JP2018075159A - 超高純度マグネシウムを用いる医療用インプラント材、及び医療用インプラントの製造方法 - Google Patents

超高純度マグネシウムを用いる医療用インプラント材、及び医療用インプラントの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】超高純度マグネシウムを使用して、ボーンプレートとして使用する場合、骨接合時は強度を保持し、骨接合後は生体内消滅してくれる生分解性を有し、すでに汎用されているチタンやチタン合金製のインプラントと強度面で遜色のないインプラントを提供することを課題とする。【解決手段】真空蒸留された超高純度マグネシウムのインゴットを、真空蒸留工程と、昇華、凝縮方向に鍛造を数回行う工程と、インプラント1個を加工可能な大きさに切断する切断工程と、切断された材料を鍛造によりインプラントに加工する工程を用いてインプラントを製造することにより、骨接合時は強度を保持し、骨接合後は生体内消滅してくれる生分解性を有するインプラントを提供することができる。【選択図】図9

Description

本発明は、高純度マグネシウムを用いるインプラント材、及び医療用インプラントの製造方法に関する。特に、生分解性を備えた高純度マグネシウム材、該高純度マグネシウムをインプラントに適した強度にする製造方法、及び該高純度、高強度マグネシウムを用いた医療用インプラントに関する。
従来、骨の損傷部分又は骨折部分等の接合術又は再建術において、骨の固定、補綴等に用いられるインプラントの材料としては、強度等の機械的性質及び加工性に優れた金属材料が用いられてきた。特に、生体適合性が良く、強度の高いステンレス、タンタル、チタン又はチタン合金が用いられている。
しかしながら、上記金属製のボーンプレートやステントは、治療後も長期、もしくは半永久的に体内に留置せざるを得ないことから生じるリスクが問題となっている。具体的には、長期にわたり留置しておくと、インプラントが骨に代わって荷重を支持することになり、骨量が減少したり骨が脆弱化するストレスシールディング(応力遮蔽)と呼ばれる現象である。また、成長期の小児に前記インプラントを用いると、骨の成長を阻害することが懸念される。
そこで、骨の損傷又は骨折の治療後に、再手術によりボーンプレートを抜去することが行われている。しかし、再手術を行うことは患者の負担が大きいことから、再手術を行う必要のないボーンプレートの開発が望まれている。
また、ステントの場合は、ステント血栓症のリスクや、ステント本体により血管壁に対して生じるメカニカルストレスのために、慢性的な炎症が起こる可能性が指摘されている。また、バイパス手術やCT撮影の際に邪魔になるという問題もある。そのため、一定期間後に分解される素材の出現が望まれていた。
このような再手術を必要としない生分解性のある素材として、ポリ乳酸や濃度が99.99重量%を超える高純度マグネシウム材料を用いるインプラントが提案されている(特許文献1〜3、6)。
特許文献1には、高純度マグネシウムを用いた生体内分解性を有する骨接合材が開示されている。実施例によれば99.998重量%のマグネシウム濃度のマグネシウム塊を加圧成形、あるいは圧造成形によりボーンプレート等を製造している。
特許文献2には、耐食性の高い高純度マグネシウム金属で形成されている第1部分と、耐食性の低い低純度マグネシウム金属で形成されている第2部分とを有するボーンプレートなどの生体器具が開示されている。純度の異なる2種のマグネシウムを用いることによって、生体内での溶解速度の制御を図ろうとするものである。
特許文献3には、形状記憶機能を有する生体吸収ポリマーからなる糸により形成された脈管用ステントが開示されている。生体吸収ポリマーとして、ポリ乳酸(PLLA)、ポリグリコール酸(PGA)が開示されている。
特許文献6には、99.99重量%以上のマグネシウムであって、その他の含有元素の量を制限した材料を用いて、蒸留、押出、型鍛造によりインプラントを製造する方法が開示されている。
国際公開第2013/021913号 国際公開第2015/098071号 国際公開第00/13737号 特開2005−126802号 特開2013−198698号 国際公開第2016/148172号
超高純度マグネシウムを用いた生体吸収性ボーンプレート製造技術の開発、平成23年度第3時補正予算事業 戦略的基盤技術高度化支援事業 成果報告書(公開版)、東北経済産業局、2013.2 井上 誠、長岡技術科学大学平成11年博士論文「マグネシウム合金の精製および耐食性に関する研究」
特許文献1に開示されている方法は、4N(Nは濃度の連続する9の桁数を表す。)以上の高純度マグネシウムを用いるものであり、生分解性は適度に保たれているものの、強度が十分ではないという問題があった。そのため、特に荷重のかかる骨接合では十分な強度を担保することができなかった。特許文献2に開示されている生体器具は、生体に吸収される時間を制御できるものの、どちらもマグネシウム金属からなる部材を組み合わせており、組み合わせた材料における十分な強度を得ることが困難であるという問題があった。特許文献3に記載のポリマーは、生分解性は良いものの、強度が弱く、ステントとして使用するのには問題は生じないが、ボーンプレートのように荷重のかかる部材としての使用には使用部分が制限されていた。特許文献6に開示されている方法で製造したボーンプレートは、生分解性、強度は良好であるが、生体内での強度評価が十分になされてはいない。
すなわち、ポリ乳酸も高純度マグネシウムも生分解性には優れているものの、強度が低いという問題点がある。特に、ポリ乳酸は、生分解性は良いものの強度が弱い。そのため骨折の治療に使用されるボーンプレートのように強度が必要とされる医療用部材に用いると荷重を支えきれず、また、ステントに用いた場合には拡張した血管を支えきれないという問題が生ずる。
マグネシウムの比重は1.74と鉄の1/4、アルミニウムと比べても2/3と実用金属の中では最も軽く、鉄やアルミニウムと比較して重量当たりの強度や剛性が優れている。しかしながら、重量当たりの強度や剛性が優れているとはいえ、生体内で用いるためにはできるだけ軽く、また、厚みを薄くする必要がある。マグネシウムは、鉄、アルミニウムに比べて、剛性が優れているとはいえ、チタン、チタン合金に比べて強度が低い。そのため、生体内に留置するボーンプレート等のインプラント材料のチタンに代わる材料としては、生体吸収性という利点があるにもかかわらず現在までのところ実用化に至っていないというのが現状である。
金属の強度を向上させるには、一般的には加工により金属組織を微細化することが試みられており、加工方法として、圧延、押出、捩り、鍛造等が挙げられ、鉄等の加工では既に実用化されている。マグネシウムの強度向上のためにこれまでに実施されてきた方法としては合金化が挙げられ、マグネシウムとその他金属との固溶体形成、化合物形成により、強度向上効果を得て、一部実用化されている。
特許文献5に開示されているように、マグネシウム合金の加工方法として、押出、切断、圧縮、打ち抜きを適用し、これらの工程の順序、加工の方向を厳密に指定している。この理由は、押出方向であるa軸と平行な方向に圧縮すると、金属結晶のc軸に直交する方向に圧縮荷重がかかることになり、結晶構造に構造欠陥が生じ、強度低下、材料破損に繋がることを防止することにある。このような厳密な加工方法を適用せざるを得ないのは、対象材料がマグネシウム合金であることによる。
またマグネシウムを合金化することにより、強度向上ははかれるものの生分解性が非常に速くなりボーンプレートとして使用する場合、骨接合前に溶けてしまうことは、非特許文献1に示されており、これを防止するために、樹脂製コーティングを行うことが試みられている。しかし、体内留置時に金属と樹脂の接合面が剥離してしまうことが懸念されており、実用化していない。
ボーンプレートとして使用する場合、骨接合時は強度を保持し、骨接合後は生体内で生分解により消滅してくれる生分解性を持つマグネシウムの性状を具備するためには、合金化ではなく、逆に高純度化であると考えられる。高純度化のためには、特許文献4、6、非特許文献2に示されているように、市販の99.9重量%の濃度を持つマグネシウムを用いて、真空蒸留によりマグネシウムを昇華させ、他の含有元素とは異なる温度帯で凝縮させる方法が開示されている。
