次に、図面を参照しながら本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る電動機1を示す概略構成図である。同図に示す電動機1は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車の走行駆動源あるいは発電機として用いられる三相交流電動機として構成されている。本実施形態の電動機1は、図示しないケースと、当該ケース内に配置される環状のステータ2と、当該ステータ2の内部に配置されるロータ3と、主にステータ2を冷却するために用いられる冷却管4とを含む。
ステータ2は、図1に示すように、ステータコア20と、当該ステータコア20に巻回された複数のステータコイル25とを含む。ステータコア20は、図2に示すように、互いに積層されて複数のボルト5や図示しないナットを介して締結される複数の環状板21により構成される。本実施形態において、各環状板21は、例えばプレス加工により概ね円環状に形成された電磁鋼板である。また、各環状板21の外周部には、径方向外側に突出する突出部21pが周方向に間隔をおいて(等間隔に)複数(本実施形態では、例えば3つ)形成されており、各突出部21pには、ボルト5が挿通される締結孔21hが形成されている。更に、各環状板21の内周部には、それぞれ環状板21の中心孔で開口すると共に当該中心孔の径方向に延びる複数の有端スリット(図示省略)が周方向に間隔をおいて形成されている。
複数の環状板21は、複数の締結孔21hや複数の有端スリットが積層方向(ステータコア20の軸方向)において連通するように重ね合わされる。これにより、ステータコア20には、各環状板21の隣り合う有端スリットの間の突出部により、複数のティース部(図示省略)が環状の外周部(ヨーク部)から周方向に間隔をおいて径方向内側に突出するように形成される。また、各環状板21の有端スリットにより、複数のコアスロット(図示省略)が、それぞれ互いに隣り合うティース部の間に位置するように形成される。
複数のステータコイル25には、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルが含まれる。また、本実施形態において、各ステータコイル25は、何れも略U字状に成形された電気導体である複数のセグメントコイルを電気的に接続することにより構成される。すなわち、各セグメントコイルの2つの遊端部は、それぞれ対応するコアスロットに挿通され、各セグメントコイルのステータコア20の一端面から突出した部分には、図示しない曲げ加工装置を用いた曲げ加工が施される。そして、各セグメントコイルの遊端部は、対応する他のセグメントコイルの遊端部に電気的に接合される。これにより、複数のステータコイル25がステータコア20に対して巻回され、各ステータコイル25は、それぞれステータコア20の軸方向における端面から外側に突出する2つのコイルエンド25eを有することになる。なお、本実施形態において、ステータコア20の両端面上には、複数のセグメントコイルを曲げ加工する際にガイド部材として機能する円環状の板体である図示しないカフサが配置される。また、ステータコア20の各コアスロット内には、図示しないインシュレータ(筒状の絶縁紙)が配置される。
ロータ3は、円環状のロータコアと、当該ロータコアに埋設された複数の永久磁石とを含む。ロータコアも、ステータコア20と同様に、例えばプレス加工により概ね円環状に形成された電磁鋼板を複数積層することにより構成される。また、冷却管4は、ステータ2の径方向外側でロータ3の中心軸と略平行に延在すると共に一連の締結孔21hに近接するように電動機1の図示しないケースに固定され、冷却媒体を供給(圧送)する図示しない冷媒ポンプに接続される。更に、冷却管4は、電動機1の車載時に各ステータコイル25の2つの(両側)のコイルエンド25eの上方に位置するように形成された2つの開口部4oを有する。電動機1の作動中、冷却管4には、冷媒ポンプから冷却媒体が供給され、冷媒ポンプからの冷却媒体は、冷却管4の各開口部4oから各ステータコイル25の2つのコイルエンド25eへと滴下される。
ここで、ステータ2の発熱部である各ステータコイル25を良好に冷却するためには、2つのコイルエンド25eの全体に冷却媒体を行き渡らせる必要がある。ただし、ステータコイル25のコイルエンド25eに対して上方から冷却媒体を供給する場合、特にコイルエンド25eの下側部分(ロータ3の直下の部分やその近傍)に冷却媒体を良好に供給し得なくなるおそれがある。このため、本実施形態の電動機1では、ステータコア20を構成する複数の環状板21のうち、ステータコア20の軸方向における両端に位置する2枚の環状板21eのそれぞれに、図1および図2に示すような冷媒ガイド21gが複数設けられる。
各冷媒ガイド21gは、ステータコア20の組立前に、環状板21eの外周部を隣り合う2つの締結孔21hの周方向における間で当該環状板21eの軸心に沿って一側(環状板21eの表面側)に突出するように例えば90°だけ折り曲げることにより形成される。本実施形態において、環状板21eの外周部の折り曲げ線は、図1に示すように、ステータコア20のティース部やコアスロットを形成する部分よりも径方向外側で2つの締結孔21hの中心同士を結ぶ直線と略平行に延在するように定められる。これにより、各環状板21eの外周部には、各締結孔21hの両側に位置するように、複数(本実施形態では、3つ)の冷媒ガイド21gが形成される。
そして、各環状板21eは、積層された複数の環状板21に対して、裏面側から重ね合わされ、ステータコア20が組み立てられた際、各冷媒ガイド21gは、ステータコア20の軸方向における外側(図2における上側または下側)に向けて突出する。また、電動機1の車載時に、各環状板21eの何れか1つの冷媒ガイド21gは、冷却管4の開口部4oの真下に位置し、残余の2つの冷媒ガイド21gは、冷却管4に近接した締結孔21hと対応する他の締結孔21hとの間で上下方向に対して斜めに延在する(図1参照)。なお、ステータコア20に巻回された各ステータコイル25のリード線部(図示省略)は、何れかの冷媒ガイド21gを乗り越えるようにしてステータコア20の径方向外側へと引き出されるか、あるいは隣り合う2つの冷媒ガイド21gの間(締結孔21hの周辺)を介してステータコア20の径方向外側へと引き出され、図示しないコネクタ等に接続される。
コイルエンド25eに対して上方の冷却管4から冷却媒体が供給される際、各冷媒ガイド21g(環状板21eの折り曲げられた外周部)は、上方から流下する冷却媒体がステータコア20の径方向外側へと流出するのを規制して当該冷却媒体をコイルエンド25eに沿って流れるようにガイドする。すなわち、冷却管4の開口部4oからステータコア20の外周に向けて流出した冷却媒体は、図1において点線で示すように、同図における上側2つの冷媒ガイド21gに当たることで、コイルエンド25eに沿って流れるようになる。また、環状板21eの表面に沿って流下する冷却媒体の一部は、図1における下側の冷媒ガイド21gにより受容されてコイルエンド25eの下側部分に流れ込む(図中点線参照)。これにより、電動機1では、上方から供給される冷却媒体をコイルエンド25eの下側部分(ロータ3の直下の部分やその近傍)に良好に行き渡らせて発熱部としてのコイルエンド25eの全体を良好に冷却することが可能となる。
また、上述のように環状板21eの外周部を隣り合う2つ(1組)の締結孔21hの周方向における間で折り曲げることにより、環状板21eを折り曲げたことによる渦電流損失の増加を抑制しつつ、ステータ2(電動機1)の構造の複雑化や部品点数の増加を招くことなく冷媒ガイド21gを簡易に構成することができる。更に、環状板21eの各冷媒ガイド21gは、リブとしても機能する。これにより、ステータコア20(ステータ2)の強度をより向上させることが可能となるので、特に、ロータ3の軸心と直交する方向(電動機1の車載時における上下方向)の振動に対する電動機1の耐久性を向上させることができる。
以上説明したように、電動機1は、外周部に周方向に間隔をおいて形成された複数の締結孔21hをそれぞれ有すると共に積層されて締結孔21hに挿通されるボルト5により締結される複数の環状板21,21eにより構成されるステータコア20、およびステータコア20に巻回されたステータコイル25を含むステータ2と、ステータ2内に配置されるロータ3と、ステータコイル25のコイルエンド25eに上方から冷却媒体を供給する冷却管4とを含む。そして、ステータコア20の軸方向における両端に位置する環状板21eの外周部は、隣り合う1組の締結孔21hの周方向における間で当該ステータコア20の軸方向における外側に向けて突出するように折り曲げられ、それによりステータコア20に冷媒ガイド21gが設けられる。この結果、ステータコイル25のコイルエンド25eを良好に冷却可能な電動機1を簡易に構成することが可能となる。
なお、上記実施形態では、ステータコア20の軸方向における両端に位置する2枚の環状板21eのそれぞれに冷媒ガイド21gが設けられるが、これに限られるものではない。すなわち、ステータコア20の軸方向における一端に位置する1枚の環状板21eのみに冷媒ガイド21gが設けられてもよい。また、環状板21の厚みによっては、ステータコア20の端部側に位置する複数枚の環状板21の外周部を折り曲げて冷媒ガイド21gを形成してもよい。更に、環状板21eの外周部の曲げ角度は、90°に限られるものではなく、鋭角であってもよく、鈍角であってもよい。
また、隣り合う2つの締結孔21hの周方向における間のすべてに冷媒ガイド21gを設ける必要は必ずしもなく、冷媒ガイド21gは、隣り合う少なくとも1組の締結孔21hの周方向における間に設けられればよい。すなわち、上記実施形態では、ステータコイルのリード線部の引き出しスペースを確保するために、例えば図1における右上の冷媒ガイド21gが省略されてもよい。更に、ステータコイル25は、ステータコア20のコアスロットに挿通されてティース部に巻回される被覆導線により構成されてもよく、例えばステータコア20のティース部の外周面に沿うように複数段にわたって予め巻回された平角線からなる複数のコイルを電気的に接続することにより構成されてもよい。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。