JP2017143750A - 新規白紋羽病菌及びその性質を利用した白紋羽病防除技術 - Google Patents

新規白紋羽病菌及びその性質を利用した白紋羽病防除技術 Download PDF

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Abstract

【課題】所望のマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能とする技術であって、野外環境に生息する白紋羽病菌に対して直接使用可能な技術を提供する。
【解決手段】下記(1)〜(4)に記載の菌学的性質を有することを特徴とする白紋羽病菌、(1)PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質、(2)他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質、(3)上記(2)に記載の細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質、(4)18SrDNA及び28SrDNA間の領域として又は当該領域に含まれる領域としての塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をゲノムDNA内に含んでなる性質。
【選択図】図7

Description

本発明は、所望のマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能とする技術であって野外環境に生息する白紋羽病菌に対して直接使用可能な技術に関する。詳しくは、本発明は、細胞内に保持しているマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能な白紋羽病菌及びその性質を利用した一連の技術に関する。
白紋羽病(white root rot)は、農作物や植物生産に甚大な被害を与える植物病害である。白紋羽病は土壌伝染性を示す糸状菌である白紋羽病菌が原因微生物であり、根表面を菌叢で覆って皮層組織内に侵入し菌糸束を形成して根を腐敗させる。最終的に地上部を枯死させる病徴を示す(非特許文献1:中村仁 2009)。
白紋羽病の防除においては土壌を介して感染が広がる土壌伝染性病害であるため、圃場等の土壌中に存在する病原菌を完全に死滅させることは困難である。また、地下部である根で感染が進行するため病徴の発見が遅れる傾向があり、植物体地上部に病徴が確認された時には樹木そのものが枯死する場合が多い。更に紋羽病菌は一度感染したら完治はもとより治癒が難しい傾向があるため、圃場や栽培現場等の全体に感染被害が拡大しやすく植物栽培に被害を与える。特に果樹等の樹木においては難防除性の深刻な病害であり、リンゴ、ナシ、ブドウ等の商品価値の高い落葉果樹生産にとって甚大な被害をもたらすため、確実な防除技術の開発が望まれている。
従来技術における植物病害の原因微生物を防除する方法としては、農薬等の化学物質を利用した土壌灌注処理が広く行われているところであるが、環境付加の懸念がある。また土壌灌注処理は栽培現場において多くの労力を要する作業である。そこで近年では環境負荷が少ない生物を利用した病害防除方法が注目されつつあるが多くは開発途上の技術であった。
このような技術常識及び課題の解決のために本発明者らは病原菌である白紋羽病菌を宿主として感染するマイコウイルス(菌類寄生ウイルス)に着目し、宿主である白紋羽病菌の病原力を低下させる有用マイコウイルスを利用した白紋羽病防除技術であるヴァイロコントロールを開発した(非特許文献2: Matsumoto et al. 1998、非特許文献3: Ghabrial et al. 2009)。本技術においては白紋羽病菌の病原力低下機能を有する有用マイコウイルスをヴァイロコントロール因子として利用することによって、果樹等の農作物や土壌環境等に安全な白紋羽病防除を実現する手法が提案されている。
しかしながら、ヴァイロコントロール技術を実用化させるためには、対象とする白紋羽病菌の菌体に目的とする有用マイコウイルスを導入させる工程が必要となる。ここで、自然界における白紋羽病菌マイコウイルスの通常の伝搬現象は、菌体の外部からは直接ウイルス感染せずに菌糸体和合性(MCG:mycelial compatibility group)が同一の菌体間での菌糸融合によって誘起される現象である(非特許文献4:Buck (1998))。同種であっても菌糸体和合性が異なる他系統の菌体との間においては、細胞質不和合性反応により菌糸どうしの回避行動や細胞死が誘導され、また菌糸細胞どうしが接触しても菌糸融合が起こらずウイルス移行は実現されない。
当該菌糸体和合性に関する性質は、白紋羽病菌の菌株系統の遺伝子型によって決定される性質であり多くの菌株どうしの間では細胞質不和合反応が起こる。そのため当該性質は所望の有用マイコウイルスを任意の白紋羽病菌に導入することを妨げる要因となり、本技術を生産現場へ普及させるための障害となっている。
そこで、従来法におけるヴァイロコントロール技術では、各圃場等の植物生育環境に生息する白紋羽病菌の和合性に適合した有用マイコウイルスを導入した白紋羽病菌をオーダーメイドにより個別に作製し、それを白紋羽病に罹病した根の周辺等に投与処理することで菌体間での菌糸融合によりウイルスを圃場等の生息菌へ移行させる方法(オーダーメイド治療技術)が行われてきた。各生育環境に生息する対象の白紋羽病菌へのマイコウイルス導入法として以下が挙げられる。
1)一般的な手法としては、対象白紋羽病菌と同じ菌糸体和合性の菌糸細胞をプロトプラスト化して所望の有用マイコウイルス粒子を感染導入させる方法(粒子トランスフェクション法)を挙げることができる。当該方法では、菌糸体の細胞壁を酵素で溶かしてプロトプラストを調製し、別途純化したマイコウイルス粒子をPEG/CaCl存在下でプロトプラストと混合することでプロトプラストにウイルス粒子を取り込ませ、プロトプラストを培養して細胞壁を再生させることによって所望のマイコウイルス導入白紋羽病菌の菌株を作出する(非特許文献5:Sasaki et al. 2006、非特許文献6: Chiba 2009)。
しかしながら、当該方法では所望とするマイコウイルス導入のために菌体からプロトプラストを調製する必要がある。当該方法におけるウイルス導入工程は実験室等の人為操作によって達成されるため、野外環境にて直接ウイルス伝搬を実現することは原理的にできない。
2)また、別途の手法として亜鉛化合物を添加した培地上でウイルス供与菌とウイルス受容菌の菌体を対峙培養することで、細胞質不和合反応を抑制して菌糸融合を促進する方法を挙げることができる。当該方法では、異なる菌糸体和合性の菌体間においてもマイコウイルス移行が誘導されて、対象とする白紋羽病への有用マイコウイルス導入が実現される(特許文献1:特許第5777159号公報)。
しかしながら、当該方法による細胞質不和合反応阻害及びマイコウイルス移行を実現するためには1mM程度の亜鉛化合物が必要となる。そのため、当該方法は実験室等での人為操作により行う際には適した方法であるところであるが、野外環境において当該方法の効果を得るためには野外環境に亜鉛化合物を継続投与することが必要となり環境負荷や生物毒性が懸念される点で好適ではない。なお、仮に亜鉛化合物を野外土壌に投与する場合には土壌表層固着等を考慮すると当該方法の効果達成に必要な量よりも多量の亜鉛を投与する必要がある。
3)また、別途の手法としてウイルス供与菌とウイルス受容菌を対峙培養した菌叢中に菌食性線虫を添加する方法を挙げることができる。当該方法では菌食性線虫が菌叢中を移動しながら菌糸細胞内容物の吸汁摂取を繰り返す行動様式を利用して、線虫の口針を介して対象とする白紋羽病菌側へのウイルス導入することを実現する(特許文献2:特許第5787313号公報)。
しかしながら、当該方法による線虫の吸汁摂取行動でのウイルス伝搬効率は培地上であってもそれほど高くなく、仮に野外環境で当該方法を適用しようとする場合には大量の菌食性線虫の放虫が必要と認められる。また、菌食性線虫による吸汁摂取行動が、他の菌類や線虫自体の捕食者が共存している多様な微生物相が形成されている野外環境においても効果が得られるかは不明であり更なる技術開発が期待される。
4)ちなみに、同じ菌種内の異なる菌株と菌糸融合を行う性質を有するベクターモノカリオン菌株を仲介することによってウイルス受容菌側にマイコウイルスを導入する方法が報告されている(特許文献3:特許第3692395号公報)。しかしながら、当該方法は担子菌類である紫紋羽病菌の特定菌株の性質を利用した方法であり子嚢菌類である白紋羽病菌に適用することができない。さらにウイルスを導入できる菌株には制限があり、任意の菌株にウイルスを導入することができない。
このように白紋羽病菌防除におけるヴァイロコントロール技術においては、細胞質不和合反応のために野外環境に生息する任意の白紋羽病菌に有用マイコウイルスを直接導入することが困難であり、これを克服した実用レベルでの技術は現時点では存在しない。そのため、従来技術におけるヴァイロコントロール技術では対象白紋羽病菌と同じ菌糸体和合性の菌株に実験室等にてマイコウイルスを人為導入する工程を伴う手法(オーダーメイド法)を行う必要がある。当該オーダーメイド法は優れた白紋羽法防除効果を発揮する技術ではあるところであるが、当該方法では各圃場等の生育環境に適合したウイルス導入菌株を調査及び選択してその都度個別に所望のマイコウイルス導入菌株を作製する工程が必要であり、煩雑でコストが高くなる傾向があるという課題がある。
従って、ヴァイロコントロール技術を利用した白紋羽病防除技術の更なる普及及び実用化においては、野外環境に生息する任意の白紋羽病菌に細胞質不和合反応を克服して所望のマイコウイルスを直接導入するユニバーサルなヴァイロコントロール技術の開発が期待されている。
特許第5777159号公報 特許第5787313号公報 特許第3692395号公報
中村仁,微生物遺伝資源利用マニュアル(27),ISSN 1344−1159,独立行政法人農業生物資源研究所,2009年12月25日発行 Matsumoto N., (1998) Japan Agricultural Research Quarterly (JARQ), 32: p31-35 Ghabrial S.A., Suzuki N. Annual Review of Phytopatholgoy 2009; 47: 353-384, Viruses of plant pathogenic fungi. Buck KW., (1998) Bridge, P., Couteaudier, Y. and Clarkson, J. (eds), p53-72, CAB International, Wallingford, Oxfordshire. Sasaki A., Kanematsu S., Onoue M., Oyama Y., and Yoshida K., Archives of Virology, April 2006, Volume 151, Issue 4, pp 697-707, Infection of Rosellinia necatrix with purified viral particles of a member of Partitiviridae (RnPV1-W8). Chiba S., Salaipeth L., Lin YH., Sasaki A., Kanematsu S., and Suzuki N., J Virol. 2009 Dec; 83 (24): 12801-12812, A novel bipartite double-stranded RNA Mycovirus from the white root rot Fungus Rosellinia necatrix: molecular and biological characterization, taxonomic considerations, and potential for biological control.
本発明は、上記背景技術の事情に鑑みてなされたものでありその課題とする処は、所望のマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能とする技術であって、野外環境に生息する白紋羽病菌に対して直接使用可能な技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明者らが保持する大量の継代培養株の中から栄養増殖中の菌糸において分生子を大量に形成し且つ放出する白紋羽病菌の新規菌株系統を見出した。当該新規菌株が形成する分生子は、分生子柄束を形成せずに菌糸細胞から直接形成されるものであり、通常の白紋羽病菌とは全く異なる形成様式によって産生される分生子であった。当該新規菌株における特殊な分生子形成様式は、当該新規菌株が栄養増殖中に分生子を大量形成し続ける能力と関連性がある性質であると考えられた。
本発明者らは、当該新規菌株の性質をより詳細に調査したところ、分生子には任意の白紋羽病菌の菌株の菌糸細胞に細胞質融合する性質を有することを見出した。当該細胞質融合現象は子嚢殻原基を形成することなく実現される有性生殖を介さない無性的な細胞質融合現象であった。ここで、通常の白紋羽病菌では栄養増殖状態の菌糸において分生子形成は生じず更に分生子誘導条件も不明であるため、このような分生子に関する性質は当業者の間でもこれまで見出されていなかった。
そこで本発明者らは、当該新規菌株の性質を更に詳細に調べたところ、当該新規菌株は、保持しているマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行させることを可能とする、驚くべき性質を備えた菌株であることを見出した。また本発明者らは、当該新規菌株から他の菌株へのマイコウイルス移行現象は、当該新規菌株が栄養増殖中の菌糸にて大量に形成され且つ放出される分生子が他菌株の菌糸細胞と細胞質融合することによって実現されることを見出した。更に本発明者らは、当該菌株には外来性マイコウイルスの導入保持が可能であり、当該導入した外来性マイコウイルスは任意の白紋羽病菌の菌株に移行可能であることを見出した。
そして本発明者らは、強病原性の白紋羽病菌が生息する土壌環境に当該新規菌株を投与することによって、当該土壌環境における白紋羽病菌に有用マイコウイルスを移行させて菌糸進展力を大幅に低減できることを実験により実証した。即ち、当該新規白紋羽病菌を有用マイコウイルス伝搬体及び白紋羽病防除剤として使用可能であることを見出した。
以上から本発明者らは、上記した白紋羽病菌の新規菌株及びその分生子と菌糸細胞との細胞質融合現象を白紋羽病防除におけるヴァイロコントロール因子のユニバーサル移行に利用できる点に着想して、本発明を完成するに至った。ここで、栄養培養中の菌糸が分生子形成能を備えた菌株が細胞質不和合反応を克服したマイコウイルス伝搬体として利用可能であるという知見は、従来技術においては不明であり本実施例にて初めて明らかになった知見である。そのため、白紋羽病防除技術への利用を目的として分生子形成能に関する性質を菌株スクリーニングするという発想や動機付けは、本出願時の当該技術分野における当業者の間において存在しなかった。
本発明は具体的には以下に記載の発明に関する。
[項1]
下記(1)〜(4)に記載の菌学的性質を有することを特徴とする白紋羽病菌、;
(1)PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質、
(2)他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質、
(3)上記(2)に記載の細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質、
(4)18SrDNA及び28SrDNA間の領域として又は当該領域に含まれる領域として、配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をゲノムDNA内に含んでなる性質。
[項2]
前記(1)に記載の培養条件にて培養した際の菌糸の分生子形成能が、培地上の菌叢1cmあたり10個以上の分生子を形成可能な性質である、項1に記載の白紋羽病菌。
[項3]
前記(1)に記載の培養条件にて培養した際の菌叢の色調が、灰色がかったオリーブグリーン色である、項1又は2のいずれかに記載の白紋羽病菌。
[項4]
更に下記(5)及び(6)に記載の菌学的性質を有する項1〜3のいずれかに記載の白紋羽病菌、;
(5)下記5−1)及び5−2)に記載のマイコウイルスを保持する性質、
5−1)配列番号4若しくは14に記載の塩基配列又は配列番号4若しくは14に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をウイルスゲノムRNAとしてなる又はウイルスゲノムRNA内に含んでなるYnV1ウイルス、
5−2)配列番号7に記載の塩基配列又は配列番号7に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をウイルスゲノムRNAとする又はウイルスゲノムRNA内に含んでなるYkV1ウイルス、
(6)前記(5)に記載のマイコウイルスを保持していないことを除いては実質的に同じ遺伝的背景を有するウイルスフリー菌株と比べて病原力が低下している性質。
[項5]
Rosellinia necatrix W1032BF株(MAFF645026)である項1〜4のいずれかに記載の白紋羽病菌。
[項6]
Rosellinia necatrix W1032BF株(MAFF645026)である白紋羽病菌。
[項7]
Rosellinia necatrix W1032BF株(MAFF645026)に由来する白紋羽病菌であって、下記(1)〜(3)に記載の菌学的性質を有する白紋羽病菌、;
(1)PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質、
(2)他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質、
(3)上記(2)に記載の細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質。
[項8]
更に白紋羽病菌の病原力低下作用を有する外来性マイコウイルスを保持している項1〜7のいずれかに記載の白紋羽病菌。
[項9]
項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を含んでなる白紋羽病菌用マイコウイルス伝搬体。
[項10]
項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を含んでなる白紋羽病防除用組成物。
[項11]
項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を含んでなる白紋羽病防除剤。
[項12]
項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を用いることを特徴とする白紋羽病防除方法。
[項13]
所望のマイコウイルスを対象とする白紋羽病菌に導入する方法であって、
(A)前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子を前記対象とする白紋羽病菌の菌糸と接触させる工程、
(B)前記(A)に記載の工程の後、前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子を前記対象とする白紋羽病菌の菌糸と細胞質融合させる工程、
を含むことを特徴とする白紋羽病菌へのマイコウイルス導入方法。
[項14]
前記(A)及び(B)に記載の分生子が分生子柄束から形成されることなく直接菌糸から形成されたものである、項13に記載のマイコウイルス導入方法。
[項15]
前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌と前記対象とする白紋羽病菌とが、お互いに異なる菌糸体和合性の菌株どうしである、項13又は14のいずれかに記載のマイコウイルス導入方法。
[項16]
前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌が項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌である、項13〜15のいずれかに記載のマイコウイルス導入方法。
[項17]
項13〜16のいずれかに記載のマイコウイルス導入方法を用いることを特徴とする白紋羽病防除方法。
本発明では、所望のマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能とする技術であって、野外環境に生息する白紋羽病菌に対して直接使用可能な技術を提供することが可能となる。
これにより本発明では、例えば、環境負荷や収穫物等への影響が少なく直接野外にて適用可能なユニバーサルなヴァイロコントロール技術を可能とし、簡便に且つ低コストで実現可能な白紋羽病防除技術を提供することが可能となる。
実施例1(2)においてW1032BFの培養菌叢における菌糸を走査型電子顕微鏡にて観察した写真像図である。写真右下のbarは10μmを示す。
実施例1(3)においてマイコウイルスの存在をdsRNAの電気泳動にて検出した結果図である。図中における各レーンは次のものを示す。レーンM:λHindIII DNAマーカー。レーン1:W563(陰性対照)。レーン2:W1032(陽性対照)。レーン3:W1032BF(本発明)。
実施例1(3)においてマイコウイルスの存在をRT−PCRによって検出した結果図である。図中における各レーンは次のものを示す。レーン1:W563(陰性対照)。レーン2:W1032(陽性対照)。レーン3:W1032BF(本発明)。
実施例1(4)において9cmプレートPDA培地で25℃にて10日間培養した菌叢を観察した写真像図である。図4A:W563(陰性対照)。図4B:W1032(陽性対照)。図4C:W1032BF(本発明)。
実施例2においてW1032BF−GFP(GFP標識株)の菌糸と菌糸体和合性が異なるW779の菌糸との接触部分を観察した顕微鏡像図である。図5A:明視野像。図5B:GFPタンパク質の発現を検出した蛍光顕微鏡像。
実施例2においてW1032BF−GFP(GFP標識株)の分生子と菌糸体和合性が異なるW779の菌糸との接触部分を観察した顕微鏡像図である。図6A:明視野像。図6B:GFPタンパク質の発現を検出した蛍光顕微鏡像。
図6における分生子と菌糸との細胞質融合部分を拡大した写真像図である。図7A:明視野像。図7B:GFPタンパク質の発現を検出した蛍光顕微鏡像。
実施例3(1)においてW1032BF(RnMBV1+)が保持するマイコウイルスの存在をdsRNAの電気泳動にて検出した結果図である。図中における各符号は次のものを示す。符号A:RnMBV1のdsRNA1及びYnV1のdsRNAが重なったバンド。符号B:RnMBV1のdsRNA2を示すバンド。符号C:YkV1のdsRNAを示すバンド。
実施例3(1)においてW1032BF(RnMBV1+)が保持するマイコウイルスの存在をRT−PCRにて検出した結果図である。
実施例3(2)において9cmプレートPDA培地で25℃にて10日間培養したW1032BF(RnMBV1+)の菌叢を観察した写真像図である。
実施例3(3)において対峙培養での菌叢状態を観察した写真像図である。図中における各符号は次のものを示す。符号11:対峙面から1cmの位置での菌叢採集地点。符号12:対峙面から2cmの位置での菌叢採集地点。
実施例4に係る土壌環境投与試験において、試験装置を構成する埋土樹木枝、病原菌接種源、及びユニバーサル菌の菌叢(白紋羽病防除剤)の配設状態を示した模式図である。
実施例4に係る土壌環境投与試験において、1ヶ月経過後の土壌表面を観察した写真像図である。図13A:無処理区(RT56−6のみ)。図13B:W1032BF処理区。図13C:W1032BF(RnMBV1+)処理区。
実施例4に係る土壌環境投与試験において、各処理後のRT56−6が保持するマイコウイルスをdsRNA電気泳動にて検出した結果図である。図中における各レーン及び符号は次のものを示す。レーンM:λHindIII DNAマーカー。レーン1及び2:無処理区(RT56−6のみ)。レーン3及び4:W1032BF処理区。レーン5及び6:W1032BF(RnMBV1+)処理区。符号A:RnMBV1のdsRNA1及びYnV1のdsRNAが重なったバンド。符号B:RnMBV1のdsRNA2を示すバンド。符号C:YkV1のdsRNAを示すバンド。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[用語等の説明]
本明細書中「ヴァイロコントロール」(virocontrol)とは、ウイルスを用いた病害防除技術を指す。詳しくは、植物病害の原因微生物となる糸状菌に病原力低下作用を有するマイコウイルスを病原微生物に感染させて植物病害防除を行う技術を指す。当該技術は環境負荷や収穫物等への影響が少ない植物病害防除を可能とする手法として期待される技術である。
本明細書中「ヴァイロコントロール因子」(VC因子)とは、植物病害の原因微生物となる糸状菌に病原力低下作用を有する因子を指す。ヴァイロコントロール因子として機能する物質として具体的には、マイコウイルス粒子自体やマイコウイルスゲノムRNAを挙げることができる。
本明細書中「菌糸体和合性」(MCG:mycelial compatibility group)とは異なる菌株間における菌糸融合の可否を決定する性質である。当該性質は白紋羽病菌においては菌株系統の遺伝子型によって決定される。当該性質が同じ菌株どうしでは菌糸融合により細胞質融合が起こる。一方、当該性質が異なる菌株どうしでは細胞質不和合性反応が起こり菌糸どうしの回避行動や細胞死が誘導される。
本明細書中「ユニバーサル菌」とは、ヴァイロコントロール因子として機能する有用マイコウイルスを導入及び保持可能であって当該保持しているマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の同種菌株に伝搬可能な菌株を指す。本明細書においては、具体的には白紋羽病菌に属するユニバーサル菌を指す用語として用いている。
本明細書中「病原微生物」とは、植物病害を引き起こす原因微生物を指す。本明細書においては、特に断りがない限りは子嚢菌類に属する糸状菌である白紋羽病菌を指す用語として用いる場合がある。
本明細書中「子嚢菌類」(Ascomycota)とは、微小な子嚢を形成しその中に減数分裂によって胞子を作ることを特徴とする単系統の分類群である。子実体を形成するカビの仲間、キノコの一部、出芽酵母等が含まれる。植物病害を引き起こす原因微生物の一部は子嚢菌類に属する糸状菌類である。子嚢菌類に属する病原微生物としては、例えば白紋羽病菌、リンゴ腐らん病菌、イネいもち病菌、うどんこ病菌、天狗巣病菌等を例示することができるがこれらに限定されない。
本明細書中「圃場」とは、農作物や果樹等を栽培する田畑及び農園等を指す用語である。本明細書では広義の意味として植物栽培を行う環境全般を指す用語として用いられる。
本明細書中「PDA培地」とはポテトデキストロース寒天培地(potato dextrose agar)を意味する。本明細書中の実施例ではDifco(ベクトン・ディッキンソン)社製の顆粒粉末を用いて調製しているが、ジャガイモ浸出抽出エキス4g(ジャガイモ200g分)/L、ブドウ糖20g/L、寒天15g/L、pH5.6±に調製された寒天培地と同様の組成である。
本明細書中「アクセション番号」とは、国際塩基配列データベース(International Nucleotide Sequence Databases)の登録番号を指す。
1.ヴァイロコントロール因子伝搬体であるユニバーサル菌
本発明は、所望のマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能とする技術であって、野外環境に生息する白紋羽病菌に対して直接使用可能な技術に関する。詳しくは、本発明は、細胞内に保持しているマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに任意の白紋羽病菌に移行可能な新規白紋羽病菌及びその利用技術に関する。
[菌学的性質]
本発明に係る白紋羽病菌は、保持しているマイコウイルスを菌糸体和合性に関わらずに他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質を備えた菌株である。本発明に係る白紋羽病菌としては、具体的には次の菌学的性質を有する菌株を挙げることができる。
また、本発明に係る白紋羽病菌は、分生子形成能等の機能が担保された菌株であれば、他の性質や特徴を併せ持った菌株であっても良い。また、下記した特徴以外の一般的な菌学的性質については、原則的には通常の白紋羽病菌と同様の性質を挙げることができる。
ここで、以下に示す菌学的性質が示される「PDA培地上で25℃」という培養条件は、菌株の菌学的性質を明確に記載するための培養条件であり、当該培養条件を外れた範囲において本発明に係る菌株の分生子形成能等は発揮されないことを意味するものではない。なお、当該培養条件は白紋羽病菌の野外生息環境を模した培養条件であるため、白紋羽病菌が好適に生育する培養条件である。当該培養条件で示される菌学的性質は白紋羽病菌が生息する通常の野外環境で発揮される性質である(Ten Hoopen and Krauss, Crop Protection 25: 89-107, 2006)。
分類
本発明に係る白紋羽病菌は、白紋羽病(white root rot)の原因微生物である白紋羽病菌に属する菌株である。ここで白紋羽病菌は子嚢菌類(カビ等が含まれる分類群)に属する糸状菌である。なお、紋羽病の一種である紫紋羽病(violet root rot)の原因微生物である紫紋羽病菌は担子菌類(大部分のキノコの仲間が含まれる分類群)に属する糸状菌であり、白紋羽病菌とは全く分類が異なる糸状菌である。
白紋羽病菌としては、ロゼリニア属(Rosellinia)に属するR.necatrix、R.compacta等を挙げることができる。白紋羽病菌としては通常はR. necatrixが知られているが、近年近縁種であるR.compactaが発見された(Takemoto et al., Mycologia 101, p84-94, 2009)。当該近縁種についても植物体に感染する際にR.necatrixと共通した感染機構が存在し白紋羽病の病徴を発現すると認められる。
本発明に係る白紋羽病菌としては、上記分類上白紋羽病菌に属する菌株を挙げることが、好ましくはR.necatrixに属する菌株を挙げることができる。更に好ましくはW563(MAFF645027)又はW1032(MAFF645024)に由来する菌株を挙げることができる。
本発明に係る白紋羽病菌としては、18SrDNA及び28SrDNA間の領域として又は当該領域に含まれる領域としてとして配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に対して95%以上の同一性を示す塩基配列をゲノムDNA内に含んでなる菌株である。当該塩基配列として好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列と96%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上の同一性を示す塩基配列であることが好適である。当該塩基配列として最も好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列と一致する塩基配列であることが好適である。なお、当該同一性が95%を下回る菌株系統はロゼリニア属に分類されるものではあっても白紋羽病菌には分類されない。
ここで「18SrDNA及び28SrDNA間の領域」とは、18SrDNA及び28SrDNA間に存在するITS1領域、5.8SrDNA、及びITS2領域の3領域を併せた領域を指す。ITS1は18SrDNA及び5.8SrDNAの間の中間領域を指す。ITS2は5.8SrDNAと28SrDNAの間の領域を指す。
菌叢色調
本発明に係る白紋羽病菌は、菌糸の栄養増殖が盛んな段階も含めて栄養増殖中の菌叢色調が灰色を呈する菌株である。詳しくは、本発明に係る白紋羽病菌としてはPDA培地上で25℃にて培養した菌叢が、灰色がかったオリーブグリーン色を呈する性質を備えた菌株である。ここで、本発明に係る白紋羽病菌の菌叢色調が、灰色がかったオリーブグリーン色である理由は、菌糸が分生子形成可能な細胞状態に分化する過程で細胞に色素が沈着し明度が低下するためと考えられる。
なお、通常の白紋羽病菌を培養した場合では、培養初期や通常の栄養増殖段階では白紋羽病の名前の通り菌叢色調が白色を呈する。また、通常の白紋羽病菌においても、古くなった菌叢ではメラニン色素が合成されて茶褐色から黒色の菌糸部分をまだらに含む場合があるが、本発明に係る白紋羽病菌の色調とは異なる。この点、本発明に係る白紋羽病菌の色調は、分生子形成とも関連する性質であると認められ通常の白紋羽病菌とは大きく相違する性質である。
本発明に係る白紋羽病菌の菌叢色調としては、好ましくは前記に記載の培養条件で培養した際の菌叢色調が「grayish olive green」である色調を挙げることができる。ここで当該色調をカラーコードで表現した場合、#513e33、#5a593a、#4b5030、#676944、又は#8c7f5d等に近似した色調を挙げることができるが、本発明に係る菌株の菌叢色調はこれらのカラーコードに限定されるものではない。
本発明に係る白紋羽病菌の菌叢色調は、分生子形成能細胞との形成との関連が示唆される形質であるため、当該色調を指標として分生子形成能の度合を簡易的に判別することが可能である。具体的には、本発明に係る白紋羽病菌の分生子形成能が高い場合、分生子形成を行う細胞を多く含まれて菌叢明度が低下するため、灰色色調を呈すると認められる。一方、分生子形成能が低い場合、分生子形成を行う細胞が少なく菌叢明度が高くなるため、白色に近い色調を呈すると認められる。
分生子形成能
本発明に係る白紋羽病菌は、菌糸の栄養増殖が盛んな段階も含めて栄養増殖中の菌糸が分生子(conidium)を形成する能力を備えた菌株である。詳しくは、本発明に係る白紋羽病菌としては、PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質を備えた菌株である。ここで、通常の白紋羽病菌においては、栄養増殖中の菌糸においては分生子形成が顕著に抑制されていて誘導条件等も不明である。そのため、通常の白紋羽病菌では培地上において分生子形成を観察すること自体が困難な現象である。
更に本発明に係る白紋羽病菌が栄養増殖中の菌糸にて形成する当該分生子は、通常の白紋羽病菌とは形成様式が大きく異なり、分生子柄束を形成することなく形成される。当該分生子形成に関する菌学的性質は、通常の白紋羽病菌とは顕著に相違する性質である。
本発明に係る白紋羽病菌が有する分生子形成能としては、好適には前記に記載の培養条件で菌糸培養した際に分生子を形成可能な性質を挙げることができる。好ましくは前記に記載の培養条件で菌糸培養した際に培地上の菌叢1cmあたり10個以上、更に好ましくは10個以上、特に好ましくは10個以上の分生子を形成可能な性質であることが好適である。当該値の上限としては特に制限はないが、例えば前記菌叢1cmあたり10個以下、好ましくは10個以下を挙げることができる。なお、当該菌叢1cmあたりの分生子数は菌叢の生育段階等において増減する値であるが、本発明に係る白紋羽病菌を前記に記載の培養条件で培養した菌叢のいずれかの部分においては、当該範囲に含まれる値の分生子を形成可能な菌叢状態となる。
また、本発明に係る白紋羽病菌が有する分生子形成能としては、好ましくは前記に記載の培養条件で菌糸培養した際に分生子を常時形成する性質であることが好適である。
本発明に係る白紋羽病菌では、分生子が菌糸細胞から常時に相当数が形成されて周囲に放出又は散布されるため、効率良くマイコウイルス移行を実現することが可能となる。ここで、「常時」とは、前記に記載の培養条件で菌糸培養した際での菌糸が栄養増殖している時点での常時を意味するものであり、枯死寸前の状態や特殊環境等での培養においてまでも分生子形成が必ず行われることを意味するものではない。
細胞質融合能及びマイコウイルス移行能
本発明に係る白紋羽病菌は、他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質を備えた菌株である。当該細胞質融合能は上記栄養増殖中に形成された分生子が他菌株の菌糸細胞と接触することによって実現される。
本発明に係る白紋羽病菌が形成及び産生する分生子は、有性生殖用の大分生子や小分生子ではなく無性的な胞子様粒子として形成される分生子である。ここで本発明係る分生子と他の菌株の菌糸細胞との細胞質融合現象は、菌糸融合時での細胞質融合に類する現象であり、核どうしの二核化、接合、又は受精等の有性生殖に関する現象は伴わずに細胞質内物質の移行又は伝搬等のみを伴う細胞質融合現象である。
ここで、有性生殖による細胞融合では親株に保持されていたマイコウイルスは子孫の菌株に移行しないことから(Ikeda et al., Mycological Research 108: 626-634, 2004)、本発明に係る分生子から他菌株の菌糸細胞へのマイコウイルス移行は菌糸融合の作用機序に類する無性的な細胞質融合を介して実現される現象と認められる。
本発明に係る細胞質融合後においては子嚢殻原基(ascogonium)等の有性生殖に伴う器官や組織は形成されない。即ち、本発明に係る白紋羽病菌は、他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して子嚢殻原基を形成することなく細胞質融合する性質を備えた菌株である。当該知見は本発明に係る細胞質融合現象が有性生殖を介さない現象であることを裏付ける知見である。
本発明に係る細胞質融合現象において特に興味深い特徴的な点は、菌糸体和合性が異なる細胞間においても分生子と菌糸細胞との間については不和合性反応が阻害されて細胞質融合を実現する作用機序が存在する点である。当該作用機序によって細胞どうしの忌避や細胞死等の細胞間相互作用反応である不和合性反応が回避され、菌糸体和合性が異なる菌株間での細胞質融合が実現される。
本発明に係る白紋羽病菌は、上記細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質を備えた菌株である。ここで、当該分生子には保持していたマイコウイルスが内包された状態となる。また、当該分生子は常時且つ相当数が周囲環境に放出されるため効率的なマイコウイルス伝搬が可能となる。
本発明に係る白紋羽病菌がマイコウイルス移行を可能とする対象白紋羽病菌としては、上記分類上白紋羽病菌に属する菌株であれば菌糸体和合性に制限されることなく対象とすることが可能である。好ましくはR.necatrixに属する菌株を対象とすることが可能である。
本発明に係る白紋羽病菌は、菌糸体和合性が異なる菌株に対しては上記した分生子を介した細胞融合によってマイコウイルス移行現象が実現される。一方、菌糸体和合性が同一の他の菌糸細胞に対しては通常の菌糸細胞どうし菌糸融合による細胞質融合能を備えた菌株でもある。従って、本発明に係る白紋羽病菌のマイコウイルス移行様式としては、菌糸体和合性が同一である菌株間においては上記した分生子を介した細胞質融合及び菌糸融合の両方の様式によってマイコウイルス移行現象が実現される。
内因性マイコウイルス
本発明に係る白紋羽病菌としては、内因性マイコウイルスを予め保持している菌株を挙げることができる。本発明に係る菌株に保持される内因性マイコウイルスとしては白紋羽病菌の病原力を低下させる作用を有するマイコウイルスであることが好適である。本発明に係る菌株がこのような内因性マイコウイルスを保持する菌株である場合、当該内因性マイコウイルスを直接ヴァイロコントロール因子として利用することが可能となる。
本発明に係る白紋羽病菌においてヴァイロコントロール因子として利用可能な内因性マイコウイルスが保持されている場合、そのウイルスフリー菌株と比べて病原力が低下している性質を有する菌株となる。ここで、「そのウイルスフリー菌株」とはマイコウイルスを保持していないことを除いては実質的に同じ遺伝的背景を有する菌株を指す。
本発明に係る白紋羽病菌の作出に用いる変異元株等が元々マイコウイルスを保持している場合、本発明に係る白紋羽病菌においても変異株元等のマイコウイルスを受け継いで保持した菌株となる。
具体的には、W1032(MAFF645024)を変異元の菌株系統として用いて本発明に係る白紋羽病菌を作出した場合、W1032に保持されていたYnV1ウイルス及びYkV1を細胞中に保持した菌株となる。ここで、YnV1及びYkV1は、W1032の細胞内に共存し白紋羽病菌の生育力及び病原性低下を誘導しているマイコウイルスである(特開2013-255460号公報、Yaegashi. et al., FEMS Microbiol. Ecol., 83(1):49-62, 2013、Zhang. et al., Nature Microbiol., (2016) Vol.1 Issue 1 Jan., Article number:15001)。従って、本発明に係る白紋羽病菌が内因性マイコウイルスとしてYnV1ウイルス及びYkV1を保持する菌株である場合、これらを直接ヴァイロコントロール因子として利用することが可能である。
ここで、YnV1ウイルス(Yado-nushi virus 1)としては、配列番号4若しくは14に記載の塩基配列又は配列番号4若しくは14に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列を、ウイルスゲノムRNAとしてなる又はウイルスゲノムRNA内に含んでなるマイコウイルスを挙げることができる。当該塩基配列として好ましくは、配列番号4又は14に記載の塩基配列と96%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上の同一性を示す塩基配列であることが好適である。当該塩基配列として最も好ましくは、配列番号4又は14に記載の塩基配列と一致する塩基配列であることが好適である。ここで、配列番号4に記載の塩基配列はアクセション番号LC061478にて登録されているRNA配列と同一の配列である。配列番号14に記載の塩基配列はアクセション番号LC006254にて登録されているRNA配列と同一の配列である。
YkV1(Rosellinia necatrix Yado-kari virus 1)としては、配列番号7に記載の塩基配列又は配列番号7に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列を、ウイルスゲノムRNAとしてなる又はウイルスゲノムRNA内に含んでなるマイコウイルスである。当該塩基配列として好ましくは、配列番号7に記載の塩基配列と96%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上の同一性を示す塩基配列であることが好適である。当該塩基配列として最も好ましくは、配列番号7に記載の塩基配列と一致する塩基配列であることが好適である。ここで、配列番号7に記載の塩基配列はアクセション番号LC006253にて登録されているRNA配列と同一の配列である。
外来性マイコウイルス導入能及び保持能
本発明に係る白紋羽病菌は、外来性マイコウイルスを導入感染させて細胞内に保持させることが可能な性質を有する菌株である。
本発明に係る白紋羽病菌に外来マイコウイルスを導入及び保持させる方法としては、通常のトランスフェクション法にて行うことが可能である。一般的な手法としては、菌糸細胞をプロトプラスト化して所望の有用マイコウイルス粒子を感染導入させる方法(粒子トランスフェクション法:非特許文献5:Sasaki et al. 2006、非特許文献6: Chiba et al. 2009)を挙げることが可能である。また、亜鉛化合物を添加した培地上でウイルス供与菌とウイルス受容菌の菌体を対峙培養して菌糸融合を促進する方法(特許文献1:特許第5777159号公報)、ウイルス供与菌とウイルス受容菌を対峙培養した菌叢中に菌食性線虫を添加する方法(特許文献2:特許第5787313号公報)を用いることも可能である。
また、本発明に係る白紋羽病菌と菌糸体和合性が同一の菌株に所望の外来マイコウイルスが保持されている場合には、菌糸融合によって導入する方法で行うことも可能である。
本発明に係る外来性マイコウイルスとしては、通常の白紋羽病菌に導入可能なマイコウイルスであれば特に制限なく、任意の外来性マイコウイルスを挙げることができる。また、内因性マイコウイルスの存在とは関係なく導入可能であり、内因性ウイルスとの共存が可能なウイルスであることが好適である。また、本発明に係る白紋羽病菌に導入して保持させる外来性マイコウイルスとしては、白紋羽病の病原力低下作用を有するマイコウイルスであることが好適である。このような外来性マイコウイルスは、白紋羽病防除技術におけるヴァイロコントロール因子として利用することが可能である。
ここで、白紋羽病防除のヴァイロコントロール因子として利用可能なマイコウイルスとしては、一例を挙げると、RnMBV1(Rosellinia necatrix megabirnavirus 1)、RnMYRV3(Rosellinia necatrix mycoreovirus 3)、YnV1ウイルス(Rosellinia necatrix Yado-nushi virus 1)、YkV1(Rosellinia necatrix Yado-kari virus 1)などを挙げることができるが、特にこれらに限定されることなく新規に発見されるウイルス等の利用も可能である。
本発明に係る白紋羽病菌にマイコウイルスが重複感染することによって病原力低下作用が向上する場合は、マイコウイルスを重複感染させた状態とすることが好適である。例えば、内因性マイコウイルスを既に保持している場合であっても外来性マイコウイルスを感染させて重複感染状態とすることが可能である。また、複数種類の外来性マイコウイルスを同時に導入して外来性マイコウイルスどうしを重複感染させることも可能である。
作出方法
本発明に係る白紋羽病菌を作出する手法としては、上記菌学的性質を指標として突然変異体のスクリーニングを行うことによって形態観察の熟練と膨大な量の観察が必要ではあるものの作出することが可能である。詳しくは、通常では形成されない分生子形成様式や菌叢色調に着目して変異体のスクリーニングを行うことによって、実施例で示した如く本発明に係る白紋羽病菌を分離することが可能である。ここで、栄養培養中の菌糸が分生子形成能を備えた菌株が細胞質不和合反応に関する技術的課題を克服したマイコウイルス伝搬体として有用であるという知見は、従来技術においては不明であり本出願において初めて明らかになった知見である。そのため、本願出願時において分生子形成能を備えた菌株を白紋羽病防除技術のためにスクリーニングするという動機付けは当該技術分野における当業者の間においては存在しなかった。
ここで突然変異体のスクリーニング手法としては、通常の継代培養株から探索する手法によって労力を要する作業ながら達成することが可能である。また、放射線照射処理、重イオンビーム処理、変異源物質を含む溶液での処理、等を行った突然変異促進により変異導入を行って変異体を得てスクリーニングをすることも可能である。また、形質転換ベクター、トランスポゾン、レトロトランスポゾン等を介した挿入配列導入を伴う変異導入を行うことも可能である。但し、変異導入促進によって効率的に変異導入をしたとしても、分生子に関するスクリーニングには形態観察による選抜作業が必要である。
本発明に係る白紋羽病菌をスクリーニングにて作出する場合、変異元菌株としては上記分類上白紋羽病菌に属する菌株であればいずれのものを挙げることができるが、好ましくはR.necatrixに属する菌株を挙げることができる。更に好ましくはW563(645027)又はW1032(MAFF645024)に由来する菌株を挙げることができる。
本発明に係る白紋羽病菌を作出する手法としては、既に作出した変異体菌株がある場合、その変異体菌株を形質供与体である親株として用いた交配と選抜を行うことによって、得られた子孫系統の中から上記分生子形成能に関する新規の変異菌株を作出することが可能である。この場合、他方の交配親として所望の有用形質を有する菌株を用いた場合、得られた子孫系統の菌株では上記分生子形成能に関する菌学的性質に加えて所望の有用形質を備えた新規菌株を得ることが可能となる。
ここで、有性生殖である交配によって得られた子孫菌株では親株が保持していた内因性マイコウイルスは受け継がれない現象が報告されている(Ikeda et al., Mycological Research 108: 626-634, 2004)。この場合、子孫系統の菌株では上記菌学的性質のうちの分生子形成能及び菌叢色調の形質が受け継がれた菌株となる。
[W1032BF菌株]
本発明に係る白紋羽病菌として具体的な菌株としては、「Rosellinia necatrix W1032BF」を挙げることができる。W1032BFは本発明者らが継代培養中の白紋羽病菌の菌株1100種類の株のうち、W1032(MAFF645024)の継代培養株の中から栄養増殖中の菌糸にて常時分生子形成能を示す特徴的な変異株として分離された菌株である。
本出願人は上記分離したW1032BFについて独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2016年1月29日に寄託申請をし「NITE AP−02198」の受領番号が付与されたところ、当該菌株には「受託範囲外であるウイルスが含まれる」との理由により2016年2月2日に同機構より受託できない旨の寄託受託証不交付通知書(通知番号:2015−0638)が送付された。そこで、本発明者らは信頼できる保存機関である国立研究開発法人農業生物資源研究所の農業生物資源ジーンバンク(茨城県つくば市観音台2−1−2)に寄託することによって第三者分与を担保した。当該機関から付与された「Rosellinia necatrix W1032BF」の登録番号は「MAFF645026」である。
本発明に係る白紋羽病菌としては、W1032BFに由来する菌株についても上記した分生子形成能に関する菌学的性質を保持する場合には、本発明に係る白紋羽病菌として用いることができる。ここで、W1032BFに「由来」する菌株とは、W1032BFを用いて作出された菌株を挙げることができる。
具体的には、i)W1032BFの変異体株を挙げることができる。変異体株としては、継代培養からの変異体だけでなく人為的な変異処理を行って得られた菌株を挙げることができる。変異導入及びスクリーニング手法としては定法にて行うことが可能であるが、例えば上記作出方法に係る段落で記載した方法を挙げることができる。
ii)また、W1032BFに由来する菌株としては、W1032BFに他の遺伝子を導入した遺伝子導入体や形質転換体を挙げることができる。また、W1032BFに外来性マイコウイルスを導入した後の菌株もW1032BFに由来する菌株に挙げることができる。ここで、外来遺伝子導入や外来マイコウイルス導入の手法としては公知技術又は新規技術に係る手法を特に制限なく挙げることができる。
iii)更にW1032BFに由来する菌株としては、W1032BFを形質供与体である親株として用いた交配と選抜を行って得られた子孫系統の菌株を挙げることができる。交配手法としては、例えば上記作出方法に係る段落で記載した方法を挙げることができる。また、他方の交配親として所望の有用形質を有する菌株を用いた場合、得られた子孫系統の菌株では上記分生子形成能に関する菌学的性質に加えて所望の有用形質を備えた新規菌株を得ることが可能となる。iv)また、W1032BFに由来する菌株としては、上記 i)〜iii)にて得られた菌株を用いて更に作出された菌株や更にその由来菌株も含まれる。
本発明に係る白紋羽病菌としては、W1032BFに由来する菌株のうち、上記した分生子形成能に関する特徴的な菌学的性質を保持している菌株であれば、本発明に係る白紋羽病菌としての機能が担保された菌株として好適に用いることができる。
具体的には、多少の菌学的性質に変化を生じたものであっても、少なくとも i)PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質、ii)他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質、iii)上記 ii)に記載の細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質、を備えた菌株であれば、本発明に係る白紋羽病菌としての機能が担保された菌株として用いることができる。
[外来性マイウイルスを保持した菌株]
本発明に係る白紋羽病菌としては、外来性マイコウイルスを導入して保持させることによって外来性マイコウイルス保持菌株とすることができる。また、重複感染によって内因性マイコウイルスと外来性マイコウイルスの両方を保持した菌株とすることもできる。また、複数種類の外来性マイコウイルスを保持した菌株とすることも可能である。
2.マイコウイルス移行に関する原理
本発明者らが見出した上記したマイコウイルス移行現象は、分生子を介した細胞質融合によって実現される現象である。ここで、白紋羽病菌において分生子の細胞状態が菌糸細胞と細胞質不和合性反応を生じることなく細胞質融合するという知見は、本発明者らが初めて明らかにした新規知見である。通常の白紋羽病菌では栄養増殖状態の菌糸において分生子形成は生じず更に分生子誘導条件も不明であるため、当該現象の存在は見出されていなかった。なお、本発明に係る分生子と他の菌株の菌糸細胞との細胞質融合現象は、有性生殖に関する現象を伴わずに細胞質内物質の移行又は伝搬等のみを伴う細胞質融合現象であるため、本発明に係る細胞質融合現象は子嚢殻原基を形成することなく無性的に誘導される現象である。
本発明においては、上記分生子と菌糸細胞との細胞間相互作用に関する新規知見に基づいて、白紋羽病菌へのマイコウイルス導入方法を提供することが可能となる。即ち、本発明においては、 i)前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子を前記対象とする白紋羽病菌の菌糸と接触させる工程、ii)前記 i)に記載の工程の後、前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子を前記対象とする白紋羽病菌の菌糸と細胞質融合させる工程、を含むことを特徴とする白紋羽病菌にマイコウイルスを導入する方法を提供することが可能となる。本発明においては上記原理によって、前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌と前記対象とする白紋羽病菌とがお互いに異なる菌糸体和合性の細胞どうしであっても適用可能なマイコウイルス導入法となる。
本発明に係るマイコウイルス導入方法においては、所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌に分生子を形成させて、当該分生子を任意の対象とする白紋羽病菌の菌糸と接触させることによって実現することが可能となる。
ここで、所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子としては、上記段落1.に記載した白紋羽病菌(ユニバーサル菌)を利用して形成させることが好適である。当該態様における所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子は、分生子が分生子柄束から形成されることなく直接菌糸から形成されたものとなる。
また、本発明に係るマイコウイルス導入方法においては、上記段落1.に記載した白紋羽病菌を利用しないで通常の菌学的性質の白紋羽病菌(通常菌)の場合であっても、分生子柄束の分化誘導を介して通常に分生子を形成させることが可能な菌株系統であれば、その分生子を用いることが可能である。
本発明に係るマイコウイルス導入方法においては、所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌を野外環境に直接投与して野外環境にて当該分生子と対象白紋羽病菌の菌糸と接触及び細胞質融合させることによって、野外環境に生息する対象白紋羽病菌に所望のマイコウイルスを導入することが可能である。当該態様においては上記段落1.に記載した白紋羽病菌(ユニバーサル菌)を利用することが好適である。ここで、野外環境への投与方法としては特に制限はないが、例えば、下記段落3.で記載した白紋羽病防除用組成物の投与方法と同様の手法を採用することが可能である。
また、本発明に係るマイコウイルス導入方法は、室内における培地等の人為的な培養環境において適用することも可能である。本発明においては培地等の培養環境での使用態様を排除するものではない。なお、当該培養環境での態様においても分生子形成の容易性を踏まえると、上記段落1.に記載した白紋羽病菌(ユニバーサル菌)を利用して行うことが好適である。
なお、本発明に係るマイコウイルス導入方法では、菌糸体和合性が異なる菌株に対しては上記した分生子を介した細胞融合によってマイコウイルス移行を実現することが可能となる。一方、菌糸体和合性が同一の他の菌糸細胞に対しては上記した分生子を介した細胞質融合及び通常の菌糸融合の両方の移行様式によってマイコウイルス移行を実現することが可能となる。
以上に示したように、本発明に係るマイコウイルス導入方法は白紋羽病防除方法に用いることが可能となる。
3.白紋羽病防除用途への利用
本発明に係る白紋羽病菌は上記記載のような分生子形成能に関して特徴的な菌学的性質を備えた菌株である。また、本発明に係る白紋羽病菌は原理的には、上記段落1.に記載の白紋羽病菌に属する菌株に対して普遍的に適用可能な菌株である。
従って、従来のヴァイロコントロール技術においては各圃場等の植物生育環境ごとへの白紋羽病菌の菌糸体和合性に合致した病原力低下菌の調製を行うオーダーメイド法が主流であったが、本発明に係る白紋羽病菌を「ユニバーサル菌」として用いることによって、単一菌株を利用するのみで幅広い圃場等の植物生育環境への適用が可能な白紋羽病防除技術の提供が可能となる。ここで、本発明に係る白紋羽病菌の利用形態としては、具体的には次のような利用形態を挙げることができる。なお、下記利用形態は例示でありそれ以外の利用形態を除外するものでない。
[マイコウイルス伝搬体]
本発明に係る白紋羽病菌は上記菌学的性質を有するものでありマイコウイルスのキャリア細胞として用いることが可能であるため、白紋羽病菌用のマイコウイルス伝搬体(ベクター)として利用することが可能となる。ここで、本発明に係るマイコウイルス伝搬体では、任意の白紋羽病菌の菌株に対して所望のマイコウイルスを移行させて伝搬することが可能となる。
本発明に係るマイコウイルス伝搬体(ベクター)は、本発明に係る白紋羽病菌をマイコウイルスのキャリア細胞として利用する態様のものである。
ここで、本発明に係るマイコウイルス伝搬体によって伝搬可能なマイコウイルスとしては、上記段落1.に記載のマイコウイルスを挙げることができる。また、本発明に係るマイコウイルス伝搬体によって伝搬される受容菌としては、上記段落1.に記載の白紋羽病菌に属する菌株を挙げることができる。本発明に係るマイコウイルス伝搬体は、受容菌側の菌糸体和合性に関わらずに保持しているマイコウイルスの伝搬が可能である。また、本発明に係るマイコウイルス伝搬体は、内因性マイコウイルス及び外来性マイコウイルスの両方の伝搬が可能である。
本発明に係るマイコウイルス伝搬体の使用方法として具体的には、マイコウイルス伝搬体である本発明に係る白紋羽病菌に所望のマイコウイルスが保持された状態として分生子を形成させて、当該分生子を任意の対象とする白紋羽病菌の菌糸と接触させることによって、菌糸体和合性に関わらずにマイコウイルス伝搬を実現することが可能となる。
本発明に係るマイコウイルス伝搬体においては、所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌を野外環境に直接投与して野外環境にて当該分生子と対象白紋羽病菌の菌糸と接触及び細胞質融合させることによって、野外環境に生息する対象白紋羽病菌に所望のマイコウイルスを伝搬することが可能である。ここで、野外環境への投与方法としては特に制限はないが、例えば、後述する白紋羽病防除剤や白紋羽病防除用組成物と同様の手法を採用して投与することが可能である。
また、本発明に係るマイコウイルス伝搬体においては、室内における培地等の人為的な培養環境において使用することも可能である。本発明では当該室内培養環境においても分生子形成の容易性を利用してマイコウイルス伝搬体としての好適使用が可能である。
[白紋羽病防除用組成物]
本発明に係る白紋羽病菌は、白紋羽病菌の病原力低下作用を有する内因性マイコウイルス及び/又は外来性マイコウイルスを保持した菌株とすることによって、白紋羽病防除用組成物の形態として利用することが可能である。ここで、白紋羽病防除用組成物は白紋羽病防除剤として用いることが可能となる。
本発明に係る白紋羽病防除用組成物は、本発明に係る白紋羽病菌が白紋羽病菌の病原力低下作用を有するマイコウイルスを保持した菌株を有効成分として含有してなる組成物である。当該有効成分となる菌株はマイコウイルスを内包した分生子の周囲環境への放出作用を有するため、周囲に生息する任意の対象白紋羽病菌の菌糸細胞に対して効率良くマイコウイルス移行を実現することが可能となる。また、当該分生子は菌糸体和合性と関係なく任意の白紋羽病菌の菌糸と細胞質融合してマイコウイルスを伝搬させる。ここで、当該マイコウイルスはヴァイロコントロール因子として機能するため、受容菌側である対象白紋羽病菌は菌糸進展速度が低下され菌糸伸長が抑制された菌株となり宿主となる植物に対する病徴発現力が低下した又は無力化した弱毒系統菌株となる。
更に上記分生子放出及び散布に加えて、マイコウイルス伝搬によって弱毒系統化した受容菌も周囲に生息している菌糸体和合性が合致する同菌株の菌糸に菌糸融合を介してマイコウイルスを伝搬する行動をとる。これにより本発明においては、当該白紋羽病防除用組成物を投与した環境に生息する白紋羽病菌の全体を弱毒化することが可能となり、簡便且つ効率的に白紋羽病防除を実現することが可能となる。
本発明に係る白紋羽病防除用組成物は上記菌株を有効成分として含有してなる組成物である。白紋羽病防除用組成物の形態としては、白紋羽病菌を生菌の状態で含有してなる組成物でることが好適である。ここで本発明に係る白紋羽病菌から受容菌へのマイコウイルス移行は特別な試薬等を要することなく近接培養によって実現可能であるため、土壌環境や植物体等への野外での直接投与での利用態様が可能である。
本発明に係る白紋羽病防除用組成物の投与手段としては、白紋羽病菌が発生した環境又は発生する可能性のある環境に直接投与する態様が可能である。例えば、土壌環境への投与であれば、土壌中への散布、注入、噴霧、添加、混合、埋め込み、埋土等を挙げることができる。植物体表面への投与であれば散布、噴霧、塗布、接種、練り込み等を挙げることができる。特に罹病している感染植物体への投与形態の場合では菌叢被覆されている表面及び/又は皮層中の菌子束と接触又は近接するように投与することが好適である。また、投与部位は複数個所であることが好適である。
本発明に係る白紋羽病防除用組成物は有効成分である上記菌株を生菌の状態で含有して維持可能な形態であれば如何なる形態を採用して用いることが可能である。組成物形態としては、使用用途や目的に応じて様々な形態が可能であるが、例えば次のような形態を挙げることができる。
本発明に係る組成物としては固形状の組成物形態又は剤形態とすることが可能である。ここで固形状の形態としては、例えば、木片、おがくず、チップ状片、穀類種子、寒天培地、スポンジ、ロックウール、培土等を支持体にして上記菌株を接種培養したものを用いることができる。特にこれら支持体の全体に菌叢を繁殖させたものが望ましい。なお、木片としては特に制限はないが例えば果樹の剪定枝等を一例として挙げることができる。また、寒天培地としてはPDA培地等の寒天培地を挙げることができる。また、穀類種子としては小麦、大麦等の麦類種子やオートミールなどその加工物を挙げることができる。また上記菌株を培養後の支持体は、裁断物、粉砕物、チップ状、ペレット状、粒状、シート状、キューブ状等、使用に適した形状に加工して用いることも可能である。
また、本発明に係る組成物としては液体状の組成物形態又は剤形態とすることが可能である。ここで液体状の形態としては菌叢を水溶液等に懸濁や沈殿等をさせた形態を挙げることができるが、例えば、液体アンプル、濃縮液、増粘剤を付与した液体、グリセロールストック状の液体等を挙げることができる。また、液体に懸濁又は沈殿等させた状態であっても、ゲル化剤に添加して寒天培地中に封入した形態、アルギニンペレット状にして固化した形態、液体アンプルをカプセルに封入した形態等に加工を行った場合は固形状形態として用いることができる。
また、本発明に係る組成物としては土壌組成物の形態とすることも可能である。好適には木片等の上記菌株の培養が容易な支持体に培養したものを培土と混合した態様にした土壌組成物の形態が好適である。また、本発明に係る土壌組成物は白紋羽病防除用の栽培土壌等の資材とすることも可能である。この場合、本発明に係る組成物は土壌資材として提供される形態となる。
本発明に係る白紋羽病防除用組成物によって防除が可能となる植物病は白紋羽病である。白紋羽病(white root rot)は上記段落1.で記載した白紋羽病菌の感染によって罹病して感染植物体に病徴を発現する植物病である。ここで、白紋羽病菌は多犯性が強く木本植物及び草本植物に属する幅広い植物種に感染し白紋羽病の病徴を発現する。本発明に係る組成物としては、生産現場等において特に有効に防除が期待されている植物について好適に適用することが可能である。特に好適には従来技術では防除が困難である木本植物に対して有用に適用することが可能である。特には経済的被害が大きい果樹等に適用することが有用である。
ここで、本発明に係る白紋羽病防除用組成物によって防除が可能となる植物を例示するが、本発明の適用範囲はこれらに限定されるものではない。具体的には、日本植物病名目録に白紋羽病菌に感染する植物として記載されている130種以上の宿主植物を挙げることができる(日本植物病名目録,2000年度版,日本植物病理学会発行)。例えば、リンゴ、ナシ、ブドウ、ビワ、イチジク、キウイフルーツ、モモ、ウメ、オウトウ、アンズ、スモモ、カキ、カンキツ、クリ、クワ、チャ、サクラ、カシ、ナラ、ポプラ、カエデ、ツバキ、ツツジ、バラ、キク、オモト、シャクヤク等を挙げることができる。
以上に示したように、本発明に係る白紋羽病防除用組成物は白紋羽病防除方法に用いることが可能となる。
4.ヴァイロコントロールにおけるユニバーサル技術の実現
本発明に係る白紋羽病菌、その原理を利用した技術、及びこれらに関連する一連の技術は、ヴァイロコントロールにおけるユニバーサル技術を実現する手段として使用することが可能である。以上に示した技術は環境及び植物体への負荷や影響が少ない白紋羽病防除方法を実現する技術として用いることを可能とする。また、本発明に係る防除技術を使用して実現可能な白紋羽病防除としては、白紋羽病が発生していない生育環境に使用して白紋羽病の発生を未然に防止するための「予防的防除」だけでなく、既に白紋羽病が発生している生育環境に使用することも可能である。特に従来技術では困難であった白紋羽病菌に感染している植物体の病徴を治癒させる「治療的防除」を簡便に可能とする技術として利用可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
ここで、栄養培養中の菌糸が分生子形成能を備えた菌株が細胞質不和合性を克服したマイコウイルス伝搬体として有用であるという知見は、従来技術においては不明であり本実施例にて初めて明らかになった知見である。そのため、白紋羽病防除技術への利用を目的として分生子形成能に関する性質を菌株スクリーニングするという発想や動機付けは、本出願時における当該技術分野における当業者の間において存在しなかった。
[実施例1]『ヴァイロコントロール因子の移行を可能とするユニバーサル菌の分離』
菌糸体和合性の相違に関わらず任意の白紋羽病菌株へ有用マイコウイルスの移行を可能とするユニバーサル菌の分離を行った。
(1)「W1032BFの分離」
本発明者らは継代維持してきた1100種類の白紋羽病菌の継代培養を行っている。そのような大量の継代培養株のうち、W1032(MAFF645024)の継代株の1つから通常の白紋羽病菌とは菌叢の色調が大きく異なる灰色がかったオリーブグリーン色の色調を呈する変異体菌株を見出した。当該変異体菌株は、白紋羽病菌では栄養培養状態では全く形成されない分生子を大量に形成し周囲に放出する菌株であったため、当該変異体菌株からDNA抽出を行いITS1領域、5.8SrDNA、及びITS2領域の塩基配列を決定した。表1に記載のプライマーを用いてPCR増幅し当該増幅領域をシークエンスしたところ配列番号1の塩基配列が得られ、当該配列はR.necatrixの既登録の対応領域(アクセション番号:EF026117)と一致する配列であることが示された。この結果から、得られた菌株は灰色を呈するカビ等の他の糸状菌の混入でなくW1032の継代培養中に出現した変異体株であることが示された。得られた当該変異体菌株を「Rosellinia necatrix W1032BF」とした。
(2)「電子顕微鏡像」
本実施例の上記(1)で得られたW1032BFをPDA寒天培地(Difco社製)上で25℃暗黒下にて培養して培養中の菌叢の菌糸を走査型電子顕微鏡にて観察した。写真像図を図1に示した。その結果、培地上で栄養培養状態の菌糸が盛んに分生子を大量に形成していることが確認された。また、当該菌株における分生子は分生子柄束を形成することなく菌糸から直接形成されていることが示された。このことから、当該菌株における分生子は通常の白紋羽病菌の分生子形成とは全く異なる様式によって分生子を大量に形成し放出していることが明らかになった。
(3)「内因性マイコウイルス」
本実施例の上記(1)で得られたW1032BFの培養菌叢からdsRNAを抽出し電気泳動により検出を行った。また、得られたdsRNAを用いてRT−PCRを行って変異元菌株であるW1032が保持していたマイコウイルスであるYnV1及びYkV1のゲノムRNAの検出をRT−PCRにて行った。検出用の増幅プライマーセットとしては表2に記載のものを用いた。対照として変異元菌株であるW1032(MAFF645024)及びそのウイルスフリー菌株であるW563(MAFF645027)を用いて同様の試験を行った。
RNAの電気泳動像の結果を図2に示した。また、RT−PCRの増幅産物の電気泳動像の結果を図3に示した。
その結果、W1032BFからYnV1及びYkV1のゲノムRNAと一致するdsRNAが検出されることが示された。このことから、W1032BFは、変異元菌株であるW1032(MAFF645024)が保持するYnV1及びYkV1を受け継いで内因性マイコウイルスとして保持する菌株であることが示された。
(4)「菌叢生育」
本実施例の上記(1)で得られたW1032BFの培養菌叢の生育速度を変異元菌株であるW1032(MAFF645024)及びそのウイルスフリー菌株であるW563(MAFF645027)と比較した。各菌株の菌叢を9cmプレート上のPDA寒天培地(Difco社製)の中央に移植し25℃暗黒下にて10日間培養して菌叢の状態を観察した。菌叢を撮影した写真像図を図4に示した。
その結果、変異元菌株のウイルスフリー菌株であるW563では10日間の培養により9cmプレート全面が菌叢によって覆われたが(図4A:陰性対照)、W1032BFでは同期間培養した場合でも菌叢直径は僅か4cm程度であった(図4C:本発明)。この結果からW1032BFは、変異元菌株であるW1032(陽性対照:図4B)と同様にウイルスフリー菌株であるW563と比較して大幅に菌叢生育力が低下した弱毒系統株であることが確認された。
(5)「プロトプラスト化及び再生試験」
本実施例の上記(1)で得られたW1032BFをプロトプラスト化した後、細胞壁を再生させる処理を行って再分離した菌株の菌叢再生を行った。再分離した菌叢を観察して分生子形成能の有無を確認した。また、再分離した菌叢35株から表2に示したプライマーを用いたRT−PCRによりYnV1及びYkV1の検出を行った。
その結果、プロトプラスト化して細胞壁を再生させる処理を行って菌叢再生を行った場合でも、W1032BFから再分離された菌株には分生子形成に関する性質が保持されていることが確認された。このことからW1032BFが有する分生子形成能に関する形質はプロトプラスト化及び再生によって喪失しない安定した形質であることが確認された。また35株の全ての分離株においてYnV1及びYkV1が内因性マイコウイルスとして安定して保持されていることが確認された。
(6)「W1032BFの菌学的性質」
本実施例の上記(1)で得られたW1032BFの菌学的性質のうち特徴的な性質を表3に示した。当該表中には比較としてW1032BFの変異元の菌株であるW1032(MAFF645024)及びそのウイルスフリー株であるW563(MAFF645027)の対応する性質を示した。
W1032BFが有する菌学的性質で特に特徴的な点は、栄養増殖中の菌叢の菌糸が分生子を大量に形成し続ける点であると認められた。また、本実施例の上記(2)に記載のように、W1032BFの分生子は分生子柄束を形成することなく菌糸から直接形成される特殊な様式によって形成されていた。当該培養条件におけるW1032BFでは、菌叢生育中の菌糸で約10〜10個/培養菌叢(1cm)の分生子が形成されていることが確認された。一方、他の通常の白紋羽病菌では変異元菌株であるW1032を含めて栄養増殖中の菌糸からの分生子形成現象は観察されない。
また、W1032BFでは生育菌叢の色調が灰色がかったオリーブグリーン色を呈していた(図4C)。通常の白紋羽病菌の菌叢の色調は白色であるところ当該変異菌株では菌叢の色調が暗色に着色する理由は、分生子形成をする細胞に分化する過程で菌糸細胞に色素が沈着して明度が低下したためと考えられた。
以上に示したようにW1032BFにおける当該分生子形成に関する形質は、変異元菌株であるW1032(MAFF645024)やそのウイルスフリー株であるW563(645027)では見られない新規獲得形質である。当該形質は、W1032BFは分生子形成に関する遺伝子的制御機構を司るいずれかの遺伝子に変異が生じた突然変異形質であると考えられる。なお通常の白紋羽病菌の中に当該形質を有するものは現時点では知られていない。
(7)「対峙培養」
本実施例の上記(1)で得られたW1032BFについて菌糸体和合性が異なる菌株との細胞間相互作用に関する性質を調べるため菌糸体和合性が異なる菌株との対峙培養を行った。対峙培養はW1032BFと表4及び5に記載の菌株系統のそれぞれについて、PDA培地を用いて10日〜2週間培養することで行った。
対峙培養後、下記表4及び5に示したウイルス受容菌側の菌叢についてW1032BFと近接している2カ所(対峙面から1cm及び2cmの位置:同様の実験を行った図11参照)から菌糸片を切り出して再培養を行った。各培養菌叢からdsRNAを抽出してW1032BFが保持しているYnV1及びYkV1がウイルス受容菌側に移行しているかを調べた。ウイルス検出手法は本実施例の上記(3)に記載の電気泳動によりdsRNA像を確認する方法と同様にして行った。対照として変異元の菌株であるW1032(MAFF645024)を用いて同様の試験を行った。結果を表4及び5に示した。
その結果、W1032BFをウイルス供与菌として用いてウイルス受容菌株と対峙培養を行うことによって、菌糸体和合性が同一の菌株(RT37−1)に対してだけでなく菌糸体和合性が異なる菌株(RT45−1、W1015hyg)に対しても良好にマイコウイルスの移行が実現されることが明らかになった。更にW1032BFからの当該移行現象においては、菌糸体和合性のタイプの違いによって移行率に差異が生じる傾向は認められなかった。一方、対照である変異元のW1032(MAFF645024)を供与菌とした場合では、菌糸体和合性が異なる菌株(RT45−1、W1015hyg)に対しては保持マイコウイルスの移行が全く確認されなかった。
この結果から、W1032BFは通常の白紋羽病菌では不可能である菌糸体和合性が異なる白紋羽病菌へのマイコウイルス移行を可能とする変異菌株であることが明らかになった。即ち、この結果から、W1032BFをマイコウイルス供与菌として用いることによって、任意の白紋羽病菌に対してヴァイロコントロール因子の移行を可能とするユニバーサル菌として利用できることが明らかになった。
また、W1032BFから受容菌へのマイコウイルス移行現象は、特別な試薬等を要することなく近接培養によって実現可能であるため、白紋羽病菌が発生している植物体や土壌等への直接の野外環境に投与する利用態様が可能であることが示された。
(8)「微生物寄託」
本出願人は上記分離したW1032BFについて独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2016年1月29日に寄託申請をし「NITE AP−02198」の受領番号が付与されたところ、当該菌株には「受託範囲外であるウイルスが含まれる」との理由により2016年2月2日に同機構より受託できない旨の寄託受託証不交付通知書(通知番号:2015−0638)が送付された。そこで、本発明者らは信頼できる保存機関である国立研究開発法人農業生物資源研究所の農業生物資源ジーンバンク(茨城県つくば市観音台2−1−2)に寄託することによって第三者分与を担保した。当該機関から付与された「Rosellinia necatrix W1032BF」の登録番号は「MAFF645026」である。
[参考例1]『変異元菌株W1032』
上記実施例にて分離したW1032BFの変異元菌株であるW1032の由来を説明する。W1032(農業生物資源ジーンバンク登録番号:MAFF645024)は、ウイルスフリー株であるW563(農業生物資源ジーンバンク登録番号:MAFF645027)を長野県須坂市の圃場内のリンゴ樹に接種して2年半後に当該接種樹から再分離して得られた弱毒系統株である(特開2013-255460号公報、Yaegashi. et al., FEMS Microbiol. Ecol., 83(1):49-62, 2013)。
ここで、W563はウイルスフリー株であり宿主植物体に対して強い病原性を示すところ、一方、再分離されたW1032は生育力が低く病原力が低下した弱毒系統菌株である。W1032の細胞には、YnV1及びYkV1の2種類のマイコウイルスが自然感染して共存しており、これらのマイコウイルスの作用によって白紋羽病菌の生育力及び病原力低下が誘導されている(特開2013-255460号公報、Yaegashi. et al., FEMS Microbiol. Ecol., 83(1):49-62, 2013、Zhang. et al., (2016) Nature Microbiol., Vol.1 Issue 1 Jan., Article number:15001)。ここで、YnV1ウイルス(Rosellinia necatrix Yado-nushi virus 1)は、配列番号4(アクセション番号:LC061478)又は配列番号14(アクセッション番号:LC006254)に記載の塩基配列をウイルスゲノムとして有するマイコウイルスである。また、YkV1(Rosellinia necatrix Yado-kari virus 1)は、配列番号7(アクセション番号:LC006253)に記載の塩基配列をウイルスゲノムとして有するマイコウイルスである。
上記実施例にて分離したW1032BFが保持する内因性マイコウイルスは、W1032(MAFF645024)に由来するマイコウイルスである。
[実施例2]『菌糸体和合性が異なる菌株へのマイコウイルス移行の作用機序』
W1032BFから菌糸体和合性の異なる菌株へのマイコウイルス移行がどのような作用機序によって実現されるかを調査した。
W1032BFのゲノムDNAに対してpCPXHY1-eGFPプラスミドを用いてPEG/CaCl2法により(Pliego et al. (2009) Fungal Genetics and Biology 46: 137-145)GFP遺伝子を導入して恒常的にGFP蛍光タンパク質を発現するW1032BF−GFP(GFP標識株)を作出した。得られたW1032BF−GFP(MCG:139)と菌糸体和合性が異なるW779(MCG:351)との対峙培養を行い、両菌株の菌糸が接触する付近を蛍光顕微鏡にて観察した。
W1032BF−GFPとW779の菌糸細胞どうしが接触した状態を観察した結果を図5及び表6に示す。また、W1032BF−GFPの分生子がW779の菌糸と接触した状態を観察した結果を図6及び表6に示す。また図6において分生子と菌糸細胞との融合部分を拡大した写真を図7に示す。図5〜7において左図は明視野像を右図はそれに対応する蛍光顕微鏡像を示す。
その結果、W1032BF−GFPとW779の菌糸細胞どうしが接触している状態では、GFP蛍光タンパク質が検出されるのはW1032BF−GFPの菌糸のみでW779の菌糸からはGFP蛍光タンパク質が検出されなかった(図5)。本実施例での菌糸どうしの接触状態は、両菌株の菌糸どうしが巻き付いて接触している状態であるが(図5A)、このような密な接触状態においても両菌株の菌糸融合は誘導されなかった。それに対して、W1032BF−GFPの分生子がW779の菌糸と接触している状態では、W1032BFの分生子で検出されているGFPがW779の菌糸細胞内でも検出されることが示された(図6及び7)。
以上の結果から、W1032BFから他の菌糸体和合性の菌株へのマイコウイルス移行現象は、菌糸どうしの融合を介して行われる現象ではなく、W1032BFの分生子が他の菌糸体和合性菌株の菌糸と細胞質融合することによって誘起される現象であることが明らかになった。なお、W1032BFから菌糸体和合性が同じ菌株へのマイコウイルス移行については、当該胞子を介した移行現象に加えて変異元のW1032等と同様に通常の菌糸融合を介しても行われていると認められる。
本実施例にて得られた当該知見は、菌糸体和合性が異なる細胞間においても分生子と菌糸細胞との間については不和合性反応が阻害されて忌避や細胞死等の細胞間相互作用反応が起こらないことを示している。また、これらの細胞間においては細胞質融合を誘導する機構が阻害されずに機能していることも示している。ここで、白紋羽病菌における分生子が菌糸と細胞質不和合反応を起こさずに細胞質融合するという知見は本例が初めての報告である。
[実施例3]『導入した外来マイコウイルスの移行試験』
W1032BFに外来性マイコウイルスを導入した場合において、W1032BFが導入した外来性マイコウイルスの移行能を発揮するかを検証した。
(1)「純化ウイルス導入感染」
実施例1で得られたW1032BFに外来性マイコウイルスであるRnMBV1の粒子感染を行った。RnMBV1(Rosellinia necatrix megabirnavirus 1)は宿主である白紋羽病菌に対して顕著な病原性低下作用及び生育低下能を示し、ヴァイロコントロール因子として機能する有用マイコウイルスである。
RnMBV1の純化粒子を(非特許文献6: Chiba et al. 2009)に記載の方法によりショ糖密度勾配を課した超遠心を繰り返すことで調製した。W1032BFをプロトプラスト化し、Ca2+共存下でRnMBV1純化粒子と混合することによってRnMBV1をトランスフェクションした。導入感染後にプロトプラストから栄養細胞を再生させ菌叢を培養した。
プロトプラストから細胞壁を再生させて菌叢培養した10株についてdsRNA抽出を行い電気泳動によりRnMBV1ゲノムであるdsRNAの検出を行った。また、得られたdsRNAを用いてRT−PCRを行って導入した外来性マイコウイルスであるRnMBV1のゲノムRNAの検出をRT−PCRにて行った。RnMBV1検出用の増幅プライマーセットとしてはRnMBV1の2種類のゲノムのそれぞれを増幅するために表7に記載のものを用いた。また、内因性マイコウイルスであるYnV1及びYkV1の検出についても実施例1(3)の記載の方法と同様にして行った。分離株におけるマイコウイルス保有率の結果を表8に示した。またRNAの電気泳動像の結果の一部を図8に示した。またRT−PCRの増幅産物の電気泳動像の結果の一部を図9に示した。
その結果、純化ウイルス導入操作によって得られた10分離株の全てにおいて、外来性マイコウイルスであるRnMBV1のゲノムRNAと一致するdsRNAが検出されることが示された。この結果から、純化ウイルス導入操作によってW1032BFに有用マイコウイルスを人為的に導入可能であり且つ安定して保持可能あることが示された。
更に、得られた10分離株の全ての菌株において内因性マイコウイルスであるYnV1及びYkV1のゲノムRNAと一致するdsRNAが検出された。この結果から、W1032BFは外来性マイコウイルスと内因性マイコウイルスを重複感染させて安定して保持可能な菌株であることが確認された。
(2)「菌叢生育」
実施例1で得られたW1032BF(RnMBV1+)の菌叢を9cmプレート上のPDA寒天培地(Difco社製)の中央に移植し25℃暗黒下にて10日間培養して菌叢の状態を観察した。菌叢状態を撮影した写真像図を図10に示した。その結果、W1032BF(RnMBV1+)の生育菌叢の直径は僅か4cm程度であり実施例1(4)にて同条件で培養したW1032BFの菌叢と同程度かやや小さいサイズであった。この結果からW1032BF(RnMBV1+)は菌叢生育力が低下した弱毒系統株であることが確認された(図10)。
(3)「対峙培養」
実施例1で得られたW1032BF(RnMBV1+)について、菌糸体和合性が異なる菌株との対峙培養を行って外来性マイコウイルスであるRnMBV1のウイルス移行が誘起されるかを調べるため、W1032BFと表9及び10に記載の菌株系統のそれぞれとの対峙培養を行った。対峙培養は実施例1(7)に記載の方法と同様にして行った。ウイルス検出は本実施例の上記(1)に記載の方法と同様にして行った。結果を表9及び10に示した。また、対峙培養の状態の一部を撮影した写真像図を図11に示した。
その結果、W1032BF(RnMBV1+)をウイルス供与菌として用いてウイルス受容菌株と対峙培養を行うことによって、菌糸体和合性が同一の菌株(RT37−1)に対してだけでなく菌糸体和合性が異なる菌株(RT45−1、W1015hyg)に対しても、外来性マイコウイルスであるRnMBV1の移行が可能であることが示された。また、内因性マイコウイルスであるYnV1及びYkV1についても移行能を有することが確認され、保持する3種類のマイコウイルスの全てを一度に対象菌株に移行可能であることが示された。
この結果から、W1032BFは内因性のマイコウイルスであるだけでなく、外来性マイコウイルスを任意の白紋羽病菌に対して移行させることが可能なユニバーサル菌として利用できることが明らかになった。
[実施例4]『土壌環境における強病原菌の菌糸進展抑制試験』
強病原性を示す白紋羽病菌が生息する土壌環境に上記実施例にて得られたW1032BF又はW1032BF(RnMBV1+)を移植した場合の影響を検証した。
オートクレーブしたリンゴ切枝上(長さ2.5cm×直径6〜8mm)に強病原性のRT56−6(MCG:80、ウイルスフリー株、ハイグロマイシンB耐性、GFP標識)を培養して菌叢を生育させたものを病原菌接種源としてリンゴ枝の周囲に括り付けた。次いでW1032BF又はW1032BF(RnMBV1+)の菌叢を上記培養枝及びリンゴ枝に接するようにして2個配置した。ここでW1032BF等の菌叢は白紋羽病防除剤として用いた。作製した試験装置2組をシャーレに入れて土壌を被せて埋設した。当該試験装置を構成するリンゴ枝(埋土樹木枝)、RT56−6培養枝(病原菌接種源)、及びW1032BF等ユニバーサル菌の菌叢(白紋羽病防除剤)の配設状態は図12に示す通りである。対照としてRT56−6の培養枝を括り付けたリンゴ枝のみの試験装置を作製し土壌中に埋設して無処理区とした。
1ヶ月後、埋設していたシャーレを取り出して土壌表面を観察した。土壌表面を撮影した写真像図を図13に示した。表11にも観察結果を示した。また観察後、リンゴ枝を回収して各試験区におけるRT56−6を再分離し培養し、各培養菌叢からdsRNAを抽出してマイコウイルスの移行状況を確認した。ウイルス検出手法は実施例3(1)に記載の方法と同様にして行った。電気泳動の結果を図14に示した。また表11にも結果を示した。なお、当該表中の「+」記号はウイルス移行が確認されたことを「−」記号はウイルス移行が確認されなかったことを示す。
その結果、W1032BF又はW1032BF(RnMBV1+)の菌叢を移植した処理区では、RT56−6に対してW1032BF又はW1032BF(RnMBV1+)が保持していたマイコウイルス移行が起こることが確認された。
W1032BFの菌叢を移植した処理区では、土壌表面でのRT56−6の菌糸進展が僅かしか起こらないことが示された(図13B)。また、W1032BF(RnMBV1+)の菌叢を移植した処理区では、土壌表面でのRT56−6の菌糸進展がほとんど無いことが示された(図13C)。これらの結果は、本来は菌糸進展が旺盛で生育力が強いRT56−6の菌糸進展が抑制されたことを示す結果であった。特にW1032BF(RnMBV1+)菌叢を移植した処理区では菌叢進展が著しく抑制されることが示された。
以上の結果から、白紋羽病菌が生息する土壌環境にてW1032BF菌叢を移植した場合であっても、菌糸体和合性に依存することなく任意の強毒性白紋羽病菌の生育活性を抑制できることが実証された。即ち、W1032BF又はW1032BF(RnMBV1+)等のユニバーサル菌の菌叢は白紋羽病防除剤として土壌環境で好適に使用可能であることが実証された。
なお、本実施例ではヴァイロコントロール因子である外来性マイコウイルスを更に重複感染させたW1032BFを用いることによって、更に顕著な生育抑制効果が発揮されることも確認された。
本発明は、果樹栽培、農作物生産、園芸植物栽培、緑地及び路地用植物栽培、及び花卉生産等の植物栽培分野において広く利用されることが期待される。特に白紋羽病の被害が甚大な果樹栽培の生産現場において有効に利用されることが期待される。
1 .菌糸細胞
2 .分生子
3 .W1032BF(ウイルス供与菌)菌糸細胞
4 .W1032BF(ウイルス供与菌)分生子
5 .W779(ウイルス受容菌)の菌糸細胞
6 .W1032BF(RnMBV1+)(ウイルス供与菌)菌叢
7 .RT37−1(ウイルス受容菌)菌叢
8 .対峙面
11 .対峙面から1cmの位置での菌叢採集地点
12 .対峙面から2cmの位置での菌叢採集地点
21 .W1032BF又はW1032BF(RnMBV1+)菌叢(白紋羽病防除剤)
22 .RT56−6培養枝(病原菌接種源)
23 .リンゴ枝(埋土樹木枝)
24 .土壌
25 .シャーレ
26 .進展した菌糸
27 .僅かに進展した菌糸(破線円内)

Claims (17)

  1. 下記(1)〜(4)に記載の菌学的性質を有することを特徴とする白紋羽病菌、;
    (1)PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質、
    (2)他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質、
    (3)上記(2)に記載の細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質、
    (4)18SrDNA及び28SrDNA間の領域として又は当該領域に含まれる領域として、配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をゲノムDNA内に含んでなる性質。
  2. 前記(1)に記載の培養条件にて培養した際の菌糸の分生子形成能が、培地上の菌叢1cmあたり10個以上の分生子を形成可能な性質である、請求項1に記載の白紋羽病菌。
  3. 前記(1)に記載の培養条件にて培養した際の菌叢の色調が、灰色がかったオリーブグリーン色である、請求項1又は2のいずれかに記載の白紋羽病菌。
  4. 更に下記(5)及び(6)に記載の菌学的性質を有する請求項1〜3のいずれかに記載の白紋羽病菌、;
    (5)下記5−1)及び5−2)に記載のマイコウイルスを保持する性質、
    5−1)配列番号4若しくは14に記載の塩基配列又は配列番号4若しくは14に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をウイルスゲノムRNAとしてなる又はウイルスゲノムRNA内に含んでなるYnV1ウイルス、
    5−2)配列番号7に記載の塩基配列又は配列番号7に記載の塩基配列と95%以上の同一性を示す塩基配列、をウイルスゲノムRNAとする又はウイルスゲノムRNA内に含んでなるYkV1ウイルス、
    (6)前記(5)に記載のマイコウイルスを保持していないことを除いては実質的に同じ遺伝的背景を有するウイルスフリー菌株と比べて病原力が低下している性質。
  5. Rosellinia necatrix W1032BF株(MAFF645026)である請求項1〜4のいずれかに記載の白紋羽病菌。
  6. Rosellinia necatrix W1032BF株(MAFF645026)である白紋羽病菌。
  7. Rosellinia necatrix W1032BF株(MAFF645026)に由来する白紋羽病菌であって、下記(1)〜(3)に記載の菌学的性質を有する白紋羽病菌、;
    (1)PDA培地上で25℃にて培養した菌糸が分生子柄束を形成することなく分生子形成能を有する性質、
    (2)他の白紋羽病菌の菌糸細胞に対して、菌糸体和合性に関わらずに分生子を介して細胞質融合する性質、
    (3)上記(2)に記載の細胞質融合を介して保持しているマイコウイルスを他の白紋羽病菌の菌糸細胞に移行可能な性質。
  8. 更に白紋羽病菌の病原力低下作用を有する外来性マイコウイルスを保持している請求項1〜7のいずれかに記載の白紋羽病菌。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を含んでなる白紋羽病菌用マイコウイルス伝搬体。
  10. 請求項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を含んでなる白紋羽病防除用組成物。
  11. 請求項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を含んでなる白紋羽病防除剤。
  12. 請求項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌を用いることを特徴とする白紋羽病防除方法。
  13. 所望のマイコウイルスを対象とする白紋羽病菌に導入する方法であって、
    (A)前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子を前記対象とする白紋羽病菌の菌糸と接触させる工程、
    (B)前記(A)に記載の工程の後、前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌の分生子を前記対象とする白紋羽病菌の菌糸と細胞質融合させる工程、
    を含むことを特徴とする白紋羽病菌へのマイコウイルス導入方法。
  14. 前記(A)及び(B)に記載の分生子が分生子柄束から形成されることなく直接菌糸から形成されたものである、請求項13に記載のマイコウイルス導入方法。
  15. 前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌と前記対象とする白紋羽病菌とが、お互いに異なる菌糸体和合性の菌株どうしである、請求項13又は14のいずれかに記載のマイコウイルス導入方法。
  16. 前記所望のマイコウイルスを保持する白紋羽病菌が請求項1〜8のいずれかに記載の白紋羽病菌である、請求項13〜15のいずれかに記載のマイコウイルス導入方法。
  17. 請求項13〜16のいずれかに記載のマイコウイルス導入方法を用いることを特徴とする白紋羽病防除方法。
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