マグネシウムの高純度化をはかる方法として、特許文献4、6に示される方法が開示されている。しかし、真空蒸留により昇華、凝縮させたマグネシウムは、例えば円柱状のインゴットを得たとしても、凝縮の工程を経るため極めてポーラスなインゴットとなり、気孔率は10体積%程度になっている。このままではインプラント材料としては使用できないため、気孔をゼロとする加工方法の適用、及び既存のチタン等の材料に匹敵する強度を付加する必要がある。このための加工法として、特許文献6に押出、型鍛造による方法が示されているが、生体内での強度評価は十分ではなく、適正な加工方法は未だ開発されていない。さらに、ボーンプレートとして使用する場合、骨接合時は強度を保持し、骨接合後は生体内で生分解により消滅してくれる生分解性を制御できる方法も見出されていない。
本発明は、超高純度マグネシウムを使用して、ボーンプレートとして使用する場合、骨接合時は強度を保持し、骨接合後は生体内で消滅する生分解性を有し、すでに汎用されているチタンやチタン合金製のインプラントと強度面で遜色のないインプラントを提供することを課題とする。そのために安定して超高純度マグネシウムを精製すること、さらにその強度をボーンプレート、ステント等のインプラントとして使用する場合にも十分に耐えられる強度、及び生分解性を備えた超高純度マグネシウム素材を製造することを課題とする。
本発明は、亜鉛以外の元素(シリコン、アルミニウム、マンガン)の濃度が検出限界未満であり、マグネシウムの濃度が99.99重量%を超える組成を持つ医療用インプラントに用いる超高純度マグネシウムであることを特徴とする。
インプラントとして用いるマグネシウム素材としては濃度99.99重量%を超える、すなわち4N以上の純度のマグネシウムであることが生分解性の点から望ましい。4N以上の高純度マグネシウムが耐食性に優れていることはすでに知られている。骨折の治療、血管の拡張といった治療目的で生体内に留置した場合に、少なくとも6ヶ月は生体内で十分な強度を備えていることが必要とされる。3N程度の純度のマグネシウムは耐食性が低いことが指摘されており、体内での吸収が早いため6ヶ月後には十分な強度を保つことができない。したがって、4N以上の純度の耐食性に優れたマグネシウムであることがボーンプレート、ステント等のインプラントの素材として要求される。
さらに、本発明者が鋭意検討したところ、マグネシウム濃度が99.99%を超える同じような純度のマグネシウムであっても、不純物の組成によって生体内での溶解性が違うことが明らかとなった。インプラントとして用いる場合には、体内で溶解し吸収されることは重要であるが、溶解速度が速いと骨を接合した箇所が十分な強度を得る前にインプラントが吸収されてしまう可能性がある。しかし、不純物として含まれるSi、Al、Mnが極めて低濃度であれば、骨接合後6ヶ月程度までインプラントとして十分な強度を保てることが明らかとなった。具体的には、Si、Al、及びMnが検出限界未満であれば、体内における吸収が比較的緩やかであり、生体内留置後6ヶ月でも断面積が元の断面積形状の80%以上を維持することができる。
本発明のインプラントとして用いるマグネシウムの精製方法は、99.9重量%以上〜99.99重量%未満の濃度のマグネシウムを、0.4重量%以上〜1.2重量%以下のアルミニウムと共に真空蒸留することを特徴とする。
マグネシウム素材を真空蒸留する際に、アルミニウム箔を被覆して真空蒸留することによって、安定して4N以上の超高純度のマグネシウムインゴットが得られるとともに、Si,Al,Mnの含有量が検出限界未満となる。また、これら以外の元素についても、蒸発温度の低いアルミニウム箔を一定濃度加えて真空蒸留しているのにもかかわらず、アルミニウムが検出限界未満であることから、検出限界未満であることが推認される。Si,Al,Mnが検出限界未満であることにより、また、Znしか含まれないことにより、インプラントとして必要な耐食性を担保することができる。また、この方法によって精製することによって安定して超高純度マグネシウムを精製することが可能となる。
また、上記の超高純度マグネシウムは強度がそんなに高くなく、通常の真空蒸留により精製を行った状態のままでは荷重を十分に支える強度を得ることができない。本発明の加工方法は、インプラントとして用いるマグネシウムの製造方法であって、真空蒸留されたマグネシウムのインゴットを、昇華、凝縮方向に鍛造を数回行う工程と、インプラント1個を加工可能な大きさに切断する切断工程と、切断された材料を鍛造によりインプラントに加工する工程を含むことを特徴とする。
真空蒸留により製造されたマグネシウムインゴットは、昇華、凝縮方向に組織が揃っており、このままインプラントを製造すると、その方向性が強度を低下させる一因となっている。これを取り除くために、上述した加工方法を行い、組織としての方向性を無くすことにより、十分な強度を備え、さらに製品ごとの強度のばらつきのない素材を得ることができる。また、生体内での吸収速度も適切なマグネシウム素材を得ることができる。
本発明では、マグネシウム蒸留精製後の加工によって、ボーンプレートやステント等のインプラントとして用いた際に、十分な強度が得られ、生体内に6ヶ月留置後であっても85N・mmの強度を得ることができた。また、生体内に6ヶ月留置後の強度が85N・mmであれば、ボーンプレートとして用いた場合にも、治癒途上にある骨を支えるのに十分な強度である。
本発明のインプラントは、前記超高純度マグネシウムを用いることを特徴とする。また、前記インプラントが、ボーンプレート、ステント、又は止血クリップであることを特徴とする。
本発明の方法によって、製造したマグネシウム部材を用いて作成したインプラントは強度も高く、また生分解性も良く、生体内の吸収分解様式およびZn以外の金属が検出限界未満であることから、ヒトでの臨床使用において安全性が高い。したがって、ボーンプレート、ステント、止血クリップとして用いた場合でも必要な強度を備えている。また、生体に吸収されることから、再手術によって取り除く必要がなく、患者の負担が少ない。
本発明の超高純度マグネシウムを用いて製造したインプラントは、生体内で吸収されることから、抜去するために再手術の必要がない。また、生体内で吸収されるもののその吸収速度が比較的遅いことから骨折の治療に用いた場合でも、長期間荷重を支えるだけの十分な強度を得ることができる。
真空蒸留した後のマグネシウムインゴット形状を示す写真。 真空蒸留した後のマグネシウムインゴットを鍛造した後の緻密化されたインゴットを示す写真。 鍛造された緻密化インゴットから切削加工により作製したプレートの曲げ強度を測定した図。 鍛造された緻密化インゴットから切削加工により作製したプレートの厚みを変えて曲げ強度を測定した図。 鍛造した緻密化インゴットから切断した板材にさらなる鍛造を行う本発明の加工方法を示す図。 鍛造した緻密化インゴットから切断した板材にさらなる鍛造を行う本発明の加工方法を示す図。 真空蒸留した後のマグネシウムインゴットを鍛造し、適当な大きさに切断した後鍛造を行って作製したプレートの曲げ強度を測定した図。 動物実験において、体内に留置したマグネシウムプレートを埋入期間ごとに取り出して重量減少率を測定した図。 動物実験において、体内に留置したマグネシウムプレートを埋入期間ごとに取り出して曲げ強度を測定した図。
本発明者は、真空蒸留法によってマグネシウムを精製する際に、アルミニウムを共存させることによって、安定して超高純度マグネシウムが得られることを見出した。具体的には市販の純度99.9%重量以上〜99.99重量%未満のマグネシウムに、アルミニウム箔をマグネシウム地金に対して0.4重量%〜1.2重量%のアルミニウムになるよう被覆し、真空蒸留法により精製する。
