JP2017088504A - マクロファージからのmmp−9及びmcp−1分泌の阻害剤 - Google Patents

マクロファージからのmmp−9及びmcp−1分泌の阻害剤 Download PDF

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剛佑 原田
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修 山下
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Abstract

【課題】マクロファージにおけるMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤や、かかる阻害剤を含む慢性炎症疾患の治療又は予防剤を提供することを目的とする。
【解決手段】FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤を調製する。かかる阻害剤を用いれば、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌を選択的に阻害することで、慢性炎症性疾患等のマクロファージが関わる疾患の予防又は治療を行うことが可能となる。また、本発明の阻害剤を用いても、生体防御に関わる貪食機能には影響しない又は影響が少ないため、副作用として懸念される免疫抑制や感染症の危険性を軽減することが可能となる。
【選択図】図1

Description

本発明はFAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤や、かかる阻害剤を含む慢性炎症疾患の治療又は予防剤に関する。
持続する慢性炎症によって組織破壊を来す疾患には、動脈瘤、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、関節リウマチ、慢性炎症性腸疾患、歯周病、皮膚炎・皮膚潰瘍等の臨床上あるいは国民健康上重要な成人病が挙げられる。これらの疾患の病変部においては、免疫細胞であるマクロファージが浸潤・集積し、MCP−1(Monocyte Chemoattractant Protein-1)等の炎症細胞動員因子を分泌して炎症を促進かつ遷延しつつ、MMP−9(matrix metalloproteinase-9)等の細胞外基質分解酵素を分泌して組織破壊を来すことが知られている。さらにマクロファージ又はマクロファージを含む免疫細胞を直接的あるいは間接的に抑制することが、これら疾患の治療になりうることが実験的に示されている。実際、関節リウマチ等では免疫抑制作用を有する薬剤が治療薬として実用化されている。しかし、マクロファージは本来生体防御を担う重要な免疫細胞であり、マクロファージの機能全般を阻害することは免疫抑制によって感染症の危険を増やすこととなる。生体防御を維持した状態で慢性炎症の病態を制御し、これら疾患の予防・治療を行うことは容易ではない。
現在、慢性炎症疾患の治療薬として、非ステロイド性抗炎症剤、ステロイド又は免疫抑制剤が臨床で使用されている。非ステロイド性抗炎症剤は重大な副作用は少ないが抗炎症効果はさほど大きくない。ステロイド又は免疫抑制剤は、抗炎症効果は大きいが、免疫抑制により感染症の危険性が避けられないという問題があった。また、マクロファージ活性化阻害剤によりマクロファージ活性化に起因する疾患の予防又は治療を行う方法が提案されているが(特許文献1参照)、疾患に関連するマクロファージの機能を選択的に阻害するというわけではなかった。具体的には、特許文献1におけるマクロファージ活性化阻害剤は、NOSの発現、NO産生、IL−1βの分泌、TNF−αの分泌を阻害するだけでなく、自然免疫に重要な貪食作用までも阻害していた。このように、従来のマクロファージの活性化抑制としては、マクロファージのあらゆる機能を抑制することにしか着目されていなかった。
一方、動脈瘤は慢性炎症性疾患の中でも致死的疾患として臨床上重要であるが、現在のところ外科的治療法しかなく、薬物による予防法や治療法も開発がすすめられているものの、実用化には至っていない。細胞外基質分解酵素阻害薬のドキシサイクリン、炎症性シグナル分子NF−κBのデコイ核酸、又は炎症性シグナル分子のJNK阻害剤等の薬物によって一旦発症した瘤の拡大・進行を阻止できることが報告されている(特許文献2、3、非特許文献1−3参照)。しかしながら、ドキシサイクリンを使用した場合にはMMP−9阻害作用のみに依存するために効果が限定的であり、NF−κBのデコイ核酸やJNK阻害剤を使用した場合には貪食能が制御されて免疫抑制の副作用が懸念さるという問題があった(非特許文献4−6参照)。
ところで、接着斑の構築やターンオーバーに寄与することが知られている細胞内シグナル分子FAK(focal adhesion kinase,接着斑キナーゼ)は、タンパク質チロシンキナーゼ2(PTK2)としても知られており、かかるFAK阻害剤は、がん等の増殖性疾患の予防、治療剤として用いることができることや(特許文献4参照)、かかるFAKの活性化がマクロファージの遊走能減弱に関与する可能性があること(非特許文献7参照)が知られている。しかしながらマクロファージの機能の一部だけを選択的に阻害することについては知られていない。また、FAKが培養血管平滑筋細胞の刺激応答に関わることや、ヒト大動脈瘤組織においてFAK活性が亢進していることや、培養ヒト大動脈瘤組織からの炎症細胞動員因子MCP−1と細胞外基質分解酵素MMP−9分泌がFAK阻害剤処置により抑制されることが知られている(非特許文献8、9)。しかしながら、かかる文献は血管組織や血管平滑筋細胞に着目した文献であるためFAK阻害剤の標的としては血管平滑筋細胞が示されているにすぎず、FAKとマクロファージとの関係については何ら示されていない。
国際公開第2005/013966号パンフレット 特開2007−051086号公報 特開2006−089455号公報 特表2014−505718号公報
Yoshimura et al., Nature Medicine, 11,1330-1338, 2005 Huffman et al., Surgery, 128, 429-438, 2000 Miyake et al., Circ Res., 101, 1175-1184,2007 Ma et al., Journal of Biological Chemistry,288, 15481-15494, 2013 Fang et al., Cellular Signalling, 26,806-814,2014 Zou et al., PLOS ONE, 10(8), e0136947 鈴木純、"マクロファージの分化/機能におけるアンジオテンシンII1型受容体の役割"、〔online〕、2012年3月31日、インターネット<URL:https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2011/seika/C-19/16301/22790707seika.pdf> Yamashita et al., PLOS ONE, 8(11), e79753,2013 原田剛佑、"Role of focal adhesion kinase in abdominalaortic aneurysm", 〔online〕、 2015年4月16日、インターネット<URL:http://www.myschedule.jp/jss115/search/print_preview/type:program/id:77>
本発明の課題は、マクロファージにおけるMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤や、かかる阻害剤を含む慢性炎症疾患の治療又は予防剤を提供することにある。
本発明者らは、細胞内シグナル分子であるFAKに着目し、マクロファージの機能に及ぼすFAKの役割について調べた。その結果、マクロファージの培養細胞実験系において、FAK活性を阻害すると、炎症細胞動員因子であるMCP−1及び細胞外基質分解酵素であるMMP−9の分泌が抑制された。一方、自然免疫に重要なマクロファージの貪食機能は、FAK活性阻害による影響が少なかった。
さらに、マウス腹部大動脈瘤モデルでは、大動脈にマクロファージが浸潤・集積し、動脈組織が破壊されて大動脈径が拡大し、瘤が形成された。FAK阻害剤の予防的投与により、大動脈へのマクロファージ浸潤が阻止され、瘤形成が防止された。加えて、マウス腹部大動脈瘤モデルにおいて、瘤が拡大し始める時期からFAK阻害剤の治療的投与を開始したところ、一旦集積したマクロファージ数が減少し、組織破壊と瘤径拡大が阻止された。一方で、FAK阻害剤が、マウスの体重減少や創傷治癒遅延又は死亡の原因になることはなかった。
以上の結果から、FAK活性阻害は、病変部の慢性炎症と組織破壊に関わるマクロファージの機能を選択的に阻害することが可能であると共に、正常の自然免疫に関わる機能には影響を及ぼさない又は影響が少ないことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤。
(2)FAK阻害剤が、3,4−ジヒドロ−6−[[4−[[[3−(メチルスルホニル)フェニル]メチル]アミノ]−5−(トリフルオロメチル)−2−ピリミジニル]アミノ]−2(1H)−キノリノン、N−メチル−N−(3−((2−(2−オキソインドール−5−イルアミノ)−5−(トリフルオロメチル)ピリミジン−4−イルアミノ)メチル)ピリジン−2−イル)メタンスルホンアミド ベンゼンスルホネート、又は1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンであることを特徴とする上記(1)記載の阻害剤。
(3)FAK阻害剤が、FAK遺伝子の発現を抑制するsiRNAであることを特徴とする上記(1)記載の阻害剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか記載の阻害剤を含む慢性炎症疾患の予防又は治療用組成物。
(5)慢性炎症疾患が動脈瘤であることを特徴とする上記(4)記載の予防又は治療用組成物。
本発明のマクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤(以下、「本発明の阻害剤」ともいう)を用いれば、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌を選択的に阻害することで、慢性炎症性疾患等のマクロファージが関わる疾患の予防又は治療を行うことが可能となる。また、本発明の阻害剤を用いても、生体防御に関わる貪食機能には影響しない又は影響が少ないため、副作用として懸念される免疫抑制や感染症の危険性を軽減することが可能となる。
FAK阻害剤PF573228処理により、MMP−9の分泌が抑制されることを調べた結果(a)、及びMCP−1の分泌が抑制される効果を調べた結果(b)を示す図である。 FAK阻害剤PF573228処理が、マクロファージの貪食能に影響しない又は影響が少ないことを調べた結果を示す図である。 FAK阻害剤PF562271(a)又はFAK阻害剤FAKインヒビター14(b)処理により、MMP−9の分泌が抑制されることを調べた結果を示す図である。 FAKsiRNA処理により、マクロファージからのMMP−9の分泌が抑制されることを調べた結果を示す図である。 CaCl処理後6週目のマウス腹部大動脈の写真(a)、大動脈径(b)、大動脈局所のHE染色の組織像(c)、マクロファージ数(d)を示す図である。 CaCl処理後3週、6週(PF573228又は溶媒のみ(Vehicle))のマウス腹部大動脈の写真(a)、大動脈径(b)、大動脈局所のHE染色の組織像(c)を示す図である。
本発明のマクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤としては、FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を含んでいれば特に制限されず、かかる本発明の阻害剤を用いることで、生体防御に関わる貪食機能への影響を最小限にとどめたうえで、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌を選択的に阻害することが可能となる。
また、本発明の阻害剤の別の態様としては、1)FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを特徴とするマクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害方法や、2)マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤として使用するための、FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩や、3)FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩の、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤の調製における使用を挙げることができる。
上記FAK阻害剤としては、FAKの活性を阻害する公知の物質を用いることができ、FAKのリン酸化を抑制する低分子化合物でもよく、FAK遺伝子の発現を抑制する機能核酸でもよい。
FAKの活性を阻害する低分子化合物としては、3,4−ジヒドロ−6−[[4−[[[3−(メチルスルホニル)フェニル]メチル]アミノ]−5−(トリフルオロメチル)−2−ピリミジニル]アミノ]−2(1H)−キノリノン(PF−573228:CAS番号869288−64−2))、N−メチル−N−(3−((2−(2−オキソインドール−5−イルアミノ)−5−(トリフルオロメチル)ピリミジン−4−イルアミノ)メチル)ピリジン−2−イル)メタンスルホンアミド ベンゼンスルホネート(PF562271:CAS番号939791−38−5)、1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N−メチル‐4−((4−(((3−(N−メチルメチルスルフォンアミド)ピラジン‐2−イル)メチル)アミノ)−5−(トリフルオロメチル)ピリミジン−2−イル)アミノ)ベンズアミド(PF04554878:CAS番号1073154−85−4)の他、特表2014−505718号公報、特表2013−523889号公報、特表2006−520354号、特表2006−515298号公報、特表2005−504080号公報、特表2003−525278号公報、又は特表2002−539120号公報や、Tomita et al., Bioorganic & Medicinal
Chemistry Letters, 23, 1779−1785, 2013、 Iwatani et al., European
Journal of Medicinal Chemistry, 61, 49-60, 2013に記載の化合物を挙げることができる。
FAK遺伝子の発現を抑制する機能核酸としては、FAK遺伝子の発現を抑制するsiRNA、アンチセンスRNA、miRNA、shRNA、リボザイム等を挙げることができ、siRNAを好適に挙げることができる。かかるFAK遺伝子の発現を抑制する機能性核酸は公知の合成による方法及び遺伝子組換え技術を用いる方法を用い、FAK遺伝子の配列情報に基づいて設計及び作製することができる。
FAK遺伝子の発現を抑制するsiRNAとは、FAK遺伝子のmRNAに相同なヌクレオチドのセンス鎖配列と、その相補的なアンチセンス鎖配列とからなり、FAK遺伝の発現を抑制する二本鎖RNAを意味する。それぞれの鎖の3’側には、オーバーハング配列、好ましくはチミン、グアニン、シトシン、アデニンのいずれか2塩基をもたせることにより、FAK遺伝子の発現抑制作用を増強することもできる。FAK遺伝子の発現を抑制するsiRNAとしては市販品を用いることができる。
上記薬学的に許容される塩としては特に制限されないが、塩基性化合物の場合は例えばカルボン酸、スルホン酸等の有機酸、硫酸、塩酸、鉱酸等の塩が、酸性化合物の場合は例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機塩基等の塩が挙げられる。カルボン酸、スルホン酸等の有機酸としては、例えば酢酸、アジピン酸、安息香酸、クエン酸、フマール酸、アスパラギン酸、乳酸、リンゴ酸、パルミチン酸、サリチル酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸が、鉱酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機塩基等としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
本発明の阻害剤には、溶解剤、増量剤、賦形剤、担体等の薬学的に許容される添加剤と混合して注射剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、貼付剤、軟膏剤、スプレー剤、溶液剤、徐放剤等の製剤とすることができる。溶解剤、増量剤、賦形剤又は担体等の薬学的に許容される添加剤の種類及び組成は投与経路や投与方法によって決めることができる。例えば注射剤の場合、一般に食塩、グルコ−ス、マンニト−ル等の糖類が望ましい。経口剤の場合、でんぷん、乳糖、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム等が望ましい。
投与経路は、経口的若しくは注射剤あるいは外用剤等により非経口的に全身性に投与される他、軟膏剤、溶液剤、貼付剤やスプレー剤等により病変部あるいは病変部近傍局所に直接投与する、カテーテル等により病変部あるいは病変部近傍に遠隔的に投与する、ステントやグラフトあるいは一体化させたステントグラフトに薬剤を結合させ、病変部あるいは病変部近傍に留置することにより徐放性に投与する方法等を選ぶことができる。
製剤中におけるFAK阻害剤の含量は製剤により種々異なるが通常0.001〜100重量%、好ましくは0.01〜98重量%である。例えば注射剤の場合には、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%の有効成分を含むようにすることがよい。経口剤の場合には、添加剤とともに錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、ドライシロップ剤等の形態で用いられる。カプセル剤、錠剤、顆粒、散剤は一般に0.1〜100重量%、好ましくは1〜98重量%の有効成分を含む。投与量は、患者の年令、体重、症状等により決定されるが、治療量は一般に、非経口投与で0.001〜10mg/kg/日、経口投与で0.01〜100mg/kg/日である。溶液で用いる場合は、1〜1000nMの濃度で用いる。
本発明の阻害剤を注射薬とする場合には、人体に無害な溶液として用いればよいが、好ましい一態様は、ポリエチレングリコール(分子量300〜500程度)30%、プロピレングリコール20%、クレモフォルイーエル15%、エタノー5%ル、生理食塩水のエマルジョン化溶液30%や、ポリエチレングリコール(分子量300〜500程度)5%、Tweenn(登録商標)80 5%、DMSO5%、生理食塩水のエマルジョン化溶液85%として用いることができる。
本発明の慢性炎症疾患の治療又は予防用組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう)としては、上記本発明の阻害剤を含んでいれば特に制限されず、慢性炎症疾患としては、動脈瘤、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ、慢性炎症性腸疾患、歯周病、皮膚炎等を挙げることができ、動脈瘤を好適に挙げることができる。
なお、慢性炎症疾患の予防とは、慢性炎症疾患の発生を防ぐことを意味し、慢性炎症疾患の治療とは、慢性炎症の進行を阻止すること又は慢性炎症を消退させることを意味する。特に動脈瘤の場合における予防とは、血管壁の脆弱化を防ぎ動脈瘤の形成を防止することを意味する。動脈瘤の場合における治療とは、既に形成された、あるいは形成されつつある動脈瘤の瘤径拡大を抑制すること、ならびに瘤径拡大抑制により破裂の危険性を回避することを意味する。
上記本発明の組成物は、本発明の阻害剤と共に溶解剤、増量剤、賦形剤、担体等の薬学的に許容される添加剤や、他の慢性炎症疾患の予防又は治療剤を含んでもよい。
本発明の阻害剤や本発明の組成物の投与対象としては特に制限されないが、好ましくは哺乳類であり、例えばヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスターなどを例示することができ、中でもヒトを例示することができる。
[PF573228処理によるMMP−9及びMCP−1の分泌抑制]
腹腔内にチオグリコレート培地(TG)を注入した3日後のマウスの腹腔内から得たマクロファージをFAK阻害剤であるPF573228(CAS869288−64−2、20μM:Selleck Chemicals社製)で1時間前処理した。さらに、炎症性サイトカインTNF−α(10ng/ml)で刺激し、刺激後24時間の培養上清を回収した。回収した培養液の上清を用いて以下に示すザイモグラフィー解析によりMMP−9の分泌を、ELISA解析によりMCP−1の分泌を調べた。
(ザイモグラフィー解析)
回収した培養液の上清を上記非特許文献1に記載の方法に準じてザイモグラフィー解析を行った。結果を図1(a)に示す。
(ELISA解析)
回収した培養液の上清を、ELISA解析キット(MCP-1 ELISA Kit:R&D Systems社製)を用い、そのプロトコルに従って解析した。結果を図1(b)に示す。
(結果)
図1(a)に示すように、マクロファージからのMMP−9の分泌は、FAK阻害剤PF−573228によってバンドが検出されないほど抑制され、図1(b)に示すように、マクロファージからのMCP−1の分泌は、FAK阻害剤PF−573228によって73.1%も抑制されることが明らかとなった。したがって、FAK阻害剤はマクロファージからのMMP−9及びMCP−1の分泌を強く抑制することが明らかとなった。
[PF573228処理後の貪食能の影響]
上記マウス腹腔内から得たマクロファージをFAK阻害剤PF573228(20μM・Selleck Chemicals社製)で1時間前処理した後、蛍光ビーズ(SPHERO Fluorescent Particles (Yellow,
0.7-0.9μm) :Spherotech社製)を与えてマクロファージの貪食能を調べた。結果を図2に示す。
図2に示すように、蛍光ビーズを与えて2時間後に、FAK阻害剤無し(対照)のマクロファージにおいては22.5%の細胞がビーズを貪食した。一方、FAK阻害剤PF573228ありのマクロファージにおいては21.0%、24.1%の細胞がビーズを貪食しており、対照とわずか1.5%程度しか相違しなかった。上述のように、FAK阻害剤はマクロファージからのMMP−9及びMCP−1の分泌を強く抑制したが、マクロファージの貪食能には影響しなかった。従来のマクロファージの活性化抑制としては、マクロファージのあらゆる機能を抑制することにしか着目されていなかったが、上記結果より、FAK阻害剤はマクロファージの機能を選択的に抑制することが可能であること、特に、自然免疫に重要なマクロファージの貪食機能への影響を最小限にとどめたうえで、MMP−9及びMCP−1分泌を抑制できることが明らかとなった。かかる結果は、慢性炎症疾患等に対して、免疫抑制や感染症等の副作用を抑制し、かつ予防、治療を行うことが可能となる点で極めて重要な結果であった。
[PF562271又はFAKインヒビター14処理によるMMP−9の分泌抑制]
上記マウス腹腔内から得たマクロファージをFAK阻害剤であるPF562271(CAS番号717907−75−0、5μM:Selleck Chemicals社製)又はFAK阻害剤FAKインヒビター14(1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン・四塩酸塩:CAS番号4506−66−5、50μM:Santa Cruz社製)で1時間前処理した。さらに、炎症性サイトカインTNF−α(10ng/ml)で刺激し、刺激後24時間の培養上清を回収し、上述のザイモグラフィー解析と同様の方法でMMP−9の分泌を調べた。PF562271で処理した場合の結果を図3(a)に、FAKインヒビター14で処理した場合の結果を図3(b)に示す。
図3に示すように、マクロファージからのMMP−9の分泌は、FAK阻害剤であるPF562271やFAKインヒビター14によっても抑制されることが明らかとなった。
[FAKsiRNA処理によるMMP−9の分泌抑制]
上記マウス腹腔内から得たマウスマクロファージにFAK阻害剤であるFAKsiRNA(カタログNo.#SI01392433、200μM:QIAGEN社製)及びコントロールとしてControl shiRNA(カタログNo.#1022076、QIAGEN社製)を、Nucleofector(Lonza社製)を用いてそのプロトコルに従って導入した。さらに、炎症性サイトカインTNF−α(10ng/ml)で刺激し、刺激後24時間の培養上清を回収し、上述のザイモグラフィー解析と同様の方法でMMP−9の分泌を調べた。結果を図4に示す。
図4に示すように、FAK阻害剤FAKsiRNA導入より、全FAKタンパク質(tFAK)及び活性化FAK(pFAK:リン酸化FAK)が減少し、マクロファージからのMMP−9の分泌が抑制されることが明らかとなった。なお、内部コントロールのGADPHにおいては変化がなかった。
[PF573228処理(予防的投与)による動脈瘤の形成防止及び大動脈局所へのマクロファージの浸潤阻止]
マウス腹部大動脈を0.5MCaCl溶液で刺激することで、大動脈局所の炎症を惹起し、刺激後6週後までに徐々に形成される動脈瘤モデルを作製した。また、生理食塩水(NaCl)を用いて対照群を作製した。動脈瘤モデルを2群に分け、一方の群はPF573228の腹腔内投与をCaCl処理の前日から、CaCl処理後6週間まで予防的に連日投与し、他方の群は溶媒のみ(Vehicle)の腹腔内投与をCaCl処理の前日から、CaCl処理後6週間まで予防的に連日投与した。CaCl処理後6週目のマウス腹部大動脈の写真を撮影し、大動脈径を測定した。さらに、パラフィン包埋法により組織切片を作製し、HE染色を行った。さらに、マクロファージの免疫染色を行い、1切片あたりのマクロファージ数をカウントした。CaCl処理後6週目のマウス腹部大動脈の写真を図5(a)に、大動脈径を図5(b)に、大動脈局所のHE染色の組織像を図5(c)に、マクロファージ数を図5(d)に示す。
図5(a)、(b)に示すように、FAK阻害剤PF573228の予防的投与によって動脈瘤の形成が抑制されることが明らかとなった。また、図5(c)、(d)に示すように、FAK阻害剤PF573228の予防的投与によって大動脈局所へのマクロファージの浸潤・集積が阻止されることが明らかとなった。なお、本試験において、FAK阻害剤の予防的投与がマウスの体重減少、創傷治癒遅延又は死亡の原因となることはなかった。
[PF573228処理(治療的投与)による動脈瘤の進行抑制及び大動脈局所へのマクロファージの集積阻止]
マウス腹部大動脈を0.5MCaCl溶液で刺激し、6週後までに徐々に形成される動脈瘤モデルを作製した。PF573228又は溶媒のみ(Vehicle)の腹腔内投与をCaCl処理後3週目の瘤拡大時期から、CaCl処理後6週間まで治療的に連日投与した。CaCl処理後3週目(治療前)、又は6週目(PF573228処理又は溶媒のみ(Vehicle)処理)のマウス腹部大動脈の写真を図6(a)に、大動脈径を図6(b)に、大動脈局所のHE染色の組織像を図6(c)に示す。
図6(a)、(b)に示すように、FAK阻害剤PF573228の治療的投与によって組織破壊及び動脈瘤径拡大の進行が抑制されることが明らかとなった。また、図6(c)に示すように、FAK阻害剤PF573228の治療的投与によって動脈瘤の病変局所に浸潤・集積したマクロファージが劇的に減少することが明らかとなった。なお、本試験において、FAK阻害剤の治療的投与がマウスの体重減少、創傷治癒遅延又は死亡の原因となることはなかった。
本発明は、マクロファージが起因する疾患、特に、持続する慢性炎症によって組織破壊を来す疾患、例えば、動脈瘤、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、関節リウマチ、慢性炎症性腸疾患、歯周病、皮膚炎・皮膚潰瘍等の慢性炎症疾患の予防又は治療において利用可能である。

Claims (5)

  1. FAK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、マクロファージからのMMP−9及びMCP−1分泌の阻害剤。
  2. FAK阻害剤が、3,4−ジヒドロ−6−[[4−[[[3−(メチルスルホニル)フェニル]メチル]アミノ]−5−(トリフルオロメチル)−2−ピリミジニル]アミノ]−2(1H)−キノリノン、N−メチル−N−(3−((2−(2−オキソインドール−5−イルアミノ)−5−(トリフルオロメチル)ピリミジン−4−イルアミノ)メチル)ピリジン−2−イル)メタンスルホンアミド ベンゼンスルホネート、又は1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンであることを特徴とする請求項1記載の阻害剤。
  3. FAK阻害剤が、FAK遺伝子の発現を抑制するsiRNAであることを特徴とする請求項1記載の阻害剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか記載の阻害剤を含む慢性炎症疾患の予防又は治療用組成物。
  5. 慢性炎症疾患が動脈瘤であることを特徴とする請求項4記載の予防又は治療用組成物。
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