以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。各図に示すX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。各座標軸が示す方向は、全図に共通する。説明の便宜のため、図4〜10では型が省略されているが、図4〜10に示される各成形体は実際には型内に保持されている。
(金属粉末の調製工程)
本実施形態において、希土類磁石とは焼結磁石を意味する。希土類磁石の製造方法では、まず合金を鋳造する。鋳造方法は、例えば、ストリップキャスト法であってよい。合金はフレーク状であってよく、インゴット状であってもよい。合金は、希土類元素を含む。希土類元素の例は、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドからなる群より選ばれる一種以上の元素を含む。ここで、ランタノイドは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。原料合金は、希土類元素に加えて、B,N,Fe,Co,Cu,Ni,Mn,Al,Nb,Zr,Ti,W,Mo,V,Ga,Zn,Si及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。合金の化学組成は、最終的に得たい希土類磁石の主相及び粒界相の化学組成に応じて調整すればよい。つまり、目的とする希土類磁石の組成に応じて上記元素を含む各出発原料を秤量・配合して、合金の原料を調製すればよい。希土類磁石は、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、サマリウム‐鉄‐窒素磁石、又はプラセオジム磁石であってよい。希土類磁石の主相は、例えば、Nd2Fe14B,SmCo5,Sm2Co17,Sm2Fe17N3,Sm1Fe7Nx,又はPrCo5であってよい。粒界相は、例えば、主相に比べて希土類元素の含有量が大きい相(Rリッチ相)であってよい。粒界相は、Bリッチ相、遷移金属リッチ相、酸化物相又は炭化物相を含んでもよい。
上記の合金の粗粉砕により、合金の粗粉末を得る。粗粉砕では、例えば、水素を合金の粒界(Rリッチ相)に吸蔵させることより、合金を粉砕してよい。合金の粗粉砕では、ディスクミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル又はスタンプミル等の機械的な粉砕方法を用いてもよい。粗粉砕によって得られた粗粉末の粒径は、例えば、10μm以上100μm以下であってよい。
上記の粗粉末の微粉砕により、合金の微粉末を得る。微粉砕では、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、又は湿式アトライター等により、合金粉末を粉砕してよい。微粉砕によって得られた微粉末の粒径は、例えば、0.5μm以上5μm以下であってよい。以下では、場合により、粗粉末又は微粉末が、合金粉末と表記される。合金粉末は金属粉末と言い換えられてよい。
粗粉末へ有機物を添加してよい。微粉砕で得た微粉末へ有機物を添加してもよい。つまり、微粉砕の前後いずれかにおいて、有機物を合金粉末と混ぜてよい。有機物は、例えば、潤滑剤として機能する。潤滑剤を合金粉末へ添加することにより、合金粉末の凝集が抑制される。また、潤滑剤を合金粉末へ添加することにより、後工程において型と合金粉末との摩擦が抑制され易い。その結果、配向工程において合金粉末が配向し易く、合金粉末から得られる成形体の表面又は型の表面における傷を抑制し易い。有機物は、例えば、脂肪酸又は脂肪酸の誘導体であってよい。有機物は、例えば、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸メチル、オクタデシルアミン酢酸塩、オクチルアミン、カプリル酸、ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。エチレングリコールジステアレート及びステアリン酸メチルのいずれも、脂肪酸エステルである。オクタデシルアミン酢酸塩は、アミンカルボン酸塩の一種である。オクチルアミンは、脂肪族アミンの一種である。カプリル酸は、脂肪酸の一種である。ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミドのいずれも、脂肪酸アミドである。潤滑剤は、上記の組成に限定されない。例えば、潤滑剤は、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ペンタデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、カプリン酸アミド、ペラルゴン酸アミド、カプリル酸アミド、エナント酸アミド、カプロン酸アミド、バレリアン酸アミド、ブチル酸アミド、ベヘン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジアセテート、エタノールアミンジステアレート、エタノールアミンジラウレート、エタノールアミンジアセテート、ステアリン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、エナント酸、カプロン酸、バレリアン酸、ブチル酸、ステアリルアミン、パルミチルアミン、ペンタデシルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン、カプリルアミン、ペラルゴニルアミン、ヘプチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、ブチルアミン、パルミチルアミン酢酸塩、ミリスチルアミン酢酸塩、ラウリルアミン酢酸塩、カプリルアミン酢酸塩、ステアリン酸エチル、パルミチン酸メチル、ラウリン酸メチル、及びラウリン酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。潤滑剤は、粉末状の有機物であってよい。潤滑剤は、液状の有機物であってもよい。粉末状の潤滑剤が溶解した有機溶媒を合金粉末へ添加してもよい。
(成形工程)
成形工程では、上記の手順で得られた合金粉末を、型内へ供給して、成形体を形成する。型の寸法、形状及び構造は限定されない。例えば、図1に示されるように、型2は、下型8と、下型8の上に配置される筒状の側型6と、側型6の上に配置される上型4(パンチ)と、を備える。希土類磁石の形状及び寸法に対応する空間が、側型6を鉛直方向に貫通している。側型6は、型の側壁と言い換えてよい。下型8は板状であってよい。側型6の下部が、下型8の表面に形成された爪部(stops)に嵌合することにより、水平方向における側型6の位置が固定されてよい。成形工程では、側型6を下型8の上に載置して、側型6の下面側の開口部(穴)を下型8で塞ぐ。このような配置により、側型6及び下型8がダイを構成する。側型6及び下型8は、キャビティ(雌型)と言い換えられてよい。上型4は、コア(雄型)と言い換えてよい。続いて、合金粉末を、側型6の上面側の開口部(穴)からダイ内へ導入する。その結果、合金粉末がダイ内において希土類磁石の形状及び寸法に対応するように成形される。合金粉末を、ダイ内へ充填してよい。つまり、ダイを合金粉末で満たしてよい。上型4はダイに嵌合する形状を有してよい。上型4をダイへ挿入してよい。ダイ内の成形体10(合金粉末)を、上型4の先端面で圧縮してよい。ただし、焼結工程における合金粉末同士の焼結だけにより、成形体10の密度が十分に高まり、所望の密度を有する希土類磁石が得られるので、ダイ内の合金粉末を圧縮しなくてもよい。
成形工程において、型が合金粉末に及ぼす圧力は、0.049MPa以上20MPa以下(0.5kgf/cm2以上200kgf/cm2以下)に調整されてよい。圧力とは、例えば、上型4の先端面が合金粉末に及ぼす圧力であってよい。このように、従来の高圧磁場プレス法よりも低圧で、合金粉末から成形体10を形成することにより、型2と成形体10との摩擦が抑制され易く、型2又は成形体10の破損(例えば成形体10の亀裂)が抑制され易い。圧力が高過ぎる場合、型2が撓んでしまい、目的のダイの容量を確保し難く、目的の成形体10の密度が得られ難い。従来の高圧磁場プレス法では、高圧下で合金粉末の成形及び配向を同時に行う必要があった。一方、本実施形態では、成形及び配向を同時に行う必要がないので、成形工程後に、配向工程を行うことができる。成形工程と配向工程とを分けることにより、従来よりも小型で安価な装置(例えば、プレス成形装置、及び磁場印加装置)を各工程に用いることができる。成形工程及び配向工程を略同時に行ってもよい。
成形工程を経た成形体10(配向工程前の成形体10)の密度は、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。成形体10の密度は、例えば、成形工程において型2が成形体10に及ぼす圧力によって調整されてよい。成形体10の密度は、例えば、型2内に供給される合金粉末の質量によって調整されてもよい。配向工程前の成形体10の密度が上記の範囲である場合、最終的に得られる希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。配向工程前の成形体10の密度が低いほど、成形体10を構成する合金粉末が自由に回転し易く、磁場に沿って配向し易い。その結果、希土類磁石の表面における磁束密度が高まり易い。配向工程前の成形体10の密度が低過ぎる場合、成形体10の保形性(機械的強度)が不十分であり、後工程における成形体10と型との摩擦により、成形体10の表面に位置する合金粉末の配向度が乱れる。その結果、希土類磁石の表面における磁束密度が低下し易い。また配向工程前の成形体10の密度が低過ぎる場合、成形体10の保形性(機械的強度)が不十分であるため、希土類磁石に亀裂が生じ易い。配向工程前の成形体10の密度が高過ぎる場合、希土類磁石の変形は抑制され易いが、成形体10を構成する合金粉末が自由に回転し難く、磁場に沿って配向し難い。その結果、希土類磁石の表面の磁束密度が低下し易い。
