JP2017222809A - 機能性超分子化合物 - Google Patents

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【課題】本発明は、β−シクロデキストリン誘導体の新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンを提供することを目的とする。特には、実用応用例が非常に広範なジメチル−β−シクロデキストリンを用いた、新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンを提供することを目的とする。【解決手段】本発明により、ジメチル−β−シクロデキストリンおよび該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子であるポリエチレングリコールからなるポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンが提供される。【選択図】図1

Description

本発明は、新規な機能性超分子化合物に関する。より具体的には、β−シクロデキストリン(β−CyD)誘導体から作成される新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンに関する。
天然のCyDがポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)などの直鎖状のポリマー分子とネックレス状の包接複合体、ポリ擬ロタキサンを形成することが報告されている。ポリ擬ロタキサンの構成成分は水溶性であるものの、これらが超分子複合体を形成すると、隣接するCyD同士のヒドロキシル基が水素結合を形成し、水分子との水和が減弱する結果、難水溶性となる。さらに、ポリ擬ロタキサンを単離し、有機溶媒に再分散させ、不均一状態を保ちながら、軸分子(ポリマー)末端に嵩高い置換基を導入すると、CyDをトラップしたポリロタキサンを形成することが報告されている。
これらの報告を契機にして、ポリ擬ロタキサンやポリロタキサンの合成・応用研究が飛躍的に発展し、医薬分野においても、バイオマテリアルやドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用研究が盛んに行われている。例えば、高分子量のPEGは、CyDとポリ擬ロタキサンハイドロゲルを形成し、低分子薬物やタンパク質性薬物の制御放出担体として有用である(非特許文献1)。また、β−CyD/PPGポリロタキサン中のβ−CyDに、抗がん剤であるパクリタキセルを結合させ、ポリロタキサンの分解に伴い、パクリタキセルを徐放出する生分解性キャリアの開発も行われている(非特許文献2)。
一般に、CyD誘導体は、修飾された官能基により、CyD間の水素結合が阻害されてしまうため、ポリ擬ロタキサンを形成することができない。そのため、ポリロタキサン誘導体は、以下のステップを経て天然CyDから調製される;1)天然CyDとポリマー(軸分子)を水中で混合し、難水溶性のポリ擬ロタキサンを調製する、2)ポリ擬ロタキサンを単離し、乾燥する、3)ジメチルスルホキシド(DMSO)やジメチルホルムアミド(DMF)のような有機溶媒に再分散させ、エンドキャップ分子を添加後、数日反応させる、4)水やアルコールで洗浄を繰り返し、ポリロタキサンを得る、5)得られたポリロタキサンをDMSOに溶解後、誘導体化反応を行う、6)透析や洗浄などで精製後、乾燥する。このように、CyD誘導体のポリロタキサンを作製するためには、多段階の合成工程が必要となる。さらには一般に、収率も15〜48%程度と不十分である。
Nakazonoらは、ポリロタキサンの誘導体化反応ステップを省略するべく、種々の炭化水素系の溶媒(例えばヘキサン)中において、2,3,6−トリ−O−メチル−β−CyD(TM−β−CyD)とポリテトラヒドロフラン(PTHF)を分散させ、1日撹拌後、エンドキャップ分子として3,5−ジメチルフェニルイソシアナートを2時間反応させることにより、TM−β−CyDから直接メチル化ポリロタキサンを調製可能なことを報告した(非特許文献3)。有機溶媒中においてTM−β−CyDがPTHFとポリ擬ロタキサンを形成すること、また、one−potで、高収率(最大収率71%)のポリロタキサン誘導体を合成可能であることを明らかにした報告である。しかし、Nakazonoらが提唱した調製方法は、残存溶媒の可能性が危惧されることから、バイオマテリアルやDDSキャリアを指向したポリロタキサン誘導体の調製には適さない。
また、ヒドロキシプロピル−β−CyD(HP−β−CyD)とPEG−PPG−PEG共重合体のポリロタキサンの調製が報告されている(収率15−56%)(非特許文献4)。
Okadaらは、β−CyDのグルコースの2および6位の水酸基がメチル化された2,6−ジ−O−メチル−β−CyD(DM−β−CyD)を用いて、水系溶媒におけるDM−β−CyD/PPGポリ擬ロタキサンの調製を報告している(非特許文献5)。しかし、その収率は平均分子量2,000および4,000のPPGを用いた場合に、それぞれ0.5%および1.0%以下と非常に低く、さらに平均分子量2,000未満のPPGはポリ擬ロタキサンを形成しなかった。また、その反応時間も室温で5日以上と長く、ポリロタキサンの調製にも至っていない。加えて、この報告では、DM−β−CyDとPEGはポリ擬ロタキサンを形成しないことも示唆されている。つまり、Okadaらの方法では、DM−β−CyDとPPGとのポリ擬ロタキサンを水系溶媒で調製できるものの、反応効率は非常に低い。
また、Araiらは、トリメチル−β−CyDとPEGから成るポリロタキサンを水中かつone−potで調製したことを報告しているが、収率は5%程度と非常に低かった(非特許文献6)。
Katoonoらは、β−CyDの1つの水酸基をアミノ化し残りの20個の水酸基をメチル化したモノアミノ化−per−メチル−β−CyDを用い、PEG誘導体とのポリロタキサンの調製を報告している(非特許文献7)。PEGの両末端に4−benzyloxy−2−(2−propynyloxy)benzoyl基を修飾したPEG誘導体をモノアミノ化−per−メチル−β−CyDと混合し、加熱すると、水溶液中でモノアミノ化−per−メチル−β−CyDが軸分子にトラップされる。ここに、さらに嵩高い官能基を軸分子の両末端に反応させると、収率14〜17%程度でポリロタキサンが得られる。この知見は、水中かつone−potでβ−CyD類とPEGのポリロタキサンを合成可能なことを示すものであるが、(1)4−benzyloxy−2−(2−propynyloxy)benzoyl基を修飾したPEG誘導体を用いる必要がある、(2)ポリ擬ロタキサンが沈殿として得られない(水中でポリ擬ロタキサンが形成されるため、単離できない)、(3)分子量1,000程度のPEGが用いられており、CyD貫通数もわずか1〜3.6個程度である、(4)反応に3〜21日もの時間を要する、などの問題点を有し、この方法では、様々な貫通数・分子量のメチル化−β−CyDポリロタキサンを調製することは困難である。また、モノアミノ化−per−メチル−β−CyDの実用応用例は非常に少ない。
さらに、本発明者らにより、実用応用例が非常に豊富なジメチル−β−シクロデキストリンを用いたポリロタキサンの合成が報告されている。そこでは、ジメチル−α−シクロデキストリン(DM−α−CyD)とポリエチレングリコール(PEG)、ならびにDM−β−CyDとポリプロピレングリコール(PPG)から成るポリロタキサンのone−potかつ水中における合成が報告されている。(非特許文献8、非特許文献9)。しかしながら、DM−β−CyDの軸分子となるPPGは、PEGに比べ水に溶けにくく、生体適合性に乏しい。また、PEGは分子量数百〜数万のものが容易に入手可能であるのに対し、PPGの分子量は最大で4,000程度と多様性に乏しいため、高貫通数・高分子量のDM−β−CyDポリロタキサンを調製することは困難である。
シクロデキストリン(CyD)は、串刺し状に、直鎖状高分子を包接し、ポリ擬ロタキサンを形成する。以下の表に示すように、空洞径の小さなα−CyDはポリエチレングリコール(PEG)を、空洞径の大きなβ−CyDはポリプロピレングリコール(PPG)を包接し、難水溶性の沈殿物としてポリ擬ロタキサンが得られる。
ここに示されるように、α−CyDとPPGの組合せ、およびβ−CyDとPEGの組み合わせでは、空洞がフィットせず、ポリ擬ロタキサンが得られない。
また、従来から、β−CyD誘導体のポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンの合成が試みられているが、PEGとの組合せについては報告がなく、β−CyD類とPEGとの組合せはポリ擬ロタキサンを形成しないというのが当業者の常識であった。
Jun Li, NPG Asia Materials, 2, 112-118 (2010) Yu S.ら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 125, 7413-7418 (2013) Nakazonoら、Macromolecules, 43, 691-696 (2010) Mondjinouら、Biomacromolecules, 14, 4189-4197 (2013) Okadaら、J. Phys. Chem. B, 103, 2607-2613 (1999) T. Arai et al., Macromolecules, 42, 1881 (2009) Katoonoら、Chem. Lett. 39, 892, 2010) 東ら、Joint Conference of 8th Asian Cyclodextrin Conference and 32nd Cyclodextrin Symposium, Kumamoto, Japan, May 14-16, 2015 東ら、ACS MacroLetters, 5(2), 158-162, (2016)
本発明は、β−シクロデキストリン誘導体の新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンを提供することを目的とする。特には、実用応用例が非常に広範なジメチル−β−シクロデキストリンを用いた、新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンを提供することを目的とする。
本発明はまた、ジメチル−β−シクロデキストリンを用いた新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンを製造するための、one−potかつ水系溶媒を用いた製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、高温水中においてone−potで、DM−β−CyDがPEGとポリ擬ロタキサンおよびポリロタキサンを高収率で製造可能なことを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下のものを含む。
[1]ジメチル−β−シクロデキストリンおよび該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子からなるポリ擬ロタキサンであって、該直鎖状分子がポリエチレングリコールであるポリ擬ロタキサン。
[2]ポリエチレングルコールの分子量が、400〜10万(好ましくは1000〜10万、より好ましくは2000〜10万、更に好ましくは4000〜5万、特に好ましくは1万〜5万)である、上記[1]に記載のポリ擬ロタキサン。
[3]ジメチル−β−シクロデキストリン、該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子、および該直鎖状分子の両端に配置され該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の脱落を防止する封鎖基とからなるポリロタキサンであって、該直鎖状分子がポリエチレングリコールであるポリロタキサン。
[4]ポリエチレングルコールの分子量が、400〜10万(好ましくは1000〜10万、より好ましくは2000〜10万、更に好ましくは4000〜5万、特に好ましくは1万〜5万)である、上記[3]に記載のポリロタキサン。
[5]前記封鎖基が、トリニトロベンゼンスルホン酸、アミノ酸、アダマンタン類、シクロデキストリン、およびタンパク質類からなる群より選ばれる上記[3]または[4]に記載のポリロタキサン。
[6]ジメチル−β−シクロデキストリン、該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子であるポリエチレングリコール、および該直鎖状分子の両端に配置され該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の脱落を防止する封鎖基とからなるポリロタキサンの製造方法であって、以下の工程:
(a)水系溶媒中で、ジメチル−β−シクロデキストリンとポリエチレングルコールを、20〜100℃(好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜100℃)の温度にて、例えば5分〜24時間(好ましくは30分〜12時間、より好ましくは2〜12時間)反応させることにより、ポリ擬ロタキサンを形成する工程、
(b)前記溶媒中に、前記封鎖基となる封鎖剤を添加して、20〜100℃(好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜100℃)の温度にて、例えば5分〜1週間反応させることにより、ポリエチレングリコールの末端を封止する工程、
を含むポリロタキサンの製造方法。
[7]前記ポリエチレングルコールの分子量が、400〜10万(好ましくは1000〜10万、より好ましくは2000〜10万、更に好ましくは4000〜5万、特に好ましくは1万〜5万)である、上記[6]に記載の製造方法。
[8]前記工程(a)で用いるポリエチレングリコールがポリエチレングリコールテトラアミンであり、前記工程(b)で用いる封鎖剤がトリニトロベンゼンスルホン酸である上記[6]または[7]に記載の製造方法。
[9]前記水系溶媒が水であり、かつ、工程(a)および(b)をone−potで行う上記[6]〜[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
本発明により、新規なβ−シクロデキストリン誘導体のポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンが提供される。本発明によりまた、実用応用例が非常に広範なジメチル−β−シクロデキストリンとPEGからなる、新規なポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサンが提供される。
DM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンの粉末X線回折の結果である。 DM−β−CyD/PEGポリロタキサンの調製スキームを示した図である。 本発明のDM−β−CyD/PEGポリロタキサンの1H−NMRのスペクトルパターンを示している。上段が、DM−β−CyD/PEG10000ポリロタキサンの結果であり、下段が、DM−β−CyD/PEG20000ポリロタキサンの結果である。
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明する。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
本発明のポリ擬ロタキサンまたはポリロタキサン(以下、特に明記せず、また、文脈より区別して用いていることが明らかでない限り、これらをまとめて「ポリロタキサン」という)の構成成分であって環状分子である、ジメチル−β−シクロデキストリン(DM−β−CyD)は、シクロデキストリンの2位、3位、および6位のうちの2つのヒドロキシル基がメチル化されたβ−シクロデキストリンである。本発明においては、好ましくは、2位および6位がメチル化されたβ−シクロデキストリンが用いられる。DM−β−CyDは、市販されている。
本発明のポリロタキサンの構成成分である直鎖状分子は、ポリエチレングリコール(PEG)である。PEGの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば100〜50万、好ましくは400〜10万、より好ましくは、1000〜10万、更に好ましくは2000〜10万、特に好ましくは4000〜5万、最も好ましくは1万〜5万である。用いるPEGの分子量は、作製するポリロタキサンの用途に応じ、適宜選択できるが、ゲル素材に用いる場合は、1万〜5万が好ましく、ドラッグキャリアに用いる場合は、1000〜5万が好ましい。
本明細書において、PEGの分子量(重量平均分子量)を言う場合は、PEGの分子量を測定するための当該技術分野で用いられている公知の方法を用いて測定した分子量を意味し、これに限定されないが、例えばGPCで測定した分子量をあげることができる。これらの分子量は、ポリエチレングリコール換算により求められる値である。
前記PEGは、好ましくは、両末端に反応性基を有する。PEGの両末端は、従来公知の方法を用い反応性基を導入することができる。
前記PEGの両末端の反応性基は、特に限定されず、用いる目的によって適宜選択でき、また、採用する封鎖基の種類により適宜変更することができる。例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などを挙げることができ、好ましくは、カルボキシル基またはアミノ基であり、より好ましくは、アミノ基である。具体的には、これに限定されないが、両末端がアミノ基で置換された、PEG−テトラアミンを挙げることができる。テトラアミンの例として下記式のPEGを挙げることができる。
上記のPEG−テトラアミンは、例えば、PEG末端のヒドロキシル基をカルボニルジイミダゾールで活性化し、トリス(2−アミノエチル)アミンを反応させることにより合成できる。
ポリ擬ロタキサンの作製工程(即ち、包接工程)においては、PEGとDM−β−CyDとの重量比は、1:2〜1:100であることが好ましく、1:5〜1:60であることがより好ましく、1:10〜1:30であることが更に好ましい。DM−β−CyDの重量がPEGの重量の15倍未満であると、PEGを包接するDM−β−CyDの個数(包接量)が小さくなりすぎることがある。
本発明のポリロタキサンの構成成分である封鎖基は、DM−β−CyDに包接されているPEGの両端をキャップして、複数のDM−β−CyDの脱離を防止することができる限り、特に制限はなく、本技術分野で用いられている封鎖基を、目的に応じて適宜選択して用いることができる。例えば、トリニトロベンゼンスルホン酸、アミノ酸、アダマンタン類、シクロデキストリン、タンパク質類をあげることができ、好ましくは、トリニトロベンゼンスルホン酸を挙げることができる。このように、環状構造をもつ置換基が、嵩高いことより好ましく用いられる。
本発明のポリロタキサンは以下の工程(a)および工程(b)を行うことにより製造できる。
工程(a):
水系溶媒中で、ジメチル−β−シクロデキストリンとポリエチレングルコールを、高温、例えば、20〜100℃の温度にて、例えば、5分〜24時間反応させることにより、ポリ擬ロタキサンを形成する工程。
工程(b):
ポリ擬ロタキサンを含む水系溶媒中に、封鎖基となる封鎖剤を添加して、例えば、20〜100℃の温度にて、例えば、5分〜1週間反応させることにより、ポリエチレングリコールの末端を封止し、ポリロタキサンを作製する工程。
前記水系溶媒としては、例えば、水、水と水性有機溶媒との混合物などが挙げられ、特に水が好ましい。前記水性有機溶媒としては、特にこれに限定されないが、DMFやDMSOを挙げることができる。
工程(a)で用いる反応温度は、高い温度であることが必要であり、通常は20〜100℃、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜100℃、更に好ましくは60〜100℃である。
工程(a)における反応時間は、従来技術に比べて非常に短時間ですみ、具体的には、5分〜24時間、好ましくは30分〜12時間、より好ましくは2〜12時間である。
工程(b)で用いる反応温度及び反応時間は、PEGの両末端の反応基の種類および用いる封鎖基の種類に応じて適宜選択できる。これに限定されないが、反応温度は、通常は20〜100℃で、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜100℃であり、反応時間は、5分〜1週間の間で適宜選択できる。
工程(a)においては、該工程を開始する前に、溶媒中に溶解しているDM−β−CyDおよびPEGを十分に分散しておくことが好ましく、例えば、それらが溶解している溶媒を、室温にて、数分から数十分間、超音波処理することがあげられる。
前記工程(b)の後にさらに、合成されたポリロタキサンを精製する工程を加えることもできる。これに限定されないが、本発明の方法においては水系溶媒を用いているので、工程(b)の反応生成物を回収し適量の水で溶解した後、透析し、凍結乾燥することにより、簡易な工程で、精製したポリロタキサンを得ることができる。
本発明の前記工程(a)および工程(b)は、one−potで行うことができる。これにより、より簡便に、DM−β−CyDとPEGとのポリロタキサンを得ることができる。
本発明の方法により、ポリ擬ロタキサンが、高い収率、例えば、70%以上、好ましくは80%以上の収率で製造できる。
また、本発明により、ポリ擬ロタキサンの製造およびポリロタキサンの製造を、同じ容器内(one−pot)で行うことができ、ポリロタキサンが、高い収率、例えば、70%以上、好ましくは80%以上の収率で製造できる。
本発明のポリロタキサンの貫通率は、使用目的に応じ、任意に調整することができる。これに限定されないが、例えば、1〜100%、好ましくは、2〜80%、より好ましくは5〜70%である。本明細書において貫通率とは、PEGによるDM−β−CyD分子の貫通率(DM−β−CyDの実際の貫通数/DM−β−CyDの理論上の最大貫通数)を意味する。貫通率はまた包接率とも言うこともでき、包接率は、直鎖状分子であるPEGへのDM−β−CyDの包接の理論上の最大包接量を1とした場合の割合である。また、前記最大包接量とは、PEG鎖の2つのエチレングリコールユニットに対して、DM−β−CyDが1つ包接された最密包接状態とした場合のDM−β−CyDの個数をいう。
貫通率は、PEGとDM−β−CyDの混合比、水系溶媒の種類などを変化させることにより、任意に調整することが出来る。
貫通率は、1H−NMRにより測定することが出来る。例えば、貫通率は、DMSO−d6にポリ擬ポリロタキサンを溶解し、NMR測定装置により測定し、4〜6ppmのシクロデキストリン由来の積分値と3〜4ppmのDM−β−CyDおよびPEGの積分値の比較で算出することができる。また、得られた粉末状のポリ擬ポリロタキサンを溶解させ分析した場合、シクロデキストリンが遊離し正確な貫通率を得ることが難しい場合は、シクロデキストリンが遊離しないように当該ポリ擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入したポリロタキサンに変性した後、分析し、得られた貫通率は、作製した粉末状ポリ擬ポリロタキサンの貫通率とみなすことも出来る。
以下、本発明を、以下に記載の実施例をもとに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)DM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンの調製
DM−β−CyD(M.W.=1331.36,200mg、和光純薬工業から購入)を水 1mLに溶解後、各種分子量のPEG(13.2mg、Sigma−Aldrichより購入)を添加した。室温で10 分間超音波処理を行い、70 ℃で2 時間静置した。遠心分離(10,000 rpm、1 min)後、上清を除去し、減圧乾燥を行った。
(実施例2)DM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンの粉末X線回折
実施例1で調製したDM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンの粉末X線回折を行った。粉末X線回折は、Rigaku(株)製試料水平型多目的X線回折装置Ultima IVを使用し、試料をガラスセルに固定して測定した。測定条件は、以下の通りである。X線源:Cu−Ka線(1.542 Å)、管電圧:40 mA、走査速度:5 ゜/min、回折角:5〜35 ゜、スリット:1/2 ゜−開放−開放。
結果を図1に示す。
(実施例3)DM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンの貫通率の測定
実施例1で調製したDM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンを重水素置換ジメチルスルホキシドに溶解後、貫通率を、1H−NMRにより測定した。1H−NMRスペクトルは、α−500FT−NMRスペクトロメーター(日本電子社製)を用いて、25 ℃で測定した。溶媒はDMSO−d6を用い、各種サンプルの濃度は1.5 mg/750 mLとした。1H−NMRの化学シフトは、DMSO−d6のピークを用いて内部標準物質テトラメチルシラン(TMS)からの低磁場シフトとして表した。結果を以下の表2に示す。
貫通率が約20%であるDM−β−CyD/PEGポリ擬ロタキサンが、収率90%で製造できたことが判る。即ち、CyD誘導体の1種であるDM−β−CyDを用い、PEGと高温水中で混合することにより、ポリ擬ロタキサン由来の沈殿物を高収率で形成できることが判った。
(実施例4)DM−β−CyD/PEGポリロタキサンの調製
調製スキームを図2に示す。具体的には以下のようにして行った。
各分子量のPEG−tetra amineは以下のようにして合成した。各種PEG、N,N’−カルボニルジイミダゾール(CDI:ナカライテスク)およびトリエチルアミン(TEA:ナカライテスク)をジクロロメタン20mLに溶解し、窒素置換後16時間撹拌した(PEG分子量に対する各試薬量は以下の表に示す)。飽和塩化ナトリウム水溶液(約20mL)で洗浄後、ジクロロメタン層を回収し、トリアミノエチルアミン(TAA:STREM CHEMICALS)溶液(3mL/5mLジクロロメタン)に撹拌しながら滴下した。窒素置換後、7時間撹拌し、エーテルで沈殿後、遠心により沈殿物を回収し、減圧乾燥した。
DM−β−CyD(M.W.=1331.36,200 mg)を水1 mLに溶解後、上記で調製した各分子量のPEG−tetra amine(13.2 mg)を添加し、室温で10 分間超音波処理を行った。70 ℃で2 時間撹拌し、ポリ擬ロタキサンを調製した。
次いで、1 Mのトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)溶液を添加後、50 ℃で24時間撹拌し、エンドキャップ反応を行った。反応物を適量の水で溶解し、透析後、凍結乾燥を行った。なお、各分子量に対するTNBS反応量および精製方法は以下のとおりである。
・PEG400の場合:TNBS 774 mLおよびwash操作を2回行った。
・PEG2,000の場合:TNBS 154.8 mLおよび透析膜(M.W.C.O.=3,500)
・PEG4,000の場合:TNBS 77.4 mLおよび透析膜(M.W.C.O.=3,500)
・PEG10,000の場合:TNBS 30.96 mLおよび透析膜(M.W.C.O.=8,000)
・PEG20,000の場合:TNBS 15.48 mLおよび透析膜(M.W.C.O.=8,000)
調製したDM−β−CyD/PEGポリロタキサン(PEG分子量10000および20000)を1H−NMRにより測定した。測定条件は、実施例3と同様である。スペクトルパターンを図3に示す。これにより、調製物にはPEG、DM-β-CyDならびにTNBSが含有されており、ポリロタキサンが調製されていることが判る。
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
本発明により。DM−β−CyDとPEGとからなるポリ擬ロタキサンおよび/またはポリロタキサンが提供される。DM−β−CyDは、細胞膜成分と強く相互作用することから、これらポリ擬ロタキサンおよび/またはポリロタキサンは機能性医用素材としての有効利用が期待できる。また、本発明により、様々な貫通数・分子量のDM−β−CyDポリロタキサンが提供できるので、機能性ゲル、分子マシーンならびにバイオマテリアル等への応用が期待される。

Claims (9)

  1. ジメチル−β−シクロデキストリンおよび該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子からなるポリ擬ロタキサンであって、該直鎖状分子がポリエチレングリコールであるポリ擬ロタキサン。
  2. ポリエチレングルコールの分子量が、400〜10万である請求項1に記載のポリ擬ロタキサン。
  3. ジメチル−β−シクロデキストリン、該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子、および該直鎖状分子の両端に配置され該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の脱落を防止する封鎖基とからなるポリロタキサンであって、該直鎖状分子がポリエチレングリコールであるポリロタキサン。
  4. ポリエチレングルコールの分子量が、400〜10万である請求項3に記載のポリロタキサン。
  5. 前記封鎖基が、トリニトロベンゼンスルホン酸、アミノ酸、アダマンタン類、シクロデキストリン、およびタンパク質類からなる群より選ばれる請求項3または4に記載のポリロタキサン。
  6. ジメチル−β−シクロデキストリン、該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の開口部を串刺し状に貫通する直鎖状分子であるポリエチレングリコール、および該直鎖状分子の両端に配置され該ジメチル−β−シクロデキストリン分子の脱落を防止する封鎖基とからなるポリロタキサンの製造方法であって、以下の工程:
    (a)水系溶媒中で、ジメチル−β−シクロデキストリンとポリエチレングルコールを、20〜100℃の温度にて反応させることにより、ポリ擬ロタキサンを形成する工程、
    (b)前記水系溶媒中に、前記封鎖基となる封鎖剤を添加して、20〜100℃の温度にて反応させることにより、ポリエチレングリコールの末端を封止する工程、
    を含むポリロタキサンの製造方法。
  7. 前記ポリエチレングルコールの分子量が、400〜10万である請求項6に記載の製造方法。
  8. 前記工程(a)で用いるポリエチレングリコールがポリエチレングリコールテトラアミンであり、前記工程(b)で用いる封鎖剤がトリニトロベンゼンスルホン酸である請求項6または7に記載の製造方法。
  9. 前記水系溶媒が水であり、かつ、工程(a)および(b)をone−potで行う請求項6〜8のいずれか一つに記載の製造方法。
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