JP2020105050A - 歯科用に好適な水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物及びその製造方法 - Google Patents

歯科用に好適な水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】短時間焼成でジルコニア焼結体が高い透光性を示し、かつ工数やコストを掛けず作製することができる、ジルコニア粉末を得るための水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物の提供。【解決手段】水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含み、複数の前記水和ジルコニア粒子の粒子間に、前記イットリウム成分の少なくとも一部が凝集体として含まれ、前記凝集体の凝集領域を円相当径に換算した際に、円相当径が1μm以上の凝集領域が、60μm×80μmの範囲に5個以上含まれる、水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物。【選択図】なし

Description

本発明は、水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物、及びその製造方法、並びに該混合物を用いるジルコニア粉末の製造方法に関する。該混合物及び該ジルコニア粉末は、特に歯科用として好適に用いることができる。
ジルコニアは、複数の結晶系間で相転移が生じる化合物である。そこで、酸化イットリウム(Y23)等の安定化剤をジルコニアに固溶させて相転移を抑制した部分安定化ジルコニア(PSZ;Partially-Stabilized Zirconia)及び完全安定化ジルコニアが種々の分野において利用されている。
歯科分野において、ジルコニア材料は高強度である特性により、フレーム用材料として使用されてきた。又、近年はジルコニア材料の透光性向上に伴い、ジルコニアを主成分とする歯科用補綴物を作製することも多くなっている。特許文献1には透光性が高く歯科用(特に前歯)に好適なジルコニア焼結体およびジルコニア粉末が開示されている。
特許文献1に記載の透光性ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末のプレス成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結することによって作製される。当該ジルコニア粉末は、4.0mol%を超え6.5mol%以下の酸化イットリウムと、0.1wt%未満のアルミナを含有し、BET比表面積が8〜15m2/gであり、平均粒径が0.40〜0.50μmである。
又、ジルコニアを主成分とする歯科用補綴物の作製は歯科技工所で行われることが多いが、歯科医院で簡便に作製することも近年増えてきており、この場合はジルコニアを短時間で焼成する必要がある。特許文献2には短時間焼成しても透光性が高く歯科用に好適なジルコニア仮焼体およびジルコニア粉末が開示されている。
国際公開第2015/098765号 国際公開第2018/056330号
従来、ジルコニアを主成分とする歯科用補綴物の作製は歯科技工所で行われることが多かったが、歯科医院で簡便に作製することも近年増えてきており、この場合はジルコニアを短時間で焼成する必要がある。
特許文献1には加水分解反応で作製されたジルコニア粉末が記載されており、このジルコニア粉末を用いたジルコニア焼結体の製造方法においては、最高温度での保持時間が2時間とされ、冷却まで含めた全焼成工程は7〜8時間程度必要となる。このような従来の着色透光性ジルコニア焼結体で歯科用補綴物を作製する場合には、患者は、診察当日に歯科用補綴物による治療を受けることができず、別の日に再度通院しなければならない。一方、該着色透光性ジルコニア焼結体は最高温度での保持時間を短縮して製造しようとすると、白濁して焼結体の透光性が低下し、歯科用として好適な色調が再現できないという課題がある。
特許文献2に記載のジルコニア粉末およびこのジルコニア粉末を用いたジルコニア仮焼体においては、酸化イットリウムの少なくとも一部はジルコニアに固溶しておらず、短時間(例えば最高温度での保持時間30分)での焼成においても、従来の焼成条件(最高温度での保持時間=2時間)と同等の透光性をもつ焼結体が作製できる。ただし、ジルコニア粉末の製造方法においては、酸化イットリウムを含まないジルコニア粉末を、オキシ塩化ジルコニウムから加水分解法にて一旦作製した後に、改めて酸化イットリウムを混合してジルコニア粉末を作製する必要があり、工数やコストの面で課題がある。
