給の制限に繋がる。デキストラン硫酸は、ニューロン中に存在する成長因子の効果を強化し、神経細胞の遊走および移動を増大させ、変性関連タンパク質生成物の産生を低減し、細胞分化を誘導する。したがって、デキストラン硫酸は、調節不全神経フィラメントを少なくする。
神経変性はまた、二次的細胞損傷および瘢痕形成を引き起こす炎症メディエータの放出を誘導する。このような瘢痕形成は、炎症性サイトカイン、特にTGF−βにより促進される。デキストラン硫酸は、メタロペプチダーゼ発現を誘導し、天然の抗瘢痕形成分子デコリンの発現を誘導し、TGF−β活性を抑制する。さらに、デキストラン硫酸は、過剰のTGF−βの存在下であっても、免疫細胞接着、細胞凝集、細胞活性化および線維症を抑制する。したがって、デキストラン硫酸は、炎症メディエータ放出に起因する瘢痕形成を含む負の効果を小さくする。デキストラン硫酸はまた、線維形成を抑制ならびに線維分解を活性化するように作用し、これらを合わせて、瘢痕の減少化あるいは瘢痕の分解においてデキストラン硫酸により認められる有益な効果をもたらす。
デキストラン硫酸は、内皮細胞のアポトーシス、誘導血管新生および増大した遊走および移動に対しHUVECを保護する。したがって、デキストラン硫酸は、神経変性疾患、障害または損傷により引き起こされた低酸素組織中の生理学的修復応答を強化するが、健常な血管系には影響を与えない。
したがって、実施形態の態様は、グリア細胞およびニューロンからなる群から選択された細胞の分化を誘導する方法に関する。方法は、細胞をデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容可能な誘導体と接触させて、細胞の分化を誘導することを含む。
ある実施形態では、方法はインビトロによる方法である。このような場合、細胞への接触は、細胞をインビトロでデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体と接触させることを含む。従って、細胞は、インビトロでデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体で処理され、それと相互作用する。
ある実施形態では、ニューロンは幹細胞から、すなわち、幹細胞のニューロンへの分化により得られ、このニューロンはデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体により処理され、さらに分化され得る。
このようなインビトロによる方法は、研究および診断において重要な用途があり得、この分野では、ニューロンおよび/またはグリア細胞はインビトロで培養される。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、このようなニューロンまたはグリア細胞培養物に、例えば、本明細書に記載のように、細胞の分化を誘導するために培地に添加され得る。
方法はまた、エクスビボによる方法であり得、この場合、ニューロンおよび/またはグリア細胞は対象から抽出され、対象の身体外で、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体と接触させることになる。
上記のインビトロまたはエクスビボによる方法で、分化を誘導するために、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体で処理したニューロンおよび/またはグリア細胞を対象に移植し得る。分化したニューロンおよび/またはグリア細胞は、その後、対象の身体中でそれらの目的の機能を発揮するはずである。この手法では、さらに本明細書で記載のように、対象は神経疾患を罹患していてよい。
代替的実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、神経疾患、障害または状態を罹患している対象などの対象に投与される。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体はその後、対象の身体内のニューロンおよび/またはグリア細胞と接触して細胞分化を誘導する。この実施形態では、方法はインビボによる方法である。
実施形態の別の態様は、グリア細胞およびニューロンからなる群から選択された細胞の分化の誘導における使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体に関する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、神経疾患、障害または状態を罹患している対象における細胞の分化の誘導に使用するためのものである。
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、神経変性疾患、障害または状態;脱髄性疾患、障害または状態;神経虚血性疾患、障害または状態;神経筋疾患、障害または状態;外傷性神経損傷および術後神経学的状態からなる群から選択される神経疾患、障害または状態を罹患している対象における細胞の分化の誘導に使用するためのものである。
ある実施形態では、対象は、AD、PD、HDおよびALSからなる群から選択される神経変性疾患、障害または状態を罹患しているヒト対象である。
ある実施形態では、対象は、MS、ADEM、CNS神経障害、CPM、脊髄症、白質脳症、白質ジストロフィー、GBS、末梢神経障害およびシャルコー・マリー・トゥース病からなる群から選択され、好ましくは、MS、ADEM、CPMおよびGBSからなる群から選択される脱髄性疾患、障害または状態を罹患しているヒト対象である。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は同様に、または、代わりに、他のタイプの神経疾患、障害、または状態における細胞の分化の誘導に使用され得る。このような他のタイプの神経疾患、障害、または状態の非限定的例には、脳卒中、脳虚血性状態および重症虚血肢(CLI)などの神経虚血性疾患;ALS、ボツリヌス症、先天性筋無力症候群、先天性ミオパチー、有痛性攣縮・線維束性収縮症候群、脳性麻痺、クレアチンキナーゼ上昇、線維束形成、封入体筋炎、ランバート・イートン症候群、ミトコンドリア筋症、運動ニューロン疾患、筋障害、筋ジストロフィー、重症筋無力症、筋強直性ジストロフィー、神経筋接合部障害、神経性筋強直症、末梢神経障害および多発性筋炎などの神経筋障害;外傷性神経損傷および術後神経学的状態が含まれる。
実施形態のさらなる態様は、対象のグルタミン酸興奮毒性の治療、抑制または予防における使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体に関する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、対象のニューロン中のグルタミン酸興奮毒性の治療、抑制または予防に効果的である。
特定の実施形態では、対象は、以前記載したように、ニューロンに対し細胞損傷および/または細胞死を引き起こす神経疾患、障害または状態を罹患している。
この態様はまた、グルタミン酸興奮毒性を治療、抑制または予防する方法にも関する。方法は、グルタミン酸興奮毒性を治療、抑制または予防するために、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体を対象に投与することを含む。
実施形態の他の態様は、神経疾患、障害または状態により誘導された酸化ストレスからニューロンの保護に使用するための、神経疾患、障害または状態により誘導されたニューロンの代謝恒常性の有害な変化の回復に使用するための、神経疾患、障害または状態に罹患している対象のニューロンのミトコンドリアの機能およびミトコンドリアのエネルギー代謝の保護に使用するためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体に関する。
それにより、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体を使用して、本明細書に記載の神経疾患、障害または状態を治療、抑制または予防できる。
また、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体を使用して、脳卒中、ALS、MND、MS、認知症、TBI、SCI、網膜損傷などのニューロンおよびCNS、またはPNSに対する虚血性、酸化性または外傷性損傷を治療、抑制または予防できる。
さらなる態様は、対象の線維症の治療、抑制または予防に使用するための、および特に、線維症または線維性疾患、障害または状態に罹患している対象の確定した瘢痕を分解することによるなどの、治療または抑制に使用するための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体に関する。
従って、抗瘢痕形成効果を有する実施形態のデキストラン硫酸は、創傷治療および組織リモデリングに効果的であり得、その場合、適切な創傷治癒を可能とするために、既に確定された瘢痕を分解する必要がある。実施形態のデキストラン硫酸のこの抗瘢痕形成効果は、例えば、デコリンの誘導を介した、細胞接着の抑制、細胞動員の誘導、メタロプロテアーゼおよび瘢痕分解酵素の誘導、およびTGFβ、特にTGFβ1の阻害を含む、以前に記載されたデキストラン硫酸の作用機序の結果であると考えられる。実施形態のデキストラン硫酸で得られたこの後者の効果は、さらに、デコリンの誘導を介した線維症および瘢痕形成の予防または少なくとも抑制に関連する。
別の態様は、対象の、特に、神経炎症を引き起こす神経疾患、障害または状態に罹患している対象の神経炎症の治療、抑制または予防に使用するための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体に関する。
実施形態の関連態様は、本明細書で開示の種々の医療用途、例えば、本明細書で開示のいずれかの疾患、障害、または状態の治療、抑制または予防用の薬物の製造のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の使用を規定する。
さらなる態様は、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の様々な使用のための上記種々の疾患、障害または状態を治療、抑制または予防する方法に関する。このような方法では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体を対象に投与して、本明細書で開示の疾患、障害または状態が治療、抑制または予防される。
以下では、言及されるデキストラン硫酸の(平均)分子量および硫黄含量は、任意のデキストラン硫酸の薬学的に許容可能な誘導体にも当てはまる。従って、デキストラン硫酸の薬学的に許容可能な誘導体は、好ましくは、以下の実施形態で考察の平均分子量および硫黄含量を有する。
実施形態の好ましい範囲外のデキストラン硫酸は、細胞または対象に対する低い効果および/または負の副作用を有すると考えられている。
例えば、10,000Da(10kDa)を超える分子量のデキストラン硫酸は通常、より低い分子量のデキストラン硫酸に比べて、より低い効果対副作用プロファイルを有する。これは、安全に対象に投与できるデキストラン硫酸の最大投与量が、より大きなデキストラン硫酸分子(>10,000Da)では、好ましい範囲内の平均分子量を有するデキストラン硫酸分子に比べて、より少ないことを意味する。結果として、デキストラン硫酸が対象にインビボで投与される予定の場合、このようなより大きなデキストラン硫酸分子は、臨床使用では、適切性がより劣る。
デキストラン硫酸は、硫酸化ポリサッカライド、特に硫酸化グルカン、すなわち、多くのグルコース分子から作製されたポリサッカライドである。本明細書で定義の平均(average)分子量は、個々の硫酸化ポリサッカライドが、この平均分子量(average)とは異なる分子量を有し得るが、平均(average)分子量は、硫酸化ポリサッカライドの平均(mean)分子量を表すことを示す。これは、この平均分子量の近傍にデキストラン硫酸試料の分子量の天然分布が存在すると思われることをさらに意味する。
デキストラン硫酸の平均分子量、またはより正確には、重量平均分子量(M)は通常、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、光散乱または粘度などの間接的な方法を用いて決定される。このような間接的方法を用いた平均分子量の決定は、カラムおよび溶出液、流量、較正手順、などの選択を含む多くの因子に依存する。
重量平均分子量(M):
Figure 2020533281
、例えば、光散乱およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法などの数値法ではなく、分子サイズに敏感な方法として典型的な方法である。正規分布が仮定される場合、Mの両側で同じ重量、すなわち、M未満の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量が、Mを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量に等しい。パラメーターNは、試料またはバッチ中のMの分子量を有するデキストラン硫酸分子の数を示す。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、10,000Da以下のMを有する。特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、2,000Da〜10,000Daの範囲内のMを有する。
別の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、2,500Da〜10,000Daの範囲内、好ましくは3,000Da〜10,000Daの範囲内のMを有する。特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、3,500Da〜9,500Daの範囲内、例えば、3,500Da〜8,000Daの範囲内のMを有する。
別の特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、4,500Da〜7,500Daの範囲内、例えば、4,500Da〜5,500Daの範囲内のMを有する。
従って、いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、10,000Da以下、9,500Da以下、9,000Da以下、8,500Da以下、8,000Da以下、7,500Da以下、7,000Da以下、6,500Da以下、6,000Da以下、または5,500Da以下のMを有する。
いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、1,000Da以上、1,500Da以上、2,000Da以上、2,500Da以上、3,000Da以上、3,500Da以上、4,000Da以上、または4,500Da以上のMを有する。これらの実施形態のいずれかは、いずれかの上記で提示のMの上限値を規定する実施形態と組み合わせ得、これらは、10,000Da以下の上限値と組み合わせ得る。
特定の実施形態では、上記で提示のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体のMは、平均Mであり、好ましくは、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱または粘度ベース法により決定される。
数平均分子量(M):
Figure 2020533281
、通常、末端基アッセイ、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法またはクロマトグラフィーにより得られる。正規分布が仮定される場合、同じ数のデキストラン硫酸分子をMの両側に認めることができ、すなわち、M未満の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数が、Mを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数に等しい。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、1,850〜3,500Daの範囲内のNMR分光法測定によるMを有する。
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、1,850Da〜2,500Daの範囲内、好ましくは1,850Da〜2,300Daの範囲内、例えば、1,850Da〜2,000Daの範囲内のNMR分光法測定によるMを有する。
従って、いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、3,500Da以下、3,250Da以下、3,000Da以下、2,750Da以下、2,500Da以下、2,250Da以下、または2,000Da以下のMを有する。さらに、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、1,850Da以上のMを有する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、2.5〜3.0の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する。
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、2.5〜2.8の範囲内、好ましくは2.6〜2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、4.0〜6.0の範囲内の平均グルコース単位数を有する。
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、4.5〜5.5の範囲、好ましくは5.0〜5.2の範囲内の平均グルコース単位数を有する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、1,850〜3,500Daの範囲内のNMR分光法測定によるM、2.5〜3.0の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有し、デキストラン硫酸のグルコース単位中のC2位置の平均硫酸化は少なくとも90%である。
ある実施形態では、デキストラン硫酸は、約5.1の平均グルコース単位数、2.6〜2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数および1,850Da〜2,000Daの範囲内のMを有する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸の薬学的に許容可能な誘導体は、デキストラン硫酸のナトリウム塩である。特定の実施形態では、デキストラン硫酸のナトリウム塩は、約5.1の平均グルコース単位数、2.6〜2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数および2,100Da〜2,300Daの範囲内のNa対イオンを含むMを有する。
ある実施形態では、デキストラン硫酸は、5.1の平均グルコース単位数、2.7のグルコース単位当たりの平均硫酸数、約1,900〜1,950DaのNMR分光法測定によるNa不含平均Mおよび約2,200〜2,250DaのNMR分光法測定によるNa含有平均Mを有する。
実施形態によるデキストラン硫酸は、デキストラン硫酸の薬学的に活性な誘導体などのデキストラン硫酸の薬学的に許容可能誘導体として提供できる。このような薬学的に許容可能な誘導体には、デキストラン硫酸の薬学的に許容可能な塩および薬学的に許容可能な溶媒和物、例えば、ナトリウムまたはカリウム塩が挙げられる。
対象は、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくは霊長類および特に、ヒト対象である。しかし、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、獣医学用途にも使用できる。動物対象の非限定的例には、霊長類、ネコ、イヌ、ブタ、ウマ、マウス、ラットが挙げられる。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、好ましくは、注射により、特に、静脈内(i.v.)注射、皮下(s.c.)注射または腹腔内(i.p.)注射により、好ましくはi.v.またはs.c.注射により対象に投与される。その他の使用できる非経口的投与経路には、筋肉内および関節腔内注射が挙げられる。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の注射は、代わりに、または追加して、例えば、目的とする効果が生ずるべき対象の身体の組織または器官またはその他の部位に直接行われる。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、代わりに、または追加して、くも膜下腔内に投与され得る。例えば、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、脳脊髄液(CSF)に到達するように、好適な水性担体または溶液と共に、脊柱管中、またはくも膜下腔中に注射できる。さらなる投与経路は、眼内投与である。
実施形態のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、好ましくは、選択された溶媒または賦形剤を用いて水性注射溶液として製剤化される。溶媒は、水性溶媒、特に緩衝液が好都合である。このような緩衝液の非限定的例は、クエン酸一水和物(CAM)緩衝液などのクエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液である。例えば、実施形態のデキストラン硫酸は、0.9%NaCl生理食塩水などの生理食塩水中に溶解でき、その後、任意選択で、75mMのCAMで緩衝化され、および水酸化ナトリウムを用いてpHが約5.9に調節される。また、非緩衝液が可能であり、これには、生理食塩水、すなわち、NaCl(水溶液)などの水性注射溶液が含まれる。さらに、緩衝液が望ましい場合、CAM以外の緩衝系も使用し得る。
実施形態は注射に限定されず、経口、経鼻的、口腔内、直腸内、経皮、経気管支、または局所を含む他の投与経路を代わりに使用できる。活性化合物のデキストラン硫酸はその後、特定の投与経路に基づいて選択される好適な賦形剤または担体を用いて製剤化される。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の好適な投与量範囲は、インビトロとインビボなどの用途、対象の大きさと体重、対象が治療される状態、およびその他の考慮すべきことによって変化し得る。ヒト対象に対しては特に、可能な投与量範囲は、1μg/kg〜100mg/kg体重、好ましくは10μg/kg〜50mg/kg体重であろう。
好ましい実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、0.05〜50mg/対象のkg体重、好ましくは0.05または0.1〜40mg/対象のkg体重、およびより好ましくは0.05または0.1〜30mg/対象のkg体重、または0.1〜25mg/対象のkg体重、または0.1〜15mg/対象のkg体重、または0.1〜10mg/対象のkg体重の範囲の投与量で投与されるように製剤化される。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の投与は、現在の疾患、障害または状態の治療または抑制に限定されず、代わりに、または追加して、予防のために使用可能である。換言すれば、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、神経傷害または損傷および/または線維症を生ずる可能性のある手術などの医療処置を受ける予定の対象に投与され得る。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体はまた、手術および/または線維症などの医療処置を受けようとしている対象の術後神経学的合併症および状態を予防、抑制または軽減するために使用され得る。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、単一ボーラス注入の形態などの単回で投与できる。このボーラス投与は、対象に極めて迅速に注入できるが、好都合にも、デキストラン硫酸溶液が5〜10分間などの数分間にわたり患者に注入されるように、一定の期間にわたり注入される。
あるいは、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、治療期間中に複数回、すなわち、少なくとも2回投与できる。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、順次に、同時に、またはデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体および少なくとも1つの他の活性薬剤を含む組成物の形態で、他の活性薬剤と共に投与できる。少なくとも1つの活性薬剤は、上記疾患、障害、または状態のいずれかに有用な任意の薬剤から選択できる。少なくとも1つの活性薬剤はまた、限定されないが、胚性幹細胞(ESC)および間葉系間質細胞(MSC)を含む幹細胞などの細胞療法の細胞の形態であり得る。
例えば、パーキンソン病、MS、ALS、およびアルツハイマー病におけるような、脳変性の動物モデルに対する幹細胞の効果について研究が行われている。さらに、TBIの症例での幹細胞の使用に関する臨床および動物試験が行われている。
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、実験データで示されるように、インビトロで細胞に対し有益な効果を有する。例えば、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、酸化ストレスから細胞を保護し、細胞の代謝恒常性を回復し、これは、細胞のエネルギー代謝に有益であり、細胞に対する分化因子として作用し得る。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体のこれらの有益な効果はまた、他のタイプの細胞療法にも使用され得、すなわち、必ずしも幹細胞療法に限定されない。このような他のタイプの細胞療法の非限定的例には、心筋細胞、肝臓細胞、結合組織細胞、視神経細胞、リンパ球、マクロファージ、グリア細胞、シュワン細胞、ニューロン、などが例示される。このような場合、細胞は、対象への投与の前にインビトロでデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体で処理され得る。代わりに、または追加して、細胞は、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体と共に投与され得る。また、組織および器官のインビトロまたはエクスビボでのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体による治療は、実施形態のデキストラン硫酸の好ましい効果、例えば、酸化ストレスに対する保護および代謝恒常性の回復から利益を受けるために有用であり得る。さらに、細胞、組織および器官の治療は、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の移植後に、追加してまたは代わりに、可能になり得る。
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体は、好都合にも、TBIなどの疾患、障害または状態を引き起こす損傷後の初期または急性状態で、または疾患、障害または状態の診断後の初期または急性状態で、対象に投与される。実施形態のデキストラン硫酸により認められるいくつかの有益な効果は、CNSおよびPNS中の内因性修復機序を高めるおよび増幅するその能力であるので、これは、特に好都合である。これは特に、神経疾患の治療または抑制に重要である。しかし、実施形態のデキストラン硫酸で認められた抗瘢痕形成効果は、デキストラン硫酸が既存の瘢痕組織および要素を分解するのにも効果があると思われることを示している。従って、線維症および線維性状態に対し、実施形態のデキストラン硫酸は後期または慢性状態の間にも治療効果があると思われる。
実施例
次の実施例では、低分子量デキストラン硫酸(LMW−DS)と本明細書で表記されるデキストラン硫酸のナトリウム塩を用いた(Tikomed AB,Sweden,WO 2016/076780)。
実施例1
調査の目的は、LMW−DSの細胞生存および分化タンパク質の発現に対する効果について、3種の細胞型:大脳皮質ニューロン、運動ニューロンおよびシュワン細胞を2種の濃度0.01および0.1mg/mlのLMW−DSを用いて評価することであった。
