以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ここで、実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。また、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本発明に直接関係のない要素については、図示を省略する。さらに、以下の各図では、鉛直方向にZ軸を取り、Z軸に垂直な水平面内において、X軸、及び、X軸に垂直なY軸を取る。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、金属材料で形成される金属部材と、繊維強化樹脂複合材料(FRP)で形成される複合材料部材とを、熱硬化性接着剤を用いた接着により接合する。この接合方法により接合された金属部材と複合材料部材との接合体は、例えば、船舶上部工、橋梁、運搬機、産業機械等の構造物に用いられる柱構造体や桁構造体として採用され得る。このような構造体は、一部にFRPを含むことから、すべて金属製であるものに比べて例えば軽量化の点で有利である。
図1は、本実施形態に係る金属樹脂接合方法による接合対象である金属部材10及び複合材料部材20と、レーザ加熱装置40の構成とを示す斜視図である。なお、金属部材10及び複合材料部材20は、一例として、それぞれX方向を長手方向とする平板部材であるものとする。そして、金属部材10と複合材料部材20とは、互いの主平面の一部同士で接合されるものとする。すなわち、金属部材10と複合材料部材20との接合体は、いわゆる重ね継手となる。
金属部材10は、炭素鋼やステンレス鋼等の鋼材で形成される。金属部材10は、一般的な鋼材の機械加工で形成することができる。ただし、金属部材10を形成する材料は、鋼材(鉄系合金)に限られず、アルミニウム材料(アルミニウム合金等)、チタン材料(チタン合金等)、ニッケル材料(ニッケル合金等)等の金属材料であってもよい。
複合材料部材20は、強化繊維とマトリックス樹脂とを含む繊維強化樹脂複合材料で形成される。強化繊維には、例えば、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維、ガラス繊維等を用い得る。マトリックス樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用い得る。複合材料部材20は、一般的な繊維強化樹脂複合材料の成形方法で成形し得る。この成形方法としては、例えば、プリプレグを積層した後にオートクレーブ等で樹脂硬化して成形する方法が適用可能である。又は、織物で形成したプリフォームを金型に入れ、このプリフォームに樹脂含浸して硬化するRTM(Resin Transfer Molding)法等も適用可能である。
熱硬化性接着剤30は、例えば、エポキシ樹脂等の合成樹脂からなる接着剤であり、加熱しなければ架橋しない性質を有する。また、熱硬化性接着剤30には、加熱により架橋が促進されるものの、常温養生によっても架橋する性質を有するものも含まれる。
レーザ加熱装置40は、金属部材10の少なくとも一部と、複合材料部材20の少なくとも一部とが熱硬化性接着剤30を挟んで重ね合わされているとき、接合部50上にある金属部材10の表面10a上に、レーザ光41を照射する。レーザ光41の照射により金属部材10が加熱されると、金属部材10での伝熱により、熱硬化性接着剤30が加熱される。
レーザ加熱装置40は、例えば、レーザ光41を発振するレーザ発振器42と、集光光学系43が内蔵されたレーザトーチ44と、レーザ発振器42から発振されたレーザ光41をレーザトーチ44へ導く光ファイバ45とを含む。レーザ光41の種類は、熱硬化性接着剤30が硬化する程度に熱硬化性接着剤30を加熱し得る、すなわち金属部材10の表面10a上を加熱し得るものであれば、特に限定するものではない。例えば、レーザ光41として、波長880nmの半導体レーザを採用し得る。なお、図1では、レーザ光41が、照射領域46上に焦点が一致する、いわゆるジャストフォーカスビームであるものとしている。これに対して、レーザ光41は、照射領域46上に焦点が一致しない、いわゆるデフォーカスビームであってもよい。
また、レーザ加熱装置40は、レーザ光41の照射領域46を、金属部材10の表面10a上のあらゆる領域に設定することができる。このとき、レーザ加熱装置40は、レーザトーチ44を金属部材10の表面10aに対して平行移動させることで照射領域46を変更させてもよいし、レーザトーチ44の向く方向を変化させることで照射領域46を変更させてもよい。
次に、熱硬化性接着剤30の塗布位置について説明する。図2は、熱硬化性接着剤30の塗布位置を説明するための複合図である。
図2中の中段図は、金属部材10と複合材料部材20とが熱硬化性接着剤30を用いた貼り付けにより接合されている接合部50を示す側面図である。中段図では、熱硬化性接着剤30は、金属部材10と複合材料部材20とが互いに対向する領域全体に行き渡り、すでに硬化が完了している。ここで、図中、白抜きの矢印で示すように、金属部材10と複合材料部材20とについて、接合面と平行な方向に引張の荷重をかけたと想定する。
図2中の上段図は、上記のように引張荷重をかけたときに発生し得る、引張方向についての接合面における引張せん断応力の分布を示すグラフである。上段図の横軸は、引張方向に沿い、接合部50の金属部材10の端部を基準とした距離Lである。この場合、距離L0の位置が、接合部50における金属部材10側の端部に相当し、距離L4の位置が、接合部50における複合材料部材20側の端部に相当する。一方、上段図の縦軸は、せん断応力Sである。引張方向についてのせん断応力Sの分布は、金属部材10側の端部と複合材料部材20側の端部との中間位置である距離L2の位置を頂点とし、それぞれの端部を最大点とする曲線状となる。
ここで、以下で例示するような、接合部50内の特定の部位にだけ熱硬化性接着剤30を塗布することで、金属部材10と複合材料部材20とを仮付け接着して位置決めしようとする場合について考える。せん断応力Sは、その値が大きいほど、金属部材10と複合材料部材20とが接合されている状態から位置ずれを引き起こさせる要因となり得る。そのため、位置ずれを抑止する観点からすると、接合部50において、仮付け接着のための熱硬化性接着剤30をせん断応力Sの値が小さい領域に塗布して接合するよりも、せん断応力Sの値が大きい領域に塗布して接合した方が有効である。
図2中の下段図は、接合部50に、せん断応力Sの値が大きくなると想定される2箇所の第1領域50a,50bと、第1領域50a,50bよりもせん断応力Sの値が小さくなると想定される第2領域50cとを規定した平面図である。第1領域50aは、接合部50における金属部材10側の端部に近い領域であり、具体的には、上段図の距離L0の位置から距離L1の位置までの範囲の領域をいう。また、第1領域50bは、接合部50における複合材料部材20側の端部に近い領域であり、具体的には、上段図の距離L3の位置から距離L4の位置までの範囲の領域をいう。ここで、距離L1及び距離L3におけるせん断応力S2は、距離L2におけるせん断応力S1よりも大きく、距離L0及び距離L4におけるせん断応力S3よりも小さい。特に、距離L1及び距離L3は、せん断応力Sの大きさとその許容値に基づいて決定される。
次に、本実施形態に係る金属樹脂接合方法の具体的な流れについて説明する。図3は、金属樹脂接合方法に含まれる熱硬化性接着剤30の塗布工程から一時接着工程までの各工程を説明する斜視図である。
図3(a)は、熱硬化性接着剤30の塗布工程を説明する図である。塗布工程では、接合部50となる複合材料部材20の表面20a上に、熱硬化性接着剤30が塗布される。ここで、本実施形態では、せん断応力Sの値に基づいて規定された第1領域50a,50b及び第2領域50cに合わせて、熱硬化性接着剤30の種類を可変とする。以下、図2の下段図に例示するように、第1領域50aに合わせて表面20a上に塗布される熱硬化性接着剤30を、第1接着剤30aと表記する。同様に、第1領域50bに合わせて表面20a上に塗布される熱硬化性接着剤30を、第1接着剤30bと表記する。また、第2領域50cに合わせて表面20a上に塗布される熱硬化性接着剤30を、第2接着剤30cと表記する。なお、第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cの種類又は組み合わせ等については、後述する。熱硬化性接着剤30の塗布工程の後、一時接着工程が実施される。
一時接着工程は、塗布工程で塗布された第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cの少なくとも一部を加熱して硬化させることで、金属部材10と複合材料部材20とを一時的に接着させる工程である。一時接着工程は、例えば、第1重ね合わせ工程と、第1照射工程とを含む。
図3(b)は、第1重ね合わせ工程を説明する図である。第1重ね合わせ工程では、複合材料部材20の表面20a上に塗布された熱硬化性接着剤30に金属部材10の少なくとも一部が接触することで、金属部材10と複合材料部材20とが重ね合わされる。このとき、熱硬化性接着剤30はすぐには硬化しないため、金属部材10は、複合材料部材20に対して変位可能である。第1重ね合わせ工程の後、第1照射工程が実施される。
図3(c)は、第1照射工程を説明する図である。第1照射工程では、レーザ加熱装置40が金属部材10の表面10a上にレーザ光41を照射する。ただし、第1照射工程では、第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cの少なくとも一部を加熱して硬化させるため、表面10a上の照射領域46は、硬化させたい接着剤が存在する領域に対応する部分となる。ここでは、一例として、第1領域50a,50bにある第1接着剤30a,30bの少なくとも一部を硬化させるものとする。
この場合、レーザ加熱装置40は、第1領域50aに対応する第1照射領域46aにレーザ光41aを照射する。同様に、レーザ加熱装置40は、第1領域50bに対応する第1照射領域46bにレーザ光41bを照射する。これにより、第1照射領域46a,46bが加熱される。加えられた熱は、金属部材10の内部を介し、第1照射領域46aに直近の第1接着剤30aと、第1照射領域46bに直近の第1接着剤30bとに伝達される。その結果、第1接着剤30a,30bが主として硬化し、照射領域46から遠い第2接着剤30cはほとんど硬化しない。したがって、第1照射工程が終了した段階では、金属部材10と複合材料部材20とは、一部の熱硬化性接着剤30、すなわち第1接着剤30a,30bによって一時的に接着されている状態にある。ここで、一部の熱硬化性接着剤30によって一時的に接着されている状態とは、レーザ照射による加熱時間や第1接着剤30a,30bの温度を減少させることで、第1接着剤30a,30bの双方が半硬化されている状態を含む。又は、一部の熱硬化性接着剤30によって一時的に接着されている状態とは、第1接着剤30a,30bの双方のうち、それぞれ少なくとも一部の領域のみが加熱されて硬化している状態をも含む。
ここで、第1照射工程は、1回目の重ね合わせである第1重ね合わせ工程が終了した直後に実施される。したがって、例えば、金属部材10が小型であれば、複合材料部材20上の所望の位置に精度よく合わせることは、困難ではない。しかし、金属部材10が大型であれば、1回目の重ね合わせで複合材料部材20上の所望の位置に精度よく合わせることは、容易ではない。そこで、以下の説明のために、図3(c)では、金属部材10が所望の位置からずれて複合材料部材20に重ね合わされ、その結果、Y方向へのずれ量Gが生じた状態で一時接着されたと判別された場合を想定する。なお、図面上、ずれ量Gは、理解を容易とするために、誇張して記載されている。一時接着工程の後、仮接着工程が実施される。
仮接着工程は、所望の接合位置となるように位置決めした後、金属部材10と複合材料部材20とを仮付け接着する工程である。ここで、仮付け接着とは、金属部材10と複合材料部材20とが、一応、互いに動かない程度となる接着状態をいう。仮接着工程は、例えば、引き離し工程と、第2重ね合わせ工程と、第2照射工程とを含む。
図4は、金属樹脂接合方法に含まれる仮接着工程を説明する斜視図である。
図4(a)は、引き離し工程を説明する図である。引き離し工程では、ずれ量Gを補正するために、一時接着の状態から、金属部材10が複合材料部材20から一旦引き離される。上記の一時接着の例では、金属部材10と複合材料部材20とが第1接着剤30a,30bの少なくとも一部のみを用いて接着されているだけである。したがって、このとき、作業者は、金属部材10と複合材料部材20とが接合部50内の接合面全体に熱硬化性接着剤30が塗布されて接合されている場合に比べて、金属部材10を容易に引き離すことが可能となる。引き離し工程の後、第2重ね合わせ工程が実施される。
図4(b)は、第2重ね合わせ工程を説明する図である。第2重ね合わせ工程では、ずれ量Gが生じている状態から、複合材料部材20に対して金属部材10が所望の位置となるように合わされながら、第1重ね合わせ工程と同様に、金属部材10と複合材料部材20とが重ね合わされる。ここで、第1接着剤30a,30bは、先の第1照射工程により硬化されている。そのため、第2重ね合わせ工程における重ね合わせのみでも、複合材料部材20に対する金属部材10の位置決め状態は、ある程度維持される。なお、先の引き離し工程と、第2重ね合わせ工程とは、それぞれ1回に限らず、金属部材10が所望の位置で複合材料部材20に重ね合わされるまで複数回繰り返されてもよい。このように、金属部材10が所望の位置で複合材料部材20に重ね合わされた後、第2照射工程が実施される。
図4(c)は、第2照射工程を説明する図である。第2照射工程では、レーザ加熱装置40が金属部材10の表面10a上にレーザ光41を照射する。ここで、先の第1照射工程では、レーザ光41の照射により、第1領域50a,50bにある第1接着剤30a,30bの少なくとも一部を硬化させるものとした。これに対して、仮接着工程に含まれる第2照射工程では、第1接着剤30a,30b全体を硬化させる。
具体的には、レーザ加熱装置40は、第1照射領域46a全体にレーザ光41aを照射する。同様に、レーザ加熱装置40は、第1照射領域46b全体にレーザ光41bを照射する。なお、第1照射領域46a,46bのそれぞれにレーザ光41を照射する順序としては、どちらが先でもよい。また、レーザ加熱装置40がレーザトーチ44等を複数有する場合には、第1照射領域46a,46bに同時にレーザ光41が照射されてもよい。
第2照射工程では、第1照射領域46a,46b全体がレーザ光41a,41bにより加熱される。加えられた熱は、金属部材10の内部を介し、第1照射領域46aに直近の第1接着剤30aと、第1照射領域46bに直近の第1接着剤30bとに伝達される。その結果、第1接着剤30a,30bが主として硬化し、第1照射領域46a,46bから遠い第2接着剤30cはほとんど硬化しない。したがって、第2照射工程が終了した段階では、金属部材10と複合材料部材20とは、一部の熱硬化性接着剤30、すなわち第1接着剤30a,30bによって仮接着されている状態にある。仮接着工程の後、本接着工程が実施される。
なお、上記の一時接着工程及び仮接着工程では、金属部材10と複合材料部材20との接合に際して、ずれ量Gが生じたかどうかを判別し、ずれ量Gが生じている場合には、引き離し工程を含む位置決めを行った後に仮付け接着を行うものとした。ただし、例えば、金属部材10が小型であれば、複合材料部材20上の所望の位置に合わせることは困難ではないので、当初の接着工程において、ずれ量Gを生じさせることなく、各部材を接合させることも可能である。そのため、金属部材10等の大きさなどの条件により、予めずれ量Gが生じづらいと判断できる場合には、上記の一時接着工程を省略することも可能である。この場合、仮接着工程における第2重ね合わせ工程及び第2照射工程が、金属部材10と複合材料部材20とを最初に接着する工程として位置付けられることになる。
本接着工程は、熱硬化性接着剤30のうち未硬化状態にある接着剤を硬化させて、金属部材10と複合材料部材20とを本接着する工程である。ここで、本接着とは、上記の工程で製造された金属部材10と複合材料部材20との接合体が、設計荷重に対して強度や剛性が所望の値を満たしている接着状態をいう。本接着工程としては、例えば、以下のような工程が採用可能である。
まず、第1の本接着工程として、未硬化状態にある接着剤を、第1照射工程及び第2照射工程と同様に、レーザ光41の照射による加熱により硬化させて接着させる第3照射工程を採用してもよい。
図5は、第3照射工程を説明する図である。第3照射工程では、第1照射工程等と同様に、レーザ加熱装置40が金属部材10の表面10a上にレーザ光41を照射する。ただし、第3照射工程では、表面10a上の照射領域46は、少なくとも第2領域50cに対応する部分である。具体的には、レーザ加熱装置40は、第2領域50cに対応する第2照射領域46cにレーザ光41cを照射する。
第3照射工程では、第2照射領域46cがレーザ光41cにより加熱される。加えられた熱は、金属部材10の内部を介し、第2照射領域46cに直近の第2接着剤30cに伝達される。その結果、第2接着剤30cが硬化するので、金属部材10と複合材料部材20とは、第1接着剤30a,30bも合わせた接合面全体に存在するすべての熱硬化性接着剤30の硬化により本接着された状態となる。
次に、第2の本接着工程として、採用されている熱硬化性接着剤30が常温養生による硬化が可能であるものであるならば、未硬化状態にある接着剤を、加熱により硬化させるのではなく、常温養生にて硬化させてもよい。常温養生による第2接着剤30cの硬化により、金属部材10と複合材料部材20とは、第1接着剤30a,30bも合わせた接合面全体に存在するすべての熱硬化性接着剤30が硬化し、本接着された状態となる。
さらに、第3の本接着工程として、例えば、接合体が小型である場合には、仮接着工程後の接合体を加熱炉に入れて加熱することで、第2接着剤30cを硬化させてもよい。加熱炉を用いた第2接着剤30cの硬化により、金属部材10と複合材料部材20とは、第1接着剤30a,30bも合わせた接合面全体に存在するすべての熱硬化性接着剤30が硬化し、本接着された状態となる。
なお、仮接着工程が一旦終了した段階で、さらに、ずれ量Gの存在が確認される場合も考えられる。この場合には、再度、仮接着工程と同様の工程を繰り返した上で、本接着工程を行うものとしてもよい。
次に、第1照射工程、第2照射工程及び第3照射工程における接合条件について説明する。本実施形態では、本接着工程としての第3照射工程も含めれば、レーザ照射により熱硬化性接着剤30を硬化させる3つの照射工程が存在する。特に、第2照射工程は、金属部材10と複合材料部材20との仮付け接着に関連する。一方、第3照射工程は、金属部材10と複合材料部材20との本接着に関連する。そこで、仮付け接着と本接着との各性質に合うように、接着条件を以下のように規定することが可能である。
図3〜図5を用いた例示では、第1領域50a,50b及び第2領域50cに、第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cが用いられるものとした。そこで、第1領域50a,50bに用いられる第1接着剤30a,30bと、第2領域50cに用いられる第2接着剤30cとの種類を同一とするか異ならせるかで、第2照射工程又は第3照射工程での接着条件を異なるものとする。
第1に、熱硬化性接着剤30のうち、第1接着剤30a,30b及び第2接着剤30cをすべて同一種類とする。同一種類の熱硬化性接着剤であれば、硬化温度も同一である。そこで、第2照射工程における第1接着剤30a,30bの加熱温度と、第3照射工程における第2接着剤30cの加熱温度とが同じ温度となるように、レーザ加熱装置40のレーザ出力を調整する。その上で、第2照射工程と第3照射工程とでは、それぞれ、レーザ照射による熱硬化性接着剤30の加熱時間を異ならせる。特に、第2照射工程では、仮付け接着を行うための工程であるから、第1領域50a,50bに対応した第1照射領域46a,46bにレーザ光41を照射すればよい。ここで、本実施形態の例では、第1照射領域46a,46bの面積は、第2照射領域46cの面積よりも狭い。そのため、加熱時間は、第3照射工程のときよりも短くてよい。換言すれば、第3照射工程では、加熱時間は、第2照射工程のときよりも長くてよい。
第2に、熱硬化性接着剤30のうち、第1接着剤30a,30bに採用されるものと、第2接着剤30cに採用されるものとを、異なる種類とする。異なる種類の熱硬化性接着剤であれば、硬化温度も異なる。そこで、第2照射工程における第1接着剤30a,30bの加熱温度と、第3照射工程における第2接着剤30cの加熱温度とが、硬化対象となる熱硬化性接着剤30の種類に合わせた温度となるように、レーザ加熱装置40のレーザ出力を調整する。この場合、第2照射工程と第3照射工程とでは、必ずしも加熱時間を異ならせる必要はない。そして、特に第2照射工程で用いられる、第1接着剤30a,30bに採用される熱硬化性接着剤としては、仮付け接着が達成される程度の比較的弱い接着強さを有するものを用いることができる。これに対して、第3照射工程で用いられる、第2接着剤30cに採用される熱硬化性接着剤としては、本接着が達成されなければならないので、第1接着剤30a,30bに用いられる熱硬化性接着剤に比べて強い接着強さを有するものを用いることができる。
次に、熱硬化性接着剤30をレーザ照射により間接的に加熱することで、金属部材10と複合材料部材20とを接合することの有効性について説明する。図6は、金属部材10と複合材料部材20とを接合した接合体に引張せん断接着強さの試験を行ったときの条件を説明する図である。
図6(a)は、供試材としての接合体を示す側面図である。金属部材10の材質は、炭素鋼(SS400(日本工業規格))である。金属部材10の寸法は、長さ100(mm)、幅25(mm)及び厚さm1が3.2(mm)である。複合材料部材20の材質は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。複合材料部材20の寸法は、長さ100(mm)、幅25(mm)及び厚さm2が3.4(mm)である。接合部50の引張方向の長さm3は25(mm)である。金属部材10の一部であって、接合部50の複合材料部材20側の端部から距離m4離れた位置を、熱硬化性接着剤30の温度と想定する接合面での温度を計測するための温度計測位置とし、この位置には、熱電対10bが設置されている。距離m4は5(mm)である。金属部材10の表面10a上に照射されるレーザは、波長が880(nm)の半導体レーザとする。
図6(b)は、レーザ照射時間t(min)に対する、熱電対10bで計測された接合部50の接合面での温度T(°C)を示すグラフである。グラフ中には、レーザ照射による加熱時間Hが示されている。
図7は、引張せん断接着強さの試験の結果を示すグラフである。ここでは、本実施形態に対応する第1の試験条件と、比較例としての第2の試験条件との2つの条件で試験を行った。
まず、第1の試験条件として、熱硬化性接着剤30としては、二液混合型エポキシ系接着剤Iを採用した。なお、本試験では、熱硬化性接着剤30をレーザ照射により間接的に加熱する場合の有効性を確認するものであるため、用いられる熱硬化性接着剤30は、ここでは一種類であり、接合部50の接合面全体に塗布される。また、接合面での推定温度を80〜100(°C)とした。さらに、加熱温度を30(分)とした。その結果、引張せん断接着強さは、21.2(MPa)であった。
次に、第2の試験条件として、熱硬化性接着剤30としては、二液混合型エポキシ系接着剤IIを採用した。ここで、二液混合型エポキシ系接着剤IIは、第1の試験条件として採用した二液混合型エポキシ系接着剤Iよりも、架橋率が低い。なお、本試験でも、用いられる熱硬化性接着剤30は、一種類であり、接合部50の接合面全体に塗布される。また、ここでは、本実施形態のようなレーザ照射による加熱は行わず、単に2ヶ月以上常温にて養生させることで熱硬化性接着剤30を硬化させた。その結果、引張せん断接着強さは、3.2(MPa)であった。
上記の2つの試験条件による結果を比較するとわかるとおり、熱硬化性接着剤30をレーザ照射により間接的に加熱し硬化させるものとしても、良好な引張せん断接着強さの値を得ることができる。つまり、金属部材10と複合材料部材20との接合に、本実施形態に係る金属樹脂接合方法を採用することが有効であると言える。特に、本実施形態に係る金属樹脂接合方法に含まれる上記の各照射工程では、レーザ照射により熱硬化性接着剤30を加熱するときには、レーザ照射による加熱時間Hと、加熱されているときの熱硬化性接着剤30の温度とを管理することが望ましい。ここで、熱硬化性接着剤30の温度として、上記例示したように、熱電対10bで計測された接合部50の接合面での温度T(°C)を参照して算出することができる。
次に、本実施形態による効果について説明する。
まず、本実施形態に係る金属樹脂接合方法は、金属部材10と、繊維強化樹脂複合材料で形成される複合材料部材20とを接合する。金属樹脂接合方法は、金属部材10と複合材料部材20との間の第1領域50a,50bに、熱硬化性接着剤である第1接着剤30a,30bを塗布する塗布工程を含む。また、塗布工程では、金属部材10と複合材料部材20との間の第2領域50cに、熱硬化性接着剤である第2接着剤30cを塗布する。金属樹脂接合方法は、第1領域50a,50bに対向する金属部材10の第1照射領域46a,46bにレーザ光41a,41bを照射し、第1接着剤30a,30bを加熱して硬化させて、金属部材10と複合材料部材20とを仮付け接着させる仮接着工程を含む。また、金属樹脂接合方法は、仮接着工程の後に、第2接着剤30cを硬化させて、金属部材10と複合材料部材20とを接着させる本接着工程を含む。
例えば、金属部材10又は複合材料部材20の少なくとも一方が大型である場合、金属部材10と複合材料部材20とを所望の接合位置に一度で合わせることができないまま、互いに接合されることもあり得る。このような場合、本実施形態によれば、一旦、仮接着工程において金属部材10と複合材料部材20とを引き離した後、所望の接合位置に位置決めし、その後、本接着工程において接合させることが、容易に実現可能となる。特に、本実施形態では、金属部材10と複合材料部材20との接合に熱硬化性接着剤30を用いるので、常温での引き離しや重ね合わせが可能となる点で有利である。また、仮接着工程では、熱硬化性接着剤30の一部が硬化されるのみであるので、より引き離しが容易となる。また、本実施形態によれば、熱硬化性接着剤30をレーザ光41a,41b,41cの照射により加熱するので、加熱炉を用いる必要がなく、金属部材10と複合材料部材20との接合体が大型となる場合であっても適用可能であり、寸法の制約を受けない。
さらに、仮接着工程において接着領域となる第1領域50a,50bが、本接着工程において接着領域となる第2領域50cよりも狭い場合には、その分だけ仮付け接着を迅速に行うことができることを意味する。したがって、もし仮接着工程において引き離し工程を含む位置決めを行う必要がない場合でも、本接着工程における接着手法を問わず、接合施工上、有利となり得る。
このように、本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、金属部材10と複合材料部材20とを容易に接合させるのに有利な金属樹脂接合方法を提供することができる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法は、仮接着工程の前に、照射領域にレーザ光41を照射し、第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cを加熱して硬化させて、金属部材10と複合材料部材20とを一時的に接着させる一時接着工程を含む。ここで、照射領域とは、第1照射領域46a,46b又は第2照射領域46cであり、これらのうちのさらに一部の領域でもよい。仮接着工程では、一時接着工程の後に金属部材10と複合材料部材20との接合位置がずれていた場合、金属部材10と複合材料部材20とを引き離し、位置決めした後に仮付け接着される。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、金属部材10と複合材料部材20とを最初に接合させる一時接着工程の段階から、仮接着工程と同様の手法を用いるので、さらに容易に金属部材10と複合材料部材20とを接合させることができる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、本接着工程では、第2領域50cに対向する金属部材10の第2照射領域46cにレーザ光41cを照射し、第2接着剤30cを加熱して硬化させる。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、一時接着工程から本接着工程までのそれぞれの工程において同様の手法を用いるので、さらに容易に金属部材10と複合材料部材20とを接合させることができる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、仮接着工程と本接着工程とでは、第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cの種類、加熱温度又は加熱時間の少なくとも1つが異なる。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、特に仮接着工程における金属部材10と複合材料部材20との引き離しをより容易とする状態に適宜調整することができる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、第1接着剤30a,30bと第2接着剤30cとが同一種類である場合、第1接着剤30a,30bの加熱時間と第2接着剤30cの加熱時間とは異なる。又は、第1接着剤30a,30bと第2接着剤30cとが異なる種類である場合、第1接着剤30a,30bの加熱温度と第2接着剤30cの加熱温度とは異なる。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、これらの条件を適宜変更することで、第1接着剤30a,30b又は第2接着剤30cとして採用する熱硬化性接着剤30の性質に合わせて、接合時間や硬化時間を所望の時間に調整することが可能となる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、第2接着剤30cは、常温養生で硬化可能であり、本接着工程では、常温養生で第2接着剤30cを硬化させる。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、本接着工程における硬化手法を、必ずしも一時接着工程から仮接着工程までのそれぞれの工程に合わせる必要はなく、熱硬化性接着剤30の特性に合わせて変更可能となる。特にこの場合には、完全硬化までの常温養生に要する時間が許される範囲であれば、本接着工程においてレーザ加熱装置40を用いる必要がなくなる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、本接着工程では、仮接着工程の後に金属部材10と複合材料部材20との接合位置がずれていた場合、金属部材10と複合材料部材20とを引き離し、位置決めした後に本接着される。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、位置決めを適宜繰り返すことができるので、より精度よく金属部材10と複合材料部材20とを接合することが可能となる。
また、本実施形態に係る金属樹脂接合方法では、金属部材10と複合材料部材20との接合面において、第1領域50a,50bと第2領域50cとは、接合面に対して平行な方向にかかるせん断応力Sの大きさに基づいて規定される。
本実施形態に係る金属樹脂接合方法によれば、特に第1領域50a,50bを、仮付け接着に用いられる領域としてより効果的な領域を設定することができる。
なお、上記説明では、接合部50を3つの領域、すなわち、第1領域50a,50b及び第2領域50cに分け、それぞれの領域の形状に合わせて、第1接着剤30a等を塗布するものとした。しかし、本発明では、熱硬化性接着剤30の塗布の形態を、上記例示したものに限定されない。
図8は、他の実施形態における熱硬化性接着剤の塗布の形態を例示する平面図である。なお、図8に示す各図は、図2の下段図に準拠して描画されている。
図8(a)は、他の実施形態における熱硬化性接着剤の塗布の形態の第1例を示す図である。例えば、第1領域50a,50bに塗布される第1接着剤32a,32bは、第1領域50a,50bの領域全面に塗布されるのではなく、それぞれの領域内の任意の位置に、スポット状に塗布されてもよい。一方、第2領域50cには、上記例示した第2接着剤30cと同様に、第2領域50cの全面に、第2接着剤32cが塗布される。第1領域50a,50bに塗布される熱硬化性接着剤32は、当初の段階では主として仮付け接着のために用いられる。そこで、例えば、引き離し工程時の引き離しの容易性を向上させ、結果として金属部材10と複合材料部材20との位置決めを容易とするために、スポット状に第1接着剤32a,32bを塗布することで、接着面積を減少させることも有効である。なお、図8(a)に示す例では、第1接着剤32a,32bは、それぞれ領域内の3つの任意の位置に塗布されるものとしたが、3つ以外の複数の位置、又は、1つの位置に塗布されるものとしてもよい。
図8(b)は、他の実施形態における熱硬化性接着剤の塗布の形態の第2例を示す図である。例えば、第1領域50a,50b又は第2領域50cに塗布される第1接着剤34a,34b又は第2接着剤34cは、それぞれ独立ではなく、一体として塗布されてもよい。各照射工程での接着条件として説明したように、第1接着剤34a,34b及び第2接着剤34cがすべて同一種類である場合もあり得る。この場合、各接着剤を領域ごとに独立して塗布しなければならない必然性はなく、塗布工程における塗布も容易となる。一方、第1接着剤34a,34bに採用されるものと、第2接着剤34cに採用されるものとが、それぞれ異なる種類の熱硬化性接着剤であったとしても、各接着剤は、本接着が完了した段階では一体となる。そのため、硬化前の段階、すなわち、例えば塗布工程の段階で、第1接着剤34aと第2接着剤34c、又は、第1接着剤34bと第2接着剤34cとがそれぞれ接触し、全体として一体となっていてもよい。
図8(c)は、他の実施形態における熱硬化性接着剤の塗布の形態の第3例を示す図である。第1領域50a,50b及び第2領域50cは、図2を用いて説明したとおり、引張方向についてのせん断応力Sの分布に基づいて規定されたものである。これに対して、例えば、金属部材10又は複合材料部材20が比較的小型であるなどの理由で、大きなずれ量Gの発生が想定し難いときには、必ずしもせん断応力Sの分布を考慮しなくてもよい場合もあり得る。この場合、例えば、接合部50の中央領域にのみ、スポット状に第1接着剤36aを塗布し、接合部50の中央領域以外の領域全面に、第2接着剤36bを塗布してもよい。ここで、第1接着剤36aは、仮接着工程で用いられる熱硬化性接着剤である。一方、第2接着剤36bは、本接着工程で用いられる熱硬化性接着剤である。
また、上記説明では、接合対象である金属部材10及び複合材料部材20が共に平板部材であるものとしたが、それぞれ複雑形状を有するものであっても構わない。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。