JP2018201508A - グルタチオンストレス耐性酵母 - Google Patents

グルタチオンストレス耐性酵母 Download PDF

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泰史 安川
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泰史 安川
百合子 山崎
Yuriko Yamazaki
百合子 山崎
康裕 森田
Yasuhiro Morita
康裕 森田
直久 増尾
Naohisa Masuo
直久 増尾
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Abstract

【課題】酵母は通常、菌体内に蓄積したグルタチオンによりストレスを受け、それがグルタチオン生産量を抑制する一因となっていた。本発明は、グルタチオンストレス耐性を酵母に付与させる因子とその生物学的プロセスを特定する。それにより、グルタチオン高生産酵母を取得し、グルタチオンを効率よく製造する。【解決手段】MAPK経路及び減数分裂のプロセスに属する遺伝子で酵母を形質転換する。具体的にはRim11、Bmh1またはWhi2のアミノ酸配列をコードするDNAで酵母を形質転換する。【選択図】なし

Description

本発明は、グルタチオンストレスに対する耐性を付与させた酵母を育種する方法に関する。
グルタチオンはグルタミン酸、システイン、グリシンから構成されるトリペプチドで、例えば大腸菌からヒトに至るまで広く保存された生理活性分子である。
グルタチオンは抗酸化作用、免疫賦活作用、解毒・肝機能改善作用、等の様々な機能性を発揮することから、医薬品、食品、化粧品の分野で注目されている(特許文献1)。
細胞におけるグルタチオンの機能は、鉄硫黄クラスタータンパク質の構成と成熟化、活性酸素種の消去、アミノ酸代謝、酸化還元バランスの恒常性維持によるタンパク質のフォールディング、等多岐に渡る(非特許文献1)。
近年のライブセルイメージング技術の発展に伴い、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの量比がオルガネラごとに大きく異なり、グルタチオンの空間的バランスが高度に制御されていることが明らかになってきた。還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの量比は、例えば細胞質やミトコンドリア内膜では3,000:1だが、小胞体では3:1〜1:1との報告がある(非特許文献2)。小胞体が酸化的環境にシフトしているのは、グルタチオンを介したプロテインジスルフィドイソメラーゼ等の働きで分泌タンパク質や膜タンパク質を正しくフォールディングさせるためである(非特許文献1)。
現在グルタチオンの工業的生産法は酵母を用いた発酵法が主流で、グルタチオンは酵母の細胞内に蓄積される。上述のようなグルタチオンの高い生理活性は、蓄積度合が過剰だと細胞毒性(グルタチオンストレス)があらわれることが知られていた(非特許文献3)。
それゆえに、グルタチオンストレスを低減するために、グルタチオンを積極的に液胞に輸送させることで、グルタチオン蓄積量と増殖性を同時改善させた報告(特許文献2)、また細胞毒性を回避するためにグルタチオンを細胞外(培地中)へ排出させ、グルタチオンの生産性を向上させた報告(非特許文献4)が存在する。
またグルタチオンの細胞毒性に関して更に詳細には、酵母内でのグルタチオンの過剰蓄積が、小胞体におけるタンパク質フォールディングやミトコンドリア活性に悪影響を及ぼすことが報告されている(非特許文献1)。
しかしながらグルタチオンの細胞毒性に対して、耐性を付与させる因子は酵母に限らずあらゆる生物種でこれまで知られてない。従ってグルタチオンストレス耐性酵母の作出を通じたグルタチオンの生産性向上といった試みも未完である。
特開2013−177188号公報 特開2012−213376号公報 特開2012−213361号公報 特開2014−064472号公報 特開2011−160739号公報 特開2004−283125号公報
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上記背景技術を鑑み、本発明は
i)グルタチオンストレス耐性を酵母に付与させる因子を特定すること
および
ii)酵母にグルタチオンストレス耐性を付与する生物学的プロセスを特定すること、
を含むグルタチオン高生産酵母の製造方法を提供することを課題とする。
上述の課題を解決すべく、発明者らは酵母染色体マルチコピーライブラリーを用いて、多コピーでグルタチオンストレスを抑圧する遺伝子を探索した結果、グリコーゲンシンターゼキナーゼRim11をコードする遺伝子RIM11、14−3−3タンパク質Bmh1をコードする遺伝子BMH1、および細胞分裂G1期を下方調整するタンパク質Whi2をコードする遺伝子WHI2を見出すことができた。
さらに本発明者らはRNAシーケンス法を実施した結果、これらの遺伝子の強発現化が酵母にグルタチオンストレス耐性を付与させた要因が下記(a)、(b)の生物学的プロセスの変化であることを確認した。
(a)MAPK(Mitogen activated−protein kinase)経路の活性化
(b)減数分裂段階への移行
加えて本発明者らは(a)MAPK経路の下流で機能するグリコーゲンシンターゼキナーゼRim11に着目した。Rim11がリン酸化する基質として既知なUme6、ならびに該Ume6と協調するRpd3とSin3が、酵母にグルタチオンストレス耐性を付与する際に機能していることを、分子遺伝学的手法を用いて新規に見出した。本結果から、(a)MAPK経路に引き続き、エピジェネティクス機構の調整が、酵母にグルタチオンストレス耐性を付与させる要因あると結論付けるに至った。
すなわち本発明は、
(1)下記(a)、(b)または(c)の生物学的プロセスに属する遺伝子で親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
(a)Mitogen activated−protein kinase(MAPK)経路
(b)減数分裂
(c)エピジェネティクス機構

