JP2019104709A - 脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化する方法並びにそのキット - Google Patents

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昌彦 菱川
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Abstract

【課題】脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成を識別する方法並びにそのキットを提供する。【解決手段】脂肪酸エステルを炭素数1〜4の低級アルコールとの脂肪酸低級アルキルに低級アルキル化する第1工程と、遊離脂肪酸をシリル化剤と反応させて、シリル化する第2工程とを経ることにより、脂肪酸エステルであれば脂肪酸低級アルキルに調製され、かつ遊離脂肪酸であれば脂肪酸シリルに調製されるように、選択的に異なる構造の化合物に誘導体化できることを見出した。本発明方法及びそれを用いたキットによれば、試料と試薬とを混合するだけの簡便な操作で、脂肪酸エステル由来であるのか、遊離脂肪酸由来であるのか、脂肪酸の組成を精度よく識別でき、脂肪酸組成分析に対応する医薬品、化粧品、食品の分野において利用できるものである。【選択図】図1

Description

本発明は、試料に含まれる脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成をガスクロマトグラフィー等により分析するのに先立って、脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化する方法並びにそのキットに関する。
皮脂、血液、油脂等の試料に含まれる脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成を分析することは、皮膚の代謝状態、特定疾患の診断や製品の品質管理等に有用である。
非特許文献1には、脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成を分析する方法として、まず、試料から溶媒を用いて脂質を抽出し、次に、薄層クロマトグラフィーを用いて脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を分画する方法が記載されている。
しかし、上記の方法では、薄層クロマトグラフィーで溶媒を展開する時間が長く、また、プレートからシリカゲルをかきとり、溶媒で抽出して回収する等、操作が煩雑であるという問題点があった。
一方、分画した脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成を分析するには、通常、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等による方法が行われ、感度が高いために少量の試料で足りる点で、ガスクロマトグラフィーが採用されることが多い。脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸をガスクロマトグラフィーに供するには気化しやすい状態にする必要があるため、ガスクロマトグラフィーによる分析に先立ち、脂肪酸エステルは炭素数1〜4の低級アルコールとの脂肪酸低級アルキルにエステル交換されたり、また、遊離脂肪酸も同様に低級アルキル化されたり、シリル化剤によってシリル化されたり等、誘導体化されることが多い。
特許文献1は、脂肪酸を含む試料と炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドとを反応させる第1工程と、その反応混合物を、三フッ化ホウ素の存在下で、炭素数1〜4の低級アルコールと反応させる第2工程とを経ることにより、37℃程度の穏和な条件で、脂質等の試料中に含まれる脂肪酸エステルだけでなく、試料中の遊離脂肪酸やエステル交換反応に伴い副生する遊離脂肪酸もほぼ完全にアルキルエステル化される方法を開示している。
しかし、上記の方法では、脂肪酸エステルのみならず、脂肪酸部分が同じであれば遊離脂肪酸も同一のアルキルエステルに調製されるため、アルキルエステル化された脂肪酸が脂肪酸エステル由来であるのか、遊離脂肪酸由来であるのかを区別できず、脂肪酸の組成や分布を分析できないという問題点があった。
また、特許文献2は、グリセリン脂肪酸エステルを、炭素数1〜4の低級アルコール溶媒及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンと反応させて、脂肪酸アルキルエステルを調製する方法を開示している。
しかし、上記の方法では、グリセリン脂肪酸エステルのみがアルキルエステル化されるものの、遊離脂肪酸は誘導体化されないという問題点があった。
特許第4942380号公報 国際公開第2015/155858号
宮澤陽夫・藤野泰郎著、「生物化学実験法9 脂質・酸化脂質分析法入門」、株式会社学会出版センター、2003年1月、p.91―132
本発明は、薄層クロマトグラフィー等を用いて脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を分画する操作が必要なく、試料に含まれる脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成を識別する方法並びにそのキットを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために本発明者は研究を重ね、脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を含む試料を、疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒とを含む溶液に溶解し、次に、脂肪酸エステルを、炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンと反応させて、炭素数1〜4の低級アルコールとの脂肪酸低級アルキルに低級アルキル化し、次に、反応液に酸性水溶液を加えて酸性として、低級アルキル化を停止させるとともに疎水性溶媒層と水層の二層に分離し、生成した脂肪酸低級アルキル及び/又は遊離脂肪酸を疎水性溶媒層に抽出する第1工程と、次に、第1工程の疎水性溶媒層を採取し、遊離脂肪酸をシリル化剤と反応させて、シリル化する第2工程とを経ることにより、脂肪酸エステルであれば脂肪酸低級アルキルに調製され、かつ遊離脂肪酸であれば脂肪酸シリルに調製されるように、選択的に異なる構造の化合物に誘導体化できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸のうち、選択的に脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化する方法並びにそのキットを提供する(図1)。
