JP2019097564A - Scr欠失ワクシニアウイルス - Google Patents

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Abstract

【課題】がんの予防又は治療に有効的な遺伝子欠失ワクシニアウイルスの提供。【解決手段】ワクシニアウイルス増殖因子VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCR(short consensus repeat)ドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、組換えワクシニアウイルス。【選択図】なし

Description

本発明は、SCR欠失ワクシニアウイルスに関する。
近年、ウイルスをがん治療に用いる種々の技術が開発されており、がん治療に用いられるウイルスのひとつとしてワクシニアウイルス(以下、「VV」と称することがある。)がある。ワクシニアウイルスは治療用遺伝子をがん細胞へ送達するベクターとして、がん細胞において増殖しがん細胞を破壊する腫瘍溶解性ウイルスとして、又はがん抗原や免疫調節分子を発現するがんワクチンとして、がん治療を目的として研究されてきた(Expert Opinion on Biological Therapy、2011、Vol.11、p.595−608)。
ウイルス蛋白質であるワクシニアウイルス増殖因子(Vaccinia Virus Growth Factor;VGF)及びO1Lの機能を欠損し、がん細胞内で特異的に増殖してがん細胞を破壊する組換えワクシニアウイルスについて、がん治療へ利用しようとする技術が報告されている(特許文献1)。弱毒化されたワクシニアウイルス株として、B5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失した株を使用してもよいことが説明されている一方で、B5Rタンパク質の作用により癌細胞が傷害されることから、完全なB5R遺伝子を発現することが望ましいことが説明されている。
B5R細胞外領域のSCR(short consensus repeat)1−4ドメインの一部(すなわち、SCR4ドメイン中の細胞質側の12アミノ酸を除く部分)を欠失させたWR株(W−B5RΔSCR1−4)及びIHD−J株(I−B5RΔSCR1−4)が大きなプラークを形成することが報告されている。さらに、W−B5RΔSCR1−4について、データは提示されていないものの野生型WR株に比して最高で10倍の感染性ウイルスが上清に存在したこと、それ故に細胞外被覆ウイルス(extracellular enveloped virus;EEV)放出の促進が示唆されることが説明されている(非特許文献1)。対照的に、W−B5RΔSCR1−4のプラーク表現型は野生型よりも小さいことも報告されている(非特許文献2)。
抗ワクシニアウイルス血清による中和に対し、W−B5RΔSCR1−4及びI−B5RΔSCR1−4のEEVはそれぞれの野生型のEEVに比べて耐性であることが報告されている(非特許文献3)。
リバージョン(先祖帰り)を起こしにくいワクチン株を作出し、より安全性の高い痘瘡ワクチンを提供することを目的として、ワクシニアウイルス株LC16株、LC16m8株又はLC16mO株のB5R遺伝子の一部又は全部が欠失しており、正常な機能を有するB5R遺伝子産物を産生しないワクシニアウイルスからなる痘瘡ワクチンが報告されている(特許文献2)。B5R遺伝子の欠失は、膜貫通ドメインの欠失でもよいし、また、膜貫通ドメインだけではなく、SCR1からSCR4の一部が欠失していてもよいことが説明されている。
国際公開第2015/076422号パンフレット 国際公開第2005/054451号パンフレット
Journal of Virology、1998、Vol.72、No.1、p.294−302 Journal of General Virology、2002、Vol.83、p.323−332 Virology、2004、Vol.325、p.425−431
本発明の課題は、がんを治療又は予防するための遺伝子欠失ワクシニアウイルス(特に腫瘍溶解性の遺伝子欠失ワクシニアウイルス)及び医薬組成物を提供することにある。
本発明者らは、ワクシニアウイルスの作製において相当の創意検討を重ねた結果、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインをコードする領域を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有するワクシニアウイルスを作製し(実施例2)、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失することの重要性を見出し、また、担癌マウスモデルにおいて、前記ワクシニアウイルス数の減少が確認された後においても腫瘍増殖抑制作用が発揮され続けることを見出した(実施例7)。これらの結果、本発明のワクシニアウイルスを提供し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、医学上又は産業上有用な物質又は方法として以下の発明を含んでもよい。
[1]ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCR(short consensus repeat)ドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルス。
[2]SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、[1]に記載のワクシニアウイルス。
[3]B5RにおけるSCRドメイン1〜4の欠失が、B5Rにおける配列番号1により示されるアミノ酸配列に対応する領域の欠失である、[2]に記載のワクシニアウイルス。
[4]SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子が、B5Rのシグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含むポリペプチドをコードする遺伝子である、[1]〜[3]のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
[5]SCRドメインを欠失したB5Rが、配列番号2のアミノ酸配列に対応するB5Rのアミノ酸配列からなる、[1]から[4]のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
[6]ワクシニアウイルスがLC16mO株である、[1]から[5]のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
[7][1]から[6]のいずれかに記載のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[8]がんの予防又は治療用である、[7]に記載の医薬組成物。
本発明のワクシニアウイルス及び本発明の医薬組成物は、腫瘍増殖抑制作用を示すものであり、がんの予防又は治療に使用できると期待される。
組換えワクシニアウイルスLC16mO VGF−SP−LucGFP/O1−SP−BFP(B5Rウイルス)(図1A)、及びLC16mO ΔSCR VGF−SP−LucGFP/O1−SP−BFP(ΔSCRウイルス)(図1B)の構造を示す図である。
B5Rウイルス又はΔSCRウイルスの細胞内成熟ウイルス(Intracellular mature virus;IMV)感染後120時間時点での4種の卵巣癌細胞の蛍光観察像を示す図である。
B5Rウイルス又はΔSCRウイルスのEEV感染後120時間時点での4種の卵巣癌細胞の蛍光観察像を示す図である。
B5Rウイルス又はΔSCRウイルスのIMV(図3A)又はEEV(図3B)感染後120時間時点での4種の卵巣癌細胞の細胞生存率を示す図である。
B5Rウイルス又はΔSCRウイルス由来のEEV(図4A)又はIMV(図4B)とウサギ抗ワクシニアウイルス血清及びウサギ補体とを混合した後の、各ウイルスの増殖を蛍光観察した図である。
B5Rウイルス又はΔSCRウイルス由来のEEV(図5A)又はIMV(図5B)とウサギ抗ワクシニアウイルス血清及びウサギ補体とを混合した後の、各ウイルスのハイブリッドカウントを示した図である。
抗ワクシニアウイルス血清を投与したヒト卵巣癌A2780腹膜播種マウスモデルにおけるB5Rウイルス又はΔSCRウイルス由来EEVの投与後3日(Day 3)及び7日(Day 7)時点のウイルス体内分布を示す図である。
抗ワクシニアウイルス血清を投与したヒト卵巣癌A2780腹膜播種マウスモデルにおけるB5Rウイルス又はΔSCRウイルス由来EEVの投与3日前(Day −3)及び投与後8日(Day 8)時点の腫瘍増殖を示す図である。
抗ワクシニアウイルス血清を投与したヒト卵巣癌A2780腹膜播種マウスモデルにおけるB5Rウイルス又はΔSCRウイルス由来EEV投与後のウイルス増殖の数値化結果(図7A)又は腫瘍増殖の数値化結果(図7B)を示す図である。
抗ワクシニアウイルス血清存在下又は非存在下のヒト卵巣癌A2780腹膜播種マウスモデルにおけるB5Rウイルス又はΔSCRウイルス由来EEV投与後の生存率を示す図である。
B5R−LLウイルス又はΔSCR−LLウイルスを投与したマウス大腸癌CT26細胞を両側担癌したマウスモデルにおけるウイルス投与側の腫瘍体積(図9上図)又はウイルス非投与側(図9下図)の腫瘍体積を示す図である。
B5R−LLウイルス又はΔSCR−LLウイルスを投与したマウス大腸癌CT26細胞を両側担癌したマウスモデルにおけるウイルス投与側のウイルス量を示す図である。
B5R領域の模式図である。
以下に、本発明について詳述する。
<本発明のワクシニアウイルス>
本発明は、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルスを提供する。本発明はまた、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルスを提供する(本明細書中、当該ワクシニアウイルスを「本発明のワクシニアウイルス」ともいう。)。
本発明のワクシニアウイルスは、ポックスウイルス科オルトポックスウイルス属に属するウイルスである。本発明において使用されるワクシニアウイルスの株は限定されないが、例えば、リスター株、New York City Board of Health(NYBH)株、Wyeth株、コペンハーゲン株、Western Reserve(WR)株、Modified Vaccinia Ankara(MVA)株、EM63株、池田株、大連株、Tian Tan株などが挙げられ、リスター株、MVA株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection;ATCC(登録商標))より入手可能である(それぞれATCC(登録商標) VR−1549及びATCC(登録商標) VR−1508)。さらに、本発明において使用されるワクシニアウイルスとして、これらの株を由来にして確立されたワクシニアウイルス株も使用することができる。例えば、本発明において使用されるワクシニアウイルスとして、リスター株から確立された、LC16株、LC16m8株、及びLC16mO株を使用することもできる。LC16mO株はリスター株を親株として低温継代し、LC16株を経て作出された株である。LC16m8株は、LC16mO株をさらに低温継代して作出された、ウイルス膜蛋白質をコードする遺伝子であるB5R遺伝子にフレームシフト変異が認められ、この蛋白質が発現及び機能しなくなったことで弱毒化された株である(蛋白質 核酸 酵素、2003、Vol.48、p.1693−1700)。リスター株、LC16m8株及びLC16mO株の全ゲノム配列として、例えば、それぞれAccession No.AY678276.1、Accession No.AY678275.1及びAccession No.AY678277.1が知られている。したがって、リスター株から公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法により、LC16m8株、及びLC16mO株を作製することができる。
1つの実施形態において、本発明において使用されるワクシニアウイルスはLC16mO株である。
B5Rはワクシニアウイルスの1型膜蛋白質である。B5Rは、細胞内においてウイルスが増殖するとき、そして隣接の細胞又は宿主体内の他の部位にウイルスが伝播するときに、それらの効率を高める働きをする。B5Rとしては、例えば、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列を有するB5Rが挙げられる。B5Rは、N末端側からC末端側に向けてシグナルペプチド、4つのSCRドメイン(SCRドメイン1〜4)と呼ばれる領域、ストークと呼ばれる領域、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する(図11。図11中、シグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン、細胞質尾部はそれぞれ、SP、S、TM、CTと称される。)。より具体的には、B5Rにおいて、例えば、シグナルペプチドはAAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の1番目のアミノ酸から19番目のアミノ酸に対応するB5Rの領域であり、SCRドメイン1〜4はAAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の20番目のアミノ酸から237番目のアミノ酸に対応するB5Rの領域であり、ストークはAAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の238番目のアミノ酸から275番目のアミノ酸に対応するB5Rの領域であり、膜貫通ドメインはAAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の276番目のアミノ酸から303番目のアミノ酸に対応するB5Rの領域であり、細胞質尾部はAAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の304番目のアミノ酸から317番目のアミノ酸に対応するB5Rの領域である(Journal of Virology、2005、Vol.79、p.6260−6271)。本明細書では、「対応する」とは、この語句により特定されるアミノ酸配列と完全かつ正確に一致するアミノ酸配列を有することに限られず、蛋白質機能解析手法やワクシニアウイルス株の違い等によってこの語句により特定されたアミノ酸配列から変動した(例えば、アミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加された)アミノ酸配列を有することも包含する概念である。当業者であれば、前記アミノ酸配列に基づいて、異なるワクシニアウイルス株それぞれにおいてB5Rの遺伝子及びB5Rの各領域を特定することができる。B5RがEEVの外膜上に発現するときには、シグナルペプチドは除去されており、EEV外膜上にはSCRドメイン1〜4とストークが露出する(Journal of Virology、1998、Vol.72、p.294−302)。本明細書では、SCRドメイン1〜4及びストークからなる領域を「細胞外領域」と呼ぶことがある。
本発明のワクシニアウイルスにおいて「SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子」とは、SCRドメイン1〜4の一部又は全部を欠失し、それによりその機能が損なわれたB5Rをコードする遺伝子を包含する。ワクシニアウイルスにおいてB5Rの機能が損なわれたか否かを判断する方法としては、SCRドメインを欠失していないワクシニアウイルスに比べて、B5Rを標的とする中和抗体に対する中和回避能が高まっているかどうかを確認する方法が挙げられる。中和回避能を確認する方法の一例として、後記実施例5に記載の方法が挙げられる。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域を有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域及び膜貫通ドメインを有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストークを有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、EEV形態となったときに、SCRドメイン1〜4の一部又は全部を欠失した細胞外領域を有するB5Rをウイルス表面に提示させうる。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスにおける「SCRドメインを欠失したB5R」とは、4つのSCRドメイン(SCRドメイン1〜4)を欠失したB5Rである。本明細書における「SCRドメイン1〜4の欠失」又は4つのSCRドメインについての文脈で記述されるこれらと類似した表現は、SCRドメイン1〜4から構成される領域の完全かつ正確な欠失に限られず、該領域内の末端に存在する1、2若しくは3個のアミノ酸がB5Rに残存することをも包含する概念である。本発明のワクシニアウイルスにおけるSCRドメイン1〜4の欠失としては、例えば、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の22番目のアミノ酸から237番目のアミノ酸に対応するB5R領域の欠失が挙げられる。Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の22番目のアミノ酸から237番目のアミノ酸配列は配列番号1として示される。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスのB5RにおけるSCRドメイン1〜4の欠失は、B5Rにおける配列番号1に示されるアミノ酸配列に対応する領域の欠失である。当業者であれば、異なるワクシニアウイルス株のB5Rにおいて配列番号1に示されるアミノ酸配列に対応する領域を特定することができる。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスのB5RにおけるSCRドメイン1〜4の欠失は、B5Rにおける配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる領域の欠失である。
1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域を有する。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域及び膜貫通ドメインを有する。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストークを有する。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有する。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、EEV形態となったときに、SCRドメイン1〜4を欠失した細胞外領域を有するB5Rをウイルス表面に提示させうる。
1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の238番目のアミノ酸から275番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号22から59までのアミノ酸配列からなる)に対応するB5Rの領域を有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の238番目のアミノ酸から303番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号22から87までのアミノ酸配列からなる)に対応するB5Rの領域を有する。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の238番目のアミノ酸から317番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号22から101までのアミノ酸配列からなる)に対応するB5Rの領域を有する。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスにおけるSCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド及び欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域を含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域及び膜貫通ドメインを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド及びストークを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド、ストーク及び膜貫通ドメインを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド、欠失した領域以外のB5Rの細胞外領域、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部から本質的になるポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子は、B5Rのシグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部から本質的になるポリペプチドをコードする。本明細書では、「から本質的になる」とは、この語句により特定した要素を含むことを意味し、他の要素を含むとしても、列挙された要素について本明細書で開示された活性もしくは作用を妨害しないか、又はこの活性もしくは作用に寄与しない他の要素に限定される。例えば、1個〜数個のアミノ酸が付加又は削除された形態は、「から本質的になる」により特定される形態の一例である。B5Rのシグナルペプチドの例としては、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の1番目のアミノ酸から19番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列)に対応するB5Rの領域が挙げられる。B5Rのストークの例としては、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の238番目のアミノ酸から275番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号22から59までのアミノ酸配列)に対応するB5Rの領域が挙げられる。B5Rの膜貫通ドメインの例としては、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の276番目のアミノ酸から303番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号60から87までのアミノ酸配列)に対応するB5Rの領域が挙げられる。B5Rの細胞質尾部の例としては、Accession No.AAA48316.1に登録されたアミノ酸配列の304番目のアミノ酸から317番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸番号88から101までのアミノ酸配列)に対応するB5Rの領域が挙げられる。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列に対応するB5Rのシグナルペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列からなるシグナルペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列に対応するB5Rのシグナルペプチド及び配列番号2のアミノ酸番号22から59までのアミノ酸配列に対応するB5Rのストークを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列からなるシグナルペプチド及び配列番号2のアミノ酸番号22から59までのアミノ酸配列からなるストークを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列に対応するB5Rのシグナルペプチド、配列番号2のアミノ酸番号22から59までのアミノ酸配列に対応するB5Rのストーク及び配列番号2のアミノ酸番号60から87までのアミノ酸配列に対応するB5Rの膜貫通ドメインを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸番号1から19までのアミノ酸配列からなるシグナルペプチド、配列番号2のアミノ酸番号22から59までのアミノ酸配列からなるB5Rのストーク及び配列番号2のアミノ酸番号60から87までのアミノ酸配列からなるB5Rの膜貫通ドメインを含むポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列に対応するB5Rのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。1つの実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。
本発明のワクシニアウイルスがSCRドメイン1〜4の一部又は全部を欠失したB5Rをコードしているか否かは、公知の方法を用いて判断することができる。例えば、ワクシニアウイルス表面上に発現させたB5Rに対してSCRドメイン1〜4に結合する抗体を用いた免疫化学的手法によりSCRドメイン1〜4の存在を確認することや、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりB5R遺伝子中のSCRドメイン1〜4をコードする領域の存在又はサイズを決定することにより、判断することができる。
本発明のワクシニアウイルスは、1つの実施形態において、VGF及びO1Lの機能を欠損しているワクシニアウイルスである。国際公開第2015/076422号に記載の方法に基づいて、ワクシニアウイルスからVGF及び/又はO1Lの機能を欠損させることができる。
VGFは上皮増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)と高いアミノ酸配列相同性を有する蛋白質であり、EGFと同様に上皮増殖因子受容体に結合し、Ras、Raf、分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(Mitogen−activated protein kinase、MAPK)/細胞外シグナル調節キナーゼ(Extracellular signal−regulated kinase、ERK) キナーゼ(MAPK/ERK キナーゼ、MEK)、そしてERKと続くシグナルカスケードの活性化を引き起こし、細胞分裂を促進する。
O1LはERKの活性化を維持し、VGFと共に細胞の分裂に寄与する。
ワクシニアウイルスのVGF及びO1Lの機能の欠損とは、VGFをコードする遺伝子及びO1Lをコードする遺伝子が発現しないか、又は発現してもその発現蛋白質がVGF及びO1Lの正常な機能を保持していないことをいう。ワクシニアウイルスのVGF及びO1Lの機能を欠損させるためには、VGFをコードする遺伝子及びO1Lをコードする遺伝子の全て又は一部を欠失させればよい。また、塩基の置換、欠失、挿入又は付加により遺伝子を変異させ、正常なVGF及びO1Lが発現できないようにしてもよい。また、VGFをコードする遺伝子及びO1Lをコードする遺伝子中に外来遺伝子を挿入してもよい。本発明において、遺伝子の置換、欠失、挿入又は付加などの変異により正常な機能的遺伝子産物が発現されない場合、遺伝子が欠損しているという。例えば、外来遺伝子としては、免疫機能を賦活化させるサイトカインを導入することができる。
本発明のワクシニアウイルスがVGF及びO1Lの機能を欠損しているか否かは、公知の方法を用いて判断することができる。例えば、VGF及びO1Lの機能評価を行うこと、VGFに対する抗体又はO1Lに対する抗体を用いた免疫化学的手法によりVGF又はO1Lの存在を確認することや、PCRによりVGFをコードする遺伝子やO1Lをコードする遺伝子の存在を決定することにより、判断することができる。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストークを有し得る。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有し得る。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有し得る。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストークを有し得る。この実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有し得る。この実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有し得る。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、配列番号1により示されるアミノ酸配列に対応する領域を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルスである。この実施形態において、前記領域を欠失したB5Rは、ストークを有し得る。この実施形態において、前記領域を欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有し得る。この実施形態において、前記領域を欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有し得る。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5RのSCRドメインを欠失し、B5Rのシグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含むポリペプチドをコードする、ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、SCRドメインを欠失したB5Rが、配列番号2のアミノ酸配列に対応するB5Rのアミノ酸配列からなる、ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、LC16mO株ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストークを有し得る。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有し得る。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有し得る。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、LC16mO株ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストークを有し得る。この実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有し得る。この実施形態において、SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有し得る。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、配列番号1により示されるアミノ酸配列に対応する領域を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、LC16mO株ワクシニアウイルスである。この実施形態において、前記領域を欠失したB5Rは、ストークを有し得る。この実施形態において、前記領域を欠失したB5Rは、ストーク及び膜貫通ドメインを有し得る。この実施形態において、前記領域を欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有し得る。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5RのSCRドメインを欠失し、B5Rのシグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含むポリペプチドをコードする遺伝子を有する、LC16mO株ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、SCRドメインを欠失したB5Rが、配列番号2のアミノ酸配列に対応するB5Rのアミノ酸配列からなる、LC16mO株ワクシニアウイルスである。この実施形態において、SCRドメインを欠失したB5Rは、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を有する。
本発明において使用されるワクシニアウイルスにおいては、さらに弱毒化及び/又は腫瘍選択性を改変することができる。本明細書では、「弱毒化」とは、正常な細胞(例えば、非腫瘍細胞)に対する毒性(例えば、細胞溶解性)が低いことを意味する。本明細書では、「腫瘍選択性」とは、正常な細胞(例えば、非腫瘍細胞)よりも腫瘍細胞に対する毒性(例えば、腫瘍溶解性)が高いことを意味する。本発明において使用されるワクシニアウイルスにおいては、さらに、特定の蛋白質の機能を欠損したり、特定の遺伝子又は蛋白質の発現を抑制したりするような遺伝子改変(Expert Opinion on Biological Therapy、2011、Vol.11、p.595−608)が加えられていてよい。例えば、ワクシニアウイルスの腫瘍選択性を高めるために、チミジンキナーゼ(TK)の機能の欠損(Cancer Gene Therapy、1999、Vol.6、p.409−422)、修飾TK遺伝子及び修飾ヘマグルチニン(HA)遺伝子並びに修飾F3遺伝子又は中断されたF3遺伝子座の導入(国際公開第2005/047458号)、TK及びHA並びにF14.5Lの機能の欠損(Cancer Research、2007、Vol.67、p.10038−10046)、TK及びB18Rの機能の欠損(PLoS Medicine、2007、Vol.4、p.e353)、TK及びリボヌクレオチド還元酵素の機能の欠損(PLoS Pathogens、2010、Vol.6、p.e1000984)、SPI−1及びSPI−2の機能の欠損(Cancer Research、2005、Vol.65、p.9991−9998)、SPI−1、SPI−2及びTKの機能の欠損(Gene Therapy、2007、Vol.14、p.638−647)、又は、E3L及びK3L領域に変異の導入(国際公開第2005/007824号)をすることができる。また、生体内において抗ワクシニアウイルス抗体の中和効果によるウイルスの排除を減弱させることを期待し、A34R領域を欠損(Molecular Therapy、2013、Vol.21、p.1024−1033)させることができる。また、ワクシニアウイルスによる免疫細胞活性化作用を期待し、インターロイキン−1b(IL−1b)受容体を欠損(国際公開第2005/030971号)させることができる。これらの外来遺伝子の挿入や遺伝子の欠失、変異は例えば公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法により行うことができる。また、本発明のワクシニアウイルスとしては、これらの遺伝子改変の組合せを有していてもよい。本明細書では、「欠損」とは、この用語により特定された遺伝子領域が機能を有しないことを意味し、この用語により特定された遺伝子領域を欠失していることを含む意味で用いられる。例えば、「欠損」とは、特定された遺伝子領域からなる領域において欠失が生じていてもよいし、特定された遺伝子領域を含む周辺の遺伝子領域において欠失が生じていてもよい。
ワクシニアウイルスはIMVの形態及びEEVの形態をとりうる。IMVは感染性の子孫ウイルスの大多数を占め、感染細胞の溶解まで感染細胞の細胞質にとどまる。IMVの形態で細胞に感染させると、感染細胞にEEVの形態を産生させ得る。EEVの形態は、生体内においては感染箇所と離れた細胞への遠隔感染に適した形態であり、IMVに宿主由来の外膜を被せた形態をとる(PNAS、1998、Vol.95、p.7544−7549)。EEVは、ワクシニアウイルス産生ベクター又はワクシニアウイルスを感染させた細胞の培養液の上清から得られ得る。IMVは、ワクシニアウイルス産生ベクター又はワクシニアウイルスを感染させた細胞の細胞体から得られ得る。IMVとEEVとの混合物の形態は、ワクシニアウイルス産生ベクター又はワクシニアウイルスを感染させた細胞の培養液の上清を含む細胞溶解液から得られ得る。細胞溶解液は、常法に従って得ることができ、例えば超音波破砕や浸透圧ショック法により細胞を破壊することにより得ることができる。IMV形態がワクシニアウイルスの主な投与形態の一例である。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、EEV形態となったとき、SCRを欠失したB5Rの細胞外領域を表出しうるが、必ずしも常時EEV形態をとる必要は無く、感染細胞にEEV形態を産生させたときに、SCRを欠失したB5Rの細胞外領域をEEVに表出できればよい。
本発明のワクシニアウイルスは、感染細胞において、SCRを欠失していない野生型B5Rをコードする遺伝子を有するワクシニアウイルスに比べてより高い免疫回避能をもつEEVを産生し得ることから、遠隔感染形質強化型組換えワクシニアウイルスとも呼ぶことができる。
公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法により外来ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを本発明のワクシニアウイルスへ導入することができる。例えば、導入したい部位の塩基配列中に当該ポリヌクレオチドを導入したプラスミド(「トランスファーベクタープラスミドDNA」とも称する。)を作製し、ワクシニアウイルスを感染させた細胞の中に導入することができる。当該ポリヌクレオチドの導入領域は、ワクシニアウイルスの生活環に必須ではない遺伝子領域である。例えば、ある態様では、該VGF遺伝子及び該O1L遺伝子のいずれか又は両方の内部とすることができる。上記において、外来ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、VGF及びO1L遺伝子の転写方向と同じ向き又は逆向きに転写されるように導入することができる。外来ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、マーカー、細胞毒性や免疫賦活効果を有する治療用産物、又は抗原等をコードするポリヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されない。
トランスファーベクタープラスミドDNAの細胞への導入方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。
外来ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入する際に、導入される該ポリヌクレオチドの上流に適当なプロモーターを作動可能に連結させることができる。これにより、本発明のワクシニアウイルスでは、外来ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、腫瘍細胞で発現可能なプロモーターに連結され得る。これらのプロモーターとしては、例えば、PSFJ1−10、PSFJ2−16、p7.5Kプロモーター、p11Kプロモーター、T7.10プロモーター、CPXプロモーター、HFプロモーター、H6プロモーター、及びT7ハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、薬剤選択マーカー遺伝子を有しない。
本発明のワクシニアウイルスは、腫瘍溶解活性を有する。被験ウイルスが腫瘍溶解活性を有するかどうかを評価する方法として、ウイルス添加によるがん細胞の生存率低下を評価する方法が挙げられる。評価に使用するがん細胞としては、例えば、卵巣癌細胞A2780(例えば、ECACC 93112519)、CaOV3(例えば、ATCC(登録商標) HTB−75)、RMG−1(例えば、JCRB JCRB0172)、SKOV3(例えば、ATCC(登録商標) HTB−77)が挙げられるが、これらに限らない。悪性黒色腫細胞RPMI−7951(例えば、ATCC(登録商標) HTB−66)、肺癌細胞A549(例えば、ATCC(登録商標) CCL−185)、肺腺癌細胞HCC4006(例えば、ATCC(登録商標) CRL−2871)、小細胞肺癌細胞DMS 53(例えば、ATCC(登録商標) CRL−2062)、肺扁平上皮癌細胞NCI−H226(例えば、ATCC(登録商標) CRL−5826)、腎癌細胞Caki−1(例えば、ATCC(登録商標) HTB−46)、膀胱癌細胞647−V(例えば、DSMZ ACC 414)、頭頸部癌細胞Detroit 562(例えば、ATCC(登録商標) CCL−138)、乳癌細胞JIMT−1(例えば、DSMZ ACC 589)、乳癌細胞MDA−MB−231(例えば、ATCC(登録商標) HTB−26)、食道癌細胞OE33(例えば、ECACC 96070808)、グリア芽細胞腫U−87MG(例えば、ECACC 89081402)、神経芽細胞腫GOTO(例えば、JCRB JCRB0612)、骨髄腫RPMI 8226(例えば、ATCC(登録商標) CCL−155)、卵巣癌細胞SK−OV−3(例えば、ATCC(登録商標) HTB−77)、卵巣癌細胞OVMANA(例えば、JCRB JCRB1045)、大腸癌細胞RKO(例えば、ATCC(登録商標) CRL−2577)、大腸癌細胞HCT 116(例えば、ATCC(登録商標) CCL−247)、膵臓癌細胞BxPC3(例えば、ATCC(登録商標) CRL−1687)、前立腺癌細胞LNCaP clone FGC(例えば、ATCC(登録商標) CRL−1740)、肝癌細胞JHH−4(例えば、JCRB JCRB0435)、中皮腫NCI−H28(例えば、ATCC(登録商標) CRL−5820)、子宮頸癌細胞SiHa(例えば、ATCC(登録商標) HTB−35)、及び、胃癌細胞Kato III(例えば、RIKEN BRC RCB2088)も挙げられる。具体的な評価方法としては、例えば、後記実施例4に記載されるような方法を用いることができる。
本発明のワクシニアウイルスの発現及び/又は増殖は、ワクシニアウイルスを宿主細胞に感染させ、感染させた宿主細胞を培養することにより行うことができる。ワクシニアウイルスの発現及び/又は増殖は、当該分野で公知の方法により行うことができる。本発明のワクシニアウイルスを発現又は増殖させるために用いる宿主細胞としては、本発明のワクシニアウイルスを発現し、増殖できるものである限り、特に制限されるものではない。このような宿主細胞としては、例えば、BS−C−1、A549、RK13、HTK−143、Hep−2、MDCK、Vero、HeLa、CV−1、COS、BHK−21、及び初代ウサギ腎臓細胞等の動物細胞が挙げられ、BS−C−1(ATCC(登録商標) CCL−26)、A549(ATCC(登録商標) CCL−185)、CV−1(ATCC(登録商標) CCL−70)又はRK13(ATCC(登録商標) CCL−37)を使用することができる。宿主細胞の培養条件、例えば、温度、培地のpH、及び培養時間は、適宜選択される。
本発明のワクシニアウイルスを生産する方法は、本発明のワクシニアウイルスを宿主細胞に感染させ、感染させた宿主細胞を培養し、本発明のワクシニアウイルスを発現させる工程に加えて、さらには、本発明のワクシニアウイルスを回収、精製、単離又は濃縮する工程を含むことができる。精製方法、単離方法又は濃縮方法としては、当業者に周知の方法を用いることができ、例えば、ベンゾナーゼを用いたDNA消化、ショ糖勾配遠心分離法、Iodixanol密度勾配遠心分離法、限外ろ過法、及びダイアフィルトレーション法などを用いることができる。
<本発明の医薬組成物>
本発明の医薬組成物には、本発明のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。
本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、及び点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、皮下投与、又は腫瘍内投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、又は添加剤等を使用することができる。
有効投与量は患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、又はウイルスの力価等により異なるが、例えば、単独ウイルスの有効投与量として、102〜1010プラーク形成単位(PFU)程度を用いることができる。
<がんの予防又は治療用途>
本発明の医薬組成物は、がんの予防又は治療剤として用いることができる。
本発明には、本発明のワクシニアウイルスを含む、がんの予防又は治療用医薬組成物が含まれる。
また、本発明には、がんの予防又は治療を必要とする対象(例えば、患者)に本発明のワクシニアウイルスの治療上有効量を投与する工程を包含する、がんを予防又は治療する方法が含まれる。
また、本発明には、がんの予防又は治療に使用するための、本発明のワクシニアウイルスが含まれる。
さらに、本発明には、がんの予防又は治療用の医薬組成物の製造における、本発明のワクシニアウイルスの使用が含まれる。
本明細書では、「予防用」とは「予防することに用いるための」と同義で用いられ、「治療用」とは「治療することに用いるための」と同義で用いられる。
本発明の医薬組成物は、がんに有効性を示す種々の治療剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、又は別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。本発明の医薬組成物は、同時投与の場合には、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
本発明のワクシニアウイルス、本発明の医薬組成物、本発明のがんを予防若しくは治療する方法、又は本発明の使用が適用されるがんには、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び胃癌等が含まれ、原発巣以外の臓器、例えばリンパ節や肝臓などへの転移性がんなども含まれる。
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。
(実施例1:トランスファーベクタープラスミドDNAの構築)
相同組換え法により組換えワクシニアウイルスを作製するために使用するトランスファーベクタープラスミドDNAを以下の通りに作製した。
(1)pUC19−VGFトランスファーベクタープラスミドDNAの構築
国際公開第2015/076422号に基づいてpUC19−VGFベクターを作製した。より具体的には、pUC19−VGFベクター作製のために、LC16mO株のゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を鋳型に使用し、PCRでVGF遺伝子領域を増幅し、そのPCR産物を制限酵素BamHI及びHindIIIで切断し、Invitrogen社のpUC19ベクター(製品コード:54357)の同じ制限酵素部位にクローニングした。
(2)pTN−VGF−SP−Luc2トランスファーベクタープラスミドDNAの構築
pTagBFP−N vector(FP172、Evrogen社)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号7及び配列番号8)によってBFP遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素SfiI及びEcoRIで切断し、pTK−SP−LGベクター(国際公開第2015/076422号。但し、鋳型として使用したLC16mO株のゲノムDNAとして、ゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を使用し、pUC19ベクターとしてInvitrogen社のpUC19ベクター(製品コード:54357)を使用した。また、pVNC110−Luc/IRES/EGFPプラスミドは国際公開第2011/125469号に記載のpVNC110−Luc/IRES/EGFPを使用した。)の同じ制限酵素部位にクローニングし、合成ワクシニアウイルスプロモーター(Journal of Virological Methods、1997、Vol.66、p.135−138)下にBFPを連結したpTK−SP−BFPを構築した。次に、pTK−SP−BFPを制限酵素SphI及びEcoRIで切断し、末端を平滑化した。こうして得られたDNA断片を、pUC19−VGFベクターを制限酵素AccIで切断し末端を平滑化した部位へクローニングすることで、pTN−VGF−SP−BFPを構築した。次に、プロメガ社のpGL4.20ベクター(製品コード:E6751)をHindIIIで切断し、末端を平滑化した。そして、XbaIで切断することによって、ルシフェラーゼLuc2遺伝子をコードするポリヌクレオチド(Accession No.DQ188840の100番目から1752番目)断片を得た。この断片を、pTN−VGF−SP−BFPをAgeIで切断し、末端を平滑化し、さらにNheIで切断した部位へクローニングすることで、合成ワクシニアウイルスプロモータで駆動されるLuc2遺伝子を有するトランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。構築したプラスミドDNAをpTN−VGF−SP−Luc2と称する。
(3)pTN−O1L−SP−BFP及びpTN−O1L−SP−LacZトランスファーベクタープラスミドDNAの構築
上記(2)と同様の方法で、pTK−SP−BFPを制限酵素SphI及びEcoRIで切断し、末端を平滑化して得られたDNA断片を、pUC19−O1Lベクター(国際公開第2015/076422号。但し、LC16mO株のゲノムDNAとして、ゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を使用し、pUC19ベクターとしてInvitrogen社のpUC19ベクター(製品コード:54357)を使用した。O1L遺伝子領域はpUC19ベクターのXbaIサイトに挿入した。)を制限酵素XbaIで切断し末端を平滑化した部位へクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを作製した。作製したプラスミドDNAをpTN−O1L−SP−BFPと称する。次に、ヒトに対してコドンを最適化した大腸菌LacZ遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号9)を制限酵素AgeIとNheIで切断した。LacZをコードするポリヌクレオチド断片をpTN−O1L−SP−BFPベクターの同じ制限酵素部位(AgeI部位及びNheI部位)にクローニングしBFPを置き換えることで、合成ワクシニアウイルスプロモータで駆動されるLacZ遺伝子を有するトランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。構築したプラスミドDNAをpTN−O1L−SP−LacZと称する。
(4)pTN−DsRed(B5R−)及びpTN−B5RΔ1−4トランスファーベクタープラスミドDNAの構築
pB5R(国際公開第2011/125469号。但し、LC16mO株のゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を鋳型に使用した。)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号3及び配列番号4)によってB4R遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素NotI及びFspIで切断した。また、pDsRed−Express−N1(Clontech社)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号5及び配列番号6)によってDsRed遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素FspI及びMfeIで切断した。この2種類のDNA断片を、制限酵素NotI及びMfeIで切断したpB5Rにクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを作製した。作製したプラスミドDNAをpTN−DsRed(B5R−)と称する。一方、pB5Rを制限酵素NotI及びNspIで、又は制限酵素NspI及びSacIで切断した。この2種類のDNA断片(前者はB4RとB5Rの1番目から21番目まで(N末部分)に及ぶ領域に相当し、後者はB5Rの236番目から317番目まで(C末部分)とさらにB6Rに及ぶ領域に相当する。前者の領域中の突出末端(20〜21番目の配列に相当)と後者の領域中の突出末端(236番目〜237番目の配列に相当)とは互いに相補的である。)を、制限酵素NotIとSacIで切断したpB5Rにクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。作製したプラスミドDNAをpTN−B5RΔ1−4と称する。pTN−B5RΔ1−4には4つのSCRドメインが欠失したB5R蛋白質がコードされる。4つのSCRドメインが欠失したB5R蛋白質は配列番号2に示した配列となる。
(実施例2:遺伝子組換えワクシニアウイルスの構築)
国際公開第2015/076422号に記載の方法に基づいてワクシニアウイルスLC16mO株からVGFとO1Lの機能を欠損させた組換えワクシニアウイルス(LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedと称する。)を作製した。これについて、次世代シークエンサーPacBio RSII(Pacific Bioscience社)を用いて、シークエンシングを行い、得られた配列情報から、Sprai[BMC GENOMICS、2014、Vol.15、No.699、p.1−8]ソフトウェアを利用してウイルスゲノムの再構成を行って塩基配列を決定したところ、配列番号18で示される塩基配列を有していた。また、当該塩基配列の両末端にはループ配列(Virology、1990、Vol.179、p.247−266)が付加されており、両末端ループ配列は配列番号16又は配列番号17で示される塩基配列であった。
(1)図1Aに示すウイルスゲノムを持つ組換えワクシニアウイルスを回収した。以下、回収手順について具体的に説明する。6ウェルディッシュに80%コンフルエントに培養されたCV−1細胞(ATCC(登録商標) CCL−70)又はRK13細胞(ATCC(登録商標) CCL−37)に上記LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedをMOI(Multiplicity of infection)=0.02〜0.1で感染させ、室温で1時間吸着させた。実施例1(3)で構築したpTN−O1L−SP−BFPをFuGENE(登録商標) HD Transfection Reagent(Roche)と混合し、マニュアルに従って細胞に添加して取り込ませ、5%CO2存在下37℃にて2〜5日間培養し、培養液と共に感染細胞をスクレーパーにより剥離させ回収した。細胞を凍結融解後、ソニケーション処理し、下記操作により単一のプラークを取得できる程度にOpti−MEM(Invitrogen)にて希釈した。得られた希釈液100μLを6ウェルディッシュにサブコンフルエントになったBS−C−1細胞(ATCC(登録商標) CCL−26)又はRK13細胞に添加して接種した。0.8%メチルセルロース(和光純薬、136−02155)、5%ウシ胎児血清、0.225%炭酸水素ナトリウム(和光純薬、195−16411)及びGlutaMAX Supplement I(GIBCO、35050−061)含有イーグルMEM培地(ニッスイ、05900)を2mL加え、5%CO2存在下37℃で2〜5日間培養した。培地を除き、BFP発現を指標にプラークをチップの先で掻き取り、Opti−MEMに浮遊させた。BS−C−1細胞又はRK13細胞にてさらに3回以上この操作を繰り返し、プラーク純化し、組換えウイルスのプラークを回収した(本実施例2において、以下、ここまでの手順を「ウイルスの回収」という。)。回収したプラークをOpti−MEMに浮遊させ、ソニケーションした。High Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)を用いマニュアルに従って、前記ソニケーション溶液200μLからゲノムDNAを抽出し、PCRによるスクリーニングに供した。VGFに関しては2つのプライマー(配列番号10及び配列番号11)によって、O1Lに関しては2つのプライマー(配列番号12及び配列番号13)によって、B5Rに関しては2つのプライマー(配列番号14及び配列番号15)によってPCRを行った。所定の大きさのPCR産物が検出されたクローンのうち、PCR産物の塩基配列が正しいことをダイレクトシーケンスにより確認したウイルスクローン(LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1−SP−BFP、又はB5Rウイルスと称する。図中、単にB5Rとも称する。図1A)を選択し、A549細胞(ATCC(登録商標) CCL−185)又はRK13細胞にて増殖させた後、RK13細胞にてウイルス力価を測定し、実施例4−7に記載の実験に供した。LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1−SP−BFP及び実施例1(4)で作製したpTN−DsRed(B5R−)を用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現を指標に、上記と同様の方法にて組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO Δ−DsRed VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFPと称する。
(2)図1Bに示すB5R蛋白質の4つのSCRドメインを欠失した組換えウイルスを回収した。具体的には、実施例2(1)で作製したLC16mO Δ−DsRed VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFP及び実施例1(4)で構築したpTN−B5RΔ1−4を用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現消失を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて組換えウイルスを回収した。回収したプラークを実施例2(1)に記載の手順と同じ手順にて、PCRによるスクリーニングに供し、PCR産物をダイレクトシーケンスにより確認した。正しい塩基配列を有するウイルスクローン(LC16mO ΔSCR VGF−SP−LucGFP/O1−SP−BFP、又はΔSCRウイルスと称する。図中、単にΔSCRとも称する(図1B))を選択し、A549細胞(ATCC(登録商標) CCL−185)又はRK13細胞にて増殖させた後、RK13細胞にてウイルス力価を測定し、実施例4−7に記載の実験に供した。
(3)B5Rウイルス及びΔSCRウイルスにおいて、VGF遺伝子内のLucGFPをコードするポリヌクレオチド及びO1L遺伝子内のBFPをコードするポリヌクレオチドを、それぞれLuc2をコードするポリヌクレオチド及びLacZをコードするポリヌクレオチドで置き換えたウイルスを作製するために、実施例2(1)で回収したB5Rウイルス又は実施例2(2)で回収したΔSCRウイルスと、実施例1(2)で作製したpTN−VGF−SP−Luc2及び実施例1(3)で作製したpTN−O1L−SP−LacZを用いて、実施例2(1)と同様の方法にて(但し、細胞としてはCV−1細胞を用いる)組換えウイルスを回収した。B5Rウイルスを起源ウイルスとする組換えウイルスをB5R−LLウイルスと、ΔSCRウイルスを起源ウイルスとする組換えウイルスをΔSCR−LLウイルスと称する。
(実施例3 EEV又はIMVの回収及び力価測定)
EEVは感染初期に細胞上清中に放出され、IMVは感染初期には細胞内に留まるという性質からウイルス感染細胞の培養液中の上清中のウイルスをEEVとして回収した。すなわち、感染後48時間で培養液を回収し、700×g、4℃、10分の遠心で浮遊細胞を落として上清のみを取り出し、EEVとして回収し、力価測定を行った。一方、上清を回収した後に残った浮遊細胞と共に、プレート内の接着細胞をダルベッコ−リン酸緩衝生理食塩水(D−phosphate buffered saline;D−PBS(Wako)で洗浄後セルスクレーパーにより剥離させOpti−MEMを加えて回収し、凍結融解及びソニケーション処理により細胞を破砕し、700×g、4℃、10分遠心後に上清をIMVとして回収した。
ウイルスの力価測定には、6ウェルプレートにほぼコンフルエントで播種したRK13細胞へ段階希釈(101〜107倍希釈、想定するウイルス力価に応じて希釈率は変化)した各ウイルスのEEV又はIMVを感染させ、0.8%メチルセルロース(和光純薬、136−02155)、5%ウシ胎児血清、0.225%炭酸水素ナトリウム(和光純薬、195−16411)及びGlutaMAX Supplement I(GIBCO、35050−061)含有イーグルMEM培地(ニッスイ、05900)を2mL加え、5%CO2存在下37℃で3日間培養後、形成されるウイルスプラーク数を測定することで、EEV又はIMVのウイルス力価(産生量)を算出した。
(実施例4 SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する組換えワクシニアウイルスのEEV又はIMVによる細胞死滅効果)
EEV又はIMVによる細胞死滅効果への影響を検証した。
(1)IMVによる細胞死滅効果
まずIMVによる細胞死滅効果を比較するため、96ウェルプレートに4種の卵巣癌細胞株(A2780(ECACC 93112519)、CaOV3(ATCC(登録商標) HTB−75)、RMG−1(JCRB JCRB0172)、SKOV3(ATCC(登録商標) HTB−77))を6.0×103細胞/ウェルで播種し、37℃、24時間培養後60〜80%コンフルエントになったところでB5Rウイルス又はΔSCRウイルスをMOI=0、0.001、0.01、0.1、1で各細胞株に感染させた。B5Rウイルス又はΔSCRウイルスは専らIMV形態を有すると考えられる。感染から120時間後にBZ−X700(キーエンス)を用いた蛍光観察(図2−1)及びCellTiter 96 Aqueous Nonradioactive Cell Proliferation Assay(Promega)を用いた細胞生存率測定(図3のパネルA)を行った。蛍光観察像ではウイルスのVGF遺伝子内に挿入されたEGFP遺伝子の発現により、ウイルス増殖がGFP蛍光として観察される。細胞を播種していないウェルの値を0%生存、細胞を播種してウイルスを添加していないウェルを100%生存として細胞生存率を求めた。
(2)EEVによる細胞死滅効果
次に、EEVによる細胞死滅効果を測定するため、上記(1)と同様の細胞に各ウイルスをMOI=0、0.001、0.01、0.1、1で感染させ48時間培養した。その後、感染細胞の培養液50μlを回収し、700×g、4℃、10分の遠心で上清のみをEEVとして回収した。回収したEEVを96ウェルプレートに新たに播種した上記4種の卵巣癌細胞株へ感染させた。EEV感染から120時間後、上記(1)と同様に蛍光観察(図2−2)及び細胞生存率測定(図3のパネルB)を行った。
図2−1及び図3のパネルAに示されるように、ウイルス増殖と細胞生存率はほぼ一致して見られ、どの細胞でもIMV感染時には増殖域、細胞生存率共にB5Rウイルス及びΔSCRウイルス間で大きな差は見られなかった(図2−1、図3のパネルA)。これはEEVの量がIMVの約1%又はそれ以下と低く、観察された効果は主にはIMVによる効果と考えられるが、IMVの産生量はどの細胞でも差が無かったためと考えられる。一方、図2−2及び図3のパネルBに示されるように、EEV感染時はA2780及びCaOV3細胞においてB5Rウイルスと比べΔSCRウイルスで増殖域の増大、細胞生存率の減少が見られ、RMG−1、SKOV3細胞では増殖域、細胞生存率共に差は無かった(図2−2、図3のパネルB)。
(実施例5 SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する組換えワクシニアウイルス由来EEVの免疫回避能)
次に、SCRドメインをコードする領域の欠失によるウイルスの免疫回避能の増大をウイルスの中和実験により検証した。EEVは抗B5R抗体と補体のCDC活性により中和される(Journal of Virology、2009、Vol.83、No.3、p.1201−1215)ため、EEV及びIMVにウサギ由来の抗ワクシニアウイルス血清とウサギ補体を加えてウイルス中和を行った。
(1)ウイルス中和処理
具体的には、EEV及びIMVの産生用に、ウイルス産生・感染細胞として、EEV及びIMV共にB5Rウイルス/ΔSCRウイルス間での産生量に差が見られなかったSKOV3細胞を使用した。24ウェルプレートにSKOV3細胞を5.0×104細胞/ウェルで播種し、24時間培養後60〜80%コンフルエントになったところで、B5Rウイルス又はΔSCRウイルスをMOI=0.1で感染させた。感染後、上記実施例3に記載の方法で感染後48時間時点のEEV及びIMVを回収した。回収したB5Rウイルス又はΔSCRウイルスそれぞれに由来するEEV 10μl(約1500〜2000PFU)又はIMV 1μl(約5000〜7000PFU)を0、0.2、0.5、1%のウサギ抗ワクシニアウイルス血清(Capricorn、IgG fraction、ELISA抗体価1:1000、ELISAにより抗B5R抗体を検出済。図4−5中、抗VV血清又は単に血清とも称する。)及び0、1、3、10、25%のウサギ補体(Cedarlane Laboratories、以下及び図4−5において、単に補体とも称する。)とをOpti−MEM中に混合して計50μlのウイルス混合液を得、37℃で30分反応させた。次にウイルス混合液を前日に96ウェルプレートへ6.0×103細胞/ウェルで播種しておいたSKOV3細胞へと感染させ、37℃で2時間吸着させた。2時間の吸着後にウイルス混合液を除き、新たな培養液として10%ウシ胎児血清を含むRPMI−1640培地(Wako)を加えて37℃で96時間培養した。
(2)中和処理後の蛍光観察像
96時間培養後、実施例4に記載の方法に従い、感染細胞中で増殖したワクシニアウイルスの蛍光観察を行った。図4は感染後96時間時点での蛍光観察結果を示す。蛍光観察により緑色に確認される領域は中和を免れて増殖したウイルスを反映する。
図4に示されるように、EEVのウイルス中和処理後の感染像を見ると、B5Rウイルス由来EEVが抗体及び補体との混合により効率よく中和されているのに対し、ΔSCRウイルス由来EEVは抗体及び補体による中和を逃れて増殖可能であることが確認された(図4のパネルA)。またIMVのウイルス中和処理後の感染像では、B5Rウイルス、ΔSCRウイルスのどちらも効率よく抗体及び補体により中和されることが確認された(図4のパネルB)。この結果はIMVが免疫への耐性を持たず、EEVが免疫回避能を持つという従来の報告と一致し、さらにΔSCRウイルスが抗B5R抗体の認識を逃れることとも合致する。
(3)中和回避能
図5は、図4で観察した蛍光観察結果をキーエンス社のハイブリッドセルカウントによって数値化し(以下、「ハイブリッドカウント」という。)、その結果を示したものである。ハイブリッドカウントの値が高いほど、中和回避能が高いことを示す。ΔSCRウイルス由来EEVはB5Rウイルス由来EEVに比較して中和回避能が高い傾向を示す(図5パネルA)。一方、IMVはΔSCRウイルスを由来とするものであってもB5Rウイルスを由来とするものであっても大きな差は見られなかった(図5パネルB)。
以上より、ΔSCRウイルス由来EEVはB5Rウイルス由来EEVと比べ免疫回避能が向上していることが示唆された。
(実施例6 SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する組換えワクシニアウイルス由来EEVのIn vivoでの免疫回避能と抗腫瘍効果)
SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する組換えワクシニアウイルスの免疫回避能及び抗腫瘍効果の向上をマウスを用いた前臨床試験により検証した。
(1)検証手順
具体的には、pmirGLO Vector(Promega)のウミシイタケルシフェラーゼ―ネオマイシン耐性融合遺伝子(Renilla Luciferase−neo:以下、「Rluc」と称することがある。)を恒常的に発現するヒト卵巣癌A2780細胞(5×106細胞)をBALB/c−nu/nuマウス腹腔内へ移植し、10日間増殖させた。次に、EEV産生用にA2780細胞をT−25フラスコへ1.35×106細胞を播種し、24時間培養後にB5Rウイルス又はΔSCRウイルスをMOI=0.05で感染させ、48時間培養後に採取した培養液を700×g、4℃、5分間の遠心分離に供し、上清をEEVとして回収した。EEV投与の前日にnu/nuマウス腹腔内へウサギ抗ワクシニアウイルス血清(Capricorn、IgG fraction。以下及び図7−8中、単に血清とも称し、図6−1、6−2中、抗VV血清と称する。)を100μl投与し、擬似的な免疫環境下とした。回収したEEVを前記nu/nuマウス腹腔内へ500μl(B5Rウイルス:約1.2×105PFU、ΔSCRウイルス:約7×105PFU)投与した。Vivo Glo Luciferin(プロメガ)の投与によりウイルスのFluc発光(ウイルス増殖)を、またViviRen In Vivo Renilla Luciferase Substrate(プロメガ)の投与により移植したA2780細胞のRluc発光(腫瘍増殖)を、in vivoイメージングシステム(Berthold、NightDHADE LB985)を用いて、それぞれ非侵襲的に検出した。
図6−1にEEV投与後3日(Day 3)と7日(Day 7)時点でのウイルスFluc発光の検出結果(すなわち、ウイルスの体内分布)を示し、図6−2にEEV投与3日前(Day −3)と投与後8日(Day 8)時点での腫瘍Rluc発光の検出結果(すなわち、腫瘍の体内分布)を示す。図6−1及び図6−2において、下からそれぞれ、コントロール(EEVの代わりにリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)投与)群、B5Rウイルス−EEV投与群、ΔSCRウイルス−EEV投与群の結果を示す。
(2)ウイルス増殖及び腫瘍増殖
図6−1(ウイルスFluc発光の検出結果)に示されるように、EEV投与後3日目ではB5Rウイルス−EEV+血清投与及びΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスのどちらもウイルス増殖は抑えられているが、EEV投与後7日目ではΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスはほぼ全ての個体で腹腔内での強力なウイルス増殖が認められた。一方で、B5Rウイルス−EEV+血清投与マウスはウイルス増殖が抑えられていた。
図6−2(腫瘍Rlucの検出結果)に示されるように、EEV投与後8日目での血清非投与群はB5Rウイルス−EEV、ΔSCRウイルス−EEVのどちらを投与してもEEV投与3日前に比較して腫瘍増殖は大きく減衰した。一方、B5Rウイルス−EEV+血清投与マウスではEEV投与後に1匹のみで腫瘍増殖が減衰したのに対し、ΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスでは投与後には4匹のマウスで腫瘍増殖が減衰した。
図7のパネルAにEEV投与後10日目までのウイルスFluc発光の検出値を、図7のパネルBにEEV投与前からEEV投与後15日目までの腫瘍Rluc発光の検出値を示す。
図7のパネルA(ウイルスFluc発光の検出値)に示されるように、血清非投与群が各EEV投与後5日目でピークに到達しているのに対し、ΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスは投与後7日目、B5Rウイルス−EEV+血清投与マウスは投与後10日目にそれぞれピークに達していた。図7中では、ΔSCRウイルスは、「delSCR」と表記した。「Back」は、マウスが存在しない背景のFluc発光を示す。
図7のパネルB(腫瘍Rluc発光の検出値)に示されるように、血清非投与群ではB5Rウイルス−EEV、ΔSCRウイルス−EEVのどちらでも各EEV投与後8日目でほぼ腫瘍が消失したのに対し、ΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスはEEV投与後11日目で腫瘍が消失し、B5Rウイルス−EEV+血清投与マウスはEEV投与後15日目でも腫瘍の残留が見られた。「Back」は、マウスが存在しない背景のRluc発光を示す。
(3)マウス生存率
EEV投与後の各マウスの生存率を図8に示す。図8に示されるように、Mock(PBS、PBS+血清)群と比べると全てのEEV投与群で生存延長が見られるものの、B5Rウイルス−EEV+血清投与マウスは早期の生存率低下が認められた。一方、ΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスは血清非投与群と中央値において同等の生存延長を示しており(中央値はΔSCRウイルス−EEV+血清投与マウスは77、血清非投与群(ΔSCRウイルス−EEV)は74.5)、B5Rウイルス−EEV+血清投与マウスと比較し有意な差がLog−rank検定によって確認された(P=0.0291)。
このように、B5RウイルスとΔSCRウイルスとでは、血清存在下(すなわち、免疫付与状態)における抗腫瘍効果において顕著に相違し、ΔSCRウイルスは、免疫環境下においても、腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果を高めることがマウス体内において実証された。
(実施例7 SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する組換えワクシニアウイルスのIn vivoでの抗腫瘍効果)
SCR欠失による抗腫瘍効果を免疫応答性の同種同系移植モデルにおいて検証した。
(1)組換えウイルスの精製
精製のために、実施例2(3)で作製したB5R−LLウイルス及びΔSCR−LLウイルスをA549細胞又はRK13細胞に感染させた。5%CO2存在下37℃で2〜5日間培養した後、感染細胞を回収した。細胞を凍結融解し、ソニケーション処理、又はベンゾナーゼ処理した。OptiPrep(アクシスシールド社)を用いて密度勾配遠心分離法により精製した。その後、RK13細胞にて各ウイルスのウイルス力価を測定し、後記(2)の実験に供した。
(2)腫瘍体積及びウイルス増殖
同種移植モデルとして、マウス大腸癌CT26細胞を5×105細胞でBALBc/AJjclマウスの左腹部及び右腹部へ皮下移植した。ノギスで腫瘍径を測定した腫瘍体積(短径mm×短径mm×長径mm×0.5)の各群の平均値がウイルス投与側(左側)で48〜88mm3、ウイルス非投与側(右側)で12〜115mm3になるまで7日間成長させた。腫瘍成長後に、B5R−LLウイルス又はΔSCR−LLウイルスを各5×107PFUでマウス左腹部に植付けた腫瘍内へ直接投与した。各ウイルスの代わりにPBS(35μL)を腫瘍内投与した群も準備した(各群N=5)。投与は1日おきに計3回、Day 0、2、4の時点で行った。初回投与後20日までノギスで腫瘍径を測定して腫瘍体積の変動を観察した。さらに、初回投与後7日までVivo Glo Luciferin(プロメガ)の投与によりウイルスのFluc発光によりウイルス増殖の推移を観察した。
その結果、図9上図に示されるように、ウイルス初回投与後17日、20日に、ウイルス投与側(左側)腫瘍ではB5R−LLウイルス及びΔSCR−LLウイルス共にMockのPBS投与に比べて有意に抑えられていることがTwo−way ANOVA統計解析により確認された(P<0.005)(図9上図)。さらに、ΔSCR−LL投与マウスでは5匹中2匹で完全寛解が見られたが、B5R−LLウイルス投与マウスで完全寛解は見られなかった。またウイルス非投与側(右側)腫瘍でもPBS投与に比べてB5R−LLウイルス及びΔSCR−LLウイルス投与マウスでは、有意に腫瘍増殖が抑えられており(図9下図)、特に20日後のΔSCR−LLウイルス投与マウスはその腫瘍体積がB5R−LLウイルス投与マウスに比べて有意に抑えられていることがTwo−way ANOVA統計解析により確認された(P<0.01)。
さらに、ウイルス増殖の推移をウイルスに組み込んだFlucの発光検出により観察したところ、ウイルス非投与側腫瘍では観察期間(7日間)内のどの時間点でもウイルスは確認されなかった。さらに、ウイルス投与側腫瘍ではB5R−LLウイルスの方がΔSCR−LLウイルスよりウイルス増殖が多い傾向を示した(図10)。いずれのウイルスも2回目投与後のDay 3でピークを迎え、3回目投与後3日後のDay 7でほぼ消失していた。これに対して、ウイルスの抗腫瘍効果は、7日目以降において顕著であった。つまり、SCR欠失により惹起される腫瘍増殖抑制作用は、ウイルス量と正に相関しないこと、かつ、ウイルスが検出されなかった腫瘍(ウイルス非投与腫瘍)や、ウイルスが既に消失したことが確認された後においても発揮されることが判明した。
以上より、SCR欠失による抗腫瘍効果にはウイルス自体の抗腫瘍作用だけではなく、むしろ、ウイルスにより惹起される生体による抗腫瘍作用が関与することが示唆された。生体によるこの抗腫瘍作用は、例えば、抗腫瘍免疫の活性化に起因すると考えられた。すなわち、ΔSCRは、ワクシニアウイルスの免疫による排除を抑制した上で、がん細胞に対する免疫反応を活性化させると考えられた。
本発明のワクシニアウイルス及び医薬組成物は、各種がんの予防又は治療に有用であると期待される。
配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。
配列番号2で示されるアミノ酸配列は、4つのSCRドメインが欠失したB5Rタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号3〜8及び10〜15で示されるヌクレオチド配列はプライマーである。
配列番号9で示される塩基配列は、最適化されたコドンを有する大腸菌LacZ遺伝子を含むポリヌクレオチドである。
配列番号16で示される塩基配列は、LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedの末端ループ配列である。
配列番号17で示される塩基配列は、LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedの末端ループ配列である。
配列番号18で示される塩基配列は、LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedのうち、末端ループ配列を除いた配列である。

Claims (8)

  1. ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能を欠損し、かつ、SCR(short consensus repeat)ドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、ワクシニアウイルス。
  2. SCRドメイン1〜4を欠失したB5Rをコードする遺伝子を有する、請求項1に記載のワクシニアウイルス。
  3. B5RにおけるSCRドメイン1〜4の欠失が、B5Rにおける配列番号1により示されるアミノ酸配列に対応する領域の欠失である、請求項2に記載のワクシニアウイルス。
  4. SCRドメインを欠失したB5Rをコードする遺伝子が、B5Rのシグナルペプチド、ストーク、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含むポリペプチドをコードする遺伝子である、請求項1から3のいずれか一項に記載のワクシニアウイルス。
  5. SCRドメインを欠失したB5Rが、配列番号2のアミノ酸配列に対応するB5Rのアミノ酸配列からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のワクシニアウイルス。
  6. ワクシニアウイルスがLC16mO株である、請求項1から5のいずれか一項に記載のワクシニアウイルス。
  7. 請求項1から6のいずれか一項に記載のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
  8. がんの予防又は治療用である、請求項7に記載の医薬組成物。
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ELIZABETH MATHEW ET AL.: "The Extracellular Domain of Vaccinia Virus Protein B5R Affects Plaque Phenotype, Extracellular Envel", JOURNAL OF VIROLOGY, vol. 72, no. 3, JPN7022004762, 1998, pages 2429 - 2438, ISSN: 0004892304 *
MOTOMU NAKATAKE ET AL.: "Partial Deletion of Glycoprotein B5R Enhances Vaccinia Virus Neutralization Escape while Preserving", MOLECULAR THERAPY ONCOLYTICS, vol. 14, JPN6023011293, September 2019 (2019-09-01), pages 159 - 171, XP055656662, ISSN: 0005021195, DOI: 10.1016/j.omto.2019.05.003 *

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