図1は、本実施形態にかかるシリンダライナ検査システム1の全体構成を示す図である。シリンダライナ検査システム1は、船舶に搭載されたエンジンのシリンダの内側面を被覆するシリンダライナの検査を支援するためのシステムである。
シリンダライナ検査システム1は、船舶5に配置された端末装置11と、通信衛星6を介して端末装置11との間でデータ通信を行うサーバ装置12と、サーバ装置12に対し船舶5が航行中に遭遇する気象または海象を示す気象海象データを配信するサーバ装置13を備える。なお、図1には船舶5および端末装置11が各1つ示されているが、船舶5および端末装置11の数は1つに限られない。
船舶5には、端末装置11以外にシリンダライナ検査システム1を構成する撮像装置14が搭載されている。図2は、船舶5に搭載されている端末装置11および撮像装置14と、それらの装置に関連する装置を示した図である。
船舶5は1または複数のエンジン(図示略)を備える。エンジンは通常、複数のシリンダ51を有しており、図2には複数のシリンダ51のうちの1つが例示されている。シリンダ51の頂部は開口しており、通常、シリンダカバー52で覆われている。シリンダ51の内側面の大部分はシリンダライナ53で被覆されている。また、シリンダ51にはピストン54が収容されており、エンジンの運転に伴いピストン54がシリンダ51の内部を往復運動する。以下、ピストン54の移動方向を単に「移動方向」という。また、シリンダ51またはシリンダカバー52の円周方向を単に「円周方向」という。
シリンダライナ53は、ピストン54の往復運動における摺動性を高める役割、エンジンの熱を伝導し冷却を促進する役割、シリンダ51の気密性を高める役割等を果たす。シリンダライナ53の内側面はピストン54の往復運動に伴い摩耗するが、交換によりエンジンの寿命を延ばすことができる。
シリンダ51には、例えば円周方向に並ぶように、複数の掃気ポート511がピストン54の側面を貫通するように設けられている。図2に示すように、掃気ポート511はシリンダ51の底部に近い位置に配置されている。ただし、ピストン54がシリンダ51内で十分に底部側に移動した状態において、掃気ポート511はピストン54の上面(例えば頭頂面)より上側となる位置に配置されている。以下、図2に示すピストン54の位置を「基本位置」という。なお、本願においてシリンダ51またはピストン54の上下をいう場合、触火面側を上側とする。
図2において、撮像装置14は保持器具7を介してピストン54の上面に配置可能に構成されている。図3は、撮像装置14の基本構成を示した図である。撮像装置14は、撮像を行う撮像部141と、撮像時に被写体に対し光を照射する発光部142と、撮像部141による撮像および発光部142による光の照射を制御する制御部143と、撮像を指示する指示データを外部の装置から受信する受信部144と、撮像された画像を示す画像データを記憶する記憶部145と、画像データを外部の装置へ送信する送信部146を備える。
撮像部141は1度の撮像によって半球の全領域をカバーするつなぎ目のないパノラマ画像を示す画像データを生成する。すなわち、図2に示す方向で撮像装置14が配置された場合、撮像部141の撮像領域はピストン54の上面より上の全領域となる。
受信部144は、例えば無線アクセスポイント(図示略)経由で、端末装置11から指示データを受信し、指示データを制御部143に引き渡す。制御部143は指示データに従い撮像部141に撮像を行わせると同時に発光部142に光の照射を行わせる。シリンダライナ検査システム1における撮像には発光部142による光の照射が常に伴うため、以下、単に「撮像」という場合、発光部142による光の照射が伴う撮像を意味する。撮像部141の撮像により生成された画像データは記憶部145に記憶されるとともに、送信部146により端末装置11に送信される。
撮像装置14により撮像される画像には、シリンダライナ53の内側面の画像とシリンダカバー52の底面、すなわち触火面の画像が含まれている。以下、撮像装置14により生成される画像データのうち、シリンダライナ53の内側面の画像を示す部分を「シリンダライナ画像データ」といい、シリンダカバー52の触火面の画像を示す部分を「触火面画像データ」という。
保持器具7は、例えばラバーでできており、耐熱性、遮熱性、低熱伝導性を備える。また、保持器具7は、3本または4本以上の脚を有し、ピストン54の上面から撮像装置14を離間した状態で支持する。また、保持器具7とピストン54の接触面積が小さい。そのため、ピストン54の熱が撮像装置14に伝わりにくい。また、保持器具7は高い弾性を有するため、保守作業員がぞんざいに扱ってもピストン54や撮像装置14が容易に損傷を受けることがない。なお、保持器具7はその全てがラバーでできている必要はなく、例えば金属製のフレームをラバーでコーティングした構成などが採用されてもよい。また、弾力性、耐熱性、遮熱性、低熱伝導性を備える素材であれば、ラバーに代えて他の素材が保持器具7に用いられてもよい。
保守作業員は、シリンダライナ53の検査を行う際、エンジンを停止し、モータの制御装置を操作してピストン54を基本位置まで移動させる。続いて、保守作業員は、保持器具7に撮像装置14をセットした後、例えばマジックハンドを用いて、撮像装置14をいずれかの掃気ポート511からシリンダ51内へ差し入れ、ピストン54の上面の中心位置に載置する。その際、保守作業員は撮像装置14の方向を所定の方向に合わせる。
続いて、保守作業員はモータの制御装置を操作してピストン54をシリンダ51内で1往復させる。その間、撮像装置14は端末装置11から送信されてくる指示データに従い撮像を行い、生成した画像データを端末装置11に送信する。
続いて、保守作業員は、例えばマジックハンドを用いて、保持器具7にセットされた撮像装置14をいずれかの掃気ポート511からシリンダ51外へ取り出す。これにより、移動方向における複数の位置において撮像されたシリンダライナ53の内側面の鮮明な画像が得られる。
端末装置11は、上述したピストン54の1往復が行われる間、撮像装置14から送信されてくる画像データを受信するとともに、クランク角計測装置8から送信されてくるピストン54に関するクランク角データを受信する。クランク角計測装置8は、クランク角を継続的に計測し、計測したクランク角を示すクランク角データを出力する装置である。端末装置11により受信されるクランク角データは、移動方向における撮像装置14の位置を示す位置データの生成に用いられる。
