以下、図面を参照して、一実施形態に係る管腔臓器内圧計測システムについて説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本管腔臓器内圧計測システムは実施形態の構成には限定されない。
<1.システム構成>
図1は、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100のブロック構成の一例を示す図である。図1に例示の管腔臓器内圧計測システム100は、例えば、光ファイバースコープ33を内包(出し入れ)する非親水性イレウスチューブ(先導子バルーンタイプ)のイレウスチューブ1を備えるシステム形態の一例である。
ここで、イレウスチューブとは、腸閉塞の治療に用いられているロングチューブである。例えば、嚥下した空気や異常発酵のため生じたガスなどの気体と通過障害や分泌亢進のために生じた胃酸、胃液は、治療対象の患者の腸まで挿入されたイレウスチューブを介して積極的に排除することが可能である。また、イレウスチューブに内包された光ファイバースコープ等を介し、例えば、大腸癌、腸炎、術後や外傷による腸管の癒着による単純性癒着性イレウスの内視が行われる。
なお、以下では、小腸等の消化管を診断対象とする図1に例示の形態を本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システムの説明例とするが、管腔臓器内圧計測システムの構成が上記形態に限定されるわけではない。一実施形態に係る管腔臓器内圧計測システムは、少なくとも1以上のバルーンを有し、胸腔や腹腔等の体腔、血管、胆管、尿管等の管腔臓器に挿入可能な医療用の管(カテーテル、チューブ等)を備え、胸腔や腹腔等の体腔、血管、胆管、尿管、膣、子宮等の管腔臓器を診断対象とする形態に適用される。
図1に示す非親水性イレウスチューブであるイレウスチューブ1は、シリコンやポリウレタン製の全長3000mm程度のチューブに3つのバルーン(1a、1b、1c)と吸引孔が付いている構造を有する。イレウスチューブ1の後端部分は、操作部2に接続される。なお、図1に示す形態は、イレウスチューブ1の各バルーン1a、1b、1cを膨ら
ませるための流体として滅菌蒸留水を使用する形態であるが、空気や他の流体を使用するとしてよい。例えば、1以上のバルーンを有する尿道カテーテル、胆道カテーテルでは、当該バルーンを膨らませる流体として滅菌蒸留水の使用が例示される。また、血管カテーテルでは、1以上のバルーンを膨らませる流体として造影剤や生理食塩水、あるいは、造影剤と生理食塩水とを1対1の割合で混合させた流体の使用が例示される。
小腸等の消化管を診断対象とする管腔臓器内圧計測システム100においては、イレウスチューブ1の有するバルーン数は、図1に示すように、少なくとも2個以上が好ましい。小腸等の消化管においては、後述するように、口腔で咀嚼された食物の消化活動に伴う運動が行われる。管腔臓器内圧計測システム100は、少なくとも2個以上のバルーンをイレウスチューブ1に有することで、消化管の消化活動に伴う運動(例えば、管腔壁面の収縮・拡張変化、蠕動運動などの伝導性波形等)の検出精度の向上が期待できる。
なお、一実施形態の管腔臓器内圧計測システムが、血管や胆管、尿管等の管腔臓器を診断対象とする場合には、図1に示すイレウスチューブ1は、少なくとも1以上のバルーンを有するバルーンカテーテルであってもよい。一実施形態の管腔臓器内圧計測システムは、少なくとも1以上のバルーンを備えるように構成されたバルーンカテーテルを有することで、診断対象とする血管や胆管、尿管、膣、子宮等の管腔臓器の壁面の硬さや運動の判別が可能になる。
図2は、3つのバルーン(1a、1b、1c)を有するイレウスチューブ1の説明図である。図2(a)は、イレウスチューブ1の軸に垂直な面による横断面図を表し、図2(b)は、イレウスチューブ1の内部構造を示す縦断面図である。図2(c)は、イレウスチューブ1の先端部分に3つのバルーン(1a、1b、1c)が均等に配置された一形態を示す図である。なお、図2(a)、(b)、(c)に例示するイレウスチューブ1は、4.0〜6.0mmφとし、ルーメン1dは、0.5mm〜1.0mmφとする形態例である。
図2(a)の断面図に示すように、イレウスチューブ1内には、少なくとも各バルーン(1a、1b、1c)を膨らませ、あるいは、膨らませたバルーンを萎ませるためのルーメン1dが挿通される挿通孔1eが3箇所に設けられる。また、イレウスチューブ1内には、少なくとも内包する光ファイバースコープ33が挿通される挿通孔1fが設けられる。なお、イレウスチューブ1内には、嚥下した空気や異常発酵のため生じたガスなどの気体と通過障害や分泌亢進のために生じた胃酸、胃液を排除するための排除孔や、光ファイバースコープ33の内視対象を照射する照射光の導入孔が設けられるとしてもよい。
図2(b)の側面図に示すように、イレウスチューブ1の先端部分に設けられた各バルーン(1a、1b、1c)は、挿通孔1eを介して挿通されたルーメン1dの一端を内包する。イレウスチューブ1の先端部分に設けられた各バルーン(1a、1b、1c)は、内包するルーメン1dの一端を介して注入された滅菌蒸留水により膨らまされ、あるいは、萎まされる。なお、図2(b)、(c)に示す形態は、各バルーンを30mmφとし、各バルーンを5mm間隔に配置した形態の一例である。
図2(c)には、イレウスチューブ1の先端部分に設けられた各バルーン(1a、1b、1c)が、内包するルーメン1dの一端を介して注入された滅菌蒸留水により膨らんだ状態が例示される。なお、各バルーン(1a、1b、1c)は、ラテックスやポリエチレン等で形成される。
図1に戻り、イレウスチューブ1の先端部分の3つのバルーン(1a、1b、1c)の内、先端側のバルーン1c(先導子バルーン)は、滅菌蒸留水を注入して膨らませ、小腸
の蠕動運動を利用して深部へ挿入していくように使用する。なお、バルーン1cを、造影剤入りのシリコンゴムで形成することで、レントゲンでバルーン1cの位置や状態を確認しつつ消化器官内の挿入が可能になる。
また、イレウスチューブ1の先端部分の3つのバルーンの内、先頭から2番目のバルーン1b、後端側のバルーン1a(留置バルーン)は、滅菌蒸留水を注入し、小腸屈曲部でチューブが引っ掛かり進まない場合や、チューブが撓んだりループしている場合に補助的に使用することで、これらを解消するように使用する。バルーン1b、バルーン1aは、バルーン1cと同様に、造影剤入りのシリコンゴムで形成することができる。レントゲンでバルーン1b、1cの位置や状態を確認しつつ消化器官内の挿入が可能になる。
消化器官内に挿入されたイレウスチューブ1においては、所定位置に停留した状態で、先端部分に設けられたバルーン(1a、1b、1c)を介して、後述する管腔臓器の硬さ計測が行われる。
なお、各バルーン1a、1b、1cの後方には、嚥下した空気や異常発酵のため生じたガスなどの気体と通過障害や分泌亢進のために生じた胃酸、胃液を吸引する吸引孔が設けられる。
バルーン1aへ給水するバルーン1a給水系は、操作部2のバルーン給水継手2aに接続された延長チューブ3、管継手4、延長チューブ5、分岐継手6、延長チューブ7、水圧シリンダ8、ボールねじ9、駆動モータ10及びエンコーダ11を備える。同様にして、バルーン1bへ給水するバルーン1b給水系は、操作部2のバルーン給水継手2bに接続された延長チューブ12、管継手13、延長チューブ14、分岐継手15、延長チューブ16、水圧シリンダ17、ボールねじ18、駆動モータ19及びエンコーダ20を備える。また、先端側のバルーン1cへ給水するバルーン1c系は、操作部2のバルーン給水継手2cに接続された延長チューブ21、管継手22、延長チューブ23、分岐継手24、延長チューブ25、水圧シリンダ26、ボールねじ27、駆動モータ28及びエンコーダ29を備える。なお、管継手4や延長チューブ5は、操作部2と後述の圧力センサ30、31、32との間の距離に応じて接続される数量を減らすこともできる。
分岐継手6、15、24のそれぞれの分岐先には、各バルーンの圧力変動を検知する圧力センサ30、31、32が接続される。圧力センサ30、31、32を介して検出された圧力検出信号は、入出力制御装置41に入力される。なお、入出力制御装置41には、イレウスチューブ1に内包される光ファイバースコープ33が分光装置(図示省略)等を介して接続される。
各水圧シリンダ8、17、26は、それぞれピストン(図示省略)を内蔵する。各水圧シリンダ8、17、26は、内蔵するピストンを駆動モータ10、19、28によって回転駆動するボールねじ9、18、27を介して進退させることで、それぞれの水圧シリンダ内の滅菌蒸留水を加圧及び減圧する。
水圧シリンダ8は、例えば、内部の滅菌蒸留水を加圧または減圧することにより、イレウスチューブ1のバルーン1aが所定の圧力となるように給水または排水する。内部の滅菌蒸留水は、延長チューブ7、分岐継手6、延長チューブ5、管継手4、延長チューブ3及び操作部2のバルーン給水継手2aを介して給水または排水される。
水圧シリンダ17に接続されるイレウスチューブ1のバルーン1b、水圧シリンダ26に接続されるイレウスチューブ1のバルーン1cについても、上記のバルーン1aと同様にして給水または排水が行われる。
図1に例示の管腔臓器内圧計測システム100では、制御系は、例えば、計測及び制御プログラムを内蔵した情報処理装置40と入出力制御装置41とを主体にして構成される。管腔臓器内圧計測システム100の情報処理装置40、入出力制御装置41は、例えば、図3に示すハードウェア構成を有するコンピュータとして提供される。
図3に示すコンピュータ50は、接続バス56によって相互に接続されたCPU(Central Processing Unit)51、主記憶装置52、補助記憶装置53、通信IF(Interface)54、入出力IF55を有する。
CPU51は、コンピュータ50全体の制御を行う中央処理演算装置である。CPU51は、MPU(Microprocessor)、プロセッサとも呼ばれる。但し、CPU51は、単一のプロセッサに限定される訳ではなく、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、単一のソケットで接続される単一のCPU51がマルチコア構成であってもよい。主記憶装置52および補助記憶装置53は、CPU51が読み取り可能な記録媒体である。
コンピュータ50は、CPU51が補助記憶装置53に記憶されたプログラムを主記憶装置52の作業領域に実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことで、所定の目的に合致した機能を提供する。但し、少なくとも一部の処理がDSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit
)等によって提供されてもよい。また、処理の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、ベクトル演算プロセッサ、画像処理プロ
セッサ等の専用LSI(large scale integration)、その他のデジタル回路であっても
よい。また、処理の少なくとも一部にアナログ回路を含むとしてもよい。
主記憶装置52は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置53は、例えば、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、フ
ラッシュメモリ、USBメモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等である。通信IF54は、コンピュータ50に接続されるネットワーク等とのインターフェースである。入出力IF55は、コンピュータ50に接続される機器との間でデータの入出力を行うインターフェースである。なお、上記の構成要素はそれぞれ複数に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
イレウスチューブ1の先端側のバルーン1c(バルーン1c給水系)の圧力は、分岐継手24に接続された圧力センサ32によって検出されて入出力制御装置41に入力される。同様にして、イレウスチューブ1の先頭から2番目のバルーン1b(バルーン1b給水系)の圧力は、分岐継手15に接続された圧力センサ31によって検出されて入出力制御装置41に入力される。また、イレウスチューブ1の後端側のバルーン1a(バルーン1a給水系)の圧力は、分岐継手6に接続された圧力センサ30によって検出されて入出力制御装置41に入力される。
情報処理装置40は、計測及び制御プログラムに従って、入出力制御装置41に入力された各バルーン1a、1b、1cの圧力検出信号を取得する。また、情報処理装置40は、エンコーダ11、20、29から、各バルーンの給水系を構成する駆動モータ10、19、28の回転角度検出信号を取得する。情報処理装置40は、取得した各バルーン1a、1b、1cの圧力検出信号と回転角度検出信号に基づいて、駆動モータ10、19、28を制御することで、各バルーンの給水系を構成する水圧シリンダ8、17、26のピストンを進退させ、各バルーン1a、1b、1cへの給水圧力を所定値に制御する制御処理を実行する。
本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100においては、情報処理装置40は、制御プログラムに従い、所定位置に停留された各バルーンへの給水圧力を、各バルーンに供給される流体(滅菌蒸留水、空気等)の単位時間当たりの供給量が一定になるように制御する。そして、情報処理装置40は、制御された給水圧力下における、各バルーン1a、1b、1cの圧力検出信号を取得すると共に、取得した圧力検出信号に時刻情報に関連付けて補助記憶装置53に記録する。そして、情報処理装置40は、補助記憶装置53に記録された所定期間の圧力検出信号に基づいて管腔臓器内圧の時間的変化を特定し、管腔臓器の硬さを計測する。
