以下に説明する潅水システムは、主として農業用ハウスでの使用を想定している。ただし、農業用ハウスでの使用は必須ではなく、以下に説明する潅水システムは、袋培地栽培のような隔離栽培に使用可能であり、条件によっては露地栽培でも使用可能である。以下の説明において、植物栽培用の「土壌」が意味する範囲は、圃場の土壌だけではなく、隔離栽培を行う場合の隔離培地も含んでいる。したがって、ここでの土壌は、自然界に存在する土だけではなく、人工的に製造された培地を概念に含む。なお、以下では、農業用ハウスに囲まれた圃場の土壌を植物栽培用の土壌の例とする。
農業用ハウスで栽培する植物は、葉菜類、果菜類、豆類、果物、花卉などから選択可能である。葉菜類は、ホウレンソウ、コマツナ、レタス、キャベツ、ハクサイなどを代表とする。また、果菜類は、トマト、キュウリ、ナスなどを代表とする。以下に説明する例では、栽培する植物としてホウレンソウを想定している。
図1に示すように、潅水システム10は、水供給装置11と制御装置12と計測装置13とを備える。図1に示している操作装置14は、制御装置12と一体に設けられる構成と、制御装置12とは別体として設けられる構成とがある。操作装置14は、情報を表示する表示器141と、ユーザの操作を受け付ける操作器142とを備える。表示器141は液晶表示器、またはOLED(Organic Light-Emitting Diode)ディスプレイ(いわゆる有機ELディスプレイ)のようなフラットパネルディスプレイで構成される。また、操作器142は、表示器141の画面に重ねたタッチパネル、あるいは表示器141の周辺に配置されるスイッチで構成される。
操作装置14が制御装置12とは別体として設けられる構成には、操作装置14が潅水システム10の専用装置である構成と、操作装置14が汎用のパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などから選択される構成とがある。操作装置14がパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などから選択される場合、アプリケーションプログラム(いわゆるアプリ)が必要である。また、操作装置14がパーソナルコンピュータである場合、パーソナルコンピュータがアプリケーションプログラムを実行する構成のほか、制御装置12をコンピュータサーバとし、パーソナルコンピュータをクライアントとする構成であってもよい。さらには、制御装置12と操作装置14とがインターネットまたは移動体通信網のような電気通信回線を通じて通信する構成を採用することも可能である。
計測装置13は、土壌水分を計測する装置であり、土壌の誘電率を測定する技術、土壌の水ポテンシャルを計測する技術などが知られている。前者には、TDR(Time Domain Reflectometry)、FDR(Frequency Domain Reflectometry)、ADR(Amplitude Domain Reflectometry)などの技術が知られている。また、後者の技術を採用した土壌水分計としてテンシオメータが知られている。この構成例では、計測装置13としてテンシオメータを用いるが、他の技術を用いて土壌水分を計測することを妨げない。テンシオメータは、土壌水分を局所的に計測することができるから、植物の根付近の土壌水分を計測する目的では、誘電率を測定する技術よりも優れている。
圃場に多数の植物が植えられる場合、圃場の複数箇所それぞれに計測装置13が設置され、複数の計測装置13それぞれで計測した土壌水分の代表値が土壌水分の値として用いられる。たとえば、圃場の土壌水分を5個の計測装置13で計測する場合、圃場の中央部に1つの計測装置13が配置され、圃場の周部の4箇所それぞれに計測装置13が配置される場合がある。この場合、代表値として、5個の計測装置13それぞれが計測した土壌水分の平均値を用いることが可能である。
また、圃場の中央部と圃場の周部とでは土壌水分の差が大きい可能性があるから、土壌水分の代表値として加重平均値を用いてもよい。あるいは、複数の計測装置13がそれぞれ計測した土壌水分の最小値または最大値を代表値とすることも可能である。なお、計測装置13の個数および配置は、圃場の面積および形状などに応じて適宜に定められる。
また、土壌が隔離培地である場合、複数の隔離培地が1箇所にまとめて配置されることが多いから、個々の隔離培地における土壌水分のばらつきは小さいと考えられる。したがって、複数の隔離培地が設けられている場合であっても、いずれか1つの隔離培地に計測装置13が配置されていればよい。もちろん、多数の隔離培地が設けられている場合に、多数の隔離培地から選択した少数の隔離培地それぞれに計測装置13が配置されていてもよい。このように複数の隔離培地それぞれに計測装置13が配置される場合は、圃場の複数箇所それぞれに計測装置13を配置した場合と同様に、複数の土壌水分の値から求めた代表値が土壌水分の値として用いられる。
水供給装置11は、散水チューブに設けられた小孔から飛沫状の水を吐出させる散水、点滴チューブから水を土壌に滴下させる点滴潅水、土壌に埋めた多孔質チューブなどから水を土壌にしみ出させる地中潅水などから選択される方法で土壌への潅水を行う。以下では、散水チューブ、点滴チューブ、多孔質チューブを区別せずにチューブという。
どの方法を採用する場合でも、水供給装置11は、一次水が供給されるチューブ110と、チューブ110への一次水の流量を制御する電磁弁あるいは電動弁のように電気信号での制御が可能なバルブ111とを備える。また、水供給装置11は、チューブ110に供給した一次水の流量を監視する流量計112を備えることが望ましく、潅水の方法として散水を選択した場合は一次水を加圧するポンプ113を備えることが望ましい。一次水は、井戸水、水道水、雨水などから選択される。また、水供給装置11は、必要に応じて一次水を貯水するタンクを備える。
制御装置12は、土壌に供給する水量を定め、定めた水量が土壌に供給されるように水供給装置11を制御する。ここに、土壌に供給する水量は、植物を栽培する圃場全体の土壌に供給する水量を意味している。制御装置12は、定めた水量の一次水がチューブ110に供給されるようにバルブ111を制御する。チューブ110に供給する一次水の圧力が既知であれば、土壌に供給する水量はバルブ111の開度と時間とによって定まる。ただし、土壌に供給する水量を正確に制御するために、制御装置12は、流量計112から得られる流量の情報を用いることが望ましい。すなわち、制御装置12は、単位時間(たとえば、1秒)ごとの流量の積算値によってチューブ110に供給した水量を認識し、制御装置12が定めた水量が土壌に供給されるように水供給装置11を制御する。
制御装置12は、水供給装置11から土壌に供給する水量を定める決定部121を備える。決定部121は記憶部122に格納されている換算テーブルを用いて土壌に供給する水量を定め、定めた水量を指示部123に通知する。指示部123は、決定部121が定めた水量を土壌に供給するように水供給装置11に指示を与える。決定部121は、計測装置13が計測した土壌水分の値を取得するインターフェイス部124を備える。
計測装置13が計測した土壌水分の値を、以下では「現在値」と呼ぶ。ここでは、インターフェイス部124が操作装置14と通信可能に構成されている場合を想定する。すなわち、制御装置12は、計測装置13が計測した土壌水分の値を操作装置14を通して受け取る。複数の計測装置13が配置されている場合、インターフェイス部124は、土壌水分の代表値を現在値として受け取ればよい。
ここでは、計測装置13がテンシオメータであって、土壌水分がpF値で計測されている。決定部121は、計測装置13が計測したpF値の現在値を受け取ると、水供給装置11から土壌に供給する水量、すなわち潅水の水量を定める。潅水の水量は、pF値の現在値に対して、土壌のpF値を「目標値」にするために必要な水量である。目標値は、ユーザが定める場合と、あらかじめ定められている場合とがある。
決定部121は、計測装置13が計測したpF値の現在値を記憶部122に格納されている換算テーブルに照合することによって、土壌に供給する水量を定める。換算テーブルは、pF値の現在値とpF値の目標値との組み合わせに対して、土壌に供給する水量を対応付けたデータ構造を有している。したがって、計測装置13が計測したpF値の現在値と、pF値の目標値とが換算テーブルに照合されると、換算テーブルから潅水の水量が求められる。
換算テーブルは、たとえば、表1のように構成されている。表1において、縦方向(行方向)に現在値として示されているpF値と、横方向(列方向)に目標値として示されているpF値とが交差する位置のマス目の値(**で示している)が水量である。この換算テーブルを用いると、土壌水分の現在値に対して土壌水分を目標値に到達させるために必要な水量が求められる。
表1における土壌水分の値はpF値であり、数値が小さいほど土壌中の水分量が多いことを表している。一般的には、栽培中におけるpF値が大きいほど、収穫物は硬くなり、植物の生育が遅くなり、成長のばらつきが大きくなる傾向がある。また、栽培中におけるpF値が小さいほど土壌中での水分の移動度が大きくなり、窒素等の養分の流失が多くなる傾向がある。
表1のような換算テーブルにおいて、現在値と目標値とが交差する位置のマス目に入る水量の値は、土壌の性質だけでは決まらず、圃場の地下構造、土壌からの水分の蒸発、植物からの水分の蒸散などを考慮して作成される必要がある。しかしながら、土壌の性質を除いた情報は、圃場の環境、植物の種類などによって異なるから、植物を実際に栽培してみなければ得ることはできない。また、これらの情報は複合されており、容易には分離することができない。そのため、換算テーブルの内容は、潅水システム10を運用するうちに修正できるように構成されている。
ただし、潅水システム10の運用を開始する際にも換算テーブルは必要であるから、記憶部122に格納されている換算テーブルにおいて、現在値および目標値の組み合わせと水量との初期の対応関係は、土壌の水分特性曲線に基づいて定められる。土壌の水分特性曲線は、土壌のサンプルを用いて求めることができる。また、複数種類の典型的な土壌の水分特性曲線を制御装置12に用意しておき、植物を栽培する圃場の土壌に対する簡単な検査を行って、圃場に応じた土壌の水分特性曲線を選択してもよい。
土壌の水分特性曲線は、土壌のポテンシャルと含水率との関係を表している。したがって、土壌の水分特性曲線が決まれば、pF値の現在値と目標値とを水分特性曲線に当て嵌めることによって、土壌水分を現在値から目標値にするための水量が定められる。たとえば、重力により作土の下に排除される重力水のみが作土から抜けるというモデルにより水量の理論値が求められる。また、圃場の地下構造が理想的であると想定して重力水の量が見積もられる。しかしながら、土壌の水分特性曲線には、地下構造は反映されておらず、圃場の地下構造は理想的であるとは限らないから、適正な水量を水分特性曲線だけで求めることはできない。
さらに詳しく説明する。いま、土壌が保水する水量をAとし、重力水の水量をBとし、潅水すべき水量をXとすれば、X=A+Bである。さらに、潅水後の一時点において土壌が保水している水量をYとし、潅水から一時点までに植物から蒸散した水量をCとし、潅水から一時点までに土壌から蒸発した水量をDとすると、Y=A−C−Dである。したがって、X=Y+B+C+Dという関係が得られる。
このように、潅水すべき水量Xは、理想的には、一時点において土壌に残しておく水量Yと重力水の水量Bと一時点までに蒸散した水量Cおよび蒸発した水量Dとの和として求められる。しかし、潅水すべき水量Xを定めるために用いる上述の4種類の水量Y、B、C、Dのうち、水分特性曲線で求めることができるのは、一時点において土壌に残しておく水量Yであって、他の3種類の水量B、C、Dは水分特性曲線から求めることはできない。
換算テーブルにおいて、pF値の現在値および目標値と水量との組み合わせは、理想的と考えられる地下構造を前提として、重力水の水量を求めているから、地下構造が異なれば圃場に供給すべき水量は変化する。重力水だけではなく、植物から蒸散する水量、圃場から蒸発する水量などの変化も換算テーブルに当て嵌める水量に影響を与える。したがって、換算テーブルに設定された現在値と目標値と水量との組み合わせは、圃場に応じて調整する必要がある。
たとえば、圃場の作土が深い場合に重力水として地下に抜ける水量は増加し、地下水位が高い場合あるいは圃場の地下に硬盤層が存在する場合には重力水として地下に抜ける水量は減少する。また、潅水を実施した水量に対する重力水の割合は、潅水時の水量により変化し、潅水を実施した水量が少ないほど重力水の割合が減少する可能性がある。潅水を実施した水量に対して植物から蒸散する水量の割合は、植物の地上部のサイズにより変化し、植物の地上部におけるサイズが大きいほど、潅水した水量に対して蒸発する水量の割合が増加する傾向がある。潅水を実施した水量に対して圃場から蒸発する水量の割合は、潅水を実施した水量により変化し、潅水を実施した水量が少ないほど、蒸発する水量の割合が減少する可能性がある。
このように、圃場への潅水後に土壌に適正な水量を残しておくために必要な水量は、圃場の地下構造、植物の地上部におけるサイズなどの様々な条件によって変化する。そのため、換算テーブルに設定されているデータは、すべての圃場に適用できるわけではなく、圃場に応じて修正する必要がある。
pF値の現在値および目標値と水量との組み合わせを圃場に適合させるには、圃場への潅水を複数回実施し、潅水後の土壌水分のpF値に基づいて水量を調整する作業を繰り返し、目標値を達成できるように水量を定めることが望ましい。たとえば、図2に示す例では、4回の潅水を実施し、潅水のたびに水量を調整することによって、1回の潅水において圃場に供給する適正な水量を求めている。図2の横軸は植物の播種から収穫までの栽培期間を1回として、栽培の回数を表している。図2の縦軸は収穫時の土壌水分の量を表している。図2に示す例では、潅水前の土壌水分の値は一定値に定められており、潅水を実施するたびに水量が調整されることによって、最終的に圃場に適した水量が求められている。
ここでの1回の潅水の水量は、植物の播種から収穫までの1回の栽培期間に実施する潅水の総水量を意味している。言い換えると、1回の潅水の水量は、植物の1回の栽培期間において圃場に供給する総水量を意味している。なお、植物の1回の栽培期間には、複数回の潅水を行うことが多いから、ここでは、栽培期間を通じて行う潅水の回数が1回か複数回かにかかわらず、1回の栽培期間を通じた潅水を「全体潅水」と呼び、個々の潅水とは区別する。1回の栽培期間に1回だけ潅水を実施するときは、1回の潅水の水量が全体潅水の水量に一致し、1回の栽培期間に複数回の潅水を実施するときは、複数回の潅水それぞれの水量は全体潅水の水量より少ない。なお、1回の栽培期間は、植物の種類によっては、播種から収穫までの期間ではなく、定植から収穫までの期間である。
上述したように、水分特性曲線に基づいて理想的な地下構造を想定して求めた水量は、実際の土壌には適合しない場合がある。つまり、土壌水分の現在値に対して、理想的な地下構造を想定して定めた水量を供給しても、潅水後における土壌水分と目標値とに大きな相違が生じる可能性がある。そこで、土壌水分が目標値になるように換算テーブルの水量が調整される。ここに、計測装置13は土壌水分をpF値で計測しているから、ユーザは土壌水分をpF値で認識する。水量の調整には、潅水システム10の運用中に計測装置13が計測したpF値を換算テーブルに反映させる。そのため、制御装置12は、換算テーブルにおいてpF値の現在値と目標値との組み合わせに対応する水量を調節する修正部125を備える。修正部125は、計測装置13が計測した土壌のpF値を操作装置14から入力情報として受け取り、換算テーブルの水量に反映させる。
具体的には以下に説明するような作業を行うことによって、換算テーブルの内容が修正される。換算テーブルの内容は、pF値の現在値と目標値との組み合わせに対応付ける水量が最終的に決定された後に修正部125が修正する。
図2に示す例では、植物の収穫時における土壌のpF値が、定めた値になるように潅水時の水量を求める過程を示している。ここでは、栽培する植物に応じた収穫時の望ましいpF値を満足するように、全体潅水の水量を求めている。収穫時の望ましいpF値は、植物の栽培を行う作業者の経験などに基づいて定められる。たとえば、収穫時の望ましいpF値は2.5に定められる。植物の種類にもよるが、収穫時のpF値は、収穫する植物の硬さ、味などに影響することが知られている。植物がホウレンソウである場合、収穫時におけるpF値が大きい値ほど硬くなる。
図2に示す例では、1回目の栽培期間には圃場に供給する水量を定めるpF値の目標値として1.0が選択されている。これは、例として示している圃場の理想的なモデルを想定すると、収穫時における土壌のpF値を2.5とするように潅水を実施した場合のpF値が1.0に定められるからである。すなわち、1回目の栽培期間におけるpF値の目標値は1.0が選択される。ここに、pF値の目標値は、1回の潅水を実施した直後のpF値を意味している。
図2の例では、1回目の栽培期間において選択した目標値に対して収穫時のpF値が、約2.0であり、2.5よりも小さい値であったことを示している。つまり、潅水を行った土壌の保水力が標準的な圃場よりも大きいために、収穫時に計測装置13で計測したpF値では、供給した水量が過剰であったことを示している。なお、図2には植物の収穫時において達成しようとする土壌水分が、範囲D1で示されている。すなわち、この範囲D1の土壌水分が、pF値の2.5に相当している。
1回目の栽培期間では、収穫時における土壌水分が過剰であったことから、圃場に供給する水量を減らすために、2回目の栽培期間では、pF値の目標値として1.3が選択されている。2回目の栽培期間におけるpF値の目標値は、1回目の栽培期間における収穫時のpF値である2.0と、理想とするpF値である2.5との差に基づいて定められている。たとえば、潅水を行う作業者は、圃場の規模と収穫時のpF値とに基づいて、1回目の栽培期間における全体潅水の水量に3000[L]の過剰があったと見積もる。したがって、作業者は、2回目の栽培期間には、水量を3000[L]だけ低減させるために、pF値の目標値を1.0から1.3に変更すればよいと推定している。なお、[L]はリットルを表す。
図2に示している例では、2回目の栽培期間では、収穫時における土壌水分が不足し、収穫時の土壌水分が範囲D1よりも下がっている。ここでも、1回目の栽培期間と同様であり、収穫時のpF値である約2.8と、理想とするpF値である2.5との差に基づいて2回目の全体潅水の水量に1500[L]の不足があったと見積もっており、水量を1500[L]だけ増加させるために、3回目の潅水では、pF値の目標値を1.3から1.1に変更すればよいと推定している。同様にして、3回目の潅水は500[L]の過剰と見積もっており、4回目の潅水の際には、pF値の目標値を1.1から1.2に変更すればよいと推定している。そして、4回目の潅水によって、収穫時の土壌水分が、pF値で2.5に相当する範囲D1に収まっている。すなわち、4回の栽培期間において潅水を行う水量を調整することによって、植物の収穫時における土壌水分に過不足がなくなっている。
上述のように、収穫時における理想のpF値と収穫時に計測されたpF値とに基づいて潅水を実施する際の水量を調整することによって潅水時の水量の過不足が解消される。したがって、ユーザは、最後に実施した潅水の際に選択したpF値の目標値に相当する水量が潅水の水量に反映されるように、操作装置14を通して換算テーブルの修正を指示すればよい。すなわち、修正前の換算テーブルにおいてpF値の目標値が1.2であるマス目に対応付けられていた水量が、修正後の換算テーブルではpF値の目標値が1.0であるマス目に対応付けられるように修正される。修正部125は、この修正に伴って他のマス目の水量も修正する。修正部125は、水量の修正の際には、土壌の水分特性曲線を考慮して、pF値に応じた修正を行う。
図2に示す動作は一例であり、調整する水量は圃場の大きさなどによって変化する。調整する水量は、潅水を実施する時間間隔、潅水を実施する期間の平均気温などによっても変化する可能性がある。したがって、圃場に応じて調整する水量は変化するが、どのような圃場であっても、複数回の潅水を行う間にpF値の目標値に応じた水量の過剰と不足との程度を評価することにより、水量を適正な範囲に絞り込むことが可能である。上述した例では、4回の栽培期間で過不足のない水量が求められているが、過不足のない水量は、4回より少ない栽培期間で求められることがあり、5回以上の栽培期間で求められることもある。なお、圃場は農業用ハウスに囲まれているから、栽培期間が異なっても植物を栽培する環境は実質的に等しくなるように調整されており、土壌の粒径組成および土壌の腐食率についても栽培期間ごとの変動は無視できる程度に小さいとみなしている。
上述したように、複数回の潅水を行う間に、1回の栽培期間における水量を調節することによって、圃場に適した水量を定めることができる。このようにして定めた水量が換算テーブルに反映されていると、pF値の現在値および目標値の組み合わせに対応した水量の選択が容易になる。すなわち、計測装置13が計測したpF値の現在値と、潅水によって達成すべきpF値の目標値とが決まると、決定部121は換算テーブルに照合するだけで圃場に適した水量を定めることが可能になる。
ところで、図3に示すように、操作装置14が備える表示器141の画面には、表1に示した換算テーブルの内容を反映した表示を行うことが望ましい。操作器142は、表示器141に表示された複数のマス目それぞれに対応する部位を操作釦として機能させる。操作器142に設けられたいずれかの操作釦が操作されると、インターフェイス部124は、操作釦の位置に応じたpF値の現在値と目標値との組み合わせを入力情報として受け取る。すなわち、この構成例では、計測装置13が計測した土壌水分の値は、操作装置14からインターフェイス部124が受け取る。ここに、「操作釦を操作する」とは、操作釦に触れること、あるいは操作釦に圧力を作用させることを意味する。
上述のように、操作装置14は、pF値の現在値と目標値との組み合わせが操作釦によって選択可能となるように構成された選択部143として機能する。選択部143における複数の操作釦のいずれかが操作されると、インターフェイス部124は、操作された操作釦に応じた入力情報を操作装置14から受け取る。この場合の入力情報は、計測装置13が計測したpF値の現在値と、pF値の目標値との組み合わせである。
決定部121は、インターフェイス部124を通してpF値の現在値と目標値との組み合わせを入力情報として受け取ると、受け取った現在値および目標値を記憶部122に格納された換算テーブルと照合して水量を定める。決定部121が定めた水量は指示部123に通知され、指示部123は決定部121が定めた水量で潅水が実施されるように水供給装置11に指示を与える。
上述した構成例では、pF値の現在値とpF値の目標値との組み合わせに対して操作釦が割り当てられている。したがって、ユーザは、計測装置13が計測したpF値に応じて潅水を開始するタイミングを決め、潅水によって達成しようとするpF値の目標値を決めれば、操作釦を操作するだけで、適正な水量を土壌に供給することができる。
ところで、潅水を実施する際の水量は季節によって変化させることが望ましい。たとえば、潅水の水量は、冬季では夏季に比べて少ないほうが望ましい。これは、冬季は夏季に比べて気温が低いために、土壌からの水分の蒸発が少なく、また植物の蒸散作用が小さいからである。したがって、季節に応じた操作釦が設けられていれば、ユーザは季節に応じた操作釦を操作するだけで、潅水の水量を適切に選択することが可能になる。
一例として、季節に応じたpF値は、表2のように定められる。表2のうち「目標値」は、表1の目標値と同様に達成すべきpF値であり、「潅水前値」は、水の供給を開始すべき潅水前の土壌水分を表すpF値である。すなわち、表1に示す換算テーブルにおける特定のマス目を季節に対応付け、季節に対応付けた4つのマス目に関する情報を抽出することによって表2が作成されている。
上述のように4つの季節にマス目を対応付ける場合には、表示器141に4つの対象要素のみを表示することが可能である。すなわち、表2の内容に従って、4つの操作釦のみを備えた選択部143が操作装置14に設けられると、4つの季節に応じた潅水の水量を選択することが可能である。ただし、潅水の水量には気象条件などによるばらつきが生じる。
そこで、図3に示した操作装置14の画面と同様に、換算テーブルの内容が反映されたマス目を表示器141に表示した上で、マス目の一部に季節を表す表記を行ってもよい。すなわち、選択部143は、マス目に対応する操作釦の操作によって表2に示した潅水の実施を行うように構成される。このように、選択部143が季節を選択する操作釦だけではなく、他の操作釦も備えていれば、ユーザの判断による水量の調節が可能になる。以下では、表1の内容を反映させたマス目が表示された状態で、季節を表す表記がなされたマス目を「対象要素」と呼ぶ。
対象要素は、季節を表す文字が表記され、さらに、マス目を囲む線の種類、マス目を囲む線の色、マス目の中の色、マス目の中の模様などから選択される視覚情報によって、他のマス目と区別される。通常は、対象要素ではないマス目に対応した操作釦の操作が禁止され、所定の操作が行われると対象要素ではないマス目に対応した操作釦の操作が許可される構成であってもよい。
いま、季節が秋であると仮定する。この場合、計測装置13で計測されたpF値が、秋に対応する対象要素に対応した現在値であるときに、秋に対応する対象要素の操作釦が操作されると、決定部121は、操作釦に対応した水量を換算テーブルから抽出する。表2によれば、秋に対応するマス目は表1における第5行第4列のマス目に対応するから、計測装置13で計測されたpF値が5行目の「2.0」である場合に、秋に対応する操作釦を操作すると、pF値が4列目の「1.0」になる水量が抽出される。
上述した動作では、植物の栽培期間における潅水の水量が定められる。ところで、上述したように、植物の収穫時におけるpF値は、収穫する植物の硬さ、味などに影響する。したがって、潅水の水量だけではなく、潅水のタイミングを定める必要がある。さらには、植物の栽培期間において、潅水は1回だけではなく、潅水が複数回に分けて行われることが望ましい場合もある。
植物の1回の栽培期間に複数回の潅水を行う例を図4に示す。図4に示す例は、栽培する植物としてホウレンソウを想定している。ホウレンソウの栽培期間は、図4に示す例では、ホウレンソウの生育ステージにより、1期S1から4期S4までの4つの期間に区分されている。ここでは、1期S1は、起耕された圃場への播種直後から2枚の子葉が生じるまでの期間であり、2期S2は、2枚の子葉が生じてから4枚の本葉が生じるまでの期間である。また、3期S3は、4枚の本葉が生じてから草丈が20[cm]になるまでの期間であり、4期S4は、草丈が20[cm]になってから収穫までの期間である。圃場では複数の個体が栽培されるから、生育ステージは、圃場で栽培される植物の個体の80%程度の状態を目安にして判断される。
潅水を実施する生育ステージは、図4に示す例では、1期S1と3期S3とである。1期S1には複数回の潅水が実施され、3期S3には1回だけ潅水が実施されている。2期S2あるいは4期S4に潅水を行うことが禁止されているわけではなく、2期S2または4期S4に潅水を実施する場合もある。
全体潅水の水量は、植物の1回の栽培期間に実施される潅水の水量の合計である。上述した換算テーブルは、全体潅水の水量を求めるために用いられる。たとえば、図4に示した例では、全体潅水の水量は、1期S1と3期S3とに実施される潅水の水量を合計した値である。以下では、1期S1に実施する潅水を「初期潅水」と言い、1期S1を除く時期の潅水を「追加潅水」と言う。
すなわち、全体潅水は、初期潅水と追加潅水とに分けられることがある。さらに、初期潅水と追加潅水との少なくとも一方について、複数回の潅水が実施されることがある。そのため、1回の栽培期間における全体潅水の水量を定めても、複数回に分けて実施される潅水の1回当たりの水量、潅水が実施されるタイミングなどが異なっていると、収穫時の土壌の水分量に相違が生じる可能性がある。
初期潅水は、播種後に1期S1の中で実施される潅水であり、1日だけ潅水が実施されることがあるが、複数日にわたって潅水が実施されることが多い。初期潅水は、たとえば6日間にわたって実施される場合がある。初期潅水において圃場に供給される水量が、仮に10000[L]であるとすれば、たとえば、1日目に5000[L]が割り当てられ、2日目から6日目にそれぞれ1000[L]が割り当てられる。もちろん、この配分の仕方は一例である。たとえば、初期潅水が5日間で実施され、各日に圃場に供給される水量が等量であってもよい。この場合、初期潅水で圃場に供給される水量が、10000[L]であれば、1日目から5日目までの毎日の潅水の水量は2000[L]が割り当てられる。また、初期潅水において、1日目から3日目までの毎日の潅水の水量を3000[L]とし、4日目に1000[L]の潅水を行うようにして、10000[L]の水量を分割してもよい。
要するに、初期潅水を行う日数、日々の水量は、適宜に定められる。日々に分割した水量は毎日続けて潅水されるとは限らない。初期潅水を複数回に分けて行う場合、適宜の日数を空けて分割した水量での潅水を行うことも可能である。さらに、初期潅水だけではなく、追加潅水も複数回に分割して行うことが可能である。
追加潅水は、通常は図4のように、3期S3に実施される。ただし、3期S3に加えて、2期S2あるいは4期S4にも追加潅水が実施されることがある。追加潅水が実施されるのは、植物の収穫までの期間に土壌の水分に不足が生じた場合であって、土壌の水分に不足がなければ、追加潅水を実施しなくてもよい。
以上のように、1回の栽培期間において複数回の潅水が実施される場合、pF値の現在値および目標値に対して全体潅水の水量だけではなく、個々の潅水のタイミング、個々の潅水を実施するときの水量などの情報を対応付ける必要がある。そのため、制御装置12は、初期潅水および追加潅水の水量を調整する修正部125を備えている。修正部125は、インターフェイス部124への入力情報を用いて初期潅水および全体潅水の水量を調整する。入力情報は、操作装置14の表示器141および操作器142を通してインターフェイス部124に入力される。
操作装置14には、初期潅水の水量を調整する場合と、追加潅水の水量を調整する場合とでは、異なる内容の画面が表示される。操作装置14は、制御装置12から指示を受けて、初期潅水の水量を調整する画面と、追加潅水の水量を調整する画面とを選択して表示する。
初期潅水の水量を調整する画面には、図5に示すように、第1入力部144と第2入力部145とが設けられる。第1入力部144は、初期潅水で実施される潅水の水量が入力可能となるように構成される。詳述しないが、操作装置14では、初期潅水が終了するまでの日数が指定可能である。そして、第1入力部144では、指定された日数について1日ごとの潅水の水量が入力され、潅水を実施する時刻が入力される。
図5に示す構成例は、初期潅水において7日目までに潅水を終了するように指定された例である。日は、播種を行った日を1日目とし、以後は播種からの経過日数で日を指定している。この例の第1入力部144は、初期潅水が終了するまでの日数分の複数個(ここでは、7個)のフィールドF11を備え、フィールドF11には該当する日に潅水を実施する水量が入力される。この例では、初期潅水として最大で7回の潅水を実施することが可能であるが、該当する日の水量として「0」が入力される日があってもよい。つまり、最大では7回の潅水が可能であるが、潅水を行わない日を含んでいてもよい。
また、図5に示す例では、潅水を開始する時刻は毎回共通であって、第1入力部144は、時刻(時と分)を入力する1つのフィールドF12を備える。すなわち、制御装置12は、播種から7日目までの期間において、潅水の水量として0[L]ではない値がフィールドF11に入力されている日には、フィールドF12に入力された時刻になると、水供給装置11に潅水を指示する。制御装置12は、上述した動作を可能にするために、日時を計時する時計部126を備える。
ところで、制御装置12では、いつ播種が実施されたかを自動的に認識することはできないから、播種を行った時点で潅水を開始するようにユーザが指示する必要がある。そのため、図5に示すように、操作装置14に設けられる第2入力部145は、「実施」と表記された操作釦B11と、「停止」と表記された操作釦B12とを備える。操作釦B11は第1入力部144で設定した条件での潅水を実施する際に操作され、操作釦B12は潅水の停止を指示する際に操作される。第2入力部145は、第1入力部144に入力された水量で潅水が実施されるように指示部123に対して潅水開始の指示を行う。
操作釦B12は、水供給装置11から土壌に対して水を供給しているときに操作されると、水供給装置11の運転を停止させ、その後の初期潅水を中止させる。また、操作釦B12は、水供給装置11から土壌に対して水を供給していないときに操作されると、以後の初期潅水を中止させる。操作釦B12により初期潅水を中止した場合でも、操作釦B11を操作すると、操作釦B11が操作された停止時点からの潅水が再開される。なお、初期潅水を停止させる操作は、何らかの異常が生じた場合に行われる。この場合に初期潅水を停止させる時間は長くとも1時間程度である。したがって、初期潅水を再開する時点までの土壌水分の変化は無視できる。
詳述はしないが、操作装置14において、初期潅水について条件を設定する画面には、フィールドF11に入力した水量の総和、初期潅水を実施した日数などの情報も表示される。初期潅水において1回だけ潅水が実施される場合には、設定される1回の水量は初期潅水における合計の水量と一致する。また、初期潅水において複数回の潅水が実施される場合には、複数回の潅水における水量の合計が、初期潅水において供給される水量に一致する。なお、初期潅水において複数回の潅水を実施する場合、複数回の潅水において開始時刻は同じであることが望ましいが、開始時刻を異ならせてもよい。
ここで、図2を参照して説明したように、収穫時に達成しようとするpF値が定められている場合を想定する。収穫時に達成しようとするpF値が、たとえば2.5であるとすれば、初期潅水から収穫までの期間に、pF値が2.5を超えないように追加潅水を適宜に行うことが望ましい。したがって、土壌の水分特性曲線に応じて図4のように追加潅水が行われる。言い換えると、図4に示した例で3期に追加潅水を実施しているのは、2期の終了時点で潅水を必要とする程度に土壌水分が減っていることを意味している。
図4の例のように潅水を実施する場合に、生育ステージの1期および2期にはpF値を2.3未満に維持し、3期および4期にはpF値を2.5以下に維持するように、追加潅水を行うことが考えられる。また、初期潅水および追加潅水それぞれについて、実施直後のpF値の目標値を異ならせることが可能であるが、ここでは、pF値の目標値を等しく設定し、仮にpF値が閾値に達したときには追加潅水を緊急で行うように作業手順を定めている。初期潅水および追加潅水を実施した直後のpF値の目標値は、たとえば図2の潅水時のpF値のように定められる。
追加潅水の水量を調整する画面には、図6に示すように、第1入力部146と第2入力部147とが設けられる。第1入力部146は、第1入力部144と同様に、潅水の水量が入力可能となるように構成される。また、第2入力部147は、第2入力部145と同様に、第1入力部146に入力された水量で潅水が実施されるように指示部123に対して潅水開始の指示を行う。
第1入力部146は、追加潅水を実施する際の水量を選択するための複数個の選択釦B21を備える。選択釦B21で選択される水量は、選択釦B21の操作ごとに加算され、画面内のフィールドF21に総和が示される。操作装置14の画面に配置された複数の操作釦B21のうちの1つは、潅水の水量を減らすために負数の選択が可能である。また、図6に示す画面には、追加潅水を開始した後に水供給装置11から供給された水量を表示するフィールドF22も設けられている。
第2入力部147は、追加潅水の実施を水供給装置11にただちに指示するための「即時実施」と表記された操作釦B22と、水供給装置11に停止を指示して水供給装置11からの水の供給を停止させる「潅水停止」と表記された操作釦B23とを備える。さらに、第2入力部147は、あらかじめ設定された時刻に追加潅水を開始する「タイマー実施」と表記された操作釦B24も備える。
追加潅水の水量を定める複数の操作釦B21は、500[L]の単位で追加潅水の水量の増加を指示可能であり、かつ100[L]の単位で追加潅水の水量の増加と減少とが指示可能である。追加潅水の水量は、5000[L]程度の場合もあるから、500[L]だけではなく、1000[L]、2000[L]、3000[L]、5000[L]、10000[L]などの水量をそれぞれ対応付けた操作釦B21が設けられている。フィールドF21には、操作釦B21の操作によって指定された水量の合計が表示される。たとえば、3000[L]に対応した操作釦B21と1000[L]に対応した操作釦B21とが続けて操作されると、フィールドF21に追加潅水の水量として4000[L]が表示される。
追加潅水を行う場合、1日に実施する潅水の水量について上限値を定めることが可能であり、追加潅水の水量の総量が1日の上限値を超える場合には、複数回の潅水が実施されるように自動的に分割される。追加潅水において複数回の潅水が実施される場合、潅水の時間間隔が日を単位として指定可能であることが望ましい。
たとえば、5000[L]の追加潅水を行う場合であって、1日の水量の上限値が2000[L]であれば、初回の潅水は2000[L]、2回目の潅水は2000[L]、3回目の潅水は1000[L]というように3日に分けて潅水が実施される。なお、潅水は連続した3日で実施される必要はなく、たとえば1日置きの3日間(すなわち、合計5日間)であってもよい。
ユーザが土壌の状態に応じて操作装置14を操作した場合、追加潅水の水量は記憶部122に記憶される。記憶部122には、初期潅水の水量も記憶されているから、初期潅水の水量と追加潅水の水量とを合算することによって、1回の栽培期間において実施した潅水の水量がわかる。上述のように、図3に示した操作装置14の画面に対応する換算テーブルには、全体潅水の水量が設定される。すなわち、換算テーブルに設定される水量として、記憶部122には、図5に示した画面で設定された初期潅水の水量と、図6に示した画面で設定された追加潅水の水量との合計が記憶される。また、初期潅水あるいは追加潅水が複数日に分けて行われた場合に、記憶部122には日ごとの潅水の水量が実績として記憶される。
全体潅水の水量を定めるための初期潅水の水量および追加潅水の水量は、図2に示した例と同様の手順で調整される。すなわち、植物の収穫時における土壌の水分が過剰であれば、初期潅水と追加潅水との少なくとも一方の水量を減らし、植物の収穫時における土壌の水分が不足であれば、初期潅水と追加潅水との少なくとも一方の水量を増やす。調整する水量は、収穫時の土壌のpF値に基づいて目安が得られる。すなわち、収穫時のpF値と理想とするpF値との差分が求められると、pF値の差分が補正量ΔVに換算される。ここに、記憶部122は、pF値の差分を補正量ΔVに換算するための換算テーブルを備えることが望ましい。また、収穫時のpF値が理想とするpF値よりも小さく土壌の水分が過剰であるときには補正量ΔVが負の値になり、収穫時のpF値が理想とするpF値よりも大きいときには補正量ΔVが正の値になるように、pF値の差分と補正量ΔVとの関係が定められる。
上述した関係で収穫時のpF値の差分が補正量ΔVに換算されると、前回の栽培期間に選択されたpF値の現在値およびpF値の目標値に対応付けた水量に、収穫時のpF値から求めた補正量を加算することによって潅水の水量が補正される。初期潅水に加えて追加潅水を行う場合には、初期潅水と追加潅水との両方に、補正量ΔVが割り当てられる。
なお、表1に示した換算テーブルでは、pF値の間隔が0.5に設定されているが、換算テーブルにおけるpF値の間隔は、計測装置13が計測するpF値の最小単位に応じて適宜に定めることが可能である。また、上述した構成例において、計測装置13が制御装置12に接続されていない場合、計測装置13が測定したpF値の現在値はユーザが操作装置14を通して制御装置12に入力する必要がある。したがって、計測装置13がインターフェイス部124を通して制御装置12と通信する構成を採用し、pF値の現在値を制御装置12が自動的に取り込むように構成してもよい。計測装置13が制御装置12と通信し、かつ圃場に複数の計測装置13が設けられている場合に、制御装置12は、複数の計測装置13から受け取ったpF値に基づいて、圃場の土壌水分の代表値を計算するように構成されていてもよい。
また、上述した構成例では、全体潅水の水量が換算テーブルに設定されているが、初期潅水と追加潅水とのそれぞれに対応するように2つの換算テーブルを設けてもよい。この構成を採用する場合、図5に示した画面で設定される初期潅水の水量が一方の換算テーブルに設定され、図6に示した画面で設定される追加潅水の水量が他方の換算テーブルに設定される。また、初期潅水を行うか追加潅水を行うかに応じて操作装置14を操作することにより、換算テーブルが選択される。
ところで、追加潅水を行うか否かを客観的に判断するには、計測装置13が計測したpF値を用いることが望ましい。すなわち、初期潅水の実施後にpF値があらかじめ定めた値になると、追加潅水の実施を行うことが望ましい。計測装置13が計測したpF値があらかじめ定めた値になると追加潅水の実施を自動的に行うように構成されていれば、土壌水分が不足してから潅水を開始するのではなく、土壌水分に不足が生じないように潅水を実施することが可能になる。
潅水を開始する条件がpF値の現在値で定められ、かつ潅水による土壌水分がpF値の目標値で定められていれば、制御装置12の決定部121は、pF値の現在値とpF値の目標値との組み合わせに対する水量を自動的に定めることが可能である。すなわち、換算テーブルが圃場の特性に応じて適正に定められ、かつpF値の現在値とpF値の目標値とが定まっていれば、適正な水量で潅水を自動的に実施することが可能である。
初期潅水は、播種の直後にユーザが行うから、pF値に基づく潅水の自動化は不要であるが、追加潅水の際にはpF値に基づいて潅水を行うと、経験を必要とせずに適正な潅水を行うことが可能になる。追加潅水を自動化する場合、制御装置12は、操作装置14を通して播種の時点を受け取り、制御装置12に設けられている時計部126により播種からの経過日数を計時する。そして、時計部126により計時された日数が所定範囲である期間に、pF値の現在値が定められた値まで上昇すると、pF値の目標値に応じた水量で追加潅水を自動的に行うように、制御装置12が水供給装置11に指示を与える。追加潅水の際には、制御装置12に設定された条件で複数回の潅水が行われることもある。
上述した制御装置12は、マイコン(Microcontroller)を主なハードウェア要素として構成されている。マイコンは、プログラムに従って動作するプロセッサと、プロセッサを動作させるプログラムを格納するためのメモリおよび作業用のメモリとを備えた1チップのデバイスとして構成される。制御装置12は、マイコンではなく、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、PIC(Peripheral Interface Controller)などから選択されるデバイスで構成されていてもよい。あるいは、制御装置12は、MPU(Micro-Processing Unit)のようにプロセッサのみを備え、メモリを接続して用いられるデバイスで構成されていてもよい。時計部126は、たとえば、リアルタイムクロックによって実現される。なお、制御装置12は、パーソナルコンピュータで構成されていてもよい。
プログラムは、メモリのうちのROM(Read Only Memory)に格納された状態で提供されるほか、コンピュータで読取可能な光ディスクあるいは外部記憶装置のような記録媒体で提供される場合もある。また、インターネットのような電気通信回線を通してプログラムが提供されてもよい。記憶媒体または電気通信回線を通して提供されるプログラムは、書換可能な不揮発性のメモリに格納される。
なお、上述した構成例では、潅水システム10が単独で動作する場合について説明したが、潅水システム10を構成する制御装置12は、複数の潅水システム10で共用することが可能である。たとえば、水供給装置11の動作を指示する指示部123を水供給装置11に付加しておき、制御装置12の残りの構成は指示部123と通信するサーバで構成してもよい。このような構成を採用すると、規模が同程度、かつ潅水システム10が設置されている地域の環境がほぼ等しい場合であって、土壌の水分特性曲線もほぼ等しいとすれば、記憶部122に格納した情報を共用することが可能である。
上述した潅水システム10は、水供給装置11と制御装置12と計測装置13とを備える。水供給装置11は、植物栽培用の土壌に潅水を行う。制御装置12は、土壌への潅水を実施する時期および水量を水供給装置11に指示する。計測装置13は、土壌の土壌水分を計測する。制御装置12は、決定部121と記憶部122と指示部123とインターフェイス部124とを備える。決定部121は、計測装置13が計測した土壌水分の現在値に対して土壌水分を所定の目標値にするために必要な水量を定める。記憶部122は、現在値および目標値の組み合わせを土壌に供給する水量に対応付けた換算テーブルを格納している。指示部123は、決定部121が定めた水量で土壌に潅水を実施するように水供給装置11に指示する。インターフェイス部124は、計測装置13が計測した現在値を入力情報として受け取り、入力情報を決定部121に引き渡す。決定部121は、計測装置13が計測した現在値を換算テーブルに照合することにより土壌に供給する水量を定めるように構成されている。
この構成によれば、計測装置13が計測した土壌水分の現在値を、土壌水分の目標値に基づいて換算テーブルに照合するだけで、土壌に供給する水量を簡単に定めることができる。すなわち、計測装置13が計測した土壌の保水力に着目して、潅水を実施する水量を簡単に定めることができる。
インターフェイス部124は、入力情報を操作装置14から受け取るように構成されていることが望ましい。操作装置14は、現在値と目標値との組み合わせが選択可能となるように構成された選択部143を備えることが望ましい。この場合、入力情報は、選択部143で選択された現在値と目標値との組み合わせであることが望ましい。
この構成によれば、操作装置14が備える選択部143を用いて、ユーザが土壌水分の現在値と目標値との組み合わせを選択するだけで、潅水を実施する際の水量が定まる。すなわち、ユーザは土壌水分の目標値を定めていれば、計測装置13で計測した土壌水分の現在値を知るだけで、土壌に適した水量での潅水を実施することが可能である。
また、操作装置14は、第1入力部144、146と第2入力部145、147とを備えていてもよい。第1入力部144、146は、土壌に対して実施する潅水の水量が入力される。第2入力部145、147は、第1入力部144、146に入力された水量で潅水が実施されるように指示部123に対して潅水開始の指示を行う。この場合、入力情報は、第1入力部144、146に入力された水量と潅水開始の指示とであることが望ましい。
この構成によれば、潅水を行ったときに水量に不足があれば、水量の不足分を第1入力部144、146から入力し、追加して潅水を行うことにより水量の不足を解消することが可能である。また、潅水を行ったときに水量に過剰があれば、植物を次に栽培する際に、第1入力部144、146によって潅水を実施する水量を調節することによって、次の栽培時には水量の過剰を解消することが可能である。
上述した構成において、第1入力部144、146は、1回の栽培期間において土壌に複数回の潅水が実施されるように、複数回の潅水を実施する時期および水量が入力されるように構成されていることが望ましい。
この構成は、土壌の保水力に鑑みて1回の潅水の水量が制限される場合などに、分割して潅水を実施することにより、潅水を実施する際の水の無駄が抑制される可能性がある。すなわち、1回の潅水の水量が多量であると、植物では利用されずに重力水として排水される水量が増加する可能性がある。これに対して、潅水を複数回に分けて実施することにより、重力水として排水される水量の総量を低減させることが可能であり、潅水を実施する際の水の無駄が抑制される可能性がある。
上述した構成では、制御装置12は、換算テーブルにおいて現在値および目標値の組み合わせに対応付ける水量を、入力情報に基づいて調整する修正部125をさらに備えていることが望ましい。
この構成によれば、土壌水分の現状値および目標値の組み合わせと水量との関係が、換算テーブルに設定されている関係とは異なる場合であっても、換算テーブルを調整することによって、適切な水量を土壌に供給することが可能になる。
修正部125は、1回の栽培期間で土壌に潅水を実施する直前の現在値と、栽培期間において第1入力部144、146に入力された水量とに基づいて、次の栽培期間に用いる換算テーブルにおける水量を調整することが望ましい。
この構成によれば、栽培期間においてユーザが調節した水量を、次の栽培期間に反映させるように換算テーブルの水量が調整されるから、栽培期間を繰り返すうちに、換算テーブルの水量が適切な値に調整されることが期待できる。
インターフェイス部124は、計測装置13が計測した土壌水分の現在値を計測装置13から受け取ってもよい。この場合、決定部121は、インターフェイス部124から受け取った現在値と、あらかじめ定められている目標値とに基づいて、土壌に供給する水量を定めることが望ましい。
この構成によれば、計測装置13が計測した土壌水分の現在値を受け取ると、換算テーブルで定められた水量で水供給装置11から自動的に水を供給することが可能になる。したがって、計測装置13が計測した土壌水分が低下した場合には、潅水が自動的に実施され、土壌水分の不足が生じる可能性が低減される。
上述した構成では、換算テーブルにおいて、現在値および目標値の組み合わせと水量との初期の対応関係は、土壌の水分特性曲線に基づいて定められていることが望ましい。
この構成によれば、土壌水分の現在値および目標値の組み合わせと水量とを、土壌に合わせて対応付けた換算テーブルを提供することが可能である。換算テーブルには、土壌の特性以外の要因は反映されていないが、換算テーブルの初期の内容を、潅水を実施する水量に大幅な誤差が生じない程度に定めることが可能になる。
計測装置13は、テンシオメータであることが望ましい。この構成によれば、土壌水分の計測に広く使用されているテンシオメータを用いて、適切な計測を行うことができる。
上述した制御装置12は、植物栽培用の土壌への潅水を実施する時期および水量を水供給装置11に指示するように構成される。制御装置12は、決定部121と記憶部122と指示部123とインターフェイス部124とを備える。決定部121は、計測装置13が計測した土壌の土壌水分の現在値に対して土壌水分を所定の目標値にするために必要な水量を定める。記憶部122は、現在値および目標値の組み合わせを土壌に供給する水量に対応付けた換算テーブルを格納している。指示部123は、決定部121が定めた水量で土壌に潅水を実施するように水供給装置11に指示する。インターフェイス部124は、計測装置13が計測した現在値を入力情報として受け取り、入力情報を決定部121に引き渡す。決定部121は、計測装置13が計測した現在値を換算テーブルに照合することにより土壌に供給する水量を定めるように構成されている。
この構成によれば、計測装置13が計測した土壌水分の現在値を、土壌水分の目標値に基づいて換算テーブルに照合するだけで、土壌に供給する水量を簡単に定めることができる。すなわち、計測装置13が計測した土壌の保水力に着目して、潅水を実施する水量を簡単に定めることができる。
図7に上述のような潅水システム10を適用する農業用ハウス20の全体構成を簡単に説明する。この農業用ハウス20は、構造材としての金属製パイプを組み合わせて構成されたフレーム211と、フレーム211により支持された被覆体212とで構成された外殻21を備える。
フレーム211は、並んで配置された2本の支柱部と、2本の支柱部それぞれの一端間を連結する連結部とを一体に備える逆U字状に形成されている。図7に示す構成例では、連結部は滑らかな弧状に形成されているが、2本の直線それぞれの一端を付き合わせた逆逆V字状に形成されていてもよい。被覆体212は、光透過性を有する材料により形成される。被覆体212はガラスでもよいが、この構成例では、透光性を有する(望ましくは透明である)合成樹脂フィルムを用いている。複数のフレーム211は、それぞれが囲む面に交差する方向に並び、被覆体212は、複数のフレーム211が並んだ状態で複数のフレーム211に架設される。そして、被覆体212は、複数のフレーム211が並ぶことにより形成される仮想的な立体物を全周にわたって覆う。
このように構成された農業用ハウス20は、断面半円状の屋根部200と、屋根部200を支持し互いに対向する一対の側壁部201と、側壁部201に直交し互いに対向する一対の妻壁部202とを一体に備える。したがって、農業用ハウス20は、妻壁部202を結ぶ方向に直交する断面において逆U字状に形成されている。一対の妻壁部202を結ぶ方向の寸法は、一対の側壁部201を結ぶ方向に比べて十分に大きい寸法に設計されている。
このような農業用ハウス20には、上述した潅水システム10のほかにも、内部の環境を調節するために、様々な設備が配置されることがある。たとえば、外殻21の内部への日射を調節するカーテン230、外殻21の内部空間での気流の形成あるいは換気を行うファン25などの設備が設けられる。また、植物の温度を調節するためにミストを発生させる装置が配置される場合もある。ただし、これらの設備については、ここでは要旨ではないので説明を省略する。
上述した構成の農業用ハウス20は一例であり、農業用ハウス20の構成を限定する趣旨ではなく、農業用ハウス20に他の材料を用いることや他の形状に形成することを妨げない。
上述した農業用ハウス20は、光透過性の被覆体212をフレーム211が支持する外殻21と、潅水システム10とを備える。
この構成によれば、外部環境の影響が抑制された土壌において、潅水システム10が使用されるから、潅水システム10が用いる換算テーブルの内容で、土壌水分をほぼねらい通りに調節することが可能である。
なお、上述した実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんのことである。