JP2018505222A - 難聴の予防又は治療方法 - Google Patents
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Abstract
Description
有毛細胞は完全に分化しており、細胞死後には交換されない(生後、数千細胞のみ)。有毛細胞のストレス及び損傷の後、細胞は、聴覚プロセスに関連する機能を伴わない休止状態になりうるが、休止状態で生存したままであることが文献に十分に記載されている。疾患修飾を達成するために例えば増殖因子の投与又は幹細胞に基づく治療による新しい有毛細胞の発生又は再生を刺激するアプローチには、腫瘍形成を促進する副作用のリスクがある。
聴覚障害は、世界中で2億7500万人を超える人々に及ぼす深刻な社会的及び経済的影響を伴う重大な世界的な健康問題である。難聴の発症は、例えば増加する騒音曝露及び老齢人口のため、急速に上昇している。今日利用可能な承認された薬学的治療法はないので、満たされていない医療ニーズは非常に高い。特に、予防及び/又は治療効果の即時かつ長期間の維持を可能にする難聴の予防とその後の治療のための効果的な方法を提供する必要性がある。
更なる態様では、本発明は、対象の有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防又は抑制する方法において使用するためのPPARアゴニストに関する。
更に別の態様では、本発明は、対象の難聴を予防又は治療する方法において使用するためのPPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体を含む薬学的組成物に関する。
更なる態様では、本発明は、PPARアゴニストを含む、対象の難聴を予防又は治療するか、又は有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防又は抑制するためのキットに関する。
ここでいう難聴とは、他の人々が聞くような音を聞く能力の低下として定義される。これは、伝音性難聴、感音性難聴又は双方の組み合わせによって引き起こされうる。
伝音性難聴は、振動が外耳から内耳、特に蝸牛を通過しないことを意味する。これは、耳垢の過剰な蓄積、中耳炎、炎症及び水分蓄積を伴う耳感染、鼓膜の破れ、又は耳小骨(中耳の骨)の機能障害に起因しうる。また、鼓膜に欠陥がある場合がある。感音性難聴は、内耳、蝸牛、聴神経の機能障害、又は脳損傷によって引き起こされる。通常、この種の難聴は、蝸牛における有毛細胞の損傷によるものである。
ここで言及される難聴は、通常、感音性難聴又は伝音性難聴と感音性難聴の組み合わせである。感音性難聴は、年齢、騒音又は化学物質への急性の又は絶えず続く暴露、突発性難聴を招く可能性のある頭部外傷又は不特定のストレスに関連している場合がある。
標準参照レベルを上回る、Lpと示されdBで測定される音圧レベルは、
によって与えられ、ここで、prmsはPaで測定された二乗平均平方根音圧であり、p0はPaで測定された参照音圧である。空気中での一般的に使用される参照音圧は、p0=20μPa(二乗平均平方根)又は0.0002ダイン/cm2であり、これは、通常、ヒトの聴力閾値と考えられている。
幾つかの好ましい実施態様では、本発明の方法によって防止又は治療される難聴は、騒音外傷、医療介入、虚血傷害、年齢によって引き起こされ又は化学的に誘発される。よって、難聴は、医療介入、例えば蝸牛移植の結果でありうる。化学的誘発は、通常、化学物質、例えば抗生物質又は化学療法剤によって引き起こされる。幾つかの好ましい実施態様では、難聴は突発性難聴である。年齢によって引き起こされる難聴は、例えば、老人性難聴を含む。好ましくは、騒音外傷、蝸牛移植によって引き起こされ、又は化学的に、好ましくは抗生物質によって誘発される難聴が、本発明の方法によって予防又は治療される。より好ましくは、騒音外傷によって引き起こされ、又は化学的に、好ましくは抗生物質によって誘発される難聴が、本発明の方法によって予防又は治療される。幾つかの実施態様では、難聴は、初期の脳の発達における細胞の栄養失調に至る損傷によって引き起こされる感音性由来のものである。この場合、PPARアゴニストによる早期治療は、更なる損傷を防止する疾患修飾でありうる。
有毛細胞変性及び/又は有毛細胞死に関連し、これらによって引き起こされ又は特徴付けられ、本発明の方法によって予防又は治療されうる更なる疾患、障害又は状態は、例えばメニエール病、急性末梢性前庭神経症及び耳鳴である。
