JP2019073775A - ボンドコート層、熱遮蔽被膜被覆部材及びその製造方法 - Google Patents

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和洋 小川
裕士 市川
Yuji Ichikawa
裕士 市川
山崎 裕之
Hiroyuki Yamazaki
裕之 山崎
由貴 菅原
Yuki Sugawara
由貴 菅原
匡 田附
Tadashi Tatsuki
匡 田附
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Abstract

【課題】熱遮蔽被膜により優れた耐剥離特性を付与できるボンドコート層、当該ボンドコート層を用いた熱遮蔽被膜被覆部材及び熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法を提供すること。【解決手段】本発明に係るボンドコート層は、金属基材と前記金属基材を覆うトップコート層との間に形成され、合金と前記合金の酸化物からなる層とを含むことを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、ボンドコート層、当該ボンドコート層を用いた熱遮蔽被膜被覆部材及び熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法に関する。
近年、発電所等のガスタービンのタービン入口温度(TIT:Turbine Inlet gas Temperature)が、燃焼器や静翼及び動翼等の高温部品における冷却技術の進歩や、その材料の改良によって上昇している。しかし、冷却技術やタービン翼の材料開発だけでは、温度上昇への対応に限界があるため、現在では、タービン翼に熱遮蔽被膜(遮熱コーティング;TBC:Thermal Barrier Coating)を施すことが必要不可欠となっている。
熱遮蔽被膜は、熱伝導率の低いセラミックスを耐熱合金基材表面にコーティングすることにより、基材の温度上昇を抑制させる技術である。タービン動翼は、一般に内部を冷却しているため、表面と内部との間に温度勾配が存在する。このため、セラミックスのコーティングを施すことにより熱伝導を抑制し、基材表面温度を低下させることが可能となる。
一般的な熱遮蔽被膜は、Ni基超合金基材上に、MCrAlY合金(Mは、Fe,Ni,Coから選ばれる1種以上の金属元素)からなるボンドコート層(BC:Bond Coat)を厚さ約100μm程度で形成し、そのボンドコート層の上に、イットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria Stabilized Zirconia)からなるトップコート層(TC:Top Coat)を厚さ250〜300μm程度で形成して成っている。
従来、基材上に熱遮蔽被膜を形成するための遮熱コーティングにおいては、各層が所望の膜厚となるように溶射工程が繰り返し行われる。この際、温度が上昇した基材は膨張し、膨張した基材は室温に戻る際に収縮する。基材と熱遮蔽被膜とでは熱膨張係数に差があるため、基材の膨張・収縮が熱遮蔽被膜(特に、基材側に形成されるボンドコート層)に引張応力及び圧縮応力等の内部応力を与えることになり、熱遮蔽被膜に歪みが生じるおそれがある。また、熱遮蔽被膜は、高温環境において高速回転による遠心力や振動及び燃焼ガスによる腐食等を受けることが予想される。さらに、タービンの起動・停止に伴う熱サイクル環境下に曝されることで、繰り返し付与される内部応力により熱遮蔽被膜の歪みが大きくなり、熱遮蔽被膜が経年劣化することも危惧される。
このような熱遮蔽被膜の経年劣化を支配する一つの要因として、高温環境における長時間使用により、トップコート層とボンドコート層との界面に、熱成長酸化物(TGO:Thermally Grown Oxide)が生成し、成長することが挙げられる。
そこで、熱成長酸化物の生成挙動を制御して、熱遮蔽被膜の経年劣化を防止するために、本発明者等らは、CoNiCrAlYから成るボンドコート層に、Ce及びSiを微量(0.5wt.%Ce,1.0wt.%Si)添加したものを開発している(特許文献1参照)。
また、本発明者等は、熱遮蔽被膜の経年劣化をより防止するために、粒子を未溶融のまま高速で基材に衝突させるコールドスプレー(CS:Cold Spray)法を用いて、MCrAl又はMCrAlY(Mは、Fe,Ni,Coから選ばれる1種以上の金属元素)にCeを添加した合金から成るボンドコート層を形成する方法を開発している(例えば特許文献2参照)。このボンドコート層を有する熱遮蔽被膜は、トップコート層とボンドコート層との界面からボンドコート層内に入り組むように形成された熱成長酸化物の楔止効果により、耐剥離特性が向上することが確認されている。
特許第3700766号公報 特開2014−37579号公報
特許文献1及び2に記載の熱遮蔽被膜は、高い耐剥離特性を有しているが、今後のガスタービンや航空機エンジンの熱効率の向上や技術革新を考慮すると、さらに優れた耐剥離特性が要求されるものと考えられる。
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より優れた耐剥離特性を熱遮蔽被膜に付与できるボンドコート層、当該ボンドコート層を用いた熱遮蔽被膜被覆部材及び熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、従来、生成挙動を制御していた熱成長酸化物等の金属酸化物を、層状にしてボンドコート層中に積極的に含ませることで、熱遮蔽被膜に優れた耐剥離特性を付与できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下に示す具体的態様を提供する。
[1]金属基材と前記金属基材を覆うトップコート層との間に形成され、合金と前記合金の酸化物からなる層とを含むことを特徴とするボンドコート層。
[2]前記合金が、MCrAlY(但しMは、Fe,Ni,Coから選ばれる1種以上の金属元素)である[1]に記載のボンドコート層。
[3]前記合金の酸化物が、前記MCrAlYの酸化物である[2]に記載のボンドコート層。
[4]前記合金を構成する粒子の平均粒径が100μm以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載のボンドコート層。
