JP2019182814A - 生体リズム調整剤及び生体リズム調整用医薬組成物 - Google Patents

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茂弘 大戸
Shigehiro Oto
茂弘 大戸
直哉 松永
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直哉 松永
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Abstract

【課題】新規な生体リズム調整剤、及び生体リズム調整用医薬組成物を提供する。【解決手段】プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質を有効成分として含有する生体リズム調整剤、該生体リズム調整剤と薬学的に許容される担体とを含有する、生体リズム調整用医薬組成物、及び点眼剤である前記生体リズム調整用医薬組成物。【選択図】図6

Description

本発明は、生体リズム調整剤及び生体リズム調整用医薬組成物に関する。
身体の様々な機能は24時間の概日周期に従い、活動性が変化する。この生体リズムは、脳内の体内時計機能を持つ神経である視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCN)により制御されている。体内時計の位相を操作することで生体リズムを変化・調整することは可能であるが、ヒトに応用できる手法は限られている。よく知られているのは目からの光刺激であるが、光照射装置が必要である。
プロスタグランジンF2α誘導体であるラタノプロストは、点眼剤として緑内障や高眼圧症の治療に用いられることが知られている(特許文献1)が、生体リズムへの作用については知られていない。
米国特許第5296504号明細書
このような背景のもと、体内時計機構を操作し、生体リズムの位相を調整し、時差ボケや概日リズム障害等の治療に有効な医薬品の開発が求められている。本発明は、新たな生体リズム調整剤、及び生体リズム調整用医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明は以下の態様を含む。
[1]プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質を有効成分として含有する、生体リズム調整剤。
[2]前記プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質が、プロスタグランジンF2α又はその誘導体である、[1]に記載の生体リズム調整剤。
[3]前記プロスタグランジンF2α誘導体がラタノプロストである、[2]に記載の生体リズム調整剤。
[4]前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の生体リズム調整剤と薬学的に許容される担体とを含有する、生体リズム調整用医薬組成物。
[5]前記医薬組成物が点眼剤である、[4]に記載の医薬組成物。
本発明によれば、生体リズムを調整し、時差ボケや生体リズム障害等の治療に有用な生体リズム調整剤、及び生体リズム調整用医薬組成物を提供することができる。
実験例1において、Per2 Lucノックインマウス眼球のPer2転写リズムに及ぼすラタノプロストの影響を示した図である。 実験例2において、明暗周期サイクルの位相操作時におけるマウスの行動リズムに及ぼすFP受容体の影響を示した図である。 実験例3において、恒暗条件下で飼育したマウスの行動リズムに及ぼすFP受容体の影響を示した図である。 実験例4において、眼球における時計遺伝子Per2及びCry1の発現量の概日リズムを示した図である。 実験例5において、恒暗条件下で飼育したマウス行動リズムに及ぼすラタノプロスト点眼時刻の影響を示した図である。 実験例6において、恒暗条件下で飼育したFPKOマウスの行動リズムに及ぼすラタノプロスト点眼の影響を示した図である。 実験例7において、恒暗条件下で飼育したマウスSCNの時計遺伝子Per1及びPer2の発現リズムに及ぼすラタノプロスト点眼の影響を示した図である。 実験例8において、恒暗条件下で飼育したマウス肝臓の時計遺伝子Per2遺伝子発現に及ぼすラタノプロスト点眼の影響を示した図である。 実験例9において、恒暗条件下で飼育したマウスSCNの時計遺伝子Per1、Per2及びc−Fosの発現に及ぼす光刺激単独およびラタノプロスト点眼後の光刺激の影響を示した図である。 実験例10において、CL57BL/6jマウス眼球におけるFP受容体及びOpn4(メラノプシン)の発現量を示した図である。
[生体リズム調整剤]
