JP2019099906A - アミノベンゼンを原料とした窒素ドープdlc(n:c−h)膜及びその製造方法 - Google Patents

アミノベンゼンを原料とした窒素ドープdlc(n:c−h)膜及びその製造方法 Download PDF

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Yasuhiro Miki
靖浩 三木
高橋 幸嗣
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幸嗣 高橋
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Tomoaki Sugiyama
友明 杉山
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Masahiko Sugihara
雅彦 杉原
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Abstract

【課題】シアン基が発生せず低コストの窒素ドープDLC膜製法及び窒素ドープDLC膜の提供。【解決手段】アミノベンゼンを原料として、チャンバ6内に試料9を配置して化学的蒸着法の一種のプラズマイオン注入型成膜装置1でDLC膜をコーティングすることで、アミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基をDLC膜のネットワークに導入した窒素ドープDLC(N:C−H)膜であって、危険なCN基が生成されず、他の有機ガスも同時供給し、窒素ドープDLC(N:C−H)膜の窒素含有量が6.0原子パーセント(at%)以下、ナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下、ISO18535に準拠した水中摩擦係数が約0.06以下、トライボッド試験による焼付PV値が約46MPams-1以上、表面抵抗率を約80Ω/□までの導電性を付与することのできる窒素ドープDLC(N:C−H)膜の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明はダイヤモンドライクカーボン膜、即ちDLC(C-H)膜の製造方法に関し、特に新規な窒素ドープDLC膜とその製造方法に関する。
従来の窒素ドープDLC膜は窒素ガスを原料として用いるため、排ガス中及びDLC膜の中にシアン基(CN基)が導入され易く、人体に危険性がある。
特許文献1(特開2016−98422号公報)では、その要約から分かるように、硬質DLC層とこれより軟らかい軟質DLC層を交互に積層した多層構造の炭素系被膜が開示されている。硬質DLC層が炭素、水素及び珪素を含む膜構成であるのに対し、軟質DLC層は窒素を更に含有させて炭素、水素、珪素及び窒素を含む膜構成としている。その段落[0039]には、「このとき処理室3内に供給される成分ガスは、たとえば原料ガスとして、炭化水素系ガス、有機珪素化合物ガス、水素ガスおよび/または窒素ガスである。」と記載され、窒素ガスの使用を規定している。
特許文献2(特開2012−6390号公報)では、その要約から分かるように、DLC膜などの非晶質炭素膜を備え、この非晶質炭素膜上の少なくとも一部に撥水・撥油層が定着性良く設けられたスクリーン印刷用孔版が開示されている。具体的には、ケイ素、酸素又は窒素のうち少なくとも1つの元素を含有する非晶質炭素膜層と、この非晶質炭素膜層上の少なくとも一部に設けられたフッ素を含有するシランカップリング剤薄膜層20を備えている。その段落[0059]及び段落[0060]には、「続いて、原料ガスを排気した後、流量15SCCMの窒素ガスを、反応容器内のガス圧が1.5Paとなるように反応容器に導入し」と書かれており、窒素ガスの使用が明記されている。
特許文献3(特開2010−77227号公報)では、その要約から分かるように、DLCコーティング処理で問題となっていた被膜剥がれが全く発生しない低摩擦係数で高耐摩耗性の表面を有するゴム成型品が開示されている。そして表面側から内部に向かって各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数の比が指数関数的に減少する表面改質領域を有していることが特徴とされている。特に、その段落[0013]には、「本発明に係るゴム成型品は、表面改質領域を真空中での窒素イオン注入法で形成することができる。窒素イオンは窒素ガスをプラズマ状態にして生成することができ」と記載され、窒素ガスの使用を前提としている。
特許文献4(特開2010−5428号公報)では、機能性の成分により長期にわたり安定に修飾されたDLC膜がコーティングされた基材や医療用材料が開発されている。特に、その段落[0044]には、「プラズマ照射を行う場合には・・窒素ガス(N2)・・又はこれらの混合ガス等をプラズマガス種として用いることができる」と記載され、窒素ガスの使用が明示されている。
特開2016−98422号公報 特開2012−6390号公報 特開2010−77227号公報 特開2010−5428号公報
前述したように、特許文献1〜4に共通することは、DLC膜に窒素を導入する場合に、窒素ガス(N2)を使用していることである。窒素ガスを使用すると、窒素ガスから分解されたNと、炭化水素ガスから分解されたCとが反応してシアン基(CN基)を生成し易く、このCN基がDLC膜中に混入するとDLC膜自体が人体に極めて危険性がある。また、排気されるガス中にもシアンが混入するため、排ガスにも危険性が残る。しかも炭素源としての炭化水素系ガスに加えて窒素源として窒素ガスを供給しなければならず、製造コストが増大する弱点があった。
本発明者らは、CN基の発生を防止するために鋭意研究した結果、原料ガスとしてアミノベンゼンを使用することによって、CN基の発生が強力に抑制され、或いはほぼ完全に無くなることを発見するに至った。しかも、アミノベンゼンは炭素源であると同時に窒素源でもあり、C原子とN原子を同時に供給できる利点を有し、人体に安全な窒素ドープDLC膜を低コストで製造できる極めて強力な原料ガスであることを想到するに至った。
従って、本発明の目的は、原料ガスとしてアミノベンゼンを用いることにより、下記の更なる技術的効果を有する窒素ドープDLC膜の製造方法を提供するとともに、その窒素ドープDLC膜を提供することである。以下では、この窒素ドープDLC膜の構成基(N:C-H)を明示して窒素ドープDLC(N:C-H)膜と書く。
(1)原料となるアミノベンゼンのアミノ基 (C−NH2基またはC−NH+基) がそのままダイヤモンドライクカーボン (DLC) 膜のネットワークに導入されるため、人体に非常に有害なシアン基 (−CN基) が発生しない。
(2)安価なアミノベンゼンを50℃以下の温度で気化させて真空容器内に入れるだけで、所定の窒素ドープDLC(N:C-H)膜をコーティングすることができる。そのため、工業生産性に優れている。
(3)原料ガスとしてアミノベンゼンに加えて他の炭素供給源として炭化水素ガスや有機ガスを供給することにより、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量を6.0原子パーセント以下において自在に調整することができる。
(4)100℃以下の低温で窒素ドープDLC(N:C-H)膜をコーティングすることができる。そのため、ポリエチレンやポリプロピレンなどの融点の低い絶縁性のプラスチックに電気抵抗の小さいハードコーティングが可能となり、容易に帯電を防止できる。
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、アミノベンゼンを原料として用いて窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造する窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法である。
本発明の第2の形態は、化学的蒸着法により窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造する窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法である。
本発明の第3の形態は、化学的蒸着法がプラズマイオン注入成膜法である窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法である。
本発明の第4の形態は、原料としてアミノベンゼンに加えて他の有機ガスを供給する窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法である。
本発明の第5の形態は、窒素ドープDLC(N:C-H)膜の窒素含有量が6.0原子パーセント(6.0at%)以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法である。
本発明の第6の形態は、窒素ドープDLC(N:C-H)膜がアミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基をDLC膜のネットワークに導入した窒素ドープDLC(N:C-H)膜である窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法である。
本発明の第7の形態は、アミノベンゼンの分解物で構成される窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第8の形態は、アミノベンゼン以外の他の有機物の分解物も混在している窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第9の形態は、アミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基がDLC膜のネットワークに導入されている窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第10の形態は、窒素ドープDLC膜のナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第11の形態は、乾式下、水中下又は油潤滑下のいずれかで用いられる窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第12の形態は、導電性膜として用いられる窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第13の形態は、窒素含有量を増大させて表面抵抗率を低下させることにより導電性を発現する窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第14の形態は、窒素含有量を増大させることにより低摩擦性を発現する窒素ドープDLC(N:C-H)膜である。
本発明の第1の形態によれば、アミノベンゼンを原料として用いて窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造する窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を提供できる。
本形態のアミノベンゼンはアニリンとも呼ばれ、化学式はC65NH2で表される無色の液体で、モル質量は93.13、密度は1.0217g/ml、融点は−6.3℃、沸点は184.13℃の化学物質である。従って、アミノベンゼンを気化させてガスにするなど取扱方法が容易であり、また安価な物質であるから、窒素ドープDLC(N:C-H)膜を低価格で大量に製造することができる。
しかも、アミノベンゼンはC65NH2から分かるように、C原子とN原子の両方を含むため、炭素供給源であると同時に窒素供給源でもある。従って、C原子によりDLC膜の骨格を形成し、且つDLC(C-H)膜中にN原子を供給して窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造することが容易にできる。
アミノベンゼンを用いる最大の特徴は、アミノベンゼンからN原子が単独でDLC(C-H)膜に入るよりも、NH2又はNHのアミノ基がDLC(C-H)膜に入るため、シアン基(CN基)が形成され難く、DLC(C-H)膜中や排ガス中にシアン基(CN基)が混入せず又は混入し難いから、排ガスが安全であるだけでなく、極めて安全な窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造することができる。
本発明の第2の形態によれば、化学的蒸着法により窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造する窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を提供できる。
化学的蒸着法とはCVD法とも称され、被膜形成されるべき試料をチャンバ内に配置し、チャンバ内に原料ガスを供給して、原料ガスの化学反応により試料表面に窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造する製造方法である。
従って、チャンバ内にアミノベンゼンガスを供給する化学的蒸着法により、チャンバ内に配置される試料の表面に安価に窒素ドープDLC(N:C-H)膜を形成して、大量のコーティング済み試料を安価に製造することが可能になる。
本発明の第3の形態によれば、化学的蒸着法がプラズマイオン注入成膜法である窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を提供できる。
チャンバ内にアミノベンゼンガスを供給し、チャンバ内にプラズマ生成用電力を供給するとアミノベンゼン分子がプラズマ化され、生成されたアミノベンゼンのプラズマイオンをバイアス電圧によりチャンバ内に配置された試料の表面に注入すると、試料表面に窒素ドープDLC(N:C-H)膜を効率的にコーティングすることができる。プラズマイオン注入成膜法の最大の特徴は、試料を回転させることなく複雑な凸面形状の試料表面に均一な膜厚の窒素ドープDLC(N:C-H)膜をコーティングできることである。チャンバ内に多数の試料を配置しておけば、一回のプラズマ注入処理により窒素ドープDLC(N:C-H)膜をコーティングした試料を大量生産することが可能になる。
本発明の第4の形態によれば、原料としてアミノベンゼンに加えて他の有機ガスを供給する窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を提供できる。
アミノベンゼンガスを他の有機ガス、例えば炭化水素ガス等の炭素供給源ガスと適当な比率の混合状態で供給すれば、プラズマ状態の炭素量と窒素量を任意に可変できるため、DLC(C-H)膜中の窒素ドープ量を自在に調整することが可能となる。DLC(C-H)膜中の窒素ドープ量を可変すると、種々の物性を有する窒素ドープDLC(N:C-H)膜を形成することができる。
また、有機ガスを種々に変更することによって、有機ガスの特性に応じた種々の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造することが可能になる。
特に硬さに着眼すれば、後述するように、アミノベンゼンに加えて他の有機ガスを供給して、更に成膜時の周波数を適切に設定することによって、窒素ドープDLC(N:C-H)膜のナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供できる。ここで、10GPa以上及び/又は16GPa以下とは、10GPa以上の場合、16GPa以下の場合、10GPa以上で16GPa以下の場合を含む概念である。
特に、硬さに着目すれば、アミノベンゼンガスを他の有機ガス、例えばアセチレン等の低分子量の炭化水素ガス等の炭素供給源ガスと適当な比率の混合状態で供給するとともに、コーティング時の周波数を3kHz以下に設定すれば、より緻密で圧縮の残留応力が大きな窒素ドープDLC膜となることから、窒素ドープによるナノインデンテーション硬さの低下を防ぐことができ、ナノインデンテーション硬さを10GPa以上に調節でき、更に15GPa〜16GPaとなる高硬度な窒素ドープDLC膜に調整することが可能となる。DLC(C-H)膜中の圧縮の残留応力を大きくするとナノインデンテーション硬さ試験時の押込み量が減少するため、高硬度な窒素ドープDLC膜を形成することができる。
本発明の第5の形態によれば、前記窒素ドープDLC(N:C-H)膜の窒素含有量が6.0原子パーセント(6.0at%)以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を提供できる。
本発明では、アミノベンゼン、あるいは付随的に他の有機ガスも加えて、C原子とN原子を供給できるが、N原子の含有量を6.0原子パーセント(6.0at%)以下に設定することによって、窒素原子の過多加重による弊害を排除し、良好な物性を有した窒素ドープDLC(N:C-H)を製造することが可能になる。
本発明の第6の形態によれば、窒素ドープDLC膜がアミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基をDLC膜のネットワークに導入した窒素ドープDLC(N:C-H)膜である窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を提供することができる。
本発明者等は、窒素供給源である窒素ガスと炭素供給源であるC22等の炭化水素ガスをチャンバ内に混合状態で供給する従来のプラズマ注入成膜法により種々のDLC(C-H)膜を試料に成膜した。その際に排ガス中にシアン基(CN基)が含まれていることを見出した。同時に、DLC(C-H)膜自体の構造を分析したところ、DLC骨格中にCN基が存在していることを確認した。このCN基が人体に有害であることは明らかである。
そこで、窒素供給源として窒素ガスに替えてアミノベンゼンを用いたところ、CN基が殆ど存在しないことを発見して、本発明を完成したものである。CN基が生成されない又はされにくい理由は、本形態に記載されるように、アミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基がDLC(C-H)膜のネットワークに導入されるからである。そこで、本発明で得られる窒素ドープDLC膜はアミノ基を付加して窒素ドープDLC(N:C-H)膜と表記される。従って、本発明で製造される窒素ドープDLC(N:C-H)膜は人体に安全であるという最大の利点を有し、排ガス中にもCN基が含有されず、又はほとんど含有されていないから排ガスの処理が容易である利点を有する。
本発明の第7の形態によれば、窒素ドープDLC膜がアミノベンゼンの分解物で構成された窒素ドープDLC(N:C-H)膜が提供される。
上述したように、アミノベンゼンはアニリンとも呼ばれ、化学式はC65NH2で表される。C原子とN原子の両方を含むため、炭素供給源であると同時に窒素供給源でもある。従って、アミノベンゼンからC原子とN原子が同時に供給されて、C原子によりDLC膜の骨格が形成され、且つDLC(C-H)膜中にN原子が供給されて窒素ドープDLC(N:C-H)膜が製造される。
この窒素ドープDLC(N:C-H)膜の最大の特徴は、アミノベンゼンからC原子とN原子が同時的に供給されて窒素ドープDLC(N:C-H)膜が生成されるため、シアン基(CN基)が形成され難く、CN基が混入しない極めて安全な窒素ドープDLC(N:C-H)膜が生成される。更に、排ガス中にもシアン基(CN基)が混入せず又は混入し難いから、排ガスが安全である。
本発明の第8の形態によれば、アミノベンゼン以外の他の有機ガスの分解物も混在している窒素ドープDLC(N:C-H)膜が製造される。
本形態により、アミノベンゼンの分解物と他の有機ガスの分解物が混合して構成された窒素ドープDLC(N:C-H)膜が提供される。
アミノベンゼンガスを他の有機ガス、例えば炭化水素ガス等の炭素供給源ガスと適当な比率の混合状態で供給すれば、アミノベンゼンの分解物と他の有機ガスの分解物が混合することによって炭素量と窒素量を任意に可変でき、DLC(C-H)膜中の窒素ドープ量を自在に調整することが可能となる。DLC(C-H)膜中の窒素ドープ量を可変すると、種々の物性を有する窒素ドープDLC(N:C-H)膜を生成することができる。
また、有機ガスを種々に変更することによって、有機ガスの特性に応じた種々の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造することが可能になる。
製造方法でも述べたように、特に硬さに着眼すれば、アミノベンゼンに加えて他の有機ガスを供給して、更に成膜時の周波数を適切に設定することによって、窒素ドープDLC(N:C-H)膜のナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供できる。ここで、10GPa以上及び/又は16GPa以下とは、10GPa以上の場合、16GPa以下の場合、10GPa以上で16GPa以下の場合を含む概念である。
特に、硬さに着目すれば、アミノベンゼンガスを他の有機ガス、例えばアセチレン等の低分子量の炭化水素ガス等の炭素供給源ガスと適当な比率の混合状態で供給するとともに、コーティング時の周波数を3kHz以下に設定すれば、より緻密で圧縮の残留応力が大きな窒素ドープDLC膜となることから、窒素ドープによるナノインデンテーション硬さの低下を防ぐことができ、ナノインデンテーション硬さを10GPa以上に調節でき、更に15GPa〜16GPaとなる高硬度な窒素ドープDLC膜に調整することも可能となる。DLC(C-H)膜中の圧縮の残留応力を大きくするとナノインデンテーション硬さ試験時の押込み量が減少するため、高硬度な窒素ドープDLC膜を形成することができる。
本発明の第9の形態によれば、アミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基がDLC膜のネットワークに導入されている窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供できる。
本発明者らは、窒素供給源として窒素ガスに替えてアミノベンゼンを用いたところ、窒素ドープDLC(N:C-H)膜の中にCN基が殆ど存在しないことを発見したのである。CN基が生成されない又はされ難い理由は、アミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基がDLC(C-H)膜のネットワークに導入されるからである。そのため、本発明で得られる窒素ドープDLC膜はアミノ基を付加して窒素ドープDLC(N:C-H)膜と表記されている。従って、本発明で製造される窒素ドープDLC(N:C-H)膜は人体に安全であるという最大の利点を有している。同時に、排ガス中にもCN基が含有されず、又はほとんど含有されていないから排ガスの処理が容易である利点を有する。
本発明の第10の形態によれば、窒素ドープDLC膜のナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜が提供される。
上述したように、アミノベンゼンに加えて他の有機ガスを供給して、成膜時の周波数を適切に設定することによって、窒素ドープDLC(N:C-H)膜のナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下である窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供できる。ここで、10GPa以上及び/又は16GPa以下とは、10GPa以上の場合、16GPa以下の場合、10GPa以上で16GPa以下の場合を含む概念である。このように、製法を調製することにより、生成される窒素ドープDLC(N:C-H)膜のナノインデンテーション硬さを自在に調整することができる。
更に、アミノベンゼンガスを他の有機ガス、例えばアセチレン等の低分子量の炭化水素ガス等の炭素供給源ガスと適当な比率の混合状態で供給するとともに、コーティング時の周波数を3kHz以下に設定すれば、より緻密で圧縮の残留応力が大きな窒素ドープDLC膜となることから、窒素ドープによるナノインデンテーション硬さの低下を防ぐことができ、ナノインデンテーション硬さを10GPa以上に調節でき、更に15GPa〜16GPaとなる高硬度な窒素ドープDLC膜に調整することも可能となる。DLC(C-H)膜中の圧縮の残留応力を大きくするとナノインデンテーション硬さ試験時の押込み量が減少するため、高硬度な窒素ドープDLC膜を形成することができる。
本発明の第11の形態によれば、窒素ドープDLC膜が乾式下、水中下又は油潤滑下のいずれかの使用環境で用いられる窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することができる。
本発明により製造される窒素ドープDLC膜は、乾式下でも水中下でも油潤滑下でも用いることができ、本発明の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を成膜した製品を、種々の分野における部材として活用することができる。例えば、乾式下で使用される部材(成膜される物品)としてはガラス成型品や各種のプラスチック成型品などがある。また、水中下で使用される部材としては、水中眼鏡や水中カメラのレンズ、水道や下水部品がある。更に、油潤滑下で使用される試料としては機械部品や電子部品などがある。ここで記載した部材以外にも多分野の部材が存在することは云うまでもない。
本発明の第12の形態によれば、窒素ドープDLC(N:C-H)膜が導電性膜として用いられる窒素ドープDLC(N:C-H)膜が提供される。
絶縁性部材の表面に本形態に係る導電性を有した窒素ドープDLC(N:C-H)膜を形成すれば、表面に電荷が貯まることが無いので、放電などの現象が生じない。例えば、絶縁性を有したガラス製品やセラミック製品やプラスチック製品の表面に本形態の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を形成するだけで、表面に電荷が蓄積されないので、大気中の塵埃がこれら製品の表面に電着せず、表面を清浄に保持することができる。
本発明の第13の形態によれば、窒素含有量を増大させて表面抵抗率を低下させることにより導電性を発現する窒素ドープDLC(N:C-H)膜が提供される。
窒素原子の電子式からも分かるように、窒素原子の周囲に非共有電子対を有しているため、窒素原子自体が電子供給源となり、窒素含有量を増大させると表面抵抗率が低下する。表面の電気抵抗率が低下すればそれだけ電子が流れ易くなり、上記第9形態の導電性を増大させることが可能になる。
本発明の第14の形態によれば、窒素含有量を増大させることにより低摩擦性を発現する窒素ドープDLC(N:C-H)膜が提供できる。
例えば、金属・エンジニアリングプラスチック・セラミックス等からなる金型、切削工具、機械部品、自動車部品などの各種部材の表面に本形態の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を形成することによって、各種部材の表面を低摩擦化し、潤滑性を高度に向上させることが可能になる。
図1は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造に使用されるプラズマイオン注入型の成膜装置である。 図2は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜の硬さと窒素含有量との関係図である。 図3は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において窒素含有量に関するラマン強度とラマンシフトとの関係図である。 図4は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において乾式下での窒素含有量に関する摩擦係数と摺動距離との関係図である。 図5は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において水中下での窒素含有量に関する摩擦係数と摺動距離との関係図である。 図6は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において耐環境サイクル試験後の水中下での窒素含有量に関する摩擦係数と摺動距離との関係図である。 図7は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜をコーティングした試験片(筒状試料)と焼付PV値を測定するトライボット試験機の概略説明図である。 図8は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜においてトライボット試験により得られた焼付PV値と窒素含有量との関係図である。 図9は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において表面抵抗率と窒素含有量との関係図である。
以下に、本発明に係るアミノベンゼンを原料とした窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法を図面と表に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る窒素ドープDLC膜の製造に使用されるプラズマイオン注入型の成膜装置である。
プラズマイオン注入型の成膜装置1は、チャンバ6の空間部12にガス供給部7から供給された原料ガスを高周波パルス電圧によりプラズマ化する高周波パルス電源2と、成膜される試料9の表面を取り巻く雰囲気に形成されたプラズマ11を試料表面に衝突注入させるパルスバイアス電圧を印加するパルスバイアス電源3と、高周波パルス電圧とパルスバイアス電圧を重畳するマッチング回路4と、電気配線をチャンバ6の内部に導入するフィードスルー5と、必要に応じて試料9の表面に物質を蒸着させるスパッタ部10と、排ガスを外部に排出する排気部8から構成される。
前記高周波パルス電源2は、13.56MHz、500W、パルス幅30μsの高周波パルス電圧を印加してプラズマ化し、前記パルスバイアス電源3は−10kVの高電圧パルス電圧を周波数2〜4kHzで印加して、試料表面の洗浄、中間層の形成及び窒素ドープDLC(N:C-H)膜のコーティングを行う。
試料9としては4種類の試料が用いられた。第1の試料はオーステナイト系ステンレス鋼板(SUS304:35mm角、厚さ1mm)、第2の試料は浸炭処理したリング形状のクロムモリブデン鋼材(SCM415N:外径φ42mm、内径φ36mm、厚さ15mm)、第3の試料はソーダ石灰ガラス板(Na2O・SiO2ガラス:50mm角、厚さ3mm)、および第4の試料はシリコン基板(Si<100>:25mm角、厚さ0.5mm)である。これら4種類の試料に対して下記の実施例が夫々実行された。
[実施例1:試料表面の洗浄、中間層の形成及び窒素ドープDLC膜のコーティング]
表1は、試料表面の洗浄工程と中間層の形成工程並びに窒素ドープDLC膜のコーティング工程の各条件を示している。
洗浄工程では、試料表面の洗浄が行われた。中間層の形成工程では、CとSiからなるDLC(Si:C-H)膜が成膜されている。窒素ドープDLC膜のコーティング工程では、試料の中間層の表面に窒素ドープDLC膜の成膜が行われた。
Figure 2019099906
洗浄工程では、真空圧0.5Paのチャンバ内に、Arガス10cc/minとH2ガス20cc/minを供給し、パルスバイアス電圧は−10kV、パルス幅5×10-6s、周波数2kHzで試料に対し印加され、試料表面の洗浄が行われた。
中間層の形成工程では、真空圧1.0Paのチャンバ内に、メタンガス(CH4)10cc/minとアセチレンガス(C22)10cc/minとテトラメチルシランガス(TMS)2cc/minを供給し、パルスバイアス電圧は−15kV、パルス幅3×10-6s、周波数3kHzで洗浄された試料に対し印加され、中間層の形成が行われた。この中間層ではCとSiからなるDLC(Si:C-H)膜が成膜されている。
窒素ドープDLC膜のコーティング工程では、真空圧1.0Paのチャンバ内に、トルエン(C78)ガス0、2.5、5、10、20cc/min(5種類)又はトルエン(C78)とアセチレン(C22)の1:1混合ガス0、3、5、10、20cc/min(5種類)とアミノベンゼンガス(C65NH2)5cc/minを供給し、パルスバイアス電圧は−10kV、パルス幅5×10-6s、周波数2、2.5、3、3.5、4kHzで試料に対し印加され、試料の中間層の表面に膜厚約2.5μmの窒素ドープDLC膜の成膜が行われた。トルエン及びアセチレンは炭素供給源であり、アミノベンゼンは炭素と窒素の供給源である。
[実施例2:窒素ドープDLC膜の窒素含有量の測定]
以上から分かるように、同一の試料を10個用意して、夫々に対し洗浄工程と中間層の形成工程が行われるが、窒素ドープDLC膜のコーティング工程ではトルエンの流量又はトルエン/アセチレンの混合流量がそれぞれ5段階に変えて行われ、そのため10個の試料の窒素含有量は変化している。
窒素ドープDLC膜中の窒素含有量の測定には、高周波グロー放電発光分析(GD−OES)装置を用いた。窒素含有量が既知の窒化クロム膜を標準試料として、窒素ドープDLC膜中の窒素含有量を算出した。その結果、窒素含有量は表2に示すとおりであった。10個の試料の窒素含有量は0.0以上で6.0(at%)以下であることが分かった。
Figure 2019099906
[実施例3:窒素ドープDLC膜の硬さの測定]
押込み荷重5mNで窒素ドープDLC膜のナノインデンテーション硬さを測定した。その結果、表3のように10種類の窒素含有量に対するナノインデンテーション硬さが測定された。ナノインデンテーション硬さは10.3GPa〜16.3GPaの範囲であることが分かった。
Figure 2019099906
図2は、本発明に係る窒素ドープDLC膜の硬さと窒素含有量との関係図である。図2のように、窒素含有量が増大してもナノインデンテーション硬さは、約10GPa以上を維持している。
アミノベンゼンを用いて成膜した窒素ドープDLC(N:C-H)膜(1)〜(5)のナノインデンテーション硬さ(図2中の●印)は、窒素含有量の低下とともに約15GPaから約10GPaにまで減少している。これは、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素が持つ非架橋電子対が膜中に導入されて、膜の圧縮の残留応力が緩和されるためである。今回、成膜時の周波数を3kHz以下に設定することによって、緻密な窒素ドープDLC(N:C-H)膜を成膜して圧縮の残留応力を増大させることでナノインデンテーション硬さの増大を図ることができる。その結果、アミノベンゼンを用いて成膜した窒素ドープDLC(N:C-H)膜(6)〜(10)のナノインデンテーション硬さ(図2中の〇印)は、窒素含有量が増大しても約15GPaを維持できていることが分かる。即ち、所定のコーティング条件を設定することにより、ナノインデンテーション硬さが15GPa〜16GPaとなる窒素ドープDLC膜を調整できていることが分かる。
従って、本発明を用いれば、窒素含有量6.0at%でナノインデンテーション硬さが15GPa以下又は10GPa以上を有する窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することが可能になる。また、窒素含有量を変化させてナノインデンテーション硬さを自在に調整した窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することも可能になる。
さらに、硬さの可変性により乾式下、水中下や油潤滑下で高い面圧でも耐え得る高硬度な窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することができる。
[実施例4:窒素ドープDLC膜のラマン強度の測定]
図3は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において窒素含有量に関するラマン強度とラマンシフトとの関係図である。
いずれの皮膜においてもDLC特有の1580cm-1付近に帰属されるG(Graphite)ピークと1360cm-1付近に帰属されるD(Disorder)ピークとから成るラマンスペクトルを呈していることが分かる。また、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量が増加するほど、DピークとGピークとの相対強度(ID/IG比)も増加する傾向にある。窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量の増加にともないID/IG比は、0.65から0.75にまで増加した。本発明においては、原料由来のC−NH結合をそのまま窒素ドープDLC(N:C-H)膜の成膜に使用しているため、C≡N結合に帰属される2200cm-1付近のラマンピークは認められていない。また、皮膜中の窒素含有量が増加するほどGピークのラマンシフトは、1549cm-1から1558cm-1へと高波数側に移行していた。窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量が増加するほど窒素ドープDLC(N:C-H)膜の無秩序性が強くなり、sp2構造のクラスタリングが進行していくと考えられる。その結果、窒素ドープDLC(N:C-H)膜N:C-H膜に存在する圧縮応力の緩和が生じて硬さの低下につながっていると考えられる。しかし、成膜時の周波数を2kHzに設定し、緻密な窒素ドープDLC(N:C-H)膜を成膜して圧縮の残留応力を増大させても、窒素ドープDLC(N:C-H)膜のラマンスペクトルの形状はほとんど変化していなかった。
[実施例5:乾式下での窒素ドープDLC膜の摩擦係数の測定]
乾式下でISO18535に準拠して、窒素ドープDLC膜のボールオンディスク試験を行った。相手材には直径1/4インチの高純度アルミナボールを用い、負荷荷重5N、周速度 0.1m/s、摺動半径5mm、摺動距離1000mの条件で試験した。試験室の温度は23℃±2℃、湿度は45%±5%である。
図4は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において窒素含有量に関する乾式下での摩擦係数と摺動距離との関係図である。
図4から分かるように、乾式下では、いずれの窒素ドープDLC(N:C-H)膜も摺動距離の増加とともに摩擦係数は少しずつ増加していく。また、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量の増加にともない摩擦係数は徐々に小さくなっており、摺動距離1000mにおいて摩擦係数は約0.15から約0.10にまで小さくなっていることが分かる。窒素含有量の増加にともない窒素ドープDLC(N:C-H)膜の硬さが低下していることから相手材との接触断面積は増加するはずであるが、逆に摩擦係数は小さくなっている。試験後のボール表面を観察した結果、窒素含有量が多い窒素ドープDLC(N:C-H)膜ほどボール表面の凝着物や付着物が多くなる傾向にあることが分かった。
以上から、乾式下では、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量を変化させることにより、窒素ドープDLC(N:C-H)膜の摩擦係数を自在に調整することが可能になる。
[実施例6:水中下での窒素ドープDLC膜の摩擦係数の測定]
溶液用ポットを用いて純水中下でISO18535に準拠して、窒素ドープDLC膜のボールオンディスク試験を行った。相手材には直径1/4インチの高純度アルミナボールを用い、負荷荷重5N、周速度 0.1m/s、摺動半径5mm、摺動距離1000mの条件で試験した。試験室の温度は23℃±2℃、湿度は45%±5%である。
図5は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において窒素含有量に関する摩擦係数と摺動距離との関係図である。
図5から分かるように、水中下では、乾式下と同様に窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量の増加にともない摩擦係数は徐々に小さくなっており、摺動距離1000mにおいて摩擦係数は0.05以下にまで小さくなっていることがわかる。乾式下の摩擦係数の1/2以下の値を示しており、水中下でより安定な低摩擦状態にあることが分かる。
以上から、水中下では、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量が変化しても安定で低摩擦な窒素ドープDLC(N:C-H)膜の提供が可能になる。
[実施例7:耐環境試験後の水中下での窒素ドープDLC膜の摩擦係数の測定]
凍結条件(-20℃で24時間)→湿潤条件(水に浸漬・24時間)→乾燥(100℃で24時間)を1サイクルとした耐環境試験を10回繰り返した。その後、溶液用ポットを用いて純水中下でISO18535に準拠して、窒素ドープDLC膜のボールオンディスク試験を行った。相手材には直径1/4インチの高純度アルミナボールを用い、負荷荷重5N、周速度 0.1m/s、摺動半径5mm、摺動距離1000mの条件で試験した。試験室の温度は23℃±2℃、湿度は45%±5%である。
図6は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において窒素含有量に関する摩擦係数と摺動距離との関係図である。
図6から分かるように、耐環境サイクル試験後において水中下では、試験前の摩擦係数よりも約30%大きくなっているが、摩擦係数は約0.06を維持していることが分かる。摩擦係数の増加は、耐環境試験による窒素ドープDLC(N:C-H)膜の応力緩和によって生じた硬さの低下が原因となっている。
以上から、本発明における窒素ドープDLC(N:C-H)膜の窒素含有量が変化しても耐環境特性に優れた安定で低摩擦な窒素ドープDLC(N:C-H)膜の提供を可能にした。
[実施例7:窒素ドープDLC膜の焼付PV値の測定]
図7は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜をコーティングした試験片(筒状試料)とPV値を測定するトライボット試験機の概略図である。
(7A)は円筒試料である試験片(SCM415N)の写真図であり、サイズはφ42mm×φ36mm×t15mmで、面粗度はRa=0.05〜0.40μmである。また、以下に示す固定ディスク22である円柱状の相手材のサイズはφ50mm×t8mmであり、その面粗度はRa≒0.5μmで硬さは510±30HVである。
(7B)はトライボット試験機の略断面図で、トライボット試験機21は有底筒体であり、その中に配置された固定ディスク(相手材)22の上に試験片20を載置し、荷重25を印加しながら回転方向26へと回転されている。前記有底筒体の中に潤滑油入口23と潤滑油出口24が設けられ、試験中は潤滑油が供給されている。
Figure 2019099906
表4には、トライボッド試験により得られた窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量と焼付PV値が示されている。
図8はこの表4を図示したものであり、図8は本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜においてトライボット試験により得られた焼付PV値と窒素含有量との関係図である。
図8のように、窒素含有量が増大しても窒素ドープDLC(N:C-H)膜の焼付PV値は、約46MPa・m・s-1以上の値を維持している。
アミノベンゼンを用いて成膜した窒素ドープDLC(N:C-H)膜(1)〜(5)の焼付PV値(図8中の●印)は、窒素含有量の低下とともに約59MPa・m・s-1から約46MPa・m・s-1にまで減少している。これは、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量の増加にともない皮膜硬さに代表される機械的強度が減少ためである。その結果、皮膜の硬さを増加させた窒素ドープDLC(N:C-H)膜(6)〜(10)(図8中の〇印)では、窒素含有量が増大しても約61MPa・m・s-1以上の焼付PV値を維持できていることが分かる。皮膜硬さに代表される機械的強度の改善が焼付特性の改善にも大きな効果を与えていることが分かった。
従って、本発明を用いれば、窒素含有量6.0at%で焼付PV値が60MPa・m・s-1以上となる安定な窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することが可能になる。また、窒素含有量を変化させて焼付PV値を自在に調整した窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することも可能になる。さらに、硬さの可変性により乾式下、水中下や油潤滑下で高い面圧でも耐え得る高硬度な窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することができるようになる。
