以下に説明するミスト冷却装置は、水を微粒子化したミストを発生させ、ミストの気化による冷却を利用する構成であれば、様々な用途で採用可能である。ただし、以下では、ミスト冷却装置が、農業用ハウスの構成要素である場合を例として説明する。
図1、図2、図3に示すように、以下に説明する農業用ハウス30は、植物体40を栽培する空間E1を囲むように配置される外殻20を備える。また、農業用ハウス30は、外殻20で囲まれた空間E1において植物体40を栽培する環境を調節するためにミスト冷却装置10を備える。植物体40が露地で栽培される場合、植物体40の種類および栽培地域に応じて、栽培可能な季節がおおむね決まっている。これに対して、農業用ハウス30を用いて植物体40を栽培すると、露地で植物体40を栽培する時期とは異なる時期に植物体40を栽培することが可能である。また、植物体40を栽培する環境を調節することにより、同じ種類の植物体40または異なる種類の植物体40を年間に複数回栽培できる場合がある。
農業用ハウス30で栽培する植物体40は、葉菜類、果菜類、根菜類、豆類、果物、花卉などから選択可能である。葉菜類は、ホウレンソウ、コマツナ、レタス、キャベツ、ハクサイなどのことであり、果菜類は、トマト、キュウリ、ナスなどのことである。根菜類は、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ジャガイモ、サツマイモ、レンコン、サトイモなどのことである。
以下に説明する技術は、果菜類に対してとくに有効であるが、他の植物体40にも適用可能である。以下では、栽培する植物体40がトマト、キュウリ、ナスなどの果菜類である場合を想定して説明する。また、植物体40を土壌に植える土耕栽培を想定している。ただし、土壌に防根透水シートなどを敷いた隔離床で植物体40を栽培する場合でも、以下に説明する技術を採用することが可能である。
外殻20は、図4のように、地面に立てられるフレーム21と、フレーム21が支持する被覆体22とを備える。外殻20を地面に設置した状態で、外殻20が地面に占める形状は縦横比の大きい矩形状である。たとえば、外殻20の長手方向の寸法は数十[m]程度、外殻20の短手方向の寸法は数[m]程度である。
フレーム21は、アーチ状の複数の主フレーム21Aと、複数の主フレーム21Aを互いに連結する複数の連結フレーム21Bとを備える。主フレーム21Aのそれぞれは、地面に立てられる直線状の一対のサポート211と、一対のサポート211の上端同士を一体に連結する弧状のブリッジ212とによりアーチ状に形成されている。主フレーム21Aおよび連結フレーム21Bは、金属製パイプで形成されている。金属は、表面処理が施されたアルミニウム、亜鉛被覆が施された鉄などが選択される。複数の主フレーム21Aは、外殻20の長手方向(図1の左右方向)に一列に並べて配置される。したがって、1つの主フレーム21Aの一対のサポート211が外殻20の短手方向(図3の左右方向)に離れて立つ。連結フレーム21Bは、外殻20の長手方向に沿って配置されており、複数の主フレーム21Aに結合されている。
一方、被覆体22は、透光性を有する合成樹脂フィルムでありフレーム21を覆うように配置される。被覆体22の一部には、通気のための開口26A、出入口となる開口26Bなどが設けられている。外殻20は、開口26Aを覆う状態と、開口26Aを開放する状態との間で移動する窓27を備える。また、外殻20の内部には、植物体40を栽培する環境を調節するために、植物体40に散水する散水装置28、外殻20に入射する日射を調節するカーテン29などの種々の設備が設けられる。以下では、植物体40を栽培する環境を調節するための種々の設備のうち、水を微粒子化したミストを発生させる設備、および外殻20の内部に気流を形成する設備に着目して説明する。
ミストは、植物体40を栽培する環境のうち温度と湿度との少なくとも一方を調節する目的で用いられる。植物体40を栽培する環境のうち温度を調節する作用には、ミストが植物体40に接触して植物体40を冷却する作用と、ミストが気化し周囲の空気から気化熱を奪って冷気を生み出す作用とがある。また、ミストを発生させると、植物体40を栽培する環境の湿度が上昇する。
外殻20は、主フレーム21Aのサポート211に対応する一対の側壁23と、主フレーム21Aのブリッジ212に対応する屋根24と、外殻20の長手方向の両端面である一対の妻壁25とを有している。図3、図4に示すように、外殻20は、全体として長手方向に交差する断面において上に凸となる形状に形成されている。
通気のための開口26Aは側壁23に設けられており、出入口として用いる開口26Bは妻壁25に設けられている。農業用ハウス30の仕様によっては、通気のための開口26Aが側壁23だけではなく屋根24に設けられる場合がある。外殻20には、開口26Aに対応する部位に、開口26Aを覆う閉位置と開口26Aを開放する開位置との間で移動する窓27が設けられる。窓27は、透明なシートを軸に巻き付けた構成であって、シートを軸に巻き付ける量に応じて開口26Aの開度が調節される。窓27は、シートの上端部が外殻20に取り付けられ、外殻20にシートを取り付けた部位よりも軸が下に位置するように配置される。また、軸を回転させる動力は電動モータから与えられる。開口26Aが側壁23に形成されている場合、窓27は側窓と呼ばれ、開口26Aが屋根24に形成されている場合、窓27は天窓と呼ばれることがある。
出入口となる開口26Bには引き戸が配置される。引き戸は、開口26Bの開状態と閉状態とを選択する。開口26Bには、引き戸に代えて、開口26Bを覆う位置と開口26Bを開放する位置との間で移動可能なシートを重ねてもよい。シートは、周囲の少なくとも一部が、ファスナのように2部材の結合および分離を可能とする部材によって、外殻20に取り付けられていることが望ましい。
なお、図3、図4に示す構成例では、主フレーム21Aがアーチ状であるが、主フレーム21Aのブリッジ212は逆V字状であってもよく、またブリッジ212の頂点は1つではなく複数であってもよい。たとえば、主フレーム21Aのブリッジ212は逆W字状であってもよい。また、被覆体22は、透明であればガラスであってもよい。外殻20を組み立てる手順は、一般的であるから説明を省略する。
外殻20に囲まれている地面には、植物体40を栽培するために周囲に対して土を盛り上げた複数(たとえば、2つ)の畝31が形成されている。1つの畝31の寸法は、外殻20の長手方向においては外殻20の寸法にほぼ等しく(たとえば、8割程度)、外殻20の短手方向においては外殻20の寸法の数分の1程度である。外殻20の短手方向において隣り合う畝31の間には、作業用の通路32が形成される。
複数の畝31には、それぞれ複数の植物体40がおおむね等間隔に植えられる。植物体40の畝31への配置としては、一条植えと二条植えとが広く採用されている。一条植えは、複数の植物体40を1つの畝31の長手方向に沿って一列に並ぶように植えることを意味している。二条植えは、複数の植物体40を1つの畝31の長手方向に沿って二列に並ぶように植えることを意味している。一条植えと二条植えとのどちらでも、一列に並ぶ複数の植物体40はほぼ等間隔に植えられる。また、二条植えでは、畝31の長手方向において、一方の列で隣り合う2つの植物体40の間に他方の列の植物体40が配置されることがある。この場合、一方の列で隣り合う2つの植物体40の間隔を2dとすると、二条植えでは、植物体40が間隔dごとに異なる列に配置される。
外殻20の内部には、ミストを発生させるための複数のノズル11が配置されている。複数のノズル11には、それぞれ給水管12が接続され、給水管12を通して水が供給される。複数のノズル11は、給水管12を通して供給された水を微粒子化したミストを発生させる吹出口をそれぞれ備える。ノズル11は、通路32の上方に配置してもよいが、畝31の上方に配置されることが望ましい。つまり、ノズル11は、植物体40が栽培される地面としての畝31の上面から離れて上方に配置される。
植物体40を栽培する地面(畝31の上面)からノズル11までの高さは、植物体40の背丈に応じて定められ、おおむね50[cm]以上かつ300[cm]以下に定められる。ノズル11に供給される水は、雨水、河川水、井戸水などを原水とする水、あるいは水道水のほか、植物に有用な薬剤を含む水であってもよい。以下では、ノズル11に供給される水が薬剤を含むか否かにかかわらず水という。
1つのノズル11は複数個(たとえば、2個または4個)の吹出口を備えていることが望ましい。畝31に植物体40が植えられた状態であって、複数個の吹出口を備えるノズル11が畝31の上方に配置される場合に、ノズル11は、植物体40の直上ではなく、植物体40に対して外殻20の長手方向または短手方向にずれた位置に配置されることが望ましい。ノズル11は、ミストを吹き出す向きが、水平面(地面に沿う面)に対して比較的小さい角度範囲(水平面に対して±15度程度)となるように配置される。
ノズル11が2個の吹出口を有する場合は、一列に並ぶ植物体40の上方において、外殻20の長手方向に沿ってミストが吹き出されるようにノズル11が配置される。ノズル11が4個の吹出口を有する場合は、植物体40が一条植えであれば通路32の上方にノズル11が配置され、植物体40が二条植えであれば二列に並ぶ植物体40の列間の上方にノズル11が配置されることが望ましい。
なお、1つのノズル11が吹出口を1個だけ備えていてもよい。このようなノズル11を用いる場合、ノズル11は下向きにミストを吹き出すように配置されてもよい。ノズル11が1個の吹出口を有し下向きにミストを吹き出す場合には、ノズル11の直下に少なくとも1つの植物体40が位置するように植物体40が植えられる。
ここに、ノズル11がミストを吹き出す向きは、ノズル11から吹き出した直後のミストが存在する領域の中心線に沿って、ミストが飛翔する向きである。すなわち、ミストは吹出口から広がるように吹き出すから、ノズル11からミストが吹き出す向きは、吹出直後のミストが存在する領域の中心線で定められる。吹出直後のミストが存在する領域は、ノズル11がミストを吹き出す向きに直交する断面において、円形、楕円形、四角形などの形状をなす。
ノズル11から吹き出すミストは、粒子径の最頻値が30[μm]以上150[μm]以下であることが望ましく、50[μm]以上100[μm]であればなお望ましい。ノズル11から吹き出すミストの粒子径の最頻値が、上述した範囲であることは必須ではないが、粒子径の最頻値がこのような範囲であると、ミストは長期間にわたって浮遊することがなく比較的短時間で落下する。そのため、ミストは空気中で全部が気化するのではなく、畝31に植物体40が植えられていれば、ノズル11で発生したミストの一部が植物体40に落下する。すなわち、植物体40の表面でミストを気化させることにより、植物体40を冷却する効果が高まる。また、ミストの粒子径が比較的大きいから、ノズル11に供給する水に砂のような異物が含まれている場合でも、ノズル11の目詰まりが生じにくく、ノズル11のメンテナンスが容易である。
さらに、ミストを吹き出す際にノズル11に供給される水の圧力(噴霧圧力)は、0.1[Pa]以上0.8[Pa]以下であることが望ましい。噴霧圧力がこのような範囲であれば、ノズル11からミストが吹き出す範囲が拡がり、ノズル11から比較的近い部位で比較的広い範囲にミストを散布することが可能である。
上述した構成例では、ノズル11が畝31の上方に配置され、1つのノズル11が1つの畝31に対応してミストを吹き出す構成を想定している。これに対して、2個あるいは4個の吹出口を有したノズル11が通路32の上方に配置され、1つのノズル11から2つの畝31にミストを吹き出す構成を採用することも可能である。
個々のノズル11における吹出口の個数および複数のノズル11と畝31との位置関係にかかわらず、複数のノズル11は畝31に沿った列をなすように並ぶ。図3、図4に示すように、外殻20の内部に複数の畝31が形成されているから、ノズル11も複数の列をなすように並ぶ。1列に並ぶ複数のノズル11にそれぞれ接続されている複数の給水管12には、共通のヘッダ13から水が供給される。すなわち、外殻20の長手方向に沿った複数のヘッダ13が外殻20に配置されており、各ヘッダ13に複数の給水管12の一端が結合されている。
ヘッダ13の材質は硬質でも軟質でもよいが、給水管12の材質は柔軟であることが望ましい。ヘッダ13は、合成樹脂、金属、ゴムなどから選択される材料で形成され、給水管12は、ゴム、合成樹脂などから選択される材料で形成される。給水管12およびヘッダ13は、単独の材料ではなく複数の材料を組み合わせた複合材料で形成されていてもよいのはもちろんのことである。ノズル11に接続された給水管12がフレーム21に固定されたヘッダ13に結合される。
ノズル11から吹き出したミストは落下し、ミストの一部は気化せずに植物体40に到達する。ミストの一部は植物体40に接触せずに気化するが、ミストの粒子径が比較的大きいために、比較的多くのミストが植物体40に接触した後に気化する。そのため、植物体40は比較的よく冷却される。
上述のように、ミストが植物体40に接触することから、植物体40の蒸散作用を阻害せず、植物体40に生理障害が生じないように、ミストの量が適量になるように調節する必要がある。ここでは、植物体40に接触したミストが短時間で気化するように、ミストをノズル11から間欠的に発生させ、図5のように、ミストを発生させる噴霧期間T1とミストの発生を停止する休止期間T2とを調節している。
また、ノズル11から吹き出したミストが複数の植物体40の群落が存在する領域に搬送され、かつ植物体40に付着したミストを短時間で気化させるために、外殻20の内部に気流が形成される。気流の形成は必須というわけではないが、適切な気流が形成されると、ミストを植物体40の群落全体に行き渡らせることが可能になる。また、気流の形成により、植物体40に付着したミストの気化が促進され、植物体40へのミストの接触時間が短縮されて生理障害が発生する可能性が低減される上に、植物体40を迅速に冷却することが可能になる。
ミストを発生させるタイミングは、図6に示す制御装置50が指示する。ミストを吹き出すノズル11に水を供給するヘッダ13は水供給装置としてのポンプ52に接続されており、ポンプ52で加圧された水がヘッダ13を通してノズル11に供給されることによりノズル11からミストが発生する。すなわち、制御装置50がポンプ52に対して、ノズル11に水を供給する第1動作と、ノズル11に水を供給しない第2動作とを指示することによって、ミストが発生するタイミングと、ミストの単位時間当たりの発生量とが定まる。
制御装置50は、プログラムに従って動作するプロセッサを備えたコンピュータで構成される。制御装置50は、植物体40を栽培する環境を調節するための設備の動作を、外殻20の内部の気温、湿度、外殻20に入射する日射強度などに基づいて制御する。ただし、以下では、制御装置50が制御する設備のうち、ミストを発生させる設備について説明する。
ミストを発生させる設備は、上述したように、ノズル11、給水管12、ヘッダ13、ポンプ52などを備えており、制御装置50はポンプ52を制御する。なお、ミストを発生させる設備は、ポンプ52とヘッダ13との間に電磁弁のようなバルブを備えていてもよい。すなわち、ノズル11に水を供給する水供給装置は、ポンプ52とバルブとを備えていてもよい。この場合、制御装置50は、ポンプ52の制御だけではなく、バルブの制御も行うことが望ましい。ただし、以下ではミストを発生させるタイミングを制御するためにポンプ52の動作を制御する場合を例として説明する。
制御装置50は、ポンプ52の動作を制御するために、植物体40の群落を代表する乾球温度を計測する第1の温度センサ51Aと、植物体40の群落を代表する湿球温度を計測する第2の温度センサ51Bとから計測結果を取得する。植物体40の群落を代表する乾球温度および湿球温度の値は、外殻20内の1箇所で計測した値を採用すればよいが、外殻20内の複数箇所で計測した値から求めた平均値などであってもよい。
ここでは、第1の温度センサ51Aと第2の温度センサ51Bとが1つの取付台510を共用して設けられ、外殻20内の1箇所において乾球温度と湿球温度とを計測する構成を想定する。第1の温度センサ51Aは感温部511のみを備えるが、第2の温度センサ51Bは、感温部512のほかに、感温部512を包むガーゼあるいは不織布を用いたウィック513と、ウィック513を濡らす水を貯めておくタンク514とを備える。ウィック513は、タンク514から毛細管現象で吸い上げた水で感温部512を濡らす。ウィック513において感温部512を包んでいる部位から水が蒸発することにより感温部512で湿球温度が計測される。また、感温部512の周囲で水が蒸発することにより、タンク514から水が吸い上げられる。
ところで、一般的に言って、外殻20内の相対湿度が高いほど、ウィック513からの水の蒸発量が減少するから、乾球温度と湿球温度との温度差は小さくなる。ここで、乾球温度から湿球温度を減算した温度差をΔθとするとΔθ≧0である。この温度差Δθが大きいということは、ミストが気化しやすい状態であると言える。そこで、制御装置50は、温度差Δθが大きいほど、温度差Δθが大きいほど、噴霧期間T1に対する休止期間T2の相対比を小さくするようにポンプ52の動作を制御する(図7参照)。噴霧期間T1は、ポンプ52からノズル11に水を供給する第1動作を選択する期間に相当し、休止期間T2は、ポンプ52からノズル11に水を供給しない第2動作を選択する期間に相当する。
植物体40に接触したミストが気化する速度には、相対湿度のほかに、気流の速度、日射強度なども影響し、ミストの気化は、気流の速度が大きく、日射強度が大きいほど促進される。そのため、相対湿度または飽差(飽和水蒸気圧と実際の水蒸気圧との差)のみによって単位時間当たりのミストの発生量を定めると、気流の速度、日射強度によるミストの蒸発量への影響が考慮されていないために、ミストの発生量に過不足が生じるおそれがある。対して、上述した構成で計測した乾球温度と湿球温度との温度差Δθは、実際に水が気化する速度の情報を含んでおり、気流の速度および日射強度が反映されている。したがって、単位時間当たりのミストの発生量を定める制御因子として乾球湿度と湿球湿度との温度差Δθを用いると、相対湿度または飽差を用いる場合に比べて、ミストの発生量を的確に定めることが可能になる。
ここに、噴霧期間T1に対する休止期間T2の相対比を変化させる方法には、噴霧期間T1を変化させずに休止期間T2のみを変化させる方法と、休止期間T2を変化させずに噴霧期間T1のみを変化させる方法とがある。また、噴霧期間T1に対する休止期間T2の相対比を変化させるには、噴霧期間T1と休止期間T2との両方を変化させることも可能である。これらの方法は、様々な条件に応じて適宜に選択されることもある。噴霧期間T1は、植物体40に付着したミストが集積せず、ミストが水滴となって植物体40から落下することがないように定められる。
ここでは、噴霧期間T1を変化させずに、休止期間T2のみを変化させている。すなわち、制御装置50は、温度差Δθが大きいほど、休止期間T2を長くするようにポンプ52の動作を制御する。噴霧期間T1は、植物体40に付着したミストが集積して植物体40から落下することのない程度の時間内で、できるだけ長い時間に定められる。言い換えると、ミストが植物体40を冷却する目的に無駄なく使用されるように、適量のミストを発生させるように噴霧期間T1が定められる。ミストの粒子径およびノズル11の高さが上述のように設定されている場合、噴霧期間T1は、たとえば10秒に定められる。
ノズル11から吹き出したミストのうち植物体40に付着するミストの割合は、外殻20内の気温、湿度などによって異なる。ただし、噴霧期間T1が上述のように定められていると、外殻20内の環境(気温、湿度など)にかかわらず、植物体40が濡れ過ぎることなく、かつ植物体40の冷却が可能な程度に、植物体40にミストを付着させることができる。
たとえば、以下の条件の下で、ノズル11からミストを発生させたところ、ミストの噴霧期間T1が10秒以内であれば、植物体40に接触したミストの水滴が結合することなく植物体40から蒸発した。すなわち、植物体40は背丈が約1.5[m]のトマトとし、ノズル11は、畝31の上面から2[m]の高さに配置した。また、ミストの粒子径の最頻値が60[μm]以上80[μm]以下であるノズル11を使用した。この例では、ミストの水滴が結合しないことによって、植物体40の表面のうちミストが付着した部位の全体からミストが気化し、ミストの水滴が結合する場合に比べて広い面積でミストを気化させることができた。その結果、ミストの蒸発速度も高くなり、ミストの気化による冷却効果も高められた。
植物体40に付着したミストが完全に気化する時間は、外殻20内の環境および植物体40の温度などによって異なる。とくに、外殻20内の相対湿度が高いほど(つまり、飽差が小さいほど)、植物体40に付着したミストが消滅するまでの時間が長くなる。そして、植物体40にミストが残っている状態でノズル11から再びミストが吹き出したとすると、植物体40は濡れた状態が継続するために植物体40に生理障害が生じる可能性が高くなる。
以上の理由によって、ノズル11からミストを吹き出した後は、植物体40の表面からミストが消滅する程度の時間が経過するまでミストが吹き出さないようにポンプ52を制御することが望ましい。植物体40の表面からミストが消滅するまでの時間は、植物体40に付着したミストの量、外殻20内の環境、植物体40の温度などによって変化する。したがって、休止期間T2を定めるには、植物体40に付着したミストの消滅に関わる様々な条件を考慮する必要がある。なかでも外殻20内の相対湿度は、ミストが気化する速度に大きく関与する。外殻20内の相対湿度は、乾球温度と湿球温度とから求めることができるが、ここでは相対湿度に相当する指標を温度差Δθのみから求めている。
すなわち、制御装置50は、第1の温度センサ51Aが計測した乾球温度の値と、第2の温度センサ51Bが計測した湿球温度の値との温度差Δθを求め、温度差Δθに応じて休止期間T2を定める。制御装置50では、実際には、噴霧期間T1はポンプ52を運転する期間に対応付けられ、休止期間T2はポンプ52を停止する期間に対応付けられる。したがって、噴霧期間T1と休止期間T2とは、ノズル11からのミストの発生と停止とに完全に一致するわけではないが、ミストが発生する期間はおおむね噴霧期間T1に対応し、ミストが停止する期間はおおむね休止期間T2に対応する。
制御装置50は、第1の温度センサ51Aが計測した乾球温度の値および第2の温度センサ51Bが計測した湿球温度の値を取得するインターフェイス部501を備える。インターフェイス部501が取得した乾球温度の値および湿球温度の値は処理部502が受け取る。処理部502は、インターフェイス部501が取得した乾球温度と湿球温度との温度差Δθを求め、温度差Δθに基づいて休止期間T2を定める。温度差Δθと休止期間T2との関係は、数式あるいはデータテーブルとして定められており、処理部502は数式あるいはデータテーブルを用いて、温度差Δθから休止期間T2を求める。処理部502は、ドライブ回路503を通してポンプ52に指示を与える。ドライブ回路503は、処理部502の出力をポンプ52の運転に必要な電力に引き上げるための回路である。処理部502がポンプ52に与える指示は、あらかじめ定められている噴霧期間T1と、温度差Δθから求めた休止期間T2とに基づいて決められる。
図6に示す制御装置50は、ポンプ52の運転と停止とだけを制御する構成である。すなわち、ポンプ52への指示を与える処理部502は、噴霧期間T1にはポンプ52に運転を指示し、休止期間T2にはポンプ52に停止を指示する。また、制御装置50は、温度差Δθが小さいほど長い休止期間T2を定め、ポンプ52が停止してから運転を再開するまでの時間を長くする。このような動作によって、外殻20内の相対湿度に応じて、植物体40に付着したミストが乾いた後にノズル11からミストを吹き出すように休止期間T2を調節することが可能になる。
温度差Δθと休止期間T2との関係の一例を図7に示す。図7では、温度差Δθに対して休止期間T2を段階的に定めている。すなわち、温度が複数の温度階級に区分され、複数の温度階級それぞれに休止期間T2が一対一に対応付けられている。したがって、処理部502は、温度差Δθが属する温度階級に応じて休止期間T2を選択することができる。図7において、噴霧期間T1は10秒とした。休止期間T2は、温度差Δθが4[℃]以上6[℃]未満に対して20分、温度差Δθが6[℃]以上8[℃]未満に対して15分、温度差Δθが8[℃]以上10[℃]未満で10分、温度差Δθが10[℃]以上で5分とした。なお、温度差Δθが4[℃]未満になることのないように外殻20内の環境が管理されるため、図7に示す例では、4[℃]未満ではミストを吹き出さないように定めてある。
温度差Δθと休止期間T2との関係を上述のように設定した結果、植物体40に付着したミストが休止期間T2内ですべて気化し、ポンプ52の運転が再開しノズル11からミストが吹き出すまでの時点で、植物体40の表面を乾燥させることができた。なお、図7に示す数値は一例に過ぎず、農業用ハウス30の構成に応じて数値は適宜に定められる。
ところで、図1、図2に示しているように、外殻20における一方の妻壁25の上部には吸気ファン15が配置され、外殻20における他方の妻壁25の上部には排気ファン16が配置される。吸気ファン15は、外気を外殻20内に取り入れるために設けられ、排気ファン16は、外殻20の外に空気を排出するために設けられている。したがって、吸気ファン15と排気ファン16とにより、外殻20の上部の熱気が排出される。また、外殻20内の下部には、植物体40を栽培する空間に気流を形成する気流形成装置として複数台(図では3台)の送風ファン17が配置される。図1、図2に示す構成例では、送風ファン17は、吸気ファン15が設けられた妻壁25の近傍に配置され、排気ファン16が設けられた妻壁25に向かう向きの気流を形成する。この気流は低速であり、植物体40に触れる気流がたとえば1[m/s]以下の流速となるように定められている。
送風ファン17が作り出す気流は、ノズル11から吹き出したミストを外殻20の内部で拡散させ、植物体40の群落にミストを行き渡らせる機能を持つ。また、植物体40に気流が触れることにより、植物体40に付着したミストの気化が促進される。つまり、送風ファン17が作り出す気流は、植物体40に付着したミストを気化させる速度を高めるから、休止期間T2の短縮に寄与し、結果的に、植物体40の群落の温度を低下させる速度を向上させる。
ミスト冷却装置10は、上述したように、ミストを発生させるノズル11と、ノズル11に水を供給する水供給装置としてのポンプ52と、ポンプ52を制御するための制御装置50とを備える。さらに、ミスト冷却装置10は、制御装置50がポンプ52の動作を定めるための第1の温度センサ51Aおよび第2の温度センサ51Bを備える。ミスト冷却装置10は、上述した構成に加えて、気流形成装置としての送風ファン17を備えていることが望ましい。
上述した構成例において送風ファン17は、外殻20の長手方向(2つの妻壁25)を結ぶ方向の一方の向き(吸気ファン15から排気ファン16に向かう向き)に気流を形成している。気流形成装置は、上述した送風ファン17に代えて、外殻20の長手方向の中間部に配置した2台の送風ファンであってもよい。2台の送風ファンは、外殻20の短手方向に並んで配置される。また、2台の送風ファンは、それぞれ外殻20の長手方向に沿った気流を形成し、気流の向きが互いに逆向きとなるように配置される。この構成の送風ファンを用いると、外殻20内に循環する気流が形成される。すなわち、2台の送風ファンによって、外殻20内でミストを拡散させる効果が期待できる。
なお、上述したミスト冷却装置10は、植物体40に限らず、他の物体の冷却に用いることが可能である。このミスト冷却装置10を用いると、ミストを用いて省エネルギで冷却を行いながらも、物体は濡れた状態が継続することがない。そのため、ミストを物体に接触させながらも、物体がカビまたは細菌の増殖によって腐食することが抑制され、また物体が水分子との接触によって酸化する可能性も低減される。
上述したミスト冷却装置10は、ノズル11と第1の温度センサ51Aと第2の温度センサ51Bと水供給装置(ポンプ52)と制御装置50とを備えている。ノズル11は、水を微粒子化したミストを発生させる。第1の温度センサ51Aは、ノズル11が配置されている所定の空間E1における乾球温度を計測する。第2の温度センサ51Bは、所定の空間E1における湿球温度を計測する。水供給装置(ポンプ52)は、ノズル11への水を供給する第1動作と水を供給しない第2動作とが選択可能である。制御装置50は、第1動作と第2動作とを交互に繰り返すように水供給装置(ポンプ52)の動作を制御する。さらに、制御装置50は、第1動作を選択する噴霧期間T1と第2動作を選択する休止期間T2との少なくとも一方の期間を、乾球温度と湿球温度との温度差Δθに基づいて定めるように構成されている。
この構成では、水供給装置(ポンプ52)が、ノズル11に水を供給する第1動作と、ノズル11に水を供給しない第2動作とを交互に繰り返すから、ミストの供給と気化とを比較的短い時間で繰り返すことができる。その結果、単位時間におけるミストの気化を促進することが可能であり、ミストによる冷却の効果を高めることができる。また、第1動作が選択される噴霧期間T1と、第2動作が選択される休止期間T2との少なくとも一方が、乾球温度と湿球温度との温度差Δθに基づいて定められるから、ミストの発生とミストの気化とを適切に行うことが可能である。すなわち、物体がミストで過剰に濡れることがないように、ミストの発生と気化とを適正化することができる。
制御装置50は、噴霧期間T1に対する休止期間T2の割合を、温度差Δθが小さいほど大きく定めるように構成されていることが望ましい。
すなわち、温度差Δθが小さいほど相対湿度が高くミストの気化が進まないから、温度差Δθが小さいほど、休止期間T2の割合を大きくし、次の噴霧期間T1が開始された時点で物体にミストが残っている可能性を低減させている。その結果、物体がミストで過剰に濡れる可能性が低減される。
制御装置50は、噴霧期間T1を一定とし、休止期間T2を複数の段階から選択する構成である。この場合、制御装置50は、温度が区分された複数の温度階級に休止期間T2の複数の段階が一対一に対応付けられており、複数の温度階級のうち温度差Δθが属する温度階級に対応する休止期間T2を選択することが望ましい。
この構成によれば、噴霧期間T1は物体がミストで冷却される程度の一定時間に定めておき、休止期間T2を調節して物体が過剰に濡れる可能性を低減させることができる。また、温度差Δθに対して休止期間T2のみを調節し、かつ休止期間T2が段階的に選択されるから、温度差Δθに応じた水供給装置(ポンプ52)の制御の際に複雑な計算が不要である。
所定の空間E1は、植物体40を栽培する空間であって、外殻20に囲まれていることが望ましい。
すなわち、ミストを用いて冷却する対象が植物体40であって、植物体40を栽培する空間E1が外殻20に囲まれているから、制限された空間E1にミストを供給することにより、ミストを植物体40に効率よく接触させることができる。したがって、ノズル11に供給される水の量に対して、植物体40の冷却効果が高まる可能性がある。また、植物体40が過剰に濡れる可能性が低減されているから、ミストで植物体40が濡れても植物体40に生理障害が生じる可能性が低い。
ノズル11から発生したミストを所定の空間E1における目的の領域に搬送し、かつ所定の空間E1に存在する物体(たとえば、植物体40)に付着したミストの気化を促すように気流を形成する気流発生装置(送風ファン17)をさらに備えることが望ましい。
この構成によれば、気流発生装置(送風ファン17)が配置されていることにより、気流がミストを搬送し、ミストを空間E1の全体に行き渡らせることができる。また、物体に付着したミストに気流が接触することによって物体に付着したミストの気化が促進される。その結果、休止期間T2が短縮されて単位時間に供給可能なミストの量を増加させることが可能である。これにより、単位時間当たりのミストの供給量を増加させて物体の冷却を促進することができる。
ミストは、粒子径の最頻値が30[μm]以上150[μm]以下であることが望ましい。また、ミストは、粒子径の最頻値が50[μm]以上100[μm]以下であることがさらに望ましい。
ミストの粒子径の最頻値が、上述した範囲であれば、ノズル11から吹き出したミストは空中を長時間にわたって浮遊することがなく、短時間で落下して物体に到達する可能性が高くなる。そのため、物体の表面にミストを到達させ、ミストを物体の表面で気化させることが可能になる。つまり、ミストの気化によって空間E1の空気を冷却する効果に加えて、物体から気化熱を奪って物体を直接冷やす効果が得られ、結果的に物体を冷却する効果が高まる。
上述した農業用ハウス30は、上述したミスト冷却装置10と、植物体40を栽培する空間を囲み、かつミスト冷却装置10を構成するノズル11が配置されている外殻20とを備えている。この構成によれば、ミストを用いて植物体40を冷却する農業用ハウス30を提供することができる。
なお、上述した構成例は本発明の一例である。このため、本発明は、上述した構成例に限定されることはなく、上述した構成例以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんのことである。