本発明の一実施形態において、前記第1側面部および前記第2側面部は、それぞれ曲率半径が異なる曲面で形成され、前記凹形状に形成された前記第1側面部および前記第2側面部のうちの一方の曲率半径は、前記凸形状に形成された前記第1側面部および前記第2側面部のうちの他方の曲率半径よりも大きく形成されている。これにより、前記ギヤピースと前記スリーブとが噛み合わされる場合に、前記第2接触角を前記第1接触角よりも確実に小さくすることができる。
また、本発明の一実施形態において、前記第1側面部および前記第2側面部は、それぞれ複数のテーパ角度を有する逆テーパ形状に形成されている。これにより、前記ギヤピースと前記スリーブとが噛み合わされる場合に、前記第2接触角を前記第1接触角よりも確実に小さくすることができる。
また、本発明の一実施形態において、車両用噛合式クラッチは、前記ギヤピースに相対回転可能に支持されたシンクロナイザリングを有するシンクロメッシュ機構を備えている。これにより、前記スリーブは前記シンクロナイザリングを経て前記ギヤピースに噛み合わされて回転同期されるので、前記スリーブと前記ギヤピースとの回転同期をスムーズに行うことができる。
以下、本発明の一実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の車両用動力伝達装置が適用される車両の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた車両用動力伝達装置16とを備えている。車両用動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構としての公知のベルト式無段変速機24(以下、無段変速機24)、同じく入力軸22に連結された前後進切換装置26、前後進切換装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられた伝動機構としてのギヤ機構28を備えている。また、車両用動力伝達装置16は、無段変速機24及びギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された一対の車軸40等を備えている。このように構成された車両用動力伝達装置16において、エンジン12の動力すなわち伝達トルクは、トルクコンバータ20、無段変速機24或いは前後進切換装置26及びギヤ機構28、減速歯車装置34、デフギヤ38、及び車軸40等を順次介して一対の駆動輪14へ伝達される。
車両用動力伝達装置16は、エンジン12と駆動輪14との間に並列に設けられた、無段変速機24及びギヤ機構28を備えている。車両用動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14側すなわち出力軸30へ伝達する第1動力伝達経路と、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14側すなわち出力軸30へ伝達する第2動力伝達経路とを備え、車両10の走行状態に応じてその第1動力伝達経路とその第2動力伝達経路とが切り換えられるように構成されている。そのため、車両用動力伝達装置16は、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する動力伝達経路を、第1動力伝達経路と第2動力伝達経路とで選択的に切り替えるクラッチとして、第1動力伝達経路を断接する第1クラッチとしてのCVT走行用クラッチC2と、第2動力伝達経路を断接する第2クラッチとしての前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とを備えている。CVT走行用クラッチC2、前進用クラッチC1、及び後進用ブレーキB1は、断接装置に相当するものであり、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式摩擦係合装置いわゆる摩擦クラッチである。又、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、前後進切換装置26を構成する要素の1つである。