<1>脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化する方法であって、以下の各工程、
(A)脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を含む試料を、疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒とを含む溶液に溶解し、
次に、脂肪酸エステルを、炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンと反応させて、炭素数1〜4の低級アルコールとの脂肪酸低級アルキルに低級アルキル化し、
次に、反応液に酸性水溶液を加えて酸性として、低級アルキル化を停止させるとともに疎水性溶媒層と水層の二層に分離し、生成した脂肪酸低級アルキル及び/又は遊離脂肪酸を疎水性溶媒層に抽出する第1工程、
(B)次に、第1工程の疎水性溶媒層を採取し、遊離脂肪酸をシリル化剤と反応させて、シリル化する第2工程、
を含むことを特徴とする方法。
<2>第1工程の炭素数1〜4の低級アルコールがメタノールであり、炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンがメトキシドイオンである上記<1>に記載の方法。
<3>第1工程の疎水性溶媒が、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル溶媒及び有機酸アルキルエステル溶媒からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である上記<1>又は<2>に記載の方法。
<4>第1工程の両親媒性溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトン及びメチルエチルケトンからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である上記<1>〜<3>のいずれかに記載の方法。
<5>第1工程の低級アルキル化を、10〜40℃で行う上記<1>〜<4>のいずれかに記載の方法。
<6>第1工程の低級アルキル化を、3〜60分で行う上記<1>〜<5>のいずれかに記載の方法。
<7>第1工程の酸性水溶液が、酢酸、塩酸、リン酸、及びホウ酸からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物の水溶液である上記<1>〜<6>のいずれかに記載の方法。
<8>第2工程におけるシリル化剤がトリメチルシリル化剤である上記<1>〜<7>のいずれかに記載の方法。
<9>脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸のうち、選択的に脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化するためのキットであって、
(C)疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒とを含む溶解液、
(D)炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンを含む低級アルキル化液、
(E)酸性水溶液を含む停止・分離液、
(F)シリル化剤を含むシリル化液
を含むことを特徴とするキット。
<10>炭素数1〜4の低級アルコールがメタノールであり、炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンがメトキシドイオンである上記<9>に記載のキット。
<11>酸性水溶液が、酢酸、塩酸、リン酸、及びホウ酸からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物の水溶液である上記<9>又は<10>に記載のキット。
<12>疎水性溶媒及び両親媒性溶媒を備え、疎水性溶媒が、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル溶媒及び有機酸アルキルエステル溶媒からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物であり、両親媒性溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトン及びメチルエチルケトンからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である上記<9>〜<11>のいずれかに記載のキット。
本発明方法及びそれを用いたキットによれば、薄層クロマトグラフィー等を用いて脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を分画することなく、試料と試薬とを混合するだけの簡便な操作で、脂肪酸エステル由来であるのか、遊離脂肪酸由来であるのか、脂肪酸の組成を精度よく識別することができる。
