JP2020115841A - リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験動物モデルを作製する方法 - Google Patents

リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験動物モデルを作製する方法 Download PDF

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益久 椙村
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信太郎 岩間
康紀 安田
Yasunori Yasuda
康紀 安田
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Abstract

【課題】リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の病因メカニズムを明らかにし、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデル動物を提供すると共に、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に対するTリンパ球を標的とした新規免疫抑制療法を提供すること。【解決手段】ラブフィリン3Aを免疫することにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験動物モデルを作製する方法。【選択図】なし

Description

本発明はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験動物モデルを作製する方法に関する。また、本発明は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に対するTリンパ球を標的とした免疫抑制療法に関する。
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎(「LINH」との略称が用いられることもある)は、原因不明の下垂体機能障害の一つである。リンパ球性漏斗下垂体後葉炎は、1970年に初めて報告された疾患であり、非特許文献1には、「I.主症候」として、「頻尿、多飲、口渇などの尿崩症に特有な症候」を挙げ、「II.検査・病理所見」として、
1.中枢性尿崩症に合致する検査所見
2.画像検査で、下垂体茎の限局的肥厚、または下垂体神経葉の腫大
造影剤による強い造影増強効果
3.下垂体または下垂体茎生検で、リンパ球を中心とした細胞浸潤、慢性炎症像
を挙げている。
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の有効な治療法は確立されておらず、有効な治療法の確立が望まれている。
特許文献1には、抗ラブフィリン3A抗体からなるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎のバイオマーカーや、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の検査方法が開示されている。
国際公開第2013/080811号
厚生労働省 間脳下垂体機能障害研究班「自己免疫性視床下部下垂体炎の診断と治療の手引き」
しかしながら、特許文献1の開示をもってしても、未だ、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の病因メカニズムは不明であり、また、ラブフィリン3Aがリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の病因に関わっているかは不明であった。そのため、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療薬の開発は困難であった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の病因メカニズムを明らかにし、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデル動物を提供すると共に、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に対するTリンパ球を標的とした新規免疫抑制療法を提供することである。
本発明は以下のとおりである。
(1)
ラブフィリン3Aを免疫することにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験動物モデルを作製する方法。
(2)
実験動物が、ラット又はマウスである、(1)に記載の方法。
(3)
同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物。
(4)
T細胞反応性を指標として用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断方法(本発明において、当該診断方法は、補助的な診断方法であってもよく、T細胞反応性を指標として用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の検査方法であってもよい。したがって、本明細書においては、診断方法を、補助的な診断方法と読み替えてもよく、検査方法と読み替えてもよい。)。
(5)
検体中のT細胞反応性を測定するステップを含み、ラブフィリン3Aへの反応性レベルが高いことが、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎であることの指標となる、(4)に記載の診断方法。
(6)
検体が末梢血である、(4)又は(5)に記載の診断方法。
(7)
同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物、あるいは、請求項1又は2に記載の方法により得られるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物を用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療に用いることができる化合物を選択する方法。
(8)
T細胞活性化阻害剤を含有する、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療用医薬。
(9)
T細胞活性化阻害剤が、シクロスポリン、タクロリムス又はアバタセプトである、(8)に記載の治療用医薬。
本発明によれば、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデル動物を提供することができると共に、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に対するTリンパ球を標的とした新規免疫抑制療法を提供することができる。
ラブフィリン3Aで免疫したマウスにおける初回免疫の1ヵ月後の神経下垂体、視索上核(SON)及び視床下部の室傍核(PVN)におけるリンパ球浸潤の結果を示す。(図1A及びB)造血細胞による浸潤を、(A)対照マウス又は(B)ラブフィリン3A(RPH3A、以下同じ。)で免疫したマウス(免疫化マウス、以下同じ。)から得た神経下垂体のH&E染色によって可視化した結果を示す(スケールバー:20μm)。(図1C)高倍率視野(HPF)あたりの浸潤性単核細胞数を示す。(図1D及びE)(D)対照マウス又は(E)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た神経下垂体におけるCD45の免疫組織化学的染色の結果を示す。(図1F)HPFあたりのCD45+細胞数を示す。(図1G及びH)(G)対照マウス又は(H)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た神経下垂体におけるCD3eの免疫組織化学的染色の結果素示す(スケールバー:50μm)。(図1I)HPFあたりのCD3e+細胞数を示す。(図1J及びK)(J)対照マウス又は(K)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た神経下垂体におけるCD4の免疫組織化学的染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。(図1L)HPFあたりのCD4+細胞数を示す。(図1M及びN)(M)対照マウス又は(N)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た神経下垂体におけるCD8aの免疫組織化学的染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。(図1O)HPFあたりのCD8a+細胞数を示す。(図1P及びQ)(P)対照マウスまたは(Q)ラブフィリン‐3Aで免疫したマウスから得た神経下垂体におけるB220の免疫組織化学的染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。(図1R)HPFあたりのB220+細胞数を示す。(図1S及びT)ラブフィリン3Aで免疫したマウスにおける(S)SON又は(T)PVNにおけるCD3eの免疫組織化学染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。図中、t検定において、*は、p<0.05、**は、p<0.01であることを意味する。また、N.S.は、有意差なしである。 ラブフィリン3Aで免疫したマウスの下垂体前葉の組織学的分析の結果を示す。(図2A)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た下垂体前葉に造血細胞はほとんど観察されなかった(スケールバー:20μm)。(図2B及びC)ラブフィリン3Aで免疫したマウスと対照との間に(B)コルチコステロン又は(C)チロキシンのレベルに有意差はなかった。 大脳皮質、副腎髄質及び膵臓におけるCD3のH&E染色及び免疫組織化学的染色の結果を示す。(図3A〜C)大脳皮質、副腎髄質又は膵臓にリンパ球浸潤は見られなかった。(図3D〜F)対照又はラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た大脳皮質、副腎髄質及び膵臓のH&E染色の結果を示す。(図3G〜I)大脳皮質、副腎髄質及び膵臓におけるHPFあたりの浸潤性単核細胞数を示す。(図3J〜L)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た大脳皮質、副腎髄質及び膵臓におけるCD3eの免疫組織化学的染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。 大脳皮質におけるラブフィリン3Aの免疫蛍光染色の結果を示す。(図4A及びB)(A)対照マウス及び(B)免疫化マウスの大脳皮質におけるラブフィリン3Aの発現の結果を示す。(図4C)一次抗体なしで染色された免疫蛍光画像を示す(青はDAPIを示す)。ラブフィリン3A染色は、主に細胞質において観察され、そして小胞状パターンであった(図4A挿入図)。(図4D)大脳皮質におけるHPFあたりのラブフィリン3Aを発現する細胞数を示す(スケールバー:50μm)。 海馬と線条体におけるリンパ球浸潤の結果を示す。免疫組織化学的検査により評価したところ、(A)対照又は(B)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た海馬、あるいは(C)対照又は(D)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た線条体におけるCD3e+T細胞による浸潤は見られなかった(スケールバー:50μm)。 初回免疫の1ヵ月後に、対照マウスと比較したラブフィリン3Aで免疫したマウスからの低張性尿量の増加を示す。(図6A)尿量は、対照マウスよりもラブフィリン3Aで免疫したマウスにおいて有意に高かった。(図6B)尿浸透圧は、対照マウスよりもラブフィリン3Aで免疫したマウスにおいて有意に低かった。(図6C)尿中アルギニンバソプレシン(AVP)レベルは、対照マウスよりもラブフィリン3Aで免疫したマウスにおいてより低い傾向があった。(図6D)1−デスアミノ−8−D−アルギニンバソプレシン(dDAVP)耐性試験において尿量が一時的に減少した。 神経下垂体におけるAVPの免疫蛍光染色の結果を示す。AVPは、(A)対照及び(B)ラブフィリン3Aで免疫したマウスから得た神経下垂体において同様のレベルで発現していた(スケールバー:50μm)。 対照又はラブフィリン3Aで免疫したマウスの体重と血糖値の結果を示す。(A)0日目又は(B)初回免疫の1ヶ月後において、2つの群の間に体重の有意差はなかった。また、(C)0日目又は(D)初回免疫の1ヶ月後において、2つの群の間で血糖値に有意差はなかった。 初回免疫の4ヵ月後の神経下垂体の病理組織学的外観を示す。(図9A)CD3T細胞による浸潤が、ラブフィリン3Aで免疫されたマウスの神経下垂体においてほとんど観察されなかった(スケールバー:100μm)。(図9B及びC)(C)ラブフィリン3Aで免疫したマウスにおける神経下垂体の線維性変化を示し、(B)対照マウスでは観察されなかったことを示す。(スケールバー:50μm)。(図9D)ラブフィリン3Aで免疫したマウスと対照マウスとの間に尿量に有意差はなかった。 抗ラブフィリン3A抗体の投与は神経下垂体炎を誘発しなかったことを示す。(図10A)抗ラブフィリン3A抗体は、ラブフィリン3Aで免疫したマウス由来の血清中に検出されたが、対照マウス中には検出されなかった。(図10B及びC)(B)モノクローナル抗ラブフィリン3A抗体のカクテル又は(C)対照IgGを投与されたマウスからの下垂体神経変性症におけるCD3eの免疫組織化学的染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。(図10D)抗ラブフィリン3A抗体を投与したマウスと対照IgGを投与したマウスとの間に尿量に有意差はなかった。 ラブフィリン3Aに特異的T細胞が、神経下垂体炎の病因に関与している可能性を示す。(図11A)ELISPOTアッセイにおいて、ラブフィリン3Aで免疫したマウス(ラブフィリン3A群、左上)及びアバタセプトを投与したラブフィリン3Aで免疫したマウス(アバタセプト群、右上)から得た血清中のラブフィリン3Aに特異的T細胞を分析した。陽性対照(左下)または陰性対照(右下)として、PBMCをCD3抗体あり又はなしで刺激した。(図11B)尿量はアバタセプト群の方がラブフィリン3A群よりも有意に低かった。(図11C)ラブフィリン3Aに特異的T細胞数は、ラブフィリン3A群と比較してアバタセプト群において減少した。(図11D及びE)(D)ラブフィリン3A群のマウスおよび(E)アバタセプト群のマウスの神経下垂体におけるCD3e+細胞の免疫組織化学染色の結果を示す(スケールバー:50μm)。(図11F)アバタセプト群と比較して、ラブフィリン3A群ではCD3+T細胞数が有意に減少した。(図11G)ラブフィリン3Aで免疫したマウスにおけるPBMC中の神経下垂体中のCD3e+細胞数とラブフィリン3Aに特異的T細胞数との直線的な相関関係を示す。 神経下垂体におけるラブフィリン3Aの免疫蛍光染色の結果を示す。(図12A〜C)(A)対照、(B)ラブフィリン3Aで免疫したマウス、及び(C)アバタセプトを投与したラブフィリン3Aで免疫したマウスの神経下垂体におけるラフフィリン3Aの発現の結果を示す。(図12D)一次抗体ラブフィリン3Aを含まない組織の免疫蛍光染色は、神経下垂体神経終末において主に発現していた(スケールバー:25μm)。
本発明におけるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルを作製する方法は、ラブフィリン3Aを免疫することにより実施することができる。
本発明においては、ラブフィリン3A免疫マウスにおいて、下垂体後葉炎と低張尿性多尿というヒトにおいて認められるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に類似した症状が観察されたため、ラブフィリン3A免疫マウスをリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルとして確立することができた。
本発明の動物モデル作製法においては、ラブフィリン3Aを自己抗原として投与して免疫することによりリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物のモデル動物を創出することができるため、本法によれば、モデル動物の継代維持を必要としないという利点を有する。
また、本発明の動物モデル作製法により作出されるモデル動物を用いることにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の新規治療用医薬のスクリーニングが可能となる。
本発明においては、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデル動物も提供される。
モデル動物の動物種としては、特に限定されるものではないが、実験動物に用いられる動物種が挙げられ、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、サル、チンパンジー、ヤギなどが挙げられる。
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデル動物としては、げっ歯類であることが好ましく、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデルマウス又はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎のモデルラットなどが挙げられる。
本発明におけるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルを作製する方法において、自己免疫源となるラブフィリン3Aは、以下のとおりである。
ラブフィリン3Aとは、そのN末端側にはRab結合ドメインが存在し、N末端側にはC2Aドメイン及びC2Bドメインが存在する全長690アミノ酸からなるタンパク質である。
ラブフィリン3Aのアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列は、下記の通り公知である(DEFINITION: Homo sapiens rabphilin 3A homolog (mouse), mRNA (cDNA clone MGC:29559 IMAGE:3510158), complete cds. ACCESSION: BC017259))。また、当該ラブフィリン3Aのアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列は、特開2016−223774号公報において、配列番号1及び配列番号2として示されている。
本明細書の実施例においては、免疫源とするラブフィリン3Aとして、当該公報において示されているアミノ酸配列の全長のラブフィリン3Aを用いている。本発明のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルを作製する方法において用いられる免疫源としてのラブフィリン3Aとしては、全長のタンパク質を用いてもよく、その部分アミノ酸配列を有するタンパク質を用いてもよい。
また、ラブフィリン3Aは、従来公知の方法で製造したものを用いてもよく、従来公知の方法で精製して得られたものを用いてもよい。
被免疫動物への、ラブフィリン3Aの免疫方法は、特に限定されず、従来公知の免疫方法により免疫することができる。
免疫源であるラブフィリン3Aと同時に、又は異時に、公知のアジュバントを利用して免疫してもよい。
また、免疫源であるラブフィリン3Aの投与量も適宜設定することができる。
本発明における、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症している実験モデル動物である。
本発明における、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物は、被免疫動物に、ラブフィリン3Aを免疫することにより、作製することができるが、以下の特性を有する場合、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物といえる。
本発明において、当該実験モデル動物が、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症してリンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物といえるためには、同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い必要がある。
被免疫実験動物とは、実験動物においてリンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症させるために、ラブフィリン3Aを投与される動物であって、同種同系統の実験動物を意味し、一般には、被免疫される上で標準動物といえる実験動物の同種同系統の実験動物を意味し、ラブフィリン3A免疫の前後で対照として用いられる動物である。
例えば、実験動物がマウスである場合、同種同系統の実験動物としてSJLマウスが挙げられる。
本発明のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物は、同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高いという特性を有するが、本明細書において、「T細胞反応性レベルが高い」とは、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物において同種の被免疫実験動物に比して検体(好ましくは血液由来サンプル)中に多いことを意味する。
ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物において同種の被免疫実験動物に比して検体(好ましくは血液由来サンプル)中に、有意差をもって多いことが好ましい。
ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が多いことは、複数の測定の平均として多くてもよく、同種の被免疫実験動物の平均的T細胞数に対して多くてもよい。
有意差を判定するためには、t検定を利用してよい。
本発明において、検体(好ましくは血液)中のラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数の測定法は、実施例に記載の方法に準じて行うことが可能である。
本発明のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルは、特に限定されるものではないが、実施例に記載するように、以下の病態をさらに有していることが好ましい。
すなわち、本発明のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルは、
(1)同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、という特性を有するが、さらに、
(2)リンパ球浸潤が神経下垂体及び視索上核に認められる、及び/又は
(3)同種の被免疫実験動物に比して低張性である尿量の増加を示す、といった特性を有していてもよい。
本発明において、「リンパ球浸潤が神経下垂体及び視索上核に認められる」とは、被免疫動物に対してラブフィリン3Aを免疫源として投与した後、神経下垂体及び視索上核にリンパ球浸潤が観測される場合には、当該ラブフィリン3Aを免疫源として投与された被免疫動物は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルと理解できる。
本発明において、神経下垂体及び視索上核にリンパ球浸潤が観察されるか否かは、実施例に記載の方法に準じて行うことが可能である。
リンパ球浸潤が観察される時期は、ラブフィリン3Aの免疫を行ってから特定の時期である必要はないが、例えば、ラブフィリン3Aの初回免疫の1ヶ月後が挙げられる。
本発明において、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物において同種の被免疫実験動物に比して「低張性である尿量の増加を示す」とは、低張性である尿量が多いことを意味する。
低張性である尿量が、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物において同種の被免疫実験動物に比して、有意差をもって多いことが好ましく、尿量を比較して、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物において、例えば、1.5倍量、2倍量であってもよい。
低張性である尿量が多いことは、同種の被免疫実験動物の平均的尿量に対して多くてもよい。また、試験期間の全体において尿量が多くてもよく、1回の尿量として多くてもよい。
本発明において、低張性である尿量の測定法は、尿を公知の方法により採取して測定することが可能である。
本発明においては、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルを作製できたことにより、本動物モデルを用いることで以下の現象を確認することができた。
すなわち、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞が血液中に存在することを見出し、キメラタンパク質であって、T細胞活性化阻害剤であるアバタセプトを投与したところ、
(1)ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数の減少、
(2)下垂体後葉におけるT細胞の浸潤の抑制、及び
(3)尿量の減少
を観察することができた。
これらの結果から、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞が病態に関与し、T細胞の活性化抑制が、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の新たな治療につながると考えられた。
そこで、本発明では、T細胞反応性を指標として用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断方法をさらに提供し、また、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に対するTリンパ球を標的とした免疫抑制療法を提供する。
Tリンパ球を標的とした免疫抑制療法として、T細胞活性化阻害剤を用いることができる。
したがって、本発明のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療用医薬は、T細胞活性化阻害剤を含有する。
本発明におけるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断方法は、T細胞反応性を指標として用いる方法である。
本発明のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断方法は、医師の介在を要しない補助的な診断方法であってもよく、T細胞反応性を指標としてリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の可能性が高いことを推定する被験者の検体中のT細胞反応性の検査方法であってもよい。
すなわち、本発明においては、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断に供することを目的とした、被験者由来の検体中のT細胞反応性を測定することによる検査方法であってもよい。
本発明の診断方法において、T細胞反応性を指標とするとは、検体中のT細胞反応性を測定するステップを有していることを実質的に意味する。
T細胞反応性は、検体中のラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞の数を計測することにより行うことができる。
このことは、本発明の診断方法が、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の有用な診断技術として、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞を検出することによるラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞の検出方法であってよいことを意味する。
ラブフィリン3Aへの特異的T細胞数を計測するためには、特に限定するものではないが、簡易には、実施例に記載するような酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイが利用可能である。
本発明の診断方法により、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症しているか、発症の可能性があると診断可能である。
本発明において、「発症の可能性」には、現在の発症可能性と将来の発症可能性があり、「現在の発症可能性」は、検査時においてリンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症しているか否か又は発症している確率を表すこととなり、「将来の発症可能性」はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎を将来発症する可能性を意味する。
したがって、本発明の診断方法は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎を現在発症しているか否かを判定するための手段として、又はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎を将来発症する可能性を判定するための手段としても有用である。
本発明の診断方法(検査方法)を実施するにあたっては、その一部の工程において、特開2016−223774号公報及び国際公開第2013/080811号を参照して、これら公報に記載の方法に準じることも可能である。
本発明の診断方法においては、(1)検体を用意するステップを含む。
本発明の診断方法において用いられる検体としては、特に限定されるものではないが、診断方法の対象となる被検体に由来する血液由来サンプルが好適である。
ここで、被検体としては、診断対象となる動物(例えば、モデル動物)であってよく、患者であってもよい。
血液由来サンプルとしては、T細胞が含まれていれば特に限定されないが、全血又は血清が好ましく用いられる。また、採血箇所は、特に限定されないが、抹消血や静脈血であってよい。
得られた血液由来サンプルから、従来公知の方法により、単核細胞、好適には、末梢血単核細胞(PBMC)を選択してくることが好適である。
選択してきた単核細胞、好適には、末梢血単核細胞(PBMC)に対して例えば、酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイを利用して、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数を計測する。
コントロールに対して、当該T細胞数が多い場合には、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症しているか、発症の可能性があると診断可能である。
ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が、コントロールに対して検体(好ましくは血液由来サンプル)中に、有意差をもって多いことが好ましい。
ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が多いことは、複数の測定の平均として多くてもよく、コントロールの平均的T細胞数に対して多くてもよい。
検体が患者(ヒト)由来である場合、コントロールは、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎を発症していない被検体由来の検体としてもよい。
実際の臨床の現場においては、コントロールに対して、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が多いことを、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数を計測して、その絶対数として判断してもよい。その場合、特定の数値範囲にある場合を、あるいは、特定の数値以上である場合を、コントロールに対して、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数が多いと判断してもよい。
本発明の診断方法は、他の診断方法と組み合わせてもよく、他の診断方法と組み合わせることで、より精度の高い罹患している疾患がリンパ球性漏斗下垂体後葉炎であるか否か、又はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の発症可能性を判定することが可能となる。
本発明においては、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療に用いることができる化合物のスクリーニング方法も提供する。
本発明において、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルを確立できたことにより、当該モデル動物を用いることにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に有効な薬剤をスクリーニングすることができる。
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルにおいては、
(1)同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、という特性を有するが、さらに、好適には、
(2)リンパ球浸潤が神経下垂体及び視索上核に認められる、好ましくは、ラブフィリン3Aの初回免疫の1ヵ月後にリンパ球浸潤が神経下垂体及び視索上核に認められる、及び/又は
(3)同種の被免疫実験動物に比して低張性である尿量の増加を示す、といった特性を有している。
したがって、当該モデル動物に対して化合物を投与して、当該モデル動物における
(1)ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数の減少、
(2)下垂体後葉におけるT細胞の浸潤の抑制、及び/又は
(3)尿量の減少
を指標としてスクリーニングをすることにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療及び/又は予防に用いることができる化合物を選択する方法を提供し得る。
すなわち、本発明は、同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物、あるいは、本明細書において記載の方法により得られるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物を用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療に用いることができる化合物を選択する方法も提供する。
また、本発明は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎に対するTリンパ球を標的とした新規免疫抑制療法を提供する。
T細胞活性化阻害剤であるアバタセプトを投与したところ、本発明において確立されたリンパ球性漏斗下垂体後葉炎動物モデルにおいて、
(1)ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数の減少、
(2)下垂体後葉におけるT細胞の浸潤の抑制、及び
(3)尿量の減少
を観察することができたものであり、これまでにない、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎における薬剤による尿量の増加抑制という効果が確認されている。
したがって、T細胞活性化阻害剤を用いることにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の根本的治療法を提供できる可能性がある。
T細胞活性化阻害剤としては、特に限定されるものではないが、T細胞活性化を阻害乃至抑制する物質を用いることができる。
本発明のT細胞活性化阻害剤としては、例えば、ラブフィリン3AによりT細胞活性化が確認される場合に、ラブフィリン3Aに特異的に反応するT細胞数を減少させることのできる物質であり、具体的には、シクロスポリン、タクロリムス及びアバタセプト等が挙げられる。
本発明のT細胞活性化阻害剤を含有するリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療用医薬は、医薬製剤の製造法として一般的に用いられている公知の方法(例えば、日本薬局方に記載の方法)に従って、製造することができる。
医薬製剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤(例えば、糖衣錠、フィルムコーティング錠、舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、散剤、顆粒剤(例えば、細粒を含む)、カプセル剤(例えば、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、液剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤を含む)、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤を含む)坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤を含む)、ペレット、吸入剤(例えば、経鼻剤、経肺剤を含む)、及び点滴剤等が挙げられる。
固形製剤となる、錠剤、散剤、顆粒剤等は、従来公知の技術を用いて徐放性製剤や速崩性製剤としてもよい。
これら医薬製剤は、経口的又は非経口的(例、局所、直腸、静脈投与等)に投与することができる。
医薬製剤とするにあたって用いられる薬理学的に許容される添加剤としては、本技術分野において汎用される成分を用いることが可能である。
当該添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等が挙げられる。
必要に応じて、当該添加剤として、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等を適宜、適量用いてもよい。
T細胞活性化阻害剤の投与量及び投与方法は、特に限定されるものではなく、投与対象、症状等に応じて適宜選択してよい。
T細胞活性化阻害剤の投与量は、薬剤に応じて適宜設定されるものでもあり、特に限定されるものではなく、例えば、一日につき約0.01〜1000mgであり、当該範囲内で、約0.1mg以上、約1mg以上、約2mg以上、約5mg以上、約10mg以上としてもよく、約500mg以下、約200mg以下、約100mg以下としてもよい。
当該投与量のT細胞活性化阻害剤を一日の投与回数に応じて、分割して投与してもよい。
投与回数は、一日あたり1回であってもよく、2回であってもよく、3回であってもよく、投与時間も、食後、食前、食間、空腹時、就寝前等適宜設定してよい。
投与間隔も、特に限定されるものではなく、例えば、毎日、1日おき、2日おき、1週間おき、隔週と適宜設定して投与してよい。
投与対象となる対象、例えば、患者も特に限定されるものではなく、小児であっても、大人であってもよく、その場合の投与量は適宜設定される。
本発明のT細胞活性化阻害剤は、それを必要とする対象、例えば、患者に、薬理学的に、薬学的に、あるいは製薬学的に有効量投与することにより、医薬として用い得る。好適には、有効量のT細胞活性化阻害剤を対象に投与することにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療方法又は予防方法が提供される。
本発明においては、T細胞活性化阻害剤による作用を高める目的として、本発明のT細胞活性化阻害剤の用量を減じることを目的として、また、所望の薬効を高める目的として、他の薬剤と併用してもよい。
他の薬剤との併用においては、合剤であってもよく、併用剤として、両者を単剤として投与してもよい。単剤同士を併用して患者に投与する場合には、同時に投与してもよく、別時に投与してもよい。
マウス
雌のSJL/Jマウスは、Charles River Japanから購入し、そしてそれらが10週齢のときに使用した。マウスは参考文献1に記載されているようにして維持した。
免疫原
組換えラブフィリン3Aタンパク質(NP_055769.2)は、コムギ胚芽無細胞系(CellFree Sciences)を用いて以下のように合成し、使用するまで−80℃で保存した。
具体的には、ラブフィリン3A遺伝子(RPH3A)を小麦胚細胞発現のためにベクターpEU−E01−MCS−TEV−His−C3にクローニングした。組換えラブフィリン3Aタンパク質を得られたベクターから翻訳した。得られたタンパク質は、C末端His6タグを含む。
まず、転写反応混合物を37℃で4時間インキュベートした。翻訳反応は、自動不連続バッチタンパク質合成ロボットであるProtemist XE装置(CellFree Sciences)を用いて行った。
His6タグを除去するために、融合タンパク質をHisタグ付きTEVプロテアーゼで一晩室温で処理した。TEVプロテアーゼ処理融合タンパク質を、参考文献2に記載されているようにして、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
参考文献3に記載されているようにして、ラブフィリン3Aタンパク質を2mg/mLに調整して、免疫に利用した。
神経下垂体炎の誘発
コンプリートフロイントアジュバント(CFA)(#F5881−10X10ML;Sigma−Aldrich)に、組換えラブフィリン3Aタンパク質又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を1:1で乳化した。
参考文献3に記載されているようにして、CFAに熱殺菌した結核菌(#231141;Difco Laboratories)を5mg/mLに調整した。続いて、0日目及び7日目にマウスに、100μLの乳化ラブフィリン3Aを皮下注射した。
対照として、乳化ラブフィリン3Aの皮下注射の場合と同様にして、マウスに100μLの乳化PBSを注射した。
下垂体の組織病理学を評価するために、マウスを初回免疫の1ヵ月後又は4ヵ月後に実験に供した。
下垂体組織病理学
下垂体は、初回免疫の1ヵ月後又は4ヵ月後に除去し、参考文献4に記載されているBecksteadの亜鉛固定剤で処理し、参考文献5に記載されているようにして処理した。マウス下垂体を4μm切片に切断し、顕微鏡評価のために、参考文献6に記載されているようにして、これらをヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
神経下垂体、視索上核(SON)及び視床下部の室傍核(PVN)における浸潤を分析するために、切片を免疫組織化学(抗ラットHRP−DAB細胞及び組織染色キット;#CTS017;R&D Systems及び以下の抗体を有する):
抗CD45(#550539、1:100希釈;BD Biosciences)
抗CD3e(#MCA1477T、1:125;Bio−Rad)
抗CD3e(#553058、1:50希釈;BD Biosciences)
抗CD8a(#550281、1:10希釈;BD Biosciences)
抗CD4(#550278、1:40希釈;BD Biosciences)
抗B220(#RA3−6B2、1:20希釈;BD Biosciences)。
浸潤細胞数を評価するために、参考文献6に記載されているようにして、最も重篤な病理所見を示す切片における高倍率視野(HPF)あたりの単核細胞数を計算した。
線維症の存在を評価するために、トリクロームステインキット(改良マッソン)(#TRM−1;ScyTek Laboratories)を用いて、下垂体切片を染色した。
免疫蛍光法により評価されたラブフィリン3AとAVP発現
初回免疫の1ヵ月後、対照マウス及びラブフィリン3A免疫マウスから神経下垂体、大脳皮質、副腎髄質及び膵臓を採取した。組織を固定し、4μmの切片に切断した。
ラブフィリン3A及びAVP発現を評価するために、以下の一次抗体を用いて免疫蛍光によって切片を評価した:
抗ラブフィリン‐3A(#ab59259、1:50希釈;Abcam)
抗バソプレシン(#AB1565、1:5000希釈;Merck Millipore)。
以下の二次抗体を用いた;
Alexa Fluor 568ヤギ抗ウサギIgG(#A11036、1:500希釈;Life Technologies)。
免疫蛍光を蛍光顕微鏡(BZ−8000;Keyence)を用いて観察し、より高い倍率(×100)の画像を、倒立共焦点レーザー走査型顕微鏡(TiE−A1R;Nikon)を用いて測定した。
尿量、浸透圧及びAVPの測定
マウスを代謝ケージ(#KN−645;夏目)に収容して24時間尿をプールした。初回免疫の1ヵ月後及び4ヵ月後に尿サンプルを採取して、ラブフィリン3Aで免疫したマウス又は対照マウスにおける尿サンプルの体積、浸透圧及びAVPレベルを測定した。尿中AVPレベルはラジオイムノアッセイ(ヤマサ)により測定した。
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によるT4とコルチコステロンの測定
下垂体前葉に対するラブフィリン3Aによる免疫化の効果を評価するために、チロキシン及びコルチコステロンの血清レベルをT4のELISAキット(#ERKR7014;Endocrine Technologies)又はコルチコステロン(#ERKR7004;Endocrine Technologies)を用いて測定した。
対照マウスからの血清もまた評価した。
ウエスタンブロッティング
ラブフィリン3A免疫マウスからの血清中の抗ラブフィリン3A抗体の存在を確認するために、抗体をウエスタンブロッティングによって分析した。
組換えヒトラブフィリン3A(コムギ胚芽タンパク質合成システム(CellFree Sciences)で製造)又は対照溶解物を1:200に希釈し、7.5%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、ポリビニリデンジフルオリド膜に移し、そして、参考文献7に記載されているようにして、ポジティブコントロールとしてマウス血清(1:50希釈)又は抗V5抗体(1:2000)でブロットした。
ラブフィリン3Aに対するIgGの投与
ラブフィリン3Aに対する大量の抗体を得るために、ラブフィリン3Aに対してIgGを分泌するハイブリドーマを、ラブフィリン3A(Medical&Biological Laboratories)で免疫したマウスからのリンパ球の使用により確立した。
抗ラブフィリン3A抗体を分泌する34個のハイブリドーマが生成された。
0日目にマウスにラブフィリン3Aに対する3.4mgのIgG(各モノクローナル抗体100μgの混合物)を腹腔内注射し、次いで1ヵ月後まで観察した。
対照として、0日目にマウスに3.4mgの正常マウスIgG(#140‐09511;WAKO)を腹腔内注射し、次いで1ヵ月まで観察した。
酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイ
ラブフィリン3Aに対する特異的T細胞応答を評価するために、マウスインターフェロン(IFN)−γELISPOT PLUS(#3321−4APW−2;Mabtech)用のキットを用いてELISPOTアッセイを行った。
この実験では、組換えラブフィリン3Aタンパク質を抗原として使用した。抗マウスCD3eモノクローナル抗体(機能グレード)(#16−0031、1:200希釈;Thermo Fisher Scientific)を陽性対照として用いた。初回免疫の1ヵ月後、参考文献8に記載されているようにして、末梢血単核細胞(PBMC)をリンパ球−哺乳動物(#CL5110;Cedarlane Laboratories)を用いて血液から単離した。
抗マウスIFN−γ抗体でプレコートした96ウェルマイクロタイタープレートを滅菌PBSで洗浄した。10%ウシ胎児血清(Sigma−Aldrich)を含むRPMI−1640培地(#SH30027.01;Thermo Fisher Scientific)でブロッキングした後、1ウェルあたり1×105個のPBMCを抗原と共にインキュベートした(37℃で24時間、5%CO2の加湿インキュベーター中で(ウェルあたり100μgのラブフィリン3Aタンパク質))。
PBSで洗浄した後、ビオチン化抗IFN−γ検出抗体を加えた。プレートをPBSで再度洗浄し、アルカリホスファターゼと結合したストレプトアビジンとインキュベートした。最後に、基質溶液の添加後10分間スポットを発色させた。光学顕微鏡を用いて、抗原特異的リンパ球としてドット数を数えた。
アバタセプトの投与
ラブフィリン3A免疫マウスに、初回免疫の2〜4週間後に隔日に100μgのアバタセプト(Bristol−Myers Squib)を腹腔内注射した。
参考文献9及び10に記載されているようにして、アバタセプトの投与量を調節した。2週間アバタセプトを投与した後、尿量、神経下垂体への浸潤及びラブフィリン3Aに対するT細胞応答を評価した。
統計分析
結果は中央値±標準誤差として表す。全ての実験で、2つのグループの比較はStudentのt検定で行った。0.05未満のP値は、全ての場合において統計的に有意であると考えられた。
統計分析は、Stata Statistical Software、Release 13(Stata Corp.)を用いて行った。
ラブフィリン3Aによる免疫化は神経下垂体炎を誘発する
自己免疫性神経性下垂体炎の病態生理学におけるラブフィリン3Aの関与を評価するために、SJL/Jマウスに乳化ラブフィリン3Aタンパク質を皮下注射した。
初回免疫の1ヵ月後、造血単核細胞の浸潤が免疫マウスの神経下垂体で観察されたが、対照マウスでは観察されなかった(図1A〜C)。
免疫組織化学による病理分析では、免疫化マウスではリンパ球浸潤(主にCD45+細胞)が明らかであったが、対照マウスではごくわずかであった(図1D〜F)。さらに、免疫化マウスのCD3e+T細胞数は、コントロールマウスのCD3e+T細胞と比較して有意に増加していた(図1G〜I)。
CD3+T細胞はCD4+T細胞及びCD8+細胞傷害性T細胞からなっていた。
同様に、免疫したマウスのCD4+とCD8a+T細胞の数は、コントロールマウスと比較して有意に増加していた(図1J〜O)。
少数のB細胞も免疫化マウスに存在したが、対照マウスには存在しなかった(図1P〜R)。
興味深いことに、免疫化マウスでは、AVPニューロンが存在するが対照マウスには存在しない。いくつかのCD3e+T細胞が視索上核(SON)(図1S)及び視床下部の室傍核(PVN)(図1T)にも見られた。
さらに、2つのグループ間でコルチコステロン又はチロキシンのレベルに有意差がなく(図2B及びC)、下垂体前葉でリンパ球はほとんど検出されなかった(図2A)。
ラブフィリン3Aは大脳皮質、膵臓及び副腎髄質に発現されることが知られているが、免疫化マウスではこれらの臓器(図3)に浸潤は見られなかった。
実際、大脳皮質におけるラブフィリン3Aの発現は免疫蛍光分析によって確認され、それは対照マウス及び免疫化マウスにおいて同様であった(図4)。さらに、ラブフィリン3Aは海馬及び線条体において病態生理学的役割を果たすことが知られているが、海馬又は線条体にCD3+T細胞の浸潤は認められなかった(図5A〜D)。
これらの結果は、ラブフィリン3Aによる免疫化がマウスにおいて神経下垂体炎を特異的に誘導したことを示唆する。
ラブフィリン3Aによるマウスの免疫化は低張性尿量を増加させた
神経下垂体の機能に対するラブフィリン3Aによる免疫化の効果を評価するために、初回免疫の1ヵ月後に尿量、浸透圧およびAVPレベルを測定した。
対照マウスと比較して、免疫化マウスでは尿量が有意に増加した(図6A)。尿浸透圧は、対照マウスより免疫化マウスにおいて有意に低かった(図6B)。免疫化マウスでは、対照マウスよりも尿中AVPレベルが低かった(p=0.057)(図6C)。
免疫蛍光評価による定量的評価は困難であったが、免疫化マウスの神経下垂体におけるAVPのレベルは、対照マウスのそれと同様であるように観察された(図7A〜B)。
尿量増加の原因を調べるために、1−デスアミノ−8−D−アルギニンバソプレシン(dDAVP)耐性試験を行った(dDAVPはバソプレシンV2受容体選択的アゴニストであり、V2受容体を介した強力な抗利尿作用を有する)。dDAVPの投与後、対照マウスで見られたものと同様に(図6D)、免疫されたマウスでは尿量が一過性の減少を示し、尿量の増加は腎性ではないことが示唆された。体重に有意差はなかった。
初回免疫前又は初回免疫の1ヵ月後の2つのグループ間の血糖値(図8A〜D)。
以上から、免疫したマウスは、低張出量を伴う尿量の増加を示し、これは、LINHによる中枢性尿崩症と同様の水分恒常性の乱れを示している。
後期にラブフィリン3Aによる免疫化により誘発された神経下垂体炎の変化
ラブフィリン3Aによる予防接種によって誘発される神経下垂体炎の時間依存的な変化を定義するために、下垂体の病理組織を評価し、初回免疫の4ヵ月後に尿量を測定した。
CD3e+T細胞の浸潤はなかったが(図9A)、免疫化マウスの神経下垂体では線維性変化が見られたが、対照マウスでは見られなかった(図9B及びC)。
初回免疫の4ヵ月後の2つの群の間で尿量に有意差はなかった(図9D)。
これらの結果は、神経下垂体の炎症が、ラブフィリン3Aによる免疫後にリンパ球浸潤を伴う急性期から線維症を伴う慢性期へと動的に変化することを示している。
抗ラブフィリン3A抗体は病因に直接関与していない
ラブフィリン3Aによる免疫化によって誘発された神経性下垂体炎の病因における抗ラブフィリン3A抗体の関与を調べた。
第一に、免疫したマウスからの血清中の抗ラブフィリン3A抗体の存在をウエスタンブロッティングにより確認した(図10A)。
抗ラブフィリン3A抗体の病原性を調べるために、マウスにモノクローナル抗ラブフィリン3A抗体(抗ラブフィリン3A抗体群)のカクテルを腹腔内注射した。あるいは正常マウスIgG(対照IgG群)とした。CD3e+T細胞による浸潤は、抗ラブフィリン3A抗体群(図10B)又は対照IgG群(図10C)のいずれにおいても神経下垂体において誘導されなかった。
病理学的所見は、ラブフィリン3A抗体群と対照IgG群との間に尿量に有意差がないことが示された(図10D)。
これらの結果は、病因における抗ラブフィリン3A抗体の直接的な関与を示唆していない。
アバタセプトはラブフィリン‐3Aに特異的なT細胞の数を減少させラブフィリン3Aで免疫したマウスにおける神経下垂体炎を改善する
抗ラブフィリン3A抗体の投与が神経下垂体のリンパ球浸潤を誘発しなかったことを考えると、神経下垂体炎の病因におけるラブフィリン3Aに特異的なT細胞の関与を仮定した。
第一に、ラブフィリン3Aに特異的なT細胞の存在を、ラブフィリン3Aで免疫したマウスからのPBMCにおけるELISPOTアッセイによって確認した(図11A、左上)。
以下、神経下垂体炎に対するT細胞活性化の抑制効果をテストした。
初回免疫の2週間後、ラブフィリン3Aで免疫したマウスにアバタセプトを注射した。
免疫抗原としてのアバタセプトは、ヒト細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)の細胞外ドメインからなる可溶性キメラ融合タンパク質(CTLA4 Ig)である。
CD28とCD80/86の間の共刺激シグナルを遮断することによって、CD80/86と結合してT細胞活性化を抑制することができる。
アバタセプトを投与すると、ラブフィリン3Aで免疫したマウスの尿量が回復した(図11B)。
ELISPOTアッセイは、アバタセプトが、ラブフィリン3Aで免疫したマウスにおいてラブフィリン3Aに特異的なT細胞の数を減少させる傾向があることを示した(図11A及びC)。
さらに、アバタセプトの投与は、ラブフィリン3Aで免疫したマウスの神経下垂体におけるCD3e+T細胞によるリンパ球浸潤を改善した(図11D〜F)。
興味深いことに、PBMC中のラブフィリン3Aに特異的なT細胞の数と神経下垂体中の浸潤CD3e+T細胞の数との間に直線的な関連があった(図11G)。
以上から、これらの結果は、アバタセプトによるT細胞の抑制がラフフィリン3Aに対するT細胞応答を減弱させ、そして神経下垂体におけるリンパ球浸潤を改善することを示している。
神経下垂体におけるラフフィリン3A発現
免疫化マウスの神経下垂体におけるラブフィリン3Aの発現を免疫蛍光法により評価した。そのレベルは対照マウスのそれと同様であった。
さらに、ラブフィリン3Aの発現は、アバタセプトで処理したラブフィリン3Aで免疫したマウスで観察されたものと同様であった(図12)。
参考文献は以下のとおりである。
参考文献1 Iwama S, Sugimura Y, Suzuki H, et al. Time-dependent changes in proinflammatory and neurotrophic responses of microglia and astrocytes in a rat model of osmotic demyelination syndrome. Glia 2011; 59: 452‐462.
参考文献2 Beebe ET, Makino S, Nozawa A, et al. Robotic large-scale application of wheat cell-free translation to structural studies including membrane proteins. Nat Biotechnol 2011; 28: 239‐249.
参考文献3 Tzou SC, Lupi I, Landek M, et al. Autoimmune hypophysitis of SJL mice: clinical insights from a new animal model. Endocrinology 2008; 149: 3461‐3469.
参考文献4 Beckstead JH. A simple technique for preservation of fixation-sensitive antigens in paraffin-embedded tissues: addendum. J Histochem Cytochem 1995; 43: 345.
参考文献5 Iwama S, De Remigis A, Bishop JA, et al. Hurthle cells predict hypothyroidism in interferon-γ transgenic mice of different genetic backgrounds. Endocrinology 2012; 153: 4059‐4066.
参考文献6 Iwama S, De Remigis A, Callahan MK, et al. Pituitary expression of CTLA-4 mediates hypophysitis secondary to administration
of CTLA-4 blocking antibody. Sci Transl Med 2014; 6: 230ra245.
参考文献7 Iwama S, Sugimura Y, Kiyota A, et al. Rabphilin-3A as a targeted autoantigen in lymphocytic infundibulo-neurohypophysitis. J Clin Endocrinol Metab 2015; 100: E946‐E954.
参考文献8 Ye Z, UittenbogaardAM, CohenDA, et al. Distinct CCR2(+)Gr1(+) cells control growth of the Yersinia pestis ΔyopM mutant in liver and spleen during systemic plague. Infect Immun 2011; 79: 674‐687.
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用して参照する。

Claims (9)

  1. ラブフィリン3Aを免疫することにより、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験動物モデルを作製する方法。
  2. 実験動物が、ラット又はマウスである、請求項1に記載の方法。
  3. 同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物。
  4. T細胞反応性を指標として用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断方法。
  5. 検体中のT細胞反応性を測定するステップを含み、ラブフィリン3Aへの反応性レベルが高いことが、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎であることの指標となる、請求項4に記載の診断方法。
  6. 検体が末梢血である、請求項4又は5に記載の診断方法。
  7. 同種の被免疫実験動物に比してラブフィリン3Aに対するT細胞反応性レベルが高い、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物、あるいは、請求項1又は2に記載の方法により得られるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎実験モデル動物を用いる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療に用いることができる化合物を選択する方法。
  8. T細胞活性化阻害剤を含有する、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の治療用医薬。
  9. T細胞活性化阻害剤が、シクロスポリン、タクロリムス又はアバタセプトである、請求項8に記載の治療用医薬。
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