また、情報処理装置40は、補助記憶装置53に記録された所定期間の圧力検出信号に対してFFT(Fast Fourier Transform)解析を行い、各バルーン1a、1b、1cを介して検出された圧力変動の周期変化を検出するとしてもよい。
情報処理装置40は、各バルーン1a、1b、1cを介して検出された管腔臓器内圧の時間的変化、および、FFT解析結果である管腔臓器内圧の変動周期を、情報処理装置40の備えるLCD(Liquid Crystal Display)等の表示デバイスに表示する。本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100においては、管腔臓器内圧の時間的変化、および、FFT解析結果である管腔臓器内圧の変動周期に基づき、管腔臓器の硬さや運動機能について診断可能な診断機器の技術が提供可能になる。
なお、図1に例示の管腔臓器内圧計測システム100においては、情報処理装置40は、イレウスチューブ1に内包された光ファイバースコープ33の内視鏡画像と共に、上記管腔臓器内圧の時間的変化、および、FFT解析結果である管腔臓器内圧の変動周期を表示デバイスに表示するとしてもよい。管腔臓器内圧計測システム100は、診断対象の管腔臓器内壁の内視鏡画像による形態検査と共に、各バルーン1a、1b、1cの挿入位置における管腔臓器箇所の硬さや運動などの機能を診断するための情報の提示が可能になる。
<2.管腔臓器の硬さ計測について>
図4(1)から図4(3)は、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100における管腔臓器の硬さ計測を説明する図である。既述したように、管腔臓器内に挿入されたバルーンには滅菌蒸留水や空気等の流体が供給され、管腔臓器内の狭窄部位や閉塞、癒着等が生じた診断箇所において拡張される。図4(1)から図4(3)は、滅菌蒸留水や空気等の流体が供給されたバルーンの管腔臓器内における拡張過程を表す。
図4(1)は、管腔臓器内の所定位置に到達した時点におけるバルーン状態を表す。本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100においては、図4(1)に示す状態で停留するバルーンの拡張が行われる。停留状態のバルーンは、供給される流体(滅菌蒸留水、空気等)の単位時間当たりの供給量が一定になるように制御される。
流体が注入されたバルーンは時間経過と共に徐々に膨らみ、管腔臓器の内壁(管壁)に接触する(図4(2))。流体が注入されたバルーンは、管腔臓器の内壁(管壁)に接触後、予め定められた所定の圧力値が圧力センサを介して検出されるまで拡張される(図4(3))。なお、所定の圧力値は診断対象の管腔臓器に用いられるバルーン毎に規定される。図4(2)から図4(3)に至る拡張過程において、管腔臓器内に挿入されたバルーンには、拡張するバルーンを管壁側から押し戻そうとする圧力が作用する。拡張するバルーンを管壁側から押し戻そうとする圧力は、圧力検出信号に反映される。
ここで、管腔臓器の管壁側から作用する圧力の大きさの大小は、管腔臓器を構成する組
織の弾力性(硬さ)に関連する傾向にある。図5(1)、(2)は、管腔臓器の管壁側から作用する圧力の大きさを説明する図である。図5(1)、(2)においては、管腔臓器に挿入されたバルーンの径方向の断面図(ハッチング箇所)が説明図として例示される。
図5(1)に示すように、診断対象の管腔臓器を構成する組織は、例えば、組織繊維化等の硬化要因が存在しない状態(「正常組織」とも称す)では相対的に弾力性が高い傾向にある。正常組織では、管腔臓器内から管壁の外側に向かう圧力に対して組織の弾力性で吸収できる割合が相対的に高い傾向にある。このため、図4(2)から図4(3)に至るバルーンの拡張過程においては、拡張するバルーンに作用する管壁側から管腔臓器内へ押し戻そうとする圧力は相対的に小さくなる傾向になる。
一方、図5(2)に示すように、組織繊維化等の硬化要因が存在する状態では管腔臓器を構成する組織の弾力性は相対的に低下する。組織繊維化等の硬化要因が存在する状態では、管腔臓器内から管壁の外側に向かう圧力に対して組織の弾力性で吸収できる相対的な割合は減少する傾向になる。従って、図4(2)から図4(3)に至るバルーンの拡張過程においては、拡張するバルーンに作用する管壁側から管腔臓器内へ押し戻そうとする圧力は相対的に大きくなる傾向になる。
図6は、管腔臓器の圧力変化を説明する図である。図6において、縦軸は圧力(kPa)を表し、横軸は時間(s)を表す。グラフg1、g2は、管腔臓器内に挿入されたバルーン拡張時に推定される圧力の時間推移を表す。グラフg1は、図5(1)で説明した正常組織による圧力変化に相当し、グラフg2は、図5(2)で説明した硬化要因が存在する組織による圧力変化に相当する。なお、横軸におけるA点は、バルーン拡張の開始時を表し、図4(1)の状態に相当する。同様にして、B点は、単位時間当たりの供給量が一定になるように制御された流体によって拡張されたバルーンの管壁接触時点を表し、図4(2)の状態に相当する。
図6のグラフg1に示すように、管腔臓器に硬化要因が存在しない場合には、管壁は弾力性(伸展性)を有するため、圧力の時間推移は相対的に傾斜の弱い変化になると推定される。また、グラフg2に示すように、管腔臓器に硬化要因が存在する場合には、硬化した管壁からの圧力により、圧力の時間推移は相対的に傾斜の強い変化になると推定される。
図7は、管腔臓器の硬化状態を模擬するための実験構成の一例である。図7(a)は、硬化した管腔臓器の模擬体Z1を説明する図である。図7(a)において、硬化した管腔臓器の模擬体Z1として、直径20mm、長さ150mmのアクリル管を採用した。そして、模擬体Z1の一部領域には、一定の幅を有する溝Z2を均等して3方向に設けた。模擬体Z1に設けられた溝Z2により、硬化した管腔臓器に部分的に存在する正常組織部分を模擬する。
図7(b)は、圧力計測における実験形態を説明する図である。図7(a)に示す模擬体Z1を用いた圧力計測実験においては、模擬体Z1に挿入されたバルーンに供給される流体(空気)の単位時間当たりの供給量が一定になるように制御される。そして、圧力計測実験においては、単位時間当たりの供給量に応じて拡張するバルーンの圧力検出信号が所定のサンプリング周期で取得される。
ここで、硬化した管腔臓器に対する圧力変化のバリエーションを模擬するため、さらに図7(b)に示す3つの実験形態を採用した。先ず、図7(b)の「シート無し」は、溝Z2が形成された模擬体Z1の位置を管腔臓器内の所定位置に想定してバルーンを挿入する形態である。なお、管腔臓器内の所定位置に想定して模擬体Z1挿入されるバルーンの位置は、他の「シート半分」、「シート全体」においても同様である。「シート無し」の
形態では、拡張するバルーンと接触する模擬体Z1の部分領域を繊維化部分に模擬することができる。なお、溝Z2部分は、繊維化部分以外の領域である。
次に、「シート全体」では、バルーンを厚さ0.03mmのポリエチレンシートに挿入した状態で、模擬体Z1に挿入する形態である。ポリエチレンシートの有する弾力性により、硬化した管腔臓器内の圧力変化のバリエーションを得ることができる。「シート半分」においては、図7(b)に示すように、溝Z2が形成された一部領域が上記ポリエチレンシートに覆われる構成を採用した。ポリエチレンシートに覆われた溝Z2部分と、ポリエチレンシートに覆われない他の溝Z2部分との間では、バルーン拡張時の圧力変化の時間推移が異なることが想定される。「シート半分」では、「シート無し」、「シート全体」とは異なる圧力変化のバリエーションが期待される。
図8は、実験構成を用いて計測されたデータの一例を示す図である。図8においては、図7(b)で説明した3つの形態以外に、シートに挿入されたバルーンを介して計測された圧力の時間推移、バルーンのみで計測された圧力の時間推移が例示される。図8において、「溝3つ」の細破線で表されるグラフは図7に例示の「シート無し」の形態で計測されたデータを表す。同様にして、「溝3つ(シート半分)」の破線で表されるグラフは図7に例示の「シート半分」の形態で計測されたデータ、「溝3つ(シート全体)」の一点鎖線で表されるグラフは図7に例示の「シート全体」の形態で計測されたデータを表す。また、シートに挿入されたバルーンで計測されたデータは「シート」の2点鎖線のグラフで表され、バルーンのみで計測されたデータは「air」の実線のグラフで表される。なお、図8の縦軸および横軸は図6と同様である。
実験においては、単位時間当たりの供給量が一定になるように制御された流体(空気)の供給期間は10秒間とした。また、模擬体Z1に挿入されたバルーンの内壁への接触時期は、流体の供給開始から5秒経過後である。
図8に例示のグラフにおいて、実線で表されたグラフ、すなわち、バルーンのみで計測されたデータが、圧力変化の傾斜が相対的に最も小さいことが判る。また、バルーンのみで計測されたデータの圧力変化の傾斜は、流体のバルーンへの供給開始から供給停止時まで粗一定の傾斜で推移していることがわかる。
また、図8に例示のグラフにおいて、相対的な圧力変化の傾斜は、「溝3つ」、「溝3つ(シート半分)」、「溝3つ(シート全体)」の順で大きくなることがわかる。「溝3つ」、「溝3つ(シート半分)」、「溝3つ(シート全体)」のグラフでは、圧力変化の傾斜が模擬体Z1の内壁に接触した時点で変化し、相対的な傾斜が大きくなることが判る。実線で表されたグラフと比較すると、単位時間当たりの圧力上昇幅が大きくなることが判る。
次に動物体(豚)を被検体とする実験結果を説明する。動物体を被検体とする実験では、腸内にイレウスチューブを挿入してバルーンを停留させ、単位時間当たりの供給量が一定になるように制御された流体(空気)を供給した。そして、単位時間当たりの供給量に応じて拡張するバルーンの圧力検出信号を所定のサンプリング周期で取得した。なお、管腔臓器(腸)に対する圧力計測は、動物体内(生体内)、開腹して取り出した管腔臓器(常温状態)、取り出した管腔臓器に対して湯せん(40℃、および、60℃)処理を施した状態の4形態について行われた。なお、開腹して取り出した管腔臓器に湯せん処理を施すことで、組織繊維化等が模擬される。
図9は、動物体で計測されたデータの一例を示す図である。図9においては、動物体内で計測された圧力データが太実線のグラフg3で例示される。同様にして、常温状態で計
測された圧力データが太破線のグラフg4、40℃の湯せん処理を施した状態で計測された圧力データが破線のグラフg5、60℃の湯せん処理を施した状態で計測された圧力データが実線のグラフg6で例示される。なお、図9の縦軸および横軸は図6と同様である。
図9に示すグラフでは、計測開始から6秒経過後の圧力上昇変化が、形状を保てない状態の管腔臓器内において拡張するバルーンの圧力検出タイミングと推定される。グラフg3からグラフg6間の相対的な圧力変化の時間的推移の比較から、湯せん処理が施された状態では相対的な傾斜が大きくなることが判る。また、グラフg6に示すように、60℃の湯せん処理によって管腔臓器の硬化が進んだ状態では、粗一定の傾斜で推移することがわかる。
図10は、管腔臓器内圧の時間的変化の特定を説明する図である。なお、図10に示すグラフg1、g2、縦軸、横軸は図6と同様である。図8、図9で説明したように、管腔臓器内に停留して拡張するバルーンが内壁に接触するまでの期間は、管壁の状態に依存するものと推定される。つまり、図10に示すように、管腔臓器の形状を保てる状態、例えば、溝無しのアクリル管等のような状態では、内壁に接触するまでの期間は相対的に長く、形状を保てない状態、例えば、内容物のない腸管等のような状態では内壁に接触するまでの期間は相対的に短くなると推定される。内容物のない腸管等のような状態では、管腔臓器に挿入されたバルーンには内壁が接触した状態で拡張されるからである。
しかしながら、バルーンが管壁を内側から拡張する場合には、破線の楕円枠で囲まれた領域Z3に示すように、圧力の上昇幅に変化が生じる。従って、所定の周期で取得された圧力検出信号の時間軸上の変化から、圧力上昇の傾向(例えば、傾き、微分値等)が特定できる。例えば、情報処理装置40は、直前にサンプリングされた圧力値との差分値を求め、単位時間当たりの圧力変化を特定すればよい。
例えば、診断対象になる管腔臓器に対して計測期間(t1)が制限される場合には、図10に示す領域Z3以降の傾き(圧力変化傾斜)を管腔臓器の硬さを計る指標とすることが可能になる。管腔臓器に組織繊維化等が生じている場合には、領域Z3以降の傾きが相対的に大きくなるからである。また、図8、図9の実験結果が示すように、傾きの大きさは、管腔臓器の硬さに依存して大きくなるからである。
また、診断対象になる管腔臓器に対して所定の圧力値(P1)が制限される場合には、所定の圧力値に到達するまでの経過時間に基づいて管腔臓器の硬さを表すことが可能になる。管腔臓器に組織繊維化等が生じている場合には、領域Z3以降の傾きが相対的に大きくなるため、所定の圧力値(P1)に到達する時間が短くなるからである。従って、拡張するバルーンを介して検出された圧力値の大きさ、および、前記圧力値に到達した時間を組合せて管腔臓器の硬さを計る指標としてもよい。
なお、図8に示すように、バルーンのみで計測されたデータの圧力変化の傾斜は、流体のバルーンへの供給開始から供給停止時まで粗一定の傾斜で推移する。このため、予め室内において、供給される流体の単位時間当たりの供給量が一定になるように制御された状態で拡張するバルーンのみの圧力検出信号を取得して圧力変化傾斜を求め、該圧力変化傾斜を管腔臓器の硬さを診断するための基準指標にするとしてもよい。
管腔臓器の硬さを診断するための基準指標は、診断対象になる管腔臓器の種別(消化管、血管、胆管、尿管等)に応じて求めることが可能である。診断対象になる管腔臓器の種別に応じて、例えば、バルーンに供給される流体の単位時間当たりの供給量を制御すればよい。そして、情報処理装置40の補助記憶装置53等に上記基準指標を予め格納し、管腔臓器から取得したバルーン拡張時の時間軸上の圧力変化と共に基準指標を同一画面上に
表示させる。同一画面上に表示された基準指標および管腔臓器の圧力変化を相対的に比較することで、管腔臓器の硬さを診断することが可能になる。
また、情報処理装置40においては、管腔臓器から取得したバルーン拡張時の時間軸上の圧力変化に基づいて圧力変化傾斜を特定し、基準指標との比を算出するとしてもよい。管腔臓器の管壁側から作用する圧力の大きさを、管腔臓器の硬さを示す相対的な指標として数値化することができる。数値化された管腔臓器の硬さを示す指標をデータとして蓄積し、蓄積されたデータを解析することで、管腔臓器の各種病態に対する機能的な研究を進展させることが可能になる。
以上のように、管腔臓器内圧計測システム100は、単位時間当たりの供給量に対応して管腔臓器内で拡張するバルーンの圧力検出信号を所定のサンプリング周期で取得することで、該バルーンが挿入された管腔臓器の硬さを計測することが可能になる。
なお、管腔臓器内に挿入されるバルーンは、複数のバルーンを周方向に併設する形態としてもよい。図11(1)、(2)は、周方向に複数のバルーンが併設された形態を説明する図である。図11(1)、(2)においては、周方向に複数のバルーンが併設された形態の断面図が例示される。図11(1)は、周方向に2つのバルーン(1g、1h)を併設する形態例であり、図11(2)は、周方向に3つのバルーン(1i、1j、1k)を併設する形態例である。各バルーン(1g、1h、1i、1j、1k)のそれぞれには、例えば、分岐継手、圧力センサが接続する。各バルーンのそれぞれに接続する圧力センサを介し、所定値に制御された給水圧力下における管壁からの圧力が圧力検出信号として検出される。
周方向に複数のバルーンが併設される形態では、例えば、それぞれのバルーンが接触する管腔臓器壁面領域毎の硬さ計測が期待できる。図11(1)に示すように、例えば、バルーン1gが接触する管壁側領域の硬さ、バルーン1hが接触する管壁側領域の硬さをそれぞれに計測することが可能になる。図11(2)に示す、周方向に3つのバルーン(1i、1j、1k)を併設する形態であっても、上述したように、それぞれのバルーンが接触する管腔臓器壁面領域毎の硬さ計測が期待できる。
<3.消化器系の運動機能の計測について>
次に、小腸等の管腔臓器を診断対象とする管腔臓器内圧計測システム100の、消化器系の運動機能の計測について説明する。
人体を構成する消化器官において、口腔で咀嚼された食物は食道を通じて胃に嚥下される。胃では、胃液が分泌され嚥下された食物に対して前段階の消化活動が施される。胃に続く十二指腸では、胆汁、すい液等の消化液が分泌され、食物の消化や殺菌が行われる。十二指腸に続く小腸では、食物が消化されて栄養素が吸収される。小腸に続く大腸においては、主に消化された食物の水分吸収や便の形成等が行われる。
消化器系を構成する管腔臓器において、口腔から取得された食物の消化および栄養素の吸収を主に行う小腸においては、小腸内に取り込まれた内容物(食物)を移動するための収縮・弛緩を繰り返す蠕動運動が行われる。また、消化活動として、小腸においては、小腸内に取り込まれた内容物と消化液との混和を行う分節運動や、小腸の縦走節が収縮、弛緩することによって、腸管が長軸方向に沿って伸縮する振子運動が行われる。
小腸等の管腔臓器を診断対象とする管腔臓器内圧計測システム100は、小腸を含む腸管内に挿入されたイレウスチューブ1の先端部分に設けられた各バルーンを加圧し、腸管内で拡張(膨らます)させることで、各バルーンと腸管の内壁とが接触する状態に移行する。そして、イレウスチューブ1の先端部分に設けられた各バルーンは所定の圧力値が検
出されるまで拡張される。
ここで、上述した小腸の小腸運動(蠕動運動、分節運動、振子運動等)が静止している状態と仮定した場合、腸管の内壁に接触する各バルーンには、加圧されて拡張されたバルーン状態に応じた圧力(消化器内圧力)がかかる。管腔臓器内圧計測システム100は、分岐継手6、15、24に接続された圧力センサ30、31、32を介し、バルーン状態に応じた小腸等の静止状態における圧力値を検出する。
また、腸管が上述した小腸運動に基づいて収縮運動を行う場合においては、収縮運動による腸管内圧力が各バルーンに加わることになる。このため、圧力センサ30、31、32を介して検出される各バルーンの圧力は、静止状態における圧力値より上昇した圧力値になる。
管腔臓器内圧計測システム100においては、腸管の収縮運動に伴う圧力変化を、圧力センサ30、31、32を介して計測する。腸管の収縮運動に伴って計測された圧力変化は、時刻情報に対応付けて記録される。管腔臓器内圧計測システム100は、腸管の収縮運動に伴う圧力値の時間変動を検出することが可能になる。
また、管腔臓器内圧計測システム100は、例えば、所定期間に記録された圧力変化に対してFFT(Fast Fourier Transform)解析を行うことで、各バルーン1a、1b、1cを介して検出された圧力変動の周期変化を検出することが可能なる。
<4.消化器系の運動機能の計測例>
次に、図12から図15を参照し、臨床試験による消化器内圧による運動機能の計測例を説明する。なお、臨床試験においては、イレウスチューブ1の先端部分に設けられたバルーン数を2個として消化器内圧を計測した。
図12は、消化器内圧の計測形態を説明する図である。図12において、先端部分に2個のバルーン(1a、1b)を有するイレウスチューブ1は、バルーンカテーテルとして被験者Kに経鼻挿入される。被験者Kは、30代の男性である。被験者Kに経鼻挿入されたイレウスチューブ1は、食道、胃、十二指腸を経由して小腸内に到達し、各バルーン(1a、1b)は、それぞれに接続されたバルーン1a給水系、バルーン1b給水系を介して滅菌蒸留水や空気が注入されて拡張する。
先端側のバルーン1b(前方バルーン)の圧力は、操作部2に接続された分岐継手15(前方用バルブ)、圧力センサ31(前方用圧力センサ)を介して検出され、検出された圧力は小腸運動計測装置(入出力制御装置41、情報処理装置40)に入力される。同様にして、後端側のバルーン1a(後方バルーン)の圧力は、操作部2に接続された分岐継手6(後方用バルブ)、圧力センサ30(後方用圧力センサ)を介して検出され、検出された圧力は小腸運動計測装置(入出力制御装置41、情報処理装置40)に入力される。
小腸運動計測装置(入出力制御装置41、情報処理装置40)は、圧力センサ30、31を介して検出された圧力検出信号を時刻情報に関連付けて記録する。小腸運動計測装置を介して、消化管内のイレウスチューブ1の挿入位置における管腔臓器の硬さが計測される。また、小腸運動計測装置を介して、被験者Kの腸管の収縮運動に伴う圧力値の時間変動が検出される。検出された圧力値の時間変動に基づいて、被験者Kの腸管の収縮運動に伴う腸管圧力の周期変化がFFT解析結果として検出される。
(計測例1)
図13は、被験者Kで計測された消化器内圧の空腸時の計測例を示す図である。小腸運
動計測装置を構成する情報処理装置40の表示デバイスには、図13に例示の計測画面がFFT解析結果として表示される。
図13(a)は、バルーン1b(前方バルーン)で検出された腸管圧力のFFT解析結果の一例であり、図13(b)は、バルーン1a(後方バルーン)で検出された腸管圧力のFFT解析結果の一例である。また、図13(c)は、腸管圧力の臨床試験時に計測された被験者Kの呼吸運動に対するFFT解析結果の一例であり、図13(d)は、被験者Kの脈拍に対するFFT解析結果の一例である。図13(a)から図13(d)に示すFFT解析結果において、縦軸は正規化された大きさ(Power)を表し、横軸は単位時間当
たりの圧力変化(周波数)を表す。なお、図13(a)、(b)の横軸のスケールは、図13(c)と同様である。
バルーン1bにおいては、図13(a)の丸囲みP1に示す、0.96(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力、および、図13(a)の丸囲みP2に示す、10.2(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力の2種類の周期を有する変動が計測された。また、バルーン1aにおいても、図13(b)の丸囲みP3に示す、1.23(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力、および、図13(b)の丸囲みP4に示す、7.0(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力の2種類の周期を有する変動が計測された。
被験者Kの呼吸運動の周期は、10(Cycles/min)から15(Cycles/min)に分布している(図13(c)、P5)。また、被験者Kの脈拍の周期は、59(Cycles/min)である(図13(d)、P6)。従って、図13(a)の丸囲みP1、P2に示す腸管圧力の周期変化、および、図13(b)の丸囲みP3、P4に示す腸管圧力の周期変化は、何れも呼吸運動(図13(c))や脈拍の周期(図13(d))とは異なる周期変化である。このため、バルーン1bを介して計測されたP1、P2に示す腸管圧力の周期変化、および、バルーン1aを介して計測されたP3、P4に示す腸管圧力の周期変化は、何れも被験者Kの小腸運動に伴う固有の腸管圧力の周期変化であることが推認される。
なお、図13(a)、(b)の計測結果から、バルーン1bが存在する小腸内の位置と、バルーン1aが存在する小腸内の位置とでは、周期変化が異なることが推認できる。このため、バルーン数を少なくとも3つとすることで、各バルーンの小腸内の挿入位置における腸管圧力の周期変化(運動状態)計測の精度を向上が期待できる。また、各バルーン(1a、1b、1c)で計測された圧力変化の相対的な位相差に基づいて、小腸運動に伴う腸管の腸軸方向に沿って伸縮する振子運動の方向を特定することが可能になる。
(計測例2)
次に、図14は、腸管の収縮力の計測例を示す図である。管腔臓器内圧計測システム100では、例えば、小腸内に到達したイレウスチューブ1のバルーン(1a、1b)の圧力を、所定圧力まで加圧することで、小腸運動に伴う収縮運動の収縮力を計測することが可能になる。なお、図14においては、バルーン1bを腸管の収縮力を計測するための計測バルーンとして加圧した。
図14(a)は、30代の男性である被験者Iを対象とした計測例であり、臨床試験においては、バルーンに加える所定圧力を1kpaとした。また、図14(b)は、30代の男性である被験者Kを対象とした計測例であり、バルーンに加える所定圧力は2kpaとした。図14(a)、(b)の縦軸は、圧力値(kPa)を表し、横軸は時間(s)を表す。
図14(a)に示すように、所定圧力を1kpaとした被験者Iでは、1kpa近傍の圧力変動が計測され、所定圧力を2kpaとした被験者Kでは、図14(b)に示すよう
に、2kPaより大きい3kpa程度の圧力変動が計測された。図14(a)、(b)に示す計測結果から、腸管の収縮力(圧力変動幅)については個体差があることが推認される。
(計測例3)
(計測例1)、(計測例2)で説明した、消化器内圧の計測を複数の被験者(被験者K、被験者I、被験者H(40代、男性))について行った。被験者(K、I、H)は何れもイレウス(腸閉塞)を患っていない健常者である。この結果、何れの計測においても、図13(a)の丸囲みP1、図13(b)の丸囲みP3に示す、〜1(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力が計測された。同様にして、図13(a)の丸囲みP2、図13(b)の丸囲みP4に示す、6〜11(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力が計測された。
また、〜1(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力に対して、バルーン加圧による収縮力を測定した結果、相対的に圧力変動幅の大きい強い収縮となる傾向が検知された。同様にして、6〜11(Cycles/min)の周期で変化する腸管圧力に対して、バルーン加圧による収縮力を測定した結果、相対的に圧力変動幅の小さい弱い強い収縮となる傾向が検知された。少なくとも臨床試験の対象とした健常者においては、小腸運動は、〜1(Cycles/min)の周期で変化する強い収縮運動と、6〜11(Cycles/min)の周期で変化する弱い収縮運動との複合運動であることが推認される。
同様の計測を、イレウスを患う複数の被験者(被験者D(50代、女性)、被験者F(50代、女性)、被験者G(70代、女性)、被験者A(80代、女性)、被験者C(70代、女性)、被験者E(80代、男性))について行った。図15は、健常者およびイレウス患者を含む複数の被験者について計測された小腸運動の相対評価を例示する図である。
図15においては、健常者から推認された強い収縮運動、および弱い収縮運動のそれぞれについて、被験者間の相対的な頻度および収縮力が4段階(“◎”、“○”、“△”、“×”)の評価により表される。図15に示すように、被験者がイレウス患者の場合では、小腸運動の傾向として、強い収縮運動が5分に1回の割合で発生する被験者(被験者G、C)と、ほとんど発生しない被験者(被験者D、F、A、E)が確認された。また、弱い収縮運動については、被験者がイレウス患者の場合では、小腸運動の傾向として、断続的に発生する被験者(被験者D、F、C、E)と、ほとんど発生しない被験者(被験者G、A)が確認された。
