JP2020091192A - 化合物及びその使用 - Google Patents

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Abstract

【課題】重金属元素を含まず、安全性が高いフッ化物イオンの検出剤を提供する。【解決手段】下記式(1)で表される化合物(式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1〜20のアリール基を表し、R2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)。[化1]【選択図】なし

Description

本発明は、化合物及びその使用に関する。より具体的には、化合物及びフッ化物イオン検出剤に関する。
従来、フッ化物イオンの検出に利用することができる化合物が知られている。例えば、特許文献1には、ジルコニウム(IV)とピロカテコールバイオレットと多座配位子とからなるジルコニウム系多核錯体を用いて、水溶液中のフッ化物イオンを検出できることが記載されている。
また、非特許文献1には、ジメシチルボリル基(BMes;Mesは2,4,6−トリメチルフェニル基を表す。)を有するフェニルキノリンを導入したイリジウム(III)錯体が、フッ化物イオンの添加により赤色発光から消光するON−OFF型のセンサーとして機能することが記載されている。非特許文献1にはまた、ジスルファンニトリルを有する白金(II)錯体にフッ化物イオンを添加すると発光強度が大幅に減少し、目視での消光が確認できたことが記載されている。
特許第4058522号公報
日本大学生産工学部第48回学術講演会講演概要、2015年12月5日、第521頁
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載された化合物は、重金属元素を含んでいる。このため、これらの化合物は生体に対する毒性を有することが懸念される。また、これらの化合物が環境中に拡散すると環境汚染につながることが懸念される。このため、これらの化合物は、使用中の安全対策や使用後の廃棄等が煩雑である。そこで、本発明は、重金属元素を含まず、安全性が高いフッ化物イオン検出剤を提供することを目的とする。
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記式(1)で表される化合物。
[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1〜20のアリール基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
[2]前記Rが全て水素原子である、[1]に記載の化合物。
[3][1]又は[2]に記載の化合物を有効成分として含有するフッ化物イオン検出剤。
[4]被験試料中のフッ化物イオンの検出方法であって、被験試料に[1]又は[2]に記載の化合物を接触させる工程と、前記化合物が接触した前記被験試料に波長300〜400nmの光を照射し、発生する蛍光の波長を測定する工程と、を含み、前記蛍光が波長500〜570nmの光を含むことが、前記被験試料がフッ化物イオンを含有することを示す、方法。
本発明によれば、重金属元素を含まず、安全性が高いフッ化物イオン検出剤を提供することができる。
(a)〜(d)は、実験例2の結果を示す写真である。 (a)及び(b)は、実験例3の結果を示す写真である。 (a)〜(d)は、実験例4の結果を示す写真である。 (a)〜(d)は、実験例5の結果を示す写真である。 (a)〜(d)は、実験例6においてN,N−ビス(トリメチルシリル)−9−アミノアントラセン(Si9AA)とフッ化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(d)は、実験例6においてSi9AAと塩化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(d)は、実験例6においてSi9AAと臭化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(d)は、実験例6においてSi9AAとヨウ化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(f)は、実験例6においてSi9AAとフッ化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(d)は、実験例6においてSi9AAと塩化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(d)は、実験例6においてSi9AAとシアン化物イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)〜(d)は、実験例6においてSi9AAとPF イオンを反応させた結果を示すNMRスペクトルである。 (a)は実験例7における吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。(b)は実験例7における蛍光スペクトルの測定結果を示すグラフである。 (a)及び(b)は、実験例8の結果を示す写真である。 実験例9におけるメシチル9AAの吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。 実験例9におけるメシチル9AAの蛍光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