トルクコンバータ20は、入力軸22回りにその入力軸22に対して同心に設けられており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、たとえば車両用動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給する制御等を実施するための油圧を発生させる機械式油圧ポンプ41が連結されている。機械式油圧ポンプ41は、エンジン12の回転と連動して作動させられる。
前後進切換装置26は、第2動力伝達経路において入力軸22回りにその入力軸22に対して同心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、前進用クラッチC1、及び後進用ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pは、入力要素としてのキャリア26cと、出力要素としてのサンギヤ26sと、反力要素としてのリングギヤ26rとの3つの回転要素を有する差動機構である。キャリア26cは入力軸22に一体的に連結され、リングギヤ26rは後進用ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、サンギヤ26sは入力軸22回りにその入力軸22に対して同心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ42に連結されている。又、キャリア26cとサンギヤ26sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結される。よって、前進用クラッチC1は、前記3つの回転要素のうちの2つの回転要素を選択的に連結するクラッチ機構であり、後進用ブレーキB1は、前記反力要素をハウジング18に選択的に連結するクラッチ機構である。
無段変速機24は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路上に設けられている。無段変速機24は、入力軸22に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ64と、出力軸30と同心の回転軸66に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ68と、その一対のプーリ64,68の間に巻き掛けられた伝動ベルト70とを備え、一対のプーリ64,68と伝動ベルト70との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。無段変速機24では、一対のプーリ64,68のV溝幅が変化して伝動ベルト70の掛かり径いわゆる有効径が変更されることで、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Ni/出力軸回転速度No)が連続的に変化させられる。CVT走行用クラッチC2は、無段変速機24よりも駆動輪14側、すなわちセカンダリプーリ68と出力軸30との間に設けられており、セカンダリプーリ68すなわち回転軸66と出力軸30との間を選択的に断接する。車両用動力伝達装置16では、第1動力伝達経路において、CVT走行用クラッチC2が係合されることで、動力伝達経路が成立させられて、エンジン12の動力が入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30へ伝達される。車両用動力伝達装置16では、CVT走行用クラッチC2が解放されると、第1動力伝達経路はニュートラル状態とされる。
ギヤ機構28は、小径ギヤ42と、小径ギヤと噛み合う大径ギヤ46とを備えている。大径ギヤ46は、一軸線回りに回転可能に設けられた回転軸44すなわちギヤ機構カウンタ軸44に対して、そのギヤ機構カウンタ軸44の一軸線すなわち軸心Cに相対回転不能に設けられている。また、ギヤ機構28は、ギヤ機構カウンタ軸44回りにそのギヤ機構カウンタ軸44に対して同心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ48と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同心に相対回転不能に設けられてそのアイドラギヤ48と噛み合う出力ギヤ50とを備えている。出力ギヤ50は、アイドラギヤ48よりも大径である。