以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。また、以下では参照する規格として、単一又は複数の音響方式で想定されている全スピーカ位置を統一的に記述したスピーカ配置(統合スピーカ配置)が規定されているITU−R勧告BS.2051(以下、「規格書」という)を例にとって説明する。
図1は、本実施形態に係る音響処理装置1の構成例を示すブロック図である。図1に示す音響処理装置1は、変換チャンネル再生位置決定部11と、チャンネル数変換係数決定部12と、チャンネル数変換係数行列記憶部13と、出力信号生成部14とを備える。
音響処理装置1は、任意のM個のチャンネル数からなる変換元マルチチャンネル音響信号を任意のN個のチャンネル数からなる変換先マルチチャンネル音響信号にチャンネル数とその配置を変換する。
変換チャンネル再生位置決定部11は、変換元マルチチャンネル音響信号及び変換先マルチチャンネル音響信号のチャンネル数を含む変換元・変換先チャンネル位置情報を取得し、変換元マルチチャンネル音響信号の再生位置を、あらかじめ定められた上下方向の単一又は複数の層上におけるスピーカ配置位置に基づいて決定する。本実施形態では、このスピーカ配置が、標準化団体が定める規格書に規定される統合スピーカ配置である場合について説明する。以下、「変換元マルチチャンネル音響信号の再生位置」を「変換元チャンネルの再生位置」といい、「変換先マルチチャンネル音響信号の再生位置」を「変換先チャンネルの再生位置」という。また、「変換元マルチチャンネル」を適宜「変換元チャンネル」と略し、「変換先マルチチャンネル」を適宜「変換先チャンネル」と略す。
そして、変換チャンネル再生位置決定部11は、取得した変換先・変換元チャンネル位置情報に基づいて、変換先チャンネルの再生位置が存在しない再生位置欠落範囲がある場合には、隣接する層の再生位置欠落範囲に対応する範囲に存在する変換先チャンネルの再生位置を用いることを決定する。詳細については後述する。
さらに、変換チャンネル再生位置決定部11は、正中面・横断面上(方位角が0度、±90度、及び180度)に存在するチャンネルを除く変換元チャンネルの再生位置を、変換元マルチチャンネル音響信号及び変換先マルチチャンネル音響信号の各チャンネルのチャンネル数変換のためのトレランスを元に決定する。トレランス(チャンネル数変換用トレランス)として、例えば、標準化団体が定める規格書に規定されているトレランス、チャンネルごとに規定されたトレランス、チャンネル再生位置の方位角に対して一定の規則に従って定められたトレランス、ユーザによって指定されたトレランス、メタデータによって指定されたトレランス、又は変換元チャンネル及び変換先チャンネルの名称若しくは位置の類似度に基づいて決定されるトレランスのいずれかを採用することができる。変換チャンネル再生位置決定部11は、いずれのトレランスを採用してチャンネル数変換用トレランスを決定するかを指定する変換用トレランス選択情報を入力してもよい。そして、変換チャンネル再生位置決定部11は、決定した変換元・変換先チャンネルのトレランスに基づいて、変換先チャンネルの再生位置及び変換元チャンネルの再生位置を、規格書で規定されたチャンネル配置上に決定する。詳細については後述する。
チャンネル数変換係数決定部12は、変換元チャンネルの再生位置と変換先チャンネルの再生位置のトレランスが重複しない場合、2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネルの再生位置との位置関係、あるいは、2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネルの数によって分配係数を算出する。そしてチャンネル数変換係数決定部12は、算出した分配係数からチャンネル数変換係数を決定し、チャンネル数変換係数行列記憶部13に記憶する。詳細については後述する。
チャンネル数変換係数行列記憶部13は、チャンネル数変換に必要なチャンネル数変換係数行列を記憶する。例えば、後述する11.1ch音響(7.1+4ch)から9.1ch音響(5.1+4ch)、7.1ch音響(5.1+2chあるいは中層7.1ch)に変換するチャンネル数変換係数行列を記憶する。なお、チャンネル数変換係数行列記憶部13は必須の構成ではなく、チャンネル数変換係数行列記憶部13を備えていない場合や、チャンネル数変換係数行列記憶部13にチャンネル数変換係数が記憶されていない場合には、チャンネル数変換係数行列をその都度導出してもよい。
出力信号生成部14は、変換元マルチチャンネル音響信号を入力する。そして、出力信号生成部14は、チャンネル数変換係数決定部12により決定されたチャンネル数変換係数を各要素とするチャンネル数変換係数行列を用いて、変換元マルチチャンネル音響信号のチャンネル数とその配置を変換して変換先マルチチャンネル音響信号を生成し、外部に出力する。
具体的には、出力信号生成部14は、チャンネル数変換係数行列記憶部13からN×M個のチャンネル数変換係数からなるチャンネル数変換行列を読み出し、式(2)に従い、M個の変換元マルチチャンネル音響信号にチャンネル数変換係数を乗じて加算することによって、N個の変換先マルチチャンネル音響信号を生成する。
図2は、音響処理装置1における、変換元マルチチャンネル音響信号から変換先マルチチャンネル音響信号にチャンネル数変換するときに用いるチャンネル数変換係数を導出する手順を示すフローチャートである。任意のMチャンネルのマルチチャンネル音響信号からNチャンネルのマルチチャンネル音響信号に変換する場合は、まず、変換チャンネル再生位置決定部11により、N個の変換先チャンネルの再生位置を統合スピーカ配置の3層上に配置する。その後、変換先マルチチャンネル音響信号の再生位置欠落範囲の判別を行う。
規格書で規定されているスピーカ配置は上層(Upper Layer、頭上のスピーカを含む)、中層(Middle Layer、聴取者の耳の高さ)、及び下層(Lower Layer)の3層からなる。現在、世の中に提案されているマルチチャンネル音響方式のほとんどは、上下方向には3層かそれより少ない層構造となっている。例えば、22.2chの場合は、下層、中層、及び上層の3層となり、11.1chの場合は、中層及び上層の2層となる。ここで方式によっては、上層などで規格書に規定されているスピーカ配置の高さ(仰角30度)とは異なる高さにスピーカが設置されていることがあるが、仰角に関しても後述する方位角のトレランスと同様にして考え、上層に変換するものとする。規格書で想定されている54か所ものスピーカ位置は、それぞれが層の高さ及び方位角からなるスピーカラベル(SP Label)を持つ。層の高さはそれぞれの英語名の頭文字をとり(上層:U、中層:M、下層:B)、方位角はスクリーン中央を000度として反時計回りに3桁の度数で表す。例えば5.1chサラウンドのLチャンネルの再生位置のSP LabelはM+030、RチャンネルはM−030となる。マルチチャンネル音響方式では、同じ再生位置を持つチャンネルに関しても、方式が違えばチャンネルの呼び方が異なることがしばしばあるが、このように変換先・変換元マルチチャンネルを両方とも規格書で規定されている、SP Labelで表現されるスピーカ配置に置きなおすことで、チャンネル数変換係数行列を明白かつ一意に生成することができる。