本発明のフローチャートである。 実験例1の実施例1〜3で試験した脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸のガスクロマトグラムである。 実験例2の実施例4で試験したトリグリセリドの採取量と測定したピークの面積比を示す検量線である。 実験例2の実施例5で試験したジグリセリド及びモノグリセリドの採取量と測定したピークの面積比を示す検量線である。 実験例2の実施例6で試験したワックスエステルの採取量と測定したピークの面積比を示す検量線である。 実験例2の実施例7で試験したコレステロールエステルの採取量と測定したピークの面積比を示す検量線である。 実験例2の実施例8で試験した遊離脂肪酸の採取量と測定したピークの面積比を示す検量線である。 実験例7の実施例17で試験した皮脂のガスクロマトグラムのうち、測定した脂肪酸メチル(脂肪酸エステル由来)及び遊離脂肪酸TMS(遊離脂肪酸由来)のピークの保持時間と面積比を示すグラフである。 実験例7の実施例18で試験したマウスの血漿のガスクロマトグラムである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に記載の「脂肪酸」とは、炭素数12以上の長鎖脂肪酸ではパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、パルミトレイン酸、オレイン酸等の一価不飽和脂肪酸、リノール酸、ドコサヘキサエン酸等の多価不飽和脂肪酸が含まれ、他に炭素数5〜11の中鎖脂肪酸、炭素数2〜4の短鎖脂肪酸等、鎖状モノカルボン酸のことをいう。これらの脂肪酸はトリグリセリドやワックスエステル等のエステル型として、後述する脂肪酸エステルの構成成分である他、遊離型として、後述する遊離脂肪酸としても脂質に存在する。これらの脂肪酸は、殆どが脂質に含まれるが、タンパク質や糖質に含まれる場合もある。
本発明に記載の「脂肪酸エステル」とは、中性脂肪と呼ばれるトリグリセリド(油脂)の他、ジグリセリド、モノグリセリド、ワックスエステル又はコレステロールエステル等、脂肪酸のカルボキシル基とグリセリン、高級アルコール又はコレステロール等の水酸基が脱水縮合して生じるエステル結合を含む化合物又はそのような化合物を含む組成物のことをいう。
本発明に記載の「遊離脂肪酸」とは、遊離型の非エステル化脂肪酸又はその塩のことをいう。遊離脂肪酸はトリグリセリド等の脂肪酸エステルが、例えば、酵素等によって加水分解されると生じる。
本発明に記載の「脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を含む試料」としては、動植物の組織及びその代謝物や分泌物等の生体試料、食品原材料等の採取、抽出、精製、加工、合成品等、構成成分として脂肪酸が含まれるものが挙げられる。これらの試料は、血液、血漿、微生物等、水を含む場合は、凍結乾燥、乾固、あるいは疎水性溶媒層に抽出、精製する等して、脂肪酸エステルを加水分解する原因となる水分を除くことが好ましいが、油脂等、水を含まない場合は、そのままでも本発明に供することができる。
本発明に記載の「炭素数1〜4の低級アルコール」としては、種々のものを採用することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールが挙げられる。炭素数1〜4の低級アルコールは、試料中の脂質等を溶解する溶媒となるとともに、アルキル基の供与体となる。炭素数1〜4の低級アルコールの使用量は、特に限定されず、試料に対して過剰量とすればよい。
本発明に記載の「炭素数1〜4の低級アルコキシドイオン」は、金属アルコキシドに由来してもよく、又は、炭素数1〜4の低級アルコールの脱プロトン化により生じてもよい。金属アルコキシドとしては、低級アルコキシドイオンを含む種々のものを採用することができ、例えば、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、好ましくは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドであってもよい。炭素数1〜4の低級アルコールの脱プロトン化は、強塩基又はアルカリ金属によって行ってもよい。強塩基としては、アルコキシドよりも塩基性が強い種々のものを採用することができ、例えば、金属水酸化物、金属アミド、アルキル金属、金属水素化物、好ましくは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アミド、アルキル・アルカリ金属、アルカリ金属水素化物、より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リチウムジイソプロピルアミド、ナトリウムアミド、ブチルリチウム、水素化カリウムであってもよい。脱プロトン化のためのアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウムを採用してもよい。炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンは、反応液をアルカリ性にして、後述する低級アルキル化を可能とするとともに、アルキル基の供与体となる。
一般に、エステル交換反応とは、エステルのアルコキシル基やアシル基を他のアルコキシル基やアシル基と交換する反応をいう。
本発明に記載の「低級アルキル化」とは、トリグリセリド、ワックスエステル又はコレステロールエステル等の脂肪酸エステルのカルボニル基に炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンが付加して、エステル交換反応が起き、後述する脂肪酸低級アルキルが生成する反応をいう。
本発明に記載の「低級アルキル化液」は、炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンを含み、これらは脂肪酸エステルの低級アルキル化に使用され、アルキル基の供与体となり得る。
低級アルキル化液中で、低級アルコキシドイオンの濃度は、通常0.05M〜5Mとすればよく、0.1M〜4M程度が好ましく、0.5M〜3M程度がより好ましい。試料に対する低級アルキル化液の添加量は、試料中の脂肪酸エステル1mgあたり、通常0.5〜100μLとすればよく、1〜20μL程度が好ましく、2〜10μL程度がより好ましい。上記範囲であれば、十分に低級アルキル化を行える。また、低級アルコキシドイオン濃度を高くすると、その分、高濃度の酸を用いて反応液を酸性にして低級アルキル化を停止する必要が生じるため、適正な液量とするために上記濃度範囲が好ましい。低級アルキル化は、10〜40℃の温度で、3〜60分間行えばよい。通常、脂肪酸エステルのうち、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、ワックスエステル、コレステロールエステルを分析対象にする場合は、20〜30℃で、5〜20分間行うことが好ましい。反応温度が40℃を超えると、試料の分解や酸化が促進される傾向があり、反応時間が60分を超えると、低級アルキル化された脂肪酸エステルがけん化されて遊離脂肪酸塩が副生する傾向がある。