従って、ギヤ機構28は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路において、所定のギヤ比(ギヤ段)としての1つのギヤ比(ギヤ段)が形成される伝動機構である。ギヤ機構カウンタ軸44回りには、更に、大径ギヤ46とアイドラギヤ48との間に、これらの間を選択的に断接するシンクロメッシュ機構付車両用噛合式クラッチD1(以下、車両用噛合式クラッチD1という)が設けられている。車両用噛合式クラッチD1は、車両用動力伝達装置16に備えられて、サンギヤ26sから出力軸30までの間の動力伝達経路を断接する噛合式クラッチであり、前進用クラッチC1よりも出力軸30側に設けられた、第2動力伝達経路を断接する第3クラッチとして機能する。
図2は、図1の車両用噛合式クラッチD1の要部を拡大して示す断面図である。図2に示すように、車両用噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸44回りにそのギヤ機構カウンタ軸44に対して同軸心に相対回転不能に設けられたクラッチハブ52を備えている。また、車両用噛合式クラッチD1は、アイドラギヤ48とクラッチハブ52との間に配置されてそのアイドラギヤ48に固設されたギヤピース54と、クラッチハブ52に対してスプライン嵌合されることによりギヤ機構カウンタ軸44の軸心C回りの相対回転不能且つその軸心Cと平行な方向の相対移動可能に設けられた円環状のスリーブ56とを備えている。
車両用噛合式クラッチD1は、クラッチハブ52の外周面に形成された軸心Cに平行な図示しない外周歯と、スリーブ56の内周面の内周歯56sとがスプライン嵌合され、スリーブ56がギヤピース54側へ移動させられることにより、スリーブ56の内周歯56sとギヤピース54の外周歯54sとが噛み合わされている。さらに、車両用噛合式クラッチD1は、クラッチハブ52と常に軸心C回りに一体的に回転させられるスリーブ56がギヤピース54と噛み合わされることにより、アイドラギヤ48とギヤ機構カウンタ軸44とが接続されている。スリーブ56は、図示しないフォークシャフトが図示しないアクチュエータによって作動させられることにより、フォークシャフトに固設されたシフトフォーク60を介してギヤ機構カウンタ軸44の軸心Cと平行な方向に摺動させられる。シフトフォーク60は、たとえば運転者の変速操作に応じて軸心C方向に移動させられる。シフトフォーク60の先端部には、ピークパッド62が外周に設けられており、シフトフォーク60の移動によってスリーブ56の外周面に形成された環状溝72内の側壁面にピークパッド62が当接させられる。
クラッチハブ52の外周部には、キー80を収容するための複数個のキー溝82が、等角度間隔に形成されている。そのため、キー80は、クラッチハブ52とともに軸心Cまわりに一体的に回転させられる一方、軸心C方向への移動は許容されている。また、スリーブ56の内周面には、キー80に形成された径方向外側に突き出す突起84と嵌合する複数個の凹溝86が等角度間隔に形成されている。また、キー80は、キー溝64の底面から軸心C側(径方向内側)に向かって形成されているスプリング収容穴88に収容されているスプリング90によって、スリーブ56側すなわち径方向外側に向かって付勢されている。そのため、スリーブ56の凹溝86がキー80の突起84と係合することで、スリーブ56が軸心C方向に位置決めされる。
ギヤピース54は、円環状に形成されており、その内周部が、ギヤ機構カウンタ軸44の外周面に遊転可能すなわち相対回転可能に嵌め付けられているアイドラギヤ48にスプライン嵌合されている。従って、ギヤピース54は、アイドラギヤ48と一体的に回転させられる。ギヤピース54の外周部であって軸心C方向でクラッチハブ52から遠ざかる側には、内周歯56sと嵌合可能な外周歯54sが形成されている。外周歯54sは、軸心Cと平行に形成され、スリーブ56が軸心C方向でアイドラギヤ48側に移動すると、スリーブ56の内周歯56sとスプライン嵌合可能な寸法とされている。ギヤピース54の軸心C方向でクラッチハブ52側の外周面には、軸心C方向でクラッチハブ52に近づくにつれて外径が小さくなるテーパ状外周面76が形成されている。
