以下に説明する本実施形態の技術は、植物体を栽培する農業用ハウスで採用することを想定しているが、露地で植物体を栽培する場合でも採用できる場合がある。植物体の種類にとくに制限はなく、果菜類、豆類、果物、花卉、葉菜類などから選択可能である。葉菜類は、ホウレンソウ、コマツナ、レタス、キャベツ、ハクサイなどを代表とする。また、果菜類は、トマト、キュウリ、ナスなどを代表とする。
以下に説明する実施形態では、植物体がトマトであって、農業用ハウスの中に設けた圃場においてトマトを栽培する場合を例として説明する。ただし、トマトは一例であって、本実施形態の技術は、種々の植物体に適用することが可能である。また、本実施形態では土耕栽培を例として説明するが、防根透水シートを用いた水耕栽培であっても本実施形態の技術は適用可能である。
(構成例1)
図1、図2、図3A、図3Bに示すように、植物体40は、圃場30に植えられる。圃場30には他の部位よりも盛り上がった複数の畝31が形成されている。隣り合う畝31の間には通路32が形成されている。図1、図2には畝31の長手方向に沿って複数の植物体40を一列に並べた1条植えとした例を示しているが、植物体40は2条植えでもよい。また、図1では植物体40が一本仕立てである例を示しているが、植物体40は二本仕立て、放任仕立てなどであってもよい。
図4に示すように、以下に説明する農業用ハウス20は、構造材としてのフレーム211と、フレーム211に支持された被覆体212とで構成された外殻21を備える。
フレーム211は、直径が10[mm]以上50[mm]以下の金属のパイプあるいは棒(線材)により形成される。フレーム211を形成する金属には、アルミニウムまたは表面に防錆を施した鉄が用いられる。また、フレーム211は、並んで配置された2本の支柱部2111と、2本の支柱部2111それぞれの一端間を連結する連結部2112とを一体に備える逆U字状に形成されている。連結部2112は、滑らかな弧状に形成されている例を示しているが、2本の直線それぞれの一端を付き合わせた逆V状に形成されていてもよい。
被覆体212は、ガラスでもよいが、この構成例では、透光性を有した(望ましくは透明である)合成樹脂フィルムを用いている。被覆体212に用いる合成樹脂フィルムの厚み寸法は、0.1[mm]以上3[mm]以下が一般的であるが、この範囲から逸脱していてもよい。また、被覆体212に用いる合成樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、フッ素樹脂などから選択される。
複数のフレーム211は、それぞれが囲む面に交差する方向に並び、被覆体212は、複数のフレーム211が並んだ状態で複数のフレーム211に架設される。そして、農業用ハウス20の外殻21は、複数のフレーム211が並ぶことにより形成される仮想的な立体物を被覆体212が全周にわたって覆っている。
農業用ハウス20は、断面半円状の屋根部200と、屋根部200を支持し互いに対向する2つの側壁部201、202と、2つの側壁部201、202に直交し互いに対向する一対の2つの妻壁部203、203とを一体に備える。したがって、農業用ハウス20は、2つの妻壁部203、203を結ぶ方向に直交する断面において逆U字状に形成されている。2つの妻壁部203、203を結ぶ方向の寸法は、2つの側壁部201、202を結ぶ方向に比べて十分に大きい寸法に設計されている。以下では、2つの妻壁部203、203を結ぶ方向を長手方向といい、2つの側壁部201、202を結ぶ方向を短手方向という。畝31の長手方向は農業用ハウス20の長手方向に沿っており、農業用ハウス20の短手方向において、複数本の畝31が形成される。
ところで、図2に示すように、農業用ハウス20で育成する植物体40の温度を調節するために、農業用温調システム10を設けている。圃場30は、農業用ハウス20の外殻21に囲まれる。農業用温調システム10は、植物体40に被せることができるカバー11Aを畝31ごとに備える。カバー11Aは、植物体40に被せた状態において、植物体40にできるだけ接触しない形状であって、たとえば図1のように断面形状が逆U字状に形成される。
ここでは、カバー11Aが無色透明である場合を想定しているが、カバー11Aは透明ではなく乳白色であってもよく、減光性または遮光性を有していてもよい。ただし、カバー11Aは、透光性を有していることが望ましい。カバー11Aに減光性を付与するには、有色の材料で形成したシート、紗(ゴーズ)あるいは網(ネット)を重ねたシート、または紗あるいは網のような模様を付けたシートを用いる。上述した構成例は一例であり、カバー11Aの光に対する特性は、目的に応じて適宜に選択される。ここでのシートは、畳んだ状態と広げた状態とを繰り返しても破損することがない程度の柔軟性を有した薄肉の(多くの場合、厚み寸法が1[mm]より小さい)部材を意味している。
ところで、カバー11Aは、合成樹脂を成形した蛇腹状の部材を想定している。つまり、カバー11Aは、縮んだ状態と伸びた状態との間で変形可能である。また、このカバー11Aには山折れ部分と谷折れ部分とが交互に形成されているから、形状を保つ部材を別に用いることなく断面形状が逆U字状に保たれる。
カバー11Aは、蛇腹状に成形された構成のほか、逆U字状の複数本のリブ(ハンガ)に合成樹脂のシートを取り付けた構成、逆U字状の複数本のリブを合成樹脂のシートに一体に成形した構成などであってもよい。どの構成であっても、カバー11Aは、断面形状を逆U字状に保ち、かつ畳んだ状態と広げた状態との間で変形させることが可能である。なお、断面形状は、逆U字状のほかに、下辺が開放された長方形状、1つの頂点を上端として下辺が開放された二等辺三角形状などであってもよい。
図1に示すように、冬季に使用する農業用ハウス20は、外殻21の内部に保温用の天井カーテン231、保温用の側カーテン232、窓24などを備える。天井カーテン231は、農業用ハウス20の幅方向(図1の左右方向)において、圃場30の上部を覆う状態と、圃場30の上部を開放する状態との間で変形する。ただし、カバー11Aが植物体40を覆う状態では、天井カーテン231は圃場30の上部を覆う状態であって、植物体40は、外殻21を形成する被覆体212と、天井カーテン231と、カバー11Aとにより3重に覆われる。
カバー11Aは、外殻21に取り付けた支持部材111で吊り下げられる。支持部材111の上端部は、カバー11Aの上方に配置された部材に取り付けられる。図1に示す例では、圃場30において、天井カーテン231および側カーテン232に囲まれる部位に立てた支柱26に支持部材111の上端部が取り付けられている。支持部材111の上端部には、支柱26に対して付け外しが可能な取付部材が設けられ、天井カーテン231の金具に取付部材を結合することによって、カバー11Aが植物体40を覆う状態に保たれる。なお、支持部材11の上端部を取り付ける部材は支柱26に限らない。
農業用温調システム10は、カバー11Aのほかに、植物体40を育成する空間に温熱を供給する熱供給装置12と、熱供給装置12から供給する温熱を調節する調節装置13とを備える。ここでは、熱供給装置12はダクト121で構成される。また、調節装置13は、熱源と送風ファンとを備える。また、調節装置13からダクト121に供給する気体の温度を制御するために、植物体40の周囲温度を監視する温度センサ14が配置される。熱源は、電気ヒータ、ヒートポンプ、吸収式冷凍機、石油などの燃料を燃焼させるヒータ、地中熱ヒートポンプなどから選択される。調節装置13は、ダクト121に導入する気体の温度だけではなく、ダクト121に導入する気体の流量を調節可能であることが望ましい。
ダクト121には、調節装置13で温度が調節された気体が長手方向の一端から導入される。また、ダクト121の長手方向の他端は開放されている。ダクト121に導入する気体は、基本的には空気であるが、場合によっては二酸化炭素の濃度を空気よりも高めるなど、成分の調整が行われる場合もある。
ダクト121には、導入された気体を吐出させる複数の吹出口122(図1参照)が設けられている。ダクト121は、吹出口122が上向きに開口するように農業用ハウス20に設置される。すなわち、ダクト121には複数の吹出口122がダクト121の長手方向に沿うように並んで設けられており、ダクト121は、吹出口122が相対的に上向きになるように農業用ハウス20に設置される。ダクト121の吹出口122が、カバー11Aの下端よりも上方に位置するように、カバー11Aの下端の位置が調節される。たとえば、カバー11Aの下端は、畝31の上面よりもやや下方に配置されることが望ましい。ダクト121は、畝31に置けばよい。なお、図1では、ダクト121が畝31の上面から上方に離れているが、ダクト121を畝31の上方に配置する場合には畝31に立てた支持具を用いればよい。