ここで、変換先チャンネルの再生位置欠落範囲の判別のために、変換先チャンネルの各分割層を方位角方向に0度から90度ごとに前後左右(横断面、正中面)の4範囲に分割する(ステップS101)。変換元・変換先チャンネルのスピーカ配置は規格書により最初から分かっているため、層内での範囲の分割はデフォルト設定であらかじめ決めておいてもよいし、その都度算出してもよい。
方位角方向に分割された範囲に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合がある。以下、方位角方向に分割された範囲であって、変換先チャンネルの再生位置が存在しない範囲を「再生位置欠落範囲」といい、再生位置欠落範囲を含む層を「再生位置欠落層」という。変換チャンネル再生位置決定部11は、再生位置欠落層については、最も近い層の再生位置欠落範囲に対応する範囲に存在する変換先チャンネルの再生位置を、仮想的に再生位置欠落範囲の変換先チャンネルの再生位置とする(ステップS102)。ただし、頭上(仰角90度)といった4範囲に対して等しい位置関係にある変換先チャンネルに関しては除外する。なお、上記のように範囲の分割をあらかじめ行っていた場合、最も近い層を用いる再生範囲もあらかじめ決めておいてもよい。
図3に、7.1ch(中層5chと上層2ch)と11.1ch(中層7chと上層4ch)の変換先チャンネルの再生位置を規格書で規定される3層上に配置し、各分割層を前後左右に4分割した例を示す。図3(a)に示した7.1ch音響において、中層は前方に0度、±30度、後方に±110度、上層は±30度に変換先チャンネルの再生位置は配置される。上層は後方の範囲に変換先チャンネルの再生位置が存在しない再生位置欠落層である。そこで、隣接する中層の後方チャンネルを上層の再生にも用いることとする。
ここで、変換先チャンネルがステレオの場合などであって、再生位置欠落層に隣接する層の再生位置欠落範囲に対応する範囲に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合には、再生位置欠落層内で変換先チャンネルの再生位置を前後に反転させることにより、変換先チャンネルの再生位置を仮想的に創出してもよい。また、中層に該チャンネルがなく、上下両方にある場合には、その両方の変換先チャンネルの再生位置を再生位置欠落範囲の変換先チャンネルの再生位置として、両チャンネルに変換元チャンネルの音響信号を分配してもよい。
また、0度又は180度に再生位置が存在するチャンネルは、左前及び右前、又は左後及び右後に再生位置が存在するチャンネルがない場合にのみ、等分に分配して例えば左前及び右前(±1度など)又は左後及び右後(±179度)に再生位置が存在するチャンネルとみなしてもよい。同様に、側方±90度に再生位置が存在するチャンネルも、左前及び左後、又は右前及び右後に再生位置が存在するチャンネルがない場合にのみ、等分に分配して例えば左前及び左後(90±1度など)、又は右前及び右後(−90±1度)に再生位置が存在するチャンネルとみなしてもよい。
このようにして、変換先チャンネルの再生位置を上下方向の3層からなる統合スピーカ配置上に置くことにより、上下方向に複数の層を持つ任意のチャンネル配置の音響方式で制作された音響を、制作者の意図を大きく損なうことなく、別のチャンネル配置の音響方式用の再生装置で聴取するためのチャンネル数変換係数行列を生成することが可能となる。
図2に戻り、次に、変換チャンネル再生位置決定部11により、仰角±90度の1点に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合の、仰角±90度にあった変換元チャンネルの再生位置を規定する(ステップS103)。なお、仰角±90度の1点に変換先チャンネルの再生位置が存在する場合には、該再生位置を変更しない。
仰角±90度の1点に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合、第1の例では、頭上(仰角90度)又は足元(仰角−90度)の変換元チャンネルの再生位置を、仰角±90度に隣接する層の各分割範囲の中央に最も近い変換先チャンネルの再生位置とし、該分割範囲に中央から同程度離れた複数の変換先チャンネルの再生位置が存在する場合には、該複数の変換先チャンネルの再生位置とする。
図4に、仰角±90度の1点に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合の、仰角±90度の変換元チャンネルの再生位置の第1の例を示す。各分割層を4範囲に分割した場合は、隣接する層の前後左右4範囲の変換先チャンネルのうち、それぞれ四隅(方位角45度と135度)付近に再生位置が存在する変換先チャンネルの再生位置各1点を使用する。例えば、図4(a)に示すように、変換先チャンネルが5chの場合、黒丸で示した四隅付近に存在する4chを再生位置と規定し、図4(b)に示すように、変換先チャンネルが7chの場合、黒丸で示した四隅付近に存在する4chを再生位置と規定する。また、方位角30度と60度など四隅から同程度離れた再生位置に変換先チャンネルが2個存在する場合には、両方を使用する。例えば、図4(c)に示すように、変換先チャンネルが10chの場合、方位角30度と60度を共に使用し、黒丸で示した6chを再生位置と規定する。
変換元チャンネルの再生位置を規定すると、規定されたチャンネル数に応じて、音響信号のレベルを規定する。4範囲から各1点を選出した場合、チャンネル数変換係数は√(1/4)=0.500であり、4範囲から各2点を選出した場合、チャンネル数変換係数は√(1/8)=0.354となる。この例では、エネルギーが保存されることを想定したが、上層で再生されるべき音響信号が中層等で再生されるとき、元々中層で再生される音響信号が聞こえにくくなる可能性がある。そこで、全体のエネルギーを−1.5dBするなどの補正係数を乗じてもよい。このとき、4範囲から各1点を選出する場合の各要素は0.421となり、4範囲から各2点を選出する場合の各要素は0.297となる。