図9は、本発明に係る窒素ドープDLC(N:C-H)膜において得られた表面抵抗率と窒素含有量との関係図である。
図9のように、窒素含有量が増大すると、窒素ドープDLC(N:C-H)膜の表面抵抗率は、約3.4×1010Ω/□から約8.0×101Ω/□にまで大きく減少している。アミノベンゼンを用いて成膜したすべての窒素ドープDLC(N:C-H)膜(1)〜(10)の表面抵抗率(図8中の●印及び〇印)は、皮膜の硬さ等の機械的強度にはほとんど影響を受けずに、窒素含有量の増加とともに大きく減少して絶縁性から導電性に変化していることが分かる。これは、窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素含有量の増加にともない窒素ドープDLC(N:C-H)膜中の窒素が持つ非架橋電子対の量が増加するためである。
従って、本発明を用いれば、窒素含有量6.0at%で表面抵抗率が100Ω/□以下となる導電性の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することが可能になる。また、窒素含有量を変化させて表面抵抗率を自在に調整した窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することも可能になる。さらに、表面抵抗率の可変性により乾式下、水中下や油潤滑下で高い面圧でも耐え得る導電性の窒素ドープDLC(N:C-H)膜を提供することができるようになる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における別実施例、種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
本発明に係るアミノベンゼンを原料とした窒素ドープDLC膜及びその製造方法によれば、試料の表面に形成された窒素ドープDLC膜中にはシアン基(CN基)が殆ど無い又は存在せず、同時に排ガス中にもCN基が殆ど無い又は存在しないため、人体に極めて安全な窒素ドープDLC膜及びその製造方法を提供するものである。近年、試料表面を改善するために各種のDLC(C-H)膜がコーティングされた各種試料が市場で流通販売されており、このような状況下で人体にも環境にも極めて優しいDLC膜関連製品を提供することが可能となった。
1 プラズマイオン注入型の成膜装置
2 高周波パルス電源
3 パルスバイアス電源
4 マッチング回路
5 フィードスルー
6 チャンバ
7 ガス供給部
8 排気部
9 試料(被膜される物品)
10 スパッタ部
11 プラズマ
12 空間部
20 試験片
21 トライボット試験機
22 固定ディスク(相手材)
23 潤滑油入口
24 潤滑油出口
25 荷重
26 回転方向

Claims (14)

  1. アミノベンゼンを原料として用いて窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造することを特徴とする窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法。
  2. 化学的蒸着法により前記窒素ドープDLC(N:C-H)膜を製造する請求項1に記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法。
  3. 前記化学的蒸着法がプラズマイオン注入成膜法である請求項2に記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法。
  4. 原料としてアミノベンゼンに加えて他の有機ガスを供給する請求項1〜3のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法。
  5. 前記窒素ドープDLC(N:C-H)膜の窒素含有量が6.0原子パーセント(6.0at%)以下である請求項1〜4のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法。
  6. 前記窒素ドープDLC膜がアミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基をDLC膜のネットワークに導入した窒素ドープDLC(N:C-H)膜である請求項1〜5のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜の製造方法。
  7. 窒素ドープDLC膜がアミノベンゼンの分解物で構成されることを特徴とする窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  8. アミノベンゼン以外の他の有機ガスの分解物も混在している請求項7に記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  9. アミノベンゼンのアミノ基であるC−NH2基又はC−NH+基がDLC膜のネットワークに導入されていることを特徴とする窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  10. 前記窒素ドープDLC膜のナノインデンテーション硬さが10GPa以上及び/又は16GPa以下である請求項7〜9のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  11. 乾式下、水中下又は油潤滑下のいずれかで用いられる請求項7〜9のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  12. 導電性膜として用いられる請求項7〜9のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  13. 窒素含有量を増大させて表面抵抗率を低下させることにより導電性を発現する請求項12に記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
  14. 窒素含有量を増大させることにより低摩擦性を発現する請求項7〜9のいずれかに記載の窒素ドープDLC(N:C-H)膜。
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