JP2020132596A - ポルフィリン錯体 - Google Patents

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Abstract

【課題】水中では安定で蛍光を発しないが、細胞内では蛍光を発して細胞死を起こすことが可能なポルフィリン錯体を提供することを目的とする。【解決手段】下記式(1)で表されるポルフィリンと多糖類とから構成され、上記ポルフィリンは、多糖類に包接されていることを特徴とするポルフィリン錯体。【化1】(式中、Xはヒドロキシ基、アミノ基、又はカルボキシ基を示し、Xのうち1〜3つは水素原子であってもよい。)【選択図】なし

Description

本発明は、ポルフィリン錯体に関する。
光線力学的療法(Photo Dynamic Therapy:PDT)は、光増感剤を投与してがん細胞等に集積させ、光励起によって活性酸素種を生成させることによって、がん細胞等を壊死させる治療方法である。正常な細胞に影響を与えるおそれが少ないことから、近年非常に注目されている。
ところで、分子全体に共役が広がっているポルフィリンは、可視領域の光を吸収して蛍光を発する特性があり、光を照射することによって溶存酸素を活性酸素に変換することができる。さらには、生体細胞への特異的な集積性を有するため、これらの特性を活かして、ポルフィリン誘導体を光増感剤としてPDTに利用する研究が盛んにされており、既に認可を受けて市販されているものもある。
しかし、従来の光増感剤は、特定の細胞への集積が不十分であることや、細胞外において可視光の照射によってエネルギーを受け渡し、活性酸素を発生させてしまうおそれがあり、これにより、血管やリンパ節等を傷つけてしまうおそれがあった。また、ポルフィリンは水に溶かすと容易に自己集合し、不溶化してしまう特性があるため、いかに水溶性を付与させるかという課題もある。そのため、水溶液中で安定し、かつ、細胞内でのみ高い活性を示す光増感剤のさらなる開発が求められている。
特許文献1では、正常組織からの排出速度が速く、光毒性を低減させた光増感剤としてのポルフィリン誘導体が開示されており、特許文献2では、生体内の環境に応答して、抗酸化活性を向上させることのできるポルフィリン誘導体が開示されている。
これらのポルフィリン誘導体は、ポルフィリン骨格へ様々な置換基を導入することよって光増感剤としての特性を制御しようとするものである。
特許第3718887号公報 特許第6444211号公報
このように、特殊な置換基をポルフィリンへ導入する研究は多くされているものの、新たなメカニズムで蛍光のオン−オフを切り替えることが可能なポルフィリンの開発が要求されており、それが開発されれば、光線力学療法だけでなく、生化学分野で広く用いられる細胞マーカーの分野において、大きなブレイクスルーになりうることとなる。
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水中で安定かつ細胞外では蛍光を発せず、細胞内において蛍光を発して細胞死を起こすことが可能なポルフィリン錯体を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明のポルフィリン錯体は、下記式(1)で表されるポ
ルフィリンと多糖類とから構成され、上記ポルフィリンは、多糖類に包接されていることを特徴とする。
(式中、Xはヒドロキシ基、アミノ基又はカルボキシ基を示し、Xのうち1〜3つは水素原子であってもよい。)
また、本発明のポルフィリン錯体は、下記式(2)で表されるポルフィリンと多糖類とから構成され、上記ポルフィリンは、多糖類に包接されていることを特徴とするものでもよい。
(式中、Yは水素原子を示し、少なくとも1つがヒドロキシ基又はメトキシ基により置換されていてもよい。)
また、上記多糖類は、グルカン、カラギーナン、プルラン及びタマリンドガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
そして、上記ポルフィリンは、上記多糖類に包接されていることにより、可視光を照射されたときに水溶液中において蛍光を発しない一方、細胞内においては蛍光を発することを特徴とする。
本発明のポルフィリン錯体によれば、水中では安定で蛍光を発しないが、細胞内では蛍光を発して細胞死を起こすことが可能となる。
