JP2019192750A - 磁性膜の形成方法、および、熱電変換素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子での変換効率を高めることを可能とした磁性膜の形成方法、および、熱電変換素子を提供する。【解決手段】酸素を含み絶縁性を有した磁性材料を主成分とするターゲットをスパッタして基板Sに非晶質な磁性膜MFを形成することと、非晶質な磁性膜MFを加熱して、磁性膜MFを結晶化させることとを含む。磁性膜MFを形成することは、ターゲットの被スパッタ面に平行であり、かつ、強度が2000Oe以上3000Oe以下である磁場を形成することと、磁場を形成する磁気回路の面積に対するターゲットに供給される電力の比が、3W/cm2以上8W/cm2以下であることと、基板Sの温度が150℃以下であることとを含む。磁性膜MFを結晶化させることは、磁性膜MFが大気中に配置されることと、磁性膜MFの温度が600℃以上1200℃以下であることを含む。【選択図】図3
Description
本発明は、磁性膜の形成方法、および、磁性膜を備える熱電変換素子に関する。
熱を電力に変換し、かつ、電力を熱に変換する熱電変換素子として、スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子が知られている。熱電変換素子は、絶縁性を有した磁性体と、この磁性体と界面を形成する常磁性体とを備え、絶縁性を有した磁性体は、例えばフェリ磁性体である。熱電変換素子では、フェリ磁性体と常磁性体との積層方向に沿って温度差が形成されると、フェリ磁性体と常磁性体との界面の近傍に、界面の法線方向に沿うスピン流が誘起される。誘起されたスピン流は常磁性体に注入され、常磁性体における逆スピンホール効果によってスピン流が起電力に変換される(例えば、特許文献1参照)。
こうした熱電変換素子には、熱電変換の効率がより高い素子が求められている。そのため、熱電変換素子の磁性体として用いることが可能な磁性膜には、熱電変換素子に用いたときに、熱電変換素子における熱電変換の効率を高めるような特性を有した膜であることが求められている。なお、こうした事情は、絶縁性を有した磁性体がフェリ磁性体である場合に限らず、強磁性体および反強磁性体のいずれかである場合にも共通している。
本発明は、スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子での変換効率を高めることを可能とした磁性膜の形成方法、および、熱電変換素子を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための磁性膜の形成方法は、酸素を含み絶縁性を有した磁性材料を主成分とするターゲットをスパッタして成膜対象に非晶質な磁性膜を形成することと、前記非晶質な磁性膜を加熱して、前記磁性膜を結晶化させることと、を含む。前記磁性膜を形成することは、前記ターゲットの被スパッタ面に平行であり、かつ、強度が2000Oe以上3000Oe以下である磁場を形成することと、前記磁場を形成する磁気回路の面積に対する前記ターゲットに供給される電力の比が、3W/cm2以上8W/cm2以下であることと、前記成膜対象の温度が150℃以下であることと、を含む。前記磁性膜を結晶化させることは、前記磁性膜が大気中に配置されることと、前記磁性膜の温度が600℃以上1200℃以下であることを含む。
上記構成によれば、磁性膜の表面における平坦性が高められることで、スピンゼーベック効果を利用する熱電変換素子での変換効率を高めることができる。
上記磁性膜の形成方法において、前記磁性材料は、化学式がR3Fe5O12であるガーネットフェライトであり、Rは、Y、Ca、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、および、Biから構成される群から選択される少なくとも1つであり、前記磁性膜の厚さは、1000nm以下であってもよい。
上記構成によれば、熱電変換素子として用いることに適した薄さを有した各種のガーネットフェライトから形成される磁性膜において、磁性膜の表面における平坦性を高めることができる。
上記磁性膜の形成方法において、前記磁性材料が、イットリウム鉄ガーネットであり、前記成膜対象を形成する材料が、ガドリニウムガリウムガーネットであってもよい。上記構成によれば、磁性膜の格子定数と成膜対象の格子定数との差が小さいため、成膜対象上に形成された磁性膜の表面における平坦性が高められる。
上記磁性膜の形成方法において、前記磁性膜を形成することは、前記成膜対象と前記磁性膜との間の界面における粗さが1nm以下であるように、前記ターゲットと前記成膜対象の表面との間の距離が、135mm以上335mm以下であることを含んでもよい。
上記課題を解決するための熱電変換素子は、成膜対象と、前記成膜対象に接する磁性膜と、を備える。前記磁性膜が、酸素を含み絶縁性を有した磁性材料から形成された膜であり、前記成膜対象と前記磁性膜との界面における粗さが1nm以下である。
上記各構成によれば、成膜対象と磁性膜との間の界面における粗さが1nm以下であることによって、スピンゼーベック効果を利用する熱電変換素子での変換効率を高めることができる。
図1から図9を参照して、磁性膜の形成方法、および、熱電変換素子の一実施形態を説明する。以下では、磁性膜の形成方法、熱電変換素子の構成、および、試験例を順に説明する。
[磁性膜の形成方法]
図1および図2を参照して、磁性膜の形成方法を説明する。
磁性膜の形成方法は、磁性膜を形成することと、磁性膜を結晶化させることとを含む。磁性膜を形成することは、酸素を含み絶縁性を有した磁性材料を主成分とするターゲットをスパッタして成膜対象に非晶質な磁性膜を形成する。磁性膜を結晶化させることは、非晶質な磁性膜を加熱して、磁性膜を結晶化させる。
図1および図2を参照して、磁性膜の形成方法を説明する。
磁性膜の形成方法は、磁性膜を形成することと、磁性膜を結晶化させることとを含む。磁性膜を形成することは、酸素を含み絶縁性を有した磁性材料を主成分とするターゲットをスパッタして成膜対象に非晶質な磁性膜を形成する。磁性膜を結晶化させることは、非晶質な磁性膜を加熱して、磁性膜を結晶化させる。
磁性膜を形成することは、以下の事項を含む。
(a)ターゲットの被スパッタ面に平行であり、かつ、強度が2000Oe以上3000Oe以下である磁場を形成すること。
(b)磁場を形成する磁気回路の面積に対するターゲットに供給される電力の比が、3W/cm2以上8W/cm2以下であること。
(c)成膜対象の温度が150℃以下であること。
(a)ターゲットの被スパッタ面に平行であり、かつ、強度が2000Oe以上3000Oe以下である磁場を形成すること。
(b)磁場を形成する磁気回路の面積に対するターゲットに供給される電力の比が、3W/cm2以上8W/cm2以下であること。
(c)成膜対象の温度が150℃以下であること。
磁性膜を結晶化させることは、以下の事項を含む。
(d)磁性膜が大気中に配置されること。
(e)磁性膜の温度が600℃以上1200℃以下であること。
(d)磁性膜が大気中に配置されること。
(e)磁性膜の温度が600℃以上1200℃以下であること。
こうした方法によれば、磁性膜の表面における平坦性が高められることで、スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子での変換効率を高めることができる。
磁性膜を形成することは、例えば、図1に示されるスパッタ装置を用いて行われる。
図1が示すように、スパッタ装置10は、磁性膜MFを形成するための成膜空間を区画する真空槽11を備えている。真空槽11内には、磁性膜MFが形成される基板Sを支持する支持部12が位置している。支持部12は、例えば基板Sを支持するステージである。基板Sは、成膜対象の一例である。
図1が示すように、スパッタ装置10は、磁性膜MFを形成するための成膜空間を区画する真空槽11を備えている。真空槽11内には、磁性膜MFが形成される基板Sを支持する支持部12が位置している。支持部12は、例えば基板Sを支持するステージである。基板Sは、成膜対象の一例である。
真空槽11のなかで、支持部12と対向する位置には、ターゲット13が位置し、ターゲット13はバッキングプレート14を介して真空槽11に固定されている。バッキングプレート14には、ターゲット13に電圧を印加するためのターゲット電源15が接続されている。ターゲット電源15は、高周波電源である。バッキングプレート14に対してターゲット13とは反対側には、ターゲット13のなかで、成膜空間に露出する面に磁場を形成する磁気回路16が位置している。
磁気回路16の外形は、ターゲット13の被スパッタ面と対向する平面視において、円状でもよいし、楕円状でもよいし、矩形状でもよい。上述したように、磁気回路16は、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場を形成し、また、磁気回路16が形成する磁場の強度は、2000Oe以上3000Oe以下である。なお、磁気回路16が形成する磁場において、少なくとも一部が2000Oe以上3000Oe以下の強度を有していればよく、磁場の全体において2000Oe以上3000Oe以下の強度を有してもよい。磁気回路16の面積に対するターゲット13に供給される電力の比(以下、出力密度とも記載する)は、3W/cm2以上8W/cm2以下である。
磁性膜MFを形成することは、基板Sと磁性膜MFとの間の界面における粗さが1nmであるように、ターゲット13と基板Sの表面との間の距離(以下、T/S距離とも記載する)が、135mm以上335mm以下であることを含む。なお、基板Sの厚さは、T/S距離の1000分の1程度であることから、T/S距離は、支持部12の表面と、ターゲット13の被スパッタ面との間の距離であると見なすことが可能である。
図1では、図示の便宜上、ターゲット13の全体とバッキングプレート14の全体とが、成膜空間内に位置しているが、ターゲット13とバッキングプレート14とのうち、少なくともターゲット13の被スパッタ面が成膜空間に露出していればよい。
バッキングプレート14は金属製であり、例えば銅などによって形成されている。ターゲット13の主成分は、基板Sに形成された磁性膜MFの主成分である。磁性膜MFの主成分は、酸素を含み絶縁性を有した磁性体であり、磁性体には、例えば、フェリ磁性体、強磁性体、および、反強磁性体のいずれかを用いることができる。磁性膜MFの主成分がフェリ磁性体であるとき、磁性膜MFの主成分は、イットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12:YIG)であることが好ましい。この場合には、ターゲット13の主成分がYIGであればよい。
なお、磁性膜MFの主成分には、YIGに限らず、例えば、化学式R3Fe5O12で示されるガーネットフェライトを用いることができる。R3Fe5O12におけるRは、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、および、ビスマス(Bi)から構成される群から選択される少なくとも1つである。また、磁性膜MFの主成分には、CoFe2O4(CFO)、NiFe2O4、および、Fe3O4などを用いることができる。磁性膜MFの主成分が各材料であるときには、ターゲット13の主成分が、磁性膜MFの主成分と同じ材料であればよい。
なお、ターゲット13において、ターゲット13の主成分は、99.0質量%以上99.99質量%以下の割合で含まれていればよい。また、磁性膜MFにおいて、磁性膜MFの主成分は、99.0質量%以上99.99質量%以下の割合で含まれていればよい。
磁性膜MFの主成分がYIGであるとき、基板Sを形成する材料は、ガドリニウムガリウムガーネット(Gd3Ga5O12:GGG)であることが好ましく、GGG結晶における面方位が(100)、(110)、および、(111)のいずれかであることがより好ましい。YIGの格子定数とGGGの格子定数との差が小さいため、基板S上に形成された磁性膜MFの表面における平坦性が高められる。
なお、磁性膜MFの主成分が上述したYIG以外の材料のいずれかであるときには、基板Sの材料として、磁性膜MFの主成分として選択された材料と格子定数の差が小さい材料を選択することが好ましい。
スパッタ装置10は、排気部17とガス供給部18とをさらに備えている。排気部17は、成膜空間を所定の圧力まで減圧する。排気部17は、例えば各種のポンプおよびバルブを含んでいる。ガス供給部18は、成膜空間内にプラズマを生成するためのガスを供給する。ガス供給部18の供給するガスは、例えばアルゴン(Ar)ガスなどの希ガスであってもよいし、酸素を含む酸素含有ガスであってもよい。なお、酸素を含む酸素含有ガスとして、Arガスに対して酸素ガスを添加したガスを挙げることができる。この場合には、酸素ガスの流量は、Arガスの流量に対して3体積%以下であることが好ましい。ガス供給部18は、所定の流量でガスを供給するマスフローコントローラーであり、スパッタ装置10の外部に位置するボンベに接続されている。
こうしたスパッタ装置10では、支持部12に基板Sが配置されると、排気部17によって成膜空間内が所定の圧力にまで減圧される。次いで、ガス供給部18から所定のガスが供給された後に、ターゲット電源15からターゲット13に電圧が印加されることによって、成膜空間中のガスからプラズマが生成される。結果として、ターゲット13がスパッタされ、基板Sの表面に磁性膜MFが形成される。スパッタ装置10では、ターゲット13のスパッタが行われているときに、基板Sにおける温度の制御を行っていない。言い換えれば、スパッタ装置10では、ターゲット13のスパッタが行われているときに、スパッタ粒子からの入熱以外に基板Sに対して熱エネルギーを与えていない。これによって、基板Sの温度は150℃以下に維持され、基板Sの表面には、非晶質の状態の磁性膜MFが形成される。
磁性膜MFを結晶化させることは、例えば、図2に示されるアニール装置を用いて行われる。
図2が示すように、アニール装置20は、磁性膜MFを加熱するための加熱空間を区画する収容槽21を備え、収容槽21内は大気圧に保たれている。収容槽21内には、支持部22が位置している。支持部22は、磁性膜MFが形成された基板Sを支持する。支持部22は、例えば基板Sを支持するステージである。
図2が示すように、アニール装置20は、磁性膜MFを加熱するための加熱空間を区画する収容槽21を備え、収容槽21内は大気圧に保たれている。収容槽21内には、支持部22が位置している。支持部22は、磁性膜MFが形成された基板Sを支持する。支持部22は、例えば基板Sを支持するステージである。
アニール装置20は、加熱部23をさらに備えている。加熱部23は、例えば、赤外線ランプ、遠赤外線ランプ、抵抗加熱によって発熱する発熱体を含む加熱機構、および、誘導加熱によって発熱する発熱体を含む機構などのいずれかであればよい。磁性膜MFの加熱において、加熱部23は、磁性膜MFを600℃以上1200℃以下に含まれる温度に加熱する。
600℃以上の温度で磁性膜MFを加熱することによって、磁性膜MFの結晶化を確実に進めることができ、かつ、1200℃以下の温度で磁性膜MFを加熱することによって、磁性膜MFの結晶化する速度が過度に高くなることが抑えられる。結果として、磁性膜MFの表面における表面粗さが高くなることが抑えられる。
こうしたアニール装置20では、大気圧下、すなわち収容槽21内に酸素が存在する状態で、磁性膜MFが加熱される。これにより、磁性膜MFには、磁性膜MFの主成分が結晶化するだけの熱エネルギーが与えられることによって、加熱前は非晶質の状態であった磁性膜MFが、加熱によって結晶化される。
なお、アニール装置20は、加熱空間内に酸素ガスを供給する酸素ガス供給部と、加熱空間内を排気する排気部とを備えてもよい。酸素ガス供給部は、酸素ガスを所定の流量で加熱空間に供給するマスフローコントローラーであればよく、酸素ガス供給部は、アニール装置20の外部に位置するボンベに接続されていればよい。排気部は、例えば各種のボンベおよびバルブを含んでいればよい。
上述したスパッタ装置10とアニール装置20とは、ゲートバルブや他の処理装置を介して互いに接続されることによって、1つの装置における一部として機能してもよい。また、スパッタ装置10とアニール装置20とは、2つの装置が配置される空間において互いに独立して位置する装置であってもよい。
[熱電変換素子の構成]
図3を参照して、熱電変換素子の構成を説明する。なお、図3に示される構成は、熱電変換素子の構成における一例である。
図3を参照して、熱電変換素子の構成を説明する。なお、図3に示される構成は、熱電変換素子の構成における一例である。
図3が示すように、熱電変換素子30は、基板Sと、基板Sに接する磁性膜MFと、を備えている。磁性膜MFが、酸素を含む絶縁性を有した磁性材料から形成された膜であり、基板Sと磁性膜MFとの界面における粗さが1nm以下である。基板Sに形成された磁性膜MFの表面に、常磁性体から形成される常磁性膜PMを形成することによって、熱電変換素子30を得ることができる。
常磁性膜PMの形成材料には、例えば、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、および、ニオブ(Nb)などを用いることができる。こうした常磁性膜PMの形成には、磁性膜MFと同様、例えば図1を参照して先に説明したスパッタ装置10に準じた構成を有したスパッタ装置を用いることができる。
基板Sの厚さは、例えば250μm以上750μm以下であることが好ましく、磁性膜MFの厚さは、例えば20nm以上1000nm以下であることが好ましく、常磁性膜PMの厚さは、例えば2nm以上8nm以下であることが好ましい。これにより、熱電変換素子30として用いることに適した薄さを有した各種のガーネットフェライトから形成される磁性膜MFにおいて、磁性膜MFの表面における平坦性を高めることができる。
加熱後の磁性膜MFの表面であって、常磁性膜PMが形成される面における算術平均粗さRaは、0.5nm以下であることが好ましい。磁性膜MFの表面における算術平均粗さRaは、JIS B 0601(ISO 4287)に準拠した方法によって測定することができる。また、磁性膜MFの表面は、1つの方向に沿って並ぶ複数のテラスと、2つのテラスを繋ぐステップとから構成されることが好ましい。磁性膜MFの表面と対向する平面視において、複数のテラスが並ぶ方向に沿う各テラスの長さがテラス幅であり、テラス幅は50nm以上であることが好ましい。なお、磁性膜MFの表面における算術平均粗さRa、および、テラス幅は、原子間力顕微鏡によって得た表面のAFM画像から得ることができる。
磁性膜MFにおいて、膜密度は5.15g/cm3以上であることが好ましい。なお、磁性膜MFの膜密度、および、磁性膜MFと基板Sとの界面における粗さは、X線反射率測定装置を用いた測定によって求めることが可能である。
本願発明者は、熱電変換素子30に用いられる磁性膜MFの形成方法について鋭意研究するなかで、以下のことを見出した。すなわち、本願発明者らは、磁性膜MFの表面における平坦性が高められることによって、磁性膜MFを備える熱電変換素子30における変換効率が高められることを見出した。
そして、磁性膜MFの表面における平坦性は、磁性膜を形成する工程、および、磁性膜を加熱する工程において、上述した(a)から(e)の条件が満たされることによって、高めることができる。
熱電変換素子30では、常磁性膜PMと磁性膜MFとの積層方向に沿って温度差が形成されると、磁性膜MFと常磁性膜PMとの界面の近傍に、界面の法線方向に沿うスピン流が誘起される。表面の平坦性が高められた磁性膜MFでは、こうしたスピン流の誘起が表面の状態によって妨げられにくく、また、誘起されたスピン流が常磁性膜PMに注入されることも妨げられにくいため、熱電変換素子30での変換効率が高められると考えられる。
なお、常磁性膜PMと磁性膜MFとの界面における粗さが大きい場合には、界面におけるスピン間の相互作用が弱められるため、スピンの歳差運動の波であるスピン波が散乱される。これによって、熱電変換素子30での変換効率が低下する。この点で、上述したように常磁性膜PMと磁性膜MFとの界面における算術平均粗さRaが0.5nm以下であることによって、スピン波の散乱が抑えられ、結果として、熱電変換素子30での変換効率が高められると考えられる。
また、基板Sと磁性膜MFとの界面における粗さが1nm以下であることによって、磁性膜の結晶性の低下を抑えることが可能である。これにより、基板Sと磁性膜MFとの界面において、基板Sを構成する結晶の格子と、磁性膜MFを構成する格子とが入り乱れることが抑えられる。結果として、基板Sの格子サイズと磁性膜MFの格子サイズとの間に差が生じる場合であっても、磁性膜MFを構成する結晶の格子におけるひずみが一様になりやすいため、結晶性の低下を抑えることができる。なお、結晶性の低下は、熱電変換素子30において、スピン波の伝導を低下させる一因となる。
[試験例]
図4から図9を参照して、試験例を説明する。
[出力密度および磁場の強度と膜密度との関係]
[試験例1]
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が97mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2.5kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。シリコン(Si)基板を準備し、50nmのYIG膜をSi基板上に形成した。YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
図4から図9を参照して、試験例を説明する。
[出力密度および磁場の強度と膜密度との関係]
[試験例1]
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が97mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2.5kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。シリコン(Si)基板を準備し、50nmのYIG膜をSi基板上に形成した。YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
[成膜条件]
・真空槽内の圧力 0.04Pa
・T/S距離 135mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 10sccm
・真空槽内の圧力 0.04Pa
・T/S距離 135mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 10sccm
試験例1では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表1に示す6通りに変更した。
[試験例2]
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が62mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。Si基板を準備し、50nmのYIG膜をSi基板上に形成した。YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が62mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。Si基板を準備し、50nmのYIG膜をSi基板上に形成した。YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
[成膜条件]
・真空槽内の圧力 0.08Pa
・T/S距離 135mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 10sccm
・真空槽内の圧力 0.08Pa
・T/S距離 135mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 10sccm
試験例2では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表2に示す3通りに変更した。
[試験例3]
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が74mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が1kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。Si基板を準備し、50nmのYIG膜をSi基板上に形成した。YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が74mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が1kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。Si基板を準備し、50nmのYIG膜をSi基板上に形成した。YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
[成膜条件]
・T/S距離 70mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 0.6sccm
・T/S距離 70mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 0.6sccm
試験例3では、ターゲットに供給する電力および出力密度、および、真空槽内の圧力を以下の表3に示す6通りに変更した。なお、試験例3において行われた6通りの試験は、成膜条件が重複する試験を含む。
[膜密度の測定結果]
試験例1から試験例3の各々において形成した各YIG膜の密度(g/cm3)を、X線反射率測定装置(D8 Discover、ブルカー社製)を用いて測定した。各YIG膜について密度を測定した結果は、図4に示す通りであった。なお、図4において、試験例1の各YIG膜の密度を白抜きの四角で示し、試験例2の各YIG膜の密度を白抜きの三角で示し、かつ、試験例3の各YIG膜の密度を白抜きの丸で示した。
試験例1から試験例3の各々において形成した各YIG膜の密度(g/cm3)を、X線反射率測定装置(D8 Discover、ブルカー社製)を用いて測定した。各YIG膜について密度を測定した結果は、図4に示す通りであった。なお、図4において、試験例1の各YIG膜の密度を白抜きの四角で示し、試験例2の各YIG膜の密度を白抜きの三角で示し、かつ、試験例3の各YIG膜の密度を白抜きの丸で示した。
図4が示すように、いずれの試験例においても、YIG膜を形成するときの出力密度が大きいほど、YIG膜の密度が高くなる傾向が認められた。また、試験例1、試験例2、および、試験例3の間においてYIG膜の密度を比較すると、磁場の強度における最大値が大きいほど、言い換えればターゲットの被スパッタ面に印加される磁場の強度が大きいほど、YIG膜の密度が高くなる傾向が認められた。また、YIG結晶の密度は5.17g/cm3であることから、試験例2によれば、YIG結晶と同程度の密度を有するYIG膜を形成することが可能であることが認められた。
また、試験例1から試験例3において得られた結果によれば、出力密度が3W/cm2以上であることによって、YIG膜の密度が4.9g/cm3以上になる確実性が高まり、結果として、YIG膜の密度をYIG結晶の密度に近づけることができることが認められた。また、出力密度が8W/cm2以下であることによって、YIG膜の密度が5.2g/cm3を超えることが抑えられ、結果として、YIG膜の密度をYIG結晶の密度に近づけることができることが認められた。さらには、磁場の強度が1kOeである場合と比べて、磁場の強度が2kOe以上であれば、出力密度が3W/cm2以上であることによって、YIG膜の密度が5.0g/cm3以上である確率を高めることが可能であることが認められた。
[YIG膜の結晶性]
[試験例4]
400nmのYIG膜を形成した後、大気中にてYIG膜を加熱した。なお、YIG膜を加熱するときの条件として、YIG膜の温度、すなわちアニール装置が区画する加熱空間の温度を900℃に設定し、かつ、加熱時間を1000秒に設定した。また、以下の4通りの成膜条件で、YIG膜を形成した。試験例4‐1では、試験例1‐3と同一の成膜条件を設定し、試験例4‐2では、試験例1‐4と同一の成膜条件を設定し、試験例4‐3では、試験例1‐6と同一の成膜条件を設定し、かつ、試験例4‐4では、試験例2‐2と同一の成膜条件を設定した。なお、アニール前の各YIG膜における断面の状態を走査型電子顕微鏡で観察したところ、非晶質の状態であることが認められた。
[試験例4]
400nmのYIG膜を形成した後、大気中にてYIG膜を加熱した。なお、YIG膜を加熱するときの条件として、YIG膜の温度、すなわちアニール装置が区画する加熱空間の温度を900℃に設定し、かつ、加熱時間を1000秒に設定した。また、以下の4通りの成膜条件で、YIG膜を形成した。試験例4‐1では、試験例1‐3と同一の成膜条件を設定し、試験例4‐2では、試験例1‐4と同一の成膜条件を設定し、試験例4‐3では、試験例1‐6と同一の成膜条件を設定し、かつ、試験例4‐4では、試験例2‐2と同一の成膜条件を設定した。なお、アニール前の各YIG膜における断面の状態を走査型電子顕微鏡で観察したところ、非晶質の状態であることが認められた。
[X線回折による測定結果]
試験例4‐1から試験例4‐4の各YIG膜について、X線回折装置(D8 Discover、ブルカー社製)を用いて各YIG膜を解析したところ、図5に示すスペクトルが得られた。なお、図5において、スペクトルAが試験例4‐1のYIG膜から得られたスペクトルであり、スペクトルBが試験例4‐2のYIG膜から得られたスペクトルであり、スペクトルCが試験例4‐3のYIG膜から得られたスペクトルであり、スペクトルDが試験例4‐4のYIG膜から得られたスペクトルであった。
試験例4‐1から試験例4‐4の各YIG膜について、X線回折装置(D8 Discover、ブルカー社製)を用いて各YIG膜を解析したところ、図5に示すスペクトルが得られた。なお、図5において、スペクトルAが試験例4‐1のYIG膜から得られたスペクトルであり、スペクトルBが試験例4‐2のYIG膜から得られたスペクトルであり、スペクトルCが試験例4‐3のYIG膜から得られたスペクトルであり、スペクトルDが試験例4‐4のYIG膜から得られたスペクトルであった。
図5が示すように、試験例4‐2および試験例4‐3のYIG膜のスペクトルでは、2θが32°から33°の間に、面方位(420)に由来するピークが認められ、また、2θが35°から36°の間に、面方位(422)に由来するピークが認められた。一方で、試験例4‐1および試験例4‐4のYIG膜のスペクトルでは、面方位(420)に由来するピーク、および、面方位(422)に由来するピークに加えて、2θが28°から29°の間に、面方位(400)に由来するピークが認められた。このように、試験例4‐1から試験例4‐4のYIG膜はいずれも多結晶膜であることが認められた。
また、試験例4‐3および試験例4‐4のYIG膜では、試験例4‐1および試験例4‐2のYIG膜と比べて、ピークの強度が高く、また、ピークの幅が狭いことが認められた。こうした結果から、出力密度が大きいほど、多結晶膜における結晶の大きさが大きくなることが示唆される。より詳しくは、出力密度が3W/cm2以上であれば、出力密度が3W/cm2未満である場合と比べて、多結晶膜における結晶の大きさが大きくなることが示唆される。
[試験例5]
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が97mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2.5kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。GGG基板を準備し、50nmのYIG膜をGGG基板上に形成した。GGG基板には、面方位が(110)である単結晶基板であり、かつ、YIG膜が形成される面が研磨されたGGG基板を用いた。次いで、YIG膜を大気中で加熱した。なお、YIG膜を加熱するときには、YIG膜の温度、すなわちアニール装置における加熱空間の温度を850℃に設定し、加熱する時間を200秒に設定した。また、YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が97mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2.5kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。GGG基板を準備し、50nmのYIG膜をGGG基板上に形成した。GGG基板には、面方位が(110)である単結晶基板であり、かつ、YIG膜が形成される面が研磨されたGGG基板を用いた。次いで、YIG膜を大気中で加熱した。なお、YIG膜を加熱するときには、YIG膜の温度、すなわちアニール装置における加熱空間の温度を850℃に設定し、加熱する時間を200秒に設定した。また、YIG膜を形成するときの成膜条件を以下のように設定した。
[成膜条件]
・真空槽内の圧力 0.04Pa
・T/S距離 135mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 10sccm
・真空槽内の圧力 0.04Pa
・T/S距離 135mm
・プロセスガス Arガス
・ガス流量 10sccm
試験例5では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表4に示す4通りに変更した。
[試験例6]
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が62mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。GGG基板を準備し、50nmのYIG膜をGGG基板上に形成したYIG膜を形成するときの成膜条件のなかで、真空槽内の圧力、T/S距離、プロセスガス、および、ガス流量を試験例5と同一の条件に設定した。また、試験例6では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表5に示す2通りに変更した。
直径が119mmであるYIG焼結体ターゲットと、直径が62mmであり、かつ、ターゲットの被スパッタ面に平行な磁場の強度における最大値が2kOeである磁気回路とをスパッタ装置に搭載した。GGG基板を準備し、50nmのYIG膜をGGG基板上に形成したYIG膜を形成するときの成膜条件のなかで、真空槽内の圧力、T/S距離、プロセスガス、および、ガス流量を試験例5と同一の条件に設定した。また、試験例6では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表5に示す2通りに変更した。
[試験例7]
試験例6と同様のターゲットおよび磁気回路をスパッタ装置に搭載した。T/S距離を335mmに変更し、真空槽内の圧力、プロセスガス、および、ガス流量を試験例5と同一の条件に設定した。また、試験例7では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表6に示す4通りに変更した。
試験例6と同様のターゲットおよび磁気回路をスパッタ装置に搭載した。T/S距離を335mmに変更し、真空槽内の圧力、プロセスガス、および、ガス流量を試験例5と同一の条件に設定した。また、試験例7では、ターゲットに供給する電力および出力密度を以下の表6に示す4通りに変更した。
[膜密度、表面粗さ、および、界面粗さの測定結果]
試験例5から試験例7の各々において形成した各YIG膜の密度(g/cm3)および界面粗さを、X線反射率測定装置(同上)を用いて測定した。また、各YIG膜の表面粗さを、原子間力顕微鏡(E−SWEEP、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。表面粗さとして算術平均粗さRaを測定し、算術平均粗さRaは、JIS B 0601(ISO 4287)に準拠した方法によって測定した。試験例5および試験例6の各YIG膜における測定結果は図6に示す通りであり、また、試験例6および試験例7の各IG膜における測定結果は図7に示す通りであった。
試験例5から試験例7の各々において形成した各YIG膜の密度(g/cm3)および界面粗さを、X線反射率測定装置(同上)を用いて測定した。また、各YIG膜の表面粗さを、原子間力顕微鏡(E−SWEEP、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。表面粗さとして算術平均粗さRaを測定し、算術平均粗さRaは、JIS B 0601(ISO 4287)に準拠した方法によって測定した。試験例5および試験例6の各YIG膜における測定結果は図6に示す通りであり、また、試験例6および試験例7の各IG膜における測定結果は図7に示す通りであった。
なお、図6では、試験例5におけるYIG膜の密度を白抜きの四角で示し、YIG膜の算術平均粗さRaを白抜きの丸で示し、YIG膜と基板との界面における粗さを白抜きの三角で示した。また、図6では、試験例6におけるYIG膜の密度を黒塗りの四角で示し、YIG膜の算術平均粗さRaを黒塗りの丸で示し、YIG膜と基板との界面における粗さを黒塗りの三角で示した。図7では、試験例6における測定結果を図6と同様の方法で示し、かつ、試験例7におけるYIG膜の密度を白抜きの四角で示し、YIG膜の算術平均粗さRaを白抜きの丸で示し、YIG膜と基板との界面における粗さを白抜きの三角で示した。
図6が示すように、試験例1から試験例3において得られた結果と同様、出力密度が大きくなるほど、YIG膜の密度が高くなる傾向が認められた。より詳しくは、出力密度が3W/cm2以上8W/cm2以下であれば、YIG膜の密度をYIG結晶の密度に近づけることが可能であることが認められた。加えて、YIG膜の密度が高くなるほど、YIG膜の表面における算術平均粗さRaが小さくなる傾向が認められた。しかも、出力密度が3W/cm2以上であることによって、出力密度が3W/cm2未満である場合と比べて、算術平均粗さRaが大幅に改善され、かつ、1nm以下になることが認められた。これらの結果から、出力密度が大きくなるほど、結晶性の高いYIG膜が形成されることが示唆される。
これに対して、YIG膜と基板との界面における粗さが、出力密度が大きくなるほど高くなる傾向が認められた。ただし、出力密度が8W/cm2以下であれば、界面における粗さが2nmを超えないことが認められた。こうした結果から、出力密度が高くなることに伴って、基板に入射するスパッタ粒子のエネルギーが高くなるために、YIG膜と基板との界面において、スパッタ粒子と基板の表面を構成する原子とが混合していることが示唆される。
図7が示すように、T/S距離を大きくしても、YIG膜の密度、および、YIG膜の表面における算術平均粗さRaの値はほぼ同様である一方で、YIG膜と基板との界面における粗さが小さくなることが認められた。しかも、出力密度が3W/cm2以上8W/cm2以下であれば、YIG膜の表面における算術平均粗さRa、および、YIG膜とGGG基板との界面における粗さの両方が1nm以下であることが認められた。こうした結果から、T/S距離を大きくすることによって、真空槽内のガスの分子によってスパッタ粒子が散乱されるために、スパッタ粒子と基板の表面を構成する原子との混合が抑えられたことが示唆される。
図8は、YIG膜の表面を原子間力顕微鏡(E−SWEEP、(株)日立ハイテクサイエンス製)で測定することによって得られたAFM像である。図8(a)は試験例7‐2のYIG膜におけるAFM像であり、図8(b)は試験例7‐3のYIG膜におけるAFM像であり、図8(c)は試験例7‐4のYIG膜におけるAFM像である。なお、試験例7‐2のYIG膜における算術平均粗さRaが0.11nmであり、試験例7‐3のYIG膜における算術平均粗さRaが0.11nmであり、試験例7‐4のYIG膜における算術平均粗さRaが0.09nmであることが認められた。
図8が示すように、試験例7‐2および試験例7‐3のYIG膜では、試験例7‐4のYIG膜よりも明確なステップテラス構造が認められた。さらには、試験例7‐2のYIG膜において、ステップテラス構造がより整っていることが認められた。こうした結果から、試験例7‐2のYIG膜において、試験例7‐3および試験例7‐4のYIG膜よりも結晶性が高いことが示唆される。このように、出力密度が8W/cm2以下であれば、YIG膜の結晶性が高められることが示唆される。
[YIG膜の強磁性共鳴スペクトル]
電子スピン共鳴装置(JES FA200、日本電子(株)製)を用いて、試験例7‐2、試験例7‐3、および、試験例7‐4の各々の積層体における強磁性共鳴(FMR)スペクトルを得た。
電子スピン共鳴装置(JES FA200、日本電子(株)製)を用いて、試験例7‐2、試験例7‐3、および、試験例7‐4の各々の積層体における強磁性共鳴(FMR)スペクトルを得た。
図9が示すように、試験例7‐2のスペクトルとしてスペクトルAが得られ、試験例7‐3のスペクトルとしてスペクトルBが得られ、試験例7‐4のスペクトルとしてスペクトルCが得られた。これらのスペクトルにおいて、試験例7‐2の吸収ピーク幅が最も小さく、かつ、2.79Oeであることが認められた。なお、試験例7‐3の吸収ピーク幅は5.13Oeであり、試験例7‐4の吸収ピーク幅は8.83Oeであることが認められた。こうした結果から、試験例7‐2のYIG膜の表面におけるステップテラス構造が最も整っている、言い換えれば試験例7‐2のYIG膜の表面における結晶格子の乱れが最も抑えられていることが示唆される。
[総括]
上述した試験例における各結果によれば、(a)および(b)を満たすことによって、YIG膜の表面における算術平均粗さRaが低下し、また、YIG膜の密度がYIG結晶の密度に近づくことが認められた。こうした成膜条件にて形成された膜は、磁気特性も優れた膜であるため、熱電変換素子における熱電変換効率も高められる。
上述した試験例における各結果によれば、(a)および(b)を満たすことによって、YIG膜の表面における算術平均粗さRaが低下し、また、YIG膜の密度がYIG結晶の密度に近づくことが認められた。こうした成膜条件にて形成された膜は、磁気特性も優れた膜であるため、熱電変換素子における熱電変換効率も高められる。
以上説明したように、磁性膜の形成方法、および、熱電変換素子の一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)磁性膜MFの表面における平坦性が高められることで、熱電変換素子30での変換効率を高めることができる。
(1)磁性膜MFの表面における平坦性が高められることで、熱電変換素子30での変換効率を高めることができる。
(2)熱電変換素子30として用いることに適した薄さを有した各種のガーネットフェライトから形成される磁性膜MFにおいて、磁性膜MFの表面における平坦性を高めることができる。
(3)磁性材料がYIGであり、かつ、基板Sの形成する材料がGGGであれば、磁性膜MFの格子定数と基板Sの格子定数との差が小さいため、基板S上に形成された磁性膜MFの表面における平坦性が高められる。
(4)基板Sと磁性膜MFとの間の界面における粗さが1nm以下であることによって、熱電変換素子30での変換効率を高めることができる。
10…スパッタ装置、11…真空槽、12,22…支持部、13…ターゲット、14…バッキングプレート、15…ターゲット電源、16…磁気回路、17…排気部、18…ガス供給部、20…アニール装置、21…収容槽、23…加熱部、30…熱電変換素子、MF…磁性膜、PM…常磁性膜、S…基板。
Claims (5)
- 酸素を含み絶縁性を有した磁性材料を主成分とするターゲットをスパッタして成膜対象に非晶質な磁性膜を形成することと、
前記非晶質な磁性膜を加熱して、前記磁性膜を結晶化させることと、を含み、
前記磁性膜を形成することは、
前記ターゲットの被スパッタ面に平行であり、かつ、強度が2000Oe以上3000Oe以下である磁場を形成することと、
前記磁場を形成する磁気回路の面積に対する前記ターゲットに供給される電力の比が、3W/cm2以上8W/cm2以下であることと、
前記成膜対象の温度が150℃以下であることと、を含み、
前記磁性膜を結晶化させることは、
前記磁性膜が大気中に配置されることと、
前記磁性膜の温度が600℃以上1200℃以下であることを含む
磁性膜の形成方法。 - 前記磁性材料は、化学式がR3Fe5O12であるガーネットフェライトであり、
Rは、Y、Ca、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、および、Biから構成される群から選択される少なくとも1つであり、
前記磁性膜の厚さは、1000nm以下である
請求項1に記載の磁性膜の形成方法。 - 前記磁性材料が、イットリウム鉄ガーネットであり、
前記成膜対象を形成する材料が、ガドリニウムガリウムガーネットである
請求項1または2に記載の磁性膜の形成方法。 - 前記磁性膜を形成することは、
前記成膜対象と前記磁性膜との間の界面における粗さが1nm以下であるように、前記ターゲットと前記成膜対象の表面との間の距離が、135mm以上335mm以下であることを含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の磁性膜の形成方法。 - 成膜対象と、
前記成膜対象に接する磁性膜と、を備え、
前記磁性膜が、酸素を含み絶縁性を有した磁性材料から形成された膜であり、
前記成膜対象と前記磁性膜との界面における粗さが1nm以下である
熱電変換素子。
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-
2018
- 2018-04-24 JP JP2018082932A patent/JP2019192750A/ja active Pending
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