以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではなく、実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易な構成や、実質的に同一の構成が含まれる。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態による車両制御装置を備える車両の構成について説明する。図1は、この第1の実施形態による車両制御装置を備える車両を示す概略図である。
図1に示すように、車両1は、車両制御装置2を備えるとともに、エンジン(図示せず)などの動力源で発生した動力を自動変速機(図示せず)などの動力伝達装置を介して駆動輪に伝達させ、駆動輪において駆動力にすることで、走行可能に構成されている。なお、動力源は、例えばモータなどのエンジン以外のものであっても、エンジンとモータとを用いる、いわゆるハイブリッドエンジンであっても良い。また、駆動形態は、前輪6が駆動輪として用いられる前輪駆動であっても、後輪7が駆動輪として用いられる後輪駆動であっても、前輪6と後輪7とがともに駆動輪として用いられる四輪駆動であっても良い。
前輪6は、操舵輪であることから、操舵装置10によって操舵が可能に構成されている。操舵装置10は、運転者が操舵操作子として用いるハンドル12、ハンドル12の操舵操作に応じて動作する舵角付与装置15、および操舵角センサ16を備える。舵角付与装置15は、例えば、ラックギヤとピニオンギヤとを備えるラック&ピニオン機構によって構成される。操舵角検出手段としての操舵角センサ16は、ハンドル12の回転角度であるハンドル操舵角MAを絶対角として検出する。操舵角センサ16が検出するハンドル操舵角MAは、例えば、ハンドル12の中立位置(例えば、車両1が直進走行する際のハンドル12の位置、中立位置=0°)を基準として左回り側が正の値、右回り側が負の値として検出されるが、逆でも良い。操舵角センサ16は、ECU(Electronic Control Unit)50と接続されているとともに、検出した操舵角に応じた検出信号をECU50に出力する。また、前輪6および後輪7を合わせて操舵輪とすることも可能である。この場合、前輪6および後輪7はそれぞれ、車両1の接線方向に対してハンドル操舵角MAに従った所定の比率で舵角をなす。
車両1は、制動装置20を備える。制動装置20は、ブレーキペダル21、ブレーキ倍力装置22、およびマスタシリンダ23を有する。さらに、制動装置20は、ホイールシリンダ31、ブレーキディスク32、および油圧経路33を備え、運転者によるブレーキ操作時にホイールシリンダ31に作用させるブレーキ液圧を制御するブレーキ油圧制御装置30を有する。ブレーキ油圧制御装置30は、各車輪5の近傍に設けられる各ホイールシリンダ31に対して、それぞれ独立して油圧を制御して、各車輪5の制動力をそれぞれ独立して制御することが可能になっている。
車両1は、車速センサ41、舵角センサ42、ヨーレートセンサ43、および横加速度センサ44を備える。車速検出手段としての車速センサ41は、自動変速機などから駆動輪側に出力される動力の回転速度を検出することを介して、車両1の走行時における車速を検出する。舵角検出手段としての舵角センサ42は、操舵装置10に設けられ、ハンドル12を操作することにより変化する車輪5の舵角を検出する。ヨーレート検出手段としてのヨーレートセンサ43は、車両1の走行時におけるヨーレートを検出する。横加速度検出手段としての横加速度センサ44は、車両1の進行方向に対して直角方向の加速度を検出する。さらに、各車輪5の近傍には車輪速検出手段としての車輪速センサ45が設けられる。車輪速センサ45は、車輪5の回転速度である車輪速を検出する。これらの車速センサ41、舵角センサ42、ヨーレートセンサ43、横加速度センサ44、および車輪速センサ45は、ECU50に接続される。それぞれのセンサの検出結果は、ECU50に供給される。
図2は、図1に示す車両制御装置2の要部構成図である。車両制御装置2は、旋回状態検出部40およびECU50を有する。旋回状態検出手段としての旋回状態検出部40は、上述した実旋回状態量を計測するセンサとして、車速センサ41、舵角センサ42、ヨーレートセンサ43、横加速度センサ44、および車輪速センサ45などを有する。ECU50は、CPU(Central Processing Unit)などから構成される処理部60、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などから構成される記憶部70、および入出力部71を有する。処理部60、記憶部70および入出力部71は互いに接続され、互いに信号を入出力可能に構成されている。ECU50に接続された旋回状態検出部40は、入出力部71に接続されている。入出力部71は、それぞれのセンサ類との間で信号の入出力を行う。なお、ECU50は、エンジン、自動変速機、およびブレーキ油圧制御装置30などの装置にも接続されている。ECU50に接続されるそれぞれの装置は、入出力部71に接続されて入出力部71との間で信号の入出力を行う。また、記憶部70には、車両1の各制御を行うコンピュータプログラムが格納されている。