第2の例では、頭上(仰角90度)の変換元チャンネルの再生位置を、仰角90度に隣接する層の後方の左右分割範囲の中央にそれぞれ最も近い変換先チャンネルの再生位置、及び前方中央の変換先チャンネルの再生位置とする。前方中央に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合には、代わりに前方の左右分割範囲の中央にそれぞれ最も近い変換先チャンネルの再生位置を変換元チャンネルの再生位置とする。
図5に、仰角90度の1点に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合の仰角90度の変換元チャンネルの再生位置の第2の例を示す。例えば、図5(a)に示すように、変換先マルチチャンネルが5chの場合、黒丸で示した後方二隅付近に存在する2ch及び前方中央の1chを再生位置と規定し、図5(b)に示すように、変換先チャンネルが7chの場合、黒丸で示した後方二隅付近に存在する2ch及び前方中央の1chを再生位置と規定する。また、前方中央に変換先チャンネルが存在しない場合には、前方左右に再生位置が存在する変換先チャンネルの再生位置を使用してもよい。例えば、図5(c)に示すように、変換先チャンネルが4chの場合、黒丸で示した後方二隅付近に存在する2ch及び前方左右の2chを再生位置と規定する。
後方二隅付近及び前方中央を再生位置とした場合、チャンネル数変換係数行列の各要素は√(1/3)=0.577となる。後方二隅付近及び前方左右を再生位置とした場合、前方左右のチャンネル数変換係数行列の各要素は√(1/6)=0.408となる。また、上述したように、上層で再生されるべき音響信号が中層等で再生されることで、元々中層で再生される音響信号が聞こえにくくなることを防止するために、補正係数を乗じて全体のエネルギーを低減させてもよい。
図2に戻り、次に、仰角90度を除く変換元チャンネルの再生位置を統合スピーカ配置の各層上に配置し、その再生位置を規定してゆく。まず、変換先チャンネルの再生位置と同じ位置にある変換元チャンネルの再生位置を当該位置に規定する。次に、正中面、横断面上にある変換元チャンネルの再生位置(方位角が0度、±90度、及び180度)を当該位置に規定する。
この時点で再生位置が定まっていない変換元チャンネルは、チャンネル数変換のためのトレランスを元にその再生位置を変更する。このとき、変換元チャンネルの再生位置の変更に用いるチャンネル数変換のためのトレランスに関して、正中面・横断面上のチャンネルを除き規格書で規定されているようなスピーカ配置のトレランスを用いてチャンネル数変換用トレランスを決定する場合と(ステップS104)、各変換元・変換先マルチチャンネルの方位角からチャンネル数変換用トレランスを決定する場合とで(ステップS105)、変換元・変換先チャンネルのチャンネル数変換のためのトレランスを切り替える。この切り替えは、デフォルト設定であらかじめ決めておいてもよいし、ユーザが決定してもよい。
図6に、規格書に規定されるスピーカ配置のトレランスを用いる場合(ステップS104)のチャンネル数変換用トレランスの一例を示す。
ステップS104では、図6Aに示す変換元チャンネル(M個)の規格書に規定されるスピーカ配置のトレランスを、そのままチャンネル数変換のためのトレランスにも用いる。ただし、正中面・横断面上(層上の方位角が0度、±90度、及び180度)の位置に規定されるスピーカ配置位置においては、トレランスを0度に変更し(すなわち、トレランスを設けないで)、規格で定められているスピーカ配置位置のみを変換元チャンネルの再生位置とする。したがって、チャンネル数変換用トレランスは図6Bに示すようになる。これは、正中面・横断面上の角度が、聴取者から見て前後・左右といった方向感を決定づける特別な方位だからである。その正中面・横断面上にあるチャンネルもまた、再生される音響コンテンツにおいて特別な意味を持ち、仮にコンテンツ再生時に部屋の間取りなどの聴取環境の影響からスピーカ設置位置の多少のずれは許容するとされているものであったとしても、チャンネル数変換においては他の位置にあるチャンネルの再生位置に変更されてはならない。
また、ステップS105では、各変換元・変換先チャンネルごとに、一定の規則に従ってチャンネル数変換用トレランスを算出する。例えば、各変換元・変換先チャンネルに±x度の標準トレランスを与える。標準トレランスの値は、全ての変換元・変換先チャンネルについて同一の値であってもよいし、それぞれ異なる値であってもよい。
この時、規格書で規定されるスピーカ配置のトレランスを用いる場合(ステップS104)と同様の考え方から、正中面・横断面上のチャンネルに設けられていたスピーカ配置に関しては、チャンネル数変換用トレランスは0度とし、規格の代表位置のみを再生位置として認める。ここで、±x度の標準トレランスを持つ正中面・横断面以外のチャンネルのトレランスは、正中面・横断面に到達するところでこれを打ち切る。これは、正中面・横断面を超えた位置に再生位置が変更されることによる、前後・左右の変更という方向感の決定的な変化することを防ぐためである。またこれは、正中面・横断面上のチャンネルがトレランスを持たない一方で、正中面・横断面以外のチャンネルが±x度のトレランスを持つことによる、正中面・横断面上のチャンネルと正中面・横断面以外のチャンネルの再生位置の逆転を防ぐためでもある。
図7に、標準トレランスを±30度とした場合のチャンネル数変換用トレランスの一例を示す。方位角90度のチャンネルと110度のチャンネルがあるときに、90度のチャンネルは横断面上にあるためチャンネル数変換用トレランスは0度となり、再生位置は90度のみである。一方、110度のチャンネルは、±30度では80度から140度までとなるが、チャンネル数変換用トレランスが横断面を超えないよう90度でこれを打ち切り、結果としてチャンネル数変換用トレランスは90度<θ≦140度となる。
図2に戻り、ステップS104及びステップS105で決まったトレランスをもとに変換元チャンネルの再生位置を変更する。ただし、同じ層ににあった変換元チャンネルのうち、各変換先チャンネルの再生位置に変更するのは1チャンネルのみとし、残りのチャンネルは仮想音源で表現することとする。これは、同じ層にあった複数の変換元チャンネルの再生位置が同一の変換先チャンネルの再生位置に変更されることで、変換元チャンネル同士の相対位置関係が崩れ、コンテンツの制作者が意図した表現・演出が失われることを防ぐためである。
またこのとき、変更する再生位置に関しては、あらかじめ定められた位置、ユーザによって指定された位置、メタデータによって指定された位置、又は変換元チャンネル及び変換先チャンネルの名称若しくは位置の類似度に基づいた位置などの再生位置指定情報がある場合には、以下のトレランスによる再生位置の変更よりもこれを優先する。再生位置指定情報の例としては、画面横のチャンネルを指定することにより、画面サイズの変化に伴って、変換元チャンネルの再生位置が変更されることなどが考えられる。
まず、変換先チャンネルのトレランス内に、再生位置の定まっていない変換元チャンネルがある場合、この変換元チャンネルの再生位置を変換先チャンネルの再生位置に変更する。
次に、残る変換先チャンネルと、トレランス同士が重なっている、再生位置の定まっていない変換元チャンネルをその変換先チャンネルの再生位置に移動する。すなわち、変換先チャンネルのトレランス内に変換元チャンネルが入っていなくても、変換元チャンネルのトレランスと、変換先チャンネルのトレランスが重なっていればよい。
さらに、残る変換先チャンネルの再生位置に、残った中で最も近傍にある、再生位置の決まっていない変換元チャンネルの再生位置を変更する。ここで再生位置が変更されるのは、変換先チャンネルのトレランス上に、変換元チャンネルも変換元チャンネルのトレランスも重なっていない場合のみである。このステップが終了した時点で、変換先チャンネルの再生位置に一致していない変換元チャンネルは仮想音源で表現するチャンネルと決まる。正中面・横断面以外にある変換元チャンネルを仮想音源で表現すると決まる場合、その変換元チャンネルを挟むように存在する2つの変換先チャンネルの再生位置には、別の変換元チャンネルがそれぞれ再生位置を変更されてきているはずである。これにより、全ての変換元チャンネルの再生位置が決定される(ステップS106)。
なお、トレランスを元に第1の変換元チャンネルの再生位置の候補が複数存在する場合には、別の層上に存在する、方位角を0度から90度ごとに前後左右に4分割した際に同じ分割範囲に属する第2の変換元チャンネルの再生位置に対して、方位角の差が最小である候補を選択するものとする。ただし、変換元チャンネルの再生位置の候補が複数存在し、別の層には判断基準となるチャンネルが存在しない場合には、その変換元チャンネルの代表位置と角度差が小さい位置にある候補を選択するものとする。
次に、変更した変換元チャンネルの再生位置と変換先チャンネルの再生位置に基づいて、変換元チャンネルから再生される変換元マルチチャンネル音響信号の分配係数を規定する(ステップS107)。2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれた変換元チャンネルは、該2個の変換先チャンネルに変換元マルチチャンネル音響信号を分配する。その際の係数を分配係数という。このとき、2個の変換先チャンネルの再生位置と変換元チャンネルの再生位置との位置関係(例えば、角度又は距離比)によって分配係数を規定する方法(位置モード)や、2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネルの数によって分配係数を規定する方法(数モード)などがある。
図8は、位置モードの場合の、分配係数の求め方の一例を説明する図である。位置モードでは、例えば、2個の変換先チャンネルのなす角(2θ0)とその中心から変換元チャンネルのなす角(θ1)によって、変換先チャンネルに配分する係数を算出する。係数の算出方法としては、Tan則や非特許文献3に記載されたVBAPなどの方法があるが、その方法は問わない。例えば、式(3)により分配係数wO1,wO2を決定する。
一方、数モードの場合には、2つの変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネルの数がn個である場合、分母をn+1とし、分子を分配先の変換先チャンネルと逆側の変換先チャンネルから数えた変換元チャンネルの順番kとし、この分数の平方根である√(k/(n+1))を分配係数とする。
図9は、数モードの場合の、チャンネル分配係数の求め方の一例を説明する図である。図9(a)に示すように、2つの変換先チャンネルO1,O2の再生位置に挟まれる変換元チャンネルの数が1個である場合、変換元チャンネルI1は変換先チャンネルO1,O2にそれぞれ√(1/2)=0.707の分配係数で割り振られる。
ここで、変換元チャンネルI1が変換先チャンネルO1,O2のいずれか一方に極端に偏っている場合には、変換元チャンネルI1と偏っていないほうの変換先チャンネルとの間に1個以上のダミーチャンネルを追加することで、2個以上の変換元チャンネルがある場合と同等の係数としてもよい。
図9(b)に示すように、2つの変換先チャンネルO1,O2の再生位置に挟まれる変換元チャンネルの数が2個である場合、変換元チャンネルI3は変換先チャンネルO1,O2にそれぞれ√(2/3)=0.816(−1.76dB)、√(1/3)=0.577(−4.77dB)の係数で割り振られる。なお、変換先チャンネルI2の再生位置と変換元チャンネルO1の再生位置のように両者の位置が一致している場合には、分配係数を1.00とし、再生位置が一致している変換先チャンネルに割り振る。
いずれの場合においても、エネルギーを保存させるため、音響信号の分配係数の自乗和が1となるように係数を規定しているが、この係数に対して、変換先マルチチャンネル音響信号同士の再生位置の角度による総エネルギーの補正係数、変換元マルチチャンネル音響信号と変換先マルチチャンネル音響信号のチャンネル再生位置の層が異なることによる総エネルギーの補正係数、変換元マルチチャンネル音響信号と変換先マルチチャンネル音響信号の再生位置の前後が異なることによる総エネルギーの補正係数、変換元マルチチャンネル音響信号同士の類似性による総エネルギーの補正係数のうち、少なくとも一つを乗じるようにしてもよい。本実施形態における変換元マルチチャンネル音響信号同士の類似性とは、同じ変換先チャンネルCに分配される変換元チャンネルAの音響信号と変換元チャンネルBの音響信号の相関などであり、変換前のAの音響信号とBの音響信号のエネルギーの和と、変換後のCの音響信号に含まれるAの音響信号とBの音響信号のエネルギーが等しくなるように補正係数を乗じることになる。
例えば、変換先のチャンネル同士の再生位置が近い場合など、変換先チャンネルの再生位置によっては、エネルギーを保存しない方が聞いた印象が保持されることがある。そこで、変換元のチャンネルを等分配する場合には−1.5dB(係数0.841)となり、片側に大きく分配する場合には−0.75dB(係数0.917)となるように、補正係数を乗じてもよい。このとき、等分配するときの分配係数は−4.5dB(係数0.595(0.707×0.841))となり、変換先チャンネルO1に大きく割り振る場合はO1、O2それぞれ−2.5dB(係数0.749(0.816×0.917))、−5.5dB(係数0.530(0.577×0.917))となる。この他、上層や下層の変換元チャンネルを中層の変換先チャンネルで再生する場合において、後方の変換元チャンネルを前方の変換先チャンネルで再生するときに、総エネルギーを−1.5dBや−3.0dBとするなどの補正係数を乗じてもよい。また、LFE(低域効果音チャンネル)など相関が高い信号が含まれる可能性が高い複数の変換元チャンネルを同一の変換先チャンネルに統合する場合に、−3.0dB,−4.5dB,−6.0dBなどの補正係数を乗じてもよい。