本発明に記載の「脂肪酸低級アルキル」とは、脂肪酸エステルのカルボニル基に炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンが付加して生じるエステル結合を含む化合物をいう。
低級アルキル化された脂肪酸エステルを分析に供するには、本発明の産物である脂肪酸低級アルキルのアルキル基の種類を統一する必要がある。従って、第1工程で使用する低級アルコールと低級アルコキシドの炭素数は統一する。炭素数が12以上の長鎖脂肪酸のような分子量の大きい脂肪酸を分析対象にする場合は、最も短鎖のアルコールであるメタノール及びメトキシドを用いて、脂肪酸の低級アルキルエステルの揮発性を高め、溶出時間を早くするのが好ましい。
一方、炭素数が12より小さい中鎖脂肪酸又は短鎖脂肪酸のような分子量の小さい脂肪酸を分析対象にする場合は、エチルエステル化、プロピルエステル化、ブチルエステル化等により揮発性を低くして、試料が蒸散してしまうのを防止するのが好ましい。溶媒の使用量は、試料に対して過剰量とすればよい。
本発明に記載の「疎水性溶媒」とは、水に混和せず二層に分離する溶媒のことをいう。疎水性溶媒は、試料中の脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を抽出する。疎水性溶媒としては、種々のものを採用することができ、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル溶媒、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の有機酸アルキルエステル溶媒から成る群から選択される1種又は2種以上の混合物であってもよい。また、疎水性溶媒は、低級アルキル化により生成した脂肪酸低級アルキル及び/又は遊離脂肪酸を反応液から抽出し、分離することができる。なお、第1工程で疎水性溶媒として有機酸アルキルエステルを使用する場合は、そのアルキル基の炭素数も、第1工程で供与するアルキル基と同じにする。例えば、第1工程でメタノール及びメトキシドを使用する場合は、有機酸メチルを使用する。
本発明に記載の「疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒」とは、溶解液に使用する疎水性溶媒と混ぜ合わせても二層に分離せず、かつ水と混ぜ合わせても二層に分離しない溶媒のことをいう。両親媒性溶媒は、疎水性溶媒に対して混和し、かつ炭素数1〜4の低級アルコール溶媒に対しても混和するので、低級アルキル化の場を提供する仲介役として機能し、反応の効率を高めることができる。両親媒性溶媒としては、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和するもの、特に、脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸の溶解に用いられる疎水性溶媒及び低級アルキル化に用いられる炭素数1〜4の低級アルコール溶媒の各々に対して混和する種々の溶媒を採用することができ、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトン及びメチルエチルケトンから成る群から選択される1種又は2種以上の混合物であってもよい。
なお、脂肪酸低級アルキルの加水分解を抑制するためには、予め疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒並びに低級アルキル化液は、蒸留して精製するか、モレキュラーシーブを加える等して、乾燥させることが好ましい。また、疎水性溶媒として有機酸の炭素数1〜4の低級アルコールエステルを使用する場合は、試料に水が含まれていても、この低級アルコールエステルが競合して加水分解されるため、分析対象となる脂質の加水分解による遊離脂肪酸の副生が抑えられる。
本発明に記載の「溶解液」とは、脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を含む試料から、脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を溶解する溶媒のことをいう。溶解液は、疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒とを含む。ある態様では、試料に添加する前に、疎水性溶媒と両親媒性溶媒とを混合して溶解液を調製してもよい。別の態様では、試料に疎水性溶媒を添加し、続いて両親媒性溶媒を添加して、又は、試料に両親媒性溶媒を添加し、続いて疎水性溶媒を添加して、脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸の抽出又は溶解の場で溶解液を調製してもよい。
本発明に記載の「酸性水溶液」としては、酢酸、塩酸、リン酸、及びホウ酸からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物の水溶液が挙げられる。ただし、試料に遊離脂肪酸として酢酸が含まれる場合は、酢酸を除く他の酸を用いることが好ましい。酸性水溶液の酸の濃度は、通常0.05M〜5Mとすればよく、0.1M〜4M程度が好ましく、0.2M〜2M程度がより好ましい。酸性水溶液の添加後の溶液のpHは、2〜4が好ましい。上記範囲であれば、反応液を酸性にして、低級アルキル化を停止させ、脂肪酸低級アルキル及び/又は遊離脂肪酸を疎水性溶媒層に抽出することができる。
本発明に記載の「停止・分離液」は、酸性水溶液を含み、低級アルキル化でアルカリ性となった反応液のpHを低下させて反応を停止させるとともに、生成した脂肪酸低級アルキルの他、遊離脂肪酸を含む疎水性溶媒層と、それらを含まない水層の二層に分離する役割を果たす。
本発明に記載の「シリル化剤」としては、種々のものを採用することができる。なかでも、トリメチルシリル(以下「TMS」とする)化剤は汎用性が高く、例えば、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(以下「BSTFA」とする)、N,O−ビストリメチルシリルアセトアミド(以下「BSA」とする)、トリメチルクロロシラン(以下「TMCS」とする)等は、反応性が高く、温和な条件で後述するシリル化反応を可能とするとともに、シリル基の供与体となる。
一般に、シリル化反応とは、有機化合物中の水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、メルカプト基等の活性水素を、シリル基に置換する反応をいう。シリル化液を使用した場合には、遊離脂肪酸の水酸基の活性水素がシリル基に置換する。
本発明に記載の「シリル化液」は、シリル化剤を含み、シリル化剤のみでも、あるいは疎水性溶媒に溶解し、さらにピリジン等の塩基や触媒を含んでもよい。シリル化液は遊離脂肪酸のシリル化反応に使用され、シリル基の供与体となり得る。
試料に対するシリル化液の使用量は、特に限定されず、試料に対して過剰量とすればよく、十分にシリル化反応が進行する。さらに、シリル化剤の使用に先立って、採取した疎水性溶媒層を、窒素の吹き付け、遠心エバポレーター等により、疎水性溶媒を留去しても、そのままシリル化反応に供してもよい。シリル化反応は、通常10〜40℃の温度で、15〜120分間行えばよい。
本発明に記載の「脂肪酸シリル」とは、遊離型の脂肪酸の水酸基の活性水素がシリル基に置換した化合物をいう。第1工程で分離した疎水性溶媒層には脂肪酸低級アルキルの他、試料由来の遊離脂肪酸が含まれる。この疎水性溶媒層を採取し、抽出された遊離脂肪酸をシリル化剤と反応させることにより、脂肪酸シリルを得ることができる。
脂肪酸シリルは、脂肪酸低級アルキルとともに、反応液をそのまま、あるいは希釈して分析に供することができる。
本発明により、試料に含まれる脂肪酸のうち、選択的に、その全脂肪酸エステルを炭素数1〜4の低級アルコールと低級アルキル化でき、かつ、その全遊離脂肪酸をシリル化することができる。生成した脂肪酸低級アルキル及び/又は脂肪酸シリルは、試料中の脂肪酸組成の分析のために使用される。脂肪酸低級アルキル及び/又は脂肪酸シリルを分析して、その脂肪酸部分の化学構造、すなわちエステル型の脂肪酸部分の構造及び/又は遊離型の脂肪酸部分の構造を決定することができる。分析は、種々の手段によって行うことができ、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーによって行ってもよい。例えば、ガスクロマトグラフィーに供すると、脂肪酸部分の構造が同じであっても、脂肪酸低級アルキルと脂肪酸シリルでは、沸点等の物性の違いにより保持時間が異なるため、その由来が脂肪酸エステルであるのか、遊離脂肪酸であるのかを識別できる。特に、検出器に質量分析器を用いる場合は、マススペクトルを解析することにより、脂肪酸低級アルキルと脂肪酸シリルを識別できるため、構成する脂肪酸の組成を容易に分析することができる。その脂肪酸組成を分析することにより、皮脂であれば代謝の状態を定めたり、血液であれば健康状態のチェックや疾患の診断を行えたり、また、食品原材料であれば品質管理や製造管理に用いたりすることができる。
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実験例1(脂肪酸エステルのメチル化及び遊離脂肪酸のTMS化)
この実験例では、メタノール及びメトキシドイオンにより、脂肪酸エステルをメチル化すること、かつシリル化剤により、遊離脂肪酸をTMS化することを実施例1〜3及び比較例1及び2と比較して検討した。
<試料>
試験管に表1に示すように、脂肪酸エステルとして、トリグリセリドのトリオレイン(以下、脂肪酸組成を炭素鎖数と不飽和数を用いて「C18:1」のように表す)、トリステアリン(C18)及び/又は遊離脂肪酸として、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)を含む混合物を試料として採取した。
<第一工程:脂肪酸エステルのメチル化>
使用した溶媒、溶液及び試薬を表2に示すように、各試料に溶解液としてヘキサン1mL及びテトラヒドロフラン(脱水)1mLを加え、室温で10秒間よく撹拌し、溶解した。実施例1〜3及び比較例2では、この溶液に低級アルキル化液として2Mカリウムメトキシド/メタノール溶液(脱水)0.2mLを加え、10秒間よく撹拌した後、室温で10分間反応させ、脂肪酸エステルをメチル化した。この反応液に、停止・分離液として1M酢酸2mLを加え、10秒間よく撹拌して、メチル化反応を停止した。続いて、室温で10分間静置し、さらに毎分3000回転で3分間遠心分離して、二層に分離させた。比較例1では、低級アルキル化液に代えてメタノール0.2mLを加えた後は、実施例1〜3と同様に操作した。
<第二工程:遊離脂肪酸のTMS化>
使用した溶媒、溶液及び試薬を表2に示すように、上記の上層(疎水性溶媒層)0.2mLをバイアル瓶に採取し、遠心エバポレーター(毎分1000回転、35℃、30分間)で溶媒を留去した。実施例1〜3及び比較例1では、この残留物にシリル化液としてTMCS/BSA/ピリジン混液(4:1:4)0.05mLを加え、室温で60分間反応させ、遊離脂肪酸をTMS化した。この反応液にヘキサン0.95mLを加えて、試料溶液とした。比較例2では、シリル化液に代えてヘキサン0.05mLを加えた後は、実施例1〜3と同様に操作した。
<GC分析>
試料溶液につき、下記の試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行い、脂肪酸メチル及び脂肪酸トリメチルシリル(以下、「脂肪酸TMS」とする)のピークの保持時間を求めた。
<試験条件>GC−FID
機器 :島津GC2010
カラム :Rtx−1 シリカキャピラリーカラム
(0.32mmID×30m、0.25μm厚)
カラム温度 :70℃(0分保持)→昇温5℃/分→320℃(10分保持)
気化室温度 :330℃
キャリヤーガス :ヘリウム
流量 :毎分2.0mL
スプリット比 :スプリットレス
検出器 :FID
検出器温度 :330℃
試料注入量 :1μL
