ところで、水圧アクチュエータを備えた水圧駆動システムには、作動水を加圧して水圧アクチュエータに供給する水圧ポンプが設けられる。そして、このような水圧駆動システムでは、一般に高圧の作動水を必要とするので、水圧ポンプとしては、ギヤポンプ等の回転式の容積ポンプ、あるいはプランジャポンプ等の往復式の容積ポンプが広く用いられている。
しかしながら、回転式の容積ポンプであるギヤポンプでは、ギヤがポンプケースの内面と摺接して高速回転する一方、作動水の潤滑性が低いので、ギヤあるいはポンプケースが摩耗するといった問題がある。一方、往復式の容積ポンプであるプランジャポンプ(例えば、特許文献1参照)では、駆動源であるモータ等の回転運動を複数のプランジャ(ピストン)の往復運動に変換させる動力変換機構を必要とするので、その構造が複雑なものとなり、製作コストが高くつくといった問題がある。なお、特許文献2〜5に係る水圧駆動システムでは、水圧ポンプの具体的な構造は特定されていない。
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、構成部品の摩耗を防止又は低減することができ、かつ簡素な構造を有する、水圧アクチュエータを備えた水圧駆動システムのための水圧ポンプを提供することを解決すべき課題とする。
上記課題を解決するためになされた本発明の第1の態様に係る、加圧された作動水によって駆動される水圧アクチュエータに作動水を供給するロータリ式水圧ポンプは、円柱形の中空部(以下「シリンダ中空部」という。)を有する筒状部材(シリンダ)と、回転シャフトと、円柱形の偏心ロータと、円筒形の遊動リングと、摩擦低減手段と、第1及び第2のベーンと、第1〜第4の作動水給排ポートと、第1及び第2の端壁とを備えている。
このロータリ式水圧ポンプにおいて、回転シャフトは、その一部がシリンダ中空部に配置され、筒状部材の中心軸と同一の中心軸を有している(同軸状である)。偏心ロータは、シリンダ中空部に配置され、回転シャフトの中心軸と平行な中心軸を有するようにして、回転シャフトに対して偏心して該回転シャフトに取り付けられ又は一体形成されている。遊動リングは、シリンダ中空部に配置され、偏心ロータに外嵌されている。摩擦低減手段は、偏心ロータと遊動リングの間における円周方向の相対移動に対する摩擦抵抗を低減する(ほぼなくす)。
第1のベーンは、筒状部材の周壁に形成された第1の切欠部に、外向き及び内向きに移動自在(移動可能)に嵌入され、第1の付勢部材によって内向きに付勢されて遊動リングの外周面に当接している。第2のベーンは、筒状部材の円周方向に関して第1の切欠部と中心角で180°離隔した位置において筒状部材の周壁に形成された第2の切欠部に、外向き及び内向きに移動自在(移動可能)に嵌入され、第2の付勢部材によって内向きに付勢されて遊動リングの外周面に当接している。
第1及び第2の作動水給排ポートは、筒状部材の円周方向に関して、第1のベーンの近傍において該第1のベーンを挟むように配設されている。第3及び第4の作動水給排ポートは、筒状部材の円周方向に関して、第2のベーンの近傍において該第2のベーンを挟むように配設されている。第1の端壁は、筒状部材の中心軸の伸びる方向に関してシリンダ中空部の一方の端部を閉止し、第2の端壁は、シリンダ中空部の他方の端部を閉止している。回転シャフトは、第1及び第2の端壁の少なくとも一方を貫通してシリンダ中空部の外部に伸びている。
本発明の第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプは、本発明の第1の態様に係るロータリ式水圧ポンプにおいて、第2のベーンと、第3及び第4の作動水給排ポートとを取り除いたものである。
本発明の第1又は第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプにおいて、摩擦低減手段は、偏心ロータと遊動リングの間に介設された回転式ベアリング、例えばニードルベアリングであるのが好ましい。また、摩擦低減手段は、偏心ロータの外周面及び遊動リングの内周面の少なくとも一方に施された低摩擦性コーティング、例えばフッ素樹脂コーティング、セラミックコーティング、ダイアモンド・ライク・カーボンコーティング(DLC)等であってもよい。なお、本発明の第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプは、その外殻をなすケーシング(ハウジング)を備えているのが好ましい。