最後に、図2に示すように、各チャンネル数変換係数がある範囲に含まれる数値であった場合、代表値に置き換える丸め込みを行う(ステップS108)。出力信号生成部14は、このようにして導出されたチャンネル数変換係数からなるチャンネル数変換係数行列を用いて、チャンネル数変換処理を行う。分配係数に、上述した補正係数の乗算や丸め込みを行ったものをチャンネル数変換係数という。
図10に、音響信号の分配係数をデシベル表記したときにきりのよい数字となるように置き換える例を示す。例えば、√(1/2)=√(3/6)=0.707は0.1dB刻みで丸め込むと−3.0dBに相当し、√(1/4)=0.500は−6.0dBに相当する。このように代表値に置き換えることによって、精確な方向再現は失われるが、計算コストが軽くなると共に、変換先チャンネルの再生位置が少々異なっても同じ数値を使うことで汎用性が高くなる。
(実施例1)
次に、図2において、ステップS104を選択し、さらにステップS107において仮想音源で表現する変換元チャンネルの分配係数は2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネル数によって規定した場合(数モード)を実施例1として、実施例1に係る音響処理装置1の動作について説明する。
下記の表1〜5に、規格書で規定されているマルチチャンネル音響方式の一部を示す。実施例では、表1〜5に記載の音響方式を例にとり説明する。以下、「7.1ch(system C)」のように表記したものは、「規格書でSound system Cとして規定されている7.1chの音響方式」を意味する。7.1ch(system C)は中層5chに上層2chが組み合わさった音響方式であるのに対し、7.1ch(system I)は中層7chで上層のない音響方式である。
図11は、実施例1に係る音響処理装置1によるチャンネル数変換係数を導出する手順を示すフローチャートである。ここでは、チャンネル数変換用トレランスを求める際に、規格書で規定されるスピーカ配置のトレランスを用いている(ステップS208とステップS209のうち、ステップS208を選択)。
まず、変換元と変換先のチャンネル数及びスピーカ配置(再生位置)を比較し、伝送されたチャンネル数変換係数があるか否かを判定する(ステップS201)。伝送されたチャンネル数変換係数がある場合には、このチャンネル数変換係数を用いるため、処理を終了する。次に、音響処理装置1の内部に保存されたチャンネル数変換係数があるか否かを判定する(ステップS202)。保存されたチャンネル数変換係数がある場合にも、この処理を終了する。
すなわち、チャンネル数変換係数は、他から事前に得られない場合に算出されるものであり、変換元マルチチャンネル音響信号と合わせて受信したチャンネル数変換係数や、音響処理装置1の内部に記憶されたチャンネル数変換係数がある場合には、それらがチャンネル数の変換に用いられる。
チャンネル数変換係数を導出するには、変換先チャンネルの再生位置を規格書で規定されている仰角方向の複数層に配置して考える。例えば、22.2ch音響では下層、中層、上層の3層とし、7.1ch(system C)や9.1ch(system D)、11.1ch(system J)では中層、上層の2層、7.1ch(system I)では中層のみの1層とする。ここで、11.1ch(system J)などは、聴取者の耳の高さより上にある4つのチャンネルを天井(仰角45以上)に設置することを想定する使用例もあり、上層の仰角(30度)を超えている。しかしこの4チャンネルは仰角方向に+30度から+55度の範囲でトレランスを持ち、また他に聴取者の耳の高さより上にあるチャンネルも持たないため、方位角と同様にトレランスの考え方を用いて、上層(仰角30度)にその再生位置を変更する。このように、規格化されていない方式の変換を考える場合などで、スピーカ配置の仰角方向に関しても再生位置が一致しないチャンネルがあっても、上記トレランスの考え方から、3層に変換することが可能である。なおここでは例として11.1ch(system J)を用いたが、この方式は規格化されているため、本来はトレランスを用いた変換をするまでもなく上層のチャンネルが判明している。
その後、変換先チャンネルの各層を前後左右(横断面、正中面)4つの範囲に分割した範囲に変換先チャンネルの再生位置が存在しない場合には、隣接する層の変換先チャンネルの再生位置を当該層の再生位置と定める(ステップS203)。ただし、頭上(仰角90度)といった1点のみで構成される層に関しては除外する。例えば、7.1ch(system C)では、変換先チャンネルの配置の上層後方にチャンネルがないため、中層の後方チャンネルが上層の再生にも用いられる。また9.1ch音響(system D)、11.1ch(system J)音響は下層を持たないため、変換元チャンネルが下層のチャンネルを持つ場合には、それらのチャンネルの再生には中層を用いる。
頭上(仰角90度)といった1点のみの層に関して、変換先チャンネルに再生位置が存在しない場合には、前後左右4範囲の変換先チャンネルのうち、それぞれ4隅(方位角45度と135度)の基準点となる変換先チャンネルの再生位置各1点を使用する(ステップS204)。例えば、22.2ch音響の頭上(仰角90度)にあるTpCは、変換先である7.1ch(system C)や9.1ch(system D)、11.1ch(system J)音響に再生位置を持たない。よって変換先のそれぞれ4隅(方位角45度と135度)付近にある変換先チャンネルの再生位置を利用することになり、9.1ch(system D)や11.1ch(system J)音響では上層の4チャンネル、7.1ch(system J)では上層の2チャンネル及び中層後方の2チャンネルに分配する。
次に、変換元チャンネルの再生位置を規格書で規定されている仰角方向の複数層上に配置する(ステップS205)。
再生位置の決定方法は、まず、変換元・変換先で同じ位置にチャンネルが存在する場合は、当該変換元チャンネルの再生位置をその位置に定める(ステップS206)。例えば、11.1ch(system J)から7.1ch(system C)、あるいは9.1ch(system D)へ変換する場合、変換先である7.1ch(system C)、9.1ch(system D)では、中層の方位角0度(M+000)及び±30度(M+030、M−030)にあるチャンネルの再生位置がそのままの位置と定まる。