(配向工程)
配向工程は、成形工程後に実施されてよい。配向工程では、ダブルコイルを備える磁場発生装置を用いて、成形体10にパルス磁場を印加する。図3に示されるように、配向工程では、型2内に保持された成形体10が、型2と共に、ダブルコイル15の内側に配置される。そして、型2内に保持された成形体10にパルス磁場を印加して、成形体10を構成する合金粉末を磁場に沿って配向させる。配向工程では、成形体10を保持する複数の型2が、ダブルコイル15の内側に配置されてよい。つまり、複数の成形体10が第一コイル17aと第二コイル17bの間に配置されてよく、パルス磁場を複数の成形体10に対して同時に印加して、各成形体10を構成する合金粉末を磁場に沿って同時に配向させてよい。複数の成形体10が一つの型内に保持されていてもよい。
図2〜4に示されるように、ダブルコイル15とは、同一の中心軸Aを持つように配置された少なくとも二つのコイル(第一コイル17a及び第二コイル17b)である。中心軸Aは、一方のコイル(第一コイル17a)の円状の開口部の中心と、他方のコイル(第二コイル17b)の円状の開口部の中心とを通る直線と定義されてよい。中心軸Aは鉛直方向に平行であってよい。中心軸Aは鉛直方向に対して傾いていてもよい。中心軸Aは水平方向に平行であってもよい。第一コイル17a及び第二コイル17bが中心軸Aに沿って斜めに配列されていてもよい。
第一コイル17の内径は、2×R1と表される。第二コイル17bの内径は、2×R2と表される。図2及び図5に示されるように、第一コイル17aの内径(2×R1)は、第二コイル17bの内径(2×R2)と等しくてよい。第一コイル17aと、第二コイル17bとは、全く同じコイルであってよい。第一コイル17a及び第二コイル17bは、中心軸Aに垂直な平面(XY面)に対して平行に配置されていてよい。中心軸Aに平行な方向から見て、第一コイル17aが第二コイル17bに重なっていてよい。つまり、第一コイル17a及び第二コイル17bが、中心軸Aに平行な方向から見て真っ直ぐに配列されていてよい。
図6及図8〜10に示されるように、第一コイル17aの内径(2×R1)は、第二コイル17bの内径(2×R2)と異なっていてもよい。
配向工程では、第一コイル17aにおいて発生するパルス磁場と第二コイル17bにおいて発生するパルス磁場が、成形体10に印加される。以下では、場合により、第一コイル17aにおいて発生するパルス磁場が、「第一パルス磁場」と表記される。以下では、場合により、第二コイル17bにおいて発生するパルス磁場が、「第二パルス磁場」と表記される。配向工程は、成形体中の合金粉末が、第一パルス磁場及び第二パルス磁場から合成されたパルス磁場に沿って配向する工程と言い換えられてよい。以下では、場合により、第一パルス磁場及び第二パルス磁場から合成される磁場は、「合成パルス磁場」と表記される。合成パルス磁場を成形体10に印加する回数は、1回でもよく、複数回でもよい。
配向工程では、第一パルス磁場と第二パルス磁場が同時に発生する。中心軸A上において、第一パルス磁場の方向は、第二パルス磁場の方向と逆である。換言すれば、第一コイル17aの内側における第一パルス磁場の方向は、第二コイル17bの内側における第二パルス磁場の方向と逆である。
例えば、図3に示される第一コイル17aの内側におけるパルス磁場の方向がZ軸方向と逆であってよく、図3に示される第二コイル17bの内側におけるパルス磁場の方向がZ軸方向であってよい。換言すれば、第一コイル17aのN極と、第二コイル17bのN極とが向かい合っていてよい。以下では、第一コイル17aのN極と第二コイル17bのN極が向かい合っている場合、合成パルス磁場は「N極対向磁場」(N Pole Facing Magnetic field)と表記される。
第一コイル17aのN極と、第二コイル17bのN極とが向かい合っており、第一パルス磁場の強度が、第二パルス磁場の強度と等しい場合、図7に示される合成パルス磁場(N極対向磁場)が合成される。図7〜10に示される曲線は、合成パルス磁場の磁力線である。
図7に示されるように、配向工程では、第一コイル17aと第二コイル17bの間において合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束している位置(例えば、位置10A又は位置10B)に、成形体10が配置される。その結果、成形体10を構成する合金粉末が、集束した磁力線に沿って配向し、合金粉末の配向方向が成形体10の表面に向かって集束する。換言すれば、成形体10を構成する合金粉末が、中心軸Aに沿って集束する。図7において位置10Bに配置された成形体10は、図11中の(a)に示される成形体10に相当する。図11中の(a)、(b)及び(c)に示される各成形体10中の曲線は、各成形体10を構成する合金粉末の配向方向であり、各成形体10の焼結及び着磁によって得られる各希土類磁石における磁束に相当する。図11中の(a)に示される成形体10の表面10sは、図7に示される第二コイル17bと向かい合う。図11中の(a)に示されるように、成形体10を構成する合金粉末の配向方向は、成形体10の表面10sに向かって集束する。一方、表面10sの裏に位置する成形体10の表面においては、合金粉末の配向方向が放射状(radial)である。合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束していることにより、成形体10の焼結及び着磁によって得られる希土類磁石の表面(焼結後の成形体10の表面10s)の磁束密度が高まる。図7に示される第二コイル17bの内側における第二パルス磁場の方向はZ軸方向であるので、位置10Bに配置される成形体10の表面10sは、第二コイル17bのN極と向かい合う。したがって、成形体10において合金粉末の配向方向が集束している表面10sの磁極は、配向工程を経てS極になる。
図7に示されるように、第一コイル17aと第二コイル17bの間において合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束していない位置(例えば、位置10C)に成形体10が配置された場合、成形体10を構成する合金粉末の配向方向は成形体10の表面10sに向かって集束し難いため、成形体10の焼結及び着磁によって得られる希土類磁石の表面の磁束密度を十分に高めることは困難である。ただし、第一パルス磁場の強度が第二パルス磁場の強度と異なり、第一コイル17aと第二コイル17bとの真中において合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束している場合、成形体10を第一コイル17aと第二コイル17bとの真中に配置することにより、本発明の効果を得ることは可能である。第一コイル17aと第二コイル17bとの真中とは、中心軸A上に位置する第一コイル17aと第二コイル17bとの中点と言い換えられてよい。
第一パルス磁場の方向と第二パルス磁場の方向とが同じである場合、第一コイル17a及び第二コイル17bで囲まれた空間では、均質なパルス磁場(方向及び強度が一様であるパルス磁場)が形成される。換言すれば、第一コイル17aの内側における第一パルス磁場の方向が、第二コイル17bの内側における第二パルス磁場の方向と同じである場合、均質なパルス磁場が形成される。均質なパルス磁場の磁力線は、中心軸Aに対して略平行であり、中心軸Aに沿って集束し難い。したがって、均質なパルス磁場中では、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し難く、希土類磁石の表面の磁束密度を十分に高めることは困難である。
仮に一つのコイルを用いてパルス磁場を成形体10へ印加した場合、パルス磁場の磁力線が集束し難いため、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し難く、希土類磁石の表面の磁束密度を十分に高めることは困難である。
第一コイル17aのS極と、第二コイル17bのS極とが向かい合っていてもよい。つまり、図3及び図7に示される第一コイル17aの内側における第一パルス磁場の方向はZ軸方向であってよく、図3及び図7に示される第二コイル17bの内側における第二パルス磁場の方向がZ軸方向と逆であってもよい。第一コイル17aのS極と第二コイル17bのS極が向かい合っている場合、合成パルス磁場は「S極対向磁場」と表記される。図7に示される第二コイル17bの内側における第二パルス磁場の方向がZ軸方向と逆である場合、位置10Bに配置される成形体10の表面10sは、第二コイル17bのS極と向かい合う。したがって、成形体10において合金粉末の配向方向が集束している表面10sの磁極は、配向工程を経てN極になる。
S極対向磁場の磁力線は、N極対向磁場の磁力線と同様に分布してよい。ただし、S極対向磁場の磁力線上の各点における磁場の方向は、N極対向磁場の磁力線上の各点における磁場の方向と逆である。
