JP2017171657A - 細胞増殖促進剤及び癌細胞増殖抑制剤の単離方法 - Google Patents

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直樹 宮澤
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直樹 宮澤
信弘 高橋
Nobuhiro Takahashi
信弘 高橋
桂一 泉川
Keiichi IZUMIKAWA
桂一 泉川
石川 英明
Hideaki Ishikawa
英明 石川
治孝 吉川
Harutaka Yoshikawa
治孝 吉川
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Abstract

【課題】癌細胞への特異性が高く、正常細胞に対する副作用のない、新規の癌細胞増殖抑制を開発し、提供することである。【解決手段】癌細胞特異的に発現するLYARタンパク質、及びそれと相互作用する新規rDNA転写促進因子を有効成分として含むリボソームDNA転写促進剤、並びに前記LYARタンパク質と前記rDNA転写促進因子との相互作用を阻害する癌細胞増殖抑制を単離する方法を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、特定のrDNA転写促進因子等からなるrDNA転写促進剤、それを有効成分とする細胞増殖促進剤、及び癌細胞の増殖を特異的に抑制することのできる副作用の少ない癌細胞増殖抑制剤の単離方法に関する。
2014年の統計によれば、日本国内における死因順位別死亡数の第1位は、癌(悪性新生物)である。この死亡数は、2位の心疾患及び3位の肺炎を合わせた死亡数よりも多く、全死亡数の約30%にも及んでいる(非特許文献1)。癌の罹患率は年齢と共に増加する傾向にあり、特に40代以降に急増する。40〜50代は家庭を支え、かつ職場においても責任ある地位にある就労年代であることから癌による経済的及び社会的損失は計り知れない。それ故、癌治療法の確立は、極めて重要かつ急務となっている。癌治療法に関しては、これまでにも、手術療法、化学療法、放射線療法、免疫療法等の様々な方法が開発されてきたが、近年は、特に癌細胞の増殖や浸潤、転移に関わる分子を標的とし、その分子の機能を阻害する分子標的治療法が注目され、著しい成果が表れている。しかし、いずれの癌治療法も未だに延命効果や治療効果が十分なものとは言い難く、癌による死亡者数の上昇を抑制するまでには至っていない。
癌は、人体を形成する多くの正常細胞から様々な原因によって発生し、癌細胞の異常増殖に起因する腫瘍塊の形成、隣接組織への癌細胞の浸潤及び血管やリンパ管を介した多種臓器への遠隔転移を特徴とする。このような、細菌やウイルスの感染とは異なる特異な発生機序が癌の根本的かつ効果的治療法の開発を阻んでいる。また、現在認可されている多くの抗癌剤は、癌細胞のみならず正常細胞に対しても作用するため脱毛、吐き気、白血球の減少等の副作用を生じるという問題もあった。
厚生労働省、平成26年(2014)人口動態統計の年間推計
本発明は、癌細胞への特異性が高く、正常細胞に対する副作用の少ない新規の癌細胞増殖抑制を開発し、提供することを課題とする。
癌細胞が著しい成長と増殖を達成するためには、タンパク質合成能の昂進が不可欠であり、また、そのタンパク質合成能を昂進させるには、リボソームRNA(本明細書ではしばしば「rRNA」と表記する)生合成能の昂進が必須となる。実際、様々な癌細胞ではリボソームDNA(本明細書ではしばしば「rDNA」と表記する)の転写能が昂進していることが確認されている。一方、癌細胞では、しばしば癌細胞特有のタンパク質の発現や正常細胞では通常見られない糖鎖等のタンパク質修飾が認められる。
そこで、本発明者らは、癌細胞に特異的に存在し、かつrDNA転写能を昂進させるタンパク質が癌の分子標的治療法において有効な標的となり得ると考え、ヒトの癌細胞と正常細胞から単離した各種リボソームRNA前駆体をプロテオミクスにより網羅的に解析し、上記特徴を有する200種類以上の候補タンパク質を選択した。その中からrDNAの転写を促進する因子であり、かつ、癌細胞特異的なタンパク質としてLYARタンパク質を同定した。LYARタンパク質は、ジンクフィンガーモチーフを有しており、これまでに、マウスLyar遺伝子を含む線維芽細胞をヌードマウスに導入すると腫瘍が形成されることが報告されている(Su L., et al., 1993, Genes Dev., 7:735-748)。しかし、ヒト細胞でLyar遺伝子の発現量を上昇させた場合、細胞増殖が促進するか否かは不明であった。そこで、本発明者らは、Lyar遺伝子を恒常的に発現するヒト細胞株を作成し、Lyar遺伝子の発現量の上昇に応じて細胞増殖能が増加することを示した(Miyazawa N., et al., 2014, Genes to Cells, 19:273-286)。そして、LYARタンパク質がrDNAの転写領域への結合を介して転写を促進させること、LYARタンパク質の発現量の低下によりLYARタンパク質のrDNAへの結合が減少しrRNAの転写量が減少すること、逆にLYARタンパク質の発現量を上昇させるとrDNAへの結合が増加しrRNAの転写量が増加することを見出した。
前述のように、LYARタンパク質は、その発現量によってrDNAの転写量を調整し、様々な種類の細胞増殖を制御する機能を有している。本発明者らは、癌細胞内に、LYARタンパク質によってrDNA上にリクルートされ、LYARタンパク質と同様に癌細胞のrDNAの転写に寄与し、細胞増殖の昂進に必要となる他の転写促進因子が存在することを予測した。そこで、LYARタンパク質と相互作用するタンパク質をプルダウン法によって単離し、これまでにrDNAの転写促進機能が知られていない21種のタンパク質を癌細胞増殖におけるrDNA転写促進因子として新たに同定した。
実際、rDNA転写促進因子の一つとして同定されたBRD4タンパク質は、細胞周期のM/G1移行期に転写される遺伝子の転写開始領域に結合し、転写伸張因子複合体(P-TEFb)を転写部位にリクルートしてRNAポリメラーゼIIによる転写速度を速めることが知られている(Jang M.K., et al., 2005, Mol Cell., 19(4):523-34; Yang Z., et al., 2005, Mol Cell. 19(4):535-545)。このBRD4タンパク質が急性白血病細胞及び扁平上皮癌細胞の増殖に不可欠であり、これがアセチル化ヒストンへの結合によって、結合した領域の遺伝子の転写を早めるとの知見も得られている(Zuber J, et al., 2011, Nature, 478(7370):524-528;Zippo A., 2009, Cell, 138(6):1122-1136)。それ故、BRD4タンパク質のアセチルリジンの結合部位周辺の三次元構造解析がなされ、それを阻害する低分子化合物が設計されている(Zuber J., et al., 2011, Nature, 478(7370):524-528)。そのような化合物の一つであるJQ1は、BRD4タンパク質のアセチルヒストンへの結合阻害活性が非常に高いことから、前記癌に対して有効な分子標的薬になり得ることが期待されている。一方で、JQ1は、BRD4タンパク質が関与するmRNAの転写を全て抑制してしまうことから正常細胞に対して重篤な副作用を与える可能性が懸念されている。
LYARタンパク質とrDNA転写促進因子は、相互作用によってrDNAの転写量を調整し、細胞増殖を促進している。LYARタンパク質は、前述のように癌細胞特異的に存在するタンパク質として単離されたことから、正常細胞では発現量が極めて低いか、又は全く発現していない。また、rDNAの転写はRNAポリメラーゼIによって行われる。したがって、LYARタンパク質と新たに単離したrDNA転写促進因子との相互作用を阻害する物質は、細胞増殖促進作用を抑制し、かつ癌細胞特異性が非常に高く、正常細胞に対する影響はないか、又は極めて小さいことが予測される。それ故に、そのような阻害物質は、副作用のない有用な抗癌剤となり得る。本発明は、上記新たな知見に基づくもので、以下の各発明を提供する。
(1)(a)配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41及び43からなるアミノ酸配列群から選択されるアミノ酸配列で示されるいずれか一のタンパク質又はその活性断片、(b)前記(a)に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列からなるタンパク質又はその活性断片、又は(c)前記(a)に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質又はその活性断片からなるリボソームDNA転写促進剤。
(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードする遺伝子、又は前記(1)に記載の活性断片をコードするヌクレオチドのいずれか一以上を発現可能な状態で含むrDNA転写促進因子発現ベクターからなるリボソームDNA転写促進剤。
(3)前記遺伝子が配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42又は44で示される塩基配列からなる、(2)に記載のリボソームDNA転写促進剤。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のリボソームDNA転写促進剤、及びLYARタンパク質若しくはその活性断片又はLYAR発現ベクターを有効成分とする細胞増殖促進剤であって、前記LYAR発現ベクターはLYARタンパク質をコードするLyar遺伝子又はLYARタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含み、前記LYARタンパク質は(a)配列番号1で示すアミノ酸配列、(b)前記(a)に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列、又は(c)前記(a)に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる前記細胞増殖促進剤。
(5)前記Lyar遺伝子が配列番号2で示す塩基配列からなる、(4)に記載の細胞増殖促進剤。
(6)前記(4)又は(5)に記載の細胞増殖促進剤を細胞内に導入する工程、及び前記導入工程後の細胞を培養する工程を含む、細胞増殖促進方法。
(7)癌細胞増殖抑制剤の単離方法であって、試験区の細胞内に、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるLYARタンパク質若しくはその活性断片、又はLYARタンパク質をコードするLyar遺伝子若しくはLYARタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含むLYAR発現ベクター、配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41及び43で示されるアミノ酸配列群から選択されるいずれか一のアミノ酸配列からなるrDNA転写促進因子若しくはその活性断片、又は該rDNA転写促進因子をコードするrDNA転写促進因子遺伝子若しくはその活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含むrDNA転写促進因子発現ベクター、及び候補物質を、また、対照区の細胞内に、前記LYARタンパク質若しくはその活性断片、又は前記LYAR発現ベクター、及び前記rDNA転写促進因子若しくはその活性断片、又は前記rDNA転写促進因子発現ベクターを、それぞれ導入する導入工程、前記導入工程後の試験区及び対照区のそれぞれの細胞を培養する培養工程、前記培養工程後の試験区及び対照区のそれぞれの細胞内におけるLYARタンパク質若しくはその活性断片及びrDNA転写促進因子若しくはその活性断片の結合量、リボソームDNAの転写量、又は細胞数を測定してその測定値を得る測定工程、及び試験区における前記測定値が対照区のそれよりも有意に低い場合にその候補物質を癌細胞増殖抑制剤として選択する選択工程を含む、前記方法。
(8)前記rDNA転写促進因子遺伝子が配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42又は44で示されるいずれか一の塩基配列からなる、(7)に記載の単離方法。
(9)前記Lyar遺伝子が配列番号2で示す塩基配列からなる、(7)又は(8)に記載の単離方法。
(10)前記候補物質が核酸分子、ペプチド、又は低分子化合物である、(7)〜(9)のいずれかに記載の単離方法。
(11)前記候補物質が前記配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41及び43で示されるアミノ酸配列群から選択されるいずれか一のアミノ酸配列からなるタンパク質の部分配列、又は該部分配列をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含む発現ベクターである、(7)〜(10)のいずれかに記載の単離方法。
(12)配列番号1で示すアミノ酸配列からなるタンパク質において168位〜261位で示すアミノ酸配列からなる部分断片を含むペプチドからなる癌細胞増殖抑制剤。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-057432号の開示内容を包含する。
本発明のrDNA転写促進剤によれば、細胞に投与することにより、その細胞のrRNA合成を促進させ、その結果、細胞の増殖を促進させることができる。
本発明の癌細胞増殖抑制剤の単離方法によれば、癌細胞特異的に細胞の増殖を抑制する副作用の少ない癌細胞増殖抑制剤を単離することができる。
rDNA転写領域周辺の概念図、及び本実施例でクロマチン免疫沈降後にリアルタイムPCRで増幅し、定量した各領域の位置を示す概念図である。 Brd4遺伝子発現量をsiBrd4により減少させた細胞において、抗BRD4抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。 Brd4遺伝子発現量をドキシサイクリン誘導により増加させた細胞において、抗Flag抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。図中、+Doxはドキシサイクリン誘導処理を行った細胞を、また-Doxはドキシサイクリン非誘導の細胞を示す。 Brd4遺伝子の発現量をsiBrd4により低下させたときのrRNA合成量の定量結果を示す図である。Aは5'ETS1の、またBは5'ETS3の結果である。 Lyar-siRNAによりLyar遺伝子の発現量を低下させたときの抗BRD4を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。 ドキシサイクリン誘導によりLyar遺伝子の発現量を増加させたときの抗BRD4抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。図中、+Doxはドキシサイクリン誘導処理を行った細胞を、また-Doxはドキシサイクリン非誘導の細胞を示す。 A:ヒトLYARタンパク質のドメイン等を示す概念図である。B:実施例5で作製した6xHis-ビオチン付加配列-Flagタグ融合hLyar遺伝子変異体がコードする変異タンパク質の概念図である。 A:抗BRD2抗体によるイムノブロットを示す。B:抗BRD4抗体でのイムノブロットを示す。 LYARドメイン変異体N3とBRD2のin vitro結合アッセイの結果を示す。 293T細胞において、抗BRD2抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。ウサギIgG抗体は抗BRD2抗体のコントロールとして使用した。 Lyar-siRNAによってLyar遺伝子の発現量を減少させ、LYARタンパク質の発現量を低下させた細胞での抗BRD2抗体を用いたクロマチン免疫沈降によるリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。 Lyar遺伝子発現量を増加させた細胞において、抗BRD2抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量結果を示す図である。 Lyar遺伝子の発現誘導処理前(-Dox)及び処理後(+Dox)細胞において、抗FLAG抗体を用いた1st クロマチン免疫沈降法後のリアルタイムPCRによるDNA転写領域の定量の結果を示す図である。 図10−1で得られた抗FLAG抗体による免疫沈降物に対して、抗BRD2抗体を用いて2nd クロマチン免疫沈降法を行ったときの結果を示す図である。ウサギIgG抗体は抗BRD2抗体のコントロールとして使用した。
1.リボソームDNA転写促進剤
1−1.概要
本発明の第1の態様は、rDNA転写促進剤である。本発明のrDNA転写促進剤は、rDNA転写促進因子として機能するタンパク質若しくはその活性断片、又はrDNA転写促進因子発現ベクターからなる。本発明のrDNA転写促進剤は、後述する第2態様の細胞増殖促進剤の有効成分となり、細胞内のrRNAの合成量を増加して、細胞増殖を促進することができる。
1−2.構成
本明細書において「リボソームDNA(rDNA)」とは、リボソームRNA(rRNA)をコードする遺伝子をいう。rRNAは、真核生物由来のrRNAであればその種類は問わず、3種のrRNA、すなわち5.8S rRNA、18S rRNA、及び28S rRNAのいずれであってもよいし、いずれか2種、又は3種全てであってもよい。また、本明細書において「rDNA(の)転写領域」とは、rDNAのプロモーター領域を含むrDNAの転写に必須の領域をいう。
本明細書において「リボソームDNA転写促進剤(rDNA転写促進剤)」とは、プロモーター領域を含むrDNAの転写開始複合体に作用してrDNAの転写を促進し、細胞内のrRNA量を増加させる薬剤をいう。
本発明のrDNA転写促進剤は、特定のアミノ酸配列で示されるタンパク質又はrDNA転写促進因子発現ベクターで構成される。以下それぞれについて説明をする。
(1)特定のアミノ酸配列で示されるタンパク質又はその活性断片
本明細書においてrDNA転写促進剤を構成する「特定のアミノ酸配列で示されるタンパク質」とは、配列番号3(UBF1)、配列番号5(TCOF)、配列番号7(BRD2)、配列番号9(BRD3)、配列番号11(BRD4)、配列番号13(CHD1)、配列番号15(CHD3)、配列番号17(CHD4)、配列番号19(SP16H)、配列番号21(SSRP1)、配列番号23(PAF1)、配列番号25(CTR9)、配列番号27(LEO1)、配列番号29(RTF1)、配列番号31(CDC73)、配列番号33(WDR61)、配列番号35(LARP7)、配列番号37(SART3)、配列番号39(CSK21)、配列番号41(CSK22)又は配列番号43(CSK2B)で示すアミノ酸配列からなる21種のタンパク質である。カッコ内はタンパク質名を示す(後述の表1を参照)。これらのタンパク質は、いずれもrDNAの転写促進因子としてrDNAの転写に直接的に又は間接的に機能する。したがって、本明細書においては、前述した特定のアミノ酸配列で示されるタンパク質をしばしば「rDNA転写促進因子」と表記する。
前述の21種のrDNA転写促進因子はヒト由来であるが、本発明のrDNA転写促進剤を構成するrDNA転写促進因子は、ヒト以外の動物に由来するオルソログタンパク質であってもよい。また、rDNA転写促進因子は野生型タンパク質が好ましいが、rDNA転写促進因子としての活性を維持する限り変異型タンパク質であってもよい。このようなオルソログタンパク質又は変異型タンパク質の例として、前述のrDNA転写促進因子のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列からなるタンパク質や、前述のアミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本明細書において「複数個」とは、例えば、2〜20個、2〜15個、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個又は2〜3個をいう。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じていずれかのアミノ酸配列にギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときに、前述のアミノ酸配列の全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸の割合(%)をいう。
本明細書において「(その)活性断片」とは、タンパク質の一部からなる機能断片で、そのタンパク質の活性を保持しているペプチドをいう。本明細書では、通常、前述のrDNA転写促進因子の一部からなる機能断片が該当する。活性断片は、それを含むタンパク質の活性を保持する部分断片である限りアミノ酸長は問わない。
本発明のrDNA転写促進剤は、前記rDNA転写促進因子群及び/又はその活性断片群から選択される一つ又は二以上のペプチドからなる。
なお、本明細書では前記「特定のアミノ酸配列で示されるタンパク質又はその活性断片」をしばしば「rDNA転写促進因子等」と表記する。
(2)rDNA転写促進因子発現ベクター
「発現ベクター」とは、遺伝子や遺伝子断片を発現可能な状態で含み、その遺伝子等の発現を制御できる発現単位をいう。
本明細書において「rDNA転写促進因子発現ベクター」とは、前記rDNA転写促進因子をコードする遺伝子又はその活性断片をコードするヌクレオチド(本明細書では、これらをまとめて、しばしば「rDNA転写促進因子遺伝子等」と表記する)を発現可能な状態で含む発現ベクターをいう。
本明細書において「発現可能な状態」とは、プロモーターの制御下である下流域にrDNA転写促進因子遺伝子等を機能的に配置していることをいう。
本発明のrDNA転写促進因子発現ベクターは、被験体内で複製可能な様々な発現ベクターを利用することができる。例えば、ウイルス、プラスミド、コスミド、及び人工染色体を含む。ウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等に由来する種々のベクターが含まれる。プラスミドには、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBV、pRS、pcDNA3、pMSG、pYES2等が含まれる。人工染色体には、ヒト人工染色体(HAC; Human Artificial Chromosome)、酵母人工染色体(YAC; Yeast Artificial Chromosome)、菌人工染色体(BAC; Bacterial Artificial Chromosome)、及びP1由来人工染色体(PAC; P1-derived Artificial Chromosome)が含まれる。
本明細書において「被験体」とは、本明細書の各態様において本発明のrDNA転写促進剤の適用対象となる個体、器官、組織、又は細胞をいう。例えば、後述する第3態様の細胞増殖促進方法において細胞増殖促進剤の投与対象となる個体や、第4態様の癌細胞増殖抑制剤の単離方法において使用する細胞等が該当する。被験体の由来生物種は真核生物であれば限定はしない。例えば、線虫や昆虫などの無脊椎動物、ホヤ等の脊索動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、及び哺乳類等を含む脊椎動物が挙げられる。好ましくはヒト、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウ等)、競走馬、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル等)等であり、より好ましくはヒトである。また、本明細書において「適用」とは、被験体に使用することであり、ここでいう「使用」は、投与、施用、及び導入を含む概念である。
rDNA転写促進因子遺伝子の具体例として、配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42又は44で示される塩基配列からなる21種のヒト由来rDNA転写促進因子遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子は、それぞれが前述の配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41又は43で示すアミノ酸配列からなるヒトrDNA転写促進因子をコードする遺伝子に対応する。
本発明において一つのrDNA転写促進因子発現ベクターは、2以上のrDNA転写促進因子遺伝子等を発現可能な状態で含んでもよい。この場合、それぞれは同一のrDNA転写促進因子遺伝子等であってもよいし、異なるrDNA転写促進因子遺伝子等であってもよい。
1−3.効果
本発明のrDNA転写促進剤は、被験体に適用することでrDNA転写能を促進し、細胞内のrRNA生合成量を増加させることができる。それによって、細胞のタンパク質合成能を促進し、細胞増殖を増強できる。それ故に、本発明の第2態様の細胞増殖促進剤における有効成分となり得る。
2.細胞増殖促進剤
2−1.概要
本発明の第2の態様は、細胞増殖促進剤である。本発明の細胞増殖促進剤は、前記第1態様のrDNA転写促進剤、及びLYARタンパク質等及び/又はLYAR発現ベクターを有効成分とし、被験体に適用することで細胞のタンパク質合成を促進させることができる。
2−2.構成
2−2−1.構成成分
本発明の細胞増殖促進剤は、前記第1態様のrDNA転写促進剤、及びLYARタンパク質等及び/又はLYAR発現ベクターを有効成分とする。また、本発明の細胞増殖促進剤は、有効成分の他に、溶媒及び/又は担体を含むことができる。以下、それぞれの構成成分について説明をする。
(1)有効成分
本発明の細胞増殖促進剤は、必須の有効成分として2つの成分を包含する。
第1の有効成分は、第1態様に記載のrDNA転写促進剤である。これについては、その構成の詳細を第1態様に記載していることから、ここでの具体的な説明は省略する。なお、細胞増殖促進剤は、有効成分として異なる二以上のrDNA転写促進剤を含むことができる。例えば、配列番号7で示すアミノ酸配列からなるBRD2タンパク質と配列番号12で示す塩基配列からなるBrd4遺伝子を含むrDNA転写促進因子発現ベクターを有効成分とする場合等が該当する。
第2の有効成分は、LYARタンパク質等及び/又はLYAR発現ベクターである。
本明細書において「LYARタンパク質等」とは、LYARタンパク質又はその活性断片を意味する。LYARタンパク質は、rDNAの転写領域に結合してその転写を促進する因子である。癌細胞で特異的に発現しており、通常、正常細胞にはほとんど存在しない。したがって、癌細胞においてrDNAの転写能を促進し、癌細胞の増殖に寄与するタンパク質と考えられる。LYARタンパク質の具体例としては、配列番号1で示すアミノ酸からなる野生型ヒトLYARタンパク質、配列番号1で示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列や配列番号1で示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型ヒトLYARタンパク質又はヒトLYARタンパク質の他生物種オルソログが挙げられる。LYARタンパク質は、本明細書で単離した21種のrDNA転写促進因子と相互作用して、rDNA転写促進因子とrDNAとの結合を仲介する機能を有する。
また、本明細書において「LYAR発現ベクター」とは、前記LYARタンパク質等をコードする、Lyar遺伝子又はヌクレオチド(本明細書では、しばしば、これらをまとめて「Lyar遺伝子等」と表記する)を発現可能な状態で含む発現ベクターをいう。包含する遺伝子等がLyar遺伝子等であることを除いて、基本構成は前述のrDNA転写促進因子発現ベクターと同様でよい。Lyar遺伝子は、前述のLYARタンパク質をコードする遺伝子である。Lyar遺伝子の一具体例として、配列番号2で示す塩基配列からなるヒトLyar遺伝子が挙げられる。
細胞増殖促進剤に含まれる各有効成分の量、すなわち含有量は、rDNA転写促進剤の種類、細胞増殖促進剤の剤形、細胞増殖促進剤の適用量、並びに後述する溶媒や担体の種類によって異なる。したがって、それぞれの条件を勘案して適宜定めればよい。通常は、単回適用量の細胞増殖促進剤に有効量の有効成分が包含されるように調整する。しかし、有効成分の薬理効果を得る上で、被験体に細胞増殖促進剤を大量に投与する必要がある場合、被験体の負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。この場合、有効成分の量は、総合量で有効量を含んでいればよい。
本明細書において「有効量」とは、rDNA転写促進剤やLYARタンパク質等及び/又はLYAR発現ベクターが有効成分としての機能を発揮する上で必要な量であって、かつそれを適用する被験体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、適用経路、及び適用回数等の様々な条件によって変化し得る。本発明の細胞増殖促進剤を医薬組成物として使用する場合、有効成分の含有量は、最終的には、医師、獣医師又は薬剤師等の判断によって決定される。
また、本明細書において、「被験体の情報」とは、被験体の様々な状態情報であって、例えば、被験体がヒト個体の場合であれば、年齢、体重、性別、全身の健康状態、疾患の有無、疾患の進行度や重症度、薬剤感受性、併用薬物の有無及び治療に対する耐性等を含む。また、細胞であれば、由来生物種、由来部位、細胞種(癌細胞由来か正常細胞由来か)及び癌細胞由来の場合その癌種を含む。
(2)溶媒
本発明の細胞増殖促進剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な溶媒中に溶解することができる。「薬学的に許容可能な溶媒」とは、製剤技術分野において通常使用する溶媒をいう。例えば、水若しくは水溶液、又は有機溶剤が挙げられる。水溶液には、例えば、生理食塩水、ブドウ糖又はその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤には、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。有機溶剤には、エタノールが挙げられる。
(3)担体
本発明の細胞増殖促進剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。
溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は薬学的に許容される有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
結合剤には、例えば、植物デンプンを用いたデンプン糊、ペクチン、キサンタンガム、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、パラフィン、ポリビニルピロリドン又はそれらの組み合わせが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
上記の他にも、必要であれば医薬組成物において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
上記担体は、被験体内で酵素等による前記有効成分の分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
2−2−2.剤形
本発明の細胞増殖促進剤の剤形は、被験体内で有効成分を阻害することなく、その薬理効果を発揮させる目的の部位にまで送達できる形態であれば特に限定しない。
具体的な剤形は、後述する適用方法及び/又は処方条件によって異なる。被験体が生体であれば、適用方法は、非経口投与と経口投与に大別することができるので、それぞれの投与法に適した剤形にすればよい。
投与方法が非経口投与であれば、好ましい剤形は、対象部位への直接投与又は循環系を介した全身投与が可能な液剤である。液剤の例としては、注射剤が挙げられる。注射剤は、前記賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
投与方法が経口投与であれば、好ましい剤形は、固形剤(錠剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤(内用水剤、乳剤、シロップ剤を含む)が挙げられる。固形剤であれば、必要に応じて、当該技術分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠にすることができる。
また、被験体が細胞であれば、培地又は培養液中に適用可能な顆粒剤、粉剤、散剤、液剤等を添加すればよい。
なお、上記各剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。本発明の細胞増殖促進剤の製造方法については、当該技術分野の常法に従って製剤化すればよい。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Merck Publishing Co., Easton, Pa.)に記載された方法を参照することができる。
2−2−3.適用方法
本発明の細胞増殖促進剤の適用経路は、被験体が生体であれば、経口投与でも、非経口投与でもよいが、筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、動脈内投与等の非経口投与が好ましい。経口投与法は、一般に全身投与であるが、非経口投与法は、さらに局所投与と全身投与に細分できる。また、被験体が器官や組織であれば、その器官や組織への直接投与が挙げられる。この場合、器官や組織に注射等により適用すればよい。さらに、被験体が細胞であれば、その細胞を培養する培地又は培養液中に細胞増殖促進剤を混入させることにより直接投与すればよい。
本発明の細胞増殖促進剤の適用方法は、使用目的や薬理効果を発揮させる部位に応じて適宜選択することができる。前記有効成分は、あらゆる細胞に対して作用し得る。したがって、特定の部位における細胞増殖を促進させる場合には、局所投与が適当である。局所投与は、注射により目的の部位に直接投与することが好ましい。一方、個体全体に作用させる場合には全身投与が好ましい。全身投与には、例えば、血管内注射又は経口投与が採用できる。血管内注射は、血流を介して全身に行き渡らせることが可能な点で便利である。ただし、この場合、有効成分が血液中で分解されずに標的細胞にまで送達される形態にすることが好ましい。例えば、有効成分がrDNA転写促進因子遺伝子及びLyar遺伝子を包含するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであれば、AAV粒子により核酸分解を免れ、目的の細胞にまで送達させることができる。投与量は、タンパク質合成を促進するのに有効な量であればよい。有効量は、前述のように被験体情報に応じて適宜選択されるが、適用対象が標準的な大人のヒト個体であれば、通常1日当りの有効量は、0.0001〜1000μg、好ましくは0.001〜1000μgとなる。これを、1回又は数回に分けて投与すればよい。
2−3.適用対象
本発明の細胞増殖促進剤の適用対象となる被験体は特に限定しない。細胞増殖を必要とする所望の細胞、組織、器官又は個体が適用対象となり得る。例えば、再生医療におけるES細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞等の幹細胞、iPS細胞、リンパ球等の様々な細胞が挙げられる。
2−4.効果
本発明の細胞増殖促進剤は、被験体に適用することで細胞の増殖能を促進することができる。
3.細胞増殖促進方法
3−1.概要
本発明の第3の態様は、細胞増殖促進方法である。本発明の細胞増殖促進方法は、第2態様の細胞増殖促進剤を細胞内に導入することで、その細胞の増殖能を増強して、細胞数を増加させることができる。
3−2.方法
本発明の細胞増殖促進方法は、導入工程と培養工程を必須の工程として含む。以下、各工程について説明をする。
(1)導入工程
本態様における「導入工程」は、第2態様の細胞増殖促進剤を細胞内に導入する工程である。細胞増殖促進剤を細胞内に導入させる方法は、特に限定はしない。第2態様の細胞増殖促進剤の有効成分がタンパク質であれば、マイクロインジェクション法による直接導入方法やカチオン脂質又は細胞膜透過性ペプチドを用いたタンパク質トランスフェクション法を利用すればよい。また、第2態様の細胞増殖促進剤の有効成分が発現ベクター等の核酸であれば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、ウイルス感染法、DEAEデキストラン法等の周知の方法を用いることができる。これらは公知の方法であり、常法に従って行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法を参考にすればよい。また、細胞内への導入に際しては、市販の遺伝子導入試薬やタンパク質・ペプチド導入試薬を利用することもできる。例えば、Lipofectamine(登録商標)2000(Thermo Fisher Scientific社)、XfectTM Protein Transfection Reagent(Clontech社)が挙げられる。市販の試薬やキットを使用して細胞内導入を行う場合には、原則は、商品に添付のプロトコルに従えばよい。
本方法で使用する細胞も特に限定はしない。増殖を必要とするあらゆる細胞を使用すればよい。
(2)培養工程
本態様における「培養工程」は、本態様の導入工程後の細胞を培養する工程である。培養方法は、公知の細胞培養技術又は組織培養技術を利用すればよく、特に限定はしない。例えば、培地は、培養する細胞の種類に応じて通常使用される周知の培地を用いればよい。動物細胞であれば、例えばDMEM、RPMI1640等を使用することができる。接種細胞数は限定しない。一例として、培地に1×105cells/mLとなるように接種すればよい。培地のpHは中性付近に保持することが好ましい。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行えばよい。培養温度は、37℃付近で行う。培養中の気体環境は、細胞の増殖が可能であれば特に限定しないが、通常は5% CO通気下が好ましい。さらに培養期間は、必要数の細胞が増殖する期間であれば特に限定しないが、通常3日〜2週間の間で行えばよい。その間、必要に応じて培地交換を行うこともできる。なお、細胞の分離や培養に供される機器は、当該分野で使用される適当な機器を適宜用いればよいが、医療用に安全性が確認され、かつ操作が安定して簡便であるものが好ましい。特に細胞培養装置については、シャーレ、フラスコ、ボトル等の一般的容器に拘わらず、積層型容器や多段式容器、ローラーボトル、スピナー式ボトル、バッグ式培養器、中空糸カラム等も用いることができる。
3−3.効果
本発明の細胞増殖促進方法によれば、ES細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞等の幹細胞、iPS細胞、リンパ球等の様々な細胞の増殖をin vitro又はex vivoで促進させることができる。
4.癌細胞増殖抑制剤の単離方法
4−1.概要
本発明の第4の態様は、癌細胞増殖抑制剤の単離方法である。本発明の単離方法は、LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の結合量等を候補物質の存在下及び非存在下で測定し、両者の測定値の有意差に基づいてLYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の相互作用を阻害する物質を癌細胞増殖抑制剤として単離する方法である。本発明の単離方法により、癌細胞への特異性が高く、正常細胞に対する副作用のない、新規の癌細胞増殖抑制を得ることができる。
4−2.方法
本発明の単離方法は、導入工程、培養工程、測定工程、及び選択工程を必須の工程として含む。以下、各工程について説明をする。
(1)導入工程
本態様における「導入工程」は、試験区及び対照区の細胞内に所定のタンパク質又は核酸等を導入する工程である。その際、試験区ではさらに候補物質を細胞内に導入する点で対照区と異なる。
試験区と対照区で共通して細胞内に導入する物質は、LYARタンパク質等又はLYAR発現ベクター、及びrDNA転写促進因子等又はrDNA転写促進因子発現ベクターである。
rDNA転写促進因子等及びrDNA転写促進因子発現ベクターについては、第1態様に記載の構成と同一である。また、LYARタンパク質等及びLYAR発現ベクターについては、第2態様に記載の構成と同一である。
一方、候補物質は、試験区のみで細胞内に導入する。
本明細書において「候補物質」とは、本態様の癌細胞増殖抑制剤の単離方法に供され、癌細胞増殖抑制剤の候補として、その効果を検証すべき物質をいう。ここでいう「その効果」とは、LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等との相互作用の阻害、すなわちLYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等との結合量の低下、それによって生じるリボソームDNAの転写量の減少及び細胞数の減少をいう。
候補物質の種類は特に制限はしない。例えば、核酸分子、ペプチド、又は低分子化合物が挙げられる。ペプチドであれば、例えば、LYARタンパク質や転写促進因子の部分配列からなるペプチド断片は、LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等との結合を阻害するアンタゴニストとして機能し得るので候補物質として有用である。また、核酸分子であれば、前記ペプチド断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含む発現ベクターが挙げられる。また、本明細書において「低分子化合物」とは、分子量が1000以下、好ましくは900以下、より好ましくは600以下又は500以下で核酸又はペプチド以外の化合物をいう。例えば、多価アルコール、糖、脂肪酸、ポリフェノール、カロテノイド等が挙げられる。
本態様において使用する「細胞」は、動物由来の細胞、好ましくは脊椎動物由来、より好ましくは哺乳動物由来、一層好ましくはヒト由来の細胞である。正常細胞でもよいが、本発明で単離すべき癌細胞増殖抑制剤の適用対象となる癌細胞がより好ましい。いずれの器官又は組織由来の細胞であるかは問わない。細胞は培養細胞が望ましい。この場合、初代培養細胞、継代培養細胞、又は株化細胞のいずれであってもよい。
試験区及び対照区におけるそれぞれの細胞に導入するLYARタンパク質等又はLYAR発現ベクター及びrDNA転写促進因子等又はrDNA転写促進因子発現ベクターの分量は、原則同一とする。候補物質の導入を除き、その他の条件、例えば、導入する細胞の由来生物種、由来細胞種、播種細胞数、培養条件(培地組成、培養時間、培養温度等を含む)、導入方法等については、試験区及び対照区間で原則として全て同一とすることが望ましい。
導入するrDNA転写促進因子等の種類は、原則として第1態様に記載の21種のrDNA転写促進因子から選択される1種であるが、必要に応じて2種以上を組み合わせて導入することもできる。この時、各種rDNA転写促進因子の分量は等量導入することが好ましい。また、この時、対照区は、同一条件で独立に3つ以上行うことが望ましい。
試験区に導入する候補物質の分量は、使用する候補物質の種類に応じて適宜定めればよい。
なお、試験区において導入する候補物質のみを換え、他の条件を全て同一とする場合、本発明の癌細胞増殖抑制剤の単離方法における対照区については、既知の情報を再利用できることから必ずしも行う必要はない。したがって、その場合、本態様においては、試験区のみを行えばよい。
LYARタンパク質等、rDNA転写促進因子等、及び候補物質を細胞内に導入する方法は、第3態様の細胞増殖促進方法における導入工程に記載の周知の方法を用いて行えばよい。低分子化合物を細胞内に導入する場合は、通常、培地に添加すれば足りる。
(2)培養工程
本態様における「培養工程」は、本態様の導入工程後の試験区及び対照区のそれぞれの細胞を培養する工程である。
各試験区の培養は、第3態様の培養工程に記載の公知の方法に準じて行えばよい。培養期間は、通常、前記導入工程後6時間〜10日、好ましくは10時間〜7日、より好ましくは12時間〜4日でよい。
(3)測定工程
「測定工程」は、本態様の培養工程後の試験区及び対照区のそれぞれの細胞内における測定対象の分量又は数を測定し、その測定値を得る工程である。
本明細書において「測定値」とは、各測定方法によって得られる値である。測定値は、測定対象の数や容量(例えば、ng(ナノグラム)やμg(マイクログラム)等)のような絶対値であってもよいし、参照値や対照値に対する吸光度や蛍光強度等で表される相対値であってもよい。
本工程における測定対象は、LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子の相互作用の阻害、それに基づくrDNA転写促進因子とrDNAの解離とrDNA転写の低下、そしてそれらに起因する細胞増殖の抑制を検証できるあらゆる事象が該当する。例えば、
(a)LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の結合量、
(b)rDNAの転写量、又は
(c)細胞数
等が挙げられる。この他、細胞内タンパク質合成量、rDNA転写促進因子等とrDNAの結合量であってもよい。
本明細書において「LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の結合量」とは、LYARタンパク質等と直接的又は間接的に結合するrDNA転写促進因子等の相対量又は絶対量をいう。LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の結合量を測定するとは、細胞内のLYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の結合を定量することである。
本明細書において「rDNAの転写量」とは、細胞内で転写されたrDNA量であって、これは細胞内rRNA量として評価することができる。したがって、rDNAの転写量を測定するとは、細胞内のrRNA量を定量することである。測定するrRNAは、プロセシング前のrRNA前駆体であってもよいし、プロセシング後の3種のrRNA、すなわち5.8S rRNA、18S rRNA、及び28S rRNAのいずれか1種、2種、又は3種であってもよい。
本工程における具体的な測定方法は、測定対象によって異なる。
例えば、(a)に記載のLYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の結合量を測定する方法は、タンパク質間相互作用を検出する当該分野で公知の方法であれば特に制限はしない。例えば、各ポリペプチドを特異的に認識する抗体、すなわち、抗LYAR抗体、各rDNA転写促進因子に対する抗体(例えば、抗BRD4抗体等)を用いた免疫学的検出法が挙げられる。本明細書で各ポリペプチドを特異的に認識する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体のいずれであってもよい。組換え抗体は、キメラ抗体及び合成抗体を含む。また、ここでいう「合成抗体」とは、化学的方法又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫学的検出法には、例えば、共免疫沈降法、ファーウェスタンブロッティング法、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、酵素抗体法、放射免疫測定法が含まれる。これらの方法は、いずれも当該分野で公知の方法であり、本態様の単離方法においても、原則として公知の方法に準じて行えばよい。
また、(b)に記載のrDNAの転写量は、前述のように細胞内rRNA量を測定すればよい。rRNA量を測定する方法は、RNAを検出し、定量化できる当該分野で公知の方法であれば特に制限はしない。例えば、測定すべきrRNAの全部又は一部の塩基配列に相補的な塩基配列を有し、それを特異的に検出可能な核酸プローブを用いた検出方法、又は定量核酸増幅法を用いた方法等が挙げられる。
核酸プローブを用いた検出方法には、例えば、ノザンブロット法、マイクロアレイ法、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法、又は水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)法が挙げられる。
「ノザンブロット法」は、遺伝子の発現(ここではrDNAの転写)を解析する最も一般的な方法で、試料より調製した全RNA又はrRNAを変性条件下でアガロースゲル若しくはポリアクリルアミドゲル等による電気泳動によって分離し、フィルターに転写(ブロッティング)した後に、標的核酸(ここでは定量すべきrRNA)に特異的な塩基配列を有するプローブを用いて、標的核酸を検出する方法である。このとき、プローブを蛍光色素や放射性同位元素のような適当なマーカーで標識することで、例えば、ケミルミ(化学発光)撮影解析装置(例えば、ライトキャプチャー;アトー社)、シンチレーションカウンター、イメージングアナライザー(例えば、FUJIFILM社:BASシリーズ)等の測定装置を用いて標的核酸を定量することができる。ノザンブロット法は、当該分野において周知著名な技術であり、例えば、前述のGreen, M.R. and Sambrook, J.(2012)を参照すればよい。
「マイクロアレイ法」は、基板上に標的核酸の塩基配列に相補的な核酸プローブを小スポット状に高密度で配置、固相化したマイクロアレイ又はマイクロチップに標的核酸を含む試料を反応させて、基盤スポットにハイブリダイズした核酸を蛍光等によって検出、定量する方法である。標的核酸は、RNA、又はそれを逆転写したcDNAのいずれであってもよい。検出、定量には、標的核酸等のハイブリダイゼーションに基づく蛍光等をマイクロプレートリーダーやスキャナにより検出、測定することによって達成できる。測定した蛍光強度により、rRNA量若しくはそのcDNA量又はレファレンスRNAに対するそれらの存在比を決定することができる。マイクロアレイ法も当該分野において周知の技術である。例えば、DNAマイクロアレイ法(DNAマイクロアレイと最新PCR法(2000年)村松正明、那波宏之監修、秀潤社)等を参照すればよい。
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」とは、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を極めて高感度に検出、定量する方法である。本発明においては、例えば、金属薄膜表面に標的核酸の塩基配列に相補的な核酸プローブを固定化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、試験区細胞又は対照区細胞から採取、調製された試料を金属薄膜表面に流通させることによって標的核酸とプローブの塩基対合を形成させて、サンプル流通前後の測定値の差異から標的核酸を検出、定量することができる。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。本技術は、当該分野において周知である。例えば、永田和弘、及び半田宏, 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法, シュプリンガー・フェアラーク東京, 東京, 2000を参照すればよい。
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量も、SPR法と同様に市販のQCMセンサを利用して、例えば、電極表面に固定した標的核酸の塩基配列に相補的なプローブと試験区細胞又は対照区細胞から採取、調製された試料中の標的核酸との塩基対合によって標的核酸を検出、定量することができる。本技術は、当該分野において周知であり、例えば、Christopher J. et al., 2005, Self-Assembled Monolayers of a Form of Nanotechnology, Chemical Review,105:1103-1169や森泉豊榮,中本高道,(1997) センサ工学,昭晃堂を参照すればよい。
定量核酸増幅法を用いた方法には、リアルタイムRT-PCR法や、ケミルミネッセンスアナライザー定量法が挙げられる。リアルタイムRT-PCR法には、さらに、SYBR(登録商標)Green等を用いるインターカレーター法、TaqMan(登録商標)プローブ法、デジタルPCR法、及びサイクリングプローブ法が知られているが、いずれの方法も利用できる。これらはいずれも公知の方法であり、当該技術分野における適当なプロトコルにも記載されているので、それらを参照すればよい。以下では、一例として、リアルタイムRT-PCR法でrDNAの転写産物(rRNA)を定量する方法について、簡単に説明をする。リアルタイムRT-PCR法は、試料中のRNA(ここではrRNA)から逆転写反応によって調製されたcDNAを鋳型として、PCRの増幅産物が特異的に蛍光標識される反応系で、増幅産物に由来する蛍光強度を検出する機能の備わった温度サイクラー装置を用いてPCRを行う核酸定量方法である。反応中の標的核酸の増幅産物量をリアルタイムでモニタリングして、その結果をコンピュータで回帰分析する。増幅産物を標識する方法としては、蛍光標識したプローブを用いる方法(例えば、TaqMan(登録商標)PCR法)と、2本鎖DNAに特異的に結合する試薬を用いるインターカレーター方法とがある。TaqMan(登録商標)PCR法は、5’末端部がクエンチャー物質で、また3’末端部が蛍光色素で修飾されたプローブを用いる。通常は、5’末端部のクエンチャー物質が3’末端部の蛍光色素を抑制しているが、PCRが行われるとTaqポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により当該プローブが分解され、それによってクエンチャー物質の抑制が解除されるため蛍光を発するようになる。その蛍光量は、増幅産物の量を反映する。増幅産物が検出限界に到達するときのサイクル数(CT)と初期鋳型量とは逆相関の関係にあることから、リアルタイム測定法ではCTを測定することによって初期鋳型量を定量している。数段階の既知量の鋳型を用いてCTを測定し、検量線を作製すれば、未知試料の初期鋳型量の絶対値を算出することができる。RT-PCRで使用する逆転写酵素は、例えば、M-MLV RTase、ExScript RTase(TaKaRa社)、Super Script II RT(Thermo Fisher Scientific社)等を使用することができる。
リアルタイムPCRの反応条件は、一般に公知のPCR法を基礎として、増幅する核酸断片の塩基長及び鋳型用核酸の量、並びに使用するプライマーの塩基長及びTm値、使用する核酸ポリメラーゼの至適反応温度及び至適pH等により変動するため、これらの条件に応じて適宜定めればよい。一例として、変性反応を94〜95℃で5秒〜5分間、アニーリング反応を50〜70℃で10秒〜1分間、伸長反応を68〜72℃で30秒〜3分間行い、これを1サイクルとして15〜40サイクルほど繰り返して伸長反応を行うことができる。前記メーカー市販のキットを使用する場合には、原則としてキットに添付のプロトコルに従って行えばよい。
リアルタイムPCRで用いられる核酸ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ、特に熱耐性DNAポリメラーゼである。このような核酸ポリメラーゼは、様々な種類のものが市販されており、それらを利用することもできる。例えば、前記Applied Biosystems TaqMan MicroRNA Assays Kit(Thermo Fisher Scientific社)に添付のTaq DNAポリメラーゼが挙げられる。特にこのような市販のキットには、添付のDNAポリメラーゼの活性に最適化されたバッファー等が添付されているので有用である。
ケミルミネッセンスアナライザー定量法は、PCR等の核酸増幅反応後の増幅産物をアガロースゲル等でゲル電気泳動し、泳動後のゲルをインターカレーターで染色した後、分離された増幅産物をケミルミネッセンスアナライザーで蛍光強度から定量化する方法である。
また、測定対象が細胞数である場合、所定量の培養液中に含まれる細胞数を血球計算板等を用いてカウントした値を測定値としてもよいし、適当な測定波長(例えば、400nm〜650nm)に対する培養液の吸光度を測定値としてもよい。あるいは吸光度に基づく細胞数算出式に基づいた値であってもよい。
前述のように試験区の候補物質のみを交換し、他の条件を全て同一とする場合、本発明の癌細胞増殖抑制剤の単離方法における対照区については、測定値に関しては以前に測定した対照区の測定値を再利用でき、本発明の単離方法を実行する度に測定する必要がないので便利である。
(4)選択工程
「選択工程」とは、前記測定工程において試験区及び対照区で得られた測定値を比較し、試験区における測定値が対照区の測定値よりも有意に低い場合に、試験区の候補物質を癌細胞増殖抑制剤として選択する工程である。対照区の測定値は、同条件下で測定された独立した複数の対照区の測定値であることが望ましい。
本明細書において「有意に低い」とは、統計学的に有意に低いことをいう。逆に「有意に高い」とは、統計学的に有意に高いことをいう。「統計学的に有意」とは、試験区と対照区の測定値の差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には5%より小さい場合(p<0.05)、1%より小さい場合(p<0.01)、又は0.1%より小さい場合(p<0.001)が挙げられる。ここで示す「p(値)」は、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって「p」が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、共変量分散分析等を用いることができる。対照区の測地値が試験区の測定値の1.5倍以上、2.0倍以上、2.5倍以上、3.0倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、又は6倍以上の場合、通常、統計学的な有意差があるとみなすことができる。
使用した細胞に対して、細胞内に何ら導入することなく、つまり本態様の導入工程を経ずに、他の条件を全て試験区及び対照区と同一にした区をMock区とする場合、Mock区での測定値と対照区の測定値を比較すれば、対照区の測定値が有意に高くなる。これは前述のようにLYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の導入により、細胞内でrDNAの転写能が促進され、その結果、細胞増殖が促進されるためである。
試験区の測定値と対照区の測定値を比較した時に試験区における測定値が対照区の測定値よりも有意に低い場合には、LYARタンパク質等とrDNA転写促進因子等の導入により促進されたrDNAの転写能や細胞増殖が候補物質の存在によって抑制されたことを意味する。したがって、試験区における測定値が対照区の測定値よりも有意に低い場合、その試験区で導入した候補物質を癌細胞増殖抑制剤と判断して選択する。
4−3.効果
本発明の癌細胞増殖抑制剤の単離方法は、LYARタンパク質等と本明細書で同定したrDNA転写促進因子等の相互作用を阻害する機能を有する癌細胞増殖抑制剤を単離することができる。LYARタンパク質は癌細胞に特有にみられるタンパク質であり、そのLYARタンパク質と本明細書で同定したrDNA転写促進因子の相互作用による細胞増殖活性は、癌細胞特異的な細胞増殖活性と解することができる。したがって、本方法で単離される癌細胞増殖抑制剤は、正常細胞の細胞増殖活性には全く又はほとんど影響を及ぼすことがなく、癌細胞の増殖を特異的に抑制することができる。それ故、副作用がないか極めて少ない有用な抗癌剤となり得る。
本発明の癌細胞増殖抑制剤の単離方法に基づいて単離された癌細胞増殖抑制剤の一例として、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるヒトLYARタンパク質において168位〜261位で示すアミノ酸配列からなる部分断片を含むペプチド又はそれをコードする発現ベクターが挙げられる。ヒトLYARタンパク質の168位〜261位で示すアミノ酸配列からなる領域は、rDNA転写促進因子であるヒトBRD2タンパク質及びヒトBRD4タンパク質の結合ドメインを包含する。したがって、上記領域を含むヒトLYARタンパク質の機能失活型部分断片は、ヒトLYARタンパク質とヒトBRD2タンパク質又はヒトBRD4タンパク質との結合を阻害するアンタゴニストとして機能し、癌細胞の増殖を特異的に抑制することができる。
<実施例1>
(目的)
細胞核内でLYARタンパク質と相互作用する転写促進因子を単離し、同定する。
(方法)
(1)ドキシサイクリン誘導型LYARタンパク質発現細胞株の作製
WO2013/129603の実施例1「(2)ドキシサイクリン誘導型細胞系の構築」に記載の方法に従って、ヒトLYARタンパク質をコードする配列番号2で示す塩基配列を含むHis6-Biotinylation sequence-FLAG tag(HBF)融合-LYAR DNA断片をFlp-In-T-REx 293細胞(293 TRex細胞; Thermo Fisher Scientific社)の染色体にFlp-In-T-REx Expression System(Thermo Fisher Scientific社)を用いて組み込み、HBF-LYAR/293T-REx/TO細胞株を作製した。HBF-LYAR/293T-REx/TO細胞株は、ドキシサイクリンでHBF-LYARの発現を誘導することができる。
(2)HBF-LYAR複合体の単離及び精製
HBF-LYAR/293T-REx/TO細胞株にドキシサイクリン処理してHBF-LYARの発現を誘導させた後、細胞質と核に分画した。具体的には、HBF-LYAR/293T-REx/TO細胞をドキシサイクリン処理後、80%コンフルエントまで培養した。細胞を回収後、0.1% (w/v) Triton X-100及び1mM PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride)を含む細胞質抽出液(16.7mM Tris-HCl pH 8.0/50mM NaCl/1.67mM MgCl2)を加えて5分間氷上に放置後、10秒間撹拌した。続いて、1000×gで5分間遠心分離した後、得られた上清を細胞質分画とした。この操作を再度繰り返して、最終的に得られた沈殿物を核分画とした。次に、この核分画に0.5% (w/v) IGEPAL CA-630、1mM PMSFを含む核抽出液(50mM Tris-HCl pH 8.0/0.4M NaCl)を加え、氷上で10分間放置した。その後、それを20000×gで10分間遠心分離を行い、得られた上清を核質分画として回収し、ここに20μLのANTI-FLAG M2 Affinity Gel(Sigma-Aldrich社)を加えて、4℃で4時間インキュベートした。このゲルを洗浄した後、洗浄液に溶解した500μg/mL FLAGを加えて、HBF-LYAR複合体を溶出した。
得られたLYAR複合体をSDS電気泳動で分離した。泳動後、ゲルを6片に切断して、それぞれの切片に対してトリプシン(Promega社)を用いてゲル内プロテアーゼ分解処理を行った(Yanagida M., et al., 2001, Proteomics, 1: 1390-1404)。得られたプロテアーゼ分解物をnano LC-MS/MS(微流量液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム)で分析した(Takahashi, N., et al., 2008, Wiley-Interscience series in mass spectrometry, pp. x, 254 p., [258] p. of plates, Wiley-Interscience ; John Wiley [distributor], Hoboken, N.J. Chichester)。具体的な条件は以下の通りである。
(LC条件)
・使用機器:LTQ-Orbitrap hybrid MSmodel XL(Thermo Fisher Scientific社)
・溶離液A:0.1% HCOOH/milliQ
・溶離液B:0.1% HCOOH/MeCN(アセトニトリル)
・カラム:フリットレス逆相カラムMightysil-RP-18, 粒径3μm、45mm × 0.150mm i.d.(Kanto Chemical社)
・流速:0.1μL/min
・時間連続濃度勾配 B(%) 0分〜70分:0%〜35%
(MS/MS条件)
・使用機器: LTQ-Orbitrap hybrid MSmodel XL(Thermo Fisher Scientific社)
・Mass range: 450-1500 m/z
・スキャンモード:データ依存モード(Orbitrap-MSと線形イオントラップMS/MS取得の自動切り替え)
・イオン化方法:ESI
・スキャン速度:MS; 2 scan/sec, MS/MS; 20scan.sec
・解析ソフトウェア:XcaliburTM Software(Thermo Fisher Scientific社)
確率ベースのMowseスコアに基づき、有意な配列類似性(p < 0.05)を示す候補ペプチドを選択した。選択基準は、質量分析データの検索エンジンMascot v2.3.01 (www.matrixscience.com)で提供される定義に基づき、吉川らが報告した条件(Yoshikawa H, et al., 2011, Mol Cell Proteomics. 10(8);1-23)により解析した。
(結果)
HBF-LYAR複合体中でLYARと相互作用していた200種以上のタンパク質を得た。その中から表1に示す22種のrDNA転写に関与するタンパク質を同定した。
Figure 2017171657
22種のタンパク質の中には、ベイトとして用いたLYARタンパク質も含まれていた。そこで、LYARタンパク質以外で新たにrDNAの転写を促進する因子として同定された、表1に記載するNo.2〜No.22の21種のタンパク質を「rDNA転写促進因子」と認定した。
rDNA転写促進因子には、例えば、表1においてN0.4〜6で示すように、BETファミリーに属し、ブロモドメインを有する3種のBRDタンパク質(BRD2〜BRD4)が含まれていた。ブロモドメインを有するタンパク質は、ゲノム上の構造的に開かれた特定のクロマチン領域に存在するヒストンのリジンのε-Nアセチル基を認識して結合し、その領域にコードされる遺伝子の転写を促進することが知られている。ヒトの場合、57種類のブロモドメインが同定されているが、BRD1〜BRD4タンパク質は、アミノ末端側に2つのブロモドメインを有し、カルボキシ末端側は他のタンパク質と結合できる多様性に富む領域を持つ。したがって、BRDタンパク質は、ゲノム上の特定の領域に結合して、その領域に様々な他の転写因子をリクルートすることで転写を促進する働きを持つと考えられている。
なお、対照として、Flp-In T-RE-x 293細胞に対して、HBF-LYAR/293T-REx/TO細胞株と同一の精製、トリプシン切断、及びタンパク質同定処理を行ったが、対照試料から同定されたタンパク質には、表1に記載の22種のタンパク質はいずれも含まれていなかった。本解析の誤認率は0.0067である。
<実施例2>
(目的)
LYARタンパク質とBRDタンパク質のrDNAの転写における機能的関係について検証する。BRD2、BRD3、及びBRD4の各タンパク質は、これまでmRNAの転写等に関与するRNAポリメラーゼII(RNAP II)による転写の促進に関わることが報告されていた(LeRoy G., et al., 2008, Mol Cell. 30(1):51-60;Devaiah B.N., 2012, Proc Natl Acad Sci U S A., 109(18):6927-6932)。しかし、rDNAの転写に関与するRNAポリメラーゼI(RNAP I)による転写への関与は知られていない。そこで、BRD4タンパク質がRNAP IによるrDNAの転写に関与しているか否かについて検証する。
(方法)
Brd4遺伝子の発現量を変化させて、rDNA上でのBRD4タンパク質の結合の有無をクロマチン免疫沈降法で検証した。
(1)Brd4遺伝子の発現量の増減処理
Brd4遺伝子の発現量の抑制にはBrd4遺伝子のsiRNAを用いた。293T細胞又はHeLa細胞株を35mmペトリディッシュで培養し、コンフルエンシーが約30%に達した際に、5μLのLipofectamine 2000と100pmolのStealth siRNA(Thermo Fisher Scientific 社)を用いて、添付の指示書に従いトランスフェクトした。Brd4遺伝子用のsiRNAには、Brd4-siRNA-ss(5'-GAACCUCCCUGAUUACUAUAATT-3';配列番号45)及びBrd4-siRNA-as(5'-UUAUAGUAAUCAGGGAGGUUCTT-3';配列番号46)からなるBrd4-siRNAを、また陰性対照用のStealth siRNA(scRNA)には、scRNA-siRNA-ss(5'- AAGAAUAUUGUUGCACGAUUUTT-3';配列番号75)及びscRNA-siRNA-as(5'-AAAUCGUGCAACAAUAUUCUUTT-3';配列番号76)からなるscRNA-siRNAを、それぞれ用いた。最初のトランスフェクション後、293T細胞又はHeLa細胞を培養ディッシュに移し、48時間培養した。
Brd4遺伝子の発現量の増加にはFLAG-BRD4発現誘導株を用いた。FLAG-BRD4発現プラスミドFLAG-BRD4 pcDNA5FRT/TOの構築は以下のように行った。まず、293T-REx細胞由来のcDNAを鋳型として、BRD4-Fw(5'-ATTGGATCCCATATGTCTGCGGAGAGCGGCCCTGGGA-3';配列番号65)、及びBRD4-Rv(5'-TAGCGCTCGAGGTCGACTCAGAAAAGATTTTCTTCAAATATTGAC-3';配列番号66)のプライマーペアを用いてBrd4遺伝子をPCRで増幅した。次に、FLAG-FOP-pcDNA5/FRT/TO(Izumikawa, K., et al., 2013, J. Proteomics Bioinform. S7, 002.)をBamHI/XhoIサイトで制限酵素処理してFOP DNA部を切断除去し、そこに同じくBamHI/XhoIサイトで制限酵素処理したBrd4遺伝子の増幅断片を挿入した。これをFLAG-BRD4 pcDNA5FRT/TOとした。FLAG-BRD4発現誘導株は、FLAG-BRD4 pcDNA5FRT/TOを用いて、Miyazawa N, et al.(Genes Cells. 2014, 19(4):273-286)と同様の方法で作成した。FLAG-BRD4の発現には100ng/mLのドキシサイクリンを培地に添加した後、24時間後に実験に用いた。
(2)クロマチン免疫沈降法
クロマチン免疫沈降法は、以下の手順で行った。293T 細胞、又はFLAG-BRD4薬剤誘導発現細胞(5×106個)を終濃度が1%となるようにホルムアルデヒドを直接添加した培地で、37℃にて10分間インキュベートし、タンパク質と核酸(クロマチン)を架橋した。次にグリシンを終濃度0.125Mとなるように添加し、37℃で5分間インキュベートして反応を停止させた。細胞を回収し、PBSで2回洗浄した後、500μLのSDS lysis buffer(50mM Tris-HCl pH8.0/1% SDS/10mM EDTA/1mM PMSF)に再懸濁し、10分間氷上に置いた。溶解した細胞を4℃下にてBioruptor setを用いて、クロマチンを平均長500ヌクレオチド以下に切断する設定値で30秒間15回超音波破砕した。その後、20000×gで10分間遠心し、上清を回収した。500μLのSDS lysis bufferを追加し、ChIP dilution buffer(16.7mM Tris-HCl pH8.0/0.01% SDS/1.1% Triton X-100/1.2mM EDTA/167mM NaCl/1mM PMSF)で10倍希釈した。希釈溶液の一部(30μL)を対照用とし、1mLを4℃下にて3μgの抗BRD4抗体及び抗ウサギIgG抗体、又は抗FLAG抗体と共に一晩回転させながらインキュベートした。25μLのDynabeads Protein G(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、4℃にて2時間回転させながらインキュベートすることによって抗原抗体複合体を回収した。抗体に結合したDynabeadsをMagneSphere Technology Magnetic Separation Stands(Promega社)を用いて回収し、1mLのlow-salt wash buffer(20mM Tris-HCl pH8.1/0.1% SDS/1% Triton X-100/2mM EDTA/150mM NaCl)で2回、1mLのhigh-salt wash buffer(20mM Tris-HCl pH 8.1/0.1% SDS/1% Triton X-100/2mM EDTA/500mM NaCl)で1回、そして0.1% Triton X-100を含んだ1mLのTE buffer(10mM Tris-HCl pH8.0/1mM EDTA)で2回、それぞれ連続的に5分間回転させながら洗浄した。抗体と結合したタンパク質‐クロマチン断片複合体を100μLのelution buffer(0.1M NaHCO3/1% SDS/10mM DTT)で37℃にて15分間2回溶出した。
(3)共沈クロマチン断片の回収
NaClを終濃度が200mMとなるように加え、続いてその溶液を65℃にて6時間以上加熱し、ホルムアルデヒド架橋を解除させた。残ったタンパク質を終濃度50μg/mLとなるように調製したproteinase Kで50℃にて1時間処理し、切断した。遊離したクロマチン断片をQIAquick PCR Purification kit(Qiagen社)で添付のプロトコルに従って精製した。
(4)rDNA転写領域の定量
回収したクロマチン断片を鋳型にThermal Cycler Dice TP800(TaKaRa Bio社)とSYBR Premix Ex Taq II(TaKaRa Bio社)を用いたリアルタイムPCRでクロマチン断片に含まれるrDNA転写領域を定量した。リアルタイムPCR用プライマーペアには、図1に示すヒトrDNAのプロモーター領域であるHO領域増幅用のHO-F(5'-GGTATATCTTTCGCTCCGAG-3';配列番号49)及びHO-R(5'-GACGACAGGTCGCCAGAGGA-3';配列番号50)ペア、H4領域増幅用のH4-F(5'-CGACGACCCATTCGAACGTCT-3';配列番号51)及びH4-R(5'-CTCTCCGGAATCGAACCCTGA-3';配列番号52)ペア、H8領域増幅用のH8-F(5'-AGTCGGGTTGCTTGGGAATGC-3';配列番号53)及びH8-R(5'-CCCTTACGGTACTTGTTGACT-3';配列番号54)ペア、及びH13領域増幅用のH13-F(5'-ACCTGGCGCTAAACCATTCGT-3';配列番号55)及びH13-R(5'-GGACAAACCCTTGTGTCGAGG-3';配列番号56)ペアを用いた。
(結果)
図2にrDNA転写領域の定量結果を示す。
図2−1は、Brd4遺伝子発現量を減少させた293T細胞において抗BRD4抗体、及び抗IgG抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによる結果である。抗BRD4抗体で沈降した場合、Brd4-siRNAを導入して細胞内BRD4タンパク質量を減少させた細胞は、scRNA-siRNAを導入した細胞と比較してrDNA転写領域であるH0領域、H8領域、及びH13領域のいずれも増幅産物量が有意に減少していた。一方、抗IgG抗体で沈降した場合、Brd4-siRNA及びscRNA-siRNAのいずれで処理した細胞もH0領域、H8領域、及びH13領域の増幅産物量に有意差は見られなかった。これらの結果は、Brd4-siRNAの導入により細胞内BRD4タンパク質量が減少した結果、BRD4タンパク質と結合したrDNA転写領域が減少したことを示唆している。
図2−2は、Brd4遺伝子発現量を増加させた細胞において抗Flag抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによる結果である。ドキシサイクリン誘導により細胞内でFlag-BRD4を過剰発現させた細胞(+Dox)と非誘導の細胞(-Dox)のrDNA転写領域の定量結果を比較すると+Doxで増幅産物量が有意に増加していた。この結果は、細胞内でBRD4の発現量を増加させたことにより、BRD4と結合したrDNA転写領域が増加したことを示唆している。
A及びBの結果から、BRD4タンパク質はrDNA上に存在することが明らかになった。
<実施例3>
(目的)
実施例2に続き、LYARとBRD4タンパク質のrDNAの転写における機能的関係について、さらに検証する。
(方法)
Brd4遺伝子の発現量をBrd4-siRNAで低下させたときのrRNA合成量をRT-PCR法で検証した。rDNAから転写されるrRNAの合成量を定量するために実施例2と同様にBDR4-siRNA又は対照用のscRNA-siRNAをHeLa細胞に導入した。導入方法は、実施例2の「(1)Brd4遺伝子の発現量の増減処理」に記載の方法に準じた。
siRNAをトランスフェクションした細胞を5% CO2下で37℃にて48時間培養した後、総RNAを抽出し、PrimeScript (Takara Bio)を用いてcDNAライブラリーを調製した。その後、それを鋳型に、rRNAの5'ETS1(5'external transcribed spacer 1)領域、及び5'ETS3領域をリアルタイムRT-PCRにより定量した。5'ETS1のプライマーペアには5'ETS1-F(5'-GAACGGTGGTGTGTCGTTC-3';配列番号57)と5'ETS1-R(5'-GCGTCTCGTCTCGTCTCACT-3';配列番号58)を、5'ETS3のプライマーペアには5'ETS3-F(5'-GCCTTCTCTAGCGATCTGAGAG-3';配列番号59)と5'ETS3-R(5'-CCATAACGGAGGCAGAGACA-3';配列番号60)を用いた。内部補正用にactin β遺伝子のmRNAを同様の操作により定量した。
(結果)
図3にRT-PCRの定量結果を示す。Aは5'ETS1の、またBは5'ETS3の結果である。BDR4-siRNA及びscRNA-siRNA処理における定量値をactin βの定量値で補正した後、scRNA-siRNAの補正値を1としたときのBDR4-siRNAの補正値の相対値を示している。
BDR4-siRNAによりBrd4遺伝子の発現を抑制させた細胞では5'ETS1及び5'ETS3共に、rDNAの転写量が有意に減少していた。これらの実験によって、BRD4タンパク質がrDNAの転写に関与していることが示唆された。
<実施例4>
(目的)
LYARタンパク質が、新たに単離したrDNA転写促進因子をrDNA上にリクルートして転写を促進していることを検証する。
(方法)
LYARタンパク質の発現量を変化させたときのBRD4タンパク質のrDNA上での結合の変化をクロマチン免疫沈降法で検証した。
(1)LYARタンパク質の発現量の増減処理
LYARタンパク質の発現量の低下にはLyar遺伝子のsiRNAを用いた。基本操作は実施例2の「(1)Brd4遺伝子の発現量の増減処理」に記載の方法に準じた。Lyar遺伝子用のsiRNAには、Lyar-siRNA-ss(5'-CACAGUUUCUGCAAACAGACACAUG-3';配列番号61)及びLyar-siRNA-as(5'-CAUGUGUCUGUUUGCAGAAACUGUG-3';配列番号62)からなるLyar-siRNAを用いた。また陰性対照用のStealth siRNA(scRNA)には、scRNA-siRNA-ss(5'-CACCAAUUUGCGUCCAAACAGAAUG-3';配列番号47)及びscRNA-siRNA-as(5'-CAUUCUGUUUGGACGCAAAUUGGUG-3';配列番号48)からなるscRNA-siRNAを、それぞれ用いた。
LYARタンパク質の発現量の増加には実施例1で作製したHBF-LYAR/293T-REx/TO細胞株を用いてドキシサイクリン処理により発現を誘導させた。
(2)抗LYAR抗体の作製
抗LYAR抗体は、以下の方法によって作製した。まず配列番号2で示す塩基配列からなるヒトLyar遺伝子を常法によりpET41ベクター(Novagen社)に挿入してpET-GST-Lyarを構築した。その後、BL21pLysコンピテントセル(Promega社)をpET-GST-Lyarで形質転換し、GST-LYARタンパク質を発現させた。細胞を溶解して、glutathione-conjugated beads(GE Healthcare社)でGST-LYARタンパク質を精製した後、常法により2羽のウサギに免疫した。最終免疫後、両ウサギから全血を回収した。抗GST-LYAR血清をGST結合ビーズのカラムに2度通して、抗GST抗体を取り除いた。GST-LYAR-結合ビーズを用いて通液から抗-LYAR抗体をさらに精製した。
(3)クロマチン免疫沈降法
基本操作は実施例2の「(2)クロマチン免疫沈降法」に記載の方法に準じた。免疫沈降に用いた抗体は、抗LYAR抗体、抗BRD4抗体、ウサギIgG抗体である。
(4)共沈クロマチン断片の回収とrDNA転写領域の定量
基本操作は実施例2の「(3)共沈クロマチン断片の回収」及び「(4)rDNA転写領域の定量」に記載の方法に準じた。
リアルタイム用プライマーペアには、rDNA転写領域用のH0-F/H0-R、H8-F/H8-R、及びH13-F/H13-Rに加えて、非rDNA転写領域であるH27領域を増幅するH27-F(5'-CCTTCCACGAGAGTGAGAAGCG-3';配列番号63)及びH27-R(5'-CTCGACCTCCCGAAATCGTACA-3';配列番号64)ペアを用いた。
(結果)
図4に結果を示す。図4−1は、Lyar-siRNAを用いてLYARタンパク質の発現量を低下させたときの結果を、また図4−2は、ドキシサイクリン誘導によりLYARタンパク質の発現量を増加させたときの結果である。
図4−1は、Lyar遺伝子の発現量を減少させた細胞において抗BRD4抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによる結果である。抗BRD4抗体で沈降した場合、Lyar-siRNAを導入して細胞内のLYARタンパク質量を減少させた細胞では、scRNA-siRNAを導入した細胞と比較してrDNA転写領域であるH0領域、H8領域、及びH13領域のいずれも増幅産物量が有意に減少していた。一方、非rDNA転写領域であるH27領域の増幅産物量には有意差は見られなかった。この結果は、Lyar-siRNAの導入により細胞内LYARタンパク質量が減少した結果、BRD4タンパク質と結合するrDNA転写領域が減少したことを示唆している。つまり、BRD4タンパク質のrDNA転写領域への結合には、LYARタンパク質が必要であることを示している。
図4−2は、Lyar遺伝子の発現量を増加させた細胞において抗BRD4抗体及び抗ウサギIgG抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRによる結果である。ドキシサイクリン誘導により細胞内でLyar遺伝子を過剰発現させた細胞(+Dox)と非誘導の細胞(-Dox)のrDNA転写領域の定量結果を比較すると、抗BRD4抗体で沈降した場合、+DoxではH0領域、H8領域、及びH13領域のいずれにおいても増幅産物量が有意に増加していた。一方、抗IgG抗体で沈降した場合、そのような有意差は認められなかった。この結果は、細胞内でLyar遺伝子の発現量を増加させたことにより、多くのrDNA転写領域がBRD4と結合したことを示唆している。
以上の結果は、LYARタンパク質がrDNA上におけるBRD4タンパク質の結合量を制御することでrDNAの転写量を調整していることを示唆している。したがって、本明細書で新たに単離されたrDNA転写促進因子は、LYARタンパク質との結合によってrDNAへの結合を増強し、rDNA転写量を増加させていることが推察された。
<実施例5>
(目的)
LYARタンパク質におけるBRDタンパク質の結合ドメインを同定する。
(方法)
(1)His6-biotin付加配列-Flagタグ融合hLyar遺伝子の構築
ヒトLYAR(hLYAR)タンパク質は、図5Aに示すようにN末端側に2つのジンクフィンガードメインを、また中央部に核移行シグナルを有する。そこで、hLYARタンパク質のドメイン構造等に基づいて、図5Bに示すFLAGタグをN末端側に融合したhLyar遺伝子のドメイン変異体(ΔC1、ΔN1、ΔN2、ΔN3、ΔN4)を作製した。ΔC1は、hLYARタンパク質のC末端側欠失遺伝子の変異体で、配列番号1で示すhLYARタンパク質の1〜167位(開始メチオニンを1位とする。以下同様とする。)に相当する領域をコードする核酸断片を含む。ΔN1〜ΔN4は、hLYARタンパク質のN末端側欠失遺伝子の変異体である。ΔN1は、hLYARタンパク質の59位〜379位に相当する領域をコードする核酸断片を含む。ΔN2は、hLYARタンパク質の168位〜379位に相当する領域をコードする核酸断片を含む。ΔN3は、hLYARタンパク質の168位〜260位に相当する領域をコードする核酸断片を含む。そして、ΔN4は、hLYARタンパク質の261位〜379位に相当する領域をコードする核酸断片を含む。
(2)Flagタグ融合hLyar遺伝子の細胞導入と発現誘導
それぞれの遺伝子変異体をHBF-pcDNA5FRT/TOベクター(Invitrogen)に導入し、各発現ベクターを調製した。対照用に全長hLyar遺伝子を導入したHBF-LYAR pcDNA5FRT/TOベクターを調製した。これらの発現ベクターを、Lipofectamine2000を用いて293 TRex細胞にトランスヘクションした後、5% CO2下で37℃にて5時間培養した。その後、ハイグロマイシンを添加したDMEM培地で培養し、各発現ベクターを細胞内に組み込んだ、薬剤誘導発現株を作成した。これを用いて100ng/mLのドキシサイクリンを加えて発現誘導を行い、24時間培養後、実験に用いた。
(3)イムノブロッティング
前記培養後の細胞を回収し、上記HBF-LYAR複合体の単離及び精製に基づき、各変異体タンパク質複合体を単離した。7%アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEによりタンパク質複合体を分子量で分離後、PVDFメンブレンにブロットした。抗体反応には、抗BRD2抗体又は抗BRD4抗体を用いた。二次抗体には、HRP接合抗マウスIgG抗体又はHRP接合抗ウサギIgG抗体を用い、化学発光によりシグナルを検出した。
(結果)
図6に結果を示す。Aは抗BRD2抗体でのイムノブロットを、Bは抗BRD4抗体でのイムノブロットを示す。これらの図からΔN3変異体がBRD2タンパク質及びBRD4タンパク質と相互作用していることが明らかとなった。
上記の結果から、LYARタンパク質の168位〜260位の領域とBRD2〜BRD4の各タンパク質との相互作用を阻害する化合物は、細胞内でLYARタンパク質が増加している大腸癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、脳腫瘍等の各種癌細胞の増殖を抑制し得る。
<実施例7>
(目的)
実施例6の結果からLYARタンパク質が実際に168位〜260位(ΔN3ドメイン)を介して、BRD2タンパク質と直接結合していることをin vitro binding assayにより検証する。
(方法)
N末端にTF(トリガリングファクター)、C末端にHAタグ配列又はFLAGタグ配列を融合したTF-N3-HA及びTF-BRD2-FLAGをそれぞれ大腸菌(E. coli Rosetta2)で発現させた後、精製した。対照用として、ΔN3ドメイン又はBrd2遺伝子を含まないTF-HA及びTF-FLAGを精製した。
TF-FLAG精製プラスミドの作製には、TF-FLAG-ss(5'-AGCTTGGTGCCGATTACAAGGATGACGACGATAAGTAAT-3';配列番号67)及びTF-FLAG-as(5'-CTAGATTACTTATCGTCGTCATCCTTGTAATCGGCACCA-3';配列番号68のオリゴヌクレオチドをアニールさせて、pCOLD-TFベクター(Clontech社)のHindIII-XbaIサイトに組み込み構築した。
TF-HA精製プラスミドの作製には、TF-FLAG-ss(5'-AGCTTGGTGCCGAGAATTTGTACTTCCAGGGTTCTGGTGCCTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTTAAT-3';配列番号69)及びTF-FLAG-as(5'-CTAGATTAAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGGTAGGCACCAGAACCCTGGAAGTACAAATTCTCGGCACCA-3';配列番号70)のオリゴヌクレオチドをアニールさせて、pCOLD-TFベクター(Clontech社)のHindIII-XbaIサイトに組み込み構築した。
TF-BRD2-FLAGの大腸菌発現ベクターの作製には、TF-BRD2-FLAG-Fw(5'-TATAGGATCCGTGGTACCATGCTGCAAAACGTGACTCCCCACAATAAG-3';配列番号71)及びTF-BRD2-FLAG-Rv(5'-TCTTCAGACACCAGTGATTCAGACTCAGGCGACTACAAGGACGACGACGACAAGTAGCTCGAGTCTAGATATA-3';配列番号72)のプライマーペアを用いて、293T細胞由来cDNAを鋳型として、PCRでBRD2-FLAGのDNA配列を増幅し、pCOLD-TFベクターのKpnI-XbaIサイトに組み込み構築した。
TF-N3-HAの大腸菌発現ベクターの作製には、TF-N3-HA-Fw(5'-TATGGATCCAAGGTTCCAGCCTCCAAAGTGAAA-3';配列番号73)とTF-N3-HA-Rv(5'-ATAAAGCTTTCAACTGGCGCTGTCCTTGCGCTGC-3';配列番号74)のプライマーペアを用いてN3 DNAをPCRで合成し、上記で作成したpCOLD-TF-HAのBamHI-HindIIIサイトに組み込み構築した。
Rosetta2に各発現プラスミドをそれぞれトランスフォームし、37℃でOD値が600になるまで培養した後、0.1mM IPTGの条件で15℃にて24時間培養し、各タンパク質を発現させた。回収した大腸菌はxTractor buffer (Clontech社)で破砕し、抽出液を得た後、Ni-NTA(GE health care社)で精製した。次に、TF-FLAG及びTF-BRD2-FLAGはFLAG M2 agarose(SIGMA)で、TF-HA及びTF-N3-HAはHA抗体接合beads(Thermo Fisher Scientific社)で精製し、それぞれFLAGペプチド又はHAペプチドで溶出した。in vitro binding assayには500ngのTF-HA又はTF-N3-HA、及び500ngのTF-FLAG又はTF-BRD2-FLAGを100ulの結合バッファー(Tris-HCl pH8.0、150mM NaCl,0.1% IGEPAL CA630)で室温にて1時間結合させて、これをHA抗体接合beadsで回収し、HAペプチドで精製した。精製したタンパク質をSDS-PAGEで展開した後、銀染色して、又は抗FLAG抗体又は抗HA抗体でイムノブロットして、TF-BRD2-FLAGとの結合を検出した。
(結果)
結果を図7に示す。この結果からBRD2タンパク質はΔN3ドメインに直接結合していることが明らかとなった。
<実施例8>
(目的)
実施例2では、LYARタンパク質とBRDタンパク質のrDNAの転写における機能的関係について検証するために、BRD4タンパク質を用いてrDNAの転写への関与を立証した。この結果がBRD4タンパク質に特異的なものではなく、他のBRDタンパク質についても同様であることを立証するために、LYARタンパク質とBRD2タンパク質のrDNAの転写における機能的関係について検証する。
(方法)
基本的な操作は、実施例2に記載の方法に準じた。ただし、本実施例ではBRD2の発現誘導を行うことなく、抗BRD2抗体を用いて293T細胞でクロマチン免疫沈降法免疫を行った。以下、実施例2の方法とは異なる条件等について記載する。
(2)クロマチン免疫沈降法及び共沈クロマチン断片の回収
実施例2に記載の方法に準じた。なお、免疫沈降には、抗BRD2抗体及び抗ウサギIgG抗体を用いた。
(3)rDNA転写領域の定量
実施例2と同様に、回収したクロマチン断片を鋳型にThermal Cycler Dice TP800(TaKaRa Bio社)とSYBR Premix Ex Taq II(TaKaRa Bio社)を用いたリアルタイムPCRでクロマチン断片に含まれるrDNA転写領域を定量した。リアルタイムPCR用プライマーペアには実施例2で使用したrDNA転写領域用のH0-F/H0-R、H8-F/H8-R、及びH13-F/H13-Rペアに加えて、実施例4で使用した非rDNA転写領域であるH27領域を増幅するH27-F/H27-Rペアを用いた。
(結果)
図8にrDNA転写領域の定量結果を示す。293T細胞において抗Brd2抗体(BRD2)と抗ウサギIgG抗体(IgG)を用いたクロマチン免疫沈降を行った際のリアルタイムPCRによる結果である。293T細胞のrDNA転写領域の定量結果を比較すると、抗Brd2抗体で増幅産物量が有意に増加していた。この結果は、293T細胞内でBRD2がとrDNA転写領域に結合していることを示唆している。
以上の結果から、実施例2で検証したBRD4タンパク質のみならず、BRD2タンパク質もrDNA上に存在することが立証された。
<実施例9>
(目的)
実施例4では、LYARタンパク質が新たに単離したrDNA転写促進因子をrDNA上にリクルートし、転写を促進していることを検証するために、クロマチン免疫沈降法を用いて、LYARタンパク質の発現量を変化させたときのBRD2タンパク質のrDNA上での結合の変化を調べた。本実施例では、実施例4の結果はBRD4タンパク質に留まらず、他の新たに単離したrDNA転写促進因子についても同様の結果となることを検証する。
(方法)
LYARタンパク質の発現量を変化させたときのBRD2タンパク質のrDNA上での結合の変化を実施例4と同様に、クロマチン免疫沈降法で検証した。基本的な操作については、実施例4に記載の方法に準じた。以下、実施例4の方法とは異なる条件等について記載する。
(1)LYARタンパク質の発現量の増減処理、及びクロマチン免疫沈降法
基本操作は、実施例4の「(1)LYARタンパク質の発現量の増減処理」及び実施例2の「(2)クロマチン免疫沈降法」に記載の方法に準じた。なお、免疫沈降に用いた抗体は、抗LYAR抗体、抗BRD2抗体、ウサギ抗IgG抗体である。
(2)共沈クロマチン断片の回収とrDNA転写領域の定量
基本操作は実施例2の「(3)共沈クロマチン断片の回収」及び「(4)rDNA転写領域の定量」に記載の方法に準じた。リアルタイム用プライマーペアには、rDNA転写領域用のH0-F/H0-R、H8-F/H8-R、H13-F/H13-R、及びH27-F/H27-Rペアを用いた。
(結果)
図9に結果を示す。
図9−1は、Lyar-siRNAによってLyar遺伝子の発現量を減少させ、LYARタンパク質の発現量を低下させた細胞での抗BRD2抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRの結果である。図4−1で示したBRD4タンパク質の結果と同様に、抗BRD2抗体で沈降した場合も、細胞内のLYARタンパク質量を減少させた細胞(siRNA)では、scRNA-siRNAを導入した細胞(scRNA)と比較してrDNA転写領域であるH0領域、H8領域、及びH13領域のいずれも増幅産物量が有意に減少していた。一方、非rDNA転写領域であるH27領域の増幅産物量には有意差は見られなかった。つまり、BRD2タンパク質もBRD4タンパク質の結果と同じく、rDNA転写領域への結合にはLYARタンパク質が必要であることを示している。
図9−2は、細胞内LYARタンパク質を増加させたときの抗BRD2抗体及び抗ウサギIgG抗体を用いたクロマチン免疫沈降後のリアルタイムPCRの結果を示す。ドキシサイクリン誘導により細胞内でLyar遺伝子を過剰発現させた細胞(+Dox)と非誘導の細胞(-Dox)のrDNA転写領域の定量結果を比較すると、抗BRD2抗体で沈降した場合、+DoxではH0領域、H8領域、及びH13領域のいずれにおいても増幅産物量が有意に増加していた。一方、H27領域の増幅産物量には、そのような有意差は認められなかった。この結果は、図4−2で示すBRD4タンパク質での結果と同様に、細胞内でLyar遺伝子の発現量を増加させたことにより、多くのrDNA転写領域がBRD2と結合したことを示唆している。
以上の結果から、LYARタンパク質は、BRD4タンパク質のみならず、BRD2タンパク質についてもrDNA上におけるその結合量を制御し、rDNAの転写量を調整していることが明らかとなった。したがって、本明細書で新たに単離されたrDNA転写促進因子は、LYARタンパク質との結合によってrDNAへの結合を増強し、rDNA転写量を増加させていることが強く推察された。
<実施例10>
(目的)
実施例9の結果から、LYARタンパク質はBRD2タンパク質のrDNA上における結合量を制御していることが明らかとなった。続いてLYARタンパク質が同一複合体中でBRD2タンパク質のrDNA上における結合量を制御しているのか否かを二段階クロマチン免疫沈降法で検証した。
(方法)
基本的な操作については、実施例2の「(2)クロマチン免疫沈降法」等の前記実施例に記載の方法に準じた。実施例1で調製したHBF-LYAR誘導発現細胞に対して、ドキシサイクリン誘導処理前(-Dox)と後(+Dox)でのLYARのrDNA上での結合量を、抗FLAG抗体を用いたLYARタンパク質のクロマチン免疫沈降法により比較した。続いて、そこで得られた同じクロマチン免疫沈降物を回収し、抗BRD2抗体及び抗IgG抗体を用いて再度クロマチン免疫沈降法を行った。その後、rDNA上でのBRD2タンパク質の結合量をドキシサイクリン誘導処理前後で比較した。
(結果)
図10に結果を示す。
図10−1は、二段階クロマチン免疫沈降法の第一段階である抗FLAG抗体を用いた1st クロマチン免疫沈降法の結果を示す。抗FLAG抗体でLYARタンパク質を沈降したとき、+DoxではrDNA転写領域であるH0領域、H8領域、及びH13領域のいずれにおいても増幅産物量が有意に増加した。この結果は、LYARタンパク質がrDNA上に存在すること、及びドキシサイクリン誘導処理によってrDNA上のLYARタンパク質量も増加することを示している。一方、図10−2は、二段階クロマチン免疫沈降法の第二段階であり、図10−1で得た抗FLAG抗体による免疫沈降物に対して、抗BRD2抗体及び抗IgG抗体を用いて再度クロマチン免疫沈降法を行ったときの結果である。ドキシサイクリン誘導処理前(-Dox)の免疫沈降物と比較して、ドキシサイクリン誘導処理(+Dox)の免疫沈降物では、抗BRD2タンパク質抗体の免疫沈降物が増加している。この結果は、rDNA上でLYARタンパク質とBRD2タンパク質は同一複合体中に存在して、LYARタンパク質が増加すると、そのLYARタンパク質に結合したBRD2タンパク質のrDNAへの結合も増加することを示唆している。

Claims (12)

  1. (a)配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41及び43からなるアミノ酸配列群から選択されるアミノ酸配列で示されるいずれか一のタンパク質又はその活性断片、
    (b)前記(a)に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列からなるタンパク質又はその活性断片、又は
    (c)前記(a)に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質又はその活性断片
    からなるリボソームDNA転写促進剤。
  2. 請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子、又は
    請求項1に記載の活性断片をコードするヌクレオチド
    のいずれか一以上を発現可能な状態で含むrDNA転写促進因子発現ベクターからなるリボソームDNA転写促進剤。
  3. 前記遺伝子が配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42又は44で示される塩基配列からなる、請求項2に記載のリボソームDNA転写促進剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のリボソームDNA転写促進剤、及びLYARタンパク質若しくはその活性断片又はLYAR発現ベクターを有効成分とする細胞増殖促進剤であって、 前記LYAR発現ベクターはLYARタンパク質をコードするLyar遺伝子又はLYARタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含み、
    前記LYARタンパク質は
    (a)配列番号1で示すアミノ酸配列、
    (b)前記(a)に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列、又は
    (c)前記(a)に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列
    からなる前記細胞増殖促進剤。
  5. 前記Lyar遺伝子が配列番号2で示す塩基配列からなる、請求項4に記載の細胞増殖促進剤。
  6. 請求項4又は5に記載の細胞増殖促進剤を細胞内に導入する工程、及び
    前記導入工程後の細胞を培養する工程
    を含む、細胞増殖促進方法。
  7. 癌細胞増殖抑制剤の単離方法であって、
    試験区の細胞内に
    配列番号1で示すアミノ酸配列からなるLYARタンパク質若しくはその活性断片、又はLYARタンパク質をコードするLyar遺伝子若しくはLYARタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含むLYAR発現ベクター、
    配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41及び43で示されるアミノ酸配列群から選択されるいずれか一のアミノ酸配列からなるrDNA転写促進因子若しくはその活性断片、又は該rDNA転写促進因子をコードするrDNA転写促進因子遺伝子若しくはその活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含むrDNA転写促進因子発現ベクター、及び
    候補物質
    を、また、
    対照区の細胞内に、
    前記LYARタンパク質若しくはその活性断片、又は前記LYAR発現ベクター、及び
    前記rDNA転写促進因子若しくはその活性断片、又は前記rDNA転写促進因子発現ベクター
    を、それぞれ導入する導入工程、
    前記導入工程後の試験区及び対照区のそれぞれの細胞を培養する培養工程、
    前記培養工程後の試験区及び対照区のそれぞれの細胞内における
    LYARタンパク質若しくはその活性断片及びrDNA転写促進因子若しくはその活性断片の結合量、
    リボソームDNAの転写量、又は
    細胞数
    を測定してその測定値を得る測定工程、及び
    試験区における前記測定値が対照区のそれよりも有意に低い場合にその候補物質を癌細胞増殖抑制剤として選択する選択工程
    を含む、前記方法。
  8. 前記rDNA転写促進因子遺伝子が配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42又は44で示されるいずれか一の塩基配列からなる、請求項7に記載の単離方法。
  9. 前記Lyar遺伝子が配列番号2で示す塩基配列からなる、請求項7又は8に記載の単離方法。
  10. 前記候補物質が核酸分子、ペプチド、又は低分子化合物である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の単離方法。
  11. 前記候補物質が
    配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41及び43で示されるアミノ酸配列群から選択されるいずれか一のアミノ酸配列からなるタンパク質の部分配列、又は
    該部分配列をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含む発現ベクター
    である、請求項7〜10のいずれか一項に記載の単離方法。
  12. 配列番号1で示すアミノ酸配列からなるタンパク質において168位〜261位で示すアミノ酸配列からなる部分断片を含むペプチドからなる癌細胞増殖抑制剤。
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