以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係るジェットエンジンの整備時期予測システムを示す説明図、である。
図1に示す本実施形態のジェットエンジンの整備時期予測システム1は、図2の斜視図に示す航空機ACの左右の主翼LW,RWにそれぞれ搭載されたジェットエンジンLE,RE(請求項中のガスタービンに相当)の整備時期の予測等を行うものである。以下、ジェットエンジンの整備時期予測システム1を予測システム1と略記する。
なお、図2に示す左右の主翼LW,RWにジェットエンジンLE,REを1基ずつ搭載した航空機ACはあくまで一例であって、予測システム1で整備時期の予測等を行う航空機に搭載されたジェットエンジンの基数や位置は、図2の例に示す航空機ACのパターンには限定されない。
そして、図1に示す本実施形態の予測システム1は、解析用コンピュータ3とデータサーバ5とを有している。解析用コンピュータ3とデータサーバ5とは、本実施形態では個別のコンピュータで構成している。しかし、解析用コンピュータ3とデータサーバ5とを1つのコンピュータで構成することもできる。
解析用コンピュータ3は、各航空機AC毎に、各ジェットエンジンLE,REの整備時期の予測や推奨の整備内容の決定をそれぞれ行う。
解析用コンピュータ3による整備時期の予測や推奨の整備内容の決定は、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,REの振動の振幅(単位:A/U(Aircraft Unit) )を示す振動データや、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,REが過去に行った整備の履歴等に基づいて行われる。各航空機ACの振動データは、後述する管理システムのデータ収集コンピュータ(以下、「収集コンピュータ」と略記する。)7が各航空機ACから受け取って蓄積している運航データに含まれている。
データサーバ5は、ハードディスクや半導体メモリを用いた大容量記憶装置を有している。データサーバ5の大容量記憶装置は、解析用コンピュータ3が各ジェットエンジンLE,REについて予測した整備時期や決定した推奨の整備内容に関するデータを蓄積するデータベースとして機能する。
また、データサーバ5の大容量記憶装置には、解析用コンピュータ3が整備時期を予測する際に用いるモデル(振動予測モデル)や、推奨する整備内容を決定する際に用いる整備効果を予測するモデル(整備効果予測モデル)等が、それぞれのモデルのパラメータ(モデルパラメータ)と共に記憶される。これらのデータやモデル等のうち必要なものは、新しい内容が解析用コンピュータ3からデータサーバ5に入力される毎に、最新の内容に更新される。
データサーバ5の大容量記憶装置におけるデータやモデル等を記憶するアドレスや記憶領域の割り振りは、データベースマネージャとして機能するデータベース管理コンピュータ(以下、「管理コンピュータ」と略記する。)9が管理する。
例えば、管理コンピュータ9のデータベースマネージャは、データの出力に関するクエリの設定入力を受け付ける。このクエリは、例えば、エンドユーザ(例えば、航空会社や航空機リース会社)がユーザ端末111〜11nからデータサーバ5にリクエストできるデータのダウンロード内容に関する抽出条件である。そして、受け付けたクエリの設定入力内容に応じて、データサーバ5の大容量記憶装置におけるデータやモデル等を記憶させるアドレスや記憶領域を割り振る。
なお、管理システムの収集コンピュータ7と管理コンピュータ9とは、本実施形態では個別のコンピュータで構成している。しかし、収集コンピュータ7と管理コンピュータ9とを1つのコンピュータで構成することもできる。
また、管理システムの収集コンピュータ7や管理コンピュータ9は、解析用コンピュータ3やデータサーバ5とは別のコンピュータで構成することができ、解析用コンピュータ3やデータサーバ5と同じコンピュータで構成することもできる。
管理システムの収集コンピュータ7は、例えば、ACARS(Automatic Communications Addressing and Reporting System:空地デジタルデータリンクシステム)を利用して、運航中の航空機ACの運航データを航空機ACから受け取ることができる。
収集コンピュータ7が受け取る航空機ACの運航データは、航空機ACが搭載しているジェットエンジンLE,REの振動データや、送信元の航空機ACの機体番号、運航データの送信日時、そして、振動データの対象を示すジェットエンジンLE,REの個体識別情報等とを含んでいる。
収集コンピュータ7は、ハードディスクや半導体メモリを用いた大容量記憶装置を有している。大容量記憶装置の一部の領域は、運航データのデータベース13を構成している。また、大容量記憶装置の他の領域には、整備履歴ファイル15、機体設定ファイル17、特徴量設定ファイル19、及び、フラグ設定ファイル21が記憶されている。
運航データのデータベース13には、管理システムの収集コンピュータ7が各航空機ACから受け取った運航データが航空機AC別に蓄積される。
整備履歴ファイル15は、過去にジェットエンジンLE,REに対してそれぞれ行われた整備の日時や内容を示す整備履歴を、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE別に蓄積したものである。
整備履歴ファイル15の整備履歴は、各ジェットエンジンLE,REの振動の振幅が整備実施基準値(例えば、4A/U)を超えて各ジェットエンジンLE,REが整備を行ったときの履歴を含んでいる。この履歴は、整備を行った日時や行った整備の内容を含んでいる。
機体設定ファイル17は、航空機ACの機体番号を蓄積したものである。航空機ACの機体番号は、解析用コンピュータ3が整備時期の予測や推奨する整備内容の決定を行う対象のジェットエンジンLE,REを特定するために利用される。
特徴量設定ファイル19は、管理システムの収集コンピュータ7が航空機ACから受け取った運航データにおける振動データの特徴量の定義を設定した内容を蓄積したものである。振動データの特徴量は、解析用コンピュータ3が、振動予測モデルを用いてジェットエンジンLE,REの整備時期を予測したり、整備効果予測モデルを用いて推奨の整備内容を決定する際に利用される。
振動データの特徴量は、対応するジェットエンジンLE,REを搭載した航空機ACから管理システムの収集コンピュータ7が受け取った運航データの振動データから、解析用コンピュータ3によって算出される。
なお、振動データの特徴量の定義は、振動予測モデルに用いる特徴量と整備効果予測モデルに用いる特徴量とで異なる。このため、特徴量設定ファイル19には、振動予測モデルに用いる特徴量の定義の内容と整備効果予測モデルに用いる特徴量の定義の内容とがそれぞれ蓄積される。各モデルに用いる特徴量の定義については後述する。
フラグ設定ファイル21は、管理システムの収集コンピュータ7が航空機ACから受け取った運航データにおける振動データの振幅が許容値オーバーであるか否かを示すフラグの定義を設定した内容を蓄積したものである。
ここで言う許容値には、ジェットエンジンLE,REの整備を行うきっかけとする整備実施基準値と、推奨する整備内容を決定する際の基準とする整備効果基準値とが含まれる。整備実施基準値は、整備履歴ファイル15の説明において先に述べたものである。整備効果基準値(例えば、2A/U)は、整備後のジェットエンジンLE,REの振動の振幅がこの値以下に収まれば、実施する整備の内容として推奨できるものとする目安の値である。
したがって、フラグ設定ファイル21には、航空機ACから受け取った運航データにおける振動データの振幅が整備実施基準値をオーバーしているか否かを示すフラグの定義の内容と、同じく振幅が整備効果基準値(例えば、2A/U)をオーバーしているか否かを示すフラグの定義の内容とがそれぞれ蓄積される。
整備実施基準値オーバーのフラグ及び整備効果基準値オーバーのフラグは、いずれも、オーバーであるが「0」、オーバーでないが「1」と表される。即ち、整備実施基準値や整備効果基準値に対して振動データの振幅が大きいと、フラグの値は「0」となり、整備実施基準値や整備効果基準値に対して振動データの振幅が小さいと、フラグの値は「1」となる。
整備履歴ファイル15の整備履歴、機体設定ファイル17の機体番号、特徴量設定ファイル19の特徴量の定義の内容、及び、フラグ設定ファイル21のフラグの定義の内容は、管理システムの収集コンピュータ7に直接又は他のコンピュータを介して入力される。特に、整備履歴ファイル15の整備履歴は、航空機ACの整備部門の担当者によって入力される。
次に、解析用コンピュータ3が行う振動予測モデルの学習処理について、図3(a)を参照して説明する。図3(a)は解析用コンピュータ3が行う振動予測モデルの学習処理の手順を示すフローチャートである。