次に、正中面、横断面上にある変換元チャンネル(0度,±90度,180度)の再生位置をそのままの位置に定める(ステップS207)。これは、変換先チャンネルの再生位置が正中面・横断面上にないときもこれを適用する。例えば、11.1ch(system J)から7.1ch(system C)、あるいは9.1ch(system D)へ変換する場合、変換元である11.1ch(system J)は横断面上に方位角±90度のチャンネルを持つが、変換先である7.1ch(system C)、9.1ch(system D)は横断面上にチャンネルを持たない。その場合であっても、±90度(M±090)の変換元チャンネルの再生位置はそのまま±90度(M±090)と定める(ステップS208)。すなわち、この±90度の変換元チャンネルは仮想音源で表現することが決まる。
再生位置が定まっていない変換元チャンネルは、チャンネル数変換のためのトレランスをもとにその再生位置を変更する。実施例1では正中面・横断面上のチャンネルを除き、上記の表1から表5に記載のスピーカ配置のトレランス(表中では「Range」)を用いる。例えば、7.1ch(system I)や11.1ch(system J)では、方位角+90度のLssチャンネルを再生するスピーカ配置のトレランス(Range)は+85度〜+110度になっているが、Cチャンネルのトレランス(Range)が0度のみとなっているのと同様、Lssチャンネルのチャンネル数変換用トレランスは+90度のみとなる。チャンネル数変換用トレランスはこのように、チャンネル数変換係数を算出する一連の流れの中で求めてもよいし、規格書で規定されているスピーカ配置をもとに、事前に求められ記憶されていた値を用いてもよい。
定まったチャンネル数変換用トレランスをもとに、変換元チャンネルの再生位置を変更していく。ここで、再生位置指定情報がある場合には、トレランスを用いた再生位置の変更よりも優先してこれを処理する(ステップS210)。例えば、画面の両端に対応するチャンネルの示す情報を再生位置指定情報とする場合、位置情報とは関係なく、変換元の画面の両端に対応するチャンネルの再生位置をそれぞれ、変換先の画面の両端に対応するチャンネルの再生位置に変更する。これは、22.2ch音響のような大画面の映像と組み合わせることが想定される音響方式を変換元チャンネルとしたときなどに、変換元の画面の端にあたるチャンネルが方位角±60度(M±060)にある、というケースが主に考えられる。
トレランスをもとに変換元チャンネルの再生位置を変更していくにはまず、変換先チャンネルのトレランス内に再生位置の定まっていない変換元チャンネルがある場合、この変換元チャンネルの再生位置を変換先チャンネルの再生位置に変更する(ステップS211)。例えば、11.1ch(system J)から9.1ch(system D)へ変換する場合、変換先である9.1ch(system D)の上層のチャンネルのうち、方位角±30度のチャンネル(Ltf,Rtf/U±030)は30度〜45度に、方位角±110度のチャンネル(Ltr,Rtr/U±110度)は100度から135度にトレランスを持つため、変換元である9.1ch(system D)の上層の方位角±45度のチャンネル(Ltf,Rtf/U±045)と±135度のチャンネル(Ltb,Rtb/U±135)の再生位置をそれぞれ方位角±30度(U±030度、±110度(U±110)の位置に変更する。
次に、残る変換先チャンネルと、チャンネル数変換用トレランス同士が重なっている、再生位置の定まっていない変換元チャンネルをその変換先チャンネルの再生位置に移動する(ステップS212)。例えば、11.1ch(system J)から7.1ch(system C)へ変換する場合、変換先である7.1ch(system C)の中層にある方位角±110度のチャンネル(Ls,Rs/M±110)のトレランス(100度から120度)内には、変換元である11.1ch(system J)のチャンネルは存在しない。しかし、11.1ch(system J)の中層にある方位角±135度のチャンネル(Lrs、Rrs/M±135)は120度から135度のトレランスを持ち、変換元と変換先のトレランス同士には重複がある。よって、変換元である11.1ch(system J)の中層±135度のチャンネル(Lrs,Rrs/M±135)の再生位置を±110度(M±110)の位置に変更する。この時、11.1ch(system J)の中層にある方位角±90度のチャンネル(Lss,Rss/M±090)は、チャンネル数変換用トレランスが0、すなわち再生位置は90度のみとなっているため、再生位置を±110度(M±110)の位置に変更する候補にはなり得ない。
さらに、残る変換先チャンネルの再生位置に、残った中で最も近傍にある、再生位置の定まっていない変換元チャンネルの再生位置を変更する(ステップS213)。ここで再生位置が変更されるのは、変換先チャンネルのトレランス上に、変換元チャンネルも変換元チャンネルのトレランスも重なっていない場合のみである。これが起こり得るのは例えば、22.2ch(system H)から9.1ch(system D)へ変換する場合などで、変換元である22.2ch(system H)の下層±45度のチャンネル(BtFL,BtFR/B±045)は45度から60度のトレランスを持つ一方、変換先である9.1ch(system D)の中層±30度のチャンネル(M±030)はトレランスを持たず再生位置は30度のみである。変換先の9.1ch(system D)は下層を持たないために中層のチャンネルで表現することになるが、この変換元・変換先チャンネルはトレランスが重ならない。しかし、変換元で下層にあったチャンネルの中で、この時点では変換先で中層±30度(M±030)に再生位置を変更しているチャンネルはないため、変換先中層±30度(M±030)のチャンネルから最も近傍にある変換元下層±45度(B±045)のチャンネルの再生位置を±30度(M±030)に変更する。
なお、トレランスをもとに再生位置を変更するにあたり、変換先チャンネルのスピーカ数が多く、前後左右に4分割したうちの一つの範囲に変換先チャンネルが複数存在する場合などには、変換元チャンネルの再生位置の候補が複数存在する可能性がある。その場合には、その変換元チャンネルの代表位置と方位角の差が最小である変換先チャンネルの再生位置に変更してもよい。ただし、変換元チャンネルの再生位置の候補が複数存在し、かつ別の層の同じ方位角にあった変換元チャンネルの再生位置が一意に決まる場合、その別の層上に存在する変換元チャンネルの再生位置と同じ方位角に、再生位置を移動する(ステップS211〜S213)。
このステップが終了した時点で再生位置が定まっていない変換元チャンネルは仮想音源で表現すると決まる。これにより、全ての変換元チャンネルの再生位置が決定される。
各変換元チャンネルの再生位置が定まったところで、仮想音源で表現されると定まった変換元マルチチャンネル音響信号の分配係数を規定する(ステップS214)。実施例では、2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネルの数によって分配係数を規定する方法(数モード)を用いた。この方法は、変換元チャンネルを再生する変換先チャンネルの間に均等に配置し直すことに等しく、これにより各チャンネルの識別性が向上する。また、変換元チャンネルのエネルギーと変換先チャンネルのエネルギーを一致させるよう、音響信号の分配係数の自乗和が1となるように係数を規定している。
本手法で得られた真数値を、デシベル表記した際にきりのよい値となるよう丸め込みを行ってもよい(ステップS214)。例えば、MPEG−4 AACで22.2chの音声信号を伝送する場合は1.5dB刻みの値を用いるため、1/√2は−3dB、1/√3は−4.5dB、√(2/3)は−1.5dBに丸め込む。デシベル表記した際の丸め込みの度合いにより、本手法の計算によって得られた真数値、あるいは例示した丸め込み例の値とは完全には一致しなくなることが考えられるが、例えば±0.05程度の範囲のような、ある程度の数値のズレは本式に規定する関係に含まれるものとする。
下記の表7から表18に、7.1ch(system C)、9.1ch(system D)、7.1ch(system I)、及び11.1ch(system J)の4つの音響方式間でチャンネル数変換係数の例を示す。表6は、その変換係数表が表す変換元と変換先の音響方式の対応表である。
(実施例2)
次に、図11において、チャンネル数変換用トレランスを用いることを選択し(ステップS209)、さらに仮想音源で表現する変換元マルチチャンネル音響信号の分配係数は2個の変換先チャンネルの再生位置に挟まれる変換元チャンネル数によって規定すること選択した場合を実施例2として、実施例2に係る音響処理装置1の動作について説明する。チャンネル数変換用トレランスには、前述の標準トレランスとして一律±30度(ただし、正中面・横断面上のチャンネルを除く。)を用いる。
図12は、ステップS209において、チャンネルス変換用トレランスを求める手順を示すフローチャートである。チャンネル数変換用トレランスを求めるところまでは実施例1と同じなので省略する。チャンネル数変換用トレランスを求めるにはまず、変換元・変換先の正中面・横断面上の各チャンネルのトレランスを0度、すなわちそれぞれ方位角0度、±90度、180度のみを再生位置とすることを規定する(ステップS301)。次に、正中面・横断面以外の各チャンネルに一律で±30度のトレランスを与える(ステップS302)。ただし、与えたトレランスが正中面・横断面を超えないよう、正中面・横断面に到達したところでこれを打ち切る(ステップS303)。例えば、11.1ch(system J)の中層後方の±135度(M±135)のチャンネルのチャンネル数変換用トレランスは、±30度を与えられ、105度≦θ≦165度となるが、9.1ch(system D)のチャンネル数変換用トレランスは横断面で打ち切られ、90度<θ≦140度となる。
求まったトレランスをもとに、実施例1と同様にして変換元チャンネルの再生位置を変更、分配係数を規定していく。±30度のトレランスを与えると、多くの場合は変換先チャンネルのチャンネル数変換用トレランスの内側に変換元チャンネルが来ることになるが、前後左右に4分割したうちの一つの範囲に変換先チャンネルが複数存在する場合などはチャンネル数変換用トレランスが重複する範囲が出てくる可能性がある。このチャンネル数変換用トレランスが重複する範囲に変換元チャンネルが存在するなど、変換元チャンネルの再生位置の候補が複数存在する場合には、その変換元チャンネルの代表位置と方位角の差が最小である変換先チャンネルの再生位置に変更する。ただし、変換元チャンネルの再生位置の候補が複数存在し、かつ別の層の同じ方位角にあった変換元チャンネルの再生位置が一意に決まる場合、その別の層上に存在する変換元チャンネルの再生位置と同じ方位角に、再生位置を移動する。
例えば、9.1ch(system D)の中層後方に、±150度のチャンネルが追加された音響方式に変換することを仮定した場合に、変換先チャンネルの中層後方のチャンネルは、90度<θ≦140度のチャンネル数変換用トレランスを持つチャンネルと、120度≦θ<180度のチャンネル数変換用トレランスを持つチャンネルが存在し、120度≦θ≦140度の範囲でチャンネル数変換用トレランスが重複する。この音響方式に対し、7.1ch(system I)のように変換元チャンネルの中層に方位角±135度(M±135)のチャンネルが存在した場合、より角度差の小さい±150度の変換先チャンネルの位置に再生位置が変更される。ただし、この変換元が11.1ch(system J)であって上層にも方位角±135度(U±135)のチャンネルが存在した場合、上層では±135度(U±135)の変換元チャンネルが±110度(U±110)の変換先チャンネルの再生位置に移動しているため、中層の±135度(M±135)の変換元チャンネルも、より近傍にある±150度の変換先チャンネルではなく、±110度(M±110)の変換先チャンネルの再生位置に移動する。
チャンネル数変換用トレランスを用いた場合も、7.1ch(system C)、9.1ch(system D)、7.1ch(system I)、及び11.1ch(system J)の4つの音響方式間におけるチャンネル数変換係数は、実施例1で算出した表7〜18に一致する。このように、このチャンネル数変換用トレランスの取り方を変えてもチャンネル数変換係数は同じ値になることが多く、特に規格書に記載されている音響方式間の変換係数は同一のものとなる。
このように、現在提案されている多くの音響方式では、トレランスを用いた考え方により一意にその再生位置を変更することができる。しかし、ごく一部の音響方式においては、トレランスを元に変換元チャンネルの再生位置を変更する際に、再生位置を変更する候補が複数存在する場合がある。本発明では、その候補が複数存在する場合であっても、別の層の近傍にあった別の変換元チャンネルの再生位置を参照して、その複数の候補の中から一つの候補を決定し、当該変換元チャンネルの再生位置を一意に定めることができるようになっている。