吹出口122の形状および寸法、ダクト121の長手方向における吹出口122の間隔などの値は、ダクト121の寸法、ダクト121の材質、ダクト121に導入する気体の温度、農業用ハウス20の内部空間の温度のような諸元に応じて定められる。ダクト121は、基本的には、ダクト121の長手方向において吹出口122から放出される気体の温度に偏りが生じないように設計される。
ダクト121の管壁は、アルミニウムのような金属、塩化ビニルのような合成樹脂などから選択され、管壁の厚み寸法は、10[μm]以上5[mm]以下であることが望ましい。すなわち、ダクト121は、管壁の厚みが比較的大きく変形しない構成とは限らず、管壁が薄肉でフィルム状である柔軟な構成であってもよい。また、ダクト121の内側の直径は5[cm]以上30[cm]以下であることが望ましい。
管壁が薄肉であって柔軟な構成である場合、ダクト121を蛇腹状(ベローズ状)に形成し、長手方向において長さを変化させることを可能にしてもよい。このような形状のダクト121を用いると、畝31の長さに応じてダクト121の長さを調節することができる上に、ダクト121の単位長さ当たりの気体の流通抵抗および表面積(放熱面積)を比較的大きくとることが可能である。そのため、吹出口122を設けずに、放熱することが可能である。
ところで、図1に示す構成例によれば、外殻21の中に2本の畝31が形成され、2本の畝31それぞれに1本のダクト121が配置されている。つまり、外殻21の内部空間には、2本のダクト121がある。2本のダクト121は長手方向の一端が分岐ヘッダ123に結合されている。調節装置13からの気体は分岐ヘッダ123を通して2本のダクト121に分配される。分岐ヘッダ123に接続可能なダクト121の本数は、2本に限らないが、2本以上6本以内程度が望ましい。
図1に示す構成例では、ダクト121は、1つの畝31に1本だけ配置されているが、複数本のダクト121が1つの畝31に配置されていてもよい。畝31に2本のダクト121が配置される場合、畝31の上の植物体40を挟んで2本のダクト121が配置されていることが望ましい。なお、この構成例は、冬季のように植物体40を暖める場合を想定しており、ダクト121には比較的高温の空気が導入される。
カバー11Aは、図3Aのように畝31のほぼ全体を覆う第1状態と、図3Bのように畝31のほぼ全体を露出させる第2状態との間で変形させることが可能である。つまり、畝31に複数の植物体40が並んでいる場合に、カバー11Aは、第1状態において畝31に植えられている複数の植物体40のほぼ全体に被さり、第2状態において複数の植物体40のほぼ全体を露出させる。
ところで、ダクト121は、カバー11Aが第1状態であるときに、カバー11Aが囲む空間の内部に温熱を供給するように配置される。具体的には、第1状態においてカバー11Aが囲む空間の内部に位置するようにダクト121が配置される。したがって、カバー11Aを第1状態とし、調節装置13を稼働させると、ダクト121の吹出口122から温風が放出され、カバー11Aに囲まれた空間内の気温をカバー11Aの外側の気温よりも上昇させる。カバー11Aは、第1状態において植物体40に被さっているから、吹出口122から放出された温風によって、植物体40の周囲温度が上昇する。
ここに、カバー11Aに囲まれた空間の容積は、外殻21の全体の容積に比べると大幅に小さいから、カバー11Aが第1状態である場合とカバー11Aを設けない場合とを比較すると、植物体40の周囲温度が等しいとすれば、必要な熱量が大幅に低減される。つまり、植物体40にカバー11Aが被さる第1状態でダクト121から温風を放出させる構成を採用すると、カバー11Aを設けない場合に比べて、植物体40の周囲温度の上昇に必要なエネルギーを削減できる。