車両用噛合式クラッチD1は、スリーブ56とギヤピース54とを噛合させる際に回転を同期させる、同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1を備えている。シンクロメッシュ機構S1を構成するシンクロナイザリング58は、円環状に形成されており、外周部には、スリーブ56の内周歯56sと嵌合可能な外周歯58sが形成されている。外周歯58sは、スリーブ56が軸心C方向でアイドラギヤ48側に移動すると、内周歯56sと嵌合可能な寸法とされている。また、シンクロナイザリング58の内周側には、ギヤピース54のテーパ状外周面76と面接触するテーパ状内周面78が形成されている。テーパ状内周面78は、軸心C方向でクラッチハブ52から遠ざかるほど内径の寸法が大きくなっている。シンクロナイザリング58は、ギヤピース54に相対回転可能に支持されている。シンクロナイザリング58の軸心C方向でクラッチハブ52側の端部には、キー80の軸心C方向の一端を収容するキー溝92が、キー58と同じ数だけ形成されている。キー80は、シンクロナイザリング58に対して所定の回転角だけ周方向の相対回転が許容されるように、キー溝92の周方向の寸法が、キー80の周方向の寸法よりも大きくされている。
また、シンクロナイザリング58は、キー80が軸心C方向のギヤピース54側に移動すると、キー80の軸心C方向の端部がシンクロナイザリング58に当接することで、キー80によって軸心C方向のギヤピース54側に押圧されるようになっている。
上記のように構成される車両用噛合式クラッチD1において、スリーブ56に軸心C方向の操作力が入力され、スリーブ56が軸心C方向でアイドラギヤ48側に移動させられると、スリーブ56とともにキー80が軸心C方向でアイドラギヤ48側に移動する。そして、キー80の軸心C方向の端部がシンクロナイザリング58に当接すると、キー80によってシンクロナイザリング58が軸心C方向のアイドラギヤ48側に押し付けられる。このとき、シンクロナイザリング58のテーパ状内周面78とギヤピース54のテーパ状外周面76とが摩擦係合することで、クラッチハブ52とギヤピース54との回転速度差が徐々に減少する。
スリーブ56がさらに軸心C方向に移動すると、スリーブ56は、キー80の突起84を超えて移動し、スリーブ56の内周歯56sが、シンクロナイザリング58の外周歯58sの間に押し入れられる。回転同期が完了すると、内周歯56sが、ギヤピース54の外周歯54sまで押し入れられ、ギヤ機構カウンタ軸44の回転が、車両用噛合式クラッチD1を介してアイドラギヤ48に伝達される。
図3から図5は、図2のスリーブ56の内周歯56sとギヤピース54の外周歯54sとの噛み合いの挙動を拡大して示す図である。図3は、外周歯54sに形成された一対の第1側面部100と内周歯56sに形成された一対の第2側面部110とが係合開始前にある状態を示す図である。具体的には、スリーブ56がシフトフォーク60によって軸心Cと平行にギヤピース54に向かって移動させられたことにより、内周歯56sがシンクロナイザリング58の外周歯58sに押し入れられて、スリーブ56とシンクロメッシュ機構S1との回転同期が完了した状態を示している。図3の矢印Aは、スリーブ56の噛合方向すなわち内周歯56sの噛合方向を示している。図3の矢印Rは、軸心C方向に位置固定されたギヤピース54の軸心Cの回転に基づく回転方向すなわち軸心Cの回転に基づく外周歯54sの回転方向を示している。図3の状態におけるシフトフォーク60は、スリーブ56に対して図2の一点鎖線示すP1の位置にあり、環状溝72内のギヤピース54側の側壁面にピークパッド62が当接させられている。
図3に示すように、外周歯54sは、歯幅方向のスリーブ56側端部に向かって歯厚が増大する逆テーパ形状に形成された一対の第1側面部100を有している。第1側面部100は、曲率半径R1の曲面で凹形状に形成されている。また、内周歯56sは、歯幅方向のギヤピース54側端部に向かって歯厚が増大する逆テーパ形状に形成された一対の第2側面部110を有している。第2側面部110は、曲率半径R2の曲面で凸形状に形成されている。第1側面部100の曲率半径R1は、第2側面部110の曲率半径R2よりも大きく形成されている。外周歯54sは、第1側面部100のスリーブ56側端縁すなわち歯先側の端縁から外周歯先端部102が尖ったテーパ形状に形成されている。また、内周歯56sは、第2側面部110のギヤピース54側端縁すなわち歯先側の端縁から内周歯先端部112が尖ったテーパ形状に形成されている。
図4は、スリーブ56の内周歯56sとギヤピースの54外周歯54sとの噛合いの挙動を拡大して示す図であり、第1側面部100と第2側面部110とが係合途中にある状態を示している。具体的には、図3の状態から、たとえば外力である伝達トルクによって内周歯56sが外周歯54s側へ押し入るとともに、逆テーパ形状の第1側面部100および第2側面部110の係合に基づき内周歯56sすなわちスリーブ56が矢印A方向へ移動させられた状態を示している。図4の状態におけるシフトフォーク60は、スリーブ56に対して図2の実線で示すP0の位置にあり、環状溝72内の側壁面にピークパッド62は当接していない。図4に示すように、凹形状の第1側面部100および凸形状の第2側面部110はそれぞれ異なる曲率半径で形成されているため、第1側面部100と第2側面部110との第1接触面Haは第1側面部100および第2側面部110のそれぞれ一部の面同士による接触部分により形成されている。図4の角度θaは、第1側面部100と第2側面部110との接触面Haが軸心Cを通る面に対して成す第1接触角を示している。
図5は、スリーブ56の内周歯56sとギヤピース54の外周歯54sとの噛み合いの挙動を拡大して示す図であり、第1側面部100と第2側面部110とが係合を完了した状態を示している。具体的には、図4に示す係合途中にある状態から、たとえば伝達トルクによって内周歯56sが外周歯54s側へさらに押し入るとともに、逆テーパ形状の第1側面部100および第2側面部110の係合に基づき内周歯56sが矢印A方向へさらに移動させられて、必要な噛合い代が確保された状態すなわち内周歯56sと外周歯54sとが十分に噛み合った状態を示している。図5の状態におけるシフトフォーク60は、スリーブ56に対して図2の一点鎖線で示すP2の位置にあり、環状溝72のギヤピース54側の壁面とは反対側の壁面にピークパッド62が当接させられている。図5の角度θbは、第1側面部100と第2側面部110との第2接触面Hbが軸心Cを通る面に対して成す第2接触角を示している。図4および図5に示すように、第1側面部100および第2側面部110は、第1接触角θaが第2接触角θbよりも大きくなるような曲率半径R1、R2によってそれぞれ形成されている。
図4の矢印Faおよび図5の矢印Fbは、第1側面部100と第2側面部110との接触面すなわち第1接触面Haおよび第2接触面Hbにおいて、たとえば伝達トルクなどに応じてスリーブ56の内周歯56sに入力されるスラスト力をそれぞれ示している。スラスト力は、内周歯56sの噛合方向すなわち矢印A方向に入力される。スラスト力の大きさは、前記接触面が軸心Cを通る面に対して成す接触角度の大きさによって異なり、前記接触角度が大きくなるとスラスト力も大きくなる。したがって、図4および図5に示すように、第2接触角θbを成して第1側面部100と第2側面部110とが接触している状態において内周歯56sに入力される第2スラスト力Fbよりも、第1接触角θaを成して第1側面部100と第2側面部110とが接触している状態において内周歯56sに入力される第1スラスト力Faの方が大きくなる。すなわち、第1側面部100と第2側面部110とが係合を完了した状態の第2接触面Hbの位置における第2スラスト力Fbよりも、第1接触部100と第2側面部110とが係合途中にある状態の第1接触面Haの位置における第1スラスト力Faの方が大きくなる。
以上のように構成された車両用噛合式クラッチD1では、逆テーパ形状に形成された第1側面部100と第2側面部110とが係合することにより、外力たとえば伝達トルクなどに応じてスリーブ56の内周歯56sにスラスト力が入力されて、スリーブ56とギヤピース54との噛み合いが外れることが抑制されている。車両用噛合式クラッチD1では、第1スラスト力Faが第2スラスト力Fbよりも大きくなるように第1側面部100および第2側面部110を形成していることにより、過大な外力たとえば過大なトルクに対して、第2スラスト力Fbではスリーブ56とギヤピース54との噛み合いが外れる場合であっても、第1スラスト力Faではスリーブ56とギヤピース54との噛み合いが外れることが抑制される。すなわち、スリーブ56がギヤピース54と十分に噛み合っている噛合い完了状態から、前記過大なトルクが入力されることによってスリーブ56がギヤピース54から離れる方向へ移動させられる場合に、スリーブ56の移動に伴ってスリーブ56に入力される前記過大なトルクに対するスラスト力は増大していくので、スラスト力と前記過大なトルクによるスリーブ56とギヤピース54との噛み合いを外そうとする力とが釣り合う位置でスリーブ56の移動が止まる。したがって、スリーブ56とギヤピース54との噛合い完了状態において、スリーブ56とギヤピース54との噛み合いに不具合が発生しないような通常の想定トルクに対応する第2スラスト力Fbに対して、前記通常の想定トルクよりも大きいトルクたとえば捩れや衝撃などによる前記過大なトルクに対応する第1スラスト力Faが生じる第1接触角θaを成す第1側面部100および第2側面部110を形成することにより、外力によってスリーブ56とギヤピース54との噛み合いが外れることが抑制できる。
このように、本実施例の車両用噛合式クラッチD1によれば、外周歯54sは、歯幅方向のスリーブ56側端部に向かうほど歯厚が増大する逆テーパ形状に形成された一対の第1側面部100を有し、内周歯56sは、歯幅方向のギヤピース54側端部に向かうほど歯厚が増大する逆テーパ形状に形成された一対の第2側面部110を有している。また、第1側面部100および第2側面部110は、相互に係合可能に形成されるとともに、第1側面部100および第2側面部110のうちの一方が凹形状に形成され且つ他方が凸形状に形成されている。さらに、ギヤピース54とスリーブ56とが噛み合わされる場合に、スリーブ56がギヤピース54との噛合い完了の位置まで移動させられた状態において第1側面部100と第2側面部110とのうちの相互に接触した第2接触面Hbが成す軸心Cを通る面に対する第2接触角θbは、スリーブ56がギヤピース54との噛合い途中の位置まで移動させられた状態において第1側面部100と第2側面部110とのうちの相互に接触した第1接触面Haが成す軸心Cを通る面に対する第1接触角θaよりも小さくなるように形成されている。これにより、スリーブ56がギヤピース54に対して噛合い完了の位置まで移動させられた状態、すなわちスリーブ56とギヤピース54との噛合い完了状態においてスリーブ56に入力される第2スラスト力Fbは、スリーブ56がギヤピース54との噛合い途中の位置まで移動させられた状態においてスリーブ56に入力される第1スラスト力Faよりも小さくなる。すなわち、捩れや衝撃などによる過大なトルクがスリーブ56またはギヤピース54に入力された場合に、スリーブ56がギヤピース54との噛合い完了の位置から噛合い途中の位置まで移動させられて、スリーブ56に入力されるスラスト力が増大させられる。そのため、前記過大なトルクによるスリーブ56とギヤピース54との噛み合いを外そうとする力と第1スラスト力Faとが釣り合うことにより、スリーブ56とギヤピース54との噛み合いが外れることを抑制することができるとともに、スリーブ56とギヤピース54との噛合い完了状態における状態におけるスリーブ56に対する比較的大きなスラスト力の入力を抑制し、摩耗によるスリーブ56やピークパッド62などの接触部品の耐久性の低下を抑制することができる。
また、本実施例の車両用噛合式クラッチD1によれば、第1側面部100および第2側面部110は、それぞれ曲率半径が異なる曲面で形成され、凹形状に形成された第1側面部100および第2側面部110のうちの一方の曲率半径は、凸形状に形成された第1側面部100および第2側面部110のうちの他方の曲率半径よりも大きく形成されている。これにより、ギヤピース54とスリーブ56とが噛み合わされる場合に、第2接触角θbを第1接触角θaよりも確実に小さくすることができる。
また、本実施例の車両用噛合式クラッチD1によれば、ギヤピース54に相対回転可能に支持されたシンクロナイザリング58を有するシンクロメッシュ機構S1を備えている。これにより、スリーブ56はシンクロナイザリング58を経てギヤピース54に噛み合わされて回転同期されるので、スリーブ56とギヤピース54との回転同期をスムーズに行うことができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、前述の実施例1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図6から図8は、本実施例の車両用噛合式クラッチD1において、スリーブ56の内周歯202sとギヤピース54の外周歯200sとの噛み合いの挙動を拡大して示す図である。図6は、外周歯200sに形成された一対の第1側面部210と内周歯202sに形成された一対の第2側面部220とが係合開始前にある状態を示す図である。具体的には、スリーブ56がシフトフォーク60によって軸心Cと平行にギヤピース54に向かって移動させられたことにより、内周歯202sがシンクロナイザリング58の外周歯58sに押し入れられて、スリーブ56とシンクロメッシュ機構S1との回転同期が完了した状態を示している。図6の矢印Aは、スリーブ56の軸心C方向すなわち内周歯202sの噛合い方向を示している。図6の矢印R方向は、軸心Cの回転に伴うギヤピース54の回転方向を示している。図6の状態におけるシフトフォーク60は、スリーブ56に対して図2の一点鎖線に示すP1の位置にあり、環状溝72内のギヤピース54側の側壁面にピークパッド62が当接させられる。
図6に示すように、外周歯200sは、歯幅方向のスリーブ56側端部に向かって歯厚が増大する逆テーパ形状に形成された一対の第1側面部210を有している。第1側面部210は、複数のテーパ角を有する段付き形状に形成されている。第1側面部210は、凹形状に形成されて、軸心Cを通る面に対してテーパ角度θdを成す歯元側第1側面部210dと、軸心Cを通る面に対してテーパ角度θeを成す歯先側第1側面部210eとを有している。また、内周歯56sは、歯幅方向にギヤピース54側端部に向かって歯厚が増大する逆テーパ形状に形成された一対の第2側面部220を有している。第2側面部220は、複数のテーパ角を有する段付き形状に形成されている。第2側面部220は、凸形状に形成されて、軸心Cを通る面に対してテーパ角度θeを成す歯元側第2側面部220eと、軸心Cを通る面に対してテーパ角度θdを成す歯先側第2側面部220dとを有している。ここで本実施例では、歯元側第1側面部210dおよび歯先側第2側面部220dは、同じテーパ角度θdを為して形成されているが、必ずしもこれに限らず、歯元側第1側面部210dおよび歯先側第2側面部220dは、異なるテーパ角度を為して形成されていてもよい。また、歯先第1側面部210eおよび歯元側第2側面部220eは、同じテーパ角度θeを為して形成されているが、必ずしもこれに限らず、歯先第1側面部210eおよび歯元側第2側面部220eは、異なるテーパ角度を為して形成されていてもよい。外周歯200sは、第1側面部210のスリーブ56側端縁すなわち歯先側端縁から外周歯先端部212が尖ったテーパ形状となっている。また、内周歯202sは、第2側面部220のギヤピース54側端縁すなわち歯先側端縁から内周歯先端部222が尖ったテーパ形状となっている。
図7は、スリーブ56の内周歯202sとギヤピース54の外周歯200sとの噛み合いの挙動を拡大して示す図であり、第1側面部210と第2側面部220とが係合途中にある状態を示している。具体的には、図6の状態から、たとえば外力である伝達トルクによって内周歯202sが外周歯200s側へ押し入るとともに、逆テーパ形状の第1側面部210および第2側面部220の係合に基づき内周歯202sすなわちスリーブ56が矢印の方向へ移動させられた状態を示している。図7の状態におけるシフトフォーク60は、スリーブ56に対して図2の実線で示すP0の位置にあり、環状溝72内の側壁面にピークパッド62は当接していない。図7に示すように、第1側面部210と第2側面部220との第1接触面Hfは、第1側面部210の歯先側第1側面部210eおよび第2側面部220の歯先側第2側面部220dのそれぞれ一部の面同士による接触部分により形成されている。図7の角度θfは、歯先側第1側面部210eと歯先側第2側面部220dとの第1接触面Hfが軸心Cを通る面に対して成す第1接触角を示している。
図8は、スリーブ56の内周歯202sとギヤピース54の外周歯200sとの噛み合いの挙動を拡大して示す図であり、第1側面部210と第2側面部220とが係合を完了した状態を示している。具体的には、図8に示す係合途中にある状態から、たとえば伝達トルクによって内周歯202sが外周歯200s側へさらに押し入るとともに、逆テーパ形状の第1側面部210および第2側面部220の係合に基づき内周歯202sが矢印A方向へさらに移動させられて、必要な噛合い代が確保された状態すなわち内周歯202sと外周歯200sとが噛み合った状態を示している。図8の状態におけるシフトフォーク60は、スリーブ56に対して図2の一点鎖線で示すP2の位置にあり、環状溝72内のギヤピース54側の側壁面とは反対側の側壁面にピークパッド62が当接させられている。図8に示すように、第1側面部210と第2側面部220との第1接触面Hgは、第1側面部210の歯元側第1側面部210dおよび第2側面部220の歯先側第2側面部220dのそれぞれ一部の面同士による接触部分により形成されている。図8の角度θgは、第1側面部210と第2側面部220との第2接触面Hgが軸心Cを通る面に対して成す第2接触角を示している。図7および図8に示すように、第1側面部210および第2側面部220は、第1接触角θfが第2接触角θgよりも大きくなるような複数のテーパ角度θd、θeを有する段付き形状にそれぞれ形成されている。
図7の矢印Ffおよび図8の矢印Fgは、第1側面部210と第2側面部220との接触面すなわち第1接触面Hfおよび第2接触面Hgにおいて、たとえば伝達トルクなどに応じてスリーブ56の内周歯202sに入力されるスラスト力をそれぞれ示している。スラスト力は、内周歯202sの噛合方向すなわち矢印A方向に入力される。スラスト力の大きさは、前記接触面が軸心Cを通る面に対して成す接触角度の大きさによって異なり、前記接触角度が大きくなるとスラスト力も大きくなる。したがって、図7および図8に示すように、第2接触角θgを為して第1側面部210と第2側面部220と接触している状態において内周歯202sに入力される第2スラスト力Fgよりも、第1接触角θfを為して第1側面部210と第2側面部220と接触している状態において内周歯202sに入力される第1スラスト力Ffの方が大きくなる。すなわち、第1側面部210と第2側面部220とが係合を完了した状態の第2接触面Hgの位置における第2スラスト力Fgよりも、第1接触部210と第2側面部220とが係合途中にある状態の第1接触面Hfの位置における第1スラスト力Ffの方が大きくなる。
このように、本実施例の車両用噛合式クラッチD1によれば、外周歯200sは、歯幅方向のスリーブ56側端部に向かうほど歯厚が増大する逆テーパ形状に形成され、且つ凹形状に形成された一対の第1側面部210を有し、内周歯202sは、歯幅方向のギヤピース54側端部に向かうほど歯厚が増大する逆テーパ形状に形成され、且つ凸形状に形成された一対の第2側面部220を有している。また、第1側面部210および第2側面部220は、複数のテーパ角度θd、θeを有してそれぞれ形成されている。さらに、ギヤピース54とスリーブ56とが噛み合わされる場合に、スリーブ56がギヤピース54との噛合い完了の位置まで移動させられた状態において第1側面部210と第2側面部220とのうちの相互に接触した第2接触面Hgが成す軸心Cを通る面に対する第2接触角θgは、スリーブ56がギヤピース54との噛合い途中の位置まで移動させられた状態において第1側面部210と第2側面部220とのうちの相互に接触した第1接触面Hfが成す軸心Cを通る面に対する第1接触角θfよりも小さくなるように形成されている。これにより、スリーブ56とギヤピース54との噛合い完了状態においてスリーブ56に入力される第2スラスト力Fgは、スリーブ56がギヤピース54との噛合い途中の位置まで移動させられた状態においてスリーブ56に入力される第1スラスト力Ffよりも小さくなる。すなわち、捩れや衝撃などによる過大なトルクがスリーブ56またはギヤピース54に入力された場合に、スリーブ56がギヤピース54との噛合い完了の位置から噛合い途中の位置まで移動させられて、スリーブ56に入力されるスラスト力が増大させられる。そのため、前記過大なトルクによるスリーブ56とギヤピース54との噛み合いを外そうとする力と第1スラスト力Ffとが釣り合うことにより、スリーブ56とギヤピース54との噛み合いが外れることを抑制することができるとともに、スリーブ56とギヤピース54との噛合い完了状態におけるスリーブ56に対する比較的大きなスラスト力の入力を抑制し、摩耗によるスリーブ56やピークパッド62などの接触部品の耐久性の低下を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。