本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体のスペクトルを含む紫外可視吸収スペクトルデータである。 本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体のスペクトルを含む蛍光スペクトルデータである。 本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体のスペクトルを含むHNMRスペクトルデータである。 本発明の実施例1および比較例1に係るポルフィリン錯体をそれぞれ添加した際のHeLa細胞の位相差像と蛍光像を示す画像である。 本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体のリポソーム存在下におけるスペクトルを含む紫外可視吸収スペクトルデータである。 本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体のリポソーム存在下におけるスペクトルを含む蛍光スペクトルデータである。 本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体のリポソーム存在下における一重項酸素発生能を示すグラフである。 暗所において本発明の実施例1に係るポルフィリン錯体をHeLa細胞へ添加した際の細胞生存率を示すグラフである。 光照射下における図8A相当図である。
本発明の実施形態に係るポルフィリン錯体は、ポルフィリンと多糖類とを高速振動粉砕によって粉砕混合することにより得られるものであり、多糖類によって形成される会合体の中空内部にポルフィリンが包接されて錯体を形成したものである。
ポルフィリン錯体を構成するポルフィリンとしては、例えば、下記式(3)乃至(8)で表される化合物を用いることが可能である。
式(3)で表されるポルフィリンは、5,10,15,20−テトラキス(4−アミノフェニル)ポルフィリンであり、式(1)においてXが全てアミノ基で置換されたものである。以下、TAPPと記載することがある。式(4)で表されるポルフィリンは、5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ポルフィリンであり、式(1)においてXが全てヒドロキシ基で置換されたものである。以下、THPPと記載することがある。式(5)で表されるポルフィリンは、(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリフェニルポルフィリン)であり、式(1)においてフェニル基上のXのうち3つが水素原子であり、1つがカルボキシ基で置換されたものである。以下、TCPP1と記載することがある。
また、式(6)で表されるポルフィリンは(10,20−ジフェニル−5,15−ジアザポルフィリン)であり、式(2)においてYを全て水素原子としたものである。以下、Ph−DAPと記載することがある。式(7)で表されるポルフィリンは(10,20−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,15−ジアザポルフィリン)であり、式(2)においてパラ位のYがそれぞれヒドロキシ基で置換されたものである。以下、4−OH−DAPと記載することがある。式(8)で表されるポルフィリンは(10,20−ビス(3,5−ジメトキシフェニル)−5,15−ジアザポルフィリン)であり、式(2)においてメタ位のYが全てメトキシ基で置換されたものである。以下、3,5−MeO−DAPと記載することがある。
ポルフィリン錯体を構成する多糖類は、多数の単糖が結合した高分子化合物であり、包接作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、グルカン、カラギーナン、プルラン及びタマリンドガムから選択することができる。なかでも、ポルフィリンの溶解性及び水溶液の安定性が高いことから、λ−カラギーナン又はプルランを用いることが好ましい。
このポルフィリン錯体は、可視光を照射されたときに水溶液中で安定かつ蛍光を発しないが、細胞内においてはミトコンドリア近傍にて蛍光を発し、活性酸素を発生させることが可能である。これは、水溶液中においては、ポルフィリンは多糖類に包接されているため蛍光を発しないが、細胞内の組織(リソソーム)にポルフィリン錯体が吸着されると構造変化を起こすことにより、蛍光を発することが可能になるため、と推測される。
従って、本発明の実施形態に係るポルフィリン錯体は、従来PDTに利用する目的で開発されてきたポルフィリン誘導体とは全く異なるメカニズムで蛍光のオン・オフを切り替えることが可能となった。また、安定かつ細胞内でのみ活性な光増感剤又は蛍光マーカー
として、広く利用可能である。
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
(実施例1)
(ポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体)の合成)
ポルフィリンとして、上記式(3)で表される5,10,15,20−テトラキス(4−アミノフェニル)ポルフィリンを用い、多糖類としてβ−(1,3−1,6)−D−グルカンを用いたポルフィリン錯体(以下、TAPP・β−グルカン錯体と記載する)を合成した。
より具体的には、まず、5,10,15,20−テトラキス(4−アミノフェニル)ポルフィリン1.2g(1.8μmol)と、アルカリ処理済みのβ−グルカン10.0mgとを、メノウボールとともに円筒形状のメノウ容器に入れ、振動粉砕装置(Retsch製、MM200型)を用いて、30Hz、20分の高速振動粉砕を行った。その後、この混合物に超純水2.0mLを加えて抽出した。得られた抽出液に60分の超音波照射を行った後、遠心分離機(4500rpm、20分)により不溶なTAPPを沈殿させ、上澄みを分取した。この上澄み液がTAPP・β−グルカン錯体水溶液である。
(比較例1)
(ポルフィリン錯体(TPP・β−グルカン錯体)の合成)
ポルフィリンとして、テトラフェニルポルフィリン(TPP)を用い、多糖類としてβ−グルカンを用いたポルフィリン錯体(以下、TPP・β−グルカン錯体と記載する)を合成した。
より具体的には、まず、テトラフェニルポルフィリン(TPP)1.1g(1.8μmol)と、アルカリ処理済みのβ−グルカン10.0mgとを、メノウボールとともに円筒形状のメノウ容器に入れ、振動粉砕装置(Retsch製、MM200型)を用いて、30Hz、20分の高速振動粉砕を行った。その後、この混合物に超純水2.0mLを加えて抽出した。得られた抽出液に60分の超音波照射を行った後、遠心分離機(4500rpm、20分)により不溶なTPPを沈殿させ、上澄みを分取した。この上澄み液がTPP・β−グルカン錯体水溶液である。
(紫外可視吸収スペクトルの測定)
実施例1で得られたTAPP・β−グルカン錯体と、比較例1で得られたTPP・β−グルカン錯体の紫外可視吸収スペクトルを測定し、スペクトルの形状からポルフィリン錯体の構造を推測した。また、環状の糖であり、ゲスト分子を取り込んで包接錯体を形成可能なトリメチル−β−シクロデキストリンとの比較を行うため、テトラフェニルポルフィリン又は10,15,20−テトラキス(4−アミノフェニル)ポルフィリンと、トリメチル−β−シクロデキストリンとを其々、実施例1及び比較例1と同様の手法にて混合し、TPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体と、TAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体とをそれぞれ生成して、紫外可視吸収スペクトルを測定した。
具体的には、5μMのポルフィリン錯体の水溶液を1mmセルのセルに入れ、紫外可視分光光度計(Shimadzu製、UV−3600)により測定した。測定結果を図1に示す。
図1中、黒実線はTAPP・β−グルカン錯体のスペクトルを示し、灰実線はTPP・β−グルカン錯体のスペクトルを示す。また、TPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体のスペクトルを灰破線で示し、TAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体のスペクトルを黒破線で示す。
TPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体及びTAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体のスペクトルはシャープであることから、ポルフィリンを孤立分散していることが推測できた。これに対して、TAPP・β−グルカン錯体とTPP・β−グルカン錯体のスペクトルはブロードであった。このことは、ポルフィリンがβ−グルカン内で会合していることを示していると言える。
(蛍光スペクトルの測定)
実施例1で得られたポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体)と、比較例1で得られたポルフィリン錯体(TPP・β−グルカン錯体)の蛍光スペクトルを測定し、ポルフィリンがβ−グルカンに包接されていることを確認した。また、環状の糖であり、ゲスト分子を取り込んで包接錯体を形成可能なトリメチル−β−シクロデキストリンとの比較を行うため、TPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体と、TAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体とをそれぞれ生成し、同様に蛍光スペクトルを測定した。
具体的には、各ポルフィリン錯体は5μMの水溶液とし、540nmの励起波長で光照射を行い、蛍光光度計(Hitachi製、F−2700)により測定した。測定結果を図2に示す。
図2中、黒実線はTAPP・β−グルカン錯体のスペクトルを示し、灰実線はTPP・β−グルカン錯体のスペクトルを示す。また、TPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体のスペクトルを灰破線で示し、TAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体のスペクトルを黒破線で示す。なお、図2中矢印で示すように、TAPP・β−グルカン錯体のスペクトル(黒実線)は横軸とほぼ重なっている。
TAPP・β−グルカン錯体及びTPP・β−グルカン錯体では、蛍光はほとんど見られなかった。このことは、ポルフィリンが会合した状態でβ−グルカンに包接されていることを示していると言える。
HNMRスペクトルの測定)
次に、実施例1で得られたTAPP・β−グルカン錯体と、比較例1で得られたTPP・β−グルカン錯体のHNMRスペクトルを測定し、ポルフィリンがβ−グルカンに包接されていることを確認した。また、環状の糖であり、ゲスト分子を取り込んで包接錯体を形成可能なトリメチル−β−シクロデキストリンとの比較を行うため、TPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体と、TAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体とをそれぞれ生成し、同様にスペクトルを測定した。
具体的には、HNMRスペクトルの測定は、内部基準としてDOを使用し、核磁気共鳴測定装置(Varian製、400−MR)の周波数を400MHzに設定して行った。測定結果を図3に示す。
図3中、(a)はβ−グルカンのみ、(b)はTPP・β−グルカン錯体、(c)はTAPP・β−グルカン錯体、(d)はTPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体、そして、(e)はTAPP・トリメチル−β−シクロデキストリン錯体のスペクトルである。
トリメチル−β−シクロデキストリンとの錯体(d)及び(e)は、ポルフィリン由来のシグナルが6.7〜9.0ppm付近に観測されたが、β−グルカンとの錯体(b)及び(c)では、ポルフィリン由来のシグナルは観測されなかった。このことは、ポルフィリンがβ−グルカンに包接されることによってピークが幅広化し観測できなかったことを示していると言える。紫外可視吸収スペクトルで水溶化できているが、NMRスペクトルにおいてピークが観測できなかったことから、ポルフィリンが会合してβ−グルカンに包接されていると言える。
(細胞蛍光染色像の観察)
実施例1で得られたポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体)が、細胞内において蛍光を示すことを確認するため、HeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来の細胞)の培地にポルフィリン錯体を加え、蛍光顕微鏡にて観察した。ポルフィリン錯体を加えるHeLa細胞は以下の方法で準備した。
(HeLa細胞の準備)
HeLa細胞株の入ったディッシュ中の培地をアスピレーターで取り除き、調製したPBSを5mL用いて洗浄した後、調製したトリプシン−EDTA溶液500μLを加え、37℃においてCOインキュベーターにて5分間培養した。5分間の処理後、遊離したHeLa細胞株は、1mLの培地を入れた2.7cmガラス製ディッシュへ50μL入れ、COインキュベーターにて培養した(37℃、2日間)。プラスチック製ではなくガラス製のディッシュを用いたのは、ポルフィリン類縁体のディッシュへの吸着を抑えるためである。
(蛍光顕微鏡による撮影)
次に、HeLa細胞を培養した2.7cmガラス製ディッシュから培地をアスピレーターで取り除き、調製したPBSを1mL用いて洗浄した後、40μMのTAPP・β−グルカン錯体100μL、調製培地900μLをディッシュに加え、同条件で24時間培養した。24時間後、培地を取り除き、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(D−MEM)を1000μL用いて洗浄した。そこへ、D−MEMを1000μL加え、蛍光顕微鏡(Olympus製、IX71型)で観察した。蛍光フィルターにはCy5FRET(励起光:511−551nm、蛍光:662−691nm)を用いて蛍光画像を取得した。その結果を図4に示す。
図4において、(A)及び(C)はHeLa細胞の位相差像であり、(B)及び(D)は蛍光像である。また、(A)及び(B)は比較例1で得られたポルフィリン錯体(TPP・β−グルカン錯体)を添加したものであり、(C)及び(D)は実施例1で得られたポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体)を添加したものである。なお、図4中のスケールバーは100μmである。
TPP・β−グルカン錯体では、HeLa細胞が蛍光を発しなかったのに対し、TAPP・β−グルカン錯体ではHeLa細胞が蛍光を発することが確認できた。これにより、TAPP・β−グルカン錯体は細胞内で蛍光を発することが示されたと言える。
(細胞内における活性の評価)
次に、TAPP・β−グルカン錯体の細胞内における活性を評価するため、細胞モデルとしてリポソームを混合し、TAPP・β−グルカン錯体がDMPCリポソーム存在下で蛍光を発し、一重項酸素発生能を有することを確認した。ポルフィリン錯体に混合したDMPCリポソームは以下の方法で準備した。
(DMPCリポソームの調製)
50mMのDMPCクロロホルム溶液320μLをサンプル瓶に入れ、窒素ガスを吹き付けることにより溶媒を除去して薄膜を形成した。この薄膜にリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)4.0mLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、凍結融解を5回繰り返した。その後、ドライヤーで温めながらエクストルーダーによって孔径50nmのメンブレンフィルターに11回通し、希釈することによりリポソーム溶液を得た(DMPC、4.0mM)。
(紫外可視吸収スペクトルの測定)
実施例1及び比較例1で得られたポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体及びTPP・β−グルカン錯体)の細胞内における性質を確認するため、これらのポルフィリン錯体のDMPCリポソーム混合サンプルを生成した。
具体的には、ポルフィリン錯体を5μMの水溶液とし、DMPCリポソームを加えて混合した。また、ポルフィリン錯体に界面活性剤(トリトンX−100)を加えて混合し、紫外可視分光光度計(Shimadzu製、UV−3600)により測定した。測定結果を図5に示す。
図5中、灰実線はリポソーム非存在下のTAPP・β−グルカン錯体のスペクトルであり、一点鎖線はリポソーム存在下のTAPP・β−グルカン錯体のスペクトルである。また、黒実線はリポソーム非存在下のTPP・β−グルカン錯体のスペクトルであり、黒破線はリポソーム存在下のTPP・β−グルカン錯体のスペクトルである。
TAPP・β−グルカン錯体は、リポソーム非存在下と比べて、リポソーム存在下におけるスペクトルがシャープになっているため、細胞内においてはポルフィリン錯体の構造に変化が起きることが示されたと言える。この結果から、TAPP・β−グルカン錯体は、細胞内の組織(リソソーム)に吸着することで構造変化を起こすと推測される。
(蛍光スペクトルの測定)
実施例1及び比較例1で得られたポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体及びTPP・β−グルカン錯体)の細胞内における性質を確認するため、これらのポルフィリン錯体のDMPCリポソーム混合サンプルを生成した。
具体的には、各ポルフィリン錯体は5μMの水溶液とし、540nmの励起波長で光照射を行い、蛍光光度計(Hitachi製、F−2700)により測定した。測定結果を図6に示す。
図6中、灰実線はリポソーム非存在下のTAPP・β−グルカン錯体のスペクトルであり、一点鎖線はリポソーム存在下のTAPP・β−グルカン錯体のスペクトルである。また、黒実線はリポソーム非存在下のTPP・β−グルカン錯体のスペクトルであり、(黒破線はリポソーム存在下のTPP・β−グルカン錯体のスペクトルである。
リポソーム非存在下において、TAPP・β−グルカン錯体は全く蛍光を示さなかったが、リポソーム存在下では、蛍光を発した。これにより、TAPP・β−グルカン錯体が、細胞から離れた位置では蛍光を発しないが、細胞膜近傍においては蛍光を発することが示されたと言える。
(一重項酸素発生能の評価)
次に、一重項酸素によって退色する特性を有する色素である9,10-Anthracenediyl-bis(methylene) dimalonic acid(ABDA)を用いて一重項酸素発生能を評価した。
具体的には、TAPP・β−グルカン錯体のTAPP濃度を30μMにした後、1cm石英セルに1500μL入れた。そこへ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)1470μLを加えた後、遮光しながら酸素ガスを15分間バブリングした。その溶液に2.5mMのABDA DMSO溶液30μLを加え、紫外可視吸収スペクトルを測定した。このときのスペクトルを光照射時間0分後として光照射(≧620nm)を行い、7.5分、15分、30分、60分後における紫外可視吸収スペクトルを測定した。これを3回行い、その平均と標準誤差を算出した。測定時の最終濃度は、TAPPは15μMであり、ABDAが25μMである。なお、ABDAの3つの吸収(360nm、380nm、400nm付近)のうち、380nmのピークの吸光度を評価した。図7は、光照射時間0分後の吸光度を1として減少率を示しており、吸光度の低下によって、一重項酸素の発生を確認することができる。
図7中、9,10−アントラセンジニル−ビス(メチレン)ジマロン酸(ABDA)存在下において、点線(三角)はリポソーム非存在下のTAPP・β−グルカン錯体の吸収変化であり、一点鎖線(四角)はリポソーム存在下のTAPP・β−グルカン錯体の吸収変化であり、実線(丸)はリポソーム非存在下のTPP・β−グルカン錯体の吸収変化である。
TPP・β−グルカン錯体は、リポソーム非存在下においても吸光度が低下しているため、一重項酸素を発生させていることが分かる。また、TAPP・β−グルカン錯体は、リポソーム非存在下においては一重項酸素をほとんど発生させておらず、リポソーム存在下で一重項酸素を発生させていることが分かる。このことから、TAPP・β−グルカン錯体は、細胞から離れた場所においては一重項酸素を発生させないが、細胞膜近傍においては一重項酸素を発生させると言える。
(光線力学活性の評価)
(光照射サンプルの生成)
調製培地、1×PBS、トリプシン−EDTAを37℃の恒温槽で温めた。HeLa細胞が80%コンフェルトに達した状態で、クリーンベンチ内でディッシュ中の培地を吸い取り、1×PBSを5mL加えて洗浄した。1×PBSを吸い取った後、トリプシン−EDTAを500μL添加し、インキュベーターで5分程度温め、細胞をディッシュから剥離させた。顕微鏡で細胞が完全に剥離したことを確認した後、培地1.5mLを用いて浮遊細胞をコニカルチューブに回収し、遠心分離(1000rpm、3分間)を行った。上澄みを除いた後、沈殿した細胞に培地5mLを添加して懸濁させ、細胞数をカウントし、細胞懸濁溶液を8.55×10cells/cmとなるように希釈した。48well plateに細胞懸濁溶液を200μL播種し、37℃、5%COの条件に設定したインキュベーター内で24時間インキュベートした。48well plateから培地を取り除き、1×PBS 200μLで洗浄し、取り込まれていない錯体を除き、培地200μLを加えたものを光照射サンプルとした。
(細胞への光照射)
光照射サンプルの48well plateを25℃のインキュベーター内に移し、石英ファイバー付キセノンランプ光源(朝日分光製、MAX−301型)を用い、光照射を行った(610−740nm、30分、9.0mW/cm)。その後、37℃、5%COの条件に設定したインキュベーター内に移し、24時間インキュベートした。
(WST−8アッセイによる細胞生存率の算出)
クリーンベンチ内にて、5%WST−8混合培地溶液を調製した。暗所保管及び光照射サンプルの48well plateから培地を取り除き、5%WST−8混合培地溶液200μL
ずつ各wellに添加し、37℃、5%COの条件に設定したインキュベーター内に移し、30分インキュベートした。その後、呈色した溶液を96well plateに100μLずつ移し、マイクロプレートリーダー(アズワン社製、MPR−A100型)を用い、450nmにおける吸光度を測定することで、生細胞数の定量を行った。本実験は3回行い、平均値及び標準偏差を算出した。その結果を図8に示す。
図8Aは、暗所における測定結果であり、図8Bは、30分間の光照射を行った測定結果を示す。また、点線(三角)はTAPP・β−グルカン錯体を添加した結果であり、実線(丸)はTPP・β−グルカン錯体を添加した結果である。
暗所において、実施例1に係るTAPP・β−グルカン錯体及び比較例1に係るTPP・β−グルカン錯体はともに生細胞数にほとんど変化が見られず、細胞毒性はないことが分かった。30分間の光照射を行った場合、TAPP・β−グルカン錯体はポルフィリン添加量が少ない状態においても細胞生存率の低下が著しかった。これは、TAPP・β−グルカン錯体が光照射によって細胞毒性を発現し、その活性が高いことが示されたと言える。
(その他のポルフィリン錯体)
(種々の多糖類との組み合わせによる評価)
他のポルフィリン錯体について、上記TAPP・β−グルカン錯体と同様の効果を示すものはないか検討を行った。まずは、ポルフィリンとしてTAPPとTHPPを用い、β−グルカン以外の多糖について、適用可能なものを検討した。
具体的には、上記式(1)においてXが全てアミノ基で置換され、上記式(3)で表される5,10,15,20−テトラキス(4−アミノフェニル)ポルフィリン(TAPP)を用い、種々の多糖(β−グルカン、λ−カラギーナン、プルラン、グアーガム及びタマリンドガム)と粉砕混合することにより、実施例1と同様の手順で種々のポルフィリン錯体(TAPP−多糖錯体)を得た。また、上記式(1)においてXが全てヒドロキシ基で置換され、上記式(4)で表される5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ポルフィリン(THPP)を用い、種々の多糖と粉砕混合することにより、実施例1と同様の手順で種々のポルフィリン錯体(THPP−多糖錯体)を得た。