カバー11Aを第1状態とし、調節装置13からダクト121に気体を導入し、カバー11Aに囲まれた空間の温度を上昇させると、カバー11Aに囲まれた空間の空気は上昇する。カバー11Aは断面形状が逆U字状であるから、暖められた空気は、カバー11Aに囲まれた空間の上部に集まる。すなわち、植物体40の周囲温度が高まる。上述したように、カバー11Aを設けない場合と比べると、カバー11Aを設けているほうが、少ない熱量で植物体40の周囲温度を所望温度に高めることができる。それゆえ、植物体40の周囲温度を高めるために必要なエネルギー量が低減され、結果的に、植物体40の育成に要する運営経費が低減される。
カバー11Aに囲まれた空間において冷えた空気は下降するから、カバー11Aに囲まれた空間内部では上昇する気体の流れと下降する気体の流れとが生じる。カバー11Aは第1状態において下向きに開放されているから、カバー11Aに囲まれた空間内部で下降した気体は、カバー11Aの下端と畝31の上面との間の隙間からカバー11Aの外部に排出される。したがって、カバー11Aに囲まれた空間における気体が換気され、カバー11Aに囲まれた空間の湿度の上昇が抑制される。つまり、カバー11Aの内側面への結露が抑制され、植物体40への水滴の付着、またはカバー11Aに囲まれた空間内部の湿度上昇によって、植物体40に病害が生じる可能性を低減できる。
なお、カバー11Aに囲まれた空間には、気体が排出される場合とは逆に、カバー11Aの下端と畝31の上面との隙間を通してカバー11Aの外部から気体が流入する。すなわち、ダクト121に近い部位では、気体に上昇する流れが生じるから、カバー11Aに囲まれた空間に外部から気体が流入し、ダクト121から離れた部位では、冷えた気体が外部に排出される。
上述した例のように、ダクト121に吹出口122が形成されている場合、カバー11Aに囲まれた空間には、カバー11Aの下端と畝31の上面との間の隙間からだけではなく、ダクト121の吹出口122からも気体が流入する。この構成の場合、カバー11Aに囲まれた空間に、カバー11Aの下端と畝31の上面との間の隙間を通して流入する気体の量が低減される。したがって、カバー11Aの外部からの冷えた気体を加熱するために用いるエネルギーが低減される。
実際に使用する際には、外殻21の内部の気温が低下する時間帯に、カバー11Aを第1状態として植物体40の保温を図る。また、カバー11Aを第1状態とするだけでは、植物体40の周囲温度を所望温度に維持できない場合に、調節装置13を稼働させて熱供給装置12としてのダクト121に、加熱した気体を供給する。この動作によって、植物体40の周囲温度の低下を抑制し、植物体40を生育させる温度環境を良好な状態に維持することが可能になる。なお、植物体40の周囲温度は、温度目盛りを有した温度計で計測される構成と、温度に応じた電気出力が得られる温度センサ14により計測される構成とのどちらを採用してもよい。
また、日中であって太陽光が入射している時間帯には、外殻21の内部の気温が上昇するから、カバー11Aを第2状態としても植物体40の周囲温度を植物体40の育成に適した温度に維持することが可能である。この状態では、カバー11Aを植物体40に被せた第1状態を選択すると、植物体40の周囲温度が高くなりすぎるから、カバー11Aを第2状態とし、太陽光をできるだけ減衰させずに植物体40に照射する。すなわち、カバー11Aを植物体40に被せる場合よりも光合成の効率を高めることができる。しかも、太陽光の照射によって植物体40の周囲温度が上昇すると、植物体40の蒸散作用が促進されることなどによって、植物体40の周囲の湿度が上昇しやすくなるが、カバー11Aを第2状態とするから、湿度の上昇が抑制される。また、第2状態では、植物体40が露出するから、わき芽かき、摘果、薬剤散布など様々な作業を行う際の作業性が向上する。
この構成例では、カバー11Aの操作は手作業で行うことを想定しているが、カバー11Aを吊り下げている支持部材111を、モータのような駆動源を用いて電動で操作することも可能である。また、カバー11Aの操作および調節装置13の操作は、自動化することも可能である。カバー11Aの操作および調節装置13の操作を自動化する場合は、制御装置が設けられる。
制御装置は、夏季と冬季とを判断し、冬季において上述した動作を行う。制御装置は、日時を計時する時計部を備え、夏季と冬季とを簡易に判断する場合は、時計部が計時する日時による季節の区分が可能である。ここでは、農業用温調システム10を制御するために季節を判断することが目的であるから、季節を外気温により判断することが望ましい。
たとえば、制御装置は、外気温センサが計測した外殻21の外部の気温を取得し、日の出前の外気温の最低温度を用いて季節を判断する。たとえば、日の出前の外気温の最低温度が18℃以上であれば夏季と判断し、日の出前の最低温度が10℃以下になると冬季と判断する。制御装置は、日の出までの外気温の最低温度が10℃を超え18℃未満である場合には、夏季でも冬季でもないと判断する。なお、日の出時刻は、農業用ハウス20が設置されている場所の緯度および経度に応じて天文学的に定まる。日毎の外気温の最低温度は、時計部が計時する日時を用いて0時以降で日の出時刻までの期間に計測した最低気温を用いる。ここに示した数値および条件は一例であって、数値は農業用ハウス20の規模、調節装置13の性能、植物体40の種類などの種々の条件に応じて調節することが望ましい。
制御装置は、プログラムを実行するプロセッサを備えたコンピュータを主なハードウェアとして備える。プロセッサは、メモリを一体に備えるマイコン(Microcontroller)、メモリを別に備えるCPU(Central Processing Unit)などから選択される。制御装置は、汎用のコンピュータではなく専用装置でもよい。また、プログラムは、コンピュータが備えるROM(Read Only Memory)にあらかじめ書き込まれているか、光ディスクあるいは外部メモリなどの記録媒体で提供され、書換可能な不揮発性メモリに書き込まれる。あるいはまた、記録媒体ではなく、インターネット回線のような電気通信回線を通してプログラムが提供されてもよい。
上述した構成例では、カバー11Aの下端が圃場30の上方に位置し、カバー11Aの下端と圃場30との間に隙間が形成されているが、カバー11Aの下端は圃場30に接触していてもよい。この構成を採用すれば、カバー11Aの内部が閉塞空間になるから、カバー11Aの内部の保温性がより高まり、熱効率がより向上する。この構成を採用する場合には、カバー11Aを第1状態から第2状態に移動させる際に、カバー11Aの下端を地面から離して、カバー11Aの移動を容易にすることが望ましい。なお、保温性と換気性とのどちらを優先するかに応じて、カバー11Aの下端と圃場30との距離を調節することが可能である。
以下では、上述した農業用ハウス20の全体構成を簡単に説明する。図4のように、農業用ハウス20は、保温用のカーテン23および窓24を備える。カーテン23は、圃場30を覆う位置と、圃場30を開放する位置との間で移動可能である。また、窓24は、内部と外部との間で通気させる開位置と、内部と外部との間で通気させない閉位置との間で移動可能である。
さらに、農業用ハウス20は、保温用のカーテン23として、屋根部200に沿って配置された天井カーテン231と、2つの側壁部201、202それぞれに沿って配置された2つの側カーテン232とを備える。天井カーテン231と側カーテン232とは駆動装置により独立して駆動される。駆動装置は、モータのような動力源を備え、天井カーテン231と側カーテン232とにそれぞれ対応した駆動機構を備えている。なお、天井カーテン231と側カーテン232とは一体に連続していてもよい。
窓24は、側壁部201、202それぞれに設けられている。窓24は、開度が調節されることにより、農業用ハウス20の内部と外部との間で通気する際の空気の通気抵抗を調節する。農業用ハウス20は、側壁部201、202のほかに、妻壁部203にも窓を備えていることが望ましい。2つの側壁部201、202それぞれの窓24は、駆動装置により独立して駆動される。駆動装置は、モータのような動力源を備え、窓24にそれぞれ対応した駆動機構を備えている。
農業用ハウス20の妻壁部203には、上部にファン25が配置され、下部に入口が設けられる。ファン25は、機械換気によって農業用ハウス20の換気を行い、農業用ハウス20の内部温度および内部湿度の調節に寄与する。また、ファン25は運転時に農業用ハウス20に気流を形成する。上述のように、カーテン23、窓24、ファン25などの設備の動作を制御することにより、農業用ハウス20の内部環境が制御され、植物体40を育成する環境を整えることが可能になる。
農業用ハウス20は、植物体40を育成する環境を制御するために、カーテン23、窓24、ファン25のほかに、植物体40に散水する装置などの各種の装置を備える。また、農業用ハウス20には、温度、湿度、土中の含水率、照度などから選択される農業用ハウス20の内部環境を監視するセンサが配置されていてもよい。センサが監視する内部環境には、植物体40の温度、湿度、照度などがある。内部環境を監視するセンサは、農業用ハウス20の複数箇所に設けることが望ましいが、1箇所にだけ設けてもよい。また、上述した温度センサ14は、複数のカバー11Aそれぞれの内部に配置されていることが望ましい。
農業用ハウス20の内部環境を整える装置は、センサが監視した農業用ハウス20の内部環境に基づいて、制御装置が動作状態を決めることが望ましい。この場合、制御装置は、カーテン23、窓24、ファン25、散水を行う装置などの各種装置を、センサが監視する農業用ハウス20の内部環境に基づいて制御する。センサが監視する内部環境と各種装置の動作との関係は、植物体40の種類、植物体40の成長段階、季節などに応じて定められる。
制御装置は、手動運転と自動運転との選択が可能であり、自動運転が選択されているときには、各種装置の自動運転を行う。また、制御装置は、タイマを内蔵し、タイマは、運転期間と停止期間とがスケジュールとして設定可能に構成されている。自動運転が選択されている場合、制御装置は、タイマに設定した運転期間において、センサが監視する内部環境に応じて各種装置の動作を制御する。
上述した構成の農業用ハウス20は一例であり、農業用ハウス20の構成を限定する趣旨ではなく、農業用ハウス20に他の材料を用いること、および他の形状に形成することを妨げない。
また、上述した構成例では、複数の植物体40が畝31に沿って並び、カバー11Aが複数の植物体40の並ぶ方向に変形可能である場合を例としたが、1つの植物体40に対して1つのカバー11Aを対応させる構成に、上述した技術を適用することが可能である。
(構成例2)
構成例1では、カバー11Aが、第1状態において畝31の長手方向の全体を覆うように展開される。そのため、畝31の一部に植物体40が存在する場合、あるいは畝31の一部の植物体40のみが周囲温度の調節を必要とする場合などでも、第1状態では畝31のほぼ全体にカバー11Aが展開される。また、畝31の長手方向の寸法は比較的大きいから(たとえば、50[m]程度)、畝31のほぼ全体を覆うカバー11Aを採用すると、第2状態であっても畝31の長手方向においてカバー11Aが占有する寸法は比較的大きくなる。
そのため、図5A、図5Bに示す農業用ハウス20は、畝31の長手方向において複数に分割されたカバー11Bを採用している。カバー11Bは、畝31の長手方向に2個以上配置される。図5A、図5Bの構成例では、1つの畝31に3つのカバー11Bを対応させている。ここに、1つの畝31に配置された複数のカバー11Bは、図5Aのように広げた状態である第1状態において、複数のカバー11Bを組み合わせて畝31を覆うように寸法が定められている。したがって、複数のカバー11Bのすべてが第1状態であれば、構成例1と同様に畝31のほぼ全体を覆うことが可能である。
ところで、図5A、図5Bに示す構成例では、1つの畝31に配置された複数のカバー11Bそれぞれが、第1状態と第2状態との間で変形可能である。したがって、図5Bのように複数のカバー11Bのすべてを第2状態とするだけではなく、複数のカバー11Bから選択された一部のカバー11Bを第1状態とし、残りを第2状態とすることが可能である。なお、図5A、図5Bに示す構成例において、構成例1と同様の構成は、同符号を付して説明を省略する。
図5A、図5Bに示す構成例は、上述のように構成されているから、カバー11Bをまとめた第2状態であるときに、カバー11Bは、構成例1のカバー11Aに比べると嵩が小さくなる。そのため、日中に形成されるカバー11Bの影の面積が比較的小さく、一部の植物体40に対する太陽光の照射量の低減が抑制される。また、カバー11Bをまとめた第2状態であるときにカバー11Bが嵩張らないから、作業者の通行の妨げになる可能性が低減される。
