本明細書で使用される用語は、本明細書で再定義されない限り、一般的かつ通常の意味を有する。本明細書で用語が再定義された場合、新規の定義が、一般的意味よりも優先される。
VVAシステムの実施形態
VVAシステムの実施形態は、組み合わされてVVAシステムを形成するスイッチング装置、駆動方法、解析及び制御システム、及び実現技術の特有の組合せを示す。VVAシステムの様々な実施形態には、1つまたは複数の実現技術が組み込まれるものであってもよい。
I. 離散式可変バルブリフト(DVVL)システムの実施形態の説明
1. DVVLシステムの概要
以下の節において、デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(dual-feed hydraulic lash adjuster:DFHLA)と油量制御バルブ(oil control valve:OCV)とを組合せて使用して油圧駆動される、カム駆動の離散式可変バルブリフト(DVVL)スイッチングロッカーアーム装置について、第2型バルブトレインの吸気バルブに据え付けられた形で説明する。別の実施形態において、この構成は、ピストン駆動式内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの任意の組合せに対して適用することができる。
図2に示すように、この実施形態における排気バルブトレインは、固定ロッカーアーム810と、1ローブ型カムシャフト811と、標準的な油圧式ラッシュアジャスタ(HLA)812と、排気バルブ813とを含む。図2及び図3に示すように、吸気バルブトレインは、3ローブ型カムシャフト102と、スイッチングロッカーアームアセンブリ100と、上側流体ポート506及び下側流体ポート512を備えるデュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)110と、電気油圧式ソレノイド油量制御バルブアセンブリ(OCV)820とを含む。OCV820は、入口ポート821と、第1制御ポート822と、第2制御ポート823とを含む。
図2を参照すると、吸気バルブトレインと排気バルブトレインは、いくつかの共通の幾何学的構造を備えている。共通の幾何学的構造には、HLA812に対するバルブ813間隔と、DFHLA110に対するバルブ間隔112が含まれる。共通の幾何学的構造を維持することで、標準的なチェーン駆動システムを使用しながら、DVVLシステムを、既存の、または軽微な変更を施した第2型シリンダーヘッドスペースとパッケージ化することができる。吸気バルブトレインと排気バルブトレインの両方に共通のその他の構成要素には、図4に示すように、バルブ112、バルブスプリング114、及びバルブスプリング保持部116が含まれる。バルブキー及びバルブステムシール(図示は省略する)も、吸気と排気の両方に共通である。共通の構成要素を使用して、共通の幾何学的構造を維持することによって、DVVLシステムの実装コストを最小限に留めることができる。
図3に示す吸気バルブトレインの構成要素は、一斉に動作して、高リフトカムシャフトローブ104、106または低リフトカムシャフトローブ108のいずれかを使用して、吸気バルブ112を開く。高リフトカムシャフトローブ104、106は、固定吸気バルブトレインに相当する性能を発揮するように設計されており、リフトが生じない略円形部とリフト部とを有する。リフト部は、線形リフト遷移部と、最大リフトに相当するノーズ部とを含むものであってもよい。低リフトカムシャフトローブ108によって、低いバルブリフトが実現され、吸気バルブを早く閉じることができる。低リフトカムシャフトローブ108も、リフトが生じない略円形部とリフト部と、リフトが遷移する略線形部と、最大リフトに相当するノーズ部とを含む。図5は、クランク角817に対してバルブリフト818をプロットしたグラフである。カムシャフト高リフトのプロファイル814、及び、固定排気バルブリフトのプロファイル815が、低リフトのプロファイル816と対比される。プロファイル816によって示される低リフト事象では、部分スロットル運転の間の吸気事象のリフト量及び持続時間の両方が低減し、これによって、スロットル損失が低減し、燃費の改善が実現される。これは、早期吸気バルブ閉止(early intake valve closing:EIVC)とも呼ばれる。全出力運転が必要な場合、DVVLシステムは、標準的な固定リフト事象と同様の高リフトのプロファイル814に戻る。低リフトから高リフトへの遷移、及び、高リフトから低リフトへの遷移は、カムシャフトの1回転内で生じる。プロファイル815によって示される排気リフト事象は、固定されており、低リフトまたは高リフトの吸気事象のいずれにおいても同様に動作する。
DVVLスイッチングを制御するために使用されるシステムは、油圧駆動を使用する。図6は、本発明が教示する実施形態で使用される油圧制御及び駆動システム800を模式的に示した図である。油圧制御及び駆動システム800は、制御ロジックによる指令に従って、高リフトと低リフトの間の切換のために備えられた機械的ラッチアセンブリに、作動油を供給するように構成される。エンジン制御装置825は、機械的切換工程が開示される時期を制御する。図示される油圧制御及び駆動システム800は、上述した吸気バルブトレイン上の4気筒インライン第2型エンジン用のものである。但し、この制御及び駆動システムを、他の「型」のエンジン及び異なる気筒数に対して適用できることは、当業者には容易に理解されるものである。
本明細に記載されたDVVLシステムで使用される、上述した実現技術は、他のDVVLシステムの構成要素との組合せで使用し、固有の組合せに分割するものであってもよい。そのいくつかについて、次に説明する。
2. DVVLシステム実現技術
本システムで使用されるいくつかの技術は、様々な応用例において複数の使用法を有しているが、ここでは、本明細書に記載されたDVVLシステムの構成要素として説明する。これらの技術には、次のものが含まれる。
2.1 油量制御バルブ(OCV)及び油量制御バルブアセンブリ
ここで、図7〜図9を参照すると、OCVは、作動油をロッカーアーム100に方向付けるか、または方向付ないことで、ロッカーアーム100の高リフトモードと低リフトモードとの間の切り換えを生じさせる制御装置である。OCVの作動及び停止は、制御装置信号866によって生じる。1つまたは複数のOCVは、単一のモジュールにパッケージ化されてアセンブリを形成するものであってもよい。一実施形態において、OCVアセンブリ820は、パッケージ化された2つのソレノイド型OCVからなる。図8及び図9に示すように、この実施形態では、制御装置は、信号866をOCVアセンブリ820に供給し、これによって、OCVアセンブリは、高圧力(実施形態では、少なくとも2×105Pa(2 bar)の油圧)または低圧力(実施形態では、0.2×105〜0.4×105Pa(0.2〜0.4 bar)の作動油を油量制御ギャラリー802、803に供給し、これによって、スイッチングロッカーアーム100は、低リフトモードまたは高リフトモードのいずれかになる。OCVアセンブリ820のさらなる説明は、以下の節に記載されている。
2.2 デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)
エンジン内のラッシュを維持するために、多くの油圧式ラッシュアジャスタ装置が存在する。ロッカーアーム100(図4)のDVVL切換に対して、従来のラッシュ管理は必要であるものの、従来のHLA装置は、切換のために必要な流量を供給すること、運転の間にアセンブリ100によって印加される関連する側面負荷に耐えること、及び、制限されたパッケージ空間内に収めることを実現するために不十分なものである。スイッチングロッカーアーム100とともに使用される小型のデュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ110(DFHLA)について、低消費で最適化された油圧を供給するように構成された一群のパラメータ及び幾何学的構成、及び、側面負荷に対処できるように構成された一群のパラメータ及び幾何学的構成とともに、説明する。
図10に示すように、ボールプランジャーエンド601は、ボールソケット502に、全ての方向に回転自在に組み込まれる。これによって、特定の運転モード(例えば、高リフトから低リフトへの切換、または、低リフトから高リフトへの切換)におけるボールプランジャーエンド601の側面の、そして(場合によっては)非対称な負荷が許容される。典型的なボールエンドプラジャーと比較して、DFHLA110ボールエンドプランジャー601は、側面負荷に耐えるために厚い材料で構成されている。図11に、プランジャーの厚さ510が示されている。
ボールプランジャーエンド601のために選択される材料は、許容される運動学的負荷も高いものであり、例えば、クロム・バナジウム合金である。
DFHLA110内の作動油の流路は、油圧による切換を着実に実行し、かつポンピング損失を低減するために、高流量及び低圧力降下となるように構成される。DFHLAは、図11に示すように、エンジンの、外面511に対してシールを形成するサイズに形成された円筒受入ソケットに組み付けられる。円筒受入ソケットは、第1作動油流路504との組合せにより、特定の断面積を有する閉じた流路を形成する。
図11に示すように、好適な実施形態には、4つの作動油流ポート506(2つのみが図示されている)が含まれており、これらは、第1作動油流路504のベース部の周りに等間隔に配置されている。加えて、2つの第2作動油流路508、ボールエンドプランジャー601の周りに等間隔に配置されており、2つの第2作動油流路は、第1作動油流路と作動油流ポート506を通じて流体連通する。作動油流ポート506と第1作動油流路504は、作動油の一様な流れを確保し、第1作動油流路504から第3作動油流路509への圧力降下を最小限に留めるために、特定の面積を備えて、DFHLA110本体の周りに間隔をおいて配置されている。第3作動油流路509は、複数の第2作動油流路508からの組合された作動油流に適した大きさに形成されている。
2.3 ダイアモンドライクカーボンコーティング(DLCC)
ダイアモンドライクカーボンコーティング(Diamond-like carbon coating:DLC)について説明する。ダイアモンドライクカーボンコーティングによれば、処置される部品間の摩擦を低減でき、同時に、必要な損耗特性及び負荷特性を提供できる。類似のコーティング材料及び工程は存在するが、VVAシステムで使用する場合の多くの要件を満足するために十分なものはない。これらの要件は、例えば、1)十分硬く、2)適切な負荷耐性を有し、3)開放環境において化学的に安定であり、4)部品アニーリング温度を超えない温度の工程で付着され、5)エンジン寿命要件を満たし、6)鋼鉄と鋼鉄との界面と比較して摩擦が低減する、というものである。
上述した要件を満たす特有のDLCコーティング工程について説明する。選択されたDLCコーティングは、水素化アモルファスカーボンまたは同様の材料によるものである。DLCコーティングは、図12に記載されるような、いくつかの層からなる。
1. 第1層は、クロム接着層701であり、金属の受入面700と次の層702との間の結合剤として機能する。
2. 第2層702は、窒化クロムであり、ベース金属の受入面700とDLCコーティングとの間の界面に延性を付加する。
3. 第3層703は、炭化クロムと水素化アモルファスカーボンとの組合せであり、DLCコーティングを窒化クロム層702へ結合する。
4. 第4層704は、水素化アモルファスカーボンからなり、硬機能性損耗界面を形成する。
全層701〜704を組み合わせた厚さは、2マイクロメートルと4マイクロメートルの間である。DLCコーティングは、金属の受入面700に対して直接付着させることはできない。耐久性要件を満たし、第1クロム接着層701とベース受入面700とを適切に結合するために、ベース層受入面700に対して、機械加工により特有の表面仕上げを施す必要がある。
2.4 検出及び測定
センサを使用して収集される情報は、切換モードの検証、エラー状況の特定、または、切換ロジック及びタイミングで分析され、使用される情報を提供するために使用することができる。使用できるいくつかの検出装置について、以下に説明する。
2.4.1 デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)の移動
可変バルブ駆動(VVA)技術は、切換装置(例えば、DVVLスイッチングロッカーアームまたは気筒休止(CDA)ロッカーアーム)を使用して、エンジン運転の間にバルブリフトのプロファイルを変更するように構成される。これらの装置を使用した場合、バルブリフトの状態は、正常な切換動作を保障するか、またはエラー状況/誤動作を検出する重要な情報である。
DFHLAは、ラッシュを管理すること、及び、CDAまたはDVVLのようなスイッチングロッカーアームアセンブリを採用したVVAシステムの切換のための作動油を供給することの両方のために使用される。図10の断面に示されるように、DVVLロッカーアームアセンブリ100に対する通常のラッシュ調整によって、高リフト運転及び低リフト運転の両方の間に、ボールプランジャー601は、内側アーム122受入ソケットと接触するように維持される(詳細については以下の節で説明する)。ボールプランジャー601は、負荷が高リフトと低リフトの間で変化したときに、必要に応じて移動するように構成される。図13に示す移動量514を運転の既知の状態と対比することによって、ラッチ状態を決定することができる。一実施形態では、非接触スイッチ513が、HLAの外側本体とボールプラジャーの円筒体との間に配置される。第2の例として、特定の移動量514によって発生する磁界の変化を測定できるように、ホール効果型センサが取付けられるものであってもよい。
2.4.3 バルブステムの移動
可変バルブ駆動(VVA)技術は、切換装置(例えば、DVVLスイッチングロッカーアーム)を使用して、エンジン運転の間にバルブリフトのプロファイルを変更するように構成される。バルブリフトの状態は、正常な切換動作を保障するか、またはエラー状況/誤動作を検出する重要な情報である。バルブステムの位置及び相対移動のセンサは、この機能のために使用することができる。
VVA切換の状態を監視し、切換の誤動作があるかどうかを判別するための一実施形態が、図14及び図14Aに示されている。本発明の教示の一態様に従って、線形可変差動トランス(linear variable differential transformer:LVDT)型の変換器を、機械的にバルブに取り付けることにより、バルブ872の直線状の移動を、対応する電気信号に変換することができる。数百万分の1インチから数インチまでの移動を測定できるLVDT線形位置センサが、容易に入手可能である。
図14Aに、バルブステム案内部871に組み付けられた、典型的なLVDTの構成要素を示す。LVDTの内部構造には、一次巻線899と、同様に巻回された一対の二次巻線897、898とが含まれており、一次巻線は、一対の二次巻線の間の中央に位置している。様々な実施形態において、各巻線877、888、899は、バルブ案内部本体871に形成され、薄壁セクション878、第1端部壁895、及び第2端部壁896によって区切られた凹部内に巻回されている。この実施形態では、バルブ案内部本体871は固定されている。
ここで、図14、図14A、及び図14Bに示されるように、このLVDT構成の移動要素は、コア873と呼ばれる透磁性材料からなる、別体の管状のアーマチャである。様々な実施形態において、コア873は、任意の適切な方法及び製造材料(例えば、鉄)を使用して、バルブ872ステムに組み込まれている。
コア873は、一次巻線899及び二次巻線897、898の内部で軸方向に自由に移動し、位置測定の対象であるバルブ972に機械的に結合されている。ボア内において、コア873とバルブ案内部871との間に物理的な接触はない。
動作時、LVDTの一次巻線899は、適切な振幅及び振動数の交流電流を通電することによって励磁される。これは、一次励磁として知られている。これによって発生する磁束は、コア873によって、隣接する二次巻線897、898に結合される。
14Aに示すように、コア873が一対の二次巻線897、898の中間に位置している場合、同等の磁束がそれぞれの二次巻線に結合し、その結果、二次巻線897及び898に誘起されるそれぞれの電圧は等しい。このようなゼロ点として知られる基準中間コア873位置において、差動電圧出力は基本的にゼロである。
コア873は、一次巻線899の両端を通過して延びるように構成されている。図14Bに示すように、コア873が、ある距離870だけ移動して、巻線898よりも巻線897に近接した場合、巻線897に結合する磁束が増大し、巻線898に結合する磁束が減少する結果、ゼロではない差動電圧が生じる。この差動電圧を測定することによって、バルブ872の移動方向と位置の両方を示すことができる。
図14C及び図14Cに示す第2の実施形態は、上述したLVDT構成が、第2コイル898(図14A)を除去することによって変更されている。コイル898が除去されると、コイル897に誘起される電圧は、コア873の端部位置874に対して変化する。バルブ872の移動の方向及びタイミングが既知の実施形態では、移動量を測定するために1つの二次コイル897のみが必要となる。上述したように、バルブのコア873部分は、いくつかの方法を使用して配置及び作製することができる。例えば、端部位置874における溶接によって、ニッケル基材の非コア材料と鉄基材のコア材料とを結合することができる。また、直径を物理的に低減させることによって、磁束が変化する端部位置874を特定の位置に決めることもできる。または、鉄基材の材料のスラグを、端部位置874に挿入及び配置することもできる。
本明細書の開示に鑑みれば、一例におけるLVDTセンサ要素は、バルブ案内部871の頂部付近に配置して、その点の下方での温度消散を可能することもできる。このような位置は、バルブステムの製造における典型的な溶接点の上方とすることもできる一方、溶接点を移動することもできる。二次巻線897に対するコア873の位置は、誘起される電圧に比例する。
運転時のエンジンにおける上述したようなLVDTセンサの使用には、いくつかの利点があり、これらの利点には次の事項が含まれる。1)摩擦のない動作。通常の使用では、LVDTのコア873とコイルアセンブリとの間に機械的な接触はない。摩擦がないことによって、機械的寿命も延長される。2)無限に近い分解能。LVDTは、摩擦なしの構造において電磁結合の原理に従って動作するため、コア位置を無限に小さな変化まで測定することができ、それを制限するものは、LVDT信号調節器におけるノイズと出力ディスプレイの解像度だけである。この特性は、顕著な再現性にもつながる。3)環境的ロバスト性。LVDTの組立に使用される材料及び構造の技術により、様々な環境条件に対して頑丈かつ耐久性の高いセンサが作られる。巻線897、898,899を結合した後に、バルブ案内部本体871内にエポキシ封止することができ、これによって、優れた耐湿性及び耐水性が生じるとともに、大きな衝撃負荷及び高い振動レベルに対する耐性が生じる。さらに、コイルアセンブリを、耐油性及び腐食性環境に対する耐性を有するように、密封することもできる。4)ゼロ点の再現性。LVDTのゼロ点の位置は、動作温度範囲が非常に広い場合でも、上述したように、非常に安定であり、再現性が高い。5)素早い動的応答。通常の動作の間に摩擦がないことによって、LVDTは、コア位置の変化に対して非常に迅速に応答する。LVDTセンサの動的応答に対する制限は、コアアセンブリの質量による小さな慣性効果のみである。大部分の場合、LVDT検出システムの応答は、信号調節器の特性によって決定される。6)絶対出力。LVDTは、増分出力装置とは反対に、絶対出力の装置である。これは、電力の損失が発生しても、LVDTから送信される位置データが失われないことを意味する。測定システムを再スタートさせたとき、LVDTの出力値は、電力損失が発生する前の値と同じである。
上述したバルブステム位置センサは、LVDT型の変換器を使用することによって、エンジンの運転の間のバルブステムの位置を判別する。このセンサは、バルブステムの位置を追跡し、監視された位置をECUに対して返送可能な、任意の既知のセンサ技術であってもよく、これらのセンサには、ホール効果センサ、電子的センサ、光学的センサ、及び機械的センサが含まれる。
2.4.3 部品の位置/移動
可変バルブ駆動(VVA)技術は、切換装置(例えば、DVVLスイッチングロッカーアーム)を使用して、エンジン運転の間にバルブリフトのプロファイルを変更するように構成される。切換状態の変化によって、VVAアセンブリの部品の位置が、絶対的な意味で、または、アセンブリ内で互いに相対的に、変化する場合がある。位置変化の測定は、VVA切換の状態を監視し、切換の誤動作があるかどうか判別するように構成及び実装することができる。
ここで、図15、図16に示すように、例示的なDVVLスイッチングロッカーアームアセンブリ100を、相対移動、運動、または距離を測定する高精度非接触センセ828を備えるように構成することができる。
一実施形態において、高リフトモード及び低リフトモードにおいて、外側アーム120の既知の位置に対する移動を評価するために、移動センサ828が第1端101(図15)の近傍に配置されている。この例では、移動センサ828は、永久磁石コアの周りに巻回されたワイヤを含み、鉄材料が既知の磁界を通過するときに発生する磁束の変化を測定することによって、移動を検出するように配置され、かつ向き付けられている。例えば、磁性(鉄材料)である、外側アームの結合バー875が、位置センサ828の永久磁石磁界を通過すると、磁束密度が変調され、コイルにAC電圧が誘起されて、結合バー875の近さに比例する電気的出力が生成される。変調電圧は、以下の節で説明されるエンジン制御装置(ECU)に入力される。ECUでは、処理装置がロジック及び計算を使用して、ロッカーアームアセンブリ100の動作を始動させる。様々な実施形態において、電圧出力は、電圧信号が無いことまたは有ることが高リフトまたは低リフトを示すような、2進値であってもよい。
位置センサ828は、ロッカーアームアセンブリ100の他の部品の移動を測定するように配置されるものであってもよい。第2の実施形態では、センサ828は、外側アーム120に対する内側アーム122の位置を評価するために、DVVLロッカーアームアセンブリ(図15)の第2端103に配置されるものであってもよい。
第3の実施形態において、センサ828は、DVVLロッカーアームアセンブリ100のラッチ200の位置を直接評価するように配置されるものであってもよい。ラッチ200及びセンサ828は、それらがラッチ状態(高リフトモード)にあるときに互いに係合して固定され、未ラッチ(低リフトモード)の運転では、分離する。
移動は、誘導センサを使用して検出することもできる。センサ877は、例えばバルブステム112の移動または移動がないことの測定が可能なように取付けられたホール効果センサであってもよい。
2.4.4 圧力特性
可変バルブ駆動(VVA)技術は、切換装置(例えば、DVVLスイッチングロッカーアーム)を使用して、エンジン運転の間にバルブリフトのプロファイルを変更するように構成される。ラッチ状態は、ECUの重要な入力であり、これによって、ECUは、燃費を改善し、汚染を低減するための燃料/空気混合の調整、または、アイドル及びノッキングの調整のような様々な機能を実行することが可能となるため、正常な制御のために、正常な切換動作を確保するか、またはエラー状況あるいは誤動作を検出する測定装置またはシステムが必要となる。規制に対応するため、切換状態のリポート及びエラー通知が必要となる場合もある。
図6に示すような油圧駆動DVVLシステム800を含む実施形態において、切換状態の変更によって、異なる油圧式切換作動油圧特性が生じる。作動油圧には、切換を始動するために必要な油圧剛性を生成することが要求され、また、作動油圧流路は、特定の流路及びチャンバーによって幾何学的に定義されるため、生成される圧力特性は、予想されるラッチ状態もしくは未ラッチ状態または切換の誤動作を決定するために使用することができる。いくつかの実施形態では、圧力を測定し、その測定結果を、既知の許容可能な運転パラメータと比較する。圧力の測定値は、いくつかの切換サイクルにわたる作動油圧を調べることによって、マクロレベルで解析することも、または、数ミリ秒程持続する1回の切換事象について評価することもできる。
ここで、図6、図7、及び図17を参照すると、例示されたグラフ(図17)には、スイッチングロッカーアームアセンブリ100が高リフトまたは低リフトで動作するとき、及び、高リフトと低リフトとの間で切換が行われるときの、シリンダー1のバルブリフト高さの経時的な変動882が示されている。圧力変換器890を使用して測定された上側ギャラリー802、803の作動油圧880、及び、OCVアセンブリ820のソレノイドバルブ822、823を開閉するために使用される電流881を含む、対応する油圧式切換システムのデータは、同じ時間尺度でプロットされている(図17)。この図から、マクロレベルであるこのレベルの解析により、全ての運転状態に対して、OCV切換電流881と、制御圧力880と、リフト882との関係が明確に分かる。例えば、時間目盛り0.1において、電流881の増大で示されるように、OCVは、切換を行うように指令される。OCVの切換が行われると、制御圧力880が増大する結果、高リフトから低リフトへの切換事象が生じる。1回または複数回の完全な切換サイクルにわたって動作を評価することで、OCV及びロッカーアームアセンブリ100に対する油圧油供給システムを含む下位システムの正常動作を評価することができる。切換の誤動作の決定は、例えば、上述したようなバルブステムの移動のような、他の独立な測定値に拡張することができる。これらの解析は、1つまたは複数のシリンダーの吸気及び排気バルブを制御するために使用される任意の数のOCVに対して実行することが可能なものである。
同様の方法で、但し、切換事象の間にマイクロ秒レベルで測定及び解析されたデータを使用して、十分に詳細な制御圧力情報(図17A、図17B)を得て、バルブリフトまたはラッチピンの移動を直接測定することなく、正常な切換事象または切換の誤動作を独立に評価することができる。この方法を使用する実施形態では、切換状態は、測定された圧力過渡変化と、試験の間に発生して解析のためにECUに保存されている既知の運転状態の圧力過渡変化とを比較することによって、決定される。図17A及び図17Bは、DVVLシステムのスイッチングロッカーアームにおいて、既知の運転の圧力過渡変化を生成するために使用される試験データの例を示している。
この試験システムは、4つのスイッチングロッカーアームアセンブリ100(図3)、OCVアセンブリ820(図3)、2つの上側オイル制御ギャラリー802、803(図6、図7)、制御ギャラリー802、803内の作動油温度及び作動油圧を制御するための閉ループシステムを含むものでもあった。それぞれの制御ギャラリーは、作動油を調整された圧力で提供し、2つのロッカーアームアセンブリ100を制御する。図17Aは、有効な1回の試験運転を示しており、高リフトから低リフトへの切換を始動するためにOCVソレノイドバルブが励磁されたときのデータが示されている。ラッチ移動1003、制御ギャラリー802、803内の圧力880、OCV電流881、作動油供給部804(図6、図7)内の圧力1001、及びラッチラッシュ及びカムラッシュを測定するための測定機器が設置された。事象の系列は、次のように記述することができる。
・0ms−ECUは、OCVソレノイドバルブを励磁するために電気信号881をオンにした。
・10ms−OCVソレノイドへの切換電流881は、制御ギャラリー802、803内の圧力を、圧力曲線880で示されるように上昇させるために十分である。
・10〜13ms−作動油が供給部804(図6、図7)から上側制御ギャラリー802、803内に流れるにつれて、供給圧力曲線1001は、OCVによって調整された圧力を下回るように減少する。これに応答して、圧力880は、制御ギャラリー802、803内で急速に増大する。ラッチピン移動曲線1003に示すように、ラッチピンの移動が開始する。
・13〜15ms−供給圧力曲線1001は、流れが安定化するにつれて、未調整の定常状態に戻る。制御ギャラリー802、803内の圧力880は、OCVによって調整された高圧力に増大する。
・15〜20ms−作動油がラッチを戻り位置に完全に押し込み(ラッチピン移動曲線1002)、作動油の流れ及び圧力がOCVの未調整圧に安定化するにつれて、制御ギャラリー802、803内に圧力880増大/減少過渡変化が生じる。圧力スパイク1003は、この過渡変化に特徴的なものである。
・12ms及び17msにおいて、圧力曲線880に、ラッチ位置1002の急激な変位に一致する明確な圧力過渡変化が見られる。
図17Bは、有効な1回の試験運転を示しており、低リフトから高リフトへの切換を始動するためにOCVソレノイドバルブが停止されたときのデータが示されている。事象の系列は、次のように記述することができる。
・0ms−ECUは、OCVソレノイドバルブを停止するために電気信号881をオフにした。
・5ms−OCVソレノイド、調整された低圧力の作動油を制御ギャラリー802、803内に導入するために(圧力曲線880)、十分な量だけ移動する。
・5〜7ms−制御ギャラリー802、803内の圧力は、OCVが圧力を低く調整するにつれて、曲線880に示すように急速に減少する。
・7〜12ms−低圧力点1005に一致して、制御ギャラリー802、803内の低圧力は、ラッチ移動曲線1002に示すように、ラッチの移動を始動させる。圧力曲線880の過渡変化は、ラッチバネ230(図19)が作動油のラッチに関連する体積を圧縮し、移動させると開始される。
・12〜15ms−圧力曲線880に示されるように、圧力の過渡変化は、ラッチピン移動曲線1002に示されるように、ラッチピンの移動が完了すると、再度導入される。
・15〜30ms−制御ギャラリー802、803内の圧力は、圧力曲線880に示されるOCV調整圧力で安定化する。
・上述したように、7〜10ms及び13〜20msにおいて、圧力曲線880に、ラッチ位置1002の急激な変位に一致する明確な圧力過渡変化が見られる。
上述し、また、以下の節に記載するように、作動油流路、穴部、クリアランス、及びチャンバーの固定された幾何学的構成、並びに、ラッチバネの剛性は、関連する作動油圧の変化に対する油圧応答及び機械的切換の速度に関連する変数である。図17A及び図17Bに示す圧力曲線880は、許容可能な範囲で動作するDVVLスイッチングロッカーアームシステムを示すものである。動作の間の圧力の増大または減少の特定の速度(曲線の傾き)は、上に挙げた事象のタイミングによって特徴付けられる正常動作の特性である。エラー状況の例には、ラッチ応答時間の悪化を示す圧力事象の時間ずれ、事象の発生率の変化(圧力曲線の傾きの変化)、または、圧力事象の振幅の全体的な減少が含まれる。例えば、15〜20msの期間における予想される圧力増大に対する低下は、ラッチが完全に退縮しなかったため、臨界的シフトが生じるおそれがあることを示す。
これらの例における試験データは、約344.75kPa(50psi)の作動油圧及び70℃の作動油温度で測定された。異なる運転条件での一連の試験によって、切換診断のためにECUによって使用される特性曲線のデータベースを得ることができる。
切換を診断するために圧力測定を使用する別の実施形態について説明する。図3に示すDFHLA110は、ラッシュの管理と、CDAまたはDVVLのようなスイッチングロッカーアームアセンブリを使用するVVAシステムを駆動するための作動油の供給との両方に使用される。図52に断面を示すように、DVVLロッカーアームアセンブリ100の通常のラッシュ管理をすることによって、高リフト動作または低リフト動作の両方の間に、ボールプランジャー601に、内側アームアセンブリ622の受入ソケットとの接触を維持させるものである。DFHLA110は、エンジン内で完全に組み立てられたとき、固定位置にあり、一方、内側ロッカーアームアセンブリ222は、ボール先端の接触点611回りの回転運動を呈する。内側アームアセンブリ622の回転運動及びボールプラジャー負荷615は、高リフト状態と低リフト状態の切換が行われると、大きさが変動する。ボールプランジャー601は、負荷と運動の変動を補償しつつ運動するように構成される。
ボールプランジャー負荷615の力の補償は、下側制御ギャラリーが下側ポート512からチャンバー905(図11)へ連通するときに、下側制御ギャラリー805内の作動油圧によって提供される。 図6、図7に示すように、未調整圧の作動油は、エンジンのシリンダーヘッドから下側制御ギャラリー805内に連通する。
複数の実施形態において、DFHLA110のラッシュアジャスタ部分に供給する油圧ギャラリー805内には、圧力変換器が配置される。圧力変換器は、高リフト状態から低リフト状態へ、または、低リフト状態から高リフト状態へ遷移するときに、ラッシュアジャスタに供給する油圧ギャラリー805内の過渡的な圧力変動を監視するために使用することができる。1つのモードから他のモードへの切換が行われるときに圧力特性を監視することによって、システムは、可変バルブ駆動システムの任意の箇所で誤動作が生じた時期を検出することが可能となる。複数の実施形態において、時間(ミリ秒)に対する圧力としてプロットされる圧力特性曲線は、振幅、傾き、及び/または他のパラメータを含むことができる特性形状を示すものである。
例えば、図17Cには、時間(ミリ秒)に対する吸気バルブリフトのプロファイル曲線814が、同じ時間尺度に対する油圧ギャラリーの圧力曲線1005、1006と重ねられて、プロットされている。圧力曲線1006及びバルブリフトのプロファイル曲線816は、低リフト状態に対応し、圧力曲線1005及びバルブリフトのプロファイル曲線814は、高リフト状態に対応する。
定常状態の運転の間、圧力特性曲線1005、1006は、循環的な挙動を示し、DFHLAが変動するボールプランジャー負荷615を補償するときに生じる明確なスパイク1007、1008を備えている。この変動するボールプランジャー負荷は、カムがロッカーアームアセンブリを押下してバルブバネ(図3)を圧縮し、また、バルブバネが伸長してバルブを閉止し、そして、カムが、リフトが生じない基礎円上にあるときに生じる。図17Cに示すように、過渡的な圧力スパイク1006及び1007は、それぞれ低リフト及び高リフトのプロファイル816、814のピークと対応する。油圧システムの圧力が安定化されると、定常状態の圧力特性曲線1005、1006が再開する。
上述し、次の節でも説明するように、DFHLAの作動油流路、穴、クリアランス、及びチャンバーの固定された幾何学的構成は、与えられた作動油圧及び温度に対する油圧応答及び油圧の過渡変動に関連する変数である。図17Cに示す圧力特性曲線1005、1006は、許与可能な範囲で動作するDVVLスイッチングロッカーアームアセンブリを記述するものである。運転の間、圧力の増大または減少の特定の速度(曲線の傾き)、圧力のピーク値、及び、最大リフトに対する圧力ピークのタイミングも、切換事象のタイミングによって特徴付けられる正常運転の指標である。エラー状況の例には、圧力事象の時間ずれ、事象の発生率(圧力曲線の傾き)の変化、圧力の急激な予期しない過渡変化、または、圧力事象の振幅の全体的な減少が含まれるものであってもよい。
異なる複数の運転条件における一連の試験によって、ECUで切換診断のために使用される特性曲線のデータベースを備えることができる。システム構成及び車両の要件に基づいて1つまたはいくつかの圧力値を使用することができる。システムの誤動作の時期を判別するために、監視される圧力波形を標準の波形と比較することができる。
3. 切換制御及びロジック
3.1 エンジン実装
以下の節で、図4に示すDVVLスイッチングロッカーアーム100に、制御された圧力でエンジンオイルを供給するDVVL油圧システムについて、4気筒エンジンにおける第2型バルブトレインの吸気バルブに組み付けられた形で説明する。別の実施形態では、この作動油供給システムは、ピストン駆動式内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの任意の組合せに適用することができる。
3.2 ロッカーアームアセンブリへの作動油供給システム
図3、図6、図7には、DVVLスイッチングロッカーアーム100(図4)に、制御された圧力でエンジンオイル801を供給するDVVL油圧システムが示されている。この構成では、圧力調整されていないシリンダーヘッド801からのエンジンオイルは、HLA下側供給ギャラリー805に供給される。図3に示すように、このオイルは、常に、DFHLAの下側供給入口512と流体的に連通し、そこで、通常のラッシュ調整を実行するために使用される。圧力調整されていないシリンダーヘッド801からのエンジンオイルは、油量制御バルブアセンブリの入口801にも供給される。上述したように、このDVVL実施形態のOCVアセンブリ820は、独立に駆動され、共通の入口821からのオイル圧力を調整する2つのソレノイドバルブを含んでいる。OCVアセンブリ820の第1制御ポート出口822からの作動油は、第1上側ギャラリー802に供給され、第2制御ポート823からの作動油は、第2上側ギャラリー803に供給される。第1OCVは、シリンダー1及びシリンダー2のリフトモードを決定し、第2OCVは、シリンダー3及びシリンダー4のリフトモードを決定する。図18に示し、以下の節で説明するように、OCVアセンブリ820におけるバルブの駆動は、エンジン制御装置825によって指令され、エンジン制御装置は、特定の物理的構成、スイッチングウィンドウ、及び、一群の運転パラメータ(例えば、特定の気筒数及び特定のオイル温度)についての検知された情報及び保存された情報の両方に基づくロジックを使用する。上側ギャラリーからの圧力調整された作動油は、DFHLA上側ポート506に向けられ、ここで、流路509を通じてスイッチングロッカーアームアセンブリ100に伝達される。図19に示すように、作動油は、第1オイルギャラリー144及び第2オイルギャラリー146を介し、ロッカーアームアセンブリ100を通じてラッチピンアセンブリ201に連通し、ここで、高リフト状態と低リフト状態の切換を始動させるために使用される。
上側ギャラリー802、803内に蓄積された空気をパージすることは、流体剛性を維持するとともに圧力上昇時間の変動を最小化するために重要である。圧力上昇時間は、切換動作の間のラッチ移動時間に直接影響を及ぼす。蓄積された空気をシリンダーヘッドのバルブカバー下の空気隙間に逃すために、上側ギャラリー802、803の高い位置に、図6に示す受動的抽気ポート832、833が追加された。
3.2.1 低リフトモードにおける作動油供給
ここで、図8を参照すると、DVVLシステムは、低リフトモードにおいて、アイドル状態から3500rpmまで動作するように構成されている。ロッカーアームアセンブリ100及び3ローブ型カム102の断面図は、低リフト運転を示す。図8及び図19に示されるアセンブリの主要な構成要素には、内側アーム122、ローラーベアリング128、外側アーム120、スライダーパッド130、132、ラッチ200、ラッチバネ239、ピボット軸118、及びロストモーションねじりバネ134、136が含まれる。低リフト運転の場合、OCVアセンブリ820のソレノイドバルブが励磁されると、2.0×105Pa(2.0 bar)以上の未調整油圧が、制御ギャラリー802、803及びDFHLA110を通じてスイッチングロッカーアームアセンブリ100に供給される。この圧力によってラッチ200は退縮し、内側アーム122と外側アーム120はロック解除されて、独立に移動できるようになる。高リフトカムシャフトローブ104、106(図3)の、外側アーム120上のスライディングインタフェースパッド130、132との接触は維持される。外側アーム120は、ピボット軸118回りに回転し、バルブ112に対して何の移動も生じさせない。これは、一般的に、ロストモーションと呼ばれる。低リフトカムのプロファイル816(図5)は、早期にバルブを閉止するように構成されるため、スイッチングロッカーアーム100は、高リフトカムシャフトローブ104、106(図3)からの全ての動きを移動するように構成される必要がある。ロストモーションねじりバネ134、136(図15)からの力によって、外側アーム120が、高リフトローブ104、106(図3)と接触したままでいることが保障される。低リフトローブ108(図3)は、内側アーム122上のローラーベアリング128と接触し、バルブは、低リフトにおける早期のバルブ閉止のプロファイル816(図5)に従って開放される。
3.2.2 高リフトモードにおける作動油供給
ここで、図9を参照すると、DVVLシステムは、高リフトモードにおいて、アイドル状態から7300rpmまで動作するように構成されている。ロッカーアームアセンブリ100及び3ローブ型カム102の断面図は、高リフト運転を示す。図9及び図19に示されるアセンブリの主要な構成要素には、内側アーム122、ローラーベアリング128、外側アーム120、スライダーパッド130、132、ラッチ200、ラッチバネ239、ピボット軸118、及びロストモーションねじりバネ134、136が含まれる。
高リフト運転を開始するために、OCVセンブリー820のソレノイドバルブは非励磁状態とされる。ラッチバネ200はラッチ200を伸長させ、内側アーム122と外側アーム120とをロックする。これらのロックされたアームは、1つの固定されたロッカーアームのように機能する。対称な高リフトローブ104、106(図3)は、外側アーム120上のスライダーパッド130、(及び図示を省略する132)に接触し、内側アーム122をDFHLA110のボールエンド601回りに回転させ、高リフトのプロファイル814(図5)に従ってバルブ112を開放する。この間に、0.2×105〜0.4×105Pa(0.2〜0.4 bar)に調整された油圧が、制御ギャラリー802、803を通じてスイッチングロッカーアーム100に供給される。油圧が0.2×105〜0.4×105Pa(0.2〜0.4 bar)に維持されることによって、オイル流路は充填された状態に維持されるが、ラッチ200は退縮されない。
高リフトモードでは、最大のエンジン回転速度におけるバルブトレインの適切なラッシュ補償を確実に実行するために、DFHLAのデュアルフィード機能が重要である。図9に示す下側ギャラリー805は、シリンダーヘッドの油圧を下側DFHLAポート512(図11)に連通する。DFHLAの下側部分は、通常の油圧式ラッシュ補償機構を実行するように構成されている。DFHLA110機構は、空気混入を避け、かつ全てのエンジン回転速度でオイルが一杯に充填された状態を維持するために、作動油が十分な圧力を確実に有するように構成された。このシステムにおいて、流体剛性及び適切なバルブトレイン機能が維持される。
図20に示す表は、高リフトモード及び低リフトモードの圧力状態をまとめたものである。ロッカーアームアセンブリの切換機能からの、DFHLAの通常のラッシュ補償機能の流体分離についても示されている。高リフトモード(ラッチは伸長され、係合されている状態)がデフォルトモードであるため、エンジンは、高リフトモードで始動する。
3.3 運転パラメータ
DVVLシステムの運転における重要な因子は、高リフトモードから低リフトモードへの切換制御の信頼性である。DVVLバルブ駆動システムは、所定の時間窓の間のみ、モード間の切換が実行できる。上述したように、高リフトモードから低リフトモードへの切換及び低リフトモードから高リフトモードへの切換は、エンジン制御装置(ECU)825(図18)からの信号によって始動する。エンジン制御装置は、保存された情報(例えば、特定の物理的構成に対する切換時間窓(スイッチングウィンドウ)、保存された運転情報、及び、センサによって収集されて処理された情報)を分析するロジックを使用する。スイッチングウィンドウ時間は、DVVLシステムの物理的構成によって決定され、この物理的構成には、気筒数、1つのOCVにより制御される気筒数、バルブリフト時間、エンジン回転速度、油圧制御及び機械システムに固有のラッチ応答時間が含まれる。
3.3.1 収集されたデータ
実時間のセンサ情報には、図6に開示する例示的なDVVLシステム800に示されるように、任意の数のセンサからの入力が含まれる。これらのセンサの検知する情報には、次の情報が含まれるものであってもよい。1)一実施形態において、上述した線形可変差動トランス(LVDT)使用して測定されるような、バルブステム移動829。2)ホール効果センサまたは運動検出器の使用による移動/位置828及びラッチ位置827。3)近接スイッチ、ホール効果センサ、または他の手段の使用によるDFHLA移動826。4)作動油圧830。5)作動油温度890。カムシャフトの回転位置及び回転速度は、直接収集されるものであってもよく、または、エンジンの回転速度センサから推定されるものであってもよい。
油圧駆動VVAシステムにおいて、作動油温度(オイル温度)は、CDA及びVVLのようなシステムにおける切換のために使用される油圧システムの剛性に影響を及ぼす。作動油が冷たすぎる場合、粘性により切換時間が遅くなり、誤動作を引き起こす。例示的なDVVLスイッチングロッカーアームシステムにおけるこの関係が、図21−図22に示されている。図6に示すセンサ890を、エンジンオイルクランクケース内ではなく、使用箇所の近傍に配置すうことによって取得された正確な作動油温度が、最も正確な情報を与える。一例として、VVAシステムにおいて、油量制御バルブ(OCV)に近接して監視された作動油温度は、必要な流体剛性を用いて低リフト(未ラッチ状態)運転を始動するために、20℃以上でなければならない。測定値は、任意の数の市販の部品(例えば、熱電対)を使用して取得することができる。油量制御バルブについては、2010年4月15日に公開された米国特許出願公開第2010/0089347号、及び、2010年1月28日に公開された米国特許出願公開第2010/0018482号にさらに詳しく説明されており、これらの文献の開示内容の全体は、参照により本明細に含まれる。
センサ情報は、実時間の運転パラメータとして、エンジン制御装置(ECU)825に送信される(図18)。
3.3.2 保存された情報
3.3.2.1 スイッチングウィンドウアルゴリズム
機械的スイッチングウィンドウ
図4に示す3ローブ型カムの各ローブの形状には、リフトが生じない基礎円部605、607、609と、リフト事象の前に機械的クリアランスを取るために使用される遷移部と、バルブ112を移動させるリフト部とが含まれる。システム800(図6)に組み付けられた、例示的なDVVLスイッチングロッカーアーム100において、高リフトモードと低リフトモードとの切換は、ラッチ上にその移動を妨げる負荷がない基礎円動作の間にのみ生じることができる。この機構については、以下の節において詳述する。図5のグラフには、基礎円動作のリフトなし部分863が示されている。DVVLシステム800では、最大で3500rpmのエンジン回転速度及び20℃以上の作動油温度において、カムシャフトの1回転のうちに切換が行われる。切換が、タイミングウィンドウまたは所定の作動油条件の外で行われた場合、臨界的シフト事象が発生する場合がある。臨界的シフト事象は、バルブアクチュエータスイッチング要素上またはエンジンバルブ上の負荷が、切換の間にそれらの構造が適合するように設計された負荷よりも高いときのエンジンサイクル内の点における、エンジンバルブ位置の移動である。臨界的シフト事象によって、バルブトレイン及び/または他のエンジン部品が損傷する場合がある。スイッチングウィンドウは、さらに、制御ギャラリー内の圧力を変更し、ラッチを伸長位置から退縮位置に(及び、退縮位置から院長位置に)移動させるために必要とされるカムシャフトクランク角の持続時間として定義される。
図7に示し、上述したように、DVVLシステムは、独立して制御される2つのソレノイドバルブを備えた1つのOCVアセンブリ820を有している。第1バルブは、第1上側ャラリー802の圧力を制御し、シリンダー1及びシリンダー2のリフトモードを決定する。第2バルは、第2上側ャラリー803の圧力を制御し、シリンダー3及びシリンダー4のリフトモードを決定する。図23には、このOCVアセンブリ820(図3)において、シリンダー着火順序が(2−1−3−4)であるインライン型4気筒エンジンのクランクシャフト角に対する、吸気バルブタイミング(リフトシーケンス)が示されている。シリンダー2(851)、シリンダー1(852)、シリンダー3(853)、及びシリンダー4(854)の高リフト吸気バルブのプロファイルが、クランク角に対してプロットされたリフトとして、図の上部に示されている。対応するシリンダーのバルブリフト持続時間は、クランク角に対する持続時間領域855、856、857、858として、図の下部に示されている。個々のシリンダーに対して、リフトがない基礎円動作領域863も示されている。所定のスイッチングウィンドウは、それぞれのOCVが2つのシリンダーを一度に制御するように構成されているという付加条件のもとに、1回転のうちにラッチを移動させるように決定されなければならない。
機械的スイッチングウィンドウは、ラッチの移動を理解して改善することによって、最適化することができる。ここで、図24〜図25を参照すると、スイッチングロッカーアームアセンブリ100の機械的構成には、効果的なスイッチングウィンドウの増大が可能な2つの異なる条件がある。第1の条件は、高リフトラッチ制限と呼ばれ、高リフトモードで生じる。このとき、ラッチ200は、バルブ112を開放するように負荷が印加されることによって、所定の位置にロックされている。第2の条件は、低リフトラッチ制限と呼ばれ、未ラッチ状態の低リフトモードで生じる。このとき、外側アーム120が、外側アーム120下でラッチ200が伸長することを阻止している。以下でこれらの条件について説明する。
高リフトラッチ制限
図24には、ラッチ200が外側アーム120と係合する高リフト事象が示されている。バルブバネ114により付勢される力に抗してバルブが開放されると、ラッチ200は、その力を内側アーム122から外側アーム120に伝達する。バネ114の力がラッチ200により伝達されると、ラッチ200は、その伸長位置にロックされることになる。この条件において、高リフトモードから低リフトモードへの切換を試みている間に、OCVの切換を行うために印加される作動油圧は、ラッチ200をロックし、それが退縮することを妨げている力に勝つには不十分である。この条件は、高リフト事象が終了し、ラッチ200が無負荷状態になる基礎円動作863が開始する(図23)前に、圧力印加が可能となることによって、全スイッチングウィンドウを延長させるものである。ラッチ200上の力が解除されるときに、切換事象を直ちに開始することができる。
低リフットラッチ制限
図25には、ラッチ200が低リフトモードで退縮しているときの低リフト動作が示されている。この事象のリフト部分の間に、OCVで切換が行われて高リフトのラッチ状態に復帰するために作動油圧が低減したとしても、外側アーム120が、ラッチ200を阻止して、その伸長を妨げている。この条件は、低リフト事象が終了し、基礎円動作863が開始する(図23)前に、作動油圧の開放が可能となることによって、全スイッチングウィンドウを延長させるものである。基礎円が到達すると、ラッチバネ230がラッチ20を伸長させることができる。基礎円の前に圧力を開放することが可能であることによって、全スイッチングウィンドウが増大する。カムシャフトが基礎円を回転させるときに、切換を直ちに開始することができる。
図26には、図23に示した情報と同じ情報が示されている。但し、図26には、高リフト状態と低リフト状態との間の機械的切換工程の各ステップを完了するために必要な時間が重ねて示されている。これらのステップは、機械的ロッカーアームアセンブリの構成に特有の機械的切換の要素を表している。図23に関連して上述したように、エンジンの点火順序は、クランク角に対応して、シリンダー2を基準として、吸気バルブプロファイル851、852、853、854に沿って、上部に示されている。ラッチ200は、吸気カムローブが基礎円863上にある間(機械的スイッチングウィンドウと呼ばれる)に、移動しなければならない。OCVアセンブリ820の各ソレノイドバルブは、2つのシリンダーを制御しているため、スイッチングウィンドウは、両方のシリンダーがそれぞれ対応する基礎円上である間に適合するように調節しなければならない、シリンダー2は、285度のクランク角で基礎円に戻る。ラッチ移動は、シリンダー2の次のリフト事象の前に、690度のクランク角までに完了しなければならない。同様に、シリンダー1は、456度で基礎円に戻り、切換は150度までに完了しなければならない。図から分かるように、シリンダー1及びシリンダー2のスイッチングウィンドウは、少し異なっている。図から分かるように、第1OCVの電気的トリガーは、シリンダー1の吸気リフト事象の前に切換を開始し、また、第2OCVの電気的トリガーは、シリンダー4の吸気リフト事象の前に開始する。
図26における切換時間を3500rpmの最大切換速度で定義するために、最悪状況解析法が実行された。ここで、エンジンは、7300rpmというずっと大きな速度で運転されるものであってもよいが、3500rpmを超えたモード切換は許容されないことに注意されたい。シリンダー2の全スイッチングウィンドウは26ミリ秒であり、この時間は、7ミリ秒の高リフト/低リフトラッチ制限時間861と、19ミリ秒の機械的切換時間864の2つの部分に分けられる。10ミリ秒の機械的応答時間862は、全てのシリンダーに対して一定である。シリンダー1について、15ミリ秒のラッチ制限時間861が長いのは、OCV切換が、シリンダー1が吸気リフト事象上にある間に開始され、ラッチの移動が制限されているためである。
全スイッチングウィンドウを満足するために、いくつかの機械的及び流体的な拘束条件に適合しなければならない。第1に、次の吸気リフト事象が開始する前に完了しない切換によって生じる臨界的シフト860は、避けなければならない。第2に、実験データは、20℃という可能な最低のエンジンオイル温度でラッチを移動するための最大切換時間は、10ミリ秒であることを示している。図26に関連して上述したように、基礎円上の機械的切換864のために19ミリ秒が使用可能である。全ての試験データが、切換の機械的応答863は、最初の10ミリ秒内で生じることを示しているため、機械的切換時間864のために19ミリ秒の全体は必要ではない。機械的拘束条件及び流体的拘束条件の組合せによって、最悪状況における切換時間である17ミリ秒には、ラッチ制限時間861に加えてラッチ機械的応答時間862が含まれる。
DVVL切換ロッカーアームシステムは、9ミリ秒の余裕を持って切換を達成するように構成される。さらに、9ミリ秒の余裕によって、3500rpmを超えた速度での切換が可能とすることができる。図26に示すように、シリンダー3及びシリンダー4は、シリンダー1及びシリンダー2と、異なる位相で、同じ切換時間に対応する。OCVアセンブリのソレノイドバルブを動作させるために必要な電気的切換時間は、この解析には含まれていない。但し、OCVの励磁から制御ギャラリーの作動油圧が変化を開始するための時間は、予測可能であるため、この変数を考慮するように、ECUを容易に較正することができる。
ここで、図4及び図25Aに示すように、カムシャフトの回転とラッチ200の移動のタイミングが一致して、ラッチ200に一端で負荷が印加され、そこでラッチが外側アーム120上に部分的にのみ係合した場合、臨界的シフトが発生する場合がある。一旦、高リフト事象が開始すると、ラッチ200は、外側アーム120から滑って外れる可能性がある。これが発生すると、内側アーム122が、バルブバネ114の力によって加速されて、ローラー128と低リフトカムローブ108との間に衝突を生じさせることになる。臨界的シフトによって、ロッカーアームアセンブリ100及びバルブの移動の制御に瞬時的な損失が発生し、また、システムに衝撃が発生するため、臨界的シフトは望ましくない。DVVLスイッチングロッカーアームは、寿命分の臨界的シフトの発生に応じるように構成された。
3.3.2.2 保存された運転パラメータ
運転パラメータは、切換ロジック制御のためのECU825(図18)によって使用される、保存された情報を含む。切換ロジック制御は、以下の節で説明される拡張試験の間に収集されたデータに基づく。既知の運転パラメータのいつくつかの例について説明する。様々な実施形態において、1)高リフト状態から低リフト状態への切換のために、20℃という最低作動油温度が必要である。2)切換動作のためのエンジンサンプ内に発生する油圧について、2×105Pa(2 bar)という最小作動油圧が必要である。3)図21〜図22に示すグラフのデータによれば、ラッチ応答切換時間は、作動油温度とともに変動する。4)図17に示し、上述したように、切換動作によって生じる予測可能な圧力変動が、圧力センサ890によって決定されるように、上側ギャラリー802、803(図6)に発生する。5)図5に示し、上述したような、クランク角(時間)に対する既知のバルブの移動は、リフトプロファイル814、816に基づいて、予め決定し保存することができる。
3.3 制御ロジック
上述したように、DVVL切換は、特定の運転条件の下で、短い既定の時間ウィンドウ内でのみ行うことができる。そして、タイミングウィンドウの外でDVVLの切換を行うと、臨界的シフト事象が発生し、バルブトレイン及び/または他の部品が損傷するおそれがある。作動油圧、温度、排気、及び負荷のようなエンジン条件は、素早く変動する可能性があるため、実時間条件を解析し、作動システムの特性を示す既知の運転パラメータと比較し、切換の時期を決定するためにその結果を調整し、切換信号を送信するために、高速の処理装置を使用することができる。これらの動作は、1秒当たり数百回または数千回実施することができる。様々な実施形態において、この計算機能は、専用の処理装置によって実行されるものであってもよく、または、エンジン制御装置(ECU)と呼ばれる既存の汎用の自動車用制御システムによって実行されるものであってもよい。典型的なECUは、アナログデータ及びデジタルデータのための入力部と、マイクロプロセッサ、プログラム可能なメモリ、及びランダムアクセスメモリを含む処理部と、出力部とを含む。出力部は、リレー、スイッチ、及び警告灯の作動を含むものであってもよい。
一実施形態において、図6及び図18に示すエンジン制御装置(ECU)825は、バルブステムの移動829、移動/位置828、ラッチ位置827、DFHLA移動826、作動油圧830、及び作動油温度890のような、複数のセンサからの入力を受け入れる。所定のエンジン回転速度(図20)で可能な運転温度及び圧力、及び、(図26に示し、他の節で説明したような)スイッチングウィンドウのようなデータが、メモリに保存される。そして、実時間で収集された情報が、保存された情報と比較され、解析されて、ECU825が切換のタイミングを決め、制御するためのロジックが与えられる。
入力が解析された後、ECU825によって、OCV820に制御信号が出力され、切換動作が開始される。切換動作は、燃費の改善及び排気の低減等のエンジン性能の目標に対応しながら、臨界的シフト事象を避けるように、タイミングが調整される。必要な場合、ECU825は、エラー状況に対応して運転者に警告するものであってもよい。
4. DVVLスイッチングロッカーアームアセンブリ
4.1 アセンブリの説明
油圧油によって駆動され、カムに係合するスイッチングロッカーアームについて説明する。外側アームと内側アームは、内燃機関のバルブに移動を伝達するように構成される。ラッチ機構は、ラッチ、スリーブ、及び配向部材を含む。スリーブは、ラッチ及び内側アーム内のボアに係合し、配向部材のための開口部を備える。配向部材は、スリーブ及び内側アームに対してラッチを正しく方向付けるために使用される。スリーブ、ラッチ、及び内側アームは、ラッチの最適な配向を決定するために使用される基準マークを有する。
例示的なスイッチングロッカーアーム100は、図4の透視図に示すように、3ローブ型カム102とともに動作する間に構成されるものであってもよい。あるいは、同様のロッカーアームの実施形態は、2ローブ型カムのような他のカム構成とともに動作するように構成されるものであってもよい。スイッチングロッカーアーム100は、油圧式ラッシュ調整を維持する機構、及び、内側アーム122に切換用作動油を供給する機構を備えるように構成される。様々な実施形態において、デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)110が両方の機能を実現する。バルブ112、バネ114、及びバネ保持部材も上記アセンブリとともに構成される。カム102は、第1及び第2高リフトローブ116と、低リフトローブ108を有する。図27に示すように、スイッチングロッカーアームは、外側アーム120及び内側アーム122を有する。動作の間に、高リフトローブ104、106は、外側アーム122に接触し、一方、低リフトローブは、内側アーム122に接触する。ローブによって、外側アーム120と内側アーム122は周期的に下方へ移動する。この下方移動は、内側アーム122によってバルブ112に伝達され、それによって、バルブが開放される。ロッカーアーム100は、高リフトモードと低リフトモードとの間で切換可能である。高リフトモードでは、外側アーム120は、内側アーム122にラッチされる。エンジン運転の間、高リフトローブは、周期的に外側アーム120を押し下げる。外側アーム120は内側アーム122にラッチされているため、高リフト移動は、外側アーム120から内側アーム122に伝達され、さらに、バルブ112に伝達される。ロッカーアーム100が低リフトモードにあるとき、外側アーム120は、内側アーム122にラッチされず、したがって、外側アーム120によって示される高リフト移動は、内側アーム122に伝達されない。代わりに、低リフトローブは、内側アーム122に接触して、低リフト移動を発生させ、それがバルブ112に伝達される。内側アーム122にラッチされていないとき、外側アーム120は、軸118回りに旋回するが、移動をバルブ112に伝達することはない。
図27は、例示的なスイッチングロッカーアーム100の透視図である。スイッチングロッカーアーム100は、例としてのみ記載されており、本発明に係るスイッチングロッカーアーム100の構成は、図示されるスイッチングロッカーアーム100の構成に限定されるものではない。
図27に示されるように、スイッチングロッカーアーム100は、外側アーム120を含み、外側アームは、第1の外側サイドアーム124と第2の外側サイドアーム126を有する。内側アーム122及び外側アーム124の両方は、ピボット軸118に取り付けられる。ピボット軸は、ロッカーアーム100の第1端101に近接して配置され、内側アーム122は、第1端により、外側アーム120に対して内側アーム122のピボット軸118回りの回転の自由度を有しつつ、外側アーム122に固定される。外側アーム120と内側アーム122が取り付けられる別体のピボット軸118を有する図示された実施形態に加えて、ピボット軸118は、外側アーム120または内側アーム122の一部であってもよい。
図27に示されるロッカーアーム100は、3ローブ型カムの中央の低リフトローブに係合するように構成されたローラー128を有する。外側アーム120の第1及び第2スライダーパッド130、132は、図4に示す第1及び第2高リフトローブ104、106に係合するように構成される。第1及び第2ねじりバネ134、136は、高リフトローブ104、106によって変位された後、外側アーム120を上方に付勢するように機能する。このロッカーアーム構成は、過大トルクの復元機能を与える。
外側アームの第1及び第2過大移動リミッタ140、142は、ねじりバネ134、136の過大ねじれを防止し、バネ134、136上の過剰な応力を制限する。過大移動リミッタ140、142は、低リフトモードの間に外側アーム120がその最大回転に到達したときに、第1及び第2作動油ギャラリー144、146上で内側アーム122に接触する。この点で、過大移動リミッタ140、143とギャラリー144、146との間の干渉により、外側アーム120のさらなる下方への回転は停止する。図28は、ロッカーアーム100の上面図である。図28に示すように、過大移動リミッタ140,142は、外側アーム120から、内側アーム122のギャラリー144、146に重なるように内側アーム122に向かって伸びており、これによって、リミッタ140、142とギャラリー144、146とが確実に干渉する。図29は、29−29線に沿った断面を示す断面図である。図29に示すように、リミッタ140の接触面143は、ギャラリー144の断面形状に整合するような外形を有している。これは、リミッタ140、142がギャラリー144、146に接触するときに、一様に分布する力を印加するために役立つ。
上述したように、低リフトモードの間に外側アーム120がその最大回転に到達すると、図15に示すラッチストップ90が、ラッチの伸長を妨げて、不正にロックすることが防止される。この機能は、必要に応じて、外側アーム120の形状に適合するように構成することができる。
図27は、ロッカーアーム100を上方から見た透視図である。図27は、本発明の一実施形態に従うねじりバネ134、136を示すものである。図28は、図27に示すロッカーアームアセンブリ100の平面図である。この構成は、それぞれ保持軸118周りに巻回されたねじりバネ134、136を備えるロッカーアームアセンブリ100を示すものである。
スイッチングロッカーアームアセンブリ100は、性能及び耐久性を犠牲にすることなく、限られたエンジン空間内に組み込まれるために十分な程度に小型でなければならない。構成のトルク要件を満たすサイズの円形ワイヤを巻回してなる従来のねじりバネは、実施形態によっては、図28に示すような、外側アーム120と内側アーム122との間に許容されるバネ空間121内に組み込まれるためには幅広過ぎるものである。
4.2 ねじりバネ
ねじりバネ134、136の構成及び製造工程について説明する。このねじりバネは、選択された構成材料から形成された略四角形のワイヤを使用した小型の構成を備えている。
ここで、図15、28、30A、及び30Bを参照すると、ねじりバネ134、136は、略台形状のワイヤ397から構成される。この台形は、巻回工程の間に力が印加されると、ワイヤ397が略四角形の形状に変形することが可能なように構成されている。ねじりバネ134、136が巻回された後、結果として生じるワイヤの形状は、略四角形の断面形状を備える第1ワイヤ396と同様のものである。図28の8線に沿った断面において、2つのねじりバネ134、136は、複数のコイル398,399の断面として示されている。好適な実施形態において、ワイヤ396は、この例では垂直な辺402、404として示されている2つの長辺と、上辺401及び底辺403とをそなえた四角形の断面形状を有する。コイルの上辺401と底辺403の平均長の、辺402と辺404の平均長に対する比率は、1未満の任意の値とすることができる。この比率によって、コイル398の上辺401と底辺403の平均長に等しい直径を備えた円形ワイヤを使用して巻回されたバネよりも、曲げに対してコイル軸400に沿った大きな剛性が生じる。別の実施形態において、ワイヤの断面は、長い上辺401と短い底辺403とを備えた略台形状を有する。
この構成において、コイルが巻回されると、各コイルの長辺402は、直前のコイルの長辺402上に載置されることになり、これによって、ねじりバネ134、136が安定化される。この形状及び構成では、全てのコイルが直立して保持され、圧力印加時に互いに擦れること、または傾くことが防止される。
ロッカーアームアセンブリ100の動作時、略四角形または台形のねじりバネ134、136は、図30A、図30B、及び図19に示す軸400回りに曲げられたとき、高い部分応力が発生し、特に、上面401上に引張応力が発生する。
耐久性要件を満たすため、技術と材料とを組み合わせて使用される。例えば、ねじりバネ134、136は、強度及び耐久性を改善する構成とともに、クロム・バナジウム合金鋼を含む材料から形成するものであってもよい。
ねじりバネ134、136は、加熱後急冷することによって、バネ性をやわらげるものであってもよい。これによって、残留応力が低減する。
ねじりバネ134、136を形成するためのワイヤ396、397の表面に投射物を衝突させること、または「ショットピーニング」が、ワイヤ396、397の表面に残留圧縮応力を付加するために使用される。次いで、ワイヤ396、397は、巻回されてねじりバネ134、136となる。このようなショットピーニングにより、結果として生じるねじりバネ134、136は、ショットピーニングを行うことなく形成された同等のバネよりも大きな引張応力を受け入れることが可能となる。
4.3 ねじりバネ用ポケット
スイッチングロッカーアームアセンブリ100は、周りの構造物への衝撃を最小化しつつ、限られたエンジン空間内に組み込まれるために十分な程度に小型であってもよい。スイッチングロッカーアーム100は、近接する構成要素によって形成される保持機能を備えたねじりバネ用ソケットを備えている。
ここで、図27、図19、図28、及び図31を参照すると、外側アーム120及び内側アーム122のアセンブリは、図31に示すポケット119を形成する。ポケットは、図19に示すねじりバネ134、136の端部のための全体的保持機能を含む。
ねじりバネ134、136は、ピボット軸118に沿って自由に移動することができる。組立てが完了すると、内側アーム22上の第1及び第2タブ405、406が、ねじりバネ134、136の内側端部409、410をそれぞれ保持する。外側アーム120上の第1及び第2過大移動リミッタ140、142は、組立て後、過度の拘束、または追加の材料及び部品を要することなく、それぞれ第1及び第2ねじりバネ134、136の外側端部407、408の回転を防止し、外側端部407、408を保持する。
4.4 外側アーム
外側アーム120は、動作の間に予測される特定の負荷に対して最適化されており、その曲げに対する抵抗、及び他の手段によってまたは他の方向に印加されるトルクによっては、仕様から外れたたわみが生じる場合もある。非動作的な負荷の例は、取り扱いまたは加工によって発生する。スライダーパッドを研削する間のクランプ及び保持を支援するために構成され、部品に組み込まれたクランプ機能またはクランプ面は、それが部品をゆがみなく固定するため、複数のスライダーパッドの間の平行性を維持するために必要な重要なステップである。図15に、ロッカーアーム100の別の透視図を示す。第1クランプ用ローブ150が、第1スライダーパッド130の下側から突出している。第2クランプ用ローブ(図示は省略する)は、同様に、第2スライダーパッド132の下側に配置されている。製造工程の間に、クランプ用ローブ150は、スライダーパッド130、132の研削の間のクランプに係合される。外側アーム120をロッカーアームアセンブリ100の部品として組み立てられた状態に近い位置に保持するクランプ用ローブ150に力が印加される。これらの面の研削には、パッド130、132が互いに平行であり、外側アーム12がゆがんでいないことが要求される。クランプ用ローブ150でクランプすることによって、他のクランプ構成では外側アーム120に発生するおそれがあるゆがみが、防止される。例えば、クランプ用ローブ150で、好適には外側アーム120の全体をクランプすることは、サイドアーム124、126を互いの方向に圧迫することによって発生するおそれがある機械的応力を消去することに役立つ。別の例では、クランプ用ローブ150の位置は、スライダーパッド130、132の直下であり、その結果、研削機との接触によって発生する外側アーム上のトルクが実質的にゼロになるかまたは最小化される。特定の応用例では、ゆがみを最小化するために、外側アーム120の他の部分に圧力を印加する必要がある場合もある。
4.5 DVVLアセンブリの動作
図19は、図27及び図15に示すスイッチングロッカーアーム100の展開図である。図19及び図28を参照すると、組立て後、ローラー128は、ニードルローラー型アセンブリ129の一部となる。このアセンブリは、ローラー128とローラー軸182との間に取り付けられるニードル180を有する。ローラー軸182は、ローラー軸開口部183、184を介して、内側アーム122に取り付けられる。
ローラーアセンブリ129は、低リフトカム108の回転運動を内側ロッカーアーム122に伝達し、さらに、未ラッチ状態においてバルブ112に伝達するように機能する。ピボット軸118は、カラー部123を通じて内側アーム122に取り付けられ、また、ピボット軸開口部160、162を通じて、ロッカーアーム100の第1端101で、外側アーム120に取り付けられる。未ラッチ状態における外側アーム120の内側アーム122に対するロストモーション回転は、ピボット軸118回りに発生する。ここに言うロストモーション運動は、未ラッチ状態における外側アーム120の内側アーム122に対する移動を意味する。この移動は、未ラッチ状態において、カム102の第1及び第2高リフトローブ104、106の回転運動を、バルブ112に伝達しない。
ローラーアセンブリ129及びパッド130、132以外の他の構成も、カム102からの運動をロッカーアーム100に伝達するために使用できる。例えば、パッド130、132のような滑らかな非回転面(図示は省略する)を、低リフトローブ108に係合するように内側アーム122上に配置し、ローラーアセンブリは、高リフトローブ104、106からロッカーアーム100の外側アーム120に運動を伝達するようにロッカーアーム100に取り付けられるものであってもよい。
ここで、図4、図9、図12を参照すると、上述したように、例示したスイッチングロッカーアーム100は、3ローブ型カム102を使用している。
動的負荷を非スイッチ型のロッカーアーム構成と可能な限り近づけつつ、構成を小型にするため、高リフトモードでの動作の間に、スライダーパッド130、132は、カムローブ104、106に接触する面として使用される。スライダーパッドは、動作の間に、ローラーベアリングのような他の構成よりも大きな摩擦を発生させ、第1スライダーパッド面130と第1高リフトローブ面104との間の摩擦、及び、第2スライダーパッド面132と第2項リフトローブ106との間の摩擦は、エンジンの効率損失をもたらす。
ロッカーアームアセンブリ100が、高リフトモードにある場合、バルブ開放の全負荷は、スライダーパッド130、132に印加される。ロッカーアームアセンブリ100が低リフトモードにあるとき、スライダーパッド130、132に印加されるバルブ開放事象の負荷は低減するが、存在する。例示したスイッチングロッカーアーム100のパッケージ化の拘束条件は、カムローブ104、106に接触するスライダーパッドエッジ長710,711と記述される各スライダーパッド130,132の幅が、大部分の既存のスライダー界面構成よりも狭いことを要求する。この結果、大部分の既存のスライダー界面構成よりも、部品負荷及び応力が高くなる。摩擦は、カムローブ104,106及びスライダーパッド130、132の過大な損耗を発生させ、高負荷と結びついた場合、早期の部品損傷をまねくおそれがある。例示したスイッチングロッカーアームアセンブリでは、外側アーム120上のスライダーパッド130、132上に、ダイアモンドライクカーボンコーティングのようなコーティングが使用される。
ダイアモンドライクカーボンコーティング(DLC)によって、摩擦を低減し、同時に、スライダーパッド130、132が必要な損耗特性及び負荷特性を備えることにより、例示したスイッチングロッカーアーム100の動作が可能となる。容易に理解されるように、DLCコーティングの利点は、このアセンブリまたは他のアセンブリの任意の部品面(例えば、ピボット軸面160、162、図19に示す外側アーム120上)に応用することができる。
類似のコーティング材料及び工程は存在するが、次のようなDVVLロッカーアームアセンブリシステムの要件を満足するために十分なものはない。これらの要件は、1)十分な硬度を有し、2)適切な負荷耐性を有し、3)動作環境において化学的に安定であり、4)外側アームのアニーリング温度を超えない温度の工程で付着され、5)エンジン寿命要件を満たし、6)鋼鉄と鋼鉄との界面と比較して摩擦が低減する、というものである。上述したDLCコーティングは、これらの要件を満たし、スライダーパッド面130、132に付着される。スライダーパッド面は、DLCコーティング用途に開発された研削ホイール材料及び速度を使用して、最終仕上まで研削される。また、このスライダーパッド面130,132は、いくつかの技術(例えば、蒸気噴射、または、微粒子サンドブラスト)のうちの一つを使用して、特定の表面粗さにまで研磨される。
4.5.1 油圧システム
ロッカーアームアセンブリ100の油圧式ラッチは、小さな空間に組み込まれなければならず、また、切換応答時間要件を満たし、作動油のポンピング損失を最小化するものでなければならない。作動油は、作動油流路に沿って制御された圧力で導かれ、制御された体積が、ラッチピンの切換を駆動するために必要な力及び速度を与えるような方法で、適用される。作動油流路には、システムが、適切な流体剛性を有しかつ適切な切換応答時間が生じるために、特定のクリアランス及びサイズが要求される。油圧システムの構成は、切換機構に含まれる他の要素(例えば、付勢バネ230)と協調するものでなければならない。
スイッチングロッカーアームアセンブリ100において、作動油は、一連の流体連通するチャンバー及び通路を通じてラッチピン機構201または任意の他の油圧駆動ラッチピン機構に伝達される。上述したように、作動油伝達システムは、DFHLA110の作動油ポート506から開始する。ここで、作動油または他の作動流体は、制御された圧力で導入される。圧力は、例えばソレノイドバルブのような切換装置で変更することができる。ボールプランジャーエンド601から出た後、作動油または他の作動流体は、この単一位置から、上述した内側アーム内の第1作動油ギャラリー144及び第2作動油ギャラリー146を通じて、図19に示すラッチピンアンセブリ201に向けられる。第1作動油ギャラリー及び第2作動油ギャラリーは、図10に示すボールソケット502から作動油が流れるときの圧力降下を最小化するサイズに形成されたボアを有する。
内側アーム122を外側アーム120にラッチするための機構201は、図19に示されている。外側アームは、図示された実施形態では、ロッカーアーム100の第2端103の近傍に配置される。機構201は、高リフトモードで伸長され、内側アーム122を外側アーム120に固定するラッチピン200を含む。低リフトモードにおいて、ラッチ200は、内側アーム122内に退縮し、これによって、外側アーム120のロストモーション運動が可能となる。作動油圧は、ラッチピン200の移動を制御するために使用される。
図32に示すように、ラッチピンアセンブリの一実施形態において、作動油ギャラリー144、146(図19参照)は、作動油開口部280を通じてチャンバー250に流体連通する。
作動油は、作動油開口部280及びラッチピンアセンブリ201に、動作モードに応じた範囲の圧力で供給される。
図33に示されるように、チャンバー250内に作動油が導入されると、ラッチ200がボア340内に退縮し、外側アーム120の内側アーム122に対するロストモーション回転が可能となる。作動油は、図32に示す第1チャンバー250から第2チャンバー420へ、第1の略円筒形の面205と面241との間を通って伝達されるものであってもよい。
作動油のうちのいくらかは、内側アーム122に穿孔された穴部209を通じてエンジンに戻される。ラッチされた高リフト状態に戻るとき付勢バネ230が伸長すると、残存する作動油は、作動油流路を通じて押し戻される。同様の流路は、通常未ラッチ状態の動作のために付勢されるラッチ機構に使用することができる。
ラッチピンアセンブリ構成は、クリアランス、公差、穴部サイズ、チャンバーのサイズ、バネ構成、及び、作動油の流れを制御する同様の寸法の組み合わせにより、ラッチピン応答時間を管理する。例えば、ラッチピン構成は、所定の圧力範囲における公差内で動作するアクティブ作動油領域を備えるように構成された複直径ピン、作動油のポンピング損失を制限するように構成された作動油シール用ランド、作動油送り込みチャンバーのような特徴を含むものであってもよい。
ここで、図32〜図34を参照すると、ラッチ200は、限られた空間内に、次のような複数の機能を与える構成上の特徴を含んでいる。
1. ラッチ200は、第1の略円筒面205と第2の略円筒面206を含む。第1の略円筒面205は、第2の略円筒面206よりも大きな直径を有する。ピン200及びスリーブ210をともにボア240内に組付けると、追加の部品を何ら要することなくチャンバー250が形成される。上述したように、この体積は、作動油開口部280と流体連通する。さらに、圧力面422の面積は、伝達される作動油圧と組み合わせて、ピン200を移動させ、付勢バネ230を圧縮し、低リフトモード(未ラッチ状態)に切換えるために必要な力を与えるように調整することができる。
2. 第1の略円筒面205と隣接するボア壁231との間の空間は、チャンバー250から第2チャンバー241へ流れる作動油の量を最小化するように意図されている。第2の略円筒面205と面241との間のクリアランスは、作動油の漏れ、及び、作動油が第1の略円筒面205と面241との間を、チャンバー250から第2チャンバー420に伝達されるときの関連する作動油ポンピング損失を発生させることなく、ピン200の自由な移動を可能にするために、精密に調整しなければならない。
3. パッケージ化の拘束条件により、ピン200の移動の軸に沿った距離が最小となることが要求される。いくつかの動作条件において、入手可能な作動油シール用ランド424は、第1の略円筒面205と面241との間を、チャンバー250から第2チャンバー420に伝達される作動油の流れを制御するために十分ではない場合がある。環状シール面について説明する。ラッチ200が退縮すると、ラッチは、その後面203でボア壁208と遭遇する。好適な一実施形態において、ラッチ200の後面203は、平坦環状面またはシール面207を有しており、この面は、第1及び第2の略円筒ボア壁241、242に対して略直交し、ボア壁208に対して平行である。平坦環状面207は、ボアへ来208に対してシールを形成する。これによって、ラッチ200の第1の略円筒面205と第1の略円筒ボア壁241によって形成されるシールを通じた、チャンバー250からの作動油漏れが低減する。シール面207の面積は、作動流体がシール面207とボア壁208との間、及び穴部209流れることを防止するシールを維持しながら、シール面207と、図32に示すボア壁208との間の作動油の薄膜によって生じる分離抵抗が最小化される大きさに設定される。
4. ラッチピン200の一実施形態において、作動油送り込み面(例えば、面取り面)426は、より素早い切換の開始を可能にし、圧力面422とスリーブエンド427との間の作動油の薄膜によって生じる分離抵抗を克服するような初期圧力面の面積を与える。面取り面のサイズ及び角度によって、通常の動作の間に発生する圧力変動による予期しない開始を発生させることなく、切換の開始が容易となる。ラッチピン200の第2実施形態において、図34に放射状に配置された一連のキャスタレーション428は、初期圧力面の面積を与える。この面積は、切換の素早い開始を可能にし、かつ、圧力面422とスリーブエンド427との間の作動油の薄膜によって生じる分離抵抗を克服するための大きさに設定される。
作動油送り込み面426は、圧力面422とスリーブエンド427との間の分離力の要件を低減させることによって切換のために必要な圧力及び作動油のポンピング損失も低減することができる。これらの関係は、切換応答とポンピング損失に対する増分的改善として見ることができる。
作動油が、上述したスイッチングロッカーアームアセンブリ100の油圧システムを通じて流れるとき、作動油圧と作動油流路の面積及び長さとの関係が、油圧システムの反応時間の大部分を規定し、また切換の応答時間にも直接影響を及ぼす。例えば、高圧かつ高速の作動油が大きな体積に入ると、その速度は突然遅くなり、反応時間または剛性が低減する。ロッカーアームアセンブリ100の動作に固有のこれらの関係の範囲は、計算することができる。例えば、一つの関係は、次のように記述される。すなわち、作動油が、2×105Pa(2 bar)の圧力でチャンバー250に供給される。ここで、作動油圧は、圧力面によって分けられて、付勢バネ230の力を超える力を伝達し、10ミリ秒内でラッチ状態の運転から未ラッチ状態の運転への切換を始動させる。
作動油のポンピング損失を最小化しながら、許容される流体剛性及び応答時間が生じるような特性の関係は、次のように定義することができる。
・作動油ギャラリー144、146の内部直径とボールソケット502から穴部280までの長さ
・ボア穴部280の直径と長さ
・圧力面422の面積
・全ての動作状態における第2チャンバー420の体積
・作動油シール用ランド424の長さ
・平坦環状面207の面積
・穴部2090の直径
・DFHLA110によって供給される作動油圧
・付勢バネ230の剛性(スティフネス)
・流路504、508、509の断面積
・作動油送り込み面426の面積及び数
・キャスタレーション428の数及び断面積
スイッチングロッカーアーム100における上述した油圧構成のラッチ応答時間は、例えば、次のような条件の範囲として記述できる。
作動油温度:10℃から120℃
作動油の種類:5w−20重量
この条件の結果として、ラッチ応答時間に影響を及ぼす作動油の粘性の範囲が設定される。
4.5.2 ラッチピン機構
ロッカーアームアセンブリ100のラッチピン機構201は、高リフトモードから低リフトモードへ、及び、低リフトモードから高リフトモードへ、機械的に切換える手段を与える。ラッチピン機構は、通常は未ラッチ状態にあるか、または、ラッチ状態にあるように構成することができる。いくつかの好適な実施形態について説明する。
一実施形態において、内側アーム122を外側アーム120にラッチするための機構201は、図19に示されている。外側アームは、図示された実施形態では、ロッカーアーム100の第2端103の近傍に配置される。機構201は、ラッチピン200、スリーブ210、配向ピン220、及びラッチバネ230を含む。機構201は、内側アーム122のボア240内に取り付けられるように構成される。以下に説明するように、組立てられたロッカーアーム100では、ラッチ200は、高リフトモードに伸長され、内側アーム122を外側アーム100に固定している。低リフトモードにおいて、ラッチ200は、内側アーム122内に退縮し、これによって、外側アーム120のロストモーション運動が可能となる。切換えられた作動油圧は、上述したように、第1及び第2ギャラリー144、146を通じて供給され、ラッチ200のラッチ状態または未ラッチ状態を制御する。プラグ179は、ギャラリー穴部172内に挿入され、第1及び第2作動油ギャラリー144、146を閉じる圧力的に密なシールを形成し、ギャラリーがラッチ機構201に作動油を通過させることが可能となる。
図32には、図28の32,33−32,33線に沿った断面を示す、ラッチ状態のラッチ機構201の断面図である。ラッチ200は、ボア240内に配置される。ラッチ200は、付勢バネ230が挿入されるバネ用ボア202を有している。ラッチ200は、後面203と前面204を有する。ラッチ200には、第1の略円筒面205と第2の略円筒面206も使用されている。第1の略円筒面205は、第2の略円筒面206よりも大きな直径を有する。バネ用ボア202は、面205、206で略同心に構成される。
スリーブ210は、第1の略円筒形のボア壁241との境界となる略円筒形の外面211と、略円筒形の内面215を有する。ボア240は、第1の略円筒形のボア壁241と、第1の略円筒形のボア壁241よりも大きな直径を有する第2の略円筒形のボア壁242とを有する。スリーブ210の略円筒形の外面211と、ラッチ200の第1の略円筒面205は、第1の略円筒形のボア壁241に係合して、圧力的に密なシールを形成する。さらに、スリーブ210の略円筒形の内面215も、ラッチ200の第2の略円筒面206と圧力的に密なシールを形成する。動作の間に、これらのシールによって、ラッチ200の第2の略円筒面206を取り囲むチャンバー250に、作動油圧が形成される。
ラッチ200のデフォルト位置は、図32に示すように、ラッチ位置である。バネ230は、ラッチ200をボア240からラッチ位置へ外側に付勢する。チャンバー250に印加される作動油圧は、ラッチ200を退縮させて、未ラッチ位置に移動させる。バネ230がラッチ200を未ラッチ位置に付勢し、ボア壁208と後面203との間に作動油圧を印加することにより、ラッチ200がボア240から外側に伸長して外側アーム120をラッチするといった、他の構成も可能である。
ラッチ状態において、ラッチ200は、外側アーム120のラッチ面214を、アーム係合面213で係合する。図32に示すように、外側アーム120は、下方への移動が妨げられ、ラッチ200を通じて内側アーム122へ運動を伝達する。配向形状212は、配向ピン221が内側アーム122の外側から第1ピン開口部217を通じて、次いでスリーブ210の第2ピン開口部218を通じて、内部へと伸長する流路の形を取る。保持部222は、ピン221を適切な位置に固定する。配向ピン221は、ラッチ200のボア240内の過大な回転を防止する。
図33に示し、上述したように、作動油がチャンバー250に導入されると、ラッチ200が、ボア240内に退縮し、それによって、外側アーム120は、内側アーム122に対してロストモーション回転をする。そして、外側アーム120は、もはや、ラッチ200により下方への移動が妨げられることはなく、ロストモーション運動を示す。作動油は、作動油ギャラリー144、146に流体連通する作動油開口部280を通じてチャンバー250に導入される。
図35A〜図35Fには、配向ピン221のいくつかの保持装置が示されている。図35Aでは、ピン221は、一様な厚さを有する円筒形である。図35Cに示すように、押込リング910が、スリーブ210に配置された凹部224に配置される。ピン221は、リング910内に挿入され、これによって、歯912が変形してピン221がリング910に固定される。そして、ピン221は、リング910が内側アーム122によって凹部224内に封入されることによって、所定の位置に固定される。図35Bに示すような別の実施形態では、ピン221は、リング910の歯910が押圧し、リング910をピン221に固定するスロット902を有する。図35Dに示すような別の実施形態では、ピン221は、図35Eに示した種類のE字形状のクリップ814を含むスロット904を有するか、または、図35Fに示したような弓状のE字形状のクリップ914が挿入されて、固定ピン221を内側アーム122に対して所定の位置に固定するものであってもよい。さらに別の実施形態において、スタンプ型リングの代わりにワイヤ型リングを使用するものであってもよい。組立ての間に、E字形状のクリップ914は凹部224に配置され、その点で、スリーブ210が内側アーム122に挿入され、配向ピン221がクリップ910を通じて挿入される。
図36に、ラッチ200の例が示されている。ラッチ200は、ヘッド部290と本体部292とに分けられる。前面204は、突出する凸状の面である。この面形状は、外側アーム120に向かって伸び、これによって、ラッチ200のアーム係合面213が外側アーム120に適切な係合する機会が増大する。アーム係合面213は、略平坦な面を含む。アーム係合面213は、第2の略円筒面206を備えた第1境界285から第2境界286へ、及び、前面を備えた境界287から面232を備えた境界233へ、伸びるものである。
アーム係合面213の、面232からラッチ200の長手軸Aの方向に最も遠くへ伸びる部分は、第1境界285と第2境界286との間に実質的に等距離に配置される。反対に、アーム係合面213の、面232からラッチ200の長手軸Aの方向に最も近くへ伸びる部分は、実質的に第1及び第2境界285、286に配置される。前面204は、凸曲面である必要はなく、代わりに、v字形状または他の形状の面であってもよい。この構成により、ラッチ200のアーム係合面213の外側アーム120への適切な係合の可能性を改善しながら、ラッチ200のボア240での回転を増大させることが可能となる。
図27に、別のラッチ機構201が示されている。中空のカップ状のプラグの形を取る配向プラグ1000は、スリーブ穴部1220内に圧入され、配向形状212内に伸びることによってラッチ200を向き付け、ラッチ200のスリーブ210に対する過大な回転を防止する。以下に説明するように、整列スロット1004は、ラッチ200をスリーブ210内での配向を設定し、ラッチ200がスリーブ210内で回転できる形状を与えることによって、最終的に内側アーム122内での配向を設定することを支援する。
図38〜図40を参照すると、スイッチングロッカーアーム100を組み立てる方法の例は次の通りである。配向プラグ1000がスリーブ穴部1002に圧入され、ラッチ200がスリーブ210の略円筒形の内面215に挿入される。
次いで、ラッチピン200は、配向形状212がプラグ1000に到達するまで時計回りに回転され、この点で、配向形状212とプラグ1000との干渉により更なる回転が防止される。次いで、図38に示すように、アーム係合面213と、スリーブの穴部1002に直行するように揃えられたスリーブ基準1010、1012との間の角度に対応する角度測定値A1が取得される。整列スロット1004は、ラッチ200の基準線としても機能するものであってもよいく、キースロット1014は、スリーブ210上に配置される基準としても機能するものであってもよい。次いで、ラッチピン200は、配向形状212がプラグ1000に到達するまで反時計回りに回転され、さらなる回転が防止される。図39に示されるように、アーム係合面213とスリーブ基準1010、1012との間の角度に対応する第2の角度測定値A2が取得される。A1及びA2を取得するために、反時計回りに回転させ、次いで時計回りに回転させるものであってもよい。図40に示すように、内側アーム122内に挿入されると、スリーブ210及びピンのサブアセンブリ1200は、内側アーム基準1020とスリーブ基準1010,1012との間で測定された角度にしたがって、角度Aだけ回転される。この結果、アーム係合面213は、内側アーム基準1020によって指示されるように、内側アーム122に対して水平に配向される。回転の量Aは、ラッチ200が外側アーム120に係合する可能性を最大化するように選択される必要がある。その一例は、サブアセンブリ1200を、内側アーム基準1020から測定されたA2とA1の差の半分の角度だけ回転させることである。本発明の範囲内において、他の調整量Aも可能である。
図41に、ピン1000のプロファイルの別の実施形態が示されている。ここでは、ピン1000は中空であり、内側体積1050を部分的に取り囲んでいる。ピンは、略円筒形の第1壁1030と略円筒形の第2壁1050を有する。略円筒形の第1壁1030は、第2壁1040の直径D2よりも大きい直径D1を有する。図41に示された実施形態において、フランジ1025は、ピン100が、スリーブ210のピン開口部218を通じて下方に移動することを制限するために使用される。図42に示す第2の実施形態では、圧入が、ピン100がスリーブ210のピン開口部218を通じて下方に移動することを制限する。
4.6 DVVLアセンブリのラッシュ管理
図4に示すDVVLスイッチングロッカーアームアセンブリ100において、3以上のラッシュ値を管理するか、またはクリアランスを構成する方法を説明する。これらの方法には、製造公差の範囲、許容損耗、及びカムローブ/ロッカーアーム接触面の設計プロファイルが含まれるものであってもよい。
DVVLアセンブリのラッシュの説明
図4に示したロッカーアームアセンブリ100の例は、アセンブリ内の1つ以上の位置で維持しなければならない1つ以上のラッシュ値を有する。図4に示す3ローブ型カム102は、3つのカムローブ、すなわち、第1高リフトローブ104、第2高リフトローブ106、及び低リフトローブ108を有する。カムローブ104、106、108は、それぞれ基礎円605、607、609を含むプロファイルを含んでいる。基礎円は、略円形であり、カムシャフトと同心である。
図4に示すスイッチングロッカーアームアセンブリ100は、2つの位置に小さなクリアランス(ラッシュ)を有するように構成されている。第1位置は、図43に示されるように、ラッチパッド面214とアーム係合面213との間の距離であるラッチラッシュ602である。ラッチラッシュ602によって、高リフトモードと低リフトモードとの間の切換時に、ラッチ200に負荷がかからず自由に移動できることが保証される。図4,図27、図43、及び図49に示されるように、ラッシュの第2の例は、第1スライダーパッド130と第1高リフトカムローブの基礎円605との間の距離である、カムシャフトラッシュ610である。カムシャフトラッシュ610は、低リフト動作の間に図49に示すローラー128が低リフトカムの基礎円609に接触するとき、スライダーパッド130、132と、それぞれの高リフトカムの基礎円605、607との接触、ひいては摩擦損失を消去する。
また、低リフトモードの間、カムシャフトラッシュ610によって、基礎円609の動作の間、ねじりバネ134、136の力がDFHLA110に伝達されることが防止される。これによって、DFHLA110は、通常の油圧式ラッシュ補償を備えた標準的なロッカーアームアセンブリのように動作することが可能となる。この場合、DFHLAのラッシュ補償部は、エンジン作動油圧ギャラリーから直接供給される。この動作は、図47に示す、スイッチングロッカーアームアセンブリ100内の回転ストップ621、623によって促進される。回転ストップは、外側アーム120が、ねじりバネ134、136の力によって十分遠くに回転され、高リフトローブ104、106に接触することが防止される。
図43及び図48に示すように、全機械的ラッシュは、カムシャフトラッシュ610とラッチラッシュ602の和である。この和は、バルブの動きに影響を及ぼす。高リフトカムシャフトのプロファイルは、全機械的ラッシュ612を補償するための開放及び閉止ランプ661を含む。全機械的ラッシュ612の最小変動は、エンジン寿命を通じて性能目標を維持するために重要である。ラッシュを指定された範囲内に保持するため、全機械的ラッシュ612の公差は、製造において精密に調整される。部品損耗は、全機械的ラッシュの変動と相関を有するため、機構の寿命を通じて低レベルの部品損耗が許容される。広範な耐久性は、割り当てられた許容損耗と全機械的ラッシュは、寿命試験の終了まで指定された制限内に維持されることを示している。
図48のグラフにおいて、ラッシュ値(ミリメートル単位)が縦軸、カムシャフト角(度単位)が横軸である。バルブリフトのプロファイル660の線形部分661は、与えられたカムシャフト角の変化に対する距離(ミリメートル)の変化が一定であることを示し、接触面同士の閉止速度が一定の領域を表す。例えば、バルブリフトのプロファイル曲線660の線形部分661の間、ロッカーアームアセンブリ100(図4)が低リフトモードから高リフトモードへの切換られるときの第1スライダーパッド130と第1高リフトローブ104(図43)との間の閉止距離は、一定速度を表す。一定速度領域を使用することによって、加速度による衝撃負荷が低減する。
図48に示すように、バルブリフトのプロファイル曲線660の一定速度の無リフト部661の間、バルブリフトは発生しない。全ラッシュが、改善されたシステム設計、製造、または組立工程を通じて低減または精密に制御されている場合、バルブリフトのプロファイルの線形の速度部分に必要な量が低減する。これによって、例えば、早期のバルブ開放またはエンジン毎の一貫したバルブ動作を可能にするといった、エンジン管理の利点が得られる。
ここで、図43、図47、及び図48に示すように、個々の部品及びサブアセンブリの設計及び組立ての変化は、切換タイミングの仕様を満たすラッシュ値の行列を生成し、上述した必要な一定速度の切換領域を低減することができる。例えば、1つのラッチピン200の自己整列の実施形態には、機能するために、10ミクロンの最小のラッチラッシュ602を必要とする形状が含まれる。修正改善されたラッチ200は、自己整列機能なく構成され、5ミクロンのラッチラッシュを要するように設計することができる。この設計変更は、全ラッシュを5ミクロン分低減させ、バルブリフトのプロファイル660に必要な無リフト部661が低減する。
図43に示すラッチラッシュ602及びカムシャフトラッシュ610は、3ローブ型カム102で他の接触方法を使用する、図4に示すスイッチングロッカーアームアセンブリ100の任意の設計の変化に対して、同様の方法で説明することができる。一実施形態において、ローラー128(図15及び図27)の代わりに、130と同様のスライダーパッドが使用される。第2の実施形態において、128と同様のローラーが、スライダーパッド130及びスライダーパッド132の代わりに使用される。ローラーとスライダーパッドの組み合わせを有する他の実施形態もある。
ラッシュ管理、試験
以下の節に説明するように、ラッシュを管理するために使用される設計方法及び製造方法は、予測される運転条件の範囲に対して、通常運転及び高ストレス条件表す条件の両方をシミュレートするために、試験され、検証される。
DVVLスイッチングロッカーアームの耐久性は、継続性能(すなわち、適切なバルブ開放及び閉止)と損耗測定とを組みあせて実施することによって査定される。損耗は、システム内の機械的ラッシュの相対量に沿って、DVVLスイッチングロッカーアーム上の材料、特にDLCコーティングの損失を定量化することによって査定される。上述したように、ラッチラッシュ(図43)は、内側及び外側アームの間のラッチピンの移動を許容するために必要であり、エンジン電子制御装置(ECU)によって指令されたときに、高リフトモード及び低リフトモード運転の両方を可能にする。任意の理由によるDVVLロッカーアーム上のラッシュの増大は、使用可能なリフトなしランプ661(図48)を低減し、バルブトレインの高加速が生じる。機械的ラッシュに関する損耗の仕様は、寿命の終了時における所望の動的性能を維持するために制限組み込み部品を許容するように、設定される。
例えば、図43に示すように、ロッカーアームアセンブリの接触面間の損耗は、ラッチラッシュ602、カムシャフトラッシュ610、及び結果として生じる全ラッシュを変化させる。これらのそれぞれの値に影響する損耗は、次のものである。1)ローラー128(図15)とカムローブ108(図4)の間の界面の損耗は、全ラッシュを低減する。2)スライド面、スライダーパッド130、132(図15)とカムローブ104、106(図4)との間のスライド面の損耗は、全ラッシュを増大させる。3)ラッチ200とラッチパッド面214との間の損耗は、全ラッシュを増大させる。ベアリング界面の損耗は、全ラッシュを低減させ、ラッチとスライダー界面の損耗は、全ラッシュを増大させる。全体的な損耗は、正味の全ラッシュが、ロッカーアームアセンブリの寿命に渡って最小化されるものである。
4.7 DVVLアセンブリのダイナミクス
従来のロッカーアームに対する重量分布、剛性、及び慣性は、指定された範囲の運転速度及び動的安定性に関連する反応力、バルブ先端負荷、及び運転の間のバルブバネ圧縮に対して最適化された。図4に例示したスイッチングロッカーアーム100は、従来のロッカーアームと同じ設計要件を有し、付加的質量及びアセンブリの切換機能によって与えられる付加的な拘束条件を伴う。モード切換エラーによる衝撃負荷及びサブアセンブリの機能要件を含む他の因子も考慮しなければならない。質量及び慣性を低減し、構造的剛性を維持するため、及びキー領域における抵抗応力のために必要な質量分布に効果的に取組まない設計により、部分的に仕様外のたわみが生じるか、または、過応力となり、これらの両方は、切換性能の低下及び未熟な部分の損失をもたらす可能性がある。図4に示すDVVLロッカーアームセンブリ100は、低リフトモードにおいて3500rpmまで、及び、高リフトモードにおいて7300rpmまで、動的に安定でなければならない。
図4、図15、図19、及び図27に示すように、DVVLロッカーアームアセンブリ100の剛性は、低リフトモード及び高リフトモードの両方で評価される。低リフトモードにおいて、内側アーム122は、力を伝達してバルブ112を開放する。内側アームの剛性が、同じ応用における固定ロッカーアームの剛性よりも大きいため、エンジンをパッケージ化する許容体積、及び内側アーム122の機能パラメータは、高度に最適化された構造を要しない。高リフトモードにおいて、外側アーム120は、内側アーム122とともに動作して力を伝達し、バルブ112を開放する。有限要素解析(finite element analysis:FEM )技術は、外側アーム120が、最大の柔軟な構成要素であることを示している。図50に示すグラフには、垂直方向のたわみ670の最大領域が示されている。この部分に対する質量分布及び剛性の最適化は、スライダーパッド130、132とラッチ200との間で、外側アーム129の断面の垂直方向高さ増大させることに向けられる。外側アーム120の上側プロファイルの設計制限は、外側アーム120と高リフトローブ104、106の掃引プロファイルとの間のクリアランスに基づく。外側アームの下側プロファイルの設計制限は、低リフモードにおけるバルブバネ保持部116に対するクリアランスに基づく。上述された設計条件内で材料分布を最適化することによって、垂直方向のたわみが低減し、剛性が(一例では、初期の設計に対して33パーセントよりも大きく)増大する。
図15及び図52に示すように、DVVLロッカーアームアセンブリ100は、DFHLA110のボールプランジャー接触点211回りに旋回するときの慣性を、アセンブリの質量を可能な限り一側101に寄せることによって最小化するように設計されている。これによって、大きな質量を有する2つの構成要素であるピボット軸118及びねじりバネ134,136を、DFHLA119の一側101の近傍に配置するという一般的な構成が設計される。ピボット軸118をこの位置に配置すると、ラッチ200はDVVLロッカーアームアセンブリ100の一端103に配置される。
図55は、高リフトモードにおけるDVVLロッカーアームアセンブリ100の剛性を、他の標準的なロッカーアームと比較したグラフである。DVVLロッカーアームアセンブリ100は、この応用例における固定ロッカーアームよりも低い剛性を有する。但し、その剛性は、現在製造されている同様のバルブトレイン構成で仕様されているロッカーアームの既存の範囲内にある。DVVLロッカーアームアセンブリ100の慣性は、近似的に、固定ロッカーアームの慣性の2倍である。但し、その慣性は、現在製造されている同様のバルブトレイン構成で仕様されているロッカーアームの平均値よりも僅かに大きいだけである。複数のDVVLロッカーアームアセンブリ100を含む吸気バルブトレインの全体的な有効質量は、固定吸気バルブトレインよりも28%だけ大きい。これらの剛性、質量、及び慣性の値は、運転設計基準を満たしながら、慣性を最小化し、剛性を最大化するために、各構成要素及びサブアセンブリの最適化を要する。
4.7.1 DVVLアセンブリのダイナミクスの詳細な説明
図53には、ロッカーアームアセンブリ100の全慣性を構成する主要な構成要素が示されている。これらは、内側アームアセンブリ622、外側アーム120、及びねじりバネ134、136である。上述したように、内側アームアセンブリ622の機能要件、例えば、作動油伝達流路及ラッチピン機構のハウジングでは、同じ応用例に対する固定ロッカーアームよりも高い剛性が要求される。以下の説明では、内側アームアセンブリ622が単一の部品として考慮されている。
図51〜図53を参照すると、図51には、図4に示すロッカーアームアセンブリ100の上面図が示されている。図52は、図51の52−52線に沿った断面図であり、ロッカーアームアセンブリ100の負荷接触点を示す。回転する3ローブ型カム102は、ローラー128、または、運転モードによっては、スライダーパッド130、132に対してカム負荷616を印加する。ボールプランジャーエンド601及びバルブ先端613は、反対の力を与える。
低リフトモードにおいて、内側アームアセンブリ622は、カム負荷616をバルブ先端613に伝達し、バネ114(図4)を圧縮し、バルブ112を開放する。高リフトモードにおいて、外側アーム120、及び内側アームアセンブリ622は、一体にラッチされる。この場合、外側アーム120は、カム負荷616をバルブ先端613に伝達し、バネ114を圧縮し、バルブ112を開放する。
ここで、図4及び図52に示すように、ロッカーアームアセンブリ100の全慣性は、その主要な構成要素の慣性の和によって決定され、それがボールプランジャー接触点611回りに回転するとして計算される。例示的なロッカーアームアセンブリ100において、主要な構成要素は、ねじりバネ134、136、内側アームアセンブリ622、及び外側アーム120として定義されるものであってもよい。全慣性が増大すると、バルブ先端613上の動的負荷は増大し、システムの動的安定性は低減する。バルブ先端の負荷を最小化し、動的安定性を最大化するために、ロッカーアームアセンブリ100全体の質量は、ボールプランジャー接触点611の方に寄せられる。寄せることができる質量は、所定のカム負荷616、バルブ先端負荷614、及びボールプランジャー負荷615に対して必要な、ロッカーアームアセンブリ100の剛性要件によって制限される。
ここで、図4及び図52に示すように、ロッカーアームアセンブリ100の剛性は、高リフト状態または低リフト状態における、内側アームアセンブリ622と外側アーム120の剛性の組み合わせよって決定される。ロッカーアームアセンブリ100の任意の与えられた位置の剛性値は、有限要素解析(FEA)または他の解析法を用いて計算及び視覚化することができる、測定軸618に沿った位置に対して剛性をプロットしたグラフにより特徴づけることができる。同様に、外側アーム120及び内側アームアセンブリ622の剛性は、有限要素解析(FEA)または他の解析法を用いて、個別に計算及び視覚化することができる。図示された例106では、これらの解析の結果が、測定軸618に沿った位置に対して剛性をプロットした一連の特性グラフとして示されている。追加的な説明として、上述した図50には、外側アーム120の最大たわみのグラフが示されている。
ここで、図52及び図56に示すように、ロッカーアームアセンブリ100上の任意の与えられた位置に対する応力及びたわみは、有限要素解析(FEA)または他の解析方法を用いて計算し、与えられたカム負荷616、バルブ先端負荷614、及びボールプランジャー負荷615に対して、測定軸618に沿った位置に対して応力及びたわみをプロットしたグラフにより特徴づけることができる。同様に、外側アーム120及び内側アームアセンブリ622の応力及びたわみは、有限要素解析(FEA)または他の解析法を用いて、個別に計算及び視覚化することができる。図56に示す例では、これらの解析結果が与えられたカム負荷616、バルブ先端負荷614、及びボールプランジャー負荷615に対して、測定軸618に沿った位置に対して応力及びたわみをプロットした一連の特性グラフとして示されている。
4.7.2 DVVLアセンブリのダイナミクスの解析
図52には、応力及びたわみの解析に対して、負荷の位置及び大きさに関連した負荷事例が示されている。例えば、高リフトモードでラッチ状態にあるロッカーアームアセンブリ100において、カム負荷616はスライダーパッド130、132に印加される。カム負荷616は、バルブ先端負荷614及びボールプランジャー負荷615によって対抗される。第1距離632は、バルブ先端負荷614とボールプランジャー負荷615との間で、測定軸618に沿って測定された距離である。第2距離634は、バルブ先端負荷614とカム負荷616との間で、測定軸618に沿って測定された距離である。負荷率は、第1距離632で除算された第2距離634である。動的解析では、解析及び可能な最適化のために、複数の値及び運転条件が考慮される。これらには、3ローブ型カムシャフトの界面パラメータ、ねじりバネパラメータ、全機械的ラッシュ、慣性、バルブバネパラメータ、及びDFHLAパラメータが含まれるものであってもよい。
評価のための設計パラメータは、次のようなものである。
ここで、図4、図51、図52、図53、及び図54を参照して、設計パラメータの所定の組に基づく、一般的な設計方法を説明する。
1.スッテプ350において、質量をボールプランジャー接触点611に向けて寄せるために、構成要素622、120、134、及び136を測定軸に沿って配置する。例えば、ねじりバネ134,136は、ボールプランジャー接触点から2mm左に配置し、内側アームアセンブリ622のピボット軸118は、5mm右に配置するものであってもよい。外側アーム120は、図53に示すようにピボット軸118と並ぶように配置される。
2.ステップ351において、与えられた構成要素の配置構成に対して、ロッカーアームアセンブリ100の全慣性を計算する。
3.ステップ352において、構成要素の配置構成の機能性を評価する。例えば、ねじりバネ134、136が、指定された位置において、追加の質量なしでスライダーパッド130、132とカム102との接触を維持するために必要な剛性を与えることを確認する。別の例では、構成要素の配置構成は、パッケージサイズの拘束条件に適合するように決定されなければばらない。
4.ステップ353において、ステップ351とステップ352の結果を評価する。選択されたエンジン回転速度におけるバルブ先端負荷614及び動的安定性の最小要件を満たさない場合、ステップ351とステップ352における構成要素の配置と解析の実行を繰り返す。選択されたエンジン回転速度におけるバルブ先端負荷614及び動的安定性の最小要件を満たす場合、ロッカーアームアセンブリ100のたわみ及び応力を計算する。
5.ステップ354において、応力及びたわみを計算する。
6.ステップ356において、たわみ及び応力を評価する。たわみ及び応力に関する最小要件を満たさない場合、ステップ355に進み、構成要素設計を改善する。設計の反復が終了した場合、ステップ353に戻り、バルブ先端負荷614と動的安定性を再評価する。選択されたエンジン回転速度におけるバルブ先端負荷614及び動的安定性の最小要件を満たす場合、ステップ354において、たわみ及び応力を計算する。
7.図55を参照すると、応力、たわみ、及び動的安定性の条件を満足するとき、結果は、1つの可能な設計357である。解析結果は、慣性に対する剛性のグラフ上に、可能な設計構成をプロットすることができる。このグラフは、領域360で示される許容値の範囲を備える。図57は、3つの異なる合格設計を示す。同様に、許容可能な慣性/剛性領域360は、個別の主要の構成要素120、622及びねじりバネ134、136の特性も限定する。
ここで、図4、図52、及び図55に示すように、外側アーム120、内側アームアセンブリ622、及びねじりバネ134、136を含むロッカーアームアセンブリ100の主要な構成要素のそれぞれが、慣性、応力、及びたわみについての指定された設計基準を、集合的に満たした場合、合格設計に到達したことになる。合格設計は、主要な構成要素のそれぞれについて固有の特性データを与える。
それを説明するために、図57に示すような、特定の剛性/慣性基準を満たす3つの機能するDVVLロッカーアームアセンブリ100を選択する。これらのアセンブリのそれぞれは、3つの主要な構成要素を含む。それらは、ねじりバネ134、136、外側アーム120、及び内側アームアセンブリ622である。この解析のために、図58に示す例ように、それぞれの主要な構成要素の可能な慣性値の範囲について説明する。
・ねじりバネの組、設計例#1、慣性=A;ねじりバネの組、設計例#2、慣性=B;ねじりバネの組、設計例#3、慣性=C
・ねじりバネの組の慣性の範囲は、ボールエンドプランジャーの先端(図59では、符号Xが付されている)回りに計算され、値A、B、Cで定義される範囲によって限定されている。
・外側アーム、設計例#1、慣性=D;外側アーム、設計例#2、慣性=E;外側アーム、設計例#3、慣性=F
・外側アームの慣性の範囲は、ボールエンドプランジャーの先端(図59では、符号Xが付されている)回りに計算され、値D、E、Fで定義される範囲によって限定されている。
・内側アームアセンブリ、設計例#1、慣性=X;内側アームアセンブリ、設計例#2、慣性=Y;内側アームアセンブリ、設計例#3、慣性=Z
・内側アームアセンブリの慣性の範囲は、ボールエンドプランジャーの先端(図59では、符号Xが付されている)回りに計算され、値X、Y、Zで定義される範囲によって限定されている。
構成要素の慣性値の範囲は、今度は、主要な構成要素(ねじりバネ、外側アーム、内側アームアセンブリ)の固有の配置構成を生成する。例えば、この設計において、ねじりバネは、ボールエンドプランジャーの先端611に非常に近接させて配置される傾向にある。
図57〜図61に示すように、慣性を最小化するためには、キー領域における応力を管理するための部分の質量分布を最適化する必要があるため、個々の構成要素に対する慣性の計算は、アセンブリ内の負荷要件と密接に関連する。上述した3つの合格した設計例のそれぞれについて、剛性及び質量分布の範囲について説明する。
・設計例#1の外側アーム120について、A端から開始してB端まで進むように、部品に沿った距離に対して質量分布をプロットすることができる。同様に、設計例#2の外側アーム120の質量分布値、及び、設計例#3の外側アーム120についてもプロットされる。
・2つの最も端にある質量分布曲線の間の領域は、このアセンブリにおける外側アーム120の特性を示す値の範囲として定義できる。
・設計例#1の外側アーム120について、A端から開始してB端まで進むように、部品に沿った距離に対して剛性分布をプロットすることができる。同様に、設計例#2の外側アーム120の剛性値、及び、設計例#3の外側アーム120についてもプロットされる。
・2つの最も端にある剛性分布曲線の間の領域は、このアセンブリにおける外側アーム120の特性を示す値の範囲として定義できる。
外側アーム120の、その移動及び配向に関連する軸に沿った、運転の間の剛性及び質量分布は、特性値、ひいては特性形状によって説明される。
5. 設計の検証
5.1 ラッチ応答
図26に示し、上述した所定の機械的スイッチングウィンドウ内で、確実にロッカーアームアセンブリの切換が行われるように、例示的なDVVLシステムのラッチ応答時間が、図62に示すラッチ応答試験スタンド900を使用して検証された。応答時間は、作動油の粘性の温度変化に影響を及ぼすため、10℃から120℃の範囲の作動油温度に対して記録された。
OCV、DFHLA、及びDVVLスイッチングロッカーアーム100を含む製品に使用するハードウェアについて、ラッチ応答試験スタンド900を使用した。エンジン作動油条件をシミュレートするため、作動油温度は、外部の加熱及び冷却システムによって制御された。作動油圧は、外部のポンプにより供給され、レギュレータによって制御された。作動油温度は、OCVとDFHLAとの間の制御ギャラリー内で測定された。変位変換器901により、ラッチ移動が測定された。
ラッチ応答時間は、製品に使用される様々なSRFFを使用して測定された。試験は、製品に使用される 5w−20モーターオイルを使用して実行された。低リフトモードから高リフトモードへの切換及び高リフトモードから低リフトモードへの切換が生じたときに、応答時間が記録された。図21は、低リフトモードから高リフトモードへの切換時の、ラッチ応答時間の詳細を示す図である。20℃における最大応答時間が、10ミリ秒よりも短いことが測定された。図22は、高リフトモードから低リフトモードへの切換時の、ラッチ応答時間の詳細を示す図である。20℃における最大応答時間が、10ミリ秒よりも短いことが測定された。
切換の調査の結果、ラッチの切換時間は、温度により作動油の粘性が変化するため、主として作動油温度の関数であることが分かった。ラッチ応答曲線の傾きは、モーターオイルの粘性と温度との関係に類似している。
切換応答の結果は、ラッチ移動が、最大で3500rpmでのカムシャフトの1回転のうちにモードの切換を行うために十分に早いことを示している。応答時間は、温度が20℃を下回ると、顕著に増大し始める。温度が10℃以下では、3500rpmの切換要件を低減することなく、カムシャフトの1回転のうちにモードの切換を行うことは可能ではない。
SRFFは、表1に示すように、高リフトモードと低リフトモードの両方について、高いエンジン回転速度でロバストであるように設計された。高リフトモードでは、7300rpmまで運転可能であり、7500rpmの「バースト」速度要件を備えている。バーストは、短い、より高いエンジン回転速度への短時間の変動として定義される。SRFFは、高リフトモードにおいて通常ラッチ状態であり、これによって、高リフトモードは作動油温度に依存しない。低リフトモードは、3500rpmまでの部分負運転の間の燃費に焦点を合わせており、7500rpmのバースト速度に加えて、5000rpmの過速度要件を備えている。試験されたように、システムは、20℃またはそれ以上の作動油温度において、SRFFのラッチを解除することができる。試験は、20℃での運転を保障するために、10℃まで実行された。耐久性の結果は、この設計は、エンジン回転速度、リフトモード、及び作動油温度の全運転範囲にわたって、ロバストであることを示している。
素早い吸気バルブの閉止を達成するためのDVVLシステムに基づくSRFFの設計、開発、及び検証は、第2型のバルブトレインに対して完成された。このDVVLシステムは、2つのモードで動作することによって、性能を犠牲にすることなく燃費を改善する。高リフトモードでは標準的な吸気バルブのプロファイルを使用して性能を維持しながら、低リフトモードにおいて吸気バルブを早期に閉止することによって、ポンピングループ損失が低減する。このシステムでは、インライン4気筒ガソリンエンジンで使用される一般的な第2型の吸気及び排気バルブトレインの幾何学的構成が保持される。共通の部品及び標準的なチェーン駆動システムを使用することによって、実装コストが最小化される。第2型SRFFに基づくシステムを、この方法で使用することによって、このハードウェアを複数のエンジンファミリーに適用することが可能になる。
このDVVLシステムは、吸気バルブトレインに組付けられ、高リフトモード及び低リフトモードの両方において、モード切換及び動的安定性の重要な性能目標を満たす。切換応答時間によって、20℃よりも高い作動油温度、及び3500rpmまでのエンジ速度で、カムシャフトの1回転のうちのモード切換が許容される。SRFF剛性及び慣性の最適化と、適切なバルブリフトのプロファイル設計との組合せによって、システムが、低リフトモードにおいて3500rpmまで、高リフトモードにおいて7300rpmまで、動的に安定であることが可能となった。製品に使用されるハードウェアで行われた検証試験は、DVVLシステムは耐久性目標を超えていることを示している。システムの加速劣化試験が実施され、耐久性が寿命目標を超えていることが示された。
5.2 耐久性
乗用車は、約240,000km(150,000マイル)の排気使用寿命要件を満たす必要がある。この試験では、製品が法規制の要件を超えてロバストであることを保障すするため、約320,000km(200,000マイル)という、より厳しい目標が設定された。
寿命試験におけるバルブトレイン要件は、約320,000km(200,000マイル)という目標に変換された。この距離目標は、バルブトレインの耐久性要件を定義するために、バルブ駆動事象に変換する必要がある。バルブ事象の回数を決定するために、車両の寿命にわたる、平均的な車両速度及びエンジン回転速度が仮定された。この例では、乗用車への応用として、平均的車両速度は約64km毎時(40マイル毎時)、平均的エンジンの回転速度は2200rpmが選択された。カムシャフトは、エンジン回転速度の半分の速度で動作し、バルブはカムシャフトの1回転について1回駆動される。この結果、試験の要件として、330×106(330M)回のバルブ事象が得られた。試験は、点火エンジンと非点火品の両方で実施された。点火エンジン試験を5000時間実施するのではなく、大部分の試験と結果のリポートは、図63に示す非点火品の使用に焦点をおき、330M回のバルブ事象を満たすために必要な試験を実行した。点火試験と非点火試験の結果は比較され、バルブトレインも損耗の結果に関して良い一致を見た。これによって、非点火品による寿命試験の信頼性が与えられた。
5.2.1 加速劣化
エンジン試験を実行する前に、加速試験を実行して複数のエンジン寿命にわたる適合性を示す必要がある。したがって、点火試験の前に非点火品での試験が実施された。高速試験は、試験完了までの時間を短縮するため、バルブトレインの損耗を加速するように構成された。試験相関は、平均のエンジン回転速度を使用時の速度に対して2倍し、約4分の1の時間とほぼ同等のバルブトレイン損耗が生じるように確立された。結果として、バルブトレインの損耗は、次の式に近似的に従うものであった。
ここで、VEAccelは、加速劣化試験の間に必要なバルブ事象数である。VEin−useは、通常の使用時試験の間に必要なバルブ事象数である。RPMavg−testは、加速試験における平均のエンジン回転速度、及び、RPMavg−in useは、使用時試験の平均のエンジン回転速度である。
専用の高速耐久性試験サイクルが開発された。平均のエンジン回転速度は5000rpmとした。各サイクルは、高リフトモードでの約60分の高速期間を有し、次いで、低リフトモードでの約10分の低速期間を有する。このサイクルは、430回繰り返されて、72M回のバルブ事象が達成された。加速された損耗率は、標準的な負荷レベルにおいて330M回の事象である。ニードル及びローラーベアリングを含む標準的なバルブトレイン製品は、数年にわたって自動車業界で成功を収めてきた。この試験サイクルは、DLCコーティングされたスライダーパッドに焦点をあてたものであり、表2に示すように、約97%のバルブリフト事象は、高リフトモードにおいてスライダーパッド上で発生する。残りの2M回のサイクルは、ローラーベアリングの上低リフトモードである。これらの試験条件では、1つのバルブトレインの寿命は、430回の加速試験サイクルに同等であるものとみなしている。この試験により、SRFFは、エンジン使用寿命の6倍の期間を通じて、無視し得る損傷及びラッシュ変動しか発生せず、耐久性があることが示された。
システムの加速劣化試験は、耐久性を示す重要な試験であり、多くの機能固有の試験が実行されて、様々な運転状況にわたるロバスト性が示された。表2には、主要な耐久性試験と、各試験の目的が含まれる。システムの加速劣化試験は、約500時間または約430試験サイクル実行された。切換試験は、ラッチおよびねじりバネの損耗を査定するために約500時間実行された。同様に、部品の劣化をさらに加速するために、臨界的シフト試験も実行された。臨界的シフト試験は、外側アームが部分的にラッチされており、高リフト事象の間に低リフトモードに脱落する可能性がある状態からの過酷かつ危険なシフトの間に実行された。臨界的シフト試験は、車両メンテナンスの不備によって生じる極端な状況の場合におけるロバスト性を示すために実行された。この臨界的シフト試験は、達成するのが難しく、外側アームを部分的にラッチするために実験室での正確な作動油圧制御を要するものであった。このような運転は、作動油圧がウィンドウの外で制御されるため、使用時には想定されていない。低い油潤滑による損耗を加速するために、複数のアイドル試験が、コールドスタート試験と組合せて実行された。使用済みオイル試験も、高速で実行された。最後に、構成要素の耐久性を検証するため、ベアリング及びねじりバネ試験も実行された。全ての試験は、約320,000km(200,000マイル)というエンジンの使用寿命要件を見たすものであった。この条件は、約240,000km(150,000マイル)という乗用車の使用寿命要件を確実に超える条件である。
全ての耐久試験は、作動油に対する特定のレベルの空気混入率で実施された。大部分の試験において、空気混入率は、全気体容量(TGC)が約15%と約20%の間の範囲であり、これは、乗用車の応用において典型的なものである。この容量はエンジン回転速度にともなって変化し、レベルは、アイドルから7500rpmのエンジン回転速度で定量化された。過空気試験も、空気混入率のレベルを26%TGCとして、実行された。これらの試験は、ダイナミクス試験と切換性能試験に対して適合性が試験されたSRFFで実行された。ダイナミクス性能試験の詳細については、結果の節で説明する。作動油の空気混入率のレベル及び拡張されたレベルは、製品のロバスト性を示すものである。
5.2.2. 耐久試験の装置
図63に示す耐久性試験スタンドは、電気モーターによって駆動され、外部のエンジンオイル温度制御システム905を備えるプロトタイプの2.5L−4気筒エンジンからなる。カムシャフト位置は、Accu−coder 802S 外部エンコーダ902によって監視され、クランクシャフトによって駆動される。クランクシャフトの角速度は、デジタル磁気速度センサ(Honeywell584 モデル)904によって測定される。作動油圧は、制御ギャラリー及び油圧ギャラリーの両方で、Kulite XTL 圧電変換器を使用して監視される。
5.2.3 耐久試験の装置制御
試験品の制御システムは、エンジン速度、作動油温度、及びバルブリフト状態を指令するとともに、意図したリフト機能が満足されていることを検証するように構成される。バルブトレインの性能は、非侵入式の Bentley Nevada 3300XL 近接プローブ906を使用してバルブ変位を測定することによって、評価される。近接プローブは、カムシャフト角の2分の1の分解能で、バルブリフトを2mmまで測定する。これによって、バルブリフト状態を確認し、閉止速度とバウンス解析のためにデータを後処理するために必要な情報が得られる。試験の設定は、アイドル速度で記録されたバルブ変位の追跡が含まれており、これは、SRFFのベースライン条件を表わし、図64に示すマスタープロファイルを決定するために使用された。
図17には、バルブ閉止変位を診断するための1つの切換サイクルシステムを表す診断ウィンドウが示されている。OCVは、制御システムにより指令されると、OCVアーマチャを移動させ、これは、OCV電流追跡881によって表される。OCVの制御ギャラリー内における下流方向への作動油の流れは、圧力曲線880によって示されるように、増大し、これによって、ラッチピンが駆動されて、高リフト状態から低リフト状態への変化が発生する。
図64には、実験により決定されたマスタープロフィル908と関連して、バルブ閉止公差909が示されている。使用された近接プローブ906は、最後の2mmのリフトを測定するように較正されており、図64には、縦軸上に最終的な1.2mmの移動が示されている。クランクシャフト角の公差である2.5” は、マスタープロファイル908の周りで確立され、これによって、高いエンジン回転速度でのバルブトレインの圧縮から生じるリフトの変動を許容し、誤って故障が記録されることが防止される。検出ウィンドウは、バルブトレインシステムが意図されたたわみを有するかどうかを解決するために設定された。例えば、バルブ閉止が意図されたものよりも鋭かった場合、早期のカムシャフト角の閉止によって、望ましくない過大な速度によるバルブのバウンスが生じる。マスタープロファイルの周りの検出ウィンドウ及び公差によって、これらの異常を検出することができる。
5.2.4 耐久試験の計画
SRFFの故障モードを決定するために、故障モードの設計と効果解析(Design Failure Modes and Effects Analysis:DFMEA)が実行された。同様に、システム及び下位システムでの機構が決定された。この情報は、異なる運転状況でのSRFFの耐久性の開発及び評価に使用された。試験の種類は、図65に示す4つのカテゴリに分類された。これらのカテゴリには、性能検証、下位システム試験、極限試験、システムの加速劣化である。
図65には、耐久性の重要なテストの階層が示されている。性能検証試験は、SRFFの応用要件に対する性能を評価するものであり、耐久性検証の第1ステップである。下位システム試験は、測定に機能及び製品の寿命にわたる界面の損耗を評価する。極限試験は、SRFFに対して、厳しいユーザーと運転制限とを組合せて与える試験である。最後に、加速劣化試験は、SRFFを全体的に評価する包括的試験である。これらの試験に合格することによって、SRFFの耐久性が示される。
性能検証
疲労及び剛性
SRFFには、周期的負荷試験が実行される。疲労寿命が、大きな設計マージンによって応用例の負荷を超えることが確認される。バルブトレインの性能は、システムの構成要素の剛性に強く依存している。設計を評価し、許容可能な動的性能を保障するためにロッカーアームの剛性が測定される。
バルブトレインのダイナミクス
バルブトレインのダイナミクス試験の説明と性能は、結果の節で説明される。この試験には、SRFFのひずみゲージを用いた測定と、バルブ閉止速度の測定との組合せが含まれる。
下位システムの試験
切換(スイッチング)耐久性
切換耐久試験は、SRFFを、ラッチ状態から未ラッチ状態へ、そしてまたラッチ状態に戻るというサイクルで3百万回動作させることによって、切換機構を評価する。この試験の主要の目的は、ラッチ機構を評価することである。試験サイクルの50%は低リフトモードであるため、ねじりバネに関する追加の耐久性情報が得られる。
ねじりバネの耐久性及び疲労
ねじりバネは、スイッチングローラーフィンガーフォロワーに必須の構成要素である。ねじりバネによって、高リフトカムシャフトローブとの接触を維持しながら、外側アームのロストモーション運動が可能になる。ねじりバネの耐久性試験は、SRFFにねじりバネを組み付けて実行される。ねじりバネの疲労試験は、上昇した応力レベルでのねじりバネの疲労寿命を評価する。合格は、ねじりバネの負荷損失が寿命終了時で15%よりも小さいこととして定義される。
アイドル速度耐久性
アイドル速度耐久試験は、引く作動油圧及び高い作動油温度によって生じる限界潤滑条件をシミュレートする。この試験は、スライダーパッド及びベアリング、バルブパレットに対するバルブ先端、及びボールプランジャーに対するボールソケットの損耗を評価するために使用される。リフト状態は、試験を通じて、高リフトまたは低リフトとのいずれかに一定に維持される。全機械的ラッシュは、周期的検査間隔で測定され、損耗の主要な測定値である。
極限試験
速度超過
スイッチングロッカーアームの故障モードには、リフト状態制御の喪失が含まれる。SRFFは、低リフトモードにおける3500rpmの最大クランク速度で動作するように設計される。SRFFには、低リフトモードにおける予期しない誤動作による高速に対する保護設計が含まれる。低リフト疲労寿命試験は、5000rpmで実行された。エンジンバースト試験は、高リフト状態及び低リフト状態の両方において、7500rpmで実行された。
コールドスタート耐久性
コールドスタート耐久試験は、−30℃の初期温度からの300回のエンジン始動サイクルに耐えるDLCの能力を評価する。典型的には、これらの温度での寒冷時のエンジン始動には、エンジンブロックヒーターが含まれる。この極限試験は、ロバスト性を示すために選択され、モーターで駆動される試験品のエンジン上で300回繰り返された。この試験は、低温度の結果として生じる低潤滑に耐えるDCLコーティングの能力を評価する。
臨界的シフト耐久性
SRFFは、ラッチピンが外側アームに接触していないときに、カムシャフトの基礎円上で切換えるように設計されている。異常なOCVタイミングの事象、または、制御ギャラリーの作動油圧が完全なピンの移動のために必要な最小作動油圧よりも低い事象において、ピンは、次のリフト事象のときにまだ動いている可能性がある。ラッチピンの異常な位置によって、ラッチピンと外側アームとの間に部分的な係合が生じる。外側アームとラッチピンとの間に部分的な係合が生じると、外側アームがラッチピンから脱落し、ローラーベアリングと低リフトカムシャフトローブとの間に衝撃を与えるおそれがある。臨界的シフト耐久性は、ロバスト性を測るための条件を作り出す過酷試験であり、車両の寿命の間に発生することは想定されていない。臨界的シフト試験は、SRFFに5000回のシフト事象を与えて実行された。
ベアリング耐久性の加速試験
ベアリング耐久性の加速試験は、臨界的シフト試験を完了したベアリングの寿命を評価するために使用される寿命試験である。この試験は、臨界的シフト試験の作用が、ローラーベアリングの寿命を短縮させるかどうかを判別するために使用される。この試験は、完了までの時間を短縮するために、増大された放射状負荷で実行される。臨界的シフト試験を受けたベアリングの性能及び損耗を評価するために、同時に、新規ベアリングが試験された。試験を通じて振動の測定値が取得され、ベアリング損傷の開始を検出するために解析された。
使用済みオイル試験
システムの加速劣化試験及びアドル速度耐久性試験のプロファイルが、20/19/16 ISOレーティングの使用済みオイルを使用して実行される。このオイルは、オイル交換間隔のエンジンから取得された。
システムの加速劣化試験
システムの加速劣化試験は、カムシャフトとSRFFとの間及びラッチ機構と低リフトベアリングとの間のスライド界面を含むロッカーアームの全体的な耐久性を評価するためのものである。機械的ラッシュが周期的検査間隔で測定され、損耗の主要な測定値である。図66には、システムの加速劣化試験の試験サイクルにわたるSRFFの評価における試験手順が示されている。機械的ラッシュの測定値及びFTIRの測定によって、SRFF及びDLCコーティングの全体的な健全性を、それぞれ調査することができる。最後に、部品は、試験の開始から機械的ラッシュの何らかの変化の発生源を理解するために、分解される。
図67には、SRFF耐久性試験の相対的な試験時間が円グラフで示されている。全事件時間は、約15,700時間である。システム劣化の加速試験は、加速因子及び1つの試験内に組み合わされたSRFFの負荷のため、試験時間毎の情報が最も大きく、全試験時間のうち37%が割り当てられている。アイドル速度耐久性試験(低速、低リフト及び低速、高リフト)は、各テストが長期にわたるため、全試験時間のうちの29%が割り当てられている。スイッチング耐久性試験は、複数回の寿命にわって試験され、全事件自家の9%を構成する。臨界的シフト耐久性とコールドスタート耐久性の試験は、臨界的シフトを達成することの困難性により長時間が必要となり、コールドスタート耐久性については、熱サイクル時間が必要である。単に臨界的シフト及びコールドスタートの試験自体の時間ではなく、これららのモードを実行するために必要な全時間に関連してデータが定量化されている。残りの下位システムの試験及び極限試験には、全試験時間の11%が必要であった。
バルブトレインのダイナミクス
バルブトレインの動的挙動(ダイナミクス)は、エンジンの性能及び耐久性を決定する。動的性能は、バルブの閉止速度と、バルブがバルブシートに戻るときのバウンスを評価することによって、判別することができる。ひずみゲージを用いた測定は、カムシャフト角に対するエンジン回転速度の包絡線上のシステムの負荷についての情報を提供する。図68には、SRFFに付着されたひずみゲージが示されている。ひずみゲージは、SRFF上の負荷の量を検証する目的でひずみを測定するために、外側及び内側アームに取り付けられる。
バルブトレインのダイナミクスの試験は、バルブトレインの性能を評価するために実行された。この試験は、全機械的ラッシュの公称値及び制限値で実行された。公称値の場合について説明する。1000rpmから7000rpmの速度掃引が実行され、エンジン回転速度毎に30回のバルブ事象が記録された。ダイナミクスデータの後処置によって、バルブ閉止速度及びバルブバウンスが計算することができる。SRFFの外側アーム及び内側アームに取り付けられたひずみゲージは、全てのエンジン回転速度で、バルブトレインの構成要素間の分離またはHLAの「ポンプアップ」を防止するために十分な負荷を示している。ポンプアップは、HLAが、バルブがカムシャフトの基礎円上で開放されたままになるバルブバウンスまたはバルブのたわみを補償するときに発生する。エンジン回転速度の範囲にわたる分布を理解に供するために、最小、最大、及び平均の閉止速度が示されている。高リフト閉止速度が、図67に示されている。高リフト閉止速度は、設計目標(ターゲット)を満たしている。値の範囲は、7500rpmにおける最小値と最大値との間で、目標の範囲内に確実に留まりつつ、近似的に250mm/sだけ変動する。
図69には、低リフトカムシャフトのプロファイルの閉止速度が示されている。通常動作は3500rpmまでに発生し、閉止速度は、200mm/sを下回る。これは、低リフトの設計マージン内に確実にはいっている。システムは、低リフトモードにおける速度超過条件が5000rpmであるように設計されており、最大閉止速度は制限値を下回る。バルブ閉止速度の設計目標は、高リフトモードと低リフトモードの両方について満足されている。
臨界的シフト
臨界的シフト試験は、ラッチピンを、図27に示す上側アームの係合の臨界点に保持することによって実行される。ラッチは、上側アームに部分的に係合される。この場合、上側アームのラッチピンへの係合が解除され、瞬時的にロッカーアームの制御が喪失する可能性がある。内側アームのベアリングは、低リフトカムシャフトローブに衝突する。SRFFは、寿命にわたるSRFFのロバスト性を定量的に示すために、車両で予想される臨界的シフトの回数よりも遥かに多数の回数試験される。臨界的シフト試験は、ラッチ機構ラッチ解除の間の損耗を評価するとともに、臨界的シフトの間に発生する衝突に対するベアリングの耐久性を評価するものである。
臨界的シフト試験は、図63で示されるエンジンと同様の、モーターで駆動されるエンジンを使用して実行された。ラッシュアジャスタの制御ギャラリーは、臨界圧力付近に調整された。エンジンは一定の速度で運転され、圧力は、システム履歴に適合させるために臨界圧力付近で変動する。臨界的シフトは、1.0mmよりも大きいバルブ降下として定義された。図70に、典型的なSRFFのバルブ降下高さ分布が示されている。1.0mmよりも小さい範囲で、1000回を超える臨界的シフトが発生したことに注意されたい。これらは、表にまとめらているが、試験の完了に向けてカウントされていない。図71には、カムシャフト角に対して臨界的シフトの分布が示されている。最大の集積は、最大バルブリフトを超えたところで発生しており、残りは近似的に一様に分布している。
ラッチ機構及びベアリングについては、試験を通じて損耗が監視される。外側アームの典型的な損耗(図73)は、新規部分(図72)と比較される。必要な臨界的シフトが完了すると、ロッカーアームの正常な動作が検査され、試験の結論が出される。図示されたエッジ損耗は、ラッチ機構に対して大きな影響は及ぼさず、ラッチ棚の大部分である全機械的ラッシュは無視できる程度の損耗を呈するだけである。
下位システム
下位システム試験は、特定の機能及びSRFFロッカーアームの界面の損耗を評価する。
切換耐久性は、ラッチ機構の機能及びSRFFの予想される寿命にわたる損耗を評価する。同様にアイドル速度耐久性は、ベアリングとスライダーパッドに、低潤滑と130℃の作動油温度という最悪状況を与える。ねじりバネ耐久試験は、近似的に25×106(25M)サイクルで実行される。劣化を測定するために、試験を通じてねじりバネ負荷が測定される。さらに、15%という最大設計負荷損失を超えることなく、100Mサイクルまで試験を延長しことで、さらなる信頼性が得られた。図74に、試験の開始時及び終了時における、外側アームに対するねじりバネ負荷が示されている。100Mサイクルの後、5%から10%の小さな負荷損失が見られた。これは、15%の許容目標を下回るが、4つのエンジンを運転するための外側アームの負荷としては十分である。
システムの加速劣化試験
システムの加速劣化試験は、持続する性能を評価するために使用される包括的な耐久試験である。この試験は、厳しいエンドユーザによる累積的損傷に相当する。試験サイクルの平均は、近似的に5000rpmであり、一定の速度及び加速度を伴うものである。1サイクルの時間は、次のように分けられる。すなわち、28%の定常状態、15%の低リフト状態、そして、残りは、加速条件の下で高リフトと低リフトとの間を循環している状態である。試験結果によれば、1回分の寿命の試験におけるラッシュ変化は、ロッカーアームの利用可能な損耗仕様の21%を説明する。システムの加速劣化試験は、8個のSRFFを含み、SRFFの損耗モードを判別するため、標準寿命を経過した後まで延長された。全機械的ラッシュの測定値は、標準寿命を経過した後は、100試験サイクル毎に記録された。
システムの加速劣化試験の結果の測定値は、図75に示されている。図75には、損耗仕様は、3.6回分の寿命を超えていることが示されている。試験は続行されて、損傷なく6回分の寿命が達成された。試験を複数回の寿命分延長することによって、周期内の初期ブレークを経過した後、機械的ラッシュの線形的な変化が見られた。システムの動的挙動は、全機械的ラッシュの増大により劣化した。しかしながら、6回分のエンジン寿命において、機能的性能は影響を受けなかった。
5.2.5 耐久試験の結果
試験計画で説明された各試験が実行され、結果の概要について説明する。バルブトレインのダイナミクス、臨界的シフト耐久性、ねじりバネ耐久性、及びシステムの加速劣化の各試験の結果が示されている。
SRFFは、ロバスト性を示すための機能固有の試験と組合せてシステムの加速劣化試験を受けた。結果は表3にまとめられている。
耐久性は、エンジン寿命と関連して査定された。エンジン寿命は、約320,000km(200,000マイル)であり、法規制による約240,000km(150,000マイル)要件よりも相当のマージンを有して大きい。このプロジェクトの目的は、全ての試験が、少なくとも1回分のエンジン寿命を満足することを示すことであった。主要な耐久性試験は、システムの加速劣化試験であり、これは、耐久性、少なくとも6回分のエンジン寿命または約1,920,000km(1,200,000マイル)の耐久性を示した。この試験は、使用済みオイルを用いた場合についても実行され、1回分のエンジン寿命におけるロバスト性を示した。重要な動作モードは、高リフトと低リフトとの間の切換動作である。切換耐久性試験は、少なくとも3回分のエンジン寿命または約960,000km(600,000マイル)を示した。同様に、ねじりバネは、少なくとも4回分のエンジン寿命または約1,280,000km(800,000マイル)でロバスト性を示した。残りの試験は、臨界的シフト、速度超過、コールドスタート、ベアリングのロバスト性、及びアイドル条件について、少なくとも1回分のエンジン寿命を示した。DLCコーティングは、図76に最小の損耗を伴う摩耗が示されているように、全ての条件に対してロバストであった。結果として、SRFFは、広範に試験された結果、約320、000km(200,00マイル)の使用寿命を超えてロバスト性を示した。
5.2.6 耐久性試験の結論
SRFF、DFHLA、及びOCVを含むDVVLシステムは、少なくとも約320,000km(200,000マイル)までロバストであることが示された。これは、法規制の要件である約240,000km(150,000マイル)を確実なマージンをもって超えるものである。耐久性試験は、システムの加速劣化で少なくとも6回分のエンジン寿命または約1,920,000km(1,200,000マイル)の耐久性を示した。
SRFFは、使用済みオイル及び空気混入オイルについてもロバスト性を示した。SRFFの切換機能は、少なくとも3回分のエンジン寿命または約960,000km(600,000マイル)でロバストであることが示された。全ての下位システム試験は、SRFFは、1回分のエンジン寿命である約320,000km(200,000マイル)を超えてロバストであることが示された。
臨界的シフト試験は、5000事象または少なくとも1回分のエンジン寿命までロバスト性が示された。この条件は、作動油圧条件が通常の作動範囲から外れて外側アームがラッチから脱落し、SRFFが内側アームに遷移するという過酷事象が発生したときに発生する。この条件が過酷であったとしても、SRFFはこの種の条件にたいしてもロバストであることが示された。連続生産において、この事象が発生する可能性は低い。試験結果は、SRFFが、臨界的シフトが発生するこのような条件に対してロバストであることを示している。
SRFFは、最大で7300rpmのエンジン回転速度を有し、7500rpmのバースト速度条件を有する乗用車への応用に対して、ロバストであることが証明された。点火エンジン試験は、本明細書で説明された非点火試験の損耗パターンと整合的な損耗パターンを有していた。外側アーム用スライダーパッド上のDLCコーティングは、全ての運転条件においてロバストであった。結果として、SRFF設計は、4気筒乗用車への応用において、部分負荷エンジン運転でのエンジンのポンピング損失を低減することにより、燃費を改善する目的のために適切である。この技術は、6気筒エンジンを含む他の応用にも拡張することができる。SRFFは、自動車の要件をはるかに超える多くの場合についてロバストであることが示された。ディーゼルへの応用は、エンジン負荷の増大、作動油の汚染、及び寿命要件に対処する追加の開発によって、考慮することができる。
5.3 スライダーパッド/DLCコーティング
5.3.1 損耗試験計画
この節では、外側アーム用スライダーパッド上のDLCコーティングの損耗特性及び耐久性を調査するために使用される試験計画について説明する。その目的は、設計仕様と製造パラメータとの関係、及び、それぞれが滑りパッドの界面に対してどのように影響を及ぼすのかを確立することである。この滑り界面における3つの重要な要素は、カムシャフトローブ、スライダーパッド、及びバルブトレイン負荷である。各要素は、DLCコーティングの耐久性に対する作用を判別するための試験計画に含める必要がある因子を有している。以下に各要素について詳述する。
カムシャフト
高リフトカムシャフトローブの幅は、エンジン運転の間にスライダーパッドがカムシャフトローブ内に確実に留まるように指定される。これには、熱成長または製造による寸法のばらつきから生じる位置変化が含まれる。結果として、スライダーパッドの全幅は、カムシャフトローブがスライダーパッドからずれるおそれなく、カムシャフトローブに接触することができる。バルブリフト特性に関するローブの形状(プロファイル)は、カムシャフト及びSRTFの開発において確立している。これには、DLCコーティングの耐久性に関して理解する必要がある因子が2つ残されている。第1はローブ材料であり、第2は、カムシャフトローブの表面仕上げである。この試験計画には、ローブ上の異なる表面条件で試験された鋳鉄及び鋼のカムシャフトローブが含まれる。第1の計画には、研削(グラインド)操作によって準備されたカムシャフトローブが含まれる。第2の計画には、研磨(ポリッシュ)操作後に改善された表面仕上げ条件を有するローブである。
スライダーパッド
スライダーパッドのプロファイルは、バルブリフト及びバルブトレインダイナミクスに対して指定された要件を満たすように設計された。図77には、SRFF上のスライダーパッドと、接触する高リフトローブ対との間の接触関係が示されている。予期される製造のばらつきにより、図77に尺度を強調して示すこの接触面には、角度アラインメント関係がある。クラウン付き面により、様々なアラインメントを考慮して、スライダーパッドへのエッジ負荷のリスクが低減される。しかし、クラウン付き面は、製造に複雑性を付加し、したがって、コーティングされた界面の性能に対するクラウンの作用は、その必要性を判別する試験計画に追加される。
図77では、カムシャフト面上のクラウンという選択肢が、選択された方法だった。
予想される負荷とクラウンの変化に基づくヘルツの応力計算は、試験計画におけるガイダンスとして使用された。2つのパッドのアラインメント(開先角度)の公差を、予想されるクラウンの変化とともに指定する必要があった。試験の所望の出力は、スライダーパッドのアラインメントの変化する角度が、どのようにDLCコーティングに作用するかを実際的に理解することであった。応力計算は、0.2度のアラインメントの誤差の目標値を与えるために使用された。これらの計算は、参照点としてのみ使用された。試験計画には、スライダーパッドの間の開先角度に対する3つの値、<0.05度、0.2度、0.4度が含まれる。0.05度を下回る開先角度を備えた部品は、平坦とみなされ、0.4度は、計算された参照点の2倍を表す。
評価を要するスライダーパッド上の第2の因子は、DLCコーティング前のスライダーパッドの表面仕上げであった。スライダーパッドの製造工程には、スライダーパッドのプロファイルを形成する研削工程と、DLCコーティングのための表面を準備する研磨工程が含まれていた。それぞれの工程は、DLCコーティングが付着される前のスライダーパッドの最終的な表面仕上げに影響する。試験計画は、各ステップの寄与を含め、研削についての工程内仕様と、研磨工程後の最終的な表面仕上げの仕様を確立する結果を提供した。
バルブトレイン負荷
最後の要素は、バルブトレインの動作によるスライダーパッド上への負荷であった。計算は、バルブトレイン負荷を応力レベルに変換する手段を提供した。カムシャフトローブ及びDLCコーティングの両方の耐久性は、それぞれが損傷する前に耐え得る応力レベルに基づく。カムシャフトローブ材料は、800−1000MPa(運動学的接触応力)の範囲で指定する必要があった。この範囲は、公称設計応力と考えられた。試験を加速するために、試験計画における応力レベルは、900−1000MPa及び1125−1250MPaに設定された。これらの値は、それぞれ、公称設計応力の大きい方の半分と、公称設計応力の125%を表す。
試験計画には、スライダーパッド上のDLCコーティングの耐久性を調査するための6つの因子を含めた。すなわち、(1)カムシャフトローブの材料、(2)カムシャフトローブの形状、(3)カムシャフトローブの形状条件、(4)スライダーパッドのカムシャフトローブに対する角度アラインメント、(5)スライダーパッドの表面仕上げ、(6)コーティングされたスライダーパッドにバルブを開放することによって印加される応力、である。要素及び因子の概要を、表1に示す。
5.3.2 構成要素の損耗試験の結果
試験の目的は、それぞれの因子が、スライダーパッドのDLCコーティングの耐久性に与える相対的寄与を判別することであった。試験構成の主要な部分には、最小で試験計画からの2つの因子を含めた。図78に示すように、スライダーパッド752は、試験クーポン751上の支持ロッカー753に取り付けられた。全ての構成は、各因子の相対的な比較ができるように、2つの応力レベルで試験された。検査間隔は、試験の開始時には20−50時間の範囲に設定し、結果を観察するために長時間を要するようになるにつれて、300−500時間まで増大させた。試験は、クーポンがDLCコーティングの損失を示すか、または、カムシャフトローブの表面に大きな変化があった場合には、休止した。試験は、因子の作用を加速する必要がある応用例よりも高い応力レベルで実行された。その結果、エンジン寿命の評価は保守的な推定であるため、エンジン寿命が試験される因子の相対的な作用を示すために使用された。試験スタンドで1寿命を完了したサンプルは、適切として記述された。DLC損失なく3寿命を超えたサンプルは、優秀として記述された。試験結果は、説明を容易にするため、2つの節に分けられた。第1の節では、鋳鉄製カムシャフトの結果を説明し、第2の節では、鋼製カムシャフトの結果を説明する。
鋳鉄製カムシャフトの結果
第1の試験では、鋳鉄製カムシャフトローブが使用され、スライダーパッドの表面仕上げと、2つの角度アラインメント構成が比較された。結果は、表2にまとめられている。この表には、鋳鉄製カムシャフトで試験されたスライダーパッドの開先角度と表面仕上げ条件との組合せが要約されている。それぞれの組合せは、最大負荷条件と、最大負荷条件の125%で試験された。リストに挙げられた値は、試験の間にそれぞれの組合せで達成されたエンジン寿命の回数を表す。
試験のカムシャフトには、全て剥離が現れ、この結果、試験を終了することになった。大部分は、エンジン寿命の半分の前に剥離が現れた。剥離は、高負荷の部品上でより深刻であり、最大設計負荷の部品上にも現れた。鋳鉄製カムシャフトローブは、同様の負荷レベルを含むローリング要素への応用例で一般的に使用されたものである。しかしながら、この滑り界面では、この材料は適切な選択ではなかった。
検査間隔は、表面仕上げがコーティングの耐久性に及ぼす作用を調査するために十分に頻繁であった。研削による表面仕上げ面を備えたクーポンでは、非常に早くDLCコーティングの損失が発生した。図79Aに示すクーポンは、試験の早期のDLCコーティング損失の典型的なサンプルである。
走査電子顕微鏡(SEM)で解析することにより、DLCコーティングの破損の性質が明らかとなった。DLCコーティングの下方の金属面は、コーティングに対して十分な支持部材として機能していなかった。コーティングは、それが結合している金属よりも非常に硬く、したがって、ベース金属が大きく変形すると、その結果、DLCが破損する可能性がある。コーティングされる前に研磨したクーポンは、カムシャフトローブが剥離を開示する前は、良好に機能した。鋳鉄製カムシャフトの最良の結果は、最大設計負荷における平坦な研磨したクーポンの0.75寿命であった。
鋼製カムシャフトの試験結果
次のセットの試験では、鋼性カムシャフトローブが使用された。試験された組合せと結果の概要は、表3にまとめられている。カムシャフトローブは、次の4つの異なる条件で試験された。すなわち、(1)平坦な研削仕上げ表面、(2)クラウン付きローブで、研削仕上げ表面、(3)最小のクラウン付きローブで、研磨仕上げ表面、(4)公称のクラウン付きローブで、研磨仕上げ表面である。クーポン上のスライダーパッドは、DLCコーティング前に研磨され、次の3つの角度で試験された。すなわち、(1)平坦(0.5度を下回る開先角度)、(2)0.2度の開先角度、(3)0.4度の開先角度、である。全てのカムシャフトに対する負荷は、最大設計レベル、または、最大設計レベルの125%に設定された。
最大設計負荷の125%における研削された平坦な鋼製カムシャフトローブと0.4度開先角度のクーポンの試験サンプルは、1寿命を超えなかった。最大設計負荷で試験されたサンプルは、1寿命続いたが、コーティイング上に同様の効果が見られた。0.2度と平坦なサンプルは、より良好であるが、2寿命を超えなかった。
この試験の後、研削、平坦、鋼性カムシャフトローブ、及び、0.2度の開先角度のクーポン、及び平坦なクーポンで試験をした。コーティング損失を観察する前の時間は、0.2度のサンプルで1.6寿命だった。平坦なクーポンは、僅かに長い1.8寿命を達成した。平坦なサンプルのDLC損失のパターンは、非一様であり、最大の損失は接触パッチの外にあった。接触パッチの外にコーティングの損失があることは、スライダーパッドが被る応力が、その幅にわたって非均一であったことを示す。この現象は、「エッジ効果」として知られている。2つの揃えられた要素のエッジにおける応力を低減するための解決法は、要素のうちの1つにクラウン型のプロファイルを付加することである。SRFFを使用する応用例では、カムシャフトにクラウン付きプロファイルが付加されている。
試験の次のセットは、最小値のクラウンと、0.4度、0.2度。及び平坦な、研磨されたスライダーパッドとの組合せである。このセットでは、カムシャフトにクラウンを付加したことの肯定的な結果が見られた。最大設計負荷の125%での改善は、0.4度のサンプルで0.75寿命から1.3寿命であった。平坦な部品では、同じ負荷において1.8寿命から2.2寿命への小さな改善が見られた。
試験の最後のセットは、3つ全ての角度を備えたクーポンと、公称クラウン値を有するように加工され、研磨された鋼性カムシャフトローブである。これらの3つの結果における最も顕著な違いは、カムシャフトのクラウンとスライダーパッドのカムシャフトローブへの角度アラインメントとの間の相互作用である。平坦及び0.2度のサンプルは、両方の負荷レベルにおいて3寿命を超えた。0.4度のサンプルは、2寿命を超えなかった。図79Bに、最大負荷レベルで試験された、0.2度の開先角度を備えたクーポンの典型的な例が示されている。
これらの結果は、次のことを示している。(1)カムシャフトクラウンの公称値は、スライダーパッドの角度アラインメントを最大で0.2度から平坦に軽減するために有効である。(2)軽減は、最大設計負荷及び最大設計負荷の125%で有効である。(3)カムシャフトの研磨は、スライダーパッドの研磨とカムシャフトローブのクラウンと組合わされたとき、DLCコーティングの耐久性に寄与する。
それぞれの試験は、応力がDLCコーティングの耐久性に対して有する作用をより良く理解するために役立つ。結果は、図80にプロットされている。
鋳鉄製カムシャフトローブを使用した前の試験は、設計負荷において滑り界面の寿命は、エンジン寿命の半分を超えなかった。次の改善は、「エッジ効果」を特定したことからきた。研磨されたカムシャフトローブにクラウンを付加することと、許容される角度アラインメントについての理解を深めることによって、コーティングの耐久性が3寿命にまで改善された。この試験の成果は、それぞれの推定されたエンジン寿命において、観察された試験結果と、応用例のための最大設計負荷の間の設計マージンが示されたことである。
有効な表面仕上げがDLC耐久性に及ぼす効果は、研削され、コーティングされたサンプルから、研磨され、コーティングされたクーポンへの遷移で最も顕著である。研削され、コーティングされて試験されたスライダーパッドは、図81に示すように、エンジン寿命の3分の1を超えなかった。スライダーパッドの表面仕上げにおける改善によって、コーティング下にある基材の負荷担持能力が向上し、コーティングされたスライダーパッドの全体的な耐久性が改善された。
鋳鉄製カムシャフトの結果と鋼製カムシャフトの結果から、次のことが得られる。(1)スライダーパッドのカムシャフトに対する角度アラインメントの仕様。(2)角度アラインメントの仕様は、カムシャフトローブのクラウンの仕様と両立すること。(3)カムシャフトローブのクラウンとスライダーパッドのアラインメントの設計仕様の範囲内において、DLCコーティングは、最大設計負荷を超えても影響を受けないこと。(4)スライダーパッドの研削工程の後、研磨工程が必要であること。(5)研削工程の工程内仕様。(6)コーティング前のスライダーパッドの表面仕上げの仕様。(7)鋼性カムシャフトローブの研磨は、スライダーパッドのDLCコーティングの耐久性に寄与すること。
5.4 スライダーパッド製造法の開発
5.4.1 スライダーパッド製造法の開発
説明
外側アームは、機械加工された鋳鉄を使用している。素材ビレットから機械加工されたプロトタイプの部品により、スライダーパッドの角度変化と、コーティング前の表面仕上げの目標(ターゲット)が確立された。製造法開発において、図85に示すように、研削と研磨が同時に試験された。試験の結果からフィードバックが得られ、外側アーム用スライダーパッドの製造工程のガイダンスが得られた。製造工程のパラメータは、試験の結果に基づいて調整され、加工された新規サンプルが試験治具で評価された。
この節では、クーポンからSRFLの外側アームまで、スライダーパッドの製造法の開発について説明する。
製造法の開発の第1ステップとして、研削工程が異なる機械で評価された。3つの異なる機械で試行が実行された。それぞれの機械は、同じ、検証された立方晶窒化ホウ素(CBN)のホイールとドレッサーを使用した。CBNホイールが選択されたのは、次の理由からである。(1)部品間の改善された一貫性、(2)厳しい公差を必要とする応用例における改善された精度、(3)酸化アルミニウムと比較して、ドレスサイクルの間に多くの部品を製造することによる効率性。それぞれの機械は、同じ供給レートを使用して一群のクーポンを研削し、それぞれのパスにおいて同量の材料を除去した。試験治具は、複数のクーポンを順次的に研削できるように準備された。サンプルは容易に研磨され、損耗装置上で試験されるため、試行は、クーポン上で実行された。この方法は、試験治具、研削ホイール、及びドレッサーを一定としてパラメータを保持することによって、研削機を評価するための公平な手段が実現された。
それぞれのサンプルのセットが種々された後、測定値が取得された。スライダーパッドの角度測定は、Leitz PMM654 座標測定機(CMM)を使用して取得された。表面仕上げの測定は、Mahr LD 120 表面形状測定装置上で取得された。図83に、研削機に対してスライダーパッドの角度制御の結果が示されている。線より上方の結果は、顕著なコーティング性能の劣化が発生したものである。目標(ターゲット)領域は、この開先角度で試験された部品は、寿命試験において違いがないことを示している。研削機のうちの2つは、クーポン上のスライダーパッドの開先角度に対して、目標を満たしていない。比較すると、3番目の研削機は、非常に良い。損耗装置の試験結果から、滑り界面は、この目標よりも上方の開先角度に対して敏感であることが確認された。研削機での試行と上の節で説明した試験との組合せは、製造設備の選択に役立った。
図84は、開先角度が図83に示されている同じクーポンに対する表面仕上げの測定をまとめたものである。スライダーパッドの表面仕上げの仕様が、これらの試験結果から確立された。制限線よりも上方の表面仕上げ値は、低い耐久性を有する。
同じ2つの研削機(A及びB)は、表面仕上げの目標も満たしていない。表面仕上げの目標は、与えられた一群の部品に対して、研磨工程における表面仕上げの正味の変化に基づいて確立された。研削工程から外れ値として始まったクーポンは、研磨工程の後も外れ値のままであった。したがって、研削工程において表面仕上げを制御することは、研磨の後、コーティング前の最終的な表面仕上げに適合するスライダーパッドが製造可能となるために、重要である。
それぞれの機械に対する測定値が考察された。研削機AとBの両方は、角度測定値において各パッドの形状に変動を有する。この結果は、研削ホイールが、スライダーパッドを研削しつつ垂直に移動することを示唆する。この種の研削機における垂直のホイールの移動は、機械の全体的な剛性に関連する。機械の剛性は、研削される部品の表面仕上げにも影響を及ぼす可能性がある。試験設備によって検証された仕様に従って外側アームのスライダーパッドを研削することは、研削機Cで識別された剛性が必要であった。
クーポンの研削からの知識は、SRFFの外側アームを研削するための治具の開発に適用された。しかし、外側アームには、非常に異なる課題があった。外側アームは、カムシャフトローブによってそれが駆動される方向に剛性を有するように設計されている。外側アームは、スライダーパッドの幅方向には、それほどの剛性を有していない。
研削治具は、(1)各スライダーパッドを付勢することなく制振する、(2)研削によって印加される力に抵抗するように、各スライダーパッドを強固に支持する、(3)この手順を、大量生産において高い信頼性で繰り返す、ものである必要があった。
外側アームの治具の開発は、手動のクランプ式ブロックから始まった。治具を改善する毎に、制振機構から付勢を除去し、研削面の変動を低減することが試みられた。図85に、スライダーパッド研削工程の間に外側アームを保持する治具の設計の改良を通じた結果が示されている。
開発は、重要なSRFF外側アーム用スライダーパッドの表面仕上げパラメータのための仕様に対する制限を設定し、開先角度に関連する公差を形成する試験計画によって完了した。研削による表面仕上げの、研磨後の最終的な表面仕上げへの影響が研究されて、中間的製造標準のための仕様を確立するために使用された。これらのパラメータは、大量生産においてもコーティング性能が確実に維持される設備及び治具開発を確立するために使用された。
5.4.2 スライダーパッドの製造方法の開発
結論
DFHLA及びOCVの構成要素を含むDVLLシステム内に構成されるSRFFスライダーパッド上のDLCコーティングは、乗用車の寿命要件を超えてロバストであり、かつ耐久性があることが示された。DLCコーティングは、複数の産業で使用されているが、自動車のバルブトレイン市場のための製品は限定されている。DLCの適用の前の表面仕上げの効果、DLC応力レベル、及び、スライダーパッドを製造する方法が特定され、定量化された。この技術は、SRFFスライダーパッドの連続生産に適切であり、そのための準備ができたことが示された。
表面仕上げは、寿命試験を通じてスライダーパッド上のDLCコーティングを維持するために重要であった。試験結果は、表面仕上げが粗すぎると、早期の損傷が発生することを示した。Oleのための寿命試験要件をはるかに超える表面仕上げレベルの領域が示された。この方法によれば、窒化クロムのベース層上のDLCに損傷は発生せず、これによって、SRFFのベース金属は、カムシャフトローブ材料との接触にさらされることはない。
DLCスライダーパッド上の応力レベルも識別され、確認された。試験により、スライダーパッドのエッジの角度制御が必要であることが明確になった。カムシャフトにクラウンを付加することによって、製造公差により、エッジ負荷の作用に対してロバスト性が付加されることが示された。角度制御の仕様の組は、試験結果が、寿命耐久性要件を超えることを示した。
滑り界面において、カムシャフトローブの材料が重要な因子であることも分かった。DVVLシステムに基づくSRFFのパッケージ化要件は、最大で1000MPaの滑り接触圧力を可能とするロバストな解決方法を必要とした。カムシャフトローブが剥離して滑り界面の寿命が低減することを避けるために、これらの応力レベル及び高品質の鋼材料を含む解決方法が必要とされた。寿命耐久性要件を超えるために、クラウン付きで研磨された鋼のカムシャフト材料を備えた最終的なシステムが見出された。
大量生産工程において、スライダーパッド及びDLCを製造する方法が説明された。重要な製造方法の開発は、研削設備の選択と、研削ホイール及びスライダーパッドの研削工程のためにSRFF外側アームを保持する治具(固定具)との組合せに向けられた。選択された製造工程は、滑り界面のエンジン寿命の耐久性を保障するための仕様を満足するロバスト性を示した。
スライダーパッド上のDLCコーティングは、寿命要件を超えることが示され、これは、システムDVVLの結果と整合する。外側アーム用スライダーパッド上のDLCコーティングは、全ての運転条件にわたってロバストであることが示された。その結果、SRFF設計は、エンジンの部分負荷運転によるポンピング損失を低減することによって燃費を改善する目的のための、4気筒乗用車の応用例に対して適切なものである。DVVLのDLCコーティグされたスライダー面は、耐久性を有するとともに、VVA技術を様々なエンジンバルブトレインの応用のために使用可能にすることが示された。
II. 1ローブ型気筒休止システム(CDA−1L)
実施形態の説明
1. CDA−1Lシステムの概要
CDA−1L(図88)は、ピストン駆動式内燃期間に設置された小型のカム駆動1ローブ型(単一ローブ型)シリンダー休止(CDA−1L)スイッチングロッカーアーム1100であり、デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)110及び油量制御バルブ(OCV)822で駆動される。
ここで、図11、図88、図99、及び図100に示すように、CDA−1Lのレイアウトには、4つの主要な構成要素が含まれる。それらは、油量制御バルブ(OCV)822、デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)、CDA−1Lスイッチングロッカーアームアセンブリ(SRFF−1Lともいう)1100、及び1ローブ型カム1320である。初期設定での構成は、通常リフト(ラッチ)位置であり、CDA−1Lロッカーアーム1100の内側アーム1108と外側アーム1102は互いに係止されている。これによって、エンジンバルブは開放され、シリンダーは、標準的なバルブトレインのように動作することができる。DFHLA110は、2つの作動油ポート(オイルポート)を有する。下側作動油ポート512はラッシュを補償するものであり、標準的なHLAと同様にエンジンオイルが供給される。上側作動油ポート506は、スイッチング圧力ポートともいい、OCV822からの制御された作動油圧とSRFF−1Lのラッチ1202との間の流路となる。上述したように、ラッチが係合されているとき、SRFF−1Lの内側アーム1108と外側アーム1102は、標準的なロッカーアームのように一体で動作し、エンジンバルブを開放する。無リフト(未ラッチ)位置において、内側アーム1108と外側アーム1102は、独立に動くことが可能となり、これによってシリンダーを休止させることができる。
図88及び図99に示すように、一対のロストモーションねじりバネ1124が組み込まれており、内側アーム1108の位置を、内側アームが常にカムシャフトローブ1320との持続的な接触を維持するように付勢する。ロストモーションねじりバネ1124には、カムシャフトローブ1320と内側アームローラーベアリング1116との間の持続的な接触を容易にするため、複数のローブを使用する構成よりも高い予荷重が必要である。
図89は、SRFF−1L1100の内側アーム1108と外側アーム1102を、ラッチ1202機構及びローラーベアリング1116とともに詳細に示す図である。SRFF−1L1100構成の機能のパッケージ化は同様に維持され、かつ複数のローブを備えた構成と比較して、カムシャフト1300の複雑性が低減する。例えば、各SRFFの位置に対する別々の無リフトローブを不要とすることができる。
図91に示すように、1つのエンジンシリンダーのための完全なCDAシステム1400には、1つのOCV822、排気用の2つのSRFF−1Lロッカーアーム1100、吸気用の2つのSRFF−1Lロッカーアーム1100、それぞれのSRFF−1L1100に対する1つのDFHLA110、及び、それぞれのSRFF−1L1100を駆動する1ローブ型カムシャフト1300が含まれる。さらに、CDA1400システムは、SRFF−1L110及びDFHLA110が、吸気及び排気の両方について同一であるように構成されている。このレイアウトでは、シリンダーの休止に必要な4つのSRFF−1Lロッカーアーム1100アセンブリのそれぞれを、1つのOCV822によって同時に切り換えることが可能となる。最後に、このシステムは、OCV822はECU825から電子的に制御されて、通常リフトモードと無リフトモードとが切り換えられる。
図90には、SRFF−1L1100を使用する1つの排気バルブ及び1つの吸気バルブに関するエンジンレイアウトが示されている。SRFF−1L1100のパッケージ化は、標準的なバルブトレインのパッケージ化と同様のものである。但し、シリンダーヘッドには、下側ギャラリー805からOCV822へ作動油を供給するために変更が必要である(図88、図91)。さらに、OCV822とDFHLA110のスイッチングポート506を連結するために、第2の(上側)作動油ギャラリー802が必要である。基本的なエンジンシリンダーの構成は、バルブの中心線、カムシャフトの中心線、及びDFHLA110の中心線が一定に維持されるように、同様に維持される。これらの3つの中心線が標準的なバルブトレインに対して維持され、かつSRFF−1L1100が小型に維持されるため、シリンダーヘッドの高さ、長さ、及び幅は、標準的なバルブトレインシステムと比較して殆ど変更されない。
2.CDA−1Lシステムの実現技術
このシステムで使用される幾つかの技術は、様々な応用例において複数の用途を有している。ここでは、これらの技術を、本明細書に開示されるDVVLシステムの構成要素として説明する。これらの技術には、以下のものが含まれる。
2.1 油量制御バルブ(OCV)
図88、91、92、98に示して上述したように、油量制御バルブ(OCV)は、ロッカーアーム1100を通常リフトモードと無リフトモードとの間で切り換えるために、加圧作動油を向かわせるかまたは向かわせないかを制御する装置である。OCVは、例えばECU825によって送信される制御信号を使用して、インテリジェントに制御される。
2.2 デュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ(DFHLA)
エンジン内のラッシュを維持するために、多くの油圧式ラッシュアジャスタ装置が存在する。ロッカーアーム100(図4)のDVVL切換に対して、従来のラッシュ管理は必要であるものの、従来のHLA装置は、切換のために必要な作動油流量を供給すること、関連して運転の間にアセンブリ100によって印加される側面負荷に耐えること、及び、制限されたパッケージ空間内に収めることを実現するためには不十分なものである。スイッチングロッカーアーム100とともに使用される小型のデュアルフィード油圧式ラッシュアジャスタ110(DFHLA)について、低消費で最適な作動油圧を供給するように設計された一群のパラメータ及び幾何学的構成、及び、側面負荷に対処するように設計された一群のパラメータ及び幾何学的構成とともに、説明する。
図10に示すように、ボールプランジャーエンド601は、ボールソケット502に、全ての方向における回転運動の自由度が許容されるように組み込まれる。これによって、特定の運転モード(例えば、高リフトから低リフトへの切換、または、低リフトから高リフトへの切換)におけるボールプランジャーエンド601の側面の、そして場合によっては非対称な負荷が許容される。HLA装置の典型的なボールエンドプラジャーと比較して、DFHLA110ボールエンドプランジャー601は、側面負荷に耐えるために厚い材料で構成されている。図11に、プランジャーの厚さ510が示されている。
ボールプランジャーエンド601のために選択される材料は、許容される運動学的負荷も高いものであってもよく、例えば、クロム・バナジウム合金である。
DFHLA110内の作動油の流路は、油圧による切換を着実に実行し、かつポンピング損失を低減するために、高流量及び低圧力降下となるように構成される。DFHLAは、図11に示すように、エンジンの、外面511に対してシールを形成するサイズに形成された円筒受入ソケットに組み付けられる。円筒受入ソケットは、第1作動油流路504との組合せにより、特定の断面積を有する閉じた流路を形成する。
図11に示すように、好適な実施形態には、4つの作動油流ポート506(2つのみが図示されている)が含まれており、これらは、第1作動油流路504のベース部の周りに等間隔に配置されている。加えて、2つの第2作動油流路508、ボールエンドプランジャー601の周りに等間隔に配置されており、2つの第2作動油流路は、第1作動油流路504と作動油流ポート506を通じて流体連通する。作動油流ポート506と第1作動油流路504は、作動油の一様な流れを確保し、第1作動油流路504から第3作動油流路509への圧力降下を最小限に留めるために、特定の面積を備えて、DFHLA110本体の周りに間隔をおいて配置されている。第3作動油流路509は、複数の第2作動油流路508からの組合された作動油流に適した大きさに形成されている。
2.3 検出及び測定
センサを使用して収集される情報は、切換モードの検証、エラー状況の特定、または、切換ロジック及びタイミングで分析され、使用される情報を提供するために使用することができる。DVVLシステムに関連して上述した検出及び測定の実施形態は、CDA−1Lシステムにも適用することができる。したがって、DVVLで使用されるバルブ位置及び/または運動の検出とロジックは、CDAシステムでも使用することができる。同様に、DVVLシステムにおいて、ロッカーアームの位置/運動、または複数のロッカーアームの互いに相対的な位置/運動を判別するために使用される検出及びロジックは、CDAシステムでも使用することができる。
2.4 ねじりバネの構成と実装
高い信頼性を維持しながら、従来既存のロッカーアーム構成よりも大きなトルクを提供するロバストなねじりバネ1124構成によって、CDA−1Lシステムは、全ての動的運転モードを通じて適切な運転を維持することが可能となる。ねじりバネ1124の構成及び製造については後述する。
3. 切換制御及びロジック
3.1 エンジンの実装
CDA−1Lの実施形態は、例えばインラインの4気筒及び6気筒、及び、V型の6気筒及び8気筒といった、任意の気筒数を含むものであってもよい。
3.2 ロッカーアームアセンブリへの作動油供給システム
図91に示すように、作動油システムは、エンジンオイルを制御された圧力でCDA−1Lスイッチングロッカーアーム1100に供給する。この構成において、シリンダーヘッド801からの圧力未調整のエンジンオイルが、下側作動油ギャラリー805を介してDFHLA110に供給される。このオイルは、DFHLA110の下側ポート512と常に流体連通しており、そこで、通常の油圧式ラッシュ管理を実施するために使用される。シリンダーヘッド801からの圧力未調整のエンジンオイルは、油量制御バルブ822にも供給される。OCV822からの油圧油は、制御された圧力で上側作動油ギャラリー802に供給される。OCV822の切換は、所定のエンジンシリンダーに対するCDA休止システムを含むCDA−1Lロッカーアーム1100のそれぞれのリフトモードを定めるものである。以下に記載するように、OCVバルブ822の動作は、エンジン制御装置825によって指令される。このエンジン制御装置は、特定の物理的構成、スイッチングウィンドウ、及び一群の運転状況(例えば、特定の気筒数及び特定の温度)についての検出情報及び保存情報の両方に基づくロジックを使用する。上側ギャラリー802からの圧力調整された油圧油は、DFHLA110の上側ポート506に導かれ、そこで、スイッチングロッカーアームアセンブリ1100に伝達される。油圧油は、ロッカーアームアセンブリ1100を通じてラッチピン1202アセンブリに伝達され、そこで、通常リフト状態と無リフト状態との切換を開始するために使用される。
油圧剛性を維持し、圧力上昇時間における変動を最小限に留めるために、上側ギャラリー802内に蓄積された空気をパージすることは重要である。圧力上昇時間は、切換運転の間のラッチ移動時間に直接影響を及ぼす。蓄積された空気をシリンダーヘッドのバルブカバー下のエアー空間に排出するため、上側ギャラリー802の高所に、図91に示す受動的抽気ポート832が追加された。
3.2.1 通常リフトモードにおける作動油供給
図92は、OCV822に対する電気信号がない初期位置でのSRFF−1L1100を示す図である。また、この図には、OCV822、DFHLA110、ラッチバネ1204、ラッチ1202、外側アーム1102、カム1320、ローラーベアリング1116、内側アーム1108、バルブパッド1140、及びエンジンバルブ112といった、通常リフトモードにおける運転を可能にするシステム及び構成要素の断面も示されている。下側ギャラリー805内の未調整のエンジンオイル圧力は、標準的なラッシュ補償を可能とするために、DFHLA110のラッシュ補償(下側)ポート512に連通する。OCV822は、上側作動油ギャラリー802への作動油圧力を調整し、次いで、ECU825の電気信号がない場合に、上側ポート506に0.2×105〜0.4×105Pa(0.2〜0.4 bar)で作動油を供給する。この圧力値は、ラッチバネ1204を圧縮してラッチピン1202を移動させるために必要な圧力よりも低い値である。この圧力値は、必要なシステム応答を達成するために、油圧回路内を作動油で満たして空気のない状態に維持するために役立つ。カム1320のローブは、ローラーベアリングに接触し、外側アーム1102をDFHLA110のボールソケット回りに回転させて、バルブを開放及び閉止する。ラッチ1202が係合されているとき、SRFF−1Lは、標準的なRFFロッカーアームアセンブリと同様に機能する。
3.2.2 無リフトモードにおける作動油供給
図93A、図93B、図93Cは、シリンダー休止(無リフトモード)の間のSRFF−1L1100を詳細に示す図である。エンジン制御装置(ECU)825(図91)は、OCV822に対して、ラッチ1202に作動油圧を供給するように信号を供給し、これによって、図83Bに示すように、ラッチが退縮する。ラッチを完全に退縮させるために必要な圧力は、2×105Pa(2 bar)以上である。この1ローブ型CDAの実施形態において、ねじりバネ1124(図88、図99)の予荷重を高めることによって、カムシャフトローブ1320と内側アーム1108のローラーベアリング1116との接触がロストモーションにおいて発生するときに、その接触を維持することが可能になり、ひいては、図96Cに示すように、エンジバルブの閉止を維持することができる。
3.3 運転パラメータ
CDAシステム1400(図91)を運転するための重要な因子は、通常リフトモードと無リフトモードとの間の信頼性の高い切換制御である。CDAバルブ駆動システム1400が切り換えられるのは、既定の時間窓の間だけである。上述したように、高リフトモードから低リフトモードへの切換及び低リフトモードから高リフトモードへの切換は、エンジン制御装置(ECU)825(図91)からの信号によって開始される。エンジン制御装置は、例えば、特定の物理的構成に対する切換時間窓(スイッチングウィンドウ)、保存された運転状況、及びセンサによって収集されて処理されたデータ等の、保存された情報を解析するロジックを使用する。スイッチングウィンドウの持続時間は、CDAシステムの物理的構成によって決定され、この物理的構成には、気筒数、1つのOCVによって制御される気筒数、バルブリフトの持続時間、エンジンの回転速度、並びに、油圧制御システム及び機械的システムに固有のラッチ応答時間が含まれる。
3.3.1 収集されたデータ
実時間のセンサ情報には、図91の例示的なCDA−1Lシステム1400に示されるように、任意の数のセンサからの入力が含まれる。上述したように、センサは、1)一実施形態において線形可変差動トランス(LVDT)使用して測定されるようなバルブステム移動829、2)ホール効果センサまたは運動検出器の使用による移動/位置828及びラッチ位置827、3)近接スイッチ、ホール効果センサ、または他の手段の使用によるDFHLA移動826、4)作動油圧830、及び、5)作動油温度890のセンサを含むものであってもよい。カムシャフトの回転位置及び回転速度は、直接収集されるものであってもよく、または、エンジンの回転速度センサから推定されるものであってもよい。
油圧駆動VVAシステムにおいて、作動油温度(オイル温度)は、CDA及びVVLのようなシステムにおける切換のために使用される油圧システムの剛性に影響を及ぼす。作動油が冷たすぎる場合、粘性により切換時間が遅くなり、誤動作を引き起こす。例示的なCDA−1Lスイッチングロッカーアーム1100システム1400におけるこの関係が、図96に示されている。一実施形態において図91に示すセンサ890を、エンジンオイルクランクケース内ではなく、使用箇所の近傍に配置することによって取得された正確な作動油温度が、正確な情報を与える。一例として、CDAシステム1400において、油量制御バルブ(OCV)822に近接して監視された作動油温度は、必要な流体剛性を用いて無リフト(未ラッチ状態)運転を始動するために、20℃以上でなければならない。測定値は、任意の数の市販の部品(例えば、熱電対)を使用して取得することができる。油量制御バルブについては、2010年4月15日に公開された米国特許出願公開第2010/0089347号、及び、2010年1月28日に公開された米国特許出願公開第2010/0018482号にさらに詳しく説明されており、これらの文献の開示内容の全体は、参照により本明細に含まれる。
センサ情報は、実時間の運転パラメータとして、エンジン制御装置(ECU)825に送信される。
3.4 保存された情報
3.4.1 スイッチングウィンドウアルゴリズム
SRFFでは、通常リフト状態から無リフト(未ラッチ)状態へのモード切換及び無リフト状態から通常リフト状態へのモード切換が必要である。この切換は、正常なエンジンの運転を確保するために、カムシャフトの1回転よりも短い時間で発生させる必要がある。モードの切換は、SRFFがカム1320の基礎円1322(図101)上にあるときにのみ発生させることができる。ラッチ1202(図93)に負荷がかかり、移動が制限されているときに、バルブリフト状態の切換を発生させることはできない。ラッチ1202の滑りを防ぐために、ラッチ1202の完全係合と部分係合との間の遷移時間を制御しなければならない。スイッチングウィンドウとCDAシステム1400(図91)に固有の電気機械的ラッチ応答時間との組合せによって、モード切換時間の機会が特定される。
SRFFに基づくCDAシステム1400において意図された機能パラメータは、現在製品化されているV型スイッチングローラーリフターの設計と類似している。通常リフトと無リフトとの間のモード切換は、基礎円1322事象の間に発生し、かつカムシャフト1300の回転位置と同期するように設定される。SRFFの初期設定位置は、通常リフトに設定される。SRFFのへの作動油流量の要求も、V型CDA製品のシステムと同様である。
臨界的シフトは、ラッチが部分的に係合しているときに発生する意図しない事象である。これによって、バルブが部分的にリフトし、突然バルブシートに落下する現象が引き起こされる。この状況は、作動油温度の規定のパラメータ、及びカムシャフ位置が切換と同期されたエンジン回転速度の間に切換コマンドが実行される場合には、発生する可能性が低い。臨界的シフト事象は、DFHLA110に衝撃負荷を発生させる。これによって、実現技術のシステム構成要素として、上述したような高強度のDFHLAが必要となる可能性がある。
CDAシステム1400のための同期切換の基本が、図94に示されている。この図には、排気バルブのプロファイル1450と吸気バルブのプロファイル1452とが、クランクシャフトの角度の関数としてプロットされている。必要なスイッチングウィンドウは、次のような動作にかかる時間の合計として定められる。すなわち、1)OCV822バルブの加圧作動油の供給、2)油圧システムの圧力が付勢バネ1204に打ち勝ち、ラッチ1202の機械的移動を生じさせること、及び、3)無リフトから通常リフトへのモード変更及び通常リフトから無リフトへのモード変更に必要なラッチ1202の完全な移動である。この排気の例において、スイッチングウィンドウ時間1454は、排気が閉じた後、再び開き始めるまでに存在する。ラッチ1202は、排気リフト事象の間、制限された状態に保持される。図94には、臨界的シフト1456を発生させる可能性がある時間窓が示されており、その詳細については後述する。吸気のスイッチングウィンドウは、吸気リフトのプロファイルに対して同様の用語で記述することができる。
ラッチの予荷重
CDA−1Lロッカーアーム100のスイッチング機構は、ラッチラッシュが吸収された後に油圧をラッチ1202に印加することができ、この結果、機能に変化が生じないように構成されている。この設計パラメータにより、吸気バルブのリフト事象の間に、上側作動油ギャラリー802内でのOCV822による油圧の始動が可能になる。吸気バルブのリフトプロファイル1452が基礎円1322の無負荷状況に戻った後、ラッチは、指定されたラッチモードまたは未ラッチモードにまで完全に移動する。この設計パラメータは、使用可能なスイッチングウィンドウを最大化するために役立つ。
油圧応答時間対温度
図96に、SAE 5W−30オイルを使用して、ラッチ1202応答時間の作動油温度に対する依存性が示されている。ラッチ1202応答時間は、ラッチ1202の通常リフト(ラッチ)位置から無リフト(未ラッチ)位置への移動及び無リフト位置から通常リフト位置への移動の持続時間を反映する。ラッチ1202応答時間には、スイッチング圧力ポート506内の作動油温度が20℃及び圧力が3×105Pa(3 bar)で、10ミリ秒が必要である。ラッチ応答時間は、同じ圧力条件で運転温度が高い(例えば、40℃)場合、5ミリ秒まで短縮される。油圧応答時間は、スイッチングウィンドウを定めるために使用される。
可変バルブタイミング
ここで、図94及び図95に示すように、幾つかのカムシャフト駆動システムは、クランクシャフトの角度に対する運動の位相制御について、標準的な駆動システムよりも大きい権限/範囲を有するように構成されている。この技術は、可変バルブタイミングと呼ばれる場合もあり、許容可能なスイッチングウィンドウ時間1454を定めるときに、エンジンの回転速度とともに考慮する必要がある。
図95には、バルブリフトのプロファイルがクランクシャフトの角度の関数としてプロットされており、可変バルブリフトタイミングが、スイッチングウィンドウ時間1454に及ぼす影響が示されている。排気バルブリフトのプロファイル1450及吸気バルブリフトのプロファイル1452は、可変バルブタイミング機能を有しない典型的なサイクルを示しており(図94にも示されている)、結果として非スイッチングウィンドウ1455が生じる。排気バルブリフトのプロファイル1460と吸気バルブリフトのプロファイル1462は、可変バルブタイミング機能を有する典型的なサイクルを示しており、結果として非スイッチングウィンドウ1464が生じる。可変バルブタイミングのこの例では、非スイッチングウィンドウの持続時間の増大1458が生じる。排気カムシャフトと吸気カムシャフトの間に、120度のクランクシャフト角度の可変バルブタイミング機能の持続時間を仮定すると、持続時間のシフト1458は、3500rpmのエンジン回転速度で6ミリ秒である。
図97には、温度及びカムの位相制御の影響による、計算され、測定されたスイッチング時間の変動が示されている。この表示は、最小のオーバーラップ1468でのカムシャフトの位相制御をともなう420度のクランクシャフト角度から、最大のオーバーラップ1466でのカムシャフトの位相制御をともなう540度のクランクシャフト角度までにわたるスイッチングウィンドウに基づく。この表示に示された5ミリ秒のラッチ応答時間は、40〜120℃の通常のエンジン運転温度におけるものである。油圧応答の変動1470は、ECU825の切換信号の開始から、ラッチ1202を移動させるために十分な油圧になるまでに測定される。作動油圧を制御するためにOCVを使用するCDAシステム1400の研究に基づけば、最大変動は約10ミリ秒である。この油圧応答の変動1470は、OCV822の電圧、温度、及びエンジン内の作動油圧を考慮に入れたものである。最小のオーバーラップ1468での位相位置は、3500rpmのエンジン回転速度において、20ミリ秒の使用可能なスイッチングウィンドウを備えており、全ラッチ応答時間15ミリ秒である。これは、切換のために使用可能な時間とラッチ1202応答時間との間に5ミリ秒の余裕があることを示している。
図98にも、温度及びカムの位相制御の影響による、計算され、測定されたスイッチング時間の変動が示されている。この表示は、最小のオーバーラップ1468でのカムシャフトの位相制御をともなう420度のクランクシャフト角度から、最大のオーバーラップ1466でのカムシャフトの位相制御をともなう540度のクランクシャフト角度までにわたるスイッチングウィンドウに基づく。この表示に示された10ミリ秒のラッチ応答時間は、20℃の冷温でのエンジン運転温度におけるものである。油圧応答の変動1470は、ECU825の切換信号の開始から、ラッチ1202を移動させるために十分な油圧になるまでに測定される。作動油圧を制御するためにOCVを使用するCDAシステム1400の研究に基づけば、最大変動は約10ミリ秒である。この油圧応答の変動1470は、OCV822の電圧、温度、及びエンジン内の作動油圧を考慮に入れたものである。最小のオーバーラップ1468での位相位置は、3500rpmのエンジン回転速度において、20ミリ秒の使用可能なスイッチングウィンドウを備えており、全ラッチ応答時間20ミリ秒である。これは、切換のために使用可能な時間とラッチ1202応答時間との間の余裕が低減したことを示している。
3.4.2 保存された運転パラメータ
これらの変数には、可変バルブタイミング及び運転温度の関数として予測されるラッチ応答時間のようなエンジン構成パラメータが含まれる。
3.5 制御ロジック
上述したように、CDA切換は、特定の運転条件の下で、短い既定の時間ウィンドウ内でのみ行うことができる。そして、時間ウィンドウの外でCDAの切換を行うと、臨界的シフト事象が発生し、バルブトレイン及び/または他のエンジン部品が損傷するおそれがある。作動油圧、温度、排気、及び負荷のようなエンジン条件は、急速に変動する可能性があるため、実時間状況を解析し、それらを作動システムの特性を示す既知の運転パラメータと比較し、切換の時期を決定するためにその結果を調整し、切換信号を送信するために、高速の処理装置を使用することができる。これらの動作は、1秒当たり数百回または数千回実施することができる。様々な実施形態において、この計算機能は、専用の処理装置によって実行されるものであってもよく、または、エンジン制御装置(ECU)と呼ばれる既存の汎用の自動車用制御システムによって実行されるものであってもよい。典型的なECUは、アナログデータ及びデジタルデータのための入力部と、マイクロプロセッサ、プログラム可能なメモリ、及びランダムアクセスメモリを含む処理部と、出力部とを含む。出力部は、リレー、スイッチ、及び警告灯の作動を含むものであってもよい。
一実施形態において、図91に示すエンジン制御装置(ECU)825は、バルブステムの移動829、移動/位置828、ラッチ位置827、DFHLA移動826、作動油圧830、及び作動油温度890のような、複数のセンサからの入力を受け入れる。所定のエンジン回転速度で可能な運転温度及び圧力及びスイッチングウィンドウのようなデータが、メモリに保存される。そして、実時間で収集された情報が、保存された情報と比較され、解析されて、ECU825が切換のタイミングを決め、制御するためのロジックが与えられる。
入力が解析された後、ECU825によって、OCV822に制御信号が出力され、切換動作が開始される。切換動作は、燃費の改善及び排気の低減等のエンジン性能の目標に対応しながら、臨界的シフト事象を避けるように、タイミングが調整される。必要な場合、ECU825は、エラー状況に対応して運転者に警告するものであってもよい。
4. CDA−1Lロッカーアームアセンブリ
図99は、例示的なCDA−1Lロッカーアーム1100を示す透視図である。このCDA−1Lロッカーアーム1100は、例示としてのみ示されているものであり、本出願の対象であるCDA−1Lロッカーアーム1100の構成は、本明細書に添付される図面に示されるCDA−1Lロッカーアーム1100の構成によって限定されるものではない。
図99及び図100に示すように、CDA−1Lロッカーアーム1100は、第1の外側サイドアーム1104と第2の外側サイドアーム1106とを有する外側アーム1102を含む。第1の外側サイドアーム1110と第2の外側サイドアーム1106との間には、内側アーム1108が配置される。内側アーム1108は、第1の内側サイドアーム1110と第2の内側サイドアーム1112とを有する。内側アーム1108と外側アーム1102の両方は、ピボット軸1114に取付けられる。ピボット軸は、ロッカーアーム1100の第1端1101に近接して位置し、内側アーム1108を、ロッカーアーム1100が無リフト状態のときにはピボット軸1114回りに旋回する回転の自由度を許容しつつ、外側アーム1102に固定する。外側アーム1102及び内側アーム1108に取付けられる別体のピボット軸1114を有する図示された実施形態に加えて、ピボット軸1114は、外側アーム1102または内側アーム1108と一体であってもよい。
CDA−1Lロッカーアーム1100は、ローラー1116を含むベアリング1190を有する。このローラーは、ベアリング軸1118の第1の内側サイドアーム1110と第2の内側サイドアーム112との間に取付けられる。ベアリング軸は、ロッカーアームの通常作動の間、回転するカム(図示は省略する)からロッカーアーム1100へエネルギーを伝達する機能を果たす。ベアリング軸1118にローラー1116を取り付けることによって、ベアリング1190は軸1118回りに回転することが可能となり、これによって、回転するカムとローラー1116との接触により発生する摩擦が低減する。上述したように、ローラー1116は、内側アーム1108に対して回転自在に固定されており、これによって、特定の条件の下でピボット軸1114回りに外側アーム1102に対して回転することができる。図示された実施形態では、ベアリング軸1118は、内側アーム1108のベアリング軸開口部1260に取付けられ、外側アーム1102のベアリング軸スロット部1126を通じて延びるものである。ベアリング軸1118を使用する際に、他の構成も可能である。例えば、他の構成において、ベアリング軸1118は、ベアリング軸スロット部1126を通じて延びるものではないが、それでも、内側アーム1108のベアリング軸開口部1260に取付けられるものであってもよい。
ロッカーアーム1100が無リフト状態にある場合、カムのリフト部(図101の1324)がベアリング1190のローラー1116と接触して下方に押圧すると、内側アーム1108は、外側アーム1102に対して下方に旋回する。軸スロット部1126は、ベアリング軸1118の下方移動、ひいては内側アーム1108及びベアリング1190の下方移動が可能なように構成される。カムの回転が続くと、カムのリフト部はベアリング1190のローラー1116から回転して離れ、ベアリング軸1118はベアリング軸ねじりバネ1124によって上方に付勢されるため、ベアリング1190の上方移動が可能となる。図示されたベアリング軸バネ1124は、ねじりバネであり、外側アーム1120上に配置される取付部1150にバネ保持部材1130によって固定されている。ねじりバネ1124は、ロッカーアーム1100の第2端1103に近接して固定され、ベアリング軸1118と接触するバネアーム1127を有する。ベアリング軸1118及びバネアーム1127が開放に移動すると、ベアリング軸1118は、バネアーム1127に沿って滑動する。ロッカーアーム1100の第2端1103に近接して固定されたねじりバネ1124と、ロッカーアームの第1端1101に近接して配置されたピボット軸1114とを有し、ピボット軸1114と軸バネ1124との間のベアリング軸1118を備えたロッカーアーム1100の構成により、ロッカーアームの第1端1101近傍の質量(mass)が低減する。
図101及び図102に示すように、バルブステム1350も、ロッカーアーム1100にその第1端1101の近傍で接触する。したがって、ロッカーアーム1100の第1端1101における質量の低減により、バルブトレイン(図示は省略する)全体の質量が低減し、それによって、バルブトレインの速度を変化させるために必要な力が低減する。ベアリング軸1118を付勢するために、単一の連続的なばねのような他のバネ構成を使用することもできる。
図100は、図99に示すCDA−1Lロッカーアーム1100の展開図である。図100に示す展開図及び図99に示す組立図に示されるベアリング1190は、略円筒形のローラー1116と、ベアリング軸1118に取付けることが可能なニードル1200との組合せを含むニードルローラー型ベアリングである。ベアリング1190は、カムの回転運動をロッカーアーム100に伝達するように機能し、例えば図101及び図102に示される構成において、この運動は、今度はバルブステム350に伝達される。図99及び図100に示すように、ベアリング軸1118は、内側アーム1108のベアリング軸開口部1260に取り付けられるものであってもよい。このような構成において、外側アーム1102の軸スロット部1126は、ベアリング軸1118を受け入れて、ロッカーアーム110が無リフト状態にあるときに、ベアリング軸1118、ひいては内側アーム1108のロストモーション運動を可能にするものである。「ロストモーション」運動は、ロッカーアーム1100の、カムの回転運動をバルブに伝達しない運動と考えることができる。図示された実施形態において、ロストモーションは、内側アーム1108の外側アーム1102に対するピボット軸1114回りの旋回運動によって示される。
ベアリング1190以外の他の構成でも、カムからロッカーアーム1100へ運動を伝達することができる。例えば、カムリフトローブ(図101の1320)と接触する円滑な非回転面(図示は省略する)を、内側アーム1108及びロッカーアーム1100に対して図99に示すベアリング1190の位置と略同一の位置で、内側アーム1108に取り付けるかまたは内側アームと一体に形成するものであってもよい。このような非回転面は、非回転面上に形成された摩擦パッドを含むものであってもよい。別の例では、複数の同心ローラーを備えたベアリングのような他のベアリングを、ベアリング1190の代替として効果的に使用することができる。
図99及び図100に示すように、ピボット軸1114の第1内側サイドアーム1110と第2内側サイドアーム1112との間には、エレファントフット1140が取付けられる。ピボット軸1114は、内側ピボット軸開口部1220と外側ピボット軸開口部1230に、ロッカーアーム1100の第1端1101に近接させて取付けられる。内側アーム1108に形成されたリップ部1240によって、エレファントフット1140のピボット軸1114回りの回転が防止される。エレファントフット1140は、図102に示すように、バルブステム1350の端部に係合する。別の実施形態において、エレファントフット1140を削除し、その代わりに、ピボット軸1114上にバルブステム1350の先端と相補的な接触面を配置するものであってもよい。
図101及び図102は、それぞれ、ロッカーアーム1100を、基礎円1322とリフト部1324を備えたリフトローブ1320を有するカム1300と関連させて示す側面図及び正面図である。ローラー1116は、リフトローブ1320と接触した状態で図示されている。デュアルフィード油圧式ラッチアジャスタ(DFHLA)110は、ロッカーアーム1100に、その第2端1130の近傍で係合して、バルブラッシュを軽減しつつ、ロッカーアーム1100(特に、外側ロッカーアーム1102)に上方への圧力を印加する。バルブステム1350は、ロッカーアーム1100の第1端1101の近傍で、エレファントフット1140と係合する。通常リフト状態において、ロッカーアーム1100は、バルブステム1350を周期的に下方に押圧し、これによって対応するバルブ(図示は省略する)が開放する。
4.1 ねじりバネ
以下に説明するように、ロッカーアーム1100は、無リフト状態において、過剰な作動油圧、非定常状態条件の発現、または他の原因によって、ラッシュアジャスタ110の過剰なポンプアップを受ける場合がある。この結果、内部が加圧流体で満たされると、ラッシュアジャスタ110の有効長が増大する。このような状況は、例えば、エンジンのコールドスタートの間に発生する可能性がある。この状況は、検査しないまま放置されると、自力で回復するために長時間を要し、エンジンの永久的な損傷が生じる場合すらある。このような状況下では、ラッシュアジャスタ110が通常の動作長に復帰するまで、ラッチ1202がロッカーアーム1100を動かすことができない可能性がある。この状況において、ラッシュアジャスタ110は、外側アーム1102に上方への圧力を印加し、これによって、外側アーム1102はカム1300に近づく。
SRFF−1L上のロストモーションねじりバネ1124は、無リフト運転の間に、ローラーベアリング1116とカムシャフトローブ1320との接触を維持するための十分な力を与えるように、構成される。これによって、内側アームサブアセンブリの制御された加速及び減速、並びに、ラッチラッシュを維持しながら内側アーム1108をラッチ位置へ制御しつつ復帰させることが確保される。ポンプアップ状況により、ポンプアップからの付加的な力を補償するため、より強力なねじりバネ1124が必要となる。
ねじりバネ1124には、アセンブリの慣性モーメントを低くし、かつ作動負荷を支持するための断面高さを備えながら、パッケージ空間を低減するため、四角形のワイヤ断面が使用された。ねじりバネ1124の構成要素を開発するため、応力計算及びFEA、並びに以下に説明する試験の検証が使用された。
ねじりバネ1124(図99)の構成及び製造工程について説明する。このねじりバネは、選択された構成材料から形成された略四角形のワイヤを使用した小型の構成を備えている。
ここで、図30A、図30B、及び図99を参照すると、ねじりバネ1124は、略台形状のワイヤ397から構成される。この台形は、巻回工程の間に力が印加されると、ワイヤ397が略四角形の形状に変形することが可能なように構成されている。ねじりバネ1124が巻回された後、結果として生じるワイヤの形状は、略四角形の断面形状を備える第1ワイヤ396と同様のものである。図99に示す2つのねじりバネの実施形態は、複数のコイル398,399の断面として示されている。好適な実施形態において、ワイヤ396は、この例では垂直な辺402、404として示されている2つの長辺と、上辺401及び底辺403とを備えた四角形の断面形状を有する。コイルの上辺401と底辺403の平均長の、辺402と辺404の平均長に対する比率は、1未満の任意の値とすることができる。この比率によって、コイル398の上辺401と底辺403の平均長に等しい直径を備えた円形ワイヤを使用して巻回されたバネよりも、曲げのコイル軸400に沿った大きな剛性が生じる。別の実施形態において、ワイヤの断面は、長い上辺401と短い底辺403とを備えた略台形状を有する。
この構成において、コイルが巻回されると、各コイルの長辺402は、直前のコイルの長辺402上に載置されることになり、これによって、ねじりバネ1124が安定化される。この形状及び構成では、全てのコイルが直立して保持され、圧力印加時に互いに擦れること、または傾くことが防止される。
ロッカーアームアセンブリ1100の動作時、略四角形または台形のねじりバネ1124は、図30A及び図30Bに示す軸400回りに曲げられたとき、高い部分応力が発生し、特に、上面401上に引張応力が発生する。耐久性要件を満たすため、技術と材料とが組み合わせて使用される。例えば、ねじりバネは、強度及び耐久性を改善する構成とともに、クロム・バナジウム合金鋼を含む材料から形成するものであってもよい。ねじりバネは、加熱後急冷することによって、バネ性をやわらげるものであってもよい。これによって、残留応力が低減する。ねじりバネを形成するためのワイヤ396、397の表面に投射物を衝突させること、または「ショットピーニング」が、ワイヤ396、397の表面に残留圧縮応力を付加するために使用される。次いで、ワイヤ396、397は、巻回されてねじりバネとなる。このようなショットピーニングにより、結果として生じるねじりバネは、ショットピーニングを行うことなく形成された同等のバネよりも大きな引張応力を受け入れることが可能となる。
4.2 ねじりバネ用ポケット
図100に示すように、ノブ1262がベアリング軸1118の端部から延び、バネアーム1127が着座するスロット部1264が形成されている。一つの別の実施形態では、中空のベアリング軸1118が、バネアーム1127を取り付けるためのノブ1262及びスロット部1264と同様の特徴を含む別体のバネ取付けピン(図示は省略する)とともに使用されるものであってもよい。
4.3 外側アームアセンブリ
4.3.1 ラッチ機構の説明
ロッカーアーム1100を選択的に休止させる機構は、図示された実施形態ではロッカーアーム1100の第2端1103の近傍に配置されており、図100に示すように、ラッチ1202、ラッチバネ1204、バネ保持部材1206、及びクリップ1208を含んでいる。ラッチ1202は、外側アーム1102の内部に取付けられるように構成される。ラッチバネ1204は、ラッチ1202内に配置され、ラッチバネ保持部材1206及びクリップ1208によって定位置に固定される。ラッチバネ1204は、取付け後、ラッチ1202をロッカーアーム1100の第1端1101に向けて付勢する。これによって、ラッチ1202、特に係合部1210が、内側アーム1108に係合することが可能となり、それによって、内側アーム1108の外側アーム1102に対する移動が防止される。ラッチ1202がこのように内側アームに係合しているとき、ロッカーアーム1100は通常リフト状態にあり、カムからバルブステムに運動を伝達するものである。
組み立てられたロッカーアーム1100において、通常リフト状態と無リフト状態は、ラッチ1202によって切り換えられる。ロッカーアーム1100は、ラッチバネ1204の付勢力に対抗するために十分な作動油圧が、例えばラッチ1202の表面に作動油圧を印加可能なように構成されたポート1212を通じて、印加されているときに、無リフト状態に入るものであってもよい。作動油圧が印加されているとき、ラッチ1202は、ロッカーアーム1100の第2端1104に向けて押圧され、それによって、ラッチ1202は、内側アーム1108との係合状態から離脱する。これによって、内側アーム1108は、ピボット軸1114回りに回転することが可能となる。通常リフト状態と無リフト状態の両方において、配向クリップ1214の直線部1250は、ラッチ1202の平坦面1218に係合する。配向クリップ1250は、クリップ開口部1216に取付けられ、それによって、ロッカーアーム1100に対する直線部1250の配向を水平に維持する。これによって、平坦面1218の配向も水平に制限され、それによって、ラッチ1202は、内側アーム1108との一貫した係合のために適切な方向に向き付けられる。
4.3.2 ラッチピン構成
図96A、図93B、及び図93Cに示すように、無リフトモードで作動しているSRFF−1Lロッカーアーム1100のラッチ1202は、外側アーム1202の内部に退縮し、内側アーム1108は、カムシャフトのリフトローブ1320に追随する。特定の条件下において、無リフトモードから通常リフトモードへの遷移によって、図103に示す状況が生じる場合がある。この状況では、内側アーム1108が、ラッチ1202が通常係合する位置に復帰する前に、ラッチ1202が伸長している。
内側アーム1108の進行が妨げられ、ラッチ1292下の位置に閉じ込められる状況を防止するため、SRFFに再係合機能が追加された。内側アーム傾斜面1474及びラッチ傾斜面1472は、内側アーム1108がラッチ傾斜面1472に接触するときに、ラッチ1202の退縮位置への滑らかな移動を与えるように最適化された。この構成により、スイッチング圧力ポート506(図88)における圧力変化によって生じる可能性のある損傷がラッチ機構に発生することが回避される。
4.4 システムのパッケージ化
SRFF−1Lの構成は、標準的な製品レイアウトと比較して、バルブトレインのパッケージ化の変更を最小化することに取り組むものである。重要な設計パラメータには、カムシャフトローブのSRFFローラーベアリングに対する相対的な配置と、鋼製カムシャフトとアルミニウム製シリンダーヘッドとの軸方向のアラインメントが含まれる。鋼の部品とアルミニウムの部品は、熱成長係数が異なるため、カムシャフトローブがSRFFに対してずれる可能性がある。
図104は、単一のカムシャフトローブのSRFF−1L1100の外側アーム1102及びベアリング1116に対する適正なアラインメントと、不適正なアラインメントとを示す図である。適正なアラインメントでは、カムシャフトリフトローブ1320が、ローラーベアリング1116上の中心に位置している。単一のカムシャフトローブ1320とSRFF−1L1110は、ローラーベアリング1116上のエッジ負荷1482を回避し、カムローブ1320と外側アーム1102との接触1480を回避するように構成される。多ローブ型のCDA構成のカムシャフトに存在する無リフトローブを削除することにより、厳密な製造公差の要求、及びカムシャフトローブの幅及び位置の組立調整が緩和される。これによって、カムシャフトの製造工程が、第2型のエンジンで使用される標準的な製造工程と同様なものとなる。
4.5 CDA−1Lラッチ機構の油圧作動
上述したように、ポンプアップは、HLAが、意図された作動寸法を超えて伸長され、それによって、基礎円事象の間のバルブのシートへの復帰が妨げられる状況を記述するために使用される用語である。
図105は、カムシャフトの基礎円事象の間の、標準的なバルブトレインシステムとローラーフィンガーフォロワーアセンブリ(RFF)1496に作用する力とを示す図である。油圧式ラッシュアジャスタの力1494は、ラッシュ補償ポート1491内の作動油圧によって発生する油圧式ラッシュアジャスタ(HLA)1493の力とHLA内部バネの力との合力である。カムの反力1490は、カムシャフト1320とRFFベアリングとの間にある。反力1492は、RFF1496とバルブ112の先端との間にある。力の均衡は、バルブバネの力1492が、バルブ112の意図しない開放を防ぐようなものでなければならない。仮に、HLAの力1494によって発生するバルブの反力1492及びカムの反力1490が、バルブ112を着座させるための着座力を超えたならば、基礎円事象の間にバルブ112が上昇して開放状態に維持されるという、望ましくない状況が生じる。この標準的な固定アームシステムの説明には、動的作動負荷は含まれていない。
SRFF−1L1100の構成にあたっては、システムが無リフトモードにあるときのポンプアップに対する考慮も追加される。SRFF−1L1100が無リフトモードにあるときのDFHLA110のポンプアップによって、ラッチ1202が内側アーム1108に再係合できる位置に内側アーム1108が復帰しない状況が発生する可能性がある。
SRFF−1Lは、SRFF−1L1100が通常リフトモードにあるときには、標準的なRFF1496(図105)と同様に応答する。ポンプアップを防止しながら、SRFF−1Lを切り換えるために必要なラッチラッシュを維持することは、内側アーム1108をそのラッチ係合位置に復帰させるために既に必要なねじりバネの力に加えて、HLAの力1494に打ち勝つための付加的な力を、ねじりバネ1124から印加することによって解決される。
図106には、システムが無リフト状態にあるときに、SRFF−1L1100に作用する力の均衡が示されている。それらの力は、ラッシュ補正ポート(ラッシュコンペンセータポート)512(図88)の作動油圧に加えてプランジャーバネの力1498によって生じるDFHLAの力1499、カムの反力1490、及びねじりバネの力1495である。バネ1124によって生じるねじりバネの力1495は、ベアリング軸1118及びバネアーム1127を介して、内側アーム1108に作用するバネの反力1500に変換される。
SRFF−1Lロッカーアームアセンブリ1100のねじりバネ1124は、無リフトモードの間に、ローラーベアリング1116とカムシャフトのリフトローブ1329との接触を維持するために十分な力を与えるように構成される。これによって、内側アーム1108サブアセンブリの制御された加速及び減速、並びに、ラッチラッシュを維持しながら内側アーム1108をラッチ位置へ復帰させることが確保される。SRFF−1L1100の構成のためのねじりバネ1124の構成によって、システムが無リフトモードにあるときのラッシュ補償ポート512における作動油圧の変動も説明される。作動油圧の調整によって、バネの大きさの設定に対して直接影響する、ねじりバネ1124の負荷要件を低減させることができる。
図107には、ラッシュ補償圧力ポート512内の作動油圧の要件が示されている。SRFF−1Lの制限された作動油圧は、システムが無リフトモードにあるときにのみ必要とされる。上述したような同期切換を考慮すると、20℃よりも低い温度の無リフトモードは制限される。
4.6 CDA−1Lアセンブリのラッシュ管理
図108には、SRFF−1L1100のラッチラッシュ1205が示されている。複数のローブを備えたCDA構成の場合、カムシャフトラッシュ1504とラッチラッシュ1205との合計であるのに対して、1ローブ型CDAシステムにおいて、全機械的ラッシュ1505は、唯1つのラッチラッシュ1205値に低減する。SRFF−1L1100のラッチラッシュ1204は、ラッチ1202と内側アーム1108との間の距離である。
図109は、3ローブ型SRFF用に構成された開弁側ランプと1ローブ型SRFF−1L用に構成された開弁側ランプの比較が示されている。
カムシャフトラッシュは、1ローブ型SRFF−1Lの構成によって削除された。カムシャフトラッシュ1504の削除によって、リフトランプの低減1510が生じることによるカムシャフトのリフトプロファイルのさらなる最適化が可能となり、それによって、リフト事象の延長が可能となる。SRFF−1Lのカムシャフト開弁側ランプ1506は、多数のローブを使用する同様の構成で必要とされるカムシャフト開弁側ランプ1506から、最大で36%減少する。
加えて、カムシャフトラッシュを削除したこと、及びそれに関連する特徴によって、SRFF−1Lの機械的ラッシュの変動は、同様の3ローブ型構成に対して39%改善される。上記の関連する特徴は、例えば、カムシャフトの無リフトローブ基礎円半径の製造公差、ローブの振れ(run-out)、スライダーパッドとスライダーパッドとの間の平行性、及びスライダーパッドとローラーベアリングとの間の平行性である。
4.7 CDA−1Lアセンブリのダイナミクス
4.7.1 詳細な説明
SRFF−1Lロッカーアーム1100及びシステム1400(図91)は、エンジンの運転範囲の全体に対する動的安定性要件を満たすように構成される。SRFF構成に対して、SRFFの剛性及び慣性モーメント(MOI)が解析された。SRFF−1Lアセンブリ1100のMOIは、DFHLA110と接触するSRFFソケットを通る回転軸であるピボット軸1114(図99)回りに測定される。剛性は、カム1320とベアリング1116との界面で測定される。図110では、測定された剛性が、計算されたアセンブリのMOIに対してプロットされている。SRFF−1Lの剛性とMOIとの関係は、現在製品化されている第2型のエンジンで使用されている標準的なRFFと同等のものである。
4.7.2 解析
SRFFのDFHLA側端部の剛性を最大化し、かつMOIを低減するために、幾つかの設計及び有限要素解析(FEA)の反復が実施された。MOIを最小化するために、質量が集中する構成要素は、SRFFのDFHLA側端部に配置された。ねじりバネ1124は、SRFFアセンブリ内の最も重い構成要素の1つであり、SRFF回転軸に近接させて配置された。ラッチ機構もDFHLAの近傍に配置された。SRFFの垂直部分の高さは、MOIを最小化しながら剛性を最大化するため、増大された。
SRFF構成は、運動学的モデルからの負荷情報を使用して最適化された。この解析の主要な入力パラメータには、バルブトレインのレイアウト、質量のSRFF要素、慣性モーメント、剛性(FEAによる予測値)、機械的ラッシュ、バルブバネ負荷及びレート、DFHLAの幾何学的構成及びプランジャーバネ、並びに、バルブリフトのプロファイルが含まれる。次に、
予測される動的目標を満たすために、CDA SRFFのバルブ上の剛性対有効質量を最適化することによって、システムが変更された。バルブ上の有効質量は、SRFFのピボット点に対するMOIと、バルブとSRFFピボットとの間の距離の2乗との間の比率を表す。試験された動的性能については、後の節で説明する。
5. 構成の検証及び試験
5.1 バルブトレインのダイナミクスの結果
バルブトレインの動的挙動は、エンジンの耐久性及び性能目標を満たしつつ、騒音・振動・ハーシュネス(NVH)を制御する上で重要である。バルブトレインのダイナミクスは、SRFF構成要素の剛性及びMOIによって部分的に影響される。SRFFのMOIは、容易に計算可能であり、剛性は、計算機支援工学(CAE)技術により推定される。バルブの動的挙動はも、様々な因子によって影響されため、高速バルブ制御に信頼性を獲得するため、試験が実施された。
バルブトレインのダイナミクスに対して、電動(motorized)エンジン試験装置が使用された。シリンダーヘッドは、試験前に設置された。作動油は、実際のエンジン条件を呈するように過熱された。エンジン回転速度によって定められるデータを記録しながら、アイドル速度から7500rpmまで速度掃引が実施された。バルブ閉止速度及びバルブバウンスを評価することによって、動的性能が判別された。SRFF−1Lに対しては、負荷を監視するために、ひずみゲージによる測定がなされた。バルブバネの負荷は、一貫性のため、固定システムに対して一定に保持された。
図111には、吸気バルブの着座閉止速度の結果が示されている。データは、8個の連続的事象に対して取得され、エンジン回転速度に対して、最小速度、平均速度、及び最大速度が示されている。目標速度は、この産業分野において典型的な着座速度の最大速度として示されている。目標着座速度は、最大で約7500rpmのエンジン回転速度に維持された。これは、乗用車のエンジンへの応用について許容可能な動的制御を表している。
5.2 ねじりバネの検証
ねじりバネは、SRFF−1L構成において(特に、高速運転の間における)重要な構成要素である。ロバスト性を検証するために、バネの設計構想の検証が実施された。設計構想の検証のために、バネ構成の3つの要素が試験された。第1に、負荷損失が、運転温度における高サイクルの条件で実証された。バネの負荷損失または緩和は、試験の終了時における試験の開始からのバネの負荷の低減に相当する。負荷損失は、最高の応力レベルを印加し、かつ部品を高温に晒すことによっても実証された。第2に、上述した負荷損失だけでなく、疲労寿命を検証するために、負荷の最悪条件でサイクル試験を課すことによって、耐久性及びバネ性が試験された。最後に、最低負荷のバネの使用し、CDAモードにおける全ての運転条件の間にDFHLAがポンプアップしないことを検証することによって、ロストモーションバネの機能が検証された。
ねじりバネには、目標試験装置上でのエンジンオイル環境内において、エンジンの運転温度でサイクル試験が課された。ねじりバネには、最悪条件の応力に相当する最高の予荷重を印加された状態で応用例における完全ストロークが繰り返された。サイクル数の目標値は、2500万(25M)サイクル及び5000万(50M)サイクルに設定された。ねじりバネには、ヒートセット試験も実施された。この試験では、ねじりバネに、応用例における最高の応力にまで負荷が印加されて、50時間140℃に保持され、負荷損失が測定された。
図112に、サイクル試験及びヒートセット試験の両方における負荷損失がまとめられている。設計目標が10%の最大負荷損失に設定されたのに対して、全ての部品が、最大で8%の負荷損失をもって合格した。
この結果により、負荷損失が最大で8%であり、設計目標を満たすことが示された。多くの試験では、最小の負荷損失は約1%であることが示された。全ての試験は、負荷損失の設計ガイドラインを安全に満たした。
5.3 気筒休止の間のポンプアップに対するロバスト性
ねじりバネ1124(図99)は、システムが無リフトモードで運転されているとき、HLAのポンプアップを防止して、ラッチラッシュ1205(図108)を保持するように構成されている。試験装置は、モード切換が要求されるときのオイル温度及びエンジン回転速度条件にわたって、ラッシュ補償圧力ポートにおけるエンジンオイルの圧力を維持するように構成された。
要求される条件において、ラッチラッシュ1205を保持するねじりバネ1124の能力を実証するために、検証実験が実施された。試験は、バルブ及びCDA SRFFの運動、ラッシュ補償圧力ポート512(図88)及びスイッチング圧力ポート506(図88)における作動油圧及び温度を測定するための装置を備えた電動エンジン上で実施された。
最悪条件をシミュレートするために、低限界ロストモーションバネが使用された。この試験は、最大切換速度に相当する3500rpmで実施された。58℃及び130℃の2種類の運転温度が考慮された。試験結果として、応用例の要件よりも25%高い圧力でポンプアップが示された。
図113に、排気側において58℃で測定された最低のポンプアップ圧力1540が示されている。58℃及び130℃での吸気側のポンプアップ圧力、及び、130℃での排気側のポンプアップ圧力は、58℃での排気側のポンプアップ圧力よりも高い値を示した。SRFFは、通常リフトモードの事象及び無リフトモードの事象を有する切換モードにあった。スイッチング圧力ポート506の相当する圧力におけるSRFFモード状態を検証するために、近接プローブを使用してバルブの移動が検出された。ラッシュ補償(コンペンセータ)ポート512内の圧力は除々に増加し、無リフトモードから通常リフトモードへの切換が監視された。システムが切換を停止した圧力が、ポンプアップ圧力1540として記録された。このSRFF−1L構成において、作動油圧が5×105Pa(5 bar)以下に維持されている場合、システムは、ポンプアップ圧力を安全に回避する。最悪条件の疲労設計マージンをシミュレートするために、特別に調達された高限界トルクねじりバネを使用して、設計構想の試験が実施された。この高負荷ねじりバネ上で実施された設計構想の試験は、要求される設計目標を満たした。
5.4 切換耐久性の間の機械的ラッシュの検証
機械的ラッシュの制御は、バルブトレインの動的安定性のために重要であり、エンジン寿命を通じて維持される必要がある。ラッチに負荷を与えて通常リフトモードと無リフトモードとの間を切換る試験は、ラッチ機構の損耗及び性能を検証するために適切であると考えられる。切換耐久性は、係合位置から非係合位置にラッチを切り換え、SRFFを無リフトモードでサイクル動作させ、ラッチを内側アームに係合させ、SRFFを通常リフトモードでサイクル動作させることにより、試験された。1サイクルは、ラッチの離脱と続く再係合、及びSRFFの2つのモードでの実行として定義された。切換耐久性の目標は、3,000,000サイクルである。3,000,000サイクルは、1回のエンジン寿命に相当する。1回のエンジン寿命は、約321,987km(200,000マイル)として定義されている。これは、標準の約241,490km(150,000マイル)を安全に超えるものである。部品は、切換の間の最悪条件の動的負荷をシミュレートするために、3500rpmのエンジン回転速度である最高の切換速度目標で試験された。
図114には、試験の間の周期的な検査点における機械的ラッシュの変化が示されている。この試験は、6気筒のエンジン装置の1つのバンク上で実施された。1バンク毎に3つのシリンダーがあり、1シリンダー毎に4つのSRFF−1Lがあるため、12個のプロファイルが示されている。0.020mmの機械的ラッシュ限界の変化が、設計損耗目標として設定された。全てのSRFF−1Lは、車両寿命と同等である損耗目標を下回る、ラッシュ損耗の安全なマージンを有することを示した。試験は、寿命目標を25%延長して実施され、その時点で、部品は、最大ラッシュ変化の目標値に近づいた。
バルブトレインのダイナミクス、ねじりバネの負荷損失、ポンプアップの検証、及びエンジン寿命と同等な期間にわたる機械的ラッシュの変化は、全て、SRFF−1Lの意図された目標を満たすものであった。バルブトレインのダイナミクスは、閉止速度について、7200rpmの最大エンジン回転速度における限界内、及び、7500rpmというより高いエンジン回転速度における限界内に安全に維持された。LMS(ロストモーションねじりバネ)の負荷損失は、設計目標の10%内に安全に留まる8%の最大損失を示した。ポンプアップ試験が実施されて、SRFF−1L構成が、5×105Pa(5 bar)の所定の目標作動油圧で、正常に動作することが示された。最後に、エンジン寿命と等価な期間にわたる機械的ラッシュの変化は、安全に設計目標の範囲内にあった。SRFF−1Lは、乗用ガソリン車への応用のための気筒休止の全ての設計要件を満たす。
6.結論
気筒休止は、乗用ガソリン車の燃費を改善するための実績のある方法である。ポンピング損失を低減し、シリンダーの一部を高い燃焼効率で運転することによって、燃費を改善する能力を備えた1ローブ型SRFFに基づく気筒休止システムの設計、開発、及び検証が完了した。このシステムは、エンジンバルブ、カムシャフト、及びラッシュアジャスタについて同じ中心線を維持することによって、標準の第2型バルブトレインの基本設計を保持する。SRFFの通常リフトモードから休止モードへの油圧切換を可能にするために、エンジンのシリンダーヘッドは、OCVとシリンダーヘッド内の油量制御ポートの追加を要する。このシステムは、エンジンのシリンダー毎に1つのOCVを要する。また、このシステムは、典型的には、SRFF毎の1つのDFHLAとともに、吸気及び排気のために4つの同一のSRFFを備えるように構成される。
SRFF−1L構成は、システムの複雑性と費用とを低減する解決法を与える。SRFF−1L構成のための最も重要な実現技術は、ロストモーションねじりバネの修正である。このLMSは、通常リフトモードと無リフトモードの両方の間に、1ローブ型カムシャフトとSRFFとの間の連続的な接触を維持するように構成される。このねじりバネには、少し大きなパッケージ空間が必要とするものの、3ローブ型カムシャフトが削除されたシステム全体の複雑性は低減する。外側アームスライダーパッド上のエッジ負荷及び内側アームとの干渉の機会を増大させる外側カムシャフトローブがないため、SRFF−1Lの軸方向の積み重ねは、3ローブ型CDAの構成から低減する。SRFF−1Lのロッカーアームの剛性レベルは、標準製品のロッカーアームに匹敵する。
より重い構成要素、特にラッチ機構及びねじりバネを、DFHLA上に直接着座する端部ピボット上に配置することによって、慣性モーメントが最小化された。この特徴によって、バルブ上の有効質量を最小化することによりバルブトレインのダイナミクスを改善することが可能となる。このシステムは、標準的なリフトモードの間において7200rpmのエンジン回転速度、及び気筒休止モードにおいて3500rpmのエンジン回転速度に対して構成され、検証された。構成要素も、少なくとも1回のエンジン寿命に対して検証された。1回のエンジン寿命は、約321,987km(200,000マイル)のエンジンの稼働に相当する。
本明細における開示により本出願の教示の様々な態様が例示され、及び、これらの態様が詳細に説明されたが、これは、本出願において請求される教示の範囲を、そのような詳細に限定またはいかなる方法においても制限することを意図するものではない。追加の利点及び修正は、当業者には容易に理解されるものである。したがって、本出願の教示は、その広い態様において、特定の詳細及び例示されて説明された例によって制限されない。したがって、本出願において請求される教示の思想または範囲から逸脱することなく、このような詳細から逸脱することは可能である。さらに、上述した態様は、例示的なものであり、本出願または後の出願において請求される可能性のある全ての可能な組合せにおいて必須の機能または要素はない。