本願発明は、対象物の画像を取得する技術に関するものであり、より具体的には、例えば構造物の損傷を調査すべく画像を取得した際、その撮影位置と撮影方向を得ることができる画像取得方法、及び画像取得装置に関するものである。
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
このような背景のもと、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定している。この定期点検要領では、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象としており、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。また、橋梁の下面であっても双眼鏡などを用いた遠謀目視は認められず、原則として肉眼で確認する近傍目の点検としなければならない。
しかしながら橋梁下面を近傍目視することは、それほど容易ではない。通常、橋梁に近づくためには足場を組み立てることになるが、著しく桁下高が高い場合は相当な規模の足場が必要となるうえ、河川を越える橋梁であれば河川内に足場を組み立てることになり、跨道橋や跨線橋であれば道路や線路上に足場を組み立てることになり、現実的には足場を構築できないケースさえある。
そこで近年では、橋面から橋梁下面の画像を取得することで近傍目視を行う技術が提案されている。例えば特許文献1では、橋面上を移動する台車と、この台車に取り付けられたアームを利用して点検する手法を提案しており、アームの先端を橋梁下面に配置するとともに、アーム先端につながれた飛行体が橋梁下面をカメラ撮影するという技術を開示している。
ところで、特許文献1のように橋梁下面に近接して撮影する場合であっても、下方から望遠レンズで近接撮影と同様の撮影を行う場合であっても、足場を組み立てることなく近傍目視が可能となる点では好適であるが、取得される画像は中心投影画像であり、この中心投影画像を点検に使用するには難点があることが知られている。例えば、コンクリート床版下面に生じているひび割れの変化を求めるためには、異なる時期のひび割れ画像(ひび割れを収めた画像)を照らし合わせることになるが、2時期で全く同じ中心投影画像を取得することは事実上不可能であるため、同じ位置にあるひび割れを正確に対応させることは極めて困難であり、したがってひび割れの経時的な伸長等を把握することはできない。
2時期のひび割れ画像を照らし合わせ、同じ位置にあるひび割れを正確に対応させるには、中心投影画像を正規化した正射投影画像(オルソフォト)を使用することが考えられる。正射投影画像は、対象物に正対した状態で取得した画像であり、いわば対象物の形状をそのまま再現した画像である。そのため、画像内の位置と実際の位置を容易に照合することができ、つまり2時期の画像も容易に照合することができるわけである。
中心投影画像を補正して正射投影画像とするには、中心投影画像内に位置(座標)が既知である基準点が4点以上含まれている必要がある。基準点は画像上で明確に抽出される必要があることから、通常は特徴ある点とされるが、コンクリート表面のように特徴点が表われにくい場合は、あらかじめ人為的に特徴点を設置したうえで対象物の撮影が行われる。この特徴点の設置としては、シールの貼付やマーカーの塗布などが考えられるが、いずれの作業も足場を必要とする。また、特徴点の座標を得るべく測量を行う場合も、特徴点の近傍に行くためやはり足場が必要となる。すなわち、画像による近傍目視は足場を設けないことを目的としているにもかかわらず、画像によって2時期を比較するケースでは足場の構築が避けられないことになる。
本願発明の課題は、特徴点を人為的に設置することなく、正射投影画像を得るための撮影要素(撮影位置及び撮影方向)を算出することができる、画像取得方法と画像取得装置を提供することにある。
本願発明は、可視光レーザーを用いることとし、レーザー計測を行うことで照射点の座標を取得すると同時に、この照射点を画像内の特徴点として利用する、という従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
本願発明の画像取得方法は、レーザー照射工程と、照射点座標算出工程、画像取得工程、撮影要素算出工程を備えた方法である。レーザー照射工程では、対象物に対して可視光レーザーを照射し、照射点座標算出工程では、可視光レーザーの照射点の3次元座標を算出する。また、画像取得工程では、4以上の照射点を含む対象物を撮影して画像を取得し、撮影要素算出工程では、画像に含まれる照射点の3次元座標と、画像上における照射点の平面位置に基づいて撮影位置及び撮影方向を算出する。
本願発明の画像取得方法は、対象物に対して照射点を変えて2回以上可視光レーザーを照射するレーザー照射工程を備えた方法とすることもできる。この場合の画像取得工程では、照射点を変えて可視光レーザーを照射するたびに、撮影位置及び撮影方向を変えることなく撮影し、通算して4点以上の照射点が含まれるように2以上の画像を取得する。
本願発明の画像取得方法は、照射点を変えて2回以上可視光レーザーを照射する(レーザー照射工程)とともに、照射点を変えて可視光レーザーを照射するたびに撮影箇所を変えて画像を取得する(画像取得工程)方法とすることもできる。この場合の撮影要素算出工程では、それぞれの撮影箇所における撮影位置及び撮影方向を算出する。
本願発明の画像取得方法は、異なる2以上の撮影箇所から同時に撮影して画像を取得し(画像取得工程)、それぞれの撮影箇所における撮影位置及び撮影方向を算出する(撮影要素算出工程)方法とすることもできる。
本願発明の画像取得方法は、画像補正工程を備えた方法とすることもできる。この画像補正工程では、照射点の3次元座標と、撮影位置及び撮影方向に基づいて画像を補正して正射投影画像を作成する。
本願発明の画像取得方法は、異なる2地点から可視光レーザーを照射し、それぞれで設定した座標系の関係を求める方法とすることもできる。この場合のレーザー照射工程では、第1の照射地点から可視光レーザーを照射するとともに、第2の照射地点から可視光レーザーを照射する。また照射点座標算出工程では、第1の座標系を設定し、この座標系における照射点(第1の照射地点からの可視光レーザーの照射点)の3次元座標を算出するとともに、第2の座標系を設定し、この座標系における照射点(第2の照射地点からの可視光レーザーの照射点)の3次元座標を算出する。
本願発明の画像取得装置は、レーザー照射手段と、撮影要素算出手段を備えたものである。レーザー照射手段は、対象物に対して可視光レーザーを照射し、可視光レーザーの照射点の3次元座標を算出するものである。また、撮影要素算出手段は、画像取得手段によって対象物を撮影した画像に含まれる4以上の照射点の3次元座標と、その画像上における照射点の平面位置に基づいて画像取得手段の撮影位置及び撮影方向を算出するものである。
本願発明の画像取得装置は、同時に2以上の可視光レーザーを照射しうるレーザー照射手段を備えたものとすることもできる。
本願発明の画像取得装置は、照射方向を変えて可視光レーザーを照射しうるレーザー照射手段を備えたものとすることもできる。
本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置には、次のような効果がある。
(1)特徴点を人為的に設置することなく、つまり足場を組み立てることなく、正射投影画像を得るための撮影要素(撮影位置及び撮影方向)を算出することができる。
(2)算出された撮影要素を利用すれば正射投影画像を容易に得ることができ、その結果、2時期の画像を比較することが可能となり、すなわち対象物の経時的変化を把握することができる。
道路橋を示す縦断面図。
1径間の床版を下方から見た図であり、1つのパネルに相当する床版下面を示す平面図。
1つのパネルを示す部分平面図。
本願発明の主な工程の流れを示すフロー図。
所定位置に設置されたレーザー照射手段が床版下面に対して可視光レーザーを照射し、画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
床版下面に生じた多数のひび割れと、4つの照射点が収められた画像図。
(a)は可視光レーザーを照射するレーザー照射体がその照射方向を変える状況を示す側面図、(b)はレーザー照射体がその照射方向を変える状況を示す平面図。
レーザー照射体の照射方向を変えて可視光レーザーを照射し、その都度画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
床版下面に生じた多数のひび割れと、それぞれ2つの照射点が収められた2つの画像図。
4つの同一の照射点を、異なる2箇所から画像取得手段で撮影し、異なる2つの画像を取得している状況を模式的に示す側面図。
(a)は可視光レーザーを照射し、画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図、(b)は照射方向を変えて可視光レーザーを照射し、異なる撮影箇所から画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
第1の照射地点に設置されたレーザー照射手段と、第2の照射地点に設置されたレーザー照射手段それぞれから可視光レーザーを照射し、画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
異なる場所に設置されたレーザー照射手段の実座標系の相対的な関係を求めるための、主な工程の流れを示すフロー図。
本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置は、対象物の画像を取得するものであり、あらゆるものを対象物とすることができるが、ここでは便宜上、図1に示す道路橋のコンクリート床版の下面(以下、単に「床版下面」という。)を対象物とし、さらに床版下面に生じたひび割れの状況を把握する橋梁点検の例で説明する。
床版下面の点検を行う場合、あらかじめ床版全体を複数のパネルに分割したうえで実施される。パネルは点検範囲の1単位であり、橋軸方向を横桁や対傾構など、橋軸直角方向を主桁で区切ることで設定される。例えば図2では、橋軸方向を1径間で区切り、橋軸直角方向を主桁で区切って、パネルPNを設定している。
図3は、1つのパネルPNを示す部分平面図である。長期にわたって供用されてきた道路橋のコンクリート床版(特にRC床版)には、この図に示すように多数のひび割れが生じていることも珍しくなく、しかもそのひび割れが徐々に伸長しているケースも少なくない。このひび割れの発生状況、そしてひび割れの伸長状況を把握することができれば、適切な時期に適切な対策を施すことができ、不測の事故を防ぐことができると同時に、橋梁の長寿命化を図ることができるわけである。
以下、図4のフロー図を参照しながら、本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置の実施形態についてさらに詳しく説明する。図4は、本願発明の主な工程の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する工程を示し、左列にはその工程に必要な入力情報を、右列にはその工程から生まれる出力情報を示している。
橋梁点検を実施する場合、一般的には現地を調査したうえで点検計画を立案する。この点検計画にしたがい、まずは所定位置にレーザー照射手段100を設置する(Step10)。図5は、所定位置に設置されたレーザー照射手段100が床版下面に対して可視光レーザーを照射し、画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図である。この図に示すようにレーザー照射手段100は、可視光レーザー102を照射するレーザー照射体101を具備するものである。
レーザー照射手段100を設置すると、あらかじめ定められたレーザー照射手段100のうち所定の点を原点(0,0,0)とする3軸(X,Y,Z)の任意の座標系(以下、「実座標系」という。)を設定する(Step20)。そして、点検計画に基づき照射すべきおおよその位置を確認したうえでレーザー照射体101の方向(姿勢)を設定し(Step30)、床版下面に向けて可視光レーザー102を照射する(Step40)。照射された可視光レーザー102が床版下面で反射すると、肉眼で確認できる点として床版下面に映し出される。ここでは便宜上、この床版下面に反射した点を「照射点103」ということとする。
床版下面に対して可視光レーザー102を照射すると、レーザー照射手段100は、実座標系における照射点103の3次元座標を算出する(Step50)。なお、後に説明する画像内の平面座標と区別するため、ここでは便宜上、実座標系における3次元座標を「実座標」ということとする。図5の場合、床版下面に対して4つの可視光レーザー102を照射しており、すなわち4つの照射点103が映し出されており、この結果、P1(X1,Y1,Z1)と、P2(X2,Y2,Z2)、P3(X3,Y3,Z3)、P4(X4,Y4,Z4)の4つの実座標が算出される。
照射点103の実座標を算出するにあたっては、従来から用いられているレーザー計測の技術を利用することができる。レーザー計測は、計測したい対象物に対して照射したレーザーの反射信号を受けて計測するものであり、照射起点の座標(X,Y,Z)と照射姿勢(ω,φ,κ)が既知であれば、照射時刻と受信時刻の時間差から計測点(照射点103)の3次元座標を得ることができる。したがってレーザー照射手段100は、可視光レーザー102の反射信号を受ける受信手段と、照射時刻と受信時刻の時間差から照射点103の3次元座標を算出する演算手段を備えており、さらに可視光レーザー102の照射起点(受信点)となる位置が実座標系における実座標(X,Y,Z)として記録される機能と、可視光レーザー102の照射方向が実座標系における照射姿勢(ω,φ,κ)として記録される機能も備えている。
可視光レーザー102を照射し、床版下面に照射点103が映し出されると、デジタルカメラやスマートフォンといった画像取得手段200で画像を取得する。このとき、画像中に4以上の照射点103が含まれるように対象物の画像を取得する(Step60)。例えば図5では、4つの可視光レーザー102が同時に照射され、1つの画像内に4つの照射点103(103A〜103D)が含まれるように(画像取得範囲を破線で示す)、床版下面を撮影している。そして、図5に示すように撮影した結果得られるのが、図6に示す画像である。図6は、図3に示すパネルPNのうち破線で示す範囲を撮影したもので、床版下面に生じた多数のひび割れと、4つの照射点103(103A〜103D)が合わせて収められている。なお、4以上の同色の可視光レーザー102を照射し、4以上の同色の照射点103を画像内に収めてもよいし、それぞれ色が異なる4以上の可視光レーザー102を照射し、色によって識別できる4以上の照射点103を画像内に収めることもできる。
レーザー照射手段100は、図5に示すように4つのレーザー照射体101を備え、同時に4つの可視光レーザー102を照射しうるものに限らず、4未満又は5以上のレーザー照射体101を備えたものとすることもできる。ただし、後述するように画像取得手段200の画像要素を決定するためには、画像内に4以上の照射点103を収める必要があることから、4未満のレーザー照射体101を備えたレーザー照射手段100の場合、そのレーザー照射体101の照射方向を変えることができる機能を有することが望ましい。つまり、レーザー照射体101の照射方向を変えながら同じ位置の画像(同じ撮影位置と撮影方向で取得した画像)を複数取得し、これら画像内に通算して4以上の照射点103を収めるわけである。
図7は、レーザー照射体101が照射方向を変える状況を示すモデル図であり、(a)はその側面図、(b)はその平面図である。例えばこの図に示すように、基本軸(例えば、鉛直軸)から任意の角度(図ではθ)でレーザー照射体101を傾けることができ、さらにその状態で基本軸周りにレーザー照射体101が回転できるようにすれば、レーザー照射体101の向きを変えながら様々な方向に可視光レーザー102を照射することができる。
図8は、レーザー照射体101の照射方向を変えて可視光レーザー102を照射し、その都度画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図である。この図では、2つのレーザー照射体101を備えたレーザー照射手段100を利用しており、レーザー照射手段100の設置位置は固定したまま照射方向を変えて可視光レーザー102を2回照射している。そして1回目に可視光レーザー102を照射した際には照射点103Aと照射点103Bを床版下面に映し出し、2回目に可視光レーザー102を照射した際には照射点103Cと照射点103Dを床版下面に映し出している。一方、画像取得手段200は、照射方向を変えて照射するたびに(つまり、照射点を変えて照射するたびに)、撮影位置と撮影方向を維持したままで床版下面の画像を取得している。
図8に示すように撮影した結果得られるのが、図9に示す画像である。図9は、図6と同様図3に示す破線範囲を撮影したもので、床版下面に生じた多数のひび割れと、2つの照射点103が合わせて収められている。具体的には、図9の上方に示す画像が1回目の照射によって映し出された照射点103Aと照射点103Bを収めたものであり、図9の下方に示す画像が2回目の照射によって映し出された照射点103Cと照射点103Dを収めたものである。図9の上下に並ぶ2つの画像は、同じ撮影位置と撮影方向で取得したものであるから、この2つの画像を利用すれば、1つの画像内に4つの照射点103を配置することができるわけである。なお図9では、2つの画像で4つの照射点103を収めているが、これに限らず3以上の画像を取得し(この場合、照射方向を変えて3回以上可視光レーザー102を照射する)、これらの画像内に4以上の照射点103を収めてもよい。
画像が取得できると、この画像に対して任意の点を原点(0,0)とする2軸(x、y)の座標系(以下、「画像座標系」という。)を設定し、画像内にある照射点103の位置を画像座標系における座標(以下、「画像座標」という。)として求める(Step70)。図6の場合、床版下面に映し出された4つの照射点103を収めており、この結果、G1(x1,y1)と、G2(x2,y2)、G3(x3,y3)、G4(x4,y4)の4つの画像座標が取得されている。なお、実座標は大文字(X,Y,Z)で表し、一方の画像座標は小文字(x、y)で表すこととする。
ここまでで、4つの照射点103(103A〜103D)に対して、4つの実座標(P1〜P4)と4つの画像座標(G1〜G4)が得られていることから、これらを用いることによって、画像を取得した際の画像取得手段200の撮影位置の実座標(X0,Y0,Z0)及び実座標系における撮影方向(ω0,φ0,κ0)を算出することができる(Step80)。なお、ここでは便宜上、撮影位置の実座標及び実座標系における撮影方向をまとめて、「撮影要素」ということとする。以下、数式を示して詳しく説明する。
床版下面のように対象物が略一様な面(著しい段差がない平面)であれば、実際の照射点103は全て同一平面上にあると考えることができる。この場合、画像座標から実座標への変換は、平面(画像)から平面(対象物)への変換となることから射影変換によって計算することができる。射影変換の基本計算式は下記に示すとおりである。
さらに、式1を基に下記に示す行列式を得ることができる。
4つの画像座標G1(x1,y1)〜G4(x4,y4)と、これに対応する4つの実座標P1(X1,Y1,Z1)〜P4(X4,Y4,Z4)が得られていることから、式2を解くことで係数b1〜b8を求めることができる。この係数b1〜b8は、次式により撮影要素(いわゆる外部標定要素)に変換することができる。
係数b1〜b8を変換した結果得られた撮影要素をそのまま最終解として確定することもできるが、さらに確からしい解を得るべく逐次近似法によって最終解を求めることもできる。次式は、共線条件にしたがって求められる基本式である。
式4は非線形であるため、係数b1〜b8を変換した撮影要素を初期値とし、さらに3以上の画像座標とこれに対応する実座標を用いると、最小二乗法による近似解を求めることができ、これによりさらに確からしい撮影要素を得ることができる。
ところで図5や図8では、1箇所から画像を取得しているが、図10に示すように異なる2つの撮影箇所から同時に撮影して画像を取得することもできる。図10では、4つのレーザー照射体101から同時に可視光レーザー102が照射されており、したがって床版下面には4つの照射点103が映し出されている。そして、異なる2箇所から画像取得手段200によって床版下面が撮影されており、この結果、4つの照射点103を含む画像がそれぞれの撮影箇所で取得されている。このように、1回の可視光レーザー102の照射に対して、同時に2箇所から画像を取得すれば、一度に2箇所の撮影要素を求めることができるとともに、広範囲の床版下面の状況を把握することができる。もちろん、1回の可視光レーザー102の照射に対して、3以上の異なる撮影箇所から画像を取得することもできる。
また、レーザー照射体101の照射方向が可変であるレーザー照射手段100を利用した場合も、異なる2以上の撮影箇所から画像を取得すると、効率的に広範囲に床版下面の状況を把握することができる。図11は、照射方向を変えて可視光レーザー102を2回照射し、その都度異なる撮影箇所から画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図であり、(a)は1回目の照射状況を、(b)は2回目の照射状況を示している。
図11では、4つのレーザー照射体101から同時に可視光レーザー102が照射されており、床版下面には4つの照射点103が映し出されている。さらに照射方向を変えて2回目の照射を行っており、ここでもやはり床版下面には4つの照射点103が映し出されている。そして、1回目の照射では左側から画像取得手段200によって床版下面が撮影されており、2回目の照射では右側から画像取得手段200によって床版下面が撮影されている。この結果、4つの照射点103を含む画像がそれぞれの撮影箇所で取得される。このように、レーザー照射手段100を1度設置するだけで、床版下面の広い範囲で照射点103を設けることができれば、複数箇所の撮影要素を求めることができるとともに、効率的に広範囲の床版下面の状況を把握することができる。もちろん、レーザー照射手段100の1度の設置に対して、2回以上方向を変えて照射し(つまり、3以上の異なる箇所に照射点103を設け)、3以上の異なる撮影箇所から画像を取得することもできる。
撮影要素が得られると、(式1)を利用することで照射点103が収められた画像を補正して正射投影画像(オルソフォト)を作成することができる(Step90)。また、過去に取得した正射投影画像があれば、今回取得した正射投影画像と対比し、対象物の状況変化を確認する(Step100)。2時期の画像がともに正射投影画像であれば、例えば双方の画像にあるひび割れを対応させることができ、ひび割れの伸長状況も確認することができる。
次に、異なる場所に設置されたレーザー照射手段100でそれぞれ設定される実座標系の相対的な関係を求める方法について説明する。図12は、第1の照射地点に設置されたレーザー照射手段100と、第2の照射地点に設置されたレーザー照射手段100それぞれから可視光レーザー102を照射し、画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図であり、図13は異なる場所に設置されたレーザー照射手段100の実座標系の相対的な関係を求めるための、主な工程の流れを示すフロー図である。なお、第1の照射地点と第2の照射地点それぞれレーザー照射手段100(つまり2つのレーザー照射手段100)を設置して同時に可視光レーザー102を照射してもよいし、1つのレーザー照射手段100を用いることとし、第1の照射地点で可視光レーザー102を照射した後、レーザー照射手段100を移設して第2の照射地点から可視光レーザー102を照射してもよい。ここでは、1つのレーザー照射手段100を用いる場合を例に説明する。
まず第1の照射地点にレーザー照射手段100を設置し(Step11)、この位置で実座標系を設定する(Step21)。次に、点検計画に基づき照射すべきおおよその位置を確認したうえでレーザー照射体101の方向を設定し(Step31)、床版下面に向けて可視光レーザー102を照射する(Step41)。続いて、可視光レーザー102が床版下面での反射した4以上の照射点103の実座標を、第1の照射地点で設定した実座標系(以下、「第1実座標系」という。)で算出する(Step51)。そして、4以上の照射点103を含む画像を、画像取得手段200で取得する(Step61)。ただし、ここで画像を取得した際の画像取得手段200の撮影要素(撮影位置及び撮影方向)は動かすことなく固定しておく。ここまでの一連の工程を終えると、レーザー照射手段100を第1の照射地点から第2の照射地点に移動して(Step110)、第2の照射地点にレーザー照射手段100を設置する(Step12)。
第2の照射地点にレーザー照射手段100を設置すると、ここでも第1の照射地点と同様に、実座標系の設定(Step22)、レーザー照射体101の方向設定(Step32)、可視光レーザー102の照射(Step42)、4以上の照射点103の実座標の算出(Step51)という一連の工程を行う。そして、第1の照射地点で画像を取得した際と同じ撮影要素を維持したまま、第2の照射地点からの可視光レーザー102による4以上の照射点103を含むように、画像取得手段200で画像を取得する(Step62)。なお、ここで算出する照射点103の実座標は、第2の照射地点で設定した実座標系(以下、「第2実座標系」という。)を基準とする。
第1の照射地点での画像と、第2の照射地点での画像が取得できると、それぞれの画像に対して4以上の照射点103の画像座標を求める(Step71,Step72)。そして第1の照射地点における照射点103に対して求めた、第1実座標系での実座標と画像座標に基づいて、第1実座標系における画像取得手段200の撮影要素を算出する(Step81)。同様に、第2の照射地点における照射点103に対して求めた、第2実座標系での実座標と画像座標に基づいて、第2実座標系における画像取得手段200の撮影要素を算出する(Step82)。第1実座標系における画像取得手段200の撮影要素と、第2実座標系における画像取得手段200の撮影要素は、異なる値として算出されるが、実際には同一の撮影要素で画像を取得していることから、両者で求めた撮影要素が等しくなるように一方の実座標系(第1実座標系又は第2実座標系)を変換することで、第1実座標系と第2実座標系の相対的な関係を求める(Step130)。
第1実座標系と第2実座標系の相対的な関係が把握できれば、第1の照射地点からの照射点103を任意の撮影要素(撮影位置及び撮影方向)で撮影した画像と、第2の照射地点からの照射点103を任意の撮影要素で撮影した画像との相対的な位置関係把握することができ、その結果、それぞれの画像に含まれる照射点103も共通の座標系で認識することができる。
本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置は、道路橋、鉄道橋、管路橋など様々な用途の橋梁に利用でき、さらに河川を越える橋梁、跨道橋、跨線橋など種々のものを越える橋梁に利用することができる。本願発明によって、供用中の橋梁の劣化状況が把握でき、その劣化状況に応じた補修、補強対策が可能となり、ひいては既設橋梁の長寿命化につながることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
100 レーザー照射手段
101 (レーザー照射手段の)レーザー照射体
102 可視光レーザー
103 照射点
200 画像取得手段
PN パネル
本願発明は、対象物の画像を取得する技術に関するものであり、より具体的には、例えば構造物の損傷を調査すべく画像を取得した際、その撮影位置と撮影方向を得ることができる画像取得方法、及び画像取得装置に関するものである。
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
このような背景のもと、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定している。この定期点検要領では、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象としており、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。また、橋梁の下面であっても双眼鏡などを用いた遠謀目視は認められず、原則として肉眼で確認する近傍目の点検としなければならない。
しかしながら橋梁下面を近傍目視することは、それほど容易ではない。通常、橋梁に近づくためには足場を組み立てることになるが、著しく桁下高が高い場合は相当な規模の足場が必要となるうえ、河川を越える橋梁であれば河川内に足場を組み立てることになり、跨道橋や跨線橋であれば道路や線路上に足場を組み立てることになり、現実的には足場を構築できないケースさえある。
そこで近年では、橋面から橋梁下面の画像を取得することで近傍目視を行う技術が提案されている。例えば特許文献1では、橋面上を移動する台車と、この台車に取り付けられたアームを利用して点検する手法を提案しており、アームの先端を橋梁下面に配置するとともに、アーム先端につながれた飛行体が橋梁下面をカメラ撮影するという技術を開示している。
ところで、特許文献1のように橋梁下面に近接して撮影する場合であっても、下方から望遠レンズで近接撮影と同様の撮影を行う場合であっても、足場を組み立てることなく近傍目視が可能となる点では好適であるが、取得される画像は中心投影画像であり、この中心投影画像を点検に使用するには難点があることが知られている。例えば、コンクリート床版下面に生じているひび割れの変化を求めるためには、異なる時期のひび割れ画像(ひび割れを収めた画像)を照らし合わせることになるが、2時期で全く同じ中心投影画像を取得することは事実上不可能であるため、同じ位置にあるひび割れを正確に対応させることは極めて困難であり、したがってひび割れの経時的な伸長等を把握することはできない。
2時期のひび割れ画像を照らし合わせ、同じ位置にあるひび割れを正確に対応させるには、中心投影画像を正規化した正射投影画像(オルソフォト)を使用することが考えられる。正射投影画像は、対象物に正対した状態で取得した画像であり、いわば対象物の形状をそのまま再現した画像である。そのため、画像内の位置と実際の位置を容易に照合することができ、つまり2時期の画像も容易に照合することができるわけである。
中心投影画像を補正して正射投影画像とするには、中心投影画像内に位置(座標)が既知である基準点が4点以上含まれている必要がある。基準点は画像上で明確に抽出される必要があることから、通常は特徴ある点とされるが、コンクリート表面のように特徴点が表われにくい場合は、あらかじめ人為的に特徴点を設置したうえで対象物の撮影が行われる。この特徴点の設置としては、シールの貼付やマーカーの塗布などが考えられるが、いずれの作業も足場を必要とする。また、特徴点の座標を得るべく測量を行う場合も、特徴点の近傍に行くためやはり足場が必要となる。すなわち、画像による近傍目視は足場を設けないことを目的としているにもかかわらず、画像によって2時期を比較するケースでは足場の構築が避けられないことになる。
本願発明の課題は、特徴点を人為的に設置することなく、正射投影画像を得るための撮影要素(撮影位置及び撮影方向)を算出することができる、画像取得方法と画像取得装置を提供することにある。
本願発明は、可視光レーザーを用いることとし、レーザー計測を行うことで照射点の座標を取得すると同時に、この照射点を画像内の特徴点として利用する、という従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
本願発明の画像取得方法は、レーザー照射工程と、照射点座標算出工程、画像取得工程、撮影要素算出工程を備えた方法である。レーザー照射工程では、対象物に対して可視光レーザーを照射し、照射点座標算出工程では、可視光レーザーの照射点の3次元座標を算出する。また、画像取得工程では、4以上の照射点を含む対象物を撮影して画像を取得し、撮影要素算出工程では、画像に含まれる照射点の3次元座標と、画像上における照射点の平面位置に基づいて撮影位置及び撮影方向を算出する。
本願発明の画像取得方法は、対象物に対して照射点を変えて2回以上可視光レーザーを照射するレーザー照射工程を備えた方法とすることもできる。この場合の画像取得工程では、照射点を変えて可視光レーザーを照射するたびに、撮影位置及び撮影方向を変えることなく撮影し、通算して4点以上の照射点が含まれるように2以上の画像を取得する。
本願発明の画像取得方法は、照射点を変えて2回以上可視光レーザーを照射する(レーザー照射工程)とともに、照射点を変えて可視光レーザーを照射するたびに撮影箇所を変えて画像を取得する(画像取得工程)方法とすることもできる。この場合の撮影要素算出工程では、それぞれの撮影箇所における撮影位置及び撮影方向を算出する。
本願発明の画像取得方法は、異なる2以上の撮影箇所から同時に撮影して画像を取得し(画像取得工程)、それぞれの撮影箇所における撮影位置及び撮影方向を算出する(撮影要素算出工程)方法とすることもできる。
本願発明の画像取得方法は、画像補正工程を備えた方法とすることもできる。この画像補正工程では、照射点の3次元座標と、撮影位置及び撮影方向に基づいて画像を補正して正射投影画像を作成する。
本願発明の画像取得方法は、異なる2地点から可視光レーザーを照射し、それぞれで設定した座標系の関係を求める方法とすることもできる。この場合のレーザー照射工程では、第1の照射地点から可視光レーザーを照射するとともに、第2の照射地点から可視光レーザーを照射する。また照射点座標算出工程では、第1の座標系を設定し、この座標系における照射点(第1の照射地点からの可視光レーザーの照射点)の3次元座標を算出するとともに、第2の座標系を設定し、この座標系における照射点(第2の照射地点からの可視光レーザーの照射点)の3次元座標を算出する。
本願発明の画像取得装置は、レーザー照射手段と、撮影要素算出手段を備えたものである。レーザー照射手段は、対象物に対して可視光レーザーを照射し、可視光レーザーの照射点の3次元座標を算出するものである。また、撮影要素算出手段は、画像取得手段によって対象物を撮影した画像に含まれる4以上の照射点の3次元座標と、その画像上における照射点の平面位置に基づいて画像取得手段の撮影位置及び撮影方向を算出するものである。
本願発明の画像取得装置は、同時に2以上の可視光レーザーを照射しうるレーザー照射手段を備えたものとすることもできる。
本願発明の画像取得装置は、照射方向を変えて可視光レーザーを照射しうるレーザー照射手段を備えたものとすることもできる。
本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置には、次のような効果がある。
(1)特徴点を人為的に設置することなく、つまり足場を組み立てることなく、正射投影画像を得るための撮影要素(撮影位置及び撮影方向)を算出することができる。
(2)算出された撮影要素を利用すれば正射投影画像を容易に得ることができ、その結果、2時期の画像を比較することが可能となり、すなわち対象物の経時的変化を把握することができる。
道路橋を示す縦断面図。
1径間の床版を下方から見た図であり、1つのパネルに相当する床版下面を示す平面図。
1つのパネルを示す部分平面図。
本願発明の主な工程の流れを示すフロー図。
所定位置に設置されたレーザー照射手段が床版下面に対して可視光レーザーを照射し、画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
床版下面に生じた多数のひび割れと、4つの照射点が収められた画像図。
(a)は可視光レーザーを照射するレーザー照射体がその照射方向を変える状況を示す側面図、(b)はレーザー照射体がその照射方向を変える状況を示す平面図。
レーザー照射体の照射方向を変えて可視光レーザーを照射し、その都度画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
床版下面に生じた多数のひび割れと、それぞれ2つの照射点が収められた2つの画像図。
4つの同一の照射点を、異なる2箇所から画像取得手段で撮影し、異なる2つの画像を取得している状況を模式的に示す側面図。
(a)は可視光レーザーを照射し、画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図、(b)は照射方向を変えて可視光レーザーを照射し、異なる撮影箇所から画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
第1の照射地点に設置されたレーザー照射手段と、第2の照射地点に設置されたレーザー照射手段それぞれから可視光レーザーを照射し、画像取得手段で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図。
異なる場所に設置されたレーザー照射手段の実座標系の相対的な関係を求めるための、主な工程の流れを示すフロー図。
本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置は、対象物の画像を取得するものであり、あらゆるものを対象物とすることができるが、ここでは便宜上、図1に示す道路橋のコンクリート床版の下面(以下、単に「床版下面」という。)を対象物とし、さらに床版下面に生じたひび割れの状況を把握する橋梁点検の例で説明する。
床版下面の点検を行う場合、あらかじめ床版全体を複数のパネルに分割したうえで実施される。パネルは点検範囲の1単位であり、橋軸方向を横桁や対傾構など、橋軸直角方向を主桁で区切ることで設定される。例えば図2では、橋軸方向を1径間で区切り、橋軸直角方向を主桁で区切って、パネルPNを設定している。
図3は、1つのパネルPNを示す部分平面図である。長期にわたって供用されてきた道路橋のコンクリート床版(特にRC床版)には、この図に示すように多数のひび割れが生じていることも珍しくなく、しかもそのひび割れが徐々に伸長しているケースも少なくない。このひび割れの発生状況、そしてひび割れの伸長状況を把握することができれば、適切な時期に適切な対策を施すことができ、不測の事故を防ぐことができると同時に、橋梁の長寿命化を図ることができるわけである。
以下、図4のフロー図を参照しながら、本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置の実施形態についてさらに詳しく説明する。図4は、本願発明の主な工程の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する工程を示し、左列にはその工程に必要な入力情報を、右列にはその工程から生まれる出力情報を示している。
橋梁点検を実施する場合、一般的には現地を調査したうえで点検計画を立案する。この点検計画にしたがい、まずは所定位置にレーザー照射手段100を設置する(Step10)。図5は、所定位置に設置されたレーザー照射手段100が床版下面に対して可視光レーザーを照射し、画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図である。この図に示すようにレーザー照射手段100は、可視光レーザー102を照射するレーザー照射体101を具備するものである。
レーザー照射手段100を設置すると、あらかじめ定められたレーザー照射手段100のうち所定の点を原点(0,0,0)とする3軸(X,Y,Z)の任意の座標系(以下、「実座標系」という。)を設定する(Step20)。そして、点検計画に基づき照射すべきおおよその位置を確認したうえでレーザー照射体101の方向(姿勢)を設定し(Step30)、床版下面に向けて可視光レーザー102を照射する(Step40)。照射された可視光レーザー102が床版下面で反射すると、肉眼で確認できる点として床版下面に映し出される。ここでは便宜上、この床版下面に反射した点を「照射点103」ということとする。
床版下面に対して可視光レーザー102を照射すると、レーザー照射手段100は、実座標系における照射点103の3次元座標を算出する(Step50)。なお、後に説明する画像内の平面座標と区別するため、ここでは便宜上、実座標系における3次元座標を「実座標」ということとする。図5の場合、床版下面に対して4つの可視光レーザー102を照射しており、すなわち4つの照射点103が映し出されており、この結果、P1(X1,Y1,Z1)と、P2(X2,Y2,Z2)、P3(X3,Y3,Z3)、P4(X4,Y4,Z4)の4つの実座標が算出される。
照射点103の実座標を算出するにあたっては、従来から用いられているレーザー計測の技術を利用することができる。レーザー計測は、計測したい対象物に対して照射したレーザーの反射信号を受けて計測するものであり、照射起点の座標(X,Y,Z)と照射姿勢(ω,φ,κ)が既知であれば、照射時刻と受信時刻の時間差から計測点(照射点103)の3次元座標を得ることができる。したがってレーザー照射手段100は、可視光レーザー102の反射信号を受ける受信手段と、照射時刻と受信時刻の時間差から照射点103の3次元座標を算出する演算手段を備えており、さらに可視光レーザー102の照射起点(受信点)となる位置が実座標系における実座標(X,Y,Z)として記録される機能と、可視光レーザー102の照射方向が実座標系における照射姿勢(ω,φ,κ)として記録される機能も備えている。
可視光レーザー102を照射し、床版下面に照射点103が映し出されると、デジタルカメラやスマートフォンといった画像取得手段200で画像を取得する。このとき、画像中に4以上の照射点103が含まれるように対象物の画像を取得する(Step60)。例えば図5では、4つの可視光レーザー102が同時に照射され、1つの画像内に4つの照射点103(103A〜103D)が含まれるように(画像取得範囲を破線で示す)、床版下面を撮影している。そして、図5に示すように撮影した結果得られるのが、図6に示す画像である。図6は、図3に示すパネルPNのうち破線で示す範囲を撮影したもので、床版下面に生じた多数のひび割れと、4つの照射点103(103A〜103D)が合わせて収められている。なお、4以上の同色の可視光レーザー102を照射し、4以上の同色の照射点103を画像内に収めてもよいし、それぞれ色が異なる4以上の可視光レーザー102を照射し、色によって識別できる4以上の照射点103を画像内に収めることもできる。
レーザー照射手段100は、図5に示すように4つのレーザー照射体101を備え、同時に4つの可視光レーザー102を照射しうるものに限らず、4未満又は5以上のレーザー照射体101を備えたものとすることもできる。ただし、後述するように画像取得手段200の画像要素を決定するためには、画像内に4以上の照射点103を収める必要があることから、4未満のレーザー照射体101を備えたレーザー照射手段100の場合、そのレーザー照射体101の照射方向を変えることができる機能を有することが望ましい。つまり、レーザー照射体101の照射方向を変えながら同じ位置の画像(同じ撮影位置と撮影方向で取得した画像)を複数取得し、これら画像内に通算して4以上の照射点103を収めるわけである。
図7は、レーザー照射体101が照射方向を変える状況を示すモデル図であり、(a)はその側面図、(b)はその平面図である。例えばこの図に示すように、基本軸(例えば、鉛直軸)から任意の角度(図ではθ)でレーザー照射体101を傾けることができ、さらにその状態で基本軸周りにレーザー照射体101が回転できるようにすれば、レーザー照射体101の向きを変えながら様々な方向に可視光レーザー102を照射することができる。
図8は、レーザー照射体101の照射方向を変えて可視光レーザー102を照射し、その都度画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図である。この図では、2つのレーザー照射体101を備えたレーザー照射手段100を利用しており、レーザー照射手段100の設置位置は固定したまま照射方向を変えて可視光レーザー102を2回照射している。そして1回目に可視光レーザー102を照射した際には照射点103Aと照射点103Bを床版下面に映し出し、2回目に可視光レーザー102を照射した際には照射点103Cと照射点103Dを床版下面に映し出している。一方、画像取得手段200は、照射方向を変えて照射するたびに(つまり、照射点を変えて照射するたびに)、撮影位置と撮影方向を維持したままで床版下面の画像を取得している。
図8に示すように撮影した結果得られるのが、図9に示す画像である。図9は、図6と同様図3に示す破線範囲を撮影したもので、床版下面に生じた多数のひび割れと、2つの照射点103が合わせて収められている。具体的には、図9の上方に示す画像が1回目の照射によって映し出された照射点103Aと照射点103Bを収めたものであり、図9の下方に示す画像が2回目の照射によって映し出された照射点103Cと照射点103Dを収めたものである。図9の上下に並ぶ2つの画像は、同じ撮影位置と撮影方向で取得したものであるから、この2つの画像を利用すれば、1つの画像内に4つの照射点103を配置することができるわけである。なお図9では、2つの画像で4つの照射点103を収めているが、これに限らず3以上の画像を取得し(この場合、照射方向を変えて3回以上可視光レーザー102を照射する)、これらの画像内に4以上の照射点103を収めてもよい。
画像が取得できると、この画像に対して任意の点を原点(0,0)とする2軸(x、y)の座標系(以下、「画像座標系」という。)を設定し、画像内にある照射点103の位置を画像座標系における座標(以下、「画像座標」という。)として求める(Step70)。図6の場合、床版下面に映し出された4つの照射点103を収めており、この結果、G1(x1,y1)と、G2(x2,y2)、G3(x3,y3)、G4(x4,y4)の4つの画像座標が取得されている。なお、実座標は大文字(X,Y,Z)で表し、一方の画像座標は小文字(x、y)で表すこととする。
ここまでで、4つの照射点103(103A〜103D)に対して、4つの実座標(P1〜P4)と4つの画像座標(G1〜G4)が得られていることから、これらを用いることによって、画像を取得した際の画像取得手段200の撮影位置の実座標(X0,Y0,Z0)及び実座標系における撮影方向(ω0,φ0,κ0)を算出することができる(Step80)。なお、ここでは便宜上、撮影位置の実座標及び実座標系における撮影方向をまとめて、「撮影要素」ということとする。以下、数式を示して詳しく説明する。
床版下面のように対象物が略一様な面(著しい段差がない平面)であれば、実際の照射点103は全て同一平面上にあると考えることができる。この場合、画像座標から実座標への変換は、平面(画像)から平面(対象物)への変換となることから射影変換によって計算することができる。射影変換の基本計算式は下記に示すとおりである。
さらに、式1を基に下記に示す行列式を得ることができる。
4つの画像座標G1(x1,y1)〜G4(x4,y4)と、これに対応する4つの実座標P1(X1,Y1,Z1)〜P4(X4,Y4,Z4)が得られていることから、式2を解くことで係数b1〜b8を求めることができる。この係数b1〜b8は、次式により撮影要素(いわゆる外部標定要素)に変換することができる。
係数b1〜b8を変換した結果得られた撮影要素をそのまま最終解として確定することもできるが、さらに確からしい解を得るべく逐次近似法によって最終解を求めることもできる。次式は、共線条件にしたがって求められる基本式である。
式4は非線形であるため、係数b1〜b8を変換した撮影要素を初期値とし、さらに3以上の画像座標とこれに対応する実座標を用いると、最小二乗法による近似解を求めることができ、これによりさらに確からしい撮影要素を得ることができる。
ところで図5や図8では、1箇所から画像を取得しているが、図10に示すように異なる2つの撮影箇所から同時に撮影して画像を取得することもできる。図10では、4つのレーザー照射体101から同時に可視光レーザー102が照射されており、したがって床版下面には4つの照射点103が映し出されている。そして、異なる2箇所から画像取得手段200によって床版下面が撮影されており、この結果、4つの照射点103を含む画像がそれぞれの撮影箇所で取得されている。このように、1回の可視光レーザー102の照射に対して、同時に2箇所から画像を取得すれば、一度に2箇所の撮影要素を求めることができるとともに、広範囲の床版下面の状況を把握することができる。もちろん、1回の可視光レーザー102の照射に対して、3以上の異なる撮影箇所から画像を取得することもできる。
また、レーザー照射体101の照射方向が可変であるレーザー照射手段100を利用した場合も、異なる2以上の撮影箇所から画像を取得すると、効率的に広範囲に床版下面の状況を把握することができる。図11は、照射方向を変えて可視光レーザー102を2回照射し、その都度異なる撮影箇所から画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図であり、(a)は1回目の照射状況を、(b)は2回目の照射状況を示している。
図11では、4つのレーザー照射体101から同時に可視光レーザー102が照射されており、床版下面には4つの照射点103が映し出されている。さらに照射方向を変えて2回目の照射を行っており、ここでもやはり床版下面には4つの照射点103が映し出されている。そして、1回目の照射では左側から画像取得手段200によって床版下面が撮影されており、2回目の照射では右側から画像取得手段200によって床版下面が撮影されている。この結果、4つの照射点103を含む画像がそれぞれの撮影箇所で取得される。このように、レーザー照射手段100を1度設置するだけで、床版下面の広い範囲で照射点103を設けることができれば、複数箇所の撮影要素を求めることができるとともに、効率的に広範囲の床版下面の状況を把握することができる。もちろん、レーザー照射手段100の1度の設置に対して、2回以上方向を変えて照射し(つまり、3以上の異なる箇所に照射点103を設け)、3以上の異なる撮影箇所から画像を取得することもできる。
撮影要素が得られると、(式1)を利用することで照射点103が収められた画像を補正して正射投影画像(オルソフォト)を作成することができる(Step90)。また、過去に取得した正射投影画像があれば、今回取得した正射投影画像と対比し、対象物の状況変化を確認する(Step100)。2時期の画像がともに正射投影画像であれば、例えば双方の画像にあるひび割れを対応させることができ、ひび割れの伸長状況も確認することができる。
次に、異なる場所に設置されたレーザー照射手段100でそれぞれ設定される実座標系の相対的な関係を求める方法について説明する。図12は、第1の照射地点に設置されたレーザー照射手段100と、第2の照射地点に設置されたレーザー照射手段100それぞれから可視光レーザー102を照射し、画像取得手段200で床版下面を撮影している状況を模式的に示す側面図であり、図13は異なる場所に設置されたレーザー照射手段100の実座標系の相対的な関係を求めるための、主な工程の流れを示すフロー図である。なお、第1の照射地点と第2の照射地点それぞれレーザー照射手段100(つまり2つのレーザー照射手段100)を設置して同時に可視光レーザー102を照射してもよいし、1つのレーザー照射手段100を用いることとし、第1の照射地点で可視光レーザー102を照射した後、レーザー照射手段100を移設して第2の照射地点から可視光レーザー102を照射してもよい。ここでは、1つのレーザー照射手段100を用いる場合を例に説明する。
まず第1の照射地点にレーザー照射手段100を設置し(Step11)、この位置で実座標系を設定する(Step21)。次に、点検計画に基づき照射すべきおおよその位置を確認したうえでレーザー照射体101の方向を設定し(Step31)、床版下面に向けて可視光レーザー102を照射する(Step41)。続いて、可視光レーザー102が床版下面での反射した4以上の照射点103の実座標を、第1の照射地点で設定した実座標系(以下、「第1実座標系」という。)で算出する(Step51)。そして、4以上の照射点103を含む画像を、画像取得手段200で取得する(Step61)。ただし、ここで画像を取得した際の画像取得手段200の撮影要素(撮影位置及び撮影方向)は動かすことなく固定しておく。ここまでの一連の工程を終えると、レーザー照射手段100を第1の照射地点から第2の照射地点に移動して(Step110)、第2の照射地点にレーザー照射手段100を設置する(Step12)。
第2の照射地点にレーザー照射手段100を設置すると、ここでも第1の照射地点と同様に、実座標系の設定(Step22)、レーザー照射体101の方向設定(Step32)、可視光レーザー102の照射(Step42)、4以上の照射点103の実座標の算出(Step51)という一連の工程を行う。そして、第1の照射地点で画像を取得した際と同じ撮影要素を維持したまま、第2の照射地点からの可視光レーザー102による4以上の照射点103を含むように、画像取得手段200で画像を取得する(Step62)。なお、ここで算出する照射点103の実座標は、第2の照射地点で設定した実座標系(以下、「第2実座標系」という。)を基準とする。
第1の照射地点での画像と、第2の照射地点での画像が取得できると、それぞれの画像に対して4以上の照射点103の画像座標を求める(Step71,Step72)。そして第1の照射地点における照射点103に対して求めた、第1実座標系での実座標と画像座標に基づいて、第1実座標系における画像取得手段200の撮影要素を算出する(Step81)。同様に、第2の照射地点における照射点103に対して求めた、第2実座標系での実座標と画像座標に基づいて、第2実座標系における画像取得手段200の撮影要素を算出する(Step82)。第1実座標系における画像取得手段200の撮影要素と、第2実座標系における画像取得手段200の撮影要素は、異なる値として算出されるが、実際には同一の撮影要素で画像を取得していることから、両者で求めた撮影要素が等しくなるように一方の実座標系(第1実座標系又は第2実座標系)を変換することで、第1実座標系と第2実座標系の相対的な関係を求める(Step130)。
第1実座標系と第2実座標系の相対的な関係が把握できれば、第1の照射地点からの照射点103を任意の撮影要素(撮影位置及び撮影方向)で撮影した画像と、第2の照射地点からの照射点103を任意の撮影要素で撮影した画像との相対的な位置関係把握することができ、その結果、それぞれの画像に含まれる照射点103も共通の座標系で認識することができる。
本願発明の画像取得方法、及び画像取得装置は、道路橋、鉄道橋、管路橋など様々な用途の橋梁に利用でき、さらに河川を越える橋梁、跨道橋、跨線橋など種々のものを越える橋梁に利用することができる。本願発明によって、供用中の橋梁の劣化状況が把握でき、その劣化状況に応じた補修、補強対策が可能となり、ひいては既設橋梁の長寿命化につながることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
100 レーザー照射手段
101 (レーザー照射手段の)レーザー照射体
102 可視光レーザー
103 照射点
200 画像取得手段
PN パネル