JP2018101770A - 鉄基軟磁性材料、鉄基軟磁性材料の製造方法及び鉄基軟磁性コア - Google Patents

鉄基軟磁性材料、鉄基軟磁性材料の製造方法及び鉄基軟磁性コア Download PDF

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誠 塚原
則和 岡田
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則和 岡田
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Abstract

【課題】鉄を主成分とする母相からなるセルと金属の硫化物等を主成分とするセル境界相とを備えるセルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料において、個々のセルを小さくすることにより、渦電流損失を低減する。
【解決手段】鉄からなる第一元素と、クロム、モリブデン、銅及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である第二元素と、少なくとも硫黄を含むカルコゲンからなる第三元素とを含有する鉄基軟磁性材料において、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合に2at%以下のチタン及び2at%以下の窒素を更に配合する。上記に加えてアルミニウムを更に配合してもよい。当該鉄基軟磁性材料の製造方法は、原材料の溶湯を1450℃以上の温度において窒素と接触させる工程を含む。
【選択図】図1

Description

本発明は、鉄基軟磁性材料、鉄基軟磁性材料の製造方法及び鉄基軟磁性コアに関する。
鉄基軟磁性材料は、例えばモータ、トランス及びリアクトル等のコアとして広く使用されている。コアに交流磁場を印加すると渦電流が発生する。この渦電流に起因する電気エネルギー損失(渦電流損失)を低減するためには、鉄を主成分とする母相が小さい領域(1つ又は複数の結晶粒によって構成されるセル)に分割されており且つ個々のセルが電気的に絶縁されていることが望ましい。このように個々のセルを電気的に絶縁するためには、高い電気抵抗率を有する物質によってセル境界相を形成させることが望ましい。このように個々のセルがセル境界相によって覆われている構造は「セルウォール構造」と称される。
そこで、当該技術分野においては、鉄を主成分とする母相からなるセルと、セルの境界に存在し且つ銅を含む硫化物等を主成分とするセル境界相と、を備えたセルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。これによれば、高い電気抵抗率を有する硫化物からなるセル境界相によって個々のセルが電気的に絶縁されるため、渦電流損失を十分に低減することができる。
ところが、例えば鉄基軟磁性材料の組成及び/又は鉄を主成分とする母相を生成させる際の温度条件等によっては、鉄を主成分とする母相が柱状のデンドライトとして成長し、過度に大きくなる場合がある。このように母相が過大に成長した場合、たとえセルウォール構造におけるセル境界相によって個々のセルが電気的に絶縁されていても、セルの内部において大きな渦電流が発生する。従って、セルウォール構造によって渦電流損失をより確実に低減させるためには、鉄を主成分とする母相が成長しないように出来る限り小さくして、個々のセルの大きさを小さくすることが望ましい。
ところで、当該技術分野においては、鉄基合金において鉄を主成分とする結晶粒を微細化して成長させる技術が既に知られている。例えば、フェライト系ステンレス鋼においてアルミニウム及びマグネシウムを含む介在物とチタン系介在物との複合介在物を分散させることにより凝固組織の70%を超える部分を微細な等軸晶とする技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。これによれば、加工性及び靱性に優れるフェライト系ステンレス鋼を得ることができる。
また、冷却ドラムの周面に溶鋼を供給して凝固シェルを形成させることにより薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法において、炭素、凝固核生成促進物質及び当該凝固核生成促進物質を含む金属酸化物によって構成されたスカム堰を溶鋼に浸漬させることにより、等軸晶の比率が高い薄肉鋳片を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。これによれば、曲げ等によって割れが発生し難い薄肉鋳片を製造することができる。
従って、セルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料にこれらの従来技術を適用すれば、鉄を主成分とする母相を小さくして、渦電流損失をより確実に低減することが可能であると期待される。しかしながら、実際には、金属の硫化物等を主成分とするセル境界相を備えるセルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料に上記従来技術を適用しても、渦電流損失を十分に低減することはできない。
具体的には、特許文献2に記載された発明のようにアルミニウム及びマグネシウムを含む介在物を生成させようとしても、セル境界相の主成分である硫化物の構成元素である硫黄との反応によってマグネシウムが消費されて介在物を晶出させることができない。また、特許文献3に記載された発明のように炭素等を含む金属酸化物によって構成されたスカム堰を溶湯に浸漬させても、セル境界相の主成分である硫化物の構成元素である硫黄との反応によって炭素が消費されて凝固核を生成させることができない。
特開2016−027621号公報 特開2001−020046号公報 特開2014−050855号公報
前述したように、金属の硫化物を主成分とするセル境界相を備えるセルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料において、鉄を主成分とする母相が成長しないようにして、その大きさを小さくし、個々のセルの大きさを小さくして渦電流損失を低減することができる技術は未だ確立されていない。
本発明は、上記課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明は、母相からなるセルの大きさを小さくすることにより渦電流損失を十分に低減することができる鉄基軟磁性材料及び当該鉄基軟磁性材料の製造方法を提供することを1つの目的とする。更に、本発明は、上記のような鉄基軟磁性材料によって構成された鉄基軟磁性コアを提供することをもう1つの目的とする。
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、鉄(Fe)を主成分とする母相からなるセルと金属の硫化物等を主成分とするセル境界相とを備えるセルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料において、所定量のチタン(Ti)及び窒素(N)を更に配合することにより、個々のセルの大きさを小さくして渦電流損失を低減することができることを見出した。
本発明に係る鉄基軟磁性材料(以下、「本発明材料」と称される場合がある。)は、以下に列挙する第一元素乃至第三元素を含有する。
第一元素:鉄(Fe)。
第二元素:クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
第三元素:少なくとも硫黄(S)を含むカルコゲン(Ch)。
更に、本発明材料は、セルとセル境界相とを含む構造である「セルウォール構造」を有する。セルは、鉄(Fe)を主成分とする母相からなる。セル境界相は、少なくとも前記第二元素を含む金属と前記第三元素とからなるカルコゲン化物を主成分として含み、前記セルの境界に存在する。加えて、本発明材料は、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、2at%以下のチタン(Ti)及び2at%以下の窒素(N)を更に含む。結果として、本発明材料は、前記母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散している鉄基軟磁性材料であり得る。
上記に加えて、本発明材料は、アルミニウム(Al)を必須の構成成分として含んでいてもよい。この場合、本発明材料は、前記母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散しており且つ前記窒化チタン(TiN)の析出物はアルミニウム(Al)の酸化物を含む鉄基軟磁性材料であり得る。
更に、本発明材料は、例えば、以下に列挙する各工程を含む、本発明に係る鉄基軟磁性材料の製造方法(以下、「本発明方法」と称される場合がある。)によって製造することができる。
第一工程: 前記第一元素と、前記第二元素と、前記第三元素、前記第三元素と前記第一元素とを含む化合物、前記第三元素と前記第二元素とを含む化合物及び前記第三元素と前記第二元素と前記第一元素とを含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるカルコゲン源と、チタン(Ti)及びチタン(Ti)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるチタン源と、を原材料として秤量する。上記に加えて、アルミニウム(Al)及びアルミニウム(Al)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるアルミニウム源と、を原材料として更に秤量してもよい。
第二工程:前記第一工程において秤量された前記原材料を加熱して熔解させることにより溶湯とする。
第三工程:前記第二工程において得られた前記溶湯を1450℃以上の温度において窒素(N)と接触させる。
第三工程:前記第三工程において窒素(N)と接触させた前記溶湯を冷却して凝固させることにより前記鉄基軟磁性材料を得る。
加えて、本発明に係るコア(以下、「本発明コア」と称される場合がある。)は、本発明材料によって構成される鉄基軟磁性コアである。
本発明によれば、金属の硫化物等を主成分とするセル境界相を備えるセルウォール構造を有する鉄基軟磁性材料において、鉄を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることにより渦電流損失を低減することができる。
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
本発明の第一実施形態に係る鉄基軟磁性材料(第一材料)の変形例3における第一元素、第二元素(Cu)及び第三元素のそれぞれの含有率の組み合わせの範囲を示す三元組成図である。 本発明の第一実施形態に係る鉄基軟磁性材料(第一材料)の変形例4における第一元素、第二元素(Al)及び第三元素のそれぞれの含有率の組み合わせの範囲を示す三元組成図である。 本発明の第二実施形態に係る鉄基軟磁性材料の製造方法(第二方法)に含まれる各工程を示すためのフローチャートである。 本発明の実施例1に係る鉄基軟磁性材料(サンプルE1)の研磨断面の顕微鏡写真である。 比較例に係る鉄基軟磁性材料(サンプルC1)の研磨断面の顕微鏡写真である。 サンプルE1の研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を示す顕微鏡写真である。 サンプルC1の研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を示す顕微鏡写真である。 本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料(サンプルE2)の研磨断面全体の顕微鏡写真である。 サンプルE2の研磨断面の顕微鏡写真である。 本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料(サンプルE3)の研磨断面の顕微鏡写真である。 本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料(サンプルE4)の研磨断面全体の顕微鏡写真である。 サンプルE4の研磨断面の顕微鏡写真である。 比較例に係る鉄基軟磁性材料(サンプルC2)の研磨断面の顕微鏡写真である。 比較例に係る鉄基軟磁性材料(サンプルC3)の研磨断面の顕微鏡写真である。 サンプルE2の研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を示す顕微鏡写真である。 サンプルE3の研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を示す顕微鏡写真である。 サンプルE4の研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を示す顕微鏡写真である。 図15に示したサンプルE2の研磨断面のSEM/EDS分析を行った結果を示す顕微鏡写真である。 図16に示したサンプルE3の研磨断面のSEM/EDS分析を行った結果を示す顕微鏡写真である。 図17に示したサンプルE4の研磨断面のSEM/EDS分析を行った結果を示す顕微鏡写真である。
《第一実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第一実施形態に係る鉄基軟磁性材料(以下、「第一材料」と称される場合がある。)について説明する。
〈構成〉
第一材料は、以下に列挙する第一元素乃至第三元素を含有する。
第一元素:鉄(Fe)。
第二元素:クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
第三元素:少なくとも硫黄(S)を含むカルコゲン(Ch)。
第一元素は、必ずしも純鉄に限定されるものではなく、鉄(Fe)以外の一種以上の元素を更に含有していてもよい。このような鉄(Fe)以外の元素の具体例としては、例えば、珪素(Si)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)を挙げることができる。
第二元素は、第三元素と化合してカルコゲン化物を生成し、セル境界相を形成することができる金属元素である。具体的には、このような金属元素は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。これらの中でも、渦電流損失を低減するのに十分に高い体積固有抵抗(電気抵抗率)を有するセル境界相を形成することができる元素がより好ましい。
第三元素は、少なくとも硫黄(S)を含むカルコゲン(Ch)である。換言すれば、大1材料は、少なくとも硫黄(S)を第三元素として含み、酸素(O)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群より選ばれる一種以上の元素を第三元素として更に含んでいてもよい。
更に、第一材料は、セルとセル境界相とを含む構造である「セルウォール構造」を有する。セルは、鉄(Fe)を主成分とする母相からなる。セル境界相は、少なくとも前記第二元素を含む金属と少なくとも前記第三元素とからなるカルコゲン化物を主成分として含み、前記セルの境界に存在する。
母相の主成分である「鉄」は必ずしも純鉄に限定されるものではなく、例えば、純鉄、鉄−珪素合金、鉄−コバルト合金、鉄−アルミニウム合金、鉄−珪素−アルミニウム合金、及び鉄−ニッケル合金からなる群より選択される少なくとも一種を母相の主成分とすることができる。更に、母相の主成分である「鉄」は、結果として得られる鉄基軟磁性材料の磁気特性に対する悪影響を及びさない限りにおいて、例えば酸素(O)及び/又は窒素(N)等の不純物を僅か(例えば、数百質量ppm未満)に含有していてもよい。
セル境界相の主成分である「少なくとも第二元素を含む金属と少なくとも第三元素とからなるカルコゲン化物」は、例えば第二元素のカルコゲン化物及び第一元素及び第二元素の複合カルコゲン化物等、並びにこれらから第一元素及び/又は第二元素が欠損した分子式によって表されるカルコゲン化物からなる群より選択される少なくとも一種の物質である。このようなカルコゲン化物は高い電気抵抗率を有するので、渦電流損失の低減に有効である。
加えて、第一材料は、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、2at%以下のチタン(Ti)及び2at%以下の窒素(N)を更に含む。
〈効果〉
上記により、上記のようにセルウォール構造を有する第一材料において、鉄を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることができる。その結果、渦電流損失を低減することができる。
〈母相結晶粒の微細化メカニズム〉
尚、上記のように鉄を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさが小さくなる原因としては、上述した各種元素を含む原材料の溶湯を冷却する際に、母相の凝固が始まるのに先立って、溶湯中に窒化チタン(TiN)が晶出し、これを核として、母相の微細な(例えば、100μm以下の)等軸晶が成長するためであると考えられる(詳しくは後述する)。
《第一実施形態の変形例1》
〈構成〉
上述したように、第二元素は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。これらの中でも、渦電流損失を低減するのに十分に高い体積固有抵抗(電気抵抗率)を有するセル境界相を形成することができる元素がより好ましい。
かかる観点から、前記第二元素は、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることが、より好ましい。
〈効果〉
上記によれば、高い体積固有抵抗(電気抵抗率)を有するセル境界相を形成することができ、且つ、母相の微細な等軸晶が成長するための核となる窒化チタン(TiN)の形成を妨げ難いので、より確実に個々のセルの大きさを小さくすることができる。その結果、渦電流損失をより確実に低減することができる。
《第一実施形態の変形例2》
〈構成〉
上述したように、母相の主成分である「鉄」は必ずしも純鉄に限定されるものではなく、例えば、純鉄、鉄−珪素合金、鉄−コバルト合金、鉄−アルミニウム合金、鉄−珪素−アルミニウム合金、及び鉄−ニッケル合金からなる群より選択される少なくとも一種を母相の主成分とすることができる。これらの中でも、特に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び/又は珪素(Si)は、鉄の一部として鉄の組成に含まれていてもよい(固溶されていてもよい)。
かかる観点から、前記第一元素は、鉄(Fe)に加えて、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び/又は珪素(Si)を更に含んでいてもよい。
〈効果〉
上記によれば、軟磁性材料として良好な磁気特性(例えば、高い比透磁率等)を達成しつつ、鉄を主成分とする母相からなるセルを微細化すると共に、高い体積固有抵抗(電気抵抗率)を有するセル境界相を形成して、より確実に渦電流損失を低減することができる。
《第一実施形態の変形例3》
〈構成〉
上述したように、第一材料は、鉄(Fe)からなる第一元素と、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である第二元素と、少なくとも硫黄(S)を含むカルコゲン(Ch)からなる第三元素と、を含有する。
より好ましくは、前記第二元素が銅(Cu)であり、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素とのそれぞれの含有率の組み合わせが、図1の太い実線によって囲まれた領域に示すように、前記第一元素、前記第二元素及び前記第三元素の原子濃度の三元組成図における以下のA点乃至D点によって囲まれる領域である特定領域に対応する組み合わせである。
A点:第一元素91.9at%−第二元素7.1at%−第三元素1.0at%。
B点:第一元素87.0at%−第二元素12.0at%−第三元素1.0at%。
C点:第一元素75.0at%−第二元素20.0at%−第三元素5.0at%。
D点:第一元素75.0at%−第二元素13.1at%−第三元素11.9at%。
上記三元組成図において、点Aと点Bとを結ぶ直線よりも第三元素の含有率を高くする(具体的には、1at%未満にする)ことにより、第二元素及び/又は第三元素の含有率を相対的に高めて、セル境界相を構成する原子の数を相対的に増やすことができる。その結果、渦電流損失の低減に十分な量のセルウォール構造をより確実に形成することができる。一方、点Cと点Dとを結ぶ直線よりも第一元素の含有率を高くする(具体的には、75at%よりも多くする)ことにより、第一材料全体に占める磁性体部分である母相の比率を高めることができる。その結果、例えば、第一材料を用いて製造される鉄基軟磁性コアの全体としての最大磁化を大きくすることができる。
また、点Bと点Cとを結ぶ直線よりも第三元素の含有率に対する第二元素の含有率を低くすることにより、低い電気抵抗率を有する銅基固溶体のセル境界相における生成を防ぐことができる。その結果、渦電流損失の低減に必要な高い電気抵抗率を有するセル境界相を備えるセルウォール構造をより確実に形成することができる。一方、点Dと点Aとを結ぶ直線よりも第三元素の含有率に対する第二元素の含有率を高くすることにより、低い電気抵抗率を有する第一元素のカルコゲン化物(例えば、硫化鉄(FeS))のセル境界相における生成を防ぐことができる。その結果、渦電流損失の低減に必要な高い電気抵抗率を有するセル境界相を備えるセルウォール構造をより確実に形成することができる。
〈効果〉
上記のように、鉄基軟磁性材料に含有される第一元素と、第二元素としての銅(Cu)と、第三元素とのそれぞれの含有率の組み合わせが、上記特定領域に対応する組み合わせである場合、高い電気抵抗率を有するセル境界相と磁性体部分である母相とをバランス良く含むセルウォール構造が形成される。その結果、軟磁性材料として良好な磁気特性を達成しつつ、渦電流損失を十分に低減することができる。
《第一実施形態の変形例4》
〈構成〉
或いは、前記第二元素がアルミニウム(Al)であり、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素とのそれぞれの含有率の組み合わせが、図2の太い実線によって囲まれた領域に示すように、前記第一元素、前記第二元素及び前記第三元素の原子濃度の三元組成図における以下のA点乃至D点によって囲まれる領域である特定領域に対応する組み合わせである。
A点:第一元素97.5at%−第二元素0.8at%−第三元素1.7at%。
B点:第一元素67.9at%−第二元素30.3at%−第三元素1.8at%。
C点:第一元素56.0at%−第二元素32.0at%−第三元素12.0at%。
D点:第一元素83.4at%−第二元素5.0at%−第三元素11.6at%。
上記三元組成図において、点Aと点Bとを結ぶ直線よりもカルコゲン(Ch)(第三元素)の含有率を高くすることにより、セル境界相を構成する原子の数が相対的に多くなり、十分な厚み及び連続性を有するセル境界相を有するセルウォール構造をより確実に形成することができる。その結果、渦電流損失をより確実に低減することができる。
また、点Bと点Cとを結ぶ直線よりもアルミニウム(Al)(第二元素)の含有率を低くすることにより、母相におけるアルミニウム(Al)の含有率が過剰に増大することを回避して、鉄(Fe)の含有率を相対的に高めることができる。その結果、母相の最大磁化及び透磁率が過剰に低下することを回避して、鉄基軟磁性材料として良好な磁気特性をより確実に発揮させることができる。
更に、点Cと点Dとを結ぶ直線よりもカルコゲン(Ch)(第三元素)の含有率を低くすることにより、セル境界相を構成する原子の数が過剰に増大して、鉄基軟磁性材料の全体に占めるセル境界相の体積比が過大となることを回避することができる。その結果、鉄基軟磁性材料全体としての最大磁化及び透磁率が過剰に低下することを回避して、鉄基軟磁性材料として良好な磁気特性をより確実に発揮させることができる。
加えて、点Dと点Aとを結ぶ直線よりもアルミニウム(Al)(第二元素)の含有率を高くすることにより、セル境界相におけるアルミニウム(Al)の含有率を相対的に高め、鉄(Fe)の含有率を相対的に低く抑えることができる。従って、セル境界相において、高い電気抵抗率を有する「少なくともアルミニウム(Al)を含む金属と少なくとも硫黄(S)を含むカルコゲン(Ch)とからなるカルコゲン化物」の晶出が相対的に促進される。一方、低い電気抵抗率を有するカルコゲン化物(例えば、硫化鉄(FeS)等)の晶出は抑制される。その結果、渦電流損失をより確実に低減することができる。
〈効果〉
上記のように、鉄基軟磁性材料に含有される第一元素と、第二元素としてのアルミニウム(Al)と、第三元素とのそれぞれの含有率の組み合わせが、上記特定領域に対応する組み合わせである場合、高い電気抵抗率を有するセル境界相と磁性体部分である母相とをバランス良く含むセルウォール構造が形成される。その結果、軟磁性材料として良好な磁気特性を達成しつつ、渦電流損失を十分に低減することができる。
《第一実施形態の変形例5》
〈構成〉
ところで、上述したようにセルウォール構造を有する本発明の第一実施形態に係る鉄基軟磁性材料(第一材料)によれば、鉄(Fe)を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることができ、結果として渦電流損失を低減することができる。これは、上述した各種元素を含む原材料の溶湯を冷却する際に、母相の凝固が始まるのに先立って溶湯中に析出した窒化チタン(TiN)を核として、母相の微細な等軸晶が成長するためであると考えられる。後述する本発明の実施例1に係るサンプルE1においても、多くの窒化チタン(TiN)の析出物が母相内に分散していることが確認されている。
即ち、第一実施形態の変形例5に係る鉄基軟磁性材料は、上述した第一材料及び第一実施形態の各種変形例の何れかに係る鉄基軟磁性材料であって、前記母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散している鉄基軟磁性材料である。
〈効果〉
上記のように、第一実施形態の変形例5に係る鉄基軟磁性材料においては、鉄(Fe)を主成分とする母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散している。従って、当該鉄基軟磁性材料の原材料の溶湯の凝固時には、窒化チタン(TiN)の析出物を核として母相の微細な等軸晶が成長し、当該母相からなる個々のセルの大きさが小さくなることができる。その結果、本発明材料における渦電流損失を低減することができる。
《第一実施形態の変形例6》
〈構成〉
ところで、上記のように鉄(Fe)を主成分とする母相内に窒化チタン(TiN)を析出させることにより母相からなるセルの大きさを小さくして鉄基軟磁性材料における渦電流損失を低減するためには、多数の微細な窒化チタン(TiN)の析出物が母相の凝固時に溶湯中に分散していることが必要である。
当該技術分野においては、例えば、金属マグネシウム(Mg)、Fe−Si−Mg及びNi−Mg等のマグネシウム合金、及び酸化マグネシウム(MgO)等のマグネシウム源を溶湯に添加してマグネシウム(Mg)を含む介在物を生成させ、当該介在物を核として窒化チタン(TiN)が析出する温度を調整することが知られている(例えば、特許文献4及び5を参照)。これによれば、多数の微細な窒化チタン(TiN)の析出物を母相の凝固時に溶湯中に分散させて、母相の微細な等軸晶を成長させ、当該母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることができる。
しかしながら、第一材料を始めとする本発明材料は、上述したように、鉄(Fe)を主成分とする母相からなるセルと金属の硫化物等を主成分とするセル境界相とを備えるセルウォール構造を有する。即ち、第一材料を始めとする本発明材料を構成する原材料は硫黄(S)を含む。従って、特許文献2に関して前述したように、マグネシウム(Mg)を含む介在物を溶湯中に生成させようとしても、セル境界相の主成分である硫化物の構成元素である硫黄(S)との反応によってマグネシウム(Mg)が消費され、窒化チタン(TiN)を析出させるための介在物(MgO)を析出させることができない。
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、第一材料を始めとする本発明材料を構成する原材料がアルミニウム(Al)を含む場合に、より確実に、母相の微細な等軸晶を成長させて、当該母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることができることを見出した。
従って、第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料は、上述した第一実施形態の変形例5に係る鉄基軟磁性材料であって、アルミニウム(Al)を更に含む、鉄基軟磁性材料である。換言すれば、第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料は、上述した第一元素、第二元素及び第三元素並びにチタン(Ti)及び窒素(N)に加えて、アルミニウム(Al)を必須の構成成分として更に含む。
尚、上記のように、第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料は、アルミニウム(Al)を必須の構成成分として更に含む。例えば、上述したセル境界相を構成する第二元素としてアルミニウム(Al)が含まれる場合は、上記のように鉄(Fe)を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさを小さくするという目的のために必要な量だけアルミニウム(Al)が増えるようにアルミニウム源の添加量を増やせばよい。一方、第二元素としてアルミニウム(Al)が含まれない場合は、上記目的のために必要な量のアルミニウム(Al)を含むアルミニウム源を添加すればよい。
因みに、第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料において、第二元素としてアルミニウム(Al)が含まれない場合に添加されるアルミニウム(Al)の含有率は、第一元素と第二元素と第三元素との合計を100at%とする場合、1.8at%以下であることが望ましい。
〈効果〉
上記のように、第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料の原材料は、上述した各種元素に加えてアルミニウム(Al)を更に含む。これにより、当該原材料の溶湯を冷却する際に、窒化チタン(TiN)の析出に先立ってアルミニウム(Al)の酸化物を析出させることができ、これを核として多数の微細な窒化チタン(TiN)をより確実に析出させることができる。その結果、溶湯における母相の凝固時に、窒化チタン(TiN)の析出物を核として、より確実に母相の微細な等軸晶を成長させ、当該母相からなる個々のセルの大きさを、より確実に小さくすることができる。これにより、当該鉄基軟磁性材料における渦電流損失をより確実に低減することができる。
《第一実施形態の変形例7》
〈構成〉
上記のように第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料の原材料にアルミニウム(Al)を添加することにより、鉄(Fe)を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさが小さくなるメカニズムとしては、以下のようなメカニズムが考えられる。
先ず、上述した各種元素に加えてアルミニウム(Al)を更に含む原材料の溶湯を冷却する際に、窒化チタン(TiN)の析出が始まるのに先立って、例えばアルミナ(Al)等のアルミニウム(Al)の酸化物が析出する。その後、このようにして析出したアルミニウム(Al)の酸化物を核として、多数の微細な窒化チタン(TiN)が析出する。そして、このようにして析出した窒化チタン(TiN)を核として、母相の微細な等軸晶が成長する。後述する本発明の実施例2に係るサンプルE2においても、窒化チタン(TiN)の析出物の内部にアルミニウム(Al)の酸化物が含まれることが確認されている。
従って、第一実施形態の変形例7に係る鉄基軟磁性材料は、上述した第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料であって、前記母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散しており、且つ、前記窒化チタン(TiN)の析出物がアルミニウム(Al)の酸化物を含む、鉄基軟磁性材料である。
尚、上記のように、第一実施形態の変形例7に係る鉄基軟磁性材料においては、鉄(Fe)を主成分とする母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散しており、当該窒化チタン(TiN)の析出物がアルミニウム(Al)の酸化物を含む。このアルミニウム(Al)の酸化物を構成する酸素(O)は、当該鉄基軟磁性材料の原材料に敢えて添加する必要は無い。
例えば、上述した第三元素としてのカルコゲン(Ch)に酸素(O)が含まれる場合は、当該酸素(O)の一部によってアルミニウム(Al)の酸化物を生成することができる。当該カルコゲン(Ch)に酸素(O)が含まれない場合であっても、例えば、母相の主成分である鉄(Fe)を始めとする他の原材料が不純物として微量(例えば、数百質量ppm未満)の酸素(O)を含有している場合は、当該当該酸素(O)の少なくとも一部によってアルミニウム(Al)の酸化物を生成することができる。或いは、例えばアルミナ(Al)等のアルミニウム(Al)の酸化物をアルミニウム源として当該鉄基軟磁性材料の原材料に添加する場合は、当該酸化物を構成する酸素(O)によってアルミニウム(Al)の酸化物を生成することができる。
因みに、第三元素としてのカルコゲン(Ch)に酸素(O)が含まれない場合における第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料の酸素(O)の含有量はアルミニウム(Al)の濃度に対し原子数で1.5倍以下であることが望ましい。
〈効果〉
上記のように、第一実施形態の変形例7に係る鉄基軟磁性材料においては、鉄(Fe)を主成分とする母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散しており、且つ、これらの窒化チタン(TiN)の析出物がアルミニウム(Al)の酸化物を含む。従って、当該鉄基軟磁性材料の原材料の溶湯の凝固時には、窒化チタン(TiN)の析出に先立ってアルミニウム(Al)の酸化物を析出させることができ、これを核として多数の微細な窒化チタン(TiN)をより確実に析出させることができる。その結果、溶湯における母相の凝固時に、窒化チタン(TiN)の析出物を核として、より確実に母相の微細な等軸晶を成長させ、当該母相からなる個々のセルの大きさを、より確実に小さくすることができる。これにより、当該鉄基軟磁性材料における渦電流損失をより確実に低減することができる。
《第二実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第二実施形態に係る鉄基軟磁性材料の製造方法(以下、「第二方法」と称される場合がある。)について説明する。第二方法は、上述した第一材料の製造方法である。図3に示すように、第二方法は、以下に列挙する第一工程乃至第四工程を含む。
第一工程(ステップS01):前記第一元素と、前記第二元素と、カルコゲン源と、チタン源と、を原材料として秤量する。カルコゲン源とは、前記第三元素、前記第三元素と前記第一元素とを含む化合物、前記第三元素と前記第二元素とを含む化合物及び前記第三元素と前記第二元素と前記第一元素とを含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質である。チタン源とは、チタン(Ti)及びチタン(Ti)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質である。より具体的には、第一元素、第二元素、第三元素及びチタン(Ti)のそれぞれの配合率が所望の組み合わせとなるように、これらの原材料を秤量する。
後述する第二工程において各種原料を加熱して熔解させて溶湯を生成させる過程におけるカルコゲン(Ch)の蒸発を低減する観点からは、例えば、カルコゲン(Ch)そのもの(単体)ではなく、第一元素のカルコゲン化物、第二元素のカルコゲン化物、及び/又は第一元素及び第二元素の複合カルコゲン化物等をカルコゲン源として使用してもよい。この場合、当然のことながら、カルコゲン化物を構成する第一元素及び/又は第二元素もまた第一材料の主成分となる第一元素及び/又は第二元素として扱われる(配合率に算入される)。
例えば、第二元素としての銅(Cu)及び第三元素としての硫黄(S)が採用される場合、カルコゲン源の具体例としては、例えば、硫黄(S)、硫化鉄(FeS)、硫化銅(CuS)、斑銅鉱(CuFeS)及び黄銅鉱(CuFeS)等を挙げることができる。チタン源の具体例としては、例えば、チタン(Ti)、鉄チタン(FeTi)、窒化チタン(TiN)及び酸化チタン(TiO)等を挙げることができる。
第二工程(ステップS02):前記第一工程において秤量された前記原材料を、例えば、アルミナ製の坩堝に入れ、加熱して熔解させることにより溶湯とする。
この第二工程は第一材料を構成する全ての原材料の秤量が完了した後(即ち、ステップS01の実行が完了した後)に実行される。これらの原材料を加熱するための具体的な手段は特に限定されないが、例えば、これらの原材料を収容する坩堝等の容器を溶解炉中に入れ、例えば赤外線ヒータ等の熱源を用いて加熱することができる。
第三工程(ステップS03):前記第二工程において得られた前記溶湯を1450℃以上の温度において窒素(N)と接触させる。
第三工程において溶湯を窒素(N)と接触させるための具体的な方法は特に限定されない。例えば、窒素を含む雰囲気である窒素含有雰囲気中に前記溶湯を保持することにより前記溶湯を窒素(N)と接触させてもよい。この場合、前記窒素含有雰囲気は、窒素の圧力が1kPa以上であり且つ大気圧未満である窒素雰囲気とすることができる。或いは、前記窒素含有雰囲気は、窒素の分圧が1kPa以上であり且つ大気圧未満である窒素と不活性ガス(例えば、アルゴン(Ar)等)との混合ガス雰囲気とすることができる。また、第三工程のみならず、第二工程もまた、窒素含有雰囲気において実行してもよい。
或いは、前記第三工程において、上記のように窒素含有雰囲気中に溶湯を保持することに代えて、又は、窒素含有雰囲気中に溶湯を保持することに加えて、窒素を含むガスを前記溶湯中に吹き込むことにより前記溶湯を窒素(N)と接触させてもよい。
尚、上記のように窒素含有雰囲気中に溶湯を保持することにより、例えば、チタン源として採用された窒化チタン(TiN)の分解により溶湯中に生成した窒素(N)が溶湯から雰囲気中へと放出されることを抑制することができる。
第四工程(ステップS04):前記第三工程において窒素(N)と接触させた前記溶湯を冷却して凝固させることにより前記鉄基軟磁性材料を得る。
この第4工程は第一材料を構成する全ての原材料が熔解して溶湯となり所定の温度において窒素と接触した後(即ち、ステップS01乃至ステップS03の実行が完了した後)に実行される。上記のように溶湯を冷却して溶湯を凝固させるための具体的な手法は特に限定されない。
但し、鉄(Fe)を主成分とする母相の凝固が完了する温度(例えば、1300℃)よりも溶湯の温度が高い期間における溶湯の冷却速度は、所定の冷却速度(例えば、50℃/秒)未満であることが望ましい。これにより、溶湯中に溶解した窒素(N)とチタン(Ti)とから窒化チタン(TiN)を生成・晶出させ、これを核として母相の微細な等軸晶を成長させることができる。即ち、鉄を主成分とする母相からなるセルを微細化することができる。
一方、鉄(Fe)を主成分とする母相の凝固が完了する温度(例えば、1300℃)からセル境界相の凝固が進行する温度(例えば、1000℃)までの範囲に溶湯の温度がある期間における溶湯の冷却速度は、所定の冷却速度(例えば、5℃/秒)以上であることが望ましい。これにより、セル境界相となる液相のセル(鉄を主成分とする母相)に対する界面エネルギーに起因してセル境界相の連続性が低下し、セル同士が互いに接触して、セルが大きくなる可能性を低減することができる。即ち、上記のように微細化されたセルがセル境界相によって分離・絶縁された構造(セルウォール構造)を良好に形成させることができる。
以上説明してきた各工程を含む第二方法によれば、鉄を主成分とする母相からなり微細化されたセルと高い体積固有抵抗(電気抵抗率)を有するセル境界相とを含むセルウォール構造を有することにより渦電流損失がより低減された鉄基軟磁性材料(例えば、第一材料)を製造することができる。
《第二実施形態の変形例》
図3を参照しながら上述した本発明の第二実施形態に係る鉄基軟磁性材料の製造方法(第二方法)と同様に、第二実施形態の変形例に係る鉄基軟磁性材料の製造方法(以降、「第二方法の変形例」と称呼される場合がある。)もまた、前述した本発明の第一実施形態に係る鉄基軟磁性材料(第一材料)の製造方法である。従って、第二方法の変形例は、基本的には、上述した第二方法と同様の構成を有し、第二方法について上述したように第一工程乃至第四工程を含む。
但し、第二方法の変形例は、前述した本発明の第一実施形態の変形例6又は変形例7に係る鉄基軟磁性材料の製造方法である。前述したように、本発明の第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料は、アルミニウム(Al)を必須の構成成分として更に含む、また、本発明の第一実施形態の変形例7に係る鉄基軟磁性材料においては、鉄(Fe)を主成分とする母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散しており、且つ、これらの窒化チタン(TiN)の析出物がアルミニウム(Al)の酸化物を含む。
従って、第二方法の変形例の第一工程においては、第一元素、第二元素、カルコゲン源及びチタン源に加えて、アルミニウム(Al)及びアルミニウム(Al)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるアルミニウム源をも原材料として秤量する。この点を除き、第二方法の変形例は、上述した第二方法と同様である。
尚、第一実施形態の変形例6に係る鉄基軟磁性材料について前述したように、例えば、上述したセル境界相を構成する第二元素としてアルミニウム(Al)が含まれる場合は、鉄(Fe)を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることを目的として添加される分だけアルミニウム(Al)の量を増やせばよい。一方、第二元素としてアルミニウム(Al)が含まれない場合は、上記目的のために必要な量のアルミニウム(Al)を含むアルミニウム源を秤量して添加すればよい。
尚、第一実施形態の変形例6及び変形例7に係る鉄基軟磁性材料の原材料にアルミニウム(Al)を添加するための具体的な手法は、上記のように必要な量のアルミニウム(Al)を含むアルミニウム源を秤量して添加する手法に限定されない。例えば、アルミナ(Al)等のアルミニウム(Al)を含む材料によって形成された坩堝の中でアルミニウム源を含まない原材料を熔解させることにより、坩堝を形成する材料から溶湯へとアルミニウム(Al)を供給してもよい。或いは、撹拌棒等によって坩堝の内壁を摩擦することにより、坩堝を形成する材料の粉末(摩耗粉)を溶湯中に混入させてもよい。
また、第一実施形態の変形例7に係る鉄基軟磁性材料について前述したように、アルミニウム(Al)を含む当該鉄基軟磁性材料の原材料の溶湯の凝固時には、窒化チタン(TiN)の析出に先立ってアルミニウム(Al)の酸化物が析出する。そして、これらのアルミニウム(Al)の酸化物の析出物を核として、多数の微細な窒化チタン(TiN)が析出する。その結果、溶湯における母相の凝固時に、窒化チタン(TiN)の析出物を核として、より確実に母相の微細な等軸晶が成長し、当該母相からなる個々のセルの大きさが小さくなる。これにより、当該鉄基軟磁性材料における渦電流損失をより確実に低減することができる。
上記アルミニウム(Al)の酸化物を構成する酸素(O)は、当該鉄基軟磁性材料の原材料に敢えて添加する必要は無い。例えば、上述した第三元素としてのカルコゲン(Ch)に酸素(O)が含まれる場合は、当該酸素(O)の一部によってアルミニウム(Al)の酸化物を生成することができる。当該カルコゲン(Ch)に酸素(O)が含まれない場合であっても、例えば、母相の主成分である鉄(Fe)を始めとする他の原材料が不純物として微量(例えば、数百質量ppm未満)の酸素(O)を含有している場合は、当該当該酸素(O)の少なくとも一部によってアルミニウム(Al)の酸化物を生成することができる。或いは、例えばアルミナ(Al)等のアルミニウム(Al)の酸化物をアルミニウム源として当該鉄基軟磁性材料の原材料に添加する場合は、当該酸化物を構成する酸素(O)によってアルミニウム(Al)の酸化物を生成することができる。
尚、上述した第二方法及び第二方法の変形例の何れにおいても、少なくとも第三工程において、製造しようとする鉄基軟磁性材料の溶湯を撹拌することが好ましい。これにより、第二工程において得られた溶湯と窒素(N)との接触が促進され、母相における微細な等軸晶の成長の核となる窒化チタン(TiN)の生成が促進される。また、生成した窒化チタン(TiN)の析出物の溶湯内における分散が促進され、母相における微細な等軸晶の均一な成長に繋がる。
《第三実施形態》
以下、本発明の第三実施形態に係る鉄基軟磁性コア(以下、「第三コア」と称される場合がある。)について説明する。第三コアは、上述した第一材料を始めとする本発明材料によって構成される鉄基軟磁性コアである。従って、第三コアにおいては、セルウォール構造を達成することに加えて、鉄を主成分とする母相からなる個々のセルの大きさを小さくすることができる。その結果、個々のセルの大きさを小さくして、渦電流損失を低減することができる。
尚、第三コアの大きさ及び形状は、当該コアの用途に応じて適宜定めることができる。また、第三コアの製造方法は、鉄基軟磁性コアの製造方法として当該技術分野において広く採用されている各種方法の中から適宜選択することができる。
具体的には、例えば、上述した第二方法に含まれる第四工程において溶湯を冷却して凝固させるときに、第三コアとして所望の大きさ及び形状に対応した鋳型に溶湯を注入することにより、所望の大きさ及び形状を有する第三コアを得ることができる。或いは、第四工程において溶湯を鋳型に注入して得られた成形体を第三コアとして所望の大きさ及び形状に対応して加工してもよい。或いは、これらの製造方法を組み合わせてもよい。更に、必要に応じて、所望の大きさ及び形状に成形・加工された第三コアの表面を絶縁性樹脂等によってコーティングしてもよい。鉄基軟磁性コアの製造方法についての更なる詳細については当業者に周知であるので、これ以上の説明は省略する。
《鉄基軟磁性材料サンプルの製造》
上述した特定領域に該当する第一元素(Fe)90.0at%−第二元素(Cu)8.2at%−第三元素(S)1.8at%の三元組成となるように(図1の点Pを参照)、鉄(Fe)、銅(Cu)、及びカルコゲン源(硫黄源)としての硫化鉄(FeS)を秤量した。更に、これらの三元組成100at%に対して(チタン(Ti)が0.5at%となるように)0.5mol%の窒化チタン(TiN)を秤量した(第一工程)。これらの原材料をアルミナ製の坩堝に入れ、赤外加熱炉内において窒素(N)を流しながら加熱して熔解させて溶湯とし(第二工程)、1550℃にて10分間保持した(第三工程)。その後、5℃/秒の冷却速度にて当該溶湯を冷却して凝固させ(第四工程)、700℃以下の温度にて坩堝から取り出した。このようにして製造された本発明の実施例1に係る鉄基軟磁性材料を以降「サンプルE1」と称する。
更に、第三工程における保持温度を1375℃とした点を除き上記サンプルE1と同一の製造条件において比較例に係る鉄基軟磁性材料を製造した。この鉄基軟磁性材料を以降「サンプルC1」と称する。
《鉄基軟磁性材料サンプルのセルウォール構造》
上記のようにして製造した本発明の実施例1に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE1及び比較例に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルC1の研磨断面の顕微鏡写真を図4及び図5にそれぞれ示す。図4と図5との比較からも明らかであるように、サンプルE1においては鉄を主成分とする母相(明るい部分)がより小さいセルに分割されているのに対し、サンプルC1においては非常に長い柱状のセルが形成されている。
即ち、実施例1に係るサンプルE1においては、比較例に係るサンプルC1に比べて、鉄(Fe)を主成分とする母相からなるセルが微細化されている。従って、サンプルE1においては、サンプルC1に比べて、渦電流損失をより確実に低減することができる。
《鉄基軟磁性材料サンプルにおける窒化チタン(TiN)の分布》
次に、サンプルE1及びサンプルC1のそれぞれの研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を電子顕微鏡によって観察した結果を図6及び図7にそれぞれ示す。何れの図においても、黒い矩形状の析出物が窒化チタン(TiN)である。サンプルE1については多くの窒化チタン(TiN)が母相内において観察されたのに対し、サンプルC1については窒化チタン(TiN)の晶出が少なく、また晶出した窒化チタン(TiN)のほぼ半数がセル境界相内において観察された。
上記観察結果から、サンプルE1については第三工程において溶湯を1450℃以上(この例においては1550℃)の温度において保持したので、原材料として添加した窒化チタン(TiN)及び/又は溶湯内に熔解したチタン(Ti)と雰囲気中に含まれる窒素(N)との反応によって生成された窒化チタン(TiN)が一旦は溶湯に熔解した後、冷却時に晶出して核となり、母相の微細な等軸晶が成長したものと考えられる。
一方、保持温度を1375℃としたサンプルC1については、保持温度が低いために窒化チタン(TiN)が溶湯に熔解し難く、冷却時に晶出して核となる窒化チタン(TiN)が少なく、先に凝固する母相には含まれ難いものと考えられる。その結果、晶出した窒化チタン(TiN)のほぼ半数がセル境界相内において観察されたものと考えられる。
《鉄基軟磁性材料サンプルにおける窒化チタン(TiN)の元素分析》
次に、図6の(b)に示した黒い矩形状の析出物が窒化チタン(TiN)であるか否かを確認すべく、図6の(b)に示したサンプルE1の研磨断面における析出物(スペクトル1乃至4)についてのSEM/EDS(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)分析を行った。点分析の結果を以下の表1に示す。尚、表1においては、それぞれの元素の組成比が「原子組成百分率」(at%)によって示されている。
表1に示した結果から、スペクトル番号1(図6の(b)における左上)及びスペクトル番号3(図6の(b)における左下)の析出物は、窒化チタン(TiN)であり、母相に含まれる鉄(Fe)も検出されているものと判断される。また、スペクトル番号4(図6の(b)における右上)の析出物は、酸化チタン(TiO)であり、この析出物においてもまた母相に含まれる鉄(Fe)も検出されているものと判断される。
《纏め》
以上のように、本発明の実施例1に係るサンプルE1においては、母相中に晶出した窒化チタン(TiN)を核とすることにより、比較例に係るサンプルC1よりも微細なセルが形成されている。従って、サンプルE1においては、サンプルC1に比べて、渦電流損失をより確実に低減することができる。また、母相中に認められた晶出物が窒化チタン(TiN)であることも確認された。
《鉄基軟磁性材料サンプルの製造》
上述した本発明の実施例1に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE1と同様に、前述した特定領域に該当する第一元素(Fe)90.0at%−第二元素(Cu)8.2at%−第三元素(S)1.8at%の三元組成となるように(図1の点Pを参照)、鉄(Fe)、銅(Cu)、及びカルコゲン源(硫黄源)としての硫化鉄(FeS)と、これらの三元組成100at%に対して(チタン(Ti)が0.5at%となるように)0.5mol%のチタン源及び1at%のアルミニウム源(金属アルミニウム(Al))とを秤量した(第一工程)。尚、金属チタン(Ti)の融点はサンプルE1の原材料の中で最も高く、溶湯の調製時にチタン(Ti)が熔解し難いため、本実施例においては鉄チタン合金(Fe−Ti)をチタン源として採用した。当然のことながら、鉄チタン合金(Fe−Ti)に含まれる鉄(Fe)もまた第一元素としての鉄(Fe)の配合量に算入される。
上記原材料を多孔質アルミナ(Al)製の坩堝(外径:36.5mmφ、内径:24mmφ、高さ:60mm、底厚:5mm)に入れ、誘導熔解炉内に設置した。そして、4vol%の窒素(N)を含むアルゴン(Ar)ガスである雰囲気ガスを2L/分の流量にて流しながら、誘導加熱によって熔解させて溶湯とし(第二工程)、1470℃にて当該溶湯を撹拌しながら5分間保持した(第三工程)。その後、上記雰囲気ガス(Ar+N)の流量を25L/分に増やし、当該溶湯を冷却して凝固させ(第四工程)、600℃以下の温度にて坩堝から取り出した。このようにして製造された本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料を以降「サンプルE2」と称する。
また、アルミニウム(Al)が原材料に含まれない点及び第三工程において1550℃にて溶湯を撹拌せずに保持した点を除き上記サンプルE2と同一の製造条件において、本発明の実施例2に係るもう1つの鉄基軟磁性材料を製造した。この鉄基軟磁性材料を以降「サンプルE3」と称する。
更に、アルミニウム(Al)が原材料に含まれない点を除き上記サンプルE2と同一の製造条件において、本発明の実施例2に係る更にもう1つの鉄基軟磁性材料を製造した。この鉄基軟磁性材料を以降「サンプルE4」と称する。
一方、原材料がチタン(Ti)及びアルミニウム(Al)を含まない点、並びに、第三工程において、1550℃にて溶湯を撹拌せずに5分間保持した後、溶湯の温度をそれぞれ1470℃及び1410℃まで下げ、溶湯を撹拌せずに1分間保持し、更に溶湯を撹拌しながら1分間保持した点を除き上記サンプルE2と同一の製造条件において、比較例に係る2種の鉄基軟磁性材料を製造した。これらの鉄基軟磁性材料を以降「サンプルC2」及び「サンプルC3」とそれぞれ称する。
更に、坩堝を形成する材料を多孔質アルミナ(Al)から多孔質マグネシア(MgO)及び多孔質スピネル(MgO・Al)に変更した点を除き上記サンプルE3と同一の製造条件において、2種の鉄基軟磁性材料のサンプルをそれぞれ製造しようとした。しかしながら、これらのサンプルについては、第二工程における昇温過程の途中で坩堝内の温度が約1200℃に達した時点において、坩堝の側面から溶湯の染み出しているように見受けられた。
そこで、その時点において誘導加熱を停止し且つ雰囲気ガスの流量を増やして降温させた。その後、誘導熔解炉から坩堝を取り出し、側面の断面を観察したところ、坩堝の側壁の全幅(内面から外面に至るまでの全範囲)に亘って黒変が認められた。この黒変した箇所について蛍光X線分析を行った結果、鉄(Fe)、銅(Cu)、及び硫黄(S)が検出され、溶湯に含まれるこれらの成分が坩堝の側壁に浸透したことが確認された。尚、黒変した箇所においてチタン(Ti)は検出されなかった。このように目的とする2種の鉄基軟磁性材料を製造することができなかったが、便宜上、これらのサンプルを以降「サンプルC4」及び「サンプルC5」とそれぞれ称する。
尚、サンプルC4及びサンプルC5についての上記結果から、マグネシア(MgO)及びスピネル(MgO・Al)等のマグネシウム(Mg)を含む材料によって形成される坩堝は、硫黄(S)を含む鉄基軟磁性材料の製造に使用することができないことが判る。これは、前述したように、当該鉄基軟磁性材料に含まれるセル境界相の主成分である硫化物の構成元素である硫黄(S)がマグネシウム(Mg)と反応することにより、坩堝への浸透が促進されるためと考えられる。
《鉄基軟磁性材料サンプルのセルウォール構造》
上記のようにして製造した本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE2の研磨断面の顕微鏡写真を図8(全体写真)及び図9(拡大写真)に示す。また、サンプルE3の研磨断面の顕微鏡写真を図10(拡大写真)に示す。更に、サンプルE4の研磨断面の顕微鏡写真を図11(全体写真)及び図12(拡大写真)に示す。一方、比較例に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルC2及びサンプルC3の研磨断面の顕微鏡写真を図13及び図14(何れも拡大写真)にそれぞれ示す。尚、上述したように鉄基軟磁性材料を製造することができなかったサンプルC4及びサンプルC5の研磨断面の顕微鏡写真は撮影しなかった。
図8及び図9からも明らかであるように、前述した特定領域に該当する組成となるように配合された第一元素(Fe)、第二元素(Cu)及び第三元素(S)と、チタン(Ti)と、アルミニウム(Al)とを含む、本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE2においては、鉄を主成分とする母相(明るい部分)が非常に小さいセルに分割されている。また、図10乃至図12からも明らかであるように、アルミニウム(Al)は添加されていないものの、前述した特定領域に該当する組成となるように配合された第一元素(Fe)、第二元素(Cu)及び第三元素(S)と、チタン(Ti)とを含む、本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE3及びサンプルE4においても、鉄を主成分とする母相(明るい部分)が、サンプルE2に比較すれば大きいものの、小さいセルに分割されている。
上記に対し、前述した特定領域に該当する組成となるように配合された第一元素(Fe)、第二元素(Cu)及び第三元素(S)を含むものの、チタン(Ti)及びアルミニウム(Al)が何れも添加されていない、比較例に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルC2及びサンプルC3においては、図13及び図14からも明らかであるように、非常に長い柱状のセルが形成されている。
即ち、本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE2乃至サンプルE4においては、比較例に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルC2及びサンプルC3に比べて、鉄(Fe)を主成分とする母相からなるセルが微細化されている。従って、本発明の実施例2に係るサンプルE2乃至サンプルE4は、比較例に係るサンプルC2及びサンプルC3に比べて、渦電流損失をより確実に低減することができる。特に、アルミニウム(Al)が原材料に添加されているサンプルE2においては、アルミニウム(Al)が原材料に添加されていないサンプルE3及びサンプルE4よりも更に母相からなるセルが微細化されている。従って、サンプルE2乃至サンプルE4の中でも、サンプルE2は、渦電流損失を更により確実に低減することができる。
《鉄基軟磁性材料サンプルにおける窒化チタン(TiN)の分布》
次に、本発明の実施例2に係る鉄基軟磁性材料であるサンプルE2乃至サンプルE4のそれぞれの研磨断面における窒化チタン(TiN)の分布を電子顕微鏡によって観察した結果を図15乃至図17にそれぞれ示す(倍率はそれぞれ異なる)。サンプルE2乃至サンプルE4の何れにおいても、黒い矩形状の析出物が母相内において観察された。当該析出物は窒化チタン(TiN)であると考えられる(後に検証する)。
上記観察結果から、サンプルE2乃至サンプルE4の何れについても第三工程において溶湯を1450℃以上(それぞれ、1470℃、1550℃、及び1470℃)の温度において保持したので、原材料として添加した窒化チタン(TiN)及び/又は溶湯内に熔解したチタン(Ti)と雰囲気中に含まれる窒素(N)との反応によって生成された窒化チタン(TiN)が一旦は溶湯に熔解した後、冷却時に晶出して核となり、母相の微細な等軸晶が成長したものと考えられる。
《鉄基軟磁性材料サンプルにおける窒化チタン(TiN)の元素分析》
次に、上述した図15乃至図17に示した黒い矩形状の析出物が窒化チタン(TiN)であるか否かを確認すべく、SEM/EDS(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)分析を行った結果を、それぞれ図18乃至図20に示す。図18乃至図20の何れにおいても、(a)はチタン(Ti)、(b)は窒素(N)、(c)はアルミニウム(Al)、(d)は鉄(Fe)、(e)は銅(Cu)、及び(f)は硫黄(S)の分布を明るい点によって示している。
図18乃至図20の何れにおいても、図15乃至図17に示した黒い矩形状の析出物に対応する箇所にチタン(Ti)及び窒素(N)が集中していることが判る。但し、サンプルE4については、母相内のみならずセル境界相内においてもチタン(Ti)が検出された。これらの結果から、図15乃至図17に示した黒い矩形状の析出物は窒化チタン(TiN)であることが確認された。
また、サンプルE3においては、アルミニウム源が原材料に添加されていないにも拘わらず、図19の(c)に示すように、窒化チタン(TiN)の析出物の中心付近においてアルミニウム(Al)が検出された。このアルミニウム(Al)は、サンプルE3の製造において使用した多孔質アルミナ(Al)製の坩堝から溶湯へとアルミニウム(Al)が溶出したか、或いは第三工程における撹拌時に当該坩堝の内壁が撹拌等によって摩擦されて摩耗粉が溶湯中に混入したものと判断される。
《纏め》
以上のように、本発明の実施例2に係るサンプルE2乃至サンプルE4においては、母相中に晶出した窒化チタン(TiN)を核とすることにより、比較例に係るサンプルC2及びサンプルC3よりも微細なセルが形成された。従って、サンプルE2乃至サンプルE4においては、サンプルC2及びサンプルC3に比べて、渦電流損失をより確実に低減することができる。
特に、アルミニウム(Al)が原材料に添加されているサンプルE2においては、アルミニウム(Al)が原材料に添加されていないサンプルE3及びサンプルE4よりも更に母相からなるセルが微細化されている。従って、サンプルE2乃至サンプルE4の中でも、サンプルE2は、渦電流損失を更により確実に低減することができる。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び変形例並びに実施例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び変形例並びに実施例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。

Claims (15)

  1. 鉄(Fe)からなる第一元素と、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である第二元素と、少なくとも硫黄(S)を含むカルコゲン(Ch)からなる第三元素と、を含有し、且つ、鉄(Fe)を主成分とする母相からなるセルと、少なくとも前記第二元素を含む金属と前記第三元素とからなるカルコゲン化物を主成分として含み前記セルの境界に存在するセル境界相と、を含む構造を有する鉄基軟磁性材料であって、
    前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、2at%以下のチタン(Ti)及び2at%以下の窒素(N)を更に含む、
    鉄基軟磁性材料。
  2. 請求項1に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    前記第二元素は、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、
    鉄基軟磁性材料。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    前記第一元素は、鉄(Fe)に加えて、ニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)を更に含む、
    鉄基軟磁性材料。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    前記第二元素は銅(Cu)であり、
    前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素とのそれぞれの含有率の組み合わせが、前記第一元素、前記第二元素及び前記第三元素の原子濃度の三元組成図において、第一元素91.9at%−第二元素7.1at%−第三元素1.0at%を表すA点、第一元素87.0at%−第二元素12.0at%−第三元素1.0at%を表すB点、第一元素75.0at%−第二元素20.0at%−第三元素5.0at%を表すC点、及び第一元素75.0at%−第二元素13.1at%−第三元素11.9at%を表すD点によって囲まれる領域である特定領域に対応する組み合わせである、
    鉄基軟磁性材料。
  5. 請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    前記第二元素はアルミニウム(Al)であり、
    前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素との合計を100at%とする場合、前記第一元素と前記第二元素と前記第三元素とのそれぞれの含有率の組み合わせが、前記第一元素、前記第二元素及び前記第三元素の原子濃度の三元組成図において、第一元素97.5at%−第二元素0.8at%−第三元素1.7at%を表すA点、第一元素67.9at%−第二元素30.3at%−第三元素1.8at%を表すB点、第一元素56.0at%−第二元素32.0at%−第三元素12.0at%を表すC点、及び第一元素83.4at%−第二元素5.0at%−第三元素11.6at%を表すD点によって囲まれる領域である特定領域に対応する組み合わせである、
    鉄基軟磁性材料。
  6. 請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    前記母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散している、
    鉄基軟磁性材料。
  7. 請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    アルミニウム(Al)を更に含む、
    鉄基軟磁性材料。
  8. 請求項7に記載の鉄基軟磁性材料であって、
    前記母相内に窒化チタン(TiN)の析出物が分散しており、
    前記窒化チタン(TiN)の析出物がアルミニウム(Al)の酸化物を含む、
    鉄基軟磁性材料。
  9. 請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料の製造方法であって、
    前記第一元素と、前記第二元素と、前記第三元素、前記第三元素と前記第一元素とを含む化合物、前記第三元素と前記第二元素とを含む化合物及び前記第三元素と前記第二元素と前記第一元素とを含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるカルコゲン源と、チタン(Ti)及びチタン(Ti)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるチタン源と、を原材料として秤量する、第一工程と、
    前記第一工程において秤量された前記原材料を加熱して熔解させることにより溶湯とする、第二工程と、
    前記第二工程において得られた前記溶湯を1450℃以上の温度において窒素(N)と接触させる、第三工程と、
    前記第三工程において窒素(N)と接触させた前記溶湯を冷却して凝固させることにより前記鉄基軟磁性材料を得る、第四工程と、
    を含む、鉄基軟磁性材料の製造方法。
  10. 請求項7又は請求項8に記載の鉄基軟磁性材料の製造方法であって、
    前記第一元素と、前記第二元素と、前記第三元素、前記第三元素と前記第一元素とを含む化合物、前記第三元素と前記第二元素とを含む化合物及び前記第三元素と前記第二元素と前記第一元素とを含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるカルコゲン源と、チタン(Ti)及びチタン(Ti)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるチタン源と、アルミニウム(Al)及びアルミニウム(Al)を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であるアルミニウム源と、を原材料として秤量する、第一工程と、
    前記第一工程において秤量された前記原材料を加熱して熔解させることにより溶湯とする、第二工程と、
    前記第二工程において得られた前記溶湯を1450℃以上の温度において窒素(N)と接触させる、第三工程と、
    前記第三工程において窒素(N)と接触させた前記溶湯を冷却して凝固させることにより前記鉄基軟磁性材料を得る、第四工程と、
    を含む、鉄基軟磁性材料の製造方法。
  11. 請求項9又は請求項10に記載の鉄基軟磁性材料の製造方法であって、
    前記第三工程において、前記溶湯を撹拌する、
    鉄基軟磁性材料の製造方法。
  12. 請求項9乃至請求項11の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料の製造方法であって、
    前記第三工程において、窒素を含む雰囲気である窒素含有雰囲気中に前記溶湯を保持することにより前記溶湯を窒素(N)と接触させる、
    鉄基軟磁性材料の製造方法。
  13. 請求項12に記載の鉄基軟磁性材料の製造方法であって、
    前記窒素含有雰囲気は、窒素の圧力が1kPa以上であり且つ大気圧未満である窒素雰囲気又は窒素の分圧が1kPa以上であり且つ大気圧未満である窒素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気である、
    鉄基軟磁性材料の製造方法。
  14. 請求項9乃至請求項13の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料の製造方法であって、
    前記第三工程において、窒素を含むガスを前記溶湯中に吹き込むことにより前記溶湯を窒素(N)と接触させる、
    鉄基軟磁性材料の製造方法。
  15. 請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載の鉄基軟磁性材料によって構成される鉄基軟磁性コア。
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