本開示の実施形態を説明する。
1.差動信号伝送用ケーブル
(1−1)差動信号伝送用ケーブルの基本的な構成
本開示の差動信号伝送用ケーブルは、一対の信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するめっき層とを備える。
本開示の差動信号伝送用ケーブルは、例えば、図1に示す構成を有する。図1示すように、差動信号伝送用ケーブル1は、一対の信号線3と、絶縁体層5と、めっき層7と、を備える。絶縁体層5は信号線3の周囲を被覆する。図1に示す例では、絶縁体層5は、一対の信号線3を一括して被覆する。信号線3は、例えば、素線により構成される。信号線3は、例えば、複数の素線を撚って形成された撚線であってもよい。撚線である場合、信号線3の屈曲性が向上する。
本開示の差動信号伝送用ケーブルは、50GHz以下の周波数帯域において、差動同相変換量の最大値が−26dB以下である。差動同相変換量の測定は、差動信号伝送用ケーブルをドラム等に巻く前に行う。本開示の差動信号伝送用ケーブルにおいて、めっき層と絶縁体層との間に隙間が生じにくい。そのため、本開示の差動信号伝送用ケーブルは差動同相変換量を抑制することができる。
本開示の差動信号伝送用ケーブルは、例えば、電子機器間の信号伝送、又は、電子機器内の基板間の信号伝送等に使用することができる。電子機器として、例えば、数Gbps以上の高速信号を扱うサーバ、ルータ、ストレージ製品等が挙げられる。また、本開示の差動信号伝送用ケーブルは、例えば、音響用ケーブルとして使用することができる。本開示の差動信号伝送用ケーブルは、例えば、25GHz以上の高速信号を伝送するケーブルである。
(1−2)絶縁体層
絶縁体層は、一対の信号線を一括して被覆することが好ましい。一括して被覆するとは、一体である絶縁層により、一対の信号線の両方を被覆することを意味する。絶縁体層が一対の信号線を一括して被覆する場合、個々の信号線ごとに被覆する場合のように、絶縁体層同士の間の隙間が生じない。そのため、差動信号伝送用ケーブルの長手方向における誘電率のばらつきを抑制できる。その結果、差動同相変換量を一層抑制することができる。
また、絶縁体層が一対の信号線を一括して被覆する場合、絶縁体層の外周面上にめっき層を一層均一に形成することができる。また、一対の信号線のうちの一方の信号線を被覆する絶縁体層と、他方の信号線を被覆する絶縁体層とは、別体であってもよい。
一対の信号線の延在方向に直交する断面において、絶縁体層の外縁の形状が、長円形又は楕円形であることが好ましい。この場合、絶縁体層の外周面における全体にわたって均一にめっき層を形成することが容易になる。また、絶縁体層の外周面における全体にわたって均一に表面粗化及び表面改質を行うことが容易になる。長円形とは、対向する平行な2本の直線と、その直線の端部同士を接続する円弧から成る形状である。
絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、0.6μm以上であることが好ましい。この場合、めっき層と絶縁体層との密着性が高く、めっき層が絶縁体層からはがれ難い。また、算術平均粗さRaが0.6μm以上である場合、絶縁体層とめっき層との密着性が向上し、絶縁体層とめっき層との間に空隙が生じ難い。そのため、差動同相変換量を一層抑制することができる。
絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを0.6μm以上とする方法として、例えば、ブラスト処理、酸性又はアルカリ性溶液浸漬、クロム酸溶液浸漬、キレート溶液浸漬等の表面粗化処理を行う方法がある。
ブラスト処理において処理対象物に吹き付ける粉体として、例えば、ドライアイス、金属粒子、カーボン粒子、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子等から成る粉体が挙げられる。ドライアイスから成る粉体は、ブラスト処理後に絶縁体層の中に残留し難いため好ましい。
ブラスト処理において、粉体を噴出するときの速度を高くするほど、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくすることができる。ブラスト処理の時間を長くするほど、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくすることができる。粉体を噴き出すノズルの先端と絶縁体層の外周面との距離を小さくするほど、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくすることができる。
絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。10μm以下である場合、伝送損失を抑制できる。
算術平均粗さRaの測定方法は、キーエンス製のレーザ顕微鏡VK8500を使用する測定方法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。絶縁体層の外周面のうち、互いに反対側に位置し、平坦又は最も曲率が小さい2箇所(以下では第1測定位置及び第2測定位置とする)を選択する。第1測定位置において、ケーブルの長手方向の長さが150μmであり、ケーブルの周方向の長さが120μmである矩形の測定領域を設定する。その測定領域において、上記のレーザ顕微鏡を用いて算術平均粗さRaを測定する。また、第2測定位置においても、同様に、算術平均粗さRaを測定する。最後に、第1測定位置における算術平均粗さRaと、第2測定位置における算術平均粗さRaとの平均値を算出し、その平均値を絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaとする。算術平均粗さRaは、めっき層を形成する前の時点における値である。
絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaが0.6μm以上である場合に、めっき層が絶縁体層からはがれ難いことを以下の試験(以下では第1の試験とする)により確認した。ポリエチレン製の基板を用意した。この基板は絶縁体層に対応する。基板に対し、ドライアイスを粉体として用いるブラスト処理(以下ではドライアイスブラスト処理とする)を行った。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。ドライアイスブラスト処理後における基板の表面の算術平均粗さRaは0.6μm以上であった。その後、基板に対し、表面改質処理としてコロナ放電暴露処理を行った。なお、表面改質処理として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の処理を行ってもよい。コロナ放電暴露処理後における基板の表面の付着ぬれ表面自由エネルギーは66mJ/m2以上であり、接触角は95°以上であった。なお、付着ぬれ表面自由エネルギーの測定方法は後述する。
コロナ放電暴露処理後、無電解めっき法により、基板の表面に銅めっき層を形成した。次に、銅めっき層に碁盤目状に切り込みを入れた。切り込みは銅めっき層を貫通し、基板まで到達した。次に、銅めっき層に接着テープを貼り付けてから、接着テープを剥がした。そのときの銅めっき層の状態を図2Bに示す。図2Bにおいて181は切り込みを表す。銅めっき層は、どの碁盤の目においても剥離しなかった。すなわち、銅めっき層と基板との密着性は高かった。
基本的には同様の方法で、比較例の試験を行った。比較例では、基板に対し表面粗化処理及び表面改質処理は行わなかった。基板の表面の算術平均粗さRaは0.13μmであった。比較例において接着テープを剥がしたときの銅めっき層の状態を図2Aに示す。20個の碁盤目のうち、17個において銅めっき層が剥離し、基板が露出した部分182が生じた。すなわち、比較例では、銅めっき層と基板との密着性が低かった。
絶縁体層の外周面における接触角は95°以下であることが好ましい。この場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
絶縁体層の外周面における接触角を95°以下にする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。
いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、接触角を小さくすることができる。また、処理時間を長くするほど、接触角を小さくすることができる。コロナ放電暴露による表面改質効果を高める方法として、例えば、電圧を大きくする方法、コロナ放電暴露の雰囲気における酸素濃度を高くする方法等が挙げられる。接触角の測定方法は、直径1.5mmの水滴を絶縁体層の外周面に滴下して接触角を読み取る方法である。接触角は、めっき層を形成する前の時点における値である。
絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が66mJ/m2以上であることが好ましい。この場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値を66mJ/m2以上にする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。
いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値を大きくすることができる。また、処理時間を長くするほど、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値を大きくすることができる。
付着ぬれ表面自由エネルギーΔGの絶対値は以下の式(3)により算出される。
式(3)におけるγLGは定数であり、72.75mJ/m2である。θは、絶縁体層の外周面における接触角である。付着ぬれ表面自由エネルギーΔGは、めっき層を形成する前の時点における値である。
絶縁体層の外周面における接触角が95°以下であるか、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が66mJ/m2以上である場合に、めっき層を均一に形成できることを以下の試験により確認した。
ポリエチレン製の基板を用意した。この基板は絶縁体層に対応する。基板に対し、ドライアイスブラスト処理を行い、その後、コロナ放電暴露処理を行った。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。コロナ放電暴露処理後における基板の表面の算術平均粗さRaは0.6μm以上であった。また、コロナ放電暴露処理後における基板の表面の付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値は66mJ/m2以上であり、接触角は95°以下であった。次に、電解めっき法により、基板の表面に銅めっき層を形成した。銅めっき層の厚さは、第1の試験において形成した銅めっき層の厚さの3倍とした。形成した銅めっき層を図3Cに示す。銅めっき層は均一に形成されていた。また、銅めっき層と基板との密着性が高く、銅めっき層は剥離していなかった。
基本的には同様の方法で第1の比較例を作製した。ただし、第1の比較例では、表面粗化処理後における基板の表面の算術平均粗さRaは0.6μm未満であった。また、表面改質処理後における基板の表面の付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値は66mJ/m2以上であり、接触角は95°以下であった。第1の比較例において形成した銅めっき層を図3Aに示す。銅めっき層は顕著に剥離していた。
また、基本的には同様の方法で第2の比較例を作製した。ただし、第2の比較例では、表面粗化処理後における基板の表面の算術平均粗さRaは0.6μm以上であった。また、表面改質処理後における基板の表面の付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値は66mJ/m2未満であり、接触角は95°より大きかった。第2の比較例において形成した銅めっき層を図3Bに示す。銅めっき層の表面にブリスターと呼ばれるめっき不良膨れ191が存在し、不均質なめっき状態となっていた。
絶縁体層の外周面にドライアイスブラスト処理を行い、その後、コロナ放電暴露処理を行う表面改質処理(以下では特定表面改質処理とする)を行うことにより、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaと、接触角又は付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値とを制御することができる。このことを以下の試験により確認した。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。
ポリエチレンから成る基板に、特定表面改質処理を行った。基板は絶縁体層に対応する。特定改質処理の条件は複数存在する。図4に、特定表面改質処理を行った後における算術平均粗さRaと、接触角との相関を示す。特定表面改質処理を行うことにより、算術平均粗さRaを0.6μm以上とし、接触角を95°以下とすることができる。
図5に、特定表面改質処理を行った後における算術平均粗さRaと、付着ぬれ表面自由エネルギーとの相関を示す。特定表面改質処理を行うことにより、算術平均粗さRaを0.6μm以上とし、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値を66mJ/m2以上とすることができる。
絶縁体層は、その外周面に凹部を備えることが好ましい。この場合、絶縁体層とめっき層とが剥離しにくい。凹部は、深さ方向における奥側に、凹部における開口部よりも広がった部分を有することが好ましい。この場合、以下の効果を奏する。めっき層を形成するとき、めっき浴が凹部の奥側まで侵入する。凹部の奥側において核生成が起こり、凹部の奥側でもめっき層が成長する。凹部の奥側で成長しためっき層は開口部より大きいため、開口部から抜けにくい。その結果、アンカー効果が生じ、めっき層と絶縁体層とが剥離しにくくなる。
絶縁体層に凹部を形成する方法として、ブラスト処理を行う方法が挙げられる。ブラスト処理として、例えば、ドライアイスブラスト処理が挙げられる。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。ドライアイスブラスト処理によって絶縁体層の外周面に形成された凹部の例を図6に示す。図6は絶縁体層71の外周面72付近の断面図である。外周面72に凹部73が形成されている。凹部73は、深さ方向における奥側に、凹部73における開口部74よりも広がった部分を有する。この凹部73の形態は、たこつぼ様の形態である。図6に示す例において、絶縁体層71の材質はポリエチレンである。
絶縁体層の材質として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、シリコーン、ポリエチレン(PE)等が挙げられる。
絶縁体層の材質は、発泡性樹脂であってもよい。絶縁体層の材質が発泡性樹脂である場合、絶縁体層の誘電率と誘電正接とが小さくなる。発泡性樹脂から成る絶縁体層の製造方法として、例えば、樹脂と発泡剤とを混練しておき、絶縁体層を成型するときに温度や圧力を制御して発泡させる方法がある。また、発泡性樹脂から成る絶縁体層の他の製造方法として、例えば、絶縁体層を高圧成型するときに窒素ガス等を注入しておき、後に減圧して発泡させる方法がある。
また、発泡性樹脂から成る絶縁体層を以下のように製造してもよい。押出機に、所望の形状の押出口金を設置する。その押出機を用いて、一対の信号線と、発泡性樹脂とを同時に押し出す。発泡性樹脂が絶縁体層を形成する。
絶縁体層として、例えば、ポリエチレンから成り、以下の式(1)で表される結晶化度Xcが0.744以上であるものが好ましい。この場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
前記式(1)におけるIcは結晶成分のX線回折強度であり、Iaは非晶質成分のX線回折強度である。
ポリエチレンから成る絶縁体層の結晶化度Xcを0.744以上にする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、結晶化度Xcを大きくすることができる。また、処理時間を長くするほど、結晶化度Xcを大きくすることができる。
式(1)におけるIc、Iaは以下のようにして算出される。リガク社製のX線回折装置であるRINT2500を用いて、絶縁体層の試料のX線回折パターンを取得する。X線回折パターンの例を図7、図8に示す。図7、図8に示すX線回折パターンの横軸は回折角2θである。X線回折パターンにおける回折角2θの範囲は、13〜21°である。
X線回折パターンにおいて、16.4〜16.5°近傍が回折ピークとなるブロードなハロー(以下では非晶質ハローとする)は、非晶質成分に対応する。X線回折パターンにおいて、17.7°にピークを有するシャープなスペクトル(以下では結晶成分スペクトルとする)は、結晶成分に対応する。
非晶質ハローに対し、ローレンツ関数を用いたスペクトルフィッティング解析を行い、非晶質ハローとよく一致する滑らかな曲線Faを取得する。取得した曲線Faを図7、図8に示す。この曲線Faに基づき、積分強度計算により算出した非晶質ハローの強度をIaとする。
また、結晶成分スペクトルに対し、ローレンツ関数を用いたスペクトルフィッティング解析を行い、結晶成分スペクトルとよく一致する滑らかな曲線Fcを取得する。取得した曲線Fcを図7、図8に示す。この曲線Fcに基づき、積分強度計算により算出した非結晶成分スペクトルの強度をIcとする。結晶化度Xcは、めっき層を形成する前の時点における値である。
絶縁体層として、例えば、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーから成り、以下の式(1)で表される結晶化度Xcが0.47以下であるものが好ましい。この場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
前記式(1)におけるIcは結晶成分のX線回折強度であり、Iaは非晶質成分のX線回折強度である。Ic、Iaの算出方法は上述した方法である。結晶化度Xcは、めっき層を形成する前の時点における値である。
パーフルオロエチレンプロペンコポリマーから成る絶縁体層の結晶化度Xcを0.47以下にする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、結晶化度Xcを大きくすることができる。また、処理時間を長くするほど、結晶化度Xcを大きくすることができる。
結晶化度Xcは、接触角と相関を有する。このことを以下の試験により確認した。ポリエチレンから成る基板に対し、特定表面改質処理を行った。基板は絶縁体層に対応する。特定表面改質処理の条件は複数存在する。特定表面改質処理後における結晶化度Xcと接触角との相関を図9Aに示す。結晶化度Xcが0.744以上である場合、接触角が顕著に小さくなった。
また、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーから成る基板に対し、特定表面改質処理を行った。基板は絶縁体層に対応する。特定表面改質処理の条件は複数存在する。特定表面改質処理後における結晶化度Xcと接触角との相関を図9Bに示す。結晶化度Xcが0.47以下である場合、接触角が顕著に小さくなった。
絶縁体層として、例えば、以下のものが好ましい。絶縁体層はポリエチレンから成る。そのポリエチレンは、三斜晶系の結晶構造、斜方晶系の結晶構造、又はそれらの少なくとも一方が共存した状態を有し、結晶軸のうち二軸以下の特定の軸に優先的に配向している。また、そのポリエチレンは、以下の式(2)で表される(100)結晶配向度O100が0.26以下である。この絶縁体層を、以下では特定配向ポリエチレン絶縁体層とする。
前記式(2)においてI200は指数200のX線回折強度であり、I110は指数110のX線回折強度である。
絶縁体層が特定配向ポリエチレン絶縁体層である場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
絶縁体層を特定配向ポリエチレン絶縁体層にする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。
いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、結晶配向度O100を小さくすることができる。また、処理時間を長くするほど、結晶配向度O100を小さくすることができる。
前記式(2)におけるI200、I110は以下のように算出される。
リガク社製のX線回折装置であるRINT2500を用いて、絶縁体層の試料のX線回折パターンを取得する。X線回折パターンの例を図10、図11に示す。図10、図11に示すX線回折パターンの横軸は回折角2θである。X線回折パターンにおける回折角2θの範囲は、19〜26°である。図10、図11は、斜方晶系の結晶構造を有するポリエチレンから成る絶縁体層の試料のX線回折パターンである。図10は、表面改質処理を行っていないポリエチレンのX線回折パターンである。図11は、表面改質処理としてコロナ放電暴露処理を行ったポリエチレンのX線回折パターンである。
ピークが約21.5°付近である回折スペクトル(以下では110回折スペクトルとする)はミラー指数110に相当し、(110)格子面の向きを表す。ピークが約23.8°付近の回折スペクトル(以下では200回折スペクトルとする)はミラー指数200に相当し、(100)格子面を表す。
110回折スペクトルに対し、ローレンツ関数を用いたスペクトルフィッティング解析を行い、110回折スペクトルとよく一致する滑らかな曲線F1を取得する。取得した曲線F1を図10、図11に示す。この曲線F1に基づき、積分強度計算により算出した110回折スペクトルの強度をI110とする。
また、200回折スペクトルに対し、ローレンツ関数を用いたスペクトルフィッティング解析を行い、200回折スペクトルとよく一致する滑らかな曲線F2を取得する。取得した曲線F2を図10、図11に示す。この曲線F2に基づき、積分強度計算により算出した200回折スペクトルの強度をI200とする。
なお、多結晶体で構成された物質に含まれる個々の結晶粒子が、ある一定方向に優先配向した状態にある場合、特定の指数面のX線回折強度が他のX線回折強度に対して相対的に高くなる。従って、X線回折強度の強度比により、所定の格子面の配向性を定量化することができる。(100)結晶配向度O100は、X線回折強度の強度比であって、(100)面の優先配向性を表す。
(100)結晶配向度O100は、接触角と相関を有する。このことを以下の試験により確認した。ポリエチレンから成る基板に対し、特定表面改質処理を行った。基板は絶縁体層に対応する。特定表面改質処理の条件は複数存在する。特定表面改質処理後における(100)結晶配向度O100と接触角との相関を図12に示す。(100)結晶配向度O100が0.26以下である場合、接触角が顕著に小さくなった。(100)結晶配向度O100は、めっき層を形成する前の時点における値である。
絶縁体層としては、例えば、以下のものが好ましい。絶縁体層はポリエチレンから成る。そのポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズは18nm以上である。絶縁体層が上記のものである場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
絶縁体層を上記のものにする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。
いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、ポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズを大きくすることができる。また、処理時間を長くするほど、ポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズを大きくすることができる。
ポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズは、以下の式(4)により表される。
式(4)においてDはポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズである。Kはシェラー定数である。Kの値は2/πとした。λはX線波長である。BはX線回折ピークの広がり幅である。θはX線回折角である。λ、B、θは、絶縁体層の試料のX線回折パターンから得られる値である。結晶子サイズは、めっき層を形成する前の時点における値である。
ポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズDは、接触角と相関を有する。このことを以下の試験により確認した。ポリエチレンから成る基板に対し、特定表面改質処理を行った。基板は絶縁体層に対応する。特定表面改質処理の条件は複数存在する。特定表面改質処理後におけるポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズDと接触角との相関を図13Aに示す。ポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズDが18nm以上である場合、接触角が顕著に小さくなった。
絶縁体層としては、例えば、以下のものが好ましい。絶縁体層はパーフルオロエチレンプロペンコポリマーから成る。そのパーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズは13.6nm以下である。絶縁体層が上記のものである場合、めっき層の厚みを均一にすることが容易になる。めっき層の厚みを均一にすると、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
絶縁体層を上記のものにする方法として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行う方法が挙げられる。
いずれの処理においても、処理の強度を高くするほど、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズを大きくすることができる。また、処理時間を長くするほど、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズを大きくすることができる。パーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズの算出方法は、ポリエチレンの結晶成分における結晶子サイズの算出方法と同様である。結晶子サイズは、めっき層を形成する前の時点における値である。
パーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズDは、接触角と相関を有する。このことを以下の試験により確認した。パーフルオロエチレンプロペンコポリマーから成る基板に対し、特定表面改質処理を行った。基板は絶縁体層に対応する。特定表面改質処理の条件は複数存在する。特定表面改質処理後におけるパーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズDと接触角との相関を図13Bに示す。パーフルオロエチレンプロペンコポリマーの結晶成分における結晶子サイズDが13.6nm以下である場合、接触角が顕著に小さくなった。
(1−3)めっき層
めっき層の厚みは、1μm以上5μm以下であることが好ましい。めっき層の厚みが1μm以上である場合、対内スキューを一層低減し、差動同相変換量を一層抑制することができる。特に、25GHz以上の信号を伝送する場合に、差動同相変換量を顕著に抑制できる。
めっき層の厚みが5μm以下である場合、めっき層の形成に要する時間を低減できる。また、めっき層の厚みが5μm以下である場合、差動信号伝送用ケーブルの屈曲性を向上させることができる。また、めっき層の厚みが5μm以下である場合、差動信号伝送用ケーブルの外径が小さくなる。めっき層の厚みは、公知の方法で制御できる。例えば、電解めっき、及び/又は、無電解めっきの時間を長くするほど、めっき層は厚くなる。また、電解めっきにおける電流量を大きくするほど、めっき層は厚くなる。
めっき層の厚みの標準偏差は0.8μm以下であることが好ましい。この場合、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。また、めっき層の厚みが過度に小さい部分が生じ難いので、ノイズを一層低減することができる。
めっき層の厚みの標準偏差は、以下の方法で算出される。差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面を4箇所において形成する。各断面同士の距離は3mである。各断面において任意の4点を選択する。合計4×4点でそれぞれめっき層の厚みを測定する。測定した全てのめっき層の厚みの標準偏差を、めっき層の厚みの標準偏差として採用する。
例えば、絶縁体層の外周面における接触角を小さくするか、付着ぬれ表面エネルギーの絶対値を大きくすることにより、めっき層の厚みの標準偏差を低減することができる。
絶縁体層に対し、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等の表面改質処理を行うことにより、絶縁体層の外周面における接触角を小さくし、付着ぬれ表面エネルギーの絶対値を大きくすることができる。
めっき層は、複数の層が積層されたものであってもよい。めっき層において積層された層の数は、例えば、2、3、又は、4以上とすることができる。複数の層のうち、一部の層をフェライト等から成る磁性層とし、他の一部の層を、銅等から成る非磁性層とすることができる。この場合、めっき層は、強磁界及び弱磁界に対してシールド効果を奏することができる。また、めっき層は、数十から数百MHzの低周波数帯域のノイズ、及び、数十GHzの高周波数帯域のノイズに対し、シールド効果を奏することができる。
例えば、最初に無電解めっきを行い、次に、電解めっきを行う方法で、めっき層を形成することができる。この場合、絶縁体層上に容易にめっき層を形成することができる。また、めっき層の全体を無電解めっきにより形成する方法に比べて、めっき層の形成に要する時間を短縮できる。
2.差動信号伝送用ケーブルの製造方法
本開示の差動信号伝送用ケーブルは、例えば、以下の方法で製造できる。図14は、差動信号伝送用ケーブルの製造に用いる製造システム101を表す。製造システム101は、脱脂ユニット103と、湿式エッチングユニット105と、第1活性化ユニット107と、第2活性化ユニット109と、無電解めっきユニット111と、電解めっきユニット113と、搬送ユニット115と、を備える。
脱脂ユニット103は、脱脂槽117と、脱脂液119とから成る。脱脂液119は脱脂槽117に収容されている。脱脂液119は、例えば、ホウ酸ソーダ、リン酸ソーダ、界面活性剤等のうちの1種以上を含む。脱脂液119の温度は、例えば、40〜60℃である。
表面粗化処理を行うための湿式エッチングユニット105は、エッチング槽121と、エッチング液123とから成る。エッチング液123はエッチング槽121に収容されている。エッチング液123は、例えば、クロム酸、硫酸、オゾン、酸、アルカリ、キレート等のうちの1種以上を含む。エッチング液123の温度は、例えば、65〜70℃である。
第1活性化ユニット107は、第1活性化槽125と、第1活性化液127とから成る。第1活性化液127は第1活性化槽125に収容されている。第1活性化液127は、例えば、塩化パラジウム、塩化第一錫、濃塩酸等のうちの1種以上を含む。第1活性化液127の温度は、例えば、30〜40℃である。
第2活性化ユニット109は、第2活性化槽129と、第2活性化液131とから成る。第2活性化液131は第2活性化槽129に収容されている。第2活性化液131は、例えば、硫酸等を含む。第2活性化液131の温度は、例えば、0〜50℃である。
無電解めっきユニット111は、無電解めっき槽133と、無電解めっき液135とから成る。無電解めっき液135は無電解めっき槽133に収容されている。無電解めっき液135は、例えば、硫酸銅、ロッシエル塩、ホルムアルデヒド、水酸化ナトリウム等を含む。無電解めっき液135の温度は、例えば、20〜30℃である。
電解めっきユニット113は、電解めっき槽137と、電解めっき液139と、一対のアノード141と、電源ユニット143と、を備える。電解めっき液139は電解めっき槽137に収容されている。電解めっき液139は、例えば、表1又は表2に示す組成を有する。電解めっき液139の温度は、例えば、20〜25℃である。
アノード141は電解めっき液139の中に浸漬されている。アノード141は、例えば、銅湯から作製した溶融銅を圧延鋳造したものである。あるいは、アノード141は、以下のように製造されたものであってもよい。粗銅をアノードとし、ステンレス又はチタンをカソードとして種板電解を行う。カソード表面に析出した純銅板を剥ぎ取って、アノード141とする。電源ユニット143は、アノード141と、後述するボビン165、169との間に直流電圧を印加する。
搬送ユニット115は、複数のボビン145、147、149、151、153、155、157、159、161、163、165、167、169を備える。以下ではこれらをまとめてボビン群と呼ぶこともある。ボビン165、169は導電性を有する。ボビン167は絶縁性を有する。
ボビン群は、基本的に、図14に示す搬送方向Dに沿って直列に配置されている。搬送方向Dは、脱脂ユニット103から、湿式エッチングユニット105、第1活性化ユニット107、第2活性化ユニット109、及び無電解めっきユニット111を順次経て、電解めっきユニット113に向かう方向である。
ボビン147の一部は脱脂液119に浸漬されている。ボビン151の一部はエッチング液123に浸漬されている。ボビン155の一部は第1活性化液127に浸漬されている。ボビン159の一部は第2活性化液131に浸漬されている。ボビン163の一部は無電解めっき液135に浸漬されている。ボビン167の全体は電解めっき液139に浸漬されている。
搬送ユニット115は、ボビン群により、差動信号伝送用ケーブル171を搬送方向Dに沿って連続的に搬送する。搬送される差動信号伝送用ケーブル171は、当初の状態においては、信号線と、絶縁体層とは備えているが、めっき層は未だ形成されてない。絶縁体層は、例えば、公知の押出成形により設けることができる。
搬送される差動信号伝送用ケーブル171は、まず、脱脂ユニット103において脱脂液119に3〜5分間浸漬される。このとき、絶縁体層の表面に付着していた油脂が除去される。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、湿式エッチングユニット105において、エッチング液123に8〜15分間浸漬される。このとき、絶縁体層の外周面に凹凸形状が形成される。また、絶縁体層の外周面にカルボニル基やヒドロキシ基等の官能基が形成される。その結果、絶縁体層の外周面が親水化し、表面ぬれ性が向上する。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、第1活性化ユニット107において、第1活性化液127に1〜3分間浸漬される。このとき、絶縁体層の外周面に触媒層が形成される。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、第2活性化ユニット109において、第2活性化液131に3〜6分間浸漬される。このとき、触媒層の表面が洗浄される。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、無電解めっきユニット111において、無電解めっき液135に浸漬される。浸漬時間は、例えば、10分間以下である。このとき、絶縁体層の外周面に無電解めっき層が形成される。無電解めっき層はめっき層に対応する。無電解めっき液135中の浸漬時間が長いほど、無電解めっき層の厚みは大きくなる。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、電解めっきユニット113において、電解めっき液139に浸漬される。浸漬時間は、例えば、3分間以下である。このとき、無電解めっき層の外周面に電解めっき層が形成される。電解めっき層はめっき層に対応する。電解めっき液139中の浸漬時間が長いほど、電解めっき層の厚みは大きくなる。電解めっきユニット113における電解めっきの具体的な条件は表3に示すとおりである。以上の工程により、差動信号伝送用ケーブル171が完成する。
なお、図14では記載を省略しているが、各ユニットの間では、差動信号伝送用ケーブル171を純水で洗浄する。洗浄の方法として、超音波洗浄、揺動洗浄、流水洗浄等がある。純水で洗浄することにより、前のユニットで付着した残留薬剤が後のユニットに持ち込まれることを抑制できる。
差動信号伝送用ケーブル171の搬送速度は、適宜調整することができる。搬送の途中で搬送速度を変えてもよいし、一時停止を行ってもよい。
図15に示す製造システム201を用いて差動信号伝送用ケーブルを製造してもよい。製造システム201の構成は、基本的には製造システム101と同様であるが、一部において相違する。以下では相違点を中心に説明する。製造システム201は、脱脂ユニット103と、湿式エッチングユニット105とを備えず、表面改質ユニット203を備える。図16は、表面改質ユニット203の詳細な構成を表す。
表面改質ユニット203は、筐体204と、微細形状形成装置205と、親水化処理装置207と、を備える。筐体204は、表面改質ユニット203の各構成を収容する。筐体204は、方向Dにおける上流側に入口204Aを備え、方向Dにおける下流側に出口204Bを備える。
搬送ユニット115は、筐体204内に4つのボビン209、211、213、215を備える。差動信号伝送用ケーブル171は、ボビン145に案内され、入口204Aから筐体204内に導入される。導入された差動信号伝送用ケーブル171は、ボビン209からボビン211に送られ、再びボビン209に戻る8の字型の経路に沿って搬送される。次に、差動信号伝送用ケーブル171は、ボビン209からボビン213に送られ、さらに、ボビン213からボビン215に送られ、再びボビン213に戻る8の字型の経路に沿って搬送される。次に、差動信号伝送用ケーブル171は、出口204Bから導出され、ボビン153に案内され、第1活性化ユニット107に送られる。
微細形状形成装置205は、ボビン209とボビン211との間に存在する差動信号伝送用ケーブル171に対し、ノズル205Aからドライアイス粉体を噴射する。噴射の駆動力はエアー圧である。絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、ドライアイス粉体と衝突することにより大きくなる。よって、微細形状形成装置205はドライアイスブラスト処理を行う。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。
ボビン209からボビン211に送られるときと、ボビン211からボビン209に戻るときとでは、絶縁体層の外周面のうち、ノズル205Aに対向する面が反対になる。そのため、微細形状形成装置205は、絶縁体層の外周面の全体にわたって算術平均粗さRaを大きくすることができる。
ドライアイス粉体の粒径、ノズル205Aの先端から差動信号伝送用ケーブル171までの距離等は、適宜設定することができる。差動信号伝送用ケーブル171の温度は、例えば20℃である。
ドライアイスブラスト処理における条件は、適宜変更することができる。ドライアイスブラスト処理における条件として、例えば、ドライアイス粉体の粒径、ドライアイス流量、エアー圧、ノズル205Aの先端から差動信号伝送用ケーブル171までの距離、差動信号伝送用ケーブル171の搬送速度、差動信号伝送用ケーブル171の温度等が挙げられる。例えば、絶縁体層の材料のガラス転移温度より低い温度でドライアイスブラスト処理を行ってもよい。絶縁体層の材料のガラス転移温度より低い温度として、例えば、−79℃以上、20℃以下の温度が挙げられる。ノズル205Aの位置は固定されていてもよいし、揺動又は走査してもよい。
親水化処理装置207はコロナ放電暴露による親水化処理を行う。コロナ放電暴露は表面改質処理に対応する。図16に示すように、親水化処理装置207は、合計4個の平板電極208を備える。一対の平板電極208は、ボビン213からボビン215に送られる差動信号伝送用ケーブル171を挟んで対向する。もう一対の平板電極208は、ボビン215からボビン213に戻る差動信号伝送用ケーブル171を挟んで対向する。対向する平板電極208間に高周波高電圧を印加することにより、コロナ放電が生じる。コロナ放電に暴露されることにより、絶縁体層の外周面は、親水化し、ぬれ性が向上する。縁体層の外周面が親水化し、ぬれ性が向上すると、接触角が小さくなり、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が大きくなる。
コロナ放電暴露によって絶縁体層の外周面が親水化し、ぬれ性が向上する理由は以下のとおりであると推測される。コロナ放電暴露で発生する高エネルギー電子は空気中に存在する酸素分子を電離・解離し、酸素ラジカルやオゾン等が発生する。それとともに、絶縁体層の外周面近傍に到達した高エネルギー電子は、絶縁体層に含まれる例えばポリエチレンやパーフルオロエチレンプロペンコポリマー等の主鎖や側鎖を切断し、開裂させる。コロナ放電で発生した上記の酸素ラジカルやオゾン等は、上記のように開裂した主鎖や側鎖と再結合し、ヒドロキシ基やカルボニル基等の極性官能基が絶縁体層の外周面に形成される。その結果、絶縁体層の外周面は、親水化し、ぬれ性が向上する。
コロナ放電暴露における印加電圧は、例えば2〜14kVであり、周波数は15kVである。絶縁体層の外周面と平板電極208との距離は、例えば0.1〜3mmである。筐体204内の雰囲気は、例えば、大気である。
コロナ放電暴露における条件は、適宜変更することができる。コロナ放電暴露における条件として、例えば、印加電圧の大きさ、印加電圧の周波数、絶縁体層の外周面と平板電極208との距離、筐体204内の雰囲気等が挙げられる。筐体204内の雰囲気は、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス等を含んでいてもよい。また、絶縁体層の外周面と平板電極208との間にシリコーンゴム等の材料を挟んでもよい。この場合、コロナ放電を行うとき、平板電極208は間接的に絶縁体層に接触し、シリコーンゴムに対して摺動する。
筐体204内の空気を排気する排気機構や、筐体204内を乾燥させる乾燥装置を設けてもよい。この場合、差動信号伝送用ケーブル171の錆を抑制できる。また、筐体204内に徐電機器を設けてもよい。この場合、筐体204内の静電気を抑制できる。
上記のとおり、製造システム201を用いる差動信号伝送用ケーブルの製造方法では、絶縁体層の外周面にドライアイスブラスト処理を行い、その後、絶縁体層の外周面にコロナ放電暴露処理を行い、その後、過マンガン酸処理を行い、その後、絶縁体層の外周面にめっき層を形成する。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。過マンガン酸処理を行うことにより、絶縁体層にめっきがつき易くなる。また、過マンガン酸処理を行うことにより、差動信号伝送用ケーブルの伝送特性が向上する。表面粗化処理の後に過マンガン酸処理を行い、その後、コロナ放電暴露処理を行ってもよい。
表面改質ユニット203は、図17に示すものであってもよい。この表面改質ユニット203は、円筒形状の親水化処理装置207を備える。親水化処理装置207は軸孔217を備える。ボビン209及びボビン213により搬送される差動信号伝送用ケーブル171は、軸孔217を通過する。親水化処理装置207は軸孔217内でコロナ放電を発生させる。そのコロナ放電に暴露されることにより、絶縁体層の外周面は親水化し、ぬれ性が向上する。縁体層の外周面が親水化し、ぬれ性が向上すると、接触角が小さくなり、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が大きくなる。コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。
表面改質ユニット203は、図18に示すものであってもよい。親水化処理装置207は、ボビン213、ボビン215に対向する部分に、弧状の電極219を備える。ボビン213、ボビン215はアースに接地されている。親水化処理装置207は、電極219と、ボビン213、ボビン215との間に電圧を印加し、コロナ放電を発生させる。そのコロナ放電に暴露されることにより、絶縁体層の外周面は親水化し、ぬれ性が向上する。縁体層の外周面が親水化し、ぬれ性が向上すると、接触角が小さくなり、付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が大きくなる。コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。
3.多芯ケーブル
本開示の多芯ケーブルは、複数本の差動信号伝送用ケーブルと、導体層と、ジャケットとを備える。導体層は、複数本の差動信号伝送用ケーブルを一括して被覆する。ジャケットは、導体層を被覆する。複数本の差動信号伝送用ケーブルのそれぞれは、前記「1.差動信号伝送用ケーブル」の項で説明した差動信号伝送用ケーブルと基本的には同様であって、めっき層を被覆する外側絶縁層をさらに備える。
複数本の差動信号伝送用ケーブルは、撚り合わせられていてもよいし、撚り合わせられていなくてもよい。差動信号伝送用ケーブルの本数は特に限定されず、例えば、2本、8本、24本等とすることができる。例えば、複数本の差動信号伝送用ケーブルを2以上のグループに区分し、グループ同士の間に介在を設けてもよい。各グループには、例えば、2本以上の差動信号伝送用ケーブルが含まれる。
導体層は、例えば、シールドテープ導体、編組線等により構成することができる。導体層は、例えば、シールドテープ導体と編組線とを積層したものであってもよい。シールドテープ導体、編組線の材料として、ケーブルに一般的に使用されるものを使用できる。ジャケットの材料として、ケーブルに一般的に使用されるものを使用できる。
外部絶縁層として、例えば、絶縁テープ、ラミネートテープ、絶縁体をスプレー塗布して形成された膜等が挙げられる。ラミネートテープとして、例えば、フラットケーブル等で一般的に使用されるものを使用できる。外部絶縁層は、常温又は低温で形成可能なものであることが好ましい。この場合、外部絶縁層を形成するときに絶縁体層が熱によって変形することを抑制できる。
介在の材料として、例えば、紙、糸、発泡体等が挙げられる。発泡体として、例えば、発泡ポリプロピレン、発泡エチレン等の発泡ポリオレフィンが挙げられる。本開示の多芯ケーブルは、差動同相変換量を抑制することができる。
図19に多芯ケーブル301の例を示す。多芯ケーブル301は、8本の差動信号伝送用ケーブル302と、シールドテープ導体303と、編組線305と、ジャケット307とを備える。シールドテープ導体303及び編組線305は、8本の差動信号伝送用ケーブル302を一括して被覆する。編組線305はシールドテープ導体303の外周側に位置する。ジャケット307は編組線305を被覆する。
8本の差動信号伝送用ケーブル1は、中央の2本のグループと、その周囲の6本のグループとに区分されている。2つのグループの間に介在309が設けられている。
8本の差動信号伝送用ケーブル302のそれぞれは、図20に示す構成を有する。差動信号伝送用ケーブル302は、一対の信号線3と、絶縁体層5と、めっき層7と、外側絶縁層311と、を備える。
絶縁体層5は一対の信号線3を一括して被覆する。めっき層7は絶縁体層5を被覆する。外側絶縁層311はめっき層7を被覆する。差動信号伝送用ケーブル302は、50GHz以下の周波数帯域において、差動同相変換量の最大値が−26dB以下である。絶縁体層5の外周面における算術平均粗さRaは0.6μm以上10μm以下である。信号線3、絶縁体層5、及びめっき層7の構成は、それぞれ、例えば、前記「1.差動信号伝送用ケーブル」の項で説明したものである。
4.実施例
(4−1)実施例1
図1に示す構造を有する、実施例の差動信号伝送用ケーブル1を製造した。絶縁体層5の材質はポリエチレンである。絶縁体層5は一対の信号線3を一括して被覆する。一対の信号線3の延在方向に直交する断面において、絶縁体層5の外縁の形状は楕円形である。めっき層7の厚みは4.56μmである。めっき層7の厚みの標準偏差は0.68μmである。めっき層7の厚みの変動係数は0.15である。
図20に示すように、長径方向における絶縁体層5の外径をL1とする。短径方向における絶縁体層5の外径をL2とする。一対の信号線3の中心同士の距離をL3とする。長径方向において、信号線3の中心と、絶縁体層5の外周面との距離をL4とする。短径方向において、信号線3の中心と、絶縁体層5の外周面との距離をL5とする。
なお、絶縁体層5の外縁の形状が長円形である場合でも、同様に、L1〜L5を定義することができる。ただし、絶縁体層5の外縁の形状が長円形である場合、長径方向とは、絶縁体層5の外周面を構成する2本の直線に平行な方向である。また、絶縁体層5の外縁の形状が長円形である場合、短径方向とは、上記の2本の直線に直交する方向である。
実施例1において、L1は2.03mmである。L2は1.04mmである。L3は0.55mmである。L4は0.74mmである。L5は0.52mmである。
絶縁体層5の外周面に対し、表面粗化処理を行った。表面粗化処理はクロム酸エッチングである。めっき層7を形成する前の時点において、絶縁体層5の外周面における算術平均粗さRaは0.6μmである。めっき層7を形成する前の時点において、絶縁体層5の外周面における接触角は95°である。
この差動信号伝送用ケーブル1の差動同相変換量を測定した。差動同相変換量の測定は、差動信号伝送用ケーブルをドラム等に巻く前に行った。測定結果を図21に「131」として示す。図21における横軸は対数目盛で表した周波数である。縦軸は差動同相変換量であって、単位はdBである。縦軸の差動同相変換量は、ミックスト・モードSパラメータのScd21に対応する。縦軸の値が大きいほど(すなわち、負の測定値の絶対値が小さいほど)、差動同相変換量におけるノイズ量が大きいことを表しており、伝送信号の品質低下が著しいことを示している。
また、比較例の差動信号伝送用ケーブルRについても、差動同相変換量を測定した。測定結果を図21に「132」として示す。比較例の差動信号伝送用ケーブルRでは、絶縁体層の外周面に対し、表面粗化処理を行っていない。そのため、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは0.13μmであり、絶縁体層の外周面における接触角は82°である。また、比較例の差動信号伝送用ケーブルRは、めっき層を備えず、金属製テープを巻きつけた導体層を備える。
実施例の差動信号伝送用ケーブル1では、比較例の差動信号伝送用ケーブルRに比べて、差動同相変換量が小さかった。特に、高周波数の領域において、比較例の差動信号伝送用ケーブルRとの差が顕著であった。
また、実施例の差動信号伝送用ケーブル1と、比較例の差動信号伝送用ケーブルRとについて、伝送特性を測定した。伝送特性の測定は、差動信号伝送用ケーブルをドラム等に巻く前に行った。実施例の差動信号伝送用ケーブル1の測定結果を図22に「51」として示し、比較例の差動信号伝送用ケーブルRの測定結果を「52」として示す。図22における横軸は伝送信号の周波数である。縦軸は伝送信号損失をdBの単位で示している。縦軸の伝送損失は、ミックスト・モードSパラメータのSdd21に対応する。縦軸の値が小さいほど(すなわち、負の測定値の絶対値が大きいほど)、伝送信号の減衰量が大きく、発信信号の伝送に伴う劣化が大きく、伝送損失が顕著であることを示している。
実施例の差動信号伝送用ケーブル1では、比較例の差動信号伝送用ケーブルRに比べて、伝送損失が小さかった。また、実施例の差動信号伝送用ケーブル1では、サックアウトが発生しなかった。図22には示していないが、30GHz以上、50GHz以下の領域でもサックアウトは発生しなかった。なお、サックアウトとは、伝送信号の急激な減衰を意味する。
それに対し、比較例の差動信号伝送用ケーブルRではサックアウトが発生した。実施例の差動信号伝送用ケーブル1においてサックアウトが発生しない理由は、差動信号伝送用ケーブル1の全体にわたって連続的にめっき層が形成され、金属製テープを巻きつけた導体層のような重ね合わせや継ぎ目が存在しないためであると推測される。
(4−2)実施例2
表4に示す条件で差動信号伝送用ケーブルS1〜S7を製造した。
S1〜S7はいずれも、ポリエチレンから成る絶縁体層を備える。S1〜S7のいずれにおいても、一対の信号線3の延在方向に直交する断面において、絶縁体層の外縁の形状は楕円形である。実施例2において、L
1は1.21mmである。L
2は0.62mmである。L
3は0.35mmである。L
4は0.43mmである。L
5は0.31mmである。
S1〜S6は、めっき層から成る導電層を備える。S7は、Cuテープを横巻きすることで導電層を形成した。S1〜S5では、絶縁体層の外周面に、ドライアイスブラスト処理を行い、その後、コロナ放電暴露処理を行った。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応し、コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。S1〜S3では、コロナ放電暴露処理の後、過マンガン酸処理を行った。S4〜S5では、コロナ放電暴露処理の後、過マンガン酸処理を行わなかった。S6では、絶縁体層の外周面にクロム酸処理を行った。S7では、Cuテープを巻く前の処理は行わなかった。
S1〜S7について、算術平均粗さRaと、伝送損失Sdd21と、を測定した。その結果を上記表4に示す。表1における「第1Ra」は第1測定位置での算術平均粗さRaを表し、「第2Ra」は第2測定位置での算術平均粗さRaを表し、「平均Ra」はそれらの平均値を表す。また、算術平均粗さRaと、伝送損失Sdd21との関係を図23に示す。算術平均粗さRaが小さいほど、伝送損失Sdd21は小さかった。過マンガン酸処理を行ったS1〜S3は、過マンガン酸処理を行わなかったS4〜S5に比べて、伝送損失が小さかった。
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
(2)上述した差動信号伝送用ケーブル又は多芯ケーブルの他、それらの少なくとも一方を構成要素とするシステム、多芯ケーブルの製造方法、差動信号伝送用ケーブルを用いた信号送受信方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。