図3(a)に示す振動予測モデルの学習処理は、例えば1日に1回の周期で定期的に行うことができる。振動予測モデルの学習処理を実行するトリガ条件(請求項中の振動モデル学習トリガ条件に相当)は、上述した1日1回の周期等の時間的周期の到来によって成立するものでも良く、何らかのイベント(動作、状態)が発生することで成立するものでも良い。
そして、振動予測モデルの学習処理において、解析用コンピュータ3は、まず、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、管理システムの収集コンピュータ7のデータベース13に蓄積された各運航データの振動データについて、振動予測モデルに用いる特徴量をそれぞれ生成する(ステップS1)。
詳しくは、解析用コンピュータ3は、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,REの運航データを、収集コンピュータ7のデータベース13からデータサーバ5にそれぞれダウンロードする。
このとき、収集コンピュータ7の整備履歴ファイル15、機体設定ファイル17、特徴量設定ファイル19、及び、フラグ設定ファイル21も併せて、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、データベース13からデータサーバ5にそれぞれダウンロードする。
そして、解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードした各ジェットエンジンLE,REの各運航データにおける振動データについて、振動予測モデルに用いる特徴量をそれぞれ生成する。
なお、このとき、解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードした特徴量設定ファイル19における、振動予測モデルに用いる特徴量の定義の内容にしたがって、各運航データにおける振動データの特徴量をそれぞれ生成する。
具体的には、解析用コンピュータ3は、各運航データの送信日時の日付を基準日とする。そして、解析用コンピュータ3は、各運航データにおける振動データの特徴量を、基準日の前日から遡った過去の一定のフライト分の振動データ(請求項中の抽出対象の振動データ)から計算によって、「基準日における振動データの特徴量」として求める。
図4は管理システムの収集コンピュータ7の特徴量設定ファイル19に蓄積された、振動予測モデルに用いる振動データの特徴量の定義を説明するためのグラフである。図4の縦軸は振動の振幅(N1Vibe、単位A/U)、横軸は日付をそれぞれ示している。
また、グラフ中のプロット点は、収集コンピュータ7が航空機ACからフライト毎に受け取った運航データから取得したジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動データである。航空機ACのフライトが複数回あった日は、同じ日付に複数のプロット点が記されている。
図4に示す例の振動データの特徴量の定義では、丸で囲んだ9月17日(特徴量を計算する日)の基準日における振動データの特徴量を、基準日の前日である9月16日から遡った過去30フライト分の振動データ(破線の枠で囲んだ範囲の計算に使用するデータ)から求める。
但し、基準日における振動データの特徴量を求めるのに用いる、基準日の前日から遡った過去の一定のフライト分の振動データ(図4の例では、9月16日から遡って30フライト分の破線の枠で囲んだ範囲の振動データ)は、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備を行った時点を途中で跨いでいないものとする。
つまり、基準日の前日から遡って30フライト前までの間に、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備を行っている場合は、その基準日における振動データの特徴量は求めない。
なお、振動予測モデルに用いる振動データの特徴量は、直近の一定のフライト分の振動データが示す振幅の、基準日に向けた変動の傾向に影響する要素とすることができる。好ましくは、例えば、計算に使用するデータ(図4中の破線枠内にある振動データの振幅)の平均値や標準偏差等、各振動データの振幅の分布に関係性を有する値を、特徴量とすることが考えられる。該当する値が複数種類存在する場合は、それらをそれぞれ特徴量とする。特徴量の単位は、特徴量の種類を問わず、振幅の単位(A/U)である。
以上のようにして、基準日(図4の例では9月17日)における振動データの特徴量を生成したら、図3(a)に示すように、解析用コンピュータ3は、生成した振動データの特徴量の無次元化処理を行う(ステップS3)。この無次元化処理は、(A/U)を単位とする特徴量を単位のない係数に無次元化する処理である。
無次元化処理は、例えば、以下のような算術工程とすることができる。具体的には、まず、基準日(図4の例では9月17日)における振動データの特徴量の値から、基準日の前日から遡った直近の一定のフライト分(図4の例では9月16日から遡って30フライト分)の振動データ(図4中の破線枠内にある振動データ)の振幅の平均値を減じる。そして、残った差分を、図4中の破線枠内にある振動データの振幅の標準偏差で割る。
この無次元化処理によれば、例えば、各振動データの振幅の平均値を特徴量とした場合は、特徴量を、特徴量と平均値との偏差の標準偏差に対する比率として、振幅の単位(A/U)で表される特徴量を、比率を表す無次元の値にすることができる。
また、各振動データの振幅の標準偏差を特徴量とした場合は、特徴量を標準偏差で割ることで、振幅の単位(A/U)で表される標準偏差の要素を含む特徴量を、比率を表す無次元の値にすることができる。
よって、後述するロジスティック回帰により振動予測モデルを同定する際に、説明変数を減らして回帰学習の最適性を高めることができる。
なお、振動データの特徴量が各振動データの振幅の平均値や標準偏差以外の要素を含んでいる場合にも、各種類の特徴量をそれぞれ、上述した内容の無次元化処理することで、無次元化することができる。この無次元化処理により、基準日におけるサンプルの一部である、基準日における無次元化した振動データの特徴量が取得される。
そして、振動データの特徴量の無次元化により、基準日における振動データの特徴量に特徴的な要素が含まれていれば、その特徴的な内容に応じた値が、無次元化した振動データの特徴量から得られることになる。
取得した振動データの特徴量(無次元化した振動データの特徴量)は、データサーバ5とは別の、解析用コンピュータ3を構成するコンピュータが有する図3(a)のハードディスク23に記憶される。ハードディスク23の無次元化した振動データの特徴量は、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備時期を予測する際に用いる振動予測モデルを同定する際に、説明変数(モデルパラメータ)として利用される。
なお、無次元化した振動データの特徴量を、基準日(図4の例では9月17日)におけるサンプルの一部としてハードディスク23に記憶させる際に、解析用コンピュータ3は、無次元化した振動データの特徴量に「サンプルi」のラベルを付ける。
このラベルは、ハードディスク23に記憶させる無次元化した振動データの特徴量が、i回目(i=1,2,…,n)の学習処理で取得したサンプルであることを示すものである。即ち、無次元化した振動データの特徴量は、その振動データに対応する基準日におけるサンプルiの一部としてハードディスク23に記憶される。
以上のようにして、振動データの特徴量を無次元化したら、図3(a)に示すように、解析用コンピュータ3は、ハードディスク23に記憶された1回目から今回までの全ての回の学習処理でそれぞれ取得した、無次元化した振動データの特徴量にロジスティック回帰を適用して、振動予測モデルを同定する(ステップS5)。無次元化した振動データの特徴量のロジスティック回帰には、振動予測モデルを同定するロジスティック回帰式が用いられる。
図5(a)は振動予測モデルを同定するのに用いるロジスティック回帰式を示す説明図である。振動予測モデルの同定に当たっては、図5(a)の式(1)に示すロジスティック回帰式を最小化する「w」、「c」を求める。なお、式(1)におけるwは回帰係数ベクトル、cは切片を示すスカラーである。
また、式(1)におけるXi Tはサンプルiの特徴量(i番目の学習処理で取得したサンプルの特徴量)の要素(例えば、平均値、標準偏差等)を持つ縦ベクトル(列ベクトル)を行列配置転換した横ベクトル(行ベクトル)である。総和記号(Σn i=1)の変数iは、学習処理の回数(サンプルの取得回)を示す変数iのことである。
なお、サンプルiの特徴量を持つ横ベクトルXi Tを、特徴量の基準日が新しいほど大きい重みで重み付けしてもよい。
さらに、式(1)におけるyiは、サンプルiの特徴量の基準日における振動データの振幅が整備実施基準値(例えば、4A/U)をオーバーしているか否かのフラグの値を示すスカラーである。このスカラーyiは、振動予測モデルを同定するのに当たって解析用コンピュータ3が求める。