例えば、ISO/IEC23008に規定されているChannel Configuration 18(以下、「CC18」という。)と呼ばれる13.1chの音響方式は、中層7ch(M±030、M+000、M±110、M±150)、上層6ch(U±030、U+000、U±110、T+000/仰角90度のチャンネル)、低域専用チャンネル1chで構成されている。11.1ch(system J)からこのCC18に変換することを例にとり、再生位置を変更する候補が複数存在する場合の処理例を説明する。
チャンネル数変換用トレランスに前述の一律±30度(ただし、正中面・横断面上のチャンネルを除く。)を用いると、変換先であるCC18は中層後方にM±110(チャンネル数変換用トレランスは90度<θ≦140度)とM±150(チャンネル数変換用トレランスは120度≦θ<180度)の2つのチャンネルを持ち、11.1ch(system J)の中層後方であるM±135のチャンネルはこの両方のチャンネル数変換用トレランス内に入っているため、再生位置を変更する候補が2つ存在することになる。ここで、より代表値がM±135に近い位置にあるのはM±150のチャンネルだが、別の層を参照することで、より適切な再生位置に変更することが可能である。
別の層で変換元チャンネルM±135と最も近傍にある変換元チャンネルはU±135である。この変換先であるCC18は、上層後方にはU±110(チャンネル数変換用トレランスは90度<θ≦140度)しかチャンネルを持たず、変換元チャンネルU±135は変換先チャンネルU±110はそのチャンネル数変換用トレランス内にあるため、その再生位置をU±135からU±110に変換することが一意に定まる。よって、中層の同じ位置にあった変換元チャンネルM±135も、再生位置を変換するのはM±110とM±150の二つの候補のうち、M±110の位置と定まる。このように、再生位置を変更する候補が複数存在するときに別の層を参照することにより、変換元チャンネル同士の相対的な位置関係をより保って変換することができる。各変換元チャンネル単体で再生位置を決定していくと、上記の例では中層がM±150、上層がU±110の位置に再生位置が変更され、もともと上下一列にそろっていた変換元チャンネルM±135、U±135の相対的な位置関係を崩すような変換が行われかねない。
上記の例では複数の変換先チャンネルのトレランスの中に変換元チャンネルが存在していたが、図11に示すように、別の層を参照してより適切な再生位置を決定する方法は、トレランス同士の重複をもととした変換、最寄りの位置にある変換先チャンネルに再生位置を変換する変換などの段階でも同様の考え方をすることができる。すなわち、再生位置を変更する候補が複数存在する場合とは、複数の変換先チャンネルのトレランスが重複する範囲の中に変換元チャンネルが存在する場合、変換先トレランスの中には変換元チャンネルは存在しないものの、変換元チャンネルのトレランスと重複する変換先チャンネルのトレランスが複数存在する場合、又は変換元チャンネルのトレランスと変換先チャンネルのトレランスは重ならないものの、変換元チャンネルの両側に複数の変換先チャンネルが存在し、かつそれらの変換先チャンネルの位置にまだ再生位置を変更した変換元チャンネルが存在しない場合のいずれかとなる。
以上、音響処理装置1について説明したが、音響処理装置1として機能させるためにコンピュータを好適に用いることができ、そのようなコンピュータは、音響処理装置1の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。なお、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録可能である。
また、プログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD−ROMやDVD−ROMなどの記録媒体であってもよい。
本発明のチャンネル数変換係数の導出手法によれば、以下の効果を有する。第1に、任意のチャンネル数、チャンネル配置に対応することができる。すなわち、本導出手法は、変換元チャンネルの再生位置を適切に変更することで、変換元チャンネルの左右前方・左右後方の特徴的なチャンネルの聞こえる方向を規定した上で、仮想音源を用いることによる音色や音像の劣化を抑え、全体としての印象の変化を小さくすることができる。
第2に、変換元フォーマットとの印象(音色)の劣化を抑えることができる。すなわち、正中面・横断面以外の位置に、再生位置が一致する変換元チャンネルを持たない変換先チャンネルがある場合、近傍にある変換先のチャンネルの再生位置に、変換元チャンネルの再生位置を変更することにより、仮想音源の数の増加による全体的な印象の劣化を抑えることができる。
第3に、多くの音響フォーマットにおいて方向感の基準となる、前方左右・後方左右のチャンネルの組み合わせを保つことができる。すなわち、変換元の正中面・横断面上のチャンネルの再生位置を固定し、変換先の正中面・横断面以外の位置に再生位置を変更させないようにすることができる。また、チャンネル数変換用トレランスを正中面・横断面で打ち切ることで、相互との各変換元チャンネルの相対位置を保つことができ、方向感の維持に有利に働く。
第4に、変換元チャンネルにおける上下方向の位置関係を保持することができる。すなわち、変換元チャンネルの複数の変換先チャンネルのトレランスが重複する範囲の中に変換元チャンネルが存在するときなどの再生位置を変更する候補が複数存在する際に、別の層の同じ位置にあった変換元チャンネルの再生位置を参照することで、チャンネル数変換により、別々の層で同じ方位角にあった複数の変換元チャンネルの相対的な位置関係が崩れることを防ぐことができる。
第5に、変換元フォーマットの表現・演出を大きく損なわないでチャンネル数変換を実現することができる。すなわち、同じ高さ(層)にあった変換元チャンネルのうち、各変換先チャンネルの再生位置に変更するのは1チャンネルのみとし、残りのチャンネルは仮想音源で表現することにより、3次元マルチチャンネル音響ならではの表現・演出を大きく損なわないようにすることが可能となる。また、仮想音源で表現する変換元チャンネルを、その再生位置を挟む2つの変換先チャンネルの間に均等に配置しなおすことにより、各変換元チャンネルの方向を識別することが容易となる。
第6に、チャンネル数変換係数に利用しやすい数値を用いることができる。すなわち、本手法によって計算されたチャンネル数変換係数を実際に用いるにあたっては、その簡便さから導かれた分配係数をデシベル表記した際にきりのよい値となるようあらかじめ置き換えることができる。
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。