GC分析の結果のうち、実施例1〜3のクロマトグラムを図2に示す。試料が脂肪酸エステルのみの混合物である実施例1の場合は、その脂肪酸組成に由来するオレイン酸メチル及びステアリン酸メチルのピークが検出されたが、TMS化されたピークは検出されなかった。また、試料が遊離脂肪酸のみの混合物である実施例2の場合は、その脂肪酸組成に由来するラウリン酸TMS、ミリスチン酸TMS、パルミチン酸TMS及びステアリン酸TMSのピークが検出されたが、メチル化されたピークは検出されなかった。さらに、試料が脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸の混合物である実施例3の場合は、脂肪酸エステルの脂肪酸組成に由来するオレイン酸メチル及びステアリン酸メチルのピーク、及び遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来するラウリン酸TMS、ミリスチン酸TMS及びパルミチン酸TMSのピークが検出された。また、実施例1〜3及び比較例1、2で検出されたピークの保持時間を表3に示す。低級アルキル化液を用いず、メチル化しない比較例1の場合は、脂肪酸エステルの脂肪酸組成に由来するピークが検出されなかった。また、シリル化液を用いず、TMS化しない比較例2の場合は、遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来するピークが検出されなかった。よって、本発明の方法では、薄層クロマトグラフィー等を用いて脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を分画することなく、試料と試薬とを混合するだけの簡便な操作で、脂肪酸エステル由来であるのか、遊離脂肪酸由来であるのか、脂肪酸の組成を精度よく識別することができることが分かる。さらに、試料に脂肪酸エステル又は遊離脂肪酸が含まれていないことを確認することもできる。
実験例2(検量線の検討)
この実験例では、本発明で検出されるピーク面積の直線性を確認するために、皮脂の構成成分のうち、脂肪酸エステルであるトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、ワックスエステル又はコレステロールエステル、並びに遊離脂肪酸について、本発明に従い検量線を作成し、直線性を検討した。
<試料>
試験管に表4に示すように、脂肪酸エステルとして、トリグリセリドのトリパルミチン(C16)、トリオレイン(C18:1)、トリステアリン(C18)、ジグリセリドのジステアリン酸グリセリド(C18)、モノグリセリドのモノミリスチン酸グリセリド(C14)、モノオレイン酸グリセリド(C18:1、モノリノール酸グリセリドを含む)、ワックスエステルのミリスチン酸ヘキサデシル(C14)、パルミチン酸ヘキサデシル(C16)及びコレステロールエステルのパルミチン酸コレステロール(C16)、ステアリン酸コレステロール(C18)、及び遊離脂肪酸のラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、オレイン酸(C18:1)、ステアリン酸(C18)について、各々0.1mg、0.2mg、1mg、2mg、10mg、20mgを含む混合物を試料として採取した。
<第一工程:脂肪酸エステルのメチル化>
疎水性溶媒として、3,5,5−トリメチルヘキサン酸(内標準物質)を含有するヘキサン1mLを加えた後は、実施例1と同様に操作し、脂肪酸エステルをメチル化した後、二層に分離させた。
<第二工程:遊離脂肪酸のTMS化>
上記の上層(疎水性溶媒層)0.05mLをバイアル瓶に採取した。この採取物にシリル化液としてBSTFA0.2mLを加え、室温で60分間反応させ、遊離脂肪酸をTMS化した。この反応液にヘキサン0.75mLを加えて、試料溶液とした。
<GC分析>
試料溶液につき、実験例1と同じ試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行い、内標準物質のピーク面積に対する脂肪酸メチル及び脂肪酸TMSのピーク面積の比Rを求めた。
ピーク面積比Rを縦軸にとり、各試料の採取量を横軸にとって最小二乗法により検量線を作成したところ、本発明方法は、測定範囲において十分な直線性を持つことを確認した(図3〜図7)。
実験例3(溶解液の検討)
この実験例では、溶解液の疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒について、実施例及び比較例を比較して検討した。
<試料>
実施例3と同様に脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を含む混合物を試料とした。
<第一工程:脂肪酸エステルのメチル化>
表5に示すように、疎水性溶媒として、実施例10ではヘキサンを加えた。また、実施例11ではヘキサンに代わり、t−ブチルメチルエーテルを加え、実施例12では代わりにプロピオン酸メチルを加えた。さらに比較例3では、両親媒性溶媒に代えて、メタノールを加え、また、比較例4では代わりにヘキサンを加えた。いずれも、その後は、実施例4と同様に操作した。
<第二工程:遊離脂肪酸のTMS化>
実施例4と同様に操作して、試料溶液とした。
<GC分析>
試料溶液につき、実験例1と同じ試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行った。
GC分析の結果、実施例10〜12の場合は、脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来するピークが実施例3と同様に検出されたが、比較例3又は4の場合は、脂肪酸エステルの脂肪酸組成に由来する脂肪酸メチルのピークの面積が小さかった。これは試料が十分溶解せず、また反応液が均一でないため、メチル化の効率が低くなったためと考えられた。
実験例4(停止・分離液の検討)
この実験例では、停止・分離液について、実施例及び比較例を比較して検討した。
<試料>
実施例3と同様に脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を含む混合物を試料とした。
<第一工程:脂肪酸エステルのメチル化>
酸性水溶液として、実施例13では1M酢酸、実施例14では1M塩酸を加えた以外は、実施例4と同様に操作した。比較例5では、酸性水溶液に代えて、水を加えた以外は、実施例4と同様に操作した。
<第二工程:遊離脂肪酸のTMS化>
実施例4と同様に操作して、試料溶液とした。
<GC分析>
試料溶液につき、実験例1と同じ試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行った。
GC分析の結果、実施例13及び14の場合は、脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来するピークが実施例3と同様に検出された。比較例5の場合は、遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来する脂肪酸TMSのピークが検出されなかった。これは遊離脂肪酸が疎水性溶媒層に抽出されなかったためと考えられた。
実験例5(工程順序の検討)
この実験例では、第一工程の脂肪酸エステルのメチル化と、第二工程の遊離脂肪酸のTMS化の工程順序を逆にした比較例について、検討した。
<試料>
実施例3と同様に脂肪酸エステルと遊離脂肪酸を含む混合物を試料とした。
<第一工程:遊離脂肪酸のTMS化>
比較例6では、脂肪酸エステルのメチル化に先立ち、遊離脂肪酸のTMS化を行った。つまり、試料にシリル化液としてBSTFA0.2mLを加え、室温で60分間反応させ、遊離脂肪酸をTMS化した。この反応液にヘキサン1mL及び水1mLを加え、10秒間よく撹拌した。続いて、室温で10分間静置し、さらに毎分3000回転で3分間遠心分離して、二層に分離させた。
<第二工程:脂肪酸エステルのメチル化>
上記の上層(ヘキサン層)0.2mLを試験管に採取し、ヘキサン0.8mLを加え、さらにテトラヒドロフラン(脱水)1mLを加え、室温で10秒間よく撹拌した。この溶液に低級アルキル化液として2Mカリウムメトキシド/メタノール溶液(脱水)0.2mLを加え、10秒間よく撹拌した後、室温で10分間反応させ、脂肪酸エステルをメチル化した。この反応液に、停止・分離液として1M酢酸2mLを加え、10秒間よく撹拌して、メチル化反応を停止した。続いて、室温で10分間静置し、さらに毎分3000回転で3分間遠心分離して、二層に分離させた。この上層(疎水性溶媒層)1mLを試料溶液とした。
<GC分析>
試料溶液につき、実験例1と同じ試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行った。
GC分析の結果、比較例6は、脂肪酸エステルの脂肪酸組成に由来する脂肪酸メチルのピークは検出されたが、遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来する脂肪酸TMSのピークは検出されず、遊離型の脂肪酸であるブロードなピークのみが検出された。これは第一工程で生成した脂肪酸TMSが、加水分解されたためと考えられた。よって、工程順序を逆にすると、遊離脂肪酸をシリル化した誘導体は得られないことが確認された。
実験例6(メチル化の反応条件の検討)
この実験例では、メチル化の反応温度と時間について、実施例及び比較例を比較して検討した。
<試料>
試験管に表6に示すように、擬似皮脂として脂肪酸エステル、遊離脂肪酸、その他の脂質を含む混合物を20mgずつ採取した。
<第一工程:脂肪酸エステルのメチル化>
反応温度として、実施例15では10℃、20℃、30℃、40℃に調整し、比較例7では50℃、60℃に調整した以外は、実施例4と同様に操作した。また、反応時間として、実施例16では3分、5分、10分、20分、30分、60分に調整し、比較例8では90分、120分に調整した以外は、実施例4と同様に操作した。
<第二工程:遊離脂肪酸のTMS化>
実施例4と同様に操作して、試料溶液とした。
<GC分析>
試料溶液につき、下記の試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行った。
<試験条件>GC−MS
機器 :日本電子JMS−Q1000GC
カラム :HP−5 シリカキャピラリーカラム
(0.32mmID×30m、0.25μm厚)
カラム温度 :70℃(0分保持)→昇温5℃/分→320℃(10分保持)
気化室温度 :300℃
キャリヤーガス :ヘリウム
流量 :毎分1.5mL
スプリット比 :スプリットレス
検出器 :MS
インターフェイス温度:280℃
イオン源温度 :250℃
試料注入量 :1μL
試料の成分のうち、ミリスチン酸ヘキサデシルに注目して、脂肪酸エステルのメチル化を評価した。得られたクロマトグラムのピークのうち、メチル化された生成物であるミリスチン酸メチルのピーク面積Q1及びミリスチン酸メチルが加水分解された後、シリル化された副生成物であるミリスチン酸TMSのピーク面積Q2について、出発物質であるミリスチン酸ヘキサデシルのピーク面積Q3を含めた3つのピーク面積の総和(Q1+Q2+Q3)に対する面積比をメチル化率及び加水分解率として、比較した。
メチル化率(%)=Q1/(Q1+Q2+Q3)×100
加水分解率(%)=Q2/(Q1+Q2+Q3)×100
結果を表7に示す。反応温度については、10℃〜30℃では、すべてのミリスチン酸ヘキサデシルがメチル化され、40℃では、わずかな加水分解物が副生成したものの、生成したミリスチン酸メチルのほぼすべてが残存した。しかし、50℃を超えると副生成物が増えることが確認された。また、反応時間については、3〜30分で、すべてのミリスチン酸ヘキサデシルがメチル化され、60分では、わずかな加水分解物が副生成したものの、生成したミリスチン酸メチルのほぼすべてが残存した。しかし、90分を超えると副生成物が徐々に増えることが確認された。
実験例7(試料の検討)
この実験例では、皮脂、血漿及び油脂について本発明方法を検討した。
<試料>
実施例17:皮脂
額の皮脂約5mgをあぶらとり紙に拭き取り、試験管に入れて、試料とした。
実施例18:血漿
マウスの血漿0.4mLにBHT0.05%を含むクロロホルム/メタノール混液(2:1)5mLを加え、30秒撹拌し、さらに30秒毎に10分間撹拌した。これに水5mLを加え、30秒撹拌した。次に遠心分離(毎分3000回転、5分)し、下層を別のチューブに採った。残った上層にBHT0.05%を含むクロロホルム/メタノール混液(2:1)5mLを加え、30秒撹拌した。遠心分離(毎分3000回転、5分)し、下層を先のチューブに加えた。これを遠心エバポレーター(毎分1000回転、37℃、2時間)で、溶媒を留去し、試料とした。
実施例19:油脂
アーモンド油、アボカド油、オリーブ油、ツバキ種子油、ユチャ種子油、マカデミア種子油、各々10mgを試料とした。
<第一工程:脂肪酸エステルのメチル化>
実施例4と同様に操作した。
<第二工程:遊離脂肪酸のTMS化>
実施例4と同様に操作して、試料溶液とした。
<GC分析>
試料溶液につき、実験例6と同じ試験条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行った。
