以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
絶縁がいし等の高圧受配電機器に、部分放電検知センサを取り付けて部分放電を検出する際、部分放電信号と同周波数帯域に、ノイズ信号が重畳することがある。また、異なる発生源から、異なる部分放電信号が複数発生していることがある。
放電監視においては、データ量を増大させることなく、部分放電信号を、ノイズ信号と高精度に弁別し識別性を向上させる技術が求められる。
本発明者は、あらゆる発生源のパルス信号をまとめて特徴量化すると、部分放電信号の識別が困難になると考えた。そこで、各種パルス信号を切り分けたうえで、特徴量化すれば、信号種類の識別性を向上できる点に着目した。すなわち、本発明の骨子は、所定の時間幅毎に、検知信号の最大パルス波形を抽出したうえで、各最大パルス波形の特徴量を取得する点にある。
図1は、本発明の実施の形態における放電監視装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態の放電監視装置1は、データ処理部2、データ記録部3、送信部4、センサ部5及びデータ分析部6を有して構成される。
データ処理部2は、データサンプリング部21と、最大パルス波形抽出部22と、特徴量取得部23と、測定タイミング処理部24と、を有して構成される。
図1に示すように、データサンプリング部21は、部分放電検知センサ51と接続されており、部分放電検知センサ51にて検知された検知信号は、データサンプリング部21に送られる。
データサンプリング部21では、電源周期を一定位相角に分割した時間幅毎に、検知信号をサンプリングする。
図1に示すように、最大パルス波形抽出部22は、データサンプリング部21と接続されており、データサンプリング部21にてサンプリングされたデータが、最大パルス波形抽出部22に送られる。最大パルス波形抽出部22では、各サンプリングデータの最大パルス波形を抽出する。
図1に示すように、特徴量取得部23は、最大パルス波形抽出部22に接続されており、最大パルス波形抽出部22にて抽出された最大パルス波形が、特徴量取得部23に送られる。
特徴量取得部23では、最大パルス波形のピーク値(Q)、及び、最大パルス波形の正負ピークの時間差成分(I)と最大パルス波形の減衰度(D)との少なくともいずれか一方の、各特徴量を取得する。このように、特徴量取得部23では、ピーク値(Q)と正負ピークの時間差成分(I)とを取得し、或いは、ピーク値(Q)と減衰度(D)とを取得し、又は、ピーク値(Q)と正負ピークの時間差成分(I)と減衰度(D)とを取得する。本実施の形態では、ピーク値(Q)と、正負ピークの時間差成分(I)或いは、減衰度(D)との2つの特徴量でも、部分放電信号の弁別は可能である。ピーク値(Q)と、正負ピークの時間差成分(I)とを取得することで、部分放電の強度と、放電形態とを関連付けて評価することが出来る。これにより、部分放電のレベルと、部分放電のモードとを紐づけることができ、劣化の進展度合の予測精度を向上させることができる。また、ピーク値(Q)と、減衰度(D)とを取得することで、部分放電の強度と、放電電流の伝搬経路とを関連付けて評価することが出来る。これにより、部分放電のレベルと、部分放電の発生箇所とを紐づけることができ、劣化の進展度合の予測精度を向上させることができる。また、ピーク値(Q)、正負ピークの時間差成分(I)、及び、減衰度(D)の3つの特徴量を取得することで、部分放電の放電形態と、部分放電の伝搬経路とを関連付けて評価することができる。これにより、部分放電のモードと、部分放電の発生箇所とを紐づけることができ、劣化の進展度合の予測精度をより向上させることができ、部分放電信号の弁別をより高精度に図ることが可能である。
図1に示すように、測定タイミング処理部24では、高電圧受配電機器71に取付けられた高圧交流電源72の電源位相情報に基づいて、データ取得時間幅Tgやデータ取得開始時間T0を算出する。データ取得時間幅Tgやデータ取得開始時間T0の算出方法は、後述する。データ取得時間幅Tg及びデータ取得開始時間T0は、データサンプリング部21に送信される。データサンプリング部21では、データ取得開始時間T0を測定タイミングとしてデータ取得時間幅Tg毎に、部分放電検知センサ51からの検知信号を、データサンプリングする。
データ記録部3は、少なくとも、特徴量記録部31を備える。特徴量記録部31は、特徴量取得部23と接続されており、特徴量取得部23にて取得された特徴量が、特徴量記録部31に送信され保管される。
送信部4は、例えば、特徴量記録部31に保管された特徴量を、データ分析部6に送信するための通信機器42を備える。データ記録部3とデータ分析部6との間は、無線でも、有線で接続する構成でもよい。有線で接続する構成では、送信部4は、USB等の端子(コネクタ)や配線である。
センサ部5は、少なくとも、部分放電検知センサ51を備える。部分放電の検出には、放電現象に伴う電流、電磁波、超音波、及び光等に対するセンサが用いられる。ここで、光方式の場合、絶縁物内部の放電を検出できないこと、超音波方式の場合、騒音に弱いことから、部分放電検知センサ51としては、電流方式としての高周波電流センサや、電磁波方式の電磁波アンテナ等であることが好適である。なお、部分放電検知センサ51より得られる検知信号の大まかな周波数帯域は、放電に伴う電流が、100kHz〜500MHz程度、放電に伴う電磁波が、100MHz〜1GHz程度である。このような周波数特性だけで、工場環境等による外乱ノイズと部分放電信号とを切り分けることは困難であるが、本実施の形態によれば、ノイズ弁別を適切に行うことができる。
また、本実施の形態では、センサ部5としては、湿度センサ52や電流計53等が含まれることが好ましい。湿度センサ52により、周囲環境情報としての湿度情報を取得することが可能である。この湿度情報は、例えば、データ記録部3に送られ、送信部4よりデータ分析部6に転送される。或いは、別の形態としては、湿度情報を、直接、データ分析部6に転送できる通信システムとしてもよい。
また、本実施の形態では、高電圧受配電機器71の運転状況情報として、電流計53にて計測された部分放電測定の際の電流値を取得することが可能である。この電流値情報は、データ記録部3にて記録され、送信部4よりデータ分析部6に転送される。或いは、別の形態としては、電流値情報を、直接、データ分析部6に転送できる通信システムとしてもよい。
湿度変化や電流値に準じて、部分放電パターンの信号レベルが変わるため、湿度等の周囲環境情報や、電流値等の運転状況情報もデータ分析に用いることで、部分放電の発生の有無及びノイズとの弁別を適切に判断でき、放電の長時間監視を効果的に行うことができる。
分析装置としてのデータ分析部6は、例えば、データサーバ61を備える。データサーバ61には、送信部4から、数値化された各種特徴量が送信される。送信された特徴量をもとに、データサーバ61にて、部分放電信号とノイズ信号との弁別、及び、部分放電の種別等の分析を行うことができる。データサーバ61には、特徴量のデータベース(マスターデータ)が保存されており、特徴量と、データベースとを比較することで、上記の各分析を適切に行うことができる。
続いて、図1の放電監視装置1を用いた本実施の形態の放電監視方法について説明する。
本実施の形態の放電監視方法について、主に、図2に示すフローチャート、及び、図3〜図5に示す波形図を用いて説明する。
放電監視を行うにあたって、初期設定を行う(図2のステップST1)。具体的には、図2のステップST2、ST3に記載されているように、電源位相の分解能φ0及び、記録周期数n(回)を設定する。
上記した初期設定後に、放電監視測定を開始する(図2のステップST4)。まず、ステップST5に示すように、電源電圧を連続測定する。連続測定とは、電源電圧の測定を、特に理由がない限り中断せず、連続的に測定することをいう。図3Aに、電源電圧波形を示す。図2に示すステップST6では、電源電圧波形から、最初(1回目)の位相ゼロ時間taを検出する。「位相ゼロ時間」とは、電源電圧波形が負から正に変わるタイミングでの時間を指す。位相ゼロ時間taを、図3Aに示した。また、図2のステップST7では、次(2回目)の位相ゼロ時間tbを検出する。位相ゼロ時間tbを、図3Aに示した。
次に、図2のステップST8では、電源周期Tを算出する。電源周期Tは、1/(tb−ta)で算出される。電源周期Tを、図3Aに示した。
次に、図2のステップST9では、データ取得時間幅Tgを算出する。データ取得時間幅Tgは、(T/360)×φ0で求めることができる。データ取得時間幅Tgを、図3Aに示した。
また、図2のステップST10に示すように、データ取得開始時間(位相ゼロ)T0を算出する。データ取得開始時間T0は、ta+(Tの整数倍)で求めることができる。上記したデータ取得開始時間T0及びデータ取得時間幅Tgは、測定タイミング処理部24からデータサンプリング部21に送信される。
続いて、図2のステップST11では、部分放電信号を連続測定する。データサンプリング部21では、データ取得開始時間T0を測定タイミングとして、データ取得時間幅Tg毎に、検知信号をデータサンプリングする。すなわち、データ取得時間幅Tgごとに、検知信号を切り分けてデータ化する。このとき、アナログフィルタを用いたデータ処理でなく、デジタル信号処理することが好ましい。デジタル信号処理方法としては、FFT(高速フーリエ変換)を適用することが好ましい。
そして、図2のステップST12に示すように、データ取得時間幅Tg分のサンプリングデータを、図1に示す最大パルス波形抽出部22に移管する。ここで、移管方法を、特に限定するものではないが、所定のサンプリングデータ数となった時点で、最大パルス波形抽出部22に送ることができる。或いは、サンプリングデータを、随時、最大パルス波形抽出部22に送ってもよい。
図2のステップST13では、図1に示す最大パルス波形抽出部22にて、データ取得時間幅Tg分のデータ内から、最大パルス波形を抽出する。図3Bは、電源電圧波形の正極時にサンプリングされた、データ取得時間幅Tg分のパルスデータの一例である。また、図3Cは、電源電圧波形の負極時にサンプリングされた、データ取得時間幅Tg分のパルスデータの一例である。
図3Bには、4つのパルス波形が現れている。このうち、パルス波形αが最大パルス波形であると識別することができる。また、図3Cには、5つのパルス波形が現れている。このうち、パルス波形βが最大パルス波形であると識別することができる。図3B及び図3Cに示される最大パルス波形α、βは、いずれも部分放電信号である。他のパルス波形は、いずれもノイズ信号である。
次に、最大パルス波形α、βの各種特徴量を取得する。特徴量の取得は、図1の特徴量取得部23で実行される。
特徴量を取得するにあたって、特徴量取得開始時間t0を設定することが好ましい。特徴量取得開始時間t0は、パルス波形が最初に立ち上がる(或いは、最初に立ち下がる)瞬間に設定することができる。特徴量取得開始時間t0は、図1に示す最大パルス波形抽出部22が、最大パルス波形の抽出と共に設定してもよいし、或いは、特徴量取得部23で設定してもよい。又は、最大パルス波形抽出部22及び特徴量取得部23とは別の処理部にて、特徴量取得開始時間t0を設定してもよい。
部分放電信号は、一般的に、パルス波形における最初の立ち上がり(或いは、立ち下がり)の瞬間に、ピーク値(Q)が現れる。すなわち、部分放電信号は、余弦波減衰波形で現れる。したがって、特徴量取得開始時間t0の際に取得した電荷量を、ピーク値(Q)として取得することができる(図2のステップST14)。ピーク値(Q)とは、最大パルス波形内での最大電荷量(絶対値)を指す。
更に、図2のステップST15では、正負ピークの時間差成分(I)を取得する。図4Aに、最大パルス波形αを拡大して示した。なお、図4Aに示す最大パルス波形αは、特徴量の定義を理解しやすくするため、図3Bに示す最大パルス波形αの正確な相似形状ではない。図4Aに示す最大パルス波形αでは、一番大きい第1ピークP1(上記したピーク値(Q)の位置に相当)は、正極側(+)に現れ、2番目に大きい第2ピークP2は、負極側(−)に現れる。そして、第1ピークP1と、第2ピークP2との間の時間間隔T1が、正負ピークの時間差成分(I)である。一方、図4Bに示す最大パルス波形βでは、第1ピークP3(上記したピーク値(Q)の位置に相当)は、負極側(−)に現れ、2番目に大きい第2ピークP4は、正極側(+)に現れる。そして、第1ピークP3と、第2ピークP4との間の時間間隔T2が、正負ピークの時間差成分(I)である。
時間差成分(I)については、例えば、上記した時間間隔T1、T2を、夫々、2倍にすることで、各最大パルス波形α、βの一周期分の時間間隔となる。
次に、図2に示すステップST16では、最大パルス波形の減衰度(D)を取得する。減衰度(D)は、(正負ピークの値差/正負ピークの時間間隔)で求めることができる。ここで、正負ピークの時間間隔は、ステップST15で求めることができる。正負ピークの値差は、図4Aに示す最大パルス波形αでは、第1ピークの電荷量Q1−第2ピークの電荷量Q2(絶対値)で求めることができる。また、正負ピークの値差は、図4Bに示す最大パルス波形βでは、第1ピークの電荷量Q3(絶対値)−第2ピークの電荷量Q4で求めることができる。
なお、本実施の形態では、特徴量の取得として、図2に示すピーク値(Q)を取得するステップST14と、時間差成分(I)を取得するステップST15及び減衰度(D)を取得するステップST16の少なくともいずれか一方と、を実行すればよい。ただし、ステップST14〜ST16の全てを実行して、ピーク値(Q)、時間差成分(I)及び減衰度(D)を取得することが好ましい。
次に、図2に示すステップST14〜ST16にて取得した各種特徴量を、図1に示す特徴量記録部31にて保管する(ステップST17)。ここで、各種特徴量は、電源電圧波形の対応する位相角の固有値として保管される。すなわち、本実施の形態では、電源周期を一定位相角の時間幅に分割した時間幅毎に、検知信号をサンプリングして最大パルス波形を抽出するため、最大パルス信号と電源電圧波形の位相角とは紐付けられている。したがって、最大パルス信号から取得した各種特徴量を、電源電圧波形の対応する位相角の固有値として関係付けることができる。
本実施の形態では、図2のステップST18に示すように、測定時間が、n×Tを越えたとき、部分放電信号の測定を終了する(図2のステップST19)。また、測定時間が、n×T以下のとき、ステップST12に戻り、測定時間がn×Tを越えるまで、ステップST12〜ST17を繰り返す。
次に、各種特徴量を、図1に示す特徴量記録部31から送信部4を介してデータ分析部6に送る。データ分析部6には、予め、各種特徴量のデータベースが保管されている。データ分析部6では、送信された各種特徴量と、データベースとを比較することで、部分放電モードを特定することができる(図2のステップST20)。以上により、部分放電信号の識別を完了する(図2のステップST21)。
部分放電信号とノイズ信号との弁別について説明する。図5Aは、電源電圧波形が正極時の、電源位相(φ)とピーク値(Q)との関係を示すφ−Q特性図である。図5Bは、電源電圧波形が正極時の、電源位相(φ)と時間差成分(I)との関係を示すφ−I特性図である。図5Cは、電源電圧波形が正極時の、電源位相(φ)と減衰度(D)との関係を示すφ−D特性図である。図5Dは、電源電圧波形が負極時の、電源位相(φ)とピーク値(Q)との関係を示すφ−Q特性図である。図5Eは、電源電圧波形が負極時の、電源位相(φ)と時間差成分(I)との関係を示すφ−I特性図である。図5Fは、電源電圧波形が負極時の、電源位相(φ)と減衰度(D)との関係を示すφ−D特性図である。
このように、電源電圧波形の位相角を細分化して所定の時間幅とし、各時間幅にて抽出した最大パルス波形から各種特徴量を取得することで、図5A〜図5Fに示す位相角(時間幅)と各種特徴量との相関関係を得ることができる。すなわち、あらゆる発生源のパルス信号をまとめて特徴量化せず、各種パルス信号を切り分けてから特徴量化したため、部分放電信号とノイズ信号との弁別を高精度に行うことが可能になる。例えば、図5A〜図5Cに示す電源電圧波形の正極時、及び図5D〜図5Fに示す負極時のある位相角範囲(時間幅)では、各種特徴量が突出していることがわかる。この特徴量は、時間幅毎に抽出した最大パルス波形から取得したものであるから、例えば、この最大パルス波形が、部分放電信号のパルス波形であるとき、ノイズ信号のパルス波形を含んでいない(図3B、図3Cを参照)。よって、図5A〜図5Cに示す電源電圧波形の正極時、及び図5D〜図5Fに示す負極時の、突出した各種特徴量は、部分放電信号の特徴量であり、ノイズ信号の特徴量を含まない。したがって、各種特徴量を、データベースと比較することで、部分放電信号とノイズ信号とが混合していても、部分放電信号とノイズ信号とを、高精度に弁別することができる。しかも、本実施の形態では、数値化された特徴量を分析に使用するため、全波形データを記録して、分析に用いる構成に比べて、データ量を圧縮することができる。
なお、本実施の形態では、図5A〜図5Fに示すような、電源位相(φ)と各種特徴量とのデータマップを、例えば、ステップST19とステップST20との間で作成し、ステップST20にて、これらデータマップとデータベースとを比較してもよい。ただし、本実施の形態では、図5A〜図5Fに示すような、電源位相(φ)と各種特徴量とのデータマップを作成せずに、特徴量記録部31に記録された各種特徴量をデータ分析部6に送信することができる。
次に、図2に示すステップST20の「データベースと比較して部分放電モード特定」についてさらに詳細に説明する。すなわち、図5で説明した各種特徴量と、データベースとの比較に際し、以下のステップを有することで、部分放電の発生の有無、および、部分放電モードの判定を高感度に行うことができる。
図6は、図2に示すステップST20で行われる部分放電の有無の判定フローの一例である。図7は、図6の判定フローにて適用される特性図の一例である。図7A〜図7Cは、いずれも左図がφ−Q特性図、中央図がφ−I特性図、右図がφ−D特性図である。図7Aは、ノイズ信号のみが発生した場合を示す各特性図である。図7Bは、正負ピークの時間差成分(I)に部分放電信号が検出された場合を示す各特性図である。図7Cは、減衰度(D)に部分放電信号が検出された場合を示す各特性図である。なお、図6及び図7では、ピーク値(Q)、時間差成分(I)及び、減衰度(D)の3つの特徴量を取得した場合について説明する。
まず、図6のステップST22では、ピーク値(Q)、時間差成分(I)、及び減衰度(D)の全ての特徴量が電源位相に対してほぼ変化しないフラットな状態であるか否かを判定する。図7Aに示すように、全ての特徴量が電源位相に対してほぼ変化しないフラットな状態では、図6のステップST23に示すように、測定した全位相範囲での最大のピーク量(Q)をノイズレベルの電荷量Aとして記録する。そして、ステップST24では、このノイズレベルよりも大きな部分放電は発生していないと判定する。
一方、図6のステップST22で、少なくともいずれか1つの特徴量が電源位相に対してフラットな状態でない場合、図6のステップST25に移行する。ステップST25では、電源位相に依存して変化する特徴量の極大値が、60°から120°の間、あるいは、240°から300°の間で発生しているか否かを判定する。部分放電信号が電圧ピーク付近で発生するという特性に基づいて、ステップST25では、電圧ピークである90°付近、あるいは270°付近で特徴量が極大値を有するか否かを判定している。なお、ステップST25において、極大値の有無を判定する電源位相は、90°付近、あるいは270°付近であればよく、60°から120°、および、240°から300°の位相範囲は一例である。なお、位相範囲は広いほどノイズを拾いやすくなり、狭いほど部分放電信号が外れやすいため、90°±20°〜40°、および270°±20°〜40°程度の範囲とすることが好ましい。特徴量の極大値が、上記の位相範囲内で発生していない場合、ステップST23に移行する。すなわち、部分放電は発生していないと判定する。特徴量の極大値が、上記の位相範囲内で発生している場合、ステップST26に移行する。
例えば、図7Bに示すように、φ−Q特性図、φ―I特性図、およびφ―D特性図のうち、時間差成分(I)の特徴量が、90°付近で極大値を有している。あるいは、図7Cでは、φ−Q特性図、φ―I特性図、およびφ―D特性図のうち、減衰量(D)の特徴量が、90°付近で極大値を有している。
このように、ピーク値(Q)、時間差成分(I)、あるいは、減衰量(D)のうち、少なくともいずれか1つの特徴量が、60〜120°、あるいは、240°〜300°の位相範囲内で極大値を有しており、このような場合、図1のデータ分析部(分析装置)6では、部分放電が発生していると判定する。なお、ステップST26では、図7Bに示す時間差成分(I)が極大値を有する電源位相を取得し、その電源位相に対応するピーク値(Q)を電荷量Bとして記録する。或いは、図7Cに示す減衰量(D)が極大値を有する電源位相を取得し、その電源位相に対応するピーク値(Q)を電荷量Bとして記録する。そして、図6のステップST27では、電荷量Bの部分放電が発生したと判定する。
従来では、部分放電信号とノイズ信号の大きさ(Q値)の差が小さいと、部分放電発生判定が困難であった。これに対し、本手法では、ピーク値(Q)のみならず、時間差成分(I)、及び減衰量(D)のパルス波形の特徴も利用して、部分放電の発生を判別する。このため、従来よりも高感度に部分放電の発生有無を判定することできる。
図8は、図6とは異なる判定フローにより部分放電モードを判定する。図9は、図8の判定フローにて適用される特性図の一例である。図9A、図9Bは、いずれも左図がφ−Q特性図、中央図がφ−I特性図、右図がφ−D特性図であり、図9Aは、ノイズ信号のレベルが大きい場合を示し、図9Bは、ノイズ信号のレベルが小さい場合を示す。図9Cは、ノイズ信号を取り除いたφ−Q特性図である。なお、図8及び図9では、ピーク値(Q)、時間差成分(I)及び、減衰度(D)の3つの特徴量を取得した場合について説明する。
図8のステップST28では、0°或いは180°の電源位相での時間差成分(I)と減衰度(D)を記録する。電源位相0°及び180°は、印加電圧ゼロであり、部分放電が発生する可能性は低い。なお、以下では、電源位相0°或いは180°での時間差成分(I)を、時間差成分Inと記載し、減衰度(D)を、減衰度Dnと記載する。なお、電源位相0°及び180°のどちらか一方の時間差成分In及び減衰度Dnを記録してもよいし、電源位相0°及び180°の両方の時間差成分In及び減衰度Dnを記録してもよい。電源位相0°と電源位相180°との時間差成分In及び、電源位相0°と電源位相180°との減衰度Dnが、夫々多少異なる場合、平均値を算出し、各平均値を、時間差成分In及び減衰度Dnとして記録することができる。
次に、図8のステップST29では、時間差成分In且つ減衰度Dnを満たす位相φnを抽出する。このステップでは、時間差成分In及び減衰度Dnを、ノイズ信号の特徴量と判断しており、したがって、抽出された位相φnは、ノイズ信号が発生するノイズ位相と見做すことができる。ここで、「時間差成分In且つ減衰度Dn」としたが、どちらか一方としてもよい。ただし、時間差成分Inと減衰度Dnの双方を用いたほうが、より高精度な判定が可能になる。なお、ステップST28でも、時間差成分In及び減衰度Dnの一方だけを記録してよく、その場合、記録された時間差成分In或いは減衰度DnをステップST29で適用する。
ステップST29では、位相φnの抽出に使用する時間差成分In及び減衰度Dnの各値について多少の幅を持たせることができる。例えば、時間差成分In及び減衰度Dnの各値に対し、90%〜110%程度の許容幅を持たせることができる。時間差成分In及び減衰度Dnの許容幅が広すぎると、次のステップST30で、部分放電信号も除去される確率が高まる。また、時間差成分In及び減衰度Dnの許容幅が狭すぎると、次のステップST30で、ノイズ信号が残る確率が高まる。したがって、許容幅は上記程度とすることが好ましい。
図9A及び図9Bのφ−Q特性図に示すように、ノイズ信号のレベルが大きい場合、及びノイズ信号のレベルが小さい場合に係らず、図8のステップST28で時間差成分In及び減衰度Dnを認定し、図8のステップST29で位相φnを抽出することができる。
図8のステップST30では、位相φnにおけるピーク値(Q)をゼロにして、φ―Q特性図を再作成する。再作成されたφ―Q特性図を図9Cに示す。図9Aのように、ノイズ信号のレベルが大きい場合でも、図9Bのように、ノイズ信号のレベルが小さい場合でも、同じパルス波形図としての図9Cのφ―Q特性図を取得することができる。
次に、図8に示すステップST31では、図9Cにて得られたφ−Q特性図を、データベース(マスターデータ)と比較し、その一致度から、部分放電モードを判定することができる。
従来では、ノイズ信号のレベルにより、図9A及び図9Bの各左図に示すように、φ−Q特性図の形状が変化する。このため、マスターデータの形状との比較に際し、部分放電モードの判定精度が低下しやすかった。これに対し、本手法では、図9Cに示すように、ノイズ信号を、φ―Q特性図から除去するため、ノイズ信号のレベルに依存せずに、高精度に部分放電モードを判定することができる。
なお図8のステップST28では、部分放電の発生の可能性が低い電源位相0℃及び180°での時間差成分In及び減衰度Dnを記録しているが、例えば、放電監視装置1の電源を落とした際に取得された時間差成分(I)及び減衰度(D)を、記録してもよい。電源を落とした状態では、部分放電が検知されないため、その際に取得された時間差成分(I)及び減衰度(D)は、ノイズレベルの信号として捉えることができる。
図10は、図8とは異なる判定フローにより部分放電モードを判定する。図11は、図10の判定フロー中に適用される特性図の一例である。図11Aは、左図がφ−Q特性図、中央図がφ−I特性図、右図がφ−D特性図であり、部分放電が発生した場合を示す。図11Bは、ノイズ信号のφ−Q特性図であり、図11Cは、部分放電モード1を示すφ−Q特性図であり、図11Dは、部分放電モード2を示すφ−Q特性図である。
図10に示すステップST32では、ピーク値(Q)とともに、測定した時間差成分(I)及び減衰度(D)を全て抽出し、図11Aに示すφ−Q特性図、φ−I特性図、及びφ−D特性図を得る。
続いて、図10のステップST33では、時間差成分(I)及び減衰度(D)を、夫々近い値でまとめてグルーピングする。グルーピングの手法を限定するものではないが、例えば、図11Aの中央図、及び右図に示すように閾値T1〜T6を設定することができる。図11Aの中央図に示すように、φ−I特性図において、高値グループを抽出するための閾値T1、中値グループを抽出するための閾値T2、低値グループを抽出するための閾値T3を設定する。
また、図11Aの右図に示すように、φ−D特性図において、高値グループを抽出するための閾値T4、中値グループを抽出するための閾値T5、及び、低値グループを抽出するための閾値T6を設定する。
次に、図10のステップST34では、φ−I特性図において、閾値T1以上の電源位相、閾値T2以上、閾値T1未満の電源位相、及び、閾値T3以上、閾値T2未満の電源位相を夫々、取得する。これにより、電源位相を3つのグループに分けることができる。そして、図11Aの左図に示すφ−Q特性図において、各グループ位相のφ−Q特性図を作成する。図11Bは、φ−I特性図において、閾値T2以上、閾値T1未満のグループ位相を用いて作成されたφ−Q特性図であり、図11Cは、φ−I特性図において、閾値T1以上のグループ位相を用いて作成したφ−Q特性図であり、図11Dは、φ−I特性図において、閾値T3以上、閾値T2未満のグループ位相を用いて作成したφ−Q特性図である。このように、φ−Q特性図を、図11Bから図11Dに示す3つのグループに分けることができる。
図10のステップST35では、φ−D特性図において、閾値T4以上の電源位相、閾値T5以上、閾値T4未満の電源位相、及び、閾値T6以上、閾値T5未満の電源位相を夫々、取得する。これにより、電源位相を3つのグループに分けることができる。そして、図11Aの左図に示すφ−Q特性図において、各グループ位相のφ−Q特性図を作成する。本実施の形態では、φ−I特性図を用いた場合と同様に、φ−Q特性図を、図11Bから図11Dに示す3つのグループに分けることができる。
次に、図10に示すステップST36では、図11Bから図11Cに示す各φ−Q特性図を、データベース(マスターデータ)と比較して発生信号モードを推定し、その一致度から、部分放電モードを判定することができる(ステップST37)。
例えば、図11Aに示すように、ノイズ信号と、部分放電信号1(PD1)と、部分放電信号2(PD2)とが同時に発生している。
本実施の形態では、時間差成分(I)及び減衰度(D)を夫々、近い値でまとめてグルーピングし、それにより得られた複数のグループ位相により、図11Bに示すノイズ信号のみのφ―Q特性図、図11Cに示す部分放電信号1(PD1)のみのφ−Q特性図、及び、図11Dに示す部分放電信号2(PD2)のみのφ−Q特性図を作成することができる。
そして、このように、グルーピングされた各φ−Q特性に基づいてモード判定を行うことで、マスターデータとの一致度が高い複数の部分放電モードが生じていることを判定することができる。
従来では、複数の部分放電モードが発生した場合、φ―Q特性図も、複数の部分放電モードが複合された形状となる。このため、マスターデータとの比較では、複数の部分放電モードを識別することが困難であった。これに対し、本手法では、時間差成分(I)及び減衰度(D)を近い値でまとめてグループ化することで、φ−Q特性図を、複数のグルーピングに切り分け、各φ−Q特性図ごとに、信号モードを判定する。このため、同時発生する複数モードの部分放電信号を識別することが出来る。
なお、図10のステップST32では、時間差成分(I)及び減衰度(D)の双方を抽出しているが、どちらか一方でもよい。この場合は、抽出した特徴量を利用して、φ−Q特性をグルーピングすることができる。ただし、時間差成分(I)及び減衰度(D)の双方の特徴量を利用して、φ−Q特性をグルーピングすることが、判定精度を向上させることができ好ましい。すなわち、図11Aに示す閾値T1以上且つT4以上でグループ化し、閾値T3以上T2未満且つ、閾値T5以上T4未満でグループ化し、閾値T2以上T1未満且つ閾値T6以上T5未満でグループ化する。これにより、より高精度な判定を行うことが可能である。
また、図2のステップST20では、図6、図8及び図10に示す各判定フローのいずれか1つを実行してもよいし、複数を実行してもよい。複数の判定フローを実行する場合、その順番は問わない。
また、本実施の形態では、部分放電モードの種別も適切に判別することが可能である。部分放電モードについて説明する。部分放電モードには、気中放電、沿面放電、ボイド放電、剥離放電、トリー放電等がある。
実験により、放電モード毎に、固有の周波数帯と減衰振動回数を持つことが分かった。
実験では、各種部分放電モードを模擬した試験試料を用意した。気中放電モデルは、図12Aに示すように、気中放電を模擬した針―平板モデルとした。沿面放電モデル1は、図13Aに示すように、沿面放電を模擬した針―被覆平板モデルとした。沿面放電モデル2は、図14Aに示すように、沿面放電を模擬した円筒絶縁物表面に、箔導体を貼り付けたモデルとした。ボイド放電モデルは、図15Aに示すように、ボイド放電を模擬した円筒絶縁物に、内部空隙を設けたモデルとした。剥離放電モデルは、図16Aに示すように、剥離放電を模擬した平板電極と円筒絶縁物に、隙間を設けたモデルとした。トリー放電は、図17Aに示すように、トリー放電を模擬した円筒絶縁物に、針電極を埋め込んだモデルとした。
針電極にはタングステン鋼、その他電極には銅、誘電体材料にはエポキシ樹脂を使用した。
部分放電電流の測定回路を図18に示す。はじめに、同調式PD検出装置(日本計測器製作所製、品名:CD−6)と、パルス発生装置(日本計測器製作所製、品名:NPG−2、仕様:電流立ち上がり時間30nsec)を用いて、本測定系の電荷量校正を実施した。
そのあとに、耐圧試験装置(総研電機製、品名:DAC−WTC−1、仕様:15kV−1kV)で試験試料に電圧を印加し、同調式PD検出装置の出力をトリガとして、試験試料から接地線に流れる部分放電電流を検出した。
電圧波形は、試験試料と並列に、結合コンデンサ(仕様:静電容量 1000PF、電圧 DC40kV)と、電圧プローブ(Tektronix製、品名:P6015A、仕様:帯域 DC〜7.5MHz、静電容量 3.0pF、電圧 40kVpeak)を取り付けて検出した。電流波形は、試験試料と直列に、広域高周波CT(Magnelab社製、品名:CT−C5.0−BNC、仕様:帯域 4.8k〜400MHz)を取り付けて検出した。これらの検出波形は、オシロスコープ(LECROY社製、品名:Wavejet324A、仕様:帯域 200MHz以下、サンプリング周波数:2GHz)にて測定した。電流波形測定時のオシロスコープ設定条件は、Normal検出モード/サンプリング周波数1.0GHz/記録長10kPoint/8bit変換として、各試験試料の部分放電電流波形を取得した。
各部分放電モードでの部分放電電流波形を、図12B〜図17Bに示す。図12B〜図17Bに示すように、周波数及び、減衰振動数は、各部分放電モデルによって異なることがわかった。
そこで、本実施の形態では、これらの部分放電モードの各種特徴量を予め取得して、データベース化しておく。そして、図2のフローチャートに基づく放電監視にて取得した各種特徴量を、データベースと比較することで、図12Aから図17Aに示す各種の部分放電モードを特定することが可能になる。例えば、図5A〜図5Cに示す電源電圧波形が正極時での各種特徴量と、図5D〜図5Fに示す電源電圧波形が負極時での各種特徴量とは、異なっている。このため、これら各種特徴量を、データベースと比較することで、電源電圧が正極のときと、電源電圧が負極のときとで、異なる部分放電モードが生じることを識別することができる。また、データベース(マスターデータ)との比較に際し、図6、図8、図10の少なくともいずれか1つの眼底フローを用いることで、より高精度な判定を行うことができる。
以上のように、本実施の形態によれば、放電監視として利用するデータ量を低減しつつ、ノイズ信号と複合した部分放電信号を、高感度に検出することができる。また、本実施の形態では、部分放電モードの種別も精度よく分析することが可能である。
本発明は、上記実施の形態に限定されず種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
例えば、図1では、放電監視装置1として、センサ部5及びデータ分析部6を含めて説明したが、放電監視装置1は、センサ部5及びデータ分析部6を含まないものとして、或いは、センサ部5及びデータ分析部6の一方のみが含まれるものとして構成されていてもよい。すなわち、本実施の形態の放電監視装置1は、少なくとも、データ処理部2、データ記録部3及び送信部4を含むものであればよい。センサ部5やデータ分析部6は、放電監視装置1とは別体の装置として設けられ、放電監視を実行する際に、本実施の形態の放電監視装置1と合わせて用いる構成とすることができる。
例えば、データ分析部6は、スマートフォンやタブレット等の携帯機器に内蔵されており、放電監視装置1の送信部4から携帯機器に、各種特徴量の情報を送信することができる。分析者は、携帯機器による分析結果を基に、部分放電の発生状況や、受配電機器の寿命等を判断することができる。
本実施の形態では、少なくとも、最大パルス波形抽出部22と、特徴量取得部23と、を含む特徴量取得装置を構成することができる。
また、別の実施の形態として、センサ部と、最大パルス波形抽出部22及び、特徴量取得部23と、有する特徴量取得装置と、特徴取得装置で取得した特徴量に基づいて少なくとも部分放電の有無を分析する分析装置と、を備えた放電監視システムとすることができる。なお、各機能部(装置)の構成は、図1で説明した通りであるので、詳しい内容は、そちらを参照されたい。この実施の形態では、センサ部、及びこれら装置をネットワークで繋ぐことで、放電監視システムを構成することができる。このように、部分放電をネットワーク上で監視することで、部分放電の大規模監視システムを構築でき、また、部分放電の常時監視が可能になる。
また、別の実施の形態として、センサ部と、最大パルス波形抽出部22と、特徴量取得部23と、データ分析部6と、を含む放電監視装置であってもよい。この実施の形態では、データ分析部6が特徴量を直接読み込んで分析することができる。また、この放電監視装置を用いた放電監視方法では、検知信号の最大パルス波形を抽出する工程、最大パルス波形の特徴量を取得する工程、特徴量に基づいて少なくとも放電分析の有無を行う工程、を有する放電監視方法とすることができる。