[発明の詳細な説明] 本発明は、各種疾患の治療に用いる新規なリポソーム処方剤およびその製造方法に関する。この処方剤は、複数の治療剤封入リポソーム、すなわち、「封入治療剤」を含む複数のリポソームからなる。各リポソームの物性によって、リポソーム処方剤の安定性と効果が実現される。処方剤は、リポソームの粒径と形状が実質的に均一であることを特徴としている。本発明はまた、効率的で費用対効果が高く、大規模な製造の需要にも合致したリポソーム処方剤の製造方法も記載する。また、本発明は、この製造方法によって製造された新規かつ有用な特性を有する処方剤にも関するものである。
A.リポソームの成分
本発明は、新規で有用な形態のリポソームに関する。本発明のリポソームを製造するにあたっては、各種のリポソーム成分を使用することができる。好ましくは、脂質成分は、非毒性で生体適合性の脂質、たとえば、ホスファチジルコリン、ホスホグリセロール、および/またはコレステロールから製造された脂質である。本発明の一形態では、脂質成分は、ジアステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)と、ジアステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)と、コレステロールとを、好ましくは約3:1:2のモル非(DSPC:DSPG:chol)で含有する。
脂質成分は、治療剤を封入し、ここで双方の成分は所定質量を有する。本明細書では、「薬剤対脂質比」(すなわち薬剤:脂質比)とは、リポソームおよび/または処方剤を構成する薬剤対脂質成分の相対的な質量比のことをいう。本発明の一態様では、リポソームは、薬剤:脂質の重量比が、約1:5〜1:8、好ましくは1:6〜1:7である。
B.リポソームの物性
リポソームの各種の物理変数と特性が、均一性、安定性、処方剤の有効性に影響を及ぼしうる。こうした物性としては、(1)リポソーム内およびリポソーム外のオスモル濃度、(2)(リポソーム内およびリポソーム外の)導電性、(3)薬剤:脂質比、(4)(リポソーム内およびリポソーム外の)pH、(5)組成物で使用する脂質と薬剤の種類を挙げることができる。
オスモル濃度は、リポソーム処方剤の溶質の濃度についての尺度である。本明細書で使用する場合には、「オスモル濃度」という用語は、溶媒1キログラムあたりのオスモルでの溶質分子数(mOsm)(mOsm/kg)で規定する溶質の濃度についての尺度である。内部オスモル濃度は、リポソーム内の溶質の濃度であり、外部オスモル濃度は、リポソーム外の溶質の濃度である。本発明の一態様では、リポソームは、低いリポソーム内部オスモル濃度を有する。内部オスモル濃度は、リポソーム内に封入する薬剤の量を変化させることによって調整できる。当業界で記載されているリポソームは、なるべく多くの薬剤を封入し、その結果、オスモル濃度が高い(封入比が高い)リポソームである。しかし、本発明で開示するリポソームは、当業界で使用されているリポソームよりオスモル濃度が低い(または封入比が低い)リポソームである。本明細書で開示するような低めのオスモル濃度、すなわち約340〜440mOsm/kgのオスモル濃度を用いると、処方剤中でのリポソームの安定性と、リポソームの均一性が改善される。内部オスモル濃度を下げるための一つの方法としては、リポソーム処方剤への治療剤封入量を減らすことが挙げられる。内部オスモル濃度を下げるための、薬剤:脂質比の変更を要さない別の方法としては、当業界で公知の特定の多糖類または糖類のような非帯電物質の使用を挙げることができる。
外部オスモル濃度は、体内のオスモル濃度と等張とするのが好ましく、特に、注射用処方剤の場合には、体内のオスモル濃度と等張とするのが好ましい。したがって、外部オスモル濃度は、相対的に一定となるようにすることが好ましい。本発明の内部および外部オスモル濃度によって、高い安定性、低い薬剤漏出率、リポソームの適正な薬剤封入能が実現されるものである。
本明細書で使用する「導電性」という用語は、溶液のイオン含量にもとづくリポソームによる電気の導電性である。導電性は、リポソームのイオン含量と関連しており、リポソーム処方剤の安定性、薬剤漏出率、薬剤封入能に影響を与える。リポソームの導電性は、約13.5〜17.5ms/cmの範囲とする。本発明の一態様では、封入された薬剤が帯電している。帯電した薬剤は、リポソームの導電性およびオスモル濃度と一対一の相関を有する。したがって、封入する帯電物質の量を変更すると、それに比例するかたちで、これら双方の特性に影響が及ぶことになる。別の態様としては、ニュートラルな(耐電していない)薬剤物質を使用することもできる。ニュートラルな物質として多糖類のような物質を導電性の調整に使用する場合には、オスモル濃度薬剤の濃度とは独立しており、薬剤の濃度とは独立したかたちで制御できる。
本発明のリポソームのもう一つの新規な観点は、組成物の相対的剛性、すなわち、環境および体内の異なる条件下でのリポソームの安定性と、壊れやすさである。リポソームの剛性は、リポソームの保存性の改善につながるリポソーム膜強度ならびに剪断力・圧力に対する耐性の尺度である。リポソームの剛性は、圧縮率と反比例する。圧縮率の低いリポソームは、剛性が高い。リポソームの剛性の測定方法の一例は、超音波ベロシメトリーとデンシトメトリーを用いるものである。リポソームの剛性の測定方法は当業界で周知であり、たとえば、Leide P., et al., “Compressibility study of quaternary phospholipid blend monolayers”,Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 85(2011) 153−160;およびHianik, Tibor, et al., “Specific volume and Compressibility of bilayer lipid membranes with incorporated Na, K−ATPase”, General Physiology and Biophysics 30(2011) 145−153に記載されている。これらについては、ここに言及することをもって、そのすべてを本明細書に組み込むものとする。
リポソームについては、リポソーム外の溶剤についてのpH(外部pH)と、リポソーム内部の封入された部分についてのpH(内部pH)がある。pHは、安定性、リポソームからの薬剤漏出率、リポソーム処方剤の薬剤封入能に影響を及ぼす。処方剤の一態様では、内部pHを約6.8〜7.0の範囲とする。内部pHが6.8〜7.0であることは、処方剤の安定性にとって有利である。治療剤の溶剤のpHは、たとえば、連続的に溶液の滴定をおこないつつpHの範囲を6.8〜7.0に保ったり、治療剤を既知の緩衝液を用いて溶解する際に特定のpH、たとえばpH約6.9に保ったりすることによって保持することができる。リポソームの内部pHは、リポソームの外部pHとは異なっていてもよい。pHが異なるようにするには、リポソームの内部および外部環境を構成する溶液のpHを変化させればよい。
C.処方剤
本発明のリポソーム処方剤は、上述のような特徴を有し、粒径と形状が実質的に均一で、つまりリポソーム同士の粒径のばらつきがほとんどない複数のリポソームからなる。処方剤の均一性は、多分散指数(PDI)によって測定する。PDIは、0〜1の非線形のスケール(値0は完璧に均一な製剤、PDIが1の組成物は、多様性大(不均一))で測定する。本発明の処方剤のPDIは、0.075未満、好ましくは0.02〜0.05の範囲である。
PDIの値は、Zetasizer nano series user manual, 2003, Malvern Instruments, pp. 5.5−5.6と、Kazuba M., Nano Series and HPPS Training Manual Chapter 1, 2003, Malvern Instruments, pp. 9で論じられているようにして計算することができ、これらの文献の内容は、ここに言及することをもって、本発明に組み込むものである。実際、本処方剤のPDIは、PDIが0.02未満の粒径測定用標準と似通っている。当業界で公知の処方剤は、PDIが通常0.3程度であり、本発明の均一性とは実質に異なる均一性を有している。PDIは非線形なスケールであるため、本発明のPDIは、当業界の処方剤のPDIと実質的に異なっている。実際、本発明の低いPDIによって、大型リポソームにともなう有害な効果が防止され、フィルターによる滅菌に適した処方剤を生成できるので有利である。
本発明の処方剤は、剛性と均一性が増大したリポソームを含み、そのため、安定性と保存性が改善している。本発明の処方剤は、有効であるとも考えられる。(Banai, Shmuel, et al., “Targeted anti−inflammatory systemic therapy for restenosis: The Biorest Liposomeal Alendronate with Stent study (BLAST) − a double blind, randomized Clinical trial”, Am Heart J. (2013) 165(2): 234−40.)
本処方剤のリポソームは、マクロファージおよび単球に取り込まれるように特定の粒径とする。リポソームは、30〜500nmの範囲の粒径とすることができる。しかし、使用する薬剤や担体の種類に応じて、リポソームの粒径の範囲は、70〜120nm、100〜500nm、100〜300nm、100〜180nm、80〜120nmとすることもできる。しかし、これらの範囲は例として示すものであり、食細胞による取り込みに適当な他の特定の粒径も、本発明の精神や範囲から逸脱することなく見いだすことができるはずである。好適な一態様では、処方剤のリポソーム粒径は、約80±5nmである。
本発明のリポソームには、各種の治療剤を封入することができる。治療剤は、リポソームが取り込まれたときに、活性を低減させたり阻害させたり、および/または患者内の食細胞の量を減らしたりすることのできる物質である。治療剤は、任意の化学物質とすることができ、大型または小型の分子、化学化合物の混合物、無機または有機化合物、生物学的高分子、たとえばタンパク質、炭水化物、ペプチド、抗体、核酸などとすることができる。治療剤は、既知の生物から誘導した天然生成物であっても、合成化合物でもかまわない。
本発明で有用な治療剤の一種が、ビスホスホネートである。ビスホスホネート(旧称ホスホネート)は、C−P結合を2つ持つことを特徴とする化合物である。ビスホスホネートは、2つの結合が、同じ炭素原子上に存在する場合(P−C−P)、ジェミナルなビスホスホネートと称される。ビスホスホネートは、骨形成や再吸収の調節に関与している内在性無機ピロリン酸塩の類似物質である。ビスホスホネートは、場合によっては、重合鎖を形成することもある。ビスホスホネートは親水性が高く、負に帯電しているので、そのままの遊離形態では、細胞膜を通過することは、ほぼ完全に不可能である。
本明細書で使用するビスホスホネートという用語は、ジェミナルなビスホスホネートとジェミナルでないビスホスホネートの双方を指す。好適なビスホスホネートは、下記の式(I)を有する。
ここで、R1はH、OH、またはハロゲン原子であり、R2はハロゲン、ヘテロアリールまたは複素環式C1〜C10アルキルアミノまたはC3〜C8シクロアルキルアミノ(アミノは一級、二級または三級)で必要に応じて置換された直鎖または枝分かれC1〜C10アルキルまたはC2〜C10アルケニル、−NHY(式中のYは水素)、C3〜C8シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであるか、−SZ(式中のZは、クロロ置換フェニルまたはピリジニル)である。
ビスホスホネート剤の一例は、下記式(II)を有するアレンドロネートである。
多くのビスホスホネートが、アレンドロネートと似た活性を有しており、本発明の治療剤として有用である。こうしたビスホスホネートは、アレンドロネートの生物学的活性にどこまで近づけるかというところで選ぶことができる。アレンドロネートの生物学的活性としては、たとえば、食細胞、たとえばマクロファージおよび繊維芽細胞内に入った場合に、それらの細胞の活性を阻害するインビトロの活性、マクロファージからのIL−1および/またはIL−6および/またはTNF−αの分泌の阻害、インビトロの活性、たとえば試験に供した処方剤が、動物モデルまたはヒトで血液の単球を欠乏または無能化させる能力、または心筋梗塞を治療し、梗塞の領域を減らす能力を挙げることができる。
本発明で適用可能なビスホスホネートとしては、クロドロネート、チルドロネート、3−(N,N−ジメチルアミノ)−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、たとえばジメチル−APD;1−ヒドロキシ−エチリデン−1,1−ビスホスホン酸、たとえばエチドロネート;1−ヒドロキシ−3(メチルペンチルアミノ)−プロピリデン−ビスホスホン酸、(イバンドロン酸)、たとえばイバンドロネート;6−アミノ−1−ヒドロキシヘキサン−1,1−ジホスホン酸、たとえばアミノ−ヘキシル−BP;3−(N−メチル−N−ペンチルアミノ)−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、たとえばメチル−ペンチル−APD;1−ヒドロキシ−2−(イミダゾール−1−イル)エタン−1,1−ジホスホン酸、たとえばゾレドロン酸;1−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)エタン−1,1−ジホスホン酸(リセドロン酸)、たとえばリセドロネート;3−[N−(2−フェニルチオエチル)−N−メチルアミノ]−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ビスホスホン酸;1−ヒドロキシ−3−(ピロリジン−1−イル)プロパン−1,1−ビスホスホン酸、1−(N−フェニルアミノチオカルボニル)メタン−1,1−ジホスホン酸、たとえばFR 78844(Fujisawa);5−ベンゾイル−3,4−ジヒドロ−2H−ピラゾール−3,3−ジホスホン酸テトラエチルエステル、たとえばU81581(Upjohn);および1−ヒドロキシ−2−(イミダゾ[1,2−a]ピリジン−3−yl)エタン−1,1−ジホスホン酸、たとえばYM529が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
特定の実施態様では、たとえばナトリウムアレンドロネートがDSPC、DSPG、およびコレステロールに封入されているような態様では、1:5.7の薬剤:脂質質量比(ナトリウム・アレンドロネートについては、約1:3のモル比と同等)を用いることができる。別の治療剤であるクロドロン酸ニナトリウムが同じ脂質成分に封入されている場合には、約1:5.4の質量比(1:3のモル比と同等)を使用することができる。本発明では、増殖の阻害または遅延、および/または食細胞の活性のダウンレギュレーションによって食細胞を阻害したり低減させたりするような他の治療剤を封入してもよい。具体的な治療剤としては、細胞毒性または細胞増殖抑制性の任意の薬剤を挙げることができ、たとえば、ガリウム、金、シリカ、5−フルオロウラシル、シスプラチン、アルキル化剤、ミトラマイシン、パクリタキソールを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記治療剤のどれにおいても、リポソームの薬剤:脂質比(重量)は、約1:5〜1:8、好ましくは1:6〜1:7である。
一実施態様では、処方剤は、リポソームに封入した治療剤を含み、この治療剤が食作用を通じて細胞に入り、食細胞以外に影響を及ぼすことなくマクロファージと単球を標的とする。正常状態のマクロファージと単球は細胞が傷ついた領域に誘導され、疾患や症状によって生じる炎症のレベルを超えた炎症を促進するので、単球/マクロファージの阻害および/または欠乏は、そのダメージを受けた領域ヘの悪影響を抑制する。食細胞の内部に取り込まれると、薬剤が放出され、虚血再灌流障害または炎症性障害、たとえば心筋梗塞、梗塞の最終領域の低減、急性心筋梗塞後の心臓修復およびアウトカムの改善をはじめとする食細胞免疫応答をともなう各種の症状の治療を行うべく、単球および/またはマクロファージを阻害、不活性化、機能不全化、死滅、および/または欠乏させる。処方剤のリポソームは、粒径、帯電、pH、導電性、主に食作用を通じての取り込みを促進するような粒径、帯電、pH、導電性、オスモル濃度などの特定の性質を有する。
単球/マクロファージに取り込まれた後、処方剤は、単球/マクロファージに対する持続的な阻害活性を発揮する。この持続的な活性は、単球/マクロファージの炎症作用を弱めるうえで十分なものであり、したがって、阻害作用を保持するうえで、処方剤を持続的に放出する必要はない。したがって、ある疾患を、たとえばリポソームに封入された処方剤を使用して単球/マクロファージを阻害することによって治療する方法は、処方剤が循環する単球およびマクロファージを標的とするような全身的な治療であることが好ましい。封入された治療剤の種類に応じて、食細胞の反応は異なる可能性がある。たとえば、アレンドロネートを封入したリポソームは、アポトーシスを生じるのに対し、クロドロネートを封入したリポソームは、壊死を生じる。食細胞以外の細胞には、リポソーム処方剤に固有の生理科学的特性ゆえに、処方剤は相対的に取り込まれにくい。
また、本発明のリポソームは、治療剤を十分な時間保持して体液中で治療剤が放出されないようにするだけでなく、標的細胞内では効率的に処方剤を放出する。本発明のリポソームは、有効量の処方剤を標的細胞に送達する。「有効量」という用語は、所望の治療上の結果、たとえば、子宮内膜症、再狭窄、虚血再灌流障害(IRI)、心筋梗塞または関連症状の治療を実現するうえで有効な処方剤の量のことをいう。たとえば、障害が心筋のダメージに関連している場合には、活性化されたマクロファージおよび単球の数および/または活性が低減すれば、梗塞の領域が狭まり、および/または修復が改善される。有効量は、いくつもの要因、たとえば治療対象患者の体重および性別、処方剤の投与形態(すなわち、全身投与か、部位への直接投与か)、治療計画(たとえば、治療剤の投与の1日1回の投与、1日数回の投与、何日かおきの投与、単回投与などの別)、炎症の臨床指標、治療対象症状の悪化速度に影響する臨床要因、喫煙の有無、高コレステロール血症、炎症促進性状態、腎疾患、組成物の剤形などにも左右されるが、要因はこれらに限定されない。リポソーム処方剤が成功裏に送達されるか否かは、リポソーム処方剤の安定性と有効性に左右される。各リポソームに封入させる治療剤分子の数(ペイロード)、小胞の粒径、遊離非封入物質のレベルは、製品の治療指数を決定する重要な変数である。
D.用量および投与
リポソーム処方剤は、リポソームが効果的に適切または所望の作用部位まで輸送できれば任意の経路で投与することができる。好適な投与形態としては、(ラインでの投与に特に適した)静脈内(IV)投与および動脈内(IA)投与がある。他の適当な投与形態としては、筋肉内(IM)投与、皮下(SC)投与、および腹膜内(IP)投与を挙げることができる。こうした投与は、急速な注射または点滴によって行うことができる。別の投与形態としては、血管周囲への送達によるものを挙げることができる。処方剤は直接投与しても、希釈後に投与してもよい。本発明にしたがって、上記投与経路の任意のものを組み合わせて使用することも可能である。粒子が食細胞(循環する単球または腹膜マクロファージ)と接触するのであれば、任意の投与経路を用いることができる。
本発明にしたがって使用する製剤組成物は、活性成分の製剤への加工を容易にし、製剤上使用可能な、当業界で公知の賦形剤と助剤からなる生理学的に許容される担体1種以上を使用することによって処方することができる。
投与量および投与間隔は個別に調整して、血漿での処方剤のレベルを、生物学的効果を誘導したり抑制したりする上で十分なもの(最小有効濃度、MEC)とすることができる。MECは、個々の製剤によって変化するが、インビトロでのデータから決定できる。MECを達成するのに必要な容量は、個々の特性と投与経路に応じてきまる。血漿濃度の測定には、各種の検出アッセイを使用することができる。
治療対象症状の程度や応答性に応じて、投与は、単回または複数回の投与とすることができ、治療期間も、数時間〜数週間、または治療完了までとすることができる。投与頻度も、症状や程度に応じて変化させることができる。一態様では、処方剤を定期的に投与することができる。用量は、所望の治療で必要とされる任意の量または体積に処方することができる。たとえば、1マイクログラムまたは10マイクログラムの用量を、血管内処置、たとえばステント留置を受けている患者に投与して、その後のステント内の内径損失(in−stent late loss)の発生や重症化を防止することができる。別の例では、用量を100マイクログラム以上とすることもできる。この意味で、処方剤は、単回投与、複数回投与、および/または、たとえば所定期間の連続点滴連続投与のかたちで投与することができる。たとえば、容量は、上掲のBanai, Am Heart J. (2013)の記載内容にしたがって投与することができる。
E.リポソームの製造方法
本発明の別の観点は、製品の商業生産に適したリポソームおよびリポソーム処方剤の製造方法である。この製造方法では、以上で説明してきたような物理的特性を操作することができ、水:溶剤比、溶剤の組成と溶剤比、小胞調製温度、小胞調製剪断速度、押出し温度、押出し圧力、押出し膜粒径、膜の種類といった特定のプロセス変数を制御することもできる。
リポソーム処方剤の製造は、(1)治療剤とあらかじめ選択した脂質とを混合して小胞を形成する工程、(2)小胞を単一段階(ステージ)で単一サイズのフィルターを通して押出す工程、(3)限外濾過の工程を含むものである。ここで「単一段階でフィルターを用いて押出す工程」という表現が意味するのは、「押出し工程では、単一孔径の濾過工程」を用いるということである。つまり、単一サイズのフィルターを複数回通過させてもよいが、従来技術で公知であるような異なるサイズのフィルターを複数回および/または連続して通過させねばならないようなこと(たとえば、1.0、0.8、0.6、0.4、0.2マイクロメートルの膜の連続通過)はない。限外濾過の後、製品を標準化して所望の最終濃度とすることができる。工程(2)の押出しを低圧での単一段階での押出しによって行うので、本発明の方法を用いると、複数段階での高圧押出しと比べて、運転コストと時間が短縮され、収量が増大する。図1は、製造方法の各工程を例示したものである。
第一工程は、治療剤とあらかじめ選択した脂質成分とを溶液中で混合して小胞を形成する工程からなる。多くの場合、治療剤と脂質成分は、治療剤溶液と脂質成分溶液いうかたちに可溶化し、その後両溶液を混合する。この態様では、治療剤溶液は、pH、オスモル濃度、導電性をはじめとする特定の物理的特性を有する。治療剤溶液は、リポソーム処方剤の内部環境を形成している。したがって、治療剤溶液のpH、導電性、オスモル濃度は、リポソーム処方剤の内部pH、導電性、オスモル濃度に影響を及ぼす。リポソームの内部オスモル濃度は好ましくは、340〜440mOsm/kgの範囲であり、一方、リポソームの外部オスモル濃度は、270〜340mOsm/kgの範囲である。溶液のpHは、治療剤溶液のpHが所望のpH範囲となるようにする。したがって、酸性の治療剤、たとえばビスホスホネートを使用するときには、pHが塩基性の溶液を用いて、溶液のpHが6.8〜7.0の範囲に保たれるようにする。たとえば、治療剤溶液は、アレンドロン酸ナトリウムをNaOH溶液に溶解した溶液から調製することができ、その結果得られたアレンドロネート溶液のpHは約6.8、導電性は約18.0ms/cmとなる。溶液は、必要に応じて、この過程の間に加熱してもよい。別の態様では、クロドロン酸ナトリウムまたはアレンドロネートの一水和物を使用することができる。溶液は、ビスホスホネートの塩基性溶剤中での可溶化が促進されるような55〜75℃の温度、たとえば70℃に加熱することができる。溶解している治療剤と他の賦形剤の量に応じて、溶液は、340〜400mOsm/kgのオスモル濃度を有するものとすることができ、このオスモル濃度が内部オスモル濃度となる。また溶液は、治療剤と賦形剤の量に応じて、14.0〜21.0ms/cmの範囲の導電性を有するものとすることができ、この導電性が内部導電性となる。内部pH、オスモル濃度、導電性は、リポソーム製剤の安定性と有効性に関わる要因である。一態様では、製造過程の工程(1)での治療剤溶液の濃度を20〜120g/Lとすることができる。治療剤溶液は、ここで議論した製造過程とは別に、および/または製造過程以前に調製することができる。
脂質成分は、1種以上の脂質溶剤中に脂質成分を所望の出発量含有する溶液の形態とすることができる。任意の適当な脂質成分と脂質溶剤を使用することができる。たとえば、脂質成分は、リポソーム形成前の時点で、モル比で3:1:2のDSPC、DSPG、コレステロールからなるものとすることができる。脂質をこの組み合わせとすることによって得られたリポソームも、DSPC、DSPG、コレステロールのモル比が3:1:2となる可能性がある。さらに、脂質溶剤は、たとえば、v/v/v比で77/77/6のt−ブタノール、エタノール、水からなるものとすることができる。本発明のリポソームの処方時に使用できる他の脂質溶剤としては、クロロホルムまたはメタノールがある。脂質成分は、脂質溶剤に溶解する。脂質溶剤は、55〜75℃の範囲の脂質成分の可溶化を促進するような温度、たとえば、70℃まで加熱して、脂質溶液とすることができる。溶解した脂質溶液の濃度は、50〜350g/Lの範囲とすることができる。脂質溶液は、ここで議論した製造過程とは別に、および/または製造過程以前に調製することができる。
治療剤溶液と脂質溶液を混合することで、多層小胞(MLV)が形成される。薬剤:脂質比は、脂質溶液または治療剤溶液の量を変えることによって制御できる。溶液同士の混合を促進する目的で、必要に応じて2種の溶液を穏やかに加熱してもよい。この過程によって、治療剤を多層小胞に効率的に封入することが可能になる。一例では、脂質溶液を治療剤溶液に、5.3部の脂質と1部の治療剤の割合で加えることができる。この脂質対薬剤(重量)比は、送達を有意に犠牲にすることなく、リポソーム処方剤の安定性を増大させる。実際、この過程での薬剤:脂質比は、重量で1:4〜1:8、好ましくは1:5〜1:6の範囲で変化させることができる。また、溶剤濃度は、リポソームの一体性を犠牲にすることなく、押出し工程の前に調整することができる。
処方剤の製造方法の次の工程は、小胞を単一サイズのフィルターを通して単一段階で押出す工程を含む。小胞を押出すと、上述の多層小胞の粒径が小さくなる。この方法では、単一の押出し工程と低圧を使用し、その結果、粒径と形状の均一性の高いリポソームが生成される。押出しの過程では、マイクロフルイダイザーまたは他の通常のホモジェナイザーを使用することができる。ホモジェナイザーは、剪断エネルギーを用いて、大型リポソームを小型リポソームへと分割する。本発明での使用に適したホモジェナイザーとしては、各種の製造業者、たとえば米国マサチューセッツ州ボストンのマイクロフルイディクス社によって製造されたマイクロフルイダイザーを挙げることができる。粒径分布は、通常のレーザービームによる粒径の弁別によって監視することができる。ポリカーボネート膜または非対称なセラミック膜を通したリポソームの濾過は、リポソームの粒径を、相対的によく画定された粒径分布へと限定するうえで効果的な方法である。押出し温度は、粒径を低減するうえでは、リポソームの転移相温度より高温とするのが好ましい。たとえば、DSPG、DSPC、コレステロールを用いる場合には、約55℃とするのが望ましい。他の脂質を使用することもでき、押出し工程の所望の温度の指標としては、公知の転移相温度を用いることができる。所望の小胞粒径と均一さと均質性を実現するうえでは、複数回の通過が必要となる場合もある。この工程の間には、試料をリアルタイムで分析して、小胞の粒径と細菌カウントを評価することができる。
押出し工程は、単一段階低圧押出し法によって行う。押出しの過程では、(従来法で実施されてきたように)大型リポソームを孔径の大きな膜から小さな膜へと高圧の押出し機を用いて順次通過させる多段押出しによって小型の単層リポソームを形成するのではなく、MLVを低圧をかけつつ1種の膜を通して直接押出すことによって単一段階で加工を行う。一態様では、単一段階押出しの過程を、孔径0.1マイクロメートルのポリカーボネートまたはセラミック膜を用いて、60〜90psiの低圧を加えつつ直接実施して、粒径が100nmのリポソームを得る。また、この過程では、高圧押出しでの高圧(500psi)とは対照的な60〜90psiという低圧を用いる。
多層膜が生成されぬように低圧で押出す本発明の方法には、いくつもの利点がある。まず、単一段階の押出しプロセスには、多段プロセスより短時間で押出しプロセスを行える。また、高圧押出しの必要性がなくなったことで、押出し用機器類にともなう高コストも避けられる。低圧押出し機は、有意に低価格である。本発明の適当な押出し機の一例としては、Northern Lipids, Inc から販売されているLIPEX(登録商標) Extruderを挙げることができる。さらに、低圧押出機で使用する材料、たとえば圧縮空気も、高圧押出機で使用する材料、たとえば窒素より、一般に低価格である。さらに、多段押出しを単一段階の押出しに変更したことで、廃棄物も同様に低減し、収率も上昇した。
本発明の最後の工程は、押出された小胞の緩衝液への限外濾過からなる。押出しの過程で生成したリポソームは、粒径と形状が均一であるが、限外濾過では、処方剤に圧力をかけて膜を通過させ、封入されたリポソームを、封入されなかった治療剤、溶剤、脂質から分離する。この工程は、処方剤で使用する脂質の転移相温度より低い温度、たとえば通例では45℃未満で実施するのが好ましい。限外濾過の過程では、各種の濾過膜を使用することができる。限外濾過の一態様では、中空繊維膜を使用し、圧力をかけて処方剤を繊維内側中空部分を通過させることにより、相対的に大型のリポソームが繊維内にとどまるのに対し、小型分子(すなわち溶剤、未封入ビスホスホネート、脂質)が繊維外側の膜を通して濾過されるようにする。この限外濾過によって、治療剤の96%以上が封入されている処方剤が得られる。
限外濾過工程は、処方剤を特定量の緩衝液に対して透析する透析工程をさらに含んでもよい。緩衝液の一例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であるが、正と負のイオンをあるバランスで含む生理学的浸透圧に保たれた任意の緩衝液を使用することができる。他の緩衝液添加剤は当業界で公知であり、たとえば、スクロース、グリシン、コハク酸ナトリウム、および/またはアルブミンを含有してもよい。緩衝液は、溶液のpHと導電性を注意深く監視して、最終処方剤の外部環境を反映するものとするのが好ましい。緩衝液は、等張液で、細胞に対して毒性のないものであることが好ましい。緩衝液を濾過して、さらに混入物を減らすことも、製造プロセスの前に調製しておくこともできる。透析の最終点は、処方剤の所望のpHおよび導電性に到達した時点とする。
限外濾過工程の最後に、処方剤を必要に応じて滅菌のために、すなわち生物汚染を制御する目的で濾過してもよい。このプロセスの一態様では、滅菌フィルターをリポソーム処方剤の入った圧力容器に接続し、滅菌フィルターをさらに滅菌された受入れタンクに接続する。リポソーム処方剤に圧力をかけると、処方剤が滅菌フィルターを通過する。この工程では、さらに、別の試料を採取して、細菌の含量を調べることもできる。滅菌フィルターの孔径は、0.2〜0.45マイクロメートルの範囲とすることができる。処方剤のリポソームは実質的に均一で、大型リポソームは含まれていないので、滅菌濾過は特段煩雑になることもなく実施できる。
製造後、処方剤を標準化することができる。最終的な標準化によって、標準濃度を有するリポソーム処方剤が得られる。標準化では、収率、粒径、脂質の組成、薬剤と遊離薬剤の含量、生成物の濃度について分析する。濃度の分析は、当業界で公知の方法、たとえばHPLC、分光光度計を用いたホスフェートの分析によって実施することができる。限外濾過生成物の濃度を確認したら、特定量の緩衝液を使用して、処方剤を標準濃度まで希釈する。最終的な標準化は、リポソーム生成物の滅菌濾過も含む。たとえば、限外濾過後の封入ビスホスホネート処方剤は、適当量の緩衝液で希釈して、最終濃度とすることができる。同様に、限外濾過生成物を複数のバッチに分け、異なる量の緩衝液を希釈剤として各バッチで使用することによって、異なった最終濃度で使用することもできる。試料を取得して、その時点での処方剤の濃度を測定してもよい。
この製造方法には、リポソームの生理学・化学的特徴を制御・監視・再現できるという利点がある。たとえば、リポソームの内部pHは、治療剤を溶解する溶液の組成によって制御できる。内部オスモル濃度も、治療剤の量を、たとえば、治療剤の帯電の有無に応じて変化させることによって、同様に操作できる。薬剤:脂質比は、リポソームを構成する脂質成分、すなわち溶解した活性治療剤に加える脂質の量を選択することによって管理することができる。脂質成分の量を増やすと、薬剤:脂質比が減り、逆も同様である。また、薬剤:脂質比が低いと、リポソーム処方剤の内部オスモル濃度が低減する。組成物の外部pHと外部オスモル濃度は、部分的には、最終生成物を含む緩衝液の組成によって影響を受ける。導電性は、リポソームに封入する治療剤および他の賦形剤の性質によって制御することができる。他の要因、たとえば粘度、賦形剤の質、滅菌性、塩類溶液、輸液キット、シリンジとの適合性(注射用製剤の場合)、加工用機器との適合性も、本発明の方法によって、それぞれ独立に制御可能である。
上記記載にかんがみ、製造方法の一好適態様では、処方剤を、(1)治療剤を含む溶液と、DSPC、DSPG、コレステロールをモル比約3:1:2で含む溶液とを混合して、前記の治療剤対脂質の質量比が約1:5〜1:8となるよう小胞を形成し、(2)この小胞を単一段階で孔径約100nmのフィルターを通して押出し、(3)限外濾過を行うことによって製造した。
本発明の別の観点は、上述の製造工程にしたがって製造したリポソーム処方剤であり、ここで、処方剤は、DSPC、DSPG、コレステロールをモル比約3:1:2で含み、治療剤対脂質成分の質量比は、約1:5〜1:8とすることができ、以下の工程:(1)治療剤を含む溶液と、脂質成分を含む溶液とを混合して小胞を形成し、(2)小胞を、単一ステージで、単一サイズのフィルターを通して押出し、(3)限外濾過することによって製造される。限外濾過の後、製品を標準化して所望の最終濃度とすることができる。この方法にしたがって製造した処方剤はのPDIは、0.075未満、好ましくは0.02〜0.05の範囲である。この方法では、3:1:2の脂質成分比、1:5〜1:8の薬剤:脂質比をはじめとする上述のような新規で有用な特徴を有するリポソーム処方剤が生成される。さらに、pH、オスモル濃度、導電性、剛性をはじめとする個々のリポソーム特性は、上述したようにそれぞれ別々に制御することができる。
以下の実施例は、本発明を実施するうえでの各種の観点を具体的に例示しつつ説明するためのものであり、本発明を限定するようなものではない。以下の実施例では、本発明を実施例というかたちで図面を参照しつつ説明するのにとどまるということである。図面に関しても具体的に言及しておくと、図面に示した各部の詳細は、本発明の好適態様具体的なかたちで行う目的で示したのみであって、本発明の原理や概念的側面を説明するうえで、もっとも有用で理解しやすいと思われるものを具体的に示すということで提示した。説明については、本発明のいくつかの形態が実際にはどう具現化されうるのかを当業者に対して明らかにした図面と一緒に考慮されたい。
実施例1:リポソーム処方剤のバッチ製造
上述の方法にしたがい、試験バッチを調製した。バッチの粒径を、商業生産用に所望に応じて変化させることができるのはもちろんである。この実施例では、コレステロール、DSPC、DSPGを含むリポソームにアレンドロネートを封入したリポソームを分散させたリン酸緩衝生理食塩水の1リットルのバッチを製造した。リポソーム封入アレンドロネートは、臨床上の利便性にかんがみ、5mg/mlと0.5mg/mlの2種の濃度で滅菌した白濁リポソーム分散液として製造することができる。これらの濃度については、さらに適宜処方を行って、所望の量の治療剤を特定の量得ることができる。脂質成分は、コレステロール、DSPC、DSPGから構成されるものとした。分散液は、pHを制御し、点滴を適当なかたちで行い、等張性を保つために、リン酸緩衝液も含むものとした。最終生成物中の薬剤の96%以上が、リポソーム内に封入されていた。投与にあたっては、バイアルの内容物(または必要に応じてその一部)を塩類溶液で希釈し、点滴によって投与した。
製造過程で使用した諸成分の量と品質を含めたバッチでの処方を、表1に示す。量は、バッチ1リットルあたりの量を示す。
表1の1リットルバッチで製造した静注用リポソーム封入アレンドロネートの含量と量的組成を下記の表2に示す。このバッチでは、DSPC:DSPG:コレステロールのモル比は3:1:2であった。薬剤:脂質比は、約1:5.7±1.5(w:w)であると計算された。
本明細書に記載した新規な製造方法で実際に製造した静注用リポソーム封入アレンドロネート処方剤について、下記の表3に示す。
図2は、有効性成分含量5mg/ml用の静注用リポソーム封入アレンドロネート1リットルの製造方法と、プロセス制御パラメータをまとめたフローチャートである。0.5mg/mlの有効性成分含量の製造方法は、5mg/mlの有効性成分含量に用いるのと同じである。最終標準化工程のみ、投与用に異なる最終処方剤濃度とする点で異なる。当業者であれば、過度の実験を行わなくても、この方法で他の用量も製造できることが理解できるはずである。
治療剤の溶液(アレンドロネート溶液)と脂質の溶液は、以下のようにして調製した。
アレンドロネート溶液NaOH(6.8〜8.0g)を秤量し、850mlの注射用水(WFI)に溶解した。目視にて、完全に溶解したことを確認した。アレンドロン酸ナトリウム(68〜80.75g)を、温度70±3℃で、600±150RPMにてかきまぜながらNaOH溶液に溶解した。目視にて、完全に溶解したことを確認した(すなわち透明な溶液)、導電性とpH測定値を確認した(pH=6.8±0.3、導電性=18.0±1ms/cm)。
脂質溶液 30gのDSPC(37.9mmoles)、10gのDSPG(12.5mmoles)、10gのコレステロール(25.8mmoles)(DSPC/DSPG/Cholesterol;3/1/2mol/mol/mol)からなる脂質を秤量し、加熱した磁気スターラーを使用し、250mlのビーカーに入った温度70±3℃の160mlのt−ブタノール/EtOH/H2O(77/77/6、v/v/v)に溶解したところ、濃度312mg/mlの脂質溶液が形成された。温度が範囲内になったところで、透明黄色溶液が形成された。
MLVの形成
600+150RPMで混合し、温度を70±3℃に保ちつつ、脂質溶液をアレンドロネート溶液に加えた(1部の薬剤:5.3部の脂質)。5分以上経過後に、100mlの注射用水(全容量の10%)を加え、押出し前に溶剤濃度を下げた。処方剤をさらに10分間混合した。
押出し
処方剤を、0.14マイクロメートルのセラミック膜1枚またはポリカーボネート膜2枚(たとえば、0.2マイクロメートルのプレフィルターと0.1マイクロメートルの膜)を装着した1.2Lの加熱ステンレス鋼押出機を用いて押出し、圧力90±15psi、温度68±5℃にて、小胞の粒径を低減させ、小胞の均質性を高めた。この過程では、小胞を80〜100nmとするのに、12〜18回の通過が必要であった。押出し物は、その場で試料を採取し、小胞の粒径を確認してから限外濾過に供した。リポソーム処方剤の粒径は、Malvern Nano ZS分析装置(合格限界:95±20nm)を使用して分析を行った。押出し試料は、好気性細菌数(生物汚染の管理)についてもカウントした。合格限界は、100CFU/ml未満とした。
限外濾過とダイアフィルトレーション
まず、限外濾過を行う前に、処方剤を45℃未満まで放冷した。限外濾過は、500Kの中空糸膜を備えたAmershamのQuixStandシステムを使用して実施した。処方剤は、入り口圧力が25psi以下となるようにして濃縮した。最小容量に達したところで、処方剤を、初期量の10倍(約7L)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液に対して透析した。PBS溶液は、145mMのNaCl、13mMのNa2HPO4、7mMのNaH2PO4を10Lの注射用水に溶解することによって調製した。PBSのpHは約6.9、導電性は約16.9ms/cmとした。PBSを、0.2マイクロメートルのフィルターで濾過した。透析済み処方剤のpHと導電性を測定することによって、ダイアフィルトレーションの終点を判断した。初期容量の120%(約1.2リットル)を超えない処方剤を、限外濾過システムから排出した。一般的な分析と、好気性細菌数(生物汚染の管理)のために試料を採取した。合格限界は、1,000CFU/ml未満とした。
透析を終えたところで、生物汚染について管理された状態を維持するべく、処方剤を、0.2マイクロのフィルターで濾過した。処方剤の入った圧力容器を、滅菌0.2マイクロメートルフィルター(Sartorius Sartobran P)に接続した。フィルターは、前もって滅菌受け入れ側タンクに接続しておいた。濾過は、圧力容器に5〜30psiの圧力を加えることによって実施した。一般的な分析と、好気性細菌数(生物汚染の管理)のために試料を採取した。合格限界は、1,000CFU/ml未満とした。
最終標準化
処方剤の粒径、リポソーム注の脂質/治療剤の組成、薬剤と遊離治療剤の含量を、HPLCによって分析した。本実施例での予想収率は、処方剤1リットルが、約6mg/mlのリポソーム封入アレンドロネートと、35mg/mlの脂質を含むというものであった。アレンドロネートの濃度についての結果に基づいて、約1リットルの最終処方剤の濃度を5mg/mlまたは0.5mg/mlとするのに必要な希釈について計算した。5mg/mlの処方剤を調製するために、限外濾過後、約900mlのリポソーム封入アレンドロネートを、上述したようにして調製したPBS約100mlで希釈した。また、0.5mg/mlの処方剤を調製するために、限外濾過後、約100mlのリポソーム封入アレンドロネートを、約900mlのPBSで希釈して、濃度を0.5mg/mlとした。試料を採取して、アレンドロネートの実際の濃度を測定した。
標準濃度の処方剤を調製後、処方剤の入った瓶を、クラス100の部屋または滅菌バイオロジカルフード内に連続して載置した0.2マイクロメートル滅菌フィルター(Sartorius Sartobran P)2枚と接続した。フィルターは、あらかじめ、滅菌済みの使い捨て受け入れバッグまたは瓶に接続した。蠕動性ポンプまたは加圧窒素を用いて濾過を行った。圧力は、10psiを超えてはならない。濾過終了時点で、フィルターの一体性について、試験を行った。
上記実施例で製造した静注用リポソーム封入アレンドロネートは、いくつもの所望の特性、たとえば、(i)少なくともアレンドロネートと脂質について5℃(2〜8℃の範囲)での3年間の保存性、(ii)平均小胞径80±5(粒状物質なし)、(iii)5mg/ml以下(0.1〜5.0mg/ml)の範囲のナトリウムアレンドロネート濃度、(iv)96%以上のアレンドロネート封入率、(v)3/1/2(mol/mol/mol)のジアステアロイルホスファチジルコリン/ジアステアロイルホスファチジルグリセロール/コレステロール(DSPC/DSPG/CHOL)脂質組成、(vi)270〜340mOsm/kgの生理オスモル濃度、(vii)水に似た粘度、すなわち20℃で1.0mPa.sの動粘度、(viii)pH6.8(6.8〜7.0の範囲)、(ix)グローバルに許容される米国または欧州薬局方準拠の賦形剤の質、(x)米国薬局方の指針(USP 24−NF 19)に合致した滅菌状態および発熱物質、(xi)塩類溶液、輸液キット、注射器との適合性(使用)、(xii)フィルター、ステンレス鋼およびガラス製チューブ類との適合性(方法)を有していた。
図3は、上記実施例で製造したリポソームのアレンドロネートのTEMS画像である。リポソーム群について良い均質性と均一性が観察され、画像中のリポソームの粒径は、40〜120nmの範囲であった。
実施例2 リポソームの剛性についての試験
大型単層リポソーム(径約100nm)の試料4種を、剛性について調べた。すなわち、本発明にしたがって製造した中空リポソームのPBS懸濁液をLPOを称し、本発明にしたがって製造した5.0mg/mlのアレンドロネートを含むリポソーム処方剤をLSAと称した。HEPESに溶解した2種の他のリポソームの試料(KSおよびHU)は、Epstein−Barash, Hila, et al. “Physicochemical parameters affecting liposomal bisphosphonates bioactivity for restenosis therapy: Internalization, Cell inhibition, activation of Cytokines and Complement, and mechanism of Cell death”, J. Controlled Release 146 (2010) 182−195に記載された従来技術の方法にしたがって製造した。
各試料は、リポソームの比容積圧縮率について調べた。超音波速度測定を用いて、リポソームの弾性特性を以下の関係式に基づいて評価した。
式中のβS、ρ、uは、それぞれ、懸濁液の断熱圧縮率、密度、音速である。Hianik T., Haburcak M., Lohner K., Prenner E., Paltauf F., Hermetter A. (1998):Compressibility and density of lipid bilayers Composed of polyunsaturated phospholipids and Cholesterol, Coll. Surf. A 139, 189−197; Hianik T., Rybar P., Krivanek R. Petrikova M., Milena Roudna M. Hans−Jurgen Apell, HJ. (2011): Specific volume and Compressibility of bilayer lipid membranes with incorporated Na,K−ATPase. Gen. Physiol. Biophys. 30, 145−153。したがって、音速と密度の変化を測定することによって、圧縮率の変化も決定することができる。
超音速は、約7.2MHzの周波数で運転されるほぼ同一の音波キャビティ共鳴体2つからなる固定路示差速度計を用いて測定した(Sarvazyan A.P. (1991): Ultrasonic velocimetry of biological Compounds, Annu. Rev. Biophys. Biophys. Chem. 20, 321−342; Sarvazyan A.P., Chalikian T.V. (1991): Theoretical analysis of an ultrasonic interferometer for precise measurements at high pressures, Ultrasonics 29, 119−124)。セルの共振周波数は、コンピュータ制御のネットワーク分析装置(USAT、USA)を用いて測定した(USAT、USA)。試料の容積は0.7mlとした。共鳴体のセルは、磁気スターラーを備えるものとし、測定の間に試料が均質に分散するようにした。1つの共鳴体が、リポソーム溶液をリン脂質に対して濃度10mg/mlで含有し、他の1つが、対照として、小胞を含まない同じ緩衝液(PBSまたはHEPES)で充填されるようにした。一連の測定の開始時には、まず、双方の共鳴体の共振周波数を、同一の参照用液体を用いて双方のセルを測定することによって比較した。音波シグナルのエネルギー密度は、全体を通して小さかったので(超音波の圧力振幅は103Pa未満)、音波が小胞の構造的特性に及ぼす影響はどれも防止された。一般に、以下の数式に示すように、超音波速度測定を行うことで、音速[u]、またはむしろ音速[u]の濃度依存的増分が測定可能である。(Sarvazyan A.P. (1982): Development of methods of precise measurements in small volumes of liquids, Ultrasonics 20, 151−154)。
ここでcは溶質の濃度(mg/ml)、下付きの「0」は溶剤(緩衝液)に関するものである。値[u]は、双方の共鳴体の共振周波数fおよびf0(fは、試料の共振周波数、f0は参照緩衝液の共振周波数)の変化:
(この係数は、γ<<1の条件を満たすものであり、計算では無視することができる)
から直接決定することができる。
小胞溶液の密度(ρ)は、振動管原理(Kratky O., Leopold H., Stabinger H. (1973): The determination of the partial specific volume of proteins by the mechanical oscillator technique, In: Methods in Enzymology (Ed. E. Grell), vol. 27, pp. 98−110, Academic Press, London)にしたがって運転される高精度濃度計システム(DMA60、DMA602Mの試料室2つ、Anton Paar KG, Graz, Austria)を使用して測定した。みかけの比部分容積(φV)を、密度のデータから、下記の数式を用いて計算した。
ここで、下付きの0は、参照溶剤のことを指し、[ρ]=(ρ−ρ0)/(ρ0c)は、密度の濃度増分である。細胞の温度は、Lauda RK 8 CS ultra−thermostat(Lauda、ドイツ)を用いて、±0.02℃の範囲で制御した。
音波速度濃度の増分に加えて比容積を決定することによって、下記の数式にもとづいて、小胞の低減したみかけの比圧縮率のφK/β0の予測を行うことが可能になった。
式中のβ0は圧縮率の係数、ρ0は緩衝液の密度である(Sarvazyan 1991)。φK/β0の値は、リポソームの緩衝液に対する容積圧縮率を示す。φK/β0の値が高い方が、リポソームの圧縮率が高い(すなわち、剛性が低い)。
すなわち、リポソームの比容積圧縮率を決定するために、超音波速度の濃度増分[u]と密度ρを測定し、次に、比容積φVと見かけの比圧縮率φK/β0を数式(4,5)によって決定したのである。
図4からは、本発明のリポソームが、他のリポソーム処方剤や中空リポソームと比べて実質的に剛固であることがわかる。図4に示すように、LSAリポソームの比圧縮率(剛性と反比例)は、通常の従来技術の処方で製造した中空リポソームの比圧縮率より有意に低い。中空リポソームの比圧縮率が約0.90であるのに対し、LSAリポソームの圧縮率は約0.70である。KSおよびHUリポソームの比圧縮率は、0.75にて、有意に異なる。この実施例からは、機械的特性が、処方や、リポソーム内部の薬剤の有無によって左右されることがわかる。
実施例3:リポソームの安定性の分析
実施例1にしたがって製造したリポソーム処方剤の安定性を表4および表5に示す。表4に示されているように、本発明のリポソームは、4℃での貯蔵時には少なくとも36ヶ月安定であり、処方剤は、必要とされる仕様のすべてを満たしている。
表5に示されているように、本発明のリポソームは、25℃での貯蔵時には、少なくとも7ヶ月までは安定であり、処方剤は、必要とされる仕様のすべてを満たしている。
実施例4:リポソームの均一性についての分析
リポソーム製剤の均一性を、Malvern Nano zs粒径測定装置を用いて測定した。この方法では、リポソーム処方剤小胞の粒径の均一性を動的光散乱(DLS)で測定し、液状媒体に懸濁させた粒子の粒径分布を調べる。この技術は、10〜1000nmの範囲の粒径分布を測定することができ、リポソーム乳液、ナノ粒子、合成ポリマーのような粒子群に有用である。この技術は、均質なリポソーム製剤の平均径ならびに処方の異質性についての指標を得るべく用いることができる。Malvern Nano−zs粒径測定装置での測定結果を操作指示書にしたがって標準化した後、0.5mg/mlのリポソームの試料を、まず、PBSで1/3希釈した。希釈溶液のUV λmax 600nmを、Ultraspec 2100pro UV/VIS分光光度計で確認した。リポソームの試料を、光学濃度(O.D.)の値が0.10±0.02となるまで再度希釈した。再度、第二の希釈溶液のUV λmax 600nmが光学濃度の値で0.10±0.02であることを確認した。次に1.0〜1.5mlの希釈試料を、培養チューブに入れ、小胞の粒径を、Malvern Nano−zs粒径測定装置を用いて測定した。分析は、周囲温度(23℃±2℃)で、固定角173°にてレーザー波長633nmで実施する。データは、150〜500Kcps(キロカウント/秒)となるまで蓄積した。
表6は、本発明に従って製造した処方剤についての測定結果を示す。リポソームの平均粒径は80.41nmで、PDIは0.04であった。
HUリポソームと上記実施例2の従来技術のリポソームの均一性を、上述の手順にしたがって分析した。HUリポソームのZ平均粒径は176.5nmであった。
図5Aおよび5Bは、それぞれ、本発明にしたがって製造したリポソームとHUリポソームの粒径分布を示す。図5Aからは、本発明のリポソーム処方剤の平均径が約88nmであり、粒径が69〜107nmの狭い範囲に含まれることがわかる。それに対し、図5Bからは、HUリポソーム処方剤の平均径が約201nmであり、リポソームの径が80nmという小径から500nmという大径にまで広がっていることがわかる。図5Aの処方剤のPDIは0.025であった。図5BのHU処方剤のPDIは、0.118であった。
本発明が関わる技術の現状をさらに十分に記載するうえで、本明細書で引用したすべての公表済み記事、書籍、参考マニュアル、要旨の内容は、ここに言及することをもって、そのすべてを本明細書に組み込むものとする。
上述した主題については、本発明の範囲や精神から逸脱することなく各種の変更を加えることができるため、以上の記載に包含、ならびに請求の範囲で規定されたすべての主題は、本発明を説明、例示するものと解釈されたい。本発明には、上記教示内容に照らして、多くの改変や変更を加えることができる。