図7〜10に示されるような合成パルス磁場の分布は、コンピュータを用いたシミュレーションによって容易に再現される。したがって、第一コイル17aと第二コイル17bの間において合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束している位置は、シミュレーションに基づいて容易に特定される。
合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し易いことから、成形体10の表面10sが中心軸Aと交差してよい。同様の理由から、成形体10の表面10sが中心軸Aと直交してよい。合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sの中心に集束し易いことから、成形体10の表面10sの中心が中心軸A上に配置されてよい。同様の理由から、成形体10の形状が対称性を有する場合、成形体10の対称中心が中心軸A上に配置されてよく、成形体10の対称軸が中心軸Aと一致してよく、中心軸Aが成形体10対称面内に配置されてよい。
第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と同じであってよい。例えば、第一コイル17aの内径(2×R1)が第二コイル17bの内径(2×R2)と等しく、第一コイル17aに流れる電流I1の大きさが、第二コイル17bに流れる電流I2の大きさと同じである場合、第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と同じであり、合成パルス磁場の磁力線は、図7に示されるような対称性を有する。
第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と異なっていてもよい。例えば、第一コイル17aに流れる電流I1の大きさが、第二コイル17bに流れる電流I2の大きさと等しく、第一コイル17aの内径(2×R1)が第二コイル17bの内径(2×R2)と異なる場合、第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と異なる。各コイルの内径の減少に伴って、各コイルにおいて発生するパルス磁場の強度は高まる。例えば、図7〜10の比較から明らかなように、第二コイル17bの内径の減少に伴って、第二パルス磁場の強度が高まり、第二パルス磁場に由来する磁力線が中心軸Aに沿ってより密に集束し易くなる。第一コイル17aの内径(2×R1)が第二コイル17bの内径(2×R2)と等しく、第一コイル17aに流れる電流I1の大きさが、第二コイル17bに流れる電流I2の大きさと異なる場合も、第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と異なる。各コイルに流れる電流の増加に伴って、各コイルにおいて発生するパルス磁場の強度は高まる。第一コイル17aに流れる電流I1の大きさが、第二コイル17bに流れる電流I2の大きさと異なり、且つ第一コイル17aの内径(2×R1)が第二コイル17bの内径(2×R2)と異なっていてもよい。
配向工程では、第一コイル17a及び第二コイル17bのうち、どちらか一方のコイルへ近づけられた成形体10に合成パルス磁場が印加されてよい。例えば、図5及び図6に示されるように、第一コイル17aと第二コイル17bとの間の空間が中心軸Aに対して垂直な方向に三等分され、空間S1、空間S2及び空間S3として区画される場合、第一コイル17aと隣り合う空間S1、及び第二コイル17bと隣り合う空間S2のうち少なくともいずれの空間内において、成形体10が中心軸Aと交わればよい。図7〜10に示されるように、合成パルス磁場の磁力線が第一コイル17a又は第二コイル17bに近づくほど、磁力線が中心軸Aに沿って集束し易い傾向がある。換言すれば、合成パルス磁場の磁力線は、空間S1及び空間S2において中心軸Aに沿って集束し易く、磁力線は、空間S3において中心軸Aに沿って集束し難い傾向がある。したがって、どちらか一方のコイルへ近づけられた成形体10にパルス磁場が印加されることにより、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し易く、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。換言すれば、成形体10が、空間S1及び空間S2のうち少なくともいずれかにおいて中心軸Aと交わることにより、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し易く、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。同様の理由から、空間S1及び空間S2のうちどちらか一方に成形体10の全体が収まってよい。
R2/R1は、0より大きく1.0以下であってよく、且つ配向工程では、第二コイル17bへ近づけられた成形体10に合成パルス磁場が印加されてよい。第一コイル17aに流れる電流I1の大きさが、第二コイル17bに流れる電流I2の大きさと同じである場合、R2/R1の減少に伴って、第二パルス磁場の強度が第一パルス磁場の強度よりも高まり、合成パルス磁場の磁力線は第二コイル17bに近づくほど中心軸Aに沿って集束する。したがって、R2/R1が0より大きく1.0未満である場合、第二コイル17bへ近づけられた成形体10に合成パルス磁場が印加されることにより、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し易く、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。同様の理由から、R2/R1は、0.10以上1.0以下、0.10以上0.78以下、又は0.10以上0.38以下であってよい。第一コイル17aに流れる電流I1の大きさが、第二コイル17bに流れる電流I2の大きさと同じであり、R2/R1が1.0である場合、第一パルス磁場と第二パルス磁場は対称的であるので、成形体10を第一コイル17a及び第二コイル17bのどちらに近づけたとしても、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し、希土類磁石の表面の磁束密度が高まる。
図2に示されるように、中心軸Aに平行な方向における第一コイル17aと第二コイル17bとの距離は、Dと表される。R1とR2が等しく、第一コイル17aと第二コイル17bが、中心軸Aに平行な方向において重なり合っている場合、Dは、第一コイル17aの端面(下面)と、当該端面(下面)と向かい合う第二コイル17bの端面(上面)との距離と言い換えられてよい。Dは、第一コイル17aの内径(2×R1)と等しくてよい。Dは、第一コイル17aの内径(2×R1)と異なっていてもよい。Dは、第二コイル17bの内径(2×R2)と等しくてよい。Dは、第二コイル17bの内径(2×R2)と異なっていてもよい。
R1がR2以上である場合、D/(2×R1)は0.4以上1.0以下であってよい。D/(2×R1)の減少に伴って、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束し易く、特にD/(2×R1)が1.0以下である場合、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束し易い。その結果、成形体10を構成する合金粉末の配向方向が中心軸Aに沿って集束し易く、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。同様の理由から、D/(2×R1)は、0.40以上0.99以下、0.40以上0.80以下、又は0.40以上0.62以下であってよい。D/(2×R1)が0.4未満又は1.0より大きい場合も、本発明の効果を得ることは可能である。ただし、D/(2×R1)が0.4未満である場合、第一パルス磁場と第二パルス磁場が集束し難い傾向がある。R2がR1以上である場合、D/(2×R2)が0.4以上1.0以下であってよい。D/(2×R1)の場合と同様に、R2がR1以上であり、D/(2×R2)が0.4以上1.0以下であることにより、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束し易い。R2がR1以上であり、D/(2×R2)が0.4未満又は1.0より大きい場合も、本発明の効果を得ることは可能である。ただし、D/(2×R2)が0.4未満である場合、第一パルス磁場と第二パルス磁場が集束し難い傾向がある。
第一コイル17a及び第二コイル17bの一方又は両方が、空芯コイルであってよい。第一コイル17a及び第二コイル17bの一方又は両方が空芯コイルであることにより、合成パルス磁場の強度が高まり易く、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束し易い。その結果、合金粉末の配向方向が成形体10の表面10sに向かって集束し易く、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。空芯コイルを用いることによって得られる合成パルス磁場の高い強度を、空芯コイルを用いずに達成するためには、大型の磁場配向装置が必要であり、希土類磁石の製造コストが過大になる。ただし、強磁性体(例えば、着磁ヨーク)が、第一コイル17a及び第二コイル17bの内部又は端部に配置されてもよい、強磁性体が、第一コイル17a及び第二コイル17bの間に配置されていてもよい。第一コイル17a及び第二コイル17bが樹脂中に埋められていてもよい。ただし、強磁性体又は樹脂の存在により、合成パルス磁場の磁力線の分布が制御され難かったり、合成パルス磁場の強度が低下したり、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束し難かったりすることがある。