本発明に係る2ロータ型ロータリ式水圧ポンプは、1つのケーシング(ハウジング)内に、本発明の第1又は第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプが、各筒状部材の中心軸(すなわち、回転シャフトの中心軸)が一致するようにして2つ直列に結合されてなるものである。ここで、両ロータリ式水圧ポンプのサイズ(各構成要素の形状又は寸法)は同一であり、両ロータリ式水圧ポンプの回転シャフトは同軸状に一体形成され、両ロータリ式水圧ポンプにおける偏心ロータの回転シャフトに対する偏心量は同一である。本発明に係る2ロータ型ロータリ式水圧ポンプにおいては、一方のロータリ式水圧ポンプにおける偏心ロータの回転シャフトに対する偏心方向が、他方のロータリ式水圧ポンプにおける偏心ロータの回転シャフトに対する偏心方向と反対方向であるのが好ましい。
本発明の第1の態様に係るロータリ式水圧ポンプにおいては、筒状部材の内周面と、遊動リングの外周面と、第1及び第2のベーンと、第1及び第2の端壁とによって、基本的には筒状部材の円周方向に並ぶ3つ(偏心ロータの位相角が180°(π)の整数倍のときは2つ)の作動室が形成される。また、本発明の第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプにおいては、筒状部材の内周面と、遊動リングの外周面と、ベーンと、第1、第2の端壁とによって、基本的には筒状部材の円周方向に並ぶ2つ(偏心ロータの位相角が360°(2π)の整数倍のときは1つ)の作動室が形成される。
そして、本発明の第1又は第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプにおいては、遊動リングの外周面の、偏心ロータ最大回転径部に対応する部位である筒状部材当接部は、筒状部材の内周面と常に当接している。ここで、偏心ロータが回転すると、筒状部材当接部は偏心ロータの回転に伴って同一回転速度で筒状部材円周方向に移動する。これにより各作動室は、その行程前半で作動水を吸入し、行程後半で作動水を吐出して、ポンプ機能を発揮する。
その際、摩擦低減手段の作用により、偏心ロータ外周面と遊動リング内周面との間には円周方向の相対移動に対する摩擦抵抗がほとんど生じないので、遊動リングは偏心ロータとともに回転する(連れまわりする)ことはなく、遊動する。すなわち、遊動リングと筒状部材の係合の態様に応じて、遊動リングは、ほとんど回転することなく上下左右に小刻みに変位し、あるいは筒状部材内周面を転動(回転走行)する。なお、遊動リングが筒状部材内周面を転動する場合、遊動リングは非常に低い回転速度(例えば、偏心ロータ回転数の数十分の一)で、偏心ロータの回転方向と反対方向に回転(自転)する。
そして、遊動リングが遊動(上下左右移動又は転動)するときには、遊動リング外周面と筒状部材内周面とは擦れ合わないので、遊動リング外周面又は筒状部材内周面には摩耗は生じない。また、前記のとおり偏心ロータ外周面と遊動リング内周面との間には摩擦抵抗がほとんどないので、偏心ロータ外周面又は遊動リング内周面には摩耗は生じない。よって、ロータリ式水圧ポンプには摩耗は生じない。また、本発明の第1又は第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプは、筒状部材内に回転シャフトと偏心ロータと遊動リングとを配設した上で、2つ又は1つのベーンを取り付けるだけのものであるので、その構造は非常に簡素である。すなわち、本発明の第1又は第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプは、構成部品の摩耗を防止又は低減することができ、かつ簡素な構造を有するものであり、安価に製作することができるものである。
本発明に係る2ロータ型ロータリ式水圧ポンプによれば、基本的には本発明の第1又は第2の態様に係るロータリ式水圧ポンプと同様の効果を奏することができる。さらに、コンパクトな構成で吐出量を大きくすることができる。なお、一方のロータリ式水圧ポンプにおける偏心ロータの回転シャフトに対する偏心方向を、他方のロータリ式水圧ポンプにおける偏心ロータの回転シャフトに対する偏心方向と反対方向に設定した場合は、作動水の吐出量を平滑化することができ、作動水の脈動を低減することができる。
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明のいくつかの実施形態を具体的に説明する。
(実施形態1)
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態1に係る2ロータ型ロータリ式水圧ポンプRA(以下、略して「水圧ポンプRA」という。)は、1つの略円筒形のケーシング1内に、基本的には同一仕様の第1ロータリ式水圧ポンプP1(以下、略して「第1ポンプP1」という。)と第2ロータリ式水圧ポンプP2(以下、略して「第2ポンプP2」という。)とが配設されてなるものである。ここで、第1ポンプP1と第2ポンプP2は、共通ないしは同一の回転シャフト2を有し、同軸状で直列に結合ないしは連結されている。
第1ポンプP1は、円柱形の中空部(以下「シリンダ中空部」という。)を有する筒状部材3(シリンダ)と、円柱形の偏心ロータ4と、円筒形の遊動リング5と、摩擦低減手段であるニードルベアリング6と、第1、第2ベーン7、8と、第1〜第4作動水給排ポート9〜12(図7参照)とを備えている。なお、筒状部材中心軸方向に関して、シリンダ中空部の一方の端部(図1中における位置関係では左側の端部)は、ケーシング1の円環状の突起部1a(端壁)によって閉止されている。また、他方の端部(図1中における位置関係では右側の端部)は、円環状のスペーサ13(端壁)によって閉止されている。
第1ポンプP1において、回転シャフト2は、ケーシング1の一部をなすカバー1b(端板)を貫通してケーシング外部に伸び、モータ(図示せず)によって回転駆動されるようになっている。回転シャフト2とカバー1bとの間には、回転シャフト2を回転自在に支持するボールベアリング14と、回転シャフト2とカバー1bとの間隙を封止するシール部材15とが設けられている。
偏心ロータ4は、シリンダ中空部に配置され、回転シャフト中心軸と平行な中心軸を有するようにして、回転シャフト2に対して径方向に偏心して該回転シャフト2に取り付けられ又は一体形成されている。遊動リング5は、シリンダ中空部に配置され、偏心ロータ4に外嵌されている。
図5に示すように、ニードルベアリング6は、偏心ロータ4と遊動リング5の間における円周方向の相対移動に対する摩擦抵抗を低減する。すなわち、偏心ロータ4と遊動リング5の間の摩擦(動摩擦)は「ころがり摩擦」であるので、偏心ロータ4と遊動リング5の間には、これらの円周方向の相対移動に対する摩擦抵抗はほとんど生じない。なお、ニードルベアリング以外のベアリング、例えばボールベアリング等を用いてもよい。
ここで、偏心ロータ4と遊動リング5の間における円周方向の相対移動に対する摩擦抵抗を低減する摩擦低減手段として、ニードルベアリング6に代えて、偏心ロータ外周面及び/又は遊動リング内周面に施された低摩擦性コーティングを設けてもよい。この場合、低摩擦性コーティングは、偏心ロータ4と遊動リング5の間の動摩擦係数を0.1以下(例えば、0.01〜0.1)、好ましくは0.05以下(例えば、0.01〜0.05)に低減するものであるのが好ましい。このような低摩擦性コーティングとしては、例えばフッ素樹脂コーティング、セラミックコーティング、ダイアモンド・ライク・カーボンコーティング(DLC)などを用いることができる。
例えば、フッ素樹脂コーティング同士の動摩擦係数は、フッ素樹脂がPTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PFA(ペリフルオロアルコキシフッ素樹脂)又はFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)である場合は、0.02〜0.10程度である。また、セラミックコーティング同士、あるいはダイアモンド・ライク・カーボンコーティングの動摩擦係数は、PTFE等のフッ素樹脂の場合よりはやや大きいものの、第1ポンプP1の摩擦低減手段として用いることが可能な範囲である。なお、非常に摩擦抵抗が小さい組み合わせである氷と金属部材の間の動摩擦係数は0.01〜0.02程度である。
第1ベーン7は、ケーシング1の周壁に形成された切欠部1dと、筒状部材3の周壁に形成された切欠部3aとに、外向き及び内向きに移動自在に嵌入され、第1ばね17によって内向きに付勢され、その先端部は常に遊動リング5の外周面に当接している。また、第2ベーン8は、筒状部材3の円周方向に関して前記の両切欠部1d、3aと中心角で180°離隔した位置において、ケーシング1の周壁に形成された切欠部1eと、筒状部材3の周壁に形成された切欠部3bに、外向き及び内向きに移動自在(移動可能)に嵌入され、第2ばね18によって内向きに付勢され、その先端部は遊動リング5の外周面に常に当接している。
図6に示すように、第1作動水給排ポート9と第2作動水給排ポート10は、筒状部材円周方向に関して、第1ベーン7の近傍(近接位置)において該第1ベーン7を挟む位置に配設されている。また、図6中には示していないが、第3作動水給排ポート11と第4作動水給排ポート12は、筒状部材円周方向に関して、第2ベーン8の近傍(近接位置)において該第2ベーン8を挟む位置に配設されている(図7参照)。なお、この実施形態1では、第1〜第4作動水給排ポート9〜12は、ケーシング1の円環状の突起部1aの側面でシリンダ中空部に開口しているが、筒状部材3の内周面でシリンダ中空部に開口していてもよい。
第2ポンプP2は、偏心ロータの回転シャフトに対する偏心方向が第1ポンプP1とは反対方向である点と、図1における位置関係において第1ポンプP1と左右対称形である点とを除けば、第1ポンプP1と同様の構成のものであり、その動作も基本的には第1ポンプP1と同様である。そこで、説明の重複を避けるため、第2ポンプP2の各構成要素には、これと対応する第1ポンプP1の構成要素と同一の参照番号を付してその説明を省略する。すなわち、第2ポンプP2は、第1ポンプP1と同様に、シリンダ中空部を有する筒状部材3と、円柱形の偏心ロータ4と、円筒形の遊動リング5と、ニードルベアリング6と、第1、第2ベーン7、8と、第1〜第4作動水給排ポート9〜12と、円環状のスペーサ13と、ボールベアリング14と、シール部材15と、第1、第2ばね17、18とを備えている。また、筒状部材中心軸方向に関して、シリンダ中空部の一方の端部(図1中における位置関係では右側の端部)はケーシング1の円環状の突起部1a(端壁)によって閉止され、他方の端部(図1中における位置関係では左側の端部)はスペーサ13(端壁)によって閉止されている。
以下、第1ポンプP1の動作、とくに回転シャフト2、偏心ロータ4及び遊動リング5の動作を具体的に説明する。なお、第2ポンプP2の動作は、基本的には第1ポンプP1と同様であるので、説明の重複を避けるため、その説明を省略する。
図7に示すように、回転シャフト2は、シリンダ空間部内において筒状部材3と同軸状に配置されている。すなわち、第1ポンプP1の横断面(筒状部材中心軸と垂直な平面で切断した断面)における位置関係(図7に示す位置関係)では、外周面半径がr2である遊動リング5は内周面半径がr3である筒状部材3の内部に位置し、回転シャフト中心Oは筒状部材3の中心と同一の位置にある。そして、その横断面の半径がr1である円柱形の偏心ロータ4は、回転シャフト2に偏心して固定され又は一体形成されている。偏心ロータ中心Dは、回転シャフト中心Oに対して、回転シャフト径方向に偏心量dだけ離れたところに位置している。
回転シャフト中心Oと偏心ロータ中心Dとを通る直線が、偏心ロータ中心Dに近い側で偏心ロータ外周面と交わる部位である偏心ロータ最大回転径部Eは、偏心ロータ外周面上において回転シャフト中心Oからの距離が最も長い部位である。なお、偏心ロータ最大回転径、すなわち回転シャフト中心Oと偏心ロータ最大回転径部Eの間の距離は(r1+d)である。そして、遊動リング5の外周面における、偏心ロータ最大回転径部Eに対応する部位である筒状部材当接部Fは、常に筒状部材3の内周面と当接する。なお、筒状部材当接部Fは、回転シャフト中心Oと偏心ロータ中心D(ないしは偏心ロータ最大回転径部E)とを通る直線が遊動リング外周面と交わる部位である。
ここで、回転シャフト2が矢印A1で示す方向(反時計回り方向)に回転すると、偏心ロータ4は、回転シャフト中心Oを回転中心として矢印A1で示す方向に同一の角速度で回転し、したがって偏心ロータ最大回転径部Eも同一方向に同一の角速度で回転する。これに伴って、筒状部材当接部Fは、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4と同一の角速度で筒状部材円周方向に移動する(各時点における筒状部材当接部Fは遊動リング外周面上の同一の部位ではなく、異なる部位である。)。なお、偏心ロータ4の位相角θ(回転シャフト中心Oのまわりの角度位置)、すなわち偏心ロータ最大回転径部Eないしは筒状部材当接部Fの位相角θは、偏心ロータ最大回転径部Eないしは筒状部材当接部Fが第1ベーン7と対向する位置にあるとき(図7に示す状態)に0°とし、矢印A1で示す方向に増加するものとする。
かくして、第1ポンプP1においては、筒状部材3の内周面と、遊動リング5の外周面と、第1、第2ベーン7、8と、突起部1a(端壁)と、スペーサ13(端壁)とによって、基本的には、筒状部材3の円周方向に並ぶ3つの作動室(ポンプ室)が形成される。ただし、偏心ロータ4の位相角が180°(π)の整数倍のときは、1つの作動室は消滅し、2つの作動室のみが存在する。なお、図7は、位相角が0°である状態、ないしは360°(2π)の整数倍である状態を示している。
図8(a)〜(e)は、それぞれ、位相角θが0°、90°、180°、270°及び360°であるときの作動室の態様を示している。図8(a)、(c)、(e)に示すように、偏心ロータ4の位相角が180°(π)の整数倍(0を含む)のときは、1つの右側作動室Rと、1つの左側作動室Lが形成される。図8(b)に示すように、偏心ロータ4の位相角θが0°より大きく180°より小さいときには、2つの右側作動室R1、R2と、1つの左側作動室Lが形成される。また、図8(d)に示すように、偏心ロータ4の位相角θが180°より大きく360°より小さいときには、1つの右側作動室Rと、2つの左側作動室L1、L2が形成される。各作動室は、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4の回転に伴って、その体積が増加する過程で作動水を吸入し、体積が減少する過程で作動水を加圧して吐出する。
偏心ロータ4と遊動リング5の間には、摩擦低減手段であるニードルベアリング6が設けられているので、偏心ロータ4が矢印A1で示す方向に回転したときに、偏心ロータ4と遊動リング5との間には、円周方向の相対移動に対する摩擦抵抗はほとんど生じない。したがって、偏心ロータ4の外周面又は遊動リング5の内周面には摩耗は生じない。また、遊動リング5が偏心ロータ4とともに回転する(連れ回りする)ことはないので、遊動リング5は、筒状部材3と遊動リング5の係合の態様に応じて、ほとんど回転することなく、図7に示す位置関係において上下左右に小刻みに変位し、あるいは筒状部材3の内周面を転動(回転走行)する。
例えば、遊動リング5にその回転を妨げる何らかの力が作用する場合、例えば遊動リング5が上下左右に多少の変位が可能な状態で筒状部材3に接続ないしは係留されている場合は、遊動リング5は一定方向に連続的に回転することはなく、上下左右に小刻みに変位する。この場合、筒状部材3の内周面と遊動リング5の外周面とは擦れ合わないので、筒状部材3の内周面又は遊動リング5の外周面に摩耗は生じない。
また、遊動リング5にその回転を妨げる力が作用しない場合は、遊動リング5は、筒状部材3の内周面を転動(回転走行)ないしは公転する。比喩的に表現すれば、車輪(遊動リング5)が凹面状の路面(筒状部材内周面)を転がって移動する状態となる。このとき、遊動リング5は、筒状部材内周面の直径と遊動リング外周面の直径の比に応じて、非常に低い回転速度(例えば、偏心ロータ回転数の数十分の一)で、A2で示す方向、すなわち偏心ロータ5の回転方向(A1方向)と反対方向に回転(自転)しつつ、筒状部材内周面を転動(回転走行)ないしは公転する。この場合も、筒状部材3の内周面と遊動リング5の外周面とは擦れ合わないので、筒状部材3の内周面又は遊動リング5の外周面に摩耗は生じない。
