JP2018054510A - 角速度測定装置および相対角速度測定装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】正弦波形の歯面を有する歯車以外でも、高精度に角速度の変動を取得することのできる角速度測定装置を提供すること。【解決手段】回転軸101に固定される歯車100の角速度を測定する角速度測定装置10であって、歯車の歯面112に対向する位置に配置されて当該歯面形状を非接触に検出する一対の磁気センサ11、12と、一対の磁気センサのそれぞれの出力検出信号を合成した信号波形を生成して出力する位相生成部21と、この位相生成部の出力波形から歯車の角速度を算出する角速度演算部23と、を備えて、一対の磁気センサは、歯車の周方向の歯面形状における1周期を1ピッチとしたときに、当該歯車の周方向に1/6ピッチ分だけ相対的にずれた位置に配置されている。【選択図】図1
Description
本発明は、歯車の回転速度を高精度に測定する角速度測定装置および相対角速度測定装置に関する。
歯車の回転速度は、ロータリエンコーダを利用する方式や、フォトインタラプタを利用する方式や、磁気センサを利用する方式など各種の測定方式が適宜、選択されて測定されている。
車両などの実機に実装される歯車の回転速度を測定する場合、ロータリエンコーダの測定方式では、直接、回転軸に設置する必要があり、設置スペースが限られる。また、実機の場合、被測定対象が回転する構造に測定可能に設置すること自体が難しい。フォトインタラプタの測定方式では光路を確保する必要があり、また環境による影響が大きく設置箇所が限られてしまう。磁気センサの測定方式では、ロータリエンコーダやフォトインタラプタを利用する測定方式の問題は大きくないことから、実装される歯車の回転速度の測定に適している。
このような従来の回転速度の測定方式では、一定の閾値をセンサ信号が超えるか否かの0/1信号を取得して、その0/1信号をカウントすることにより回転速度を算出する構成であることから、そのセンサ信号間における速度変化を分解能高く把握することができない。
そこで、特許文献1には、磁気センサの測定方式において、正弦波形のセンサ信号を用いることにより、歯車の回転速度を高分解能で測定可能にして精度よく取得することを実現し、歯車の噛合歯の回転位置を高精度に把握することのできる角速度測定装置が開示されている。
この特許文献1に記載の角速度測定装置は、正弦波形の歯面を有する歯車の場合に、ノイズのない正弦波形のセンサ信号の出力波形を取得して、その出力波形(正弦波形)の位相波形から回転速度の変動の高精度な算出を実現している。
しかしながら、特許文献1に記載の角速度測定装置にあっては、被測定対象の歯車の歯面形状に応じたセンサ信号が磁気センサから出力される。このことから、被測定対象が正確には正弦波形でない歯面形状の歯車の場合には、その歯面形状に応じたノイズ、具体的には高調波成分を含むセンサ信号が出力されて、回転速度の変動を高精度に算出することが難しい。すると、実装されて互いに噛み合う歯車の相対的な角速度を精度よく測定することができずに、例えば、歯車の歯面同士の接離を高精度に取得して、歯打ち音を低減するなどの調整が難しくなる。
なお、このような課題は、後述するように、フォトインタラプタを利用する測定方式の角速度測定装置においても、正確な正弦波形の歯面形状を有しない歯車の場合には、同様に発生する。
本発明は、このような課題を鑑みて、正弦波形の歯面を有する歯車以外でも、高精度に角速度の変動を取得することのできる角速度測定装置を提供することを目的としている。
上記課題を解決する角速度測定装置の発明の一態様は、回転軸に固定される歯車の角速度を測定する角速度測定装置であって、前記歯車の歯面に対向する位置に配置されて当該歯面形状を非接触に検出する一対の第1非接触センサおよび第2非接触センサと、前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサのそれぞれの出力検出信号を合成した位相の信号波形を生成して出力する位相生成部と、前記位相生成部の出力波形から前記歯車の角速度を算出する角速度演算部と、を備えて、前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサは、前記歯車の周方向の歯面形状における1周期を1ピッチとしたときに、自然数nを用いて、当該歯車の周方向に{(n−1)+(1/6)}ピッチ分だけ相対的にずれた位置に配置されている。
このように本発明の一態様によれば、第1非接触センサおよび第2非接触センサは、被測定対象の歯車の歯面形状の{(n−1)+(1/6)}ピッチ分だけ周方向に相対的にずれた位置に配置されて、それぞれの出力検出信号は、その歯車の歯面形状に応じた出力波形となる。すなわち、第1非接触センサおよび第2非接触センサは、それぞれの出力検出信号が重なる位置から、当該出力信号波形の位相波形における(π/3)位相分だけ相対的に周方向にずれた位置に配置される。このため、その歯車の歯面の回転に伴う周方向への変動に応じた位相波形の出力検出信号が相対的に(π/3)位相分だけずれた状態で重ね合わされて合成される。
このとき、第1非接触センサおよび第2非接触センサからの出力検出信号には、被測定対象の歯車の歯面形状が正弦波形に類する形状であることに起因して発生する3次の高調波成分などのノイズが含まれている。特に、3次の高調波成分のノイズは、角速度の測定精度に影響を与えるが、それぞれの出力検出信号は、(π/3)位相分だけずらされて合成されることにより、3次の高調波成分のノイズ強度が小さくされ、高品質な略正弦波形の位相波形の合成出力波形にされて出力される。
したがって、被測定対象の歯車が正弦波形でない歯面形状に形成されている場合にも、その歯面形状を検出する出力検出信号を合成した略正弦波形の出力波形を解析することにより、その歯車の回転速度を高分解能で精度よく算出することができ、その歯車の高精度な回転速度の変動を容易に把握することができる。この結果、正弦波形の歯面を有する歯車以外でも、高精度に角速度の変動を取得することのできる角速度測定装置を提供することができる。
このため、例えば、この本発明に係る一対の角速度測定装置の一組を利用することにより、互いに噛み合う歯車同士の相対的な角速度を取得する相対角速度測定装置を構築することができ、例えば、互いに噛み合う歯が接離することに伴って発生する歯打ち音などを効果的かつ容易に抑制することができる。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図13は、本発明に係る角速度測定装置の一実施形態を示す図である。
図1において、角速度測定装置10は、例えば、車両に搭載されて、内燃機関などの動力源からの動力を伝達する変速機や差動装置などの動力伝達機構に組み込まれる歯車100を被測定対象として設置されている。なお、この角速度測定装置10は、定常使用可能に車両などの実機に実装してもよく、あるいは、セッティング調整時に一時的に設置して使用することもできる。
ここで、歯車100は、軸心に回転軸101が固定されている円盤形状、円柱形状あるいは円錐形状の本体部110と、この本体部110の外周面に回転軸101周りの周方向に連続するように配列されている複数の噛合歯111と、がその回転軸101と一体回転するように形成されている。この歯車100は、車両の動力源から伝達されてくる動力を回転軸101あるいは噛合歯111が受け取って、正逆方向の両方向、あるいは、そのうちのいずれか一方向にのみ回転するように回転自在に車両側に支持されている。
この歯車100は、別個の歯車100との間で動力を伝達可能に、互いの噛合歯111が噛み合って歯面112同士が圧接されており(後述の図14を参照)、この歯面112は、軸線方向と直交する断面の外面形状、すなわち、歯面形状がインボリュート曲線になるように形成されているインボリュート歯車である。
角速度測定装置10は、一対の磁気センサ11、12と、これら磁気センサ11、12のそれぞれに接続される増幅器13、14と、これら増幅器13、14毎の出力をそれぞれ入力可能に接続されている演算部15と、を備えて構築されている。
磁気センサ11、12は、歯車100の噛合歯111の歯面112に非接触に対面する対向位置にそれぞれ設置されている。磁気センサ11、12は、その歯面112の歯面形状に応じてセンサ信号(出力検出信号)の出力が変化する渦電流センサ(所謂、渦電流式変位計)により構成されている。すなわち、磁気センサ11、12が歯車100の歯面形状を非接触に検出する一対の第1非接触センサおよび第2非接触センサを構成して、その歯車100の回転に伴う歯面形状の周方向への変動を検出する。
なお、この渦電流センサの磁気センサ11、12は、後述するように、互いに接近する位置に設置されることから、干渉が発生してノイズ成分を生成してしまわないように、それぞれ異なる発振周波数で稼動するタイプが選択されて設置されている。この磁気センサ11、12は、後述するように、出力されるセンサ信号を重ね合わせて合成することから、出力特性を等しくして、被測定対象の歯車100からの離隔間隔が等しくなる位置に設置されている。また、この磁気センサ11、12は、渦電流センサに限らず、磁気抵抗センサ、あるいは、電磁ピックアップセンサなどの磁気センサを選択して設置してもよい。
増幅器13、14は、磁気センサ11、12のセンサ信号の出力を後処理可能に増幅する。
演算部15は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)151と、メモリ152と、A(アナログ)/D(デジタル)コンバータ153と、出力インターフェイス154と、が各種情報信号をやり取り可能にバス159を介して接続されて構築されている。この演算部15は、増幅器13、14やA/Dコンバータ153を介して演算処理可能にされた磁気センサ11、12のセンサ信号を取得して、CPU151がメモリ152内に予め格納されている演算プログラムに従って各種パラメータなどに基づいて演算処理することにより、後述する位相生成部21や角速度演算部23などとして機能して所望の演算結果を算出する。
この角速度測定装置10の磁気センサ11、12は、後述するように、演算部15に受け渡すセンサ信号として、その演算部15がそのセンサ信号を合成して高調波成分などのノイズの重畳の少ない正弦波形にして出力することができるように、回転軸101の回転方向に相対的にずれたシフト位置にオフセット配置されている。
具体的に、磁気センサ11、12は、図3(a)に示すように、それぞれ歯車100の噛合歯111の歯面112に非接触対面して、その回転する歯面形状(周方向への変動)をトレースするように検出することにより、図3(b)に示すように、正弦波形に類する位相波形(信号波形)のセンサ信号をそれぞれ出力する。
この磁気センサ11、12は、図4(a)に示すように、歯車100の噛合歯111の歯面112の周方向に回転する歯面形状における1周期を1ピッチとしたときに、その歯車100の周方向に1/6ピッチ分だけ相対的にずれたシフト位置に設置されている。言い換えると、磁気センサ11、12は、その位相波形において、π/3位相分だけ回転軸101の回転周方向に相対的にずれたシフト位置に設置されている。このようにレイアウトされた磁気センサ11、12のセンサ信号を合成した出力波形は、図4(b)に示すように、その回転周方向にπ/3位相分だけずれて合成される。
これにより、図5(a)に示すベース位置の磁気センサ11のセンサ信号の出力波形モデルと、図5(b)に示す1/6ピッチ(π/3位相)のシフト位置の磁気センサ12のセンサ信号の出力波形モデルとが合成されて、図5(c)に示す高精度な略正弦波形の合成波形として出力される。
ところで、この磁気センサ11、12の個々のセンサ信号は、被測定対象の歯車100の噛合歯111の歯面112がインボリュート曲線の歯面形状に形成されていることから、上述するように、正弦波に類する波形として取得される。しかしながら、このセンサ信号は、歯車100の噛合歯111の歯面112を含む周方向外周面の歯面形状に応じた波形となることから、その歯先や歯元や歯元間の平坦部の形状の影響を受けて、図6(a)に示すように、3次の高調波成分が重畳している。
このため、この磁気センサ11、12のセンサ信号のそれぞれでは、後述する演算処理を行って解析しても、図6(b)に示すように、その歪に起因するノイズ成分が顕在化する波形データになって、角度分解能が低下する。すると、歯車100の噛合歯111の歯面112の回転に伴う周方向への変動がノイズに埋もれてしまい、例えば、どのタイミングに歯打ち現象が起こる程度に変動しているかを把握することができない。この課題は、その波形データをフィルタ処理することで見かけ上のノイズ成分を低減することはできるが、回転数が変化する場合にはその回転数に同期したフィルタ設定が必要になって解析処理が複雑になるとともに、過渡的な現象もフィルタで除去されてしまって精度面で問題となる。
これに対して、本実施形態のように回転周方向に1/6ピッチ分だけ、すなわち、π/3位相分だけ相対的にずらしたシフト位置にレイアウトした磁気センサ11、12では、そのセンサ信号を重ね合わせて合成することにより、図7(a)に示す位相データに重畳していた3次の高調波成分(ノイズ)をキャンセルすることができる。これにより、磁気センサ11、12の合成波形では、図7(b)に示すように、その3次の高調波成分の振幅強度を大幅に低減させることができる。
このため、角速度測定装置10は、磁気センサ11、12の2つのセンサ信号を合成して、後述する演算処理を行って解析することにより、高い角度分解能での歯車100の角速度の測定を実現することができる。例えば、図8(a)に示すように、歯車100の噛合歯111の歯面112の回転に伴う周方向への変動を顕在化してガタ付きを抽出することができ、図8(b)に示すトルク反転時に歯打ち現象が起こるタイミングに歯車100の回転が変動していることを把握することができている。
詳細には、図1に戻って、角速度測定装置10の演算部15は、上述するように、増幅器13、14を介して磁気センサ11、12のセンサ信号を受け取って合成することにより3次の高調波成分をキャンセルして、歯車100の歯面形状に応じた位相波形から略正弦波形の合成波形を生成して出力する位相生成部21と、その位相生成部21の出力波形を解析して歯車100の角速度を算出する角速度演算部23と、を備えている。
角速度演算部23は、位相生成部21の出力を処理することにより相互にヒルベルト変換対をなす実部解析信号と虚部解析信号とを算出する解析信号演算手段32と、この解析信号演算手段32で演算された実部解析信号と虚部解析信号との比に基づいて実部解析信号と虚部解析信号とがなす角度を算出する角度演算手段33と、この角度演算手段33で演算された角度の時間微分値を演算して角速度を算出する角速度演算手段34と、から構成される。
解析信号演算手段32は、図9に示すように、位相生成部21の出力を複素フーリエ変換して実周波数成分と虚周波数成分とを算出するフーリエ変換手段321と、このフーリエ変換手段321で算出された実周波数成分および虚周波数成分の負の周波数領域を零とし正の周波数領域の値を2倍して片側実周波数成分および片側虚周波数成分を算出する片側スペクトル演算手段322と、この片側スペクトル演算手段322で算出された片側実周波数成分および片側虚周波数成分を逆フーリエ変換することによりヒルベルト変換対をなす実部解析信号と虚部解析信号とを出力する逆フーリエ変換手段323と、から構成される。
また、解析信号演算手段32は、図10に示すように、位相生成部21の出力と実有限インパルス応答フィルタとの畳み込み積和を演算して実部解析信号を出力する実有限インパルス応答演算手段324と、位相生成部21の出力と虚有限インパルス応答フィルタとの畳み込み積和を演算して虚部解析信号を出力する虚有限インパルス応答演算手段325と、から構成される。
これにより、位相生成部21から出力される合成波形の正弦波状信号を解析処理することにより、相互に直交する2つの解析信号を得ることができる。この相互に直交する2つの解析信号をセンサ出力信号の仮想ベクトルの実軸成分および虚軸成分とみなした場合にこの仮想ベクトルが実軸に対してなす角度は被測定対象の変位に比例しているので、この角度を時間的に微分することにより被測定対象の角速度を測定することが可能となる。
そして、上述するように、位相生成部21の出力する磁気センサ11、12の合成波形は、歯車100の1つの噛合歯111が対面位置から通過する度に誘起される1サイクルの正弦波状の電圧波形として角速度演算部23に取得される。このことから、角速度演算部23は、歯車100のそれぞれの回転速度に比例する正弦波状の出力波形を取得することができ、例えば、その出力波形の周波数を歯車100の回転周波数として取得し、また、その出力波形から歯車100の特定の瞬間における回転速度を取得することができる。
この演算部15の図2に示すCPU151は、磁気センサ11、12のセンサ信号を、メモリ152内の演算プログラムに従って所定のサンプリング周期で取得して後述する解析処理を実行することにより、歯車100の角速度を算出する。なお、この解析処理を実行するためのサンプリング周期は、磁気センサ11、12の合成波形である正弦波の1周期よりも十分に短く、例えば、10分の1程度に設定することが一般的である。このようにして演算部15に取得された磁気センサ11、12の合成波形は、増幅されてA/D変換された後に、図11の機能ブロック図に示す信号処理が施されるようになっている。
詳細に、図12は角速度測定装置10A、10Bのそれぞれで処理される各部の波形図であって、横軸は時間を、縦軸は各波形の振幅を表している。位相生成部21の出力として図12のS(t) に示すような正弦波状の信号が得られるものとする。すなわち、歯車100の回転角をθとすれば次式(1)のように表される。
S(t)=sin(θ/Z) ……(1)
ただし、振幅は1に正規化されているとする。
S(t)=sin(θ/Z) ……(1)
ただし、振幅は1に正規化されているとする。
このアナログ信号S(t)は演算部15のそれぞれに送られてA/D変換されデジタル信号化処理される。すなわち、時間間隔TでサンプリングされたN個の信号S(nT)〔0≦n≦N−1〕は図11に示すフーリエ変換部421に導かれ、次式(2)〜(4)に基づき実部がGr 、虚部がGi である複素スペクトルGが得られる。
G(k)=Gr(k)+jGi(k) ……(2)
G(k)=Gr(k)+jGi(k) ……(2)
ただし、Nは解析に使用するサンプリング数で正の整数(観測窓長と呼ばれる。)
nはサンプリング番号であり0≦n≦N−1である正の整数
kはΔfごとに離散化された周波数の番号を表す。
すなわち、(2πnk/N)は離散化された回転角を表している。
nはサンプリング番号であり0≦n≦N−1である正の整数
kはΔfごとに離散化された周波数の番号を表す。
すなわち、(2πnk/N)は離散化された回転角を表している。
この複素スペクトルは図11に示す片側スペクトル演算部422に導かれ、実部Gr 、虚部Gi 毎に以下の処理が実行される。
(1)負周波数領域のスペクトルを零とする。
(2)正周波数領域のスペクトルを2倍する。
この処理によって出力された片側スペクトルの実部をGr* 、虚部をGi* とする。
(1)負周波数領域のスペクトルを零とする。
(2)正周波数領域のスペクトルを2倍する。
この処理によって出力された片側スペクトルの実部をGr* 、虚部をGi* とする。
片側スペクトルの実部Gr* および虚部をGi* を図11に示す逆フーリエ変換部423で逆フーリエ変換すれば、図12に示す位相生成部21の出力Sの相互に直交する解析信号の実部Sr および虚部Si が得られる。信号処理の分野において、この2つの解析信号の実部Sr および虚部Si は相互にヒルベルト変換対をなすと呼ばれている。
図12に2つの解析信号の実部Sr および虚部Si の波形を示す。この解析信号の実部Srおよび虚部Si を複素平面に表せば、次式(5)で示される1つの仮想ベクトルVが得られる。
V=Sr+j・Si ……(5)
V=Sr+j・Si ……(5)
そして、この仮想ベクトルVが仮想的に考えられる実軸となす角度がθであり、歯車100の回転角度に比例する。すなわち、図11に示す角度演算部43において、次式(6)の演算を実行して図12に示す信号が得られる。
θ=arctan(Si/Sr) ……(6)
θ=arctan(Si/Sr) ……(6)
歯車100の噛合歯111の歯数をZとすると、実際の角度は(θ/Z)となるので、これを図11に示す角速度演算部44で時間微分することにより図12に示す歯車100の角速度ωが演算される。
ω=(1/Z)・(dθ/dt) ……(7)
ω=(1/Z)・(dθ/dt) ……(7)
なお、この角速度ωの最小検出精度をΔωとすれば、次式(8)が成立する。
Δω=min(2πf)=2πΔf=2π(Zf/N) ……(8)
Δω=min(2πf)=2πΔf=2π(Zf/N) ……(8)
したがって、演算部15においては、歯車100の噛合歯111の歯数Z、信号処理のサンプリング周波数fおよび分析窓長Nを適切に選択することにより検出精度を決定することが可能となる。演算部15におけるフーリエ変換、片側スペクトル演算および逆フーリエ変換処理は周波数領域における処理であるが等価の処理は時間領域で行うことも可能である。
すなわち、
位相生成部21の出力信号をS(n)
実有限インパルスフィルタのインパルス応答をhr (n)
虚有限インパルスフィルタのインパルス応答をhi (n)
nはサンプル時点
と表せば、解析信号の実部Sr および虚部Si は次式(9)、(10)から算出することができる。
Sr=S(n)*hr(n) ……(9)
Si=S(n)*hi(n) ……(10)
ここで、「 * 」は畳み込み積和(コンボリューション演算)を表す。
位相生成部21の出力信号をS(n)
実有限インパルスフィルタのインパルス応答をhr (n)
虚有限インパルスフィルタのインパルス応答をhi (n)
nはサンプル時点
と表せば、解析信号の実部Sr および虚部Si は次式(9)、(10)から算出することができる。
Sr=S(n)*hr(n) ……(9)
Si=S(n)*hi(n) ……(10)
ここで、「 * 」は畳み込み積和(コンボリューション演算)を表す。
なお、全帯域通過フィルタの伝達関数を片側スペクトル化して複素逆フーリエ変換すれば、実部として実有限インパルスフィルタhr (n)を、虚部として虚有限インパルスフィルタhi (n)を得ることができる。図13の回転速度の検出方法の説明図において(c)は演算部15によって得られる速度信号であって、例えば、時刻t0 と時刻t1 の間であっても連続して速度信号を得ることが可能となり、検出精度を向上することができる。
このように、本実施形態の角速度測定装置10においては、歯車100の歯面形状を検出する磁気センサ11、12が回転周方向に1/6ピッチ分だけ、すなわち、π/3位相分だけ相対的にずらしたシフト位置に配置されることにより、これらのセンサ信号に含まれる3次の高調波成分をキャンセルした略正弦波形の合成波形とした上で、解析演算することができる。
これにより、角速度測定装置10では、歯車100の噛合歯111の角速度を高分解能かつ高精度に算出することができ、例えば、図8(b)に示すように、歯打ち現象の発生している歯車100の回転速度の変動を高品質かつ容易に把握可能な解析波形として出力することができる。
したがって、角速度測定装置10を搭載する車両の制御装置に測定した歯車100の高い分解能の回転角速度情報を提供するなどして、各種制御処理に有効利用可能にすることができる。
次に、図14は、本発明に係る角速度測定装置を2組備える相対角速度測定装置の一実施形態を示す図である。
図14において、相対角速度測定装置50は、例えば、車両に搭載されて、内燃機関などの動力源からの動力を伝達する変速機や差動装置などの動力伝達機構に組み込まれて互いに噛み合って回転する2つの歯車100A、100Bを被測定対象として設置されている。この相対角速度測定装置50は、その歯車100A、100B毎の角速度をそれぞれ測定可能に設置されている上述実施形態の2組の角速度測定装置10A、10Bに相対角度演算部25が接続されて構築されている。相対角度演算部25は、角速度測定装置10A、10Bから受け取る角速度情報を用いて歯車100A、100Bの相対的な角速度の変動を抽出して、その2つの歯車100A、100Bの動力伝達時の噛み合い振動などを計測するようになっている。
ここで、歯車100A、100Bは、回転軸101A、101Bに固定された本体部110A、110Bの周方向に連続する複数の噛合歯111A、111Bが互いに噛み合っている。これら噛合歯111A、111Bは、車両の動力源から伝達されてくる動力により一方が能動回転して、その一方に噛み合う他方が従動回転することによって、その動力を伝達する。
角速度測定装置10A、10Bは、被測定対象の歯車100A、100Bのそれぞれの噛合歯111A、111Bの歯面112A、112Bにそれぞれ2つの磁気センサ11A、12Aと磁気センサ11B、12Bとが非接触対面する位置に設置されている。この磁気センサ11A、12Aには増幅器13A、14Aを介して演算部15Aが接続され、また、磁気センサ11B、12Bには増幅器13B、14Bを介して演算部15Bが接続されている。
演算部15A、15Bは、磁気センサ11A、12Aや磁気センサ11B、12Bからそれぞれセンサ信号を受け取って歯車100A、100Bの歯面形状に応じた位相波形から3次の高調波成分をキャンセルした略正弦波形の合成波形を生成出力する位相生成部21A、21Bと、これら位相生成部21A、21B毎に歯車100A、100Bの歯面形状に応じた出力波形を解析して歯車100A、100B毎の角速度をそれぞれ算出する角速度演算部23A、23Bと、を備えている。
これら角速度演算部23A、23Bは、図示することは省略するが、それぞれ上述実施形態と同様に、解析信号演算手段32と、角度演算手段33と、角速度演算手段34と、から構成されている。そのうちの解析信号演算手段32は、フーリエ変換手段321と、片側スペクトル演算手段322と、逆フーリエ変換手段323と、から構成され、また、実有限インパルス応答演算手段324と、虚有限インパルス応答演算手段325と、から構成されている。
そして、角速度測定装置10A、10Bは、上述実施形態と同様に、位相生成部21A、21Bから出力される歯車100A、100B毎の回転速度に比例する正弦波状の電圧波形(合成出力波形)が角速度演算部23A、23Bに取得され、その歯車100A、100Bの回転周波数や特定タイミングの回転速度を算出する。
このとき、演算部15A、15Bは、上述実施形態と同様に、それぞれの図2に示すCPU151がメモリ152内の演算プログラムに従って所定のサンプリング周期で位相生成部21A、21Bの合成出力波形を取得して図11の機能ブロック図に示す信号処理による解析処理を実行する。これにより、歯車100A、100B毎の角速度が算出され、さらにその歯車100A、100Bの相対的な角速度が算出される。
ところで、一対の歯車100A、100Bは、動力源から伝達されてくる動力の損失のない授受を実現するように、互いに噛み合う状態にある噛合歯111A、111Bの歯面112A、112B間の隙間、所謂、バックラッシュを最適化するセッティングにより、滑らかで無理のない回転を実現するが好適である。バックラッシュが小さすぎると、歯面112A、112B同士が互いに圧接する状態で擦り合うなどの干渉が生じ、また、隙間不足により潤滑油が不十分となって摩擦が大きくなる。反対に、バックラッシュが大きすぎると、伝達トルクの変動時などに反動・逆戻り(これも、バックラッシュともいう)が発生して、歯面112A、112Bが互いに衝突するなどの干渉が生じ、その衝突時に歯打ち音が生じる。要するに、バックラッシュの最適化が不十分であると、振動や異音の発生、干渉に起因する動力の伝達損失、さらには、歯車100A、100Bの破損に繋がるなどの問題が発生する。
このことから、車両に搭載する変速機や差動装置などの動力伝達機構に組み込まれる歯車100A、100Bは、不適切なバックラッシュに起因する歯打ちなどの発生を極力抑えるようにセッティングするのが有効である。このため、相対角速度測定装置50では、2組の角速度測定装置10A、10BによりS/N比に優れるセンサ信号を解析処理してその歯車100A、100B毎の角速度をそれぞれ高分解能かつ高精度に測定することを実現する。これに加えて、相対角速度測定装置50では、相対角度演算部25がその歯車100A、100Bの高品質な角速度情報を用いて、相対的な角速度の変化を抽出して把握することを可能にする。
具体的には、相対角速度測定装置50の相対角度演算部25は、2組の角速度測定装置10A、10Bが出力する歯車100A、100B毎の角速度情報を用いて、最適なバックラッシュで動力を伝達可能な状態に歯車100A、100Bがセッティングされているか否かを判別可能にする。
相対角度演算部25は、角速度演算部23A、23Bと同様に、CPUやメモリなどにより、演算部15A、15Bとは別個に、あるいは、いずれか一方と一緒に構築されている。この相対角度演算部25は、CPUがメモリ内に予め格納されている演算プログラムに従って各種パラメータなどに基づいて演算処理することにより、歯車100A、100B毎の高い角度分解能の角速度や相対角速度を算出して表示部27などに表示出力することにより、その歯車100A、100Bの容易なセッティングを実現する。
例えば、相対角度演算部25は、表示部27として液晶画面を備えて、歯車100A、100B毎の角速度の一定期間内の変化を平均値により数値化して表示出力したり、その変化を波形として表示出力する。また、相対角度演算部25は、歯車100A、100B毎の角速度の差分を相対角速度として、一定期間内の変化を平均値により数値化して表示出力したり、その変化を波形として表示出力する。さらに、相対角度演算部25は、その歯車100A、100B毎の角速度の差分(相対角速度)平均値の数値表示や、その差分変化の波形表示から動力伝達時の噛み合い振動や歯打ち発生タイミングなどを目視可能にするだけでなく、適正バックラッシュか否かを閾値と比較することにより判定し表示出力するようにしてもよい。
これにより、作業者は表示部27を確認することで歯車100A、100Bのセッティング状態を容易に把握することができ、そのセッティング状態を微調整等することができる。
ここで、歯車100A、100Bの歯数が異なる場合には、1噛み合い当たりの周速に変換した上で差分を求めることにより、相対的な遅角や進角を取得して歯打ち挙動などを高精度に把握可能にすればよい。
なお、相対角度演算部25は、表示部27を備えて表示出力可能にするだけでなく、例えば、外部機器に出力可能に接続ターミナルを備えて、その外部機器に解析等を行わせるようにしてもよい。
このように、本実施形態の相対角速度測定装置50においては、上述実施形態による作用効果に加えて、上述実施形態の2組の角速度測定装置10A、10Bにより測定される歯車100A、100B毎の角速度を用いて相対角速度を取得することができる。これにより、例えば、その角速度の差分から動力伝達時の噛み合い振動の大きさや歯打ち発生の有無などを容易に把握するなどして、歯車100A、100Bの歯打ち音の発生を効果的に抑制するセッティング作業などを容易に行うことができる。
ここで、上述実施形態の第1の他の態様としては、図15(a)および図15(b)に示すように、上述実施形態では磁気センサ11、12は、歯車100の噛合歯111の歯面112に近接する非接触対面位置で周方向に連続するように設置されるが、これに限るものではない。例えば、歯車100の噛合歯111が回転軸101の軸線方向Xと平行方向に延長されている形状の平歯車の場合、磁気センサ11、12は、図15(b)に示すように、その歯車100が小さいために回転軸101の軸線方向と直交して周方向Cに連続する隣接位置に設置できないときがある。この場合には、図15(c)に示すように、その歯車100の歯幅方向Wにずれたシフト位置に磁気センサ11、12を配置してもよい。この場合にも、上述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、上述実施形態の第2の他の態様としては、図16(a)および図16(b)に示すように、例えば、歯車100の噛合歯111が回転軸101の軸線方向Xと交差する斜め方向に延長されている形状の斜歯歯車の場合、磁気センサ11、12は、回転軸101の軸線方向Xと平行な直線上で連続する位置に配置してもよい。この場合にも、上述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
さらに、上述実施形態の第3の他の態様としては、歯車100の歯面形状が均等形状の噛合歯111の外面を含んで周方向に連続するように形成されているので、磁気センサ11、12の出力するセンサ信号も、その噛合歯111を含む歯面形状における1周期を1サイクルとする位相波形となる。このことから、図17に示すように、磁気センサ11、12は、噛合歯111に対して、例えば、その噛合歯111から周方向に1歯以上ずれたシフト位置にオフセット配置してもよい。すなわち、磁気センサ11、12は、自然数nとして、歯車100の周方向に{(n−1)+(1/6)}ピッチ分だけ相対的にずれたシフト位置に配置してもよい。言い換えると、磁気センサ11、12は、センサ信号の位相波形における{2π(n−1)+(π/3)}位相分だけずれたシフト位置に配置してもよい。この場合にも、同様の作用効果を得ることができる。
また、上述実施形態においては、センサ信号に含まれる3次の高調波成分をキャンセル可能に磁気センサ11、12をレイアウトする一例を説明するが、これに限るものではない。例えば、他の次数の高調波成分をセンサ信号からキャンセル可能にする位置にも磁気センサを加えて設置するなどして磁気センサを複数個用いるようにしてもよい。
さらに、上述実施形態では、非接触センサとして磁気センサ11、12を採用する場合を一例として説明するが、これに限るものではない。例えば、歯車の歯面形状を検出可能な光センサを磁気センサに代えて設置して合成することによっても同様の作用効果を得ることができる。なお、実機に搭載する場合には設置スペースや汚れ等の問題があることから上述実施形態のように磁気センサを作用するのが有利である。
本発明の実施形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
10、10A、10B 角速度測定装置
11、11A、11B、12、12A、12B、 磁気センサ
21、21A、21B 位相生成部
23、23A、23B 角速度演算部
25 相対角度演算部
27 表示部
50 相対角速度測定装置
100、100A、100B歯車
101、101A、101B回転軸
111、111A、111B噛合歯
112、112A、112B歯面
151 CPU
152 メモリ
C 回転周方向
W 歯幅方向
X 軸線方向
11、11A、11B、12、12A、12B、 磁気センサ
21、21A、21B 位相生成部
23、23A、23B 角速度演算部
25 相対角度演算部
27 表示部
50 相対角速度測定装置
100、100A、100B歯車
101、101A、101B回転軸
111、111A、111B噛合歯
112、112A、112B歯面
151 CPU
152 メモリ
C 回転周方向
W 歯幅方向
X 軸線方向
上記課題を解決する角速度測定装置の発明の一態様は、回転軸に固定される歯車の角速度を測定する角速度測定装置であって、前記歯車の歯面に対向する位置に配置されて当該歯面形状を非接触に検出する一対の第1非接触センサおよび第2非接触センサと、前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサのそれぞれの出力検出信号を合成した位相の信号波形を生成して出力する位相生成部と、前記位相生成部の出力波形から前記歯車の角速度を算出する角速度演算部と、を備えて、前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサは、前記歯車の周方向の歯面形状における1周期を1ピッチとしたときに、自然数nを用いて、それぞれの出力検出信号が{(n−1)+(1/6)}ピッチ分だけ相対的にずれた位置に配置されている。
このように本発明の一態様によれば、第1非接触センサおよび第2非接触センサは、被測定対象の歯車の歯面形状の{(n−1)+(1/6)}ピッチ分だけ相対的にずれた位置に配置されて、それぞれの出力検出信号は、その歯車の歯面形状に応じた出力波形となる。すなわち、第1非接触センサおよび第2非接触センサは、それぞれの出力検出信号が重なる位置から、当該出力信号波形の位相波形における(π/3)位相分だけ相対的にずれた位置に配置される。このため、その歯車の歯面の回転に伴う変動に応じた位相波形の出力検出信号が相対的に(π/3)位相分だけずれた状態で重ね合わされて合成される。
Claims (7)
- 回転軸に固定される歯車の角速度を測定する角速度測定装置であって、
前記歯車の歯面に対向する位置に配置されて当該歯面形状を非接触に検出する一対の第1非接触センサおよび第2非接触センサと、
前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサのそれぞれの出力検出信号を合成した位相の信号波形を生成して出力する位相生成部と、
前記位相生成部の出力波形から前記歯車の角速度を算出する角速度演算部と、を備えて、
前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサは、前記歯車の周方向の歯面形状における1周期を1ピッチとしたときに、自然数nを用いて、当該歯車の周方向に{(n−1)+(1/6)}ピッチ分だけ相対的にずれた位置に配置されている、角速度測定装置。 - 前記歯車は、インボリュート歯車により構成されている、請求項1に記載の角速度測定装置。
- 前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサは、磁気センサにより構成されている、請求項1または請求項2に記載の角速度測定装置。
- 前記磁気センサは渦電流センサにより構成され、前記第1非接触センサと前記第2非接触センサとで、それぞれ異なる発振周波数で稼動される、請求項3に記載の角速度測定装置。
- 前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサは、前記歯車の歯幅方向にずれた位置に配置されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の角速度測定装置。
- 前記第1非接触センサおよび前記第2非接触センサは、前記歯車が斜歯歯車の場合、前記回転軸の軸線方向に平行な直線上に配置されている、請求項5に記載の角速度測定装置。
- 上記の請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の角速度測定装置を少なくとも2組備えて、当該角速度測定装置のそれぞれにより測定される互いに噛み合う一対の前記歯車の角速度をそれぞれ測定し、当該歯車間の相対的な角速度を算出する相対角速度演算部を有する、相対角速度測定装置。
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