材料および方法
細胞培養
全ての細胞をその細胞型に好適する専用培地中で培養した。プラスチック器物を特定の接着性因子で処理して、細胞の接着性を向上させた。
Figure 2020533281
ニューロンをウェル当たり40,000細胞として、およびシュワン細胞をウェル当たり3,000細胞として培養した。細胞を24時間後に処理した。ウェル当たりの細胞の数は、成長表現型、増殖能力、などに依存した。
組織培養皿のコーティング
96ウェルプレートをウェル当たり100μlの50μg/mlのポリ−d−リシン(Sigma)の溶液をハンクス平衡塩類溶液(HBSS、Sigma)中に加え、暗所中、37℃で一晩インキュベートすることによりコートした。プレートを細胞培養水(Fisher)で洗浄し、暗所中30分間風乾した。ウェル当たり75μlの培地中15μg/mlのラミニン溶液(Sigma)を加えることによりプレートをコートし、暗所中、37℃で1時間インキュベートした。培地は次のように各細胞型専用とした:皮質ニューロン(Lonza)用としてPNGM(商標)(一次ニューロン基本培地、Lonza)、運動ニューロン(Lonza)用としてNeuroBlast(Lonza)およびシュワン細胞(ATCC)用として高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)。ラミニンは、細胞播種の直前にプレートから除去された。
皮質ニューロン
PNGMはPNGM Singlequots(Lonza)をPNBM培地に添加することにより作製し、37℃に予熱した。細胞を37℃の水浴中で2分以下の時間解凍し、15mlのチューブに静かに移した。5mlの培地を静かに滴加した。細胞懸濁液をチューブを注意深く2回反転させることにより混合した。Cellometer AUTO T4(Nexcelom Bioscience)を用いて細胞を計数した。40,000細胞/ウェルを予めコートした96ウェルプレートに播種した。細胞を5%CO下、37℃でインキュベートした。2時間のインキュベーション後、80μlの培地を取り出し、80μlの新しい培地と置換し、薬物処理の前に細胞を24時間沈降させた。
運動ニューロン
NeuroBlastを37℃に予熱した。細胞を37℃の水浴中で2分以下の時間解凍し、1mlの培地を静かに滴加した。細胞を再懸濁し、9mlの培地を含む15mlのチューブに移した。細胞を200相対遠心力(RCF)で5分間遠心分離した。ペレットを5mlの培地に再懸濁し、細胞をCellometerで計数した。40,000細胞/ウェルを予めコートした96ウェルプレートに播種した。細胞を5%CO下、37℃でインキュベートした。薬物処理の前に細胞を24時間沈降させた。24時間後、NeuroBlast培地をMotorBlast(Lonzo)で置換した。
シュワン細胞
10%のウシ胎仔血清(FBS、PAA)を高グルコースDMEMに加えることにより、シュワン細胞増殖培地を作製し、37℃に予熱した。細胞を37℃の水浴中で2分以下の時間解凍した。細胞を10mlの培地含有チューブに静かに移し、200RCFで5分間遠心分離した。ペレットを5mlの培地に再懸濁し、細胞をCellometerで計数した。3,000細胞/ウェルを予めコートした96ウェルプレートに播種した。細胞を5%CO下、37℃でインキュベートした。薬物処理の前に細胞を24時間沈降させた。
薬物処理およびプレート準備
LMW−DSを各細胞株に最適な培地中で調製し、それぞれのウェルに0.01および0.1mg/mlの投与量で加えた。細胞生存アッセイのために、24および48時間後に細胞を、8つの同一のウェル/投与量/時点で分析した。分化およびタンパク質発現アッセイに関し、48時間後に同様に8重の測定値で分析した。
PIおよび免疫染色 PIヒストグラムシフトの調節なし
細胞をウェル中で固定した。ヨウ化プロピジウムを生存率アッセイに用いた。免疫組織化学的分析のために、ニューロンを、ニューロン特異的チューブリンであるβIII−チューブリンで染色した。シュワン細胞のミエリン塩基性タンパク質(MBP)を染色した。陰性対照としては、一次抗体ではなく、PBST(PBS中0.1%トリトンX100)を適用した。
Acumenサイトメトリ
Acumenサイトメーターは、事前の剥離なしで、付着細胞の直接サイトメトリ解析を可能とする。従って、細胞をインサイツ画像化して、DNA含量(PI)に基づいて異なる期の細胞周期に分類するか、またはアポトーシス死または倍数体と見なした。細胞のタンパク質含量も直接測定でき、「総タンパク質含量」または「平均タンパク質含量」として表現できる。
統計
データは8重の測定値の平均値プラス標準偏差(SD)として表されている。群間の比較をスチューデントのt検定(両側、等分散;Exelソフトウエア)を用いて実施した。0.05未満のp値を統計的に有意であると見なした(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
結果
マウス皮質ニューロン
図1のDNAヒストグラムは、細胞のPI取り込みが変化し、ヒストグラムが右側へシフトし、LMW−DS処理が皮質ニューロンに対し効果を有することを示した。分裂を開始した細胞集団(G2/M期)を図に示している。
細胞数は、LMW−DSで処理後、有意に低減した。アポトーシス細胞の比率はわずかに増大したが、これは、細胞消失の全てに対する説明ではなく、細胞剥離による可能性がより高い。
ヒト運動ニューロン
運動ニューロンに対するデータは皮質ニューロンと類似であり、PI取り込みのシフト(図2)および非常に小さい細胞集団内の増殖の増大があった。
これらの培養物では同様に大きな細胞消失があった。これに対する説明は、皮質ニューロンの場合とおそらく同じである。
シュワン細胞
シュワン細胞は、ニューロンほどはLMW−DSにより影響を受けたようには見えない。類似のPIシフトがあった(図3)。
細胞数および細胞剥離に対する効果は、ニューロンと比較して、シュワン細胞では、明らかでなかった。ニューロンと対照的に、アポトーシス細胞の比率は、LMW−DSでの処理時に低減した。
分化関連タンパク質発現
マウス皮質ニューロン中のチューブリン発現
細胞の形態は処理培養物中で変化し、細胞はより丸く、より大きくなった(図4)。
チューブリンは、細胞の細胞骨格中の重要な構成単位であるタンパク質のファミリーである。βIII−チューブリンは、ニューロンによってのみ発現される。チューブリンの強度は、LMW−DSで処理した細胞中で有意に増大した(図5A)。陽性細胞の分析は、これらの細胞が、対照培養物中の陽性細胞より大きいことを示した(図5B)。
ヒト運動ニューロン中のチューブリン発現
βIII−チューブリンの発現は、LMW−DSによりで有意に増大した(図6A)。細胞形態は、LMW−DSにより劇的に変化した。大部分の陽性細胞は、対照培養物より小さい(図6B)が、一部の細胞は、長大な神経突起有して、極めて大きくなった(図7)。
ヒトシュワン細胞中のMBP発現
MBPの発現は、シュワン細胞のLMW−DS処理培養物中で有意に増大した(図8A)。細胞サイズの分析は、MBP陽性細胞はLMW−DS処理後、対照と比較してより大きいことを示した(図8Bおよび9)。
結論
マウス皮質ニューロンおよびヒト運動ニューロン
細胞中のβIII−チューブリンの増大した発現および形態学的な変化は、LMW−DSが分化因子として機能することを示した。運動ニューロンに対する効果は、特に顕著であった。
LMW−DSにより誘導された変化は、マウスおよびヒト細胞の両方で明らかであり、この効果が種とは無関係であることを示した。
LMW−DS処理は、培養物中の明らかな細胞消失に繋がった。このLMW−DS処理の効果は、毒作用によるものではないと考えられた。これは、LMW−DSが神経細胞接着に影響を与えたことの方がより可能性が高い。例えば、アポトーシス死の比率の最大測定値(PIシフトの調節後)が培養物中の細胞の消失をこれまで説明しなかったとしても、明らかな細胞消失がPI調製物中よりも免疫染色された調製物(より多くの洗浄回数)中で遙かに大きかった。
ヒトシュワン細胞
細胞中のMBPの増大した発現および形態学的な変化は、グリア細胞中でLMW−DSが分化因子として機能することを示した。
分裂シュワン細胞では、LMW−DS処理による細胞剥離の徴候は、神経細胞培養物の場合ほど劇的ではなかったが、それらを視認できた。
したがって、LMW−DSは、非常に短い時間(48時間)内で、神経およびシュワン細胞の両方の分化を促進するように見えた。
外傷関連神経変性、AD、脳卒中後の認知症を含む、神経変性疾患は、ニューロンの細胞周期関連現象の再活性化に関連していることが広く受け入れられるようになっている。これに関して、分化誘発薬物が神経保護的であると提案されてきた。シュワン細胞の分化支援薬物はまた、脱髄に関連する疾患の治療のための良好な候補となるであろう。
実施例2
本試験は、マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおけるLMW−DSのインビボ効果を調査するために実施された。
実験的アレルギー性脳脊髄炎と標記されることもあるEAEは、CNSの炎症性脱髄性疾患であり、CD4+ T細胞に媒介される。マウスのEAEモデルは、現在最も広く受け入れられているヒトのMSおよびADEMの動物モデルである(Annals of Neurology,60:12−21,2006)。一般に、EAEは、マウスへの、ミエリンに対する免疫反応を誘発する、アジュバントで乳化されたミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質35−55(MOG35−55)を含むペプチドおよびタンパク質の単回注射で誘導される。注射は、注射後約1週間で、高度に再現可能なEAEの発症をもたらす。末梢神経麻痺を引き起こすCNSの炎症性病変は、マウスのEAEの特徴である。マウスにおける疾患進行は、よく認識され、評価された採点システムを用いて病徴の毎日の評価により追跡される(International Immunology,10:333−340,1998)。
材料と方法
・フロイント不完全アジュバント(IFA)(Difco)
・結核菌H37RA(Difco)
・MOG35−55げっ歯類(MDBioproducts)
・百日咳毒素(Sigma Aldrich)
・ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Gibco/Invitrogen)
・ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(D−PBS)(Life Technologies)
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(Sigma Aldrich)
・0.9%食塩水(9mg/mlのNaCl、オートクレーブ処理)(Scharlau)
・シクロスポリンA(Sigma Aldrich)
・0.9%食塩水に溶解したLMW−DS
・肝細胞成長因子(HGF)組み替えマウス(R&D Systems)
・Isoba vet 3.5%(Schering Plough Animal Health)
・メチルブタン(Sigma Aldrich)
C57B1.6マウス(雌、8〜10週齡)をHarlan Europeから入手した。マウスを従来の動物施設(Lund University,Sweden)に収容し、経木を含むポリスチレンケージ(タイプIILケージ、ケージ当たり最大7匹のマウス)中で、12時間の明暗周期下、保持し、標準的げっ歯類固形飼料および水を自由に与えた。
疾患誘導および追加免疫
0日目に、マウス当たり100μlの体積中の150μgのMOG35−55および300μgのH37RAを含む乳剤の側腹部への皮下注射によりEAEを誘導した。フロイント完全アジュバント(CFA)(6mg/mlの濃度のIFA中のH37RA)およびMOG35−55(3mg/mlの濃度でPBSに溶解)を氷上で混合することにより、乳剤を調製した。マウスを免疫化中に麻酔して、注射の正確な位置を確認した。百日咳毒素(PTX)をmqHO中に50μg/mlの濃度で再懸濁し、PBS中1μg/mlの最終濃度に希釈した。マウスは、0日目および2日目に200ngのPTXの腹腔内ブースター注射を受けた。
投与調製物
群3に対し、LMW−DS希釈物を0日目および14日目に調製した。下表2に記載の投与量に従って、LMW−DSを0.9%食塩水中に希釈し、0.2μmフィルターを通して濾過滅菌した。投与ビークルは、0.9%食塩水であった。組換えHGFを1mlのPBS中0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)で25μg/mlの濃度で再構成し、PBS中で1μg/mlにさらに希釈した。シクロスポリンAの50mgを1mlの70%エタノール中に溶解し、HPMC中で0.98mg/mlの最終濃度に希釈することによりシクロスポリンAを調製した。
Figure 2020533281
実験群およびLMW−DSの投与
治療は、群2〜3に対しては0日目に開始し、群2では腹腔内に、群3では皮下に、毎週3回投与した。残りの群では、18日目に治療を開始した。群4の動物は1日おきに合計3回静注投与された。治療群はケージ中で混合して、ケージ効果および不均等な収容による系統誤差を回避した。
疾患評価
疾患進行を実験を通して追跡した。実験の終わり、すなわち、疾患誘導の28日後に血漿を収集した。
臨床疾患を毎日監視し、0〜8の尺度により疾患を等級分類する。
0=健康
1=尾部脱力
2=尾部運動麻痺
3=尾部運動麻痺および軽度のよたよた歩き
4=尾部運動麻痺および重度のよたよた歩き
5=尾部運動麻痺および四肢の1本の運動麻痺
6=尾部運動麻痺および四肢の1対の運動麻痺
7=四肢不全麻痺または四肢の3本の運動麻痺
8=発病前または死亡
グラフおよび統計
Mac OS X用のPrism5(GraphPad Software,San Diego,CA,USA)を用いて、グラフおよび統計解析を実施した。全ての統計データを片側ノンパラメトリックマン・ホイットニー検定を用いて計算し、p<0.05を有意と見なした。*、#はp<0.05、**、##はp<0.01を表す。
結果および考察
図10は、対照群(ビークルおよびシクロスポリンA)およびLMW−DS皮下注射週3回による治療群中のマウスのEAE発症を示す。シクロスポリンAは、ビークル対照に比べて、13、14、16、20、21日目、および25〜27日目に有意に(*)低い平均スコアを有した。10mg/kgのデキストラン硫酸の皮下注射週3回で治療された動物は、ビークル対照に比べて、13、14、16、17、19、21および26日目に有意に(#)低い平均スコアを有した
図11は、ビークルおよび100ng/用量 HGFの1日おき静注を18日目(矢印参照)に開始して5日間治療したマウスを示す。HGFは、ビークルと比較して、何らの有意差も生じなかった。
従って、LMW−DSは、EAEモデルにおいて、ビークル対照と比較して、有意に低い平均スコアを生じた。したがって、結果は、LMW−DSがCNSのMSおよびADEMなどの神経変性および脱髄性疾患に好ましい効果を有することを示している。
実施例3
重度外傷性脳損傷(sTBI)後のラットにおける、グルタミン酸興奮毒性およびミトコンドリア機能に対するLMW−DSの毎日の皮下注射の効果を、凍結脳試料の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により評価した。結果は、LMW−DSがミトコンドリアのエネルギー代謝を改善する機能を妨害し、また、グルタミン酸興奮毒性を低減することを示唆する。
材料および方法
sTBIの誘導および薬物投与プロトコル
この調査に用いた実験プロトコルは、動物飼育のための国際標準およびガイドラインに従って、Catholic University of Romeの倫理委員会による承認を受けた。300〜350g体重(b.w.)の雄ウィスターラットに、制御された環境中で標準的実験食および水を自由に与えた。
ラットを、3つの群に分けた:
1)sTBIを受けたn=6匹の動物、30分後、薬物投与を受け、TBIの2日後屠殺された(急性期1)。
2)重度TBIを受けたn=6匹の動物、30分後、薬物投与を受け、TBIの7日後屠殺された(急性期2)。
3)重度TBIを受けたn=6匹の動物、TBIの3日後に薬物投与を受け、TBIの7日後屠殺された(慢性期)。
動物は、麻酔剤混合物として、35mg/kg体重のケタミンおよび0.25mg/kg体重のミダゾラムを腹腔内注射により受けた。「重量落下」衝撃加速度モデル(Marmarou et al.,A new model of diffuse brain injury in rats.Part I:Pathophysiology and biomechanics.J Neurosurg.1994;80:291−300)に従って、予め頭蓋骨上に固定された金属ディスクにより保護されているラットの頭の上に450gの重りを2mの高さから落とすことによりsTBIを誘導した。頭蓋骨骨折、発作、経鼻出血した、またはその衝撃に生存しなかったラットは、調査から除外された。各治療期間の終わりに、ラットは再度麻酔され、その後直ちに屠殺された。
薬物治療は、0.5mlのLMW−DS(15mg/kg)の皮下注射により、上述の概略プロトコルに従って投与された。
脳組織処理
全ての動物でインビボ骨切除開頭術を麻酔の間に行い、ラットの頭蓋骨を注意深く取り除き、脳を露出させ、手術用スパチュラで取り除き、素早く液体窒素中に入れた。湿重量(w.w.)測定後、組織調製を以前に開示のように行った(Tavazzi et al.,Cerebral oxidative stress and depression of energy metabolism correlate with severity of diffuse brain injury in rats.Neurosurgery.2005;56:582−589;Vagnozzi et al.,Temporal window of metabolic brain vulnerability to concussions:mitochondrial−related impairment−part I.Neurosurgery.2007;61:379−388;Tavazzi et al.,Temporal window of metabolic brain vulnerability to concussions:oxidative and nitrosative stresses−part II.Neurosurgery.2007;61:390−395;Amorini et al.,Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids.J Cell Mol Med.2017;21:530−542)。手短に説明すると、全脳ホモジナイゼーションを7mlの氷冷、窒素飽和した沈殿溶液(CHCN+10mMのKHPO、pH7.40(3:1;v:v)と共に、Ultra−Turraxセット(Janke & Kunkel,Staufen,Germany)を24,000rpm/分を用いて実施した。20,690xg、4℃で10分間遠心分離後、透明上清を保存し、ペレットに3mlの沈殿溶液を補充し、上述のように再度ホモジナイズした。2回目の遠心分離を実施し(20,690xg、4℃で10分間)、ペレットを保存し、上清を前に得たものと合わせて、2倍の量のHPLCグレードCHClと共に強く撹拌することにより抽出し、上記のように遠心分離した。水溶性低分子量化合物を含む上層の水相を収集し、さらに2回のクロロホルム洗浄に供し(この手順は、緩衝化組織抽出物から全ての有機溶媒および任意の脂質可溶性化合物の除去を可能とする)、体積を最終的に水性の10%組織ホモジネートを得るように10mMのKHPO、pH7.40で調節し、アッセイするまで−80℃で保存した。
プリン−ピリミジン代謝物のHPLC分析
一定分量の各脱タンパク組織試料を0.45μmのHV Milliporeフィルターを通して濾過し、それ自体のガードカラムを備えたHypersil C−18、250x4.6mm、5μm粒径カラム(Thermo Fisher Scientific,Rodano,Milan,Italy)に充填し(200μl)、高感度ダイオードアレイ検出器(5cm光路フローセルを備えた)を有し、200〜300nmの波長で設定された、Surveyor System(Thermo Fisher Scientific,Rodano,Milan,Italy)からなるHPLC装置に連結した。データ取得および分析は、HPLC製造業者から提供されたChromQuest(登録商標)ソフトウェアパッケージを用いて、PCで実施した。
プリン−ピリミジンプロファイル(下に記載)に属する代謝物、組織エネルギー状態、ミトコンドリア機能に関連する代謝物、および酸化−ニトロソ化ストレスに対する代謝物を、わずかに修正した既存のイオン対HPLC法に従って、1回のクロマトグラフィーを行って分離した(Lazzarino et al.,Single−sample preparation for simultaneous cellular redox and energy state determination.Anal Biochem.2003;322:51−59;Tavazzi et al.,Simultaneous high performance liquid chromatographic separation of purines,pyrimidines,N−acetylated amino acids,and dicarboxylic acids for the chemical diagnosis of inborn errors of metabolism.Clin Biochem.2005;38:997−1008)。組織抽出物のクロマトグラフ実験での目的の化合物の帰属および計算を、適切な波長(206、234および260nm)で、ピークの保持時間、吸収スペクトルおよび面積を、既知の濃度を有する新たに調製した超純度標準混合物のクロマトグラフィー実験のピークのものと比較することにより実施した。
化合物のリスト:シトシン、クレアチニン、ウラシル、ベータプソイドウリジン、シチジン、ヒポキサンチン、グアニン、キサンチン、シチジン二リン酸−コリン(CDP−コリン)、アスコルビン酸、ウリジン、アデニン、亜硝酸塩(−NO−)、還元型グルタチオン(GSH)、イノシン、尿酸、グアノシン、シチジン一リン酸(CMP)、マロンジアルデヒド(MDA)、チミジン、オロチン酸、硝酸塩(−NO−)、ウリジン一リン酸(UMP)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、酸化型(NAD)、アデノシン(ADO)、イノシン一リン酸(IMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、ウリジン二リン酸−グルコース(UDP−Glc)、UDP−ガラクトース(UDP−Gal)、酸化型グルタチオン(GSSG)、UDP−N−アセチル−グルコサミン(UDP−GlcNac)、UDP−N−アセチル−ガラクトサミン(UDP−GalNac)、アデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン二リン酸−グルコース(GDP−グルコース)、シチジン二リン酸(CDP)、UDP、GDP、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、酸化型(NADP)、アデノシン二リン酸−リボース(ADP−リボース)、シチジン三リン酸(CTP)、ADP、ウリジン三リン酸(UTP)、グアノシン三リン酸(GTP)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、還元型(NADH)、アデノシン三リン酸(ATP)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型(NADPH)、マロニル−CoA、コエンザイムA(CoA−SH)、アセチル−CoA、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)。
遊離アミノ酸およびアミノ基含有化合物のHPLC分析
一級遊離アミノ酸(FAA)およびアミノ基含有化合物(AGCC)(以下に記載)の同時測定を、試料のオルト−フタルアルデヒド(OPA)と3−メルカプトプロピオン酸(MPA)の混合物によるプレカラム誘導体化を用いて実施した。この方法は、別の文献に詳細に記載されている(Amorini et al.,Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids.J Cell Mol Med.2017;21:530−542;Amorini et al.,Metabolic profile of amniotic fluid as a biochemical tool to screen for inborn errors of metabolism and fetal anomalies.Mol Cell Biochem.2012;359:205−216)。手短に説明すると、25mmol/lのOPA、1%のMPA、237.5mmol/lのホウ酸ナトリウム、pH9.8から構成される誘導体化混合物を毎日調製し、オートサンプラーに導入した。試料(15μl)のOPA−MPAを用いた自動化プレカラム誘導体化を、24℃で実施し、その後のクロマトグラフ分離のために、25μlの誘導体化混合物をHPLCカラム(Hypersil C−18、250x4.6mm、5μm粒径、サーモスタットで21℃に温調)に充填した。グルタミン酸の場合には、脱タンパク脳抽出物の誘導体化手順の前にHPLCグレードHOで20倍に希釈し、続けて注入した。2種の移動相(移動相A=24mmol/lのCHCOONa+24mmol/lのNaHPO+1%のテトラヒドロフラン+0.1%のトリフルオロ酢酸、pH6.5;移動相B=40%CHOH+30%CHCN+30%HO)を用いて、1.2ml/分の流量で、適切な段階勾配を使って、OPA−AAおよびOPA−AGCCの分離を実施した(Amorini et al.,Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids.J Cell Mol Med.2017;21:530−542;Amorini et al.,Metabolic profile of amniotic fluid as a biochemical tool to screen for inborn errors of metabolism and fetal anomalies.Mol Cell Biochem.2012;359:205−216)。
全脳抽出物のクロマトグラフ実験でのOPA−AAおよびOPA−AGCCの帰属および計算を、338nmの波長で、ピークの保持時間および面積を、既知の濃度を有する新たに調製した超純度標準混合物のクロマトグラフィー実験のピークのものと比較することにより実施した。
FAAおよびACGC化合物のリスト:アスパラギン酸(ASP)、グルタミン酸(GLU)、アスパラギン(ASN)、セリン(SER)、グルタミン(GLN)、ヒスチジン(HIS)、グリシン(GLY)、トレオニン(THR)、シトルリン(CITR)、アルギニン(ARG)、アラニン(ALA)、タウリン(TAU)、γ−アミノ酪酸(GABA)、チロシン(TYR)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、L−シスタチオニン(L−Cystat)、バリン(VAL)、メチオニン(MET)、トリプトファン(TRP)、フェニルアラニン(PHE)、イソロイシン(ILE)、ロイシン(LEU)、オルニチン(ORN)、リシン(LYS)。
統計分析
正規データ分布をコルモゴルフ・スミルノフ検定を使用して検定した。群をまたがる差異は、反復測定に対する2元配置分散分析により推定した。フィッシャーの制約付き最小二乗法を事後検定として使用した。0.05未満の両側p値のみを、統計的に有意であると見なした。
結果
24種の標準的および非標準的アミノ酸および一級アミノ基含有化合物の脳値で、最も明らかな結果は、LMW−DS治療が、sTBIにより誘導されたグルタミン酸(GLU)の増大の顕著な抑制を示し(図12)、従って、この化合物の過剰の結果生じる興奮毒性の低減を確実にもたらすことであった。
しかし、この効果は、薬物が損傷後の早期に投与された場合にのみ認められ(sTBI後30分)、LMW−DSがsTBI3日後に注射された場合にはこの興奮毒性マーカーに対する有効性はなかった。また、LMW−DSは、いわゆるメチルサイクルに関与する化合物(Met、L−Cystat、SAH、表3参照)に対しては著しく有益な効果を有したことは強調に値する。

Figure 2020533281
Figure 2020533281
p<0.01(対照と比較)、p<0.05(対照と比較)、p<0.01(TBI 2日後と比較)、p<0.05(TBI 2日後と比較)、p<0.01(TBI 5日後と比較)、p<0.05(TBI 5日後と比較)、p<0.01(急性期2と比較)、p<0.05(急性期2と比較)、p<0.01(慢性期と比較)、p<0.05(慢性期と比較)
表3は、μmol/g(w.w.)単位で化合物を記載。
表4で認められるように、LMW−DSは、エネルギー代謝およびミトコンドリアの機能に関連して、種々の化合物によい方向に影響を与えた。特に興味深いのは、ミトコンドリアのリン酸化能力の測定値としてのアデニンヌクレオチドの濃度およびATP/ADP比である(図13)。

Figure 2020533281
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p<0.01(対照と比較)、p<0.05(対照と比較)、p<0.01(TBI 2日後と比較)、p<0.05(TBI 2日後と比較)、p<0.01(TBI 5日後と比較)、p<0.05(TBI 5日後と比較)、p<0.01(急性期2と比較)、p<0.05(急性期2と比較)、p<0.01(慢性期と比較)、p<0.05(慢性期と比較)
表4は、nmol/g(w.w.)単位で化合物を記載。
酸化型および還元型ニコチンコエンザイムの顕著な変化も観察された(図14)。
酸化ストレスに関連するパラメーターも測定し、LMW−DSの投与後に酸化ストレスの有意な低減が検出された。特に、主要な水溶性脳抗酸化剤としてのアスコルビン酸、および主要な細胞内SHドナーとしてのGSHが測定された。結果は、表4および図15で示されるように、LMW−DSの投与後、それらのレベルの有意な改善を示した。
加えて、膜リン脂質の多価不飽和脂肪酸最終生成物としての、および、従って、ROS媒介脂質過酸化のマーカーとして用いられるMDAも測定された。MDAレベルは、LMW−DSの投与後、有意な低減を示した。LMW−DSで治療後に、上記酸化ストレスマーカーは全て、抗酸化状態の回復の改善を示した(図15)。
NO媒介ニトロソ化ストレス(亜硝酸塩および硝酸塩)を表す指数も分析された。LMW−DS投与は、急性および慢性期両方のsTBIにおける硝酸塩濃度を有意に低減した(図16)。
NAAは、脳特異的代謝物であり、TBI後の悪化または回復をモニターするための有用な生化学的マーカーである。NAAは、アスパラギン酸およびアセチル−CoAからアスパラギン酸N−アセチルトランスフェラーゼによりニューロンで合成される。NAA代謝回転を確保するために、この分子は、細胞内区画間を移動して、乏突起膠細胞に到達する必要が有り、そこで、それは、アスパルトアシラーゼ(ASPA)により酢酸塩およびアスパラギン酸に分解される。基質アスパラギン酸の利用能を提供するために、異化酵素ASPAおよびNAAの上方制御は低下し、アセチル−CoAは、代謝障害の状態の指標である。この調査では、sTBI後、NAAおよびその基質が測定され、LMW−DS投与後、レベルの有意な改善が示された(図17)。
エネルギー代謝物に対するこれらの効果は、動物が損傷後初期(30分)にLMW−DS投与を受けた場合に、特に明らかであった。動物がsTBIの2日後に屠殺されたか、またはsTBIの7日後に屠殺を行った場合に、LMW−DSの全体的に有益な効果が観察されたことに留意することは重要である。この動物群では、AGCCおよびエネルギー代謝物に関連する代謝の全般的回復がより明らかであり、脳代謝に対するLMW−DS投与の持続する好ましい効果を示唆した。
考察
TBIは、寿命の最初の40年での死亡および身体障害の主要な原因である。英国の経済単独に対するコストは、年当たり80億ポンドであると推定されており、比較すると、脳卒中よりも経済に対するコストは大きい。米国では、TBIの保健医療および社会経済を合わせたコストは、軍用支出を除いて、年当たり600億ドルを超えると推定されている。加えて、最近の数年は、大西洋の両側で、スポーツ脳振盪への関心が急激に高まっている。
明白な臨床的必要性にもかかわらず、現在、TBIのための承認された薬理学的治療は存在しない。TBIに関連する一次侵襲(挫傷)は、外科的処置を適用し得るが、その後の周囲脳組織(ペナンブラ)の二次的非機械的な損傷の低減は、より大きな治療機会を提供する可能性がある。
TBIのびまん性軸索損傷を特徴とする、重度外傷性脳損傷(sTBI)の十分に確立されたげっ歯類モデルを使って、重度損傷動物が、持続性の細胞エネルギー状態およびミトコンドリアの機能(Vagnozzi et al.,Changes of cerebral energy metabolism and lipid peroxidation in rats leading to mitochondrial dysfunction after diffuse brain injury.J Neurotrauma.1999;16:903−913;Signoretti et al.,N−Acetylaspartate reduction as a measure of injury severity and mitochondrial dysfunction following diffuse traumatic brain injury.J Neurotrauma.2001;18:977−993;Tavazzi et al.,Cerebral oxidative stress and depression of energy metabolism correlate with severity of diffuse brain injury in rats.Neurosurgery.2005;56:582−589;Vagnozzi et al.,Temporal window of metabolic brain vulnerability to concussions:mitochondrial−related impairment−part I.Neurosurgery.2007;61:379−388;Tavazzi et al.,Temporal window of metabolic brain vulnerability to concussions:oxidative and nitrosative stresses−part II.Neurosurgery.2007;61:390−395)ならびにアミノ酸代謝に関連する種々の代謝物の変化を有することが以前に示された(Amorini et al.,Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids.J Cell Mol Med.2017;21:530−542)。TBI誘導脳損傷を引き起こす複合体分子機序では、代謝変化は、病理学的組織応答を示す酵素活性ならびに遺伝子およびタンパク質発現の変化に影響を与える初期細胞シグナルである(Di Pietro et al.,Potentially neuroprotective gene modulation in an in vitro model of mild traumatic brain injury.Mol Cell Biochem.2013;375:185−198;Di Pietro et al.,The molecular mechanisms affecting N−acetylaspartate homeostasis following experimental graded traumatic brain injury.Mol Med.2014;20:147−157;Di Pietro et al.,Neuroglobin expression and oxidant/antioxidant balance after graded traumatic brain injury in the rat.Free Radic Biol Med.2014;69:258−264;Amorini et al.,Metabolic,enzymatic and gene involvement in cerebral glucose dysmetabolism after traumatic brain injury.Biochim Biophys Acta Mol Basis of Dis.2016;1862:679−687)。これは、損傷組織中の細胞代謝をよい方向に調節するように機能する薬剤が、有害転帰の一因となる酵素活性ならびに遺伝子およびタンパク質発現におけるその後のTBI関連変化を低減させ得ることを意味する。
本明細書で提示のデータは、LMW−DSの初期投与が、グルタミン酸興奮毒性のレベルを低減し、ミトコンドリア機能を保護することにより代謝恒常性の有害変化を回復し、重度TBI後の化合物の神経保護効果を示すことを示唆する。したがって、LMW−DSは、sTBIを含む、TBIの治療または抑制に使用される可能性を有する。
実施例4
LMW−DSにより誘導された遺伝子発現の変化の分析をいくつかの細胞株で調査した。
材料および方法
実験計画
各細胞株に対し、n=8x25cmの培養フラスコを準備した。処理の日(播種の24時間後)に、2個のフラスコにそれぞれの細胞型を採取した。これは、0日目の時点を表す。残りのフラスコから、3個のフラスコを対照培地で処理し、3個をLMW−DS含有培地(CM)で処理し、0.01mg/mlの最終濃度を得た。48時間後に、処理フラスコから細胞を収集した。従って、収集データは、(a)未処理細胞(0日目対照および2日目対照)および(b)LMW−DSで48時間処理した細胞(2日間LMW−DS処理)を表す。
全ての細胞に対する組織培養皿のコーティング
25cmフラスコを、フラスコ当たり2mlのハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中の50μg/mlのポリ−d−リシンの溶液を加え、暗所中、37℃で一晩インキュベートすることによりコートした。フラスコを細胞培養水で洗浄し、暗所中30分間風乾した。フラスコ当たり1mlのリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中の25μg/mlのラミニンの溶液を加え、暗所中、37℃で2時間インキュベートすることによりフラスコをコートした。細胞の播種前に、ラミニンフラスコをPBSで3回洗浄した。
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)
培地200+Large Vessel Endothelial Supplement(M200+LVES)添加物(1:50)を調製し、37℃に予熱した。細胞を37℃の水浴中で2分以下の時間解凍し、20mlのダルベッコ変法イーグル培地。栄養素混合物F12(DMEM−F12)を含む50mlのチューブに静かに移した。細胞懸濁液をチューブを注意深く2回反転させることにより混合した。細胞を400xgで10分間遠心分離した。上清を除去し、細胞を10mlの培地(M200+LVES添加物)に再懸濁させた。
細胞をCellometerで計数した。1,000,000細胞/フラスコを25cmのフラスコに播種し(n=8)、培地を加えて合計フラスコ当たり5mlにした。細胞を5%CO下、37℃でインキュベートした。LMW−DS処理の前に、細胞を24時間沈降させた。
ヒトシュワン細胞
10%のウシ胎仔血清(FBS)を高グルコースDMEMに加えることにより、シュワン細胞増殖培地を調製し、37℃に予熱した。細胞を37℃の水浴中で2分以下の時間解凍した。
12個のバイアルからの細胞を10mlの高グルコースDMEM培地含有チューブに静かに移し、400相対遠心力場(RCF)で10分間遠心分離した。ペレットを培地中に再懸濁した。12個のバイアルからの細胞を混合し、予めコートした25cmフラスコに均等に分配した(n=8)。細胞を5%CO下、37℃でインキュベートした。LMW−DS処理の前に、細胞を24時間沈降させた。
マウス皮質ニューロン中(Lonza)
10mlのB−27無血清補充剤および2.5ml GlutaMAX(商標)−I補充剤を500mlのNeurobasal培地に加えることにより培地を調製した。培地を37℃に予熱した。12個のバイアルからの細胞を37℃の水浴中、2分以下の時間で順次解凍し、15mlのチューブに静かに移した。9mlの培地をそれぞれに静かに滴加した。細胞懸濁液をチューブを注意深く2回反転させることにより混合した。
細胞を、200xgで5分間遠心分離した。上清を除去し(最後の0.5mlまで)、細胞を摩砕により静かに再懸濁した。12個のバイアルからの細胞を混合し、予めコートした25cmフラスコに均等に分配した(n=8)。細胞を5%CO下、37℃で24時間インキュベートした。
マウス運動ニューロン(Aruna)
表5にしたがって培地を調製した。

Figure 2020533281
培地(表5参照)を37℃に予熱した。細胞を37℃の水浴中で2分以下の時間解凍した。9mlの培地を静かに滴加した。細胞懸濁液をチューブを注意深く2回反転させることにより混合した。Cellometerを用いて細胞を計数した。細胞を、200xgで5分間遠心分離した。上清を除去し(最後の0.5mlまで)、細胞を摩砕により静かに再懸濁した。8個のバイアルからの細胞を混合し、予めコートした25cmフラスコに均等に分配した(n=8)。処理前に、細胞を5%CO下、37℃で24時間インキュベートした。
薬物処理
LMW−DSを20mg/mlのストック濃度で用意し、4℃の温度監視冷蔵庫で保持した。新しい100X LMW−DSストック(1.0mg/ml)を無菌DMEM−F12中で調製した。濃縮薬物ストックを濾過滅菌し、それぞれの培地(19.6mlのCMおよび0.4mlのLMW−DSストック溶液)に加えた。19.6mlのCMおよび0.4mlのDMEM−F12を用いて対照を作製した。LMW−DSおよびCMをそれぞれのフラスコ(各5ml)に加え、それぞれ合計10mlのCMを含むディッシュ中で0.01mg/ml濃度のLMW−DSになった。
培養物収集および細胞溶解
CMを清浄な標識した15mlのファルコンチューブに吸引した。フラスコ(培地不含)を−80℃の冷凍庫中に30分間置いた。ファルコンチューブ中のCMを3000xgで5分間遠心分離した。上清を除去し、小さいペレットを室温(RT、約22℃)で2.5mlのトリゾール:水(4:1)溶液に再懸濁した。
凍結フラスコを冷凍庫から1つずつ取り出し、適切なチューブからトリゾール−水をフラスコへ移した。フラスコを室温に5分間放置した後、内容物を15mlのファルコンチューブに吸引して戻した(フラスコの底をその溶液で完全に洗浄後)。フラスコを顕微鏡で検査し、細胞の完全な除去を確実にした。15mlのファルコンチューブ中の収集した溶解物を−80℃の冷凍庫に入れた。
RNA抽出
ホモジネート含有ファルコンチューブを冷凍庫から取り出し、5分間室温で貯蔵し、核タンパク質複合体を完全に分解させた。
2つの1mlの一定分量の溶解物を各試料から取り出し、200μlのクロロホルムをそれぞれに加え(1mlのトリゾール試薬当たり0.2mlのクロロホルムを細胞溶解ステップ中に使用した)、チューブを強く振盪させた。試料を室温で2〜3分貯蔵し、その後、4℃、12,000xgで15分間遠心分離した。
混合物は3つの層:底部の赤色フェノールクロロホルム相、中間相および無色の上部水相、に分離した。RNAは上部の水相中に残り、DNAは白色中間相(中間相)に、およびタンパク質はピンク色の底部(有機)相に残った。上部の水相の3/4を新規清浄なエッペンドルフチューブに移した。
等量の100%のエタノールを加えることにより、RNAを水相から沈殿させた。沈殿したRNAをSpin Cartridge上に固定し、2回洗浄し、乾燥した。RNAを50μlの温かいRNアーゼ不含水で溶出した。精製RNAの量と品質をNanoDropにより測定した。RNAを−80℃で貯蔵した後、アレイ解析のためにSource Bioscienceに移送した。
発現データの解析計画
発現データを細胞株毎に別々のファイルにダウンロードした。「バックグラウンド補正」発現は、関連プローブの実際のシグナルから抽出したバックグラウンドシグナルの結果であるアレイの「gProcessedSignal」からのデータである。これは、アレイ解析で最もよく使われる変数である。バックグラウンド補正シグナルは、全試料に対し統計解析のために、log2変換された。試料における偽陽性率を減らすために、「発現レベル」未満のシグナルは除去された。「発現未満」レベルは、log2変換発現値の5に設定された。
統計解析
結果の変動を低減するために、解析前に、各アレイに対する対照プローブの発現パターンに基づいて、全アレイに対し中央値センタリングを実施することが決定された。データを細胞型で群化し、各細胞型を次のアルゴリズムを用いて解析した:
・D2対照試料に対するD0対照試料の比較−正常培養物中の細胞に認められる発現変化
・D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較−LMW−DS処理培養物中の細胞に認められる発現変化
・D2 LMW−DS処理試料に対するD2対照試料の比較−培養物中にLMW−DSにより誘導される発現差異
予備的分析を実施し、3つのデータセットの任意の組み合わせの間で発現差異のなかった遺伝子を選別して除去した。単純な、非ストリンジェント分散分析(p<0.05)を実施して発現パターンを探した。3つのデータセットを通して変化のないプローブを除去した。ボルケーノプロットを用いて、残りのプローブセットの倍率変化および有意性に関して解析した。発現パターンの検出を可能とするために、最初のケースでは、プローブの発現の20%を超える変化(FC≧1.2またはFC≦0.84)を有意と見なした。
品質パラメーター
播種密度をシュワン細胞の細胞ストックから取り出した細胞数から計算した。HUVECSをそれらの最適密度で播種した。
アレイサービスプロバイダーからの追加の品質管理は、RNAが高品質(分解なし)で、量はAgilentからのLow input RNAマイクロアレイのパラメーター内であることを示した。
生データの解析は、予測通り、アレイ間で有意差が存在することを示した。しかし、これらの差異(全てのアレイ上に含まれた同じ対照試料中の差異を反映している)は、正規化技術で容易に除去された。選択されたアレイ間変動を除くデータの中央値センタリングは、RNAの異なる濃度を表す対照間で認められると予測される全体の差異に影響を与えなかった。
シュワン細胞の発現解析
前に記載のように、シュワン細胞中で発現しなかった遺伝子はデータ解析の前に除去された。「発現未満」レベルは、log2変換発現値の5に設定された。これにより、シュワン細胞培養物中に15,842個のユニークな分析プローブが残った。解析の次のステップでは、3つのセットのデータ(D2対照試料に対するD0対照試料の比較;D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較;D2 LMW−DSに対するD2対照試料の比較)を解析し、CMの細胞に対する効果およびLMW−DSにより誘導された相対変化を確定した。
D2対照試料に対してD0対照試料を比較すると、シュワン細胞培養物中で585個の遺伝子が差次的に発現した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞の運動(1.14E−07〜2.49E−03);細胞形態(5.56E−07〜2.36E−03);細胞の発生(7.3E−06〜2.48E−03);細胞の成長および増殖(7.3E−06〜2.48E−03);細胞のアセンブリおよび組織化(1.23E−05〜2.36E−03);細胞機能および維持(1.23E−05〜2.47E−03);細胞死および生存(1.53E−05〜2.51E−03);脂質代謝(8.14E−05〜1.6E−03);小分子生化学(8.14E−05〜1.6E−03);分子輸送(1.18E−04〜2.29E−03);タンパク質輸送(1.62E−04〜1.6E−03);糖代謝(3.22E−04〜1.78E−03);遺伝子発現(3.98E−04〜2.2E−03);細胞内シグナル伝達(4.39E−04〜2.25E−03);細胞間シグナル伝達および相互作用(5.05E−04〜2.48E−03);細胞損傷(7.69E−04〜1.58E−03);細胞周期(1.12E−03〜1.8E−03);アミノ酸代謝(1.6E−03〜1.6E−03);および核酸代謝(1.6E−03〜1.6E−03)に関する。
上記に示した値は、異なる経路を有するこれらの遺伝子に関連する統計的有意性を表すp値である。2つのp値は、観察された統計的有意性の下限値と上限値を表す(p<0.05が有意)。
D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較により評価して、LMW−DSはシュワン細胞培養物中の1244個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞形態(1.43E−08〜8.39E−04);細胞の運動(1.4E−07〜9.6E−04);翻訳後修飾(3.93E−07〜6.71E−05);タンパク質合成(3.93E−07〜1.08E−04);タンパク質輸送(3.93E−07〜1.26E−06);細胞死および生存(2.13E−06〜8.65E−04);細胞のアセンブリおよび組織化(7.46E−06〜8.24E−04);DNA複製、組換え、および修復(7.46E−06〜7.46E−06);細胞機能および維持(9.53E−06〜6.46E−04);遺伝子発現(1.27E−05〜4.92E−04);細胞の発生(1.29E−05〜9.06E−04);細胞の成長および増殖(1.29E−05〜9.06E−04);細胞間シグナル伝達および相互作用(1.97E−05〜8.81E−04);アミノ酸代謝(4.22E−05〜8.24E−04);小分子生化学(4.22E−05〜8.24E−04);脂質代謝(4.81E−05〜3.64E−04);分子輸送(3.64E−04〜3.64E−04);および細胞周期(4.53E−04〜4.86E−04)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD2対照試料の比較により評価して、LMW−DSは、シュワン細胞培養物中の700個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞形態(1.49E−07〜5.62E−03);細胞のアセンブリおよび組織化(1.49E−07〜5.95E−03);細胞の運動(7.24E−07〜6.06E−03);細胞死および生存(9.41E−06〜5.95E−03);アミノ酸代謝(2.56E−05〜3.7E−03);翻訳後修飾(2.56E−05〜1.05E−03);小分子生化学(2.56E−05〜3.7E−03);細胞間シグナル伝達および相互作用(5.05E−05〜5.76E−03);遺伝子発現(7.18E−05〜4.94E−03);細胞周期(1.06E−04〜5.95E−03);細胞の発生(1.06E−04〜5.95E−03);細胞機能および維持(1.96E−04〜5.95E−03);細胞の成長および増殖(2.35E−04〜5.95E−03);DNA複製、組換えおよび修復(2.75E−04〜5.95E−03);細胞内シグナル伝達(5.92E−04〜2.54E−03);細胞損傷(6.26E−04〜6.26E−04);脂質代謝(6.26E−04〜1.85E−03);分子輸送(6.26E−04〜5.95E−03);タンパク質合成(1.05E−03〜1.93E−03);治療薬に対する細胞応答(1.85E−03〜1.85E−03);タンパク質輸送(2.66E−03〜5.95E−03);およびRNA転写後修飾(4.32E−03〜4.32E−03)に関する。
機構分子ネットワークモデルは、LMW−DSによる差次的調節分子の効果をシミュレートし、これらの変化の機能的帰結を評価可能とする。インシリコモデルは、LMW−DSが神経細胞死;アポトーシス;およびタンパク質の合成を抑制し、血管新生;細胞の移動;細胞生存性;細胞生存;細胞運動;細胞の増殖;細胞の分化;細胞の恒常性;細胞周期進行;細胞変換;およびRNAの発現を抑制することを示す。
表6は、培養したシュワン細胞の遺伝子発現の変化の結果をまとめたものである。
Figure 2020533281
2日間の対照培養物で発現が変化した21個の遺伝子は、同じ2日間のLMW−DS処理培養物中では全く何の変化も示さなかった。対照培養物で発現が増大した1個の遺伝子は、同じ2日間のLMW−DS処理培養物中では下方制御された。対照培養物で下方制御された13個の遺伝子は、2日間のLMW−DS処理培養物中では上方制御された。122個の遺伝子は、培地中で成長因子により有意に下方制御され、この下方制御は、LMW−DS処理培養物中よりさらに強力であった。441個の遺伝子は、対照培養物中で上方制御され、LMW−DSの添加は、この上方制御を有意に強力にした。
HUVECの発現解析
前に記載のように、HUVEC中で発現しない遺伝子は、なんらかの解析を試みる前に除去された。「発現未満」レベルは、log2変換発現値の5に設定された。これにより、HUVEC培養物中に15,239個のユニークな分析プローブが残った。解析の次のステップでは、3つのセットのデータを解析し、CMの細胞中の遺伝子発現に対する効果およびLMW−DSにより誘導された差異を確定した。予備的分析を実施し、3つのデータセットの任意の組み合わせの間で発現差異のなかった遺伝子を選別して除去した。単純な、非ストリンジェント分散分析(p<0.05)を実施して発現パターンを探した。3つのデータセットを通して変化のない遺伝子を除去し、合計12,313個のプローブ(10,368個の遺伝子)を分析のために残した。
D2対照試料に対してD0対照試料を比較すると、HUVEC培養物中で1551個の遺伝子が差次的に発現した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞のアセンブリおよび組織化(2.55E−15〜1.29E−03);細胞機能および維持(2.55E−15〜1.29E−03);細胞周期(1.98E−11〜1.32E−03);細胞形態(3.18E−10〜1.29E−03);遺伝子発現(1.05E−08〜2.01E−04);細胞の発生(1.66E−07〜1.37E−03);細胞の成長および増殖(1.66E−07〜1.37E−03);DNA複製、組換えおよび修復(2.04E−07〜9.84E−04);細胞死および生存(2.09E−07〜1.3E−03);RNA転写後修飾(4.86E−06〜6.53E−04);細胞の運動(9.9E−06〜1.18E−03);翻訳後修飾(1.92E−05〜1.34E−03);細胞間シグナル伝達および相互作用(2.19E−05〜9.1E−04);タンパク質合成(5.49E−05〜1.14E−03);細胞損傷(8.16E−05〜8.16E−05);分子輸送(6.27E−04〜6.27E−04);タンパク質輸送(6.27E−04〜6.27E−04);細胞内シグナル伝達(8.86E−04〜8.86E−04);治療薬に対する細胞応答(9.84E−04〜9.84E−04);およびタンパク質分解(1.14E−03〜1.14E−03)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較により評価して、LMW−DSはHUVEC培養物中の1779個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞のアセンブリおよび組織化(4.14E−17〜9.7E−04);細胞機能および維持(4.14E−17〜8.05E−04);細胞周期(5.83E−14〜9.85E−04);細胞形態(1.69E−10〜7.48E−04);遺伝子発現(7.99E−09〜8.62E−04);細胞死および生存(2E−08〜8.4E−04);細胞の発生(1.28E−07〜8.88E−04);細胞の成長および増殖(1.28E−07〜8.88E−04);DNA複製、組換えおよび修復(3.07E−07〜9.7E−04);RNA転写後修飾(1.13E−06〜6.31E−04);細胞の運動(1.42E−06〜8.34E−04);翻訳後修飾(3.4E−05〜9.17E−04);細胞間シグナル伝達および相互作用(6.97E−05〜9.56E−04);分子輸送(7.43E−05〜9.7E−04);タンパク質輸送(7.43E−05〜7.43E−05);RNA輸送(1.57E−04〜5.72E−04);タンパク質合成(1.92E−04〜9.02E−04);細胞損傷(2.47E−04〜6.28E−04);および細胞内シグナル伝達(4.64E−04〜9.02E−04)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD2対照試料の比較により評価して、LMW−DSはHUVEC培養物中の76個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、DNA複製、組換えおよび修復(9.62E−05〜2.57E−02);細胞周期(1.22E−04〜2.4E−02);細胞の発生(1.59E−04〜2.67E−02);細胞形態(4.64E−04〜2.42E−02);細胞機能および維持(4.64E−04〜2.57E−02);脂質代謝(9.49E−04〜1.07E−02);分子輸送(9.49E−04−1.61E−02);小分子生化学(9.49E−04−1.87E−02);細胞損傷(1.6E−03〜2.62E−02);細胞死および生存(2.06E−03〜2.67E−02);アミノ酸代謝(2.7E−03〜2.7E−03);糖代謝(2.7E−03〜1.07E−02);細胞間シグナル伝達および相互作用(2.7E−03〜2.4E−02);細胞のアセンブリおよび組織化(2.7E−03〜2.57E−02);細胞の成長および増殖(2.7E−03〜2.4E−02);細胞の運動(2.7E−03〜2.4E−02);エネルギー生成(2.7E−03〜2.7E−03);核酸代謝(2.7E−03〜1.07E−02);翻訳後修飾(2.7E−03〜1.61E−02);遺伝子発現(5.39E−03〜2.36E−02);RNA転写後修飾(5.39E−03〜2.4E−02);薬物代謝(8.07E−03〜1.61E−02);ビタミンおよびミネラル代謝(8.07E−03〜8.07E−03);タンパク質合成(1.07E−02〜1.07E−02);RNA輸送(1.07E−02〜1.07E−02);治療薬に対する細胞応答(1.24E−02〜1.24E−02);およびフリーラジカル除去作用(1.43E−02〜1.43E−02)に関する。
2日間の処理後の対照とLMW−DS処理培養物間の全体差異は、大きいように直ぐには見えないが、LMW−DSの遺伝子発現変化に対する効果は、LMW−DSによる成長因子誘導遺伝子発現の調節を考慮すると特に、有意であった。
機構分子ネットワークモデルを使用すると、LMW−DSによる差次的調節遺伝子の効果をシミュレートし、これらの変化の機能的帰結を探すことが可能となる。インシリコモデルは、LMW−DSが神経細胞死;アポトーシス;およびタンパク質の合成を抑制し、血管新生;細胞の遊走;細胞生存性;細胞生存;細胞運動;細胞の増殖;細胞の分化;細胞の恒常性;細胞周期進行;細胞変換;およびRNAの発現を活性化することを示す。
HUVEC対照培養物は、成長因子を含む。処理培養物では、LMW−DSを成長因子を既に含んだ培地に加えた。
表7は、培養したHUVECの遺伝子発現の変化の結果をまとめたものである。2日間の対照培養物で発現が変化した(成長因子の効果で)67個の遺伝子は、同じ2日間のLMW−DS処理培養物中では全く何の変化も示さなかった。成長因子を含む対照培養物で発現が増大した4個の遺伝子は、同じ2日間のLMW−DS処理培養物中では下方制御された。対照培養物で成長因子により下方制御された11個の遺伝子は、2日間のLMW−DS処理培養物中では上方制御された。120個の遺伝子は、成長因子により有意に下方制御され、この下方制御は、LMW−DS処理培養物中でより強力であった。229個の遺伝子は、対照培養物中で上方制御され、LMW−DSの添加は、この上方制御を有意に強力にした。

