JP2017051210A - キシロースの発酵能が強化された酵母とその利用 - Google Patents

キシロースの発酵能が強化された酵母とその利用 Download PDF

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一浩 藤森
健彦 佐原
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健彦 佐原
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隆 赤松
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久貴 田口
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Abstract

【課題】キシロースの発酵能力が強化された酵母ならびに原因遺伝子を提供する。また、その原因遺伝子を特定する方法を提供する。
【解決手段】特異的な代謝能を付与する変異株における原因遺伝子の特定方法、ならびにキシロース資化能力の向上を与えるCDC19のコード領域に塩基置換などの変異を有する変異遺伝子及びそれによってコードされる変異タンパク質、GRR1のコード領域の上流領域における塩基置換などの変異を有する上流領域、さらにそれを有するSaccharomyces属などの酵母、高濃度キシロースにおける増殖能力の向上を与えるMTH1のコード領域、GRR1のコード領域に塩基置換などの変異を有する変異遺伝子及びそれによってコードされる変異タンパク質、さらにそれを有するSaccharomyces属などの酵母、及び該酵母を用いたエタノール、乳酸、酢酸、プロパノール、イソブタノール、ブタノール、コハク酸、グリセロールからなる群から選択される1ないし2以上の物質の生産方法。また、変異株ならびに同質系統家系の変異株のゲノム配列を次世代シーケンサーによって読み取り、当該特性に関与する原因遺伝子を特定する方法。
【選択図】なし

Description

本発明は微生物を用いて発酵法により有用物質を生産する技術に関し、より詳しくはキシロースの発酵能力が向上した酵母ならびに該酵母を用いた有用物質の生産方法に関する。
平成18年5月に示された新・国家戦略 (http://www.enecho.meti.go.jp/topics/energy-strategy/)によると、2030年には日本のガソリンの消費量は6000万kLになると予想され、その10%をエタノールでまかなうとされている。このエタノールは再生可能エネルギーの一つとして位置づけられ、植物由来成分を発酵法によりエタノールに転換することにより生産されている。例えば、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeは一般に高い発酵能、高いエタノール耐性を有し、酒類の製造のために古くからエタノール生産に用いられている微生物であり、燃料用エタノール生産においても利用されている。第一世代バイオエタノールと呼ばれているのは、サトウキビなど由来のグルコース、あるいはトウモロコシなど由来のデンプン(酵素分解などにより容易にグルコースに変換可能)を原料として、出芽酵母などを用いることにより生産される燃料用エタノールである。国内外において、出芽酵母が資化できるグルコースや容易にグルコースに変換できるデンプンを使った燃料用エタノール生産が先行している。一方、これらの原料が食糧あるいは家畜飼料としても用いられている植物であることから、食糧と競合することにより新たな問題を引き起こすことが懸念されてきた。このため、第二世代バイオエタノールとして、食糧と競合しないセルロース系バイオマスからのエタノール生産の期待が高まっている。セルロースは酵素によってグルコースに分解できることから、同様に発酵によってエタノールを生産するための原料となり得る。しかしながら、セルロース系バイオマスからのエタノール生産においては、原料の種類、前処理方法、糖化プロセス、発酵プロセスの組み合わせによってさまざまな問題が知られており、解決が期待されている。セルロース系原料にはさまざまな資源が想定されているが、木質は、一定量のエタノール生産を確保することを考えると、セルロース資源量として最も多量であることから期待も高い。一方、木質からの効率的なエタノール生産においては、グルコースの原料となるセルロース以外の成分の存在が重要となる。木質は一般的にセルロース、ヘミセルロース、リグニンを主成分とし、セルロースの割合がおよそ40%であるのに対し、ヘミセルロースの割合はおよそ20-30%である。したがって、ヘミセルロースを多く含む木質を材料とする場合、ヘミセルロースを酵素などによって分解して得られるキシロースなどの糖もエタノールに変換することが望ましい。しかしながら、発酵能力が高い出芽酵母はキシロースを資化するための遺伝子が機能していないため、キシロースからエタノールを生産できないという問題があった。このため、キシロース資化性生物のキシロース代謝酵素を出芽酵母に導入したり、内在性の代謝機能の向上によって、出芽酵母にキシロース資化性を付与するというアプローチが取られている。この外来性のキシロース代謝酵素には、キシロース還元酵素、キシリトール脱水素酵素、キシルロキナーゼ、キシロース異性化酵素などが含まれる。発明者らは、「新エネルギー技術研究開発/新エネルギーベンチャー技術革新事業(バイオマス)/九州発ビレッジテクノロジー構築に向けた竹からのバイオエタノール変換の技術開発(平成19-20年度)」及び「ソフトバイオマスからの燃料用エタノール製造プロセスの開発研究(平成20-21年度)」において、キシロースからのエタノール生産に適する酵母の創製開発を行ってきた。キシロースの代謝が向上した酵母及び高濃度のキシロースでも増殖の阻害が起こりにくい酵母をそれぞれ酵母育種技術により構築した(特許文献1)。しかしながら、その原因遺伝子の特定には至っていない。
出芽酵母を用いてキシロースからエタノール生産を可能にするためには、一般にキシロース代謝の初期遺伝子であるキシロース還元酵素(XR)及びキシリトール脱水素酵素(XDH)の組み合わせ、あるいはキシロース異性化酵素(XI)が必須となる。しかしながら、これらの遺伝子の導入によってキシロースからエタノールの生産は可能にはなるものの、生産効率は著しく低い。これは、キシロースからエタノールの生産には導入した遺伝子に由来する酵素以外にも出芽酵母の内在性酵素が必要であるが、それが機能的に不十分であることによる。これを補償するために、出芽酵母の内在性酵素を遺伝子組換えにより強制発現させたり、キシロース資化性などの別の生物からキシロースにより親和性のある類縁酵素の遺伝子を導入するなどの試みが広くなされている。その補償すべき酵素は代謝マップを参照するなどによって容易に想定することができ、例えば、細胞外からキシロースを取り込むためのトランスポーター(Hxt5など)、キシルロキナーゼ(Xks1など)、酸化的あるいは非酸化的ペントースリン酸化経路の酵素群(Zwf1, Sol3, Gnd1, Rpe1, Rki1, Tkl1, Tal1など)などがあり、これらの酵素を強制発現、あるいは遺伝子を欠失させることによってキシロース代謝能を強化した例が報告されている(非特許文献1)。
さらには、代謝マップ上では代謝経路に関わっていることが推定されないが、代謝経路に影響を与える遺伝子として、PET18、 TEC1、 ARR1(非特許文献2)、MNI1、 RPA49(非特許文献3)、YLR042C(非特許文献3、非特許文献4)、 ALP1、 ISC1、 RPL20B、 BUD21(非特許文献5)、PHO13(非特許文献6、7)、FPS1(非特許文献8)が報告されている。さらに、特許文献2にはアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼの発現が強化されている酵母、特許文献3にはHXT10, HXT11, HXT14, GIT1, RGT2, ARO1, ARO7, PHA2, TRP5, PYC1, PYC2及びPDA1からなる1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強された一部のキシロース資化性酵母、特許文献4にはギ酸脱水素酵素を過剰発現するように形質転換された酵母、特許文献5にはグリシン合成系タンパク質及び/又はメチオニン合成タンパク質の遺伝子発現を欠損させた酵母、がそれぞれキシロースからエタノールの生産効率を改善されているとして報告されている。これらの報告は、代謝マップ上においてキロシースからエタノールへの変換経路に直接乗っていない酵素も、間接的にその変換効率に影響を与えることを示唆している。
上記のように、キシロースからエタノールへの効率的変換を達成するためには、代謝マップ上でキシロースからエタノールまでの代謝経路に関わっている酵素に関する情報だけでは不十分であり、間接的にその変換効率を改善することに寄与する遺伝子、タンパク質についても検討する必要がある。そのためには、突然変異導入と適切な選抜方法により、代謝能が亢進した変異体を得ることが最も網羅的で効率的なアプローチであると言える。発明者らは先行プロジェクトにおいて自然突然変異と育種技術を活用して、キシロース資化性が向上した酵母変異株を作出することに成功している。しかしながら、この時点ではどのような遺伝子とその遺伝子上の変異が、その特性に関与しているのかを解析することはできなかった。
自然突然変異と育種技術による特徴的な変異体の取得が可能でも、その原因遺伝子を直接突き止めるには、微生物のゲノム全体のシーケンシングをすることが必要であったが、従来のサンガー法では時間がかかりすぎて現実的ではなかった。このため、分子生物学的方法や遺伝学的方法を駆使し、全ゲノム中から当該遺伝子が存在する一部の領域を実験によって取得する方法がとられた。例えば、変異体のゲノムDNAをフラグメント化し、それらを親株に導入した形質転換体から同様な特性を示す形質転換体を得、その導入されたDNAを解析する方法である。また、さまざまな株との掛け合わせによって、原因遺伝子近傍の遺伝子を見いだそうとする方法である。これらの方法の難点は非常に時間がかかることであり、また劣性変異や複数の遺伝子変異が関わっている場合はしばしば困難を極める。一方、近年になって、従来のサンガー法よりもはるかに高速な「次世代シーケンサー」と呼ばれる機器が複数開発された。次世代シーケンサーでは微生物ゲノム全体に匹敵する配列情報を取得することが可能であり、取得された変異体のゲノム全体を解析することによって原因遺伝子を特定できる可能性がある。しかし、実際には、次世代シーケンシングデータは、特に大規模にパラレルにシーケンスするタイプのものでは、最終的に得られる解読塩基数は膨大であるが、従来のサンガーシーケンスに比べると個々の塩基レベルでの精度は低く、多くのエラーが含まれることがわかっている。さらに、変異はランダムに起こると考えられるため、変異体のゲノムは、当該表現型には寄与しない「中立的な」変異を非常に多く含むと考えられる。したがって、変異体について次世代シーケンサーでゲノム解析をすることによって原因遺伝子を特定するというアプローチでは、1)次世代シーケンサーの特性による塩基レベルの低い精度を補償する解析法、2)当該変異には関わらない中立的変異の除去、が重要であるが、その手法は確立されていない。
特開2011-83255号公報 特開2010-239925号公報 特開2011-193788号公報 特開2011-167096号公報 特開2012-183013号公報
Matsushika A, Inoue H, Kodaki T, Sawayama S、「Applied Microbiology and Biotechnology」、2009年、第84巻、 p. 37-53 Wahlbom CF、 Cordero Otero RR、 Van Zyl WH、 Hahn-Hagerdal B、 Jonsson LJ、 「Applied and Environmental Microbiology」、 2003年、 第69巻、 p. 740-746 Bengtsson O、 Jeppsson M、 Sonderegger M、 Parachin NS、 Sauer U、 Hahn-Hagerdal B、 Gorwa-Grauslund MF.「Yeast」、 2008年、 第25巻、 p. 835-847 Parachin NS、 Bengtsson O、 Hahn-Hagerdal B、 Gorwa-Grauslund MF、 「Yeast」 2010年、 第27巻、 p.741-751. Usher J、 Balderas-Hernandez V、 Quon P、 Gold ND、 Martin VJ、 Mahadevan R、 Baetz K.「G3 (Bethesda、 Md)」、 2011年、 第1巻、 p. 247-258 Ni H、 Laplaza JM、 Jeffries TW、 「Applied and Environmental Microbiology」、 2007年、 第73巻、 p. 2061-2066 Kim SR、 Skerker JM、 Kang W、 Lesmana A、 Wei N、 Arkin AP、 Jin YS、 「Plos One」、 2013年、 第8巻、 p. e57048 Wei N、 Xu H、 Kim SR、 Jin YS、 「Applied and Environmental Microbiology」、 2013年、 第79巻、 p.3193
本願では、キシロースの消費速度が早く、あるいは18%以上の高濃度キシロースによっても高い増殖能を示す酵母菌を自然突然変異と特別な培養条件によって得、次にその変異株ならびに同質系統家系の変異株のゲノム配列を次世代シーケンサーによって読み取ることによって、当該特性に関与する原因遺伝子を特定する方法を提供し、また上記キシロース存在下における増殖や消費に関する特性を付与する変異遺伝子及び変異タンパク質の情報を提供し、さらにその変異遺伝子を有する変異株を提供する。また、該酵母菌を利用した、有用物質の効率的な生産方法を確立する。
背景技術に示した通り、キシロースからエタノールを生産させる効率を向上させるためには、代謝マップなどから理論的に関与が推定できる遺伝子・タンパク質のみを制御しているだけでは不十分である。そこで、突然変異導入と選抜によって突然変異株を得ることは、重要な遺伝子の情報を得るために非常に網羅的で効率的なアプローチとなる。
発明者らは、平成20年から平成24年度の間に「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導研究開発/酵素糖化・効率的発酵に資する基盤研究)において、キシロース含有培地で増殖が早い酵母変異体を、自然突然変異と適切な選抜方法によって作成した。この実験では、特開2011-83255で示したFERM AP-21838寄託株である耐熱性・耐酸性で形質転換能に優れたエタノール発酵酵母NAM34-4C株(独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センターに2009年8月26日付けで受領番号FERM AP-21838として寄託されている)を親株とした(図1aに以下の実験により作成した酵母株の家系図を示す)。最初に親株と接合型だけが異なる同質系統株SCA3株を構築した。次にキシロース代謝に必要な3遺伝子(キシロース還元酵素遺伝子XYL1、キシリトール脱水素酵素遺伝子XYL2、キシルロキナーゼXKS1)をSCA3株に組換えたSCB7株を構築した。続いてキシロース最少培地で増殖の早いキシロース代謝向上自然突然変異体を分離し、その遺伝子型をHEX、表現型をHex+と名付けた。4個の変異体はそれぞれ1個のHEX変異によりHex+になり、4個のHEX変異は3個の遺伝子HEX12-2、HEX12-9、HEX22-3、hex31-5に分類でき、HEX1とHEX2の変異は野生型対立アレルに対して優性で残りは劣性であった。キシロース最少培地での最大比増殖速度μmaxは親株が約0.1であるのに対し変異体は0.28と高かった。変異体とその同質系統家系株のゲノム塩基配列を次世代シーケンサーで解析して塩基配列の違いを解読、下記に示すSxm+変異体について同様に解析した塩基配列も参照することによって、原因となる変異遺伝子を推定した。さらに、その中から二重形質転換法又は隣接部位マーカー付与法で実験により原因変異を特定した。その結果、HEX12-2とHEX12-9はCDC19遺伝子内の変異であり、HEX22-3はGRR1コード領域の上流領域(GRR1遺伝子の開始コドンとGRR1遺伝子の5'上流側に隣接するJSN1遺伝子の終止コドンに挟まれた領域をいう)における変異であり、hex31-5はPHO13遺伝子内の変異であった。Cdc19p野生型酵素はキシロース代謝時にリン酸化やATP結合などの修飾を受けて活性の低下を起こすが、変異型酵素は修飾されないために活性が低下しない。従ってキシロースからエタノールへの代謝の律速とならない。翻訳後の修飾によって活性調節を受けるような解糖系やペントースリン酸回路の代謝律速を普遍的に取り除くことができる考え方を提示している。またプロモーター置換による遺伝子高発現化や遺伝子破壊による代謝向上ではない新規な代謝向上の実例である。CDC19の変異及びGRR1コード領域の上流領域の変異はいずれもキシロース代謝との関連ではこれまで報告はない。
さらに上記のプロジェクトにおいて、HEX12-2を持つ酵母菌SCB14株を親株として、この株が増殖できない180 g/Lキシロース存在下で増殖可能なSxm+自然突然変異体を2個分離した。変異体は高濃度キシロースを資化できる原因遺伝子をそれぞれ1個ずつ持っていた(SXM132とsxm233遺伝子)。また増殖を促進する遺伝子SXMCを少なくとも1個ずつ持っていた。これらの変異体とその同質系統家系株のゲノム塩基配列を次世代シーケンサーで解析して塩基配列の違いを解読し、上記のHex+変異体について同様に解析した塩基配列も参照することによって、原因となる変異遺伝子を推定した。その中から二重形質転換法又は隣接部位マーカー付与法で原因変異を特定した。その結果、SXM132はMTH1遺伝子であり、sxm233はGRR1遺伝子であった。SXM132は野生型対立アレルに対し優性であり、sxm233は劣性であった。Mth1p野生型酵素は低濃度グルコース時にユビキチン化修飾を受け酵素分解され、Rgt1pリプレッサーの活性を維持できないが、変異型酵素はユビキチン化の修飾を受けないためMth1p酵素活性を維持し、Rgt1pリプレッサーの活性が保たれる。従って、Hxt1pやHxt4pの発現が抑えられ(細胞内へのグルコースの取り込みが抑えられ)、カタボライト抑制が解除される。Grr1pが不活性になるとMth1pをユビキチン化できず、従って、Mth1pが分解されない。その結果、やはりカタボライト抑制が解除される。このことがキシロース代謝向上を導く機構と考えられる。さらにキシロース代謝に関わる酵素の高発現化へと繋がることが考えられた。すなわち、Mth1pとGrr1pによるカタボライト抑制解除がキシロース代謝酵素の高発現化へと繋がる新規な代謝制御系の実例である。MTH1及びGRR1の変異はいずれもこれまで報告のない変異である。
このような、キシロースを含む培地における増殖能が高いという性質を利用して得られた変異体は、キシロースからのエタノール生産能が高いことも実験で示された。
本発明においてキシロースからのエタノール生産性向上にかかわる変異遺伝子が特定できた理由として、酵母の遺伝学的解析を駆使したことに加え、1)エチルメタンスルフォン酸などの変異誘発剤を使用せず、自然突然変異を利用したことにより突然変異を過度に導入することがなかったため絞り込みが容易となったこと、2)親株のゲノムドラフト配列を自らで決定したことにより次世代シーケンサーによる塩基配列の精度を高めることができたこと、3)遺伝的に近い変異体とその同質系統家系株について次世代シーケンサーによって決定してそのゲノム情報を統合的に取り扱ったこと、が挙げられる。
単純に、親株と変異体について次世代シーケンサーでゲノム情報を得、差分を取ることによって当該特性に関与する遺伝子変異を特定しようとすると、膨大な中立的変異と次世代シーケンサーの特性による塩基の不確定さが大きな阻害要因となり、目的の遺伝子変異は多数の中立的変異と塩基エラーに埋もれて変異特定には至らない。そこで、本発明における多数の候補遺伝子変異の中から表現型に寄与する遺伝子変異を絞り込む方法(「遺伝的背景を考慮した論理プログラミング」)は、変異体と遺伝的に近い同質系統家系株について次世代シーケンサーなどでゲノム情報を得、株間の系統関係をゲノム情報に照らし合わせることにより、その株の表現型に合致しうる変異のみを抽出する方法である。
本発明で樹立した4種類のキシロース代謝向上株HEX変異体と2種類の高キシロース代謝向上株SXM変異体にはそれぞれ系統関係が存在する(図1b)。これらはすべて単一の親株NAM34-4Cを持つ。また、事前の遺伝学的解析によってHEX12-2とHEX12-9は同一あるいは近傍遺伝子座の変異であることが分かっている。一方、HEX1(優性・2変異)、HEX2(優性・1変異)、hex3(劣性・1変異)はそれぞれ全く異なる遺伝子変異である。また、SXM1及びsxm2はHEX12-2を親に持つ。HEX12-2を例に取ると、HEX12-2の表現型をもたらす責任遺伝子変異は、(1) HEX2やhex3には存在しない、(2) SXM1及びsxm2に受け継がれている、という条件を満たさなければならない。また、HEX22-3を例に取ると、HEX22-3の表現型をもたらす責任遺伝子変異は、HEX22-3以外の5つの変異株には存在しない、という条件を満たさなければならない。従来の解析法では、主にベン図で表現できる差分法により1対の株の比較を連続して行うが、単一クレードであれば論理プログラミングと同一の結果になるが、複雑な依存関係がある場合は、比較ができず論理的に真となる結果を得ることができない。
遺伝的背景を利用した論理プログラミング法の利点は、次の3点に集約される。すなわち、(1)1回の比較で結果を得られること、(2) 非依存・依存に関わらず、株の数が多くなればなるほど精度が上がるという利点があること、(3) さらに、同一の親を持ち、異なる実験系(履歴)により樹立した株を用いることにより、より高い精度で絞り込みが可能になること、である。
シーケンシングを含むすべての実験には必ずエラーが存在する。しかし、この方法では、何らかのエラーが存在した場合についても、実験データを正しいと仮定した場合と同様の手続きにより結果を得ることができる。このようなエラーを考慮した解析のひとつの例として、シーケンシングにより得られた実験群の塩基データはすべて正しいが、実はリファレンスそのものが間違っていたという場合が挙げられる。具体的な例として、あるポジションの塩基のリファレンスデータはAで、6株のうち5株が変異Tとしてコールされ、1株がリファレンスと同じAとしてコールされた場合を考えてみる。この場合の論理式は111110となる。仮に実験群6株のデータが正しかったとすると、5株において同一の変異が見つかることになる。しかし、依存関係が無い5株の場合には、このような同一変異が独立した5株で同時に起こることは確率的に非常に低いと考えられる。もし、リファレンスゲノムの当該塩基がAではなく、本当はTだったと仮定すると、論理式は111110の排他集合(NOT)となり、000001となる。つまり、本当に変異があったのは6番目の株のみ(T→A)ということになる。通常の変異解析ではこのようなリファレンスのエラーについては通常は考慮されないし、原理的にそれを検出することすらできない。すなわち、リファレンスを疑い出すと、すべてのデータが疑わしくなってしまうのでリファレンスは絶対に真であると仮定しているからである。しかし、リファレンスは他の実験群と同様、あくまで一つの株の1つのデータに過ぎない。もし、ゲノムデータベースに登録されているのと同じ名前で呼ばれているリファレンス株を実験に用いていたとしても、実際に実験に用いた株のゲノムが完全にデータベースと一致するかどうかを確かめない限り、その仮定は正しくない。もちろん、高い精度でリファレンスゲノムを構築することが望ましい。もし、リファレンスゲノムが完全に正しかったとしたら、リファレンスが間違っているという仮定で得られる変異候補は存在しなくなる。
また、別の例として、リファレンスは正しいが、実験群のデータのいずれかにエラーが存在する可能性を検討することができる。このような実験群のデータエラーには2つの場合が存在する。一つは本当は変異があるのに変異として検出できなかった場合、もうひとつは本当は変異が無い(リファレンスと同じ)にもかかわらず誤って変異としてしまった場合である。可能性としては前者のほうがはるかに高いことは容易に想像がつく。一つの例を挙げると、得られた変異結果が010000だった場合に、最初の株の変異が何らかのエラーのために変異としてコールされておらず、実際には110000だったという可能性を考慮するものである。同様に、011000、010100、010010、010001は同じ可能性を持っているということができる。ここで考慮すべきことは、2つ以上の独立した株において同一ポジションに同一変異が起きる確率は極めて低いことである。したがって、2つ以上のエラー(の組み合わせ)について考慮する必要は基本的にはない。このような例は、同一配列がゲノム中に複数存在する場合に起こりえるが、次世代シーケンシングにより得られたシーケンスリードのユニークマッピング(一意に決まる場合のみマッピングする)を行う限り、基本的には起こり得ないと思ってよい。ユニークマッピングは、あくまで同一の配列が2か所あって、それらを区別できない場合には排除するということに他ならない。しかし、複数のエラーが重なり、マッピングの優先順位が入れ替わることは起こりえる可能性の一つである。ショートリードによる次世代シーケンサーの場合、このようなミスマッピングを防ぐことは原理的に困難であるため、通常は諦めて無視することが多いが、このようなことが起こりうるということについては、正しい結果を得るためには予め認識しておく必要がある。
以下、具体的な解析方法について記載する。
(1)次世代シーケンシングにより得られたシーケンスリードを変異株の親株のゲノム塩基配列を参照配列としてマッピングする。
(2)マッピングデータからdiBayesにより変異箇所を抽出する(scaffold、 position、リファレンス塩基、変異塩基、カバレッジデータ等を含む)。
(3)それぞれの変異候補の信頼性を与えるP-valueを計算する。変異をコールしたリード数m、リファレンスをコールしたリード数をr、変異、リファレンスのいずれの塩基でもない塩基をコールしたリード数をn、マッピングされたが当該ポジションの塩基がコールされなかった数をxとすると、当該ポジションにマップされたリード総数Nは
N = m + r + n + x
また実際に利用可能なデータとしてxを除いた実質のリード総数Nnetは
Nnet = m + r + n
となる。
そこで、当該変異の信頼性すなわち本当にその変異が存在するかという変異確率Pm、リファレンスが正しい確率(変異ではない確率)Pr、変異があるが予測された変異様式ではなくその他の変異である確率Pnはそれぞれ次の式で与えられる。
Pm = m / Nnet
Pr = r / Nnet
Pn = n / Nnet
(2)で得られたすべてのデータにおいてこれらのP-valueを計算する。
ここで、塩基の可能性はリファレンス以外に3通りしかないため、Pm = 0.25、Pr =0.25はランダム変異を意味する。
(4)各株の遺伝系統からそれぞれの株の原因変異が、他の株でも持つべき場合を1、持たざる場合を0とした論理式(マトリックス)を作成する。
(5)各株より(2)で得られた変異候補の中で、それぞれの株において、同一のポジションに同一の変異様式を持つものを(4)に照らして探索し、当該株の変異候補足りうる変異の有無の組合せ、すなわちすべての株において当該変異の存在の有無が論理的に矛盾しない変異候補をリスト化する(Level 1)。
(6)(4)と同様に、リファレンスが間違っていたと仮定した場合の論理式を構築し、この場合に変異候補となりうるものを別途リスト化する(Level 2)。
(7)また、比較するそれぞれの株のデータのうち、どれか一つが間違っていると仮定した場合の論理式を作成し、この場合に変異候補となりうるものを別途リスト化する(Level 3)。
(8)(5)〜(7)で得られた変異候補リストを、親株のゲノムアノテーション情報を参照し、当該変異(ポジション、変異様式)の存在する遺伝子(コード領域)とその位置情報、あるいは遺伝子間の場合は上流及び下流の遺伝子とそれらの相対的な位置情報、予測されるアミノ酸変異、等を取得する。アノテーションの精度によって、同じポジションに複数のアノテーションが付与されている場合もあるため、ここで得られる候補リストは入力する(5)〜(7)より多くなる場合がある。また、染色体あるいはスキャッフォールドの端では、遺伝子間の場合、片方の遺伝子名が付与されない場合がある。
(9)(7)で紐づけられた遺伝子リストを、(3)で取得したP-valueに基づいて、グループA=信頼性高(Pm ≧ 0.8)、グループB=信頼性中(0.8 > Pm ≧ 0.6)、グループC=信頼性低(0.6 > Pm ≧ 0.4)、ほとんど信頼できない(Pm < 0.4)に分類する。SOLiDの場合、経験的に十分なカバレッジ(シーケンスリード長X3)がある場合、0.6以下のデータは信用できないことが分かっているが、他のシーケンサーを用いた場合には、そのシーケンサーの精度、変異予測この信頼性の閾値を変更する必要がある。また、カバー数によってもこれらの値は変化しうる。
(10)Level 1、2、 3のそれぞれにおいて、グループA、B、Cごとにリスト化する。
(11)以上により絞り込みを行った結果をもとに、Level 1/グループAを最有力候補として酵母親株に当該変異導入を行って表現型の検証を行う。また、Level 1/グループAで見つからなかった場合は、Level 1/グループB、さらにLevel 2/グループA、Level 2/グループB、Level 3/グループA、Level 3/グループB、の順に表現型をもたらす変異かどうかの検証を行う。
以上のように、発明者らは、次世代シーケンサーがもたらす膨大なデータから原因遺伝子候補を精度高く決める方法を開発し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
Mth1p及び/又はGrr1pをコードする遺伝子を有する組換え又は非組換えキシロース資化性酵母であって、
該Mth1pが:
(a1)配列番号7に示されるアミノ酸配列において、第81番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(a2)上記(a1)のアミノ酸配列において、上記第81番目のアミノ酸以外の位置で、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであり、そして
該Grr1pが:
(b1)配列番号8に示されるアミノ酸配列において、第632番目のシステインが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(b2)上記(b1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第632番目のアミノ酸以外の位置で、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであることを特徴とする、酵母。
[2]
前記配列番号7の第81番目のアラニンがアスパラギン酸に置換されている、[1]に記載の酵母。
[3]
前記配列番号8の第632番目のシステインがチロシンに置換されている、[1]又は[2]に記載の酵母。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の組換え又は非組換えキシロース資化性酵母であって、さらにCdc19pをコードする遺伝子及び/又はGRR1コード領域の上流領域を有しており、
該Cdc19pが:
(c1)配列番号5に示されるアミノ酸配列において、第272番目のプロリン及び/又は第344番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(c2)上記(c1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第272番目及び/又は第344番目のアミノ酸以外の位置で、さらに1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであり、そして
該GRR1コード領域の上流領域が:
(d1)配列番号6に示される塩基配列において、第-333位の塩基がアデニンから他の塩基に置換された上流領域;あるいは
(d2)上記(d1)の塩基配列において、上記第-333位の塩基以外の位置で、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成る上流領域、のいずれかであることを特徴とする、酵母。
[5]
前記配列番号5の第272番目のプロリンがトレオニンに置換されている、[4]に記載の酵母。
[6]
前記配列番号5の第344番目のアラニンがプロリンに置換されている、[4]又は[5]に記載の酵母。
[7]
前記配列番号6の第-333位のアデニンがチミンに置換されていることを特徴とする、[4]〜[6]のいずれかに記載の酵母。
[8]
キシロースイソメラーゼ、キシロースリダクターゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、及び/又はキシルロキナーゼをコードする遺伝子が過剰発現されている、[1]〜[7]のいずれかに記載の酵母。
[9]
前記酵母が、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルベロマイセス属(Kluveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピチア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、及びハンセヌラ属(Hansenula)からなる群から選択される、[1]〜[8]のいずれかに記載の酵母。
[10]
前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)である、[9]に記載の酵母。
[11]
180 g/L以上の高濃度のキシロースの存在下において増殖可能である、[1]〜[10]のいずれかに記載の酵母。
[12]
Cdc19pをコードする遺伝子及び/又はGRR1コード領域の上流領域を有する組換え又は非組換えキシロース資化性酵母であって、該Cdc19pが:
(c1)配列番号5に示されるアミノ酸配列において、第272番目のプロリン及び/又は第344番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(c2)上記(c1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第272番目及び/又は第344番目のアミノ酸以外の位置で、さらに1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであり、そして
該GRR1コード領域の上流領域が:
(d1)配列番号6に示される塩基配列において、第-333位の塩基がアデニンから他の塩基に置換された上流領域;あるいは
(d2)上記(d1)の塩基配列において、上記第-333位の塩基以外の位置で、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成る上流領域、のいずれかであることを特徴とする、組換え又は非組換えキシロース資化性酵母。
[13]
前記配列番号5の第272番目のプロリンがトレオニンに置換されている、[12]に記載の酵母。
[14]
前記配列番号5の第344番目のアラニンがプロリンに置換されている、[12]又は[13]に記載の酵母。
[15]
前記配列番号6の第-333位のアデニンがチミンに置換されていることを特徴とする、[12]〜[14]のいずれかに記載の酵母。
[16]
特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01675 (SCB39)である酵母。
[17]
特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01676 (SCB40)である酵母。
[18]
特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01672 (SCB14)である酵母。
[19]
特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01674 (SCB16)である酵母。
[20]
特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01673 (SCB15)である酵母。
[21]
キシロース存在下において、[1]〜[20]のいずれかに記載の酵母を用いた有用物質の生産方法であって、該有用物質がエタノール、乳酸、酢酸、プロパノール、イソブタノール、ブタノール、コハク酸、及びグリセロールからなる群から選択される1又は複数の物質である、方法。
[22]
前記有用物質がエタノールである[21]に記載の方法。
[23]
特定の代謝特性を有する微生物を1あるいは多段階の自然あるいは人工的突然変異により得、その同質系統家系の変異株の全ゲノム配列を決定し、リファレンスゲノムへのマッピングを行うことにより当該株が獲得した変異を抽出し、かつ同質系統家系内の変異株間の遺伝的背景及び表現型から想定される当該遺伝子変異の状態(独立、継承)をブール論理(Booean logic)により論理式に変換し、この論理式に基づいて、得られたデータを信頼する場合、リファレンス配列が間違っている場合、及び/又は得られたデータの一部に誤りがある場合を考慮した当該株の論理的に真となる変異組合せを探索・検証することによって、全ゲノム解析によって得られる多数の変異候補の中から該代謝特性の原因遺伝子及び/又は遺伝子変異を特定する方法。
[24]
前記微生物が酵母であることを特徴とする[23]に記載の方法。
[25]
前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)であることを特徴とする[15]に記載の方法。
本発明で育種した微生物あるいは同様に作成した微生物を使用することにより、キシロースからのエタノールなどの有用物質生産能を高めることが可能となる。
本発明により、優れたキシロース代謝能を有する微生物が提供される。また、本発明によって見いだされた変異遺伝子あるいは変異タンパク質を利用することにより、優れたキシロース代謝能を有する微生物を遺伝子組換え技術などにより作出することが可能となる。さらには、本発明の微生物あるいは本発明によって見いだされた遺伝子変異を有する微生物を用いることにより、キシロースを含有する培地を利用して効率的にエタノールなどの有用物質を生産することが可能となる。
さらに、当該変異株ならびに同質系統家系の変異株のゲノム配列を次世代シーケンサーによって読み取ることにより、当該特性に関与する原因遺伝子を特定することが可能となる。
キシロース代謝向上自然突然変異体の分離とその特定を表す樹系図である。(a) HEX変異体に関する樹系図、(b) 遺伝的背景を考慮した論理プログラミングの解析に用いたHEX変異体およびSXM変異体の樹系図。 キシロース資化性S. cerevisiae SCB4、 SCB5、 SCB6、 SCB7と親株SCA3株のキシロース培地での増殖を示す。5株を5 mLのウラシル含有キシロース最少培地(キシロース濃度 20g/L)で増殖させた。被試験菌を5 mLのウラシル含有キシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5)に植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞濃度をバイオフォトレコーダーで測定した。データは3回の実験の平均値と標準偏差である。記号:○、SCB4株; △、SCB5株;□、SCB6株; ◇、SCB7株;●、SCA3株。 S. cerevisiae Hex+突然変異体 (SCB13、 SCB14、 SCB15、 SCB16)と親株SCB7株のキシロース培地での増殖を示す。被試験菌を5 mLのウラシル含有キシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5、キシロース濃度 20g/L)に植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞濃度をバイオフォトレコーダーで測定した。データは3回の実験の平均値と標準偏差である。記号:○、Hex+ 1-5株 SCB13; △、 Hex+ 2-2株 SCB14;□、 Hex+ 2-3株 SCB15; ◇、 Hex+ 2-9株 SCB16;●、Hex-株 SCB7。 S. cerevisiae Hex+突然変異体 (SCB13、 SCB14、 SCB15、 SCB16) の遺伝解析に用いた実験結果を示す。被試験菌を5 mLのキシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5、キシロース濃度 20g/L) に植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞濃度をバイオフォトレコーダーで測定した。(a) 4個のHex+変異体の解析。Hex+ 2-2変異体 (SCB14)と野生型Hex-株(SCB103-10D)の掛け合わせで得られた4胞子クローンと親株を解析した。記号:○、 SCB14; □、 SCB103 -10D; 及び4胞子クローン、△、 SCB105-5A; ▽、 SCB105-5B; 右向き△、 SCB105-5C; 左向き△、 SCB105 -5D。(b)-(e): HEX1-5 (b)、 HEX2-2 (c)、 HEX2-3 (d)とHEX2-9 (e)の野生型に対する優性・劣性試験。記号:○、Hex-/Hex-二倍体 (SCB112); △、 Hex+/Hex+二倍体 (SCB108、 SCB109、 SCB110とSCB111); □、 Hex+/Hex-二倍体 (SCB104、 SCB105、 SCB106とSCB107)。(f) 連鎖解析。HEX2-2変異体 SCB105-3A、 HEX2-3変異体 SCB106-8D、 野生型株 SCB103-10DとHEX2-2とHEX2-3の掛け合わせで得た4胞子クローン SCB114-5A、 -5B、 -5C、 -5Dを解析した。記号:○、SCB105-3A; □、 SCB106-8D; ◇、 SCB103-10D; 及び4胞子クローン: △、 SCB114-5A; ▽、 SCB114-5B; 右向き△、 SCB114-5C; 左向き△、 SCB114-5D。データは三回の平均値と標準偏差である。 S. cerevisiae Hex+突然変異体 (SCB13、 SCB14、 SCB15とSCB16)及び親株SCB7の回分発酵試験により得られた図を示す。50 mLの30g/Lのキシロースを含むYPX培地 pH 4.0、温度35°Cで振盪し、発酵試験を行った。(a) 細胞濃度;(b) キシロース濃度 (g/L); (c) エタノール濃度。実験は3回の平均値と標準偏差で表した。記号:○、 SCB7; □、 SCB13; ●、 SCB14; △、 SCB15; ◇、 SCB16。 hex31-5突然変異遺伝子が、PHO13であることを解析する実験デザインを示す。(a) pho13Δ株の構築。kanMX領域を一対のプライマーで増幅し、酵母染色体内に組換えた。(b) 劣性変異pho13Δ。遺伝子産物を生産しないので、野生型対立アレルに対し劣性になる。(c) 相補性試験。hex31-5とpho13Δの掛け合わせで得られる二倍体を用いた相補性試験。 S. cerevisiae pho13Δ及びPTDH3-TAL1株のHex+表現型解析とTAL1のHEX12-2とHEX22-3に対する連鎖解析に用いた実験結果を示す。被試験菌を5 mLのキシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5、キシロース濃度 20g/L) に植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞濃度をバイオフォトレコーダーで測定した。(a) pho13Δ株、PTDH3-TAL1株、野生型株のキシロース培地での増殖。記号:□、野生型SCC2-11B株;○、 pho13Δ SCB45株; △、 PTDH3-TAL1 SCB44株。(b) pho13Δの優性・劣性試験とpho13Δ/hex31-5二倍体の相補性試験。記号:○、WT / WT SCB112株;△、pho13Δ / pho13Δ二倍体SCB53株;□、pho13Δ / WTへテロ二倍体SCB52株;▽、hex31- 5/ hex31-5二倍体SCB108株;◇、 pho13 Δ/ hex31-5二倍体SCB49株。(c) と(d) 連鎖解析。(c) TAL1とHEX12-2の連鎖解析。○、PTDH3-TAL1 SCB44株;□、HEX12-2 SCB105-7A株;その掛け合わせの4分子:△、SCB47-3A;▽、SCB47-3B;右向き△、SCB47-3C;左向き△、SCB47-3D;◇、野生型 SCC2-11B。(d) TAL1とHEX22-3の連鎖解析。○、PTDH3-TAL1 SCB44株;□、HEX12-2 SCB106-1D株;その掛け合わせの4分子:△、SCB48-6A;▽、SCB48-6B;右向き△、SCB48-6C;左向き△、SCB48-6D;◇、野生型 SCC2-11B。データは三回の平均値と標準偏差である。 HEX12-2がCDC19遺伝子変異であることを解析する実験デザインを示す。最初に、CDC19遺伝子近傍の構造をSaccharomyces ゲノムデータベース(http://www.yeastgenome.org/) で解析する(図8a)。次に、CDC19のフランキング領域に形質転換法でkanMXを組み込む。この転換体がHex+の性質を維持するかどうかを確かめる(図8b)。Hex+を維持していれば、CDC19からkanMX遺伝子までをPCR増幅する。このDNAを用いて形質転換を行い、kanMXとHex+が同時転換するかどうかを調べる。同時転換すれば、HEX1遺伝子は、CDC19遺伝子であると証明できる。 HEX12-2及びHEX12-9変異遺伝子の特定のための実験結果を示す。被試験菌を5 mLのキシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5、キシロース濃度 20g/L) に植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞濃度をバイオフォトレコーダーで測定した。(a) HEX12-2の特定。記号:□、野生型SCC2-11B株;○、 HEX12-2 SCB38株; △、 形質転換体。(b) HEX12-9の特定。記号:□、野生型SCC2-11B株;○、 HEX12-9株; △、 形質転換体。データは三回の平均値と標準偏差である。 二重形質転換によるHEX22-3変異の特定デザインを示す。ade1Δ1 XM株を受容菌にAde+ DNAとGRR1コード領域の上流領域(PGRR1)における変異部位の下流と上流1 kbからなる長さ2 kbのDNAによるAde+形質転換体を得る。Ade+形質転換体の中に変異部位を含む転換体が分離できるかどうかをキシロース培地で検定する。最終の遺伝子構造がPGRR1-GRR1 XM 遺伝子構造となるので、この株がHex+を示せば、HEX22-3はPGRR1-GRR1と証明できる。 HEX22-3及びhex31-5変異遺伝子の特定のための実験結果を示す。被試験菌を5 mLのキシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5、キシロース濃度 20g/L) に植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞濃度をバイオフォトレコーダーで測定した。(a) HEX22-3の特定。記号:□、野生型SCC12株;○、 HEX22-3 SCB15株; △、 形質転換体。(b) hex31-5の特定。記号:□、野生型SCC12株;○、 hex31-5株; △、 形質転換体。データは三回の平均値と標準偏差である。 SCB14株の増殖に対するキシロース阻害濃度の検証実験結果を示す。キシロース濃度が 20 g/Lから200 g/Lまでの濃度を含むYPXn培地で増殖を解析した。記号:○、20 g/L; △、 100 g/L; ▽、120 g/L; 右向き△、140 g/L;左向き△、160 g/L;□、180 g/L、◇、200 g/L。 Sxm+突然変異体の高濃度(キシロース濃度 180g/L)キシロース培地での増殖を示す。2個の被試験菌を5 mLのウラシル含有YPX18培地 pH 4.0に初発細胞濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、バイオフォトレコーダーで増殖を解析した。記号:○、 SxmA+突然変異体; △、 SxmB+突然変異体; □、 HEX12-2親株 SCB14。 SxmA+株と親株の掛け合わせの4胞子解析における実験結果を示す。SCB39株 (MATa SxmA+ HEX12-2)、親株SCB105-3A (MATα HEX12-2)株、及び掛け合わせから得られたSCB42二倍体の4胞子クローンを用いた。6個の被試験菌を5 mLのウラシルを加えたYPX18培地(キシロース濃度 180 g/L) pH 4.0に初発細胞濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、増殖をバイオフォトレコーダーで解析した。(a) SCB42の子嚢胞子2番の解析。記号:○、 SxmA+突然変異体 (SXM1 SXMC1); □、 HEX12-2株; △、 SCB42-2A; ▽、 SCB42-2B; 右向き△、 SCB42-2C; 左向き△、 SCB42-2D。(b) SCB42の子嚢胞子4番の解析。記号:○、 SxmA+突然変異体 (SXM1 SXMC1); □、 HEX12-2株; △、 SCB42-4A; ▽、 SCB42-4B; 右向き△、 SCB42-4C; 左向き△、 SCB42-4D。 SxmB+株と親株の掛け合わせの4胞子解析における実験結果を示す。SCB40株 (MATa SxmB+ HEX12-2)、親株SCB105-7A (MATα HEX12-2) 株及びそれらの掛け合わせから得られたSCB43二倍体の4胞子クローンを用いた。6個の被試験菌を5 mLのウラシルを加えたYPX18培地(キシロース濃度 180g/L) pH 4.0に初発細胞濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、増殖をバイオフォトレコーダーで解析した。(a) SCB43-1の解析。記号:○、 SxmB+突然変異体; □、 HEX12-2株; △、 SCB42-1A; ▽、 SCB42-1B; 右向き△、 SCB42-1C; 左向き△、 SCB42-1D。(b) SCB42-3の解析。記号:○、 SxmB+突然変異体; □、 HEX12-2株; △、 SCB42-3A; ▽、 SCB42-3B; 右向き△、 SCB42-3C; 左向き△、 SCB42-3D。 初発細胞濃度が低い細胞を用いた回分発酵試験:HEX12-2とSxm+の発酵試験に及ぼす影響を示す。Sxm+ HEX12-2 XM突然変異体2株 (SCB32とSCB33)、HEX12-2 XM株 (SCB14)、XM株 (SCB7)の4株で発酵試験を行った。(a) 増殖、(b) キシロース濃度、(c) エタノール濃度。記号: □、 SCB32株;◇、 SCB33株; △、 SCB14株;○、 SCB7株。 高初発細胞濃度からの回分発酵試験により得られた図を示す。Sxm+ HEX12-2 XM突然変異体2株 (SCB39とSCB40)、HEX12-2 XM株 (SCB38)、XM株 (SCC2-11B)の4株で発酵試験を行った。(a) 増殖、(b) グルコースとキシロース濃度、(c) エタノール濃度。記号: □、 SCB39株;●、 SCB40株; △、 SCB38株;○、 SCC2-11B株。図17bではグルコース濃度を破線で示し、キシロース濃度を実線で示した。 SXM1変異の特定方法を示す。酵母ゲノムデータベース(http://www.yeastgenome.org/)公開株とNAM34-4C株のドラフトゲノム解析からMTH1近傍遺伝子構造を解析した。また、どの部位にkanMX遺伝子を挿入するのがMTH1や近傍遺伝子の遺伝子構造に影響しにくいのかを推定した。 SXM1変異の特定のための実験結果を示す。(a) kanMX MTH1株の増殖。(b) HEX12-2株のkanMX MTH1 DNAによる転換体の増殖。記号:(a) △、SCB39株; ○、 □、 ◇、kanMX MTH1株;(b) △、 SCB38株; ▽、SCB39株;○、 kanMX MTH1 HEX12-2形質転換体。 二重形質転換によるSXM2変異の特定方法を示す。ade1Δ1 HEX12-2 XM株を受容菌に、ADE+ DNAとGRR1遺伝子の変異部位の下流と上流1 kbからなる2 kbのDNAによるAde+形質転換体を得る。Ade+形質転換体の中に変異部位を含む転換体が分離できれば、SXM2はGRR1であることが分かる。遺伝子構造が、grr1 HEX12-2 XM 遺伝子構造となるので結論が明確に出る利点がある。 SXM2の特定のための実験結果を示す。記号:○、SCB38株 (HEX12-2 XM);△、 SCB40株 (SxmB+ HEX12-2 XM);▽、 Ade+ grr1二重形質転換体 SCC25株 (grr1 HEX12-2 XM)。 MTH132変異遺伝子のクローニングに関する図である。 MTH132変異は野生型対立アレルに対し優性であることを証明する実験結果を示す。SxmA+変異体 (MATa SxmA+ HEX12-2)、親株SCB38 (MATa HEX12-2)株、及びSCB38 (pMTH1)株を用いた。3個の被試験菌を5 mLのYPX18培地 (キシロース濃度 180g/L)pH 4.0に初発細胞濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、増殖をバイオフォトレコーダーでモニターした。記号:○、 HEX12-2株 SCB38; □、 SxmA+変異体 SCB39; △、 HEX12-2株のpMTH1による形質転換体。 grr133変異は野生型対立アレルに対し劣性であることを証明する実験結果を示す。grr133変異体 (MATa grr133 HEX12-2)、SCB42-1B (MATa HEX12-2) 株及びそれらを掛け合わせた二倍体2株を5 mLのYPX18培地 (キシロース濃度 180g/L)pH 4.0に初発細胞濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、増殖をバイオフォトレコーダーで解析した。記号:○、 HEX12-2株 SCB42-1B; □、 grr133変異体 SCC25; △、▽、 grr133/+ 二倍体 2株。 MTH132変異の特徴付けに関する実験結果を示す。(a) MTH132単独変異体の増殖試験とHEX12-2との相乗効果。記号:▽、HEX12-2株 SCB38; ○、 MTH132単独変異体; △、 MTH132 HEX12-2二重変異体;□、SxmA+突然変異体 SCB39。(b) MTH132変異のHex+性質。記号:□、野生型株; ○、 MTH132単独変異体; △、 HEX12-2単独変異体。
本発明は、変異を有するCDC19、GRR1、MTH1からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子、及び/又は変異を有するGRR1コード領域の上流領域を有する微生物あるいはその利用に関する。さらに本発明は、突然変異によって作出された変異体とその同質系統家系株のゲノム配列を次世代シーケンサーによって決定し、比較ゲノム解析によって変異体の特性に関与する遺伝子変異を特定する技術に関する。
CDC19はピルビン酸キナーゼをコードしている。ピルビン酸キナーゼは解糖系においてホスフォエノールピルビン酸からピルビン酸を生成する反応を触媒しており、キシロースからエタノールが生成する代謝経路の中の1つの酵素であるが、これまでCDC19の変異によってキシロースからのエタノール生産を向上させることが可能であるという報告はない。しかしながら、グルコースの枯渇によってピルビン酸キナーゼの基質であるホスフォエノールピルビン酸が蓄積することが報告されており、これがグルコース枯渇を引き金とするピルビン酸キナーゼの不活性化によるものであると考えられている。通常、グルコースとキシロースが混在する木質など由来の原料を用いた場合、キシロース代謝に必要な遺伝子群を組み込んだ酵母であってもグルコースが優先的に消費される。キシロースの代謝はグルコースが消費されてからが主であることが多いが、ピルビン酸キナーゼはキシロースからエタノールへの変換経路に存在する酵素であることから、ピルビン酸キナーゼ活性が低下することはキシロースからエタノールへの変換に低生産的に働くと推定される。本発明によって見いだされたCDC19における変異はこのようなグルコース枯渇によるピルビン酸キナーゼの活性低下をさせないと考えられる。この変異CDC19を用いることにより、キシロースの消費速度が増大し、キシロースからエタノールの生産性が向上した本発明で育種した微生物あるいは同様に作成した微生物を使用することにより、キシロースからのエタノールなどの有用物質生産能を高めることが可能となる。
また、本発明によりキシロース代謝が向上した自然突然変異体の一つにGRR1のコード領域の上流領域に変異が見いだされた。Grr1pはSCFユビキチンリガーゼ複合体に含まれるタンパク質であり、Mth1p(後述)の機能制御に関わっている。Mth1pは、後述するようにカタボライト抑制の重要な因子の一つである。したがって、GRR1コード領域の上流領域の変異は、GRR1の発現レベルに影響を与えることによって、Mth1pの制御を介してカタボライト抑制に影響を与え、その結果としてキシロース代謝が向上したと考えられる。本発明によって見いだされたGRR1コード領域の上流領域における変異はカタボライト抑制の解除によりキシロースの消費速度が増大するという効果を招いたと考えられることから、本発明で育種した微生物あるいは同様に作成した微生物を使用することにより、キシロースからのエタノールなどの有用物質生産能を高めることが可能となる。
さらに、本発明によってMTH1及びGRR1の変異が高濃度のキシロース存在下における組換え酵母の増殖をもたらすことが見いだされた。本発明において、高濃度のキシロース存在下とは、一般に、従来のキシロース資化性酵母が増殖・生存できないような濃度を意味する。具体的には、180 g/L以上、好ましくは190 g/L以上、最も好ましくは200 g/L以上のキシロース濃度をいう。Mth1pは、グルコースセンサーであるSnf3p及びRgt2p、また、転写因子Rgt1と相互作用するタンパク質であり、カタボライト抑制の制御に関わっている。具体的には、培養液中のグルコース濃度に応じたヘキソーストランスポーター(HXT遺伝子群)の発現制御にかかわっていることが知られている。Grr1pは上述のようにMth1pの機能を、ユビキチン化を介した分解によって制御しているタンパク質である。よって、本発明によって見いだされたGRR1及びMTH1の変異はいずれもMth1pの量的あるいは機能的な変化を介してカタボライト抑制を変化させ、その結果としては、キシロース代謝が向上したと考えられる。本発明によって見いだされたMTH1及びGRR1の変異はカタボライト抑制の解除によりキシロースの消費速度が増大するという効果を招いたと考えられることから、本発明で育種した微生物あるいは同様に作成した微生物を使用することにより、キシロースからのエタノールなどの有用物質生産能を高めることが可能となる。
これらCDC19、GRR1、MTH1、及びGRR1コード領域の上流領域の変異がキシロースからのエタノール生産に効果があることを示した報告はこれまでになく、自然突然変異と変異体の選抜、次世代シーケンサーによるゲノム解析によって本発明により初めて明らかにされた知見である。また、キシロースを含む培地における増殖、高濃度キシロースを含む培地における増殖が高いという表現型は、キシロースを含む培地における酵母の速やかな増殖を介してキシロースからの効率的なエタノール生産をもたらす。また、上記に考察したとおり、これらの変異がカタボライト抑制を制限すると考えられることは、グルコース共存下におけるキシロースの取り込みや代謝にも正の影響を与えるので、やはりキシロースからの効率的なエタノール生産をもたらす。
こうした変異タンパク質及びそれをコードする遺伝子は、その微生物自身のものであってもよいし、機能する限り他の生物由来のものであってもかまわない。また、出芽酵母のこれらの遺伝子ならびに他の生物における同様な機能を有した遺伝子に関する情報はNCBIなどのデータベースを遺伝子名、あるいは、出芽酵母の遺伝子のアミノ酸配列あるいは塩基配列をキーとしたBLASTなどによる配列解析によって見いだすことが可能である。遺伝子としては、ゲノム由来であっても、cDNAでもよい。
Cdc19p、Mth1p、Grr1pの変異したタンパク質及びそれをコードする遺伝子は、機能的に同様である限り、開示された変異以外に1又は数個のアミノ酸あるいは塩基の欠失、置換、付加があってもかまわない。また、これらの変異タンパク質及びそれをコードする遺伝子について、開示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ開示されたキシロースを含む培地における増殖を示す遺伝子も本発明に含まれる。さらに、これらの変異タンパク質をコードする遺伝子について、開示された塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子も本発明に含まれる。ストリンジェントな条件は、当分野で周知であり、配列依存性であるため様々な状況において相違するが、例えば5分間にわたって2 x SSC及び0.5% SDS中で、15分間にわたって2 x SSC及び0.1% SDS中で、30-60分間にわたって37℃で0.1 x SSC及び0.5% SDS中で、次いで30-60分間にわたって68℃で0.1 x SSC及び0.5% SDS中で、ハイブリッドの計算上のTmを12-20℃下回る温度で洗浄する洗浄条件を含む。
同様に、GRR1コード領域の上流領域について、機能的に同様である限り、開示された変異以外に1又は数個の塩基の欠失、置換、付加があってもかまわない。また、開示される塩基配列に対して少なくとも70%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、又は少なくとも99%の同一性を有する塩基配列を有し、その変異を含むGRR1コード領域の上流領域を有した酵母かつ開示されたキシロースを含む培地における増殖を示す配列も本発明に含まれる。さらに、このGRR1コード領域の上流領域について、開示された塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列も本発明に含まれる。
上記のような遺伝子あるいは上流領域は、開示された配列あるいはNCBIなどのデータベースから得られた配列を参照してデザインしたプライマーを用いることによってポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法などを用い、適切なDNAをテンプレートとして得ることができる。また、変異については、Error-prone PCR法の他、あらゆる変異導入法を用いて組み込むことが可能である。
これらの変異遺伝子の発現を制御するプロモーターは内在性のものに限定されない。すなわち、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(TDH3)など他のプロモーターを用いることができる。さらに、プロモーター及び変異遺伝子はプラスミドの形態で酵母に導入されてもよいし、ゲノムDNAに組み込まれても良い。ゲノムDNA上に存在するオリジナルの遺伝子と置換してもかまわない。また、プラスミド、ゲノムへの挿入いずれの場合にもコピー数は問わない。なお、劣性遺伝子の場合は、オリジナルの遺伝子を除去するか、機能を失わせることが必要である。
本発明の酵母は、機能的に同様である限り、上記に示した以外の遺伝子について改変されていても、改変されていなくてもかまわない。また、他の生物からの遺伝子が導入されていてもかまわない。
また、キシロースの代謝の初期過程であるキシロースからキシルロースへの変換のステップが、キシロース還元酵素(XR)とキシリトール脱水素酵素(XDH)であっても、キシロース異性化酵素(XI)であってもかまわず、さらにいかなる生物由来の遺伝子を用いてもよい。さらに、これらの遺伝子がプラスミドとして導入されていても、染色体に挿入されていてもかまわない。コピー数は問わない。
酵母の作成においては、組換えベクターの種類、形質転換法を問わない。
培養液については、キシロースを含んでいれば、他の炭素源の存在を含め、酵母が生育する限り構成成分に限定されない。
有用物質を生産する場合、少なくともキシロースを含む培養液を用い、本発明の酵母を用いて生産することができる。この場合、当該酵母は本発明に示した変異遺伝子を有する他に、当該有用物質を生産するために適した遺伝子が導入されたり、変異遺伝子を有していることが可能である。有用物質としては特に限定しないが、エタノール、乳酸、酢酸、プロパノール、イソブタノール、ブタノール、コハク酸、グリセロールが含まれる。特にエタノールが有用物質として得られることが望ましい。これらの物質は酵母が元来有している代謝酵素の反応によって酵母内で生産される物質、あるいはこれらを生産するために必要な酵素の遺伝子を遺伝子組換え技術によって酵母に導入することによって生産可能となる物質であり、さらには代謝マップを参考に酵素の発現量などを適切に調節することによってより効率的な生産が可能となる。これらの物質を生産するための研究においては、多くは通常のグルコースを炭素源とした培地を用いて当該物質を生産しているが、これら従来の技術に本発明の成果を適用することにより、キシロースを含む炭素源をこれらの有用物質を生産するために用いることが可能となる。すなわち、本発明の成果はバイオエタノールの生産のみならず、さまざまな化成品の原料の生産にも用いることが可能となる。
酵母としてはサッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルベロマイセス属(Kluveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピチア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ハンセヌラ属(Hansenula)が挙げられる。特にサッカロマイセス属(Saccharomyces)が好ましく、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・ボウラルディ(Saccharomyces boulardii)などが挙げられる。
培養方法については、当該酵母がキシロースを含む培養液で生育する限り、形態を問わない。培養液は、木質などの天然物を処理することによって得たキシロースを含む前処理液や糖化液であってもよいし、人工的にキシロース他の物質を調合したものでもよい。天然物を処理して得られた液に化学物質を添加した液でもよい。培養条件は当該酵母が生育し、キシロースを代謝し有用物質を生産する限り、温度、pH、通気条件、攪拌速度、培養時間など限定されない。これらの条件を制御する方法にも限定されない。また、前処理や糖化処理の有無や、糖化処理と同時に発酵をすすめるかという工程についても限定されない。
発酵後の有用物質の精製処理も制限されない。有用物質の種類などに応じて適切な方法を用いることができる。
一方、本発明における「遺伝的背景を利用した論理プログラミング法」の利点は、次の3点に集約される。すなわち、(1)1回の比較で結果を得られること、(2) 非依存・依存に関わらず、株の数が多くなればなるほど精度が上がるという利点があること、(3) さらに、同一の親を持ち、異なる実験系(履歴)により樹立した株を用いることにより、より高い精度で絞り込みが可能になること、である。
「遺伝的背景を考慮した論理プログラミング」による絞り込みは以下の様な実験環境を用意することによって利用可能となる。まず、第一にすべての比較対象となる変異株が同一の親株に由来すること。第二に、親株の全ゲノム塩基配列が高精度で構築されていること。第三に、ゲノム塩基配列における遺伝子情報(開始・停止位置、向き、遺伝子名など)が整備されていることである。また、可能ならば表現型をもたらす変異遺伝子座の数が特定されていることが望ましい。
本発明における「遺伝的背景を考慮した論理プログラミング」は微生物の種類を問わない。また、変異導入の方法、変異の優性劣性にもよらず利用可能である。全ゲノムに相当する配列を決定できれば、シーケンシングの原理、リファレンスを必要とする方法かどうか、及びシーケンシング機器の種類を問わないが、次世代シーケンサーを用いることが好ましい。次世代シーケンサーとは、サンガー法を利用した蛍光キャピラリーシーケンサーである「第1世代シーケンサー」と対比させて用いられている用語であり、DNAポリメラーゼ又はDNAリガーゼによる逐次的DNA合成法を用いて、数千万から数億のDNA断片に対して数十〜数千bpのリード長の断片を網羅的に解析することによって超並列的に塩基配列を決定するための装置を意味する。次世代シーケンサーでは、ジデオキシヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼの伸長を止めるサンガー法を用いた第1世代シーケンサーと異なるシーケンシング原理が用いられている。このような原理として、合成シーケンシング法、パイロシーケンシング法、リガーゼ反応シーケンシング法などが挙げられる。これまでに、多くの企業や研究機関などから、多様な次世代シーケンサーが提供されており、例えば、HiSeq2500 (illumina社)、MiSeq (illumina社)、5500xl SOLiDTM (Life Technologies社)、Ion ProtonTM (Life Technologies社)、Ion PGMTM (Life Technologies社)、GS FLX+ (Roche社)などが挙げられるが、本発明に用いることができる次世代シーケンサーはこれらに限定されない。次世代シーケンサーを用いることにより、極めて短時間でより大きなゲノム領域を対象としたシーケンス解析が可能となる。しかしながら、次世代シーケンサーを用いた解析では、最終的に得られる解読塩基数は膨大であるが、従来のサンガーシーケンスに比べると個々の塩基レベルでの精度は低く、多くのエラーが含まれるため、本発明においては、上述のとおり、変異体と遺伝的に近い同質系統家系株について次世代シーケンサーなどでゲノム情報を得た後、株間の系統関係をゲノム情報に照らし合わせることにより、その株の表現型に合致しうる変異のみを抽出することで、かかる欠点は補償される。
さまざまなバイオマスを利用してエタノールを始めとする有用物質を生産しようとする際、本発明で育種した微生物あるいは同様に作成した微生物を使用することにより、キシロースからのエタノールなどの有用物質生産能を飛躍的に高めることが可能となる。特にヘミセルロース含量が高い原料を用いる場合、また、原料の前処理において高いキシロース濃度を生む方法を用いた場合に特に有効である。本発明により、優れたキシロース代謝能を有する微生物が提供される。また、本発明によって見いだされた遺伝子変異を利用することにより、優れたキシロース代謝能を有する微生物を遺伝子組換え技術などにより作出することが可能となる。さらには、本発明の微生物あるいは本発明によって見いだされた遺伝子変異を有する微生物を用いることにより、キシロースを含有する培地を利用して効率的にエタノールなどの有用物質を生産することが可能となる。さらに、本発明により、次に当該変異株ならびに同質系統家系の変異株のゲノム配列を次世代シーケンサーによって読み取り、当該特性に関与する原因遺伝子を特定する方法が利用可能となる。
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
使用菌株、プラスミド、オリゴヌクレオチドプライマー
使用した菌株とプラスミドを表1に示した。NAM201株とNAM203株は、表1で示したアンプリコンDNAである1と2によるNAM34-4C(FERM AP-21838)のG418耐性転換体であり、それぞれUra-とLeu-を示す。NAM34-4CG2株は一倍体株であり、NAM201とNAM203の強制接合二倍体から生じた子嚢胞子クローンである。NAM300株は、表1で示したアンプリコン3のDNAによるG418耐性転換体で、接合変換した転換体と元の株との接合によって生じた二倍体である。SCA1株とSCA2株はNAM300株から得た一倍体株で、それぞれMATaとMATα株である。SCA3株はSCA1株からkanMX領域を除去した株である。この株は (i) pZeoプラスミドを用いたSCA1株の形質転換、(ii) Creタンパク質発現によるkanMX領域の切除、(iii) pZeoプラスミドの除去という一連の操作で構築した。プライマー (Genenet、 Fukuoka、 Japan) は Primer 3 (http://frodo.wi.mit.edu/primer3/) によってデザインした。S. cerevisiae遺伝子の塩基配列はSaccharomyces Genome Database (http://www.yeastgenome.org/)の情報に基づいた。
表1 本研究で使用した菌株及びプラスミド(1)
a Tfm、 transformation; Tfm (NAM34-4C: kanMX DNA、 G418-r) はkanMX DNAを用いたNAM34-4CのG418転換体を示す。kanMX DNAのフランキング領域に置き換えるDNA領域と相同な40 bp配列持つ。
b Haploid (NAM201 × NAM203)はNAM201とNAM203との掛け合わせで得た4胞子の内の1つを示す。
c YGRS、 Yeast Genetic Resource Center。
d XM、XM2、XM7、XM8はloxP、TEFプロモーター、 kanMX遺伝子、TEFターミネーター、loxP、TDH3プロモーター、TDH3ターミネーターを含む、loxP-PTEF-kanMX-TTEF-loxP-PTDH3-XYL1-TTDH3-PTDH3-XYL2-TTDH3-PTDH3 -XKS1 - TTDH3の遺伝子構造をもつDNA断片である。
e XM3はloxP-PTEF-kanMX-TTEF-loxP- PTDH3- XYL1-TTDH3-PTDH3-XYL2-TTDH3の遺伝子構造をもつDNAである。
f Diploid (SCB13 × SCB103-10D)はSCB13とSCB103-10Dとの掛け合わせで得た2倍体を示す。
培地
酵母の増殖培地として用いたYPD培地は、グルコース20 g、バクト酵母エキス10 g、バクトペプトン20 gを蒸留水1 L当たりに含みpH 5.5に調整した。MS培地はYeast nitrogen base 1.7g、(NH4)2SO4 5gを蒸留水1L当りに含みpH 5.5に調整した。MSD培地はMS培地1 L中に20 gグルコースを含む。MSX培地はMS培地1 L中に20 gキシロースを含む。培地には必要に応じて最終濃度がアデニン(Ade)で50 mg/L、ウラシル(Ura)で50 mg/L、アミノ酸で40 mg/Lとなるように加えた。抗生物質は必要に応じて加えた。G418二硫酸塩(G418)(Nacalai tesque、 Japan)の場合は、最終濃度で362 mg/L、ゼオシン(Lifetechnologies、 Japan)の場合は最終濃度で100 mg/Lとなるように加えた。固形培地には培地1 L当たり20 gの寒天を加えた。SpoKI胞子形成培地は、酢酸カリウム10 gを蒸留水1 L当たりに含みpH 5.5に調整し寒天を20 g加えた。大腸菌の増殖培地として用いたLuria-Bertani (LB)培地は、バクトトリプトン 10 g、バクト酵母エキス5 g、NaCl 10 gを蒸留水1 L当たりに含みpH 7.2に調整した。固形培地には培地1 L当たり15 gの寒天を加えた。ビタミンは必要に応じて、チアミンを最終濃度5 mg/Lとなるように加えた。抗生物質は必要に応じて、最終濃度がアンピシリン(Amp)とカナマイシン (Km) で50 μg/mLとなるように加えた。コンピテントな大腸菌を準備するのに用いたM9培地はNa2HPO4 6.0 g、KH2PO4 3.0 g、塩化ナトリウム0.5 g、1 M MgSO4 2 mL、20% グルコース 10 mL、1M CaCl2 0.1 mL を蒸留水1 Lあたりに含みpH7.5に調整した。
YPX18培地は、YPD培地のグルコースの代わりに180 g/Lのキシロースを加えた培地である。
胞子形成法とその検定法
YPD固形培地上で30℃、1日静置培養した。増殖した被試験酵母菌コロニーを滅菌した爪楊枝で胞子形成培地に移した。30℃、2日-3日静置培養し、胞子形成させた。
滅菌した爪楊枝でサンプルを取り、スライドガラス上に置いた5 μLの滅菌水中に懸濁した。光学顕微鏡で(300倍、対物レンズ×20、接眼レンズ×10、中間変倍×1.5、オリンパス光学顕微鏡BH2)胞子形成を観察し、胞子形成を検定した。
Mass mating法
被試験の酵母菌細胞を滅菌した白金線で2 mLのYPD液体培地に植菌した。さらに接合型の分かった酵母菌細胞を滅菌した白金線で同じ培地に植菌した。この混合した2 mLのYPD懸濁液を30℃で一晩静置培養した。
接合子の判定
mass matingした細胞培養取り、スライドガラスにのせた。カバーガラスをその上にのせ光学顕微鏡で観察した。典型的な不規則な形をした細胞が出現すれば、接合が起こっていると判断した。
ミクロマニプレーターによる酵母菌の単細胞分離
被試験菌をYPD固形培地に植菌し、30℃で1日静置培養した。生じたコロニーを2 mLのYPD液体培地に懸濁し、20 mLのYPD固形培地の上に火炎滅菌した白金耳で載せた。その後、ミクロマニプレーター (シンガーMSMシステム200、Singer Instruments、 Roadwater、 Watchet、 Somerset TA23 0RE、 UK) を用いて、顕微鏡下、典型的な二倍体酵母である卵形に近い形の単細胞を分離した。30℃で2日静置培養し、単細胞から増殖したコロニーを得た。
子嚢胞子の解剖
胞子形成培地上の細胞を300 μg/mL 最終濃度でzymolyase20 を含む75 μLの0.015 M リン酸カリウム緩衝液pH7.5に懸濁し30℃で20分保温した。その後、滅菌白金耳で胞子懸濁液を取り、YPD固形培地上に移した。ミクロマニプレーターで4胞子を単胞子ずつに解剖した後、30℃で2日から3日静置培養した。
DNA抽出、PCR、形質転換、塩基配列決定
大腸菌のプラスミドDNA抽出は、High Pure Plasmid Isolation Kit (ロッシュ・ダイアグノスティック(株)、東京、日本)を用い、添付のプロトコールに従い抽出した。酵母菌のDNA抽出は、GenとるくんTM(酵母用) High Recovery (タカラバイオ(株) 日本)を用い、添付のプロトコルに従い抽出した。PCR反応はKOD FX (TOYOBO、 日本)を用いて行った。反応試薬に2 × PCR buffer for KOD FX、2 mM dNTPs、 Template DNA (4 ng)、primer (2.5 p mol)、KOD FX DNA Polymerase (1.0U/μL)を添加した (合計50 μL)。軽くスピンダウンし、94°Cに保持されたサーマルサイクラーにセットした。PCR反応時間は増幅断片の大きさによって変えた。1 kbの断片を増幅するときは、94°Cで15秒、54°Cで30秒、68°Cで1分のサイクルを30回繰り返し、その後68°Cで5分保持することによって増幅した。
大腸菌の形質転換はエレクトロポーレーションを用いて以下の方法で行った。大腸菌DH10B培養菌体(Abs600 nm = 0.5〜0.8)を1 mM HEPES緩衝液で洗浄後、10%グリセロールに懸濁しコンピテント細胞を調製した。Gene Pulser Xcell Electroporation System (2、500 V、Gap:0.2 cm、25 μF、200 Ω) を用いてDNAを移入した。酵母の形質転換は、酢酸リチウム法を用いて行った。
塩基配列決定は、Applied Biosystems 3130ジェネティックアナライザーとBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを用いて行った。
バイオフォトレコーダーを用いた細胞増殖の解析
YPD固形培地で30°C、一晩培養した被試験株を10 mLのYPD培地に植菌し、30°C、24時間振盪培養 (120 rpm、往復振盪/分) した。細胞は4°C、2400 × gで1分間遠心分離して集め滅菌水に懸濁した。細胞懸濁液は初期濃度がAbs660nm = 0.014となるように5 mLのMSD培地(5-mL容量のL字試験管)に植菌した。細胞濃度をバイオフォトレコーダー (TVS062CA; Advantec Toyo Kaisha、 Tokyo)で自動的に記録し、世代時間の解析を行った。
キシロース資化遺伝子XYL1、XYL2、XKS1を持つS. cerevisiaeの構築
pKX1X2XKSのkanMX領域からXKS1領域までを1対のプライマーであるR-GAPDHt(URA+SacII)(配列番号1)とF-LTKTL(URA+ApaI) (配列番号2)を用いて増幅した。その後、増幅したDNAを用いてSCA3株のG418耐性転換体を選択した。2つのプライマーはura3遺伝子の相同領域を持つので、G418耐性転換体はウラシル要求性を示す。
cre発現によるkanMXマーカーの除去
cre発現プラスミドpZeoを形質転換法で移した株をゼオシン耐性転換体として分離した。次に、5mLのYPDAU+Zeo培地に被試験菌を1白金線植菌し、30°Cで約16時間振盪培養した。この培養液のAbs600nmを測定し、濁度が1以上になっていれば培養液4 mLを3500 × g、 1分間遠心分離した。上澄みを捨て、ボルテクスミキサーで混ぜた。4 mLの滅菌水に懸濁した。この操作を2回繰り返し洗浄した。洗浄した菌体を1 mLの滅菌水に懸濁し、100 μLを5 mLのYPGalAU培地に植菌し、30°Cで1時間培養した。培養液4 mLを3500 × g、 1分間遠心分離した。上澄みを捨て、ボルテクスミキサーで混ぜた。4 mLの滅菌水に懸濁した。これを2回繰り返し洗浄した。懸濁液を適当に希釈して、YPDAU平板培地に塗抹した。コロニーが確認できれば、YPDAU、YPDAU+G418、YPDAU+Zeo平板培地にそれぞれ50個ずつ移しG418感受性株を選択した。プラスミドを除去するために、選択した株を5 mLのYPDAU 培地に1白金線植菌し、30°Cで約16時間振盪培養した。培養液を適当に希釈し、YPDAU培地に塗抹した。コロニーが確認できればYPDAU、YPDAU+Zeo平板培地に50個ずつ移し、ゼオシン感受性株を選択した。
高効率キシロース資化を示す変異体の分離(1)
SCB7株を10 mLのYPD培地で30°C、 24時間、往復振盪培養 (120 rpm)し、2400 × g、 4°C、 1分間で遠心分離した後、滅菌水に懸濁した。5-mLのL字試験管内にウラシルを含む5 mL MSX培地に、細胞懸濁液を初発濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、バイオフォトレコーダーにより増殖を解析した。濁度が急激に増加した時、懸濁液をMSX固形培地に塗抹し、30°Cで2-3日間培養した。大きなコロニーを選び、YPD培地に移した。必要に応じて、ミクロマニプレーター (Singer MSM systems series 400、 Minerva Tech.、 K.K.、 Tokyo、 Japan) により単細胞分離を行った。突然変異体であることを確認する為に、細胞増殖をバイオフォトレコーダーで解析した。独立した突然変異体を分離する為に、1つの変異体は独立したL字試験管から分離した。
回分発酵試験(1)
YPD固形培地で30°C、一晩培養した被試験菌を50 mLのYPD培地 (pH4.0) に植菌し、30°C、24時間往復振盪培養 (120 rpm)した。その後、細胞懸濁液を50 mLのYPX3培地に初期濃度Abs660nm=1.0となるように植菌し、35°C、48時間振盪培養した。発酵培地中のエタノールとグルコースの濃度を決定するために、4°C、20、400 × gで5分間遠心分離して上澄みを得た。
グルコース、キシロース、エタノール濃度の解析
上澄み中のグルコース、キシロース、エタノールの濃度は、自動サンプラーBF30ASX、過酸化水素電極、二次元検出システムを備えた4チャンネルバイオセンサーBF7M (Oji Scientific Instruments、 Hyogo、 Japan) を使用して測定した。バイオセンサーの酵素は、グルコースにはグルコースオキシダーゼ(E. C. 1. 1. 3. 4)、キシロースにはピラノースオキシダーゼ(E. C. 1. 1. 3. 10)、エタノールにはアルコールオキシダーゼ(E. C. 1. 1. 3. 13) を用いた。反応の際に生じる過酸化水素をプラチナ電極で電気分解し、その時に生じる電圧の変化を検出システムで測定した。エタノール収率 (%) は、生産したエタノール濃度(g/L)と理論上の最大エタノール濃度(g/L) {0.51×初期グルコース濃度(g/L)}の比(%)として定義した。
表2 本研究で使用した菌株及びプラスミド(2)
※記述に関しては表1に同じ。
高効率キシロース資化を示す変異体の分離(2)
SCB14株を10 mLのYPD培地で30°C、 24時間、往復振盪培養 (120 rpm)し、2400 × g、 4°C、 1分間で遠心分離した後、滅菌水に懸濁した。5 mLのL字試験管内にウラシルを含む5 mL YPX18培地に、細胞懸濁液を初発濃度Abs660nm=0.014となるように植菌し、バイオフォトレコーダーにより増殖を解析した。濁度が急激に増加した時、懸濁液をYPX18固形培地に塗抹し、30°Cで2-3日間培養した。大きなコロニーを選び、YPD培地に移した。必要に応じて、ミクロマニプレーター (Singer MSM systems series 400、 Minerva Tech.、 K.K.、 Tokyo、 Japan) により単細胞分離を行った。突然変異体であることを確認する為に、細胞増殖をバイオフォトレコーダーで解析した。独立した突然変異体を分離する為に、1つの変異体は独立したL字試験管から分離した。
回分発酵試験(2)
YPD固形培地で30°C、一晩培養した被試験菌を50 mLのYPD培地 (pH4.0) に植菌し、30°C、24時間往復振盪培養 (120 rpm)した。その後、細胞懸濁液を50 mLのYPX5培地もしくはYPD6X3培地に初期濃度Abs660nm=1.0もしくは20となるように植菌し、35°C、48時間振盪培養した。発酵培地中のエタノールとグルコースの濃度を決定するために、4°C、20、400 × gで5分間遠心分離して上澄みを得た。
S. cerevisiae NAM34-4C株からの同質系統株構築
NAM34-4C株の同質系統株の構築を行った。ura3Δ::kanMX DNAによる形質転換でNAM201株を、leu2Δ::kanMX DNAによる形質転換でNAM203株を作製し(表1)、それらの強制集団接合により二倍体を構築した。その子嚢胞子を解析し、MATa型株は分離できなかったが、NAM34-4Cよりも接合能が改善されたNAM34-4CG (MATα)株を分離した(表1)。そのNAM34-4CG株のSH6703株由来のMATa領域DNAによる形質転換でMATa株SCA1を構築した。次に選択で用いたkanMXを除去したSCA3株を構築した(表1)。遺伝解析に優れたMATα株としてSCA2株を選んだ。
キシロース資化性同質系統株の構築
pKX1X2XKSプラスミドを鋳型に作製したアンプリコンDNA (ura3’-loxP- kanMX-loxP-PTDH3-XYL1- TTDH3-PTDH3-XYL2-TTDH3-PTDH3-XKS1-TTDH3-’ura3) によるSCA3株の形質転換でキシロースからキシルロース-5-リン酸まで代謝できうる株をG418耐性転換体として分離した。ウラシルを加えたキシロース最少培地 (MSXU、 pH 5.5、キシロース濃度 20 g/L) 温度35°Cで、転換体の増殖試験を行ったところ4株が増殖した(図2)。これらをSCB4、SCB5、SCB6、SCB7株と名付けた。
SCB7株の最も早い世代時間 (Gshort)は5時間であった。キシロースを資化できSCB7株の遺伝子構造を解析したところ、期待通りのloxP-PTEF-kanMX-TTEF- PTDH3- XYL1- TTDH3-PTDH3-XYL2-TTDH3- PTDH3- XKS1-TTDH3であることをPCR解析と塩基配列解析で確認した。
高効率なキシロース資化を示す変異体の分離 (Hex+変異体)
SCB7株の最少世代時間よりも早い増殖を示す自然突然変異体の分離を行った。すなわち、SCB7株をMSUX培地(pH5.5)、35°Cで振盪培養し、早い増殖を示す独立した4個の突然変異体を分離した。単細胞分離後にそれら突然変異体の増殖をキシロース最少培地(キシロース濃度 20g/L)で調べ親株SCB7と比較した(図3)。4個の突然変異体はほぼ同じような増殖速度を示した。SCB14株のGshortは2.5時間であり、この値は親株であるSCB7株のGshort=5時間の半分であった。そこで、この高効率キシロース資化性を導く遺伝子を {high efficiency of xylose assimilation (HEX) mutation}と名付け、その変異型の表現型をHex+と定めた。
Hex+を導く突然変異の遺伝解析
Hex+表現型を導く突然変異の遺伝解析を次の様にして行った。(i) 4個の変異体が持つ変異数の決定;(ii) 野生型対立アレルに対する変異の優性・劣性試験;(iii)変異遺伝子間の連鎖解析。最初にSCB14株に関して変異数を解析した。Hex+株であるSCB14株 (MATa pho87Δ ura3Δ::XM8 HEX2-2)と野生型株であるHex-株 SCB103-10D (MATα ura3Δ::XM8) とを掛け合わせ、ヘテロな二倍体を作成し、胞子形成させた。調べた24子嚢において、全ての胞子はHex+ : Hex- が2:2に分離した。MSUX培地(pH5.5、キシロース濃度 20g/L)、35°Cでの典型的な増殖パターンを図4aに示す。残りのHex+株 (SCB13、SCB15、SCB16)と野生型株のSCB103-10Dとを掛け合わせた結果も、全てHex+ : Hex-が2:2に分離した。調べた子嚢の数はSCB13、SCB15、SCB16においてそれぞれ30子嚢、24子嚢、30子嚢である。これらの結果は、突然変異体はそれぞれ1遺伝子変異によってHex+の表現型になることを示している。
4個のHex+を導く変異が野生型対立遺伝子対して優性かどうか解析するために、Hex+変異体 (SCB13、SCB14、SCB15、SCB16)とHex-の野生型株SCB103-10Dとを掛け合わせて得た二倍体をMSUX培地 (pH5.5、キシロース濃度 20g/L)、35°Cで解析した。Hex1-5 +のSCB13株とHex-のSCB103-10D株とを掛け合わせて得たHex1-5 +/Hex-二倍体SCB104は、Hex-/Hex- 野生型二倍体SCB112と同様の増殖を示した (図4b)。すなわちHEX1-5変異は野生型対立遺伝子に対して劣性であった。残り3個の二倍体はHex+変異体と同様に早い増殖を示した (図4c、d、e)。従って3個の変異体SCB14、SCB15、SCB16が持つ変異は、野生型対立遺伝子に対して優性であった。そこで3個の変異をそれぞれHEX2-2、HEX2-3、HEX2-9と定義した。
HEX1-5、HEX2-2、HEX2-3、HEX2-9変異の連鎖関係を解析するために、変異体間で可能なすべての掛け合わせを行った (HEX2-2 × HEX2-9、HEX2-2 × HEX2-3、HEX2-2 × HEX1-5、HEX1-5 × HEX2-3)。HEX2-2変異体SCB105-3A とHEX2-9変異体SCB107-8Dを掛け合わせて得た二倍体SCB113を胞子形成させた。調べた16子嚢の4胞子は、すべてHex+ : Hex-が4+ : 0-に分離した。他の掛け合わせ (HEX2-2 × HEX2-3 、 SCB114 ; HEX2-2 × HEX1-5、 SCB115 ; HEX1-5 × HEX2-3、 SCB116) から得た二倍体を胞子形成させた結果、Hex+ : Hex-が4+ : 0-、3+ : 1-、2+ : 2-に分離した。調べた子嚢の数はSCB114 が11子嚢、SCB115が8子嚢、SCB116が8子嚢であり、4+ : 0-、3+ : 1-、2+ : 2-の分離比はそれぞれ2:8:1、3:4:1、2:4:2であった。MSUX培地(pH5.5)、35°Cで3+ : 1-分離したSCB114の4胞子の典型的な増殖パターンを図4fに示す。
以上のことから、HEX1-5、HEX2-2、HEX2-3変異はそれぞれ連鎖しておらず異なる遺伝子であること、HEX2-2とHEX2-9変異は近傍に位置し、同じ遺伝子であることを強く示唆している。そこで、HEX2-2又はHEX2-9変異遺伝子をHEX1、HEX2-3 変異遺伝子をHEX2、HEX1-5変異遺伝子をhex3と命名した。
Hex+変異体の回分発酵試験
4個のHex+変異体SCB13、SCB14、SCB15、SCB16株とその親株であるSCB7株を用いて回分発酵を行い、キシロースからのエタノール生産を解析した。キシロース30 g/Lを含むYPX培地pH 4.0、35°C、初期細胞濃度Abs660nm=1.0で植菌し振盪培養(60 rpm)した。全てのHex+変異体は培養時間が進むにつれて迅速に増殖したが、SCB7株は培養初期段階で増殖の遅延が見られた(図5a)。キシロース消費とエタノール生産は、増殖に比例してそれぞれ減少と増加が見られた (図5 bとc)。HEX12-2変異体は発酵開始から24時間以内に4.8 g/Lのエタノールを生産し、SCB7株が24時間以内に生産したエタノール量 (3.4 g/L)よりも1.4倍高かった。HEX12-2変異体のエタノール収率は47%だった。HEX12-3変異体のエタノール生産量と収率はHEX12-2変異体と類似していた。培地中のキシロース濃度は4個のHex+変異体で類似しており、24時間までに1 g/L/hrの速度で直線的に減少した。これらの結果はHEX1、HEX2、hex3変異は、発酵初期で効率的なキシロース消費とエタノール生産を始めることを示している。
HEX突然変異遺伝子の特徴づけ(1)
キシロース資化性が向上する突然変異として、これまでに少なくとも2個の遺伝子が報告されている。そのひとつはpho13欠失変異であり、もうひとつはTAL1遺伝子産物をPGKプロモーターなどで高発現した例である。そこで、3個のHEX突然変異遺伝子の中にPHO13やTAL1遺伝子があるのかどうかを解析した。pho13欠失変異はPho13タンパク質を生産しないので、野生型対立アレルに対し劣性になる。そこで劣性変異hex31-5遺伝子がPHO13遺伝子かどうかを図6に示した実験デザインで解析した。まず、pho13欠失変異 (pho13Δ::kanMX)であるSCB45株を作成した(図6a)。
次にSCB45株がHex+を示すかどうかをキシロース培地で確認した。キシロース培地(キシロース濃度 20g/L)での増殖は、野生型株の増殖よりも明らかに早く、Gshortは2.5時間とhex31-5変異体と類似していた (図7a)。またpho13欠失変異は野生型に対し劣性であることを確認した (図7b)。すなわちpho13Δ/野生型の二倍体の増殖はpho13Δ/ pho13Δの二倍体よりも遅く、野生型/野生型の二倍体の増殖に極めて似ていた (図7b)。そこでpho13Δ/hex31-5ヘテロ二倍体を構築し、この二倍体の増殖がpho13Δ/ pho13Δやhex31-5/hex31-5二倍体と類似しており、野生型/野生型の二倍体よりも早いことを確かめた。その結果、pho13Δ/hex31-5二倍体の増殖は変異型二倍体と同程度の早い増殖を示しており、hex3はpho13変異であることが分かった(図7b)。
HEX12-2及びHEX22-3は、TAL1遺伝子変異であるかどうかを解析した。最初に、PTDH3-TAL株を構築した。TAL1領域の遺伝子構造は、loxP-kanMX-loxP -PTDH3-TAL1である。次に、SC系統株でもPTDH3-TAL1株が、Hex+を示すかどうかをキシロース培地で確認した。その結果、キシロース培地での増殖は野生型株の増殖よりも明らかに早く、Gshortは2.5時間とHEX12-2やHEX22-3変異体と類似していた (図7a)。そこでHEX12-2又はHEX22-3とPTDH3-TAL1株とを掛け合わせてヘテロ二倍体を分離し、胞子形成後に4分子の中に野生型株が生じるかどうかで変異遺伝子間の連鎖関係を解析した。HEX12-2 × PTDH3- TAL1とHEX22-3 × PTDH3-TAL1から得た二倍体を胞子形成させたところ、Hex+ : Hex-が4+ : 0-、3+ : 1-、2+ : 2-に分離した。すなわち、野生型株が出現した。従って、TAL1遺伝子はHEX12-2及びHEX22-3とは異なる遺伝子であった。さらに二重株の相加的効果や相乗的効果は見られなかった。調べた子嚢の数はPTDH3-TAL1/HEX12-2二倍体 SCB47 で20子嚢、PTDH3-TAL1/HEX22-3二倍体 SCB48 で20子嚢であり、4+ : 0-、3+ : 1-、2+ : 2-の分離比はそれぞれ4 : 12 : 4と5 : 12 : 3であった。
HEX1はADE1遺伝子に連鎖していることが分かった。すなわち、ade1Δ1 URA3::XM8株とHEX12-2株との間で4分子解析を行ったところ、調べた24子嚢で、親型 (ade1 : ade 1: HEX1 : HEX1) : T型 (ade1 : ade1 HEX1 : W.T :HEX1) : 非親型 (ade1 HEX1: ade1 HEX1 : W.T: W.T) が、20 : 4: 0であった。このように、ade1とHEX1の間で組換え体の出現が低いことから、HEX1遺伝子は酵母I番染色体ADE1に連鎖していた。次世代シーケンサー解析の結果からHEX12-2とHEX12-9の候補遺伝子でI番染色体ADE1に連鎖した変異は、CDC19のみであった。従ってこの遺伝子変異がHEX12-2の有力な候補であると考えられた。
リファレンス株ドラフトゲノム配列の作成
エタノール生産実用酵母NAM34-4C株をYPD培地(2% ペプトン[BD]、1% イーストエクストラクト[BD]、2% グルコース[和光純薬工業])にて一晩培養を行い、GenとるくんTM(酵母用)High Recovery(タカラバイオ)を用いて、プロトコルに従いゲノムDNAを調整した。
得られたNAM34-4C株ゲノムDNAを用いて、GS FLX Titanium system(Roche Diagnostics)を用いたペアエンド法による全ゲノムシーケンシングを本シーケンサーのプロトコルに従って行い、平均鎖長368 base、 1,030,498リードからなる総塩基数379,166,058 baseの塩基配列情報を得た。本リード情報を用いて、GS De Novo Assembler(Roche Diagnostics)softwareによるアセンブルを行い、3,861 コンティグからなる総塩基数11,594,757 baseの塩基配列情報からなるドラフトゲノム配列ver.0を構築した。さらにペアエンド情報を利用しコンティグ間をギャップ(N)として結合した結果、平均冗長度31.2倍、 56 スキャフォールド、 11,614,635塩基配列からなるドラフトゲノム配列 ver.1を構築した。
次に、NAM34-4C株ゲノムDNAを用いて、SOLiD 3 system(Life Technologies)による全ゲノムシーケンシングを本シーケンサーのプロトコルに従って行い、鎖長50 base、 285,503,052リードからなる総塩基数14,275,152,600 baseの塩基配列情報を得た。得られたリードデータをNAM34-4Cドラフトゲノム配列 ver.0をリファレンスとして用いて、BWA (http://bio-bwa.sourceforge.net)及びSAMtools (http://samtools.sourceforge.net)によってリードデータのリファレンスへのマッピングを行い、ドラフトゲノム配列ver.0と異なる塩基を検出した。その結果、2,242箇所において塩基の相違が検出された。これらの異なる塩基をドラフトゲノムver.0に反映したドラフトゲノム配列を作成し、本ドラフトゲノム配列をリファレンスとして、再度、SOLiD 3 systemによって得られたリードデータをBowtie (http://bowtie-bio.sourceforge.net)によって1箇所に完全一致の条件でのマッピングを行った。これらの相違箇所において、ドラフトゲノム配列ver.0をリファレンスとして用いた場合と比較して冗長度が高くなった相違箇所は、1,730箇所であった。これらの相違箇所は、GS FLX Titanium systemによるシーケンシングエラーと考えられたため、SOLiD 3 systemによるシーケンシング結果を反映させ、前述のペアエンド情報によるコンティグ間の結合によって、56 スキャフォールド、 11,614,855塩基配列からなるドラフトゲノム配列ver.2を作成した。
次に、NAM34-4C株ゲノムDNAを用いて、ドラフトゲノム配列ver.2の各スキャフォールド配列中に存在した483カ所のギャップについて、3730xl DNA Analyzer(Life Technologies)を用いたサンガー法によるシーケンシングを行い、389カ所の塩基配列を決定した。これらの塩基配列を反映し、決定できなかったコンティグ間のギャップをN100で結合した、56 スキャフォールド、 11,563,143塩基配列からなるドラフトゲノム配列ver.3を作成した。
次に、実験室酵母S288c株ゲノム情報(http://www.yeastgenome.org)における全遺伝子アミノ酸配列情報を用いて、Exonerate (http://www.ebi.ac.uk/~guy/exonerate/)によるドラフトゲノム配列ver.3における遺伝子の検出を行い、本ドラフトゲノム配列に5,669遺伝子の情報を付与した。
ゲノムDNAの調製
上記の手法によって分離されたキシロース代謝向上株HEX12-2、 HEX12-9、 HEX22-3、 hex31-5をそれぞれコニカルチューブにおいて15mLのYPD培地に植菌し150 rpm、37℃、好気条件により一晩培養を行った。得られた菌体(約OD600=1.0)を8分割し、じぇんとるくん(酵母用、タカラバイオ)を用いて所与のプロトコルに従ってゲノムDNAの精製を行った。精製されたゲノムDNAをTris-HCl (pH 8.0)により抽出し、濃度を測定の上、SOLiDフラグメントライブラリの作製まで4℃で保存した。なお、後述する高濃度キシロース代謝向上株SXM1、 SXM2についても同様に実験を行った。
SOLiDフラグメントライブラリの作製
キシロース代謝向上変異株の全ゲノムDNA配列を次世代シーケンス解析によって明らかにするために、上記1により精製されたゲノムDNAを用いて所与のプロトコルに従ってSOLiD5500フラグメントライブラリをそれぞれ作製した。まず、3-5 μgのゲノムDNAを超音波破砕装置COVALISを用いて約150 - 200 bpになるように物理的断片化を行った。アガロースゲル電気泳動で適当なサイズ及び量が得られていることを確認し、精製の後、P1及びP2アダプターをゲノムDNA断片にT4DNAライゲースを用いて結合させた。次に、ライブラリ増幅のためP1-P2特異的プライマーを用いた少数のサイクル(5-10サイクル)でPCRを行うことにより増幅バイアスを最小限に抑えつつ均一なライブラリの増幅を行いSOLiDフラグメントライブラリを構築した。それぞれのサンプルは同時シーケンスを行うために、それぞれ独立したバーコード配列を付与した。最終的なフラグメントライブラリの平均サイズは、バイオアナライザーにより約220-250bpのシングルピークであることを確認した。また、得られたライブラリの濃度はいずれも10 pM以上であった。
Emulsion PCRによるビーズ調製とデポジッション
次世代シーケンサーSOLiDシステムでは、マイクロビーズの上に調製されたゲノムDNA由来の鋳型DNA断片を用いて大規模なシーケンシングを行う。そのため、上記で作製したライブラリ50 μL - 70 μL (0.5pM - 0.7pM)を用いて、1つのビーズ上に1つの鋳型DNAとなるようにエマルジョンPCRを行った結果、得られたSOLiD5500ライブラリは約3.0 X 109であった。得られたビーズをフローセルに共有結合させ、洗浄の後、シーケンシングに供した。
次世代シーケンシングラン
シーケンシングランを行う前に少量のライブラリビーズを用いて、WFAランを行い、作製したビーズの品質を確認した後、プロトコルに従ってフラグメントシーケンシングを行った。SOLiD5500シーケンシング(75bp)によりそれぞれシーケンシングランを行いリードデータの取得を行った。Satay plotにより各シーケンシングサイクルにおけるカラーバランスを確認し、シーケンシングランが良好であることを確認した。
一次データ解析とSNPs calling
上記で記載したようにNAM34-4C(haploid株)のゲノムデータGIR01_scaffoldv3r1を参照配列として、それぞれの変異株のシーケンスリードデータ(sxqファイル)をLifeScopeソフトウェア(Life Technologies社)を用いてマッピング及びSNPs抽出を行った。マッピングはmapreadsの基本条件のまま行い、diBayseの解析条件はhigh stringencyかつuniquely mappingされたリードデータのみを用い、取りこぼしがないようにカットオフ閾値を設定せずに変異可能性のある候補をすべてリストアップした。マッピングの結果、それぞれ変異株において、いずれもX100以上のdepth of coverageのデータを取得することができた。また、diBayesによる変異解析の結果、変異株のSNPsとして下記の表の通りの結果を得た。なお、SNPsのみならず塩基の欠損・挿入の可能性を考慮してInDelの解析も同時に行ったが、有意なInDel変異は得られなかったため、HEX/SXM変異株は塩基置換による変異によるものと考えられた。
二次解析(変異データの遺伝子情報への落とし込み)
上記のパイプラインにより得られた変異データ(gffファイル形式)はリファレンス配列NAM34-4Cゲノムにおける変異ポジション)と変異塩基(リファレンス塩基→変異塩基)及びcoverageに関する情報のみで、具体的にどの遺伝子のどの場所の変異かという相対的な情報が欠落している。そのため、すでに示した通りNAM34-4Cリファレンスゲノムより抽出したORF情報を用いて、変異ポジションと変異タイプを抽出するため、プログラミング言語Rubyを用いてフィルタリングプログラムを記述し、必要な遺伝子情報の抽出を行った。同時に、coding region内の変異の場合には、アミノ酸置換あるいはナンセンス変異(ストップ)についても同様にデータ抽出を行った。
得られた変異データはdiBayesによりリードデータとリファレンスデータの間に差異があるものすべてであるが、個々の変異データは決して均一ではない。個々の塩基で見れば、depth of coverageと変異を含むリード数がそれぞれ異なるからである。また、変異タイプは可能性として3種類(リファレンス塩基以外の3種)が存在する。この3種類の変異タイプは場合によっては1種類のみ(例:A→T)であるが、場合によっては3種ともある比率で変異がコールされる場合もある(例:A→T(80%)、 C(10%)、 G(10%))そこで、これらの変異の確からしさの指標として、当該塩基ポジションにおける全coverageではなく、ATCGのいずれかとしてコールされた数を分母とし、最大の変異としてコールされた変異タイプ(例えば、リファレンスA→変異Gである)リード数を分子とするP-valueを導入した。一般的に用いられるP-valueと異なる点は、Nとしてコールされたものを排除している点にある。次世代シーシングでは、ATCGの4塩基としてコールされるだけでなく、当該ポジションがNとしてコールされる、すなわちATCGのひとつに特定できない場合があることを考慮している。これによってより正確性の高いデータを得ることができる一方、ロスするデータが出てくるため、その分を見越して全体のcoverageをより高く設定しシーケンシングを行う必要性がある。これによって、候補変異のクオリティを比較することが可能となった。
遺伝的背景を考慮した論理プログラミングによるキシロース代謝向上に関わる遺伝子変異の絞り込み
次世代シーケンシングを用いた全ゲノム解析によって、いずれの変異株にも1,000ヶ所程度の変異が検出され、次世代シーケンシングによるエラーも多く含まれていると推定された。たとえ次世代シーケンシングによって正確な全ゲノム塩基配列を取得できたとしても、また原因変異の数が遺伝学的解析によりいくつ存在するかが明らかになっていたとしても、1000個の変異候補の中から、1〜数個の原因変異を見つけ出すのは容易ではない。P-valueを導入することによって、より確からしい変異をランキングすることは可能であるが、そもそもdiBayesによって検出される変異候補の相当数の変異が上位にランキングされるため、このP-valueはあくまで変異が変異株ゲノムに存在するかどうかの確からしさの指標であり、表現型に関与する変異を実験的に検証することは実質的に不可能である。そこで、本発明では変異候補の絞り込みを可能にするため、「遺伝的背景を考慮した論理プログラミング」を考案した。
各株間の系統関係は図1bの通りである。基本的に、長期培養による変異導入では変異は独立そしてランダムに起こる。そのため、同じ場所に同じ変異が入る可能性は限りなくゼロに近い。また、一度獲得した変異が変異前の塩基に戻る(先祖返り)する可能性も同様にゼロに近いと考えられる。そこで、今回取得した6変異株の系統関係を考慮し、ある株の一つの変異に着目したときに、その変異が他の5株に論理的に存在しうるかどうかについて表3にまとめた。表3中の0は変異が存在してはいけない、1は変異が存在しなければならないことを意味しており、これらを組み合せて、2の6乗、64通りのバイナリーコード(2進法)で示している。Level 1はデータを信頼した場合に、各株で検出された当該変異の組み合わせが、どの株に特有の変異であるかを示している(No.2-6,31)
なお、この方法では、表3に示した通り、すべての実験データが正しいと仮定した場合だけでなく、エラーが存在した場合についても同様に解析することが可能である。Level 2はリファレンスが間違っていて1つの株だけで変異が存在する場合(No.1,8−22)、Level 3はリファレンス以外の実験データの1つが誤りである場合(No.34,59−63)に検出されうる変異組合せを示している。なお、上記以外の組合せは、いずれのLevelにおいても、論理的に真ではない(nonsense)あるいはすべてに共通する変異(COMMON)あるいは変異が存在しない(No mutations)であるため、各株の表現型に寄与しうる変異候補から除外される。
HEX突然変異遺伝子の特徴づけ(2)
そこでCDC19がHEX12-2変異かどうかを確かめる実験デザインを建てた(図8)。
CDC19のフランキング領域にkanMXを組み込んだ形質転換体を分離し、その増殖を調べたところ、期待通りHex+を示した。次に、kanMX-CDC19のDNAをPCR増幅し、増幅DNAによるキシロース資化性(SCC2-11B)株のG418耐性形質転換体を選んだ。その結果、転換体100個中29個がHex+を示した(図9a)。従ってHEX12-2はCDC19遺伝子であった。遺伝学的な解析法でHEX12-9は、HEX12-2と同じ遺伝子であると推定したが、同様の実験デザインで確かめたところ、確かにHEX12-9もCDC19であった(図9b)。また、HEX12-2及びHEX12-9遺伝子の塩基配列を決定したところ、構造遺伝子内の置換変異(配列番号5の第272番目におけるプロリンのトレオニンによる置換、及び配列番号5の第344番目におけるアラニンのプロリンによる置換に相当する)を確認した。
HEX2遺伝子は次世代シーケンサー解析からGRR1コード領域の上流領域における変異と考えられた。そこで、図10で示した実験デザインを用いて特定した。
すなわち、ade1Δ1 XM株にADE1+ DNAと変異型GRR1 DNAを加え、Ade+形質転換体を得た。次にこの形質転換体を100個選び、10 g/Lのキシロースを含むMSX最少固形培地 pH 5.5に白金線でストリークし、30°Cで2-4日静置培養した。その結果、2個の被試験菌が増殖した。それら2株のMSX培地 pH 5.5での増殖を確認したところ、キシロース培地で早いHex+増殖を示した(図11a)。またGRR1コード領域の上流領域を塩基配列解析したところ、次世代シーケンサー解読したGRR1コード領域の上流領域における置換変異を認めた(データには示さない)。このことからHEX22-3遺伝子はGRR1のコード領域の上流領域における変異であると結論した。また、HEX22-3遺伝子の塩基配列を決定したところ、コード領域の上流領域内の置換変異(配列番号6の第-333位におけるアデニンのチミンによる置換)を確認した。
遺伝学的な解析法でHEX3遺伝子は、PHO13遺伝子であることを証明したが、図8で示した実験デザインでも解析したところ、HEX3は確かにPHO13遺伝子であることを認めた(図11b)。
酵母の増殖に対するキシロースの阻害濃度
キシロース濃度を20 g/Lから200 g/Lまで変化させたYPX培地 pH 4.0にSCB14株を植菌し、35°Cで振盪培養した。細胞増殖をバイオフォトレコーダーで解析したところ、キシロース濃度が増加するにつれてSCB14株は強い増殖阻害を受け、180 g/Lキシロース以上の濃度では増殖しなかった(図12)。取り込まれたキシロースが代謝を直接又は間接的に抑制しているか、あるいはキシロースからの代謝中間体による増殖阻害と考えられる。
高濃度キシロースでも効率よくキシロースを資化できる突然変異体を分離し、その要因を解析する実験デザインを建て、選択培地をYPX18培地 pH 4.0に定めた。
高濃度キシロースを高効率に資化する突然変異体の分離
SCB14株から高濃度のキシロースを資化する変異体を分離した。すなわちYPX18培地 pH 4.0 にSCB14株を植菌し、35°Cで振盪培養した。培養後期で急激に細胞濃度が増えた時、L字試験管培養液を適当に希釈し、YPX18平板培地に塗抹し、30°Cで2-4日静置培養した。増殖の早い大きなコロニーを独立して2個分離した (SCB32とSCB33)。単細胞分離後にその2個のコロニーの増殖をYPX18培地で調べ、親株SCB14株と比較した (図13)。2個の細胞はYPX18培地で増殖を示したのに対し、親株は増殖しなかった。この高濃度のキシロース培地(キシロース濃度 180g/L)で効率よくキシロースを資化する突然変異体を super xylose assimilation metabolism (SXM) 変異体と名付け、その表現型をSxm+と定めた。
Sxm+表現型を導く突然変異の遺伝解析
Sxm+となる突然変異数を解析した。最初にSCB32変異体 (MATa pho87Δ ura3:: loxP-PTEF-kanMX-TTEF-loxP-PTDH3-XYL1-TTDH3-PTDH3-XYL2-TTDH3- PTDH3-XKS1-TTDH3 HEX12-2 SxmA+) を解析した。SCB32株のウラシル要求性を取り除く為に、URA+ DNAによるSCB32株の形質転換体をUra+ G418感受性株として分離した。その遺伝子構造は、MATa pho87Δ URA3::PTDH3-XYL1-TTDH3- PTDH3-XYL2-TTDH3-PTDH3-XKS1-TTDH3 HEX12-2 SxmA+でありSCB39株と名付けた。そのSxmA+ Hex+株 SCB39とHex+株 SCB105-3A (MATα ura3Δ::XM8 HEX12-2)を掛け合わせ二倍体を作成し胞子形成させた。4胞子クローンのYPX18液体培地 (キシロース濃度 180g/L)pH 4.0 温度35°Cでの増殖を調べた。その結果、調べた24子嚢すべて、増殖する胞子クローンSxm+が2個と増殖しない胞子クローンSxm-が2個に分離した (図14)。詳細に調べるとSxmA+突然変異体より遅い増殖を示す株を含むグループ(図14a)とSxmA+突然変異体と同様の早い増殖を示すグループ (図14b)に分かれた。このことは、1個の変異がYPX18培地での増殖に必要であり、他の変異はYPX18培地での細胞増殖を促進させると考えられた。言い換えると少なくとも2個の変異を持つと推定でき、それぞれSXM1とSXMC1と名付けた。例えば、図14aに示したSCB39株の4胞子の遺伝子型はSXM1単独変異 (SCB42-2C)、SXM1 SXMC1二重変異 (SCB42-2A)、残りSCB42-2BとSCB42-2D がSXMC1単独変異と野生型と推測された。このことを確認するために、親株SxmA+株 SCB39 (SXM1 SXMC1)とSXM1又はSXMC1株とを掛け合わせ二倍体を作成し胞子形成させた。調べた24子嚢において、SXM1 SXMC1 (早い増殖) : SXM1 (遅い増殖)又はSXM1 SXMC1 (早い増殖) : SXMC1 (非増殖) が2:2に分離した。以上のことからSxmA+株の遺伝子型をSXM1 SXMC1と定めた。
次に、SCB33株を解析した。URA+ DNAによるSCB33株の形質転換体をUra+ G418感受性株として分離した。SxmB+ Hex+株であるSCB40 (MATa pho87Δ URA3::PTDH3-XYL1-TTDH3-PTDH3-XYL2-TTDH3-PTDH3-XKS1-TTDH3 HEX12-2 SxmB+)とHex+株であるSCB105-7A (MATα ura3Δ::XM8 HEX12-2)とを掛け合わせ二倍体を作成し胞子形成させた。4胞子クローンのYPX18液体培地 (キシロース濃度 180g/L)pH 4.0 温度35°Cでの増殖を調べた。その結果、調べた8子嚢すべてにおいて、増殖する胞子クローンが2個と増殖しない胞子クローンが2個分離した。すなわち、Sxm+ : 野生型 (Sxm-) が2:2に分離した (図15)。
詳細に調べるとSxmB+突然変異体と同程度の早い増殖を示す株は得られず、遅い増殖のグループとそれよりさらに遅い増殖のグループ(図15aとb)の2グループが新たに出現した。このことは、1個の変異が、YPX18培地で増殖に必要であり、他の変異はYPX18培地での細胞増殖を導かないが、増殖を促進させると考えられた。YPX18培地での増殖を導く突然変異遺伝子に対しSXM2と名付けた。この作業仮説を確かめるために、SxmB+突然変異体とSCB43の子嚢1番及びSCB43の子嚢3番のα株とを掛け合わせ二倍体を作製した。しかしながら、胞子形成は極めて悪く、4胞子揃って生存した掛け合わせは得られなかった。
Sxm+変異体の回分発酵試験
(1) 低初発細胞濃度からの回分発酵試験
Sxm+ HEX12-2 XMの2株SCB32とSCB33、HEX12-2 XMのSCB14株、XMのSCB7株を用いて回分発酵を行い、高濃度キシロースからのエタノール生産性を解析した。キシロース50 g/Lを含むYPX培地、pH 4.5、32.5°C、初期細胞濃度Abs660nm=1.0となるように植菌し、振盪培養(60 rpm)した。SCB32株は、培養の初期から時間の増加とともに迅速に増殖した。その次にSCB14株の増加が早く、最終細胞濃度はAbs660nmで35と最も高かった。その次はSCB7株で、SCB33株の増殖は最も悪く、最終細胞濃度も20弱であった(図16a)。
SCB32株のキシロース消費は培養初期では遅いが、12時間から18時間の間で迅速な消費を示し4株の中で最も早かった。そのキシロースの最大消費速度は1.6 g/L/hrであった(図16b)。SCB14株のキシロース消費速度は細胞増殖の活発な24時間から48時間の間は早いが、細胞当たりで最も早いのはSCB32又はSCB33であった(図16b)。SCB32株のエタノール生産はキシロース消費の進行に伴って増加し、4個の中で、SCB32株が迅速な発酵を示した(図16c)。しかしながら、細胞当たりの収率では、SCB33も高いと考えられた。
特筆すべきは、ウラシルを添加した高濃度キシロース最少培地で増殖する自然突然変異体は、SCB14株から多数分離できたが、いずれもキシロース消費は悪かった(データには示さない)。yeast nitrogen base中に含まれる成分もしくはウラシルからの代謝で細胞増殖が起こると考えられた。従って、キシロース消費の向上した変異体を分離するためには、栄養源豊富な培地成が必要であった。
(2) 高初発細胞濃度からのグルコース・キシロース共存発酵試験
初発細胞濃度が高い細胞を用いてグルコース・キシロース共存発酵試験をSxm+ HEX12-2 XMの2株SCB39とSCB40、HEX12-2 XMのSCB38株、XMのSCC2-11B株で行った。すなわち、グルコース60 g/L、キシロース40 g/Lを含むYPD6X4培地、pH 4.5、32.5°C、初期細胞濃度Abs660nm=20となるように植菌し、振盪培養 (60 rpm)した。SCB40株以外の全ての株は良く似た増殖を示し、培養24時間で細胞濃度はAbs660nm = 40強に達した(図17a)。
一方、SCB40株だけは増殖が悪く、24時間の細胞濃度は、Abs660nm = 30程度であった。全株とも60 g/L濃度のグルコースを3時間以内に消費した。2個の変異体SCB39とSCB40は他の2個の株より迅速にキシロースを消費した。この時の最大キシロース消費速度はSCB39株で2.6 g/L/hr、SCB40株で2.9 g/L/hrであった(図17b)。特にSCB40株のキシロース消費は高く、細胞の増加は少ないにも関わらず、残留キシロース濃度は24時間以内に2.4 g/Lまで減少した。2個の変異体SCB39とSCB40は、発酵開始24時間でエタノールをそれぞれ29.2 g/Lと27.5 g/L生産し、エタノールの理論収率は、初発の糖濃度が両者で異なるものの、それぞれ60%と65%だった。
SXM1とSXM2遺伝子の特定
SXM1とSXM2遺伝子は、次世代シーケンサー解析からそれぞれMTH1変異とGRR1変異と考えられた。そこで、最初に、SXM1はMTH1であるのかどうかを解析した(図18)。
SxmA+株であるSCB32株のMTH1遺伝子下流領域にkanMXを組換えた株を構築した (図18b)。その株の増殖をYPX18培地(キシロース濃度 180g/L) pH 4.0温度35°Cで調べたところ、親株のSCB32株と同様に増殖を認めた (図19a)。従って、kanMX遺伝子を変異型SXM1(MTH1)下流領域に挿入してもSxmA+の表現型に影響しないことを確かめた。次に、構築した株の染色体DNAの変異箇所からkanMX遺伝子を含む領域までをPCR増幅し、その増幅DNAによるHEX12-2 株(SCB38)のG418耐性形質転換体を得た。この転換体のYPX18培地 pH 4.0、温度35°Cでの増殖を調べたところ、SXM1変異株と同様の増殖を示した(図19b)。すなわち、SXM1変異はMTH1遺伝子であることが分かった。また変異型MTH1の塩基配列を決定したところ、構造遺伝子内の置換変異(配列番号7の第81番目におけるアラニンのアスパラギン酸による置換に相当する)を確認した。
次にSXM2がGRR1遺伝子であるのかどうかを解析した(図20)。すなわち、ade1Δ1 HEX12-2株にADE1+ DNAと変異型GRR1 DNAを加え、Ade+株形質転換体を得た。次に、この形質転換体を100個選び、180 g/Lのキシロースを含むSX18最少固形培地 pH 5.5に白金線でストリークし、30°Cで2-4日静置培養した。培養した後に生じたコロニーを2個選び、YPX18培地 pH 5.5で増殖確認したところ増殖を認めた(図21)。さらに変異型GRR1遺伝子の塩基配決定したところ、構造遺伝子内に期待通りの置換変異(配列番号8の第632番目におけるシステインのチロシンによる置換に相当する)を認めた。このことからSXM2遺伝子はGRR1遺伝子であると結論した。
MTH132及びgrr133変異の遺伝的解析
MTH132変異が野生型対立アレルに対し優性かどうかを調べた。SCB32株の染色体DNAを鋳型に、一対のプライマーF-MTH1-UP1K(NotI)(配列番号3)とR-MTH1-DWN300 (NotI)(配列番号4)でMTH132変異遺伝子の上流1 kbから下流0.3 kbをPCR増幅し、制限酵素NotIで切断した。その断片を低コピープラスミドのNotI部位に挿入した組換えプラスミドを構築し、大腸菌DH10BのAp-r Lac-株として回収した (図22)。また、PCR解析及び塩基配列解析を行い、組換え型プラスミドが確かに実験デザインどおりの遺伝子構造であることを確認した。そのプラスミドpMTH1 DNAによるSCB38 (HEX12-2)株の形質転換を行い、プラスミドを保持する株をG418耐性形質転換体として分離した。
高濃度キシロース培地YPX18 (キシロース濃度 180g/L)pH 4.0、温度35°Cで転換体の増殖を調べたところ、SCB38 (pMTH1) 株は親株SCB38とは異なり、顕著な増殖を示した(図23)。このことからMTH132変異は野生型対立アレルに対し優性であると結論した。またSCB (pMTH1)株の増殖は、SCB39 (MTH132 SXMC1)株よりも僅かではあるが早い増殖を示した。このことから、プラスミド上で変異型MTH1を発現させたので、タンパク質の量が増加し増殖への影響が生じたことが示唆された。
次にgrr133変異が野生型対立アレルに対し劣性かどうかを調べるために、YPX18培地(キシロース濃度 180g/L) pH 4.0、温度35°Cで増殖試験を行った。その結果、grr133 HEX12-2 / HEX12-2二倍体はHEX12-2株と同様に増殖せず、従って、grr133変異は野生型対立アレルに対し劣性であることが分かった (図24)。
MTH132変異の特徴付け
MTH132単独変異株がYPX18培地 (キシロース濃度 180g/L)pH 4.0、温度35°Cで増殖するかどうかを調べた。その結果、HEX12-2株と異なり明らかな増殖が見られた(図25a)。しかしながら、増殖の早さはHEX12-2 MTH132二重変異体よりも遅かった。これらのことは、MTH132単独変異体は高濃度キシロース培地で増殖すること、HEX12-2単独変異体は増殖しないが二重変異体では相乗効果が現れることを示している。SXMC1単独変異体は増殖しないが、SCB39株 (MTH132 SXMC1 HEX12-2 XM)の増殖はMTH132 HEX12-2 XM株よりも明らかに早いので、SXMC1単独変異もHEX12-2と同様にHex+の性質を示しMTH132変異との相乗効果が現れると考えられる。
MTH132とHEX12-2は、高濃度キシロース培地の条件下では相乗効果を示したので、キシロース代謝を促進する可能性がある。そこで、MTH132変異体はHex+を示すかどうかを解析した。10 g/Lのキシロースを含むMSX培地 pH 4.0 温度35°Cで増殖試験を行った。その結果、HEX12-2変異体ほどではないが、野生型株よりも明らかに早い増殖を示した (図25b)。従って、MTH132変異体はSxm+とともにHex+の性質も示すことが分かった。
本発明の新規株であるSCB14、SCB15、SCB16、SCB39及びSCB40は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターに2013年7月31日付けで国内寄託された。その後、2014年8月1日付でブダペスト条約に基づく国際寄託への移管申請が行われて、それぞれ、受託番号NITE BP-01672、受託番号NITE BP-01673、受託番号NITE BP-01674、受託番号NITE BP-01675及び受託番号NITE BP-01676として国際寄託された。

Claims (22)

  1. Mth1p及び/又はGrr1pをコードする遺伝子を有する組換え又は非組換えキシロース資化性酵母であって、
    該Mth1pが:
    (a1)配列番号7に示されるアミノ酸配列において、第81番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
    (a2)上記(a1)のアミノ酸配列において、上記第81番目のアミノ酸以外の位置で、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであり、そして
    該Grr1pが:
    (b1)配列番号8に示されるアミノ酸配列において、第632番目のシステインが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
    (b2)上記(b1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第632番目のアミノ酸以外の位置で、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであることを特徴とする、酵母。
  2. 前記配列番号7の第81番目のアラニンがアスパラギン酸に置換されている、請求項1に記載の酵母。
  3. 前記配列番号8の第632番目のシステインがチロシンに置換されている、請求項1又は2に記載の酵母。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換え又は非組換えキシロース資化性酵母であって、さらにCdc19pをコードする遺伝子及び/又はGRR1コード領域の上流領域を有しており、
    該Cdc19pが:
    (c1)配列番号5に示されるアミノ酸配列において、第272番目のプロリン及び/又は第344番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
    (c2)上記(c1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第272番目及び/又は第344番目のアミノ酸以外の位置で、さらに1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであり、そして
    該GRR1コード領域の上流領域が:
    (d1)配列番号6に示される塩基配列において、第-333位の塩基がアデニンから他の塩基に置換された上流領域;あるいは
    (d2)上記(d1)の塩基配列において、上記第-333位の塩基以外の位置で、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成る上流領域、のいずれかであることを特徴とする、酵母。
  5. 前記配列番号5の第272番目のプロリンがトレオニンに置換されている、請求項4に記載の酵母。
  6. 前記配列番号5の第344番目のアラニンがプロリンに置換されている、請求項4又は5に記載の酵母。
  7. 前記配列番号6の第-333位のアデニンがチミンに置換されていることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の酵母。
  8. キシロースイソメラーゼ、キシロースリダクターゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、及び/又はキシルロキナーゼをコードする遺伝子が過剰発現されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の酵母。
  9. 前記酵母が、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルベロマイセス属(Kluveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピチア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、及びハンセヌラ属(Hansenula)からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の酵母。
  10. 前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)である、請求項9に記載の酵母。
  11. 180 g/L以上の高濃度のキシロースの存在下において増殖可能である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の酵母。
  12. Cdc19pをコードする遺伝子及び/又はGRR1コード領域の上流領域を有する組換え又は非組換えキシロース資化性酵母であって、該Cdc19pが:
    (c1)配列番号5に示されるアミノ酸配列において、第272番目のプロリン及び/又は第344番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
    (c2)上記(c1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第272番目及び/又は第344番目のアミノ酸以外の位置で、さらに1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質、のいずれかであり、そして
    該GRR1コード領域の上流領域が:
    (d1)配列番号6に示される塩基配列において、第-333位の塩基がアデニンから他の塩基に置換された上流領域;あるいは
    (d2)上記(d1)の塩基配列において、上記第-333位の塩基以外の位置で、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成る上流領域、のいずれかであることを特徴とする、組換え又は非組換えキシロース資化性酵母。
  13. 前記配列番号5の第272番目のプロリンがトレオニンに置換されている、請求項12に記載の酵母。
  14. 前記配列番号5の第344番目のアラニンがプロリンに置換されている、請求項12又は13に記載の酵母。
  15. 前記配列番号6の第-333位のアデニンがチミンに置換されていることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の酵母。
  16. 特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01675 (SCB39)である酵母。
  17. 特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01676 (SCB40)である酵母。
  18. 特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01672 (SCB14)である酵母。
  19. 特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01674 (SCB16)である酵母。
  20. 特許微生物寄託センターに寄託した受託番号NITE BP-01673 (SCB15)である酵母。
  21. キシロース存在下において、請求項1〜20のいずれか1項に記載の酵母を用いた有用物質の生産方法であって、該有用物質がエタノール、乳酸、酢酸、プロパノール、イソブタノール、ブタノール、コハク酸、及びグリセロールからなる群から選択される1又は複数の物質である、方法。
  22. 前記有用物質がエタノールである請求項21に記載の方法。
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