[化合物]
1実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供する。
[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1〜20のアリール基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
上記式(1)で表される化合物は新規化合物である。実施例において後述するように、発明者らは、上記式(1)で表される化合物がフッ化物イオンと反応すると、上記式(1)で表される化合物のトリメチルシリル基が容易に水素原子に置換され、蛍光特性が変化することを明らかにした。また、この反応はフッ化物イオンに特異的であった。
上記式(1)で表される化合物は、重金属元素を含まないため、生体に対する安全性が高い。また、このため、使用後の廃棄等も簡便である。また、上記式(1)で表される化合物は、フッ化物イオンと反応すると消光するのではなく、蛍光波長を変化させる。このため、フッ化物イオンを明確に検出することができ、より簡便にフッ化物イオンの検出を行うことができる。
上記式(1)で表される化合物のトリメチルシリル基が水素原子に置換した化合物は、不安定であり、経時的に蛍光波長を変化させる場合がある。これに対し、上記式(1)で表される化合物において、Rで表される基が嵩高い基であると、蛍光波長が変化せず、安定である傾向にある。本明細書において、Rで表される基が嵩高いとは、Rで表される基の分子量が概ね90〜1000であることを意味する。
上記式(1)において、Rで表される炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基等の分枝鎖状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、9−トリプチシル基等の嵩高いアルキル基等が挙げられる。
また、Rで表される炭素数1〜20のアルキル基の置換基としては、例えばハロゲン原子が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表される置換された炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、クロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、トリブロモメチル基等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基(メシチル基)、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,6−ジエトキシフェニル基、2,6−ジイソプロポキシフェニル基、2,6−ジtert−ブトキシフェニル基等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表されるアリール基の置換基としては、例えばハロゲン原子、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表される置換されたアリール基としては、例えば、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基等、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、3,4−ジブロモフェニル基、2,6−ジクロロフェニル基、2,6−ジブロモフェニル基、2,6−ジヨードフェニル基等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基等の分枝鎖状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表されるアルキル基の置換基としては、例えばハロゲン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
上記式(1)において、Rで表される置換された炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、クロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、トリブロモメチル基等が挙げられる。
本実施形態の化合物において、上記式(1)におけるRは全て水素原子であってもよいし、1個又は複数のRが、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基であってもよい。
例えば、癌の早期発見等に使われるポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography、PET)検査では、グルコースの一部を放射性フッ化物イオン(18F)で置き換えた18F−フルオロデオキシグルコース(18F−FDG)が検査薬として使われる。
18F−FDGは静脈注射で体内に注入されるが、成人の体重や体格指数(Body Mass Index、BMI)により、その注入量が変化する。また、18F−FDGが体内で代謝されるとフッ化物イオン(18F)が排出される。18Fは半減期が109.5分のガンマ線を放出する放射性元素であり、PET検査を終えても完全に放射性が無くならないまま代謝されることが懸念される。また、フッ化物イオンは、斑状歯形成への影響、腎機能低下、骨フッ素症等の発症に影響することが知られている。
このため、PET検査後、体内に残存するフッ化物イオン(18F)を、安全・簡便・迅速・安価に検出する技術に対する需要があると考えられる。本実施形態の化合物は、このような用途にも好適に用いることができる。
[フッ化物イオン検出剤]
1実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物を有効成分として含有するフッ化物イオン検出剤を提供する。実施例において後述するように、発明者らは、上記式(1)で表される化合物をフッ化物イオンの検出の用途に使用できることを明らかにした。
より具体的には、上記式(1)で表される化合物に波長約365nmの励起光を照射すると波長約473nmの青色蛍光を発する。また、上記式(1)で表される化合物にフッ化物イオンを接触させると、トリメチルシリル基が水素原子に置換され、波長約365nmの励起光を照射すると波長約518nmの緑色蛍光を発するようになる。このため、肉眼で容易にフッ化物イオンの存在を検出することができる。
[被験試料中のフッ化物イオンの検出方法]
1実施形態において、本発明は、被験試料中のフッ化物イオンの検出方法であって、被験試料に上記式(1)で表される化合物を接触させる工程と、前記化合物が接触した前記被験試料に波長300〜400nmの光を照射し、発生する蛍光の波長を測定する工程と、を含み、前記蛍光が波長500〜570nmの光を含むことが、前記被験試料がフッ化物イオンを含有することを示す、方法を提供する。実施例において後述するように、本実施形態の方法により、簡便にフッ化物イオンを検出することができる。
本実施形態の方法において、波長300〜400nmの光を照射し、発生する蛍光の波長を測定する工程は、肉眼で実施してもよい。波長300〜400nmの光、例えば波長約365nmの励起光を照射した場合に緑色蛍光が観察された場合、蛍光が波長500〜570nmの光を含むということができる。この場合、被験試料中にフッ化物イオンが存在していたと判断することができる。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
(N,N−ビス(トリメチルシリル)−9−アミノアントラセンの合成)
下記反応スキーム(1)にしたがって、N,N−ビス(トリメチルシリル)−9−アミノアントラセンを合成した。
具体的には、まず、100mL三口フラスコに9−アミノアントラセン(以下、「9AA」という場合がある。)0.582g(3.01mmol)とテトラヒドロフラン(THF)20mLを入れ、温度計、三方コック、セプタムを設置し、三方コックに窒素風船をつけた。
続いて、デュワー瓶にエタノールと液体窒素を入れ、スターラの上に設置した。この際−70℃を超えないように撹拌した。30分後1.55mol/Lのn−BuLi 4.3mL(6.6mmol)をゆっくりと加えた。このとき溶液は紫色に変化した。
その後撹拌しながらフラスコ内の温度が−85℃になるように液体窒素を加えた。40分後、トリメチルシリルクロリド0.9mL(7.09mmol)のTHF(5mL)溶液をトランスファーチューブからゆっくりと加え25時間撹拌した。このとき色は紫色から黒色、深青色、黄色、茶色と変化した。
続いて、200mLナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターでヘキサンとトリメチルシリルクロリドを減圧留去した。得られた黒色液体を100mLナスフラスコに入れ、ヘキサン(20mL)を加え、ロータリーエバポレーターで減圧留去した。
続いて、クロロホルム(25mL)を加えてロータリーエバポレーターで留去し、得られた液体をヘキサン(10mL)で桐山漏斗を用いて吸引ろ過し不純物を取り除いた。
続いて、深緑色のろ液をメンブレンフィルターでろ過し、ロータリーエバポレーターで減圧留去し、残留物をヘキサン(7mL)に溶かし、冷蔵庫に2日間静置したところ結晶が析出した。
桐山漏斗を用いてこの結晶を吸引ろ過した結果、N,N−ビス(トリメチルシリル)−9−アミノアントラセン(0.652g,1.92mmol)(以下、「Si9AA」という場合がある。)が無色結晶として収率64%で得られた。
H NMR(600MHz,CDCl) δ=0.07(18H,s,TMS group),7.47−7.40(4H,m,2,3,6,7−H),7.98−7.95(2H,m,4,5−H),8.21(1H,s,10−H),8.34−8.32(2H,m,1,8−H).