即ち、解析用コンピュータ3は、データサーバ5に蓄積された、ステップS1の特徴量の生成の際に基準日とした日付(図4の特徴量を計算する日)の振動データの振幅から、その振幅に対応するスカラーyiを求める。
その際、解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードしたフラグ設定ファイル21における定義にしたがって、基準日の振動データの振幅が整備実施基準値をオーバーしていれば、オーバーであることを意味する「0」のフラグをスカラーyiとする。
また、整備実施基準値をオーバーしていなければ、オーバーでないことを意味する「1」のフラグをスカラーyiとする。これにより、基準日におけるサンプルの一部である、基準日における振動の状態を示すフラグが求まる。
つまり、スカラーyiは、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動の状態を示すフラグ(請求項中の振動評価値に相当)であり、無次元化した振動データの特徴量と共に、i回目の学習処理で取得したサンプルiを構成する。
求めたスカラーyi(振動の状態を示すフラグ)は、基準日におけるサンプルの一部としてハードディスク23に記憶される。ハードディスク23のスカラーyiは、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備時期を予測する際に用いる振動予測モデルを同定する際に、目的変数(モデルパラメータ)として利用される。
なお、スカラーyiをハードディスク23に記憶させる際に、解析用コンピュータ3は、i回目の学習処理で取得したサンプルであることを示す「サンプルi」のラベルを付けて、スカラーyiをハードディスク23に記憶させる。
即ち、スカラーyiは、振動データの特徴量を生成するのに用いた運航データの送信日時の日付を基準日としてハードディスク23に記憶された、無次元化した振動データの特徴量のラベルと同じ「サンプルi」のラベルを付けて、ハードディスク23に記憶される。
なお、振動データの特徴量を求めていない基準日については、その日を基準日とするスカラーyi(振動の状態を示すフラグ)も求めない。
そして、解析用コンピュータ3は、説明変数及び目標変数としてハードディスク23にそれぞれ記憶させた、サンプル1から最新のサンプルiまでの、無次元化した振動データの特徴量(例えば、平均値、標準偏差等)と振動の状態を示すフラグとを用いて、ロジスティック回帰の機械学習を行う。
具体的には、無次元化した振動データの特徴量(例えば、平均値、標準偏差等)を要素とする横ベクトルを、式(1)のロジスティック回帰式の横ベクトルXi Tとし、振動の状態を示すフラグ(「0」又は「1」)をスカラーyiとして、ロジスティック回帰の機械学習を行う。
ところで、基本的なロジスティック回帰では、式(1)における損失関数の部分(式(1)の総和記号(Σn i=1)以降の項の部分)を評価関数として、これを最小化する「w」、「c」を求める。
しかし、損失関数だけを評価関数としてロジスティック回帰を行うと、それによって求まるモデルが複雑化し過学習を起こしやすい。そこで、本実施形態では、損失関数に正規化項を追加して評価関数とし、モデルの最適性とシンプル化との両立を図っている。
なお、式(1)のロジスティック回帰式では、||w||1 が正則化項である。この正規化項は、回帰係数ベクトルwをL1ノルムで正則化したものである。この正則化により回帰係数ベクトルwは、ロジスティック回帰式における寄与度の低い説明変数の係数を「0」にするようにスパース化される。
また、式(1)における総和記号(Σn i=1)の係数Cは正則化パラメータである。正則化パラメータCは、回帰係数ベクトルwのスパース化による正則さと、式(1)の評価関数を最小化する回帰係数ベクトルw及び切片のスカラーcの解の最適さとの、バランスを調節するハイパーパラメータである。
ところで、管理システムの収集コンピュータ7が航空機ACから受け取る運航データにおける振動データの振幅が整備実施基準値をオーバーすると、その振動データに対応するジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)を搭載した航空機ACは、すぐに就航が中止されて整備に出される。
このため、各振動データの振幅が整備実施基準値をオーバーし、解析用コンピュータ3が求めた式(1)のスカラーyiが「0」となる振動データは、データサーバ5にダウンロードされた全てのジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動データに対して、非常にサンプル数が少ない。
そこで、式(1)のスカラーyiが「0」となる振動データのクラスと、データサーバ5にダウンロードされた全ての振動データが属するクラスとの、クラス間のアンバランスさを補正するために、式(1)のロジスティック回帰式では、図5(b)の式(2)に示す係数fiを用いてスカラーyiを補正している。
この係数fiは、データサーバ5にダウンロードされた全てのジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動データに対する、各振動データの振幅から解析用コンピュータ3が求めた式(1)のスカラーyiが「0」となる振動データの割合を示す値である。式(1)のロジスティック回帰式では、図5(a)に示すように、スカラーyiを係数fiで割って補正している。
なお、式(1)のロジスティック回帰式では、回帰係数ベクトルwをL1ノルムで正則化した正則化項||w||1 を用いたが、これに代えて、図5(c)に示す式(3)の、回帰係数ベクトルwをL2ノルムで正則化した正則化項(||w||2 =(WT W)/2)を用いたロジスティック回帰式を用いてもよい。
このようにして、ロジスティック回帰式を最小化する回帰係数ベクトルwと切片を示すスカラーcとが求まると、ロジスティック回帰の際に説明変数及び目的変数として用いたサンプル(無次元化した振動データと振動の状態を示すフラグ)の基準日(図4の例では9月17日)と同じ日付(特定日)における振動予測モデルが求まる。
求めた振動予測モデルはハードディスク23に記憶される。ハードディスク23の振動予測モデルは、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備時期を予測する際に利用される。
なお、求めた振動予測モデルを特定日における振動予測モデルとしてハードディスク23に記憶させる際に、解析用コンピュータ3は、同定した振動予測モデルに「サンプルi」のラベルを付ける。
このラベルは、ハードディスク23に記憶させる振動予測モデルが、i回目(i=1,2,…,n)の学習処理で同定した振動予測モデルであることを示すものである。即ち、振動予測モデルは、説明変数及び目的変数として同定に用いたサンプルの基準日(例えば、図4の9月17日)を特定日とする振動予測モデルとしてハードディスク23に記憶される。
以上に説明した振動予測モデルの学習処理を解析用コンピュータ3が繰り返すことで、振動予測モデルの説明変数とする無次元化した振動データの特徴量と目的変数とする振動の状態を示すフラグ(スカラーyi)とのサンプル数が増える。したがって、ロジスティック回帰式の評価関数を最小化させる回帰係数ベクトルwとスカラーyiを同定する振動予測モデルの学習度が増す。
なお、図3(a)に示す振動予測モデルの学習処理におけるステップS5は、請求項中の振動予測モデル学習ステップに相当しており、ステップS5の処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中の振動予測モデル学習部に相当している。
また、図3(a)の振動予測モデルの学習処理において行われる、ステップS1の振動データの特徴量の生成と、この特徴量及びスカラーyiを含むサンプルの取得とは、請求項中のサンプル取得ステップに相当しており、サンプルの取得処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中のサンプル取得部に相当している。
次に、解析用コンピュータ3が行う振動予測モデルを用いたジェットエンジンLE,REの整備時期予測処理について、図3(b)を参照して説明する。図3(b)は学習した振動予測モデルを用いて解析用コンピュータ3が行うジェットエンジンLE,REの整備時期予測処理の手順を示すフローチャートである。
図3(b)に示すジェットエンジンLE,REの整備時期予測処理は、例えば1日に1回の周期で定期的に行うことができる。なお、図3(a)に示す振動予測モデルの学習処理に続けて、図3(b)に示す整備時期予測処理を一緒に行ってもよい。
