以下、本発明の実施の形態におけるナノワイヤ光学デバイスについて図1を参照して説明する。このナノワイヤ光学デバイスは、第1半導体から構成された柱状の第1部分101と第2半導体から構成された柱状の第2部分102とが交互に積層されたナノワイヤ100を備える。例えば、各々の第1部分101および第2部分102は、円柱形状とされ、各々の軸を共通としては位置(積層)されている。また、このナノワイヤ光学デバイスは、第1部分101と第2部分102とは互いに異なる径とされ、ナノワイヤ100の側部にグレーティング(回折格子)構造103が形成されている。グレーティング構造103は、一次元フォトニック構造である。
図1の(a),(c)に示すように、第1部分101が第2部分102より大きな径とされていてもよく、図1の(b)に示すように、第2部分102が、第1部分101より大きな径とされていてもよい。また、図1の(a),(c)に示す構成において、第2部分102が、多重量子井戸構造とされていてもよい。
上述した実施の形態によれば、互いの径が異なる第1部分101と第2部分102とが交互に積層してナノワイヤ100としたので、光学的なナノ構造であるグレーティング構造103を、ナノワイヤ100自体に形成できるようになる。このようにグレーティング構造103が形成されたナノワイヤ100によるナノワイヤ光学デバイスは、例えば、波長フィルターとして用いることができる。
次に、上述した実施の形態におけるナノワイヤ光学デバイスの製造方法について図2A,図2Bを参照して説明する。
まず、図2Aに示すように、第1半導体から構成された第1部分101と、第2半導体から構成された第2部分121とが交互に積層したナノワイヤ100を形成する(第1工程)。ここで、第1半導体と第2半導体とは、所定のエッチング液に対して互いに異なる溶解度を有する。
例えば、半絶縁性のInPなどによる成長基板の上に、例えば、よく知られた自己触媒法によりナノワイヤを成長させる。この成長方法では、まず、よく知られた有機金属気相成長法により、基板加熱温度などの成長条件などを適宜に設定した状態で、In原料ガスを加熱された基板の上に供給し、種微粒子を成長させる。引き続き、同一の成膜室内で有機金属気相成長法により、InAs(第1半導体)からなる第1部分101と、InP(第2半導体)からなる第2部分121とを交互に成長させてナノワイヤ100とする。この段階では、第1部分101と第2部分121とは、ほぼ同じ径である。
次に、図2Bに示すように、ナノワイヤ100を所定のエッチング液でエッチングすることで、第1部分101と第2部分102とを互いに異なる径に加工してナノワイヤ100の側部にグレーティング構造103を形成する(第2工程)。エッチング液は、主にナノワイヤ100の側面から作用する。ここで、第1半導体と第2半導体とは、所定のエッチング液に対して互いに異なる溶解度を有するので、第1部分101と第2部分102とは、いずれかがより多くエッチングされてより細い径となる。
例えば、硫酸と過酸化水素の混合液によるエッチング液を用いればよい。InAsとInPとは、硫酸と過酸化水素の混合液によるエッチング液に対して互いに異なる溶解度をもち、InAsの方がより高い溶解度を有する。従って、硫酸と過酸化水素の混合液によるエッチング液を用いれば、InPに対してInAsを選択的にエッチングできるので、第2部分102を第1部分101より小さい径とすることができる。
また例えば、塩酸系のエッチング液を用いてもよい。InAsとInPとは、硫酸と過酸化水素の混合液によるエッチング液に対して互いに異なる溶解度をもち、InPの方がより高い溶解度を有する。従って、塩酸系のエッチング液を用いれば、InAsに対してInPを選択的にエッチングできるので、第1部分101を第2部分102より小さい径とすることができる。
上述した実施の形態によれば、図3に示すように、1つの基板104の上に、多くのナノワイヤ100が形成可能であり、1つの基板104の上に複数のナノワイヤ100を備えるナノワイヤ光学デバイスが容易に実現可能である。
ところで、ナノワイヤ100を励起する励起手段を備えてナノワイヤ光学デバイスとすることで、ナノワイヤ100より所定の波長の光(レーザ光)を発光(発振)させることができる。例えば、図4の(a)に示すように、励起手段は、ナノワイヤ100に光を照射する光源106から構成することができる。
このナノワイヤ光学デバイスは、基板105の上に配置したナノワイヤ100と、ナノワイヤ100に励起光を照射する光源(励起手段)106とを備える。励起光は、ナノワイヤ100が吸収する波長(発光波長よりも短波長)のレーザであればよい。
光源106からの励起光は、図4の(a)に示すように、グレーティング構造103の形成平面より離れる放線方向の上部より、レンズ107により集光させてナノワイヤ100に照射させる構成としてもよい。また、光源106からの励起光は、図4の(b)に示すように、ナノワイヤ100の延在方向より、レンズ107により集光させてナノワイヤ100の端部に照射する構成としてもよい。
また、光励起ではなく、電流注入によりキャリアを注入することでレーザ発振させるようにしてもよい。この場合、電流注入する機構(電流注入部)が励起手段となる。例えば、図5の(a)に示すように、基板105の上に配置したナノワイヤ100に、p型領域151,n型領域152を形成する。また、p型領域151,n型領域152に、配線108,配線109を接続する。配線108,配線109に電源(不図示)を接続し、p型領域151,n型領域152に電流を注入する。p型領域151,n型領域152は、例えば、第1部分101および第2部分121を成長するときに、p型不純物、n型不純物を導入することで形成すればよい。また、この場合、ナノワイヤ100は、絶縁性の基板105の上に形成してリーク電流を防ぐ構造とする。
また、図5の(b)に示すように、導電性の基板105aの上に、基板面より離れる方向に延在する状態でナノワイヤ100を配置してもよい。例えば、p型領域151を基板105aの側に配置する。また、基板105aに配線108を接続し、n型領域152に、配線109を接続する。配線108,配線109に電源(不図示)を接続し、p型領域151,n型領域152に電流を注入する。
上述したようなレーザなどの発光デバイスとする場合、グレーティング構造103は、屈折率の周期的な構造により、ブラッグ反射を満たす条件に対してミラーとして動作させるようにする。このようにミラーとなるグレーティング構造103により、レーザが実現される。
次に、グレーティング構造103について説明する。グレーティング構造103は、例えば、図6の(a)に示すように、全域において等間隔とした周期構造とする構成が考えられる。この周期構造は、フォトニックバンドギャップを構成する状態とする。このように構成することで、フォトニックバンドギャップのバンド端を利用したレーザとすることができる。比較的簡単な構造であるため作製が容易であるが、共振器Q値は高くできない。
また、グレーティング構造103は、図6の(b)に示すように、一部に変調幅(例えば、第2部分102の長さ)をλ/4とした変調部131を備えるようにしてもよい。変調部131は、例えば、グレーティング構造103の配列方向中央部に設ければよい。このように、グレーティング構造103の一部において周期に変調を加えることで、共振器モードが形成でき、レーザモードを出現させることができる。変調幅をλ/4にすることで、フォトニックバンドギャップの中央に共振ピークができるようになる。この構造とすることで、より高いQ値を実現でき波長選択性もよいものとなる。
また、図6の(c)に示すように、互いに離間して形成された2つのグレーティング構造103a,103bを備えるようにしてもよい。グレーティング構造103aとグレーティング構造103bとは、同じ構造とされていればよい。ナノワイヤ100に、所定の距離離間させて2つのグレーティング構造103a,103bを形成する。2つのグレーティング構造103a,103bの間隔Dは、フリースペクトルレンジがナノワイヤ100の発振波長より大きい状態となるように設定する。グレーティング構造103aおよびグレーティング構造103bが反射部となり、共振器構造となる。
この構造は、グレーティング構造103aとグレーティング構造103bとの間隔(共振器間隔)Dが広くなりフリースペクトルレンジ(Free spectral range)λfsrが小さくなると、マルチモード発振になり易い。一般にモード間隔、すなわちフリースペクトルレンジは、「λfsr=λ2/(NgL)」となる。なお、λはナノワイヤ100を導波する光の波長(発振波長)、Ngは実効屈折率、Lはナノワイヤ100の全体の長さである。このフリースペクトルレンジλfsrが、ナノワイヤ100のゲイン帯域よりも小さくなるとマルチモードで発振する可能性が出てくる。
従って、2つのグレーティング構造103a,103bによる共振器構造とする場合、図6の(c)の構成では、λfsrがナノワイヤ100のゲイン帯域よりも大きくなるように、共振器間隔Dを設定することが重要となる。ナノワイヤ100の例えば第2部分102を、前述した多重量子井戸構造とする場合、活性層となる量子井戸層におけるゲイン帯域よりもλfsrが大きくなればよい。
上述したいずれの構造においても、グレーティング構造103における配列間隔などを変えることで発振波長を任意に変えることができる。
次に、共振器として用いる場合のグレーティング構造103の設計について説明する。グレーティング構造103の反射波長の設計には、隣り合う第1部分101と第2部分102との、各々の分散関係から実効的な屈折率を見積もる必要がある。なお、ナノワイヤ100の周りは、空気(誘電体)であり、ナノワイヤ100の側部は空気に接している状態である。
一例として、ナノワイヤをInPから構成した場合について図7を用いて説明する。なお、図7において、1〜16の数字は、対応するグラフ曲線で示される状態に存在しうるモード次数を示している。1が最低次のモードであり、数字が大きくなるモードの次数が上がっていく。図7に示すように、ナノワイヤの径が約0.4μmで最低次のモードが存在する。このモードは2つ存在するが、異なる偏波成分が縮退したモードである。ナノワイヤにおいては、シングルモードで伝播することが好ましいので、径の太さはシングルモード条件を満たすことが重要となる。従って、シングルモード条件とする場合は、ナノワイヤの径を0.4μm程度にする必要がある。
上述したシングルモード条件に関し、ナノワイヤにおけるシングルモード伝播の条件は、以下の式(1),式(2)に示すように一般化することができる。
なお、d1は、第1部分101の直径、d2は第2部分102の直径、λはナノワイヤ100における光の波長(発振波長)、ncore1は第1部分101の屈折率、ncore2は第2部分102の屈折率、ncladはナノワイヤ100の周りの屈折率、Vは規格化周波数である。
規格化周波数Vは、様々な構造パラメータで記述されており、2.4がシングルモード伝播の条件の境目になっていることが知られている。従って、式(1),式(2)を満たす状態とされていればよい。図7は、横軸を径dで書き換えた場合の分散関係に対応しており、規格化周波数を2.4とした状態(条件)が、径d=0.4μmに対応している。
次に、グレーティング構造103の配列、言い換えると、第1部分101と第2部分102の配列について説明する。グレーティング構造103の反射波長λBは、「λB=4N1L1=4N2L2」を満たすように設計すればよい。
なお、L1は、グレーティング構造103を構成する第1部分101および第2部分102の径の大きい方の配列方向の長さである。また、L2は、第1部分101および第2部分102の径の大きい方の隣り合う間隔である。また、N1は、第1部分101および第2部分102の径の大きい方の実効屈折率である。また、N2は、第1部分101および第2部分102の径の小さい方の実効屈折率である。
上述したいずれの構造においても、グレーティング構造における配列間隔などを変えることで発振波長を任意に変えることができる。例えば、図6の(b)を用いて説明したように変調部131を備えるグレーティング構造103を例に説明する。この構造を用いた計算モデルについて、FDTD(Finite-difference time-domain method)法でシミュレートした電磁界分布の結果について図8の(b)に示す。なお、図8の(a)は、計算モデルを示しており、15ペアのグレーティングの中央に、変調幅をλ/4とした変調部131を導入している。シミュレートでは、InAsからなる直径700nmの第1部分と、InPからなる直径500nmの第2部分とを交互に積層した構成としている。この構成の共振器のQ値は、1800であり、共振器が形成できていることが確認できる。
ところで、ナノワイヤ100に金属層を接して形成することで、プラズモン導波路構造とすることができる。例えば、図9に示すように、ナノワイヤ100の一端から他端にかけて連続した金属層111を形成すればよい。例えば、基板105の上にナノワイヤ100を配置し、垂直異方性の高い蒸着法により金属を蒸着することで、金属層111が形成できる。金属は、Au、Ag、Alなどであればよい。また、ナノワイヤの露出面全域を覆う状態に金属層を形成してもよい。金属層の形成形状(状態)により、プラズモン導波路構造が作製できる。プラズモン導波路では、金属と半導体との界面に形成されるプラズモンポラリトン介した光伝搬モードで光が伝送できる。
以上に説明したように、本発明では、互いに異なる径とした第1部分と第2部分とを交互に積層してナノワイヤとし、ナノワイヤ側面にグレーティング構造を形成したので、光学的なナノ構造を、ナノワイヤ自体に形成できるようになる。本発明では、第1部分と第2部分とを、所定のエッチング液に対して異なる溶解度とすることで、このエッチング液によるウェットエッチングを用いて、ナノワイヤに直接ナノ構造(グレーティング構造)を作る。これにより、一次元フォトニック結晶や、プラズモングレーティングを有するナノワイヤ光学デバイスが一度に大量に作製できるようになる。本発明によれば、同一の基板上に、ナノワイヤによるレーザやディテクタを大量に作製することが可能となる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、ナノワイヤより発光させる場合をもの例示したが、これに限るものではなく、所定の波長の光を検出するディテクタとしてもよい。