[5]前記合金の酸化物の含有割合が50質量%以上である、請求項1〜4の何れか一項に記載のボンドコート層。
[6]前記合金の酸化物からなる層が前記トップコート層側に形成される、[1]〜[5]の何れか一項に記載のボンドコート層。
[7]前記合金の酸化物からなる層の一部または全部が、前記ボンドコート層の厚さ方向の全域に形成されている、[1]〜[6]の何れか一項に記載のボンドコート層。
[8]前記合金の酸化物からなる層が、前記金属基材の表面に対して一部分のみに形成されている、[1]〜[7]の何れか一項に記載のボンドコート層。
[9]金属基材と前記金属基材を覆うトップコート層との間に形成され、合金と前記合金の酸化物からなる層とを含み、Ce及び/又はCeOを含まないことを特徴とするボンドコート層。
[10]金属基材と、セラミックスからなるトップコート層と、前記金属基材と前記トップコート層との間に形成される[1]〜[9]の何れか一項に記載のボンドコート層とを有する、熱遮蔽被膜被覆部材。
[11]金属基材の表面に酸化物形成温度以上の溶射温度で合金を溶射して、前記合金と前記合金の酸化物からなる層とを含むボンドコート層を形成する工程を含む、熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
[12]前記ボンドコート層が大気圧プラズマ溶射法により形成される、[11]に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
[13]前記ボンドコート層が高速フレーム溶射法により形成される、[11]に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
[14]前記高速フレーム溶射法におけるガス温度が2000〜2900℃である[13]に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
[15]前記高速フレーム溶射法における燃焼室圧力が50〜90psiである[13]又は[14]に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
[16]前記合金を構成する粒子の平均粒径が50μm以下である、[11]〜[15]の何れか一項に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
本発明に係るボンドコート層によれば、熱遮蔽被膜に優れた耐剥離特性を付与できる。また、当該ボンドコート層によれば、熱サイクル環境下において経時的に熱遮蔽被膜の耐剥離特性が向上する。したがって、当該ボンドコート層を用いることで、耐剥離特性に優れる熱遮蔽被膜被覆部材や、当該熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法を提供できる。
図1(a)〜(h)は、高温酸化処理前の各試験片の断面SEM画像である。 図2(a)〜(h)は、高温酸化処理後の各試験片の断面SEM画像である。 図3は、四点曲げ試験の概略図である。 図4(a)〜(f)は、高温酸化処理を施した試験片の裏面圧縮ひずみと累積AEエネルギーとの関係を示すグラフである。 図5(a)〜(h)は、引張応力に対する耐剥離特性評価後の各試験片の断面SEM画像である。 図6は、各試験片の剥離発生時圧縮ひずみ量を示すグラフである。 図7は、引張応力に対する耐剥離特性評価後における各試験片のボンドコート層における縦亀裂密度を示すグラフである。 図8は、各試験片の剥離発生時引張ひずみ量を示すグラフである。 図9(a)〜(d)は、圧縮応力に対する耐剥離特性評価後の各試験片の断面SEM画像である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の数値又は物性値を含むものとして用いることとする。例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものであり、「1以上100以下」を表す。他の数値範囲の表記も同様である。
1.ボンドコート層
本実施形態のボンドコート層は、金属基材の被覆部材であり、金属基材とそれを覆うトップコート層との間に形成される。また、ボンドコート層は合金と合金の酸化物からなる層とを含むことを特徴とする。なお、以下において、「合金の酸化物からなる層」を「合金酸化物層」と記載することがある。
金属基材上にボンドコート層を形成する際には、ボンドコート層が所望の膜厚となるように溶射工程が繰り返し行われる。この際、温度が上昇した金属基材は膨張し、膨張した金属基材は室温に戻る際に収縮する。金属基材とボンドコート層とでは熱膨張係数に差があるため、金属基材の膨張・収縮がボンドコート層に引張応力及び圧縮応力等の内部応力を与えることになり、ボンドコート層に歪みが生じるおそれがある。
本実施形態のボンドコート層は、その層内に合金酸化物層を含む。合金酸化物層は合金と比較して密度が低く、脆質である。そのため、ボンドコート層に内部応力が加わると、脆質な合金酸化物層に沿って、合金酸化物層に由来する亀裂が形成される。この亀裂により金属基材の膨張・圧縮に伴う内部応力が解放され、ボンドコート層の歪みが解消される。その結果、金属基材からの熱遮蔽被膜の剥離又は脱落が防止され、金属基材に対する熱遮蔽被膜の耐剥離特性が向上する。
また、合金酸化物層は、熱サイクル環境下において、熱成長酸化物を生成し成長させる起点となる。つまり、熱サイクル環境下において、経時的に、熱成長酸化物が合金酸化物層からボンドコート層の厚さ方向に楔形に成長する。熱成長酸化物がボンドコート層内において楔形に成長した結果、楔止効果によりボンドコート層内の粒子間結合力が強固になり、ボンドコート層の凝集破壊が防止される。また、楔形に成長する熱成長酸化物に由来してボンドコート層内に亀裂が生じ、この亀裂により、熱サイクル環境下において発生する内部応力が解放される。したがって、熱遮蔽被膜の耐剥離特性が熱サイクル環境下において経時的に向上する。
なお、本発明において「合金の酸化物からなる層」とは、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて長軸径を測定した際に、長軸径の長さが100μm以上のものを意味する。
また、ボンドコート層は合金を含み、この合金は層状であることが好ましい。
ボンドコート層を構成する合金は特に限定されず、例えば、MCrAl又はMCrAlY(Mは、Fe,Ni,Coから選ばれる1種以上の金属元素)であることが好ましく、MCrAlYであることがより好ましい。合金がMCrAlからなる場合には、Crが15〜30wt.%、Alが5〜16wt.%、Mが残部であることが好ましい。また、合金がMCrAlYからなる場合には、Crが15〜30wt.%、Alが5〜16wt.%、Yが0.1〜1wt.%、Mが残部であることが好ましい。
また、ボンドコート層に層状に含まれる、合金の酸化物は特に限定されず、MCrAlの酸化物又はMCrAlYの酸化物であることが好ましく、MCrAlYの酸化物であることがより好ましい。合金の酸化物は、ボンドコート層の断面をSEM−EDS[エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)]による定量分析することで確認できる。例えば、MCrAlYの酸化物の場合、SEM−EDSによる定量分析により、M、Cr、Al、Y及びO元素の存在が確認できれば、ボンドコート層中にMCrAlYの酸化物が形成されていることが分かる。
より具体的には、合金の酸化物は、合金成分の少なくとも1種の酸化物であることが好ましい。合金成分とは、合金を構成する金属元素を意味する。合金がMCrAlやMCrAlYである場合、ボンドコート層中に分散して存在する合金の酸化物の具体例としては、Al、Cr、NiO、CoOやスピネル酸化物(Ni,Co)(Al,Cr)等が挙げられる。なお、ボンドコート層には、合金の酸化物が1種以上含まれてもよい。また、以下において「合金の酸化物」を単に「合金酸化物」と記載することがある。
ボンドコート層内における合金の含有割合は特に限定されないが、ボンドコート層の全質量に対して、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。なお、その下限は特に限定されない。
また、ボンドコート層内における合金酸化物の含有割合は特に限定されないが、ボンドコート層の全質量に対して、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。また、その上限は特に限定されないが、通常100質量%未満、好ましくは99質量%以下である。
また、ボンドコート層内における合金と合金酸化物との質量比(合金酸化物/合金)は、通常1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上である。また、その上限は特に限定されないが、通常100未満であり、好ましくは99以下である。
ボンドコート層内における合金酸化物の含有割合が小さすぎると、ボンドコート層内において合金酸化物が層状に形成されないことがある。また、ボンドコート層内における合金酸化物の含有割合が小さいことは、ボンドコート層が合金により緻密に形成されていることを意味することがある。緻密に形成されたボンドコート層においては、その層内において熱成長酸化物が生成・成長し難く、熱サイクル環境下において熱遮蔽被膜の耐剥離特性の経時的な向上を図ることが困難になることがある。
なお、「ボンドコート層内における合金酸化物の含有割合」は、ボンドコート層の断面SEM画像における単位面積あたりの合金酸化物の総面積から算出できる。
ボンドコート層の密度は特に限定されないが、ボンドコート層の理論密度の90%未満であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることが特に好ましい。ボンドコート層の密度の下限は、通常、ボンドコート層の理論密度の40%以上、好ましくは50%以上である。
ボンドコート層の密度が大きいことは、ボンドコート層が合金により緻密に形成されていることを意味する。緻密に形成されたボンドコート層においては、その層内において熱成長酸化物が生成・成長し難く、熱サイクル環境下において熱遮蔽被膜の耐剥離特性の経時的な向上を図ることが困難になることがある。一方、ボンドコート層の密度が小さすぎると、ボンドコート層と金属基材との密着力及びボンドコート層とトップコート層との密着力が低下することがある。
なお、ボンドコート層の理論密度とは、ボンドコート層の組成から求められる理論値である。
ボンドコート層は、合金及び合金酸化物以外にCe及び/又はCeOを含んでもよい。
ボンドコート層がCe及び/又はCeOを含有すると、熱サイクル環境下において、楔形の熱成長酸化物を効率よく成長させることができる。この場合、Ce及び/又はCeOの含有量は、合金に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
一方、ボンドコート層がCe及び/又はCeOを含有しないと、ボンドコート層の組成がシンプルになり、ボンドコート層の生産性に優れ、コストを低減できる。本実施形態のボンドコート層は合金酸化物層を含むことにより、Ce及び/又はCeOを含まなくても、熱サイクル環境下において楔形の熱成長酸化物を生成・成長させやすい。そのため、Ce及び/又はCeOを含まないボンドコート層を用いる方に利点が多い。なお、「ボンドコート層がCe及び/又はCeOを含有しない」とは、ボンドコート層の全量に対するCe及び/又はCeOの含有量が0質量%であること、又は、ボンドコート層が合金及び合金酸化物のみで構成されていることを意味する。
合金を構成する粒子の平均粒径は特に限定されないが、通常100μm以下、好ましくは90μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。合金を構成する粒子の平均粒径の下限は特に限定されないが、入手が容易であるという観点から、通常5μm以上、好ましくは10μm以上である。なお、以下において、「合金を構成する粒子」を単に「合金粒子」と記載することがある。
後述するボンドコート層の形成方法において説明するように、合金酸化物層は、表面の少なくとも一部に酸化被膜を有する合金粒子により形成される。合金粒子の平均粒径が大きすぎると、合金粒子の体積に対する表面積の割合が小さくなる。その結果、合金粒子の表面に酸化被膜が形成されにくくなり、ボンドコート層における合金酸化物の含有割合が減少し、ボンドコート層内に合金酸化物層を形成することが困難になることがある。また、合金粒子の平均粒径が大きすぎると、金属基材に対する合金の付着効率が低下するため、金属基材に対するボンドコート層の密着力が低下することがある。さらに、合金粒子の平均粒径が大きすぎると、均一な厚みのボンドコート層の形成が困難になることがある。一方、合金粒子の平均粒径が小さすぎると、後述するボンドコート層の形成方法において、適切な溶射条件で合金を溶射することが困難になることがある。その結果、ボンドコート層内に合金酸化物層を形成できないおそれがある。
なお、合金粒子の平均粒径は、SEM観察による100個の粒子からの算術平均値である。また、合金粒子の粒径が数値範囲で表されている場合には、その数値範囲の中央値を合金粒子の平均粒径とする。
ボンドコート層の厚さは特に限定されないが、通常90μm以上であり、通常200μm以下である。
ボンドコート層内における合金酸化物層の分布や、合金酸化物層が形成される位置は特に限定されない。例えば、合金酸化物層は、ボンドコート層の厚さ方向に対してトップコート層側に形成されていてもよいし、金属基材側に形成されていてもよい。合金酸化物層がトップコート層側に形成されると、熱サイクル環境下において、トップコート層を介して供給される酸素によりボンドコート層内における熱成長酸化物の成長が促進され、熱遮蔽被膜の耐剥離特性が向上することがある。
また、合金酸化物層の一部又は全部はボンドコート層の厚さ方向の全域に形成されていてもよい。さらに、合金酸化物層は金属基材の表面に対して部分的に形成されていてもよいし、一部分のみに形成されていてもよい。
ボンドコート層の形成方法は特に限定されないが、例えば、合金粒子を溶射法により金属基材の表面に衝突させて形成する方法が挙げられる。ボンドコート層は、金属基材の表面に合金粒子を堆積し、合金粒子が凝固することで形成されている。合金粒子は溶融した状態で、高速に加速されて金属基材の表面に吹き付けられる。このとき、溶射温度や溶射速度等の溶射条件を制御することや、適切な溶射法を選択することで、合金粒子の表面の少なくとも一部に酸化被膜が形成され、酸化被膜を有する合金粒子と金属基材とが密着して接合される。そして、連続的な溶射により、酸化被膜を有する合金粒子の上に、さらに酸化被膜を有する合金粒子が堆積し、合金酸化物層を含むボンドコート層が形成される。
本実施形態においては、金属基材の表面に酸化物形成温度以上の溶射温度で合金を溶射して、合金と合金酸化物層とを含むボンドコート層を形成することが好ましい。一方、溶射温度の上限は特に限定されない。例えば、合金の溶射温度は、好ましくは600〜1800℃、より好ましくは800〜1500℃である。
「酸化物形成温度」とは、酸化物形成の可能性が生じる温度を意味する。なお、「酸化物形成温度」は絶対的な温度ではなく、時間や雰囲気(例えば、真空度)によって異なることがある。
合金の溶射温度が低すぎると、合金粒子への酸化被膜の形成が困難になることがある。一方、合金の溶射温度が高すぎると、金属基材に対する合金の付着効率が低下し、金属基材に対するボンドコート層の密着力が低下することがある。また、合金の溶射温度が高すぎると、過度に溶融した合金がその表面に酸化被膜を有しないまま金属基材に堆積するため、ボンドコート層が合金により緻密に形成され、合金酸化物層の形成が困難になることがある。さらに、ボンドコート層が合金により緻密に形成されると、ボンドコート層内において熱成長酸化物の生成、成長が困難になり、熱サイクル環境下において熱遮蔽被膜の耐剥離特性が経時的に向上することを期待できない。
なお、本明細書における「溶射温度」とは、合金が溶射により溶融され、溶射粒子となって飛行している状態における温度である。溶射温度は、例えば、市販されているDPV−2000やSpray Watch等により、溶射距離がおよそ30〜500mmの範囲を飛行する溶射粒子の温度を測定することで確認することができる。
また、合金の溶射速度は1000m/秒以下であることが好ましい。溶射速度が大きすぎると、金属基材に対する合金の付着効率が低下し、ボンドコート層の形成が困難になることがある。これは合金への入熱が不十分となり、合金粒子が十分に溶融していないためと推測される。また、合金の溶射速度が大きすぎると、合金粒子の表面に酸化被膜が形成されにくくなり、合金酸化物層の形成が困難になることがある。このような観点から、溶射速度は800m/秒以下がより好ましい。溶射速度の下限は特に限定されないが、合金粒子を金属基材に付着させるためには、通常500m/秒以上、好ましくは700m/秒以上である。
なお、本明細書における「溶射速度」とは、加熱溶融された合金粒子が飛行している状態における速度である。かかる溶射速度は、例えば、上記のDVP−2000やSpray Watch等の市販されている装置により、溶射距離が30〜500mmの距離を飛行する溶射粒子の速度を測定することで確認することができる。また、溶射速度は、例えば、画像解析に基づき非接触で計測する粒子画像速度(PIV:Particle Image Velocimetry)法に基づき測定することもできる。具体的には、PIV法により、シート状のレーザー光を一定の時間間隔で放射し、その中を高速度で飛行する溶射粒子の像をビデオカメラ等の撮像装置で撮影し、溶射距離が30〜500mmの範囲を飛行する溶射粒子群の移動距離をレーザー光の発光間隔で除して算出される溶射粒子の平均的な飛行速度を、溶射速度としてもよい。
以上のような溶射条件は、例えば、一例として、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法等の溶射方法を採用することで、好適に実現することができる。
プラズマ溶射法とは、溶射材(本実施形態においては合金粒子)を軟化または溶融するための溶射熱源としてプラズマ炎を利用する溶射方法である。電極間にアークを発生させ、かかるアークにより作動ガスをプラズマ化すると、かかるプラズマ流はノズルから高温高速のプラズマジェットとなって噴出する。プラズマ溶射法は、このプラズマジェットに溶射材を投入し、加熱、加速して金属基材に堆積させることで溶射被膜を得るコーティング手法一般を包含する。なお、プラズマ溶射法は、大気中で行う大気圧プラズマ溶射(APS:Air Plasma Spraying)や、大気圧よりも低い気圧で溶射を行う減圧プラズマ溶射(LPPS:Low Pressure Plasma Spraying)、大気圧より高い加圧容器内でプラズマ溶射を行う加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等の態様であり得る。プラズマ溶射によると、例えば、一例として、溶射材を5000℃〜10000℃程度のプラズマジェットにより溶融及び加速させることで、溶射粒子を300m/秒〜600m/秒程度の速度にて金属基材へ衝突させて堆積させることができる。
また、高速フレーム溶射法(HVOF:High Velocity Oxy-fuel Frame-spraying)としては、例えば、酸素支燃型高速フレーム溶射法、ウォームスプレー溶射法および空気支燃型高速フレーム溶射法等を考慮することができる。
高速フレーム溶射法とは、燃料と酸素とを混合して高圧で燃焼させた燃焼炎を溶射のための熱源として利用するフレーム溶射法の一種である。燃焼室の圧力を高めることにより、連続した燃焼炎でありながらノズルから高速(超音速であり得る。)の高温ガス流を噴出させる。高速フレーム溶射法は、このガス流中に溶射材を投入し、加熱、加速して金属基材に堆積させることで溶射被膜を得るコーティング手法一般を包含する。高速フレーム溶射法によると、例えば、一例として、溶射材を2000℃〜3000℃の超音速燃焼炎のジェットにより溶融および加速させることで、溶射粒子を500m/秒〜1000m/秒という高速度にて金属基材へ衝突させて堆積させることができる。高速フレーム溶射で使用する燃料は、アセチレン、エチレン、プロパン、プロピレンなどの炭化水素のガス燃料であってもよいし、灯油やエタノールなどの液体燃料であってもよい。また、溶射材の融点が高いほど超音速燃焼炎の温度が高い方が好ましく、この観点では、ガス燃料を用いることが好ましい。
高速フレーム溶射法における燃焼室の圧力(燃焼室圧力)は特に限定されないが、通常50psi以上、好ましくは70psi以上であり、通常100psi以下、好ましくは90psi以下である。また、高速フレーム溶射法におけるガス流の温度(ガス温度)は、通常2000℃以上、好ましくは2100℃以上、より好ましくは2200℃以上であり、通常3000℃以下、好ましくは2900℃以下、より好ましくは2500℃以下である。
高速フレーム溶射法における燃焼室圧力やガス温度により、合金粒子の溶融状態を制御し、合金粒子の表面に形成される酸化被膜の量を調整できる。その結果、ボンドコート層における合金酸化物の含有割合を所定範囲に制御することが容易になる。
また、上記の高速フレーム溶射法を応用した、いわゆるウォームスプレー溶射法と呼ばれている溶射法を採用することもできる。ウォームスプレー溶射法とは、典型的には、上記の高速フレーム溶射法において、燃焼炎に室温程度の温度の窒素等からなる冷却ガスを混合する等して燃焼炎の温度を低下させた状態で溶射することで、溶射被膜を形成する手法である。溶射材は、完全に溶融された状態に限定されず、例えば、一部が溶融された状態であったり、融点以下の軟化状態にあるものを溶射することができる。このウォームスプレー溶射法によると、例えば、一例として、溶射材を1000℃〜2000℃の超音速燃焼炎のジェットにより溶融および加速させることで、溶射粒子を500m/秒〜1000m/秒という高速度にて金属基材へ衝突させて堆積させることができる。
空気支燃型高速フレーム溶射法とは、上記の高速フレーム溶射法において、支燃ガスとしての酸素に代えて空気を用いるようにした溶射法である。空気支燃型高速フレーム溶射法によると、高速フレーム溶射法と比較して溶射温度を低温とすることができる。例えば、一例として、溶射材を1600℃〜2000℃の超音速燃焼炎のジェットにより溶融および加速させることで、溶射粒子を500m/秒〜1000m/秒という高速度にて金属基材へ衝突させて堆積させることができる。
本実施形態においては、溶射温度や溶射速度を制御しやすいという観点から、大気圧プラズマ溶射法や高速フレーム溶射法を採用することが好ましい。
なお、溶射距離は特に限定されないが、例えば、溶射装置のノズル先端から金属基材までの距離が30mm以上となるように設定するのが好ましい。溶射距離が近すぎると、溶射熱源が金属基材に近接するため金属基材が変質したり変形を生じたりするおそれがあるために好ましくない。
また、溶射距離の上限は、通常500mm以下程度とすることが好ましい。かかる距離であると、十分に加熱された溶射粒子が当該温度を保ったまま金属基材に到達し得るため、金属基材に対するボンドコート層の密着力を向上させることができる。
溶射に際しては、金属基材を被溶射面とは反対側の面から冷却することが好ましい。かかる冷却には、水冷の他、適切な冷媒を用いることができる。
2.熱遮蔽被膜被覆部材
本実施形態の熱遮蔽被膜被覆部材は、金属基材と、セラミックスからなるトップコート層と、金属基材とトップコート層との間に形成されるボンドコート層とを有する。熱遮蔽被膜被覆部材のボンドコート層としては、上記のボンドコート層が用いられる。
金属基材は特に限定されないが、例えば、タービン動翼の材料として用いられるNi基超合金からなることが好ましい。
また、トップコート層を構成する材料は特に限定されないが、例えば、金属基材との熱膨張係数が近いこと、及び熱伝導率が低いことから、ZrOを主成分とし、高温における体積膨張に伴う相転移を防ぐため、Yを添加したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が好ましい。この場合、特に熱サイクル特性に優れている。
また、熱遮蔽被膜被覆部材は、金属基材とボンドコート層との間又はボンドコート層とトップコート層との間に任意の層を含んでもよい。また、ボンドコート層やトップコート層を複層にしてもよい。
熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法は、合金酸化物層を含むボンドコート層を形成する工程を含めば特に限定されない。合金酸化物層を含むボンドコート層の形成方法は上述した通りである。ボンドコート層上にトップコート層を形成する場合には、トップコート層を大気圧プラズマ溶射(APS)や電子ビーム物理蒸着法(EB-PVD:Electron Beam-Physical Vapor Deposition)等の従来公知の方法により、厚さ250〜300μm程度で形成することが好ましい。
熱遮蔽被膜被覆部材の具体例としては、産業用ガスタービン翼の他、ジェットエンジン翼、ボイラ伝熱管等の高温装置部材が挙げられる。
以下、本実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
(1)試験片の作製
合金粒子の平均粒径、及び、合金の溶射条件を変化させたボンドコート層を計8種類作製し、試験片1〜8を得た。
具体的には、金属基材として74mm×74mm×4mmのNi基超合金(Inconel601)を使用した。ボンドコート層を構成する合金としてCoNiCrAlY(Sulzermetco社製、AMDRY9951)を使用した。また、トップコート層を構成する材料として8wt.%イットリア安定化ジルコニア(Sulzermetco社製、METCO204NS)を使用した。
金属基材上に、表1〜表3に記載の溶射方法、溶射条件及び平均粒径の合金粒子にて、厚さ100μmのボンドコート層を形成した。さらに、ボンドコート層上に、表4に記載の条件の大気圧プラズマ溶射により厚さ300μmのトップコート層を形成し、金属基材上に熱遮蔽被膜が形成された試験片1〜8を得た。
試験片1〜8を、半分に切断した後、樹脂埋めを行った。樹脂埋め後、断面を研磨し、鏡面仕上げした。その後、20〜30分間、エタノール中で超音波洗浄を行い、十分に脱脂を行った。洗浄後、イオンスパッタ装置(日本電子株式会社製:JEOL JFC−1100E)を用いて、観察表面(断面)にPt蒸着を施した。Pt蒸着後の各試験片について、断面SEM観察を実施した。SEM観察には、走査型電子顕微鏡(日立製:SU−70)を用いた。
試験片1〜8の断面SEM画像を図1に示す。なお、試験片1〜8は、順に図1(a)〜(h)に対応している。また、断面SEM画像中の試験片1〜8は、上からトップコート層(TC)、ボンドコート層(BC)及び金属基材の順に積層された構成である(図1(a)参照)。
図1(a)〜(d)から、ボンドコート層に合金酸化物層(断面SEM画像中の濃色部分)が形成されていることが分かる。なお、図1(a)〜(d)では、長軸径が100μm以上の合金酸化物層が形成されていることが確認できた。一方、図1(e)〜(h)では、ボンドコート層に合金酸化物層が形成されていることは確認できなかった。
また、合金や合金酸化物の組成は、上記断面におけるSEM−EDS[エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)]による定量分析によって判別した。試験片1〜4に関し、Co、Ni、Cr、Al、Y及びO元素の存在を確認できた。特に、ボンドコート層には、Alの酸化物が多く含まれていることが分かる。
以下の表5に、上記結果と共に、図1に示すボンドコート層内における合金酸化物の含有割合を示す。
試験片1と試験片2との対比、又は、試験片3〜5の対比により、合金粒子の平均粒径を変えると、ボンドコート層における合金酸化物の含有割合を制御できることが確認できた。特に、試験片3,4と試験片5との対比により、高速フレーム溶射法を採用する場合には、合金粒子の平均粒径が大きすぎるとボンドコート層における合金酸化物の含有割合が減少し、合金酸化物層を形成できないことが分かる。
また、試験片3と試験片6との対比、又は、試験片4と試験片7との対比により、高速フレーム溶射法において溶射条件を変えることで、ボンドコート層における合金酸化物の含有割合を制御できることが確認できた。
さらに、試験片2と試験片5との対比により、同じ平均粒径の合金粒子を用いても、溶射方法を変えることで、合金酸化物の含有割合や合金酸化物層の有無を制御できることが分かる。
また、高温条件下、異なる平均粒径の合金粒子を用いた試験片6〜8を対比すると、試験片6では均一な厚みのボンドコート層を形成できるが、試験片7,8では均一な厚みのボンドコート層を形成できないことが分かる(図1(f)〜(h)参照)。これは、高温条件下において合金粒子の平均粒径が大きすぎると、金属基材に対する合金粒子の付着効率が低下するためと推測される。
(2)ボンドコート層の高温酸化挙動評価
試験片1〜8に対して、高温電気炉(ヤマト科学社製:FP100)を用いて、大気圧下で高温酸化処理を行った。温度設定を、楔形の熱成長酸化物の生成・成長が確認されている1000℃とし、酸化時間を100時間とした。高温酸化処理後、炉冷で室温まで温度を低下させ、試験片1〜8を取り出した。
高温酸化処理を行った各試験片を、半分に切断した後、樹脂埋めを行った。樹脂埋め後、断面を研磨し、鏡面仕上げした。その後、20〜30分間、エタノール中で超音波洗浄を行い、十分に脱脂を行った。洗浄後、イオンスパッタ装置(日本電子株式会社製:JEOL JFC−1100E)を用いて、観察表面(断面)にPt蒸着を施した。Pt蒸着後の各試験片について、断面SEM観察を実施した。
高温酸化処理後の各試験片の断面SEM画像を図2に示す。なお、試験片1〜8は、順に図2(a)〜(h)に対応している。また、断面SEM画像中の試験片1〜8は、上からトップコート層、ボンドコート層及び金属基材の順に積層された構成である(図1(a)と同様)。
ボンドコート層内に合金酸化物層が形成されていた試験片1〜4では、高温酸化処理後に、合金酸化物層を起点に楔形の熱成長酸化物が生成・成長している。また、試験片1〜4では、トップコート層とボンドコート層との界面にも熱成長酸化物が生成していることが分かる。
一方、試験片5〜8では、ボンドコート層内における熱成長酸化物の生成・成長は認められなかったが、トップコート層とボンドコート層との界面に熱成長酸化物が生成していることが確認された。これは、試験片5〜8のボンドコート層が緻密に形成されており、ボンドコート層内において熱成長酸化物が生成する空隙がないためと推測できる。また、試験片8(図2(h))では、ボンドコート層と基材との界面にも熱成長酸化物が生成していることが分かる。これは、平均粒径の大きい合金を高温条件で溶射すると、合金への入熱が不十分となり、合金粒子が十分に溶融せず、ボンドコート層と基材との密着性が低下したためと推測される。ボンドコート層と基材との間の密着力が低いと、界面において熱成長酸化物が生成しやすい傾向がある。
(3)引張応力に対する耐剥離特性評価
試験片1〜8に対し、静的四点曲げ試験により、引張応力に対する耐剥離特性評価を行った。
具体的には、試験片1〜8を機械加工装置(Struers製:ACCutom-50)で、50mm×5mm×3.4mmに切断した後、高温電気炉(ヤマト科学社製:FP100)を用いて、大気圧下で高温酸化処理を行った。高温酸化処理では、温度設定を1000℃とし、酸化時間を100時間及び500時間とした。高温酸化処理後、炉冷で室温まで温度を低下させ、試験片1〜8を取り出し、四点曲げ試験を行った。
四点曲げ試験の概略図を図3に示す。四点曲げ試験には、材料疲労試験機(MTS製:810 Material Test System)を用いた。図3に示すように、試験片(Specimen)の表面側及び裏面側の治具の支点間距離をそれぞれ34mm、15mmとし、試験片の表面に引張応力が作用するように設置した。試験片裏面に、ひずみゲージ(Strain gauge,共和電業製:KFG-2N-120-C1-11L1M2R)を貼付し、試験片の表面側の一方の治具(Jig)の側面にアコースティックエミッション(AE:Acoustic Emission)センサを取り付けた。AEの測定には、AEワークステーション(PHYSICAL ACOUSTIC製:DiSP AE Workstation)を用いた。
試験では、試験片の裏面側の2つの支点(クロスヘッド)の変位速度を一定の0.005mm/secとし、剥離が確認されるまで荷重を負荷した。荷重を負荷している間、ひずみゲージ及びAEセンサにより、試験片裏面の圧縮ひずみ及びAE信号を計測した。なお、熱遮蔽被膜の剥離が発生した場合、AEカウント数を逐次累積した累積AEエネルギー(カウント数)が急上昇するため、その急上昇点を剥離発生点と定義し、そのときの試験片裏面の圧縮ひずみ量を比較することにより、熱遮蔽被膜の耐剥離特性について評価することができる。
図4に、高温酸化処理(1000℃、100時間)を施した試験片1〜8の裏面圧縮ひずみ(Compressive Strain)と累積AEエネルギー(Cumulative AE Energy)との関係を示す。図4中、N=1は1回目の試験、N=2は2回目の試験を意味する。
また、図5に、引張応力に対する耐剥離特性評価後の試験片1〜8の断面SEM画像を示す。
さらに、図6に、高温酸化処理前(as:As-sprayed)、1000℃にて100時間の高温酸化処理(100h)を施した後、及び1000℃にて500時間の高温酸化処理(500h)を施した後の試験片1〜6の剥離発生時圧縮ひずみ量[%]を示す。図6中、高温酸化処理後の試験片1〜4における剥離発生時圧縮ひずみ量を示すグラフに付された上向きの矢印は、熱遮蔽被膜の剥離が発生せず、圧縮ひずみ量が測定できなかったことを意味する。
図4(a)、(b)において試験片1,2はいずれも累積AEエネルギーの急上昇点がないことが分かる。また、四点曲げ試験後の断面SEM観察においても熱遮蔽被膜の剥離は確認されなかった(図5(a)、(b))。図4(a)、(b)において、裏面圧縮ひずみに比例する累積AEエネルギーの上昇は、熱遮蔽被膜の厚さ方向の亀裂(縦割れ)の生成によるものと考えられる。図5(a)、(b)を見ると、熱遮蔽被膜に縦割れが生成していることが分かる。この縦割れにより内部応力が緩和され、熱遮蔽被膜の剥離が発生しなかったと考えられる。
図4(c)、(d)において、試験片3では、累積AEエネルギーの急上昇点が見られず、熱遮蔽被膜の剥離は発生していないことが分かる。また、図5(c)の断面SEM観察においても熱遮蔽被膜の剥離は観察されなかった。これは、試験片1,2と同様にボンドコート層内に形成された合金酸化物層により、厚さ方向の亀裂(縦割れ)が誘発され、熱遮蔽被膜に縦割れが生成した結果、内部応力が緩和されたためと考えられる。
一方、試験片4(N=2)と試験片5(N=1,2)では、累積AEエネルギーの急上昇が見られた(図4(c)、(d)参照)。また、引張応力に対する耐剥離特性評価後における試験片5の断面SEM観察においては、熱遮蔽被膜の部分的な剥離が見られた(図5(e)参照)。
ここで、図7に試験片1〜6の縦亀裂密度[本/cm]を示す。縦亀裂密度とは、引張応力に対する耐剥離特性評価後における試験片1〜6の断面SEM観察において、縦割れ(縦亀裂)がトップコート層からボンドコート層まで貫いている箇所の数を試験片の長さで除したものを意味する。なお、1000℃にて高温酸化処理を500時間施した試験片に対する縦亀裂密度の計測は、ボンドコート層における合金酸化物層の有無が明らかに異なる試験片1〜3,6に対して行った。
図7において、試験片4,5は、縦亀裂密度が試験片3よりも小さいことが分かる。試験片4ではボンドコート層内に合金酸化物層が形成されているものの、合金酸化物の含有割合が少ないため、熱成長酸化物の生成・成長が試験片3よりも劣るためと考えられる。また、試験片5ではボンドコート層内に合金酸化物層が形成されていないため、縦亀裂が誘発されにくかったと考えられる。
したがって、試験片4では内部応力が十分に緩和されず、熱遮蔽被膜が剥離する可能性がある。また、試験片5は内部応力の緩和性能が低いため、熱遮蔽被膜が剥離する可能性が高い。
また、図4(f)において試験片6では累積AEエネルギーの急上昇が見られるため、熱遮蔽被膜の剥離が発生したことが分かる。これは、試験片6が試験片3より縦亀裂密度が小さく、内部応力が十分に緩和されなかったことが理由と考えられる(図7参照)。
さらに、試験片7,8では、熱遮蔽被膜の剥離が見られた(図4(e)、(f)、図5(g)、(h)参照)。これは、ボンドコート層中に合金酸化物層が形成されなかったため、内部応力を解放できなかったことが理由と考えられる。
また、高温酸化処理時間を500時間に増加させた場合も、高温酸化処理時間が100時間の場合と同様の傾向を示し、耐剥離特性の低下は確認されなかった。これは、図7に示す通りボンドコート層における縦亀裂密度が大きく変化しなかったためと考えられる。一方、図6に示すように、高温酸化処理を行っていない試験片はいずれも低い耐剥離特性を示した。これは、トップコート層の焼結が発生していないため、トップコート層内の粒子間結合力が十分でなかったためと考えられる。
(4)圧縮応力に対する耐剥離特性評価
圧縮応力に対する耐剥離特性評価により、各試験片の剥離発生時引張ひずみ量を測定した。図8に、高温酸化処理前(as:As-sprayed)、1000℃にて100時間の高温酸化処理(100h)を施した後、及び1000℃にて500時間の高温酸化処理(500h)を施した後の試験片1〜6の剥離発生時引張ひずみ量[%]を示す。なお、1000℃にて高温酸化処理を100時間施した試験片に対する本評価は、ボンドコート層における合金酸化物層の有無が明らかに異なる試験片1〜3,6に対して行った。
剥離発生時引張ひずみ量は、引張応力に対する耐剥離特性評価と同様にして測定した。具体的には、試験片1〜6を機械加工装置(Struers製:ACCutom-50)で、50mm×5mm×3.4mmに切断した後、高温電気炉(ヤマト科学社製:FP100)を用いて、大気圧下で高温酸化処理を行った。高温酸化処理では、温度設定を1000℃とし、酸化時間を100時間及び500時間とした。高温酸化処理後、炉冷で室温まで温度を低下させ、試験片1〜6を取り出し、四点曲げ試験を行った。
四点曲げ試験には、材料疲労試験機(MTS製:810 Material Test System)を用いた。試験片の表面側及び裏面側の治具の支点間距離をそれぞれ34mm、15mmとし、試験片の表面に圧縮応力が作用するように設置した。試験片裏面に、ひずみゲージ(共和電業製:KFG-2N-120-C1-11L1M2R)を貼付し、試験片の表面側の一方の治具の側面にアコースティックエミッション(AE:Acoustic Emission)センサを取り付けた。試験では、試験片の裏面側の2つの支点(クロスヘッド)の変位速度を一定の0.005mm/secとし、剥離が確認されるまで荷重を負荷した。荷重を負荷している間、ひずみゲージ及びAEセンサにより、試験片裏面の引張ひずみ及びAE信号を計測した。なお、熱遮蔽被膜の剥離が発生した場合、AEカウント数を逐次累積した累積AEエネルギー(カウント数)が急上昇するため、その急上昇点を剥離発生点と定義し、そのときの試験片裏面の引張ひずみ量を比較することにより、熱遮蔽被膜の耐剥離特性について評価することができる。
上記評価において、剥離発生時引張ひずみ量はボンドコート層中における合金酸化物層の有無に関わらずほぼ一定であった。また、高温酸化処理時間が増加すると、熱遮蔽被膜の耐剥離特性が向上する傾向が見られた。
図9に、1000℃にて高温酸化処理を100時間施した試験片1〜3,6について、圧縮応力に対する耐剥離特性評価後の断面SEM観察結果を示す。熱遮蔽被膜の剥離はトップコート層の内部で発生していることから、圧縮応力に対する熱遮蔽被膜の耐剥離特性は、ボンドコート層中の合金酸化物層の有無に影響を受けないと考えられる。高温酸化処理時間が増加すると耐剥離特性が向上したのは、トップコート層の機械的特性が影響していると考えられる。
以上より、ボンドコート層を形成する際の溶射方法、溶射条件又はボンドコート層を構成する合金粒子の平均粒径を制御することで、ボンドコート層内に合金酸化物層を形成できることが示された。そして、ボンドコート層内の合金酸化物層により、熱遮蔽被膜の耐剥離特性が向上することが示された。また、ボンドコート層内に合金酸化物層を含ませることで、圧縮応力に対する熱遮蔽被膜の耐剥離特性が低下することが懸念されたが、合金酸化物層の有無は圧縮応力に対する熱遮蔽被膜の耐剥離特性に影響を及ぼさないことが確認された。
したがって、合金酸化物層を含むボンドコート層を用いることで、優れた耐剥離特性を有する熱遮蔽被膜が開発できることが示された。

Claims (16)

  1. 金属基材と前記金属基材を覆うトップコート層との間に形成され、合金と前記合金の酸化物からなる層とを含むことを特徴とするボンドコート層。
  2. 前記合金が、MCrAlY(但しMは、Fe,Ni,Coから選ばれる1種以上の金属元素)である請求項1に記載のボンドコート層。
  3. 前記合金の酸化物が、前記MCrAlYの酸化物である請求項2に記載のボンドコート層。
  4. 前記合金を構成する粒子の平均粒径が100μm以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載のボンドコート層。
  5. 前記合金の酸化物の含有割合が50質量%以上である、請求項1〜4の何れか一項に記載のボンドコート層。
  6. 前記合金の酸化物からなる層が前記トップコート層側に形成される、請求項1〜5の何れか一項に記載のボンドコート層。
  7. 前記合金の酸化物からなる層の一部または全部が、前記ボンドコート層の厚さ方向の全域に形成されている、請求項1〜6の何れか一項に記載のボンドコート層。
  8. 前記合金の酸化物からなる層が、前記金属基材の表面に対して一部分のみに形成されている、請求項1〜7の何れか一項に記載のボンドコート層。
  9. 金属基材と前記金属基材を覆うトップコート層との間に形成され、合金と前記合金の酸化物からなる層とを含み、Ce及び/又はCeOを含まないことを特徴とするボンドコート層。
  10. 金属基材と、セラミックスからなるトップコート層と、前記金属基材と前記トップコート層との間に形成される請求項1〜9の何れか一項に記載のボンドコート層とを有する、熱遮蔽被膜被覆部材。
  11. 金属基材の表面に酸化物形成温度以上の溶射温度で合金を溶射して、前記合金と前記合金の酸化物からなる層とを含むボンドコート層を形成する工程を含む、熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
  12. 前記ボンドコート層が大気圧プラズマ溶射法により形成される、請求項11に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
  13. 前記ボンドコート層が高速フレーム溶射法により形成される、請求項11に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
  14. 前記高速フレーム溶射法におけるガス温度が2000〜2900℃である請求項13に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
  15. 前記高速フレーム溶射法における燃焼室圧力が50〜90psiである請求項13又は14に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
  16. 前記合金を構成する粒子の平均粒径が50μm以下である、請求項11〜15の何れか一項に記載の熱遮蔽被膜被覆部材の製造方法。
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