また、整備時期の予測処理を実行するトリガ条件(請求項中の振動予測トリガ条件に相当)は、上述した1日1回の周期等の時間的周期の到来によって成立するものでも良く、何らかのイベント(動作、状態)が発生することで成立するものでも良い。
整備時期予測処理の実行条件とするイベントは、例えば、ユーザによる振動予測結果のダウンロードのリクエストが図1のユーザ端末111〜11nからデータサーバ5に入力されたこととしてもよい。
そして、整備時期予測処理において、解析用コンピュータ3は、まず、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、管理システムの収集コンピュータ7のデータベース13に蓄積された各運航データの各振動データから、振動予測モデルを用いて整備時期を予測するのに用いる直近の過去の振動データを抽出する(ステップS11)。
詳しくは、解析用コンピュータ3は、各航空機ACの各ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の運航データを、収集コンピュータ7のデータベース13からデータサーバ5にそれぞれダウンロードする。
このとき、収集コンピュータ7の整備履歴ファイル15、機体設定ファイル17、特徴量設定ファイル19、及び、フラグ設定ファイル21も併せて、各航空機ACの各ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)毎に、データベース13からデータサーバ5にそれぞれダウンロードする。
そして、解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードした各ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の各運航データのうち、直近の過去の運航データにおける振動データを、振動予測モデルを用いて整備時期を予測するのに用いる特徴量を生成する振動データとして抽出する。
次に、解析用コンピュータ3は、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、抽出した直近の過去の運航データの振動データについて、データサーバ5にダウンロードした特徴量設定ファイル19における定義にしたがって、振動予測モデルに用いる特徴量を生成する(ステップS13)。
このときにも解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードした特徴量設定ファイル19における定義にしたがって、抽出した直近の過去の運航データにおける振動データの特徴量を生成する。
即ち、解析用コンピュータ3は、抽出した直近の過去の運航データの送信日時の日付を基準日(直近の過去の基準日)とする。そして、解析用コンピュータ3は、抽出した直近の過去の運航データにおける振動データの特徴量を、基準日の前日から遡った過去の一定のフライト分の振動データ(請求項中の抽出対象の振動データ)から計算によって、「直近の過去の基準日における振動データの特徴量」として求める。
以上のようにして、直近の過去の基準日における振動データの特徴量を生成したら、解析用コンピュータ3は、生成した振動データの特徴量の無次元化処理を行う(ステップS15)。
なお、解析用コンピュータ3が整備時期予測処理において行うステップS15の無次元化処理は、振動予測モデルの学習処理において解析用コンピュータ3が行う図3(a)の無次元化処理と内容が少し異なる。
そして、図3(b)のステップS15における整備時期予測処理の無次元化処理では、解析用コンピュータ3は、まず、直近の過去の基準日(図4の例では9月17日)における振動データの特徴量の値から、振幅の平均値を減じ、残った差分を振幅の標準偏差で割る。
但し、直近の過去の基準日における振動データの特徴量の値から減じる振幅の平均値は、図3(b)に示す解析用コンピュータ3のハードディスク23に記憶された、過去の振動予測モデルの学習処理の際に取得した全てのサンプルi(i=1,2,・・・,n)の特徴量を生成するのに用いた各振動データの振幅の平均値とする。
また、残った差分を割る振幅の標準偏差は、ハードディスク23に記憶された全てのサンプルi(i=1,2,・・・,n)の特徴量を生成するのに用いた各振動データの振幅の標準偏差とする。
上述した無次元化処理によっても、振動予測モデルの学習処理における振動データの特徴量の無次元化処理と同様に、振幅の単位(A/U)で表される直近の過去の基準日における振動データの特徴量を、比率を表す無次元の値にして、振動予測モデルを用いてジェットエンジンLE,REの将来の振動の状態を予測する際の予測精度を高めることができる。
そして、直近の過去の基準日における振動データの特徴量の無次元化により、振動予測モデルを用いてジェットエンジンLE,REの将来の振動の状態を予測する予測開始日におけるサンプルの一部である、予測開始日における無次元化した直近の過去の振動データの特徴量が取得される。
また、この無次元化により、直近の過去の基準日における振動データの特徴量に特徴的な要素が含まれていれば、その特徴的な内容に応じた値が、無次元化した直近の過去の振動データの特徴量から得られることになる。
取得した振動データの特徴量(無次元化した直近の過去の振動データの特徴量)は、振動予測モデルの学習処理において取得した無次元化した振動データの特徴量とは区別して、ハードディスク23に記憶される。ハードディスク23の無次元化した直近の過去の振動データの特徴量は、振動予測モデルを用いてジェットエンジンLE,REの将来の振動の状態を予測する際に、説明変数(モデルパラメータ)として利用される。
なお、無次元化した直近の過去の振動データの特徴量を、予測開始日におけるサンプルの一部としてハードディスク23に記憶させる際に、解析用コンピュータ3は、無次元化した直近の過去の振動データの特徴量をラベルを付ける。
このラベルは、ハードディスク23に記憶させる無次元化した直近の過去の振動データの特徴量が、振動予測モデルを用いてジェットエンジンLE,REの将来の振動の状態を予測するためのサンプルであることを示すものである。即ち、無次元化した直近の過去の振動データの特徴量は、予測開始日におけるサンプルの一部としてハードディスク23に記憶される。
以上のようにして、直近の過去の振動データの特徴量を無次元化したら、図3(b)に示すように、解析用コンピュータ3は、無次元化した直近の過去の振動データの特徴量を説明変数として、振動予測モデルにより対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の将来の振動の状態を予測する(ステップS17)。
このとき、解析用コンピュータ3は、ハードディスク23に記憶されたサンプルi(i=1〜n)のうち、サンプルiの一部として記憶された無次元化した振動データの特徴量が、ステップS15で無次元化した直近の過去の振動データの特徴量に最も近い、特定のサンプルiを抽出する。
そして、抽出した特定のサンプルiの基準日を予測開始日とし、予測開始日からその複数日後(例えば8日後)までの日付を特定日とするハードディスク23の複数の振動予測モデルの横ベクトルXi Tに、ステップS15で無次元化した直近の過去の振動データの特徴量の要素をそれぞれ当てはめる。これにより、予測開始日から複数日後の将来までに亘って、各振動予測モデルのスカラーyiの値をそれぞれ求める(0≦yi≦1)。
このようにして求まったスカラーyiの値は、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の将来の振幅の予測値となる。そして、求まったスカラーyiの値は、「1」に近いほど対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅が小さいことを示しており、「0」に近いほど振幅が大きいことを示している。
即ち、各基準日の振動データの特徴量から振動予測モデルを用いて求めた将来のスカラーyiの予測値は、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動が近い将来に整備実施基準値をオーバーする確率を示す振動予測値(「0」に近いほど確率が高い)と考えることができる。
そして、振動予測モデルを用いて求めた予測開始日以降の連続複数日分のスカラーyiの予測値が予測開始日から先に進むにつれて「0」に近づいている場合は、例えば、図6(a)のグラフに示すように、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動が時間の経過と共に整備実施基準値に近づくことを示唆していることになる。
このような状態のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)では、例えば、図6(b)のグラフに示すように、近い将来の時点でスカラーyiの予測値が整備実施基準値をオーバーすることが見込まれる。
そこで、解析用コンピュータ3は、求まった連続複数日分のスカラーyiの予測値に基づいて、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動が整備実施基準値をオーバーすることが見込まれる日が到来する前に、整備を実行する時期を決定する(ステップS19)。
具体的には、解析用コンピュータ3は、直近の過去の振動データに特徴量の値が最も近いサンプルiの基準日を予測開始日として、その予測開始日以降を特定日とする連続複数日分の各振動予測モデルを抽出する。
そして、抽出した各振動予測モデルの中に、直近の過去の振動データの特徴量を当てはめて求めたスカラーyiの予測値が、整備実施基準値の振幅に相当するスカラーyiの値(=「0」)に近い判定値(例えば、yi=「0.2」)未満の値となった振動予測モデルが存在するかどうかを確認する。
判定値未満のスカラーyiの値が求まった振動予測モデルが存在する場合に、解析用コンピュータ3は、その振動予測モデルの特定日に対応する予測開始日以降の日付(図6(b)中の「この日までに整備する」の日付)を特定し、特定した日付を、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)を整備するリミットの日付として決定する。
ステップS17で予測した、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の将来における振動の状態(スカラーyi)や、ステップS19で決定した、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)を整備するリミットの日付は、解析用コンピュータ3が整備時期予測処理を行う度に、データサーバ5(の大容量記憶装置)に記憶される。
なお、図3(b)に示す整備時期予測処理におけるステップS17は、請求項中の振動予測ステップに相当しており、ステップS17の処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中の振動予測部に相当している。
また、図3(b)の整備時期予測処理において行われるステップS19は、請求項中の整備時期予測ステップに相当しており、ステップS19の処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中の整備時期予測部に相当している。
次に、解析用コンピュータ3が行う整備効果予測モデルの学習処理について、図7(a)を参照して説明する。図7(a)は解析用コンピュータ3が行う整備効果予測モデルの学習処理の手順を示すフローチャートである。
図7(a)に示す整備効果予測モデルの学習処理は、例えば1日に1回の周期で定期的に行うことができる。整備効果予測モデルの学習処理を実行するトリガ条件(請求項中の整備効果モデル学習トリガ条件に相当)は、上述した1日1回の周期等の時間的周期の到来によって成立するものでも良く、何らかのイベント(動作、状態)が発生することで成立するものでも良い。
そして、整備効果予測モデルの学習処理において、解析用コンピュータ3は、まず、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、管理システムの収集コンピュータ7のデータベース13に蓄積された各運航データの振動データについて、整備効果予測モデルに用いる特徴量をそれぞれ生成する(ステップS21)。
詳しくは、解析用コンピュータ3は、各航空機ACの各ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の運航データを、収集コンピュータ7のデータベース13からデータサーバ5にそれぞれダウンロードする。
このとき、収集コンピュータ7の整備履歴ファイル15、機体設定ファイル17、特徴量設定ファイル19、及び、フラグ設定ファイル21も併せて、各航空機ACの各ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)毎に、データベース13からデータサーバ5にそれぞれダウンロードする。
そして、解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードした各ジェットエンジンLE,REの各運航データにおける振動データについて、整備効果予測モデルに用いる特徴量をそれぞれ生成する。
なお、このとき、解析用コンピュータ3は、データサーバ5にダウンロードした特徴量設定ファイル19における、整備効果予測モデルに用いる特徴量の定義の内容にしたがって、各運航データにおける振動データの特徴量をそれぞれ生成する。
具体的には、解析用コンピュータ3は、各運航データの送信日時の日付を基準日とする。そして、解析用コンピュータ3は、各運航データにおける振動データの特徴量を、基準日の前日から遡った過去の一定のフライト分の振動データ(請求項中の抽出対象の振動データ)から計算によって、「基準日における振動データの特徴量」として求める。
即ち、整備効果予測モデルに用いる特徴量を振動データから生成する方法は、振動予測モデルに用いる振動データの特徴量を振動データから生成する方法と、基本的には同じである。
但し、整備効果予測モデルに用いる特徴量を生成する方法では、「基準日における振動データの特徴量」を計算によって求めるのに用いる、基準日の前日から遡った過去の一定のフライト分の振動データとして、振動予測モデルに用いる振動データの特徴量を振動データから生成する方法よりも多くの振動データを用いる。
この相違点は、特徴量設定ファイル19における、整備効果予測モデルに用いる特徴量の定義の内容と振動予測モデルに用いる振動データの特徴量の定義の内容との違いによって生じる。
例えば、振動予測モデルに用いる振動データの特徴量は、特徴量設定ファイル19の振動予測モデルに用いる特徴量の定義にしたがって、図4の例では、基準日の前日から遡った過去の30フライト分の振動データを用いて生成した。
しかし、整備効果予測モデルに用いる振動データの特徴量は、特徴量設定ファイル19の整備効果予測モデルに用いる特徴量の定義にしたがって、振動予測モデルに用いる振動データの特徴量の場合よりも多い、例えば、基準日の前日から遡った過去の90フライト分の振動データを用いて生成する。
ここで、基準日における振動データの特徴量を求めるのに用いる、基準日の前日から遡った過去の一定のフライト分(例えば、基準日から遡って90フライト分)の振動データは、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備を行った時点を途中で跨いでいないものとする。
つまり、基準日の前日から遡って90フライト前までの間に、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備を行っている場合は、その基準日における振動データの特徴量は求めない。
なお、整備効果予測モデルは、振動データの振幅が整備実施基準値(例えば、4A/U)を将来オーバーしそうな対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)を、振動データの振幅が整備実施基準値をオーバーする前に整備すると、整備後のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動データの振幅がどのようになるかを予測するものである。
そのため、整備効果予測モデルに用いる振動データの特徴量は、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)が整備を行った直後以降の振動データから生成するものとする。
また、整備効果予測モデルに用いる振動データの特徴量は、本実施形態では、90フライト分の振動データにおける振動の平均値と線形加重平均(LWA)の2つとする。線形加重平均では、解析用コンピュータ3は、時系列上の新しいフライトほど重みを大きくする重み付けを各振動データに対して行った上で、振動の平均値を特徴量として生成する。
ところで、ジェットエンジンLE,REにおいて行われる整備には様々なものがある。例えば、図8のグラフに示すジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の例では、2015年1月、6月、9月には潤滑油の注入が行われ、2015年5月にはファンブレードの交換が行われ、2015年10月にはファンブレードの組み替えと加振とが行われている。
そして、整備前に対する整備後の振動データの振幅の変動は、実施した整備の種類によって必ずしも同じパターンとは限らない。
そこで、上述した整備効果予測モデルに用いる振動データの特徴量の生成は、実施した整備の種類毎にそれぞれ行われる。
以上のようにして、基準日における振動データの特徴量を生成したら、図7(a)に示すように、解析用コンピュータ3は、生成した振動データの特徴量の無次元化処理を行う(ステップS23)。この無次元化処理は、振動予測モデルの学習処理において解析用コンピュータ3が行った振動データの特徴量の無次元化処理(図3(a)のステップS3)と同じ処理である。
この無次元化処理により、各振動データの特徴量を、平均値との偏差の標準偏差に対する比率を示す無次元の値とし、後述するロジスティック回帰により整備効果予測モデルを同定する際に、説明変数を減らして回帰学習の最適性を高めることができる。
また、解析用コンピュータ3は、無次元化した振動データの特徴量に対し主成分分析処理を行う(ステップS25)。
この主成分分析処理では、無次元化した各振動データの特徴量を特異値分解し、それらが最も分散する第1主成分や2番目に分散する第2主成分等の上位主成分のベクトルに、無次元化した振動データの特徴量を投影する。これにより、ロジスティック回帰の適用により整備効果予測モデルを同定する際に、説明変数を減らして回帰学習の最適性を高めることができる。
そして、上述した無次元化処理と主成分分析処理により、基準日におけるサンプルの一部である、基準日における無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量が取得される。
取得した振動データの特徴量(無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量)は、ハードディスク23に記憶される。ハードディスク23の無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量は、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備後の振動データの振幅を予測する際に用いる整備効果予測モデルを同定する際に、説明変数(モデルパラメータ)として利用される。
なお、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量を、基準日におけるサンプルの一部としてハードディスク23に記憶させる際にも、解析用コンピュータ3は、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量に「サンプルi」のラベルを付ける。
これにより、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量は、i回目(i=1,2,…,n)の学習処理でそれぞれ取得した、各基準日におけるサンプルiの一部として、ハードディスク23にそれぞれ記憶される。
以上のステップS21乃至ステップS25と並行して、解析用コンピュータ3は、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量と共に、i回目の学習処理で取得したサンプルiを構成する、無次元化及び主成分分析した振動データの振動の状態を示すフラグを生成する(ステップS27)。
詳しくは、解析用コンピュータ3は、基準日の翌日から90フライト分の振動データをハードディスク23から抽出し、データサーバ5にダウンロードしたフラグ設定ファイル21における定義にしたがって、抽出した各振動データから、振幅の大きさについて全体の95パーセンタイルの振動データをさらに抽出する。
そして、95パーセンタイルの振動データの振動が1つでも整備効果基準値(例えば、2A/U)をオーバーしていれば、オーバーであることを意味する「0」のフラグを生成する。また、整備効果基準値をオーバーしていなければ、オーバーでないことを意味する「1」のフラグを生成する。
生成したフラグは、基準日におけるサンプルの一部としてハードディスク23に記憶される。ハードディスク23のフラグは、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備後の振動データの振幅を予測する際に用いる整備効果予測モデルを同定する際に、目的変数(モデルパラメータ)として利用される。
即ち、本実施形態の予測システム1では、基準日の翌日から90フライト分の振動データのうち95パーセンタイルに属する複数の振動データから、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動の振幅の状態を示すフラグ(振動評価値)を定めて、それを整備効果予測モデルの目的変数としている。
なお、フラグをハードディスク23に記憶させる際に、解析用コンピュータ3は、i回目の学習処理で取得したサンプルであることを示す「サンプルi」のラベルを付けて、フラグをハードディスク23に記憶させる。
即ち、フラグは、振動データの特徴量を生成するのに用いた運航データの送信日時の日付を基準日としてハードディスク23に記憶された、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量のラベルと同じ「サンプルi」のラベルを付けて、ハードディスク23に記憶される。
なお、振動データの特徴量を求めていない基準日については、その日を基準日とするフラグも求めない。
以上のようにして、振動データの特徴量を無次元化及び主成分分析し、無次元化及び主成分分析した振動データの振動の状態を示すフラグを生成したら、図7(a)に示すように、解析用コンピュータ3は、整備効果予測モデルを同定する(ステップS29)。
整備効果予測モデルの同定に当たり、解析用コンピュータ3は、説明変数及び目標変数としてハードディスク23にそれぞれ記憶させた、サンプル1から最新のサンプルiまでの、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量(平均値と線形加重平均(LWA))と振動の状態を示すフラグとを用いて、ロジスティック回帰の機械学習を行う。
具体的には、無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量(平均値と線形加重平均(LWA))を要素とする横ベクトルを、正則化項をL2ノルムで正則化した図5(c)の式(3)のロジスティック回帰式(又は正則化項をL1ノルムで正則化した図5(a)の式(1)のロジスティック回帰式)の横ベクトルXi Tとし、振動の状態を示すフラグ(「0」又は「1」)をスカラーyiとして、ロジスティック回帰の機械学習を行う。
そして、式(3)又は式(1)のロジスティック回帰式を最小化する回帰係数ベクトルwと切片を示すスカラーcとを求める。
ロジスティック回帰式を最小化する回帰係数ベクトルwと切片を示すスカラーcとが求まると、ロジスティック回帰の際に説明変数及び目的変数として用いたサンプル(無次元化及び主成分分析した振動データと振動の状態を示すフラグ)の基準日と同じ日付(特定日)における整備効果予測モデルが求まる。
そして、以上の手順を、実施した整備の種類毎に行うことで、整備の内容毎の整備効果予測モデルが求まる。
求めた整備の内容毎の整備効果予測モデルはハードディスク23に記憶される。ハードディスク23の整備効果予測モデルは、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備後の振動データの振幅を予測する際に利用される。
なお、求めた整備の内容毎の整備効果予測モデルを特定日における整備効果予測モデルとしてハードディスク23に記憶させる際に、解析用コンピュータ3は、同定した整備効果予測モデルに「サンプルi」のラベルを付ける。
このラベルは、ハードディスク23に記憶させる整備効果予測モデルが、i回目(i=1,2,…,n)の学習処理で同定した整備効果予測モデルであることを示すものである。即ち、整備効果予測モデルは、説明変数及び目的変数として同定に用いたサンプルの基準日(例えば、図4の9月17日)を特定日とする整備効果予測モデルとしてハードディスク23に記憶される。
以上に説明した整備効果予測モデルの学習処理を解析用コンピュータ3が繰り返すことで、整備効果予測モデルの説明変数とする無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量と目的変数とする振動の状態を示すフラグ(スカラーyi)とのサンプル数が増える。したがって、ロジスティック回帰式の評価関数を最小化させる回帰係数ベクトルwとスカラーyiを同定する整備効果予測モデルの学習度が増す。
なお、図7(a)に示す整備効果予測モデルの学習処理におけるステップS29は、請求項中の整備効果予測モデル学習ステップに相当しており、ステップS29の処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中の整備効果予測モデル学習部に相当している。
また、図7(a)の整備効果予測モデルの学習処理において行われる、ステップS21の振動データの特徴量の生成と、ステップS27のフラグ(スカラーyi)の生成と、これら特徴量及びスカラーyiを含むサンプルの取得とは、請求項中のサンプル取得ステップに相当しており、これらの処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中のサンプル取得部に相当している。
次に、解析用コンピュータ3が行う整備効果予測モデルを用いたジェットエンジンLE,REの整備後の振動予測及び推奨する整備内容の決定に関する処理について、図7(b)を参照して説明する。図7(b)は学習した整備効果予測モデルを用いて解析用コンピュータ3が行うジェットエンジンLE,REの整備後の振動予測及び推奨する整備内容の決定に関する処理の手順を示すフローチャートである。
図7(b)に示すジェットエンジンLE,REの整備後の振動予測及び推奨する整備内容の決定に関する処理は、例えば1日に1回の周期で定期的に行うことができる。なお、図7(a)に示す整備効果予測モデルの学習処理に続けて、図7(b)に示す処理を一緒に行ってもよい。
また、整備後の振動予測及び推奨する整備内容の決定に関する処理を実行するトリガ条件(請求項中の効果評価トリガ条件に相当)は、上述した1日1回の周期等の時間的周期の到来によって成立するものでも良く、何らかのイベント(動作、状態)が発生することで成立するものでも良い。
整備後の振動予測及び推奨する整備内容の決定に関する処理の実行条件とするイベントは、例えば、ユーザによる振動予測結果のダウンロードのリクエストが図1のユーザ端末111〜11nからデータサーバ5に入力されたこととしてもよい。
そして、図7(b)に示す処理において、解析用コンピュータ3は、まず、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、管理システムの収集コンピュータ7のデータベース13に蓄積された各運航データの各振動データから、整備効果予測モデルを用いて整備後の振動データの振幅を予測するのに用いる直近の過去の振動データを抽出する(ステップS31)。
このステップS31で解析用コンピュータ3は、図3(b)のステップS11と同様の手順で、整備効果予測モデルを用いて整備後の振動データの振幅を予測するのに用いる直近の過去の振動データを抽出する。
次に、解析用コンピュータ3は、各航空機ACの各ジェットエンジンLE,RE毎に、抽出した直近の過去の運航データの振動データについて、データサーバ5にダウンロードした特徴量設定ファイル19における定義にしたがって、整備効果予測モデルに用いる特徴量を生成する(ステップS33)。
このステップS33では、解析用コンピュータ3は、図7(a)のステップS21と同様の手順で、整備効果予測モデルに用いる特定量を生成する。
基準日における振動データの特徴量を生成したら、解析用コンピュータ3は、次に、生成した振動データの特徴量の無次元化処理を行う(ステップS35)。この無次元化処理は、整備効果予測モデルの学習処理において解析用コンピュータ3が行った振動データの特徴量の無次元化処理(図7(a)のステップS23)と同じ処理である。
また、解析用コンピュータ3は、無次元化した振動データの特徴量に対し主成分分析処理を行う(ステップS37)。この主成分分析処理も、整備効果予測モデルの学習処理において解析用コンピュータ3が行った無次元化した振動データの特徴量の主成分分析処理(図7(a)のステップS25)と同じ処理である。
直近の過去の振動データの特徴量を無次元化及び主成分分析したら、解析用コンピュータ3は、無次元化及び主成分分析した直近の過去の振動データの特徴量を説明変数として、整備の内容毎の整備効果予測モデルにより対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備後における振動の状態を、実施する整備の内容毎にそれぞれ予測する(ステップS39)。
このとき、解析用コンピュータ3は、ハードディスク23に記憶されたサンプルi(i=1〜n)のうち、サンプルiの一部として記憶された無次元化及び主成分分析した振動データの特徴量が、ステップS35,S37で無次元化及び主成分分析した直近の過去の振動データの特徴量に最も近い、特定のサンプルiを抽出する。
そして、抽出した特定のサンプルiの基準日を予測開始日とし、予測開始日からその複数日後(例えば8日後)までの日付を特定日とするハードディスク23の複数の整備効果予測モデルの横ベクトルXi Tに、ステップSS35,S37で無次元化及び主成分分析した直近の過去の振動データの特徴量の要素をそれぞれ当てはめる。これにより、予測開始日から複数日後の将来までに亘って、各整備効果予測モデルのスカラーyiの値を、整備の内容毎の整備効果予測モデルについてそれぞれ求める(0≦yi≦1)。
このようにして求まったスカラーyiの値は、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備後の振幅を整備の内容毎に予測した値となる。そして、求まったスカラーyiの値は、「1」に近いほど対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅が小さいことを示しており、「0」に近いほど振幅が大きいことを示している。
そこで、解析用コンピュータ3は、求まった連続複数日分のスカラーyiの予測値に基づいて、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振動が整備効果基準値をオーバーしない整備内容を抽出し、抽出した整備内容の中から推奨する整備内容を決定する(ステップS41)。
具体的には、解析用コンピュータ3は、直近の過去の振動データに特徴量の値が最も近いサンプルiの基準日を予測開始日として、その予測開始日を特定日とする整備効果予測モデル、又は、予測開始日以降を特定日とする連続複数日分の各整備効果予測モデルを抽出する。
そして、抽出した整備効果予測モデルに直近の過去の振動データの特徴量を当てはめて求めたスカラーyiの予測値が、整備効果基準値の振幅に相当するスカラーyiの値(=「0」)となったかどうかを、整備の内容毎に確認する。
なお、抽出した整備効果予測モデルが、予測開始日以降を特定日とする連続複数日分である場合は、抽出した整備効果予測モデルに直近の過去の振動データの特徴量を当てはめて求めたスカラーyiの予測値が全て、整備効果基準値の振幅に相当するスカラーyiの値(=「0」)となったかどうかを、整備の内容毎に確認する。
そして、求めたスカラーyiの予測値が、整備効果基準値の振幅に相当するスカラーyiの値(=「0」)となった整備効果予測モデルが、いずれかの整備内容について存在する場合に、解析用コンピュータ3は、その整備効果予測モデルに対応する整備内容の中から、推奨する整備内容を決定する。
推奨する整備内容は、例えば、別途定めた基準にしたがって決定することができる。別途定めた基準は、例えば、整備後の振幅の予測値の内容(振幅の予測値の下がり具合)や、その振幅の予測値が求まった整備効果予測モデルに対応する内容の整備に要する費用等を考慮して、費用対効果が最も優れた整備内容を推奨する整備内容として選択するものとすることができる。
なお、整備を行った場合と整備を行わない場合とで、それぞれの振動データの振幅の推移を整備効果予測モデルを用いて予測し、整備を行った場合の整備効果の有無や効果の程度を検証してもよい。
その場合は、図9のグラフに示すように、一定期間後(例えば1ヶ月)までの間に整備が行われていない基準日を抽出し、基準日から遡って90フライト前までの振動データを用いて振動データの特徴量を求めて、基準日における振動データの特徴量とする。
そして、特定した基準日を予測開始日として、その予測開始日を特定日とする整備効果予測モデル、又は、予測開始日以降を特定日とする連続複数日分の各整備効果予測モデルにより、対象のジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備しない場合における将来の振動データの振幅を、ステップS39の手順で予測する。
なお、図7(b)に示す処理におけるステップS39は、請求項中の整備後振動予測ステップに相当しており、ステップS39の処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中の整備後振動予測部に相当している。
また、図7(b)の処理において行われるステップS41は、請求項中の整備内容決定ステップに相当しており、ステップS41の処理を実行する解析用コンピュータ3は、請求項中の整備内容決定部に相当している。
図10は、解析用コンピュータ3が整備効果予測モデルを用いて予測した整備後の振幅及び整備しない場合の振幅から、ジェットエンジンLE,REの推奨する整備内容を決定するプロセスの例を示す説明図である。
図10に示す説明図では、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅の予測される今後の推移について、今日以降も整備を行わない場合を上段に、潤滑剤注入の整備を今日行う場合を中段にそれぞれ示している。
そして、図10の上段に示すように、今日以降も整備を行わないと、整備効果予測モデルにより予測したジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅が、図10の破線を引いた時点において整備効果基準値をオーバーすることが見込まれる。一方、潤滑剤注入の整備を今日行うと、整備効果予測モデルにより予測したジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅は、図10の破線を引いた時点を過ぎても、しばらくの間は整備効果基準値をオーバーしないことが見込まれる。
そこで、解析用コンピュータ3は、図10の下段に示すように、図10の破線を引いた時点までは、今日以降に整備を行わなくてもジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅が整備効果基準値をオーバーしないものとして、推奨する整備の内容を「整備不要」に決定する。
また、解析用コンピュータ3は、図10の破線を引いた時点以降については、今日以降に整備を行わないとジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅が整備効果基準値をオーバーすることが見込まれるので、推奨する整備の内容を「潤滑剤注入」に決定する。
なお、図10では、潤滑剤注入以外の整備を今日行った場合の、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅の予測される今後の推移について記載していない。しかし、解析用コンピュータ3は、潤滑剤注入以外の整備を今日行った場合についても、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の振幅の予測される今後の推移を予測し、それぞれの推移の内容から、推奨する整備の内容を決定する。
なお、ステップS39で実施する整備の内容毎にそれぞれ予測した、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備後における振動の状態(スカラーyi)や、ステップS41で決定した、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の推奨する整備内容は、解析用コンピュータ3が整備後の振動予測及び推奨する整備内容の決定に関する処理を行う度に、データサーバ5(の大容量記憶装置)に記憶される。
以上のようにして解析用コンピュータ3が予測したジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の将来の振幅や整備するリミットの日付、整備の実施による振幅の推移の予測結果から決定した推奨する整備内容等は、例えば、ユーザ端末111〜11nにおいてディスプレイ等に表示させることができる。
具体的には、例えば、ユーザ端末111〜11nからデータサーバ5にクエリの実行を要求すると、要求したクエリの抽出条件でデータサーバ5がデータを抽出して、抽出したデータをCSV形式等でユーザ端末111〜11nにダウンロードさせる。
データをダウンロードしたユーザ端末111〜11nは、例えばディスプレイに表示された出力画面において、図11の説明図に示すように、要求したクエリに応じた形式でダウンロードしたデータを表示する。
なお、図11の出力画面の例では、左側部分に、5機の航空機AC(図11中の航空機1〜5)の左右のジェットエンジンLE,RE(Engine1,2)の振幅に関する現在までのフライト単位の実測値及び将来の予測値を、航空機AC毎に表示している。
また、出力画面の中央部分に、各ジェットエンジンLE,RE(Engine1,2)の振幅の予測値(日単位)を、整備を行わない場合(上段)と整備を行った場合(下段)とに分けて、航空機AC毎に表示している。
さらに、出力画面の右側部分に、各ジェットエンジンLE,RE(Engine1,2)の推奨する整備内容(日単位)を、略記号により航空機AC毎に表示している。
なお、解析用コンピュータ3が予測又は決定してデータサーバ5に記憶させた内容は、ユーザ端末111〜11n以外で表示させてもよい。
以上に説明したように、本実施形態の予測システム1では、解析用コンピュータ3において、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備時を跨がない期間において基準日から遡って抽出した30フライト分の振動データから、基準日における振動データの特徴量を求める。
そして、求めた特徴量と、基準日の振動データの振幅の状態を示すスカラーyi(フラグ)とを含むサンプルiを、基準日のサンプルiとして取得する。
さらに、解析用コンピュータ3において、特定日以前の日付を基準日とする各サンプルの特徴量を説明変数とし振動評価値を目的変数とする回帰学習により、特定日の振動予測モデルのそれ以外の変数を同定する。
これにより、振動データの特徴量と振動データの振幅との関係を示す振動予測モデルが、各特定日についてそれぞれ同定される。
また、本実施形態の予測システム1では、最新の振動データから生成した特徴量と同じくらいの特徴量を含むサンプルの基準日を予測開始日とし、予測開始日以降の日付を特定日とする複数の振動予測モデルを抽出する。
これにより、予測開始日以降の振動データの特徴量と振動データの振幅との関係を模擬する振動予測モデルが複数特定される。
したがって、解析用コンピュータ3のハードディスク23に直近の過去のサンプルとして記憶された、最新の振動データから生成した振動データの特徴量を、予測開始日以降の日付を特定日とする複数の振動予測モデルの説明変数にそれぞれ当てはめると、各振動予測モデルから、予測開始日以降の日付における振動データの振幅を模擬するスカラーyiがそれぞれ求まる。
このため、振動データの特徴量が直近の値と近いサンプルの基準日を予測開始日として、予測開始日以降の日付を特定日とする振動予測モデルを抽出することにより、最新のサンプルの特徴量からそのサンプルを取得した日以降のジェットエンジンLE,REの振動の振幅を、精度良く予測することができる。
よって、航空機ACのジェットエンジンLE,REの将来の振動の振幅が整備実施基準値をオーバーする時期を精度良く予測し、振動に対する整備を効率的に行える時期を予測することができる。
また、本実施形態の予測システム1では、解析用コンピュータ3において、ジェットエンジンLE(又はジェットエンジンRE)の整備時を跨がない期間において基準日から遡って抽出した90フライト分の振動データから、基準値における振動データの特徴量を求める。
そして、求めた特徴量と、基準日の振動データの振幅の状態を示すスカラーyi(フラグ)とを含むサンプルiを、基準日のサンプルiとして取得する。
さらに、解析用コンピュータ3において、特定日以前の日付を基準日とする各サンプルのうち、ジェットエンジンLE,REの整備後の90フライト分の振動データから求めたサンプルの特徴量を説明変数とし振動評価値を目的変数とする回帰学習により、特定日の整備効果予測モデルのそれ以外の変数を同定する。
これにより、ジェットエンジンLE,REの整備後における振動データの特徴量と振動データの振幅との関係を示す整備効果予測モデルが、各特定日についてそれぞれ同定される。
また、本実施形態の予測システム1では、過去に整備を行った日以降の日付を特定日とする整備効果予測モデルを、将来の整備実施後における振動データの特徴量と振動データの振幅との関係を模擬する整備効果予測モデルとして特定する。
そして、解析用コンピュータ3のハードディスク23に直近の過去のサンプルとして記憶された、最新の振動データから生成した振動データの特徴量を、過去に整備を行った日以降の日付を特定日とする整備効果予測モデルの説明変数に当てはめると、その整備効果予測モデルから、整備を将来実施した後の日付における振動データの振幅を模擬するスカラーyiがそれぞれ求まる。
このため、最新のサンプルの特徴量から、そのサンプルを取得した日以降の将来に航空機ACの整備を実施した場合のジェットエンジンLE,REの振動の振幅を、精度良く予測することができる。
よって、航空機ACのジェットエンジンLE,REの整備を将来実施した場合の振動の振幅が整備効果基準値以内に収まる整備内容を精度良く予測し、振動を効率的に低下させる推奨の整備内容を予測することができる。
なお、本実施形態の予測システム1では、ジェットエンジンLE,REの将来の振動の振幅や整備実施時期の予測及びそのための振動予測モデルの同定だけでなく、ジェットエンジンLE,REの将来実施する整備の効果(整備後の振動の振幅)の予測及びそのための整備効果予測モデルの同定も行うものとした。
しかし、将来実施する整備の効果(整備後の振動の振幅)の予測及びそのための整備効果予測モデルの同定を行う構成については、省略してもよい。
また、本発明は、航空機ACのジェットエンジンLE,REに限らず、陸上の発電設備、船舶の推進源や発電装置等として用いられるガスタービン等の整備時期を予測する際にも広く適用可能である。