ここで、イレウス(腸閉塞)とは、小腸で内容物(食べた物)の通過が悪くなったり、完全に遮断されることにより、腸管の内容物が肛門運方向へ運ばれなくなる疾病である。内容物が小腸や大腸に貯まることで、腹部膨満感や腹痛、嘔気、嘔吐などの症状を伴う。イレウスは、機械的腸閉塞と機能的腸閉塞に大別される。
機械的腸閉塞は、例えば、腫瘍や腸ヘルニア、腸重積、腸捻転などを原因とする腸閉塞であり、イレウス患者の約9割がこのケースに当たる。機械的腸閉塞の治療では、基本的に上記原因を取り除く手術が施される。また、機能的腸閉塞は、蠕動運動の障害により、機械的な閉塞がないにも関わらず覆部膨満や腹痛、嘔気、嘔吐などの腸閉塞症状を引き起こす難治性疾患である。機能的腸閉塞では、一般的にイレウスチューブを挿入し、内容物やガスを体外へ排出して腸管内の減圧を図り、経過観察しながら狭窄を改善する。なお、改善が見込めない場合には開腹手術となる。
管腔臓器内圧計測システム100においては、図15に示すようにイレウス患者の小腸
運動について、管腔臓器の硬さ計測、腸管圧力の時間変動、腸管圧力の周期変化、収縮力等の消化器内圧に係る特性が計測可能になる。このため、例えば、機械的腸閉塞の場合には、原因を取り除く手術が行われた術後の経過状態を、バルーンを介して計測された管腔臓器の硬さや小腸運動に伴う消化器内圧の特性に基づいて診断・観察することが可能になる。同様にして、上記特性に基づいて機械的腸閉塞を患う患者の診断が行えるため、客観的な腸閉塞症の治療方針の決定に寄与することが可能になる。
さらに、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100においては、イレウスチューブ1に内包された光ファイバースコープ33の内視鏡画像(映像)による腸管内の形態検査を並行して行うことが可能である。このため、管腔臓器内圧計測システム100においては、例えば、内視鏡画像で得られた腸壁の色態や形状、小腸運動に伴う腸壁の収縮変動量等を、上記管腔臓器を構成する組織の硬さや消化器内圧に係る特性に組合せて経過状態を診断することが可能になる。
<5.処理の流れ>
次に、図16を参照し、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測処理を説明する。図16は、管腔臓器内圧計測システム100を介して提供される管腔臓器内圧計測処理の一例を示すフローチャートである。
図16のフローチャートにおいて、S1の処理においては、管腔臓器内圧計測システム100における各機器の初期設定が行われる。初期設定では、例えば、使用するイレウスチューブ1のバルーン給水継手2a、2b、2cに滅菌蒸留水を満たした延長チューブ3、12、21が接続され、系内に残留する空気は微量に止めるように排気する作業等が行われる。次に、入出力制御装置41、情報処理装置40において、圧力センサ30、31、32を使用した圧力検出のゼロ点調整作業が行われる。
S1の処理設定の完了後、施術者の手操作により、イレウスチューブ1が患者の体内に挿入される(S2)。
S3の処理では、イレウスチューブ1の先端部分に設けられたバルーン1a、1b、1cを滅菌蒸留水により膨らませて腸壁を押し広げるように接触させる。イレウスチューブ1の先端部分に設けられたバルーン1a、1b、1cは、小腸の蠕動運動によって該小腸の深部方向へ進入移動する。
S3の処理において、情報処理装置40は、水圧シリンダ8、17、26からイレウスチューブ1の先端部分に設けられた各バルーン(1a、1b、1c)に対して、所定量の滅菌蒸留水が注入されるように駆動モータ10、19、28の運転制御処理を行う。なお、各バルーン(1a、1b、1c)に対する注水量は、これらのバルーン1a、1b、1cが小腸内で膨らんで腸壁を押し広げるように密着し、小腸の蠕動運動によって該小腸の深部方向へ進入するように移動するのに適量な量であればよい。また、注水量は、例えば、施術者(医師)が患者の状態に応じて変更されるとしてもよい。
S4の処理では、情報処理装置40は、管腔臓器内圧計測プログラムの機能を介し、圧力センサ30、31、32から出力される圧力検出信号を所定の周期間隔(サンプリング周期)で取得する。取得された圧力検出信号は、時刻情報や各バルーン(1a、1b、1c)の進入位置情報と関連付けられて主記憶装置52の所定の領域に記憶される。S4の処理においては、例えば、バルーン1a、1b、1cが小腸の深部方向へ進入していく過程の小腸運動が計測される。また、進入させた各バルーンを所定位置に停留させた状態でバルーン拡張に伴う圧力上昇の傾向、すなわち、バルーンに供給される流体の単位時間当たりの供給量が一定になるように制御しタ状態で圧力検出信号を取得する。バルーン拡張
に伴う圧力上昇の傾向から、所定位置における管腔臓器の硬さが診断される。消化器内圧の計測は、例えば、小腸の所定位置に挿入された各バルーン1a、1b、1cの圧力値が所定値に到達したときに終了される。
S5の処理では、情報処理装置40は、圧力センサ30、31、32を介して検出された検出圧力の時間的変化から、腸管内(管腔臓器内)の組織硬さの診断を行う。例えば、情報処理装置40は、圧力センサ30、31、32を介して検出されたバルーン拡張時の所定期間の圧力値の時間軸上の推移をバルーン毎に識別(例えば、異なる色種別)した状態でグラフ表示を行う。そして、情報処理装置40は、グラフ表示されたバルーン拡張時の検出圧力値の時間軸上の変化に基づいて、診断対象の管腔臓器についての圧力上昇の傾向を特定する。ここで、圧力上昇の傾向には、図10を用いて説明したように、グラフの傾き(傾斜)、検出圧力の微分値等が含まれる。また、圧力上昇の傾向には、所定圧力値に到達するまでの経過時間が含まれる。なお、情報処理装置40は、事前に室内で計測されたバルーンのみの圧力変化の傾斜を基準として、管腔臓器から特定された圧力変化傾斜との比を算出し、管腔臓器の硬さを示す相対的な指標として数値化するとしてもよい。
上記圧力上昇の傾向は、例えば、診断対象の管腔臓器の硬さを示す指標として、グラフ表示された圧力値の時間軸上の推移と共に情報処理装置40の備える表示デバイス上に表示される。
S6の処理では、情報処理装置40は、圧力センサ30、31、32を介して検出された所定期間の圧力検出信号に対してFFT解析を行う。FFT解析結果は、例えば、図8(a)、(b)等に示すように情報処理装置40の備えるLCD等の表示デバイス上に表示される。また、情報処理装置40は、圧力センサ30、31、32を介して検出された圧力検出信号の時間的変化をLCD等の表示デバイス上に表示する。例えば、図8(a)、(b)に示す腸管の収縮力の変動がLCD等の表示デバイスに表示される。
S7の処理では、イレウスチューブ1を小腸の最深部から徐々に引き抜きながら光ファイバースコープ33によって小腸の内部を検査する操作が開始される(施術者による手操作)。