13C{H} NMR(151MHz,CDCl) δ=2.30(p,CH−Si),123(t,C10),124(t,C2,7),125(t,C3,6),126(t,C1,8),128(t,C4,5),131(q,C9),132(q,C4a,10a),142(q,C8a,9a)
質量分析 ESI−MS(CHCN,positive)
Molecular Formula: C2027NSi +H:338.1755
Anal:338.1764
[実験例2]
(Si9AAの蛍光特性の検討1)
シリカゲルTLCプレートに、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(n−BuNF)、塩化テトラ−n−ブチルアンモニウム(n−BuNCl)、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム(n−BuNBr)、ヨウ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(n−BuNI)を1スポットずつスポットした。なお、n−BuNFはフッ化物イオン源であり、n−BuNClは塩化物イオン源であり、n−BuNBrは臭化物イオン源であり、n−BuNIはヨウ化物イオン源である。
続いて、上記のTLCプレートにN,N−ビス(トリメチルシリル)−9−アミノアントラセン(以下、「Si9AA」という場合がある。)のメタノール溶液(7.70×10−4mol/L)を10mLスプレー瓶から吹きかけた。続いて、TLCプレートに、波長約365nmの励起光を照射し、蛍光を観察した。蛍光の観察にあたってはフィルターを使用しなかった。これにより、蛍光波長の変化を肉眼で観察することができた。
図1(a)〜(d)は、TLCプレートにSi9AAを吹きかけてから2.5時間後に波長約365nmの励起光を照射し、蛍光を検出した結果を示す写真である。図1(a)はSi9AAにフッ化物イオンを接触させた結果であり、図1(b)はSi9AAに塩化物イオンを接触させた結果であり、図1(c)はSi9AAに臭化物イオンを接触させた結果であり、図1(d)はSi9AAにヨウ化物イオンを接触させた結果である。
その結果、Si9AAの蛍光は、フッ化物イオンを接触させた場合のみ、波長約473nmの青色蛍光から波長約518nmの緑色蛍光に変化することが明らかとなった。これは、Si9AAがフッ化物イオンと接触するとトリメチルシリル基が水素原子に置換されて9AAに変化するためである。なお、発明者らは、以前に、9AAに波長約365nmの励起光を照射すると、波長約518nmの緑色蛍光を発することを明らかにしている。
図1(b)、(c)でも蛍光が観察されたが、これらの蛍光は波長約473nmの青色蛍光であった。
[実験例3]
(Si9AAの蛍光特性の検討2)
Si9AAのテトラヒドロフラン(THF)溶液(7.70×10−4mol/L)を2本のメスフラスコに入れ、一方に13mgのn−BuNFを添加した。具体的には、1.0mol/Lのn−BuNF(261.5g/mol)のTHF溶液を0.05mL加えた。続いて、n−BuNFの添加から1分後に、双方のフラスコに波長約365nmの励起光を照射し、蛍光を観察した。蛍光の観察にあたってはフィルターを使用しなかった。これにより、蛍光波長の変化を肉眼で観察することができた。
図2(a)及び(b)は各フラスコの蛍光を撮影した写真である。図2(a)はSi9AAのTHF溶液の写真であり、図2(b)はSi9AAのTHF溶液にフッ化物イオンを添加した写真である。
その結果、Si9AAのTHF溶液は、波長約473nmの青色蛍光を発したのに対し、Si9AAのTHF溶液にフッ化物イオンを添加すると、青色蛍光が変化し、波長約518nmの緑色蛍光を発することが明らかとなった。これは、Si9AAがフッ化物イオンと接触してトリメチルシリル基が水素原子に置換されて9AAに変化したためである。
[実験例4]
(Si9AAの蛍光特性の検討3)
Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNF(0.10mol/L)を含むTHF溶液、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNCl(0.10mol/L)を含むTHF溶液、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNBr(0.10mol/L)を含むTHF溶液、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNI(0.10mol/L)を含むTHF溶液をそれぞれNMR管に入れ、5分後に波長約365nmの励起光を照射し、蛍光を観察した。蛍光の観察にあたってはフィルターを使用しなかった。これにより、蛍光波長の変化を肉眼で観察することができた。
図3(a)〜(d)は各NMR管を撮影した写真である。図3(a)はSi9AA及びn−BuNFを含むTHF溶液の写真であり、図3(b)はSi9AA及びn−BuNClを含むTHF溶液の写真であり、図3(c)はSi9AA及びn−BuNBrを含むTHF溶液の写真であり、図3(d)はSi9AA及びn−BuNIを含むTHF溶液の写真である。
その結果、Si9AA及びn−BuNFを含むTHF溶液のみが波長約518nmの緑色蛍光を発することが明らかとなった。これは、Si9AAがフッ化物イオンと接触してトリメチルシリル基が水素原子に置換されて9AAに変化したためである。この結果は、Si9AAがフッ化物イオンを特異的に検出することができることを更に支持するものである。
[実験例5]
(Si9AAの蛍光特性の検討4)
Si9AA(7.69×10−3mol/L)、フッ化カリウム(KF)(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を含むTHF溶液、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、塩化カリウム(KCl)(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を含むTHF溶液、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、シアン化カリウム(KCN)(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を含むTHF溶液、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を含むTHF溶液をそれぞれNMR管に入れ、5分後に波長約365nmの励起光を照射し、蛍光を観察した。蛍光の観察にあたってはフィルターを使用しなかった。これにより、蛍光波長の変化を肉眼で観察することができた。
図4(a)〜(d)は各NMR管を撮影した写真である。図4(a)はSi9AA、KF及び18−クラウン−6を含むTHF溶液の写真であり、図4(b)はSi9AA、KCl及び18−クラウン−6を含むTHF溶液の写真であり、図4(c)はSi9AA、KCN及び18−クラウン−6を含むTHF溶液の写真であり、図4(d)はSi9AA、KPF及び18−クラウン−6を含むTHF溶液の写真である。
その結果、Si9AA、KF及び18−クラウン−6を含むTHF溶液のみが波長約518nmの緑色蛍光を発することが明らかとなった。これは、Si9AAがフッ化物イオンと接触してトリメチルシリル基が水素原子に置換されて9AAに変化したためである。この結果は、Si9AAがフッ化物イオンを特異的に検出することができることを更に支持するものである。なお、Si9AA、KPF及び18−クラウン−6を含むTHF溶液で緑色蛍光が観察されなかったのは、PF イオンが安定であり、フッ化物イオンとしての性質を有しないためである。
[実験例6]
(Si9AAのNMRスペクトルの検討)
Si9AAに、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンをそれぞれ接触させ、H NMR(600MHz,THF−acetone−d)スペクトルの変化を観察した。また、比較のために、9AAに、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンをそれぞれ接触させた試料についてもNMRスペクトルを測定した。また、対照として、Si9AA及び9AAのNMRスペクトルも測定した。
(フッ化物イオン1)
図5(a)〜(d)は、Si9AAにフッ化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルの比較を示すグラフである。図5(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図5(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNF(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図5(c)は9AAのNMRスペクトルである。図5(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)及びn−BuNF(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAにフッ化物イオンを接触させた結果、Si9AAが9AAに変化したことが明らかとなった。
(塩化物イオン1)
図6(a)〜(d)は、Si9AAに塩化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルの比較を示すグラフである。図6(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図6(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNCl(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図6(c)は9AAのNMRスペクトルである。図6(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)及びn−BuNCl(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAに塩化物イオンを接触させても、Si9AAは変化しないことが明らかとなった。
(臭化物イオン)
図7(a)〜(d)は、Si9AAに臭化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルの比較を示すグラフである。図7(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図7(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNBr(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図7(c)は9AAのNMRスペクトルである。図7(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)及びn−BuNBr(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAに臭化物イオンを接触させても、Si9AAは変化しないことが明らかとなった。
(ヨウ化物イオン)
図8(a)〜(d)は、Si9AAにヨウ化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルの比較を示すグラフである。図8(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図8(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)及びn−BuNI(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図8(c)は9AAのNMRスペクトルである。図8(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)及びn−BuNI(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAにヨウ化物イオンを接触させても、Si9AAは変化しないことが明らかとなった。
