JP2018127399A - 牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤、並びに治療方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】より有効で、かつ乳量・乳質を罹患前の状態に早期に回復させることが可能な乳房炎治療手段の提供。【解決手段】一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、ラクトフェリンを有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤と、前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、グリチルリチン又はその塩を有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤と、で構成された、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤セット。【選択図】図1B
Description
本発明は、一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、ラクトフェリンを有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤、ラクトフェリンとグリチルリチン又はその塩との治療剤セット、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法などに関連する。
酪農は、一産業として広く普及しており、牛乳や乳製品の生産のため、多くの乳牛が飼育されている。乳生産の経済効率などの観点から、乳牛は、一般的に、以下のライフサイクルで飼育されることが多い。まず、生後14〜16カ月頃に初めての人工授精が行われ、約9ヶ月の妊娠期間の後、分娩し、搾乳を開始する。出産の約2か月後に次の人工授精を行うが、搾乳は続ける。前の分娩から約10ヶ月間泌乳活動を行った後、即ち、次の分娩の2〜3か月前より、分娩まで搾乳を停止する。分娩から約10ヶ月間の泌乳活動を行う期間を泌乳期、その後の2〜3ヶ月間の搾乳を停止する期間を乾乳期という。2回目の分娩以降も、適切な時期に人工授精を行い、妊娠・分娩させながら、泌乳期と乾乳期のサイクルを維持させ、乳生産を続ける。
牛の乳房は、左右・前後の4分房4乳頭から構成される。牛の乳房炎は、その乳房のいずれか又は複数の分房内部に侵入した微生物の感染によって起こる乳腺組織や乳管系の炎症疾患である。炎症により、乳汁中の体細胞数が増加し、また、乳汁の合成機構が阻害されることにより、異常乳が分泌される。
臨床的には、食欲不振・元気喪失・体温上昇などの全身症状の有無、罹患分房の腫脹・硬結・熱感・疼痛の有無、乳汁中の体細胞数(SCC;Somatic Cell Count)、乳汁の性状や乳汁中の凝固物の有無、CMT(Califoria Mastitis Test)やPLテストなどによる乳汁の検査、乳汁の生菌数や微生物学的検査などにより、乳房炎の診断を行う。
なお、PLテストは、CMTの変法の一つで、日本国内で乳房炎の検出に広く用いられている簡易な乳汁検査法であり、乳汁にPLテスター液(PLテストの検査試薬)を添加した際の凝集の度合い及び色調により、乳房炎による乳汁中の体細胞数の増加と乳汁の乳質変化を同時に検出する方法である。PLテスターには界面活性剤とpH指示薬が含まれている。乳房炎の場合、乳汁に含有する体細胞中のDNAと両面活性剤とが反応して凝固するため、乳汁にPLテスターを添加した際の凝集の度合いをスコア化して判定することにより、乳汁中の体細胞数の増加を簡易に検出できる。同時に、乳汁とpH指示薬が反応するため、乳汁にPLテスターを添加した際の色調の度合いを判定することにより、乳汁のpH異常・乳質変化を簡易に検出できる。
乳房炎は、病態や種々の修飾要因などに基づき、臨床型乳房炎、潜在性乳房炎、乾乳期の乳房炎、未経産牛の乳房炎などに分類される。臨床型乳房炎は、全身症状及び乳房・乳汁の肉眼的所見が認められる乳房炎である。潜在性乳房炎は、全身症状及び乳房・乳汁の肉眼的所見は認められないが、体細胞数の増加や理化学的検査による乳質異常が認められ、微生物学的培養検査で病原菌が検出される乳房炎である。乾乳期の乳房炎は、乾乳直後及び分娩直前にみられる乳房炎で、泌乳期の慢性乳房炎又は潜在性乳房炎の再発によるものが多い。
上述の乳房炎のうち、臨床型乳房炎は、さらに、甚急性乳房炎、急性乳房炎、慢性乳房炎に分類される。
甚急性乳房炎は、重篤な症状を示し、病態の進展が非常に早い乳房炎で、重症例では死亡することもある。大腸菌群であるEscherichia coli(学名、以下「E.coli」とする。)やKlebsiella pneumoniae(学名、以下「K.pneumoniae」とする。)、その他では黄色ブドウ球菌(学名「Staphylococcus aureus」、以下「S.aureus」とする。)などが関与する。
急性乳房炎は、症状や経過は甚急性乳房炎よりは軽度であるが、乳房の腫脹・硬結や発熱・疼痛様症状が突然出現する乳房炎である。レンサ球菌であるStreptococcus uberis(学名、以下「Str.uberis」とする。)やStreptococcus eqinus(学名、以下「Str.eqinus」とする。)、上述の大腸菌群、黄色ブドウ球菌などが関与する。
現在、臨床現場では、いずれの乳房炎に対しても、セファゾリンなどの抗生物質の投与が、最も一般的に行われている療法である。例えば、注射剤による静脈投与(体内投与)や軟膏などの患部への直接注入(乳房投与)などによって、罹患牛に抗生物質が使用されている。しかし、乳房炎の中には、抗生物質を投与しても、充分な治療効果が得られない場合も多い。
例えば、大腸菌群の細菌は、増殖がきわめて速いことに加え、グラム陰性桿菌で、菌体の細胞壁の構成成分にLPS(リポポリサッカライド)を有しており、これが細菌の増殖時・死亡時にエンドトキシンとして罹患牛の体内で放出され、病態を憎悪させることが知られている。そのため、特に、泌乳期の大腸菌群による甚急性乳房炎は、抗生物質を投与しても、充分な治療効果が得られない場合が多く、斃死、乳量の著しい低下などに陥りやすい。また、治癒や乳量・乳質の回復が困難なため、廃用転帰を決断せざるを得ない場合も多く、酪農における経済的損失が著しい。なお、大腸菌群による甚急性乳房炎の場合は、抗生物質の使用によりエンドトキシンが発生し、エンドトキシンショックを誘発する場合があることから、抗生物質を使用すべきではないという見解もある。
また、例えば、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌などによる泌乳期の甚急性・急性乳房炎の場合も、抗生物質を投与しても、充分な治療効果が得られない場合が多く、再発若しくは慢性化もおこりやすい。そのため、乳量が大幅に低下したり、乳量・乳質が充分に回復しなかったりすることにより、廃用転帰を決断せざるを得ない場合も多く、酪農における経済的損失が多大である。
加えて、乳生産を行う際には、乳質を一定の水準に保つ必要がある。そのため、抗生物質を投与しても炎症が充分に治癒しなかった場合は、乳汁中の体細胞数が基準以上のままの状態となり、採取した乳汁を廃棄せざるを得ない。また、抗生物質を投与して治療した場合は、乳汁中の体細胞数などが基準以上のものに回復した場合であっても、食の安全の観点から、抗生物質の体内残留を考慮し、一定期間、採取した乳汁を利用せずに廃棄する必要がある。これらの廃棄乳の経済的損失も多大である。その他、耐性菌の出現を抑制する観点からも、抗生物質に依存しない乳房炎治療手段の開発が望まれている。
ラクトフェリンは、ミルク・涙・粘液・血液・唾液などの体内分泌物に自然に存在し、牛では689の、ヒトでは692のアミノ酸を含む、分子量約80kDaの鉄結合性の糖タンパク質である。
ラクトフェリンは、鉄をキレートすることによって、鉄要求性の高い微生物の鉄利用を妨げ、細菌の増殖を抑制することが知られている。また、近年、ラクトフェリンには、直接的な殺菌作用、抗ウイルス作用、免疫調整作用などがあることが明らかになってきている。ラクトフェリンによる免疫調整作用として、ヒトラクトフェリンが、細菌からエンドトキシンとして放出されるLPSに結合・中和することにより、免疫系の制御不能化を防止するとの知見がある。
ラクトフェリンを用いた牛乳房炎の治療について、非特許文献1には、ブドウ球菌性乳房炎罹患牛に対し、乾乳初期に牛ラクトフェリンを乳房内注入した場合の効果が、非特許文献2には、牛潜在性乳房炎に対してラクトフェリンの加水分解物を乳腺内に注入した場合における効果が、それぞれ記載されている。
特許文献1には、乾乳期の牛乳房にラクトフェリン及び抗生物質を組み合わせて投与する乳房炎の治療方法が、特許文献2には、外来性ラクトフェリンとオキサゾリジノン抗菌剤との組み合わせによる乳房炎を治療又は予防する方法が、それぞれ記載されている。
その他、泌乳期の健康な乳牛にラクトフェリン1gを乳房内部に直接注入した結果、ラクトフェリンが、分房内で、いくつかの局所組織に炎症をもたらしたことが報告されている(非特許文献3参照)。この知見などに基づき、乳房炎罹患牛に対し泌乳期に乳房内部に直接ラクトフェリンを投与することは、炎症を憎悪させることが想定されるため、禁忌とされている。共立製薬株式会社より販売されていた、ラクトフェリンを有効成分とする牛の乾乳期用乳房注入剤の使用説明書(非特許文献4参照)においても、制限事項として、泌乳期の牛には投与しないこととされている。なお、この制限事項は、2,000mgのラクトフェリンを罹患分房内に注入した結果、泌乳期では有意な除菌効果が認められず、また、乳汁中凝固物及び乳房の硬結が長期間持続する傾向がみられたという実証データに依っている。
その他、特許文献3には、泌乳期に投与される、グリチルリチン又はその医薬上許される塩を有効成分とする家畜の乳房に直接投与するための乳房炎治療剤が記載されている。
特開2008-74787号公報
特表2004-501973号公報
特許第3435405号公報
Kai et al, "Effects of Bovine Lactoferrin by the Intramammary Infusion in Cows with Staphylococcal Mastitis during the Early Non-Lactating Period" J.Vet.Med.Sci. 64(10) p.873-878(2002).
Kawai et al, "Effect of Infusing Lactoferrin Hydrolysate into Bovine Mammary Glands with Subclinical Mastits" Veterinary Research Communications 27 P.539-548(2003).
Kutila et al, "Disposition kinetis of lactoferrin in milk after intramammary administration" J.Vet.Parmacol.Ther Apr,25(2):129-33(2002).
動物用医薬品、ラクトフェリン含有乳房注入剤「マストラック」使用説明書(新規 2013.3)
上述のように、酪農にとって乳房炎による経済的損失は依然として多大であり、泌乳期における乳房炎の、より有効な治療手段が求められている。また、経済的損失を軽減するためには、乳房炎を治癒させるだけでなく、乳量・乳質を早期に回復させることが必要とされる。
そこで、本発明は、より有効で、かつ乳量・乳質を罹患前の状態に早期に回復させることが可能な乳房炎治療手段を提供することなどを目的とする。
上述の通り、従来、ラクトフェリンは牛の泌乳期の乳房炎には有効でないとされており、また、特に、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対しては有効でないとされていた。それに対し、本発明者は、(1)適量のラクトフェリンを複数回、罹患分房内部に直接注入した場合、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対して顕著に有効であること、具体的には、(2)一回当たり適量のラクトフェリンを投与することにより、炎症状態の極端な悪化・長期化を防止でき、(3)適量のラクトフェリンを複数回投与することにより、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎の病態を短期間で顕著に改善でき、(4)乳量・乳質も早期に回復させることができること、を新規に見出し、さらに、(5)ラクトフェリンを投与すると乳汁中の顆粒球数が増加すること、(6)それらの顆粒球が細菌を貪食するとともに、多くの場合、細胞内に細菌を含んだ状態のまま乳汁中に排出されること、(7)従って、ラクトフェリンの初回投与の際、乳汁中には凝固物や膿が大量に含有するが、これは、症状が悪化したためではなく、起因菌が顆粒球に取り込まれた状態で乳汁中に排出されているためであること、(8)そのため、適宜搾乳を行いながら、ラクトフェリンを複数回、罹患分房内部に注入することで、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎を早期に改善でき、乳量・乳質も早期に回復させることができること、その他、(9)大腸菌群由来の乳房炎の場合は、顆粒球の貪食により、エンドトキシンの罹患牛体内への放出を抑制できるため、エンドトキシンの発生による乳房炎の増悪を抑止できること、並びに(10)ラクトフェリンの複数回投与後に、グリチルリチン又はその塩を罹患分房内部に直接注入することで、より短期間で、乳質を改善・回復させることができること、を新規に見出した。
そこで、本発明では、一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、ラクトフェリンを有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤、さらには、該治療剤と、前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、グリチルリチン又はその塩を有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤と、で構成された、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤セット、などを提供する。
一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入することにより、特に、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎など、比較的重度で病態の進展の早い乳房炎であっても有効に治療することができる。
また、乳房炎を治癒させるだけでなく、乳量・乳質をほぼ罹患前の状態に早期に回復させることができる。加えて、ラクトフェリンは乳汁中などに天然に存在する物質で、抗生物質のような体内残留の懸念もない。従って、罹患後、短期間で、乳生産及び出荷を再開でき、採取した乳汁の廃棄も大幅に減量でき、酪農産業上の経済的損失を大幅に低減できる。
上述のように、本発明では、適量のラクトフェリンを複数回、罹患分房内部に直接注入することにより、炎症状態の極端な悪化・長期化を防止しつつ、顆粒球を発現誘導し、その顆粒球が起因菌を貪食し、多くの起因菌が顆粒球に取り込まれた状態のまま乳汁中に排出させる。このような作用機序に基づき、本発明に係る治療剤は、従来の抗生物質の投与では必ずしも充分な治療効果が得られていなかった、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌のいずれかを起因菌とした牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対しても、乳房炎を早期に治癒させ、乳量・乳質を罹患前の状態に早期に回復させることができる。
特に、大腸菌群を起因菌とする牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎の場合、上述の通り、例えば、抗生物質により菌体を直接的に死滅させると、それらの菌体の細胞壁の構成成分・LPSがエンドトキシンとして罹患牛の体内で放出され、病態が憎悪することが知られている。それに対し、本発明の場合、顆粒球による菌体の貪食後、菌体の多くが顆粒球に取り込まれた状態で乳汁中に排出されるため、エンドトキシンの罹患牛体内への放出を抑制でき、乳房炎の増悪を抑止できる。従って、大腸菌群由来の乳房炎の場合も、乳房炎を早期に治癒させ、乳量・乳質を罹患前の状態に早期に回復させることができる。
その他、本発明では抗生物質を使用せずに治療を行い、また、起因菌に直接作用するのではなく、主に顆粒球の貪食作用によって症状を改善させるため、耐性菌などの出現を抑制できる。そして、抗生物質の体内残留の懸念もないため、食の安全も確保できる。
さらに、ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入することにより、炎症で傷害された乳腺組織の再生が促進され、より短期間で、乳質を罹患前の状態に改善・回復させることができる。これにより、罹患後、より短期間で、乳生産及び出荷を再開でき、採取した乳汁の廃棄もより大幅に減量できるため、酪農産業上の経済的損失をより大幅に低減できる。
本発明により、より有効な乳房炎治療が可能となり、また、乳量・乳質を早期に回復させることが可能となる。
<本発明に係る治療剤について>
本発明は、一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、ラクトフェリンを有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤を全て包含する。
