図1及び図2は,本発明のマイクロチップの基本的な構成例を示す断面模式図である。図1は断面が円形の複数のチャンネルを含むマイクロチップの構成例を示し,図2は断面が四角形の複数のチャンネルを含むマイクロチップの構成例を示す。
これらの図は,マイクロチップの横入射軸を含み,複数のチャンネルの長軸に垂直な断面図である。すなわち,複数のチャンネルがマイクロチップの内部で各チャンネルの長軸が平行かつ同一平面上に配列している位置において,各チャンネルの長軸に垂直な断面であって,各チャンネルの配列平面に沿って,各チャンネルの長軸に垂直に照射されるレーザビームの中心軸を含む断面である。これらの図に示される構成は,本発明の基本的な考えを表している代表例に過ぎず,同様の考えに基づく他の構成についても,本発明の対象となることは言うまでもない。
図1の構成aは,マイクロチップ1が屈折率n1の部材m1で構成され,各チャンネル2の断面が同一形状の円形であり,各チャンネル2は等しいピッチで配列しており,各チャンネル2が屈折率n2の部材m2で充填されている。部材m2はマイクロチップで分析する対象物質が存在する媒質であり,部材m2が充填されているチャンネル2を用いて対象物質の分析を行う。ここで,部材m1はガラスや樹脂等の透明な固体部材であるのに対して,部材m2は水溶液等の液体やゲル状の材料であり,多くの場合はn2<n1である。このとき,導入されたレーザビーム4に対して各チャンネル2は凹レンズとして機能し,レーザビーム4は横入射軸に沿って進行するに伴って横入射軸から発散するため,複数のチャンネル2を効率良く照射することができない。逆に,n1<n2となるような低屈折率の樹脂材を選択することも可能であり,その場合には各チャンネル2は凸レンズとして機能するため,レーザビーム4は集光されながら横入射軸に沿って進行し,複数のチャンネル2を効率良く照射することができる。例えば,部材m1としてフッ素系樹脂を用いるとをn1を小さくして,n1<n2とすることができる。以降は,より一般的なn2<n1の場合について本発明の構成例を説明する。
図1の構成bは,構成aにおいて複数のチャンネルを1本置きに屈折率n3の部材m3で満たしている。ここで,n2<n1<n3とすることによって,レーザビーム4に対して,部材m2で満たされたチャンネル2は凹レンズ,部材m3で満たされたチャンネル3は凸レンズとして機能させる。部材m3は上記屈折率条件を満たし,透明で,レーザビーム4の吸収が小さい部材が好ましい。部材m3は液体でも良く,複数のチャンネルを有するマイクロチップが作製された後に容易に充填することが可能である。これにより,レーザビーム4が凹レンズによって横入射軸から発散するところを,凸レンズが集光して横入射軸に戻し,これを繰り返すことによって複数のチャンネル2を効率良く照射することができる。ここで,チャンネル2とチャンネル3の断面は同一形状の円形であり,同じ外径を持つ。
この構成bは従来法と比較して以下のような違いと利点を有する。特許文献1では,チャンネル間にレンズ等を挿入し,レンズ等の中心軸が横入射軸とマイクロメートルレベルの精度で一致させることが困難であると考えられた。本発明では,複数のチャンネルの一部をあえて犠牲にして,通常では選択されない,n2<n1<n3を満たす屈折率n3の部材m3を充填することによって一部のチャンネルをレンズに変換させている。複数のチャンネル2及びチャンネル3は同一の加工プロセスによって一括して作製されるため,各チャンネルをマイクロチップ1の内部で同一平面上に配列すること,すなわち各チャンネルの中心軸を横入射軸に合わせることが容易であり,各チャンネル間の相対位置が変動する心配もなく,横入射方式によって複数のチャンネルを同時に効率良く照射することが可能である。また,このようにして作製された凸レンズ作用を有するチャンネル3はその長軸方向に対して光学的に等価であるため,例えば異なる複数のレーザビームをチャンネル2及びチャンネル3の長軸方向に位置をずらした複数の横入射軸に対して同時に照射することも可能である。
特許文献2は,マイクロチップに設けられた複数のチャンネルではなく,複数のキャピラリの凹レンズ作用をロッドレンズの凸レンズ作用で相殺させている点では構成bと類似している面があるが,横入射方式を実現するための光学特性条件に基づく手段が異なる。キャピラリは,屈折率n3=1.46の石英ガラス製の円筒管であり,内部は,例えば,屈折率n2=1.38の電気泳動用分離媒体が充填されている。ロッドレンズは,屈折率n3=1.46の石英ガラス製である。これに対して,複数のキャピラリ及びロッドレンズが配列する平面の周囲は,屈折率n1=1.33の水である。周囲を空気ではなく,水にしている理由は,レーザビームのキャピラリ外表面における反射損失を低減し,レーザビームの利用効率を向上するためである。しかし,周囲の屈折率をさらに上げて反射損失を一層低減しようとすると,キャピラリの凹レンズ作用が増強され,ロッドレンズの凸レンズ作用ではレーザビームの横入射軸からの発散を抑えきれなくなり,複数のキャピラリを効率良く同時照射できなくなる。つまり,特許文献2では,n1<n2<n3の光学特性条件を満たすことが必然であり,この条件を満たすときに最も効果が発揮される。これに対して本発明は,チャンネル2の内部の屈折率n2よりも外部の屈折率n1の方が高い条件下で,屈折率がn2よりも,n1よりもさらに高い屈折率n3の部材m3で満たされたチャンネル3を,屈折率n2の部材m2で満たされたチャンネル2と混在させる構成であり,n2<n1<n3の光学特性条件を満たすことが必然であり,この条件を満たすときに最も効果が発揮される。この構成は特許文献2では想定されていないものであり,実際,キャピラリ及びロッドレンズを用いて構成することは困難である。
構成bでは,チャンネル2とチャンネル3の断面の外径が等しいため,チャンネル2の凹レンズ作用が大きい場合,レーザビーム4がチャンネル3の断面の外形よりも大きく発散して隣接するチャンネル3に入射しなかった部分はチャンネル3による凸レンズ作用を受けないために発散を続ける。この場合,レーザビーム4の強度は横入射軸を進行するにしたがって減衰し,複数のチャンネル2を効率的に同時照射することが困難となる。
そこで,図1の構成cでは,構成bと異なり,部材m2が充填されるチャンネル2の断面の外径r2よりも,部材m3が充填されるチャンネル3の断面の外径r3の方を大きくしている(r2<r3)。これにより,チャンネル2の凹レンズ作用によって発散したレーザビーム4が隣接するチャンネル3に入射しない部分の割合を減らすことが可能となり,構成bよりも効率的に複数のチャンネル2の同時レーザビーム照射が可能となる。
図1の構成dは,構成cにおけるチャンネル2の断面形状を円形から正四角形に変更している。このことにより,チャンネル2のレーザビーム4に対する凹レンズ作用又は屈折作用が小さくなるため,チャンネル2の凹レンズ作用又は屈折作用によって発散したレーザビーム4が隣接するチャンネル3に入射しない部分の割合を一層減らすことが可能となり,構成cよりもさらに効率的に複数のチャンネル2の同時レーザビーム照射が可能となる。構成cと同様に,チャンネル2の断面の径r2よりもチャンネル3の径r3を大きくすることによって,より効率的にレーザビームの横入射方式を実現することができる。