(フッ化物イオン2)
図9(a)〜(f)は、Si9AAにフッ化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルを示すグラフである。図9(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図9(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、KF(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図9(c)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、KF(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、1.5時間後に測定したNMRスペクトルである。図9(d)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、KF(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、12時間後に測定したNMRスペクトルである。図9(e)は9AAのNMRスペクトルである。図9(f)は、9AA(12.4×10−3mol/L)、KF(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、KFがTHFに溶解しないため、反応が遅いものの、Si9AAにフッ化物イオンを接触させた結果、Si9AAが9AAに変化したことが明らかとなった。
(塩化物イオン2)
図10(a)〜(d)は、Si9AAに塩化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルを示すグラフである。図10(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図10(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、KCl(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図10(c)は9AAのNMRスペクトルである。図10(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)、KCl(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAに塩化物イオンを接触させても、Si9AAは変化しないことが明らかとなった。
(シアン化物イオン)
図11(a)〜(d)は、Si9AAにシアン化物イオンを接触させた場合のNMRスペクトルを示すグラフである。図11(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図11(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、KCN(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図11(c)は9AAのNMRスペクトルである。図11(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)、KCN(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAにシアン化物イオンを接触させても、Si9AAは変化しないことが明らかとなった。
(PF イオン)
図12(a)〜(d)は、Si9AAにPF イオンを接触させた場合のNMRスペクトルを示すグラフである。図12(a)はSi9AAのNMRスペクトルである。図12(b)は、Si9AA(7.69×10−3mol/L)、KPF(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。図12(c)は9AAのNMRスペクトルである。図12(d)は、9AA(12.4×10−3mol/L)、KPF(0.10mol/L)及び18−クラウン−6(0.10mol/L)を混合し、10分後に測定したNMRスペクトルである。
これらのNMRスペクトルの比較から、Si9AAにPF イオンを接触させても、Si9AAは変化しないことが明らかとなった。これは、PF イオンが安定であり、フッ化物イオンとしての性質を有しないためである。
[実験例7]
(Si9AAの吸収スペクトル及び蛍光スペクトルの検討)
Si9AAのTHF溶液(4.44×10−5mol/L)、及びSi9AAのTHF溶液4.00mLに1.0mol/Lのフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(n−BuNF)を0.02mL添加した試料について、吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定した。
図13(a)は吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。図13(a)中、「Si9AA」はSi9AAのTHF溶液の測定結果を示し、「Si9AA+n−BuNF」はSi9AAのTHF溶液にn−BuNFを添加した試料の測定結果を示す。また、縦軸は吸光度を示し、横軸は波長(nm)を示す。その結果、Si9AAのTHF溶液の吸収スペクトルから、Si9AAに帰属できる、326、340、357、376、396nmの吸収帯が観察された。
また、Si9AAのTHF溶液にn−BuNFを添加した試料の吸収スペクトルから、9AAに帰属できる432nmの吸収帯が観察された。この結果は、Si9AAにフッ化物イオンを接触させた結果、Si9AAが9AAに変化したことを更に支持するものである。
また、図13(b)は、波長365nmの励起光を照射した場合の蛍光スペクトルの測定結果を示すグラフである。図13(b)中、「Si9AA」はSi9AAのTHF溶液の測定結果を示し、「Si9AA+n−BuNF」はSi9AAのTHF溶液にn−BuNFを添加した試料の測定結果を示す。また、縦軸は蛍光強度(相対値)を示し、横軸は波長(nm)を示す。
その結果、Si9AAのTHF溶液の蛍光スペクトルから、Si9AAに帰属できる、404、423、448、473nmの蛍光が観察された。また、Si9AAのTHF溶液にn−BuNFを添加した試料の蛍光スペクトルから、9AAに帰属できる518nmの蛍光が観察された。この結果は、Si9AAにフッ化物イオンを接触させた結果、Si9AAが9AAに変化したことを更に支持するものである。
[実験例8]
(9AA及びメシチル9AAの蛍光特性の検討)
9AA及びメシチル9AAの蛍光特性を検討した。下記式(2)に9AAの化学式を示し、下記式(3)にメシチル9AAの化学式を示す。メシチル9AAは、9AAの10位の位置に嵩高い置換基を導入した化合物である。
シリカゲルTLCプレート上、様々な溶媒の存在下で9AA及びメシチル9AA(Mes9AA)の蛍光を観察した。溶媒としては、ラウリン酸(LauCOH)、テトラデカノール(TetOH)、ラウリルアミン(LauNH)を使用した。これらの溶媒の種類を変えることにより、異なる酸素条件にすることができる。特に、ラウリルアミン存在下は、ラウリルアミンが酸素と反応して酸素を消費することから、低酸素条件であることが知られている。
具体的には、TLCプレート上に上記の各溶媒及び9AAの混合物、又は上記の各溶媒及びメシチル9AAの混合物を塗布し、5分後及び24時間後に、365nmの励起光を照射して蛍光を観察した。蛍光の観察にあたっては、フィルターを使用しなかった。これにより、蛍光波長の変化を肉眼で観察することができた。
図14(a)及び(b)は蛍光を観察した結果を示す写真である。図14(a)は試料の塗布から5分後の結果であり、図14(b)は試料の塗布から24時間後の結果である。図14(a)及び(b)中、「Mes9AA」はメシチル9AAの結果であることを示す。
その結果、時間の経過と共に9AAの蛍光波長が変化したことが肉眼で観察された。より具体的には、9AAの蛍光は、時間の経過と共に緑色から黄色に変化した。これは、9AAの一部が赤色蛍光を発するように変化した結果であると考えられる。
一方、ラウリルアミン存在下のメシチル9AAは、24時間後においても5分後とほぼ同じ波長の蛍光を発することが明らかとなった。この結果は、9AAが蛍光波長を変化させるのに対し、メシチル9AAは蛍光波長を変化させないことを示す。
上述したように、ラウリルアミン存在下は低酸素条件であると考えられる。このため、ラウリルアミン以外の溶媒の存在下でメシチル9AAの蛍光が消失したのは、メシチル9AAが酸素と反応した結果であることが明らかとなった。
以上の結果から、9AAは時間の経過と共に蛍光波長が変化させるのに対し、メシチル9AAは、蛍光波長を変化させない特性を有することが明らかとなった。
9AAの蛍光波長が変化する理由として、9AAが多量体化することが考えられる。これに対し、9AAの10位の位置に置換基が導入された9AA誘導体は多量体化しにくく、このため、蛍光波長が変化しないと考えられる。また、10位の置換基が嵩高いほど多量体化しにくいことが期待されるため、10位の置換基が嵩高い9AA誘導体は、蛍光波長がより変化しにくい傾向にあるといえる。
[実験例9]
(メシチル9AAの蛍光特性の検討)
窒素雰囲気下のメシチル9AA及び酸素を反応させた後のメシチル9AAの吸収スペクトルをそれぞれ測定した。
図15は、メシチル9AAの吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。その結果、窒素雰囲気下における吸収スペクトルと、酸素を反応させた後の吸収スペクトルには、ほとんど違いが認められないことが明らかとなった。
この結果は、メシチル9AAと酸素との反応において、メシチル9AAの基底状態が変化しなかったことを示す。このことから、メシチル9AAと酸素との反応は平衡反応であることが明らかとなった。
続いて、窒素雰囲気下のメシチル9AA及び酸素を反応させた後のメシチル9AAに320nmの励起光を照射し、蛍光スペクトルをそれぞれ測定した。
図16は、メシチル9AAの蛍光スペクトルの測定結果を示すグラフである。その結果、窒素雰囲気下でメシチル9AAに320nmの励起光を照射すると、512nmの緑色蛍光を発することが観察された。一方、酸素を反応させた後のメシチル9AAでは、512nmの緑色蛍光の強度の減少が観察された。また、メシチル9AAでは、緑色蛍光から赤色蛍光への蛍光波長の変化は起こらないことが明らかとなった。
本発明によれば、重金属元素を含まず、安全性が高いフッ化物イオン検出剤を提供することができる。

Claims (4)

  1. 下記式(1)で表される化合物。
    [式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1〜20のアリール基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
  2. 前記Rが全て水素原子である、請求項1に記載の化合物。
  3. 請求項1又は2に記載の化合物を有効成分として含有するフッ化物イオン検出剤。
  4. 被験試料中のフッ化物イオンの検出方法であって、
    被験試料に請求項1又は2に記載の化合物を接触させる工程と、
    前記化合物が接触した前記被験試料に波長300〜400nmの光を照射し、発生する蛍光の波長を測定する工程と、を含み、
    前記蛍光が波長500〜570nmの光を含むことが、前記被験試料がフッ化物イオンを含有することを示す、方法。
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