Figure 2020533281
異なる病状および治療用途に重要ないくつかの分子経路に対するLMW−DSの効果を解析した。この解析のために、遺伝子発現に対するLMW−DS添加の効果を、CM中の細胞で認められるものと比較し、発現パターンの観察された変化に基づいて、機能的効果を予測した。
運動ニューロンの発現解析
前に記載のように、運動ニューロン中で発現しない遺伝子は、なんらかの解析を試みる前に除去された。「発現未満」レベルは、log2変換発現値の5に設定された。これにより、シリーズ中で少なくとも3つの試料で発現閾値を満たした12,240個のユニークなプローブが残った。次のステップでは、3つのセットのデータを解析し、CMの細胞に対する効果およびLMW−DSにより誘導された差異を確定した。
正常な培養条件下での遺伝子発現の変化は、それらが解離された一連の細胞から運動ニューロン表現型を発生させる場合、運動ニューロンの正常な発生過程を模倣する。正常な培地中の成長因子は、これらの細胞が分化するために必要なものである。これらの培養物中に存在するストレス因子は、酸化ストレス(組織培養条件では正常な)である。
D2対照試料に対してD0対照試料を比較すると、運動ニューロン培養物中で485個の遺伝子が差次的に発現した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞死および生存(1.99E−17〜1.98E−04);細胞の運動(1.14E−16〜1.91E−04);細胞のアセンブリおよび組織化(1.22E−16〜1.93E−04);細胞機能および維持(1.22E−16〜1.95E−04);細胞形態(6.46E−16〜1.74E−04);細胞間シグナル伝達および相互作用(3.16E−12〜1.95E−04);細胞の発生(1.59E−10〜1.93E−04);細胞の成長および増殖(1.59E−10〜1.9E−04);分子輸送(4.27E−10〜1.89E−04);タンパク質合成(9.85E−09〜5.03E−05);脂質代謝(1.08E−08〜1.61E−04);小分子生化学(1.08E−08〜1.89E−04);遺伝子発現(8.45E−08〜3.8E−05);細胞周期(4.55E−07〜1.09E−04);フリーラジカル除去作用(7.12E−07〜1.65E−04);細胞内シグナル伝達(1.23E−05〜1.89E−04);ビタミンおよびミネラル代謝(1.23E−05〜1.89E−04);タンパク質分解(3.07E−05〜1.31E−04);糖代謝(3.32E−05〜1.61E−04);薬物代謝(4.16E−05〜4.16E−05);翻訳後修飾(7.1E−05〜1.31E−04);およびタンパク質折り畳み(7.1E−05〜7.1E−05)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較により評価して、LMW−DSは、運動ニューロン中の315個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞死および生存(6.54E−08〜9.06E−03);細胞の運動(8.21E−08〜5.42E−03);細胞のアセンブリおよび組織化(8.36E−08〜9.01E−03);細胞機能および維持(8.36E−08〜9.01E−03);細胞形態(2.9E−06〜8.75E−03);細胞の発生(1.04E−05〜9.01E−03);細胞の成長および増殖(1.04E−05〜7.83E−03);DNA複製、組換えおよび修復(2.79E−05〜8.01E−03);細胞間シグナル伝達および相互作用(8.18E−05〜7.11E−03);翻訳後修飾(1.32E−04〜7.56E−03);タンパク質分解(1.32E−04〜4.35E−03);タンパク質合成(1.32E−04〜5.09E−03);遺伝子発現(1.9E−04〜9.01E−03);細胞損傷(3.58E−04〜9.01E−03);細胞周期(6.08E−04〜9.01E−03);フリーラジカル除去作用(7.41E−04〜7.31E−03);アミノ酸代謝(7.67E−04〜6.61E−03);小分子生化学(7.67E−04〜9.01E−03);ビタミンおよびミネラル代謝(7.67E−04〜1.13E−03);脂質代謝(1.05E−03〜9.01E−03);分子輸送(1.05E−03〜9.01E−03);細胞内シグナル伝達(1.13E−03〜5.09E−03);および糖代謝(4.71E−03〜4.71E−03)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較により評価して、LMW−DSは、運動ニューロン中の425個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞死および生存(2.87E−08〜6.27E−03);細胞の運動(4.73E−07〜6.47E−03);細胞形態(4.95E−07〜7.47E−03);細胞の発生(1.02E−06〜7.13E−03);細胞の成長および増殖(1.02E−06〜7.48E−03);細胞のアセンブリおよび組織化(7.03E−06〜7.47E−03);細胞機能および維持(7.03E−06〜7.47E−03);遺伝子発現(1.95E−05〜6.18E−03);細胞周期(2.88E−05〜7.48E−03);DNA複製、組換えおよび修復(3.39E−05〜5.16E−03);アミノ酸代謝(7.75E−05〜4.68E−03);小分子生化学(7.75E−05〜4.68E−03);細胞損傷(8.23E−05〜4.61E−03);細胞間シグナル伝達および相互作用(3.27E−04〜7.48E−03);ビタミンおよびミネラル代謝(3.27E−04〜3.27E−04);タンパク質合成(8.94E−04〜5.29E−03);翻訳後修飾(9.67E−04〜9.67E−04);分子輸送(9.7E−04〜4.68E−03);タンパク質輸送(9.7E−04〜9.7E−04);糖代謝(1.44E−03〜1.92E−03);治療薬に対する細胞応答(1.92E−03〜1.92E−03);および脂質代謝(4.68E−03〜4.68E−03)に関する。

Figure 2020533281
皮質ニューロンの発現解析
前に記載のように、運動ニューロン中で発現しない遺伝子は、なんらかの解析を試みる前に除去された。「発現未満」レベルは、log2変換発現値の5に設定された。これにより、シリーズ中で少なくとも3つの試料で発現閾値を満たした10,653個のユニークなプローブが残った。次のステップでは、3つのセットのデータを解析し、CMの細胞に対する効果およびLMW−DSにより誘導された差異を確定した。
正常な培養条件下での遺伝子発現の変化は、それらが解離された一連の細胞から皮質ニューロン表現型を発生させる場合、皮質ニューロンの正常な発生過程を模倣する。正常な培地中の成長因子は、これらの細胞が分化するために必要なものである。これらの培養物中に存在するストレス因子は、酸化ストレス(組織培養条件では正常な)である。
D2対照試料に対してD0対照試料を比較すると、運動ニューロン培養物中で1101個の遺伝子が差次的に発現した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞のアセンブリおよび組織化(3.57E−25〜6.65E−04);細胞機能および維持(3.57E−25〜6.65E−04);細胞形態(4.28E−22〜6.36E−04);細胞の発生(4.28E−22〜6.53E−04);細胞の成長および増殖(4.28E−22〜6.6E−04);細胞間シグナル伝達および相互作用(2.16E−13〜6.65E−04);分子輸送(5.18E−12〜4.95E−04);細胞の運動(1.86E−11〜6.65E−04);細胞死および生存(3.37E−11〜6.41E−04);遺伝子発現(1.27E−08〜8.96E−05);タンパク質合成(3.84E−07〜8.69E−05);小分子生化学(6.65E−07〜5.18E−04);細胞損傷(7.12E−06〜4.54E−04);タンパク質分解(1.62E−05〜1.62E−05);アミノ酸代謝(2.11E−05〜4.25E−04);タンパク質輸送(3.4E−05〜3.4E−05);細胞内シグナル伝達(8.69E−05〜3E−04);翻訳後修飾(8.69E−05〜2.15E−04);タンパク質折り畳み(2.15E−04〜2.15E−04);細胞周期(2.69E−04〜3.07E−04);DNA複製、組換えおよび修復(2.69E−04〜4.77E−04);核酸代謝(2.69E−04〜2.69E−04);脂質代謝(3.12E−04〜5.18E−04);および糖代謝(5.18E−04〜5.18E−04)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較により評価して、LMW−DSは、運動ニューロン中の609個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞のアセンブリおよび組織化(3.91E−15〜1.83E−03);細胞機能および維持(3.91E−15〜1.83E−03);細胞形態(2.53E−13〜1.43E−03);細胞の発生(2.53E−13〜1.81E−03);細胞の成長および増殖(2.53E−13〜1.83E−03);細胞の運動(4.95E−09〜1.2E−03);細胞間シグナル伝達および相互作用(5.96E−09〜1.47E−03);細胞死および生存(2.25E−08〜1.77E−03);分子輸送(7.08E−08〜1.79E−03);DNA複製、組換えおよび修復(3.03E−06〜1.71E−03);細胞損傷(9.23E−06〜7.65E−04);アミノ酸代謝(1.75E−05〜1.64E−03);細胞周期(1.75E−05〜1.77E−03);小分子生化学(1.75E−05〜1.79E−03);タンパク質合成(2.77E−05〜1.5E−03);タンパク質輸送(2.77E−05〜1.9E−04);細胞内シグナル伝達(7.65E−05〜1.73E−03);翻訳後修飾(3.01E−04〜1.4E−03);遺伝子発現(3.65E−04〜1.15E−03);薬物代謝(6.49E−04〜6.49E−04);糖代謝(6.95E−04〜7.69E−04);ビタミンおよびミネラル代謝(1.09E−03〜1.09E−03);および核酸代謝(1.44E−03〜1.73E−03)に関する。
D2 LMW−DS処理試料に対するD0対照試料の比較により評価して、LMW−DSは、運動ニューロン中の247個の遺伝子の発現差異を誘導した。これらの遺伝子により影響を受ける分子機能は、細胞形態(6.01E−08〜1.01E−02);細胞の発生(7.46E−08〜1.01E−02);細胞の成長および増殖(7.46E−08〜1.01E−02);細胞死および生存(4.23E−07〜1.01E−02);細胞の運動(2.69E−06〜9.91E−03);細胞のアセンブリおよび組織化(1.57E−05〜1.01E−02);細胞機能および維持(1.57E−05〜1.01E−02);細胞周期(1.01E−04〜1.01E−02);細胞間シグナル伝達および相互作用(1.01E−04〜1.01E−02);脂質代謝(1.56E−04〜1.01E−02);小分子生化学(1.56E−04〜1.01E−02);遺伝子発現(2.28E−04〜3.38E−03);RNA損傷および修復(2.28E−04〜2.28E−04);RNA転写後修飾(2.28E−04〜2.28E−04);分子輸送(4.18E−04〜8.32E−03);細胞損傷(4.47E−04〜2.2E−03);タンパク質合成(2.66E−03〜7.29E−03);タンパク質輸送(4.11E−03〜8.32E−03);タンパク質分解(5.64E−03〜7.29E−03);およびDNA複製、組換えおよび修復(7.31E−03〜1.01E−02)に関する。

Figure 2020533281
LMW−DSのミトコンドリアの酸化ストレス経路に与える効果
ミトコンドリアで発生する酸化ストレス経路は、単に癌だけでなく、加齢および加齢関連変性疾患にも重要である。正常な成長状態は、細胞中の一定量の酸化ストレスの誘因となり、これは、インビボおよびインビトロ両方の老化過程の一因となる。
正常な状態で培養されたシュワン細胞では、図18のAとして記された複合体I(NADH脱水素酵素)は阻害されたが、一方、図18でBとして記された複合体IV(チトクロムcオキシダーゼ)は活性化された。LMW−DSが培養物に加えられると、図18でCとして記された複合体III(チトクロムbc1)は阻害された。複合体IIIの阻害は、癌および神経疾患の病因に関与する酸化ストレス現象を抑制する。
複合体IIIは、コエンザイムQ:チトクロムc−酸化還元酵素またはチトクロムbc1複合体と呼ばれることもあるが、これは、電子伝達系(EC1.10.2.2)における第3の複合体であり、ATP(酸化的リン酸化)の生化学的生成で重要な役割を果たす。複合体IIIは、ミトコンドリアの(チトクロムb)および核ゲノム(全ての他のサブユニット)の両方によりコードされる多サブユニット膜貫通タンパク質である。複合体IIIは、全ての動物および全ての好気性真核生物およびほとんどの真正細菌の内膜のミトコンドリア中に存在する。複合体IIIの変異は、運動不耐性ならびに多系統疾患を生ずる。bc1複合体は、11個のサブユニット、3個の呼吸サブユニット(チトクロムB、チトクロムC1、Rieskeタンパク質)、2個のコアタンパク質、および6個の低分子量タンパク質を含む。
HUVECでは、LMW−DSで処理後、酸化ストレスのミトコンドリアに対する効果の有意な調節は検出されなかった。
正常な培養条件では、運動ニューロンは、かなりの酸化ストレスを受けているように見える。これは、図18のFとして記した一部のアポトーシス機序の活性化に繋がり、チトクロムC、AIF、カスパーゼ3、8および9の活性化を伴う。さらに、運動ニューロンは、細胞中で、酸化ストレスおよびFIAS1を介したミトコンドリアのフラグメント化をさらに悪化する図18でEとして記したアミロイドβの産生ならびに図18のGとして記した脂肪酸の酸化を特徴とする。さらに、図18のDとして記した複合体Vが活性化された。
培養物へのLMW−DSの添加は、図18のFとして記した反応経路を遮断し、図18のEとして記した、アミロイドβ産生およびミトコンドリアのフラグメント化および機能障害に対するその負の効果、およびその後の損傷を防止することにより、および図18のGで記した脂肪酸酸化を抑制することによりアポトーシスを防止および抑制してこれらの負の効果を改善する。LMW−DSはまた、図18のHとして記したTRAK1およびPINK1を含む反応経路を阻害し、それにより、ミトコンドリア機能の改善に寄与する。LMW−DSはさらに、図18のIで示されるHのレベルを低減した。さらなる効果は、アポトーシスの抑制に寄与する図18のJで記されたHtrA2の阻害であった。
正常な培養条件では、皮質ニューロンは、図18のKとして記された、シヌクレインαの活性化および増大したレベルのROSを伴うアミロイドβ産生およびレビー小体形成;図18のFとして記されたアポトーシス;図18のEとして記されたミトコンドリアのフラグメント化;および図18のLとして記された、C161を伴うミトコンドリアの機能の低下に繋がるかなりの酸化ストレスに曝露される。培養物へのLMW−DSの添加は、アミロイドβおよびレビー小体の病変の蓄積(図18のE、Kとして記す)、ミトコンドリアの機能障害(図18のLとして記す)などのこれらの有害作用のほとんどを防止および回復できた。機序を誘導する一部のアポトーシス(図18のFとして記す)は、培養物中の強力な活性化におそらく起因して活性なままである。
グルタミン酸興奮毒性に与えるLMW−DSの効果
グルタミン酸は、長期増強(LTP)、すなわち、学習と記憶機能に関与する不可欠な興奮性アミノ酸である。しかし、過剰なグルタミン酸はまた、興奮毒性に関連し、ニューロン死に繋がる。この後者の現象は、慢性神経変性状態において(TBIでも)引き起こされるニューロン死に関与していると想定されている。グルタミン酸シグナル伝達に関与する遺伝子は、HUVEC中で発現しなかったが、この調査で用いたシュワンおよびニューロン細胞株中には存在する(図19参照)。
グルタミン酸産生は、運動ニューロン培養物でのベースライン条件により抑制される。抑制は、LMW−DSによる影響を受けない。グルタミン酸産生は、ベースラインで皮質ニューロン中で上昇した。LMW−DSの添加は、これらの細胞中でグルタミン酸産生を変化させなかった。
シュワン細胞のCMに対するLMW−DSの添加は、図19でAとして記されたタンパク質複合体(CALM、Gβγ、GRM7、PICK1)の発現を誘導した。より重要なことは、LMW−DSは、シュワン細胞中のグルタミン酸トランスポーター、特にSLC1A2/3の活性および/またはレベルを高め、それにより、シナプス前のニューロンにより産生され、放出されたグルタミン酸の除去作用をもたらしたことである。したがって、LMW−DSは、シュワン細胞をシナプス間隙から毒性グルタミン酸を除去するように誘導し、それにより、その興奮毒性が呈されるのを防止した。
溶質輸送体ファミリー1(グリア高親和性グルタミン酸トランスポーター)のメンバー3であるSLC1A3は、ヒト中でSLC1A3遺伝子によりコードされるタンパク質である。SLC1A3はまた、グルタミン酸・アスパラギン酸トランスポーター(GLAST)または興奮性アミノ酸トランスポーター1(EAAT1)と呼ばれることも多い。SLC1A3は主に、細胞膜中で発現され、それがグルタミン酸を細胞外間隙から除去するのを可能にする。SLC1A3はまた、リンゴ酸−アスパラギン酸シャトルの一部としてミトコンドリア内膜中に局在化している。SLC1A3はインビボでホモトリマーとして機能する。SLC1A3は、グルタミン酸およびアスパラギン酸の輸送を媒介し、3つのNaおよび1つのHカチオンを共輸送し、1つのKカチオンを対向輸送する。この共輸送カップリング(または等方輸送)は、濃度勾配に逆らってグルタミン酸の細胞中への輸送を可能にする。SLC1A3は、CNS全体を通して発現され、小脳中の星状膠細胞およびバーグマングリアで高度に発現されている。網膜中では、SLC1A3はミューラーグリア細胞中で発現されている。SLC1A3はまた、心筋細胞を含む多くの他の組織中で発現されている。
溶質輸送体ファミリー1のメンバー2であるSLC1A2は、興奮性アミノ酸トランスポーター2(EAAT2)およびグルタミン酸トランスポーター1(GLT−1)としても知られ、ヒト中でSLC1A2遺伝子によりコードされるタンパク質である。SLC1A2は、タンパク質の溶質輸送体ファミリーのファミリーメンバーである。この膜結合型タンパク質は、興奮性神経伝達物質グルタミン酸をCNS中のシナプスの細胞外間隙から除去する主要なトランスポーターである。グルタミン酸除去は、適切なシナプス活性化のために、およびグルタミン酸受容体の過剰な活性化による神経損傷を防ぐために必要である。SLC1A2は、脳内のグルタミン酸再取り込みの90%超に関与する。
これらの知見は、LMW−DSが、TBI後のような、その高い細胞外レベルが有害である条件下で、グルタミン酸興奮毒性の防止に有用であり得ることを示している。
細胞接着に与えるLMW−DSの効果
LMW−DSの極めて顕著な表現型の効果の1つは、細胞接着に対する効果であり、これは、細胞型特異的であった。細胞接着は、ニューロンが最も強く影響を受け、次にシュワン細胞が影響を受けたが、HUVECは影響を受けなかった。
遺伝子発現の解析は、これが、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とも呼ばれるメタロペプチダーゼを含む細胞接着を調節する酵素の発現に対するLMW−DSの影響が原因であることを示した(表10参照)。
シュワン細胞中の細胞運動および付着を調節する経路に対するこれらの分子の凝集効果(17分子、表10参照)は、細胞接着が阻害され、同時に細胞運動が活性化され得るが、一方、HUVEC(1分子、ADAM11)では、接着は影響を受けないが、血管新生が活性され得るようなものであった。
Figure 2020533281
ニューロン中でLMW−DSにより誘導された差次的遺伝子発現の効果を分析した。運動ニューロンでは、同じメタロペプチダーゼ依存性経路がシュワン細胞で認められる細胞剥離に関与し得る(表11参照)。

Figure 2020533281
しかし、MMP関連遺伝子のいずれも、皮質ニューロン中では発現差異が認められなかった。
この知見は、細胞接着に影響を与える全ての分子間相互作用ならびに4種の異なる培養物における接着性関連分子および細胞の接着に対するそれらの効果の再評価に繋がった。217個の接着関連分子(197個の遺伝子および20個の薬物)の完全リストを以下に示す:
ACE2、ACP1、ADAM15、ADGRB1、ADGRE2、ADIPOQ、AG490、AMBN、ANGPT1、ANTXR1、ARAP3、ARMS2、バチマスタット、BCAM、BCAP31、BCAR1、ベンジルオキシカルボニル−Leu−Leu−Leu−アルデヒド、BMP2、BMP4、BTC、C1QBP、Ca2+、CA9、CADM1、CALR、カリクリンA、カスパーゼ、CBL、CD209、CD36、CD44、CD46、CDH13、セリバスタチン、クロラムフェニコール、コンドロイチン硫酸、CLEC4M、コルヒチン、I型コラーゲン、コラーゲン、COMP、CRK、CRP、CSF1、CSF2RB、CTGF、クルクミン、CXCL12、環状AMP、DAB2、DAG1、DCN、DDR1、デスフェリエキソケリン772SM、DOCK2、DSG2、DSG4、デュラパタイト、Efna、EFNA1、EFNB、EFNB1、EGF、EGFR、EGR1、ELN、ENG、EP300、Eph受容体、EPHA8、EPHB1、エプチフィバチド、エチレンジアミン四酢酸、ETS1、F11R、F3、FBLN5、FBN1、Fc受容体、FCN2、FERMT2、FES、FGF2、FGFR1、フィブリン、FN1、接着斑キナーゼ、FSH、FUT3、FUT6、FUT7、FYN、HACD1、ヘパリン、ヒストンh3、ヒストンh4、HRAS、HSPG2、HTN1、ヒアルロン酸、ヒドロコルチゾン、過酸化水素、ICAM1、ICAM2、IGF1R、IgG、Igg3、IL1、IL1B、IL6、ILK、インテグリン、インテグリンアルファ4ベータ1、インテグリンα、IPO9、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA5、ITGA6、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB5、JAK2、Jnk、KP−SD−1、LAMC1、ラミニン、ラミニン1、レボチロキシン、LGALS3、LIF、リポ多糖類、LOX、LRP1、LRPAP1、MAD1L1、マンノース、MAPK7、MBL2、MERTK、メトロニダゾール、MGAT5、MMP2、Mn2+、NCK、NEDD9、NRG1、オカダ酸、OLR1、P38 MAPK、PDGF BB、ホスファチジルイノシトール、PKM、血小板活性化因子、PLD1、PLG、PMP22、PODXL、POSTN、PRKCD、PTAFR、PTEN、PTGER2、PTK2、PTK2B、PTN、PTPN11、PTPRZ1、ピロリジンジチオカルバメート、Rac、RALB、RANBP9、RHOA、RHOB、RPSA、SDC3、SELE、セレクチン、SELL、SEMA3A、シンバスタチン、SIRPA、SPARC、スフィンゴシン−1−ホスフェート、SPI1、SPP1、SPRY2、SRC、STARD13、SWAP70、TEK、TFPI、TFPI2、TGFA、TGFB1、TGFBI、TGM2、THBS2、THY1、甲状腺ホルモン、TIMP2、チロフィバン、TLN1、TLN2、TNF、TP63、トレチノイン、VAV1、VCAM1、VCAN、Vegf、VHL、VTN、VWF、およびWRR−086。
HUVECでは、197個の細胞接着を調節する遺伝子の内で、LMW−DSにより差次的に調節されるものは存在しない。シュワン細胞培養物では、差次的に発現した17個の分子が総じて僅かに高い接着をもたらした。しかし、ニューロンでは、発現パターンがこれらの細胞における細胞接着の有意な阻害に繋がった。
この結果は、細胞接着に与えるLMW−DSの細胞型特異的効果を説明する。この知見はまた、免疫細胞の組織線維症および接着のシグナルを低減することにより、LMW−DSの抗瘢痕形成効果(実施例5参照)に対しても該当する。
LMW−DSにより影響を受ける上流制御因子経路
表12に示すように、シュワン細胞では、上流制御因子分析により、LMW−DSが、系中で成長因子の活性化を高めるまたはそれらの阻害を低減することにより、いくつかの成長因子の効果を調節したことが明らかになった。
Figure 2020533281
HUVECでは、LMW−DSによりその効果が向上した成長因子の数は、相対的に少なかったが、それでも極めて有意であった(表13参照)。
Figure 2020533281
表14に示すように、運動ニューロンでは、上流制御因子分析により、LMW−DSが、系中に存在する成長因子の活性化を高めるまたはそれらの阻害を低減するいくつかの成長因子の効果に影響を与えたことが明らかになった。
Figure 2020533281
正常な培養条件の皮質ニューロンでは、ほとんどの経路依存性成長因子が正常な培地により有意に活性化された。ほとんどの場合、この活性化はLMW−DSにより変化しなかった。しかし、LMW−DSは、GDF7の下流エフェクターである分子を活性化し、この成長因子の効果は、LMW−DSにより強化されたことを示した。GDF7はニューロンに対する強力な分化因子であり、これらの成長因子のBDNFおよびNT3の活性化に対する追加の活性化は、培養中のこれらの細胞の向上した分化に対する良い説明を与える。
考察
HUVEC用の正常な培養条件は、組織低酸素および再灌流後の環境を模倣し、ヘパリンを同様に補充した高栄養素含有物および成長因子を含む。LMW−DS処理培養物は、低酸素および再灌流の24時間後のLMW−DSの効果を模倣した。これに関連する現実生活のシナリオは、脳卒中などの虚血状態後の血管新生のシナリオである。
シュワン細胞では、高栄養素含量物およびグルコースを含む対照培養物は、シュワン細胞の活性化を再現する。LMW−DS処理培養物は、グリア活性化の24時間後に添加されたLMW−DSの効果を模倣した。これが再現する現実生活のシナリオは、TBI後などの神経系損傷後のグリア活性化である。
ニューロン、運動ニューロンおよび皮質ニューロンの両方用の、高栄要素含量物および成長因子を含む正常な培養条件は、正常なニューロン分化中の環境を模倣する。これらの培養物中の唯一の負の効果は、細胞が受ける酸化ストレスである。これが関連する現実生活のシナリオは、十分な成長因子および分化因子の存在下で、酸化ストレスにより促進される変性状態である。これは、酸化ストレスが中心的な役割を果たす初期段階の神経変性疾患または状態に相当する。
シュワン細胞およびHUVECで認められる分子効果が、アポトーシスに対する保護;血管新生の誘導;細胞の増大した遊走および移動;増大した細胞生存率および生存;ならびに細胞分化の誘導における、LMW−DSの役割を裏付けることは細胞型から明らかである。重要な分子経路の分析により、ニューロンにおいて、LMW−DSがミトコンドリアに対する酸化ストレス効果を低減し、アミロイドβおよびレビー小体などの神経変性関連分子を低減するはずであることが示された。
したがって、HUVEC細胞モデルからの結果は、LMW−DSが細胞損傷に対し保護でき、その後の脳卒中などの損傷または患部組織中で新規血管の発生を促進することを示す。シュワン細胞からの結果は、LMW−DSが、TBIまたは神経変性疾患に起因するなどの疾患または損傷神経系中の細胞消失に対し保護できることを示す。
重要な分子経路の分析により、シュワン細胞では、LMW−DSがミトコンドリアに対する酸化ストレスの効果を低減し、グルタミン酸の取り込みを増大したことが示された。シュワン細胞での結果は、LMW−DSが、疾患および損傷神経系中の酸化ストレスおよび/またはグルタミン酸興奮毒性により発生する細胞消失に対して保護できることを示し、これは、例えば、神経変性疾患およびTBIに該当する。
特に重要なのは、シュワン細胞により示されたように、LMW−DSがグリア細胞のグルタミン酸取り込みを増大させたことである。しかし、LMW−DSは、ニューロンによるグルタミン酸の産生を変えなかった。グルタミン酸がLTP、すなわち、学習と記憶にとって必要なので、これは重要である。従って、グルタミン酸は、上述の処理における正常な神経伝達にとって必要であるので、LMW−DSがニューロンによるグルタミン酸の産生を変化させなかったことは有益である。しかし、損傷または瀕死細胞から放出される増大したレベルのグルタミン酸は、LMW−DSの効果により、周囲グリア細胞により効率的に取り込まれる。従って、グリア細胞中でLMW−DSにより引き起こされたグルタミン酸トランスポーターの活性化により、神経間隙由来の損傷または瀕死ニューロンにより放出されたグルタミン酸が効果的に除去された。これが、次に、グルタミン酸が興奮毒性を呈するのを防ぎ、さらなるニューロンの損傷を防いだ。したがって、LMW−DSは、グリア細胞による潜在的に有害な神経毒性量のグルタミン酸の取り込みを誘導した。
従って、ニューロンのこの結果は、酸化ストレスによる二次的組織損傷を低減し、修復を促進し、変性関連タンパク質蓄積を低減することによる、神経変性疾患、障害および状態におけるLMW−DSの潜在的な治療有用性を確証する。
まとめると、結果は、一般的にアポトーシスに対する保護および特に神経細胞死に対する保護、血管新生の誘導、細胞の増大した遊走および移動、増大した細胞生存率および生存、細胞分化の誘導、酸化ストレスの効果の低減、グルタミン酸興奮毒性の低減およびアミロイドβおよびレビー小体などの変性関連タンパク質生成物の産生の低減におけるLMW−DSの役割を裏付ける。
細胞接着は、ニューロンおよびシュワン細胞において主に影響を受け、LMW−DSが細胞剥離および移動を促進した。HUVECでは、細胞接着は影響を受けなかった。細胞接着に対する効果は、主として、メタロプロテイナーゼ型酵素の発現によるが、他の接着性分子の調節もこの効果に寄与する。
この知見は、実施例5で認められるように、LMW−DSの抗瘢痕形成効果も説明する。この結果は、組織リモデリングを支援し、損傷組織中の線維形成性(瘢痕形成)シグナルを遮断する分解酵素を活性化するLMW−DSにより、実施例5で認められた抗瘢痕形成効果が媒介されることを示唆する。
病理学的反応としての瘢痕形成は、TGFβにより促進される。TGFβは、免疫細胞の接着、細胞の活性化、細胞運動、細胞の凝集、線維症およびTGFβの誘導を生じさせる171個の分子の大きな相互接続ネットワークを誘導する。LMW−DSの投与は、免疫細胞接着、細胞の活性化、細胞の凝集、線維症およびTGFβの自己活性化におけるTGFβ誘導効果を完全に消滅させた。シュワン細胞でTGFβにより促進される分子ネットワークに対するLMW−DSのこれらの不活化効果はまた、TGFβが活性化されている場合でも、すなわち、過剰のTGFβの存在下でも、認められる。
遺伝子発現データにより示された効果は、細胞接着に関して実施例1で認められた表現型の変化、ならびに分化および細胞生存に対する表現型の変化を裏付ける。
従って、これらの調査により、LMW−DSがニューロン生存、分化および最終的に修復を促進し得る場合、神経変性疾患、障害および状態のために、血行再建の促進、二次的組織損傷の低減、および修復促進による、虚血後の状態におけるLMW−DSの潜在的治療有用性が確証される。
LMW−DSにより調節された遺伝子の上流制御因子の分析は、ヘパリンの効果と同様に、LMW−DSが細胞上の既存の成長因子の効果を高めたことを示した。仮説として、LMW−DSが成長因子分子に結合し、それらの受容体への結合を促進するということである。
この仮説はまた、HUVEC中のLMW−DS誘導差次的遺伝子発現(正常CMは既にヘパリンを含む)は、シュワン細胞中(正常CMはヘパリンを含まなかった)より相対的に少なかったという観察により裏付けられる。
作用機序はまた、成長因子が存在する場合には、実施例3で認められるTBIの急性段階でLMW−DSが効果的であるが、初期の修復の試みが既に減少している場合に、後期段階では効果が少ないのはなぜかを説明する。
従って、LMW−DSの少なくとも一部の治療効果は、LMW−DSにより増幅される既存の修復機序に依存する可能性がある。このような場合では、組織に十分な修復潜在能力がある場合、いずれの神経変性状態においても、LMW−DSは、疾患または状態の初期段階で投与されることが一般に推奨される。
細胞代謝を保護することにより、LMW−DSは、虚血性、酸化性または外傷性損傷により細胞が進行的に失われる多くの変性状態の有用な保護治療薬であり得る。このような変性状態の非限定的例には、脳卒中、ALS、MS、認知症、TBI、SCI、網膜損傷、AD、などが例示される。LMW−DSは、残っている内因性修復機序を高めながら、それらの損傷組織を支援して、一部の失われた機能を回復し得る。
LMW−DSの抗瘢痕形成作用は、線維増殖性(瘢痕形成)状態の治療への使用可能性を示す。これらには、例えば、緑内障、増殖性硝子体網膜症、SAH、脳および脊椎外傷性傷害、侵襲的外科手術、術後癒着、腱板損傷、火傷、再建手術、潰瘍状態(糖尿病)などが含まれる。実験結果は、線維増殖性(瘢痕形成)状態の発生の防止およびこのような線維増殖性(瘢痕形成)状態での既発症線維化瘢痕の分解の両方におけるLMW−DSの役割を裏付ける。
実施例5
本実験は、LMW−DSの緑内障眼上の線維柱帯網(TM)瘢痕形成に対する効果を調査した。
材料および方法
試験計画
形質転換増殖因子β(TGF−β)の反復週2回の前房内(IC)への注射をして眼圧(IOP)を高めることにより、成体雄スプラーグドーリーラットラットに緑内障を誘発した。IOPの持続的増加(2週後)が網膜神経節細胞の死をもたらす(30〜40%)。実験の開始から、15mg/kgのLMW−DSを毎日の皮下注射により投与し、対照と比較して、RGC保護を評価した。
群1:n=12匹のラット;24個の眼 IOP+IC TGF−β(週2回28日間)0日目〜28日目+14日目〜28日目にデキストラン硫酸の毎日の皮下投与。
群2:n=8匹のラット;16個の眼 IOP+IC TGF−β(週2回28日間)0日目〜28日目+14日目〜28日目にビークル(生理食塩水)の毎日の皮下投与。
群3:n=8匹のラット;8個の眼 IOP+無処理(未損傷眼)および8個の眼 IOP+IC PBSを毎日28日間。
測定評価項目
・IOPを0日目〜28日目の試験期間を通して週2回測定;
・免疫組織化学的検査で、28日目に脳特異的ホメオボックス/POUドメインタンパク質3A(Brn3a)に対し免疫反応性の網膜神経節細胞(RGC)を計数(RGC生存);
・免疫組織化学的検査で、ラミニンおよびフィブロネクチンにより、28日目に群1および2で線維柱帯網中の瘢痕形成を評価;
・前眼部光干渉断層撮影(OCT)画像化を28日目に実施し、RGC軸索を含む網膜神経線維層の角度および厚さを検査;
・体重、28日目。
動物および手術
16匹の8〜10週齢の雄175〜200g スプラーグドーリーラット(Charles River,Kent,UK)を、食物と水を自由に摂取させ、12時間の明暗周期下で収容し、これらの実験に使用した。University of BirminghamのBiomedical Services Unitで、1986年にAnimal Act(UK)で規定された内務省ガイドラインおよび眼科および視覚研究での動物使用に関するARVO声明(the ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従って手術を実施した。全ての眼の外科手術およびIOP測定を1.5l/分の流速で2〜5%のイソフルラン/95%O(National Vet Supplies,Stoke,UK)を使った吸入麻酔下で行った。全てのラットの術後の健康を詳細に監視した。
0日目に、15°の使い捨て型の刃を用いて、自作の使い捨て型無菌ガラスマイクロピペット(Harvard Apparatus,Kent,UK)で形成したトンネルを通して、反復して週2回の(週2回)28日間にわたる活性ヒト組換えTGFβ1(5ng/μl;Peprotech,London,UK)の3.5μlのIC注射(毎月曜と木曜)を可能とする1カ所の自己閉鎖創を角膜を通して両眼の前眼房中へ形成した。
免疫組織化学的検査(IHC)用の組織調製
漸増濃度のCOに曝露することによりラットを屠殺し、100mlのリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で経心的に潅流して、血液を洗い流した後、100mlのPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)pH7.4でさらなる灌流を行った。IHC用に切開した眼をPBS中の4%PFA中、4℃で2時間の浸漬により後固定をした後、漸増濃度のスクロース溶液(10%、20%および30%のスクロース含有PBS;全て、Sigma,Poole,UKから入手)中に4℃でそれぞれ24時間浸漬することにより凍結保護し、その後、剥離モールド容器(Agar Scientific,Essex,UK)中の最適切断温度の包埋剤(Thermo Shandon,Runcorn,UK)中に包埋した。最適切断温度包埋剤中に浸漬した眼を粉砕ドライアイス中で急速凍結後、−80℃で貯蔵し、しばらくした後で、Brightクリオスタットミクロトーム(Bright,Huntingdon,UK)を用いて、視神経乳頭を通る傍矢状面で−22℃で15μm厚に切断した。切片を正に帯電したスライドガラス(Superfrost plus;Fisher Scientific,Pittsburgh,USA)上に取付け、37℃で2時間放置し、−20℃で貯蔵した。
免疫組織化学的検査
凍結切片を30分間放置して解凍した後、PBS中で3x5分洗浄し、続けて、0.1%トリトンX−100(Sigma)で20分間の透過処理を行った。切片を0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)およびPBS中の0.3%のツイーン20(全てSigmaから入手)中で30分間ブロッキングし、一次抗体(表11)と共に一晩インキュベートした後、PBS中で3x5分洗浄し、二次抗体(表11)と共に室温(RT;20〜25℃)で1時間インキュベートした。その後、切片をPBS中で3x5分洗浄し、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)含有Vectorshield封入剤(Vector Laboratories)で取り付けた。二次抗体単独と共にインキュベートした対照組織切片を全てネガティブ染色した(図示せず)。
Figure 2020533281
免疫組織化学的検査の定量化
免疫蛍光染色後、切片をZeiss Axioplan 2 落射蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Ltd)で観察し、各抗体に対し同じ暴露時間を使ってZeiss AxioCam HRcを用いて画像を取得した。IHCを以前に記載した方法により定量化した(Hill et al.,Decorin reduces intraocular pressure and retinal ganglion cell loss in rodents through fibrolysis of the scarred trabecular meshwork.Invest Ophthalmol Vis Sci.2015,56(6):3743−3757)。手短に説明すると、TM線維症の定量化に使用する関心領域をTM内の全ての眼/治療に対する同じ予め決められた大きさの象限により定義し、ECM沈着をこの定義したTMの象限内で定量化し、規格化バックグラウンド閾値を超える%免疫蛍光ピクセルをImageJソフトウェア(National Institutes of Health,USA)を使って計算した。各抗体に対し、TMの領域中の輝度の閾値レベルを無傷の非治療眼切片を用いて設定し、ピクセル強度の試験群分析に対する基準レベルを定義した。画像をランダム化した番号に割付けて、査定者による定量化の間の治療群の盲検化を確保した。
網膜切片中のRGCの定量化のために、RPBMS/DAPI RGCを、視神経の両側の神経細胞層からの250μmの直線部由来の15μm厚の網膜の傍矢状切片で計数した。対照および治療群中の各眼由来の4つの網膜切片を定量化した。画像をランダム化した番号に割付けて、査定者による定量化の間の治療群の盲検化を確保した。
統計
全ての統計解析をSPSS20(IBM、USA)を用いて実施した。正規分布試験を実施し、治療を比較するための最も適切な統計解析を決定した。統計的有意性は、p<0.05で決定した。>2群比較±SEMに対してスチューデントt検定または一元配置分散分析を用いてTM線維症の有意差を検定し、平均±SEMとしてテキストで示すか、または図表により表示する。
結果
LMW−DS治療は、免疫反応性ラミニン(図20)およびフィブロネクチン(図21)の角度の有意に低減した(P<0.001 ラミニン;P<0.01 フィブロネクチン)レベルからも明らかなように、TM瘢痕形成を有意に減弱させた。
考察
デキストラン硫酸治療ラットの角度におけるラミニンおよびフィブロネクチンのレベルは有意に小さかったので、LMW−DS治療は、既発症TM瘢痕要素の分解を誘導した。このことから、このLMW−DSの抗瘢痕形成効果は、薬物が既発瘢痕の分解に使用でき、それにより、例えば、線維性状態の組織リモデリングおよび創傷治癒を可能とすることを示す。
実施例6
アルツハイマー病(AD)は、患者およびその家族にとって壊滅的であり、かなりの経済的資源を必要とし、健康管理システムに対する大きな負担である。症状の小さな、多くの場合一時的である改善を与えることを試みる現在の戦略により、患者に対しわずかな治療効果を提供できるが、多くの患者は全く効果を得ることができない。疾患修飾薬は治療を変容させ、市場に深く浸透する可能性がある。
ADの病理学的特徴は、βアミロイドタンパク質から構成される老人斑の存在である。βアミロイドタンパク質は、オリゴマー化して生理学的神経伝達に悪影響を与え、加えて、神経毒性複合体を形成する。オリゴマーβアミロイドタンパク質の有害な作用の一部は、細胞性プリオンタンパク質(PrP)とのタンパク質−タンパク質相互作用を介して媒介される。従って、このタンパク質−タンパク質相互作用を抑制する薬理学的戦略は、疾患修飾治療薬としての可能性を有する。
この試験は、ADを治療する治療薬としての疾患修飾潜在力を明らかにするために、LMW−DSのオリゴマーβアミロイドとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用を抑制する能力を調査した。
材料および方法
化学薬品および抗体
ストレプトアビジンHRPをBioLegendから入手;βアミロイド−(1−42)−ビオチンをInnovagenから入手;正常なヒト細胞性プリオンタンパク質(PrP)をMerckから入手;TMBをeBioscienceから入手;1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)をSigmaから入手;抗アミロイドβ抗体クローン6E10をBioLegendから入手;抗マウスHRPをCell Signalingから入手;平均M.W.>500,000Daのデキストラン硫酸ナトリウム塩(DSSS)をSigmaから入手;デキストラン(M.W.450,000〜650,000Da)をSigmaから入手;MaxisorpプレートをSigmaから入手。
アミロイドβオリゴマーの調製
βアミロイドのオリゴマー化を以前の方法(Stine et al.,Methods Mol.Biol.2011,670:13−32;Aimi et al.,J Neurochem.2015,134:611−617)に基づいて最適化した。手短に説明すると、アミロイドβをHFIP中で1.0mMの最終濃度に溶解し、保護超音波処理に供し、HFIPを注意深く蒸発させた。生成したペプチドフィルムを密閉容器中、−20℃で貯蔵した。使用前に、ペプチドフィルムをDMSO中で5.0mMの最終濃度にゆっくり溶解し、10分間の保護超音波処理に供した。オリゴマーを調製するために、DMSO溶液を氷冷DMEM培地中で、100μMの最終濃度に希釈し、37℃で16時間インキュベートした(βアミロイド−ビオチン)。モノマーを調製するために、DMSO溶液を氷冷18MOhm水中で、100μMの最終濃度に希釈し、直ちに使用した。
アミロイドβモノマーおよびオリゴマーの特定
アミロイドβのモノマーまたはオリゴマーの生成に最適化した調製物を5%のSDS含有還元剤不含ゲルサンプルバッファー中で可溶化した。還元剤不含MESランニングバッファーを用いて、タンパク質を15%ビス−トリスゲル上で測定した。ゲルをPVDFに移し、10%脱脂乳中でブロッキングし、その後、抗アミロイドβ抗体と共に、4℃で一晩インキュベートし、抗マウスHRPで、続けてECLで展開し、フィルムに露光した。
オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用を定量化するELISA法
PrPをカーボネートコーティング緩衝液中で10xコーティング量に希釈し(100μl;ウェル当たり500ngのPrPの最終量)、Maxisorpプレートに塗布した。その後、プレートを密閉し、4℃で一晩置いた。コートしたプレートをPBS−ツイーン20中で注意深く洗浄し、PBS中の2%BSAでブロッキングした。プレートを洗浄し、100μlのオリゴマーアミロイドβ−ビオチンペプチド調製物(最終濃度200nM)を試験化合物と注意深く混合し、各ウェルに添加した。プレートを室温で60分間インキュベートし、洗浄して、ストレプトアビジン−HRPで処理し、さらに洗浄後、TMBで発色させた(2NのHSOで反応を停止させた)。吸光度を450nmで30分以内に読み取った。
全ての条件を3回繰り返した実施した。PrPに対するアミロイドβ−ビオチン結合をAimi et al.,J Neurochem.2015,134:611−617により記載のように計算した。
カーブフィッティング
フローティング4パラメータロジスティック式に対し反復カーブフィッティングにより定量的薬理学的分析を実施した。
結果
アミロイドβモノマーおよびオリゴマーの生成
最適化プロトコルによりアミロイドβモノマーおよびオリゴマーを調製し、オリゴマー化に成功して、Aimi et al.,J Neurochem.2015,134:611−617による記載の結果に比べて、より高い見かけの効率を得た(図22)。
オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用の定量的査定のためのELISA法の最適化
Aimi et al.,J Neurochem.2015,134:611−617により報告された方法は、ELISAプレート上のウェル当たりのコートされるタンパク質の量を明記しなかったが、ウェル当たり50ngのPrPを暗示した。しかし、この量をプレートにコートした場合、オリゴマーアミロイドβの特異的結合シグナルが明らかではなかった。より効果的なコーティング緩衝液を用いて実験を繰り返したが、それでもシグナルは明確にはならなかった。シグナルの欠如、およびMaxisorpプレートの既知の理論的最大結合能力(600〜650ng/cm)は、コーティングレベルが最適ではないことを示した。従って、PrPコーティングレベルの範囲を評価した;ウェル当たり250ngのPrPでは、オリゴマーアミロイドβの比較的小さなシグナルが識別できたが、ウェル当たり500ngのPrPのコーティングレベルで、より大きく、再現性のあるシグナルが明確であった。本コーティング量は、発表された文献(Beringe et al.,Brain.2003,126:2065−2073: 500ng/well使用;Nakato et al.,J Immunol.2012,189:1540−1544:250ng/well使用、Souan et al.,Eur J Immunol.2001,31:2338−2346:様々なプリオンタンパク質構築物を1.0 μg/well使用)と一致する。
オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用と競合するDSSSおよびLMW−DSの能力
DSSSは、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用に関し、LMW−DSと同様に濃度依存形式で競合した(図23;表12)。定量的薬理学的分析は、付き合わせて比較した場合のレベルでの競合結合およびヒル係数の明らかな差異にもかかわらず、LMW−DSはDSSSと同等の全体的親和性を呈することを示し、2つの化合物間の異なる相互作用を示唆する(図23;表12)。DSSSとLMW−DSとは対照的に、デキストランは、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用に関し、明確には競合できなかった。
Figure 2020533281
考察
高分子量デキストラン硫酸(DSSS)は、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用と、低μg/ml範囲の有効濃度で競合すると以前に報告された(Aimi et al.,J Neurochem.2015,134:611−617)。本調査では、方法の最適化により、Aimiらの調査に比べて、明らかにより多くの比率のオリゴマーアミロイドβが生成された。タンパク質−タンパク質相互作用ELISAの最適化により、より大きな程度の特異的タンパク質−タンパク質相互作用が得られ;競合のより大きなダイナミックレンジにより競合化合物による相互作用の定量的薬理学的分析が容易になった。従って、本調査は、Aimiらによる報告の調査に比べて改善を示す。
DSSSとLMW−DSは、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用に関し、競合する同等の親和性を示し、それぞれ、0.62±0.07および0.42±0.16μg/mLのIC50値を得た。競合の性質のヒル分析は、DSSSに関連する相対的に高いヒル係数に比較して、LMW−DSがより浅い競合曲線を呈することを示し、これは、DSSSとLMW−DSとの間の異なる薬理学的作用に関する証拠を提供する。
従って、LMW−DSは、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用に関し競合し、それにより、このタンパク質−タンパク質相互作用を防止する、または少なくとも抑制するために使用され得る。LMW−DSで認められるこの効果は、オリゴマーアミロイドβとPrPとの間のタンパク質−タンパク質相互作用を含むADなどの疾患および障害に対し潜在能力を有する。
実施例7
この試験の目的は、ラットにおける閉鎖性頭部びまん性重度TBI(sTBI)の実験モデルにより形成された生化学的、分子的および組織解剖学的損傷に対するLMW−DSの潜在的神経保護効果を評価することであった。本調査では、結果は、治療動物の脳組織抽出物中の、エネルギー代謝、酸化/ニトロソ化ストレス、抗酸化剤および遊離アミノ酸に特有の低分子量代謝物のHPLC分析により得た。
材料および方法
sTBIの誘導および薬物投与プロトコル
300〜350g体重の雄ウィスターラット(n=160)をこの試験で使用した。それらに、制御された環境中で標準的実験食および水を自由に与えた。
動物は、麻酔剤混合物として、35mg/kg体重のケタミンおよび0.25mg/kg体重のミダゾラムを筋肉内注射により受けた。Marmarou et al.J.Neurosurg.1994,80:291−300により設定された、「重量落下」衝撃加速度モデルに従って、びまん性sTBIを導入した。このモデルは、びまん性軸索損傷を引き起こし、ヒトのびまん性TBIの物理的および機械的特性を再現できる。
重度TBIを2mの高さから、機械的な力を脳に均一に分布させるためにヘルメット(歯科用セメントを用いて頭蓋骨上に予め固定された金属ディスク)で保護されたラットの頭上への450gの重りの落下により誘導した。ラットを特殊容器中に挿入した特殊ポリウレタン発泡体のベッド上に腹臥位で置き、この発泡体は位置エネルギー(機械的な力に由来する)の大部分を消散させ、脊椎損傷を生じ得る衝撃後の動物の全ての反発を防止する。
頭蓋骨骨折、発作、鼻出血した、またはその衝撃に生存しなかったラットは、調査から除外された。TBI誘導の2または7日後に、ラットは再度麻酔され、その後直ちに屠殺された。これらの時点は、最悪の生化学的障害(2日)に一致し、またはわずかに損傷した脳の場合には、完全代謝回復(7日)と一致する。
薬物治療は、0.5mlのLMW−DS(Tikomed)の皮下注射により、3種の異なる濃度(1、5および15mg/kg体重)で、以下に記載の概略プロトコルに従って投与した。
シャム手術された動物は、TBIを除いて麻酔の同一手順を受け、対照群として使用された。
実験計画
TBI後の2つの異なる時点での3種の異なる濃度のLMW−DSの有効性の試験を実施するために、この試験で使われるラットを4群に分けた。この後で指定されるように、各群では、以下に記載の手順に従って、動物を代謝分析のための特定の治療に供し、他の動物を組織形態学的試験用とした。
群1
対照(n=12)生化学的評価専用とした。追加の4匹の動物を組織形態学的試験用に使用した。この群のラットの合計:n=16
群2
sTBIの導入を受け、薬理学的治療をしないラットを次の亜群に分けた:
1.sTBIの導入を受け、TBIの2日後に屠殺された12匹の動物
2.sTBIの導入を受け、TBIの7日後に屠殺された12匹の動物
各亜群に対する4匹の追加のラットを組織形態学的試験用に使用した。この群のラットの合計:n=32。
群3
sTBIの導入を受け、TBIの30分後にLMW−DSの単回投与を受け、TBIの2日後に屠殺されたラット。動物を次の亜群に分けた:
1.sTBIの導入を受け、1mg/kg体重のLMW−DSの治療を受けた12匹の動物
2.sTBIの導入を受け、5mg/kg体重のLMW−DSの治療を受けた12匹の動物
3.sTBIの導入を受け、15mg/kg体重のLMW−DSの治療を受けた12匹の動物
各亜群に対する4匹の追加のラットを組織形態学的試験用に使用した。この群のラットの合計:n=48。
群4
sTBIの導入を受け、TBIの30分後にLMW−DSの単回投与を受け、TBIの7日後に屠殺されたラット。動物を次の亜群に分けた:
1.sTBIの導入を受け、1mg/kg体重のLMW−DSの治療を受けた12匹の動物
2.sTBIの導入を受け、5mg/kg体重のLMW−DSの治療を受けた12匹の動物
3.sTBIの導入を受け、15mg/kg体重のLMW−DSの治療を受けた12匹の動物
各亜群に対する4匹の追加のラットを組織形態学的試験用に使用した。この群のラットの合計:n=48。
群5
sTBIの導入を受け、TBIの30分、3日および5日後に最大投与量のLMW−DS(15mg/kg体重)の反復投与を受け、TBIの7日後に屠殺されたラット(n=12)。4匹の追加のラットを組織形態学的試験用に使用した。この群のラットの合計:n=16。
生化学的および遺伝子発現分析のための脳組織処理
代謝物の損失を最小化するために、全ての動物でインビボ骨切除開頭術を麻酔の間に実施した。ラット頭蓋骨を注意深く取り除き、脳を露出させ、矢状溝に沿って素早く切り、2つの半球を分離した。生化学的分析専用とした半球を液体窒素中で予冷したアルミニウムトングにより凍結クランプし、液体窒素中に浸漬した。凍結クランプ手順を導入して、組織の凍結を加速し、それにより、代謝物損失の可能性を最小化した。
分子生物学分析専用の残りの半球を5〜10倍量の、RNAを安定化し、RNAを分解から保護するRNA安定化溶液であるRNAlater(登録商標)溶液(Invitrogen Life Technologies)中に入れた。脳試料を4℃で一晩貯蔵し、溶液を組織に完全に浸透させた。
代謝物分析用の組織ホモジナイゼーションを次のように行った。湿重量(w.w.)測定後、凍結した半球を7mlの氷冷の窒素飽和した、CHCN+10mMのKHPO、pH7.40(3:1;v:v)からなる沈殿溶液中に入れ(1:10 w/v)、ホモジナイゼーションをUltra−Turraxホモジナイザーセット(Janke & Kunkel,Staufen,Germany)を用いて、24,000rpm/分で実施した。20,690xg、4℃で10分間遠心分離後、透明上清を保存し、ペレットに分取量の10mlのKHPOを補充し、上述のように再度ホモジナイズし、組織からの水相の完全回収を行うために、−20℃で一晩保存した。2回目の遠心分離を実施し(20,690xg、4℃で10分間)、上清を前に得たものと合わせて、2倍の量のHPLCグレードCHClと共に強く撹拌することにより抽出し、上記のように遠心分離した。上層の水相(水溶性低分子量化合物を含む)を収集し、さらに2回のクロロホルム洗浄に供し(この手順は、緩衝化組織抽出物から全ての有機溶媒および任意の脂質可溶性化合物の除去を可能とする)、体積を最終的に水性の10%組織ホモジネートを得るように10mMのKHPO、pH7.40で調節し、アッセイするまで−80℃で保存した。
エネルギー代謝物、抗酸化剤および酸化/ニトロソ化ストレスバイオマーカーのHPLC分析
一定分量の各脱タンパク組織試料を0.45μmのHV Milliporeフィルターを通して濾過し、それ自体のガードカラムを備えたHypersil C−18、250x4.6mm、5μm粒径カラム(Thermo Fisher Scientific,Rodano,Milan,Italy)に充填し(200μl)、高感度ダイオードアレイ検出器(5cm光路フローセルを備えた)を有し、200〜300nmの波長で設定された、Surveyor System(Thermo Fisher Scientific,Rodano,Milan,Italy)からなるHPLC装置に連結した。データ取得および分析は、HPLC製造業者から提供されたChromQuest(登録商標)ソフトウェアパッケージを用いて、PCで実施した。
組織エネルギー状態、ミトコンドリア機能、抗酸化剤に関連する代謝物、および酸化/ニトロソ化ストレスに特有の代謝物(下に記載)を、わずかに修正した既存のイオン対HPLC法に従って、1回のクロマトグラフィーを行って分離した(Lazzarino et al.,Anal Biochem.2003;322:51−59;Tavazzi et al.,Clin Biochem.2005;38:997−1008)。組織抽出物のクロマトグラフ実験での目的の化合物の帰属および計算を、適切な波長(206、234および260nm)を用いて、ピークの保持時間、吸収スペクトルおよび面積を、既知の濃度を有する新たに調製した超純度標準混合物のクロマトグラフィー実験のピークのものと比較することにより実施した。
化合物のリスト:シトシン、クレアチニン、ウラシル、β−プソイドウリジン、シチジン、ヒポキサンチン、グアニン、キサンチン、CDP−コリン、アスコルビン酸、ウリジン、亜硝酸塩(NO)、還元型グルタチオン(GSH)、イノシン、尿酸、グアノシン、CMP、マロンジアルデヒド(MDA)、硝酸塩(NO)、UMP、NAD、ADO、IMP、GMP、UDP−グルコース(UDP−Glc)、UDP−ガラクトース(UDP−Gal)、UDP−N−アセチル−グルコサミン(UDP−GlcNac)、UDP−N−アセチル−ガラクトサミン(UDP−GalNac)、AMP、GDP−グルコース、UDP、GDP、NADP、ADP−リボース、CTP、ADP、UTP、GTP、NADH、ATP、NADPH、マロニル−CoA、コエンザイムA(CoA−SH)、アセチル−CoA、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)。
遊離アミノ酸およびアミノ基含有化合物のHPLC分析
一級遊離アミノ酸(FAA)およびアミノ基含有化合物(AGCC)(以下に記載)の同時測定を、試料とOPAとMPAの混合物のプレカラム誘導体化を用いて、Amorini et al.,J Cell Mol Med.2017;21:530−542;Amorini et al.,Mol Cell Biochem.2012;359:205−216に記載のように実施した。手短に説明すると、25mmol/lのOPA、1%のMPA、237.5mmol/lのホウ酸ナトリウム、pH9.8から構成される誘導体化混合物を毎日調製し、オートサンプラーに導入した。試料(15μl)のOPA−MPAを用いた自動化プレカラム誘導体化を、24℃で実施し、その後のクロマトグラフ分離のために、25μlの誘導体化混合物をHPLCカラム(Hypersil C−18、250x4.6mm、5μm粒径、サーモスタットで21℃に温調)に充填した。グルタミン酸を正確に定量化するために、誘導体化手順およびその後の注入の前に、脱タンパク脳抽出物をHPLCグレードHOで20倍に希釈した。2種の移動相(移動相A=24mmol/lのCHCOONa+24mmol/lのNaHPO+1%のテトラヒドロフラン+0.1%のトリフルオロ酢酸、pH6.5;移動相B=40%CHOH+30 CHCN+30%HO)を用いて、1.2ml/分の流量で、適切な段階勾配を使って、OPA−AAおよびOPA−AGCCの分離を実施した。
全脳抽出物のクロマトグラフ実験でのOPA−AAおよびOPA−AGCCの帰属および計算を、338nmの波長で、ピークの保持時間および面積を、既知の濃度を有する新たに調製した超純度標準混合物のクロマトグラフィー実験のピークのものと比較することにより実施した。
FAAおよびAGCC化合物のリスト:アスパラギン酸(ASP)、グルタミン酸(GLU)、アスパラギン(ASN)、セリン(SER)、グルタミン(GLN)、ヒスチジン(HIS)、グリシン(GLY)、トレオニン(THR)、シトルリン(CITR)、アルギニン(ARG)、アラニン(ALA)、タウリン(TAU)、γ−アミノ酪酸(GABA)、チロシン(TYR)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、L−シスタチオニン(L−Cystat)、バリン(VAL)、メチオニン(MET)、トリプトファン(TRP)、フェニルアラニン(PHE)、イソロイシン(ILE)、ロイシン(LEU)、オルニチン(ORN)、リシン(LYS)。
組織形態学的分析のための脳組織プロセッシング
十分な麻酔後に、Di Pietro et al.,Sci Rep.2017,7(1):9189に記載のようにしてラットを経心的に潅流した。手短に説明すると、開胸術を実施し、ヘパリン溶液を門脈に投与して全ての手術中の血液凝固を回避した。その後、右心房切開を実施し、還流ニードルを上行大動脈中に進めた。100mlのリン酸緩衝液(PBS)pH7.4で灌流を実施し、血液を洗い流した後、PBS溶液中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)pH7.4でさらなる灌流を行った。頭蓋骨からの迅速な取り出し後、各脳を100mlのPBS溶液中の4%PFA、4℃で2時間の浸漬により後固定をした。漸増スクロース溶液(10%、20%および30%)で富化したPBS中に全脳を24時間浸漬することにより凍結保護を得た後、剥離モールド容器(Agar Scientific,Essex,UK)中の最適切断温度の包埋剤(OCT)(Thermo Shandon,Runcorn,UK)中に埋め込んだ。OCT中に浸漬した脳を粉砕ドライアイス中で急速に凍結した後、−80℃で貯蔵した。
統計解析
群をまたがる差異は、スチューデントのt検定により推定した。0.05未満の両側p値のみを、統計的に有意であると見なした。
結果
sTBIの2日後に記録した生化学的データのまとめ
測定した脳エネルギー代謝に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表13は、リン酸化された高エネルギープリンおよびピリミジン化合物に関する値をまとめたものである。三リン酸ヌクレオチド(ATP、GTP、UTPおよびCTP)の枯渇がsTBIにより引き起こされ、これに付随して、ADPの増大、およびUDPグルコース(UDP−GlcNac)およびUDP−ガラクトース(UDP−GalNac)のN−アセチル化誘導体の増大があったことが特に明らかである。
損傷後のこの時点で、LMW−DSによる治療は、細胞エネルギー代謝の改善では部分的に効果的であるにすぎず、高エネルギーリン酸塩(ATP、GTP、およびCTP)の有意に高い値は、試験した3種全ての薬物の投与量で記録された。UTPおよびADPの濃度に対しては、効果が認められなかった。ラットのTBI後の48時間は、脳代謝にとって重要な時点であり、ミトコンドリアの品質管理の変化を含むミトコンドリアの機能の最大の変化に一致することは想起する価値がある。このTBIの実験モデルでは、この時点は、脳代謝の回復または非回復が決定される一種の「ターニングポイント」であると考え得る。

Figure 2020533281
Figure 2020533281
表13〜31では、太字は、対照に対し有意差を示す(p<0.05);太字下線は、TBIに対し有意差を示す(p<0.05);および太字イタリックは、対照およびTBIの両方に対し有意差を示す(p<0.05)。
ニコチンコエンザイムに対する漸増用量のLMW−DSの効果
酸化型(NADおよびNADP)および還元型(NADHおよびNADPH)ニコチンコエンザイムの値を表14にまとめている。この表14はまた、計算されたNAD/NADH比の無次元値を報告する。これは、代謝が解糖またはミトコンドリアの酸化的リン酸化にどれほど依存しているかを評価するのに好適する。
以前に本明細書で観察したように、sTBIは、NAD、NADPおよびNAD/NADH比率を低減させた。この時点で、LMW−DSによる治療は試験した最大投与量(15mg/kg体重)でのみ効果的で、ニコチンコエンザイムプールの有意な保護をもたらし、解糖の方向への代謝スイッチを回避し、それにより、全体的により良好なミトコンドリア機能を間接的に示唆する。
Figure 2020533281
CoA−SH誘導体に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表15は遊離CoA−SHおよびCoA−SH誘導体に関するデータを報告する。特にアセチル−CoAは、ミトコンドリア代謝がトリカルボン酸サイクル(TCAサイクル)の正確な機能動作を可能とし、それにより、電子伝達鎖(ETC)に対する連続的な電子供給を確保するために重要な化合物である。TCAは、還元型コエンザイム(NADHおよびFADH)の生成のための主要な細胞周期であり、還元型コエンザイムは、それらの電子をそれぞれミトコンドリア複合体IおよびIIに移すことによる、ETCおよび酸化的代謝のための燃料である。全ての化合物、とくにアセチル−CoAは、sTBIにより有意に影響を受ける。この化合物の部分回復は、5または15mg/kg体重の場合に観察された。LWM−DSは損傷の30分後に動物に投与された。
Figure 2020533281
抗酸化剤および酸化/ニトロソ化ストレスバイオマーカーに対する漸増用量のLMW−DSの効果
表16は、主要水溶性脳抗酸化剤(アスコルビン酸およびGSH)および酸化(MDA)およびニトロソ化ストレス(−NO および−NO )のバイオマーカーの濃度を示す。マロンジアルデヒド(MDA)は、ROS媒介脂質過酸化の結果としての膜リン脂質の不飽和脂肪酸の分解が起源である。亜硝酸塩(−NO )および硝酸塩(−NO )は、一酸化窒素(NO)代謝の安定な最終生成物であり、これは、病的状態下で誘導型の一酸化窒素合成酵素(iNOS)により過剰に生成され、ROSとの反応を介して活性窒素種(RNS)を生ずる。
衝撃の2日後に、sTBI導入ラットで両方の水溶性抗酸化剤の25〜45%の減少が起こった。結果としての酸化/ニトロソ化ストレスの痕跡の増大も同様に記録された。LWM−DSの投与は、アスコルビン酸および還元型グルタチオン(GSH)両方の濃度を有意に回復し、脳組織亜硝酸塩および硝酸塩の減少が明らかであった。これらの効果は、15mg/kg体重が使用された場合により顕著であった。

Figure 2020533281
脱リン酸化プリンおよびピリミジンに対する漸増用量のLMW−DSの効果
表16で報告された大部分の化合物は、プリンおよびピリミジンヌクレオチドの分解経路が起源であり、細胞エネルギー代謝と間接的に結びついている。sTBIを導入されたラットでは、CDPコリンを除き、全てのこれらの化合物はより高い脳中濃度であり、これらのほとんどは、薬物投与によりよい方向に影響を受けた。

Figure 2020533281
N−アセチルアスパラギン酸(NAA)に対する漸増用量のLMW−DSの効果
NAAは、哺乳動物脳の最も豊富なN−アセチル化アミノ酸であり、その濃度は、ヒトの神経伝達物質グルタミン酸の濃度とほぼ等しい。NAAの生物学的役割がまだ完全には明らかにされていないにもかかわらず、我々は、前臨床および臨床試験の両方で、TBIがNAA濃度を減らし、頭部損傷後のその経時変化は、ATPの経時変化を反映することを明確に示した。特に我々は、sTBIがNAA恒常性の不可逆的変化を引き起こすこと、NAAが脳エネルギー代謝の良好な代用マーカーであること、および脳振盪後のアスリートのNAAレベルの減少および回復が症状除去よりも遙かに遅いことを見出した。従って、NAAは、TBIの研究に特別な関連性を有する。
sTBIラットの全脳NAA中で、衝撃の2日後に40%の減少が観察された(図24)。LMW−DSは、5または15mg/kg体重を投与した場合に、NAA濃度に対し有益な効果をもたらした。対照よりも有意に低いが、2種の薬物投与量のいずれか1つを投与されたラットのNAAは、sTBIラットで見出されるものより有意に高い値であり、最大のNAAレベルは最大投与量のLMW−DSを受けたラットで見出された。
神経伝達に関与する遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表17に記載の化合物は、神経伝達に直接的に(GLU、GABA)または間接的に(GLN、ASP、ASN、GLY、SER、THR、ALA)関与するアミノ酸である。特に、GLUは、主要な興奮性アミノ酸であり、GABAによりその作用が打ち消される。GLUの興奮毒性は、SER、GLY、THRおよびALAにより調節され、これは、ニューロンおよび星状膠細胞を含むGLU−GLNサイクルの機能に関連している。以前の試験(16)で示したように、我々は、ほとんどのこれらのアミノ酸が損傷の2日後のsTBIラット中で増加したことを見出した。LMW−DSの単回投与による動物の治療は、5または15mg/kg体重の薬物を皮下に注入した場合、部分的に効果的であった。ほとんどの場合、これらの種々の化合物の値は、未治療sTBI動物群で認められた値よりも有意に良好であったが、対照の値よりも良好でなかった。

Figure 2020533281
メチルサイクルに関与する遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表18で報告された遊離アミノ酸は、細胞代謝でメチルドナーとして作用する化合物の恒常性を調節する所謂メチルサイクルに関与する、または、遊離−SH基を有する唯一のアミノ酸であるシステインの形成に関与する。重度頭部外傷は、この重要な代謝経路の主要な動作主体の有意な変化を引き起こした。メチオニンの回復は、試験したいずれかの投与量のLWM−DSにより行われた。薬物治療は、その他のアミノ酸の正常化に関し部分的に効果的であった。L−シスタチオニン(L−Cystat)の変化に対する補足説明は、衝撃の7日後の対応する表中に示される。

Figure 2020533281
一酸化窒素(NO)の生成に関与する遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表19は、3つのアイソフォーム:内皮NOS(eNOS)、神経NOS(nNOS)、誘導性NOS(iNOS)で存在する酵素ファミリーである一酸化窒素合成酵素(NOS)により触媒される反応で、NOの生成に直接関与する遊離アミノ酸の濃度を示す。最後のアイソフォーム(iNOS)は、ニトロソ化ストレスに関与するものである。一酸化窒素は、アルギニン(ARG)が部分的酸化を受けている窒素原子を提供し、シトルリン(CITR)およびNOを生成する複雑な反応を介して生成される。sTBIの2日後の動物は、安定なNO最終生成物の亜硝酸塩および硝酸塩の増加を示すデータ(表15)と一致して、Argの減少およびCITRの増加の同時発生を示した。LMW−DSの投与は、15mg/kg体重の投与量が使用された場合に、特に効果的であった。
Figure 2020533281
長鎖遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表20で報告された遊離アミノ酸は、細胞がTCAサイクルを補充するために使用するα−ケト酸の生成に有用な炭素骨格源である。これらの化合物の内で、イソロイシン(ILE)のみがsTBIにより有意に影響を受け、薬物治療を受けたラット中で回復された。
Figure 2020533281
浸透圧調節物質として作用する遊離アミノ酸および芳香族遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表21にまとめた結果は、sTBIが全てのこれらの遊離アミノ酸の濃度の増大をもたらすことを明確に示す。特に、タウリン(TAU)の増大は、最も重要な脳浸透圧調節物質の1つのレベルを上昇させることにより、細胞浮腫の影響を弱める試みを示唆し得る。別々に、芳香族アミノ酸の増大は、神経伝達物質セロトニン(トリプトファンから形成)およびドーパミン(最初にフェニルアラニンからの、次にチロシンからの生体内変化により生成)生合成の低減を示唆し得る。衝撃後のこの時点ではLMW−DS投与の顕著な効果は観察されなかった。

Figure 2020533281
sTBIの7日後に記録した生化学的データのまとめ
測定した脳エネルギー代謝に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表22は、リン酸化された高エネルギープリンおよびピリミジン化合物に関する値をまとめたものである。sTBIの7日後に、三リン酸ヌクレオチド(ATP、GTP、UTPおよびCTP)の枯渇の回復が観察されなかったことが特に明らかである。AMPおよびADPの同時増大が、UDP誘導体(UDP−Glc、UDP−Gal、UDP−GlcNacおよびUDP−GalNac)の濃度の有意な変化に付随して起こった。一般に、損傷後のより長い時間は、sTBIにより誘導される生化学的、代謝的、分子的変化を悪化させることを特徴とする場合が多いことは強調されるべきである。
損傷後のこの時点で、薬物投与量が1mg/kg体重より高い場合に、LMW−DSによる治療により脳エネルギー代謝の全般的改善がより明確にもたらされた。15mg/kg体重のLWM−DSの反復投与を受けたラットでさえ、対照との差異が記録されたが、有意により高い値のヌクレオチド三リン酸が薬物治療動物で認められた。特に該当するのは、sTBI動物に対する薬物投与の漸増用量により継続的に増大したATP/ADP比率の計算無次元値(これは、ミトコンドリアのリン酸化能力の良好な指標と見なされる)の漸進的回復である。

Figure 2020533281
Figure 2020533281
薬物効果が薬物投与量に関連することをより良く示すために、我々は、図25に図表によりATPに関する結果を報告した。ATPの増大が、何らかの形で投与量に関連すること、および試験したいずれの投与量でも、薬物投与が最も重要な高エネルギーリン酸の有意な増大をもたらしたことを観察できる。
ニコチンコエンザイムに対する漸増用量のLMW−DSの効果
酸化型(NADおよびNADP)および還元型(NADHおよびNADPH)ニコチンコエンザイムの値を表23にまとめている。この表23はまた、計算されたNAD/NADH比の無次元値を報告する。これは、代謝が解糖またはミトコンドリアの酸化的リン酸化にどれほど依存しているかを評価するのに適する。
以前に観察したように、ニコチンコエンザイムおよびNAD/NADH比率の極めて大きな減少が損傷の7日後のsTBIラットで記録された。最低の投与量を除いて、LMW−DSによる治療は、ニコチンコエンザイムの濃度の有意な改善をもたらした。特に、単回および反復投与の15mg/kg体重のLMW−DSにより、対照動物中で測定して、NADレベルを正常化でき、適正なNAD/NADH比率を回復できた。
Figure 2020533281
CoA−SH誘導体に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表24は遊離CoA−SHおよびCoA−SH誘導体に関するデータを報告する。5または15mg/kg体重の投与(この両投与量は、単回および反復投与としてのもの)の顕著な好ましい効果がCoA−SHおよびアセチル−CoAの両方に対し検出され、TCAサイクルの機能動作のためのはるかに好ましい代謝条件を示唆する。
Figure 2020533281
抗酸化剤および酸化/ニトロソ化ストレスバイオマーカーに対する漸増用量のLMW−DSの効果
表25は、主要水溶性脳抗酸化剤(アスコルビン酸およびGSH)および酸化(MDA)およびニトロソ化ストレス(−NO および−NO )のバイオマーカーの濃度を示す。衝撃の7日後に、sTBI導入ラットで両方の水溶性抗酸化剤の濃度の回復が起こらなかった。酸化/ニトロソ化ストレスの極めて高いレベルの痕跡も同様に記録された。LWM−DSの単回および反復投与の効果は、アスコルビン酸および還元型グルタチオン(GSH)両方の濃度の回復に特に有益で、脳組織亜硝酸塩および硝酸塩の減少が明らかであった。これらの効果は、5mg/kg体重が使用された場合にも顕著であった。

Figure 2020533281
薬物効果が薬物投与量に関連することのより良好な理解のために、我々は、図26および27に図表によりアスコルビン酸およびGSHに関する結果を報告した。
脱リン酸化プリンおよびピリミジンに対する漸増用量のLMW−DSの効果
表26で報告された大部分の化合物におけるさらなる悪化は、プリンおよびピリミジンヌクレオチドの分解経路が起源であり、細胞エネルギー代謝と間接的に結びついていることが、sTBIを導入されたラットの損傷の7日後に観察された。ほとんどのこれらの化合物は、薬物投与によりよい方向に影響を受けた。

Figure 2020533281
N−アセチルアスパラギン酸(NAA)に対する漸増用量のLMW−DSの効果
前述したように、sTBIはNAA恒常性の不可逆的変化を生じさせる。この試験でも、我々は、sTBIの7日後、全脳NAAが、対照ラットでの測定値より約50%低い(図28参照)ことを見出した。興味深いことに、漸増用量の単回LMW−DS投与または試験した最大投与量の反復投与を受けたラットで、NAAの用量依存性増大が検出された。
神経伝達に関与する遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表27に記載の化合物は、神経伝達に直接的に(GLU、GABA)または間接的に(GLN、ASP、AASN、GLY、SER、THR、ALA)関与するアミノ酸である。ほとんどのこれらのアミノ酸は、対照と比較した場合、損傷の7日後のsTBIラットで、まだより多かった。この表から、LMW−DSの投与は、特に15mg/kg体重の薬物を、単回または反復投与で皮下に注入した場合に効果的であったことが、明らかである。特に該当するのは、Gluの正常化であり、従って、sTBI後に過剰Glu放出によりLMW−DSは興奮毒性の原因を消滅させることができる。
Figure 2020533281
メチルサイクルに関与する遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表28に示すように、所謂メチルサイクルまたはシステインの形成に関与する遊離アミノ酸のレベルは、対照の対応する値と比較した場合、衝撃の7日後のsTBIラットでまだ異なっていた。最大投与量のLWM−DS(単回または反復投与の両方)を受けた動物でMETの増大が観察された。損傷の2日後で既に観察されたように、これらの薬物レベルは、L−シスタチオニン(L−Cystat)の有意な増大をもたらした。この化合物は、システイン(CYS)の生成の中間体であるので、L−Cystatの増大は結果としてCYSの増大をもたらし得ることを仮定することが想定できる。CYSの測定は、二級アミンおよびCYSと反応する蛍光化合物であるF−MOCを用いた追加の誘導体化を伴う特定の追加のHPLCアッセイを必要とすることは想起する価値がある。
Figure 2020533281
一酸化窒素(NO)の生成に関与する遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表29は、NOの生成に直接関与する遊離アミノ酸の濃度を示す。sTBIの7日後の動物は、安定なNO最終生成物の亜硝酸塩および硝酸塩を示すデータ(表15)と一致して、ARGの減少およびCITRの増加の同時発生を示した。LMW−DSの投与は、5または15mg/kg体重の投与量(単回および反復)が使用された場合に、特に効果的であった。
Figure 2020533281
長鎖遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
細胞がTCAサイクルを補充するために使用するα−ケト酸の生成に有用な炭素骨格源である表30で報告された遊離アミノ酸、および目的の薬物で治療された任意のその他の群の動物は、sTBIの7日後に事実上正常であった。
Figure 2020533281
浸透圧調節物質として作用する遊離アミノ酸および芳香族遊離アミノ酸に対する漸増用量のLMW−DSの効果
表31にまとめた結果は、sTBIが損傷の7日後にタウリン(TAU)の濃度の増大をもたらしたことを明確に示す。LMW−DS投与は、タウ濃度を正常化し、芳香族アミノ酸の増大をもたらした。
Figure 2020533281
考察
TBIは、最もよくある神経変性疾患の1つであり、西欧諸国で45歳未満の死亡の主要な原因である。その発生率は増加中であり、2020年までに、世界保健機関は、TBIが世界中で最も大きな身体障害の原因となると推定している。TBIに関連する症状の重症度に依存して(グラスゴー昏睡尺度で評価して)、TBIの3つの異なるタイプ:軽度TBI(mTBI)、中等度TBIおよび重度TBI(sTBI)を特定することができる。mTBI:sTBIの発生の比率は約22:1であると計算されている。都合の悪いことに、TBIの結果は、多くの場合肢体不自由であり、場合により、認知、物理的および精神社会的な機能の永久的または一時的障害に繋がり、関連する意識状態の減少または変化が伴う。従って、患者は、適切に機能し、社会的関係を維持する重要ないくつかの状況、主として自活する能力において影響を受ける。
TBIは、脳細胞中で重度のミトコンドリアの機能不全を引き起こす生化学的、代謝的および分子的変化のカスケードを特徴とする、ほとんど予測できない二次的侵襲を直接的に誘導する一次侵襲(脳組織に対し作用する衝撃力)からなる複雑な病理過程であると考えられる。損傷の重症度は、脳組織に作用する衝撃力に依存し、実際に、この事象は、軸索および神経繊維の伸長を誘導し、生化学的および分子事象を誘発し、これは、臨床症状の暴動と同時ではない。
現在まで、死亡率を減らし、TBI患者の回復を改善する十分な薬理学的治療は存在しない。推定薬理学的治療は通常、脳組織代謝に対し発生する生化学的および分子的変化、ならびに、組織損傷に厳密に相関付けられた血管および血流変化などの一次侵襲により誘発される神経代謝性カスケードを妨げるそれらの能力に関し試験される。
以前の試験は、TBIの重症度と、嫌気性代謝、ミトコンドリア機能障害、活性酸素(ROS)および窒素種(RNS)の産生増大ならびに興奮性アミノ酸放出の増強に関連するエネルギー欠損との間の有意な相関を実証した。さらに、N−アセチル化アミノ酸N−アセチルアスパラギン酸(NAA)は、インビボでエネルギー代謝の状態を監視するために有用な、信頼性の高い代用バイオマーカーである。実際に、ミトコンドリアのNAA生合成は、高い間接的なエネルギー消費を有するので、NAA脳内濃度の変化は、エネルギー代謝に関連するいくつかのパラメーター(ATP、GTP、ADP、AMP、アセチル−CoA、CoA−SHおよびNAD+)およびミトコンドリアのリン酸化能力(ATP/ADP)に関連するいくつかのパラメーターの恒常性の変化に密接に関連している。
大きなパネルの損傷後の異なる時間にsTBIの導入を受けたラットの脳代謝物に対する漸増用量のLMW−DSの効果を評価するために行われた試験は、この化合物の投与が脳代謝の全般的回復をもたらすことを立証した。
LMW−DSは、治療を受けていないsTBI動物の極めて不均衡なミトコンドリア関連エネルギー代謝の回復に効果的であり、三リン酸プリンおよびピリミジンヌクレオチドの濃度に対し好ましい効果があった。特に、衝撃の7日後のATPレベルは、対照の値より16%だけ低く、一方、sTBIラットでは35%の低下が認められた(表21および図25)。注意すべきは、同じ時点のLMW−DSで治療した動物のNAA濃度は、対照の値より16%だけ低く、一方、sTBI動物はこの化合物の48%低い値を示した。この知見は、再度、NAAの恒常性と適切なミトコンドリアのエネルギー代謝との間の厳密な関連を強く確証し、ミトコンドリアの機能動作に対し、好ましい方向に作用できる薬理学的介入の重要性を強調するものである。
LMW−DS投与により得られた脳代謝の全般的回復はまた、ニコチンコエンザイムおよび遊離CoA−SHおよびCoA−SH誘導体の代謝を伴った。これは、薬物治療動物は、sTBIに罹患しているにもかかわらず、適切な酸化還元反応を確保し、TCAサイクルの良好な機能動作を可能とする準正常コエンザイムを有していたことを意味する。
上述の脳代謝の改善は、他の顕著な薬物効果、すなわち、GLU興奮毒性の消滅の確実な一因であった。さらに、薬物は、硫黄含有アミノ酸に影響を与えた。おそらく、この効果は、S原子を含む薬物分子に関連するのであろう。この原子のバイオアベイラビリティの増大は、これらのアミノ酸の生合成で純増加をもたらした。その内の1つの(MET)は、メチル化反応および所謂メチルサイクルで極めて重要である。
この試験で記録されたさらに好ましい効果は、LMW−DSの投与を受けたsTBIラットにおける抗酸化剤の増加および酸化/ニトロソ化ストレス生化学的痕跡の減少であった。機能障害性ミトコンドリアは、ROSおよびRNS両方の主要な細胞内発生源であるので、この現象はミトコンドリア機能の正常化と極めて関連さえしているであろう。LMW−DSの効果がsTBIの2日後よりもsTBIの7日後にさらに明らかになったことは、妥当なことである。これは、薬物投与による脳代謝の全般的回復が一過性の現象ではないことを強く示唆する。また、現在の実験条件下では、薬物効果は多くの場合、投与される投与量に関係し、15mg/kg体重の反復投与であっても、同じ投与量の単回投与に類似であることが多いことは強調する価値がある。即ち、薬物の投与の反復が必ずしも有利とは限らなかった。
この矛盾した結果は、次記により説明可能かもしれない:1)sTBIが血液脳関門(BBB)の破壊を誘導することはよく知られている;2)BBB変化/破壊の期間中のLMW−DSの脳組織による取り込みが極めて好ましい可能性がある;3)ポイント2)の仮説が正しい場合には、損傷の30分後に実施される投与は、BBBがまだ開いている/変化している間に行われた可能性がある;4)ポイント2)および3)の仮説が正しい場合には、損傷後早期の投与は、BBBがまだ開いている/変化している場合、化合物の脳コンパートメント内の通過が容易になり、薬物が、BBBの正常化を含む脳代謝および機能に対するその有益な効果を誘発できる可能性がある;5)ポイント4)で報告したことが正しい場合には、sTBI後の30分での15mg/kg体重のLMW−DSの投与が、脳代謝正常化の開始に加えて、さらに、BBBの閉止をもたらし、それにより、反復薬物投与プロトコルによる追加の効果を得る可能性を制限するように、第2(3日目の)および第3(5日目)の薬物投与がさらなる有意な脳コンパートメント内への通過に好ましくない条件下で行われたことを意味する。
実施例8
この試験では、LMW−DSは、BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルでのプロファイリングを特徴とする。BioMAP(登録商標)パネルは、人体の種々の態様をインビトロ形式でモデル化するように設計されたヒト一次細胞ベースシステムからなる。BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネル(表32)の12種のシステムは、種々のヒト疾患状態をモデル化する広範な一連のシステム全体にわたり偏りのない方法で試験薬剤の特性評価を可能とする。BioMAP(登録商標)システムは、ヒト組織または病的状態で天然で発生する関連シグナル伝達ネットワークを捕捉するために加えられたサイトカインまたは成長因子などの刺激物質を含む、健康なヒトドナー由来の1種または複数の一次細胞型で構築される。血管生物学は、Th1(3Cシステム)およびTh2(4Hシステム)の両方の炎症性環境、ならびに動脈平滑筋細胞(CASM3Cシステム)に特異的なTh1炎症状態でモデル化される。追加のシステムは、単球促進Th1炎症(LPSシステム)またはT細胞刺激(SAgシステム)、マクロファージ活性化により促進される慢性Th1炎症(IMphgシステム)および胚中心で起こるB細胞のT細胞依存性活性化(BTシステム)を含む全身性免疫応答の状況を再現する。BE3Cシステム(Th1)およびBF4Tシステム(Th2)は、肺の気道炎症を表し、MyoFシステムは、筋線維芽細胞−肺組織リモデリングをモデル化する。最後に、皮膚生物学は、Th1皮膚炎症をモデル化するKF3CTシステムおよび創傷治癒をモデル化するHDF3CGFシステムで扱われる。
各試験薬剤は、個別のシステム環境中のタンパク質バイオマーカー読み値の変化から作成されるシグネチャーBioMAP(登録商標)プロファイルを生成する。バイオマーカー読み値(システム当たり7〜17)が治療的および生物学的関連性で選択され、疾患転帰または特定の薬物効果が予測され、既知作用機序(MoA)を有する試薬を用いて検証される。各読み値は、タンパク質を検出する免疫ベース法、例えば、ELISA、または増殖および生存率を測定する機能アッセイにより定量的に測定される。BioMAP(登録商標)読み値は多様であり、細胞表面受容体、サイトカイン、ケモカイン、マトリックス分子および酵素を含む。全体で、BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルは、特定のBioMAP(登録商標)システムの生理学的状況内で起きる生物学的変化を捕捉する148種のバイオマーカー読み値を含む。
材料および方法
BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルで4種の濃度のLMW−DS(150nM、440nM、1.3μM、4μM)をEurofinsで調べた。
Diversity PLUSのための方法
初期継代(継代4またはそれ以前)でBioMAPシステム中のヒト一次細胞を使用し、細胞培養条件に対する適応を最小限にし、生理学的シグナル伝達応答を維持する。全ての細胞は、複数のドナー(n=2〜6)のプール由来であり、商業的に購入し、製造者の推奨条件に従って取り扱った。/Mphgシステムに加える前に、CD14単球由来のヒト血液をマクロファージにインビトロで分化させる。略語を以下のように使用する:ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、末梢血単核球(PBMC)、ヒト新生児皮膚線維芽細胞(HDFn)、B細胞受容体(BCR)、T細胞受容体(TCR)およびトール様受容体(TLR)。
各システムで使用した細胞型および刺激物質は以下の通り:3Cシステム[HUVEC+(IL−1β、TNFαおよびIFNγ)]、4Hシステム[HUVEC+(IL−4およびヒスタミン)]、LPSシステム[PBMCおよびHUVEC+LPS(TLR4リガンド)]、SAgシステム[PBMCおよびHUVEC+TCRリガンド]、BTシステム[CD19B細胞およびPBMC+(α−IgMおよびTCRリガンド)]、BF4Tシステム[気管支上皮細胞およびHDFn+(TNFαおよびIL−4)]、BE3Cシステム[気管支上皮細胞+(IL−1β、TNFαおよびIFNγ)]、CASM3Cシステム[冠状動脈平滑筋細胞+(IL−1β、TNFαおよびIFNγ)]、HDF3CGFシステム[HDFn+(IL−1β、TNFα、IFNγ、EGF、bFGFおよびPDGF−BB)]、KF3CTシステム[ケラチノサイトおよびHDFn+(IL−1β、TNFα、IFNγおよびTGFβ)]、MyoFシステム[分化肺筋線維芽細胞+(TNFαおよびTGFβ)]および/Mphgシステム[HUVECおよびM1マクロファージ+ザイモサン(TLR2リガンド)]。
システムは、単一細胞型または共培養システム由来である。接着細胞型は、96または384ウェルプレートでコンフルエンスまで培養され、続けて、PBMCを添加する(SAgおよびLPSシステム)。BTシステムは、PBMCと同時培養されたCD19+ B細胞からなり、BCR活性化因子および低レベルのTCR刺激で刺激される。DMSO(小分子;最終濃度≦0.1%)またはPBS(生物製剤)中で調製された試験薬剤が、刺激の1時間前に、示した濃度で添加され、24時間または次に示す時間(48時間、MyoFシステム;72時間、BTシステム(可溶物読み値);168時間、BTシステム(分泌IgG))、培養物中に残存する。各プレートは、各システムに好適する薬物対照(例えば、1.1μMのレガシーコントロール試験薬剤コルヒチン)、陰性対照(例えば、非刺激条件)およびビークル対照(例えば、0.1%DMSO)を含む。直接ELISAを用いて細胞関連および細胞膜標的のバイオマーカーレベルを測定する。上清由来の可溶性因子は、HTRF(登録商標)検出、ビーズベースマルチプレックスイムノアッセイまたは捕捉ELISAを用いて定量化される。細胞増殖および生存率(細胞傷害性)に与える試験薬剤の明白な有害作用は、接着細胞の場合はスルホローダミンB(SRB)染色により、懸濁細胞の場合はalamarBlue(登録商標)還元により検出される。増殖アッセイでは、個々の細胞型がサブコンフルエンスで培養され、各システムの最適化時点(48時間:3CおよびCASM3Cシステム;72時間:BTおよびHDF3CGFシステム;96時間:SAgシステム)で測定される。接着細胞に対する細胞傷害性は、示した時点で、SRB(24時間:3C、4H、LPS、SAg、BF4T、BE3C、CASM3C、HDF3CGF、KF3CT、および/Mphgシステム;48時間:MyoFシステム)により、および懸濁細胞のalamarBlue染色(24時間:SAgシステム;42時間:BTシステム)により測定される。
データ解析
試験薬剤処理試料中のバイオマーカー測定値を対照試料の平均値(同じプレート由来の少なくとも6つのビークル対照)で除算し、比率を生成した後、log10変換する。有意性予測エンベロープは、以前に採取したビークル対照データを95%信頼区間で用いて計算される。
プロファイル分析
ビークル対照に対して同一方向に2つ以上の連続した濃度変化が有意性エンベロープの外側にあり、20%を超える効果量(|log10比|>0.1)を有する少なくとも1つの濃度を有する場合、バイオマーカー活性をアノテートする。これらの活性がいくつかのシステムで増大するが、他のシステムでは減少する場合、バイオマーカーの主要な活性は調節されていると呼ばれる。総タンパク質レベルが50%を超えて減少する場合(SRBのlog10比またはalamarBlueレベル<−0.3)、細胞傷害性状態が記録され、X軸の上に細い黒色矢印で示される。細胞傷害性が3つ以上のシステムで検出される場合、化合物は広範な細胞傷害性を有すると見なされる。検出可能な広範な細胞傷害性を有する試験薬剤の濃度は、バイオマーカー活性アノテーションおよび下流のベンチマーキング、類似性探索およびクラスター分析から除外される。抗増殖性効果は、より低い密度で播種した細胞からのSRBまたはalamarBlue log10比値<−0.1により定義され、X軸の上に灰色矢印で示される。細胞傷害性および抗増殖性の矢印は、プロファイルアノテーションのための示した閾値に適合する1つの濃度を必要とするに過ぎない。
ベンチマーク分析
両方のプロファイルに対する読み値が、有意性エンベロープの外側にあり、同一方向で20%を超える効果量である場合、共通のバイオマーカー読み値がアノテートされる。1つのプロファイルが、効果量>20%を有する有意性エンベロープの外側の読み値を有し、もう一つのプロファイルの読み値がエンベロープの内側にあるか、または逆方向である場合、分化バイオマーカーがアノテートされる。特に指定のない限り、試験薬剤およびベンチマーク薬剤の両方の最高非細胞傷害性濃度がベンチマークオーバーレイ分析中に含まれる。
相似解析
両方のプロファイルに対する読み値が、有意性エンベロープの外側にあり、同一方向で20%を超える効果量である場合、共通のバイオマーカー読み値がアノテートされる。検出可能な細胞傷害性を有する3つ以上のシステムを有する試験薬剤の濃度は、相似解析から除外される。検出可能な細胞傷害性を有する1〜2つのシステムを有する試験薬剤の濃度は、試験薬剤の最高濃度と一致するデータベースのオーバーレイと共に、類似性探索分析に含められる。これに、検出可能な細胞傷害性およびそれぞれのデータベースマッチを有するシステムを含まない試験薬剤の次の最高濃度の追加のオーバーレイが続く。Diversity PLUSパネルで実施した化合物のBioMAP(登録商標)プロファイル間の類似性の程度を決定するために、我々は、試験した他の尺度(ピアソンおよびスピアマンの相関係数を含む)と比較した基準薬剤の機序分類における向上した性能を有するコンビナトリアル手法であるカスタム類似性尺度(BioMAP Z−Standard)を開発した。この手法は、データポイントの数、システム、活性バイオマーカー読み値およびBioMAP(登録商標)プロファイルの特徴であるバイオマーカー読み値変化の振幅の変動をより効率的に説明する。ピアソンの相関係数(r)は、最初に、関係の方向と大きさの類似性に基づく2つのプロファイル間の線形連関を測定をするように生成される。ピアソンの相関は、いずれかのバイオマーカー活性の大きさにより影響を受け得るので、システム当たり加重平均Tanimoto尺度を、堅牢性の少ないシステムの提示不足を説明するためのフィルターとして用いる。Tanimoto尺度は、バイオマーカー活性の振幅を考慮しないが、システム当たりの基準で、同一性および読み値の数が荷重に対し共通であるかどうかを取り扱う。実数値Tanimoto尺度は、最初に、各プロファイルを単位ベクトル(例えば、
Figure 2020533281
)、に正規化することにより計算し、その後、次の式:
Figure 2020533281
、を適用する。式中、AおよびBは、2つのプロファイルベクトルである。次に、それは、次の計算:
Figure 2020533281
でシステム加重平均実数値Tanimoto尺度に組み込まれる。計算は、i番目のシステム(T)および各i番目のシステム(W)のそれぞれの重みに対する実数値Tanimotoスコアを使用する。Wは、各システムに対し、次式:
Figure 2020533281
で計算され、lrは比較される2つのプロファイルからの比率の最大絶対値である。ピアソンの相関係数(r)≧0.7の場合、基準化合物の最適性能に基づいて、プロファイルは、機構的に関連する類似性を有すると判定される。最終的に、Fisherのr to z変換を用いて、zスコアを計算し、次式:
Figure 2020533281
のようにショートテール分布を正規分布に変換する。その後、共通の読み値(CR)の数に対し調節するBioMAP(登録商標)Z−Standardが次式:
Figure 2020533281
に従って生成される。より大きなBioMAP(登録商標)Z−Standard値は、より高い信頼水準に対応し、これは、類似性結果をランク付けするために使用される尺度である。
クラスター分析
クラスター分析(機能類似性マップ)は、ペアワイズ相関分析の結果を使用して、薬剤プロファイルの「近似度」を多次元的空間から二次元に投影する。この分析中に生成される薬剤プロファイルの機能的クラスタリングは、各薬剤の各濃度に対するプロファイルのペアワイズ比較のためのピアソン相関値を使用し、その後、ペアワイズ相関データを多次元的尺度構成法に供する。ピアソンの相関係数(r)≧0.7で類似性であるプロファイルは線により連結される。相互にクラスター形成しない薬剤は、機構的に異なると解釈される。この分析は、3つ以上の試験薬剤を含むプロジェクトに対し実施される。細胞傷害性濃度は、クラスター分析から除外される。
機構ヒートマップ分析
機構ヒートマップ分析は、試験化合物および全ての化合物濃度およびコンセンサス機構にわたるバイオマーカー活性の比較を可能とする19のコンセンサス機構の可視化を提供する。機構ヒートマップ分析で使われる合成コンセンサスプロファイルは、構造上別々の化学的クラス由来の複数の化合物の平均の代表的BioMAP(登録商標)プロファイルである。プロファイルは、選択された全てのプロファイル(種々の濃度の複数薬剤)に対し各バイオマーカー評価項目値を平均化し、コンセンサス機構プロファイルを構築することにより計算された。バイオマーカー活性は、それらが有意性エンベロープの外側でビークル対照に比較して発現を有する場合、ヒートマップ中でコンセンサス機構および化合物に着色している。赤色は、増大したタンパク質発現を表し、青色は、低減した発現を表し、白色は不変であるか、またはフィルタリング条件内のレベルを示す。色の黒っぽい陰は、ビークル対照に比べてバイオマーカー活性のより大きな変化を表す。機構ヒートマップは、RおよびRのためのgplotパッケージを用いて作成した。
アッセイ許容基準
BioMAP(登録商標)アッセイは、Diversity PLUSパネルを構成するシステムで試験される薬剤に対するBioMAP(登録商標)プラットフォームにより生成されたマルチパラメーターデータセットを含む。アッセイは、各システムに適した薬物対照(例えば、レガシーコントロール試験薬剤コルヒチン)、陰性対照(例えば、非刺激条件)およびビークル対照(例えば、DMSO)を含む。BioMAP(登録商標)アッセイは、プレートベースであり、データ許容基準は、プレート性能(ビークル対照ウェルの%CV)およびそのシステムのヒストリカルコントロール全体にわたるシステム性能の両方に依存する。最初にヒストリカル陽性対照の基準データセットから1%偽陰性ピアソンカットオフを設定することにより、QA/QCピアソン検定を実施する。陽性対照基準データセット中のシステムバイオマーカー読み値の全てのプロファイルを通してプロセスを繰り返し、各プロファイルとデータセット中の残りのプロファイルの平均との間のピアソン値を計算する。1%偽陰性カットオフの決定に使用したピアソン値の総数は、基準データセット中に存在するプロファイルの合計数である。計算された全値の1つのパーセンタイルでのピアソン値は、1%偽陰性ピアソンカットオフである。実験プレートの陰性対照または薬物対照プロファイルと、基準データセット中のヒストリカルコントロールプロファイルの平均との間のピアソン値がこの1%の偽陰性ピアソンカットオフを超える場合、システムは検定に合格する。各個別のシステムがピアソン検定を通過し、全てのプロジェクトプレートの95%が%CV<20%を有する場合、全体のアッセイが受け入れられる。
結果
BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルは、表32に示す12種の個別のBioMAPヒト一次細胞ベース共培養システムを含んだ。

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ビークル対照に対して同一方向に変化した2つ以上の連続した濃度が、95%有意性エンベロープの外側にあり、20%を超える効果量(|log10比|>0.1)を有する少なくとも1つの濃度を有する場合、バイオマーカー活性がアノテートされた。これらの活性がいくつかのシステムで増大したが、他のシステムでは減少した場合、バイオマーカーの主要な活性は調節されていると呼ばれた。
LMW−DSは、25個のアノテートされた読み値で活性であった。LMW−DSは、この調査で試験された濃度でヒト一次細胞のいずれに対しても細胞傷害性ではなかった。重要なバイオマーカー活性におけるLMW−DS媒介変化には、低減した血管細胞接着分子1(VCAM−1)、単球走化性タンパク質−1(MCP1)、可溶性腫瘍壊死因子アルファ(sTNFα)、インターフェロン誘導性T細胞アルファ化学誘引物質(I−TAC)、ガンマインターフェロンにより誘導されたモノカイン(MIG)、ならびにインターフェロンガンマ誘導タンパク質10(IP−10)および増大したエオタキシン3(Eot3)、およびインターロイキン8(IL−8)の形態の炎症関連活性が含まれた。LMW−DSはまた、分泌が低減した免疫グロブリンG(sIgG)およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)ならびに増大した可溶性IL−17A(sIL−17A)、および表面抗原分類69(CD69)の形態の免疫調節性活性を有した。LMW−DSはまた、増大したマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1(PAI−1)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)および上皮成長因子受容体(EGFR)の形態の組織リモデリング活性、および増大したトロンボモジュリン(TM)の形態の止血関連活性を示した。表33は、BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルでの12種の異なるヒト一次細胞に対するLMW−DSの効果をまとめたものである。

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BioMAP(登録商標)Reference Databaseは、4,500を超える生物活性剤(生物製剤、承認薬物、化学薬品および実験薬剤)のBioMAP(登録商標)プロファイルを含み、最も類似したプロファイルを分類および特定するために使用できる。
BioMAP(登録商標)Reference Databaseの数学的に類似の化合物プロファイルに対する教師なし探索では、LMW−DS(4M)は、クレキサン(30μg/ml)に最も類似している(ピアソンの相関係数、r=0.701)。クレキサン(エノキサパリンナトリウム)は、深部静脈血栓症(DVT)を治療するために使用される抗凝固剤の低分子量ヘパリンである。次のシステム中でアノテートされている5種の共通の活性がある:BT(sIgG、sIL−17A)、CASM3C(MIG)、およびHDF3CGF(VCAM−1、IP−10)。
考察
調査では、LMW−DSは、器官(血管系、免疫系、皮膚、肺)の複合組織および疾患生物学ならびに一般組織生物学をモデル化するヒト一次細胞ベースアッセイのBioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルのプロファイリングにより特徴付けられた。BioMAP(登録商標)Diversity PLUSパネルは、インビボ転帰に関連する複雑なクロストークおよびフィードバック機構を維持する条件下でのLMW−DSの生物学的影響を評価した。
LMW−DSは、この調査で試験された濃度で活性で、細胞傷害性ではなかった。LMW−DSは、最高濃度でのみ(4μM)、ヒト一次内皮細胞に対し、中程度のおよび選択的抗増殖性であった。LMW−DSプロファイルは、25個のアノテートされた読み値を有し、免疫および炎症関連読み値ならびにマトリックス関連バイオマーカーの調節を示した。特異的活性には、低減した炎症関連VCAM−1、MCP−1、sTNFα、I−TAC、MIG、およびIP−10ならびに増大したIL8が含まれた。中程度に増大したエオタキシン−3は、BF4Tシステムで、より低い濃度でのみ観察された。免疫調節性活性には、低減したsIgGならびにBTシステムのIL17AおよびIL17Fが含まれたが、B細胞に対する抗増殖性効果はなかった。低減したM−CSFおよび増大したCD69も同様に特定された。LMW−DSはまた、増大したMMP−1、PAI−1、uPAR、EGFRおよび止血関連TMを含む組織リモデリングバイオマーカーを調節した。MIG、VCAM、IP−10およびITACを含む重要な炎症バイオマーカーは、CASM3CおよびHDF3CGFシステム中の試験した全濃度にわたり低下したが、走化性因子IL8の増大が複数のシステム中で確認された。まとめると、これらのデータは、炎症および創傷治癒生物学において、LMW−DSが免疫活性化および/または免疫消散応答の調節に関与することを示す。
炎症性のマーカーの調節は、ALSなど、炎症性の成分を含む複数の慢性および急性炎症状態および疾患の治療におけるLMW−DSの有用性を示す。
損傷後、最初に、自然/炎症促進性応答および後天性免疫応答の選択成分が上方制御され、外来性病原体に対し防御を維持し、損傷部位に存在する組織残屑を除去し、創傷応答に関連する組織リモデリング、細胞増殖および血管新生過程を組織化する。しかし、適切な創傷治癒を進行させるためには、この最初の炎症反応は、マトリックスの再建、再細胞化および組織リモデリングを可能とするように、調節または停止される必要がある。このような免疫消散活性は、LMW−DSにより誘導され、MMP−1、PAR−1およびuPARの活性化を含み、こうしなければ有害な線維症形成を生じたはずの神経外傷を含む外傷により損傷を受けた組織の治療に有用性を有する誘導免疫消散を示す。
LMW−DSは、HDF3CGFシステムにおいて多くのバイオマーカー活性を調製したが、MyoFシステムではIL8のみを調節した。両システムは、線維芽細胞を含むが、HDF3CGFは、創傷治癒およびこのような創傷治癒に関連してマトリックスリモデリングをモデル化し、一方、MyoFは、それ以上の、コラーゲン沈着の線維症モデルである。そのため、結果は、LMW−DSが免疫調節性および組織リモデリング活性を有したが、有害な線維症沈着を生じ得る、望ましくないコラーゲン線維症を誘導しなかったことを示す。
結論として、LMW−DSは、外傷または疾患後の組織中に存在する炎症を正常化および消散させるように見え、それにより、これらの結果は、前述の実施例で認められたLMW−DSの効果と一致する。
実施例9
この実施例の目的は、差次的に調節された遺伝子の遺伝子発現調査と、これに続く機能的分析を用いて、sTBIにおける異なる投与量のLMW−DS(1、5および15mg/kg)の神経保護効果を明らかにすることであった。
材料および方法
sTBIの誘導および薬物投与プロトコル
この調査に用いた実験プロトコルは、動物飼育のための国際標準およびガイドラインに従って、Catholic University of Romeの倫理委員会による承認を受けた。300〜350g体重の雄ウィスターラットに、制御された環境中で標準的実験食および水を自由に与えた。動物は、麻酔剤混合物として、35mg/kg体重のケタミンおよび0.25mg/kg体重のミダゾラムを腹腔内注射により受けた。「重量落下」衝撃加速度モデル(Marmarou et al.,A new model of diffuse brain injury in rats.Part I:Pathophysiology and biomechanics.J Neurosurg.1994;80:291−300)に従って、予め頭蓋骨上に固定された金属ディスクにより保護されているラットの頭の上に450gの重りを2mの高さから落とすことにより重度外傷性脳損傷(sTBI)を誘導した。頭蓋骨骨折、発作、鼻出血した、またはその衝撃に生存しなかったラットは、調査から除外された。各治療期間の終わりに、ラットは再度麻酔され、その後直ちに屠殺された。
試験化合物
LMW−DS(Tikomed AB)を20mg/mlのストック濃度で用意し、4℃の温度監視冷蔵庫で保持した。LMW−DSの分取量を無菌生理食塩水中で適切な投与濃度に希釈した後、単回皮下注射で送達した。
急性期−1
TBIの30分後に、3種の投与量のLMW−DSを皮下に投与した。TBIの2日後に動物を屠殺した。動物を次の亜群に分けた:
1.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、15mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を受けた
2.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、5mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を受けた
3.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、1mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を受けた
急性期−2
TBIの30分後に、3種の投与量のLMW−DSを皮下に投与した。TBIの7日後に動物を屠殺した。動物を次の亜群に分けた:
4.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、15mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を受けた
5.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、5mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を受けた
6.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、1mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を受けた
7.n=4匹の動物が、sTBI導入を受け、15mg/kgの濃度のLMW−DSの0.5mlの皮下注射を3回繰り返して受けた
sTBI−処理なし
8.n=4匹の動物が、sTBI導入のみを受け、TBIの2日後屠殺された
9.n=4匹の動物が、sTBI導入のみを受け、TBIの7日後屠殺された
シャム手術(健康な対照)
10.n=4匹の動物が麻酔のみを受けた。
脳組織処理
全ての動物でインビボ骨切除開頭術を麻酔の間に実施した。ラットの頭蓋骨を注意深く取り除き、脳を露出させ、手術用スパチュラで取り除き、素早くRNALaterに入れ、さらなる処理のために4℃で保存した。
RNA抽出およびアレイ解析
RNA抽出およびアレイ処理をSourceBioscienceにより実施した。使用したアレイは、Agilent Rat発現アレイであった。
統計解析
統計解析を実施し、このモデルでsTBIの脳に与える効果を定量化した。後続解析により、異なる繰り返しおよびアルゴリズムを用いて、このモデルでのLMW−DSの効果を調べた。Metaboanalystソフトウェアパッケージを用いて、統計解析を実施した。p<0.05で、10%の遺伝子発現変化を有意と見なした。
結果
sTBIの2日後に見られた差次的遺伝子発現
sTBIの2日以内に、脳遺伝子発現が有意に変化し、比較的小さな数の遺伝子(221個)が上方および下方制御された。
sTBIの2日以内に、損傷後30分以内の1mg/kgのLMW−DSの投与は372個の遺伝子のTBI特異的遺伝子発現を変化させ、TBI後30分以内の5mg/kgのLMW−DSの投与は702個の遺伝子のTBI特異的遺伝子発現を変化させ、およびTBI後30分以内の15mg/kgのLMW−DSの投与は247個の遺伝子のTBI特異的遺伝子発現を変化させた。
LMW−DS治療動物は、209個の遺伝子(1mg/kgのLMW−DS)、258個の遺伝子(5mg/kgのLMW−DS)および47個の遺伝子(15mg/kgのLMW−DS)が、健康な対照とは異なった。
sTBIの7日後に見られた差次的遺伝子発現
sTBIの7日以内に、脳遺伝子発現が有意に変化し、大きな数の遺伝子(2739個)が上方および下方制御された。
sTBIの7日以内に、損傷後30分以内の1mg/kgのLMW−DSの投与は3602個の遺伝子のTBI特異的遺伝子発現を変化させ、TBI後30分以内の5mg/kgのLMW−DSの投与は3852個の遺伝子のTBI特異的遺伝子発現を変化させ、およびTBI後30分以内の15mg/kgのLMW−DSの投与は3901個の遺伝子のTBI特異的遺伝子発現を変化させた。
LMW−DS治療動物は、282個の遺伝子(1mg/kgのLMW−DS)、398個の遺伝子(5mg/kgのLMW−DS)および158個の遺伝子(15mg/kgのLMW−DS)の発現が、健康な対照とは異なった。LMW−DS治療動物(15mg/kgのLMW−DSの3回反復投与)は、234個の遺伝子の発現が、健康な対照とは異なった。
LMW−DSで見られた発現変化の比較分析
異なる統計を反復実行することによる有意に影響を受けた遺伝子の比較は、LMW−DSがどのようにして、TBI誘導遺伝子発現を変化させたかに関する情報を提供した。
TBIの2日後の比較は、それぞれ、1mg/kg、5mg/kgおよび15mg/kgのLMW−DSが投与された場合、TBI(2日)により調節解除された221個の遺伝子から、健康な対照動物に比べて、22個(10%)、51個(23%)および19個(8.5%)のみが調節解除されたままであったことを示した。
TBIの7日後の比較は、それぞれ、1mg/kg、5mg/kgおよび15mg/kgのLMW−DSが投与された場合、TBI(7日)により調節解除された2741個の遺伝子から、健康な対照動物に比べて、124個(4.5%)、169個(6.1%)および85個(3.1%)のみが調節解除されたままであったことを示した。15mg/kgのLMW−DSの3回反復投与では、健康な動物に比べて、調節解除されたままである遺伝子の数は、健康な対照動物に比べ116個(4.25%)の遺伝子であった。
経路分析および機構調査
Ingenuity経路分析パッケージを用いて、差次的に調節された遺伝子の経路分析を実施した。分析は、特に、経路および分子過程ならびに認知症、アルツハイマー病、ALS、TBIおよび脳卒中、を含む神経変性疾患、ならびに緑内障およびくも膜下出血後の正常圧水頭症(NPH)を含む瘢痕形成および線維症に関連する疾患について実施した。
2日以内にTBIにより誘導された効果は比較的小さかったが、多くの神経変性および瘢痕形成関連標準経路における変化は有意であった。これらの経路の変化のほとんどは、TBIの30分以内に投与されたLMW−DSにより影響が弱められた(表34および35)。経路と同様に、TBIの2日以内に有意に影響を受けた分子過程および疾患の数は中程度であった。しかし、TBIの影響は、損傷の30分後に投与されたLMW−DSによりほとんど消滅した(表36および37)。

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不明瞭な効果

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不明瞭な効果


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不明瞭な効果

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不明瞭な効果
7日以内にTBIにより誘導された効果は有意で、多くの遺伝子が調節解除された。従って、多くの神経変性および瘢痕形成関連標準経路における変化は、有意であった。これらの経路の変化のほとんどは、TBIの30分以内に投与されたILBにより影響が弱められた(表38および39)。経路と同様に、TBIの7日以内に有意に影響を受けた分子過程および疾患の数は多く、効果は有意であった。しかし、TBIの効果は、損傷の30分後に投与されたLMW−DSによりほとんど消滅した(表40および41)。

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不明瞭な効果
考察
LMW−DSは、ほとんどの経路および分子過程でTBIの作用の影響を弱め、回復できた。データは、LMW−DSがTBI後の組織遺伝子発現および機能を正常化できることを示した。調査した機能および経路は、神経変性疾患ならびに線維症および瘢痕形成に高度に関連した。結果から、たとえ混乱が激しい場合でもLMW−DSがこれらの経路に有益な形で影響を与えることができることが明らかであった。
上述の実施形態は、いくつかの本発明の例示的実施例であると理解できよう。種々の修正、組み合わせおよび変更が本発明の範囲または趣旨から逸脱することなくその実施形態に対しなされ得ることは、当業者に理解されよう。特に、技術的に可能な場合には、異なる実施形態中の異なる部分の方策を、他の構成に組み合わせることができる。

Claims (31)

  1. 対象のグルタミン酸興奮毒性の治療、抑制または予防に使用される、デキストラン硫酸または薬学的に許容可能な誘導体。
  2. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、前記対象のニューロンのグルタミン酸興奮毒性の治療、抑制または予防に使用される、請求項1に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体
  3. 前記対象が、ニューロンに対し細胞損傷および/または細胞死を引き起こす神経疾患、障害または状態を罹患している、請求項1または2に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  4. 神経疾患、障害または状態に罹患している対象において、前記神経疾患、障害または状態により誘導される酸化ストレスからのニューロンの保護に使用される、デキストラン硫酸または薬学的に許容可能な誘導体。
  5. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、前記神経疾患、障害または状態により誘導され、ニューロンでミトコンドリア機能障害を引き起こす酸化ストレスからの前記ニューロンの保護に使用される、請求項4に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  6. 神経疾患、障害または状態に罹患している対象のニューロンの代謝恒常性の回復に使用される、デキストラン硫酸または薬学的に許容可能な誘導体。
  7. 神経疾患、障害または状態の治療、抑制または予防に使用される、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  8. 前記神経疾患、障害または状態が、外傷性脳損傷(TBI)である、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  9. 前記神経疾患、障害または状態が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  10. 前記神経疾患、障害または状態が、アルツハイマー病(AD)である、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  11. 前記神経疾患、障害または状態が、くも膜下出血(SAH)である、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  12. 前記神経疾患、障害または状態が、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、および多発性硬化症(MS)からなる群より選択される、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  13. 前記神経疾患、障害または状態が、多発性硬化症(MS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、中枢神経系(CNS)神経障害、橋中心髄鞘崩壊症(CPM)、脊髄症、白質脳症および白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群(GBS)、末梢神経障害およびシャルコー・マリー・トゥース(CMT)病からなる群より選択される脱髄性疾患、障害または状態である、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  14. 前記神経疾患、障害または状態が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺 、脊髄性筋萎縮症(SMA)およびポリオ後症候群(PPS)からなる群より選択される運動ニューロン疾患(MND)である、請求項3〜7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  15. 対象の神経炎症の治療、抑制または防止に使用される、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  16. 線維症または線維性疾患、障害または状態に罹患している対象の確定した瘢痕の分解に使用される、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  17. 前記線維性疾患、障害または状態が、緑内障、増殖性硝子体網膜症、脳または脊椎外傷性傷害、脳のくも膜下出血、侵襲的外科手術、術後癒着、腱板損傷、火傷、再建手術、肺線維症、特発性肺線維症、進行性塊状線維症、癌治療後の放射線誘発肺損傷、肝硬変、胆道閉鎖症、心房線維症、心内膜心筋線維症、陳旧性心筋梗塞、グリア性瘢痕、膵炎、関節線維症、クローン病、デュピュイトラン拘縮、ケロイド、縦隔線維症;骨髄線維症、ペロニー病、腎性全身性線維症;後腹膜線維症、強皮症または全身性硬化症からなる群より選択される、請求項16に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  18. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、前記対象への全身投与のために製剤化される、請求項1〜17のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  19. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、前記対象への静脈内または皮下投与のために製剤化され、好ましくは前記対象への皮下投与のために製剤化される、請求項18に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  20. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、10,000Da以下の平均分子量を有する、請求項1〜19のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  21. 前記平均分子量が2,000〜10,000Daの範囲内、好ましくは3,000〜10,000Daの範囲内、より好ましくは3,500〜9,500Daの範囲内にある、請求項20までに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  22. 前記平均分子量が4,500〜7,500Daの範囲内、好ましくは4,500〜5,500Daの範囲内にある、請求項21までに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  23. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、15〜20%の範囲の平均硫黄含量を有する、請求項1〜22のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  24. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、約17%の平均硫黄含量を有する、請求項23に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  25. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、核磁気共鳴(NMR)分光法で測定して、1,850〜3,500Daの範囲内、好ましくは1,850〜2,500Daの範囲内、およびより好ましくは1,850〜2,300Daの範囲内の数平均分子量(M)を有する、請求項1〜20のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  26. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、NMR分光法で測定して、1,850〜2,000Daの範囲内のMを有する、請求項25に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  27. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、2.5〜3.0の範囲内、好ましくは2.5〜2.8の範囲内、およびより好ましくは2.6〜2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する、請求項25または26に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  28. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、平均5.1のグルコース単位および2.6〜2.7のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する、請求項1〜27のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  29. 前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体が、注射用水溶液として製剤化される、請求項1〜28のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  30. 前記薬学的に許容可能な誘導体が、デキストラン硫酸の薬学的に許容可能な塩である、請求項1〜29のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。
  31. 前記薬学的に許容可能な誘導体が、デキストラン硫酸のナトリウム塩である、請求項30に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体。

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