船舶5にはクランク角計測装置8に加え、船舶5が行う航行の様々な属性を計測する計測装置が搭載されている。以下、図2に示すように、これらの計測装置の集まりを計測装置群9という。計測装置群9には、シリンダライナ53の摩耗に影響を与える属性を計測する計測装置として、例えば、エンジン回転数計測装置91やエンジン負荷計測装置92といったエンジンの属性を計測するもの、風速風向計測装置93や潮速潮向計測装置94といった気象海象に関する属性を計測するもの、対地船速計測装置95や対水船速計測装置96といった船速に関する属性を計測するもの等が含まれる。計測装置群9に含まれる計測装置は計測した属性を示す属性データを端末装置11に送信する。端末装置11により受信される各種の属性データは、シリンダライナ53の摩耗の程度の推定等に用いられる。
シリンダライナ検査システム1は、撮像装置14により生成された画像データを用いてシリンダライナ53の摩耗の程度を特定する機能を備えている。画像データを用いた摩耗の程度の特定のために、本実施形態におけるシリンダライナ53の内側面上には、シリンダライナ53の半径方向を回転軸とする円錐形状の凹部531が多数、設けられている。図4は、シリンダライナ53に設けられている凹部531の位置を「○」で示した図である。
図4の例では、シリンダライナ53の円周方向において90度ずつ離れた位置に配置された移動方向に沿った4本の直線と、移動方向において等間隔で配置された円周方向に一周する6本の線(円)との交差点上に凹部531が配置されている。ただし、凹部531の個数や間隔は図4に例示のものに限られず、シリンダライナ53の大きさ等により適宜決定される。
図5に示すように、凹部531の各々は、シリンダライナ53の内側面から外側面に向かい直径が小さくなる円錐形状をしている。従って、シリンダライナ53の摩耗の進行に伴い、凹部531の開口部の直径は小さくなる。そのため、撮像装置14が生成する画像データに示される凹部531の画像の直径に基づきシリンダライナ53の摩耗の程度が容易かつ正確に特定される。
図6は、撮像装置14により撮像されたシリンダライナ53の画像のうち、撮像時のピストン54の上面に隣接する領域(画像が鮮明な領域)を帯状に切り出したものと、触火面の画像を切り出したものを模式的に示した図である。図6(a)は撮像装置14がシリンダ51の底部付近で撮像した画像を示し、図6(b)は撮像装置14がシリンダ51の中腹部付近で撮像した画像を示し、図6(c)は撮像装置14がシリンダ51の頂部付近で撮像した画像を示す。図6に示すように、撮像位置がシリンダ51の頂部に近い程、触火面の画像は大きくなる。
端末装置11のハードウェア構成は、例えば一般的な端末装置用のコンピュータである。図7は、端末装置11のハードウェアとして採用されるコンピュータ10の基本構成を示した図である。コンピュータ10は、各種データを記憶するメモリ101、メモリ101に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ102、他の装置との間でデータ通信を行うIF(Interface)である通信IF103、ユーザに対し画像を表示する液晶ディスプレイ等の表示装置104、ユーザの操作を受け付けるキーボード等の操作装置105を備える。なお、コンピュータ10に内蔵される表示装置104に代えて、もしくは加えて、コンピュータ10に接続される外付けの表示装置が用いられてもよい。また、コンピュータ10に内蔵される操作装置105に代えて、もしくは加えて、コンピュータ10に接続される外付けの操作装置が用いられてもよい。
サーバ装置12およびサーバ装置13のハードウェア構成は、例えば一般的なサーバ装置用のコンピュータである。図8は、サーバ装置12またはサーバ装置13のハードウェアとして採用されるコンピュータ20の基本構成を示した図である。コンピュータ20は、各種データを記憶するメモリ201、メモリ201に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ202、他の装置との間でデータ通信を行う通信IF203を備える。
図9は、端末装置11の機能構成を示した図である。すなわち、コンピュータ10は、端末装置11用のプログラムに従うデータ処理を実行することにより、図9に示す構成を備える装置として動作する。以下に端末装置11が備える機能構成を説明する。
計時手段110は現在時刻を示す時刻データを生成する。位置データ取得手段111は、クランク角計測装置8からクランク角データを受信し、クランク角データを用いて移動方向における撮像装置14の位置を示す位置データを生成する。
位置データ取得手段111は、例えばクランク角データが示すクランク角を変数とする所定の算出式または換算表を用いて、クランク角に応じた移動方向における撮像装置14の位置、すなわちピストン54の上面の位置を特定する。なお、撮像装置14の位置はクランク角により一意に定まるので、クランク角データがそのまま位置データとして用いられてもよい。
指示手段112は、位置データ取得手段111により取得された位置データが所定の位置を示すとき、撮像装置14に対し撮像を指示する指示データを送信する。指示手段112が指示データの送信を行う撮像装置14の位置は、それらの位置において撮像装置14が撮像した画像のうち、シリンダライナ53が鮮明に撮像されている部分を帯状に切り出して、歪み補正を行った後に順次つなぎ合わせると、シリンダライナ53の全域がカバーされるような位置として予め定められている。画像データ取得手段113は、撮像装置14から送信されてくる画像データを受信する。
属性データ取得手段114は、計測装置群9に含まれる計測装置の各々から属性データを受信する。また、属性データ取得手段114は、保守作業員等により入力された属性データを取得し、サーバ装置12から送信されてくる属性データを受信する。保守作業員等により入力される属性データは、例えば、エンジンに使用される燃料油種のように、船舶5の航行の属性のうち計測装置群9によって計測されない属性を示すデータである。また、サーバ装置12から送信されてくる属性データは、例えば、船舶5が将来の航行中に遭遇することが予想される気象または海象を示す気象海象データである。
摩耗特定手段115は、画像データ取得手段113により取得された画像データを用いてシリンダライナ53の摩耗の程度を特定し、特定した摩耗の程度を示す摩耗データを生成する。本実施形態において、シリンダライナ53の摩耗の程度を表す指標として、シリンダライナ53の初期状態から摩耗した厚さ(μm)を用いるものとする。以下、この厚さを「摩耗量」という。なお、シリンダライナ53の初期状態から摩耗した厚さは、シリンダライナ53の摩耗の程度を表す指標の一例であって、他の様々な指標がシリンダライナ53の摩耗の程度を表す指標として採用され得る。例えば、シリンダライナ53の内側面の単位面積当たりの摩耗した素材の重量(g/m2)、単位負荷当たりの摩耗量(μm/kW)、単位航行時間当たりの摩耗量(μm/時)などの他の指標が、シリンダライナ53の摩耗の程度を表す指標として用いられてもよい。
送信手段116は、属性データ取得手段114により取得された属性データと、摩耗特定手段115により生成された摩耗データをサーバ装置12に送信する。関係データ取得手段117は、船舶5の航行に関する属性とシリンダライナ53の摩耗量との関係を示す関係データをサーバ装置12から受信する。
摩耗推定手段118は、属性データ取得手段114により取得された属性データと、関係データ取得手段117により取得された関係データを用いてシリンダライナ53の摩耗量を推定し、推定した摩耗量(以下、「推定摩耗量」という)を示す推定摩耗データを生成する。
通知手段119は、或るタイミングにおけるシリンダライナ53に関し、摩耗推定手段118により生成された推定摩耗データが示す推定摩耗量と、摩耗特定手段115により生成された摩耗データが示す摩耗量との差が所定の条件を満たす場合、保守作業員等に対し所定の通知を行う。
記憶手段120は、以下に述べる各種データを記憶する。図10は、記憶手段120に記憶される摩耗管理データベースのデータ構成を例示した図である。摩耗管理データベースは、主として撮像装置14により撮像された画像から特定された摩耗量を管理するためのデータベースである。
摩耗管理データベースは、船舶5に搭載されているエンジンが有するシリンダ51の各々に関するデータテーブルを含んでいる。摩耗管理データベースのデータテーブルは、撮像装置14により撮像された画像の各々に関するデータレコードの集まりである。摩耗管理データベースのデータテーブルは、画像の撮像時刻を示す時刻データを格納するフィールド[撮像時刻](以下、[]を付した名称はデータフィールド名を示す)、移動方向における撮像位置を示す位置データを格納する[撮像位置]、画像データを格納する[画像]、画像から特定されたシリンダライナ53の摩耗量を示す摩耗データを格納する[摩耗量]、画像の撮像時刻における推定摩耗量を示す推定摩耗データを格納する[推定摩耗量]を有する。
[摩耗量]と[推定摩耗量]の各々は、下層のデータフィールド[第1方向]、[第2方向]、・・・、[第n方向]を有する。ただし、「n」は円周方向における凹部531(図4参照)の数を示し、図4の例ではn=4となる。[第1方向]、[第2方向]、・・・、[第n方向]はシリンダライナ53の円周方向におけるn個の凹部531の各々に対応している。[摩耗量]の下層の[第1方向]、[第2方向]、・・・、[第n方向]は、対応する凹部531の画像の大きさから特定された摩耗量を示す摩耗データを格納する。[推定摩耗量]の下層の[第1方向]、[第2方向]、・・・、[第n方向]は、そのデータレコードの画像の撮像のタイミングより1つ前の撮影のタイミング(以下、「前回撮影タイミング」という)に同じ撮像位置で撮像された凹部531の画像から特定された摩耗量を基準とし、前回撮影タイミングより後の航行に関する属性データと、関係データとを用いて算出された推定摩耗量を示す推定摩耗データを格納する。
図11は、記憶手段120に記憶されるエンジン属性データベースのデータ構成を例示した図である。エンジン属性データベースは、エンジンの過去の運転に関する属性を示す属性データを管理するためのデータベースである。
エンジン属性データベースは、船舶5に搭載されているエンジンの各々に関するデータテーブルを含んでいる。エンジン属性データベースに含まれるデータテーブルは、計測期間の各々に応じたデータレコードの集まりである。エンジン属性データベースのデータテーブルは、[計測期間]、[エンジン回転数]、[エンジン負荷]、[吸気温度]、[排気温度]、[シリンダ注油量]等を有する。
図12は、記憶手段120に記憶される気象海象データベースのデータ構成を例示した図である。気象海象データベースは、船舶5が過去に遭遇した気象または海象と、船舶5が将来に遭遇すると予測される気象または海象に関する属性データを管理するためのデータベースである。
気象海象データベースは、過去の気象または海象に関しては計測期間の各々に応じたデータレコードを含み、将来の気象または海象に関しては予測期間の各々に応じたデータレコードを含む。気象海象データベースに含まれる将来の気象または海象に関するデータレコードは、端末装置11がサーバ装置12経由でサーバ装置13から受信する新たな気象海象データにより更新され、予測期間を過ぎたデータレコードは削除される。
気象海象データベースの各データレコードは、計測期間または予測期間を示すデータを格納する[計測期間]と、[風速]、[風向]、[潮速]、[潮向]、[波高]等を有する。
上述したエンジン属性データベースと気象海象データベースは記憶手段120に記憶される属性データを管理するためのデータベースの一例である。記憶手段120には、例えばトリムに関する属性データを管理するためのデータベース、船速に関する属性データを管理するためのデータベース等が記憶されていてもよい。
図13は、記憶手段120に記憶される航行スケジュールテーブルのデータ構成を例示した図である。航行スケジュールテーブルは、船舶5の将来の航行スケジュールを示すデータを格納する。航行スケジュールテーブルは、船舶5が寄港する港または航行区間を示すデータを格納する[港・航行区間]、船舶5が港に停泊する期間または航行区間を航行する期間を示すデータを格納する[期間]を有する。
図14は、サーバ装置12の機能構成を示した図である。すなわち、コンピュータ20は、サーバ装置12用のプログラムに従うデータ処理を実行することにより、図14に示す構成を備える装置として動作する。以下にサーバ装置12が備える機能構成を説明する。
属性データ取得手段121は、端末装置11から、船舶5が過去に行った航行の属性を示す属性データを受信する。船舶5が複数である場合、属性データ取得手段121はこれら複数の船舶5の各々に搭載された端末装置11から属性データを受信する。
摩耗データ取得手段122は、端末装置11から摩耗データを受信する。関係データ生成手段123は、属性データ取得手段121により取得された属性データと、摩耗データ取得手段122により取得された摩耗データを用いて、属性と摩耗量との関係を示す関係データを生成する。例えば、関係データ生成手段123は、属性データと摩耗データを用いて、既知の回帰分析により摩耗量を目的変数、各種属性を説明変数とする関係式を求め、求めた関係式を示す関係データを生成する。なお、関係データの生成においては、対象の船舶5に関する属性データおよび摩耗データに加えて、対象の船舶5と同じ型の異なる船舶5に関する属性データおよび摩耗データが用いられてもよい。
記憶手段124は以下に述べる各種データを記憶する。まず、記憶手段124は、属性データ取得手段121により取得された属性データを管理するためのデータベースを記憶する。記憶手段124に記憶される属性データを管理するためのデータベースは、端末装置11の記憶手段120に記憶されるエンジン属性データベース(図11参照)や気象海象データベース(図12参照)で例示されるものと同様のものである。また、記憶手段124は、主として摩耗データ取得手段122により取得された摩耗データを管理するためのデータベースを記憶する。記憶手段124に記憶される摩耗データを管理するためのデータベースは、端末装置11の記憶手段120に記憶される摩耗管理データベース(図10参照)と同様のものである。なお、記憶手段124に記憶されるこれらのデータベースは、船舶5が複数であれば、それら複数の船舶5に関するデータを管理する。
また、記憶手段124は、端末装置11の記憶手段120に記憶される航行スケジュールテーブル(図13参照)の複製を記憶する。なお、記憶手段124は、船舶5が複数であれば、それら複数の船舶5に関する航行スケジュールテーブルの複製を記憶する。
要求手段125は、記憶手段124に記憶される航行スケジュールテーブルの複製に基づき、船舶5が将来の航行において遭遇すると予測される気象または海象を示す気象海象データをサーバ装置13に対し要求する。気象海象データ取得手段126は、要求手段125による要求に応じてサーバ装置13から送信されてくる気象海象データを受信する。
送信手段127は、関係データ生成手段123により生成された関係データを端末装置11に送信する。また、送信手段127は、気象海象データ取得手段126により取得された気象海象データを端末装置11に送信する。
サーバ装置13の機能構成は、要求に応じて要求元に対しデータ配信を行う一般的なサーバ装置の機能構成と同様であるため、説明を省略する。
続いて、シリンダライナ検査システム1の動作を説明する。まず、シリンダライナ検査システム1において、端末装置11は計測装置群9から受信する属性データにより、継続的に、エンジン属性データベース(図11参照)や気象海象データベース(図12参照)により例示される属性データを管理するためのデータベースを更新する。また、端末装置11は現在時刻や船舶5の現在位置の変化に応じて、継続的に航行スケジュールテーブル(図13参照)を更新する。端末装置11は、保守作業員等のデータ入力操作に応じてこれらのデータベースやテーブルを更新することもある。
また、端末装置11は、例えば所定の頻度で、記憶している属性データ、摩耗データ等をサーバ装置12に送信する。サーバ装置12は、端末装置11から送信されてくるこれらのデータにより、記憶しているデータベースを更新する。サーバ装置12は、例えば所定の頻度で、記憶している属性データと摩耗データを用いて関係データを生成し、端末装置11に送信する。その結果、端末装置11は定期的に更新された関係データを取得することができる。
保守作業員は、エンジンが止まっている時間を利用して、適当な頻度で、シリンダライナ53の画像を撮像するための作業を行う。具体的には、保守作業員は、モータの制御装置を操作して、ピストン54を基本位置に移動させた後、保持器具7にセットした撮像装置14をピストン54の上面に載置する。その後、保守作業員はモータの制御装置を操作して、ピストン54をシリンダ51内で1往復させる。
ピストン54がシリンダ51内を1往復する間、端末装置11は撮像装置14の位置がシリンダライナ53の移動方向の所定の位置に達する毎に撮像装置14に指示データを送信する。撮像装置14は指示データに従い撮像を行い、生成した画像データを端末装置11に送信する。
端末装置11は撮像装置14から画像データを受信し、摩耗管理データベース(図10参照)に格納する。端末装置11は、受信した画像データが示す画像に含まれる凹部531の画像の大きさに基づき摩耗データを生成し、摩耗管理データベースに格納する。
端末装置11は、新たに摩耗データを生成すると、前回撮像タイミングにおける摩耗量と、前回撮像タイミングから現在までの期間に関する属性データが示す属性を、関係データが示す関係式に代入し、推定摩耗量を算出する。端末装置11は算出した推定摩耗量を示す推定摩耗データを摩耗管理データベースに格納する。
端末装置11は、新たに生成した推定摩耗データが示す推定摩耗量と、同じデータレコードに格納されている摩耗データが示す摩耗量との差が所定の条件を満たすか否かに応じて、異常な摩耗の可能性を検知する。端末装置11が異常な摩耗の可能性を検知するために用いる所定の条件として、以下、摩耗量と推定摩耗量の差を前回撮像タイミングから現在までのエンジンの総回転数の積分値で除した値が所定の閾値を下回るか否か、という条件が用いられるものとする。ただし、この条件は例示であって、例えば、摩耗量と推定摩耗量の差が所定の閾値を下回るか否かという条件、当該差を前回撮像タイミングから現在までの航行距離の積分値で除した値が所定の閾値を下回るか否かという条件など、他の条件が採用されてもよい。
端末装置11は、いずれかのシリンダライナ53に関し異常な摩耗の可能性を検知した場合、図15に例示の画面(以下、「警告画面」という)を表示し、保守作業員に通知を行う。保守作業員が警告画面の「画像閲覧」ボタンを操作すると、端末装置11は図16に例示の画面(以下、「画像閲覧画面」という)を表示する。画像閲覧画面には、異常な摩耗の可能性が検知されたシリンダライナ53の最新の画像と前回撮像された画像が並べて表示される。なお、画像閲覧画面の領域A01に表示されるシリンダライナ53の正面図および上面図には、シリンダライナ53の全領域のうち画像閲覧画面に現在表示されている部分が色で示されるとともに、異常な摩耗の可能性が検知された部分がマークで示される。
保守作業員は、画像閲覧画面において、異常な摩耗の可能性が検知されたシリンダライナ53の内側面の過去および現在の状態を容易に確認することができる。なお、保守作業員は端末装置11に対し操作を行い、シリンダライナ53の他の部分を表示させたり、画像を拡大または縮小させたり、さらに過去の画像を表示させたりすることができる。なお、画像閲覧画面は、警告画面から「画像閲覧」ボタンの操作により表示されるだけでなく、端末装置11に対し所定の操作が行われた場合も表示される。
また、保守作業員は、画像閲覧画面の「触火面」ボタンを操作することにより、端末装置11に過去および現在の触火面の画像を表示させることができる。図17は、触火面の画像が表示されている状態の画像閲覧画面を例示した図である。触火面には排気弁や燃料弁等が配置されている。従って、保守作業員は図17に示す画像閲覧画面において排気弁や燃料弁等の状態を確認し、これらの装置の適切な保守タイミングの判断等を行うことができる。また、燃料弁の先端付近にはカーボンフラワーと呼ばれるカーボンの堆積物が付着していることが多い。カーボンフラワーは燃料の燃焼不良により生じる。従って、保守作業員は図17に示す画像閲覧画面においてカーボンフラワーの状態を確認し、燃料の燃焼状態に関する情報を得ることができる。
また、保守作業員は、画像閲覧画面の「経時変化閲覧」ボタンを操作することにより、図18に例示の画面(以下、「経時変化閲覧画面」という)を端末装置11に表示させることができる。経時変化閲覧画面には、シリンダライナ53の対象部分に関し過去の摩耗量および将来の推定摩耗量の経時変化がグラフで表示される。端末装置11は、航行スケジュールテーブルに航行スケジュールが示される期間に関しては、航行スケジュールに従う航行が行われた場合の推定摩耗量を関係データと将来の属性データを用いて算出し、経時変化閲覧画面のグラフに表示する。また、端末装置11は、航行スケジュールが未定の期間に関しては、例えば、過去と同様のパターンで航行が行われた場合の推定摩耗量を、関係データと過去の属性データを用いて算出し、経時変化閲覧画面のグラフに表示する。保守作業員は、経時変化閲覧画面のグラフによって、シリンダライナ53の望ましい交換タイミングを容易に知ることができる。
また、保守作業員は、画像閲覧画面の「偏摩耗確認」ボタンを操作することにより、図19に例示の画面(以下、「偏摩耗確認画面」という)を端末装置11に表示させることができる。偏摩耗確認画面には、撮像方向の各々に関し、移動方向における摩耗量の変化がグラフで表示される。保守作業員は、偏摩耗確認画面のグラフによって、シリンダライナ53の摩耗の偏りの程度を容易に知ることができる。
以上のように、シリンダライナ検査システム1によれば、保守作業員はシリンダライナ53の摩耗状態を容易に正しく評価することができる。
加えて、シリンダライナ検査システム1によれば、保守作業員は、触火面に配置されている排気弁や燃料弁等の状態を容易に確認することができる。さらに、シリンダライナ検査システム1によれば、保守作業員は、触火面に付着しているカーボンフラワーの状態を確認することができる。カーボンフラワーは燃料弁交換時もしくはシリンダカバー開放時に落ちてしまうことが多いため、従来、その状態を確認することは困難であった。シリンダライナ検査システム1によれば、従来、確認が困難であったカーボンフラワーの状態が確認可能となる点は特筆すべき点である。
[変形例]
上述した実施形態は、本発明の技術的思想の範囲内で様々に変形することができる。以下にそれらの変形の例を示す。なお、以下の2以上の変形例が組み合わされてもよい。
(1)上述した実施形態において、撮像装置14は半球の全域のパノラマ画像をつなぎ目なく撮像する撮像部141を備える。これに代えて、撮像装置14が複数の撮像部141を備え、これらの複数の撮像部141により撮像された画像をつなぎ合わせることにより、シリンダライナ53の円周方向における360度の撮像領域をカバーする画像を生成する構成が採用されてもよい。図20は、この変形例にかかる撮像装置14の外観を例示した図である。なお、図20に示される矢印は撮像方向を示す。図20に例示の撮像装置14は、水平方向の視野角が100度程度の撮像部141を5つ備える。これらの撮像部141のうち4つは、撮像方向が90度間隔で放射状となるように配置されている。残りの1つの撮像部141は撮影方向が垂直上向きとなるように配置されている。制御部143は放射状に配置されている4つの撮像部141により同時に撮像された画像をつなぎ合わせてシリンダライナ画像データを生成する。また、撮像方向が垂直上向きの撮像部141は触火面画像データを生成する。
(2)上述した実施形態において、撮像装置14は端末装置11から送信されてくる指示データに従い撮像を行う。これに代えて、撮像装置14が所定時間長の経過毎に撮像を行う構成が採用されてもよい。この変形例においては、撮像装置14は指示データを受信することなく撮像を行い、生成した画像データを端末装置11に送信する。端末装置11は、撮像装置14から画像データを受信し、画像データの受信と同じタイミングで生成した位置データを画像データと対応付けて摩耗管理データベースに格納する。
(3)上述した実施形態において、端末装置11の位置データ取得手段111は、クランク角を用いて位置データを生成する。位置データ取得手段111が位置データを生成する方法はこれに限られない。
例えば、位置データ取得手段111がピストン54の上面とシリンダカバー52の触火面との間の距離に基づき位置データを生成する構成が採用されてもよい。この場合、シリンダライナ検査システム1は、ピストン54の上面に配置可能に構成され、ピストン54の上面とシリンダカバー52の触火面との間の距離を計測し、計測した距離を示す移動方向距離データを生成する測距手段を備える。位置データ取得手段111は、測距手段により生成される移動方向距離データを用いて位置データを生成する。なお、撮像装置14が測距手段を備える構成としてもよい。
また、位置データ取得手段111がピストン54内の気圧に基づき位置データを生成する構成が採用されてもよい。この場合、シリンダライナ検査システム1は、ピストン54の上面に配置され、ピストン54内の気圧を計測し、計測した気圧を示す気圧データを生成する気圧計測手段を備える。位置データ取得手段111は、気圧計測手段により生成される気圧データを用いて位置データを生成する。
また、位置データ取得手段111が触火面画像データを用いて位置データを生成する構成が採用されてもよい。この場合、位置データ取得手段111は、触火面画像データが示す触火面の画像の大きさに基づき移動方向における撮像装置14の位置を特定し、特定した位置を示す位置データを生成する。
また、位置データ取得手段111がシリンダライナ画像データを用いて位置データを生成する構成が採用されてもよい。この場合、シリンダライナ53に設けられている凹部531の形状を円錐に限らず、三角錘、四角錘等としたり、錘の断面を星形や矢印形等として、移動方向の位置に応じて異なる形状の凹部531を配置しておく。位置データ取得手段111は、シリンダライナ画像データが示す凹部531の画像の形状や方向等に基づき移動方向における撮像装置14の位置を特定し、特定した位置を示す位置データを生成する。
(4)上述した実施形態において、撮像装置14により生成された画像データと、位置データ取得手段111により取得された位置データとの対応付けは端末装置11において行われる。これに代えて、画像データと位置データの対応付けが撮像装置14において行われてもよい。この場合、撮像装置14が位置データ取得手段111を備え、撮像部141により生成した画像データと、位置データ取得手段111により取得した位置データとを対応付けた後、端末装置11に送信する。
(5)上述した実施形態において、撮像装置14はピストン54の上面において正しい方向に配置されることが前提となっている。すなわち、撮像装置14が誤った方向に配置された場合、シリンダライナ画像データが示す画像のどの部分が実際のシリンダライナ53のどの部分を示すかが不明となる。従って、シリンダライナ検査システム1が、撮像装置14の撮像の方向を示す方向データを取得する方向データ取得手段を備える構成が採用されてもよい。
例えば、方向データ取得手段が触火面画像データを用いて方向データを生成する構成が採用されてもよい。この場合、方向データ取得手段は、触火面画像データが示す触火面の画像に含まれる燃料弁等の構造物の画像の位置に基づき方向データを生成する。
また、方向データ取得手段がシリンダライナ画像データを用いて方向データを生成する構成が採用されてもよい。この場合、シリンダライナ53に設ける凹部531の断面の形状や方向等を、円周方向に応じて異ならせておく。方向データ取得手段は、シリンダライナ画像データが示す凹部531の画像の形状や方向等に基づき撮像の方向を特定し、特定した方向を示す方向データを生成する。
また、撮像の方向を示す文字、記号または図形を保持器具7に設ける構成が採用されてもよい。すなわち、撮像装置14が保持器具7にセットされた状態において、撮像装置14の撮像領域に撮像の方向を示す文字、記号または図形が写り込むように、保持器具7の適当な位置に撮像の方向を示す文字、記号または図形を設ける。この場合、保持器具7がピストン54の上面において正しい方向に配置される限り、画像に写り込んだ文字等に基づき撮像の方向が特定可能となる。
(6)シリンダライナ検査システム1が、シリンダライナ画像データの歪みを補正する補正手段を備える構成が採用されてもよい。例えば、ピストン54の上面の中心からずれた点に撮像装置14が配置された場合、撮像装置14により撮像されるシリンダライナ53の画像は円周方向における位置によって縮尺が不均一となる。補正手段は、この不均一な縮尺を均一化するようにシリンダライナ画像データを補正する。
例えば、撮像装置14は、複数の撮像方向の各々に関し、撮像距離、すなわち撮像部141からシリンダライナ53の内側面までの距離を計測し、計測した距離を示す撮像距離データを生成する。補正手段は、撮像装置14により生成された撮像距離データを用いてシリンダライナ画像データを補正する。
また、補正手段が触火面画像データを用いてシリンダライナ画像データを補正する構成が採用されてもよい。この場合、補正手段は、触火面画像データが示す触火面の画像の歪みに基づきシリンダライナ画像データが示す画像における歪みを特定し、特定した歪みを解消するようにシリンダライナ画像データを補正する。
(7)上述した実施形態において、サーバ装置12は要因分析により属性と摩耗量の関係を示す関係データを生成する。関係データの生成方法は要因分析に限られない。例えば、エンジン負荷に応じたウェイトを乗じたエンジン回転数の積分値と摩耗量の関係を近似する近似式を求める方法等の他の方法が関係データの生成に採用されてもよい。
(8)シリンダライナ53に設けられる凹部531が、シリンダライナ53の素材と色の異なる素材(以下、「充填素材」という)で充填されてもよい。この場合、凹部531を備えるシリンダライナ53の成形が完了した後、凹部531に対する充填素材の充填が行われる。続いて、凹部531に充填素材が充填されたシリンダライナ53の内側面の研磨が行われる。これらの工程により、内側面に凹凸が少なく、摺動性および気密性が高いシリンダライナ53が得られる。
移動方向における撮像装置14の位置を特定するためにシリンダライナ画像データが用いられる変形例において、移動方向において異なる色の充填素材が用いられてもよい。この場合、移動方向において凹部531の断面の形状や方向が同一であっても、充填素材の色により移動方向における撮像装置14の位置が特定できる。
また、撮影方向を特定するためにシリンダライナ画像データが用いられる変形例において、円周方向において異なる色の充填素材が用いられてもよい。この場合、円周方向において凹部531の断面の形状や方向が同一であっても、充填素材の色により撮影方向が特定できる。
(9)シリンダライナ53に設けられる凹部531の形状は、錘形状に限られず、摩耗の進行に伴い大きさ、形状および方向の少なくとも一つが変化する断面を有する形状であれば、いずれの形状であってもよい。また、凹部531が充填素材で充填される変形例において、異なる色の充填素材を複数に積層させることで、摩耗の進行に伴い充填素材の色が変化する構成としてもよい。この場合、凹部531の断面は必ずしも摩耗の進行に伴い変化する必要はない。要すれば、シリンダライナ53の内側面に、摩耗の進行に伴い大きさ、形状および方向の少なくとも一つが変化する模様が生じる限り、シリンダライナ53の構成は限定されない。
(10)上述した実施形態において、シリンダライナ53に設けられる凹部531は移動方向に延伸する複数の直線と円周方向に一周する複数の円との交差点上に複数、配置される。シリンダライナ53に設けられる凹部531の配置はこれに限られない。例えば、凹部531が代表点に1つのみ配置されてもよい。また、シリンダライナ53の内側面上に螺旋を描くように複数の凹部531が並べて配置されてもよい。また、溝状の凹部531が採用されてもよい。図21は、溝状の凹部531を備えるシリンダライナ53における凹部531の位置を例示した図である。例えば、図21(a)に示されるように、移動方向に延伸する複数の凹部531がシリンダライナ53の内側面上に設けられてもよい。また、図21(b)に示されるように、円周方向に一周する複数の凹部531がシリンダライナ53の内側面上に設けられてもよい。なお、溝状の凹部531を長手方向に垂直な面で切断した場合の断面の形状は、例えばV字形状である。
(11)上述した実施形態において、保持器具7は複数の脚を持ち、脚の先端がピストン54の上面に接する。これに代えて、保持器具7がピストン54の上面の形状と係合する形状の接触面を有する構成としてもよい。図22は、凹凸のあるピストン54の上面に、上面の凹凸に係合する接触面を有する保持器具7を載置した様子を模式的に示した図である。この変形例によれば、保守作業員は撮像装置14をピストン54の上面の定位置に容易に配置できる。
(12)ピストン54の上面に、ピストン54をシリンダ51から抜き取る際に用いられるネジ孔が設けられている場合がある。ピストン54が上面にネジ孔等の凹みを有する場合、保持器具7が当該凹みに差し込まれる棒状体を有する構成としてもよい。図23は、この変形例にかかる保持器具7がピストン54の上面に取り付けられた様子を模式的に示した図である。この変形例によれば、例えばシリンダ51の軸が鉛直方向に対し傾斜している場合であっても、撮像装置14がピストン54の上面の定位置からずれることがない。なお、図23に例示の保持器具7が備える棒状体はネジ山を備えない。これに代えて、保持器具7が、ネジ山の切られた棒状体を備え、ピストン54の上面に設けられたネジ孔に当該棒状体がねじ込まれることによって、ネジ孔(凹み)に当該棒状体が差し込まれてもよい。
(13)上述した実施形態において、端末装置11は推定摩耗量と摩耗量との差に基づき異常な摩耗の可能性を検知する。これに代えて、もしくは加えて、端末装置11が摩耗量の経時変化に基づき異常な摩耗の可能性を検知する構成としてもよい。図24は、この変形例において端末装置11が表示する経時変化閲覧画面を例示した図である。この変形例においては、摩耗量の変化率が大きく変化した場合、保守作業員等に対し、異常な摩耗の可能性が通知される。なお、摩耗量の変化率は、摩耗量の変化量を摩耗の主要因の属性で除した値である。摩耗量の変化率の算出において摩耗量の変化量を除する値としては、例えば、エンジン回転数(例えば、エンジン負荷に応じたウェイトを乗じたもの)の積分値、航行距離(例えば、エンジン負荷に応じたウェイトを乗じたもの)の積分値、航行時間の積分値等、様々なものが採用され得る。
(14)撮像装置14により撮像された画像の利用方法は、上述した実施形態に示したものに限られない。例えば、エンジンメーカの技術者等の専門家の見識を船舶5の保守作業員等が容易に利用可能とするために、撮像装置14により撮像された画像が利用されてもよい。具体的には、例えば、サーバ装置12に記憶されている摩耗管理データベース(図10参照)のデータテーブルにはデータフィールド[評価]が設けられている。サーバ装置12は、専門家が画像を見て下したシリンダライナ53の内側面や触火面の状態に関する評価を示す評価データを取得する評価データ取得手段を備える。評価データ取得手段により取得された評価データは、摩耗管理データベースに格納される。保守作業員が端末装置11を操作して、評価を知りたいシリンダライナ53または触火面の画像を指定すると、端末装置11からサーバ装置12へ指定された画像の画像データが送信される。サーバ装置12は端末装置11から送信されてきた画像データとの間に所定の類似性を示す画像データを格納し、かつ評価データを格納するデータレコードを摩耗管理データベースから抽出する抽出手段を備える。サーバ装置12は抽出したデータレコードの画像データと評価データを端末装置11に送信する。端末装置11はサーバ装置12から送信されてきた画像データと評価データの内容を保守作業員に対し表示する。
(15)撮像装置14により撮像された画像が、シリンダライナ53の損傷(傷や腐食等)を示す場合がある。シリンダライナ53の損傷の検知に伴い、例えば端末装置11が、当該異常の原因の特定に役立つデータを抽出して船舶5の保守作業員等に通知する構成が採用されてもよい。
この変形例において、端末装置11の属性データ取得手段114は、上述した実施形態において取得する属性データに加え、シリンダライナ53の損傷の原因特定に役立つ、船舶5が過去に行った航行の属性を示す属性データとして、例えば船舶5において過去に行われた保守作業に関する属性データや、船舶5が過去に使用した燃料油に関する属性データ等を取得する。なお、これらの属性データは、例えば船舶5の保守作業員等により入力されたデータであってもよいし、例えばエンジンへ投入される燃料油を収容する燃料油タンクの切り替えを行う切替弁を制御する制御装置等の装置により生成されたデータであってもよい。
属性データ取得手段114により取得された属性データは記憶手段120に記憶される。図25は、船舶5において行われた保守作業に関する属性データを管理するための保守作業データベースのデータ構成を例示した図である。保守作業データベースのテーブルは保守作業に応じたデータレコードの集まりであり、データフィールドとして、保守作業が行われた日時を示すデータを格納する[日時]、保守対象の装置および部品の名称を示すデータを格納する[装置名]および[部品名]、保守作業の名称を示すデータを格納する[保守作業名]を備える。
また、図26は、船舶5が使用した燃料油に関する属性データを管理するための使用燃料油データベースのデータ構成を例示した図である。使用燃料油データベースは、船舶5が複数のエンジンを搭載している場合、それらのエンジンの各々に応じたテーブルを含む。図26は、エンジンID「01」により識別されるエンジンに関するテーブルを例示している。使用燃料油データベースのテーブルは同一の燃料油タンクから連続して使用された燃料油の各々に応じたデータレコードの集まりであり、データフィールドとして、燃料油が使用された期間を示すデータを格納する[期間]、使用された燃料油が収容されていた燃料油タンクを識別するタンク番号を格納する[タンク番号]、使用された燃料油のBDN(Bunker Delivery Note)を識別するBDN番号を格納する[BDN番号]、BDNの発行者の名称を示すデータを格納する[発行者名]、燃料油の室温粘度(例えば、摂氏40度〜50度における動粘度)を示すデータを格納する[室温粘度]、燃料油の硫黄含有量を示すデータを格納する[硫黄含有量]等を備える。
この変形例において、例えば船舶5の保守作業員は端末装置11に表示されるいずれかのシリンダライナ53の画像(図6)を目視してシリンダライナ53の損傷を検知すると、端末装置11に所定の操作を行う。端末装置11は、保守作業員による所定の操作をトリガに、予め定められた条件に従い記憶手段120に記憶されている各種のデータベースから属性データを抽出する抽出手段を備える。抽出手段が属性データの抽出に用いる条件は、保守作業員により指定されたシリンダライナ53の損傷の原因特定に役立つ属性データを抽出するための条件である。端末装置11は抽出手段により抽出した属性データの内容を保守作業員に対し表示する。
図27は、この変形例において端末装置11が保守作業員に対し表示する画面を例示した図である。図27の画面には、「保守作業」、「使用燃料油」、「排気温度・内部圧力」等のタブが表示される。図27の画面の各タブに応じたページには、タブの名称(タブ名)に応じた種別の属性データの内容がテーブルやグラフで表示される。図27のページは、タブ名「保守作業」に応じたページである。
図27のページに表示されている保守作業は、保守作業員により指定されたシリンダライナ53に応じたシリンダ51に関し、例えば撮像装置14による前回(最後から2番目)の撮像が行われたタイミングから今回(最後)の撮像が行われたタイミングまでの期間内に行われた保守作業である。端末装置11は、保守作業データベース(図25)から抽出した属性データを用いて図27のページを表示する。保守作業員は、図27のページを見て、例えばシリンダライナ53の損傷が保守作業のミス(例えば、シリンダ51内へのネジ等の異物の混入)に起因するか否かを判断することができる。
図28は、タブ名「使用燃料油」に応じたページを例示した図である。図28のページに表示されている燃料油は、保守作業員により指定されたシリンダライナ53に応じたエンジンが、例えば撮像装置14による前回(最後から2番目)の撮像が行われたタイミングから今回(最後)の撮像が行われたタイミングまでの期間内に使用した燃料油である。端末装置11は、使用燃料油データベース(図26)から抽出した属性データを用いて図28のページを表示する。保守作業員は、図28のページを見て、例えばシリンダライナ53の損傷が使用した燃料油(例えば、燃料油のシリカやアルミナ等の含有量)に起因するか否かを判断することができる。
図29は、タブ名「排気温度・内部圧力」に応じたページを例示した図である。図29のページには、保守作業員により指定されたシリンダライナ53に応じたシリンダ51の排気温度と内部圧力の経時変化を示すグラフが示される。なお、排気温度と内部圧力はエンジンの負荷に応じて変動する。従って、端末装置11は、保守作業員により指定されたシリンダライナ53に応じたエンジンの負荷に基づき所定の換算式(または換算表)に従い、実測された排気温度および内部圧力を、例えば50%負荷における排気温度および内部圧力に換算する。図29に表示されるグラフは換算後の排気温度および内部圧力を示す。
端末装置11は、エンジン属性データベース(図11)から抽出した属性データを用いて図29のページを表示する。保守作業員は、図29のページを見て、例えばシリンダライナ53の損傷がシリンダ51の部品の破損(例えば、排気弁の破損)に起因するか否かを判断することができる。
なお、この変形例において、シリンダライナ53の損傷の検知が、例えば端末装置11の画像解析処理により行われてもよい。この場合、保守作業員が画像を目視してシリンダライナ53の損傷を検知する必要はない。また、この変形例において、検知された損傷の種別(例えば、削られた傷、腐食等の別)に応じた条件に従い、属性データの抽出が行われてもよい。例えば、シリンダライナ53に削られた傷が検知された場合、保守作業に関する属性データが抽出され、低温腐食が検知された場合、エンジンの負荷に関する属性データが抽出される、といった構成が採用されてもよい。
(16)上述した実施形態において端末装置11が備える構成部の一部をサーバ装置12が備える構成としてもよい。また、上述した実施形態においてサーバ装置12が備える構成部の一部を端末装置11が備える構成としてもよい。例えば、上述した実施形態においてサーバ装置12が備える関係データ生成手段123を端末装置11が備えてもよい。
(17)上述した実施形態において、ピストン54がシリンダ51内を1往復する間(正確には往路または復路のいずれか一方の移動の間)に撮像装置14により撮像される画像はシリンダライナ53の全領域をカバーする。これに代えて、撮像装置14がシリンダライナ53の所定の領域のみの鮮明な画像を撮像する構成が採用されてもよい。例えば、保守作業員等が、シリンダライナ53の頂部に近い領域の摩耗状態のみを知りたい場合、撮像装置14は頂部に近い位置でのみ撮像を行えばよい。
(18)上述した実施形態において、端末装置11およびサーバ装置12は一般的なコンピュータがプログラムに従った処理を実行することにより実現される。これに代えて、端末装置11およびサーバ装置12の少なくとも一方が、いわゆる専用装置として構成されてもよい。