従って、幾つかの実施態様では、本発明は、有毛細胞変性又は有毛細胞死がメニエール病、急性末梢性前庭神経症及び/又は耳鳴に関連し及び/又はそれらによって引き起こされる、対象における有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防又は抑制する方法において使用するためのPPARアゴニストを提供する。
幾つかの実施態様では、本発明は、対象におけるメニエール病を予防又は治療する方法において使用するためのPPARアゴニストを提供する。
幾つかの実施態様では、本発明は、対象における急性末梢性前庭神経症を予防又は治療する方法において使用するためのPPARアゴニストを提供する。
幾つかの実施態様では、本発明は、対象における耳鳴を予防又は治療する方法において使用するためのPPARアゴニストを提供する。
大きな音への暴露は、コルチ器に損傷を与えて騒音性難聴(NIHL)を引き起こす。NIHLによる損傷は、騒音レベルと曝露期間の双方に依存する。修復機構がコルチ器を回復させることができる場合、難聴は一時的(一過性閾値変動,TTS)でありうる。しかし、有毛細胞又は神経細胞が死ぬと、永久的(永久閾値変動,PTS)となる。騒音外傷と相関する構造的修飾には、(1)細胞修復機構によって修復することができ、TTS及び回復を説明するシナプス及び又は有毛細胞不動毛の軽度の損傷と、(2)細胞修復機構によって修復することができず、PTSを説明する有毛細胞及び神経細胞アポトーシスを誘導する重篤な損傷の二つのタイプがある。
ここで言及される騒音外傷とは、コルチ器に損傷を生じさせるのに十分な騒音、特に一過性又は永久的難聴を引き起こす騒音外傷である。騒音外傷は、例えば少なくとも70dB(SPL)、少なくとも90dB(SPL)、少なくとも100dB(SPL)、少なくとも120dB(SPL)、又は少なくとも130dB(SPL)の音圧レベルへの暴露によって引き起こされうる。難聴は医療介入、通常は、例えば、蝸牛移植のような蝸牛手術による、耳への医療介入によってもまた引き起こされうる。
幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、対象が騒音外傷又は医療介入に暴露される前に投与される。幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、対象が騒音外傷又は医療介入に暴露された後に投与される。特定の実施態様では、PPARアゴニストは、蝸牛手術前、すなわち対象が蝸牛手術を受ける前に、投与される。
文献において「加齢性難聴」とも称される年齢による難聴は、加齢が聴力に及ぼす累積的影響である。これは、通常、進行性で両側対称な加齢性感音性難聴である。難聴は、より高い周波数で最も顕著である。年齢によって引き起こされる難聴の病理学的タイプは4種である:1)感覚性:コルチ器の変性を特徴とする。2)神経性:らせん神経節の細胞の変性を特徴とする。3)線条/代謝性:蝸牛の全回転における血管条の萎縮を特徴とする。4)蝸牛伝音性:鼓膜基底板の硬化がその運動に影響を及ぼすため。
本発明の方法によって予防又は治療される年齢によって引き起こされる難聴は、通常、第1の病理学的タイプ、すなわち、コルチ器の変性を特徴とする難聴に関連する。従って、幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、コルチ器の変性前、例えば、有毛細胞の損傷又はアポトーシスの前及び/又は有毛細胞変性又は有毛細胞死の前に、対象に投与される。
難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死は、化学的に、すなわち化学物質、例えば抗生物質、薬物、化学療法剤、重金属又は有機薬剤によって誘発されうる。難聴を引き起こす可能性のある抗生物質には、例えば、セファロスポリン、例えばセファレキシン(Keflex)、セファクロール(Ceclor)、及びセフィキシム(Suprax);アミノグリコシド、例えばゲンタマイシン、トブラマイシン及びストレプトマイシン;マクロライド、例えばエリスロマイシン、アジスロマイシン(Zithromax)及びクラリスロマイシン;スルホンアミド、例えばトリメトプリム・スルファメトキサゾール又はテトラシリン(tetracylines)、例えばテトラサイクリン、又はドキシサイクリンが含まれる。特に、難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死は、ゲンタマイシンに暴露された対象において本発明の方法によって効果的に予防又は治療される。
難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死を引き起こしうる化学療法剤、例えば抗がん剤には、例えば白金含有薬剤、例えばシスプラチン、及びカルボプラチン、好ましくはシスプラチンが含まれる。難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死を引き起こしうる薬物には、例えば、フロセミド、キニーネ、アスピリン及び他のサリチル酸塩が含まれる。難聴を引き起こしうる重金属には、例えば、水銀、鉛が含まれる。難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死を引き起こしうる有機薬剤には、例えばトルエン、キシレン、又はスチレンが含まれる。幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、対象が化学物質に暴露される前に対象に投与され、それにより対象の化学的に誘発される難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防する。幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、対象が化学物質に曝露された後に対象に投与され、それにより、化学的に誘発される難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死に罹患した対象を治療する。
幾つかの実施態様では、難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死は、有毛細胞損傷によって引き起こされる。幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、前記有毛細胞損傷の同定前、すなわち有毛細胞損傷の発生前に対象に投与される。好ましい実施態様では、有毛細胞損傷が騒音外傷によって引き起こされるか、又は化学的に誘発される場合、PPARアゴニストは、対象の騒音外傷又は化学物質への暴露前に対象に投与され、騒音外傷又は化学物質によって引き起こされる有毛細胞の細胞損傷の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、特に少なくとも80%、より詳細には少なくとも90%が防止される。有毛細胞損傷の同定/発生は、通常、有毛細胞の状態の評価によって決定され、それは、上記のように又は実施例に開示したように容易に達成できる。
ここに提供されるのはまた、ここに記載された方法において使用するためのPPARアゴニストと、例えば薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、又は担体とを含む薬学的組成物である。従って、更なる態様では、本発明は、対象における難聴を予防又は治療する方法において使用するためのPPARアゴニストを提供し、PPARアゴニストは、PPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、又は担体とを含有する薬学的組成物として対象に投与される。本発明によってまた提供されるのは、対象における難聴を予防又は治療する方法において使用するための、PPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、又は担体とを含有する薬学的組成物である。幾つかの実施態様では、薬学的組成物は、対象における難聴を予防又は治療するのに十分な量で対象に投与される。更なる態様では、本発明は、PPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体とを含有する薬学的組成物を対象に投与することを含む、対象における難聴を予防又は治療する方法を提供する。幾つかの実施態様では、薬学的組成物は、対象における難聴を予防又は治療するのに十分な量で対象に投与される。更なる態様では、本発明は、PPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、又は担体とを含有する薬学的組成物の、対象における難聴を予防又は治療するための医薬の製造のための使用を提供する。
他の実施態様では、薬学的組成物は他の治療用物質もまた含む。場合によっては、特定の治療剤又は賦形剤、希釈剤又は担体の使用から生じうる潜在的な耳毒性作用を打ち消すための抗酸化剤、アルファリポ酸、カルシウム、ホスホマイシン又は鉄キレート剤などの耳保護薬が薬学的組成物に含まれる。
幾つかの実施態様では、薬学的組成物は、適用時に薬学的組成物の視覚化を促進するのを助ける色素を含む。他の実施態様では、薬学的組成物は、内リンパ又は外リンパに適したpHを提供するための一又は複数のpH調節剤又は緩衝剤をまた含む。適切なpH調整剤又は緩衝剤には、酢酸塩、重炭酸塩、塩化アンモニウム、クエン酸塩、リン酸塩、それらの薬学的に許容される塩、又はそれらの組み合わせ又は混合物が含まれるが、これらに限定されない。そのようなpH調節剤及び緩衝剤は、組成物のpHを約5から約9のpH、好ましい実施態様では約6.5から約7.5のpHに維持するのに必要な量で含まれる。
内耳及び/又は中耳に送達される薬物は、経口、静脈内又は筋肉内経路を介して全身投与されている。ここに記載の方法において使用されるPPARアゴニスト又は薬学的組成物は、通常、経口的、耳に局所的、又は内耳内及び/又は中耳内への注入、好ましくは中耳内への注入によって、投与される。幾つかの投与経路について、例えば、内耳内及び/又は中耳内への注入では、徐放システムを使用することができる。幾つかの投与経路では、活性成分の浸透が、例えば、ヒアルロン酸、DMSOのような輸送エンハンサーによって促進される。幾つかの投与経路では、特に、PPARアゴニスト又は薬学的組成物が内耳内及び/又は中耳内への注入によって投与される場合、チクソトロピック又はサーモゲル製剤を使用して、無痛投与を可能にし、活性成分の内耳内及び/又は中耳内への延長された連続的な放出を確実にするゲル又は高粘性組成物を形成する。幾つかの投与経路では、特にPPARアゴニスト又は薬学的組成物が点耳薬として投与される場合、耳領域における局所的PPAR活性化をもたらす皮膚を通しての浸透を増強する製剤を使用することができる。
好ましくは、ここに記載のPPARアゴニスト又は薬学的組成物は、内耳内及び/又は中耳内、好ましくは中耳内への鼓室内注入によって投与される。治療薬の鼓室内注入は、鼓膜の後ろの中耳内及び/又は内耳内、好ましくは中耳内に薬剤を注入する技術である。
一実施態様では、ここに記載の組成物は、経鼓室注入によって正円窓膜上に直接投与される。別の実施態様では、ここに記載の耳に許容可能な組成物は、内耳に対する非経鼓室アプローチによって正円窓膜上に投与される。更なる実施態様では、ここに記載の組成物は、蝸牛窓稜の改変を含む正円窓膜への外科的アプローチを介して正円窓膜上に投与される。
幾つかの実施態様では、送達装置は、中耳及び/又は内耳へ治療薬を投与するために設計された装置である。ほんの一例として、GYRUS Medical社は、正円窓ニッチの可視化とそこへの薬剤送達のためのマイクロ耳鏡を提供している;Arenbergは、米国特許第5421818号;第5474529号;及び第5476446号において内耳構造に流体を送達するための医学的処置装置を記載している。米国特許出願第08/874208号には、治療薬を内耳に送達するために流体移送導管を移植するための外科的方法が記載されている。米国特許出願公開第2007/0167918号には、鼓室内流体採取と医薬投与のための耳吸引・医薬分注統合器が更に記載されている。
対象の状態が改善しない場合、PPARアゴニスト又は薬学的組成物の投与は慢性的に投与され得、これは対象の疾患又は状態の症状を寛解させ又はさもなければ制御又は制限するために対象の生涯期間を含む長期の期間である。
対象の状態が改善する場合、PPARアゴニスト又は薬学的組成物の投与は連続的に与えられうる;あるいは、投与される薬物の用量が、一時的に減少されてもよく、又は所定の期間にわたって一時的に停止されてもよい(すなわち、「休薬期間」)。
患者の耳の状態がひとたび改善すると、必要に応じて、PPARアゴニスト又は薬学的組成物の維持用量が投与される。続いて、投薬量もしくは投与頻度又はその両方が、症状に応じて、改善した疾患、障害又は状態が保持されるレベルまで、場合によっては低減される。
幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、PPARアゴニストを使用する糖尿病の治療に必要な用量よりも少ない用量で対象に投与される。幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、糖尿病の治療について評価され、試験された最高用量よりも8〜20倍低く、特に、ヒトにおける糖尿病の治療について評価され、試験された最高用量よりも8〜20倍低い用量で対象に投与される。例えば、ピオグリタゾン等のPPARガンマアゴニストに対しての、ヒトにおける糖尿病の治療について評価され、試験された最高用量は、通常、約30〜45mg/日の範囲である。幾つかの実施態様において、使用されるPPAR用量では、糖尿病の治療において見られる副作用は存在しない。
幾つかの実施態様では、PPARアゴニストは、PPARアゴニストの抗糖尿病又は抗脂質異常症効果のための有効用量より少ない用量で、特にヒトにおけるPPARアゴニストの抗糖尿病又は抗脂質異常症効果のための有効用量より少ない用量で対象に投与される。
幾つかの実施態様では、PPARアゴニスト、通常はPPARガンマアゴニスト、PPARアルファアゴニスト及び/又はPPARアルファ/ガンマデュアルアゴニスト、好ましくはPPARガンマアゴニスト、より好ましくはピオグリタゾンは、0.05〜30mg/日、好ましくは0.1〜10mg/日、より好ましくは0.5〜5mg/日の用量でヒトに経口的に投与される。
幾つかの実施態様では、PPARアゴニスト、通常はPPARガンマアゴニスト、PPARアルファアゴニスト及び/又はPPARアルファ/ガンマデュアルアゴニスト、好ましくはPPARガンマアゴニスト、より好ましくはピオグリタゾンは、通常、0.001%w/v〜10%w/vの濃度、好ましくは0.005%w/v〜5%w/vの濃度、より好ましくは0.01%w/v〜2%w/vの濃度でヒトにおいて耳に局所的に投与される。通常、50μl〜1ml、好ましくは1mlのPPARアゴニスト含有溶液が投与される。
幾つかの実施態様では、PPARアゴニスト、通常はPPARガンマアゴニスト、PPARアルファアゴニスト及び/又はPPARアルファ/ガンマデュアルアゴニスト、好ましくはPPARガンマアゴニスト、より好ましくはピオグリタゾンは、一回の注入につき、0.005%w/v〜10%w/v、好ましくは0.01%w/v〜5%w/vの濃度で内耳内及び/又は中耳内への注入によってヒトに投与される。通常、50μl〜1ml、好ましくは1mlのPPARアゴニスト含有溶液が単回注入によって注入される。
本開示はまた、難聴を予防又は治療するため、及び/又は対象、好ましくはヒトにおける有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防又は抑制するためのキットを提供する。そのようなキットは、一般に、ここに開示された一又は複数のPPARアゴニスト又は薬学的組成物と、キットを使用するための説明書を含む。本開示はまた、難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死を有する疑いがあるか、又はそれらを発症する危険性がある哺乳動物、例えば、ヒトにおける疾患、機能障害、又は障害の症状を治療し、軽減し、減少させ、又は寛解させるための医薬の製造における、ここに開示された一又は複数のPPARアゴニスト又は薬学的組成物の使用を考える。
幾つかの実施態様では、キットは、バイアル、チューブ等のような一又は複数の容器を収容するように区画化されたキャリア、パッケージ、又は容器を含み、その容器の各々がここに記載の方法において使用される別々の要素の一つを含む。適切な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ、及び試験管が含まれる。他の実施態様では、容器は、ガラス又はプラスチックのような様々な材料から形成される。
ここで提供される製造品は、一般に、ここに開示される一又は複数のPPARアゴニスト又は薬学的組成物と包装材料とを含む。 医薬包装材料の例は、限定されないが、ブリスターパック、ビン、チューブ、吸入器、ポンプ、バッグ、バイアル、容器、シリンジ、ビン、及び選択された組成物及び意図される投与及び治療様式に適した任意の包装材料を含む。
出生後5日目のスプラーグドーリーラットからコルチ器を得て、器官培養に配した。ゲンタマイシン処置の結果、培養48時間後に50〜70%の有毛細胞が喪失した。ピオグリタゾンの併用処置は保護的であり、ゲンタマイシン依存性の有毛細胞の喪失をほぼ完全に予防し、臓器形態を大部分保存していた。
(動物処置)
全ての動物処置は、Kantonales Veterinaramt(Basel, Switzerland)によって承認されたプロトコルに従って実施した。生後5日目(p5)のスプラーグドーリーラットを研究に使用した。研究は、p5動物由来のコルチ器(OC)外植体を使用してインビトロで実施した。動物を屠殺し、蝸牛を慎重に解剖して、らせん神経節、血管条及びライスナー膜からコルチ器を分離した[Sobkowicz HM, Loftus JM, Slapnick SM. Acta Otolaryngol Suppl. 1993;502:3-36]。
OCを収集した後、培養培地[10%FCS、25mMのHEPES及び30U/mlのペニシリンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)]に入れ、95%O2/5%CO2の雰囲気中、37℃で24時間、インキュベートした。その期間後、化合物を含まないか又は200μMのゲンタマイシン単独又は2もしくは10μMのピオグリタゾンと共に200μMのゲンタマイシンを含む新鮮培地で培養培地を置き換え、37℃で更に48時間インキュベートした。各処理条件に対して10個のOC外植体を使用した。
化合物とのインキュベーション後、OCを4%のパラホルムアルデヒド中で固定し、洗浄し、ついでフルオレセイン(FITC)結合ファロイジンで染色して、内有毛細胞及び外有毛細胞を検出した。染色後、OCを可視化し、蛍光顕微鏡(Olympus FSX100)を使用して撮影した。外有毛細胞及び内有毛細胞を、各コルチ器の頂回転、基底回転及び中回転について別々に定量した。各回転に対する値を、各条件に使用した10個のOCについて平均した。OHCとIHCの数における処置群間の有意差を、分散分析(ANOVA)とそれに続く最小有意差(LSD)事後検定(Stat View 5.0)を使用して決定した。0.05未満のP値に関連する差は、統計的に有意であると考えた。全てのデータは、平均値±SDとして示される。
未処置のコルチ器は、48時間の培養後によく保存されており、外有毛細胞(OHC)及び内有毛細胞(IHC)の無傷の整列された列を提示していた。2又は10μMの何れかでのピオグリタゾン単独処置は、有毛細胞数又は形態に影響を及ぼさず、ピオグリタゾンの直接的有害作用がないことが示された(図1A〜C)。対照的に、200μMのゲンタマイシン処置は、ほぼ完全な有毛細胞の破壊と喪失をもたらした(図1A〜C)。ピオグリタゾンは、2及び10μMの両方で、ゲンタマイシンの作用に拮抗し、有毛細胞数及び形態を保存することができた(図1A〜C)。各コルチ器の頂回転、基底回転、及び中回転において、IHC及びOHCを別々に計数するために、定量的画像解析を実施した。ゲンタマイシン処置は、各セグメントにおいておよそ50〜70%の有毛細胞数の一貫した減少をもたらしたが、両方の濃度でのピオグリタゾンは、全回転においてゲンタマイシン依存性の有毛細胞喪失を完全に防止することができた。
ピオグリタゾン製剤又はビヒクル単独を、モルモットの中耳に適用した。ついで、動物を騒音外傷(広帯域ノイズ4〜20kHz、115dB(SPL))に暴露し、7〜14日後に標準的周波数範囲にわたる聴覚感度の記録を実施した。聴力検査で得られた結果を、傷害前のベースライン値と比較した。ピオグリタゾンは聴覚を保護し、ビヒクル対照に対するピオグリタゾン処置動物における閾値変動を>50%減少させた。
(動物処置)
モルモットモデルは聴覚研究において好ましい動物種である。薬剤投与並びに騒音外傷を全身麻酔下で適用した。到着した動物は、実験の少なくとも1週間前に馴化期間を経た。動物は、12時間/12時間の明/暗サイクルで、温度と湿度が制御された環境下で食物と水に自由に接近できる状態で対で収容された。プロトコルはドイツのベルリンの政府の動物使用委員会によって承認された。
モルモットを最初に麻酔し、聴力を標準的なABR法によって評価し、その後、処置群に分けた。各動物は、両方の耳に対して試験物質の単回の正円窓投与を受けた。翌日、動物を115dBの広帯域ノイズに麻酔下で2時間暴露した。騒音暴露の1週間後及び2週間後に、動物は二回目の聴力評価を受けた。
騒音暴露の前日に両耳の蝸牛正円窓にピオグリタゾン製剤又はそれに合ったビヒクルを一回40μlの適用で動物に投与した。このアプローチでは、視覚制御下で正円窓への薬物適用を可能にする骨胞(Bulla)に直接アクセスするために、頭蓋骨の吻側部分に穴を開けた。
動物を防音チャンバー(0.8×0.8×0.8m、最小減衰60dB)内において麻酔(60mg/kgのケタミンと6mg/kgのキシラジン)下で115dBの音圧レベル(SPL)の広帯域の白色雑音(5〜20kHz)に2時間、騒音暴露した。動物の頭上に配されたラウドスピーカー(HTC 11.19; Visaton, Haan, Germany)によって、騒音をバイノーラルで送った。スピーカーをオーディオアンプ(Tangent AMP-50; Aulum, Denmark)とDVDプレーヤーに接続した。
騒音暴露前のベースラインと、騒音後7日目及び14日目に、周波数特異的(2;4;8;12;16;20;24;28;32;36;40kHz)聴性脳幹反応を、全ての処置動物及び対照において記録した。聴覚刺激を、正弦波発生器(Model SSU2; Werk Fernmeldewesen, Berlin, Germany)を用いて、異なるSPLでバイノーラルに送った。周波数出力を、デジタルカウンター(1941A Digital Counter; Fluke, Scarborough, Ontario, Canada)を用いて制御し調節した。皮下針電極を頭頂(探査)、乳様突起(基準)及び一本の足(接地)に配した。ABR記録は、Viking IV測定システム(Viasys Healthcare, Conshohocken, Pennsylvania)を用いて実施した。脳幹反応を増幅させ(100000×)、フィルターにかけ(バンドパス0.15〜3kHz)、Viking IVシステムによって平均(300×)した。ABR波の振幅を、信号増幅の減衰を変化させることによって異なる音響強度で測定した。振幅成長関数を各試験周波数について計算し、線形回帰をデータの線形部分に適合させた。聴力閾値は、回帰直線の線形振幅成長関数をゼロに外挿することによって、各周波数について計算することができた。これらのデータから、平均値を使用して対照と騒音曝露動物との間の閾値差(平均閾値変動)を計算した。結果は、対照と比較した実験群の平均相対聴力損失(±SD)をデシベル(dB)で表している。
ビヒクル処置動物は、1週間で騒音暴露(5〜20kHz)の周波数範囲にわたって31.9±2.2dB(平均値±SD)の有意な平均聴力損失を示した。ピオグリタゾンは騒音性難聴に対しておよそ60%の有意な保護を与え、12.7±1.3dB(平均値±SD)の僅かな閾値変動であった(図2)。
2週間で、両群において僅かな回復が認められた。ビヒクル処置動物は、2週間で27.3±12.6dB(平均値±SD)の有意な平均聴力損失を示した。ピオグリタゾン処置動物は、2週間で6.3±3.9dB(平均値±SD)の中程度の閾値変動しか示さなかった。(図2)。これらのデータは、ピオグリタゾンの聴覚保護効果を実証している。
実験は実施例1の実験と同様にして実施した。ゲンタマイシン処置の結果、培養のマウスOCへの24時間の暴露後に有毛細胞が50%消失した。デュアルPPARα/γアゴニストであるムラグリタザル及びテサグリタザル並びにPPARα選択的アゴニストのフェノフィブリン酸での処置は、ゲンタマイシン依存性の有毛細胞喪失から保護した。
方法は実施例1のものと同様であった。主な相違点は、ラットOCよりむしろマウスOCを使用したことであった。更に、処置を50μMのゲンタマイシンで24時間実施した。各実験条件に使用したOCの数は3〜5個であった。試験物質の濃度は、テサグリタザルとムラグリタザルでは2μMと10μM、フェノフィブリン酸では25μMと150μMであった。
未処置のコルチ器は、24時間の培養後によく保存されており、外有毛細胞(OHC)及び内有毛細胞(IHC)の無傷の整列された列を提示していた。試験物質単独及び如何なる濃度も、有毛細胞数又は形態に影響を及ぼさず、直接的な副作用がないことを示した(図3A〜C)。対照的に、50μMのゲンタマイシン処置は有毛細胞のおよそ50%の喪失をもたらした(図3A〜C)。テサグリタザルは2及び10μMの両方でゲンタマイシンの作用に拮抗し、有毛細胞数及び形態を保つことができた(図3A)。ムラグリタザルは2μMでは効果的ではなかったが、10μMでは部分的に保護的であった(図3B)。フェノフィブリン酸は25μMでは効果的ではなかったが、150μMでは完全に保護的であった(図3C)。
Claims (18)
- 対象における難聴を予防又は治療する方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 対象における有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防又は抑制する方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストが、PPARアルファ、PPARガンマ若しくはPPARデルタ又はそれらの組み合わせを活性化している、請求項1又は2に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストがPPARガンマを活性化している、請求項1又は2に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストがピオグリタゾンである、請求項1又は2に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 難聴、有毛細胞変性又は有毛細胞死が有毛細胞損傷によって引き起こされる、請求項1から5の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 難聴が突発性難聴である、請求項1に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 難聴が騒音外傷、医療介入、虚血傷害、年齢によって引き起こされるか又は化学的に誘発される、請求項1に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 難聴が騒音外傷によって引き起こされるか又は化学的に誘発され、PPARアゴニストが騒音外傷又は化学物質への対象の暴露の前に対象に投与され、騒音外傷又は化学物質によって引き起こされた有毛細胞の細胞損傷の少なくとも50%が防止される、請求項1に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 蝸牛手術の前にPPARアゴニストが投与される、請求項1から9の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストが経口的に、耳内に局所的に、内耳内への注入及び/又は中耳内への注入によって投与される、請求項1から10の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストが中耳内への鼓室内注入によって投与される、請求項1から10の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストが内耳内及び/又は中耳内への単回注入によって投与され、それに経口投与が続くか又は内耳内に浸透する点耳薬としての投与が続く、請求項1から10の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストが前記PPARアゴニストを使用する糖尿病の治療に必要な用量より少ない用量で対象に投与される、請求項1から13の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 対象がヒトであり、PPARアゴニストが0.5〜5mg/日の用量で経口的に、0.01%〜2%の用量で耳内に局所的に、又は一回の注入につき0.01%〜5%の濃度での内耳内及び/又は中耳内への注入によって投与される、請求項1から13の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- PPARアゴニストがPPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体とを含有する薬学的組成物として対象に投与される、請求項1から15の何れか一項に記載の方法において使用するためのPPARアゴニスト。
- 対象における難聴を予防又は治療する方法において使用するための、あるいは対象における有毛細胞変性又は有毛細胞死を予防又は抑制する方法において使用するための、PPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、又は担体とを含有する薬学的組成物。
- 対象における難聴を予防若しくは治療及び/又は有毛細胞変性若しくは有毛細胞死を予防若しくは抑制するためのキットであって、PPARアゴニスト又はPPARアゴニストと薬学的に許容される希釈剤、賦形剤もしくは担体とを含有する薬学的組成物と、該キットの使用説明書とを含むキット。
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