第1ポンプP1において、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が矢印A1で示す方向に回転すると、筒状部材当接部Fは偏心ロータ4と同一の角速度で筒状部材円周方向に移動してゆく、これにより各作動室はその行程前半で作動水を吸入し、行程後半で作動水を加圧して吐出し、ポンプ機能を発揮する。なお、各作動室は、その1行程で、位相角θが540°変化する。例えば、図8(b)中にR2で示された作動室(図8(c)〜(e)中ではRで示されている。)の1行程は、位相角θが0°のときに始まり、位相角θが540°のときに終了する。
回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が矢印A1で示す方向に回転する場合、第1作動水給排ポート9及び第3作動水給排ポート11は吸入ポートとなり、第2作動水給排ポート10及び第4作動水給排ポート12は吐出ポートとなる。ただし、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が矢印A1で示す方向と反対方向に回転する場合は、吸入ポートと吐出ポートは、前記の場合とは逆転する。つまり、第1ポンプP1は、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4の回転方向を逆転させれば、作動水の給排系統を逆転させることができる。なお、図示していなが、吸入ポートとなる作動水給排ポートないしはこれと連通する作動水通路には、作動室からの作動水の流出(逆流)を阻止する逆止弁が付設される、また、吐出ポートとなる作動水給排ポートないしはこれと連通する作動水通路には、作動室への作動水の流入(逆流)を阻止する逆止弁と作動水の圧力を調整する圧力調整弁とが付設される。
図9(a)〜(i)は、それぞれ、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が図7中の矢印A1で示す方向に回転する場合において、位相角θが0°から360°まで45°間隔で進んだ時点における、各作動室の作動水の吸入・吐出の態様を示している。図9(a)〜(i)に示すように、位相角θが0°から180°の間及び270°から360°の間では、第4作動水給排ポート12から加圧された作動水が吐出される。また、位相角θが90°から360°の間では、第2作動水給排ポート10から加圧された作動水が吐出される。したがって、第1ポンプP1においては、第2作動水給排ポート10及び/又は第4作動水給排ポート12から間断なく(切れ目なく)作動水が吐出される。なお、位相角θが0°から270°の間では、第1作動水給排ポート9から作動室に作動水が吸入され、位相角θが0°から90°及び180°から360°の間では、第3作動水給排ポート11から作動室に作動水が吸入される。
以上、本発明の実施形態1に係る水圧ポンプRAによれば、第1ポンプP1及び第2ポンプP2の構成部品(筒状部材3、偏心ロータ4、遊動リング5等)の摩耗を防止又は低減することができ、第1ポンプP1及び第2ポンプP2ないしは水圧ポンプRAの耐久性を高めることができる。かつ、第1ポンプP1及び第2ポンプP2ないしは水圧ポンプRAの構造を簡素なものとすることができ、その製作コストを低減することができる。また、水圧ポンプRAは、2ロータ型であるので、コンパクトな構成で吐出量を大きくすることができる。さらに、第1ポンプP1における偏心ロータ4の回転シャフト2に対する偏心方向を、第2ポンプP2における偏心ロータ4の回転シャフト2に対する偏心方向と反対方向に設定しているので、作動水の吐出量を平滑化することができ、作動水の脈動を低減することができる。
(実施形態2)
以下、図3、図4、図8及び図10を参照しつつ、本発明の実施形態2に係る2ロータ型ロータリ式水圧ポンプRB(以下、略して「水圧ポンプRB」という。)の構成及び動作を説明する。ただし、実施形態2に係る水圧ポンプRBの基本構成は、実施形態1に係る水圧ポンプRAと共通であり、ベーン及び作動水給排ポートの構成が異なるだけである。そこで、説明の重複を避けるため、実施形態2に係る水圧ポンプRBの各構成成要素には、これと対応する実施形態1に係る水圧ポンプRAの各構成要素と同一の参照番号を付してその説明を省略する。
図3及び図4に示すように、実施形態2に係る水圧ポンプRBでは、第1、第2ポンプP1’、P2’は、それぞれ、1つのベーンを備えているだけである。すなわち、第1、第2ポンプP1’、P2’は、実施形態1に係る水圧ポンプRAと同様に第1ベーン7、第1、第2作動水給排ポート9、10及び第1ばね17を備えているが、第2ベーン8、第3、第4作動水給排ポート11、12及び第2ばね18を備えていない。要するに、実施形態2に係る第1、第2ポンプP1’、P2’は、それぞれ、実施形態1に係る第1、第2ポンプP1、P2から、第2ベーン8と、第3、第4作動水給排ポート11、12と、第2ばね18とを取り除いたものである。
次に、水圧ポンプRBを構成する第1ポンプP1’の動作を説明する。なお、第2ポンプP2’の動作は、実施形態1の場合と同様に、基本的には第1ポンプP1’の動作と同様であるので、説明の重複を避けるため、その説明を省略する。第1ポンプP1’における回転シャフト2、偏心ロータ4、遊動リング5、ニードルベアリング6、第1ベーン7及び第1ばね17の動作は、実施形態1に係る第1ポンプP1と同様である。
図8(f)〜(j)は、それぞれ、位相角θが0°、90°、180°、270°及び360°であるときの作動室の態様を示している。図8(f)、(j)に示すように、偏心ロータ4の位相角が360°(2π)の整数倍(0を含む)のときは、単一の作動室Sが形成される。また、図8(g)〜(i)に示すように、偏心ロータ4の位相角θが360°の整数倍でないときには、筒状部材円周方向に並ぶ2つの作動室T、Hが形成される。各作動室は、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4の回転に伴って、その体積が増加する過程で作動水を吸入し、体積が減少する過程で作動水を加圧して吐出する。
第1ポンプP1’において、偏心ロータ4が、図4中の位置関係で反時計間回り方向(図7中に矢印A1で示す方向)に回転すると、各作動室はその行程前半で作動水を吸入し、行程後半で作動水を加圧して吐出し、ポンプ機能を発揮する。なお、各作動室は、その1行程で、位相角θが720°変化する。例えば、図8(g)〜(i)中にTで示された作動室(図8(j)ではSで示されている。)の1行程は、位相角θが0°のときに始まり、位相角θが720°のときに終了する。
回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が、図4中の位置関係で反時計回り方向に回転する場合、第1作動水給排ポート9は吸入ポートとなり、第2作動水給排ポート10は吐出ポートとなる。ただし、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が図4中の位置関係で時計回り方向に回転する場合は、吸入ポートと吐出ポートは、前記の場合とは逆転する。なお、図示していなが、吸入ポートとなる作動水給排ポートないしはこれと連通する作動水通路には、作動室からの作動水の流出(逆流)を阻止する逆止弁が付設される、また、吐出ポートとなる作動水給排ポートないしはこれと連通する作動水通路には、作動室への作動水の流入(逆流)を阻止する逆止弁と作動水の圧力を調整する圧力調整弁とが付設される。
図10(a)〜(i)は、それぞれ、回転シャフト2ないしは偏心ロータ4が、図4中の位置関係で反時計回り方向に回転する場合において、位相角θが0°から360°まで45°間隔で進んだ時点における、各作動室の作動水の吸入・吐出の態様を示している。図10(a)〜(i)に示すように、位相角θが360°の整数倍である時点を除けば、常に第2作動水給排ポート10から加圧された作動水が吐出される一方、第1作動水給排ポート9から作動水が吸入される。
以上、本発明の実施形態2に係る水圧ポンプRBによれば、基本的には実施形態1に係る水圧ポンプRAと同様に、第1ポンプP1’及び第2ポンプP2’の構成部品の摩耗を防止又は低減することができ、第1ポンプP1’及び第2ポンプP2’ないしは水圧ポンプRBの耐久性を高めることができる。かつ、第1ポンプP1’及び第2ポンプP2’ないしは水圧ポンプRBの構造を簡素なものとすることができ、その製作コストを低減することができる。また、コンパクトな構成で吐出量を大きくすることができ、作動水の吐出量を平滑化することができ、作動水の脈動を低減することができる。