(2)下記(A)〜(C)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAで親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
(A)配列番号1のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
(B)配列番号2のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
(C)配列番号3のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列

(3)前記(2)記載の酵母であって、かつ配列番号7のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするDNAで親株を形質転換して得られる酵母である、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。

(4)(a)MAPK経路の下流で機能する生物学的プロセスであって、細胞分裂段階を外部の生育環境変化に応答して適宜、体細胞分裂または減数分裂、あるいは分裂の一時停止期(G1停止, G2停止)に移行させる下記(I)の機構に属する遺伝子で親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
(I)エピジェネティクス機構

(5)下記(D)〜(F)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAで親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
(D)配列番号33のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
(E)配列番号34のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
(F)配列番号35のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列

(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の酵母を培養する工程を含む、グルタチオンの製造方法。

に係るものである。
本発明の方法によれば、酵母細胞内におけるグルタチオンの高蓄積によって誘導される細胞毒性に対して、宿主酵母にグルタチオンストレス耐性を獲得させることができる。当該形質を獲得させた酵母を育種することでグルタチオン高生産酵母を製造することができる。
本発明により得られたグルタチオン高生産酵母は、グルタチオンを高含有しながらも増殖性が野生型のそれと同等レベルにあるので、グルタチオンの工業的生産において、その生産性向上に寄与することが期待される。
トランスクリプトーム分析により得られた、酵母にグルタチオンストレス耐性が付与されるメカニズムの概要図。 HGT1遺伝子強発現カセットのプラスミドマップと、染色体相同組換えの模式図 ネガティブコントロール(pRS426、ライブラリーのベクター)と、グルタチオンストレス耐性を示した3種類の変異体について、グルタチオンストレス感受性を評価。スポットの菌体濁度は左からOD600=2.5,0.25,0.025,0.0025,0.00025であり、各10 μlずつスポットした。30℃で3日間保持。 RIM11遺伝子強発現のプラスミドマップと、染色体相同組換えの模式図。 GSH1遺伝子強発現のプラスミドマップと、染色体相同組換えの模式図。 各変異体をSDカザミノ酸培地で対数増殖期あるいは定常期まで好気培養したときの総グルタチオン含量の比較(BY4741の総グルタチオン含量を1として)各変異体のN数=4、二回の独立試験。 各変異体のSDカザミノ酸培地における増殖性の比較。各酵母株のN数=2、一回試験。 Ume6をコードする遺伝子を破壊した変異体Δume6、ならびにΔume6 HGT1について、グルタチオンストレス感受性を評価。スポットの菌体濁度は左からOD600=2.5,0.25,0.025,0.0025,0.00025であり、各10μlずつスポットした。30℃で3日間保持。 各変異体のグルタチオンストレス負荷有無における増殖性の比較。各酵母株のN数=7、3回独立試験。エラーバーは標準偏差。 BY HGT1のSin3をコードする遺伝子を破壊した変異体Δsin3 HGT1、ならびに同株でRpd3とSin3をコードする遺伝子を破壊したΔrpd3Δsin3 HGT1について、グルタチオンストレス感受性を評価。スポットの菌体濁度は左からOD600=2.5,0.25,0.025,0.0025,0.00025であり、各10μlずつスポットした。30℃で3日間保持。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、グリコーゲンシンターゼキナーゼRim11(配列番号1)、14−3−3タンパク質Bmh1(配列番号2)、並びに体細胞分裂G1期の下方調整因子Whi2(配列番号3)、各々をコードする遺伝子、具体的にはそれぞれRIM11(配列番号4)、BMH1(配列番号5)、WHI2(配列番号6)が酵母にグルタチオンストレス耐性を付与することを新規に見出したものである。本発明によれば、これらいずれかの遺伝子発現量を上方調整させ、当該タンパク質の産生を増量させることで酵母にグルタチオンストレス耐性を付与させることができる。特に好ましくはRim11、次に好ましくはBmh1をそれぞれコードする遺伝子の発現向上である。
大量産生させたグリコーゲンシンターゼキナーゼあるいは14−3−3タンパク質、あるいは体細胞分裂G1期制御因子がグルタチオンストレス耐性を付与することは酵母をはじめあらゆる生物種でこれまで知られてない。
グリコーゲンシンターゼキナーゼの既知機能、例えば細胞分裂の制御や酸化ストレス応答(非特許文献7)、あるいは14−3−3タンパク質の既知機能、例えばMAPK経路の調節(非特許文献5)、あるいは細胞分裂制御因子の既知機能、例えば体細胞分裂G1期のチェックポイント(非特許文献6)と、非特許文献1が報告するグルタチオンストレスの作用機序、即ちミトコンドリア内在性酵素の活性低下や小胞体ストレス誘導、とは細胞生理学的に直接的に結びつくものではない。
本発明は、さらにトランスクリプトーム解析により見出された、酵母のグルタチオンストレス耐性機構の作用機序に関するものである。
グリコーゲンシンターゼキナーゼファミリーの一員であるRIM11遺伝子は、窒素飢餓に応答したTor経路と、引き続き起こるMAPK経路(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)を通じて活性化されることが知られている(非特許文献8)。またRim11は初期減数分裂期において、減数分裂開始因子(Initiator of Meiosis,IME)であるIme1とIme2の制御に関与し、細胞の減数分裂フェーズへの移行を正に誘導することが報告されている(非特許文献9)。しかしながらRIM11のこれら機能と、GSHストレスの作用機序とは容易に結びつくものではない。