本発明は、一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、ラクトフェリンを有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤を全て包含する。
本発明の適用対象は、牛の泌乳期の乳房炎全般であるが、特に、従来の抗生物質の投与では必ずしも充分な治療効果が得られていなかった、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対して有用である。
牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎の起因菌については、特に限定されないが、例えば、乳房炎が、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌のいずれかを起因菌としたものである場合にも適用できる。これらの細菌は患部においても増殖速度が速いため、これらの細菌を起因菌とした乳房炎は、多くの場合、比較的重度で病態の進展の早い。それに対し、本発明は、これらの菌を起因菌とした比較的重度な乳房炎に対しても有効である。
ラクトフェリンは、医薬上許容されるその塩、溶媒和物などを含め、公知のものを広く用いることができ、特に限定されない。原則的には、牛の乳汁由来のものが最も好適である。
剤型は、液剤又は軟膏が好ましい。また、例えば、粉末、顆粒、錠剤などを使用時に溶解し、液剤として用いてもよい。
液剤とする場合の溶媒は、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、注射用水、メタノール、エタノール、n-ブタノールなどのアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などを用いることができる。
軟膏とする場合の基材は、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、親油性軟膏基材又は親水性軟膏基材を用いることができる。親油性軟膏基材として、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリン、流動パラフィン、オリーブ油、ラッカセイ油、ダイズ油などが挙げられる。親水性軟膏基材として、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、グリセリン、カルボキシルメチルセルロースなどが挙げられる。
ラクトフェリンを薬剤として配合する際、薬理学的に許容される担体を用いてもよい。担体として、製剤素材として慣用されている各種有機あるいは無機担体物質を用いることができる。
例えば、粉末・顆粒・錠剤などの固形製剤とする場合には、本剤に、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などを、液剤・軟膏などの液体製剤とする場合には、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などを適宜配合してもよい。また、必要に応じ、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などの製剤添加物を用いてもよい。
賦形剤の好適な例として、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などを用いることができる。
滑沢剤の好適な例として、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどを用いることができる。
結合剤の好適な例として、例えば、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。
崩壊剤の好適な例として、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどを用いることができる。
溶解補助剤の好適な例として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどを用いることができる。
懸濁化剤の好適な例として、例えば、界面活性剤(ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなど)、親水性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)などを用いることができる。
等張化剤の好適な例として、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどを用いることができる。
緩衝剤の好適な例として、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液などを用いることができる。
無痛化剤の好適な例として、例えば、ベンジルアルコールなどを用いることができる。
防腐剤の好適な例として、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などを用いることができる。
抗酸化剤の好適な例として、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などを用いることができる。
その他、この薬剤には、補助成分、例えば、保存・効能の助剤となる光吸収色素(リボフラビン、アデニン、アデノシンなど)、安定化のためのキレート剤・還元剤(ビタミンC、クエン酸など)などを含有させてもよい。
ラクトフェリンの投与量は、一回当たり力価で10〜500mgが好適であり、50〜400mgがより好適であり、100〜300mgが最も好適である。
本発明では、2日以上の間隔で複数回、ラクトフェリンを投与する。投与間隔は2〜5日、投与回数は2〜4回が好適である。例えば、初回投与及びその2〜5日後の計2回、若しくは初回投与、その2〜5日後、さらにその2〜5日後の計3回、投与するようにしてもよい。
なお、初回投与は、発症直後、例えば、発症から30時間以内、より好適には24時間以内、最も好適には18時間以内に行うことが好ましい。酪農においては、通常、泌乳期には6〜12時間毎に搾乳し、臨床性乳房炎発症時には乳量が大幅に低下するため、発症時を6〜12時間の誤差範囲で推定できる。
投与方法は、罹患分房内部に直接注入できればよく、特に限定されないが、例えば、乳房内投与用の筒状部材、カニューラ、非鋭利な注射針などを乳頭管内に挿入し、ラクトフェリンの液剤又は軟膏を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入することにより行ってもよい。
<本発明に係る治療剤セットについて>
本発明は、上述の治療剤と、前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、グリチルリチン又はその塩を有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤と、で構成された、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤セットを全て包含する。
本発明は、上述の治療剤と、前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、グリチルリチン又はその塩を有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤と、で構成された、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤セットを全て包含する。
適用対象は上記と同様である。ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、グリチルリチンなどを投与することにより、乳房炎の炎症で傷害された乳腺組織の再生が促進され、より短期間で、乳質を罹患前の状態に改善・回復させることができる。
グリチルリチンは、医薬上許容されるその塩、溶媒和物、グリチルリチンを出発物質とした誘導体などを含め、公知のものを広く用いることができ、特に限定されない。
医薬上許容されるその塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩など)、金属塩(アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩など)、無機塩(リン酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、アンモニウム塩など)、有機酸塩(メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、乳酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、サリチル酸塩など)、有機アミン塩(メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、トリメチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、ジベンジルアミン塩、グルコサミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、テトラメチルアンモニア塩など)、アミノ酸塩(グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩など)、その他の有機塩(ピペリジン塩、モルホリン塩、トリス-(2-ヒドロキシエチル)アミン塩、水酸化コリン塩など)などが適用可能である。
グリチルリチンは、公知の方法、例えば、カンゾウ(Glycyrrhiza属)の根又はストロンを、水、メタノール、エタノール、n-ブタノールなどの溶媒で抽出することなどにより、得ることができる。
グリチルリチン又はその塩の剤型は、液剤又は軟膏が好ましい。液剤とする場合の溶媒、若しくは軟膏とする場合の基材は、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、上述と同様のものを広く採用できる。その他、上記と同様、担体、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、必要に応じ、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などの製剤添加物などを適宜配合してもよい。
グリチルリチン又はその塩の投与量は、力価で100〜1,000mgが好適であり、300〜900mgがより好適であり、400〜800mgが最も好適である。
本発明では、グリチルリチン又はその塩を、ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後、例えば、ラクトフェリンの最後の注入から2〜7日経過後に投与する。
投与方法は、ラクトフェリンと同様、罹患分房内部に直接注入できればよく、特に限定されないが、例えば、乳房内投与用の筒状部材、カニューラ、非鋭利な注射針などを乳頭管内に挿入し、ラクトフェリンの液剤又は軟膏を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入することにより行ってもよい。
<本発明に係る治療方法について>
本発明は、一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法、さらに、前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を乳頭管より罹患分房内部に直接注入する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法などを広く包含する。
本発明は、一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法、さらに、前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を乳頭管より罹患分房内部に直接注入する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法などを広く包含する。
本治療方法の適用対象は上記と同様である。適量のラクトフェリンを複数回、罹患分房内部に直接注入することにより、例えば、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎など、比較的重度で病態の進展の早い乳房炎であっても有効に治療することができる。また、患後、短期間で、乳生産及び出荷を再開でき、採取した乳汁の廃棄も大幅に減量でき、酪農産業上の経済的損失を大幅に低減できる。さらに、ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、適量のグリチルリチン又はその塩を投与することにより、より短期間で、乳質を罹患前の状態に改善・回復させることができる。
本発明では、まず、ラクトフェリンの初回投与を、発症直後、例えば、発症から30時間以内、より好適には24時間以内、最も好適には18時間以内に行う。酪農においては、通常、泌乳期には6〜12時間毎に搾乳し、臨床性乳房炎発症時には乳量が大幅に低下するため、発症時を6〜12時間の誤差範囲で推定できる。
本発明では、初回投与を含め、2日以上の間隔で複数回、ラクトフェリンを投与する。投与間隔は2〜5日、投与回数は2〜4回が好適である。例えば、初回投与及びその2〜5日後の計2回、若しくは初回投与、その2〜5日後、さらにその2〜5日後の計3回、投与するようにしてもよい。ラクトフェリンの一回当たりの投与量は上記と同様である。
さらに、ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後(例えば、ラクトフェリンの最後の注入から2〜7日経過後)、グリチルリチン又はその塩を投与してもよい。グリチルリチン又はその塩の投与量は上記と同様である。
ラクトフェリン及びグリチルリチン又はその塩の投与方法は、罹患分房内部に直接注入できればよく、特に限定されないが、例えば、乳房内投与用の筒状部材、カニューラ、非鋭利な注射針などを乳頭管内に挿入し、ラクトフェリンの液剤又は軟膏を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入することにより行ってもよい。
ラクトフェリン、若しくはグリチルリチン又はその塩の投与の合間には、適宜搾乳を行うことが好ましい。これにより、菌体の多くを顆粒球に取り込まれた状態で乳汁中に排出されることができる。
実施例1では、ラクトフェリン、又は、ラクトフェリンとグリチルリチンとの併用が、大腸菌群を起因菌とした牛の泌乳期の甚急性乳房炎に対して有効か、検証した。
泌乳期にE.coli又はK.pneumoniaeによる甚急性乳房炎を発症した牛9頭に対し、試験治療として、3頭ずつ三群に分け、第一群にはラクトフェリンを、第二群にはラクトフェリン及びグリチルリチンを、第三群には抗生物質(対照)を、それぞれ複数回投与した。
第一群(ラクトフェリン単独投与群)では、発症初日(発症から24時間以内、発見から約18時間以内)と、発症から3日後の計二回、それぞれ、一回1分房当たりラクトフェリン溶液10mL(力価でラクトフェリン200mg含有、共立製薬株式会社製)を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入した。
第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では、発症初日(発症から24時間以内、発見から約18時間以内)、及び、発症から3日後に、それぞれ、一回1分房当たりラクトフェリン溶液10mL(力価でラクトフェリン200mg含有、共立製薬株式会社製)を乳頭管より罹患分房内部に直接注入し、さらに、発症から7日後に、それぞれ、1分房当たりグリチルリチン酸モノアンモニウム溶液10mL(力価でグリチルリチン酸600mg含有、共立製薬株式会社製)を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入した。
第三群(抗生物質投与群;対照)では、発症初日(発症から24時間以内、発見から約18時間以内)から発症の3日後までの毎日(計四回)、それぞれ、セファゾリンナトリウム溶液300μL(セファゾリンナトリウム3g含有)の静脈投与と、セファゾリン油性乳房注入剤(セファゾリン150mg含有)の罹患分房内部への直接注入を行い、さらに、発症から7日目と10日目に、それぞれ、ベンジルペニシリンプロカイン・硫酸カナマイシン油性乳房注入剤(PC・G30万単位、KM300mg力価含有)の罹患分房内部への直接注入を行った。なお、発症から7日後において、3頭うちの1頭に対しては、ベンジルペニシリンプロカイン・硫酸カナマイシン油性乳房注入剤の罹患分房内部への直接注入に加え、セファゾリンナトリウム溶液300μLの静脈投与も行った。
発症当日、発症から1日後、3日後、7日後、並びに10日後に、各罹患牛の乳房の観察を行い、乳房の腫脹及び硬結の度合いを判定してスコア化した。同日に乳汁を採取し、乳量を測定するとともに、乳汁の性状と凝固物の有無を判定し、スコア化した。さらに、乳汁中体細胞数を測定するとともに、PLテスターを用いて乳汁の凝集と色調を総合的に判定し、スコア化した。
乳房所見(乳房の腫脹及び硬結の度合い)は、以下の基準で判定した。腫脹の判定:スコア0(正常;腫脹なし)、スコア1(軽度;分房の1/4以下に腫脹)、スコア2(中等度;分房の1/4〜1/2に腫脹)、スコア3(重度;分房の1/2以上に腫脹)。硬結の判定:スコア0(正常;硬結なし)、スコア1(軽度;分房の1/4以下に硬結)、スコア2(中等度;分房の1/4〜1/2に硬結)、スコア3(重度;分房の1/2以上に硬結)。この乳房の腫脹の判定スコアと硬結の判定スコアの合算値を乳房所見の臨床スコアとした。
結果を表1に示す。表1中、「LF単独」の欄は第一群(ラクトフェリン単独投与群)のスコアを、「LF・GL併用」の欄は第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)のスコアを、「抗生物質」の欄は第三群(抗生物質投与群;対照)のスコアを、それぞれ表し、表中の各値は臨床スコアの平均値±標準偏差(n=3)を表す。
表1に示す通り、第一群(ラクトフェリン単独投与群)及び第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では発症の7日後には臨床スコアが顕著に下がり、乳房炎の症状の改善が観察されたのに対し、第三群(抗生物質投与群)では、発症の7日後及び10日後においても臨床スコアがまだ高く、乳房炎の症状の改善が不充分であった。
また、発症前の乳量、及び、その後採取した発症から30日後の乳量(mL)を表3に示す。表3中の各表記は表1などと同様である。表中の「回復率」は発症前に採取できた乳量を発症30日後に採取できた乳量で除して100を乗じた値(%)であり、表中の各値は乳量の平均値±標準偏差(n=3)を表す。
表2及び表3に示す通り、第一群(ラクトフェリン製剤投与群)及び第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では日数の経過とともに乳量が回復し、発症の30日後には発症前とほぼ同量にまで回復したのに対し、第三群(抗生物質投与群)では、発症から30日経過した後においても、乳量は充分には回復しなかった。
乳汁所見(乳汁の性状及び凝固物の有無)は、以下の基準で判定した。乳汁の性状の判定:スコア0(正常;乳白色)、スコア1(軽度;水様)、スコア2(中等度;血様)、スコア3(重度;膿様)。凝固物の判定:スコア0(正常;凝固物なし)、スコア1(軽度;乳汁5mL中に凝固物が10個未満)、スコア2(中等度;乳汁5mL中に凝固物が10個以上)、スコア3(重度;巨大塊)。この乳汁の性状の判定スコアと凝固物の判定スコアの合算値を乳汁スコアとした。
表4に示す通り、第一群(ラクトフェリン単独投与群)及び第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では、第三群(抗生物質投与群)と比較して、発症の1日後に有意に乳汁スコアが悪化したが、発症の3日後には第三群(抗生物質投与群)よりも乳汁スコアが改善した。発症の7日後には、いずれの群でも乳汁スコアは正常となった。
続いて、乳汁中体細胞数を測定した。採取した乳汁を、フローサイトメーター(「Somacount150」、富士平工業株式会社)にアプライし、乳汁中の細胞数をカウントした。なお、乳汁中には、主に上皮細胞及び白血球細胞が含まれており、炎症時には白血球数が急増する。そのため、正常乳汁では体細胞数が低く、異常乳汁では体細胞数が多くなる。
表5に示す通り、第一群(ラクトフェリン単独投与群)及び第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では発症の7日後には、乳汁中の体細胞数が顕著に減少しており、乳房炎の症状が改善していたのに対し、第三群(抗生物質投与群)では、発症の10日後においても、乳汁中の体細胞数が多いままであった。また、第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では、発症の10日後には、乳汁中の体細胞数を、正常乳と同等程度にまで下げることができた。
PLテスターによる乳汁の凝集及び色調の判定は、以下の基準で行った。凝集の判定:スコア0(正常;陰性(−、±))、スコア1(軽度;疑陽性(+))、スコア2(中等度;陽性(++))、スコア3(重度;陽性(+++以上))。色調の判定:スコア0(正常;陰性(−))、スコア1(軽度;疑陽性(±))、スコア2(中等度;陽性(+))、スコア3(重度;陽性(++))。この乳汁の凝集の判定スコアと色調の判定スコアの合算値をPLテストのスコアとした。
表6に示す通り、第一群(ラクトフェリン単独投与群)及び第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では発症の7日後には、PLテストのスコアが顕著に下がり、乳房炎の症状が改善していたのに対し、第三群(抗生物質投与群)では、発症の7日後及び10日後においてもPLテストのスコアが高いままであった。また、第二群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では、発症の10日後には、PLテストのスコアが0となった。
以上のように、本実施例により、一回当たり力価で200mgのラクトフェリンを、3日間隔で2回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入することにより、抗生物質を投与する場合と比較して、有意に、大腸菌群を起因菌とした牛の泌乳期の甚急性乳房炎の臨床症状を改善することができた。また、短期間で、乳量及び乳質を罹患前と同程度にまで改善することができた。
さらに、ラクトフェリンの最後の注入から4日経過後に、力価で600mgのグリチルリチン塩を乳頭管より罹患分房内部に直接注入することで、より短期間で、乳質を正常乳と同等のものにまで回復させることができた。このことは、単に、大腸菌群を起因菌とした牛の泌乳期の甚急性乳房炎を短期間で治癒させることができるだけでなく、罹患後、短期間で、乳生産及び出荷を再開できることを示唆しており、酪農産業上の経済的損失を大幅に低減できることを示唆している。
上述の通り、実施例1では、ラクトフェリン、又は、ラクトフェリンとグリチルリチンとの併用が、大腸菌群を起因菌とした牛の泌乳期の甚急性乳房炎に対して有効なことが分かった。そこで、実施例2では、実施例1の知見に基づき、ラクトフェリンが、黄色ブドウ球菌又はレンサ球菌を起因菌とした牛の泌乳期の急性乳房炎に対しても有効か、検証した。
泌乳期にS.aureus、Str.uberis又はStr.eqinusによる急性乳房炎を発症した牛6頭に対し、試験治療として、3頭ずつ二群に分け、試験群にはラクトフェリン及びグリチルリチンを、対照群には抗生物質を、それぞれ複数回投与した。
試験群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)では、実施例1と同様、発症初日(発症から24時間以内、発見から約18時間以内)、及び、発症から3日後に、それぞれ、一回1分房当たりラクトフェリン溶液10mL(力価でラクトフェリン200mg含有、共立製薬株式会社製)を乳頭管より罹患分房内部に直接注入し、さらに、発症から7日後に、それぞれ、1分房当たりグリチルリチン酸モノアンモニウム溶液10mL(力価でグリチルリチン酸600mg含有、共立製薬株式会社製)を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入した。
対照群(抗生物質投与群)では、発症初日(発症から24時間以内、発見から約18時間以内)から発症の3日後までの毎日と発症から7日後の計五回、それぞれ、セファゾリン油性乳房注入剤(セファゾリン150mg含有)の罹患分房内部への直接注入を行った。なお、3頭うちの1頭に対しては、発症初日及び発症から1日後に、セファゾリンの罹患分房内部に直接注入に加え、セファゾリンナトリウム溶液300μLの静脈投与も行った。
実施例1と同様の方法で、発症当日、発症から1日後、3日後、7日後、並びに10日後に、各罹患牛の乳房の観察を行い、乳房の腫脹及び硬結の度合いを判定してスコア化した。同日に乳汁を採取し、乳量を測定するとともに、乳汁の性状と凝固物の有無を判定し、スコア化した。さらに、乳汁中体細胞数を測定するとともに、PLテスターを用いて乳汁の凝集と色調を総合的に判定し、スコア化した。
黄色ブドウ球菌又はレンサ球菌を起因菌とした牛の急性乳房炎を罹患した牛の罹患分房に対してラクトフェリンとグリチルリチンを直接注入した場合の乳房所見の臨床スコアを表7に、乳量(mL)を表8に、乳量の回復率を表9に、乳汁スコアを表10に、乳汁中の体細胞数を表11に、PLテストのスコアを表12に、それぞれ示す。各表中、「試験群」の欄は試験群(ラクトフェリン・グリチルリチン併用群)の結果を、「対照群」の欄は対照群(抗生物質投与群)の結果を、それぞれ表し、表中のその他の表記は上記と同様である。
表7〜12中、発症から7日目まで、即ちグリチルリチン注入前の結果と、実施例1の表1〜6の対応する結果とを比較すると、両者はほぼ同様の結果であった。このことは、黄色ブドウ球菌又はレンサ球菌を起因菌とした牛の泌乳期の急性乳房炎の罹患牛に対し、一回当たり力価で200mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入した場合も、大腸菌群を起因菌とした牛の泌乳期の甚急性乳房炎の場合と同様に臨床症状を改善することができ、また、短期間で、乳量及び乳質を罹患前と同程度にまで改善できることを示す。
さらに、本実施例においても、実施例1と同様、ラクトフェリンの最後の注入から4日経過後に、力価で600mgのグリチルリチン塩を乳頭管より罹患分房内部に直接注入することで、より短期間で、乳質を正常乳と同等のものにまで回復させることができた。このことは、黄色ブドウ球菌又はレンサ球菌を起因菌とした牛の泌乳期の急性乳房炎の場合も、大腸菌群を起因菌とした牛の甚急性乳房炎の場合と同様、単に、乳房炎を短期間で治癒させることができるだけでなく、罹患後、短期間で、乳生産及び出荷を再開できることを示唆しており、酪農産業上の経済的損失を大幅に低減できることを示唆している。
実施例3では、乳汁中の白血球数の経時的変化を調べた。
レンサ球菌群を起因菌とする急性乳房炎を発症した牛に、発症直後に、ラクトフェリン溶液10mL(力価でラクトフェリン200mg含有、共立製薬株式会社製)を乳頭管より罹患分房内部に直接注入するとともに、ラクトフェリン注入直前、及びラクトフェリン注入から1時間後、6時間後、24時間後、48時間後に乳汁を採取し、各乳汁試料中のT細胞数及び顆粒球数を測定した。また、対照として、同様に急性乳房炎を発症した別個体の牛に、発症直後に、セファゾリン油性乳房注入剤(セファゾリン150mg含有)を乳頭管より罹患分房内部に直接注入し、同様に各乳汁を採取し、同様の測定を行った。
乳汁試料中のT細胞数の測定は、乳汁試料にFITC-conjugated抗CD-3抗体を添加して、試料中のT細胞と反応させた後、フローサイトメーターで、総細胞数及び蛍光標識された細胞数をカウントすることにより行った。同様に、乳汁試料中の顆粒球数の測定は、乳汁試料にFITC-conjugated抗granulocyte抗体を添加して、試料中の顆粒球と反応させた後、フローサイトメーターで、総細胞数及び蛍光標識された細胞数をカウントすることにより行った。
結果を図1A及び図1Bに示す。図1Aは、ラクトフェリン注入時におけるT細胞数の経時的変化を表すグラフ、図1Bは同顆粒球数の経時的変化を表すグラフである。両図中の横軸はラクトフェリンなどを注入してからの経過時間(単位:hour)を、縦軸は細胞数(×106)を、それぞれ表す。両図中、「LF」の折れ線はラクトフェリンを罹患分房内部に注入した牛における乳汁中の細胞数の経時的変化を、「Control」は対照として抗生物質を罹患分房内部に注入した牛における乳汁中の細胞数の経時的変化を、それぞれ表す。
図1A及び図1Bに示す通り、対照として抗生物質を罹患分房内部に注入した場合、乳汁中のT細胞数及び顆粒球数は、いずれも時間経過とともに下がっていったのに対し、ラクトフェリンを罹患分房内部に注入した場合、乳汁中のT細胞数はラクトフェリン注入の1時間後に顕著なピークが現れ、また、乳汁中の顆粒球数はラクトフェリン注入の24時間後に顕著なピークが現れた。
これらの結果は、ラクトフェリンを直接患部に注入することにより、それまでの炎症発生による免疫細胞の活性化とは別個に、新たな応答として、まず、T細胞が活性化され、次に、T細胞からの指令により顆粒球が誘導されたことを示唆する。即ち、これらの結果は、ラクトフェリンが、抗生物質とは全く異なる作用機序によって泌乳期の乳房炎を抑制していること、具体的には、ラクトフェリンを直接患部に注入することにより、炎症発生時の応答とは別個に、新たに顆粒球が発現誘導され、患部に導入される顆粒球が大幅に増強され、その顆粒球が直接起因菌を貪食することで、泌乳期の乳房炎を抑制していることを示唆する。このことは、泌乳期の乳房炎において、ラクトフェリンを患部に注入すると、乳汁中に大量の膿・凝固物が混じり、炎症状態が増悪するという従来の知見とも合致する。
これらの知見に基づけば、ラクトフェリンを患部に注入することで、顆粒球が発現誘導され、それらの起因菌がその顆粒球に貪食され、菌体の多くが顆粒球に取り込まれた状態で膿などとして乳汁中に排出されるという作用機序を推測できる。この作用機序による場合、例えば、大腸菌群を起因菌とした乳房炎などにおいて、抗生物質などのように、(起因菌を体内で死滅させることで)エンドトキシンが発生するという事態を極力回避できると推測できる。従って、本発明のように、ラクトフェリンを直接患部に注入する場合、エンドトキシンによる症状や予後の悪化、若しくは治癒しない状態の長期化を抑制できると推定できる。また、エンドトキシンの発生を回避できるということは、実施例1などにおいて、比較的短時間で、牛個体を乳房炎罹患前の状況に回復させることができた理由の一つである可能性がある。
Claims (5)
- 一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、ラクトフェリンを有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤。
- 前記乳房炎が、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌のいずれかを起因菌としたものである請求項1記載の治療剤。
- 請求項1又は請求項2記載の治療剤と、
前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を、乳頭管より罹患分房内部に直接注入するように用いる、グリチルリチン又はその塩を有効成分として含有する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤と、
で構成された、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療剤セット。 - 一回当たり力価で10〜500mgのラクトフェリンを、2日以上の間隔で複数回、乳頭管より罹患分房内部に直接注入する、牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法。
- 前記ラクトフェリンの最後の注入から2日以上経過後に、力価で100〜1,000mgのグリチルリチン又はその塩を乳頭管より罹患分房内部に直接注入する、請求項4記載の牛の泌乳期の甚急性又は急性乳房炎に対する治療方法。
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