ECU50の処理部60は、走行状態取得部61、走行制御部62、挙動制御部63、走行状態演算部64、および補正量演算部65を有する。走行状態取得部61は、車両1の走行状態や運転者の運転操作の状態を取得する。走行制御部62は、車両1の走行制御を行う。挙動制御部63は、車両1の走行時における挙動制御を行う。走行状態演算部64は、車両1の旋回特性を含む車両1の走行状態を推定する走行状態推定部である。補正量演算手段としての補正量演算部65は、詳細は後述するが、ハンドル操舵角MAの補正量である舵角補正量ΔMA,ΔMA_Yr,ΔMA_Gy、補正後推定ヨーレートYrstd2、補正後推定横加速度Gystd2、または前軸の横加速度(前軸Gy)や後軸の横加速度(後軸Gy)などを出力可能に構成されている。
ECU50によって車両1の制御を行う場合、例えば次のように行う。すなわち、まず、車速センサ41やヨーレートセンサ43等の検出結果に基づいて、処理部60が上述したコンピュータプログラムを処理部60のメモリに読み込んで演算する。その後、演算の結果に応じてブレーキ油圧制御装置30やエンジンなどを制御して、車両1の運転制御を行う。その際、処理部60は適宜、演算途中の数値を記憶部70に格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。
次に、以上のように構成された第1の実施形態による車両制御装置2の動作について説明する。すなわち、車両1の走行時において車両制御装置2は、ブレーキペダル21に併設されるアクセルペダルへの運転者の入力操作に応じてECU50でエンジン等の動力源を制御し、駆動輪に駆動力を発生させて、所望の走行状態になるように走行制御を行う。また、ブレーキ油圧制御装置30は、ECU50により制御可能に構成され、ECU50がブレーキ油圧制御装置30を制御することによって、ブレーキペダル21の操作状態に関わらず、制動力を発生させることもできる。
また、車両1を旋回させるなど車両1の進行方向を変化させる場合、運転者はハンドル12を回転させてハンドル操作を行う。ハンドル12が回転された場合、その回転トルクは、操舵装置10が有する舵角付与装置15によって前輪6の向きを変化させる力として伝達される。これにより、前輪6の回転軸の方向が変化し、前輪6の回転方向は車両1の進行方向とは異なる方向になるため、車両1の進行方向が変化して旋回などが行われる。
車両1はハンドル12が操作されることによって旋回するが、ハンドル12の操作によって変化する舵角は、操舵装置10に設けられる舵角センサ42により検出される。舵角センサ42で検出した舵角は、ECU50の処理部60が有する走行状態取得部61に出力される。
また、車両1が旋回する場合には、車両1には、車両1の鉛直軸周りの回転力であるヨーモーメントが発生する。車両1にヨーモーメントが発生した場合、ヨーレートセンサ43は、ヨーモーメントが発生して車両1が鉛直軸周りに回転した場合におけるヨー角速度であるヨーレートを検出する。また、車両1が旋回した場合には、車両1には遠心力が発生する。このため、遠心力によって車両1の幅方向の加速度、すなわち横方向の加速度である横加速度(横G)が発生する。このように車両1の旋回中に発生する横加速度は、横加速度センサ44により検出される。ヨーレートセンサ43により検出されたヨーレートや、横加速度センサ44により検出された横加速度は、走行状態取得部61に供給される。
そして、ECU50は、車速センサ41で検出した車速、ヨーレートセンサ43で検出したヨーレート、および横加速度センサ44で検出した横加速度などに基づいて走行制御を行う。すなわち、ECU50の処理部60が有する走行状態取得部61は、それぞれの車速センサ41、ヨーレートセンサ43、および横加速度センサ44などによって検出した、それぞれの車速、ヨーレート、および横加速度などを取得する。そして、走行状態取得部61が取得した車両1の走行状態に基づいて、走行状態演算部64や補正量演算部65が演算を行って、走行制御部62によって車両1における各部の制御を行う。
同様に、ECU50は、車両1の旋回時に、車速センサ41で検出した車速、ヨーレートセンサ43で検出したヨーレート、および横加速度センサ44で検出した横加速度などに基づいて、エンジンの出力や各車輪5の制動力などを制御することによって、車両1の挙動を安定化させる挙動制御を行う。この挙動制御においては、走行状態取得部61で取得した車両1の走行状態に基づいて、ECU50の処理部60が有する挙動制御部63、走行状態演算部64および補正量演算部65などで挙動を安定化させる制御量を演算し、算出した制御量で走行制御部62によって各部を制御して、車両1の走行時における挙動制御を行う。このように、車両1の挙動制御を行う場合には、ECU50は、車両1の走行時における挙動の状態を示す状態量を推定する。なお、車両1の、ヨーレートや横加速度などの旋回状態量の推定は、車両1の旋回特性に基づいて行われる。
図3は、上述した挙動制御を行うための舵角補正量、補正後推定ヨーレート、および補正後推定横加速度を算出する補正量演算部65の構成を示すブロック線図である。図3に示すように、この第1の実施形態において、補正量演算部65は、第1車両モデル演算部811と第2車両モデル演算部812とを有する車両モデル演算部81、車両モデル逆演算部82、および加減算器65a,65bを有して構成される。
まず、補正量演算部65による補正量の算出方法について説明するに当たり、理解を容易にするために、車両モデルについて説明する。この第1の実施形態において、車両モデルとしては、例えば線形2輪モデルが用いられる。線形2輪モデルは、例えば以下の(1)式および(2)式で表すことができる。
(1)式および(2)式における前輪6のタイヤスリップ角β
fおよび後輪7のタイヤスリップ角β
rはそれぞれ、以下の(3)式および(4)式で表すことができる。
ここで、図4を参照して数式に用いられる各モデル変数を視覚的に説明する。図4は、車両運動モデルのモデル変数の定義に係る模式図である。
図4において、前後輪の接地点を結ぶ軸線上に便宜的に車両1の重心G(白黒丸で図示)を表す。車両1の重心と前輪6の車軸との間の距離l
fおよび車両1の重心と後輪7の車軸との間の距離l
rはそれぞれ、図示の通りであり、l
f+l
rが前後車軸間距離としてのホイールベースlである。前後輪の接地点を結ぶ軸線、すなわち車両1の向きを示す車両前後方向接線と、車速Vの発生方向、すなわち車両1の速度方向(車速Vの矢印方向)とのなす角が車体スリップ角βである。車体スリップ角βは、前後輪の舵角変化により重心G回りに生じたヨーモーメント(ヨー慣性)によって車両1が旋回することで生じる角度である。また、前輪6において、向きを示す前輪前後方向接線と前輪6の前方側の矢線が示す速度方向とのなす角が前輪のタイヤスリップ角β
fである。同様に後輪7において、向きを示す後輪前後方向接線と後輪7の前方側の矢線が示す速度方向とのなす角が後輪のタイヤスリップ角β
rである。重心Gの旋回方向速度がヨーレートγである。操舵輪としての前輪6、または前輪6および後輪7に舵角変化が生じると、前輪6にコーナリングフォースF
fが発生し、後輪7にコーナリングフォースF
rが発生する。これに伴い、前輪6のコーナリングスティフネス(前輪コーナリングパワー)K
fおよび後輪7のコーナリングスティフネス(後輪コーナリングパワー)K
rが発生する。車両1の前後方向接線と前輪6の前後方向接線とのなす角度が、前輪舵角δ
fである。同様に、車両1の前後方向接線と後輪7の前後方向接線とのなす角度が、後輪舵角δ
rである。前輪舵角δ
fおよび後輪舵角δ
rは、例えば以下の(5)式に示すように所定の比率kで線形変化し、ハンドル操舵角MAと線形関係であるものとする。なお、nは前輪操舵系のギヤレシオである。なお、数式におけるmは車両1の重量であり、Iはヨーモーメントである。
上述した車両モデルを表す(1)式および(2)式に(3)式および(4)式を代入して整理すると、例えば以下の(6)式にまとめることができる。なお、(6)式におけるΔ(s)の定義は以下の(7)式である。
ここで、sはラプラス演算子であり、ω
nおよびξ
nはそれぞれ、以下の(8)式および(9)式で定義される。
(8)式および(9)式におけるK
hは、以下の(10)式で定義される。(10)式におけるK
hはスタビリティファクタであって、車両1のヨー運動に関する操舵応答の特性、すなわち車両1の旋回特性を示す。
また、(6)式における他の係数は、以下の(11)式〜(17)式で定義される。
さらに、(5)式および(6)式からヨーレートγについてまとめると、例えば以下の(18)式で表すことができる。
ここで、f
γはヨーレートγに関する車両モデルを表す関数(以下、車両モデル関数)である。
上述した(7)〜(17)式に示すように、(6)式におけるそれぞれの係数は車両1の諸元と車速Vによって決定される。また、ヨーレートγは、ハンドル操舵角MAの線形関数になる。そのため、ヨーレートγは、車速Vおよびハンドル操舵角MAに基づいて算出可能である。
図3に示す第1の実施形態による補正量演算部65は、上述した車両モデルの例に基づいて、補正量を算出する。すなわち、補正量演算部65には、入出力部71を通じて、車速センサ41から車速Vが入力されるとともに、操舵角センサ16からハンドル操舵角MAが入力される。車速Vおよびハンドル操舵角MAは、車両モデル演算部81の第1車両モデル演算部811に入力される。第1車両モデル演算部811は、車速センサ41から入力された車速V、および操舵角センサ16から入力されたハンドル操舵角MAに基づいて車両モデルの演算を行う。すなわち、第1車両モデル演算部811は、入力されたハンドル操舵角MAおよび車速Vを用いて、例えば(6)式によって表される車両モデルに基づいた車両モデル演算を行う。
第1車両モデル演算部811による車両モデル演算によって、推定旋回状態量としての推定ヨーレートYrstdが算出される。算出された推定ヨーレートYrstd(基準ヨーレートともいう)は、加減算器65bに入力される。一方、車両1のヨーレートセンサ43によって計測された実旋回状態量としての実ヨーレートYrが加減算器65bに入力される。加減算器65bにおいて、推定ヨーレートYrstdから実ヨーレートYrが減算されて、ヨーレート偏差ΔYrが出力される。
加減算器95bから出力されたヨーレート偏差ΔYrは、車両モデル逆演算部82に入力される。一方、車両モデル逆演算部82には、車速センサ41から車速Vが入力される。車両モデル逆演算部82は、ヨーレート偏差ΔYrおよび車速Vに基づいて、上述した車両モデル関数fγの逆変換関数fγ -1による演算を行う。本明細書において、逆変換関数f-1とは、車両モデル関数fによって算出された車両状態量から、車両モデル関数fに用いられる変数を導出する関数であって、車両モデル関数の逆関数のみならず、逆関数の近似式や、車両モデル関数fの近似式に対する逆関数も含む概念である。
車両モデル逆演算部82は、入力されたヨーレート偏差ΔYrおよび車速Vに基づいて、逆変換関数f
-1によって舵角補正量ΔMAを算出する。すなわち、(18)式から導出される以下の(19)式に基づいて、舵角補正量ΔMAを算出する。
ここで、(19)式と逆変換関数f
γ -1の線形性から、以下の(20)式が導出できる。
なお、δ
fstdは現在の前輪舵角、δ
fγは実ヨーレートに基づく前輪舵角である。
車両モデル逆演算部82は、算出した舵角補正量ΔMAを、補正量演算部65の外部、例えば走行制御部62や挙動制御部63に出力する。また、車両モデル逆演算部82は、算出した舵角補正量ΔMAを加減算器65aに出力する。加減算器65aは、入力されたハンドル操舵角MAから舵角補正量ΔMAを減算して、車両モデル演算部81の第2車両モデル演算部812に出力する。
すなわち、第2車両モデル演算部812には、ハンドル操舵角MAから舵角補正量ΔMAを減算した補正後操舵角(MA−ΔMA)が入力される。この補正後操舵角(MA−ΔMA)から以下の(21)式が導出できる。
この(21)式にもとづいて、現在の前輪舵角δ
fstdから前輪舵角補正量Δδ
fを減算した角度δ
fcomp(=δ
fstd−Δδ
f)が第2車両モデル演算部812に入力されると、第2車両モデル演算部812は、第1車両モデル演算部811と同じ車両モデル演算を行う。すなわち、上述した(21)式と(5)式とに基づいて、以下の(22)式の車両モデル演算を行う。これによって、補正後推定ヨーレートYrstd2を演算することができる。
また、詳細は省略するが、横加速度Gyについても上述したヨーレートγの演算と同様の演算を行うことができる。具体的に(1)式および(2)式に基づいて、上述したヨーレートγの導出と同様にして横加速度Gyについての関数を導出すると、車速Vおよびハンドル操舵角MAに基づいて例えば以下の(23)式が導出できる。
ここで、f
Gyは横加速度Gyに関する車両モデル関数、Gγは車両1の諸元および車速Vに基づいて導出可能な係数、T
Gyは時定数である。
そして、第2車両モデル演算部812が、(22)式と同様にして、横加速度Gyにおいて線形2輪モデルに基づいた例えば以下の(24)式に示す演算を行うことによって、補正後の推定旋回状態量としての補正後推定横加速度Gystd2を演算できる。なお、第1車両モデル演算部811においても、例えば(23)式に基づいて横加速度Gyに関する車両モデル演算を行うことができる。この場合、第1車両モデル演算部811にハンドル操舵角MAおよび車速Vが入力されると、第1車両モデル演算部811は、推定旋回状態量としての推定横加速度Gystdを出力する。
以上のようにして車両モデル演算部81が算出した、補正後の車両状態量である補正後推定ヨーレートYrstd2および補正後推定横加速度Gystd2は、補正量演算部65の外部、例えば走行制御部62や挙動制御部63に出力される。これにより、補正後推定ヨーレートYrstd2および補正後推定横加速度Gystd2は、車両1に対する走行制御や挙動制御に用いられ、次回以降の推定旋回状態に反映される。このように、旋回状態検出部40によるフィードバック制御を間接的に行っていることにより、車両1の挙動を高精度に制御可能となる。
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、車両モデル演算部81において算出された推定ヨーレートYrstdに対して、車両モデル逆演算部82が逆変換関数f-1を用いて舵角補正量ΔMAを算出した後、舵角補正量ΔMAを用いて推定ヨーレートYrstdから補正後推定ヨーレートYrstd2を導出していることにより、推定した車両状態量と実際の車両状態量との乖離要因に依存することなく、推定した車両状態量の補正を行うことができるので、運動の制御を滑らかに行うことができるとともに、高い精度で補正を行うことができる。また、車両1において検出された実ヨーレートYrに基づくヨーレート偏差ΔYrを、車両モデル逆演算部82において逆変換関数fγ -1によって演算していることにより、実ヨーレートYr等の旋回状態量において生じる遅れ要素を解消できる。そして、この遅れ要素が解消された舵角を用いて旋回状態量を推定し、この推定旋回状態量に基づいて車両1の制御を行うことができるので、車両1の挙動制御の性能低下を抑制できる。
また、第1の実施形態によれば、上述した特許文献1などに記載された従来技術に対しても、さらなる効果を有する。図9は、従来技術の問題点を説明するための、横加速度(横G)、ロール制御量、およびロール角の時間変化を示すグラフである。図9中の横Gのグラフに示すように、上述した従来の車両制御装置においては、タイヤの非線形性や路面の摩擦係数の変動などにより、横加速度の推定値に誤差が生じる場合がある。この場合、図9中の制御用横Gの実線に示すように、誤差が生じた時点T0において制御に用いる横加速度の入力が、推定値(推定横G)から横Gセンサによる計測値(横Gセンサ値)に切り替えられる。この切り替えに応じて車両制御装置の動作は変動する。そのため、横Gの推定値と横Gセンサの計測値との乖離が大きいと、図9中のロール制御量のグラフに示すように、推定値から計測値への切り替え時にロール運動制御量が大きく変化してしまう。これにより、図9中のロール角のグラフに示すように、ロール角も大きく変化するため、車両のロール姿勢も変動して運転者の快適性が低下する。これに対し、上述した第1の実施形態によれば、車両状態量の入力を、推定車両状態量からセンサにより計測された車両状態量の計測値に切り替えることなく、計測値を含めて演算している。そのため、推定車両状態量と実際の車両状態量との間に乖離が生じた場合であっても、車両のロール姿勢の変動を招くことなく推定車両状態量を補正できる。したがって、推定車両状態量と車両1における運転者の快適性の低下を抑制できる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態による車両制御装置について説明する。この第2の実施形態においては、補正量演算部65の構成以外は第1の実施形態と同様なので、以下の説明においては、補正量演算部65の構成について説明する。図5は、第2の実施形態による補正量演算部65の構成を示すブロック線図であり、図6は、第2の実施形態による第2車両モデル演算部842内の一部の構成を示すブロック線図である。
図5に示すように、第2の実施形態による補正量演算部65は、第1の実施形態と異なり、スリップ角補正部としての前後輪スリップ角補正量演算部83をさらに有する。また、また、車両モデル演算部84は、第1車両モデル演算部841および第2車両モデル演算部842を有する。第1車両モデル演算部841は、第1の実施形態における第1車両モデル演算部811と同様である。第2車両モデル演算部842は第1の実施形態と異なり、図6に示すように、前輪スリップ角演算部842a、後輪スリップ角演算部842b、ヨーレート演算部842c、および加減算器842d,842eを有する。
図5に示すように、前後輪スリップ角補正量演算部83には、車両モデル逆演算部82がヨーレート偏差ΔYrに基づいて、第1の実施形態と同様にして算出した舵角補正量(以下、ヨーレート起因舵角補正量)ΔMA_Yrが入力される。また、前後輪スリップ角補正量演算部83には、操舵角センサ16から供給されたハンドル操舵角MAが入力される。
前後輪スリップ角補正量演算部83は、入力されたヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrおよびハンドル操舵角MAに基づいて、前輪6のタイヤスリップ角βfの補正量(前輪スリップ角補正量)Δβf、および後輪7のタイヤスリップ角βrの補正量(後輪スリップ角補正量)Δβrを算出する。
ここで、タイヤスリップ角補正量Δβf,Δβrの演算方法の一例として、前後輪スリップ角補正量演算部83が、車両1の旋回状態に応じて、前輪スリップ角補正量Δβfを増減させるとともに、後輪スリップ角補正量Δβrを増減させる方法がある。すなわち、車両1の旋回状態がオーバーステア状態であるかアンダーステア状態であるかに応じて、スリップ角補正量Δβf,Δβrを増減させて算出する方法を採用することができる。
すなわち、まず、以下の(25)式が成立することを前提とする。
Δβf−Δβr=ΔMA_Yr…(25)
そして、車両1の旋回状態がアンダーステア状態であれば、車両1における運転者が所望する進行方向に対して前輪6が先にずれてくるので、前輪スリップ角補正量Δβfを大きくする。一方、車両1の旋回状態がオーバーステア状態であれば、車両1における運転者が所望する進行方向に対して後輪7が先にずれてくるので、後輪スリップ角補正量Δβrを大きくする。具体的には、以下の(26)式および(27)式の演算を行う。
Δβf=Kf×ΔMA_Yr…(26)
Δβr=Kr×ΔMA_Yr…(27)
なお、車両1の旋回状態は、例えば走行状態取得部61が取得した車両1の走行状態の車両状態量を走行状態演算部64に供給し、走行状態演算部64が例えばΔMA_Yr×sin(MA)などを用いて判定することが可能である。すなわち、車両1がオーバーステア状態またはアンダーステア状態のいずれの旋回状態であるかを判定する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することが可能である。そして、前後輪スリップ角補正量演算部83は、上述のように算出した前輪スリップ角補正量Δβfおよび後輪スリップ角補正量Δβrを、車両モデル演算部84における第2車両モデル演算部842に供給する。
図6に示すように、第2車両モデル演算部842には、ハンドル操舵角MA、車速V、およびスリップ角補正量Δβ
f,Δβ
rが入力される。第2車両モデル演算部842において、前輪スリップ角演算部842aは、例えば以下の(28)式に示す演算を行うことによって、前輪6のタイヤスリップ角β
fを算出して出力する。なお、(28)式における演算子、係数および変数についてはそれぞれ、第1の実施形態と同様である。
前輪スリップ角演算部842aが出力した前輪6のタイヤスリップ角βfは、加減算器842dに入力される。また、加減算器842dには、前後輪スリップ角補正量演算部83が出力した前輪スリップ角補正量Δβfが入力される。加減算器842dは、前輪6のタイヤスリップ角βfから前輪スリップ角補正量Δβfを減算して、ヨーレート演算部842cに供給する。
一方、後輪スリップ角演算部842bは、例えば以下の(29)式に示す演算を行うことによって、後輪7のタイヤスリップ角β
rを算出する。
後輪スリップ角演算部842bが出力した後輪7のタイヤスリップ角βrは、加減算器842eに入力される。また、加減算器842eには、前後輪スリップ角補正量演算部83が出力した後輪スリップ角補正量Δβrが入力される。加減算器842eは、後輪7のタイヤスリップ角βrから後輪スリップ角補正量Δβrを減算して、ヨーレート演算部842cに供給する。
ヨーレート演算部842cは、加減算器842dから入力された補正後の前輪6のタイヤスリップ角(β
f−Δβ
f)、および加減算器842eから入力された補正後の後輪7のタイヤスリップ角(β
r−Δβ
r)に基づいて、例えば以下の(30)式に基づく演算を行う。これによって、ヨーレート演算部842cは、補正後の推定旋回状態量としての補正後推定ヨーレートYrstd2を算出する。
以上のようにして、第2車両モデル演算部842は、入力されたハンドル操舵角MA、車速Vおよびタイヤスリップ角補正量Δβf,Δβrに基づいて、補正後推定ヨーレートYrstd2を算出して外部に出力する。また、第2車両モデル演算部842は、補正後推定ヨーレートYrstd2の算出と同様の方法に従って、補正後推定横加速度Gystd2を算出して外部に出力する。その他の構成は第1の実施形態と同様なので、説明を省略する。
以上説明した第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、車両モデル逆演算部82が算出したヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrと、走行状態演算部64が判定した車両1の旋回状態とに応じて、車両モデル演算部84が車輪5のタイヤスリップ角βf,βrを補正していることにより、前輪6および後輪7の横力の配分を補正できるので、車両1の横運動(公転運動)における過渡応答を含めて、過渡領域の補正を高精度に行うことができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態による車両制御装置について説明する。この第3の実施形態においては、補正量演算部65の構成以外は第1および第2の実施形態と同様なので、以下の説明においては、補正量演算部65の構成について説明する。図7は、この第3の実施形態による補正量演算部の構成を示すブロック線図である。
図7に示すように、この第3の実施形態における補正量演算部65は、車両モデル演算部81、車両モデルヨーレート逆演算部82a、車両モデル横G逆演算部82b、舵角補正量演算部85、および加減算器65a〜65cを有して構成される。
車両モデル演算部81は、第1の実施形態における車両モデル演算部81と同様であり、図7においては単一のブロックとして記載している。車両モデル演算部81は、第1の実施形態と同様に、推定ヨーレートYrstdおよび補正後推定ヨーレートYrstd2を出力する。この第3の実施形態において車両モデル演算部81はさらに、入力されたハンドル操舵角MAおよび車速Vに基づいて、例えば上述した(23)式に従った車両モデル演算を行って、推定横加速度Gystdを出力する。
車両モデル演算部81から出力された推定ヨーレートYrstd、および車両1のヨーレートセンサ43から出力された実ヨーレートYrはそれぞれ、加減算器65bに入力される。加減算器65bは、推定ヨーレートYrstdから実ヨーレートYrを減算してヨーレート偏差ΔYrを出力する。ヨーレート偏差ΔYrは、車両モデルヨーレート逆演算部82aに入力される。
車両モデルヨーレート逆演算部82aは、第1の実施形態における車両モデル逆演算部82と同様であり、ヨーレート偏差ΔYrおよび入力された車速Vに基づいて、上述した車両モデル関数fγに対する逆変換関数fγ -1による演算を行う。これにより、車両モデルヨーレート逆演算部82aは、ヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrを算出する。ヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrは、補正量演算部65の外部に出力されるとともに舵角補正量演算部85に入力される。
一方、車両モデル演算部81から出力された推定横加速度Gystdは、加減算器65cに入力される。また、車両1の横加速度センサ44により計測された実旋回状態量としての実横加速度Gyは、加減算器65cに入力される。加減算器65cは、推定横加速度Gystdから実横加速度Gyを減算して、横加速度偏差ΔGyを出力する。横加速度偏差ΔGyは、車両モデル横G逆演算部82bに入力される。
車両モデル横G逆演算部82bには、横加速度偏差ΔGyおよび車速Vが入力される。車両モデル横G逆演算部82bは、横加速度偏差ΔGyおよび車速Vに基づいて、車両モデル関数fに対する逆変換関数f-1による演算を行う。これにより、横加速度偏差ΔGyに基づいて逆変換関数f-1により算出された舵角補正量(以下、横加速度起因舵角補正量)ΔMA_Gyが算出される。車両モデル横G逆演算部82bは、横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyを、補正量演算部65の外部、例えば走行制御部62や挙動制御部63に出力するとともに、舵角補正量演算部85に出力する。
舵角補正量演算部85は、入力されたヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrおよび横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyに基づいて、舵角補正量ΔMAを導出する。ここで、舵角補正量演算部85による舵角補正量ΔMAの各種の導出方法について説明する。
第1に、舵角補正量ΔMAの導出方法の一例として、以下の(31)式に基づいて導出する方法がある。
|ΔMA_Yr|>|ΔMA_Gy|の場合、ΔMA=ΔMA_Gy
|ΔMA_Yr|≦|ΔMA_Gy|の場合、ΔMA=ΔMA_Yr ……(31)
なお、この(31)式に基づくΔMAの導出は、車両1の旋回状態がアンダーステア状態である場合に採用するのが望ましい。
第2に、舵角補正量ΔMAの導出方法の他の例として、以下の(32)式に基づいて導出する方法がある。
ΔMA=KYr×ΔMA_Yr+KGy×ΔMA_Gy ……(32)
なお、KYr、KGyは0以上1以下の重み係数であって、以下の(33)式が成立する。
KGy=1−KYr ……(33)
ここで、KYrは、|ΔMA_Yr−ΔMA_Gy|を入力とするマップで、|ΔMA_Yr−ΔMA_Gy|が大きくなるほど小さくする。
第3に、舵角補正量ΔMAの導出方法のさらなる他の例として、以下の(34)式に基づいて導出する方法がある。
|ΔMA_Yr−ΔMA_Gy|≧Thの場合、ΔMA=ΔMA_Gy
|ΔMA_Yr−ΔMA_Gy|<Thの場合、ΔMA=ΔMA_Yr…(34)
なお、Thは所定のしきい値である。第3の実施形態におけるその他の構成については、第1および第2の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
この第3の実施形態によれば、第1および第2の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、さらに横加速度センサ44により計測された実横加速度Gyを用いて、横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyを算出して、補正後推定横加速度Gystd2を算出していることにより、実横加速度Gyを推定横加速度Gystdの補正に用いることができるので、車両1の走行状態が四輪ドリフト状態などであっても、推定された車両状態量と車両1の挙動における実際の車両状態量との乖離を高精度に補正することができる。
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態による車両制御装置について説明する。この第4の実施形態において補正量演算部65の構成以外については、第1、第2および第3の実施形態と同様なので、以下の説明においては、補正量演算部65の構成について説明する。図8は、この第4の実施形態による補正量演算部の構成を示すブロック線図である。
図8に示すように、第4の実施形態による補正量演算部65は、車両モデルヨーレート演算部81f、車両モデル横G演算部81g、車両モデルヨーレート逆演算部82a、車両モデル横G逆演算部82b、前後輪スリップ角補正量演算部83、舵角補正量演算部85、前後軸横G演算部86、および加減算器65a〜65cを有して構成される。なお、前後輪スリップ角補正量演算部83は、第2の実施形態と同様であり、車両モデルヨーレート逆演算部82a、車両モデル横G逆演算部82b、舵角補正量演算部85および加減算器65a〜65cはそれぞれ、第3の実施形態と同様である。
車両モデルヨーレート演算部81fは、第3の実施形態における車両モデル演算部81と同様に構成されている。すなわち、車両モデルヨーレート演算部81fから出力された推定ヨーレートYrstdは、加減算器65bに入力されて実ヨーレートYrが減算され、ヨーレート偏差ΔYrが算出されて出力される。加減算器65bから出力されたヨーレート偏差ΔYrは、車両モデルヨーレート逆演算部82aに入力する。車両モデルヨーレート逆演算部82aは、ヨーレート偏差ΔYrおよび車速Vに基づいて、逆変換関数f-1による演算を行い、ヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrを算出する。車両モデルヨーレート逆演算部82aは、ヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrを、補正量演算部65の外部、加減算器65aおよび舵角補正量演算部85に出力する。
加減算器65aは、入力されたハンドル操舵角MAからヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrを減算して、車両モデルヨーレート演算部81fに出力する。車両モデルヨーレート演算部81fは、第1および第3の実施形態と同様に車両モデル演算を行って、補正後推定ヨーレートYrstd2を出力する。すなわち、この第4の実施形態において補正後推定ヨーレートYrstd2は、公転運動の車両状態量である横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyを用いることなく、自転運動の車両状態量であるヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrを用いて補正された車両状態量である。算出された補正後推定ヨーレートYrstd2は、前後軸横G演算部86に入力される。
一方、車両モデル横G演算部81gは、第2の実施形態における車両モデル演算部84と同様に構成されるが、推定ヨーレートYrstdの代わりに推定横加速度Gystdを出力する点が第2の実施形態と異なる。すなわち、車両モデル横G演算部81gは、ヨーレートγを演算する車両モデル演算の代わりに、例えば(23)式などに基づいた横加速度Gyを演算する車両モデル演算を行う。この場合、車両モデル横G演算部81gにハンドル操舵角MAおよび車速Vが入力されると、車両モデル横G演算部81gは推定横加速度Gystdを出力する。
車両モデル横G演算部81gから出力された推定横加速度Gystdは、加減算器65cに入力される。また、車両1の横加速度センサ44により計測された実横加速度Gyが加減算器65cに入力される。加減算器65cにおいて推定横加速度Gystdから実横加速度Gyが減算されて横加速度偏差ΔGyが出力される。加減算器65cから出力された横加速度偏差ΔGyは車両モデル横G逆演算部82bに入力される。車両モデル横G逆演算部82bは、第3の実施形態と同様にして横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyを算出する。車両モデル横G逆演算部82bは、横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyを、補正量演算部65の外部および舵角補正量演算部85に出力する。
以上のようにして、舵角補正量演算部85には、ヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrおよび横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyが入力される。舵角補正量演算部85は、第3の実施形態と同様にして演算を行って舵角補正量ΔMAを算出し、前後輪スリップ角補正量演算部83に出力する。
舵角補正量ΔMAが入力された前後輪スリップ角補正量演算部83は、第2の実施形態と同様にして演算を行い、前輪スリップ角補正量Δβfおよび後輪スリップ角補正量Δβrを算出して、車両モデル横G演算部81gに出力する。
車両モデル横G演算部81gには、ハンドル操舵角MA、車速V、およびタイヤスリップ角補正量Δβf,Δβrが入力される。車両モデル横G演算部81gは、例えば(28)式に従って前輪6のタイヤスリップ角βfを算出するとともに、例えば(29)式に従って、後輪7のタイヤスリップ角βrを算出する。車両モデル横G演算部81gは、前輪6のタイヤスリップ角βfから前輪スリップ角補正量Δβfを減算するとともに、後輪7のタイヤスリップ角βrから後輪スリップ角補正量Δβrを減算する。
車両モデル横G演算部81gは、補正後の前輪6のタイヤスリップ角(βf−Δβf)、および補正後の後輪7のタイヤスリップ角(βr−Δβr)に基づいて、例えば(30)式と同様の、従来公知の横加速度Gyに関する車両モデル演算を行う。これによって、車両モデル横G演算部81gは、補正後推定横加速度Gystd2を算出して出力する。すなわち、この第4の実施形態において補正後推定横加速度Grstd2は、自転運動の車両状態量であるヨーレート起因舵角補正量ΔMA_Yrと、公転運動の車両状態量である横加速度起因舵角補正量ΔMA_Gyとを用いて補正された車両状態量である。補正後推定横加速度Gystd2は前後軸横G演算部86に入力される。
前後軸横加速度演算部としての前後軸横G演算部86は、入力された補正後推定ヨーレートYrstd2および補正後推定横加速度Gystd2に基づいて、前輪6の車軸である前軸の横加速度(前軸Gy)および後輪7の車軸である後軸の横加速度(後軸Gy)を算出する。ここで、ヨーレートγおよび横加速度Gyに基づいて、前軸Gyおよび後軸Gyを算出する算出方法は、従来公知の方法を採用することができる。
以上説明した第4の実施形態によれば、第1〜第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、この第4の実施形態によれば、ヨーレートなどの自転運動に関する状態量を、自転運動に関する状態量を用いつつ公転運動に関する状態量を用いずに補正しているとともに、横加速度などの公転運動に関する状態量を自転運動の車両状態量と公転運動の車両状態量とをともに用いて補正していることにより、車両1が前輪6のスリップによるブロー状態、または後輪7のスリップによるスピン状態などの、いわゆる自転運動と公転運動とのバランスが崩れた状態であっても、推定ヨーレートと実ヨーレートとの乖離を高精度に補正できる。また、車両1の重心位置の横加速度のみならずヨーレートを用いて補正を行っていることにより、前輪6の車軸にかかる横加速度および後輪7の車軸にかかる横加速度を適切に推定することができるので、前後軸横G演算部86によって車軸にかかる横加速度に基づく車両1のロール運動の制御を、より精度良く行うことができる。
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた車両モデル、車両モデルの逆演算、および処理部の構成はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる車両モデル、車両モデルの逆演算、および処理部の構成を用いても良い。
また、上述した第1〜第4の実施形態においては、例えば第1および第2の実施形態を組み合わせたり、第2および第3の実施形態を組み合わせたりするように、それぞれの実施形態を互いに組み合わせることも可能である。
上述の実施形態においては、車両モデルとして線形2輪モデルを採用しているが、必ずしも線形2輪モデルに限定されるものではなく、舵角に応じた関数として、車両の旋回挙動を表すことができる車両モデルであれば、種々の車両モデルを採用することが可能である。
また、上述の実施形態においては、種々の演算を単一のECU50で行っているが、必ずしも単一のECUに限定されるものではなく、複数のECUに演算を分担させるようにしても良い。すなわち、例えば、車両モデル演算部81と車両モデル逆演算部82とを別体のECUから構成することも、車両モデル演算部81における基準ヨーレートを演算する部分と補正後のヨーレートを演算する部分とを別体のECUで構成することも可能である。
また、上述の実施形態において、操舵角検出手段は、操舵角センサ16に限らず、例えば、モータのロータ軸の回転角を検出する回転角センサ、ギヤ機構のラックストロークまたはピニオン回転角を検出するセンサ(図示せず)などを用いることもできる。この場合、操舵角検出手段は、例えば回転角センサなど、相対角として操舵角を検出するセンサである場合には、ハンドル12の絶対角を取得可能な機能を別途有する構成が可能である。
また、上述の第2の実施形態においては、タイヤスリップ角補正量Δβf,Δβrの演算方法として、オーバーステア状態であるかアンダーステア状態であるかに応じて、タイヤスリップ角補正量Δβf,Δβrの大きさを増減させる方法を採用しているが、必ずしもこの方法に限定されるものではない。また、上述の第2または第4の実施形態においては、前輪スリップ角補正量Δβfと後輪スリップ角補正量Δβrとをともに用いて、推定ヨーレートや推定横加速度を補正しているが、前輪スリップ角補正量Δβfおよび後輪スリップ角補正量Δβrのうちの一方を用いて補正を行っても良い。