以上,図1に示した構成では,チャンネル2及びチャンネル3の断面形状は円形又は正四角形としているが,もちろんそれ以外の形状でも同様の効果が得られる。例えば,円形の代わりに楕円形,半円あるいは楕円の一部であっても良く,正四角形の代わりに長方形であっても良い。また,各チャンネルは等しい間隔で配列しているが,そのように各チャンネルが等間隔で配列していなくても同様の効果が得られる。さらに,構成b〜dでは,チャンネル2とチャンネル3を交互に配列しているが,必ずしもそのようにする必要はなく,少なくとも1つ以上のチャンネル2及びチャンネル3が同一のマイクロチップ上に配列していることが必要である。
図1では,チャンネル2及びチャンネル3の断面形状が円形であるものを扱っているが,そのようなチャンネルを複数有するマイクロチップを低コストかつ高精度に製造することは困難である。例えば,光造形のような加工法を用いれば,図1に示す構成を1回のプロセスで製造可能であり,チャンネルの断面形状を円形にすることもできるが,そのようなプロセスは加工時間を要するために,量産性が低く,製造コストが高くなる傾向がある。
一方で,射出成形のような量産性に優れる加工法を用いる場合は,図1の構成において,マイクロチップ1を各チャンネル2及び3の中心軸を含む平面を境界面(図1に示さず)とする上下2つの部品で構成し,これら2つの部品を上記境界面で張り合わせて一体化することで製造できる。ここで,2つの部品の境界面にはそれぞれ,断面形状が半円形の溝が複数形成されている。以上のような加工法を採用する理由は,射出成形では,型に樹脂等の部材m1を流し込んで固めた後に型を抜き取るプロセスが必要なため,形成できる溝の断面形状は,溝の底から境界面に向かうに従って幅が広がっていく必要があるためである。ここで,マイクロチップ1の2つの部品を張り合わせる際の相互の位置精度が課題となる。2つの部品の張り合わせ位置が横入射軸方向にずれると,2つの部品に形成された断面形状がそれぞれ半円の溝の相対位置がずれて接合され,結果として作製されるチャンネルの断面形状が円形ではなくなってしまうためである。もちろん,高い位置精度で相互の位置を調整すれば,断面形状を円形にすることが可能であるが,それは加工時間及び製造コストを大きくする要因となる。
図2に示す構成例では,上記の課題に対応するため,各チャンネル2及び3の断面形状を四角形としている。図2に示した構成は,マイクロチップ1を各チャンネル2及び3の上端面を含む平面を境界面5(図2に点線で示す)とする上下2つの部品で構成し,これら2つの部品を上記境界面で張り合わせて一体化することで製造できる。上下の部品の張り合わせは熱圧着等の方法により行われ,境界面5は光学的に透明となるようにされ,空気や接着剤の層が含まれないようにされている。ここで,境界面5より下側の部品の境界面5に断面が四角形の溝が複数設けられており,境界面5より上側の部品の境界面は溝が設けられていない平面である。このため,上下の部品の相互の張り合わせ位置がずれても,各チャンネル2及び3の形状や位置は影響を受けない。したがって,図2に示すマイクロチップ1は,射出成形のような量産性に優れる加工法及び位置精度を要求しない簡単な張り合わせプロセスで製造可能である。
図2の構成eでは,部材m1からなるマイクロチップ1に設けられた各チャンネル2の断面形状が同一形状の正四角形としている。各チャンネル2には部材m2が充填されている。ここで,図2において,正四角形の上面と下面は境界面5及び横入射軸と平行であり,正四角形の2つの側面はこれらと垂直である。このとき,レーザビーム4は,各チャンネル2について,これらの側面に対して常に垂直に入射するため,原理的には一切の屈折を受けず,横入射軸に沿って直進すると期待される。つまり,構成eは,レーザビーム4によって複数のチャンネル2を極めて効率良く同時に照射可能であり,各チャンネル2の内部に存在する蛍光物質を高感度に検出可能である。
しかしながら,構成eのように各チャンネル2の断面形状を正四角形とすることは,射出成形のような加工法で製造する際に困難を伴う。理由は,前述の通り,射出成形では,型に樹脂等の部材m1を流し込んで固めた後に型を抜き取るプロセスが必要なため,形成できる溝の断面形状は,溝の底から境界面に向かうに従って幅が広がっていく必要があるためである。断面形状が正四角形ということは,溝の底での幅と境界面での幅が等しい場合であり,慎重に型を抜き取らなければ型又はマイクロチップを破損する恐れがある。
そこで図2の構成fでは,部材m1からなるマイクロチップ1に設けられた各チャンネル2の断面形状を等脚台形とした。等脚台形の上底を境界面5の一部,下底をマイクロチップの境界面5より下側の部品に設けられた溝の底とし,上底の幅>下底の幅とする。このような形状であれば,射出成形等の加工法において型を抜き取るプロセスが容易となり,量産性を高くすることが可能である。等脚台形の底角の内,90度を超える部分を抜き勾配と呼ぶ。すなわち,抜き勾配をD度とするとき,等脚台形の底角は90+D度となる。抜き勾配Dは0度<D<90度であり,Dは大きいほど型を抜き取るプロセスが容易となるが,各チャンネルの断面形状としては均等であることが望ましく,Dは小さいほど良い。加工精度を考慮するとD>2度とすることが望ましい。
しかしながら,構成fのマイクロチップ1に対してレーザビーム4を横入射すると,レーザビーム4は,各チャンネル2を通過する毎に,横入射軸から境界面5とは反対側に,図2においては横入射軸から下側に,偏向する。この現象は以下のように説明できる。各チャンネル2の断面形状である等脚台形は二等辺三角形のプリズムの断面の一部と見なすことができるが,プリズムの周囲の屈折率,すなわちマイクロチップ1の部材m1の屈折率n1よりも,プリズムの屈折率,すなわち各チャンネル2に充填された部材m2の屈折率n2の方が小さいため,プリズムに入射したレーザビーム4は,二等辺三角形の底辺とは反対側に,頂角の側に,屈折するのである。
図3は,この現象を分かりやすく模式化したものである。屈折率n1の部材m1の中に,屈折率n2の部材m2からなり,断面が頂角Aの三角形プリズムが,底辺を水平に,頂角を下向きにして位置している。図3に定義されている通り,このプリズムに対して,仮想的に幅ゼロのレーザビームを水平に入射させた際の,入射面における入射角をα,屈折角をβ,出射面における入射角をγ,屈折角をδ,レーザビームがプリズムを通過する際の正味の屈折角をε2とする。α,β,γ,δはいずれも0度と90度の間の正の値を取るが,ε2は−90度<ε2<90度であり,符号は,レーザビームが図3のように底辺側に屈折する場合を正,構成fのように頂角側に屈折する場合を負とする。ε2は,図2で言えば,レーザビーム4がチャンネル2を通過する際に受ける屈折角のことである。ここで,スネルの法則,及び幾何学的関係より,以下が成り立つ。
n1*sinα=n2*sinβ (1)
n2*sinγ=n1*sinδ (2)
γ=A−β (3)
ε2=α+δ−A (4)
また,射出成形の抜き勾配をDとすると,
A=2*D (5)
が成り立ち,入射レーザビームと底辺が平行であるため,
α=D (6)
が成り立つ。以上より,
ε2=sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n2)}*n2/n1]−D (7)
と表現される。構成fでは,n2<n1であるため,屈折角はε2<0となり,上述した通り,レーザビーム4はチャンネル2を通過する際に頂角側に,横入射軸から離れる方向に屈折する。さらに複数のチャンネル2を通過する際は上記の屈折角が積算されるため,レーザビーム4は横入射軸から急速に逸脱する。したがって,構成fは,レーザビームを横入射させて複数のチャンネル2を同時照射するには不適切な構成と言える。
図2の構成gは,上記の構成fの課題を解決するため,部材m1からなるマイクロチップ1に屈折率n2の部材m2が充填された複数のチャンネル2と,屈折率n3の部材m3が充填された複数のチャンネル3を交互に配置し,図1に示した構成b,c,dと同様に,n2<n1<n3とする。このとき,レーザビーム4がチャンネル3を通過する際に受ける屈折角ε3は,上記のチャンネル2を通過する際に受ける屈折角ε2と同様の導出により,
ε3=sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n3)}*n3/n1]−D (8)
と表現される。ここで,n2<n1<n3であるため,ε2<0に対してε3>0となり,チャンネル3はチャンネル2とは逆向きにレーザビーム4を屈折させること,つまり,チャンネル2によって横入射軸から離れる方向に屈折したレーザビーム4をチャンネル3によって横入射軸に戻す方向に屈折させることが可能となる。
横入射方式を良好に機能させるためには,ε2とε3のバランスが重要であり,少なくとも,チャンネル2にチャンネル3が加わることによって正味の屈折角の絶対値を小さくさせること,つまり,
|ε2+ε3|<|ε2| (9)
の関係を満たすことが有効である。式(9)に式(7)及び式(8)を代入すると,
|sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n2)}*n2/n1]−D
+sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n3)}*n3/n1]−D|
<|sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n2)}*n2/n1]−D| (10)
となる。より理想的には,
|ε2+ε3|≒0 (11)
が有効である。同様に,式(10)に式(7)及び式(8)を代入すると,
|sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n2)}*n2/n1]−D
+sin-1[sin{2*D−sin-1(sinD*n1/n3)}*n3/n1]−D|≒0 (12)
となる。これらの関係が満たされるとき,レーザビーム4を横入射軸に沿って進行させることが可能となり,複数のチャンネル2を横入射方式により効率的に同時照射することが可能となる。
図4は,図2の構成gのマイクロチップ1を射出成形により製造するプロセスを断面模式図で示した工程図である。(a)に示す金型100に対して,(b)のように透明な樹脂を加熱溶融させた部材m1を射出注入し,冷却及び固体化させる。次に,金型100を抜き取ることによって,(c)のようにマイクロチップ1のチャンネルを有する部品101,すなわち構成gの境界面5より下側の部品101としての透明固体部材の成形品を得る。下側の部品101は,板状の透明固体部材の表面に台形の断面形状を有する複数本の溝が形成されたものである。この溝は,少なくとも一部の領域で相互に平行に配列されている。
一方,マイクロチップ1のチャンネルを有さない部品102,すなわち構成gの境界面より上側の部品102として板状の透明固体部材を別途作製し,(d)に示すように,部品101と境界面5で熱溶着等により張り合わせ,(e)に示すマイクロチップ1を得る。すなわち,この工程によって,部品101の表面に形成された複数本の溝によってマイクロチップのチャンネルが構成されることになる。この状態では,いずれのチャンネルも内部は空気で満たされている。最後に,(f)に示すように,複数のチャンネルの内の所望のチャンネルの内部に部材m3を充填し,チャンネル3を作製する。マイクロチップ1は,例えば(f)の状態でユーザに配布され,ユーザは分析を開始する前に,その他のチャンネルの内部に例えば電気泳動用の泳動媒体からなる部材m2を充填してチャンネル2を作製し,構成gの状態にする。もちろん,あらかじめ構成gの状態まで完成させてからユーザに配布しても良い。
以上では,チャンネル2及び3の断面形状が等脚台形の場合を考えたが,等脚でない台形の場合についても同様に考えることができる。台形の2つの底角を90+DL度(0度<DL<90度)及び90+DR度(0度<DR<90度)とするとき,D=(DL+DR)/2とすれば,近似的に式(1)から式(12)までの関係式をそのまま適用して構わない。
また,チャンネル2及びチャンネル3の断面形状が台形以外であっても同様の効果を得ることが可能である。例えば,等脚でない台形,平行四辺形,三角形,あるいは各辺が直線ではなく円弧状になっていたり,角が丸みを帯びていたりしても,屈折率n1のマイクロチップ1に設けられた屈折率n2のチャンネル2の持つレーザビーム4の屈折作用と屈折率n3のチャンネル3の持つレーザビーム4の屈折作用が逆向きであって,互いに相殺することによって正味の屈折作用を弱めることが本発明の特長であり,その代表的な条件がn2<n1<n3である。また,各チャンネルは等しい間隔で配列しているが,そのように各チャンネルが等間隔で配列していなくても同様の効果が得られる。さらに,構成gでは,チャンネル2とチャンネル3が交互に配置しているが,必ずしもそのように構成する必要はなく,少なくとも1つ以上のチャンネル2及びチャンネル3が同一のマイクロチップ上に配列していることが必要である。例えば,2つのチャンネル2の屈折作用と,1つのチャンネル3の屈折作用がバランス良く相殺する場合は,チャンネル2とチャンネル3の数は2:1の比率で配列すれば良い。
以下,本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
図5は,本発明によるマルチチャンネル蛍光検出装置の一例を示す概略説明図である。本例は生体試料に含まれるDNAの電気泳動分析を行うシステムを示し,(a)はマイクロチップ1の鳥瞰図,(b)はシステムを構成するマイクロチップ1に対するレーザビーム4の横入射軸を含む断面,蛍光検出光学系の断面,及びデータ解析装置を示し,(c)は2次元センサ12で得られる2次元蛍光像を示している。
図5(a)に示すように,マイクロチップ1には,部材m2が充填された各チャンネル2と部材m3が充填された各チャンネル3が交互に,互いに平行に,同一平面上に配列されている。各チャンネル2のそれぞれに入口ポート6及び出口ポート7が設けられている。入口ポート6の近傍のチャンネル2のそれぞれには,試料を導入するためのクロスインジェクション部又はTインジェクション部が設けられているが,図5では省略してある。試料中のDNAは,あらかじめ興味のある領域が増幅され,蛍光体が標識されている。試料導入後,入口ポート6を負極,出口ポート7を正極として各チャンネル2の両端に電圧を印加することによって,試料に含まれる蛍光標識DNAを入口ポート6から出口ポート7に向かって電気泳動分離する。