そして、各TAPP−多糖錯体及びTHPP−多糖錯体について、実施例1に係るポルフィリン錯体(TAPP・β−グルカン錯体)と同様に、紫外可視吸収スペクトル、蛍光スペクトル及びHNMRスペクトルによって、ポルフィリンが多糖へ包接されていることが確認された(データの掲載は省略する)。また、これらのポルフィリン錯体について、高速振動粉砕による溶解性、水溶液中における安定性、及び、赤色光照射による毒性の有無について評価した。評価結果を表1に示す。
溶解性については、全て、多糖のグラム数とポルフィリン類のモル数を揃えて評価を行った。表1中、溶解性についての数値はポルフィリン化合物の濃度(μM)を示し、値が大きい組み合わせは溶解性が高いことを示す。
安定性については、高速振動粉砕によって溶解させたものを1日室温で放置した結果、沈殿が無い水溶液を○、沈殿があるものを×とした。−と表記したものはTAPPにおいてすでに安定性が低かったため、評価を実施していない。
光毒性については、細胞死の割合が50%のときのポルフィリン化合物の添加濃度を数値で示したものである。値が小さいほど、少量で効く、つまり光線力学活性が高いことを示す。
TAPP及びTHPPはともに、β−グルカン、λ−カラギーナン、プルラン、及びタマリンドガムとの錯体について、全ての項目で良好な結果が得られた。
(その他のポルフィリン化合物の評価)
次に、種々のポルフィリン化合物について、多糖と混合したポルフィリン錯体を生成し、上記TAPP・β−グルカン錯体と同様の効果を示すものはないか検討を行った。
具体的には、ポルフィリンとして、式(1)においてフェニル基上のXのうち3つが水素原子であり、1つがカルボキシ基で置換されたものであり、式(5)で表される(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリフェニルポルフィリン)(TCPP1)、式(2)においてYを全て水素原子としたものであり、式(6)で表される(10,20−ジフェニル−5,15−ジアザポルフィリン)(Ph−DAP)、式(2)においてパラ位のYがそれぞれヒドロキシ基で置換されたものであり、式(7)で表される(10,20−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,15−ジアザポルフィリン)(4−OH−DAP)、及び、式(2)においてメタ位のYが全てメトキシ基で置換されたものであり、式(8)で表される10,20−ビス(3,5−ジメトキシフェニル)−5,15−ジアザポルフィリン)(3,5−MeO−DAP)を用い、β−グルカンと粉砕混合することにより、実施例1と同様の手順で種々のポルフィリン錯体(ポルフィリン−β−グルカン錯体)を得た。
また、これらのポルフィリン錯体について、高速振動粉砕による溶解性、水溶液中における安定性、及び、赤色光照射による毒性の有無について表1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
TCPP1、Ph−DAP、3,5−MeO−DAP、及び、4−OH−DAPと、β−グルカンとの錯体について、ほぼ全ての項目において良好な結果が得られた。
なお、5,10,15,20−テトラキス(4−メトキシフェニル)ポルフィリン及び5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)ポルフィリンにおいても同様の評価を行ったところ、多糖で水溶化することはできたが、細胞内において蛍光が見られず、光細胞毒性も有しないことがわかった。
以上より、本発明に係るポルフィリン錯体によれば、水中では安定で蛍光を発しないが、細胞内では蛍光を発して細胞死を起こすことが可能となる。
本発明の活用例としては、蛍光マーカーや光線力学治療薬等として、生化学分野や製薬分野への応用が可能である。

Claims (4)

  1. 下記式(1)で表されるポルフィリンと多糖類とから構成され、
    上記ポルフィリンは、多糖類に包接されていることを特徴とするポルフィリン錯体。
    (式中、Xはヒドロキシ基、アミノ基又はカルボキシ基を示し、Xのうち1〜3つは水素原子であってもよい。)
  2. 下記式(2)で表されるポルフィリンと多糖類とから構成され、
    上記ポルフィリンは、多糖類に包接されていることを特徴とするポルフィリン錯体。
    (式中、Yは水素原子を示し、少なくとも1つがヒドロキシ基又はメトキシ基により置換されていてもよい。)
  3. 上記多糖類は、グルカン、カラギーナン、プルラン及びタマリンドガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のポルフィリン錯体。
  4. 上記ポルフィリンは、上記多糖類に包接されていることにより、可視光を照射されたときに水溶液中において蛍光を発しない一方、細胞内においては蛍光を発することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポルフィリン錯体。
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