第一コイル17aの内径(2×R1)及び第二コイル17bの内径(2×R2)のうち、大きい方の内径が2Rで表され、中心軸Aに垂直な方向における成形体10の幅の最大値がWで表される場合、2RはW以上であってよい。つまり、2R/Wは1以上であってよい。2RがW以上であることにより、成形体10の全体がダブルコイル15の内側に収まり易く、合成パルス磁場が成形体10の全体に作用し易い。
図11中の(a)に示されるように、成形体10の断面は長方形であってよい。ただし、成形体10の断面は長方形等の多角形に限定されない。例えば、図11中の(b)及び(c)に示されるように、成形体10において合金粉末の配向方向が集束する表面10sが、アーチ状又は円弧状であってよい。つまり、アーチ状又は円弧状に曲がった表面10sに向かって成形体10中の合金粉末の配向方向が集束していてよい。
合成パルス磁場は、交番磁場(alternating magnetic field)であってよい。つまり合成パルス磁場は、時間の経過に伴って強度及び方向の変化を繰り返す磁場であってよく、上述のN極対向磁場とS極対向磁場とが交互に発生してよい。合成パルス磁場は、減衰する交番磁場であってよい。換言すると、合成パルス磁場は、時間の経過に伴って反転を繰り返しながら減衰してよい。合成パルス磁場の一例は、図12に示される。図12の縦軸は、成形体10が配置される位置(磁力線が集束している位置)における合成パルス磁場の磁束密度(単位:T)であり、図12の横軸は、時間(単位:秒)である。図12に示されるように、成形体10に最初に印加される磁場のパルス波(第一パルス波PW1)の最大強度(振幅)は、第一パルス波PW1に続いて成形体10に印加される磁場のパルス波(第二パルス波PW2)の最大強度よりも大きくてよい。第二パルス波PW2の方向は、第一パルス波PW1の方向と逆であってよい。第一パルス波PW1の印加により、成形体10を構成する合金粉末を配向させ、第二パルス波PW2の印加により、成形体10を脱磁(degauss)してもよい。交番磁場の発生方法は、交流方式又は直流反転方式であってよい。
型2内の成形体10が配置される位置における合成パルス磁場の強度は、例えば、796kA/m以上7958kA/m以下(10kOe以上100kOe以下)、又は2387kA/m以上4775kA/m以下(30kOe以上60kOe以下)であってよい。合成パルス磁場の強度が796kA/m以上である場合、合金粉末の配向度が十分に向上し易い。合金粉末の配向度が高いほど、得られる希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。合成パルス磁場の強度が7958kA/mを超える場合、合成パルス磁場の強度が増加しても合金粉末の配向度が向上し難くなる。また、合成パルス磁場の強度が7958kA/mを超える場合、大型の磁場発生装置が必要になり、配向工程に係る費用が高くなる。型2内の成形体10に印加する合成パルス磁場の強度は、必ずしも上記の範囲に限定されない。
合成パルス磁場の持続時間は、例えば、10μ秒以上0.5秒以下であってよい。合成パルス磁場の持続時間とは、成形体10への合成パルス磁場の印加を開始した時点から印加を終了するまでの時間である。合成パルス磁場の持続時間が10μ秒以上である場合、合金粉末の配向度が十分に高まり易い。合成パルス磁場の持続時間が長い程、合成パルス磁場を発生させるダブルコイル15における発熱量が大きくなり、電力が浪費される傾向がある。合成パルス磁場として最初に成形体10へ印加される第一パルス波PW1の半周期は、例えば、0.01ミリ秒以上100ミリ秒以下、好ましくは1ミリ秒以上30ミリ秒以下であってよい。第一パルス波PW1の半周期が上記の範囲内である場合、個々の合金粉末の回転が合成パルス磁場の印加に追随し易く、合金粉末が配向し易い。その結果、最終的に得られる希土類磁石の磁気特性(例えば表面の磁束密度)が向上し易い。流動性の高い合金粉末及び流動性の低い合金粉末のいずれを用いた場合であっても、第一パルス波PW1の半周期が短いほど、合金粉末の配向度が向上して、希土類磁石の表面の磁束密度が高まる傾向がある。
合成パルス磁場は、従来の高圧磁場プレス法で多用された静磁場に比べて、高い磁場強度を有しており、短時間で成形体10へ印加される。したがって、合成パルス磁場を用いた配向工程により、静磁場を用いる場合に比べて、短時間で配向度の高い成形体10が得られ、結果的に表面の磁束密度が高い希土類磁石が製造される。ただし、仮に電気伝導体(例えば金属)から構成される型内に保持された成形体10に合成パルス磁場が印加されると、静磁場が印加される場合に比べて、型に作用する磁場の強度が短時間で急激に変化するため、電磁誘導によって渦電流が型に流れ易く、逆磁場が生じ易い。
合成パルス磁場の印加に伴う衝撃によって、型2がダブルコイル15内で動くことがある。型2が動くことにより、型2に隙間が生じて、合金粉末が隙間から漏れることがある。したがって、型2の動きを抑制するために、ダブルコイル15内に配置される型2を冶具等で固定してよい。
型2の一部又は全部は、非磁性体(強磁性体でない物質)から形成されていてよい。換言すれば、型2の一部又は全部は、反磁性体、常磁性体及び反強磁性体からなる群より選ばれる少なくとも一種から形成されていてよい。型2の一部又は全部が非磁性体から形成されている場合、配向工程において型2自体の磁性に起因する型2の振動が抑制され易く、型2内に保持された成形体10の破損が抑制され易い。型2に含まれる非磁性体は、例えば、後述される樹脂であってよい。樹脂以外の非磁性体として、例えばステンレス鋼、アルミニウム、モリブデン、タングステン、炭素質材料、及びセラミックスからなる群より選ばれる少なくとも一種が型2に含まれていてもよい。下型8、側型6、及び上型4の全てが非磁性体から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6のみが非磁性体から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8のみが非磁性体から形成されていてもよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、上型4のみが非磁性体から形成されていてもよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6及び上型4が非磁性体から形成されていてもよく、下型8は非磁性体以外の組成物から形成されてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び側型6が非磁性体から形成されていてもよく、上型4は非磁性体以外の組成物から形成されてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び上型4が非磁性体から形成されていてもよく、側型6は非磁性体以外の組成物から形成されてよい。
型2の一部又は全部は、樹脂から形成されていてもよい。型2の一部又は全部が、樹脂から形成されている場合、型2内に配置された成形体10に合成パルス磁場を印加する際に、型2において渦電流が流れ難く、逆磁場も発生し難い。逆磁場を抑制することにより、合金粉末の配向方向が逆磁場によって乱されることが抑制される。したがって、成形体10を構成する合金粉末が、合成パルス磁場の集束した磁力線に沿って配向し易く、合金粉末の配向方向が成形体10の表面に向かって集束し易い。その結果、成形体10の焼結及び着磁によって得られる希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。また逆磁場を抑制することにより、成形体10を構成する合金粉末が逆磁場によって型2の表面に引き寄せられる現象が抑制される。その結果、成形体10の密度が均一になり易く、焼結工程において焼結体(希土類磁石)に亀裂が発生し難くなる。さらに型2の一部又は全部が樹脂から形成されているため、配向工程において、渦電流損に起因する型2の温度上昇が抑制され、型2自体に瞬間的に衝撃(磁力)が作用し難い。その結果、型2が消耗し難くなる。上記の通り、本発明の効果を得易いことから、樹脂から形成された型2が金型よりも好ましいが、金型を用いる場合であっても本発明の効果を得ることは可能である。
仮に金型内に保持された成形体10に合成パルス磁場を印加する場合、金型を構成する金属(例えば鉄)の飽和磁束密度が限られているため、金型内の成形体10に実効的に作用する磁場の強度は、金型外の合成パルス磁場の強度よりも低い。しかし、型2が樹脂から形成されている場合、強い合成パルス磁場が型2によって遮蔽されることなく型2内の成形体10へ印加され易い。
型2を構成する樹脂は絶縁性樹脂であってよい。絶縁性樹脂から構成される型2を用いることにより、配向工程において、渦電流及び逆磁場が抑制され易く、型2自体に瞬間的に衝撃が作用し難い。樹脂の抵抗率は、例えば、1Ω・m以上1×1020Ω・m以下、好ましくは1×109Ω・m以上1×1016Ω・m以下であってよい。このように抵抗率が高い樹脂から型2を形成することにより、配向工程において、渦電流及び逆磁場が抑制され易く、型2自体に瞬間的に衝撃が作用し難い。型2の形成に用いられる樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン(高密度ポリエチレンなど)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、エチルセルロース、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、アタクチック・ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6.66)、ポリイミド、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶ポリマー、パラフィンワックス及びシリコン樹脂ならなる群より選ばれる一種又は複数種であってよい。金属及び黒鉛よりも抵抗率が高い導電性プラスチックから構成される型2を用いてもよい。その結果、型2の帯電が抑制され、型2の帯電に起因する合金粉末の型2への付着が抑制される。
型2において渦電流が流れる部分と成形体10との接触面積が広い程、渦電流に起因する焼結体の亀裂、及び磁気特性の劣化が起き易い。本実施形態では、下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6と成形体10との接触面積が、下型8及び上型4其々と成形体10との接触面積よりも広い。したがって、下型8、側型6、及び上型4のうち、少なくとも側型6が樹脂から形成されていてよい。成形体10と接触する面積が広い側型6を樹脂から形成することにより、側型6における渦電流及び逆磁場の発生が効果的に抑制され、渦電流及び逆磁場に起因する希土類磁石の亀裂及び表面の磁束密度の低下が抑制され易くなる。
型2のうち、樹脂から形成される部分の位置は限定されない。型2の寸法及び形状、又は合成パルス磁場の方向に応じて、型2のうち渦電流を抑制する必要がある部分を樹脂から形成すればよい。例えば、型2のうち、合金粉末を配向させる合成パルス磁場の方向に対して周回する回路を形成する部分において、渦電流及び逆磁場が生じ易い。すなわち、側型6の貫通部(側型6の内壁6a)が合成パルス磁場の方向と平行となる場合において、渦電流及び逆磁場が生じ易い。したがって、型2のうち、合金粉末を配向させる合成パルス磁場の方向に対して、周回する回路を形成する部分である側型6が樹脂から形成される場合、渦電流及び逆磁場が抑制され易い。
下型8、側型6、及び上型4の全てが樹脂から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6のみが樹脂から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8のみが樹脂から形成されていてもよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、上型4のみが樹脂から形成されていてもよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6及び上型4が樹脂から形成されていてもよく、下型8は樹脂以外の組成物から形成されてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び側型6が樹脂から形成されていてもよく、上型4は樹脂以外の組成物から形成されてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び上型4が樹脂から形成されていてもよく、側型6は樹脂以外の組成物から形成されてよい。型2の一部が樹脂から形成されている場合、型2のうち樹脂以外の部分は、例えば、鉄、ケイ素鋼、ステンレス、パーマロイ、アルミニウム、モリブデン、タングステン、炭素質材料、セラミックス、及びシリコン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種から形成されていてよい。型2のうち樹脂以外の部分は、合金(例えば、アルミニウム合金)から形成されていてもよい。
仮に、下型8、側型6、及び上型4の全てが金属から形成されている場合、成形工程において側型6と上型4との摩擦により、金属屑が側型6又は上型4の表面から脱離して、成形体10に混入する場合がある。成形体10に混入した金属屑(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)は、最終的に得られる希土類磁石の磁気特性を損なう場合がある。対照的に、型2の一部又は全部が樹脂から形成されている場合、型2が金属のみから構成されている場合に比べて、型2の摩耗屑(樹脂)が希土類磁石の磁気特性に及ぼす影響が抑制される。例えば、成形工程において摩擦し合う側型6及び上型4のうち、一方(例えば、側型6)が樹脂であり、他方(例えば、上型4)が金属である場合、側型6と上型4との摩擦により、金属屑の代わりに、金属よりも硬度が低い樹脂屑が生じ易い。樹脂屑は、金属屑に比べて、希土類磁石の磁気特性を損ない難い。例えば、側型6のみが樹脂から形成され、下型8及び上型4が、金属(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)から形成されていてよい。
焼結過程におけるネオジム磁石の収縮率には異方性があるため、収縮後のネオジム磁石(焼結体)の形状(特に複雑な形状)を精密に予測することは困難である。したがって、ネットシェイプのためには、型2の寸法及び形状を調整するための試行錯誤が必要であり、型2の材料としては、切削し易い樹脂が適している。つまり、多様な用途に応じた多品種の希土類磁石を効率的に製造するためには、樹脂から形成された型2が適している。従来の金型は、加工し難く、高価であるため、多様な用途に応じた多品種の希土類磁石の製造に適していない。
同一の型2を用いた成形工程及び配向工程を繰り返す場合、成形及び配向の度に型2内を清掃してよい。例えば、型2内に残った余分な合金粉末を磁場で吸引することによって、型2内を清掃してよい。成形及び配向の度に型2内を清掃することにより、型2内で成形される合金粉末の秤量の精度が向上し、得られる成形体10の密度及び寸法のばらつきが抑制される。その結果、最終的に得られる希土類磁石の密度、寸法及び磁気特性のばらつきが抑制される。仮に、型2が強磁性を有する金属(例えば鉄)から形成されている場合、型2内を清掃する際に、型2自体が磁場によって吸引されるので、型2を清掃し難い。しかし、型2が、強磁性を有しない樹脂から形成されている場合、型2自体が磁場によって吸引されないので、型2内を清掃し易い。仮に、型2が強磁性を有する金属(例えば鉄)から形成されている場合、配向工程において型2自体が着磁して、合金粉末が型2に付着してしまうため、合金粉末の配向度が乱れたり、成形体10の保形性が損なわれたりする。しかし、樹脂から構成される型2を用いることにより、型2自体の着磁が抑制される。
合金粉末を型2内へ供給しながら、型2内で成形される合金粉末の質量を、型2の質量と合わせて、測定してもよい。型2内で成形される合金粉末の質量と、型2の質量と、を同時に測定する場合、型2の質量が重い程、秤の精度が低下して、合金粉末自体の質量の測定の精度も低下する。しかし、従来の金属よりも軽い樹脂から構成される型2を用いることにより、合金粉末の質量を型2自体の質量と共に高い精度で測定することができる。
型2内の合金粉末を加圧しながら、合金粉末を合成パルス磁場で配向させてもよい。つまり、配向工程においても、型2内の成形体10を圧縮してよい。型2が成形体10に及ぼす圧力は、上記の理由により、0.049MPa以上20MPa以下に調整してよい。
(分離工程)
分離工程では、型2の少なくとも一部を、成形体10から分離してよい。例えば、分離工程では、上型4及び側型6を成形体10から分離・除去することにより、成形体10を下型8の上に載置してよい。成形体10を保持した側型6及び上型4を下型8から分離して、成形体10を保持した側型6及び上型4を加熱工程用トレイの上に載置してもよい。そして、側型6及び上型4を成形体10から分離して、成形体10を加熱工程用トレイに載置してもよい。上型4及び側型6のうち一方又は両方は、分解及び組立てが可能であってよい。分離工程において、上型4及び側型6のうち一方又は両方を分解することにより、上型4及び側型6のうち一方又は両方を成形体10から外してよい。
成形工程及び配向工程を経た成形体10(加熱工程前の成形体10)の密度は、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。成形体10の密度は、例えば、型2が成形体10に及ぼす圧力によって調整されてよい。成形体10の密度は、例えば、型2内に供給される合金粉末の質量によって調整されてもよい。
(加熱工程)
分離工程に続いて、加熱工程を行ってよい。加熱工程では、成形体10を加熱して、成形体10の温度を200℃以上450℃以下に調整してよい。加熱工程では、成形体10の温度を200℃以上400℃以下、又は200℃以上350℃以下に調整してもよい。成形工程では、合金粉末にかかる圧力が、従来の高圧磁場プレス法よりも低いため、合金粉末が押し固まり難く、得られる成形体10が崩れ易い。しかし、加熱工程によって、成形体10の保形性が向上する。ただし加熱工程は必須ではない。
加熱工程では、成形体10の温度が200℃以上になると、成形体10が固まり始めて、成形体10の保形性が向上する。換言すると、成形体10の温度が200℃以上になると、成形体10の機械的強度が向上する。成形体10の保形性が向上するため、成形体10の搬送、又は後工程における成形体10のハンドリングの際に、成形体10が破損し難い。例えば、成形体10を搬送用チャック(chuck)等により掴んで焼結用トレイ上に並べる際に、成形体10が崩れ難い。その結果、最終的に得られる希土類磁石の欠陥が抑制される。
仮に加熱工程において成形体10の温度が450℃を超えた場合、加熱工程後に実施される焼結工程において、成形体10に亀裂が形成され易い。亀裂が形成される原因は定かでない。例えば、加熱工程における成形体10の急激な温度上昇により、成形体10中に残存する水素が、ガスとして成形体10外へ吹き出すことで、成形体10に亀裂が形成される可能性がある。しかし、加熱工程において成形体10の温度を450℃以下に調整することにより、焼結工程における成形体10の亀裂が抑制される。その結果、最終的に得られる希土類磁石における亀裂も抑制され易い。また、加熱工程において成形体10の温度を450℃以下に調整するため、成形体10の昇温又は冷却に要する時間が抑制され、希土類磁石の生産性が向上する。また、加熱工程における成形体10の温度が450℃以下であり、一般的な焼結温度よりも低いため、型2の一部(例えば下型8)とともに成形体10を加熱したとしても、型2の劣化又は成形体10と型2との化学反応が起き難い。したがって、必ずしも耐熱性が高くない組成物(樹脂)から構成される型2であっても利用することができる。
成形体10の温度を200℃以上450℃以下に調整することにより、成形体10の保形性が向上するメカニズムは明らかではない。例えば、合金粉末に添加されている有機物(例えば、潤滑剤)が、加熱工程において炭素になり、合金粉末(合金粒子)同士が炭素を介して結着される可能性がある。その結果、成形体10の保形性が向上するのかもしれない。仮に加熱工程において成形体10の温度が450℃を超えた場合、合金粉末を構成する金属の炭化物が生成したり、合金粉末(合金粒子)同士が直接焼結したりする可能性がある。一方、成形体10の温度が200℃以上450℃以下に調整される場合、金属の炭化物は必ずしも生成せず、合金粒子同士は必ずしも直接焼結しない。
加熱工程において成形体10の温度を200℃以上450℃以下に維持する時間は、特に限定されず、成形体10の寸法及び形状に応じて適宜調整すればよい。
加熱工程では、赤外線を成形体10へ照射することにより、成形体10を加熱してよい。赤外線の照射(つまり輻射熱)によって成形体10を直接加熱することにより、伝導又は対流による加熱の場合に比べて、成形体10の昇温に要する時間が短縮され、生産効率及びエネルギー効率が高まる。ただし、加熱工程では、加熱炉内の熱伝導又は対流により、成形体10を加熱してもよい。赤外線の波長は、例えば、0.75μm以上1000μm以下、好ましくは0.75μm以上30μm以下であってよい。赤外線は、近赤外線、短波長赤外線、中波長赤外線、長波長赤外線(熱赤外線)、及び遠赤外線からなる群より選ばれる少なくとも一つであってよい。上記の赤外線のうち近赤外線は比較的金属に吸収され易い。したがって、近赤外線を成形体へ照射する場合、短時間で金属(合金粉末)を昇温し易い。一方、上記の赤外線のうち遠赤外線は比較的有機物に吸収され易く、金属(合金粉末)によって反射され易い。したがって、遠赤外線を成形体10へ照射する場合、上述した有機物(例えば、潤滑剤)が選択的に加熱され易く、有機物に起因する上記のメカニズムによって成形体10が硬化し易い。赤外線を成形体10へ照射する場合、例えば、赤外線ヒーター(セラミックヒーター等)又は赤外線ランプを用いてよい。
型2の一部又は全部と分離された成形体10を加熱工程において加熱する場合、加熱による型2の劣化(例えば、型2の変形、硬化又は摩耗)が抑制され易く、成形体10と型2との焼き付きも抑制され易い。また型2の一部又は全部と分離された成形体10を加熱する場合、型2が熱を断熱し難く、成形体10が加熱され易い。その結果、成形体10の保形性が向上する。型2の一部又は全部と分離された成形体10を加熱する場合、型2が成形体10と化学的に反応する可能性が低い。そのため、必ずしも型2に耐熱性が要求されるわけではなく、型2の材質が制限され難い。したがって、型2の原料として、所望の寸法及び形状に加工し易く、且つ安価な材料を選定し易い。仮に、加熱工程において成形体10と型2の全部とを一括して加熱した場合、成形体10と型2との間の熱膨張率の差に起因して、成形体10に応力が作用し易く、成形体10が変形したり、破損したりする。また、加熱工程において成形体10と型2の全部とを一括して加熱した場合、加熱対象全体の体積・熱容量が大きい。その結果、一括して加熱される成形体10の数量が制限され、加熱工程に要する時間が長くなり、エネルギーが浪費され、希土類磁石の生産性が低下する。
加熱工程では、例えば、下型8の上に載置された成形体10を加熱してよい。加熱工程では、加熱工程用トレイに載置された成形体10を加熱してもよい。加熱工程では、成形体10の酸化を抑制するために、不活性ガス又は真空中で成形体10を加熱してよい。不活性ガスは、アルゴン等の希ガスであってよい。
加熱工程において、成形体10の温度を200℃以上450℃以下に調整した後、成形体10を100℃以下に冷却してよい。加熱工程後の成形体10の搬送に用いるチャックの表面が樹脂から構成されている場合、成形体10の冷却により、チャックの表面と成形体10との化学反応が抑制され、チャックの劣化、及び成形体10表面の汚染が抑制される。冷却方法は、例えば、自然冷却であってよい。
(焼結工程)
焼結工程では、配向工程後の成形体10を加熱して焼結させる。焼結工程では、成形体10中の合金粒子同士が焼結して、焼結体(希土類磁石)が得られる。配向工程後、上記の加熱工程を経ることなく、焼結工程を行ってよい。配向工程後、上記の加熱工程を経て、焼結工程を行ってよい。
焼結工程において焼結させる成形体10の密度(焼結工程直前の成形体10の密度)は、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下に調整されていてよい。焼結工程において焼結させる成形体10の密度(焼結工程直前の成形体10の密度)は、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。成形工程及び配向工程において型が成形体10(合金粉末)に及ぼす圧力が低いほど、焼結工程直前の成形体10の密度が低い傾向がある。また、成形工程及び配向工程において型が成形体10(合金粉末)に及ぼす圧力が低いほど、成形体10を構成する合金粉末が自由に回転し易く、磁場に沿って配向し易い。その結果、最終的に得られる希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。したがって、焼結工程直前の成形体10の密度が低いほど、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い、といえる。ただし、成形工程及び配向工程において型が成形体10(合金粉末)に及ぼす圧力が低過ぎる場合、成形体10の保形性(機械的強度)が不十分であり、分離工程に伴う成形体10と型との摩擦により、成形体10の表面に位置する合金粉末の配向度が乱れる。その結果、最終的に得られる希土類磁石の表面の磁束密度が低下することがある。したがって、焼結工程直前の成形体10の密度が低過ぎる場合、希土類磁石の表面の磁束密度が低い、といえる。一方、成形工程から焼結工程に至るまでの間に成形体10(合金粉末)に及ぶ圧力が高いほど、焼結工程直前の成形体10の密度が高く、成形体10の保形性(機械的強度)が高い。その結果、最終的に得られる希土類磁石における亀裂が抑制され易い。したがって、焼結工程直前の成形体10の密度が高いほど、希土類磁石における亀裂が抑制され易い、といえる。ただし、成形工程及び配向工程において型が成形体10(合金粉末)に及ぼす圧力が高過ぎる場合、スプリングバックに因り、成形体10に亀裂が形成され易く、成形体10から得られる希土類磁石に亀裂が残ってしまう。なお、スプリングバックとは、合金粉末を加圧して成形した後、圧力を解除した時に、成形体10が膨張する現象である。以上の通り、焼結工程直前の成形体10の密度は、希土類磁石の表面の磁束密度及び亀裂に相関している。焼結工程直前の成形体10の密度が上記の範囲内に調整されることにより、希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易く、且つ希土類磁石における亀裂が抑制され易い。
焼結工程直前の成形体10の密度は、成形工程において型2内へ導入する合金粉末の質量、及び成形工程において型2が成形体10(合金粉末)に及ぼす圧力によって調整されてよい。成形工程から焼結工程に至るまでの間に成形体10(合金粉末)を複数回圧縮することにより、焼結工程直前の成形体10の密度を上記の数値範囲内に調整してもよい。つまり、成形工程とは別の工程において、成形体10を更に加圧してよい。希土類磁石における亀裂を抑制するためには、成形工程から焼結工程に至るまでの間に合金粉末に及ぼす圧力を、0.049MPa以上20MPa以下に調整したほうがよい。
焼結工程では、型2と共に成形体10を加熱してよい。焼結工程では、型2の一部又は全部から分離された成形体10を焼結させたほうがよい。
仮に、焼結工程において、成形体10を樹脂製の型2から分離せず、成形体10及び型2を共に加熱した場合、型2を構成する樹脂が分解して、樹脂に由来する炭素成分が成形体10に混入してしまう。焼結工程の過程で樹脂から構成される型が焼失したとしても、焼失に伴って生成した炭素成分が成形体10中に混入することを十分に抑制することは困難である。その結果、焼結体(希土類磁石)中に炭素成分が残存し、炭素成分が希土類磁石の磁気特性(例えば、保磁力)を損なう。一方、型2から分離された成形体10を加熱する場合、樹脂に由来する炭素成分が成形体10に混入し難く、希土類磁石の磁気特性(例えば、保磁力)が炭素成分によって損なわれ難い。
仮に、焼結工程において、成形体10と型2の一部又は全部とを一括して加熱した場合、成形体10と型2との間の熱膨張率の差に起因して、成形体10に応力が作用し易く、成形体10が変形したり、破損したりすることがある。さらに、焼結工程において、成形体10と型2の全部とを一括して加熱した場合、加熱対象全体の体積・熱容量が大きい。その結果、一括して加熱される成形体10の数量が制限され、焼結工程に要する時間が長くなり、エネルギーが浪費され、希土類磁石の生産性が低下する。一方、型2から分離された成形体10を加熱する場合、成形体10と型2の全部とを一括して加熱した場合に比べて、加熱対象全体の体積・熱容量が小さい。その結果、多数の成形体10を一括して昇温させ易く、焼結工程に要する時間及びエネルギーが抑制され易く、希土類磁石の生産性が向上する。
焼結工程では、下型8に載置された成形体10を、焼結用トレイの上に移してよい。焼結工程では、加熱工程用に載置された成形体10を、焼結用トレイの上に移してもよい。加熱工程において成形体10の保形性が向上しているため、成形体10を搬送用チャックで掴んで焼結用トレイ上に並べる際に、成形体10の破損が抑制される。
焼結工程では、複数の成形体10を焼結用トレイ上に載置してよく、焼結用トレイ上に載置された複数の成形体10を一括して加熱してよい。多数の成形体10を狭い間隔で焼結用トレイ上に並べて、多数の成形体10を一括して加熱することにより、希土類磁石の生産性が向上する。
焼結用トレイの組成は、焼結時に成形体10と反応し難く、且つ成形体10を汚染する物質を生成し難い組成物であればよい。例えば、焼結用トレイは、モリブデン又はモリブデン合金から構成されていてよい。
焼結温度は、例えば900℃以上1200℃以下であればよい。焼結時間は、例えば0.1時間以上100時間以下であればよい。焼結工程を繰り返してもよい。焼結工程では、不活性ガス又は真空中で成形体10を加熱してよい。不活性ガスは、アルゴン等の希ガスであってよい。
焼結体に対して時効処理を施してよい。時効処理では、焼結体を例えば450℃以上950℃以下で熱処理してよい。時効処理では、焼結体を、例えば0.1時間以上100時間以下、熱処理してよい。時効処理は不活性ガス又は真空中で行えばよい。時効処理は、温度の異なる多段階の熱処理から構成されてもよい。
焼結体を切削又は研磨してもよい。焼結体の表面に保護層を形成してもよい。保護層は、例えば、樹脂層、又は無機物層(例えば、金属層若しくは酸化物層)であってよい。保護層の形成方法は、例えば、めっき法、塗布法、蒸着重合法、気相法、又は化成処理法であってよい。
(着磁工程)
着磁工程では、焼結体を着磁する。着磁工程では、配向工程に用いたダブルコイル15により発生させた合成パルス磁場を焼結体に印加してよい。着磁工程において焼結体に印加される合成パルス磁場(その磁力線の方向及び分布)は、配向工程において成形体10に印加される合成パルス磁場(その磁力線の方向及び分布)と略同じであってよい。そして着磁工程の合成パルス磁場における焼結体の位置及び向きは、配向工程の合成パルス磁場における成形体10の位置及び向きと略同じであってよい。ただし、着磁工程において焼結体に印加される合成パルス磁場は、直流磁界による合成パルス磁場であってよい。合成パルス磁場(パルス波)が焼結体に印加される回数は1回又は複数回であってよい。着磁工程においても、第一コイル17aと第二コイル17bの間において合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束している位置に、焼結体が配置されてよい。着磁工程において焼結体が配置される位置における合成パルス磁場の第一波の強度、磁束密度及び半周期は、配向工程の合成パルス磁場と同じであってよく、異なっていてもよい。着磁工程でも、ダブルコイル15内における焼結体の位置を冶具等で固定してよい。以上のような着磁工程により、着磁された焼結体(希土類磁石)の表面における磁束密度の分布が、配向工程を経た成形体10の表面10sにおける磁束密度の分布と略同様になり易い。
以上の方法により、希土類磁石が製造される。本実施形態に係る希土類磁石の表面の磁束密度(特に表面の中央部の磁束密度)は、従来の低圧成形法によって得られる希土類磁石に比べて高い。したがって、本実施形態に係る希土類磁石は、例えば、SPMモータ又はIPMモータのロータ用の永久磁石に適している。
希土類磁石の寸法及び形状は、希土類磁石の用途に応じて様々であり、特に限定されない。希土類磁石の形状は、例えば、直方体状、立方体状、多角柱状、セグメント状、扇状、矩形状、環状扇形(annular sector)状、板状、球状、円板状、円柱状、リング状、又はカプセル状であってよい。希土類磁石の断面の一部又は全体の形状は、例えば、多角形状、円弧状(円弦状)、弓状、アーチ状、又は円状であってよい。型2又はキャビティの寸法及び形状は、希土類磁石の寸法及び形状に対応するものであり、限定されない。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ストリップキャスト法により、組成が重量分率でNd29Dy1Febal.B1であるフレーク状の合金を作製した。合金を水素吸蔵法により粗粉砕して、粗粉末を得た。粗粉末にオレイン酸アミド(潤滑剤)を添加した。続いて粗粉末を不活性ガス中でジェットミルにより粉砕して、微粉末(希土類元素を含む合金粉末)を得た。微粉末中のオレイン酸アミドの含有量は、0.1質量%であった。微粉末の粒子径D50は、4μmに調整した。微粉末中の酸素の含有量は、800質量ppm以下であった。微粉末中の窒素の含有量は、500質量ppm以下であった。微粉末中の炭素の含有量は、1500質量ppm以下であった。
成形工程では、オレイン酸アミドが添加された微粉末を、型内へ供給して、成形体を形成した。成形工程の詳細は以下の通りであった。
型は、矩形状の下型と、下型の上に配置される直方体状の側型と、側型の上に配置される上型と、を備えていた。上型及び下型は、アルミニウムから形成されていた。側型は、アクリル樹脂から形成されていた。側型の中央部には、直方体状の空間が鉛直方向に貫通していた。つまり、側型は筒状であった。上型は、側型内に嵌合する形状を有していた。成形工程では、側型を下型の上に載置して、側型の下面側の開口部を下型で塞いだ。側型及び下型で囲まれた空間の寸法(ダイの容量)は、20mm×12mm×8mmであった。続いて、所定の質量の微粉末を、側型の上面側の開口部から側型内へ充填した。微粉末が保持された側型及び下型の全体を振動させることにより、ダイ内の微粉末のレベリングを行った。続いて、タッピングにより、ダイ内の微粉末をより緻密にした。タッピング後、上型を側型内へ挿入して、側型内の微粉末を上型の先端面で圧縮した。成形工程では、上型が型内の微粉末(成形体)に及ぼす圧力を0.14MPaに調整した。
以上の方法で得られた成形体は、図3及び図4に示されるように直方体であった。成形体10の寸法は、20mm×12mm×6mmであった。成形体10の体積及び質量から、成形工程直後の成形体10の密度を算出した。成形工程直後(配向工程前)の実施例1の成形体の密度は、3.6g/cm3に調整されていた。
成形工程に続く配向工程では、交流電源を備えた磁場発生装置を用いた。磁場発生装置は、図2〜4に示されるダブルコイル15とコンデンサとを備えていた。ダブルコイル15は、同一の中心軸Aを持つように配置された第一コイル17a及び第二コイル17bを備えていた。中心軸Aは鉛直方向に平行であった。第一コイル17a及び第二コイル17bのいずれも空芯コイルであった。ダブルコイル15を構成する第一コイル17aの内径(2×R1)は一定であった。ダブルコイル15を構成する第二コイル17bは、内径(2×R2)が異なる他の第二コイル17bと自在に取り換え可能であった。第一コイル17a及び第二コイル17bの間の距離Dは、所定の範囲で自在に可変であった。実施例1では、D/(2×R1)が下記表1に示される値に調整された。
実施例1で用いた第一コイル17a及び第二コイル17bは、全く同じコイルであった。実施例1では、中心軸Aに平行な方向から見て第一コイル17a及び第二コイル17bと完全に重なっており、R2/R1が1.0であった。
ダブルコイル15を構成する第一コイル17a及び第二コイル17b其々のインダクタンスL及びコンデンサの静電容量Cは、互いに独立して自在に可変であった。そして、第一コイル17aから発生する第一パルス磁場と、第二コイル17bから発生する第二パルス磁場とを対向(face)させて、所望の交流減衰波形を有する合成パルス磁場を発生することができた。
図3〜5に示されるように、配向工程では、型2内に保持された成形体10を、ダブルコイル15内に配置し、型2を治具で固定した。図5に示されるように、成形体10の表面10sがダブルコイル15の中心軸Aと直交し、且つ中心軸Aが成形体10の表面10sの中心を通るように、成形体10の全体を上述の空間S1内に配置した。成形体10の表面10sは、第一コイル17aと向かい合わせた。後述されるように、成形体10の表面10sは、成形体10の焼結及び着磁によって得られる希土類磁石の磁束密度が測定される表面に対応する。コンピュータを用いたシミュレーションにより、図5に示される空間S1及び空間S2においては、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束することが確認された。一方、図5に示される空間S3においては、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束していないことが確認された。シミュレーションによって再現された実施例1の合成パルス磁場(第一波の最大磁場)の磁力線の分布は、図7に示される。
以上のように型2及び成形体10を第一コイル17a及び第二コイル17bの間へ配置した後、上述の合成パルス磁場を型2内の成形体10へ印加した。合成パルス磁場の印加により、成形体10を構成する個々の微粉末を、合成パルス磁場の集束する磁力線に沿って配向させ、且つ脱磁した。配向工程では、成形体10が配置された位置における合成パルス磁場の第一波(最大磁場)の磁束密度を6.1Tに調整し、第一波の半周期を9ミリ秒に調整した。
配向工程後、成形体を型2から取り出して、焼結用トレイ上に載置した。焼結用トレイはモリブデンから構成されていた。焼結工程直前の実施例1の成形体の密度は、成形工程直後の成形体の密度とほぼ同じであった。
焼結工程では、焼結用トレイ上の成形体を、真空雰囲気中において焼結させた。焼結温度(最高温度)は1080℃に調整した。焼結時間は4時間に調整した。焼結工程に続いて、時効処理を行った。時効処理では、焼結体を900℃(最高温度)で1時間加熱した。続いて、焼結体を500℃(最高温度)で1時間加熱した。
バーチカルを用いて焼結体を加工して、焼結体(直方体)の寸法を、14mm×10mm×4mmに調整した。焼結体の加工後、以下の着磁工程を実施した。
着磁工程では、焼結体を第一コイル17a及び第二コイル17bの間へ配置して、着磁に伴って焼結体が動かないように焼結体を治具で固定した。配向工程と同様に、着磁工程においても、第一コイル17aと第二コイル17bの間において合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束する位置に、焼結体を配置した。そして、合成パルス磁場を焼結体へ印加して、合成パルス磁場の集束する磁力線に沿って焼結体を着磁した。着磁工程において焼結体に印加された合成パルス磁場(その磁力線の方向及び分布)は、配向工程において成形体10に印加された合成パルス磁場(その磁力線の方向及び分布)と略同じであった。ただし、着磁工程において焼結体に印加された合成パルス磁場は、直流磁界による合成パルス磁場であった。着磁工程では、焼結体が配置された位置における合成パルス磁場の第一波(PW1)の磁束密度を6Tに調整し、第一波の半周期を10ミリ秒に調整した。
以上の工程により、実施例1の希土類磁石を得た。希土類磁石は直方体であった。後述される実施例6は、実施例1と全く同じである。
(実施例2)
図5に示されるように、実施例2では、型2内に保持された成形体10の全体を上述の空間S2内に配置して、成形体10の表面10sを第二コイル17bと向かい合わせた。成形体10の配置及び向きを除いて実施例1と同様の方法で、実施例2の希土類磁石を作製した。
(比較例1)
比較例1では、Dの変更により、D/(2×R1)が下記表1に示される値に調整された。比較例1では、第一パルス磁場の方向が第二パルス磁場の方向と同じであり、第一コイル17a及び第二コイル17bで囲まれた空間では、均質なパルス磁場(方向及び強度が一様であるパルス磁場)が形成された。図5に示されるように、比較例1では、型2内に保持された成形体10の全体を上述の空間S3内に配置した。つまり比較例1では、成形体10を第一コイル17aと第二コイル17bとの間の真中に配置した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の希土類磁石を作製した。
(比較例2)
比較例2では、Dの変更により、D/(2×R1)が下記表1に示される値に調整された。コンピュータを用いたシミュレーションにより、図5に示される空間S1及び空間S2においては、比較例2の合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束しており、空間S3においては、合成パルス磁場の磁力線が中心軸Aに沿って集束していないことが確認された。比較例2では、型2内に保持された成形体10の全体を上述の空間S3内に配置した。つまり比較例2では、成形体10を第一コイル17aと第二コイル17bとの間の真中に配置した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の希土類磁石を作製した。
(実施例3〜7)
実施例3〜7では、Dを変更し、且つ実施例1の第二コイル17bとは内径(2×R2)が異なる第二コイル17bを用いることにより、第二パルス磁場の強度を調整した。実施例3〜7其々のR2/R1及びD/(2×R1)は、下記表1に示される値であった。コンピュータを用いたシミュレーションにより、実施例3〜7其々の合成パルス磁場の磁力線は、第一コイル17aと隣り合う空間S1と第二コイル17bに隣り合う空間S2において、中心軸Aに沿って集束していることが確認された。またシミュレーションにより、実施例3〜7其々の合成パルス磁場の磁力線は、空間S1と空間S2との間に位置する空間S3においては、中心軸Aに沿って集束していないことが確認された。
シミュレーションによって再現された実施例3の合成パルス磁場(第一波の最大磁場)の磁力線の分布は、図10に示される。
シミュレーションによって再現された実施例4の合成パルス磁場(第一波の最大磁場)の磁力線の分布は、図9に示される。
シミュレーションによって再現された実施例5の合成パルス磁場(第一波の最大磁場)の磁力線の分布は、図8に示される。
シミュレーションによって再現された実施例6の合成パルス磁場(第一波の最大磁場)の磁力線の分布は、図7に示される。
図7〜10中の位置10Bは、成形体10の位置に相当する。
実施例3〜7では、型2内に保持された成形体10の全体を上記の空間S2内に配置した。実施例3〜7では、成形体10の表面10sを第二コイル17bと向かい合わせた。
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例3〜7の其々の希土類磁石を作製した。
(実施例8〜13)
実施例8〜13では、Dを変更し、且つ実施例1の第二コイル17bとは内径(2×R2)が異なる第二コイル17bを用いることにより、第二パルス磁場の強度を調整した。実施例8〜13其々のR2/R1及びD/(2×R1)は、下記表1に示される値であった。コンピュータを用いたシミュレーションにより、実施例8〜13其々の合成パルス磁場の磁力線は、第一コイル17aと隣り合う空間S1と第二コイル17bに隣り合う空間S2において、中心軸Aに沿って集束していることが確認された。またシミュレーションにより、実施例8〜13其々の合成パルス磁場の磁力線は、空間S1と空間S2との間に位置する空間S3においては、中心軸Aに沿って集束していないことが確認された。
実施例8〜13では、型2内に保持された成形体10の全体を上記の空間S2内に配置した。実施例8〜13では、成形体10の表面10sを第二コイル17bと向かい合わせた。
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例8〜13の其々の希土類磁石を作製した。
(実施例14)
金属製の型(金型)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例14の希土類磁石を作製した。
[相対密度の算出]
各希土類磁石の寸法と質量の測定値から、各希土類磁石の相対密度を計算した。実施例1〜14及び比較例1及び2其々の希土類磁石の相対密度はいずれも99.5%以上であった。
[磁束密度の測定]
以下の方法で、実施例1〜14及び比較例1及び2其々の希土類磁石の表面の磁束密度を測定した。
希土類磁石の長辺を起点として、希土類磁石の短辺に沿って、0.5mmの間隔で希土類磁石の表面の磁束密度を測定した。長辺上の起点を0.5mmの間隔で移動させて、短辺に沿った磁束密度の測定を繰り返すことにより、希土類磁石の表面の全体にわたって磁束密度を測定した。各測定点では、ガウスメータの検知部を、希土類磁石の表面から1mm離れた位置に配置して、磁束密度を測定した。ガウスメータとしては、株式会社マグナ(MAGNA)製のMG−701を用いた。
以上の測定により、実施例1〜14及び比較例1及び2其々の希土類磁石の表面の中央部における磁束密度(単位:G)を特定した。中央部とは、上述の成形体10の表面10sにおいてダブルコイル15の中心軸Aと直交していた部分に対応する位置であり、希土類磁石の長方形状の表面における対角線の交点と略一致する。以下では、希土類磁石の表面の中央部における磁束密度がmfd1と表記される。実施例1〜14及び比較例1及び2其々のmfd1は、下記表1に示される。下記表1に示されるmfd0とは、比較例1のmfd1を意味し、mfd1/mfd0とは、実施例1〜14及び比較例1及び2其々のmfd1を、比較例1のmfd1で除した値を意味する。
上記の測定の結果、実施例1〜14のいずれの場合においても、希土類磁石の表面の中央部における磁束密度は、中央部以外の部分の磁束密度よりも高いことが確認された。対照的に、比較例1の場合、希土類磁石の表面の中央部における磁束密度は、中央部以外の部分の磁束密度よりも低いことが確認された。実施例1〜14のmfd1のいずれも、比較例1及び2に比べて高いことが確認された。樹脂製の型を用いた実施例1〜13のmfd1は、金型を用いた実施例14のmfd1よりも高いことが確認された。