一方で,各チャンネル3には,それぞれに入口ポート8及び出口ポート103が設けられている。各チャンネル3に充填する部材m3が固体の場合は入口ポート8や出口ポート103を開放したままでも良いが,液体の場合には,蒸発や圧力差によってチャンネル3から部材m3が抜け出ないような工夫が必要である。ここでは,部材m3をチャンネル3に充填後,入口ポート8及び出口ポート103を封止した。図6は,図5(a)の一つのチャンネル3に沿ったマイクロチップ1の略断面図である。図6(a)に示すように最初,入口ポート8,チャンネル3,出口ポート103はいずれも空気が満たされているが,図6(b)に示すようにチャンネル3の内部を部材m3で充填した。続いて図6(c)に示すように,入口ポート8及び出口ポート103のそれぞれにシリコン製のゴム栓107を挿入し,チャンネル3の内部の部材m3が動かないようにした。ここで,ゴム栓の代わりに,接着剤や樹脂で入口ポート8及び出口ポート103を固めても同様の効果が得られる。ゴム栓107で両端を封止されたチャンネル3の内部空間は,部材m3だけで満たされて空気が混入しないことが望ましい。しかし,少量の空気の混入であれば部材m3の動きが抑制され,チャンネル3の少なくともレーザビーム照射位置が測定中に常に部材m3で満たされるように制御できる。
図5(b)に示す通り,レーザ光源111から出射したレーザビーム4を,レンズを含む照射光学系により絞り,マイクロチップ1の側面から導入し,各チャンネル2及び3が配列した部分に,配列平面及び横入射軸に沿って,かつ各チャンネル2及び3の長軸に垂直に照射し,各チャンネル2及び3に貫通させて同時照射する。各チャンネル2の中を電気泳動する蛍光標識DNAは,横入射軸を横切る際,レーザビームによる励起を受け,蛍光を発光する。各チャンネル2から発光する蛍光は蛍光検出光学系によって検出される。すなわち,共通の集光レンズ9で平行光束にされ,フィルタ及び回折格子10を透過し,結像レンズ11によって2次元センサ12のセンサ面上に結像される。フィルタは蛍光検出の際の背景光となるレーザビームの波長を遮断するために設け,回折格子は蛍光を波長分散して多色検出するために設ける。なお,チャンネル2及びチャンネル3は,円柱レンズのようにチャンネルの長軸方向の広い位置で同様のレンズ作用をするので,マイクロチップ1へのレーザビーム4の入射位置が多少ずれても,蛍光検出精度には影響がない。
図5(c)は,2次元センサ12で得られる2次元蛍光像104を示す模式図である。波長分散の方向は,各チャンネル2の長軸方向(図5(b)の断面図に垂直な方向),つまり複数のチャンネル2の配列方向と垂直であるため,各チャンネル2からの発光蛍光の波長分散像が互いに重なり合うことなく,独立に計測される。ここで,各チャンネル2からはフィルタでは除去し切れないレーザ光散乱及び蛍光の波長分散像105が得られ,各チャンネル3からはフィルタでは除去し切れないレーザ光散乱の波長分散像106が得られる。このようにして計測された蛍光の信号はデータ解析装置13によって解析され,各チャンネル2に導入された試料の分析を行う。
図7は,図5(a)とは異なるマイクロチップ1の構成例を示す概略図である。複数のチャンネル2及び3が交互に配列している点は同じであるが,配列間隔がレーザビーム照射位置近傍で狭くなっていること,各チャンネル2及び3に共通の出口ポート113が存在することが異なる。これは,試料導入側には,入口ポート6及びクロスインジェクション等による試料導入機構をチャンネル2毎に独立に構成するための空間が必要であるのに対して,レーザビーム照射位置では配列間隔を狭くした方が横入射方式に有利であるためである。ここで,共通出口ポート113は電気泳動分析においてレーザビーム照射位置よりも下流であるため,共通化しても問題はない。また,チャンネル3の全長がチャンネル2のそれよりも短いのは,チャンネル3がレーザビーム照射位置だけ存在すれば良いためである。
図5は,本発明に共通する実施の形態の一部を示している。ただし,一部の実施例では,図5に示されるチャンネル3が存在しない場合もあるが,その場合は図5からチャンネル3,入口ポート8,及び出口ポート103が削除されたものを想定すれば良い。また,チャンネル2及び3の数や断面形状は例を示しているに過ぎず,これに限定されるものではない。
本発明では,その効果を実証するために,マイクロチップに設けられた複数のチャンネルに対して横入射されたレーザビームの光線追跡シミュレーションを実施し,横入射される前のレーザビームの全強度に対する各チャンネルの内部を通過するレーザビームの強度の比率,すなわちチャンネル毎のレーザビーム照射効率を求め,どの程度のチャンネル数をどの程度の効率で横入射可能であるかを評価した。このような光線追跡シミュレーションから求められるチャンネル毎のレーザビーム照射効率は,特許文献2に示されている通り,実験で得られるチャンネル毎の蛍光強度比率と良く一致することが証明されており,極めて信頼性の高い評価方法である。本発明では,3次元光線追跡シミュレータとして,照明設計解析ソフトウェアLightToolTM(Synopsys’ Optical Solutions Group)を用いた。
図8は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成aと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。
図8(a)は,マイクロチップ1の横入射軸を含み,各チャンネル2に垂直な断面を示す図である。#1から#24の合計24本のチャンネル2が同一平面上に配列している。ここで,#1はレーザビーム4が導入される側の端にあり,レーザビーム4が最初に照射されるチャンネル2の番号を示す。以降,#2,#3,‥‥,#24はレーザビーム4の進行方向に従って各チャンネル2に順番に付けられた番号を示す。図8(b)は,図8(a)の内,#1から#4の部分の拡大図である。図8は,y軸,z軸からなるyz平面で表されているが,その原点は#1の中心軸,z軸は横入射軸と一致させてある。
図8に示したマイクロチップ1の構成は図1の構成aに従っている。マイクロチップ1を空気中に配置した。マイクロチップ1の部材m1は,ZEONORTM(ゼオノア,日本ゼオン)とした。ゼオノアは,シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂であり,透明性が高く,吸湿性が低いこと等の特長によりマイクロチップの部材に良く用いられる。ゼオノアの屈折率はn1=1.53である。チャンネル2の断面形状は直径50μmの円形とし,間隔300μmで24本のチャンネル2を同一平面上に配列した。つまり,#1の中心軸と#24の中心軸の距離は6.9mmである。各チャンネル2の内部には,3500/3500xL POP-7TM ポリマー(Life Technologies)を充填した。POP-7は8Mの尿素と電気泳動分離媒体となるポリマーを含む水溶液であり,その屈折率は8Mの尿素の影響により,n2=1.41である。
図8(c)及び(d)は,それぞれ図8(a)及び(b)において,横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションを行った結果を示す図である。レーザビーム4は,図8の左側から導入され,マイクロチップ1に左の側面に対して垂直に入射し,#1のチャンネル2を照射した。マイクロチップ1に入射する前のレーザビーム4は,波長505nm,径50μmの平行光束とし,その中心軸を横入射軸と一致させた。また,レーザビーム4は,300本の無限小幅のビーム要素で構成し,これらのビーム要素の位置は径50μmの内部で均一かつランダムに配置した。さらに,レーザビーム4は,その合計強度を1.0とし,各ビーム要素には等しくそれぞれ1/300の強度を持たせた。光線追跡シミュレーションでは,各ビーム要素毎に,マイクロチップ1への入射面,チャンネル1への入射面,チャンネル1からの出射面,等の屈折率が変化する位置でその都度,スネルの法則及びフレネルの法則を適用し,屈折光の進行方向と強度を追跡した。ただし,ビーム要素が屈折率が変化する位置で全反射する場合は,反射光の進行方向と強度を追跡した。図8(c)及び(d)は,そのようにして計算した300本のビーム要素の光路を示している。図8(e)は,そのようにして計算した300本のビーム要素の内,チャンネル毎に,その内部を透過するビーム要素を抽出し,それらのその位置での強度の合計をレーザビーム照射効率として表したものである。
図8(c)及び(d)に示されている通り,横入射されたレーザビーム4は,n2(=1.41)<n1(=1.53)によって各チャンネル2が凹レンズ作用を持つため,横入射軸から発散した。図8(e)に示すように,レーザビーム照射効率は急激に減衰し,1本か,せいぜい2本のチャンネル2だけしかレーザビーム照射できないことが分かった。したがって,図8に示す本例のマイクロチップの構成aは,多数のチャンネルを横入射方式で効率良く同時照射することに適していないことが明らかとなった。
以上の光線追跡シミュレーションは3次元モデル上で実行されたが,図8(a)〜(d)は,各チャンネル2の中心軸に垂直な平面に投影した2次元イメージである。図8(e)は,3次元で計算した結果である。
図9は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成bと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成は,図1の構成bに従っている。以下,構成bの説明をするが,特に断りがない場合は,構成aと同様の説明が成り立つと考えて良い。構成bと構成aとの違いは,図9(a)及び(b)に示されているように,24本のチャンネルの内,奇数#はチャンネル2のままであるが,偶数#はチャンネル3とし,チャンネル2とチャンネル3を交互に配列していることである。ここで,図9(a)及び(b)において,チャンネル3を見やすくするために,チャンネル3に輪郭を記した。
マイクロチップ1の部材m1及びチャンネル2に充填する部材m2は構成aと同じとした。チャンネル3に充填する部材m3は,カーギル標準屈折液Standard Group Combined Set(ショットモリテックス)の内,屈折率がn3=1.60の標準屈折液とした。この標準屈折液セットは,屈折率範囲1.400〜1.700で,屈折率0.002刻み,公差±0.0002で市販されている。チャンネル3に上記標準屈折液を充填した後は,チャンネル3の両端を封止することによって,上記標準屈折液が蒸発や圧力等によりチャンネル3から抜け出ることを防いだ。このようにすれば,あらかじめチャンネル3に標準屈折液が充填されたマイクロチップを市場に流通させることが可能となり,ユーザがチャンネル3に標準屈折液を充填する手間を省くことが可能である。このとき,n2(=1.41)<n1(=1.53)<n3(=1.60)の関係が満たされ,各チャンネル2は凹レンズ作用を示すのに対して,各チャンネル3は凸レンズ作用を示す。
図9(c)及び(d)に示されている通り,図8(c)及び(d)とは異なり,横入射されたレーザビーム4の一部を,横入射軸から発散せずに,横入射軸に沿って多数のチャンネル2及び3を透過させることができた。これは,チャンネル2の凹レンズ作用によって広がったレーザビーム4を,チャンネル3の凸レンズ作用が部分的に集光したためである。ただし,#1のチャンネル2によって発散したレーザビーム4の内,#2のチャンネル3に入射しないほどに広がったビーム要素は,チャンネル3による集光を受けられず,そのまま発散を続けた。
これらの結果,図9(e)に示す通り,レーザビーム照射効率は,#1のチャンネル1から#2のチャンネル3にかけて急激に減少するが,それ以降の#24のチャンネル3までは減衰が非常に小さくなった。レーザビーム照射効率の変化は,#1から#2までは図8(e)と同様であるが,#3から#24までが図8(e)と大きく異なった。図9(e)の#24のレーザビーム照射効率は2割強あったため,経験上,蛍光検出感度は若干落ちるが,奇数#の12本のチャンネル2を用いた同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。#1と#2以降のチャンネルではレーザビーム照射効率が大きく異なるが,この程度の差があっても異なる試料を複数のチャンネルを用いて同時に分析することは可能である。ただし,チャンネル間で蛍光強度を比較したり,蛍光強度に定量性を求めたりするような場合には,チャンネル間のレーザビーム強度が揃っていることが望ましい。そのような場合は,#1は分析に用いずに#3以降のチャンネル2を分析に用いるのが良い。
図10は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成cと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成は,図1の構成cに従っている。以下,構成cの説明をするが,特に断りがない場合は,構成bと同様の説明が成り立つと考えて良い。構成cと構成bとの違いは,図10(a)及び(b)に示されているように,奇数#のチャンネル3の断面形状を2倍の直径100μmの円形としたことである。ここで,図10(a)及び(b)において,チャンネル3を見やすくするために,チャンネル3に輪郭を記した。
各チャンネル3に充填する部材m3は,同様のカーギル標準屈折液セットの内,屈折率がn3=1.68の標準屈折液とした。チャンネル3の断面の円形の直径を大きくしたのは,図9(c)及び(d)において,#1のチャンネル2によって発散したレーザビーム4の内,#2のチャンネル3に入射しないほどに広がったビーム要素の割合を低減するためである。一方で,チャンネル3の断面の円形の直径が大きくなることは,チャンネル3の表面の曲率が小さくなること,すなわち凸レンズ作用が弱くなることを意味する。そこで,内部の屈折率を構成bの場合よりも高くすることによって,チャンネル3の凸レンズ作用が維持されるように工夫した。n2(=1.41)<n1(=1.53)<n3(=1.68)の関係が満たされ,各チャンネル2の凹レンズ作用と各チャンネル3の凸レンズ作用をバランスさせた。
図10(c)及び(d)に示されている通り,図9(c)及び(d)とは異なり,横入射されたレーザビーム4のより多くの部分を,横入射軸から発散せずに,横入射軸に沿って多数のチャンネル2及び3を透過させることができた。これは,チャンネル2の凹レンズ作用によって広がったレーザビーム4を,断面の大きなチャンネル3の凸レンズ作用がより効率的に集光したためである。これらの結果,図10(e)に示す通り,レーザビーム照射効率は,#1のチャンネル2から#2のチャンネル3にかけての減衰が図9(e)と比較して大幅に抑えられ,それ以降の#24のチャンネル3までの減衰も非常に小さく維持された。全体的に,レーザビーム照射効率は,図9(e)の場合と比較して約2倍に向上した。このことから,奇数#の12本のチャンネル2を用いた同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。
図11は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成dと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成は,図1の構成dに従っている。以下,構成dの説明をするが,特に断りがない場合は,構成cと同様の説明が成り立つと考えて良い。構成dと構成cとの違いは,図11(a)及び(b)に示されているように,奇数#のチャンネル2の断面形状を,直径50μmの円形から,等脚台形としたことである。等脚台形は,下底50μm,高さ50μm,底角92度とし,上底は約53.5μmとした。ここで,図11(a)及び(b)において,チャンネル3を見やすくするために,チャンネル3に輪郭を記した。
断面形状を四角形にした理由は,各チャンネル2の屈折作用を弱めることであるが,四角形の中でも等脚台形にしたのは,図13の構成fで後述するように,マイクロチップ1の量産性を向上するためである。各チャンネル2に充填する部材m2は構成cと同じであるが,各チャンネル3に充填する部材m3は,同様のカーギル標準屈折液セットの内,屈折率がn3=1.66の標準屈折液とした。各チャンネル3に充填する部材m3の屈折率n3を構成cよりも若干低下させたのは,上記の変更により,構成cの各チャンネル3よりも凸レンズ作用を落としてもレーザビーム4を良好に集光できると考えられたためである。n2(=1.41)<n1(=1.53)<n3(=1.66)の関係が満たされ,各チャンネル2の屈折作用と各チャンネル3の凸レンズ作用をバランスさせた。
図11(c)及び(d)に示されている通り,図10(c)及び(d)とは異なり,横入射されたレーザビーム4のすべてのビーム要素を,横入射軸から発散せずに,横入射軸に沿って多数のチャンネル2及び3を透過させることができた。これは,チャンネル2の屈折作用が弱いことに加えて,断面の大きなチャンネル3の凸レンズ作用が効率的に集光したためである。
これらの結果,図11(e)に示す通り,レーザビーム照射効率は,#1から#24のすべてのチャンネル2及び3で,8割5分以上の高いレーザビーム照射効率を得ることができた。レーザビーム4のすべてビーム要素を活用できているため,チャンネル#にともなうレーザビーム照射効率の僅かな減衰は,レーザビーム4のマイクロチップ1の部材m1と各チャンネル2の部材m2又は各チャンネル3の部材m3との境界における反射ロスで説明される。また,#1のレーザビーム照射効率が9割5分程になっている理由は,レーザビーム4がマイクロチップ1に入射する際の反射ロスである。このことから,奇数#の12本のチャンネル2を用いた高感度な同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。
[実施例2]
本実施例では,実施例1との差分を中心に説明し,特に説明がない場合は実施例1と同様の説明が成り立つと考えて良い。実施例1との基本的な差分は,各チャンネルの断面形状を円形ではなく,四角形としたことである。
図12は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成eと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成は,図2の構成eに従っている。図12(a)及び(b)に示した通り,#1から#24をすべてチャンネル2とし,断面形状を径50μmの正四角形とし,間隔300μmで24本のチャンネル2を同一平面上に配列した。実施例1と同様に,マイクロチップ1の部材m1はゼオノア(n1=1.53),各チャンネル2の内部に充填する部材m2は3500/3500xL POP-7TMポリマー(n2=1.41)とした。
図12(c)及び(d)に示した通り,横入射されたレーザビーム4は各チャンネル2によって屈折を受けることなく,横入射軸に沿って直進した。これは,各チャンネル2の断面形状が正四角形であり,上下の辺は横入射軸と平行,かつ左右の辺は横入射軸と垂直であるため,レーザビーム4の各チャンネル2への入射角と出射角が常に直角となり,レーザビーム4が屈折を受けないためである。レーザビーム4を構成する300本すべてのビーム要素がすべてのチャンネル2の照射に寄与するため,図12(e)に示すように,レーザビーム照射効率は,#1から#24のすべてのチャンネル2で,8割5分以上の高いレーザビーム照射効率を得ることができた。図12(e)の結果は,図11(e)の結果とほぼ同じであり,いずれも理想的なレーザビーム4の横入射方式を実現できている。構成eでは#1から#24のすべてがチャンネル2であるため,24本のチャンネル2を用いた高感度な同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。
図13は,マイクロチップ1の一形態である構成fと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成は,図2の構成fに従っている。以下,構成fの説明をするが,特に断りがない場合は,構成eと同様の説明が成り立つと考えて良い。
構成fと構成eとの違いは,図13(a)及び(b)に示されているように,各チャンネル2の断面形状を正四角形から等脚台形に変更したことである。この変更は,マイクロチップ1の量産性を向上するため,具体的には射出成形等の加工法によって容易に製造可能にするために行った。マイクロチップ1の部材m1及び各チャンネル2の内部に充填する部材m2は構成eと同等とした。等脚台形は,下底50μm,高さ50μm,底角92度とし,上底は約53.5μmであった。つまり,射出成形で等脚台形の溝を作製する場合の抜き勾配は2度である。このとき,レーザビーム4のチャンネル2による屈折角は式(7)によりε2=−0.31度と計算され,図13(a)及び(b)においてレーザビーム4は横入射軸より下方向に屈折を受ける。
図13(c)及び(d)に示した通り,横入射されたレーザビーム4は各チャンネル2を通過するのに伴い,徐々に横入射軸から下方向に偏向し,横入射軸から急激に逸脱した。これは,各チャンネル2による屈折作用が,レーザビーム4が通過するチャンネル2の数に応じて蓄積されるためである。#9のチャンネル2以降で,レーザビーム4はチャンネル2の配列から完全に逸脱した。図13(e)に示すように,レーザビーム照射効率は,#4のチャンネル2以降で急激に減衰し,#9のチャンネル2以降でゼロとなった。構成fによれば,横入射方式によってレーザビーム4が効率的に同時照射できるチャンネル2の数は6〜7本に過ぎないことが分かった。
図14は,マイクロチップ1の一形態である構成f’と,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成f’は,図2の構成fに従っている。以下,構成f’の説明をするが,特に断りがない場合は,構成fと同様の説明が成り立つと考えて良い。
構成f’と構成fとの違いは,各チャンネル2の断面形状のみである。構成f’の各チャンネル2の断面形状は等脚台形であり,下底50μm,高さ50μm,底角94度とし,上底は約57.0μmであった。つまり,射出成形で等脚台形の溝を作製する場合の抜き勾配は4度である。構成f’の抜き勾配を構成fのそれよりも2倍に大きくしたのは,射出成形等の加工法による量産性を一層向上させるためである。このとき,レーザビーム4のチャンネル2による屈折角は式(7)によりε2=−0.63度と計算され,図13(a)及び(b)においてレーザビーム4は横入射軸より下方向に屈折を受け,その大きさは構成fの場合の2倍ほどである。
図14(c)及び(d)に示した通り,横入射されたレーザビーム4は各チャンネル2を通過するのに伴い,図13(c)及び(d)の場合よりも大きく横入射軸から下方向に偏向し,横入射軸からより急激に逸脱した。これは,構成f’の各チャンネル2の屈折角が構成fのそれよりも大きいためである。#6のチャンネル2以降で,レーザビーム4はチャンネル2の配列から完全に逸脱した。図14(e)に示すように,レーザビーム照射効率は,#4のチャンネル2以降で急激に減衰し,#6のチャンネル2以降でゼロとなった。構成f’によれば,横入射方式によってレーザビーム4が効率的に同時照射できるチャンネル2の数は4〜5本に過ぎないことが分かった。
図15は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成gと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成は,図2の構成gに従っている。以下,構成gの説明をするが,特に断りがない場合は,構成fと同様の説明が成り立つと考えて良い。構成gと構成fとの違いは,図15(a)及び(b)に示されているように,24本のチャンネルの内,奇数#はチャンネル2のままであるが,偶数#はチャンネル3とし,チャンネル2とチャンネル3を交互に配列していることである。ここで,図15(a)及び(b)において,チャンネル3を見やすくするために,チャンネル3に輪郭を記した。
マイクロチップ1の部材m1及びチャンネル2に充填する部材m2は構成fと同じとした。チャンネル3に充填する部材m3は,カーギル標準屈折液セットの内,屈折率がn3=1.66の標準屈折液とした。チャンネル3に上記標準屈折液を充填した後は,チャンネル3の両端を封止し,上記標準屈折液が蒸発や圧力等によりチャンネル3から抜け出ることを防いだ。このとき,n2(=1.41)<n1(=1.53)<n3(=1.66)の関係が満たされ,各チャンネル2の屈折作用と,各チャンネル3の屈折作用をバランスさせた。レーザビーム4のチャンネル2による屈折角は式(7)によりε2=−0.31度と計算される一方で,レーザビーム4のチャンネル3による屈折角は式(8)によりε3=0.34度と計算される。ε2+ε3=0.03度となり,式(9)が成立する。つまり,チャンネル2とチャンネル3の一組によるレーザビーム4の正味の屈折角の大きさは,チャンネル2だけによるレーザビーム4の屈折角の大きさよりも小さくなる。
図15(c)及び(d)に示した通り,図13(c)及び(d)と大きく異なり,横入射されたレーザビーム4の大部分はチャンネル2及びチャンネル3を貫通し,それらを効率良く同時照射した。これは,構成fで明らかになっているチャンネル2による屈折作用が,構成gで追加されたチャンネル3による屈折作用に相殺されたためである。図15(e)に示すように,#1から#24のすべてのチャンネルのレーザビーム照射効率が8割以上に高く維持された。この結果は,図12(e)の構成eの理想的な結果と比較して遜色ないレベルである。したがって,構成gは,マイクロチップ1に設けられた複数のチャンネル2及び3を横入射方式によりレーザビーム4で効率良く同時照射する構成であり,奇数#の12本のチャンネル2による高感度な同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。
図16は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成g’と,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。このマイクロチップ1の構成g’は,図2の構成gに従っている。以下,構成g’の説明をするが,特に断りがない場合は,構成gと同様の説明が成り立つと考えて良い。構成g’と構成gとの違いは,各チャンネル2及びチャンネル3の断面形状のみである。
図16(a)及び(b)に示した通り,構成g’の各チャンネル2及びチャンネル3の断面形状は等脚台形であり,下底50μm,高さ50μm,底角94度とし,上底は約57.0μmであった。つまり,構成g’は,構成f’において,24本のチャンネルの内の奇数#はチャンネル2のままであるが,偶数#はチャンネル3とし,チャンネル2とチャンネル3を交互に配列した構成と表現しても良い。ここで,図16(a)及び(b)において,チャンネル3を見やすくするために,チャンネル3に輪郭を記した。このとき,レーザビーム4のチャンネル2による屈折角は式(7)によりε2=−0.63度と計算される一方,レーザビーム4のチャンネル3による屈折角は式(7)によりε3=0.68度と計算される。ε2+ε3=0.05度となり,式(9)が成立する。つまり,チャンネル2とチャンネル3の一組によるレーザビーム4の正味の屈折角の大きさは,チャンネル2だけによるレーザビーム4の屈折角の大きさよりも小さくなる。
図16(c)及び(d)に示した通り,図14(c)及び(d)と大きく異なり,横入射されたレーザビーム4の大部分はチャンネル2及びチャンネル3を貫通し,それらを効率良く同時照射した。これは,構成f’で明らかになっているチャンネル2による屈折作用が,構成g’で追加されたチャンネル3による屈折作用に相殺されたためである。図16(e)に示すように,#1から#24のすべてのチャンネルのレーザビーム照射効率が7割以上に高く維持された。この結果は,図15(e)の構成gと比較すると若干劣るが,高感度な蛍光検出に十分なレベルである。したがって,構成g’は,マイクロチップ1に設けられた複数のチャンネル2及び3を横入射方式によりレーザビーム4で効率良く同時照射する構成であり,奇数#の12本のチャンネル2による高感度な同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。
[実施例3]
図17は,本発明によるマルチチャンネル蛍光検出装置の一例を示す概略説明図である。本例は複数のレーザビームを用いて生体試料に含まれるDNAの電気泳動分析を行うシステムを示し,(a)はマイクロチップ1の鳥瞰図,(b)はシステムを構成するマイクロチップ1のレーザビーム4又はレーザビーム108の横入射軸を含む断面,蛍光検出光学系の断面,及びデータ解析装置を示し,(c)は2次元センサ12で得られる2次元蛍光像を示している。図17の図5と異なる点を中心に以下,説明する。
図17(a)に示した通り,複数のチャンネル2及び3の配列平面に沿って,各チャンネルの長軸に垂直に,レーザビーム4及びレーザビーム108を互いに平行,かつ各チャンネルの長軸方向に間隔をあけて照射した。レーザビーム4は波長505nmであるのに対して,レーザビーム108は波長635nmとした。いずれも径50μmの平行光束とした。このとき,図17(a)に示す通り,横入射軸はそれぞれのレーザビームに対して1本ずつ存在する。いずれの横入射軸においても,各チャンネルの断面形状,配列間隔,屈折率,等々の条件は同じであるため,同等の横入射方式を実現することが可能である。一般には,各部材の屈折率は波長によって異なるため,横入射方式の性能に影響を与えることがあるが,本発明で用いている各部材の屈折率の波長依存性は小さいため,その影響は小さい。
図17(b)はレーザビーム4又はレーザビーム108の横入射軸を含む断面図を示し,これらは互いに差はない。レーザビーム108はレーザ光源112から出射される。図17(c)は,得られる2次元蛍光像を示している。レーザビーム4の励起による各チャンネル2からのレーザ光散乱及び蛍光の波長分散像105,及び各チャンネル3からのレーザ光散乱の波長分散像106に加えて,レーザビーム108の励起による各チャンネル2からのレーザ光散乱及び蛍光の波長分散像109,及び各チャンネル3からのレーザ光散乱の波長分散像110が互いに独立して計測される。以上の構成によって,各チャンネル2で同時に検出可能な蛍光の種類の数を増やしたり,異なる蛍光を精度良く分離して検出することで微量な蛍光を識別することが可能となる。本実施例では,異なる試料をそれぞれ異なる蛍光体で標識し,同じチャンネルで同時に分析することでスループットを向上させた。以下の説明ではレーザビーム4についての説明を行うが,レーザビーム108についても同様の説明が成り立つ。
図18は,本発明のマイクロチップ1の一形態である構成hと,それに対して横入射されたレーザビーム4の光線追跡シミュレーションの結果を示す図である。構成hは,図16の構成g’のチャンネル3の断面形状を変更したものである。図18(a)及び(b)に示した通り,奇数#のチャンネル2の断面形状は変更しないが,偶数#のチャンネル3の断面形状を,等脚台形の底角を変えずに高さを50μmから100μmに増大させた。各チャンネル2及び各チャンネル3の上底は,構成g’の場合と同様に,同一平面上,すなわち境界面5に一致させた。一方で,各チャンネル2の下底と,各チャンネル3の下底は異なる平面上に並べた。つまり,構成hのチャンネル3の断面形状は,構成g’の断面形状と同じ上底,同じ勾配で深さを2倍にした形状である。すなわち,チャンネル3の断面形状は,下底約43.0μm,高さ100μm,底角94度とし,上底は約57.0μmであった。このような構成のマイクロチップ1は,実施例2の場合と同様に,各チャンネルの上底を境界面5とする上下2つの部品を張り合わせることによって容易に製造可能である。
マイクロチップ1の部材m1,チャンネル2に充填する部材m2,チャンネル3に充填する部材m3はいずれも構成g’と同等とした。このとき,レーザビーム4のチャンネル2及びチャンネル3による屈折角は,構成g’と変化なく,ε2=−0.63度,ε3=0.68度である。一方で,構成hのチャンネル3の深さが構成g’の場合の2倍もあるため,レーザビーム4のビーム要素の内,横入射軸から境界面5と反対側に,つまり図18(a)及び(b)の下側に偏向し,構成g’においては各チャンネル2及び3から逸脱したものを,構成hでは横入射軸の方向に屈折させることが可能となる。
図18(c)及び(d)に示した通り,図16(c)及び(d)と比較して,横入射されたレーザビーム4のより多くの部分がチャンネル2及びチャンネル3を貫通し,それらを効率良く同時照射した。これは,構成g’では各チャンネルから逸脱してしまったビーム要素が,構成hでは逸脱させずに後段のチャンネルの照射に活用できるようになったためである。この結果,図18(e)に示すように,#1から#24のすべてのチャンネルのレーザビーム照射効率が8割以上に高く維持された。したがって,構成hは,マイクロチップ1に設けられた複数のチャンネル2及び3を横入射方式によりレーザビーム4で効率良く同時照射する構成であり,奇数#の12本のチャンネル2による高感度な同時蛍光検出及び同時電気泳動分析が可能であることが分かった。
図19は,本発明によるマルチチャンネル蛍光検出装置の一例を示す概略説明図である。本例は2分割レーザビームを両側から照射するマイクロチップ電気泳動分析装置を示し,(a)はマイクロチップ1の鳥瞰図,(b)はシステムを構成するマイクロチップ1のレーザビーム4又はレーザビーム108の横入射軸を含む断面,蛍光検出光学系の断面,及びデータ解析装置を示している。
構成h’では,チャンネル間のレーザビーム照射効率を一層均一に近づけるため,図19に示した通り,レーザビーム4及びレーザビーム108をハーフミラー114を用いて2分割し,複数のミラー115を用いて,これらを各チャンネル2及び3の配列平面の両側方から対向させ,それぞれの分割ビームの中心軸をそれぞれの横入射軸と一致させて照射した。この際に得られる2次元蛍光像は図17(c)と同様である。その他の条件は構成hと同等とした。以下の説明ではレーザビーム4についての説明を行うが,レーザビーム108についても同様の説明が成り立つ。
図20は,構成h’におけるチャンネル毎のレーザビーム照射効率を示しており,構成hのそれと比較して,チャンネル間のレーザビーム照射効率を均一化できることが分かった。ここで,分割ビームの合計強度はそれぞれ0.5としている。チャンネル間のレーザビーム照射効率の標準偏差は,構成hで0.04であったのに対して,構成h’では0.01に大幅に低減することができた。このことにより,各チャンネルから発光される蛍光を高感度かつ均等に検出することができるようになり,実効的に蛍光検出ダイナミックレンジを拡大することが可能となった。
本発明では,レーザビーム4の中心軸と横入射軸を一致させて照射することが重要であるが,これを確実に実現するための手段として,各チャンネル2又は3に充填されている部材m2又はm3のレーザビーム4の照射によるラマン散乱,蛍光を指標とし,これらが最大あるいはチャンネル間で分離良く検出されるように,レーザビーム4とマイクロチップ1又は各チャンネルの配列平面の相対位置関係を微調整する方法が効果的である。また,この方法をさらに効果的にするために,各チャンネル3に充填される部材m3に蛍光性物質を混在させ,上記の指標をより明確化しつつ,各チャンネル2の試料由来の蛍光検出に影響を与えないことが可能である。
以上の実施例は,いずれもマイクロチップを用いた電気泳動分析を例としたが,もちろんマイクロチップを用いた他の分析に本発明を応用することも可能である。例えば,複数の試料のPCRを異なる複数のチャンネル内で行い,これらにレーザビームを横入射することで同時蛍光検出を行い,複数の試料に含まれる対象DNA配列を高感度に定量することができる。また,本発明を応用したマイクロチップに前処理工程を集積化してマイクロTASあるいはLab on a Chipにすることも可能である。例えば,ヒトの血液試料をマイクロチップに注入した後,マイクロチップ内で,血球分離,ゲノム抽出等が行われ,それが分割されて複数のチャンネル内に導入され,各チャンネル内で特定の疾患に関連する複数のDNA配列の存在をPCRによって高感度に定量し,これらの結果を元に特定の疾患の遺伝子診断を行うようなシステムに本発明を応用することができる。このようなアプリケーションにおいては,マイクロチップを低コストに量産でき,試料間のコンタミを防止するために使い捨てできるようになることが必要であり,本発明の効果が特に発揮される。この他,マイクロチップ上で実施される免疫分析,フローサイトメータ,単一細胞解析,マイクロリアクタ,等々,様々なアプリケーションに本発明を応用することが可能である。
本実施例では,図17及び図19に示した通り,各チャンネル2からの発光蛍光を共通の蛍光検出系で計測したが,各チャンネルの配列平面に対して垂直方向からの,各チャンネル毎に独立した蛍光検出系を構築しても良い。このような構成にすることによって,チャンネル間のクロストークをより低減することが可能となる。また,各チャンネルの配列平面に対して,蛍光検出を行う方向と反対方向のマイクロチップ1の外表面に光反射防止膜を形成しても良い。この反射防止膜は,マイクロチップ1の外表面に直接結合している必要は必ずしもなく,例えば光を吸収する部材をマイクロチップ1の外表面と接するように配置しても良い。このような構成にすることにより,各チャンネルからの発光蛍光の内,蛍光検出系とは反対側の方向に進行した成分が,マイクロチップ1の外表面あるいは外部で反射し,その反射光が蛍光検出系で検出され,これによってクロストークが生じる可能性を低減することが可能となる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。