なお、複数のカバー11Bのそれぞれは、広げた状態である第1状態で互いに等しい長さではなくてもよい。また、1つの畝31に配置された複数のカバー11Bのすべてを広げて第1状態としたときに、畝31の全体を覆わずに、畝31の一部のみを覆う構成であってもよい。
以上のように、図5A、図5Bに示す構成例では、畝31の全体をカバー11Bが覆うだけではなく、畝31の一部のみをカバー11Bで覆うことも可能である。そのため、畝31の一部にだけ植物体40が存在する場合、あるいは畝31の一部の植物体40をカバー11Bで覆う場合などに、畝31の一部だけをカバー11Bで覆うことが可能になる。畝31のうち覆う必要がある部位とカバー11Bが覆う部位とが一致しない場合でも、畝31の全体を覆う場合に比べると、カバー11Bの変形に要する作業者の労力が低減される。
なお、図5A、図5Bに示す構成例では、ダクト121が熱を供給する範囲とカバー11Bが第1状態で畝31を覆う範囲とを対応付けていることが望ましい。たとえば、ダクト121が吹出口122を備える場合には、吹出口122が開く状態と閉じる状態とを選択する蓋が設けられる。そして、カバー11Bが第1状態であるときに、ダクト121において第1状態のカバー11Bに覆われる部位に設けられている蓋が開かれることが望ましい。この構成では、ダクト121が運ぶ熱が、主として吹出口122から放出されるように、ダクト121は熱伝導率の低い材料で構成されることが望ましい。
この構成では、第1状態であるカバー11Bに対応する部位の蓋が開かれるから、第1状態のカバー11Bに囲まれる部位にだけダクト121から気体が放出される。つまり、カバー11Bが第1状態である部位にだけ熱供給装置12からの熱が供給され、結果的には、熱供給装置12から供給する熱量が低減し、省エネルギーになる。
ダクト121を通して運ぶ熱を、カバー11Bが覆う部位に対応付けて、放出する状態と放出しない状態とを選択する構成として、ダクト121の吹出口122に蓋を設けた構成は一例である。たとえば、ダクト121は、気体を流す主経路と、主経路から分岐する複数の分岐経路とを備えていてもよい。この構成では、複数の分岐経路が主経路から分岐する分岐点ごとにバルブが設けられ、複数の分岐経路にそれぞれ吹出口122が設けられる。主経路および分岐経路は、熱伝導率の低い材料で形成され、吹出口122を除く部位からの放熱が抑制される。
この構成では、第1状態であるカバー11Bに対応する分岐経路への分岐点に設けられたバルブが開かれる。つまり、バルブが開くことにより、第1状態のカバー11Bに対応する部位の吹出口122から気体が放出される。その結果、蓋を設けた場合と同様に、カバー11Bが第1状態である部位にだけ熱供給装置12から熱が供給される。要するに、カバー11Bが第1状態である部位にだけ熱供給装置12からの温熱が供給され、結果的には、熱供給装置12から供給する熱量が低減し、省エネルギーになる。他の構成および動作は構成例1と同様である。
以上説明したように、農業用温調システム10は、カバー11A、11Bと熱供給装置12と調節装置13とを備える。カバー11A、11Bは、圃場30の植物体40に被さるように構成される。熱供給装置12は、植物体40にカバー11A、11Bが被さっている状態でカバー11A、11Bが囲む空間の内部に温熱を供給する。調節装置13は、熱供給装置12からカバー11A、11Bが囲む空間の内部に供給する温熱を調節する。カバー11A、11Bは、植物体40に被さる第1状態と、植物体40の少なくとも一部を露出させる第2状態との間で変形可能であり、かつ第1状態において、上向きに開放されないように構成されている。
この構成では、カバー11A、11Bが植物体40に被さる第1状態であるときに、カバー11A、11Bが囲む空間の内部に熱供給装置12から温熱を供給する。すなわち、熱供給装置12および調節装置13は、カバー11A、11Bが植物体40を囲んでいる比較的狭い空間に温熱を供給すればよいから、比較的少ないエネルギーで、植物体40の周囲温度を高められる。言い換えると、植物体40の育成に要する運営経費の増加を抑制することができる。
また、カバー11A、11Bは、第1状態と第2状態との間で変形可能である。そのため、たとえば、夜間など気温が低下する期間には、第1状態を選択すれば、植物体40の周囲温度を維持でき、日中など気温が上昇する期間には、第2状態を選択すれば、太陽光に植物体の周囲温度が過剰に高温になることを防止できる。しかも、日中に、カバー11A、11Bが第2状態であれば、植物体40に照射される日射量を高めて光合成の促進に寄与する。
加えて、カバー11A、11Bが第1状態と第2状態とを選択可能であるから、第2状態を選択すれば植物体40の周囲湿度を低下させることができる。また、カバー11A、11Bは、第1状態においても上向きに開放されず、調節装置13がカバー11A、11Bの内部に温熱を供給するから、カバー11A、11Bが囲む空間に気流が形成される。その結果、カバー11A、11Bが第1状態であっても、気流によって湿度の排出が促進され、カバー11A、11Bに囲まれる空間の湿度の上昇が抑制される。
カバー11A、11Bは、第1状態において圃場30に並ぶ複数の植物体40のうちの少なくとも1つの植物体40に被さるように構成されることが好ましい。この構成において、カバー11A、11Bは、第1状態と第2状態との間で、複数の植物体40が並ぶ方向に変形可能であることが好ましい。
この構成によれば、カバー11A、11Bは、圃場30に並ぶ複数の植物体40の少なくとも1つの植物体40に被さるように構成される。したがって、圃場30のうち温熱の供給が必要な植物体40にのみカバー11A、11Bを被せることが可能である。すなわち、温熱の供給が必要ない植物体40に、カバー11A、11Bを被せないから、カバー11A、11Bを第1状態と第2状態との間で変形させる作業が容易である。また、カバー11A、11Bは、第1状態と第2状態との間で、複数の植物体40が並ぶ方向に変形するから、カバー11A、11Bが比較的長い寸法であっても、カバー11A、11Bを変形させる作業が容易である。
この農業用温調システム10において、複数の植物体40が並ぶ方向は、圃場30を囲む外殻21の長手方向であって、カバー11A、11Bは外殻21の内部空間に配置されることが望ましい。
この構成によれば、カバー11A、11Bが第1状態であるときに、カバー11A、11Bと外殻21とで植物体40が二重に包まれ、結果的に保温性が高くなる。すなわち、植物体40の周囲温度を高めるために必要なエネルギーが一層低減される。
カバー11A、11Bは、透光性を有していることが望ましい。この構成では、カバー11A、11Bが第2状態であるときでも、太陽光の一部はカバー11A、11Bを透過するから、第2状態においてカバー11A、11Bの影が生じても植物体40に太陽光を照射することが可能である。
熱供給装置12は、調節装置13からの温度が調節された気体が導入されるダクト121であって、ダクト121は、気体を吐出させる複数個の吹出口122を備え、かつ吹出口122が上向きに開口するように配置されることが好ましい。
この構成によれば、カバー11A、11Bが第1状態であるときに、カバー11A、11Bに囲まれた空間に暖められた気体を放出するから、カバー11A、11Bに囲まれた空間の温度を短時間で上昇させることができる。また、カバー11A、11Bに囲まれた空間に放出する気体の量を調節すれば、ダクト121が延長された方向において、カバー11A、11Bに囲まれた空間における温度むらを抑制することが可能である。
カバー11A、11Bは、支持部材111で吊り下げられていることが好ましい。
この構成によれば、カバー11A、11Bが吊り下げられているから、カバー11A、11Bを下から支持する構成と比較すると、支持部材111が作業の邪魔になりにくく、しかもカバー11A、11Bの操作が容易である。
この構成において、支持部材111は、カバー11A、11Bの高さ位置を調節する調節部112を備えることがさらに好ましい。
この構成によれば、植物体40の背丈に合わせてカバー11A、11Bの高さ位置を調節することができる。
上述した農業用ハウス20は、農業用温調システム10と、圃場30を囲みかつ上述した農業用温調システム10を収納する外殻21とを備える。
すなわち、一般的な外殻21に対して、農業用温調システム10を付加することによって、この農業用ハウス20を構成することが可能である。
なお、上述した実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんのことである。