以下、図面を参照しながら、保守管理システムおよび保守管理方法の実施形態について詳細に説明する。
図1の符号1は、本実施形態の保守管理システムである。この保守管理システム1は、原子力発電プラントにおける制御棒駆動機構(CRD:Control Rod Drive)の点検周期を最適化し、原子力発電プラントの保全作業の支援を行うシステムである。
多数の制御棒駆動機構が設けられている場合において、1回の定期点検で全ての制御棒駆動機構を点検することはできず、所定数の制御棒駆動機構のみが点検の対象となる。そこで、制御棒駆動機構の劣化の進展具合に応じて点検対象となる制御棒駆動機構を選別するようにしている。最も劣化が進展している制御棒駆動機構を次回の点検対象とすることが望ましいが、実際の劣化の進展具合を把握することは難しい。そこで、本実施形態では、それぞれの制御棒駆動機構の物理モデルをコンピュータにより構築し、これら物理モデルと実測データとを比較して、それぞれの制御棒駆動機構の状態を把握し、次回の点検対象となる制御棒駆動機構を選別する。
図2に示すように、原子力発電プラント2には、原子炉3が設けられている。原子炉3は、圧力容器4に収容されている。そして、この圧力容器4の下部に制御棒駆動機構5が設けられている。制御棒駆動機構5は、制御棒6を原子炉3に出し入れするための装置である。本実施形態では、制御棒駆動機構5の駆動方法として沸騰水型原子炉3で使用される水圧式を例示する。
制御棒駆動機構5は、圧力容器4の底部に設けられている。圧力容器4および制御棒駆動機構5は、原子炉格納容器7に収容されている。原子炉格納容器7の外部には、制御棒駆動機構5の動作に関係する機器で構成される水圧制御ユニット8(HCU:Hydraulic Control Unit)が設けられている。なお、1体の制御棒駆動機構5に対して1ユニットの水圧制御ユニット8が設けられている。例えば、185体の制御棒駆動機構5が設けられている場合には、185ユニットの水圧制御ユニット8が設けられる。
一対の制御棒駆動機構5および水圧制御ユニット8により1つの制御棒駆動系統9が構成される。なお、制御棒駆動機構5および水圧制御ユニット8は、挿入配管10および引抜配管11により互いに接続されている。
制御棒6を原子炉3に挿入する場合には、水圧制御ユニット8から挿入配管10を介して制御棒駆動機構5に駆動水が供給されるとともに、制御棒駆動機構5から引抜配管11を介して駆動水が水圧制御ユニット8に向けて排水される。一方、制御棒6を原子炉3から引き抜く場合には、水圧制御ユニット8から引抜配管11を介して制御棒駆動機構5に駆動水が供給されるとともに、制御棒駆動機構5から挿入配管10を介して駆動水が水圧制御ユニット8に向けて排水される。
水圧制御ユニット8は、方向制御弁12とスクラム弁13と逆止弁14とその他の弁15とアキュムレータ16とフィルタ17と各種センサ18とを備える。なお、各種センサ18は、流量計、圧力計、温度計などを含む。これらのセンサ18により制御棒駆動系統9の状態に応じて変化する流量、水圧、水温などの測定データが取得される。なお、その他の機器が水圧制御ユニット8に設けられても良い。なお、各種センサ18の設置箇所は、各配管の分岐の前または合流後に設けることが好ましい。このようにすれば、少ないセンサの設置数より多くの情報を得ることができる。
また、水圧制御ユニット8には、充填水用配管19と駆動水用配管20と冷却水用配管21と排水用配管22とが接続される。なお、これらの配管19〜22は、途中で分岐されて他の制御棒駆動系統9にも接続される。また、それぞれの配管19〜22を介して水圧制御ユニット8が所定の水系統23に接続される。
所定の水系統23には、制御棒駆動水ポンプ24とフィルタ25と流量調節弁26と圧力調節弁27と流量安定化弁28と各種センサ29とを含む機器が設けられている。なお、所定の水系統23には、復水系を介して駆動水が供給される。
制御棒駆動水ポンプ24は、制御棒駆動系統9と別体として設けられているが、制御棒駆動系統9は、制御棒駆動水ポンプ24の動力により供給される駆動水に基づいて動作するものであるため、制御棒駆動水ポンプ24を制御棒駆動系統9の一部とみなしても良い。
図3から図4に示すように、制御棒駆動機構5は、圧力容器4の底部から下方に向かって延びるハウジング30を備える。このハウジング30は、圧力容器4の底部に溶接され、圧力容器4と一体化されている。
ハウジング30の内部には、シリンダチューブ31が設けられている。このシリンダチューブ31の下部は、矩形状を成すベース部31aとなっている。このベース部31aがハウジング30の下部のフランジ部30aに固定されている。
なお、図3から図4では、ハウジング30の断面にハッチングを付けているが、理解を助けるために、シリンダチューブ31およびベース部31aの断面のハッチングを省略した状態で図示している。
シリンダチューブ31の内部には、インデックスチューブ32が設けられている。なお、シリンダチューブ31の上部には、コレットピストン33が設けられている。なお、インデックスチューブ32は、管状を成すピストン部材である。インデックスチューブ32の内部には、ピストンチューブ34が設けられている。ピストンチューブ34は、その下端がベース部31aに固定されており、このピストンチューブ34に沿ってインデックスチューブ32が上下方向に移動可能となっている。
インデックスチューブ32の上端部には、制御棒6(図2参照)が接続されるカップリングスパッド35が設けられている。インデックスチューブ32が上昇されると、制御棒6が原子炉3に挿入される。一方、インデックスチューブ32が降下されると、制御棒6が原子炉3から引き抜かれる。