なお、特許文献1に開示されたジルコニア粉末等の従来のジルコニア粉末は、オキシ塩化ジルコニウム及び塩化イットリウムから加水分解法にて、同一工程で酸化イットリウムを含むジルコニア粉末が作製できるが、酸化イットリウムはジルコニアに全て固溶しているため、前記したように短時間焼成することはできない。
そこで、従来の加水分解法を用いても短時間焼成でジルコニア焼結体が高い透光性を有し、かつ工数やコストを掛けず作製することができる、ジルコニア粉末が求められている。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、複数の水和ジルコニア粒子の粒子間に、イットリウム成分を一定サイズの凝集状態で分散させることにより上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含み、
複数の前記水和ジルコニア粒子の粒子間に、前記イットリウム成分の少なくとも一部が凝集体として含まれ、
前記凝集体の凝集領域を円相当径に換算した際に、円相当径が1μm以上の凝集領域が、60μm×80μmの範囲に5個以上含まれる、水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物。
[2]前記水和ジルコニア粒子をジルコニア(ZrO2)に換算し、前記イットリウム成分を酸化イットリウム(Y23)に換算して計算される、ジルコニアと酸化イットリウムの合計molに対する酸化イットリウムの含有率が3.0〜7.5mol%である、[1]に記載の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物。
[3]ジルコニウム塩水溶液を加水分解して水和ジルコニアゾルを作製し、該水和ジルコニアゾルを乾燥して水和ジルコニア粒子を作製する工程を含む、[1]又は[2]に記載の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物の製造方法。
[4]前記イットリウム成分の少なくとも一部を、前記水和ジルコニアゾルの乾燥後に添加する、[3]に記載の製造方法。
[5]前記水和ジルコニアゾルの乾燥後に添加されるイットリウム成分を酸化イットリウムに換算したmol量が、前記混合物に含まれるすべてのイットリウム成分を酸化イットリウムに換算した総mol量において、50mol%以上である、[4]に記載の製造方法。
[6]前記イットリウム成分が酸化イットリウムである、[3]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記酸化イットリウムの平均粒径が1.0〜10.0μmである、[6]に記載の製造方法。
[8][1]又は[2]に記載の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物を用いる、ジルコニア粉末の製造方法。
[9]前記水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物を仮焼する工程を含む、[8]に記載の製造方法。
[10]前記仮焼工程の後に粉砕する工程を含む、[9]に記載の製造方法。
本発明によれば、短時間焼成でジルコニア焼結体が高い透光性を有し、ジルコニア粉末を工数やコストをかけることなく作製することが可能となる。特に、本発明によれば、適正焼成温度での保持時間が15分程度の短時間焼成であっても、高い透光性を示すジルコニア焼結体が得られるジルコニア粉末を製造することができる。
実施例1でのEDX解析によるイットリウムのマッピング画像である。 適正焼成温度での保持時間に対する透光性保持率の変化を示すグラフである。 適正焼成温度の判断に関するジルコニア焼結体の外観の写真である。
本発明の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物(以下において、「水和Zr−Y混合物」と称することがある)は、複数の前記水和ジルコニア粒子の粒子間に、前記イットリウム成分の少なくとも一部が凝集体として含まれ、前記凝集体の凝集領域を円相当径で換算した際に、円相当径が1μm以上の凝集領域が、60μm×80μmの範囲に5個以上含まれることを特徴とする。以下、詳細を説明する。
本発明の水和Zr−Y混合物では、複数の水和ジルコニア粒子の粒子間に、イットリウム成分の少なくとも一部が一定サイズ以上に凝集体として含まれることが重要である。前記凝集体の凝集領域を円相当径で換算した際に、円相当径が1μm以上の凝集領域が、60μm×80μmの範囲に5個以上含まれることが必要である。前記所定の凝集領域が、60μm×80μmの範囲に10個以上存在することが好ましく、15個以上存在することがより好ましい。複数の水和ジルコニア粒子の粒子間のイットリウム成分の少なくとも一部が上記の凝集状態を満たすことにより、水和Zr−Y混合物を仮焼する工程においてイットリウム成分がジルコニアに完全に固溶することを防ぎ、短時間焼成でジルコニア焼結体が高い透光性を示すジルコニア粉末を得ることができる。複数の水和ジルコニア粒子の粒子間のイットリウム成分の少なくとも一部が上記の凝集状態を満たしていればよく、イットリウム成分の全部が上記の凝集状態であってもよい。なお、本明細書において、ジルコニア粉末とは、前記水和Zr−Y混合物から得られる点から、イットリウム成分を含むジルコニア粉末を意味する。また、本明細書において、円相当径とは、凝集領域を等面積の円とみなしたときの当該円の直径を意味する。
本発明におけるイットリウム成分の凝集状態は、水和Zr−Y混合物のEDX(エネルギー分散型X線分光法)にて得られるイットリウムのマッピング像にて観察することができる。凝集領域のサイズの測定には、画像解析ソフトImage−Pro Plus Ver.5.0(株式会社日本ローパー)を使用し、円相当径として算出することができる。
本発明の水和Zr−Y混合物において、水和ジルコニア粒子をジルコニア(ZrO2)に換算し、イットリウム成分を酸化イットリウム(Y23)に換算して計算される、ジルコニアと酸化イットリウムの合計molに対する酸化イットリウムの含有率は、3mol%以上が好ましく、3.5mol%以上がより好ましく、4.0mol%以上がさらに好ましい。前記酸化イットリウムの含有率が3mol%以上の場合、水和Zr−Y混合物から得られるジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を製造した際に、その透光性を高めることができる。また、前記酸化イットリウムの含有率は、ジルコニアと酸化イットリウムの合計molに対して、7.5mol%以下が好ましく、7.0mol%以下がより好ましく、6.5mol%以下がさらに好ましく、6.0mol%以下が特に好ましい。前記酸化イットリウムの含有率が7.5mol%以下の場合、前述したようなジルコニア焼結体での強度低下を抑制することができる。
本発明の水和Zr−Y混合物の製造方法について説明する。本発明の水和Zr−Y混合物の製造方法において、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、ジルコニウム塩水溶液を加水分解して水和ジルコニアゾルを作製し、該水和ジルコニアゾルを乾燥して水和ジルコニア粒子を作製する工程を含むことが好ましい。該ジルコニウム塩水溶液としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムを用いることができる。
本発明の水和Zr−Y混合物の製造方法において、イットリウム成分を添加するタイミングは特に制限はなく、水和ジルコニア粒子を作製するためのジルコニウム塩水溶液に添加してもよく、あるいは加水分解後の水和ジルコニアゾルに添加してもよいが、イットリウム成分の少なくとも一部を、水和ジルコニアゾルを乾燥させた後に添加することが好ましい。なお、イットリウム成分は所定量を一回のタイミングで全て添加してもよく、複数のタイミングに分けて添加してもよい。
水和ジルコニアゾルの乾燥温度は、特に限定されないが、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、前記乾燥温度は、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましい。
前述したように、イットリウム成分の少なくとも一部を、水和ジルコニアゾルを乾燥させた後に添加する場合、水和ジルコニアゾル乾燥後に添加されるイットリウム成分を酸化イットリウムに換算したmol量は、イットリウム成分がジルコニアに完全に固溶することを防ぐ観点から、水和Zr−Y混合物に含まれるイットリウム成分を酸化イットリウムに換算した総mol量に対して、50mol%以上であると好ましく、60mol%以上であるとより好ましく、70mol%以上であるとさらに好ましい。
本発明において、イットリウム成分とはイットリウム単体もしくはイットリウムを含む化合物であり、例えば、酸化イットリウム、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、および水酸化イットリウムが挙げられ、イットリウム成分がジルコニアに完全に固溶することを防ぐ観点から、酸化イットリウムであることが好ましい。
前記酸化イットリウムの平均粒径は、イットリウム成分がジルコニアに完全に固溶することを防ぐ観点から、1.0〜10.0μmであることが好ましく、1.5〜9.0μmであることがより好ましく、2.0〜8.0μmであることがさらに好ましい。なお、前記平均粒径は、レーザー回折散乱法により求めることができる。レーザー回折散乱法は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
本発明の水和Zr−Y混合物の製造方法として、上記のような製造方法を採用することにより、仮焼前の水和Zr−Y混合物におけるイットリウム成分の凝集状態をコントロールすることが可能となり、一定サイズ以上の凝集状態を達成することが可能となり、仮焼工程にて、イットリウム成分がジルコニアに固溶することを防ぐことができる。これにより、短時間焼成でジルコニア焼結体が高い透光性を示すジルコニア粉末を得ることができる。
本発明のジルコニア粉末の製造方法について説明する。本発明のジルコニア粉末の製造方法は、前述した水和Zr−Y混合物を用いることが好ましく、より具体的には、本発明の水和Zr−Y混合物を仮焼する工程を含むことがより好ましく、該仮焼工程の後に粉砕する工程を含むことがさらに好ましい。本発明の水和Zr−Y混合物を用いて仮焼、粉砕することにより、短時間焼成でジルコニア焼結体が高い透光性を示すジルコニア粉末を得ることができる。仮焼温度は850℃〜1250℃であることが好ましく、900℃〜1200℃であることがより好ましい。粉砕工程において、従来公知の粉砕方法を採用することができ、湿式粉砕や乾式粉砕が挙げられる。好ましい粉砕方法としては、ジルコニアボールを使用した湿式粉砕であり、ジルコニアボールの直径は3mm以下であることが好ましい。粉砕工程が湿式粉砕である場合には、その後に乾燥工程が含まれ、その乾燥方法は特に限定されないが、スプレードライヤ等で湿式粉砕後のスラリーを噴霧乾燥することができる。
本発明の水和Zr−Y混合物およびジルコニア粉末は、本発明の効果を奏する限り、水和ジルコニア粒子、それに由来するジルコニア及びイットリウム成分以外の添加物を含有してもよい。該添加物としては、例えば、着色剤(顔料、複合顔料及び蛍光剤を含む)、アルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2)、シリカ(SiO2)等が挙げられる。
前記顔料としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErの群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物が挙げられる。前記複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O2、Fe(Fe,Cr)24、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)24・ZrSiO4、(Co,Zn)Al24等が挙げられる。蛍光剤としては、例えば、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y23:Eu、YAG:Ce、ZnGa24:Zn、BaMgAl1017:Eu等が挙げられる。
本発明の水和Zr−Y混合物より得られるジルコニア粉末を用いて、従来公知の方法によりジルコニア仮焼体やジルコニア焼結体を作製することができる。該ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体は歯科用製品に好適に使用できる。歯科用製品としては、例えば、例えば、コーピング、フレームワーク、クラウン、クラウンブリッジ、アバットメント、インプラント、インプラントスクリュー、インプラントフィクスチャー、インプラントブリッジ、インプラントバー、ブラケット、義歯床、インレー、アンレー、矯正用ワイヤー、ラミネートベニア等が挙げられる。また、その製造方法としては各用途に応じて適切な方法を選択することができるが、例えば、ジルコニア仮焼体を切削加工した後に焼結することにより、歯科用製品を得ることができる。なお、該切削工程においてCAD/CAMシステムを用いることが好ましい。
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
<実施例1>
[水和Zr−Y混合物の作製]
0.5mol/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液10Lを調整して、還流器付きフラスコ中で加水分解反応を煮沸温度で100時間行った。得られた水和ジルコニアゾルを180℃で乾燥させ水和ジルコニア粒子を得た。その後、水和ジルコニア粒子をジルコニアに換算し、イットリウム成分を酸化イットリウムに換算して計算される酸化イットリウムの含有率が5.0mol%となるように、平均粒径が3μmの酸化イットリウムを水和ジルコニア粒子に添加し、ボールミルにて混合し、水和Zr−Y混合物を得た。
得られた水和Zr−Y混合物のイットリウム成分の凝集状態を確認するため、水和Zr−Y混合物を角柱の成形体に成形し、その平坦面又は断面内の60μm×80μmの領域を観察した。SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて得られた成形体の平坦面又は断面を観察し、EDX(エネルギー分散型X線分光法)分析によって得られた観察画像をイットリウムでマッピングし、イットリウム成分の凝集体を形成している凝集領域のサイズを測定した。観察画像を図1に示す。凝集領域のサイズの測定には、画像解析ソフトImage−Pro Plus Ver.5.0(株式会社日本ローパー)を使用し、60μm×80μmの範囲に存在する凝集領域を円相当径として算出したところ、その円相当径が1μm以上の凝集領域は35個存在することが確認された。
[ジルコニア粉末の作製]
得られた水和Zr−Y混合物を1000℃で2時間焼成し、仮焼粉末を得た。その後、この仮焼粉末に水を添加してスラリーを作製し、直径2mmのジルコニアボールを用いて、平均粒径が平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕した。粉砕後のスラリーにバインダを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、ジルコニア粉末を得た。
[焼成時間に対する透光性保持率の測定]
得られたジルコニア粉末1gを直径20mmの金型に充填し、一軸プレス成形機によって、面圧300kg/cm2で1次プレス成形した。得られた1次プレス成形体を1700kg/cm2でCIP成形して、ペレット状の成形体を作製した。得られた成形体を1000℃で2時間焼成してジルコニア仮焼体を作製した。
次に、後述の方法により特定した適正焼成温度(1450℃)に設定して、保持時間を120分間、60分間、30分間、15分間と変更してジルコニア仮焼体を焼成し、焼結体を作製した。得られたジルコニア焼結体の透光性を後述の方法により測定した。なお、昇温速度と降温速度は、各保持時間での焼成において、全て同一条件とした。後述の方法により測定した適正焼成温度で120分間焼成した焼結体の透光性(ΔL*120)に対する、保持時間x分間で焼成した焼結体の透光性(ΔL*x)の変化を透光性として下記式により算出した。表1及び図2に結果を示す。なお、ジルコニア焼結体の透光性(ΔL*)の測定方法は後述する。
透光性保持率(%)=(ΔL*x)/(ΔL*120)×100
<比較例1>
0.5mol/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液10Lに、ジルコニアに対する酸化イットリウムの含有率が5.0mol%となるように塩化イットリウムを添加した混合溶液を還流器付きフラスコ中で加水分解反応を煮沸温度で100時間行った。得られたイットリウムを含む水和ジルコニアゾルを乾燥させ、実施例1と同様にイットリウム成分の凝集状態を確認したところ、円相当径で1μm以上の凝集領域は1つも確認されなかった。
その後、得られたイットリウムを含む水和ジルコニア粒子を1000℃で2時間焼成し、仮焼粉末を得た。その後、この仮焼粉末に水を添加してスラリーを作製し、直径2mmのジルコニアボールを用いて、平均粒径が平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕した。粉砕後のスラリーにバインダを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、ジルコニア粉末を得た。その後、実施例1と同様の方法にて、透光性保持率を測定した。表1及び図2に結果を示す。
[ジルコニア仮焼体の適正焼成温度の測定]
本発明において、ジルコニア仮焼体の適正焼成温度は、市販のジルコニアを用いる場合には製造元により指定された焼成温度を指す。一方、特に指定された焼成温度の情報が無い場合は、以下のように規定することができる。まず、ジルコニア仮焼体を種々の温度で120分焼成し、その後、両面を#600研磨加工して厚さ0.5mmのジルコニア焼結体の試料を得た。得られた試料の外観を目視にて観察し、試料の透明度に基づき以下の基準により各ジルコニア仮焼体の適正焼成温度を決定した。図3の左側の試料のように、透明度が高く背景が透過する状態は、ジルコニア仮焼体が十分に焼成されているとみなすことができる。一方、図3の右側の試料のように、透明度の低い状態あるいは白濁した状態は、焼成不足と判断できる。本発明において、図3の左側の試料のように十分に焼成されているとみなすことができる最低の温度をジルコニア仮焼体の適正焼成温度と判断した。実施例及び比較例で用いたジルコニア仮焼体の適正焼成温度は、上記の測定により実施例1、比較例1共に1450℃であった。
[ジルコニア焼結体の透光性の測定]
ジルコニア焼結体の透光性は、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM−3610Aを用いてD65光源にて測定した、L*a*b*表色系(JIS Z 8781−4:2013 測色−第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)における明度(色空間)のL*値を用いて算出した。試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値を第2のL*値とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値(ΔL*)を、透光性を示す数値とした。
表1及び図2に示すように、水和ジルコニアゾルの乾燥前にイットリウム成分を加えた比較例1においては、適正焼成温度での保持時間が短くなるに従い透光性は低下していき、60分焼成では120分焼成における透光性の約90%、30分焼成では120分焼成における透光性の70%、15分焼成では120分焼成における透光性の60%であった。一方、実施例1においては、適正焼成温度での保持時間を短くしても120分焼成と同等の透光性を確保することができた。30分焼成においては120分焼成のほぼ100%とすることができ、15分焼成においても120℃焼成の95%以上とすることができた。すなわち、本発明の水和Zr−Y混合物を用いたジルコニア粉末により、適正焼成温度が15分程度の短時間焼成後であっても高い透光性を示すジルコニア焼結体を得ることができる。これにより、ジルコニア焼結体の生産効率を高めることができると共に、エネルギーコストを低減させることができる。また、歯科用補綴物を作製する場合には、患者に対する時間的負担を軽減させることができる。
本明細書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本明細書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
本発明の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物及びそれを用いて得られるジルコニア粉末は、補綴物等の歯科用製品に利用することができる。

Claims (10)

  1. 水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含み、
    複数の前記水和ジルコニア粒子の粒子間に、前記イットリウム成分の少なくとも一部が凝集体として含まれ、
    前記凝集体の凝集領域を円相当径に換算した際に、円相当径が1μm以上の凝集領域が、60μm×80μmの範囲に5個以上含まれる、水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物。
  2. 前記水和ジルコニア粒子をジルコニア(ZrO2)に換算し、前記イットリウム成分を酸化イットリウム(Y23)に換算して計算される、ジルコニアと酸化イットリウムの合計molに対する酸化イットリウムの含有率が3.0〜7.5mol%である、請求項1に記載の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物。
  3. ジルコニウム塩水溶液を加水分解して水和ジルコニアゾルを作製し、該水和ジルコニアゾルを乾燥して水和ジルコニア粒子を作製する工程を含む、請求項1又は2に記載の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物の製造方法。
  4. 前記イットリウム成分の少なくとも一部を、前記水和ジルコニアゾルの乾燥後に添加する、請求項3に記載の製造方法。
  5. 前記水和ジルコニアゾルの乾燥後に添加されるイットリウム成分を酸化イットリウムに換算したmol量が、前記混合物に含まれるすべてのイットリウム成分を酸化イットリウムに換算した総mol量において、50mol%以上である、請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記イットリウム成分が酸化イットリウムである、請求項3〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
  7. 前記酸化イットリウムの平均粒径が1.0〜10.0μmである、請求項6に記載の製造方法。
  8. 請求項1又は2に記載の水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物を用いる、ジルコニア粉末の製造方法。
  9. 前記水和ジルコニア粒子とイットリウム成分とを含む混合物を仮焼する工程を含む、請求項8に記載の製造方法。
  10. 前記仮焼工程の後に粉砕する工程を含む、請求項9に記載の製造方法。
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