1実施形態において、本発明は、プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質を有効成分として含有する、生体リズム調整剤を提供する。
プロスタグランジンF2α受容体(以下、FP受容体という)は、プロスタグランジンF2αが結合することにより活性化される分子である。実施例において後述するように、本発明者らは、FP受容体が、明暗周期サイクルの位相操作時における行動リズムに影響を及ぼすことを明らかにした。
明暗周期に対応した行動リズムは、哺乳動物では目からの光刺激が脳の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCN)へ到達し、光により時計遺伝子がリセットされることで明暗サイクルに同調した行動リズムが形成される。この明暗周期を変化させると、明暗サイクルに同調して行動リズムが変化する。本発明に係る、FP受容体は、この明暗周期変動に対する行動リズム変化に関与し、FP受容体が活性化されると、明暗周期変動に対応して行動リズムが変化する。一方、FP受容体が不活化されると、明暗周期が変動しても行動リズムの変化が著しく減弱する。
本発明に係る、FP受容体を活性化させる物質としては、プロスタグランジンF2α又はその誘導体等が挙げられる。プロスタグランジンF2α誘導体としては、FP受容体を活性化させることができるプロスタグランジンF2αの誘導体であれば、特に制限はないが、例えば、ラタノプロスト(Latanoprost)、ビマトプロスト(Bimatoprost)、トラボプロスト(Travoprost)、カルボプロスト(Carboprost)、タフルプロスト(Tafluprost)等が挙げられる。
本発明に係る、FP受容体を活性化させる物質は、生体リズムの調整作用を有する。本発明において、生体リズムの調整作用とは、生体リズムの位相を調整する作用を意味する。生体リズムの調整作用としては、生体リズムを調整する作用であれば、特に制限はないが、例えば、暗闇での光刺激を減弱する作用や、暗闇での光刺激と同様の作用等が挙げられる。暗闇での光刺激を減弱する作用を有する生体リズム調整剤は、例えば、夜間に光に暴露される環境に置かれることによる、睡眠障害等の生体リズムの乱れを改善させることができる。また、暗闇で光刺激と同様の作用を有する生体リズム調整剤は、例えば、時差ボケの改善等に用いることができる。
生体リズムの変化は、マウスの行動解析装置であるClock labを用いた行動解析、臓器中の時計遺伝子の発現量や発現時間の変動を調べること等により、調べることができる。時計遺伝子は、概日リズム(体内時計)をつかさどる遺伝子群であり、Per1、Per2、Cry1、Bmal1等が挙げられる。
[生体リズム調整作用の評価]
生体リズム調整作用は、本願発明に係るプロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質を投与後、当該物質が生体リズムの調整作用を有するか否かにより評価することができる。生体リズム調整作用の評価は、生体リズム調整作用を評価できれば、特に制限はないが、例えば、以下の方法により行うことができる。
1.暗闇での光刺激減弱作用の評価
暗闇での光刺激減弱作用は、恒暗条件下、FP受容体を活性化させる物質を投与後、光を15分間照射した後、1時間経過後の時計遺伝子の発現量を測定することにより、評価することができる。恒暗条件下で光を照射すると、時計遺伝子の発現が変動するが、この変動作用を抑制すれば、暗闇での光刺激減弱作用を有すると判定することができる。又、この変動作用が変化しない、或いは増強させれば、暗闇での光刺激減弱作用を有しないと判定することできる。
2.暗闇での光刺激と同様の作用の有無の評価
暗闇での光刺激と同様の作用を有するか否かは、恒暗条件下、FP受容体を活性化する物質を投与後、マウスの行動を行動解析装置Clock labを用いて解析することにより、評価することができる。恒暗条件下でマウスを飼育すると、マウスの行動周期が変動する。この恒暗条件下でのマウスの行動周期は、光刺激により変化するが、FP受容体を活性化する物質が、光刺激による行動周期と同様に変化させる効果があれば、当該物質は、光刺激と同様の作用を有すると評価することができる。
[医薬組成物]
1実施形態において、本発明は、上述した生体リズム調整剤と薬学的に許容される担体とを含有する、生体リズム調整用医薬組成物を提供する。
上記の医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤、眼科用製剤等の形態で非経口的に投与することができるが、眼科用製剤、特に点眼剤の形態が好ましい。各製剤は、当業者に公知の製剤方法により製造することができる。