そこでRIM11強発現酵母のRNAシーケンス解析を実施したが、意外なことに、酵母にグルタチオンストレス耐性を付与させる生物学的プロセスとして、MAPK経路の亢進と体細胞分裂から減数分裂フェーズへの移行、が確認された。Rim11の基質にはUme6が報告されており、加えてUme6と協調するタンパク質としてRpd3とSin3がある。Ume6、Rpd3、Sin3はヒストン脱アセチル化酵素複合体(Conserved Histone Deacetylase;HDAC)を構成し、環境変化に応答して遺伝子発現のタイミングを制御するエピジェネティクス機構の調整因子であることが知られている(非特許文献12)
エピジェネティクス機構とグルタチオンの生理機能(酸化還元バランス維持、抗酸化能、解毒作用、およびグルタチオンストレス)とは、既知情報からは両者の関連性が見出せない。
しかしながら本発明者らは酵母の分子遺伝学的手法を用いることで、両機構に遺伝的相互作用が存在することを見出すに至った。当該関連性についても容易に推察できるものではなく、本知見を活かしたグルタチオンの高効率生産が産業的に資する効果は大きい。
上述の酵母染色体マルチコピーライブラリースクリーニングより、RIM11と同時に14−3−3タンパク質遺伝子BMH1が選抜されたが、興味深いことにBmh1も、Torシグナル経路下流のMAPK経路で機能することが知られている(非特許文献6)。以上の結果は、MAPK経路が酵母にグルタチオンストレス耐性を付与させていることを裏付けるものである。
また窒素飢餓応答によって体細胞分裂G1期が停滞し、サイクリンタンパク質Cln3とCln2が抑制されることが知られている。Cln2はIme1の負のレギュレーターであるから、Cln2の機能が低下するとIME1遺伝子がアップレギュレーションされ、減数分裂フェーズへの移行が促進される(非特許文献9)。酵母染色体マルチコピーライブラリースクリーニングでWhi2をコードする遺伝子WHI2が見出されたが、当該タンパク質はCln1とCln2を下方調整するため(非特許文献7)、IME1遺伝子の発現が上方調整され、減数分裂段階への移行が促進されるだろう。以上の結果は、減数分裂段階への移行が、酵母にグルタチオンストレス耐性を付与させる要因である可能性が考えられる。
以上の生物学的プロセスを図1に描画した。
また本発明はグルタチオンの生産性を向上させた酵母の製造方法に関する。
グリコーゲンシンターゼキナーゼであるRim11(配列番号1)をコードする遺伝子を大量発現させると、酵母においてグルタチオン含量を増大させることができる。該遺伝子のほか、14−3−3タンパク質であるBmh1(配列番号2)をコードする遺伝子、体細胞分裂G1期制御因子であるWhi2(配列番号3)をコードする遺伝子であってもよい。
さらに、エピジェネティクス機構の調整因子であることが知られているUme6(配列番号33)、Rpd3(配列番号34)、Sin3(配列番号35)をコードする遺伝子でもよい。
また、本発明では、配列番号1〜3、33〜35のアミノ酸配列と65%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を発現させても良い。
またグルタチオン合成酵素−I(配列番号7)をコードする遺伝子GSH1(配列番号8)を強発現させた酵母で、更にRim11、Bmh1またはWhi2の遺伝子を過剰発現させると、グルタチオン含量を相乗的に増大させることができる。
これら方法に則り育種した酵母は、細胞内にグルタチオンを高含有するにもかかわらず、増殖性や菌体収量(単位糖重量あたりに取得される酵母菌体の重量、バイオマス)は野生型のそれと同等であることから、当該発明酵母はグルタチオン生産性の向上に期待できる。
更に、既報のグルタチオン高生産方法、例えば酵母を培養する培地にシステインおよび/またはグリシンを添加する方法(特許文献3)、グルタチオンレダクターゼ遺伝子の破壊やグルタチオンペルオキシダーゼ遺伝子の強発現化を施した手法(特許文献4)、MET30遺伝子に変異を導入させる方法(特許文献5)、を本発明の酵母に施すことにより、より一層のグルタチオン含量の増大も期待される。
<酵母の種類>
本発明に用いる酵母は特に制限はなく、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ルーキシー(Saccharomyces rouxii)、サッカロマイセス・フラギリス(Saccharomyces fragilis)などのサッカロマイセス属、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・グラブラータ(Candida glabrata)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)などのキャンディダ属、ジゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)などのジゴサッカロマイセス属、などの酵母が挙げられる。
<遺伝子の大量発現方法>
Rim11をコードする遺伝子たとえばRIM11を大量発現させる方法は当業者に周知であり、例えば、当該遺伝子をコードする塩基配列から成るDNAを酵母で自己複製する多コピーベクター(例えば非特許文献10)にクローニングした発現プラスミドを用いる方法や、当該遺伝子の重複DNA断片を酵母ゲノムに組込んでコピー数を増加させる方法、あるいは当該遺伝子のプロモーターよりも強力なプロモーター制御下に該遺伝子を配置させることで発現量を上げる方法、等によって行うことができる。強力なプロモーターには、公知の高発現プロモーター、例えばPGK1、TDH3、TEF1、CYC1、などの遺伝子の上流プロモーター配列を挙げることができる。
他にもニトロソグアニジンやエチルメタンスルフォネートなどの化学変異誘発剤処理、重粒子ビームや放射線、エックス線、UVなどの照射、あるいは亜硝酸等、通常の突然変異誘発操作を用いても当該遺伝子の強発現化は可能である。
<総グルタチオン含量の測定方法>
当該方法は当業者に周知であり、例えば Tietzeらの酵素を用いるレイトアッセイ(非特許文献11)や、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる方法(特許文献6)、質量分析計を用いる方法(非特許文献1)などが挙げられる。市販品であればGSSG/GSH Quantification Kit(同仁化学研究所製)などが使用できる。なお、ここで云う総グルタチオン含量とは、還元型グルタチオン(GSH)の含量と酸化型グルタチオン(GSSG)の含量を合算したものである。
例えばTietzeらの方法に準ずるならば、当該改変酵母菌体を遠心分離機等で集菌し、水等で洗浄後、5−スルホサリチル酸水溶液に懸濁する。グルタチオンの抽出条件としては公知の方法、すなわち加熱抽出法や酵素分解法、あるいはガラスビーズやホモジナイザーを用いた物理的破砕法によっても可能である。但し酵母の培養状態の変遷に伴い細胞壁組成が変化し、特に定常期においては細胞壁溶解酵素の反応性が低下することが知られているので、酵素分解法は本製法では避けることが好ましい。抽出液を遠心分離機や膜ろ過に供することで清澄化し、適宜水あるいは5−スルホサリチル酸水溶液で希釈してグルタチオン抽出液を調製する。但しグルタチオンはpHが弱酸性の溶液でより安定なので、5−スルホサリチル酸水溶液を用いることがより好まれる。
抽出液中の総グルタチオン含量については、還元型グルタチオンがDTNB(5,5’−dithiobis−2−nitrobenzoic acid)を還元することにより生成するTNB(5−mercapto−2−nitrobenzoic acid)の吸光度OD420値の経時変化を追跡、測定することで求めることができる。
一方でGSH純品を5−スルホサリチル酸水溶液に溶解させたGSH標準溶液を調製し同水溶液で段階希釈する。上記DTNB反応と同時に得たOD420値とGSH濃度希釈系列の関係から、検量線を描画する。グルタチオン抽出液は、この検量線に基づくことで総グルタチオン濃度と含量を算出することが出来る。
尚、本発明においては、Tietzeらの方法である、グルタチオンレダクターゼ−DTNB法(以降「GR−DTNB法」)を用いた。
本発明におけるODは、分光光度計を用いて測定した値であり、具体的には分光光度計(レシオビーム分光光度計U-5100:日立ハイテクサイエンス社製)を用いて測定した。またpHは、pHメーターを用いて測定する。具体的には、pHメーターHM−30G(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。なお総グルタチオンの分析では、吸光度OD420値をプレートリーダーで測定すると良く、具体的にはARVO X3 2030 Multilabel Reader(パーキンエルマー社製)を挙げる。
酵母によるグルタチオン生産性を評価する際、酵母菌体の増殖性を調べるが、当該グルタチオンストレス耐性酵母の成長曲線は、Compact Rocking Incubator TVS062CA(アドバンテック社製)を使用して評価する。
以下実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
[実施例1]
(1)グルタチオントランスポーターHGT1(OPT1)強発現用カセットの構築
サッカロマイセス・セレビシエBY4741(Mata his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)のゲノムDNAを鋳型にして、二種類のプライマー(配列番号9と10)を用いてLEU2遺伝子をPCR増幅し、増幅物を制限酵素Spe I,Bam HIで消化した。この断片をプラスミドpBluescript SK−II(+)のSpe I,Bam HI消化部位に連結し、LEU2プラスミドを得た。
当該ゲノムDNAをテンプレートとし、二種類のプライマー(配列番号11と12)でTDH3遺伝子配列のプロモーター領域、すなわち開始コドン(ATG)のアデニンを+1塩基としたときの上流領域−680塩基から−1塩基までの塩基配列を増幅し、増幅物をBam HIとEco RIで消化した。この断片をLEU2プラスミドのBam HI、Eco RI消化部位に連結し、LEU2−TDH3prプラスミドを得た。
さらに当該ゲノムDNAをテンプレートとし、グルタチオントランスポーターHGT1(OPT1)遺伝子の翻訳領域(ORF)の一部を、二種類のプライマー(配列番号13と14)でPCR増幅し、増幅物をEco RIとSal Iで消化した。LEU2−TDH3prプラスミドのEco RIとSal I消化物に連結し、LEU2−TDH3pr−HGT1プラスミドを得た。
最後に当該ゲノムDNAをテンプレートとし、二種類のプライマー(配列番号15と16)でHGT1遺伝子配列のプロモーター領域の一部、すなわち上流領域−690塩基から−197塩基の塩基配列を増幅し、増幅物をSac IとSpe Iで消化した。この断片をLEU2−TDH3pr−HGT1プラスミドのSac I、Spe I消化部位に連結し、HGT1pr−LEU2−TDH3pr−HGT1プラスミドを構築した(図2)。
配列番号9
5’-ccggactagtaggagaacttctagtatatc-3’
配列番号10
5’-ccggggatcctttctgacagagtaaaattc-3’
配列番号11
5’-gccggatcccagttcgagtttatcattatc-3’
配列番号12
5’-ggccgaattctttgtttgtttatgtgtgtt-3’
配列番号13
5’-cggaattcatgagtaccatttatagggaga-3’
配列番号14
5’-cggtcgactgattaccaccatttatcata-3’
配列番号15
5’-cggagctcgagctgtgcaactcgagaca-3’
配列番号16
5’-ggactagttctttcttcaacaacgattgct-3’
(2)HGT1強化株の作製
上記HGT1pr−LEU2−TDH3pr−HGT1プラスミドを制限酵素Xho Iで消化し、LEU2遺伝子が連結されたHGT1遺伝子の強発現カセットを得た。
サッカロマイセス・セレビシエBY4741(Mata his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)を宿主にして当該発現カセットのダブルクロスオーバーの染色体相同組換えで、酢酸リチウム法を用いて形質転換を行った(図2)。目的とする染色体組換え株は、LEU2を選択マーカーとして、ロイシンを含まない選択培地(以降SD−leuと表記)に塗布しコロニー形成させることで選抜した。
形質転換体を新しいSD−leu寒天培地に線描してシングルコロニーアイソレーションしたのち、ロイシンを含まないSD液体培地に植菌して増殖させ、還元型グルタチオンを添加したSD寒天培地にスポットし、増殖しないこと、あるいは増殖遅延、を確認することでグルタチオンストレス感受性酵母の作製を確認した
(3)多コピーでグルタチオンストレスを抑圧する遺伝子のスクリーニング
前項(2)記載のグルタチオンストレス感受性酵母(HGT1強化株)に、サッカロマイセス・セレビシエの染色体から構築した3 gの酵母染色体ライブラリー(2μ URA3)を酢酸リチウム法で導入した。GSHを含む60枚のSD−leu−ura寒天培地に等量ずつ塗布し、一枚だけGSHを含まないSD−leu−ura寒天培地に塗布した。30℃で5日間インキュベーションしたところ、GSHを含まないSD−leu−ura寒天培地において約2,000個の形質転換体が得られた。よって60枚の、GSHを含むSD−leu−ura寒天培地でスクリーニングを実施したので、約120,000個の形質転換体を評価したことになる。
結果として3種類の酵母変異体に関して、グルタチオンストレス負荷環境でも良好な増殖性が観察された。これら酵母変異体から抽出した3種類のプラスミドについて、二種類プライマー(配列番号17と18)を用いてpRS426に挿入されているサッカロマイセス・セレビシエ染色体由来DNA塩基配列の一部を解読した。
配列番号17
5’-taatacgactcactataggg-3’
配列番号18
5’-aattaaccctcactaaagg-3’
解読配列情報をSGD(Saccharomyces Genome Database)に照会したところ、染色体番号XIII(Chr III)、染色体番号V(Chr V)、染色体番号XV(Chr XV)、の染色体断片が挿入されていることが判明した。各染色体断片上に配座された遺伝子を以下に示す。

・染色体番号XIII(Chr III) : SIP5,RIM11,CIN4,
PSO2,GAT2
・染色体番号V(Chr V) : BMH1,PDA1,DMC1,ISC10
・染色体番号XV(Chr XV) : HIR2,CKB2,GLO4,CUE5,WHI2
これら遺伝子について、サッカロマイセス・セレビシエBY4741ゲノムを鋳型とし、pRS426ベクター上に単独でクローニングした。
上記DNA塩基配列を解析する手順と同様にしてpRS426ベクターに目的の遺伝子が単独で搭載されていることを確認した後、HGT1強化株に導入してグルタチオンストレス耐性の有無を評価することで、本スクリーニングで得られた計3種類の染色体断片それぞれについて、多コピーでグルタチオンストレスを抑圧する遺伝子、以下3種類を同定した(図3)。

・染色体番号XIII : RIM11
・染色体番号V : BMH1
・染色体番号XV : WHI2
図3は、ネガティブコントロール(pRS426、ライブラリーのベクター)と、グルタチオンストレス耐性を示す3種類の変異体について、グルタチオンストレス感受性を比較したものである。
スポットの菌体濁度は左からOD600=2.5,0.25,0.025,0.0025,0.00025であり、各10 μlずつスポットし、30℃で3日間保持した。
[実施例2]
<RIM11強発現株の作製>
サッカロマイセス・セレビシエBY4741(Mata his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)のゲノムDNAを鋳型にして、RIM11遺伝子(配列番号2)の、開始コドンから777塩基の領域を、二種類のプライマー(配列番号19と20)を用いてPCRで増幅させた。一方でTDH3prを二種類のプライマー(配列番号21と22)でPCR増幅させた。なお配列番号19と22のプライマーは互いに相補な15塩基配列を含むように合成した。
HIS3遺伝子を搭載した酵母−大腸菌シャトルベクターpRS303をSac IとBam HIで消化し、RIM11とTDH3pr、それぞれのPCR増幅産物と混合し、TaKaRa/Clontech製InFusion Cloning Kitを用いてツーピースライゲーションを行った。ライゲーション溶液で大腸菌を形質転換しアンピシリン耐性コロニーからプラスミド、TDH3pr−RIM11−pRS303を調製した。
配列番号19
5’-acataaacaaacaaaatgaatattcaaagcaataattctc-3’
配列番号20
5’-gcagcccgggggatcctggagtacctaagattttaatg-3’
配列番号21
5’-tatagggcgaattggagctccagttcgagtttatcattatc-3’
配列番号22
5’-tttgtttgtttatgtgtgtttattc-3’
次に同ゲノムDNAをテンプレートとし、RIM11遺伝子のプロモーター領域(開始コドンの上流−961塩基から−48塩基まで、RIM11prと表記)を二種類のプライマー(配列番号23と24)を用いてPCRで増幅させた。TDH3pr−RIM11−pRS303をSal IとEco RIで切断し、上記と同じキットを用いてPCR増幅産物と連結し、RIM11pr−TDH3pr−RIM11−pRS303を得た(図4)。
配列番号23
5’-ggccgaattcactaagtattatcaggaaac-3’
配列番号24
5’-ccaagtcgactaatgctatgtcaagatctt-3’
<GSH1強発現株の作製>
サッカロマイセス・セレビシエBY4741(Mata his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)のゲノムDNAを鋳型にして、グルタチオン合成酵素−I遺伝子(GSH1)(アミノ酸配列:配列番号7、塩基配列:配列番号8)の翻訳領域開始コドンから1,118塩基までの領域を、二種類のプライマー(配列番号25と26)を用いてPCRで増幅させた。一方でTDH3prを二種類のプライマー(配列番号27と28)でPCR増幅させた。なお配列番号25と28のプライマーは互いに相補な15塩基配列(下線)が重複するように合成した。
LEU2遺伝子を搭載した酵母−大腸菌シャトルベクターpRS305をSac IとBam HIで消化し、GSH1とTDH3pr、それぞれのPCR増幅産物と混合し、TaKaRa/Clontech製InFusion Cloning Kitを用いて2ピースライゲーションを行った。ライゲーション溶液で大腸菌を形質転換しアンピシリン耐性コロニーからプラスミド、TDH3pr−GSH1−pRS305を調製した。
配列番号25
5’-acataaacaaacaaaatgggactcttagctttggg-3’
配列番号26
5’-gcagcccgggggatccttcgacccacccaagaaaag-3’
配列番号27
5’-tatagggcgaattggagctccagttcgagtttatcattatc-3’
配列番号28
5’-tttgtttgtttatgtgtgtttattc-3’
次に同ゲノムDNAをテンプレートとし、GSH1遺伝子のプロモーター領域(開始コドンの上流−1,000塩基から−441塩基まで、GSH1prと表記)を二種類のプライマー(配列番号29と30)を用いてPCRで増幅させた。
TDH3pr−GSH1−pRS305をSma IとXho Iで切断し、上記と同じキットを用いてPCR増幅産物と連結し、GSH1pr−TDH3pr−GSH1−pRS305を得た(図5)。PCR増幅配列についてはDNA塩基配列を解析することで例えば塩基置換や欠失、挿入等のエラーがないことを確認した。
配列番号29
5’-aaggatcccccgggctgcaggctcatcacggaactgtaac-3’
配列番号30
5’-cgggccccccctcgagctccaactaccaaggttgt-3’
酢酸リチウム法を用いることにより、当該プラスミドでNco IとHind IIIで消化したGSH1過剰発現カセットで、サッカロマイセス・セレビシエBY4741(Mata his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)を形質転換し、ロイシンを含まない選択培地SD−leuにスプレッドした。LEU2を選択マーカーとして、コロニー形成した株を選抜することで、GSH1強発現株(BY GSH1と表記する)を作製した。
前記のプラスミド、RIM11pr−TDH3pr−RIM11−pRS303(図4)を利用して、RIM11強発現DNA断片を、サッカロマイセス・セレビシエBY4741(Mata his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)あるいは前記のBY GSH1に染色体相同組換えで導入した。
前者についてはヒスチジンを含まない選択培地SD−hisにスプレッドした。HIS3を選択マーカーとして、コロニー形成した株を選抜することで、RIM11強発現株(BY RIM11と表記)を作製した。
後者についてはロイシンとヒスチジンを含まない選択培地SD−leu−hisにスプレッドした。LEU2とHIS3を選択マーカーとして、コロニー形成した株を選抜することで、GSH1強発現かつRIM11強発現株(BY GSH1 RIM11)を作製した。
<グルタチオンストレス耐性酵母(RIM11強化株)のRNAシーケンス分析>
[実施例3]
(1)グルタチオンストレス耐性酵母、BY HGT1 RIM11の作出
実施例2記載のプラスミド、RIM11pr−TDH3pr−RIM11−pRS303(図4)を利用して、RIM11強発現DNA断片を、実施例1(2)記載のBY HGT1に染色体相同組換えで導入し、グルタチオンストレス耐性酵母、BY HGT1 RIM11、を作製した。
(2)全RNAの調製
BY HGT1 RIM11株からホットフェノール法により全RNAを抽出した。以下に手順を示す。
10 mlのSDカザミノ酸培地(組成は実施例4に記載)に、OD600=0.25となるようにBY HGT1 RIM11前培養液を添加した。同じものを2本準備した。30℃でOD600=1まで振とう培養し、片方の培養液に還元型グルタチオン(GSH)を終濃度500 μMとなるように無菌的に添加し引き続き30℃で振とうさせた。
GSH添加から2時間後、遠心分離で上清を除き酵母細胞を集め、即座に液体窒素に漬けて瞬間凍結した。65℃のTES Buffer(10 mM Tris−HCl(pH 7.5), 10 mM EDTA, 0.5% SDS)を500 μl加え、即座に、65℃の水飽和酸性フェノール(分子生物学用、和光純薬工業(製))、500 μlも添加しボルテックスで1分間はげしく混合させ、−20℃で保存した。
該−20℃保存サンプル(計2本)を65℃で30分間インキュベーションした。遠心分離して200 μlの上清を回収し、750 μlのトリゾールLS(インビトロジェン社製)を添加して混合し室温で5分間静置した。200 μlのクロロホルムを加え混合し、遠心分離操作により300 μlの上清を回収した後、500 μlのイソプロパノールを加えて混合した。
このうち沈殿含めた700 μlをRNeasy Mini Kit(QIAGEN)に供し、キット付属の標準手順書に則して精製し、RNaseフリー水で溶解して全RNA水溶液を得た。
(3)ライブラリー調製
市販のキット、TruSeq RNA Sample Prep Kit v2(イルミナ社製)、を用いてライブラリーを作製した。
(4)シーケンス解読
Illumina HiSeq 4000(イルミナ社製)を用い、上記cDNA断片の両端から100塩基ずつを解読した(ペアエンド法)。
TopHat(Bowtie aligner)を用いてサッカロマイセス・セレビシエのリファレンス、GCF_000146054.2、にマッピングした。
培養液にGSHを添加して2時間後に全RNAを抽出したサンプルを「GSH_posi_2hr」と表記し、左記と同時にサンプリングしたGSHを添加してない全RNA抽出サンプルを「GSH_nega_2hr」と表記する。
表1にRNAシーケンスにおけるトータルリード数とマッピングされたリード数、ならびにその割合、を示した。
(5)データ解析
Cufflinksソフトウェアを用いて、「GSH_posi_2hr」と「GSH_nega_2hr」という二つの群間についてDEG(Differentially expressed genes)解析した。KEGG pathwayデータベース(http://www.genome.jp/kegg/pathway.html)より、統計的に有意な生物学的プロセスとしてMAPK経路や減数分裂、が抽出された。
<RIM11遺伝子発現強化株のグルタチオン生産>
[実施例4]
前記BY RIM11およびBY GSH1 RIM11株をSDカザミノ酸培地(1.7 g/L Yeast nitrogen base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate、2 g/L Vitamin Assay Casamino Acids(以上Difco laboratories社製)、5 g/L Ammonium Sulfate、20 g/L グルコース(以上和光純薬工業(株)製)、Adenine Sulfate 20 mg/L、Uracil 20 mg/L(以上Sigma Aldrich社製)、Tryptophan 20 mg/L(和光純薬工業(株)製))、10 mlで30℃、一晩振盪することにより種母培養を行った。
次に、上記と同じ組成の新しいSDカザミノ酸培地、10 mlを含むL字試験管にOD600=0.25となるように種母培養液を植菌し、30℃で撹拌60 rpmの条件で7時間培養を行い(このときの培養段階は対数増殖期)、培養液の一部をOD・Units=5[cm・ml]となるように遠心分離操作で回収した。残りは同じ条件で培養を継続し、種母培養液添加から18時間後(このときの培養段階は定常期)に培養液をOD・Units=5[cm・ml]となるように遠心分離機で回収した。
[比較例1]
比較対象として、BY4741とBY GSH1も上記[実施例4]と同様の手順で培養し菌体を回収した。
[実施例5]
<BY RIM11およびBY GSH1 RIM11のグルタチオン抽出液の調製>
菌体を0.1%の5−スルホサリチル酸水溶液(5−SSA)で二回洗浄し、80 μlの1% 5−SSAを加え懸濁した。95℃で5分間熱処理して菌体内のグルタチオンを抽出し、冷却後、遠心分離して回収した上清を−20℃で保存した。当該抽出液を融解後、水で10倍希釈して0.1% 5−SSA グルタチオン抽出液を調製した。該抽出液の総グルタチオン濃度はグルタチオンレダクターゼ−DTNB法(GR−DTNB法)で分析した。
[比較例2]
<BY4741およびBY GSH1のグルタチオン抽出液の調製>
比較対象として、BY4741とBY GSH1、それぞれのグルタチオン抽出液を上記実施例5と同様の手順に従い調製した。
[実施例6]
<BY RIM11およびBY GSH1 RIM11抽出液の総グルタチオン分析>
実施例5で得たグルタチオン抽出液のうち、10 μlを分取して70 μlの5−SSA水溶液で希釈した。ここに以下組成の反応液を120 μl添加してマイクロプレートリーダーを用いて5分毎に3回、ODが420 nmの吸光度の変化を測定した。なお各サンプル三連で実施し、測定値はその平均値とした。
一方で、還元型グルタチオンの0.1%5−SSA水溶液を準備し、0.1%5−SSA水溶液で適宜希釈して段階的に濃度が異なるグルタチオン標準溶液を調製した。これらも三連で5分毎に3回、上述分析用サンプルと同時にOD420の吸光度を測定し、該数値差とグルタチオン濃度から検量線を描画した。
各分析サンプルの吸光度差の大きさと上記検量線、希釈倍率と抽出液量80 μlを乗することにより、OD・Units=5.0[cm・ml]におけるBY RIM11およびBY GSH1 RIM11抽出液中の総グルタチオン含量を算出した。
[比較例3]
<BY4741およびBY GSH1抽出液の総グルタチオン分析>
比較対照として、BY4741とBY GSH1、それぞれの総グルタチオン含量を上記実施例6と同様の手順で算出した。以上の結果を図6に示す。
GR−DTNB法の反応液の組成:
(1)リン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)の調製
a) 0.1 M Potassium Dihydrogen Phosphate
b) 0.1 M Dipotassium Hydrogen Phosphate
a)とb)を混合してpH 7.5に調整した。
c)0.005 M EDTA・2Na・2HO (同仁化学研究所製)
(2)反応液の調製
前記リン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)12 mlに対し2 mgのβ−NADPH(オリエンタル酵母工業製)と8 mgのDTNB(同仁化学研究所製)を添加して溶解後、グルタチオンレダクターゼ(オリエンタル酵母工業製)を1.2 μl添加した。反応液は分析前に用時調製した。
[実施例7]
<RIM11強化株、他の増殖性>
実施例4および比較例1で使用した3種類の変異体と、BY4741について、
種母培養液をOD600=0.1となるように新しいSDカザミノ酸培地に植菌し、30℃、70 rpm−1で振盪培養した。結果を図7に示す。
図7より、BY GSH1はBY4741(野生型)よりも増殖の立ち上がりが遅く、定常期の菌体数(バイオマス)も小さかった。一方でBY GSH1 RIM11はBY GSH1と比べて増殖速度と菌体数の点で、共に改善が見られた。
以上実施例6の図6と、実施例7の図7の結果より、グルタチオンストレス耐性を付与させることで、酵母のグルタチオン生産性を向上させることが出来ることを確認した。
[実施例8]
RIM11遺伝子、IME1遺伝子、ならびにUME6遺伝子破壊株(OpenBiosystems社製)、それぞれを実施例1記載のグルタチオントランスポーターHGT1強発現用カセットで形質転換した。LEU2を選択マーカーとして、SD−leuに塗布しコロニー形成させることで選抜した。このようにしてΔrim11 HGT1、Δime1 HGT1、ならびにΔume6 HGT1を得た。
図8より、Δume6 HGT1はグルタチオンストレス高感受性に陥ったことから、Ume6が酵母にグルタチオンストレス耐性の付与に関与することが新規に判明した。
[実施例9]
図9記載の各変異体をSDカザミノ酸液体培地中に菌体濁度OD600=0.1となるように植菌し、30℃、70 rpm−1で振とう培養した。
図9より、グルタチオンストレス誘導条件(with GSH)でΔrim11 HGT1とΔume6 HGT1の増殖性が著しく低下した。上記[実施例8]の結果も併せて、Rim11とUme6がグルタチオンストレス耐性の発現に機能することが確認された。
[実施例10]
上記実施例8で、対象とする酵母菌株をSIN3遺伝子破壊株(OpenBiosystems社製)にしたこと以外は、実施例8記載の方法に順ずる。このようにして
Δsin3 HGT1を得た。配列番号31と32に記載の二種類のプライマーを用い、pRS306(URA3)を鋳型にしてURA3遺伝子をPCR増幅した。該増幅産物でΔsin3 HGT1を形質転換し、SD−Ura寒天培地に塗布した。RPD3遺伝子の翻訳領域がPCR増幅産物で組換えられ、遺伝子機能が破壊されたΔrpd3Δsin3 HGT1を、URA3遺伝子を選択マーカーとして選抜した。
図10のスポットアッセイは、実施例8に記載の方法と同様に行った。
図10より、Δsin3 HGT1のグルタチオン感受性はBY HGT1よりも大きく、Δrpd3Δsin3 HGT1では、より高感受性だった。
以上、実施例8〜10の結果より、エピジェネティクス機構で互いに協調して機能するUme6、RPD3、SIN3が、酵母にグルタチオンストレス耐性を付与する際に重要であることが明らかになった。
配列番号31
5’-caattgcgccatacaaaacattcgtggctacaactcgatatccgtgcagcttaactatgcggcatcagag-3’
配列番号32
5’-atgtaaataacacatataggcaattttcttcgaaacgtatgggacgcggtcctgatgcggtattttctcc-3’

Claims (6)

  1. 下記(a)、(b)または(c)の生物学的プロセスに属する遺伝子で親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
    (a)Mitogen activated−protein kinase(MAPK)経路
    (b)減数分裂
    (c)エピジェネティクス機構
  2. 請求項1の生物学的プロセスに属する遺伝子が、下記(A)〜(C)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAで親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
    (A)配列番号1のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
    (B)配列番号2のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
    (C)配列番号3のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
  3. 請求項2記載の酵母であって、かつ配列番号7のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするDNAで親株を形質転換して得られる酵母である、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
  4. (a)MAPK経路の下流で機能する生物学的プロセスであって、細胞分裂段階を外部の生育環境変化に応答して適宜、体細胞分裂または減数分裂、あるいは分裂の一時停止期(G1停止, G2停止)に移行させる下記(I)の機構に属する遺伝子で親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
    (I)エピジェネティクス機構
  5. 請求項4の生物学的プロセスに属する遺伝子が、下記(D)〜(F)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAで親株を形質転換して得られる、親株と比べてグルタチオンストレス耐性の向上した酵母。
    (D)配列番号33のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
    (E)配列番号34のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
    (F)配列番号35のアミノ酸配列と65%以上の相同性を有するアミノ酸配列
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の酵母を培養する工程を含む、グルタチオンの製造方法。
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C21 Notice of transfer of a case for reconsideration by examiners before appeal proceedings

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A912 Re-examination (zenchi) completed and case transferred to appeal board

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C211 Notice of termination of reconsideration by examiners before appeal proceedings

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