情報処理装置40は、例えば、圧力センサ30、31、32から出力される圧力検出信号を一定時間毎に取得すると共に、管腔臓器内圧計測時に記録した小腸内圧を参照してイレウスチューブ1の引き抜きに好適な膨らみ圧力となるように各バルーン(1a、1b、1c)の圧力を制御する。各バルーン(1a、1b、1c)の圧力制御は、例えば、駆動モータ10、19、28を正転または逆転させるように運転して水圧シリンダ8、17、26内の滅菌蒸留水の圧力を制御して各バルーン内の滅菌蒸留水を給水または排水することにより行われる。なお、圧力センサ30、31、32を介して計測された圧力検出信号についても、S4−S6の処理と同様の処理が施される。
S8の処理では、イレウスチューブ1を徐々に引き抜きながら光ファイバースコープ33による小腸内視検査が行われる。情報処理装置40は、例えば、内視鏡画像処理プログラムを機能させ、入出力制御装置41を介して光ファイバースコープ33で撮像された内視鏡画像を取得する。取得された内視鏡画像は、情報処理装置40の備えるLCD等の表示デバイス上に表示される。なお、情報処理装置40においては、内視鏡画像が表示される表示デバイス、管腔臓器内圧計測結果が表示される表示デバイスをそれぞれに備えるとしてもよい。
なお、S8の処理では、情報処理装置40は、例えば、取得された内視鏡画像に対して所定の画像処理を行い、内視対象の腸管内の特徴点を抽出するとしてもよい。そして、情報処理装置40は、例えば、抽出した特徴点の小腸運動に伴う時間上の変化(オプティカ
ルフロー)に基づいて、内視鏡画像内の変位量を算出する。算出された変位量は、例えば、時刻情報、各バルーン(1a、1b、1c)の進入位置情報と関連付けられて主記憶装置52の所定の領域に記憶される。
情報処理装置40は、計測された管腔臓器内圧から、進入位置における管腔臓器の硬さ、腸管圧力の変動幅、変動期間、変動周期を特定する。そして、情報処理装置40は、内視鏡画像に基づいて算出された変位量と、上記の進入位置における管腔臓器の硬さ、腸管圧力の変動幅、変動期間、変動周期とを組み合せて、腸管を形成する組織の硬さを示す総体的な指標値を算出するとしてもよい。情報処理装置40においては、進入位置における管腔臓器の硬さ、腸管圧力の変動幅、変動期間、変動周期を組合せた総体的な指標値が計測できる。
なお、総体的な指標値は、例えば、複数の被験者から蓄積された上記の情報(管腔臓器の硬さ指標、内視鏡画像内の変位量、管腔臓器圧力の変動幅、変動期間、変動周期)に基づいて作成されたテーブルから、経験的に求めることができる。施術者は、作成したテーブルを予め補助記憶装置53に格納すればよい。情報処理装置40は、補助記憶装置53に格納された上記テーブルを参照し、総体的な指標値を求めるとすればよい。なお、上記テーブルは、例えば、年齢や性別といった個人差、病歴や服薬種別等の情報毎に持たせることができる。情報処理装置40は、患者の年齢や性別といった個人差、病歴や服薬種別等を反映した、総体的な指標値を求めることができる。
S9の処理では、イレウスチューブ1の先端が小腸から抜け出たときに管腔臓器内圧計測および検査が終了する。例えば、情報処理装置40は、各バルーン(1a、1b、1c)に注入された滅菌蒸留水を抜き取って萎ませるように駆動モータ10、19、28を制御する。施術者は、例えば、圧力センサ30、31、32から出力される圧力検出信号の値がゼロ値の状態のときに、イレウスチューブ1を体内から抜き取る。
以上、説明したように、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100は、進入させた各バルーンを所定位置に停留させた状態でバルーン拡張に伴う圧力上昇の傾向を測定し、当該測定結果に基づいて管腔臓器の硬さを相対的に診断することができる。圧力上昇の傾向には、単位時間の圧力上昇幅(傾き)、検出圧力の微分値、所定圧力値に到達するまでの経過時間を含むことができる。また、事前に室内で計測されたバルーンのみの圧力変化の傾斜を基準とすることもできる。本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100によれば、管腔臓器を構成する組織の硬さを計測して運動などの機能の診断を可能にする技術が提供できる。
なお、管腔臓器内圧計測システム100は、例えば、小腸運動に伴う腸管圧力の時間変動、腸管圧力の周期変化、収縮力等の消化器内圧に係る特性といった管腔臓器の運動機能を、イレウスチューブ1の先端部分に設けられたバルーン1a、1b、1cを介して計測することができる。また、管腔臓器内圧計測システム100は、イレウスチューブ1の先端部分に設けられたバルーン1a、1b、1cを、周方向に併設することができるため、それぞれのバルーンが接触する管腔臓器壁面領域毎の硬さ計測が可能になる。
また、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100においては、イレウスチューブ1に内包された光ファイバースコープ33の内視鏡画像による腸管内の形態検査を並行して行うことが可能になる。本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100においては、例えば、内視鏡画像で得られた腸壁の色態や形状、小腸運動に伴う腸壁の収縮変動量等を、上記管腔臓器内圧に係る特性に組合せて提供できる。
<6.変形例>
図1に示す管腔臓器内圧計測システム100において、入出力制御装置41は、例えば、患者の体表に装着可能なウェアラブル機器として構成されるとしてもよい。例えば、入出力制御装置41、情報処理装置40のそれぞれに無線通信機能を持たせて、該無線通信機能を介して圧力検出信号等のデータの授受を行うとすればよい。入出力制御装置41をウェアラブル機器とすることで、上述した管腔臓器内圧計測や、内視鏡検査が行われる際の、患者の負荷を軽減することができる。
また、図1に示す管腔臓器内圧計測システム100においては、少なくともバルーン1a、1b、1cが設けられたイレウスチューブ1、および、バルーン給水継手2a、2b、2cを含む操作部2の構成を1回の使用で使い捨て可能なディスポーザルキットとして提供するようにしてもよい。管腔臓器内圧計測および内視鏡検査に伴う感染を抑制することができる。
なお、本実施形態に係る管腔臓器内圧計測システム100の管腔臓器内圧計測手法は、血管、胆管、尿管、膣、子宮等の管腔臓器に対しても適用可能である。例えば、血管内に挿入可能なカテーテルに対して内圧計測可能なバルーンを設けることにより、循環器系の内圧計測が可能になる。同様にして、泌尿器系や胆のうにおいてもそれぞれの内圧計測が可能になる。当該管腔臓器内圧計測手法により、バルーンを介して計測された圧力の時間的変化から、管腔臓器を構成する組織の相対的な硬さに基づく運動などの機能の診断が可能になる。