点眼剤は、水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤、眼軟膏等のいずれでもよい。このような製剤は、投与形態に適した組成物として、必要に応じて薬学的に許容される担体、特に点眼薬に許容される担体、例えば等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等を配合し、当業者に公知の製剤方法により製造できる。
本発明の点眼薬は、上述した生体リズム調整剤、及び点眼薬に許容される担体を含有するものである。
点眼剤を調製する場合、例えば、所望な上記成分を滅菌精製水、生理食塩水等の水性溶剤、又は綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解又は懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。なお、眼軟膏剤を調製する場合は、前記各種の成分の他に、軟膏基剤を含むことができる。前記軟膏基剤としては、特に限定されないが、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン等の油性基剤; 油相と水相とを界面活性剤等により乳化させた乳剤性基剤; ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等からなる水溶性基剤等が好ましく挙げられる。
本発明の医薬組成物を生体リズム調整のために用いる場合、その投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して、FP受容体を活性化させる物質として、1日0.025〜10000μg、好ましくは0.025〜2000μg、より好ましくは0.1〜2000μg、さらに好ましくは0.1〜200μg、0.1〜100μgの範囲が挙げられる。
また、投与回数は、特に限定されないが、1回又は数回に分けて投与するのが好ましく、液体点眼剤の場合は、1回に1〜数滴点眼すればよい。投与時刻は、生体リズム調整の効果が得られる時刻であれば、特に限定されないが、活動期中に投与するのが好ましい。また、光刺激を減弱する効果を奏するには、光刺激の直前又は、直後、或いは光刺激前後1時間以内に投与するのが好ましい。なお、活動期とは、概日リズムの1サイクルを活動状態と休息状態に2分してみるとき、活動が続くあるいは活動が比較的連続して起こる時間帯のことであり、ヒトでは持続した覚醒期に相当する。マウスなどの夜行性動物では、暗期の生命活動が活発な期間、あるいは実験条件では暗期の時間帯に相当する。
本発明の生体リズム調整用医薬組成物は、生体リズムの調整作用を有する。本発明において、生体リズムの調整作用とは、生体リズムの位相を調整する作用を意味する。生体リズムの調整作用としては、生体リズムを調整する作用であれば、特に制限はないが、例えば、暗闇での光刺激を減弱する作用や、暗闇での光刺激と同様の作用等が挙げられる。暗闇での光刺激を減弱する作用を有する生体リズム調整用医薬組成物は、例えば、夜間の光に暴露される環境に置かれることによる、睡眠障害等の生体リズムの乱れを改善させることができる。また、暗闇で光刺激と同様の作用を有する生体リズム調整用医薬組成物は、例えば、時差ボケの改善等に用いることができる。
本発明の医薬組成物が、生体リズム調整作用を有することは、例えば、上記の[生体リズム調整作用の評価]により調べることができる。
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
[実験例1]
(Per2 Lucノックインマウス眼球のPer2転写リズムに及ぼすラタノプロストの影響)
明暗周期(明期 7:00−19:00)条件下で飼育した7週齢のC57BL/6j雄性マウスの、時計遺伝子Per2遺伝子の下流にルシフェラーゼをノックインしたマウス(以下、Per2 Lucノックインマウスという)を作製し、このPer2 Lucノックインマウスから眼球を摘出し、眼球の形態のまま、培養シャーレで培養した後、Bioluminescent法を用い、ルミサイクル(LumiCycle−32/96)を用いて、経時的にルシフェラーゼ活性を測定した。
ラタノプロスト(キサラタン点眼剤;ファイザー製薬社製)は、培養開始後、Per2遺伝子の発現量が最大(ピーク)となる時間又は、最小(トラフ)になる時間に眼球に添加した。その結果を図1に示す。図1から明らかなように、ラタノプロストは、Per2遺伝子の発現量が最大となる時間に眼球に添加した場合は、Per2遺伝子の発現リズムを後退させた。また、Per2遺伝子の発現量が最小となる時間にラタノプロストを眼球に添加した場合は、Per2遺伝子の発現リズムを前進させた。この結果から、FP受容体を活性化させる物質は、時計遺伝子の一つであるPer2遺伝子の転写活性リズムを変動させることが明らかとなった。
[実験例2]
(明暗周期サイクルの位相操作時におけるマウスの行動リズムに及ぼすFP受容体の影響)
明暗周期(明期 7:00−19:00)条件下で飼育した7週齢のC57BL/6j雄性マウス(以下、野生型マウスという)と、FP受容体を欠損させたPer2 Lucノックインマウス(以下、FPKOマウスという)を行動解析装置(Clock lab)に7日間飼育した後に、照明を8時間早く当てて明期を8時間前進させ、マウスの行動の変化をアクトグラムにより調べ、明暗周期サイクルの変化に対する行動のシフトに及ぼすFP受容体欠損の影響を検証した。その結果を図2に示す。図2(A)の左図は野生型マウス、右図はFPKOマウスのアクトグラムを示す。図2(B)は、野生型マウス及びFPKOマウスの経日的な行動の位相変化を示す(N=4,mean±SE, **;P<0.01,*;P<0.05:two-way ANOVA)。
図2(B)に示したように、野生型マウスは新たな明暗周期に同調するまでに約5日間を要したが、FPKOマウスは約10日間を要した。明暗周期に対応した行動リズムは、哺乳動物では目からの光刺激が脳の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCN)へ到達し、光により時計遺伝子がリセットされることで明暗サイクルに同調した行動リズムが形成される。上記の結果より、FP受容体が欠損している動物では、明暗周期変動に対する行動リズム変化が野生型マウスと比較し遅いことから、光−目−SCNの連関に何らかの機能的変化が生じていると考えられる。
[実験例3]
(恒暗条件下飼育マウスの行動リズムに及ぼすFP受容体の影響)
マウスを行動解析装置(Clock lab)に7日間飼育した後に、照明を8時間早く当てて明期を8時間前進させ、その後は常に照明を消した恒暗条件下で、野生型マウス及びFPKOマウスを飼育し、マウスの行動の変化をアクトグラムにより調べた。この手法は、生体が本来有する体内の自律的な行動リズムを解析する手法として古くより用いられている。結果を図3に示す。図3(A)の左図は野生型マウス、右図はFPKOマウスのアクトグラムを示す。図3(B)の左図は野生型マウス及びFPKOマウスの経日的な行動の位相変化を示す(N=4,mean±SE, *;P<0.05:two-way ANOVA)。図3(B)の右図は野生型マウス及びFPKOマウスの行動の概日リズム周期の長さを示す(N=3-4,mean±SE, **;P<0.01,*;P<0.05:two-way ANOVA)。
図3(B)に示したように、野生型マウスの自律的行動リズムの周期は平均23.58時間であったが、FPKOマウスでは平均24.04時間であった。自律的な行動リズムは、哺乳動物では脳のSCNに発現する時計遺伝子の転写翻訳の24時間サイクルにより制御されている。上記の結果より、FP受容体が欠損している動物では、恒暗条件下の行動リズム周期が野生型マウスと比較し長いことからSCNに存在する時計遺伝子の発現リズムに何らかの機能的変化が生じていると考えられる。
[実験例4]
(恒暗条件下飼育マウス眼球における時計遺伝子発現リズムに及ぼすFP受容体の影響)
マウスを明暗周期(明期 7:00−19:00)条件下で7日間飼育した後に、照明を8時間早く当てて明期を8時間前進させ、その後は常に照明を消した恒暗条件下で、野生型マウス及びFPKOマウスを飼育し、野生型マウスまたはFPKOマウス眼球の時計遺伝子であるPer2及びCry1遺伝子の発現を、Per2遺伝子については、配列番号1で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2で表される塩基配列からなるリバースプライマーとを用い、Cry1遺伝子については、配列番号3で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4で表される塩基配列からなるリバースプライマーとを用いて、リアルタイムPCR法により測定した。コントロールとして、同じく時計遺伝子であるBmal1の発現量を、配列番号5で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号6で表される塩基配列からなるリバースプライマーとを用いて測定した。それぞれの遺伝子発現量は、β−アクチン遺伝子発現量を対照として算出した。なお、β−アクチン遺伝子発現量は、配列番号7で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号8で表される塩基配列からなるリバースプライマーを用いて測定した。その結果を図4に示す。図4において、黒丸は野生型マウス、白丸はFPKOマウスでの結果を示す(N=3,mean±SE, *;P<0.05:two-way ANOVA)。