インデックスチューブ32の外周面には、コレットピストン33の係合爪33aが係合される複数の凹部32aが形成されている。これらの凹部32aは、上下方向に並んで配置される。インデックスチューブ32が上昇したときに、コレットピストン33の係合爪33aが所定の位置の凹部32aに係合されることで、インデックスチューブ32の降下が防止される。
制御棒駆動機構5には、挿入配管10が接続される第1接続口36が設けられるとともに、引抜配管11が接続される第2接続口37が設けられる。原子炉3への制御棒6の挿入時には、第1接続口36から駆動水Wが供給されるとともに、第2接続口37から駆動水Wが排水される(図3参照)。一方、原子炉3への制御棒6の引抜時には、第2接続口37から駆動水Wが供給されるとともに、第1接続口36から駆動水Wが排水される(図4参照)。
第1接続口36の近傍には、ボール逆止弁38が設けられている。制御棒駆動機構5には、インデックスチューブ32の下部のチェンバ39に駆動水Wが流れる流路40と、ハウジング30とシリンダチューブ31との間に駆動水Wが流れる流路41と、コレットピストン33の下部のチェンバ42に駆動水Wが流れる流路43と、ピストンチューブ34の中心部の流路44とが設けられている。
図3に示すように、制御棒6の挿入時において、第1接続口36から供給された駆動水Wは、インデックスチューブ32の下部のチェンバ39に流れ込んで、インデックスチューブ32を押し上げる。なお、第1接続口36から供給された駆動水Wの一部は、オリフィス45を通過してハウジング30とアウターチューブとの間を通って炉内にリークする。オリフィス45を通過する水は、制御棒駆動機構5を冷却する媒体として用いられる。
インデックスチューブ32を押し上げた駆動水Wは、インデックスチューブ32とシリンダチューブ31との間を通って上昇して炉内にリークする。また、インデックスチューブ32を押し上げた駆動水Wは、インデックスチューブ32とピストンチューブ34との間を通って上昇してピストンチューブ34の上端の隙間46から、ピストンチューブ34の中心部の流路44に流れ込む。そして、この流路44から第2接続口37に向かって流れる。
図4に示すように、制御棒6の引抜時において、第2接続口37から供給された駆動水Wは、ピストンチューブ34の中心部の流路44に流れ込む。そして、ピストンチューブ34の上端の隙間46から、インデックスチューブ32とピストンチューブ34との間の流路44を通って降下して、インデックスチューブ32を押し下げる。
なお、第2接続口37から供給された駆動水Wの一部が分岐されてコレットピストン33の下部のチェンバ42に向かって流れる。そして、コレットピストン33が押し上げられて係合爪33aが開いて、インデックスチューブ32の凹部32aから外れる。また、コレットピストン33を押し上げた駆動水Wは炉内にリークする。
インデックスチューブ32を押し下げた駆動水Wは、インデックスチューブ32とピストンチューブ34との間を通って、インデックスチューブ32の下部のチェンバ39にリークする。そして、第1接続口36から排出される。
制御棒駆動機構5には、駆動水Wのリークを許容しつつ、インデックスチューブ32およびコレットピストン33を動作されせるための様々なシール部材47〜50が設けられている。
例えば、インデックスチューブ32の上部には、ストップピストンシール47が設けられる。さらに、インデックスチューブ32の下部において、ピストンチューブ34に摺動される内周面にインナーシール48が設けられるとともに、シリンダチューブ31に摺動される外周面にアウターシール49が設けられる。さらに、コレットピストン33には、コレットピストンシール50が設けられる。
これらのシール部材47〜50は、経年劣化または摩耗により消耗する部品である。例えば、185体ある制御棒駆動機構5の保守点検において、いずれの制御棒駆動機構5のシール部材47〜50が消耗しているかを把握し、適切な時期に点検を行うことが重要である。点検時には、点検対象となる制御棒駆動機構5を分解してシール部材47〜50の消耗状態をチェックするようにしている。
本実施形態の制御棒駆動系統9は、ポンプ24、各種弁12〜15などの機器によって、制御棒駆動系統9を流れる流体の流量と圧力を調整して制御棒6の挿入または引き抜きを行うものである。つまり、制御棒駆動系統9は、制御棒駆動機構5、ポンプ24、各種弁12〜15、フィルタ17、オリフィス45、流量計などのセンサ18、流量制御のための回路、およびポンプ駆動のための電気系統などを含む。
次に、保守管理システム1のシステム構成を図1に示すブロック図を参照して説明する。
保守管理システム1は、モデル化処理部51と解析部52と差異判定部53と初期パラメータ設定部54とパラメータ更新部55と試験および点検データベース56とセンサ群57と測定データ受信部58とを備える。
モデル化処理部51によって物理モデル59と方程式群60とが構築される。また、差異判定部53と初期パラメータ設定部54とパラメータ更新部55とで一致パラメータ特定部61が構成される。さらに、試験および点検データベース56とセンサ群57と測定データ受信部58とで実測データ取得部62が構成される。
また、保守管理システム1は、記録部63とデータ処理部64と許容範囲設定部65と状態判定部66と点検対象選定部67と測定方法選定部68と異常原因特定部69と点検時期判定部70と結果出力部71とメイン制御部72と情報入力部73と通信部74とを備える。
保守管理システム1の各部は、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。なお、試験および点検データベース56は、メモリまたはHDDに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
本実施形態の保守管理システム1は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の保守管理方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
モデル化処理部51は、原子力発電プラント2の制御棒駆動機構5とその動作に関係する機器とを含む制御棒駆動系統9の状態を再現可能な物理モデル59を構築する(図5から図6参照)。なお、物理モデル59として構築される制御棒駆動系統9には、動力源となる駆動水を供給する制御棒駆動水ポンプ24が含まれる。さらに、弁または配管、制御系またはそれに係る電気系のすべてがモデル構築の対象となり得る。
さらに、モデル化処理部51は、物理モデル59に基づく方程式を定式化して、方程式群60を構築する。例えば、この制御棒駆動系統9を構成する機器の力学的挙動を表す力学モデル、流量および圧力など流体的挙動を表す流体モデルなどから構成される物理モデル59を構築し、これらに対応する定式化された方程式群60を構築する。
本実施形態の物理モデル59は、制御棒駆動機構5と機器であるポンプ24または弁12〜15の力学的挙動を表す力学モデルを含む。また、制御棒駆動系統9を流れる流体の流量または圧力の変化を表す流体モデルを含む。また、制御棒駆動系統9の熱に関する現象を表現する熱モデルを含む。また、制御棒駆動系統9の設備の挙動を制御するための制御モデルを含む。また、制御棒駆動系統9の設備に関する電気系統の挙動を表す電気回路モデルを含む。また、制御棒駆動系統9の設備の材質の特性を表す物性モデルを含む。なお、これらのモデルのうち、少なくともいずれかのモデルを含んでいれば良い。
また、本実施形態では、物理モデル59で定義されたパラメータの組み合わせによって制御棒駆動系統9の状態を再現する。このようにすれば、実際の制御棒駆動系統9の状況を反映した物理モデル59を構築することができる。なお、機器は制御棒駆動機構5に対応する水圧制御ユニット8のポンプまたは弁12〜15が含まれる。さらに物理モデル59は、制御棒駆動系統9を個々に識別可能な識別情報に対応付けられて構築される。これらの物理モデル59によって、それぞれの制御棒駆動系統9の状況が反映されるシミュレーションを行うことができる。
解析部52は、物理モデル59に基づいて定式化された方程式群60にパラメータを反映して演算を実行する。この解析部52は、初期パラメータまたはこれを更新させたパラメータを方程式群60に代入して求めた演算結果を出力する。
なお、パラメータとは、再現の対象となる機器が弁である場合には、この弁のCV値などを含む。また、弁の特性を表すもの、例えば、弁の形状または弁の内径などを含む。これらのパラメータは、弁の仕様に基づいて取得しても良いし、実際の弁を試験することで取得しても良い。
差異判定部53は、解析部52による物理モデル59の演算結果と実測データとを比較して互いの差異の有無を判定する。なお、実測データには、制御棒駆動系統9に設置されたセンサ群57が測定した測定データと、制御棒駆動系統9の設備を過去に試験および点検したときの試験および点検データとの少なくともいずれかを含む。この差異判定部53は、例えば、物理モデル59の演算結果が、測定データまたは試験および点検データベース56に記録された駆動水流量、または駆動水圧力データなどと一致しているか否か判定する。
初期パラメータ設定部54は、物理モデル59の方程式群60に反映されるパラメータの初期値を設定する。なお、正常動作している制御棒駆動系統9の測定データに一致するパラメータを初期パラメータとして設定する。また、初期パラメータを使用者が予め設定しても良い。
パラメータ更新部55は、物理モデル59の方程式群60に反映させるパラメータを更新する。例えば、解析部52の演算結果が測定データまたは試験および点検データと一致するようにパラメータを更新する。なお、一致するまでパラメータの更新を繰り返すようにする。
本実施形態では、差異判定部53にて差異が有ると判定された場合にパラメータ更新部55によりパラメータを更新する。一方、差異判定部53にて差異が無いと判定された場合に物理モデル59に反映されているパラメータを一致パラメータとして特定する。つまり、なお、差異判定部53と初期パラメータ設定部54とパラメータ更新部55とで構成される一致パラメータ特定部61によって、物理モデル59の演算結果が実測データに最も一致するパラメータを一致パラメータとして特定する。このようにすれば、様々なパラメータを更新して物理モデル59に反映させることで一致パラメータを特定することができる。
試験および点検データベース56は、制御棒駆動系統9の設備を過去に試験および点検したときに取得された試験および点検データを記憶する。また、点検の履歴などの各種情報が記憶される。さらに、試験および点検データは、制御棒駆動系統9を個々に識別可能な識別情報に対応付けて記憶される。
センサ群57は、制御棒駆動系統9に設置された多数の各種センサ18で構成される。なお、各種センサ18は、制御棒駆動系統9に予め設置されるもののみならず、点検の度に加えられるものであっても良い。また、既に設置されているセンサ18の設置箇所を変更しても良い。
測定データ受信部58は、制御棒駆動系統9に設置されたセンサ群57の測定データを受信する。なお、試験および点検データベース56とセンサ群57と測定データ受信部58とで構成される実測データ取得部62によって実測データが取得される。このようにすれば、実際の制御棒駆動系統9の状態が反映される実測データを取得することができる。
記録部63は、一致パラメータと、この一致パラメータの解析結果とを含む解析データを記録する。つまり、解析部52の演算結果が実測データと一致した際に、その演算結果と一致パラメータとを記録する。
データ処理部64は、解析データをデータマイニングによって処理する。つまり、記録部63に記録された解析結果と一致パラメータに関するデータをデータマイニングで処理する。このようにすれば、大量のデータに網羅的に処理することができる。なお、データマイニングとは、統計学、パターン認識、人工知能などのデータ解析の方法を大量のデータに網羅的に適用することで知識を取り出す技術である。
なお、データ処理部64は、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を備えても良い。本実施形態のコンピュータを用いた解析には、人工知能の学習に基づく解析技術を用いることができる。例えば、ニューラルネットワークによる機械学習により生成された学習モデル、その他の機械学習により生成された学習モデル、深層学習アルゴリズム、回帰分析などの数学的アルゴリズムを用いることができる。また、機械学習の形態には、クラスタリング、深層学習などの形態が含まれる。
本実施形態の保守管理システム1は、機械学習を行う人工知能を備えるコンピュータを含む。例えば、ニューラルネットワークを備える1台のコンピュータで保守管理システム1を構成しても良いし、ニューラルネットワークを備える複数台のコンピュータで保守管理システム1を構成しても良い。
ここで、ニューラルネットワークとは、脳機能の特性をコンピュータによるシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。さらに、ニューラルネットワークは、深層学習(Deep Learning)により問題解決能力を取得する。
例えば、ニューラルネットワークには、6層のレイヤーを有する中間層が設けられる。この中間層の各レイヤーは、300個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワークに学習用データを用いて予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中にある特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワークは、ユーザインターフェース上で、任意の中間層数、ユニット数、学習率、学習回数、活性化関数を設定することができる。
なお、学習の対象となる各種情報に報酬関数を設定し、この報酬関数に基づいて価値が最も高くなるものを抽出する深層強化学習を用いても良い。
例えば、画像認識で実績のあるCNN(Convolution Neural Network)を用いる。このCNNでは、中間層が畳み込み層とプーリング層で構成される。畳み込み層は、前の層で近くにあるノードにフィルタ処理を施すことで特徴マップを取得する。プーリング層は、畳込み層から出力された特徴マップを、さらに縮小して新たな特徴マップとする。この際に着目する領域のいずれの値を用いるかによって、画像の多少のずれも吸収することができる。
畳み込み層は、画像の局所的な特徴を抽出し、プーリング層は、局所的な特徴をまとめる処理を行う。これらの処理では、入力画像の特徴を維持しながら画像を縮小処理する。つまり、CNNでは、画像の持つ情報量を大幅に圧縮(抽象化)することができる。そして、ニューラルネットワークに記憶された抽象化された画像イメージを用いて、入力される画像を認識し、画像の分類を行うことができる。
なお、深層学習には、オートエンコーダ、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、GAN(Generative Adversarial Network)などの各種手法がある。これらの手法を本実施形態の深層学習に適用しても良い。
許容範囲設定部65は、状態判定部66または点検対象選定部67にて判定に用いる許容範囲の値が予め設定される。この許容範囲は、使用者が予め設定しても良い。また、許容範囲は、全ての制御棒駆動系統9に同一のものでも良いし、個々の制御棒駆動系統9ごとに異なるものでも良い。
状態判定部66は、データ処理部64の処理結果に基づいて制御棒駆動系統9の状態を判定する。例えば、状態判定部66は、解析データと予め定められた許容範囲とを比較し、制御棒駆動系統9の異常の有無の判定を行う。このようにすれば、予め定められた許容範囲により異常の有無の判定を行うことができる。また、異常の程度の評価を行っても良い。なお、解析データを許容範囲(正常値の範囲)の上限の閾値または下限の閾値と比較しても良い。つまり、データ処理部64の処理結果が示す値と所定の閾値とを比較して制御棒駆動系統9の状態を判定しても良い。
なお、状態判定部66にて用いられる制御棒駆動系統9の状態を評価する指標には、制御棒6の位置および駆動速度と、ストールフロー量と、制御棒駆動系統9を流れる駆動水W(流体)の流量、圧力、および温度と、制御棒駆動系統9で生じる駆動水Wの漏洩流量と、制御棒駆動機構5の摺動部分に生じる摩擦力と、シール部材47〜50の摩耗量と、弁の開度と、電気系統の電圧および電流などが含まれる。なお、ストールフロー量とは、制御棒6が最下方位置で停止している状態で駆動水を入れたときのリーク量のことである。
点検対象選定部67は、状態判定部66で正常と判定された場合に、これら正常と判定された複数の制御棒駆動機構5のうちから、次回点検の対象とすべき制御棒駆動機構5を選定する。
また、点検対象選定部67は、解析データに基づいて制御棒駆動機構5の劣化の進展具合を評価し、次回点検の対象とすべき制御棒駆動機構5を選定する。このようにすれば、正常と判定された制御棒駆動機構5について劣化の進展具合を考慮して次回点検の対象とするか否かを決定することができる。さらに、次回点検の対象とすべき制御棒駆動機構5の選定する処理を自動的に行うことができる。
測定方法選定部68は、解析データに基づいて制御棒駆動系統9の状態を監視するセンサ18の種類および設置位置を選定する。この測定方法選定部68は、記録部63に記録された解析データをデータ処理部64が処理をし、これらのデータから制御棒駆動系統9の状態を監視するために、最適な物理量、およびこの物理量を取得するためのセンサ18の設置位置を選定する。このようにすれば、適切な種類のセンサ18を適切な位置に設けることができ、実際の制御棒駆動系統9の状態が反映される実測データを取得できる。
異常原因特定部69は、状態判定部66で所定の制御棒駆動機構5が異常と判定された場合に、その異常原因を特定する。このようにすれば、点検の対象とすべき制御棒駆動機構の異常原因を特定する処理を自動的に行うことができる。また、異常原因特定部69は、解析データに基づいて制御棒駆動系統9で起こり得る原因を抽出し、優先的に確認すべき部分(確認事項)を抽出する処理を行う。このようにすれば、優先的に確認すべき部分を把握することができる。
点検時期判定部70は、解析データに基づいて制御棒駆動機構5の劣化の進展具合を評価し、制御棒駆動機構5に異常が発生する時期および確率を求め、次回の点検時期(点検周期)を判定する。このようにすれば、制御棒駆動機構5について劣化の進展具合を考慮して点検時期を判定することができる。
なお、制御棒駆動機構5の劣化の進展具合は、例えば、予め予測された劣化の予測値、劣化による制御棒駆動機構5への影響度、劣化に基づく所定の事象の発生確率などを閾値とし、これらの閾値と解析データの値とを比較して求められる。また、次回の点検時期とは、繰り返し行われる予定がある定期点検(点検周期)のうち、評価が行われたときを起点として、最も近い時期に行う予定がある定期点検のことである。
結果出力部71は、解析および評価の結果の出力を行う。つまり、状態判定部66と点検対象選定部67と測定方法選定部68と異常原因特定部69と点検時期判定部70とにより導き出された結果を出力する。なお、評価の結果には、次回の点検対象となる制御棒駆動機構5の選定結果を含む。また、制御棒駆動機構5の点検時期を含む。
本実施形態の保守管理システム1には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの表示装置が含まれる。つまり、結果出力部71は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体であっても良いし、一体であっても良い。さらに、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を結果出力部71が行っても良い。
なお、本実施形態では、表示装置としてディスプレイを例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、プロジェクタを用いて情報の表示を行っても良い。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイの替りとして用いても良い。つまり、結果出力部71が制御する対象としてプロジェクタまたはプリンタが含まれても良い。
メイン制御部72は、保守管理システム1を統括的に制御する。
情報入力部73は、保守管理システム1を使用する使用者の操作に応じて所定の情報が入力される。この情報入力部73には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が情報入力部73に入力される。
通信部74は、他のコンピュータとの通信を行う。この通信により所定の情報の入出力が行われる。また、これらの通信は、有線通信回線を用いても良いし、無線通信回線を用いても良い。なお、通信部74は、WAN(Wide Area Network)、インターネット回線、または携帯通信網を介して、他のコンピュータと通信を行っても良い。
次に、図5から図6を用いて物理モデル59について説明する。図5は図3に対応し、原子炉3への制御棒6の挿入時の制御棒駆動系統9の物理モデル59である。図6は図4に対応し、原子炉3への制御棒6の引抜時の制御棒駆動系統9の物理モデル59である。
制御棒駆動系統9を構成するそれぞれの機器の挙動を物理モデル59に置き換えて、制御棒駆動機構5に対する影響を定量的に解析することができる。例えば、シール部材47〜50、ボール逆止弁38、オリフィス45からの流量を流体抵抗として圧力損失から算出する。物理モデル59に含まれる情報としては、制御棒6の重量、弾性率、流体密度、寸法などの物理量が挙げられる。
図5から図6に示すように、物理モデル59では、制御棒6のモデル75と、インデックスチューブ32のモデル76と、シリンダチューブ31およびピストンチューブ34のモデル77と、挿入配管10のモデル78と、引抜配管11のモデル79と、駆動水Wの流れと、駆動水Wが流れる流路とが再現される。なお、制御棒駆動機構5はピストン構造により系統を流れる流体によって制御棒6が駆動されるようになっている。
さらに、駆動水Wが流れる流路において、ストップピストンシール47とコレットピストンシール50を含む流動抵抗のモデル80と、インナーシール48を含む流動抵抗のモデル81と、アウターシール49とオリフィス45とボール逆止弁38を含む流動抵抗のモデル82とが再現される。
このように実際の制御棒駆動系統9の構造を元にして、物理モデル59に置き換え、それらに基づく方程式群60を定義する。なお、正常な状態と異なる状態についても物理モデル59を用いて、その状態での挙動を評価することが可能である。制御棒駆動系統9では、これを構成する機器において、摺動部分の摩耗または流体内へのごみの混入に起因する漏洩流量の増加により、制御棒6が適切に駆動しない場合がある。また、制御棒6が適切に駆動しない原因として、弁からの漏洩または流体内への空気の混入が挙げられる。そして、これらの原因に対して流量または圧力などの制御棒駆動系統9の挙動が変わる。このように正常と異なる状態を評価することが可能となる。
このため、制御棒駆動系統9を流れる駆動水Wの流量、圧力、温度などを常時測定し、これらの実測データの経時変化を追跡することで、制御棒駆動系統9の異常の検知または異常原因を特定することができる。
次に、図7から図8を用いて実測データと解析データを用いた異常原因(劣化の進展具合の原因)の推定方法を説明する。図7は、制御棒駆動系統9の流量の実測データのプロファイルと解析データのプロファイルを重ね合わせた様子を示している。
図7に示すように、応答A、応答Bなどの各グラフは、物理モデル59の各パラメータの変化に対する解析データの応答を示している。これらの組み合わせで解析データのプロファイルが決定される。なお、図7において、実線のグラフは、パラメータの変化前を示し、点線のグラフは、パラメータの変化後を示す。
図8に示すように、実測データを得る場合には、まず、制御棒駆動系統9に設置されたセンサ群57から実測データを得る。そして、この実績データのプロファイルに対して、解析データのプロファイルが一致するものを特定する。
図7に示すように、応答Aは、駆動水に空気の混入の有無を示すパラメータを反映している。例えば、駆動水に空気が混じっていない正常のパラメータのプロファイル(実線)があるとする。ここで、駆動水に空気が混じると、所定の流量に達するまでに時間がかかるため、異常を示すパラメータのプロファイル(点線)に変化する。なお、異常を示すパラメータは、混じっている空気の量に応じて変化する。
また、応答Bは、駆動水のリークの有無を示すパラメータを反映している。例えば、駆動水のリークがない正常のパラメータのプロファイル(実線)があるとする。ここで、駆動水にリークがあると、所定の流量に達しないようになるため、異常を示すパラメータのプロファイル(点線)に変化する。なお、異常を示すパラメータは、リーク量に応じて変化する。
さらに、応答C、応答D…と様々な種類の応答のパラメータを設定する。これらの応答には、空気の混入量、駆動水のリーク量以外にも、例えば、ゴミの噛み込み、部材の摩耗、摺動抵抗などの要素を含めても良い。
そして、これらの応答のパラメータのプロファイルと実測データのプロファイルとを比較する。そして、各パラメータを調整することで実測データに一致する解析データを得ることができる。例えば、応答Aの異常を示すパラメータのプロファイルと実測データのプロファイルとが一致した場合には、駆動水に空気が混じっていることが分かる。さらに、応答Bの異常を示すパラメータのプロファイルと実測データのプロファイルとが一致した場合には、駆動水にリークがあることが分かる。つまり、図8に示すように、実測データに解析データをフィッテングしたとき、図7に示すように、異常に対する各応答A,B,C,D,…の成分がどのくらい含まれているかが分かる。
なお、応答Aおよび応答Bの両方の異常を示すパラメータのプロファイルと実測データのプロファイルとが一致する場合もあるが、その場合には、各パラメータの一致度を判定して最も実測データに近いパラメータを評価に用いるようにしても良い。さらに、多数の応答のパラメータを比較に用いることで、制御棒駆動系統9の状況を把握することができる。
なお、本実施形態では、駆動水Wに関するパラメータを例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、電気回路を流れる電流値のパラメータでも良いし、制御棒駆動機構5の各部分の温度のパラメータでも良い。
図1に示すように、差異判定部53は、制御棒駆動機構5の動作開始から動作停止までの実測データのプロファイルと解析データのプロファイルとを対比して両者の差異の有無を判定する機能を備える。この差異が有りと判定された場合に、パラメータ更新部55において初期パラメータが更新されたり、更新パラメータがさらに更新されたりして、解析部52において解析データが更新される。
そして、実測データと解析データとの間に差異がないと判定された場合は、解析データと更新パラメータは、記録部63に蓄積される。この記録部63には、制御棒駆動機構5が駆動する度に、パラメータが更新されたか否かにかかわらず、時間情報を付随させて蓄積される。なお、記録部63には、制御棒駆動機構5を個々に識別可能な識別情報に対応付けて、解析データが蓄積される。
なお、各パラメータに対して初期パラメータ(正常時のパラメータを含む)からの差異の大きさを比較しても良い。そして、状態判定部66にて異常と判定された場合に、逸脱が大きいパラメータが異常の主原因(劣化の進展具合の原因)として特定することができる。
また、状態判定部66にて正常と判定された場合に、点検対象選定部67において、初期パラメータからの逸脱が大きいパラメータに対応する制御棒駆動機構5を抽出する。そして、データ処理部64にて算出された予測値および事象発生確率と合わせて評価し、次回分解点検対象となる制御棒駆動機構5を選定する。
なお、原因の特定結果、または次回分解点検対象となる制御棒駆動機構5の選定結果は、結果出力部71より出力される。これにより、異常発生時の主要原因特定、または次回分解点検対象となる制御棒駆動機構5の選定を、判断者の習熟度に依らずに、定量的な判断が可能となる。
測定方法選定部68は、異常原因特定または次回分解点検対象となる制御棒駆動機構5の選定のために最適なセンサ18の種類またはセンサ18の設置場所を選定する。例えば、予め異常に対する制御棒駆動系統9の挙動を物理モデル59で評価する。そして、解析部52にて算出される影響度または発生確率に基づいて、測定すべき物理量と、その測定のためのセンサ18と、その設置位置が選定される。そして、選定されたセンサ18の種類と設置場所は、結果出力部71により出力される。
制御棒駆動系統9の経年劣化事象の殆どは制御棒6の挿入または引き抜きによる制御棒駆動機構5のシール部材47〜50の摩耗である。このため、摩耗量の時間変化を評価することで制御棒駆動機構5の寿命予測が可能となる。これらのシール部材47〜50の摩耗量の時間変化は、理論式または試験により予め求めることができる。また、シール部材47〜50の摩耗による漏洩流量の時間変化を試験で求めても良い。
次に、図9から図10を用いて制御棒駆動機構5の寿命を予測する方法について説明する。図9は、シール摩耗試験データを示す。例えば、インナーシール48またはアウターシール49の摩耗変化と摺動距離の関係を試験によって求めた結果とそのばらつきを表している。
図10は、シール部材47〜50の摩耗量の時間変化を測定した試験結果を物理モデル59に反映して制御棒6の駆動速度の時間変化を算出したグラフを示している。この解析結果は、その試験結果を反映して解析およびデータ処理を行い制御棒6の駆動速度と摺動時間の関係を示している。
例えば、データ処理された制御棒6の駆動速度は、シール摩耗試験データQにばらつきがあるため、データ処理部64での統計処理によって、ある時刻における駆動速度の確率分布Pが出力される。この結果と駆動速度に対する許容範囲Rより制御棒6の寿命を確率的に予測することが可能となる。なお、許容範囲Rは、許容範囲設定部65に予め設定されている。例えば、許容範囲Rの下限値よりも、確率分布Pの下限値が下回った時点を寿命Tとする。そして、予測された寿命T、または、その寿命Tとなる確率は、結果出力部71により出力される。
次に、保守管理システム1が実行する保守管理処理について図11から図12のフローチャートを用いて説明する。なお、図1に示すブロック図を適宜参照する。
図11に示すように、まず、ステップS11において、モデル化処理部51は、制御棒駆動系統9の物理モデル59と方程式群60を構築する。
次のステップS12において、初期パラメータ設定部54は、物理モデル59の方程式群60に反映されるパラメータの初期値を設定する。
次のステップS13において、解析部52は、物理モデル59に基づいて定式化された方程式群60にパラメータを反映して演算を実行する。そして、パラメータを方程式群60に代入して求めた演算結果を出力する。
次のステップS14において、差異判定部53は、試験および点検データベース56から実測データとしての試験および点検データを取得する。
次のステップS15において、測定データ受信部58は、センサ群57から測定データを受信する。そして、差異判定部53は、測定データ受信部58から実測データとしての測定データを取得する。
次のステップS16において、差異判定部53は、解析部52による物理モデル59の演算結果と実測データとを比較して互いの差異の有無を判定する。
次のステップS17において、差異判定部53の判定の結果、物理モデル59の演算結果と実測データとに差異が無い場合(ステップS17がNO)は、後述のステップS19に進む。一方、物理モデル59の演算結果と実測データとに差異が有る場合(ステップS17がYES)は、ステップS18に進む。
なお、物理モデル59の演算結果と実測データとに差異が無いとされる場合は、物理モデル59の演算結果と実測データとが同一である場合のみならず、これらの差分が所定の範囲におさまる場合を含む。つまり、許容可能な差分の範囲が予め設定され、この範囲の上限値以下であるか、または下限値以上であるかが判定されるものでも良い。
ステップS18において、パラメータ更新部55は、物理モデル59の方程式群60に反映させるパラメータを更新する。そして、前述のステップS13に戻る。
ステップS19において、差異判定部53(一致パラメータ特定部61)は、差異が無いと判定されたときに、物理モデル59に反映されているパラメータを一致パラメータとして特定する。
次のステップS20において、記録部63は、一致パラメータと、この一致パラメータの解析結果とを含む解析データを記録する。
次のステップS21において、メイン制御部72は、未解析の制御棒駆動系統9があるか否かを判定する。ここで、未解析の制御棒駆動系統9がある場合(ステップS21がYES)は、前述のステップS11に戻り、残っている制御棒駆動系統9の物理モデル59を構築して解析を行う。一方、未解析の制御棒駆動系統9がない場合(ステップS21がNO)は、ステップS22に進む。
図12に示すように、次のステップS22において、データ処理部64は、データマイニング処理を実行する。このデータマイニング処理では、記録部63に記録された解析結果と一致パラメータに関するデータを処理し、制御棒駆動系統9の状態に関する情報を取得する。
次のステップS23において、状態判定部66は、データ処理部64の処理結果に基づいて評価対象となっている制御棒駆動系統9の状態を判定する。
次のステップS24において、状態判定部66の判定の結果、評価対象の制御棒駆動系統9に異常が無い場合(ステップS24がNO)は、後述のステップS28に進む。一方、評価対象の制御棒駆動系統9に異常が有る場合(ステップS24がYES)は、ステップS25に進む。
ステップS25において、異常原因特定部69は、解析データに基づいて制御棒駆動系統9で起こり得る原因を抽出し、優先的に確認すべき部分(確認事項)を抽出する処理を行う。
次のステップS26において、異常原因特定部69は、状態判定部66で評価対象の制御棒駆動機構5が異常と判定された場合に、その異常原因を特定する。
次のステップS27において、結果出力部71は、状態判定部66で異常と判定された制御棒駆動機構5を指定し、異常である旨を示す報知の出力を行う。そして、処理を終了する。この報知がされた場合に原子力発電プラント2が運転中ならば、原子力発電プラント2の運転を停止するようにしても良い。
ステップS28において、メイン制御部72は、未評価の制御棒駆動系統9があるか否かを判定する。ここで、未評価の制御棒駆動系統9がある場合(ステップS28がYES)は、前述のステップS29に戻り、残っている制御棒駆動系統9の評価を行う。一方、未評価の制御棒駆動系統9がない場合(ステップS28がNO)は、ステップS31に進む。
次のステップS29において、測定方法選定部68は、解析データに基づいて制御棒駆動系統9の状態を監視するセンサ18の種類および設置位置を選定する。
次のステップS30において、点検対象選定部67は、状態判定部66で正常と判定された複数の制御棒駆動機構5のうちから、次回点検の対象とすべき制御棒駆動機構5を選定する。つまり、それぞれの制御棒駆動機構5の点検時期が判定される。
次のステップS31において、点検対象選定部67は、解析データに基づいて制御棒駆動機構5の劣化の進展具合の評価を行う。
次のステップS32において、点検対象選定部67は、状態判定部66で正常と判定された複数の制御棒駆動機構5のうちから、次回点検の対象とすべき制御棒駆動機構5を選定する。
次のステップS33において、結果出力部71は、状態判定部66と点検対象選定部67と測定方法選定部68と異常原因特定部69と点検時期判定部70とにより導き出された結果を出力する。そして、処理を終了する。
なお、本実施形態において、基準値(閾値、許容範囲の上限値または下限値)を用いた任意の値(差分などの値)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
本実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
なお、本実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
なお、本実施形態では、沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)に適用されるシステムを例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR:Advanced Boiling Water Reactor)または加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)に本実施形態のシステムを適用しても良い。
なお、本実施形態では、水圧式の制御棒駆動機構を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、磁気ジャック式、ローラーナット式、またはラックピニオン式の制御棒駆動機構に本実施形態を適用しても良い。
なお、本実施形態では、制御棒駆動系統9の保全作業の支援を行うシステムを例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、原子炉3を緊急停止させるためのスクラム系統の保全作業の支援を行うシステムに本実施形態を適用しても良い。
なお、本実施形態では、データ処理部64が解析データをデータマイニングによって処理するようにしているが、その他の態様であっても良い。例えば、解析データを人手により処理しても良い。また、AIを備えていない従来のコンピュータにより解析データを
処理しても良いし、
本実施形態では、制御棒駆動系統9の機器の挙動について物理モデル59を用いた演算により求めるため、実測データの有無に関わらず、全ての制御棒駆動系統9の状態を再現することができる。これを用いて機器の故障にかかるパラメータ変化に対する応答を分析することで、制御棒駆動系統9の影響度を求めることができ、これらの情報に基づいて、センサ18の種類、センサ18の設置位置の決定、異常発生時の原因特定、次回分解点検対象となる制御棒駆動機構5の選定を行うことができる。
異常原因の特定および次回分解点検対象となる制御棒駆動機構の選定を、体系的かつ定量的に行うことができるため、判断者に依らず、高い信頼性をもって判断できる。また、機器の寿命予測については、パラメータの時間変化を予め理論式または要素試験で把握しておくことで大規模な試験を行うことなく、故障に至るまでの時間を算出することができる。さらに、実機データのばらつきを含めたデータ解析により、確率的な寿命予測が可能となるため、適確な点検計画の策定が可能となる。
以上説明した実施形態によれば、物理モデルの演算結果が実測データに一致するパラメータを一致パラメータとして特定する一致パラメータ特定部を備えることにより、原子力発電プラントの制御棒駆動系統の点検時期の決定を支援することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。