JP2018205226A - 近赤外分光分析を用いたフライ用油脂組成物の分析 - Google Patents
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(1) フライ用油脂組成物の油ちょうによる劣化度合いを評価する方法であって、フライ用油脂組成物のサンプルについて、4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを測定する工程、4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを用いてあらかじめ作成しておいた検量モデルに基づいて、測定した近赤外分光スペクトルからフライ用油脂組成物サンプルの酸価を算出する工程、を含む、上記方法。
(2) 前記フライ用油脂組成物が、2種以上の油脂を含んでなる、(1)に記載の方法。
(3) 透過法によって近赤外分光スペクトルを測定する、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記検量モデルが、油脂組成の異なる複数のフライ用油脂組成物について、劣化度合いの異なる複数のサンプルの近赤外分光スペクトルを4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域において測定するとともに、同じサンプルについて理化学的に酸価を定量した上で、測定した近赤外分光スペクトルデータと定量した酸価とから作成されるものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 4600〜4800cm−1の全部または一部の波数領域において近赤外分光スペクトルを測定する、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 劣化度合いを評価するフライ用油脂組成物から揚げかすを除いてから近赤外分光スペクトルを測定する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) フライ用油脂組成物の油ちょうによる劣化度合いを評価する装置であって、フライ用油脂組成物のサンプルについて、4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを測定する分光分析部、4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを用いてあらかじめ作成しておいた検量モデルに基づいて、測定した近赤外分光スペクトルからフライ用油脂組成物サンプルの酸価を算出する計算部、を備えた、上記装置。
本発明においてフライ用油脂組成物(フライ油)とは、油ちょう(フライ)に用いられる油脂組成物である。本発明に係るフライ用油脂組成物は、1または複数の食用油脂を含んでなり、食用油脂は、特に限定されるものではなく、植物由来であるか、動物由来であるか、また、合成品であるかも問わない。本発明によれば、1種類の油脂からなるフライ用油脂組成物はもちろん、複数の油脂を含んでなるフライ用油脂組成物であっても精度よく迅速に分析することが可能である。食用油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、キャノーラ油、コーン油、ひまわり油、紅花油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、オリーブ油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ脂、藻類油などを単独または組み合わせて使用することができる。好ましい食用油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、オリーブ油、ごま油などの植物油を挙げることができる。また、水素添加油脂、グリセリンと脂肪酸のエステル化油、エステル交換油、分別油脂なども適宜使用することができる。さらに、遺伝子組換えの技術を用いて品種改良した植物から抽出したものであってもよい。
本発明においては、フライ用油脂組成物に必要に応じて前処理を施した上で、NIRスペクトルを測定する。NIRスペクトルの測定方法は特に限定されないが、透過反射法または透過法によって測定することが好ましく、試料によって使い分ければよい。一般に近赤外分光法では、粉体や固体の分析に適した拡散反射法、液体の分析に適した透過反射法または透過法があるが、本発明に係るフライ用油脂組成物は液体状態で測定するため、透過反射法または透過法によることが好ましい。試料が比較的透明であれば透過法、着色が強く、光を透過しにくい液体試料の場合は透過反射光によって測定することが多い。フライ用油脂組成物は、油ちょうによって油脂が着色したり、光散乱成分が混入したりするため、透過反射法を選択することが考えられるが、省スペース化を図るために透過法を選択することも好ましい。
本発明においては、フライ用油脂組成物に関するNIRスペクトルデータを基に多変量解析を行って、フライ用油脂組成物の劣化度合いを評価するための検量モデル(検量線)が作成される。多変量解析としては、ケモメトリクスに通常用いられる解析ツールを使用することができ、例えば、主成分分析(PCA:principal component analysis)、階層クラスター分析(HCA:hierarchical cluster analysis)、PLS回帰分析(partial least squares regression)、判別分析(discriminate analysis)などの種々の多変量ツールを好適に使用できる。PLS回帰分析では、部分最小二乗によって2群の変量間の関係が分析される。必要に応じて、スペクトルフィルタリング法、例えば、妨害成分を取り除くための直交シグナル補正と組み合わせて多変量解析を行ってもよい。これらの解析ツールは市販されており、任意のものが入手可能である。なお、多変量解析は、得られた全データではなく、品質予測に重要な一定の範囲のデータを選択して行ってもよい。例えば、NIRスペクトルのうち、一部の波数領域のデータのみを用いて分析することも可能である。
複数種の油脂を含むフライ用油脂組成物について、近赤外スペクトルのデータからフライ用油脂組成物の劣化度合いを予測する技術について検討した。
下表に示す複数種の油脂を含む混合油にシリコーンを3ppm添加したものを、数日間連続して油ちょうに使用した。具体的には、混合油を1日10時間、180±5℃に加熱し、1時間あたり5個のコロッケを油ちょうした(フライ時間はコロッケ1つあたり約5分間)。フライに使用した混合油を1日ごとに100ml採取し、静置して揚げかす等を除いたものを測定サンプルとした。混合油A〜Cは検量線作成用のサンプルであり、混合油Dは本発明に係る分析法を評価するためのサンプルである。
・酸価(acid value):基準油脂分析試験法(日本油化学会、2013年版)に基づいて中和滴定法によってサンプルの酸価を測定した。下表に示すように、測定サンプルの酸価は0.05〜3程度であった。
・色相:基準油脂分析試験法(日本油化学会、2013年版)に基づいてロビボンド比色計を用い、1インチセルにてサンプルの色を分析した(R値:赤、Y値:黄、B値:青)。その分析値を「Y値+10×R値」として数値化し、評価した。
・油脂重合物:基準油脂分析試験法(日本油化学会、2013年版)に基づいてゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いてサンプルの油脂重合物を評価した。ここでいう油脂重合物とは、GPC法でトリアシルグリセリンよりも早く溶出するピークに係るものである。
測定セル(ガラスセル、厚さ:2mm)をサンプルで数回共洗いした後に、測定セルに測定サンプルを注ぎ入れた。下記の測定装置のNIR測定部位に測定セルを挿入し、温度を35℃に維持して、4000〜10000cm−1における近赤外スペクトルを透過法により取得した。
(測定装置)
・卓上型近赤外分析計(Buchi社、NIRFlex N-500 液体測定モジュール)
・光源:ハロゲンランプ
・干渉計:TeO2偏光干渉計
・検出器:InGaAs(ペルチェ温調)
・分解能:8cm−1
・制御可能温度:10〜65℃
得られたスペクトルデータに対して、コンピュータを用いて前処理として「2次微分」「標準化(SNV補正)」「平滑化」を行った。
・2次微分:スペクトルのピーク強度変化に基づいてベースラインを補正するもの。
・標準化(SNV補正):各波数のスペクトル強度の平均値を基準とし、その基準との強度差でスペクトルの縦軸を表現するもの。標準化によって、スペクトル間のベースラインによる変動を補正することができる。
・平滑化:スムージング(9点平滑化)処理を行うもの。測定装置の性能などに由来するランダムなノイズの影響を抑制することができる。
混合油A〜Cについて得られたスペクトルデータを用いて種々の検量モデルを作成し、酸価を高精度で予測する方法について検討した。具体的には、検量モデル作成に用いる波数領域を変化させてNIRスペクトルから酸価を算出し、どのような波数領域のデータを用いると酸価を高精度で予測できるのかをコンピュータを用いて調べた。
(a) 4000〜10000cm−1
(b) 4000〜8000cm−1
(c) 4000〜6000cm−1
(d) 4500〜4900cm−1
(e) 4600〜4800cm−1
(f) 4882〜4922cm−1、4955〜4995cm−1、5293〜5333cm−1
(g) 4546〜4586cm−1、4646〜4686cm−1、8455〜8495cm−1
混合油A〜CのデータからPLS回帰分析によって定量モデルを構築して酸価の検量モデルを作成し、作成した検量モデルに基づいて、混合油Dに関して測定したNIRスペクトルから酸価を算出した。検量モデルを用いて算出した酸価(検量モデルによる算出値)と理化学的分析により実測した酸価(理化学的分析値)から算出される予測標準誤差(SEP)を以下に示す。
[Σ{(検量モデルによる算出値)−(理化学的分析値)}2/(サンプル数)]1/2
下表に示すように、4500〜4900cm−1や4600〜4800cm−1の波数領域を選択した場合に測定精度が極めて高くなることが確認された。すなわち、広い範囲のNIRスペクトルデータから検量モデルを作成した場合(実験a:4000〜10000cm−1、実験b:4000〜8000cm−1、実験c:4000〜6000cm−1)と比較して、本発明によれば、狭い範囲のNIRスペクトルデータから、使用済みのフライ用油脂組成物の酸価を高い精度で測定できることが明らかになった(実験dの予測標準誤差:0.12、実験eの予測標準誤差:0.11)。4600〜4800cm−1の波数領域のデータを用いた場合(実験e)について、その結果を表4および図1に示すが、検量線の相関係数が高く(R2=0.987)、予測の精度が極めて優れていた(予測標準誤差:0.11)。
油ちょうによるフライ用油脂組成物の劣化とNIRスペクトルの関係について検討した。図2に示すように、フライ試験に用いたフライ用油脂組成物のスペクトルデータ(透過率)を比較したところ、油ちょうによって、4600〜4800cm−1の波数領域において、フライ用油脂組成物のスペクトルが特に大きく変化することがわかった。この波数領域は、C=C、O−H、C−Hの結合音に起因するスペクトルが観察される波数領域であり、油脂の劣化によって遊離脂肪酸量や油脂重合物量が変化したことがスペクトル変化として現れたものと考えられる。
複数種の油脂を含むフライ用油脂組成物について、近赤外スペクトルのデータからフライ用油脂組成物の劣化度合いを予測する技術について検討した。この実験では、多種の揚げ物を油ちょうしたフライ用油脂組成物であって、実験1よりも劣化度合いの大きいフライ用油脂組成物について、近赤外スペクトルを用いた分析を検討した。
実験1で用いた混合油A〜Cに加えて、多種の揚げ物を油ちょうしたフライ用油脂組成物(混合油E〜F)を用いて検量モデルを作成した。具体的には、下表に示す複数種の油脂を含む混合油にシリコーンを3ppm添加したものを、数日間連続して油ちょうに使用して、多種の揚げ物(天ぷら、から揚げ、とんかつ、コロッケ、野菜の素揚げなど)を製造した。混合油E〜Fは、いずれも検量線作成用のサンプルであり、混合油Eは約7日間、混合油Fは約4日間油ちょうに使用したサンプルである。一方、混合油G〜Hは、本発明に係る分析法を評価するためのサンプルであり、約4日間、多種の揚げ物(天ぷら、から揚げ、とんかつ、コロッケ、野菜の素揚げなど)を油ちょうした後のサンプルである。なお、本実験においても、実験1と同様に、静置して揚げかす等を除いたものを測定サンプルとした。
実験1と同様にして、混合油E〜Hについて近赤外スペクトルを透過法により測定した。次いで、混合油A〜Cおよび混合油E〜Fのデータから、実験1と同様にして、4600〜4800cm−1の波数領域のスペクトルに基づいて酸価の検量モデルを作成した。
作成した検量モデルに基づいて、混合油G〜Hに関して測定したNIRスペクトルから酸価を算出した。結果を下表に示すが、NIRスペクトルから算出した酸価の予測値と理化学分析値の差は0.2%以内であり、本発明によって酸価を高精度に測定できることが分かった(図4、相関係数R2=0.990)。
Claims (7)
- フライ用油脂組成物の油ちょうによる劣化度合いを評価する方法であって、
フライ用油脂組成物のサンプルについて、4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを測定する工程、
4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを用いてあらかじめ作成しておいた検量モデルに基づいて、測定した近赤外分光スペクトルからフライ用油脂組成物サンプルの酸価を算出する工程、
を含む、上記方法。 - 前記フライ用油脂組成物が、2種以上の油脂を含んでなる、請求項1に記載の方法。
- 透過法によって近赤外分光スペクトルを測定する、請求項1または2に記載の方法。
- 前記検量モデルが、油脂組成の異なる複数のフライ用油脂組成物について、劣化度合いの異なる複数のサンプルの近赤外分光スペクトルを4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域において測定するとともに、同じサンプルについて理化学的に酸価を定量した上で、測定した近赤外分光スペクトルデータと定量した酸価とから作成されるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 4600〜4800cm−1の全部または一部の波数領域において近赤外分光スペクトルを測定する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 劣化度合いを評価するフライ用油脂組成物から揚げかすを除いてから近赤外分光スペクトルを測定する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- フライ用油脂組成物の油ちょうによる劣化度合いを評価する装置であって、
フライ用油脂組成物のサンプルについて、4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを測定する分光分析部、
4500〜4900cm−1の全部または一部の波数領域における近赤外分光スペクトルを用いてあらかじめ作成しておいた検量モデルに基づいて、測定した近赤外分光スペクトルからフライ用油脂組成物サンプルの酸価を算出する計算部、
を備えた、上記装置。
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