GC分析の結果について、実施例17を図8に、実施例18を図9に、実施例19を表8に示すように、脂肪酸エステルの脂肪酸組成に由来する脂肪酸メチル及び遊離脂肪酸の脂肪酸組成に由来する脂肪酸TMSのピークに基づいて、脂肪酸の組成を分析することができた。以上により、本発明によって調製された脂肪酸メチル及び脂肪酸TMSは、種々の試料中の脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸の脂肪酸組成を分析するのに有用であることがわかった。
本発明は、試料に含まれる脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を構成する脂肪酸の組成をガスクロマトグラフィー等により分析するのに先立って、試料と試薬とを混合するだけの簡便な操作で脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化する方法並びにそのキットを提供する。従って、皮脂、血液、油脂等の脂肪酸組成を分析し、皮膚の代謝状態、特定疾患の診断や製品の品質管理等に有用である。

Claims (12)

  1. 脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸のうち、選択的に脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化する方法であって、以下の各工程、
    (A)脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸を含む試料を、疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒とを含む溶液に溶解し、
    次に、脂肪酸エステルを、炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンと反応させて、炭素数1〜4の低級アルコールとの脂肪酸低級アルキルに低級アルキル化し、
    次に、反応液に酸性水溶液を加えて酸性として、低級アルキル化を停止させるとともに疎水性溶媒層と水層の二層に分離し、生成した脂肪酸低級アルキル及び/又は遊離脂肪酸を疎水性溶媒層に抽出する第1工程、
    (B)次に、第1工程の疎水性溶媒層を採取し、遊離脂肪酸をシリル化剤と反応させて、シリル化する第2工程、
    を含むことを特徴とする方法。
  2. 第1工程の炭素数1〜4の低級アルコールがメタノールであり、炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンがメトキシドイオンである請求項1に記載の方法。
  3. 第1工程の疎水性溶媒が、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル溶媒及び有機酸アルキルエステル溶媒からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である請求項1又は2に記載の方法。
  4. 第1工程の両親媒性溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトン及びメチルエチルケトンからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 第1工程の低級アルキル化を、10〜40℃で行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 第1工程の低級アルキル化を、3〜60分で行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 第1工程の酸性水溶液が、酢酸、塩酸、リン酸、及びホウ酸からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物の水溶液である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 第2工程におけるシリル化剤がトリメチルシリル化剤である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 脂肪酸エステル及び/又は遊離脂肪酸のうち、選択的に脂肪酸エステルを低級アルキル化し、かつ遊離脂肪酸をシリル化するためのキットであって、
    (C)疎水性溶媒と、疎水性溶媒及び水の各々に対して混和する両親媒性溶媒とを含む溶解液、
    (D)炭素数1〜4の低級アルコール及び炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンを含む低級アルキル化液、
    (E)酸性水溶液を含む停止・分離液、
    (F)シリル化剤を含むシリル化液
    を含むことを特徴とするキット。
  10. 炭素数1〜4の低級アルコールがメタノールであり、炭素数1〜4の低級アルコキシドイオンがメトキシドイオンである請求項9記載のキット。
  11. 酸性水溶液が、酢酸、塩酸、リン酸、及びホウ酸からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物の水溶液である請求項9又は10に記載のキット。
  12. 疎水性溶媒及び両親媒性溶媒を備え、疎水性溶媒が、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル溶媒及び有機酸アルキルエステル溶媒からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物であり、両親媒性溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトン及びメチルエチルケトンからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である請求項9〜11のいずれか一項に記載のキット。

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WO2015155858A1 (ja) * 2014-04-09 2015-10-15 信和化工株式会社 脂肪酸アルキルエステルを調製する方法及びキット

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