JP2018068467A - 人工石灰化組織、人工石灰化補填材料、及び、人工石灰化組織の製造方法 - Google Patents

人工石灰化組織、人工石灰化補填材料、及び、人工石灰化組織の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性及び力学耐性の3要件を備え、硬組織に近似した人工石灰化組織及びその人工石灰化組織を生成する為の人工石灰化補填材料、並びに、その人工石灰化補填材料を用いた人工石灰化組織の製造方法の提供。【解決手段】ハイドロキシアパタイトとコラーゲンとから構成される人工石灰化組織。人工石灰化組織を製造する為の人工石灰化補填材料が、コラーゲン又はゼラチンの水溶液である有機系材料と、DCPA粉末及びTTCP粉末を混合した無機系材料とから構成される、人工石灰化組織。更に、有機系材料と無機系材料を、混合した後、同時に又は別々に、歯質内又は骨質内に填入し、水又は細胞外液の存在下で反応させる人工石灰化組織の製造方法。ゼラチンの水溶液である有機系材料と燐酸水素カルシウム粉末及び燐酸四カルシウム粉末を混合した無機材料と、から構成される人工石灰化補填材料。【選択図】なし

Description

本発明は、生体の硬組織である骨や歯を構成する石灰化組織に近似し、生体親和性、生体接着性、及び、力学的耐性を備えた人工石灰化組織、及び、その人工石灰化組織を生成するための人工石灰化補填材料、並びに、その人工石灰化補填材料を用いた人工石灰化組織の製造方法に関する。
医療分野において、生体の失われた機能と形態を回復させる人工骨、人工関節、インプラント治療における骨補填材、義歯、象牙細管封鎖材等で応用されている無機系材料は、バイオセラミックスと呼ばれ、生体の構造、機能を代替えし、生体情報を収集することを目的とした製品及びその利用に関する科学技術であり、活発な開発が行われている(非特許文献1)。これは、従来用いられてきたチタン、ステンレス、金銀パラジウム合金、銀合金、ニッケルクロム合金等の金属材料が、金属アレルギーを発症する危険性がないとは断定できないのに対し、生体の骨や歯を構成する石灰化組織に近似しており、極めて安全性の高い材料であるという観点からも重要な技術である(非特許文献2)。
このようなバイオセラミックスは、種々のリン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等の生体組織との間に化学結合が形成される生体内活性型と、アルミナ、ジルコニア等の生体組織との間に化学結合が形成されない生体内不活性型に大きく分類される。しかし、生体で使用される骨や歯の代替え材料には、骨や歯の有する力学的応力耐性を基本的に有することは言うまでもないが、生体組織と接触するという特殊な環境に適した生体親和性が求められる。特に、歯科医療においては、う蝕予防効果、外来刺激に対する防御効果、組織適応性、組織再生促進効果等、骨とは異なる適性が求められるため、生体内活性型である、リン酸三カルシウムやハイドロキシアパタイトを用いたバイオセラミックスが歯科用骨補填材として開発されている。(非特許文献1)
更に近年では、より生体の骨や歯に近似した材料として、バイオセラミックスであるハイドロキシアパタイトと生体の骨や歯の主たる結合組織であるコラーゲンとから構成される人工骨が開発されている(特許文献1)。生体の骨が、水10%、アパタイト65%、コラーゲン23%から構成されていることに基づくものである(非特許文献3)。ハイドロキシアパタイト/コラーゲン複合体は、生分解性を有するので、この複合体内に自家骨が形成されると共に、この複合体自身は体内に吸収されるため、脊椎固定、骨欠損の補填、骨折修復及び、周欠損移植等に利用できる。しかし、この複合体はハイドロキシアパタイトとコラーゲンとの単なる混合物からなるものであり、コラーゲン繊維に沿ってハイドロキシアパタイトが配向した生体骨の構造を有していないため、力学的応力耐性が不足しており、骨形成能に乏しいという問題があった。
この骨形成能の問題は、ハイドロキシアパタイト/コラーゲン複合体とコラーゲンとを含む分散物をゲル化させた後、凍結乾燥することにより解決され得ることが記載されている(特許文献2)。一方、力学的応力耐性の問題は、更に、炭素繊維を加えることによって解決し得ることが記載されている(特許文献3)。
しかしながら、上記ハイドロキシアパタイトは、リン酸と水酸化カルシウム、リン酸塩とカルシウム塩から製造する従来の一般的な湿式法でされている上、上記複合体の形成には、焼成や凍結乾燥といった工程も必要で、工業的製造方法によらなければならない。従って、歯科医療では不可欠な口腔内治療が行えないという問題がある。
また、骨は、活発な新陳代謝を行っており、10年から20年で作り変えられる硬組織であるのに対し、歯は、一度生え変わった後は、作り変えられることはなく、変色、摩耗等老化する硬組織であるという根本的な差異がある。そして、歯は、象牙質が、水11%、アパタイト69%、コラーゲン18%、エナメル質が、水2%、アパタイト97%、有機質1%から構成されており、組成が異なる上、骨に認められる非晶質のリン酸カルシウムがほとんど認められず、アパタイトの結晶の大きさも骨よりも大きい。特に、エナメル質の有機質は、骨や象牙質のコラーゲンとは異なっており、その石灰化プロセスは、他の硬組織では見られないものである。(非特許文献3)
このような観点から、硬組織の生成機構が明らかになっているわけではないが、第三リン酸カルシウム(TCP)からハイドロキシアパタイトに転化する説、第二リン酸カルシウム・二水塩(DCPD)からハイドロキシアパタイトに転化する説に類似したハイドロキシアパタイトの生成方法に着目し、歯科医療における口腔内治療に適した象牙質知覚過敏抑制材が開発された(非特許文献4及び5)。
象牙質知覚過敏症の治療には様々な方法があるが、歯質を切削しない象牙細管封鎖による方法では、十分な治癒率に至っておらず、従来用いられてきたレジン系材料や金属系材料の象牙細管内液を含めた歯に特有の生体親和性の不適合に起因するものであると考えられる(非特許文献6)。特に、レジン系材料や金属系材料は、水の透過性がなく、象牙細管がこれらの材料で封鎖されると、封鎖直下の象牙細管内の水溶液の移動がなく、歯質が経年的に腐ってくるという問題がある。
そこで、上記開発された象牙質知覚過敏抑制材は、酸性リン酸カルシウム(DCPA)と第四リン酸カルシウム(TTCP)とが水と反応してハイドロキシアパタイトを生成するという現象を利用したものである(非特許文献5)。これら二種のリン酸カルシウムは、1μm以下の微粒子に粉砕加工されており、水と混和して歯に塗布されると、直径4μmに満たない象牙細管内に侵入し、主に水と反応してハイドロキシアパタイトの結晶が生成すること(石灰化)によって、象牙細管を封鎖する。従って、このような象牙質知覚過敏抑制材は、口腔内治療が可能で、得られた人工石灰化組織は、エナメル質と近似した材質であるため、力学的応力耐性及び生体適合性を有するという特徴を備えている。更に、二種のリン酸カルシウムが水と反応して石灰化するため、水の透過性が確保されているという特徴もある。
しかしながら、このような象牙質知覚過敏抑制材によって生成された人工石灰化組織は、歯質との接着性が乏しく、歯から脱落し易いという大きな問題がある。これは、生体の歯には、無機質以外に、有機質が含まれていることに関係していると考えられる。また、生体の歯の無機質とも異なっているという問題がある。これは、歯の主成分であるハイドロキシアパタイトCa10(PO(OH)は、六方晶系の結晶構造を形成しており、その単位格子中にCa2+、PO 3−、OHに相当するイオンが配位しているが、生体の歯は、Mg2+、Na、K、Fe2+、CO 2−、Cl、F等の生体内微量元素を含んでおり、Mg2+やCO 2−が置換するとう蝕感受性が高くなり、Fe2+やCl、が置換するとう蝕感受性が抑制されるということが知られていることに関係する。上記象牙質知覚過敏抑制材は、象牙細管内液とも接触するため、生体内微量元素を全く含まない訳ではないが、象牙質知覚過敏抑制材と象牙細管内液の界面においてのみ混入する可能性があり、人工石灰化組織全体に分布することはない。従って、生体の硬組織である骨及び歯の失われた機能を回復する人工石灰化組織は、未だ見出されていない。
特表平11−513590号公報 特許第4699759号公報 特開2004−269333号公報
田中浩祐、「バイオセラミックス最前線−歯内療法領域での活用を中心に」、歯界展望、vol.128、No.4、2016−10、p.751−757 井上昌幸、「金属アレルギーの現状と歯科領域における対応」、日本補綴歯科学会雑誌、vol.37(1993)、No.6、p.1127−1138 荒谷真平、菊地吾郎、立木蔚、山田正、「一般医化学」、第5版、p.289−309、株式会社南山堂、1985年3月20日 岡崎正之、「歯と骨をつくるアパタイトの化学」、p.1−26、東海大学出版会、1992年12月26日 下田信治、千葉敏江、「知覚過敏抑制材料『ティースメイト(登録商標)APペースト』『ティースメイト(登録商標)ディセンシタイザー』は、なぜ効くのか」、日本歯科評論、vol.76、No.7(2016.7) 清水裕久、星加知宏、西谷佳浩、吉山昌宏、「各種象牙質知覚過敏抑制材の象牙細管封鎖性について−象牙質および外来刺激が及ぼす影響の検討−」、日本歯科保存学雑誌、第59巻、第3号、p.249−258、2016年6月 山田養蜂場ホームページ、http://www.bee−lab.jp/kenkoujoho/collagen/a02.html
上述したように、二種のリン酸カルシウムが、主に水と反応して、ハイドロキシアパタイトの結晶が生成することによって象牙細管を封鎖する知覚過敏抑制材は、口腔内治療が可能で、生成した人工石灰化組織はエナメル質と近似した材質であるため、力学的応力耐性及び生体適合性を有しているが、歯質との接着性が乏しく、歯から脱落し易いという問題がある。また、二種のリン酸カルシウムが水と反応して生成するハイドロキシアパタイトは、生体の歯の無機質とも異なっており、歯の機能を十分回復することができないという問題がある。
そこで、本発明は、生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、生体の硬組織に近似した人工石灰化組織、及び、その人工石灰化組織を生成するための人工石灰化補填材料、並びに、その人工石灰化補填材料を用いた人工石灰化組織の製造方法を提供することを目的としている。特に、骨とは本質的に異なる歯の失われた機能と形態を回復し、歯質親和性、歯質接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、歯に近似している人工石灰化組織、及び、その人工石灰化組織を口腔内で生成可能な人工石灰化補填材料、並びに、その人工石灰化補填材料を用いた人工石灰化組織の製造方法を提供することを目的としている。
発明者らは、酸性リン酸カルシウム(DCPA)微粒子と第四リン酸カルシウム(TTCP)微粒子とを、コラーゲン水溶液と混合して、歯に塗布することによって、歯質親和性、歯質接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、歯に近似している人工石灰化組織が、口腔内で生成可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンとから構成されることを特徴とする人工石灰化組織であり、コラーゲンとしては、I型コラーゲンであることがより好ましい。生体の硬組織の機能に近似させるためには、人工石灰化組織に、生体内微量元素を含むことがより更に好ましい。本発明において、コラーゲンとは、コラーゲン又はゼラチンの水溶液から析出するコラーゲン特有の三本鎖らせん構造の線維上タンパク質である再生コラーゲンも含むものである。
このような人工石灰化組織は、コラーゲン又はゼラチンの水溶液と従来の一般的な製造方法(湿式法、乾式法等)により得られるハイドロキシアパタイトとの混合物から乾燥することによって製造されたものでもよく、歯にハイドロキシアパタイトとコラーゲンとから構成される人工石灰化組織が適用された例はない。これは、上述したように、同じ硬組織であるにもかかわらず、歯と骨の本質的な機能、形態、化学組成の違いに基づくものであり、解決手段として見出されなかったものと考えられる。しかし、特に、コラーゲン又はゼラチンの水溶液である有機系材料と、DCPA粉末及びTTCP粉末を混合した無機系材料とから構成される人工石灰化補填材料から生成されるものである方が好ましい。更に、コラーゲンはI型コラーゲンであって、ゼラチンはI型コラーゲンから製造されたものがより好ましい。
また、コラーゲンの水溶液を有機系材料として用いる場合、精製度が高くなければ、生体内微量元素を有しているため、人工石灰化組織に、生体内微量元素を自然に含むことができ、生体内微量元素を添加する必要はない。しかし、精製度が高く、不純物イオン等を含まないコラーゲン及びゼラチンの水溶液を有機系材料として用いる場合、生体の硬組織の機能に近似させるため、有機系材料及び無機系材料の少なくともいずれか一つに、生体内微量元素を含む人工石灰化補填材料とすることが好ましい。
更に、無機系材料であるDCPA粉末及びTTCP粉末は、グリセロール及び/又はポリエチレングリコール(PEG)に分散しているものであることが好ましい。これは、DCPA粉末及びTTCP粉末の混合物が水溶性で、水又は細胞外液と反応してハイドロキシアパタイトを生成するため、治療に適用するまでは、空気中等の水と遮断され、水から隔離されて保存される必要があることに基づいている。
また、上述した無機系材料であるDCPA粉末及びTTCP粉末の平均粒子径が1μm以下であることが好ましい。後述するように、本発明の人工石灰化補填材料を用いて人工石灰化組織を生成する場合、これらの無機系材料が速やかにコラーゲン水溶液に溶解する必要があるためである。特に、象牙質知覚抑制材料として使用する場合には、人工石灰化補填材料が、直径4μmに満たない象牙細管内に侵入することが可能となるためである。
そして、人工石灰化組織は、上述した人工石灰化補填材料の有機系材料と無機系材料を別々に保存され、人工石灰化組織を生成する直前に混合した後、歯質内又は骨質内に填入し、水又は細胞外液の存在下で反応させて生成することができる。人工石灰化組織を生成する状況に応じて、上述した人工石灰化補填材料の有機系材料と無機系材料を同時に、又、別々に、歯質内又は骨質内に填入し、水又は細胞外液の存在下で反応させてもよい。
次いで、本発明で使用されるコラーゲン、ゼラチン、生体内微量元素、DCPA、及び、TTCPの好ましい形態について説明する。
コラーゲンは、特に限定されるものではなく、動物等から抽出したコラーゲンを使用でき、動物の種類、組織や部位、年齢等にも限定されず、哺乳類や鳥類の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器等から得られるコラーゲン、魚類の皮、骨、軟骨、ひれ、うろこ、臓器等から得られるコラーゲンを使用できる。また、コラーゲンの抽出方法についても、特に限定されず、一般的な抽出方法で得られたコラーゲンを使用することができる。また、動物からの抽出ではなく、遺伝子組み替え技術によって得られたコラーゲンを使用してもよい。
ゼラチンは、コラーゲンを原料として、水洗、抽出、濾過、精製(イオン交換、透析等)、濃縮、乾燥の工程を経て製造されたものであれば、特に限定されるものではない。コラーゲン同様、原料も製造工程も特に限定されず、一般的な方法で得られたゼラチンを使用することができる。ゼラチンは、コラーゲン特有の三本鎖らせん構造を有していないが、アミノ酸配列がコラーゲンと同じタンパク質で、酸性乃至は中性水溶液に溶け、pHや濃度を制御するとコラーゲン特有の三本鎖らせん構造の線維状タンパク質が析出した再生コラーゲンを生成するという点において、コラーゲンと同一の範疇のものであり、高純度のコラーゲンであると言うことができる。この再生コラーゲンを生成する能力をゲル化能というが、このゲル化に従って繊維状再生コラーゲンに、或いは、ゲル化した繊維状再生コラーゲンに、DCPAとTTCPとから生成するハイドロキシアパタイトの結晶が配向するものと考えられる。しかし、ゲル化能を持たないゼラチンを低分子化したコラーゲンペプチドの場合、ハイドロキシアパタイトがコラーゲンと同様のアミノ酸配列のタンパク質とからなる人工石灰化組織を得られるが、上述したようなタンパク質への結晶の配向がなく、低分子量であるため、力学的耐性が不足するため、人工石灰化組織には適していない。
しかし、コラーゲンもゼラチンも、数多くの種類がある。つまり、これらのアミノ酸配列は、グリシン(G)、プロリン(P)、ヒドロキシプロリン及びその他のアミノ酸(X)から構成され、−G−P−X−G−P−X−というアミノ酸の繰り返しが多いことが知られており、現在わかっているもので約30種類の異なるポリペプチド鎖の組み合わせによる19種類の型が存在する。代表的なものには、線維性コラーゲンのI型、II型、及びIII型、非繊維性コラーゲンのIV型、並びに、線維性コラーゲンI型及びIII型に微量存在するV型がある(非特許文献3及び7)。
本発明のコラーゲンとしては、特に、コラーゲンを抽出する上記原料の中でも、動物に最も大量に存在するコラーゲンで、骨や皮膚を形成し、弾力性を持たせる働きがある線維性のI型コラーゲンが最も適している。コラーゲンを原料として製造されるゼラチンも、I型コラーゲンを原料にしたものが最も好ましい。遺伝子組み換え技術を用いる場合には、純度よくI型コラーゲンを生成することができる。
本発明の生体内微量元素としては、生体の硬組織に認められるMg2+、Na、K、Fe2+、CO 2−、Cl、Fから少なくとも二種以上選択されることが好ましい。コラーゲンの精製度が低い場合、コラーゲンの水溶液である有機系材料に含まれており、コラーゲンの水溶液である有機系材料、或は、DCPA粉末及びTTCP粉末を混合した無機系材料の少なくともいずれか一つに上記生体内微量元素を添加する必要はない。しかし、純度の高いコラーゲン、ゼラチン、又は、遺伝子組み換え技術によって製造されたコラーゲンは、不純物イオンを含まないため、コラーゲン又はゼラチンの水溶液である有機系材料、或は、DCPA粉末及びTTCP粉末を混合した無機系材料の少なくともいずれか一つに上記生体内微量元素を添加する必要がある。この場合、生体内微量元素を含む水溶性物質、例えば、NaCl、KCl、NaHCO、MgCl、MgSO、NaF等を添加することによって混入させることができる。
一方、ハイドロキシアパタイトを生成する二種のリン酸カルシウムは、市販されているDCPA及びTTCPを平均粒子径1μm以下の微粒子に粉砕加工して用いることができる。また、DCPA粉末及びTTCP粉末の混合物として、クラレノリタケデンタル社製ティースメイト(登録商標)ディセンシタイザーをそのまま用いることもできる。
水と隔離して保存するためのグリセロール及びPEGは市販品をそのまま用い、一般的な分散加工によって、DCPA粉末及びTTCP粉末をペースト状に分散させることができる。しかし、PEGは、水及びグリセロールに対する溶解性、及び、DCPA粉末及びTTCP粉末の分散性を考慮すると、平均分子量180〜2200、凝固点55℃以下のPEGが好ましい。また、このようなグリセロール及びPEGに分散されたDCPA粉末及びTTCP粉末として、ティースメイト(登録商標)APペーストをそのまま用いることができる。
人工石灰化組織のハイドロキシアパタイトとコラーゲンの成分比は、硬組織を製造するという観点から、人工骨、象牙質、及び、エナメル質の無機質と有機質との成分比を参照すれば、ハイドロキシアパタイト/コラーゲン=70/30〜99/1(質量比)とすることが好ましく、用途に応じて適宜設定する必要がある。水分量も、用途に応じ、このハイドロキシアパタイト/コラーゲンの全質量に対し、1〜15%程度残存するように調整することが好ましい。従って、人工石灰化補填材料もこの質量比に従って作製されることが好ましい。更に、コラーゲンの成分比を更に高め、水分量を高めることによって、軟骨にも適用することが可能である。
人工石灰化組織の生体内微量元素は、使用するコラーゲンの精製度が低い場合、原料、精製方法、精製度等によって異なり、制御することは困難であるが、コラーゲンが動物由来の物質であるため、生体近似の人工石灰化組織を生成することができる。一方、精製度が高く、不純物イオンを取り除いた、コラーゲン、ゼラチン、又は、遺伝子組み換え技術を用いたコラーゲンを用いる場合は、上述したように、生体内微量元素を添加する必要があり、それらの添加量は、人工骨、象牙質、及び、エナメル質の化学組成から、人工石灰化組織の全乾燥重量に対し、Mg2+が0.2〜0.9%、Naが0.2〜0.6%、Kが0.05〜0.2%、Fe2+が0.01〜0.1%、CO 2−が1.0〜5.0%、Clが0.0〜0.3%、Fが0.01〜0.1%含むことが好ましい。従って、精製度の高いコラーゲン、ゼラチン、又は、遺伝子組み換え技術を用いたコラーゲンを用いる人工石灰化補填材料もこの組成比に従って作製されることが好ましい。
本発明の人工石灰化組織は、コラーゲンとハイドロキシアパタイトとから構成されるため、生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、硬組織に近似した人工石灰化組織を提供することができる。また、本発明の人工石灰化補填材料を用いることにより、コラーゲン又はゼラチンの水溶液の下で、DCPAとTTCPとから生成するハイドロキシアパタイトの結晶が、コラーゲン又はゼラチンからの再生コラーゲンの線維性三本らせん構造に沿って配向するため、生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、硬組織に近似した人工石灰化組織提供することが可能となる。更に、本発明の人工石灰化補填材料を用いた製造方法により、口腔内で、生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、硬組織に近似した人工石灰化組織を生成することが可能となる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
≪有機系材料≫
有機系材料として、I型コラーゲンの酸性水溶液として、pH3、濃度0.3%、豚腱由来のペプシン可溶化コラーゲンである新田ゼラチン社製TypeI−P(以下、酸性コラーゲン溶液という)、I型コラーゲンの中性水溶液として、濃度1%、豚真皮由来コラーゲンである新田ゼラチン社製コラーゲンP(以下、中性コラーゲン溶液という)、ゲル可能を持たないコラーゲンペプチドとして、豚皮由来コラーゲン又はゼラチンを原料とした新田ゼラチン社製コラーゲンペプチド800Fの濃度1%水溶液(以下、コラーゲンペプチド溶液という)を用いた。
≪無機系材料≫
無機系材料としては、Alfa Aesar社製DCPAと和光純薬社製TTCPを乳鉢で粉砕した混合物(以下、DT混合物という)、平均粒子径1μm以下のDCPA粉末及びTTCP粉末を混合したクラレノリタケデンタル社製ティースメイト(登録商標)ディセンシタイザー(以下、TDという)を用いた。
≪実施例1≫
酸性コラーゲン溶液とTDを、乾燥質量比でハイドロキシアパタイト/コラーゲン=75/25となるように調整し、混合した後、溶液の状況を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、混合後速やかに、ハイドロキシアパタイトの結晶がコラーゲン繊維に沿って析出した。
≪実施例2≫
中性コラーゲン溶液とTDを、乾燥質量比でハイドロキシアパタイト/コラーゲン=75/25となるように調整し、混合した後、溶液の状況を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、混合後速やかに、ハイドロキシアパタイトの結晶がコラーゲン繊維に沿って析出した。
≪実施例3≫
コラーゲンペプチド溶液とTDを、乾燥質量比でハイドロキシアパタイト/コラーゲン=75/25となるように調整し、混合した後、溶液の状況を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、混合後速やかに、ハイドロキシアパタイトの結晶は析出したが、結晶の析出速度が遅く、結晶の大きさが小さかった。ゲル可能を持たないので、繊維状タンパク質の析出は認められなかった。
≪実施例4≫
中性コラーゲン溶液とDT混合物を、乾燥質量比でハイドロキシアパタイト/コラーゲン=75/25となるように調整し、混合した後、溶液の状況を観察した。DT混合物の溶解性が悪く、実用上に支障がある程度の溶解時間を有した。
本発明の人工石灰化組織は、生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、生体の硬組織に近似した人工石灰化組織を提供することができるので、人工骨、義歯、インプラント等、バイオセラミックスとして幅広く利用することができる。
本発明の人口石灰化補填材料及びこれを用いた人工石灰化組織の製造方法は、生体の硬組織の失われた機能と形態を回復し、生体親和性、生体接着性、及び、力学耐性の3要件を備え、生体の硬組織に近似した人工石灰化組織を口腔内において製造することができるので、歯科医療以外におけるin−situ治療への利用も期待される。
本発明の人口石灰化補填材料を用いた人工石灰化組織の生成は、その生成機構から、腎臓石灰化、乳房・乳腺石灰化等、その他石灰化現象を解明する手段としても利用できるものと考えられる。

Claims (11)

  1. ハイドロキシアパタイトとコラーゲンとから構成されることを特徴とする人工石灰化組織。
  2. 請求項1に記載の人工石灰化組織において、前記コラーゲンが、I型コラーゲンであることを特徴とする人工石灰化組織。
  3. 請求項1又は2に記載の人工石灰化組織において、生体内微量元素を含むことを特徴とする人工石灰化組織。
  4. コラーゲンの水溶液である有機系材料と、リン酸水素カルシウム粉末及びリン酸四カルシウム粉末を混合した無機系材料とから構成されることを特徴とする人工石灰化補填材料。
  5. 請求項4に記載の人工石灰化補填材料において、前記コラーゲンがI型コラーゲンであることを特徴とする人工石灰化補填材料。
  6. ゼラチンの水溶液である有機系材料とリン酸水素カルシウム粉末及びリン酸四カルシウム粉末を混合した無機系材料とから構成される人工石灰化補填材料。
  7. 前記ゼラチンが、前記I型コラーゲンから製造されたものであることを特徴とする請求項6に記載の人工石灰化補填材料。
  8. 請求項6又は7の人工石灰化補填材料において、前記有機性材料及び/又は前記無機系材料に生体内微量元素を含むことを特徴とする人工石灰化補填材料。
  9. 請求項4乃至8のいずれか一項に記載の人工石灰化補填材料において、前記無機系材料が、前記リン酸水素カルシウム粉末及び前記リン酸四カルシウム粉末を、グリセロール及び/又はポリエチレングリコールに分散しているものであることを特徴とする人工石灰化補填材料。
  10. 請求項4乃至9のいずれか一項に記載の人工石灰化補填材料において、前記無機系材料の前記リン酸水素カルシウム粉末及び前記リン酸四カルシウム粉末の平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする人工石灰化補填材料。
  11. 請求項4乃至10のいずれか一項に記載の人工石灰化補填材料を用いる人工石灰化組織の製造方法であって、前記有機系材料と前記無機系材料とを、混合した後、同時に、又は、別々に、歯質内又は骨質内に填入し、水又は細胞外液の存在下で反応させることを特徴とする人工石灰化組織の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
RU2717676C1 (ru) * 2019-08-19 2020-03-25 Федеральное государственное бюджетное учреждение науки Институт химии твердого тела Уральского отделения Российской академии наук Биоактивное покрытие для восстановления костной ткани

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