図4に示したように、時計遺伝子Per2及びCry1の発現リズムがFP受容体の欠損により変化した。Bmal1遺伝子の発現量は、野生型マウスでもFPKOマウスでも変化はなかった。Per2及びCry1は、時計機構の重要な因子であり、その発現量の変化は多彩なリズムの変化をもたらす。この結果より、目の体内時計機構本体にFP受容体が影響を及ぼす可能性が高いことが明らかとなった。
[実験例5]
(恒暗条件下飼育マウス行動リズムに及ぼすラタノプロスト点眼時刻の影響)
野生型マウスを行動解析装置(Clock lab)に7日間飼育した後に、常に照明を消した恒暗条件下で飼育した野生型マウスにおける、自律的行動リズムの位相と周期に及ぼすラタノプロスト点眼時刻の影響を検証した。
具体的には、行動解析装置(Clock lab)に7日間飼育した後に、常に照明を消した恒暗条件下で飼育した野生型マウスに、CT6、CT14、CT22の時刻にそれぞれラタノプロストを点眼し、その後の行動リズムの位相の変化と、各時刻に点眼後の行動リズムの周期を測定した。なお、CT(Circardian Time)とは、恒暗環境下での主観的な時間であり、夜行性動物であるマウスの場合、概日行動リズムの開始点をCT12と定めたものである。CTの1時間は、概日リズムの周期を24等分したものであり、CT6は主観的明期になってから約6時間後に相当する。CT14は、主観的暗期になってから約2時間後の主観的暗期の初期に相当する。CT22は、主観的暗期になってから10時間後に相当する。
その結果を図5に示す。図5(A)は恒暗条件下、飼育した野生型マウスのマウス行動リズムの位相に及ぼすラタノプロスト点眼時刻の影響を示す。図5(B)は恒暗条件下、飼育した野生型マウスのマウス行動リズムの周期に及ぼすラタノプロスト点眼時刻の影響を示す(N=3-4,mean±SE, **;P<0.01:owo-way ANOVA)。
図5(A)から明らかなように、CT14、及びCT22にラタノプロストを点眼したマウスにおいて行動リズムの位相が後退し、その影響はCT14にラタノプロストを点眼したマウスにおいて最も強いことが明らかになった。それに対し、CT6にラタノプロストを点眼したマウスにおいては行動リズムの位相に変化がなかった。この結果、ラタノプロストは、マウスの活動期中に投与することにより行動リズムの位相を後退させる可能性が高いことが明らかとなった。また、図5(B)から明らかなように、行動リズムの周期にはラタノプロストは影響を及ぼさなかった。
[実験例6]
(恒暗条件下飼育FPKOマウス行動リズムに及ぼすラタノプロスト点眼の影響)
ラタノプロストの、行動リズムの位相への作用がFP受容体を介して生じているか否かを検証した。具体的には、実験例5と同じ条件で飼育した野生型マウス及びFPKOマウスにラタノプロストの影響が最も強い時刻であるCT14に点眼し、自律的行動リズムに及ぼす影響をアクトグラムにより確認した。
その結果を図6に示す。図6(A)の上図は野生型マウス、下図はFPKOマウスのアクトグラムをそれぞれ示す。矢印は、生理食塩水(Saline)又はラタノプロスト点眼時刻を示す。図6(B)は野生型マウス及びFPKOマウスの行動の概日周期の変化を数値で示す(N=3-4,mean±SE, **;P<0.01:two-way ANOVA)。
図6(A)及び(B)に示したように、野生型マウスの行動リズムはラタノプロストの点眼により位相が1.5時間程後退したが、FPKOマウスにおいてはその効果は認められなかった。自律的な行動リズムは、哺乳動物では脳のSCNに発現する時計遺伝子の転写翻訳の24時間サイクルにより制御されている。この結果より、野性型マウスではラタノプロスト点眼により行動周期が短縮したことから、目−SCN−行動の連関のなんらかのシグナルにFP受容体が影響を及ぼしている可能性がある。また、ラタノプロストの点眼により位相が後退したことから、ラタノプロストの点眼は、哺乳動物において光刺激と同様の効果があることが明らかとなった。
[実験例7]
(恒暗条件下飼育マウスSCNの時計遺伝子発現に及ぼすラタノプロスト点眼の影響)