真空蒸留装置は一般的に用いられている真空蒸留装置を用いればよい。ここでは、非特許文献2に記載の自製の装置と基本的に同形の装置を用いて真空蒸留を行った。具体的には、原料となるマグネシウム及びアルミニウム箔を坩堝に収容し、10Pa以下の減圧下、600℃程度に加熱することにより昇華させる。
次に、昇華させたマグネシウム蒸気を坩堝の上方に配設された凝縮器に凝縮させる。前記のように10Pa以下の減圧下、600℃程度に加熱する状態を12時間程度保持することにより、4N以上のマグネシウムを得ることができる。
原料となるマグネシウム材料としては、市販のマグネシウム地金を用いることができる。マグネシウム地金は3N級マグネシウム材料であればよく、99.99重量%未満のマグネシウムと残部の不純物からなる。不純物としては、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、銀、カドミウム、スズ、ランタン、セリウム、ネオジム、鉛、水銀、ナトリウム等が含まれる。
ここでは、マグネシウム99.93重量%、亜鉛0.0025重量%、鉄0.0024重量%、ケイ素0.0016重量%、ニッケル0.0005重量%、銅0.0011重量%、アルミニウム0.015重量%、マンガン0.016重量%、ナトリウム0.003重量%からなるマグネシウム地金を用いて精製を行った。
実施例として、上記マグネシウム材料に対して、0.49重量%のアルミニウム箔を被覆して真空蒸留を行った。真空蒸留の条件は、10Pa以下 の減圧下、温度600℃、12時間で行った。
真空蒸留により精製された試料の成分分析の方法及び結果を以下に示す。真空蒸留によって精製したインゴットは図1に示すように円柱状をしており、その成分は均質なわけではない。マグネシウム以外の不純物にも固有の沸点があるため、蒸留の時期によって蒸留される成分が異なるからである。そこで、試料を2個準備し、試料を横断する方向において中心部、中間部、周辺部から試料を採取しそれぞれ成分分析を行った。
分析方法は以下のとおりである。得られた試料を酸で溶解し、ICP重量分析法でZn、Mn、酸可溶性Al(sol.Al)を分析した。酸溶解残渣はアルカリ溶解後、酸で溶解し、原子吸光分析法で酸不溶性Al(insol.Al)を分析した。また、Siはモリブデン酸青吸光光度法で測定した。成分分析の結果を表1に示す。なお、比較例は、アルミニウム箔を被覆えずに真空蒸留を行った以外は全く実施例と同様にして精製した試料を分析し、結果を表2に示す。
Figure 2018075159
Figure 2018075159
マグネシウムの融点が651℃、減圧時の蒸発温度が443℃であるのに対し、亜鉛の融点は419℃、減圧時の蒸発温度は343℃と低いことから、マグネシウムを真空蒸留によって精製する過程で亜鉛を除去するのが困難であり、マグネシウムインゴットには亜鉛を不純物として含むものが多い。そのためマグネシウム精製後の純度をインゴット中の亜鉛を除いたマグネシウムの純度で規定することが多い。しかし、本発明では、「マグネシウムの純度」はマグネネシウムインゴット中に含まれるマグネシウム以外のすべての元素を不純物として測定し算出したマグネシウムの純度をいう。
アルミニウム箔をマグネシウム地金に被覆して蒸留することによって、マグネシウムインゴットとして、Znが0.0032〜0.0060重量%の範囲であって、Si,Al,Mn及び他の元素は検出限界未満(Si、酸不溶性Alは0.001重量%未満、酸可溶性Al、Mnは0.0001重量%未満)の超高純度マグネシウムが得られた。これに対し、比較例のマグネシウムインゴットでは、Zn及び酸不溶性Alの含有量は本発明のマグネシウムと同等であるものの、Si、酸可溶性Al、Mnの含有量の高いインゴットが得られている。また2個の試料間のばらつきも大きい。アルミニウム箔をマグネシウム地金に被覆して真空蒸留することにより安定して高品質のマグネシウム素材を得ることが可能となった。
本発明のマグネシウムの精製方法でも、比較例の精製方法や、特許文献4に記載の精製方法であってもマグネシウムの純度は99.99重量%以上の純度、すなわち4N級の純度が得られる。すなわち、純度の点では差異がない。しかしながら、本発明による精製方法と、比較例に代表されるような精製方法とでは不純物として含まれる元素の組成が異なっている。
超高純度マグネシウム、特に4N以上のマグネシウムは生分解性の点で優れているといわれている。本発明者も3N級の純度の低いマグネシウムを疑似体液に浸漬させ、生体内での吸収を模した試験を行ったところ溶解が早く、数時間で元の形状を留めなくなった。従来は、インプラント材料として用いるマグネシウムの純度が重要であると言われていたが、本発明者の研究により、純度ともに不純物の組成も体内での吸収に深くかかわることが明らかとなった。純度だけではなく、どのような不純物が含まれているかが生分解性や強度の点で重要である。Fe、Ni、及びCuは、マグネシウムの生体内での安定性に関与すると言われており、含有量が少ない方が安定となる。本発明のマグネシウム素材はこれら元素もほとんど含まれておらず、生体内での安定性の高いインプラントの製造が可能である。
次に、発明者は、真空蒸留された超高純度マグネシウムインゴットの加工方法を見出した。マグネシウムインゴットは、真空蒸留により昇華、凝縮する方法を採用しているため、10体積%程度の気孔を内蔵するブロックである(図1参照)。このままではインプラントを製造する材料とはならないため、緻密化する必要がある。また、緻密化して気孔を完全に除去しても、インゴットは昇華、凝縮方向に組織が揃っており、このままインプラントを製造すると、その方向性が強度を低下させる一因となる。
本発明者は、真空蒸留されたマグネシウムのインゴットを、昇華、凝縮方向に鍛造を数回行う工程と、インプラント1個を加工可能な大きさに切断する切断工程と、切断された材料を鍛造によりインプラントに加工する工程により、組織としての方向性を無くし、十分な強度を備え、さらに製品ごとの強度のばらつきのない素材を得ることができることを見出した。また、生体内での吸収速度も適切なマグネシウム素材を得ることができる。
真空蒸留により製造されたマグネシウムインゴットは、昇華、凝縮方向に組織が揃っており、このままインプラントを製造すると、その方向性が強度を低下させる一因となっている。これを取り除くために、上述した加工方法を行い、組織としての方向性を無くすことにより、十分な強度を備え、さらに製品ごとの強度のばらつきのない素材を得ることができる。また、生体内での吸収速度も適切なマグネシウム素材を得ることができる。以下にその内容について詳しく説明する。
発明者は、図1に示す真空蒸留後の高気孔含有インゴット(矢印1は昇華、凝縮方向を示す。)を昇華、凝縮方向に沿って鍛造を行った。その結果が図2に示す緻密化されたインゴットである(矢印1は鍛造方向を示す。)。この加工方法により、インゴットの気孔はほぼゼロとなった。体積と重量から算出される比重が1.72となり、マグネシウムの比重1.74とほぼ同じであることで確認できた。
次に、この緻密化インゴットを鍛造方向に沿って適当な厚みに切断し、切断された板から、切削加工により強度試験に供するプレートを製造した。具体的には3mm×20mm×2mm(2mmが厚み)の板材を製造し、曲げ強度を1kN試験機(インストロン社製、型式:E1000)、2kNロードセル(インストロン社製、型式:2527−129)により測定した。曲げ強度の測定は静的3点曲げ試験(JIST0311:2009「金属製骨接合用品の曲げ試験方法」)に準拠して行った。その結果を図3に示す。鍛造温度を300〜380℃まで変化させたが、曲げ強度ほぼ140N・mmと変わらなかった。
しかし、この曲げ強度は、ポリ乳酸を主成分としてすでに販売されているラクトソープ(商標、メディカルU&A社製)の厚み2.0mmの102N・mmを凌駕するものの、スーパーフィクソーブ(商標、メディカルU&A社製)の厚み1.5mmの270N・mmより低く、さらなる強度改善が必要であることが分かった。これら樹脂製生体吸収性の市販品は、ボーンプレートとして接合する骨部分を制限して使用されている製品である。
なお、曲げ強度は試験材(板材)の厚みによって異なることから、曲げ強度の板材の厚みによる影響を把握する必要があるため、アルミニウム被覆無しの真空蒸留材を用いて測定を行い、結果を図4に示す。アルミニウム被覆無しの2.0mm厚みの強度は150N・mm程度であり、図3に示すアルミニウム被覆有りと殆ど変らない。強度に対する影響はアルミニウム被覆有無で変わらないといえる。
次に、最適な緻密化のための加工方法を検討した。緻密化インゴットを鍛造方向に沿って適当な厚みに切断し、切断された板に鍛造を実施した。鍛造は2通りの方法で実施した。1つの方法は、図5に示すように、昇華、凝縮方向(図5の矢印1が昇華、凝縮方向)に鍛造を行う方法である(図5の矢印2が鍛造方向)。鍛造方向に対して、材料はそれと直角方向に移動するから、昇華、凝縮方向に揃っている組織の方向性を解消することができる。この方法により、鍛造を3回実施し、鍛造率を15%程度に加工を行った。
もう1つの方法は、図6に示すように、昇華、凝縮方向(図6の矢印1が昇華、凝縮方向)に垂直な方向に鍛造を行う方法である(図6の矢印2が鍛造方向)。鍛造方向に対して、材料はそれと直角方向(昇華、凝縮方向に直角方向)に移動するから、昇華、凝縮方向に揃っている組織の方向性を解消することができる。この方法により、鍛造を3回実施し、鍛造率を5%程度に加工を行った。
鍛造された板から、切削加工により3mm×20mm×1乃至2mm(1乃至2mmが厚み)の板材を製造し、曲げ強度を測定した。その結果を図7に示す。図5に示す方法で鍛造した場合(図7中のAl被覆有2.0mm鍛造15%)は、若干ばらつきはあるものの、板材厚み2.0mmの強度は向上し、スーパーフィクソープ(厚み1.5mm)に迫る強度を持つ。図6に示す方法で鍛造した場合(図7中のAl被覆有1.0mm鍛造5%)は、板材厚み1.0mmの強度は向上し、スーパーフィクソープ(厚み1.5mm)と同等の強度を持つ。どちらの方法を採用しても、図7に示す鍛造無しの板材(比較例、図7中のAl被覆有2.0mm鍛造無)の曲げ強度150N・mmを超えていることが判明し、発明者の意図した組織の方向性を無くす鍛造方法の有効性が示されている。
この強度はチタン、又はチタン合金の強度と比べると低い値ではあるものの、ポリ乳酸を主成分としてすでに販売されているラクトソーブ、スーパーフィクソープ(商標、メディカルU&A社製)の強度と比較して遜色ないものとなっており、ボーンプレートとして用いても十分に荷重を支える強度である。
これらの検討結果から、発明者は、組織の方向性を無くして強度向上をはかるための加工方法として、昇華、凝縮方向に鍛造を数回行う工程と、インプラント1個を加工可能な大きさに切断する切断工程と、切断された材料を鍛造によってインプラントに加工する工程を含む製造方法を発明した。
前段の昇華、凝縮方向に鍛造を数回行う工程は、図5に示す方法を具現化したものであり、回数は通常2〜3回実施することで良い。1回目は気孔のあるポーラスなインゴットを気孔ゼロまで緻密化するために必要である。中段のインプラント1個を加工可能な大きさに切断する切断工程は、後段の切断された材料を鍛造によりインプラントに加工する工程に適用するために、図5あるいは図6の鍛造方法のいずれかを採用するように切断する。後段の鍛造回数は通常2〜3回実施することで良い。
上記で精製したマグネシウムを用いて、発明による方法でボーンプレートを作成して生体内に留置し、経時的に生分解により吸収されることによって減少する重量の比率を求めた。厚さ2.0mmのボーンプレートを作成し、Wistar系雌性ラットの頭部に埋め込み1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月後に取り出し、経時的に生体への吸収を測定した。
ラットに麻酔剤を投与し、十分な麻酔深度に達したラットを動物固定板に腹臥位の状態で四肢を固定した。頭皮切開後、頭蓋骨骨膜下を剥離して頭蓋骨を露出した。露出した頭蓋骨の上にアセトン洗浄した本インプラント製品を留置した。その後、可及的に骨膜で被覆した。切開創を縫合閉鎖した後、ラットを覚醒させ、飼育ケージにて1ケージあたり1匹、飼育した。
埋入後、1、2、6ヶ月後に各群のラットから、埋入したインプラントを取り出し、写真撮影、重量検査を行い吸収具合の測定を行った。インプラント埋入直後、摘出直前を含め、各月末に被験ラットの全身および手術部位の状態を確認した。確認には、視診、触診、体重測定、超音波検査を行った。また、血液生化学検査等の生化学検査、尿中の排泄金属検査や摘出後に病理学的検査を行い、インプラントが生体組織等に悪影響を与えていないか確認を行った。
さらに、SEM観察時に併せてEDX分析を行った。吸収分解様式として体内にて金属表面にMgOを形成されており、金属表面から非常に緩徐に吸収・排泄されることを見出した。
図8は、生体内留置前のプレートと経時的に生分解により吸収され残存したプレートの比較による重量減少率を示している。本発明の超高純度マグネシウムで製造したインプラントを用いた場合(図8中のAl被覆有2.0mm鍛造無)には、6ヶ月後であっても90%以上が生体内に残存し、生体内における吸収速度が遅いことが見出された。比較例(図8中のAl被覆無1.6mm)の重量減少率70%に比べて、プレート厚みが2.0mmと厚いことを割り引いても、生体内における吸収速度が遅いことは明白である。また、いずれの時点における血液生化学検査等によっても異常は認められなかった。
もう1つの実施例である図8中の「Al被覆有1.0mm鍛造有」は、図6の鍛造方法を適用して製造したプレートの例であるが、6ヶ月後であっても85%が生体内に残存し、厚みが1.0mmと吸収には不利であるにもかかわらず、生体内における吸収速度が遅いことが見出された。なお、この測定では2ヶ月後ではなく、3ヶ月後のデータを採用した。
図8に示すプレートのうち、実施例(Al被覆有1.0mm鍛造有)と比較例(Al被覆無1.6mm鍛造無)の曲げ試験を実施した。両者の比較から明らかなように、6ヶ月後の強度でみると、実施例では86N・mmであるのに対して、比較例では36N・mmとその差は歴然としている。実施例のプレート厚みが1.0mmであることを考慮すると、両者の差はさらに大きくなる。すなわち、本発明の加工方法でプレートを製造することにより、生体内での残留物の強度向上、吸収速度低下を得ることができた。
本発明の精製方法、製造方法によれば、ボーンプレート、ステントとしても十分な強度を備え、また、臨床使用において生体内での吸収速度も適切なマグネシウムインプラントを得ることができる。
以下、本発明の産業上の利用可能性について説明する。
本発明にて提案する強度、生分解性を併せ持ち、生体に悪影響を及ぼさない医療用インプラント材料が提供され、かつその材料を用いた医療用インプラント製品として、ボーンプレート、ステント、又は止血クリップが提供されれば、骨の損傷部分又は骨折部分等の接合術又は再建術による治療において、患者にとって画期的な低侵襲性の治療方法が実現する。

Claims (5)

  1. 亜鉛以外の元素(シリコン、アルミニウム、マンガン)の濃度が検出限界未満であり、マグネシウムの濃度が99.99重量%を超える組成を持つ医療用インプラントに用いる超高純度マグネシウム
  2. インプラントとして用いるマグネシウムの精製方法であって、99.9重量%以上〜99.99重量%未満の濃度のマグネシウムを、0.4重量%以上〜1.2重量%以下のアルミニウムと共に真空蒸留することを特徴とするマグネシウムの精製方法
  3. インプラントとして用いるマグネシウムの製造方法であって、真空蒸留されたマグネシウムのインゴットを、昇華、凝縮方向に鍛造を数回行う工程と、インプラント1個を加工可能な大きさに切断する切断工程と、切断された材料を鍛造によりインプラントに加工する工程を含むことを特徴とする、医療用インプラントの製造方法
  4. 請求項1に記載の超高純度マグネシウムを用いることを特徴とする医療用インプラント
  5. ボーンプレート、ステント、又は止血クリップであることを特徴とする請求項4に記載の医療用インプラント
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