上記実験例6の結果、恒暗条件下の行動リズムにおいて、ラタノプロスト点眼により行動リズムの周期が変容したことから、脳のSCNの時計遺伝子Per1及びPer2遺伝子発現量に及ぼすラタノプロストの影響を検討した。具体的には、マウスを明暗周期(明期 7:00−19:00)条件下で7日間飼育した後に、照明を8時間早く当てて明期を8時間前進させ、その後は常に照明を消した恒暗条件で飼育した野生型マウス及びFPKOマウスにラタノプロスト点眼し、点眼後のSCNにおけるPer1及びPer2遺伝子の発現量を、Per1遺伝子については、配列番号9で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号10で表される塩基配列からなるリバースプライマーとを用い、Per2遺伝子については、配列番号1で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2で表される塩基配列からなるリバースプライマーとを用いて、リアルタイムPCR法により測定した。その結果を図7に示す。図7(A)は、野生型マウス、図7(B)はFPKOマウスの、ラタノプロスト点眼後のSCNのPer1及びPer2遺伝子の発現量を示す(N=3-4,mean±SE, **P<0.01 *;P<0.05:two-way ANOVA)。
図7に示したように、野生型にラタノプロストを点眼した結果、SCNのPer1及びPer2の発現量が変化した。それに対して、FPKOマウスではラタノプロストの点眼による影響は認められなかった。Per1及びPer2は、時計機構の重要な因子であり、その発現量の変化は多彩なリズムの変化をもたらす。この結果より、ラタノプロスト点眼は時計中枢の時計遺伝子の発現量に影響を及ぼす可能性が高いことが明らかとなった。
[実験例8]
(恒暗条件下飼育マウス肝臓の時計遺伝子発現リズムに及ぼすラタノプロスト点眼の影響)
末梢臓器である肝臓における、ラタノプロスト点眼による肝臓のPer2遺伝子の発現量に及ぼす影響をin vivoイメージングを用いて測定した。具体的には、マウスを明暗周期(明期 7:00−19:00)条件下で7日間飼育した後に、照明を8時間早く当てて明期を8時間前進させ、その後は常に照明を消した恒暗条件で飼育した野生型マウス及びFPKOマウスにラタノプロストを点眼し、60分経過後に、肝臓におけるPer2遺伝子の発現量を、リアルタイムBioluminescent法を用いて測定した。その結果を図8に示す。
図8に示すように、野生型マウスにラタノプロスト点眼した結果、肝臓のPer2遺伝子の発現量が増加した。それに対して、FPKOマウスではラタノプロスト点眼により肝臓のPer2遺伝子の発現量に変化は認められなかった。この結果、ラタノプロストの点眼は脳の時計遺伝子のみならず、末梢の臓器である肝臓おいて発現する時計遺伝子に対しても影響を及ぼす可能性が高いことが明らかとなった。
[実験例9]
(恒暗条件下飼育マウスSCNの時計遺伝子発現に及ぼす光刺激および光刺激とラタノプロスト点眼併用の影響)
恒暗条件下で飼育したマウスに光を照射する条件またはラタノプロスト点眼後に光照射を併用する条件を試した際のSCNの時計遺伝子Per1、Per2及びc−Fos遺伝子の発現量に及ぼすFP受容体の影響を検討した。具体的には、マウスを明暗周期(明期 7:00−19:00)条件下で7日間飼育した後に、照明を8時間早く当てて明期を8時間前進させ、その後は常に照明を消した恒暗条件で7日間飼育した野生型マウス及びFPKOマウスに、ラタノプロストを点眼し、その後光を15分間照射し、1時間経過後のSCNにおける時計遺伝子Per1、Per2及びc−Fos遺伝子の発現量を、Per1については、配列番号11で表される塩基配列からなるプローブ、Per2については、配列番号12で表される塩基配列からなるプローブ、c−Fosについては、配列番号13で表される塩基配列からなるプローブをそれぞれ用いて、in situハイブリダイゼーション法を用いて測定した。コントロールとして、ラタノプロストを点眼せずに、光を15分間照射し、1時間経過後の時計遺伝子の発現量を測定した。その結果を図9に示す。図9(A)は、コントロールである、ラタノプロスト非点眼群における、時計遺伝子Per1、Per2及びc−Fos遺伝子の発現量を示す。図9(B)は、ラタノプロスト点眼群における、時計遺伝子Per1、Per2及びc−Fos遺伝子の発現量を示す。
図9(A)に示したように、野生型マウスに15分間光で刺激すると、1時間経過後のSCNにおけるPer1、Per2及びc−Fos遺伝子の発現量は有意に増加した。それに対して、FPKOマウスでは、これら遺伝子の発現量の変化は軽微であった。また、図9(B)に示したように、ラタノプロスト点眼後に15分間光で刺激をすると、野生型マウスのSCNの各種遺伝子発現量には有意な変化が認められなかった。また、FPKOマウスについても同様な結果が認められた。
光の刺激によりSCNの時計遺伝子の発現が変化し体内時計がリセットされる。上記の結果より野生型マウスでは光刺激でSCNの時計遺伝子の発現量が変化していたことから、野生型マウスでは光による同調機構が働いており、この同調機構はラタノプロストの投与により抑制されることが示唆された。それに対し、FPKOマウスでは光による同調機構は著しく減弱しており、ラタノプロストも時計遺伝子の発現調節に作用しないことが示唆された。この結果より、光−目−SCNの連関のシグナルにFP受容体が関連している可能性があり、ラタノプロストは、光刺激によるFP受容体を介するSCNへの作用を抑制する効果があること明らかとなった。
[実験例10]
(マウス眼球におけるFP受容体及びOpn4(melanopsin)発現量の解析)
現在、目を介した光刺激による体内時計の中枢であるSCNに発現する時計遺伝子の再同調に最も重要な細胞として、網膜に発現するOpn4(メラノプシン;melanopsin)発現陽性細胞[光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive RGC:ipRGC)]が認められている。
光は、ipRGCに発現する、Gタンパク質共役受容体(GPCR)である光受容体Opn4に作用し、細胞内へのカルシウムイオンの流入を促進させ、SCNにその刺激を投射する役割を果たす。その一方で、FP受容体も同様にGPCRであり、活性化物質の作用によりカルシウムイオンの細胞内流入を促進させる分子である。上記の実験例の結果より、FP受容体を活性化させる物質である、ラタノプロストの点眼は光と同じか、若しくは光と拮抗するようにSCNの時計遺伝子の発現に影響を及ぼすことが判明した。このことから、ラタノプロストの点眼はipRGCに発現するFP受容体に作用している可能性がある。
しかしながら、ipRGCにFP受容体が発現しているか否か不明である。そこで、マウスから眼球を摘出し、FP受容体およびOpn4の発現量を測定した。具体的には、C57BL/6j雄性マウスの眼球の切片をホルマリン固定後、クライオスタットにより組織切片(14μm)を作製し、その後、一次抗体として、FP受容体に対する抗体(BOSTER BIOLOGICAL TECHNOLOGY社製)及びOpn4に対する抗体(Thermo Fisher社製)を用い、二次抗体として、ウサギCy3IgG(Zenon Rabbit IgG labeling Kits Alexa Fluor 488) を用い、ipRGCを免疫染色した。
その結果を図10に示す。図10において、GCLは、ganglion cell layer、IPLは、in some cell processes spanning the entire inner plexiform layer、INLは、inner nuclear layer、 ONLは、outer nuclear layerをそれぞれ示す。図10の上図は、眼球のGCL、IPL、INL及びONLのFP受容体とOpn4(メラノプシン)の染色像を示す。図10の下図は、上図の丸で囲った部分のFP受容体(左)、Opn4(中央)の染色像と、FP受容体とOpn4の染色像を重ねた図(右)を示す。
図10から、GCLに存在するOpn4発現細胞にFP受容体が発現していることが明らかとなった。この結果から、ラタノプロストの点眼により、ラタノプロストはGCLに発現するipRGCのFP受容体に作用し、SCNに発現する時計遺伝子に影響を及ぼしている可能性があることが明らかとなった。
本発明によれば、プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質を有効成分として含有する、生体リズム調整剤、及び該生体リズム調整剤と薬学的に許容される担体とを含有する、生体リズム調整用医薬組成物を提供することができる。

Claims (5)

  1. プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質を有効成分として含有する、生体リズム調整剤。
  2. 前記プロスタグランジンF2α受容体を活性化させる物質が、プロスタグランジンF2α又はその誘導体である、請求項1に記載の生体リズム調整剤。
  3. 前記プロスタグランジンF2α誘導体がラタノプロストである、請求項2に記載の生体リズム調整剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体リズム調整剤と薬学的に許容される担体とを含有する、生体リズム調整用医薬組成物。
  5. 前記医薬組成物が点眼剤である、請求項4に記載の医薬組成物。
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