JP2016506241A - サイクロンに影響を及ぼす方法及び装置 - Google Patents

サイクロンに影響を及ぼす方法及び装置 Download PDF

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Abstract

【課題】サイクロンに影響を及ぼす方法、影響を受けたサイクロンに関するパラメータを定量化する方法及び装置を提供すること。【解決手段】本発明に係る表層を有する海上でサイクロンに影響を及ぼす方法は、エネルギー転移阻害剤を、所定の場所で前記表層内に散布し、前記エネルギー転移阻害剤が散布された所定の場所の近位で、海からサイクロンへのエネルギー転移を妨げる。【選択図】図1

Description

本発明は、サイクロンに影響を及ぼす方法、影響を受けたサイクロンに関するパラメータを定量化する方法及び装置に関する。
アメリカ合衆国の南部及び東部の沿岸地方は、歴史的にハリケーン上陸による被害を経験してきており、それにより大規模な財産損壊、人命喪失、極度の海岸浸食及び厳しい経済的混乱が引き起こされてきた。2012年のハリケーン、アイザックとサンディでの経験を経て、このような暴風を沿岸地域から遠ざける方法を発見する必要があることが決定的となった。
気候の温暖化により地球の蒸発活動が活発になることで、大気湿度が上昇しサイクロンが多発する。サイクロンが発生すると、地表を冷却し湿った大気を作りながら蒸発を活発にする熱帯低気圧が発生する。また、サイクロンが発生することで、亜熱帯気団が発生する。亜熱帯気団は、南からの暖気と接触し、暖気は北からの冷気と混ざりあう。これらの不安定な湿った大気は、水蒸気と水の蒸発潜熱エネルギーとを豊富に含んでいる。
湿った地表空気を運ぶ気流はひとつにまとまりサイクロンとなる。対抗風のそれぞれの境界でウインドシアが起き、それによって複数の回転中心ができる。これらの回転中心によって作られた遠心力は、今度は渦を発生させる回転中心から質量を引き寄せることにより、低気圧領域を作る。これらの渦は回転し、海面まで下降して海水の噴出を形成し、十分な質量、角運動量を得て急速に成長し、より大きな低気圧に変わる。一旦海に接触すると、この局所気圧が渦の内部を密閉することで、真空状態が作られる。この低気圧中心は、周囲の空/水/取り込まれた質量の混合物を渦へ向かって引き寄せ、上記中心の旋回半径を小さくする。これにより、この低気圧中心は回転速度を十分に上げて目を形成する。これは、局所的な低気圧が本格的なサイクロンに成長する過程のうちのひとつである。
水蒸気が雨に凝縮する相転移の際、サイクロンはエネルギーを取り出す。すなわち、Eはエネルギー(ジュール)、ΔHvapは水の蒸発潜熱(ジュール/モル)、mは水の質量(モル)を表すとすると、次の式が成り立つ。
E = ΔHvap × m
このように、暴風の進行中にサイクロンが得るパワーは莫大である。十分に発達したハリケーンが海上を5ノット(11.11 km/h)で進むとされるカテゴリー1を考察する。ハリケーンの中核部は1,000平方マイルに及ぶ海上空間を占め、5,000フィート上昇する。このハリケーンが毎秒毎平方マイル200ポンドの水を蒸発させるとすると、1,000平方マイルでは毎秒200,000ポンドの水が蒸発し、1ポンドにつき970.7 BTU (British thermal unit; 英熱量)が放出されるであろう。このような暴風のパワーは以下の式で表される。
(200,000 lbs/sec) × (970.3 BTU/lb) × (778 ft-lbs/BTU) × (1 HP/550ft-lbs/sec) × (0.000745699872 MW/1HP) = 204,699.6 MW
そして、水の凝縮によって取り出されたエネルギーは、例えば、暴風の力が海面に作用して波を作ることにより又は当該エネルギーが空気と水蒸気との混合物を暴風の目を中心に回転させることにより、分散される。発生した波はそのまま目から数百マイルにわたって放射状に広がる。これらの波は巨大な高潮を発生させ、高潮は海岸に打ち付けられることもある。カテゴリー1に分類されるハリケーンでさえ、海抜数十フィートまで高潮は容易に上昇しうる。ハリケーン「サンディ」の場合では、ニューヨーク市のバッテリー公園で14フィートの高潮を発生させ、エリス島を冠水させて大規模な洪水被害をもたらした。
暴風の通過による地表水への冷却効果は大変大きい。例えば、1,000平方マイル(2589.99 km2)の海上から、毎秒200,000 lbs(90,718.47 kg/sec)の水を蒸発させるサイクロンについて考察する。海面下1フィート(0.30 m)までの海水温が華氏75度(297.04 K)であるとすると、毎秒、サイクロンは水面から水を蒸発させる。1,000平方マイル(2589.99 km2)の海面上での冷却効果は以下の式で表される。
(200,000 lbs/sec) × (970.7 BTU/lb)
= 204,751.59 mJ/sec、
194,140 BTU毎秒毎平方マイル、又は
194,140/(5280 × 5280) BTU毎フィート毎秒
= 0.00696381 BTU毎立方フィート毎秒、又は
259.421594 J/m3毎秒
このように、6 mph(9.656 km/hr)で移動し10時間で海を横切る暴風は、1立方フィートの水を、0.00696381 × 36,000 = 250.697 BTU又は海水1ポンドにつき3.893 BTUで冷却する。海水の比熱を考慮すると、サイクロンは1ポンド分の海水の温度をおよそ華氏4.14度(摂氏2.2度)だけ下げることができる。暴風の余波が残る海水の温度は、華氏75度(摂氏23.9度)からおよそ華氏71度(摂氏21.7度)に下がるであろう。
米国特許出願第2009/0008468号 米国特許出願第2005/0133612号
サイクロンの海水冷却効果は、大気中の酸素レベルを維持するために重要である。海に生息するプランクトンや藻類は、水温がおよそ華氏80度(摂氏26.7度)未満であり、光合成に十分な二酸化炭素があれば、光合成を行なうことができる。海は光合成が停止する程まで高温になってはならず、また二酸化炭素の排出も制限されるべきではない。したがって、サイクロンの破壊は賢明ではない。サイクロンの海水冷却効果の恩恵を受けつつ、海上で発生する暴風による被害を最小限に抑えることが求められる。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、このような問題に対処する方法と装置を提供することにある。
本発明は、サイクロンに影響を及ぼし、且つ影響を受けたサイクロンに関するパラメータを定量化するために提供される。本発明に係る方法と装置とは、爆発物ではなく、海面からサイクロンへのエネルギー伝達を妨げるエネルギー転移阻害剤を使って、サイクロンのエネルギーを修正するように化学的にサイクロンを攻めることに関するものである。サイクロンの進路の一部において、海面内及び/又は海面上に阻害剤を散布することによって、暴風の一部で海水蒸発を妨げることが可能である。エネルギー転移阻害剤は、適切に選択され暴風の進路に設置されれば、暴風におけるエネルギー源、つまり水の蒸発潜熱を有する部分を打ち消すことが可能である。蒸発潜熱を打ち消されたサイクロンの当該部分は、エネルギーと質量を低下させ、遠心力と暴風質量において不均衡を引き起こす。遠心力における不均衡は暴風の強度を弱め、暴風を誘導するために利用することが可能である。
本発明の各態様に係る表層を有する海上でサイクロンに影響を及ぼす方法は、
エネルギー転移阻害剤を、所定の場所で前記表層内に散布し、
前記エネルギー転移阻害剤が散布された所定の場所の近位で、海からサイクロンへのエネルギー転移を妨げる。
本発明の各態様に係るサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法は、
サイクロンのエネルギー状態を表し、海から前記サイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受ける、サイクロンパラメータの基準値を決定し、
水の蒸発潜熱を妨げる前記エネルギー転移阻害剤の、前記サイクロンパラメータの前記基準値への効果を算出して前記サイクロンパラメータの合成値を決定する。
本発明の各態様に係るサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置は、
データを送受信する入出力器と、
前記入出力器と通信し、
前記サイクロンのエネルギー状態を表し、海から前記サイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受けるパラメータを、前記入出力器からのデータに基づき定量化し、
前記パラメータの基準値を決定し、所定の場所において表層内に散布された前記エネルギー転移阻害剤の効果に基づき、前記パラメータの合成値を決定する
プロセッサと、
前記プロセッサと通信するメモリと
を具備する。
本発明の各態様に係るコンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体は、
コンピュータにより実行されるとき、サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法を前記コンピュータに実行させるコンピュータ読み取り可能なプログラムコードを有し、
前記方法は、
サイクロンのエネルギー状態を表し、海から前記サイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受ける、サイクロンパラメータの基準値を決定し、
水の蒸発潜熱を妨げる前記エネルギー転移阻害剤の、前記サイクロンパラメータの前記基準値への効果を算出して前記サイクロンパラメータの合成値を決定する。
本発明によれば、サイクロンに影響を及ぼし、サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化することが可能である。
サイクロンに影響を及ぼす際に関わる力を示し、サイクロン発生環境における例示的な力を考慮に入れたベクトル図の解を示した図である。 本発明に係るサイクロンに影響を及ぼす方法を示すフローチャートである。 サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法を示すフローチャートである。 サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化するシステムを示したブロック図である。
以下、本発明の目的、特徴及び利点を、図面を参照しながら説明する。
熱帯や亜熱帯におけるサイクロンの海水冷却効果は大きく、この冷却効果はプランクトンや藻類による酸素産生を持続させるのに重要である。このため、サイクロンの破壊は賢明ではない。暴風管理のための現在の試みは、暴風の追跡と計測、砂丘を利用した海岸保護、雨水の排水設備及び関連する準備努力を含む。しかしながら、砂丘によって高潮を止めることはできない。また、高潮が砂丘を乗り超えてしまう場合には、十分な大きさの容量を有する暴風用排水設備を設置して、住宅や、次のサイクロンが海岸に到達すると別の災害が起きるような他の脆弱なインフラから、水を排出しなければならない。
サイクロンは、上述の巨大なパワーを生み出す運動エネルギーをそれ自身で作り出すことはできない。暴風は、海上環境における蒸発潜熱からランダムな分子運動エネルギーを取り出すことが可能である。そして、この放出されたランダムな分子運動エネルギーを回転速度にまとめることが可能である。この回転速度は熱帯擾乱の低気圧地域から発生する。低気圧地域は風を内側に向けて流す。その風がらせん状に上昇すると、海からの蒸気が上方に運ばれ、高度が上がり断熱減率によって空気が冷却されるにつれて凝結する。
いかなる気象系にもいくつかの制約があり、気象系はその制約のもと、安定した状態を保ち、十分なエネルギーを放出し続けて目を維持して海面に接触し、目を中心とした空気循環を活性化させるために動作する。
第一の制約では、気象系は線運動及び角運動の運動量保存の法則に厳密に従うことになっている。数学的形式では、気象系の取り込み質量(空気質量+水と蒸気の質量)と、当該気象系の回転半径と、半径/秒における角速度との積は、当該気象系がそれ自身を維持するために定数でなければならない。言い換えると、次の式が成り立つ。
M1 × R1 × ω1 = C = M2 × R2 × ω2
ここで、Mはサイクロンの全質量、Rはサイクロンの回転半径、ωは半径/秒におけるサイクロンの角速度、Cは角運動量をそれぞれ表す。下付き文字は、質量の低下、水の凝縮又は波の発生のような海面摩擦による環境に対する運動エネルギー低下等の事象の前後の状態を表す。このことは、質量低下によってその気象系から生じる全ての角運動量は、旋風によって蒸気から集められた他の質量と同時に構成され、この気象系の総角運動量に加えられることで、総量が一定に保たれるか増加する、ということを意味する。
サイクロンの目を中心に角運動量が減少すると、直ちに角速度が低下する。この速度低下は海水蒸発能力を妨げる。風速が低下するにつれ、ベルヌーイの法則のように局地的に風圧が上昇するからである。このことは、旋風の循環が減速するにつれて質量の回転半径が大きくなり、より多くの質量が水分凝縮によって雨となり失われる、ということを意味する。
これは、フィギュアスケーターが回転中に、腕を広げて回転を減らし又は止めて回転半径を広げる、あるいは腕を体に引き寄せて回転を増やし回転半径を狭める、という様子に類似している。速度が低下すると、ベルヌーイの法則に従って気圧は局所的に上がり、サイクロンの目は、大量に水を排出し続けることにより平衡を失いふらつく。この現象は、サイクロンの寿命の最期に見られ、サイクロンの目は陸地に接触しながら崩れていき風速が低下するので、サイクロンのステータスは熱帯暴風雨となり格下げされる。地上におけるサイクロンの一部は、地上から十分な蒸発エネルギーを取り出すことなくエネルギーを一定に保ち、この気象系は崩壊し始める。
海水蒸発により暴風にエネルギーが付加されるのは、暴風のすべての領域についてほぼ等しく起こる。本発明者は、暴風の一部では蒸発を妨害し残りの部分では蒸発がスムーズに行われるようにすると、質量不均衡が誘発され、それによって力の不均衡が引き起こされるという知見を得た。これは、暴風の高勢力側(massive side)の遠心力が低勢力側(less massive side)の遠心力よりも大きく、合力は重量側に圧力をかけるからである。そして、遠心力の不均衡によって暴風は重量側に引き寄せられ、軽量側から遠ざけられる。もし効率的な蒸発抑制剤が、海上のサイクロンの進路に直接導入されるならば、暴風の進路の反対方向へと暴風を加速させる効果が得られるであろう。これにより、当該蒸発抑制剤がまずはサイクロンの軽量側で、その後循環してその他の部分に運ばれるにつれて、暴風の誘導気流から前進運動を失速させ、その強度を軽減させることが可能である。全体の効果は、暴風の前進運動を停止させ、そのエネルギー供給を減少させて角運動量と線運動量の低下を引き起こすことである。
このように、エネルギー転移阻害剤をサイクロンに導入するという熱力学効果には、局所的な水の蒸発の阻害と、蒸発潜熱から取り出されるエネルギーの減少とが含まれる。これにより、海面での角速度を低下させ、サイクロンの目において気圧を上昇させる。サイクロンは勢力を弱め、その質量と強度は減少する。サイクロンへのエネルギー転移を阻害することにより、サイクロンの強度に影響を及ぼすことが可能であることがわかる。暴風の一部で選択的に蒸発を阻害して遠心力の不均衡を誘発することにより、サイクロンの進路に影響を及ぼすことが可能である。
図1は、サイクロンに影響を及ぼす際に関わる力を示し、サイクロン発生環境における例示的な力を考慮に入れたベクトル図の解を示した図である。熟練者は、ベクトルI、II及びIIIがサイクロンのエネルギー、例えば速度や加速度等を表すパラメータであることがわかるであろう。サイクロン(101)は力(102)によって影響を受ける。力(102)は、例えば、暴風を強力にする表面摩擦によってハリケーンの進路に影響を与える海流、ジェット気流の動きから発生する上昇気流、局所的な最高/最低気温と相互に作用する局地前線からの風、及び地球の自転を含む。サイクロンの目標進路(103)は、エネルギー転移阻害剤をサイクロンの目の下及びサイクロンの進路に沿って処理地域(104)に散布することにより得ることができる。当該エネルギー転移阻害剤は散布装置(105)によって散布される。散布装置(105)は、例えば、海の表層上又は表層中にエネルギー転移阻害剤を送出する装置である。当該装置は船舶や航空機に搭載可能であり、あるいは陸上に設置することも可能である。
例えば、サイクロンがある時間、例えば、北に18.5 km/hでほぼ一定の進行方向を進んできたとすると、ベクトル図の作成は、ベクトルの長さを暴風の前進速度に合わせた状態で、その同じ進行方向上のベクトルから始められる。図1では、このようなベクトルをベクトルIとする。この例では、進路は既存の気流(102)の合成力であり、少なくとも処理時間中、例えば、およそ6時間は安定状態を保つと仮定する。処理時間とは、例えば、エネルギー転移が有効な量だけ、例えば50%だけ減少する時間である。熟練者は、1又は複数のエネルギー転移阻害剤が水の蒸発を妨げることができる限り、当該エネルギー転移阻害剤の効果が持続可能であるとわかるであろう。ベクトルIの起点から始まる第二の所望のベクトルであるベクトルIIは、暴風の目標進路の進行方向に描くことができるが、第二のベクトルの長さは不確定である。最後に、第三のベクトルである、ベクトルIの先端から延びるベクトルIIIが決定される。ベクトルIIIはベクトルIに垂直であり、ベクトルIIに接触する。このように、ベクトルIIIの長さは、ベクトルIIとの交差により決定される。ベクトルIIは、図1に示すように計算された速度で進む暴風の目標進路を表す。
潜水艦又はその他のエネルギー転移阻害剤散布装置(105)は、例えば50マイル(80.5km)ごとに暴風に先立って海に処理を施す。潜水艦又はその他のエネルギー転移阻害剤散布装置(105)は、暴風が進路の各箇所を横断する度にベクトル図を分解し、暴風を目標進路上に引き留めておくための、暴風の先にある処理領域を再選択する。各々の新しいベクトル図はサイクロンの進路の変化を反映している。
図2は、本発明係るサイクロンに影響を及ぼす方法の一例を示すフローチャートである。本発明に係る他の方法では、別途請求項に記載するように、ステップの数を増減してもよい。
ステップ201では、エネルギー転移阻害剤を散布するための所定の場所(104)が選択される。このステップでは、サイクロンを左右する熱力学原理に基づき、所定の場所が決定される。サイクロンのエネルギー源は大気と海との熱力学的不均衡にあり、そこでは水の蒸発により、海から大気へと潜熱エネルギーが移動する。サイクロンには低気圧中心があり、そこでは高エネルギーの水蒸気を伴った表面風がサイクロンの目に引き込まれる。このように、水の蒸発により表面風が海面から潜熱エネルギーを取り出す場所は、エネルギー転移阻害剤散布のために熟考された場所に含まれる。
エネルギー転移阻害剤散布のために選ばれる所定の場所は、サイクロンの半径の範囲内で且つサイクロンの進路に沿った場所である。サイクロンの進路は、当業者によって利用されるような天候予測方法により決定される進路である。ベクトルIは、アイウォール(台風の目の周囲にある積乱雲の壁)の下から始まり、サイクロンの進路の前方方向へと続く。エネルギー転移阻害剤の散布はベクトルIに沿って、目標進路すなわちベクトルIIへの領域を含んで行われる。
ステップ202において、エネルギー転移阻害剤が海の表層内に散布される。ここで、当該表層は海面と海の混合層のうちの少なくともひとつを含む。「表層内」は表層の層内と層上を意味することが熟練者には理解されるであろう。1又は複数のエネルギー転移阻害剤が散布され、それによってサイクロンの足跡(footprint)と同規模の地理的領域をカバーすることができる。エネルギー転移阻害剤は、航空機や船から又は陸上に設置された散布装置から表層へ注入することができる。これに限らず、例えば、潜水艦を利用することができる。潜水艦は、そのタンクをエネルギー転移阻害剤で満たし、当該エネルギー転移阻害剤を表層内に投入する。潜水艦に設置された計器は、暴風の位置、暴風の測定基準、表面風と波、暴風の予測行路ベクトル、すなわちベクトルIを監視するために使用することができる。1又は複数のエネルギー転移阻害剤を散布するために潜水艦を使うことの利点は、潜水艦であれば暴風に接近することができ、サイクロンの近位での厳しい大気と海の状況に比較的影響を受けないことである。原子力潜水艦は、暴風の中でも操船することができ、暴風の管理を担当する政府機関との通信が可能であるので、最も安全であり最も低コストでエネルギー転移阻害剤を散布することができる。
ステップ203では、表層上又は表層内の上記1又は複数のエネルギー転移阻害剤が、海からサイクロンへのエネルギー転移を阻害するように作用する。1又は複数のエネルギー転移阻害剤は単分子層、二分子層又は乳濁液を形成して海水との異種混合物となるか、あるいは、これらの分子間配列の任意の組み合わせとなる。エネルギー転移阻害剤と水との相互作用は表層上又は表層内で見られる。1又は複数のエネルギー転移阻害剤は、海水蒸発に対する物理化学的障害として作用し、水素結合による水との分子間相互作用を高め、水の蒸気圧を変化させ、あるいは水の蒸気への転移を妨げる他の任意の手段として作用することができる。この遷移を抑制することにより、1又は複数のエネルギー転移阻害剤は、海からサイクロンへの潜熱エネルギーの転移を妨げる。言い換えると、高エネルギーの水分子は、サイクロンの海の表層の表面風中に蒸発する代わりに、表層上又は表層内にとどまる。そして、表面風の水分子はほとんどなくなり、それにより質量とエネルギーは乏しくなる。
上記の作用を実現するために必要なエネルギー転移阻害剤と装置は、例えば、サイクロンのベクトルIとベクトルIIの間の部分の正面の海面にエネルギー転移阻害剤を投入する潜水艦を含む。これに限らず、例えば、エネルギー転移阻害剤は、長鎖脂肪酸、エステル、アルコール及び蝋状物質を含む。例えば、大豆油とデカン酸との混合物を50%含むエネルギー転移阻害剤混合物が、カテゴリー1のハリケーンの場合では海上1平方マイルにつき100ガロンの割合で投入される。デカン酸と大豆油は、溶媒として作用する長鎖炭化水素の脂肪酸であり、炭素鎖の一端に位置するカルボン酸基を用いて容易に水と水素結合する。この水素結合は一時的に水分子をエネルギー転移阻害剤に繋ぎ止めることができ、蒸発を阻害することができる。他の例では、蒸発阻害剤は、例えばロベリアテレキーのような植物から分泌される化学物質を含む。
これに限らず、例えば、サイクロンの下を150フィート(45.7 m)潜水している潜水艦は、1又は複数のタンクから5,000ガロン(18,927リットル)のエネルギー転移阻害剤を投入することができる。これは、一回の散布につき暴風の半球のおよそ50平方マイル(129.5 km2)をカバーできる量である。風と波の作用により分子間配列が壊れやすいので、海面下の潜水艦は、進路に所望の変化を及ぼすのに十分な長い時間をかけてエネルギー転移阻害剤を散布し、補充することができる。潜水艦又は他の散布装置(105)は十分な量のエネルギー転移阻害剤をタンクに搭載し、必要であればより長い時間、分子間配列を維持することが可能である。
質量とエネルギーが低下した風は、サイクロンのエネルギー供給を中断させ、サイクロンに不均衡を引き起こしてサイクロンの強度に影響を及ぼす。質量とエネルギーが低下した風はサイクロンの低気圧中心に引き込まれるので、サイクロンの前方部分で角運動量が減少する。サイクロンの当該部分で質量と角運動量が減少することで、サイクロンに質量不均衡が起こる。エネルギー転移阻害剤の散布領域で循環している暴風は同量の海水を蒸発させず、質量不足を引き起こす。
サイクロンにおける不均衡によって、サイクロンの強度を軽減することができ、サイクロンを誘導することができる。低気圧系の進路の海面上にエネルギー転移阻害剤を注入することで、海水の蒸発を阻止し、それによってエネルギー産生率とサイクロンの強度に影響を及ぼす。これにより、サイクロンの角運動量の不足が起こり、サイクロンのより高勢力な部分に向かって加速を引き起こす。エネルギー転移阻害剤をサイクロンの一部に選択的に導入することにより、当該部分が系全体のエネルギー産生と角運動量に貢献する度合は低下する。このエネルギーと取り込まれた水蒸気の減少は当該系における質量不均衡を引き起こす。これにより、サイクロンの目は、目と系全体に働く遠心力の不均衡から、サイクロン系の重くエネルギーの高い側に向かって加速させられる。上向きの角運動量はサイクロン系全体を維持することができるが、その角運動量の伝達を妨げることでサイクロン系の強度と方向を制御することができる。言い換えると、海面中と海面上に注入されたエネルギー転移阻害剤はサイクロンにおいて不均衡を引き起こし、その進路、強度又はその両方を変化させることができる。
もし十分なエネルギー産生が中断され、回転速度の伝達を減速させることができれば、サイクロンの上述した部分は回転速度を低下させ、取り込まれた水の質量を減少させるであろう。より少ない質量がサイクロンの上述した部分へ導かれ、バランスを失した遠心力がサイクロン系に影響を与える。サイクロンの目は、暴風のより激しい重量側に向かって引き寄せられ、それにより、海水への処理が上述のように維持される限りは暴風の進路を変更することができる。サイクロンは処理を施していない海水へと向かうので、元の大気の流れが残っていれば、サイクロンの元の進路は回復される。サイクロンに影響を及ぼすことで得られた経験から、曲線状に暴風の前方の海水を処理することで、より好都合な方向に、陸地から遠ざかるように且つ海上のホットスポットに向かって、サイクロンの進路のより根本的な変化を誘発することが可能である。
このように、西向きに移動する中大西洋のサイクロンについては、最初はサイクロンの目の推定進路の南側に蒸発阻害剤を線状に撒いて維持し、進路を西側にカーブさせることで、質量と角運動量の不均衡により系が北に引き寄せられて進路がカリブ海諸島から離れるように変化することにより、暴風の進路を右に曲がり北に向かうように誘発することができる。
これに限らず、例えば、アイザックのようなハリケーンが北半球の沿海都市に接近しているなら、暴風の進行方向に対し3時の方向から暴風の正面において、水上に直接エネルギー転移阻害剤を線状に撒くことで、ハリケーンの前方半球における動きに対して直角をなす9時の方向へエネルギー転移阻害剤を注入する際に、反時計回りの回転を役立てることができるであろう。エネルギー転移阻害剤は、ハリケーンの前方部分の質量とエネルギーとを減少させ、動きの反対方向にサイクロンの目を加速させるであろう。これにより、まず暴風の前進運動は失速させられ、雨として凝縮されたその同じ水を再蒸発させる。表面温度の低下から蒸気圧が低下し、蒸発から得られるエネルギー産生が低下しているサイクロン系においてエントロピーが増加することによって、エネルギー源としての潜熱を取り出すことが困難になる。これにより、暴風のエネルギー産生率を低下させ、暴風の膨張率を制御することになる。暴風の動きを阻止してこの処理を継続することにより、暴風を消滅させることができる。
図3はサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法を示すフローチャートである。本発明に係る他の方法では、別途請求項に記載するように、ステップの数を増減してもよい。
ステップ301では、少なくとも1つのサイクロンパラメータが選択される。当該少なくとも1つのサイクロンパラメータは、サイクロンのエネルギー状態、進路及び強度のうち少なくとも1つを表す。例えば、選択された少なくとも1つのパラメータはサイクロンの力に関連している。サイクロンの力は、例えば、表面風、空気対流、海洋熱の混合流、サイクロンの目や渦の特徴をモデル化するバルク空気力学フラックス式、等価物又はこれらのあらゆる組み合わせを含む。当業者によって使用される他のパラメータも使用することができる。例えば、パラメータとしてサイクロンの旋回力を選択することができる。発生した旋回力の大きさは、サイクロンの一方の半球のみで水の蒸発が十分に起きているのに対し、もう一方の半球ではエネルギー転移阻害剤により蒸発が阻害されている時に、サイクロンの両側にかかる遠心力を計算して推定することができる。わかりやすく図示すると、図1のベクトルIは、処理前のサイクロンの目の加速度ベクトルを表し、ベクトルIIIは、サイクロンの片側で水の蒸発が阻害されているときの、処理中のサイクロンの目の加速度ベクトルを表す。旋回力は目加速度ベクトルにサイクロンの質量を乗じて求めることができる。目の速度は目の加速度ベクトルを経時積分して求めることができ、目の加速度は目の速度ベクトルを時間に対して微分して求めることができる。
ステップ302では、上記少なくとも1つのサイクロンパラメータの基準値が決定される。例えば、旋回が選択されると、サイクロンの遠心力は、まずサイクロンの遠心加速度と質量を求めることによって決定される。平均遠心加速度は、速度の二乗V2を回転半径Rで除算したものである。言い換えると、
ac = V2/R
と表される。サイクロンの回転半径Rは、表面の極慣性モーメント量の平方根、つまり、表面上で暴風の中核領域によって分割される、暴風の目から表面に垂直な軸を取って計算される。言い換えると、旋回の回転半径Rは、
R = (I/A)1/2 = (π/2r4/πr2)1/2 = r/√2
と表される。式中、Iは極慣性モーメント、Aはサイクロンの断面積、rはサイクロンの半径を表す。円筒状の暴風の質量は以下の式から計算することができる。
m = ρ × π × r2 × h
式中、mはサイクロンの質量、ρは密度、rはサイクロンの半径、hはサイクロンの高さを表す。
例えば、(a)片側から毎秒100,000 lbsで蒸発し、蒸発を抑制された側から毎秒50,000 lbsで蒸発し、(b)蒸発と同じ比率で雨になり、暴風の質量は一定になり、(c)暴風の回転半径で平均速度Vつまり毎時75マイル(110 ft/sec)でサイクロンの目を中心に回転し、(d)暴風半径が17.84マイル(又は28.71 km)になるように、暴風の中核は1,000平方マイルの範囲に及ぶ暴風について検討する。暴風の中核の回転半径は、
R = 28.71/21/2 = 20.3 km
と表される。
暴風の未処理側の半球の質量は、1,000平方マイルの円形領域を5,000フィートの高さの円柱体積で囲み、この体積を二分して得られる暴風の体積から推定される。この半円柱体積は、(1,000 × 5,2802 × 5,000)/2 = 69,696,000,000,000 ft3又は1,973,790,720,000 m3である。空気と水の混合物の湿度図表から、1気圧、乾球温度華氏75度、相対湿度100%における、空気に対する水蒸気の質量比は0.0270である。蒸気表から、1気圧、乾球温度華氏75度における乾気の重量密度は0.0743 lbs/ft3である。上記半円柱の乾気重量は(0.0743) × (69,696) × 109 = 5,178.41 × 109 lbsである。上記半円柱の乾気質量は、(5,178.41 × 109/32.2) slug = 160.82 × 109 slugである。空気と水蒸気の混合物を相対湿度100%にするための、乾気質量に取り込まれた水蒸気質量は、湿度図表から、上記半円柱の乾気質量×乾気に対する水蒸気の質量比、つまり、水蒸気0.0270スラグ/立方フィート/気乾スラグ/立方フィート、あるいは0.0270 × 160.82 × 109 + 160.82 × 109 = 165.16 × 109 slug(半円柱における空気と水蒸気の質量)である。
空気と水蒸気の質量に加えて、取り込まれた水分は、雨や霧として凝縮し、水蒸気質量の10%を占めると推定される。これは半円柱の全質量の推定値を求めるために含められなければならない。暴風においては蒸発と同じ比率で雨が降るとされるため、すなわち、質量の増減がないため、上記半円柱の全質量は、空気、水蒸気及び空中水分の質量(=165.16 × 109 + 0.10 × 165.16 × 109 = 181.67 × 109 slug (260.00 wt × 1011 N))となる。
このように、サイクロン系に作用する平均遠心加速度はV2/R = 1102/(66601) = 0.181 ft/sec2(0.055 m/sec2)である。暴風の半円柱の全質量は5,000フィートの高さまで推測され、平均遠心加速度は既知であるので、上記半円柱の重心によって半円柱自体に作用する遠心力は、F=ma、つまり181.67 × 109 slug × 0.181 ft/sec2 = 32.88 × 109 lbs (146.3 × 109 N)から算出することができる。半円柱状の断面積に均一に作用するこの力の1平方フィート当たりの圧力は、32.88 × 109/(35.68 × 5,280 × 5,000) = 34.90 lbs/ft2 (1,671 Pa)である。比較すると、カテゴリー3のハリケーンにおいて、同質量で130 mph(190.6 ft/sec)、1,000平方マイルの領域の場合、遠心力不均衡により、1平方フィート当たり90.15ポンドの圧力を受ける(4,316 Pa)。
ステップ303において、上記少なくとも1つのエネルギー転移阻害剤とその散布のための上記少なくとも1つの所定の場所が選択される。上記少なくとも1つのエネルギー転移阻害剤は、海水の蒸発を防止する能力に基づき選択される。海水の蒸発潜熱に影響を及ぼすことのできる少なくとも1つのエネルギー転移阻害剤は、サイクロンの半径の範囲内で且つサイクロンの進路に沿って散布される。サイクロンの進路は、例えば、当業者によって利用されるような天候予測方法により決定される進路である。
ステップ304において、上記少なくとも1つのエネルギー転移阻害剤の注入による、少なくとも1つのサイクロンパラメータへの効果が算出される。例えば、旋回が選択されると、サイクロンの目の加速度ベクトルであるベクトルIIIに、上記エネルギー転移阻害剤の影響を受けるサイクロンの質量を乗じることにより、サイクロンの旋回に対するエネルギー転移阻害剤の効果を算出することができる。サイクロンに転移されるエネルギー量についても、エネルギー転移阻害剤を散布した領域の上方で、空気の質量を乗じて得られた水の蒸発潜熱を乗じた水蒸気のモル分率を測定することにより、推定することができる。当業者によって使用される他の数学アルゴリズムには、蒸気圧、温度、体積又は他のパラメータが含まれる。エネルギーと乾気質量はサイクロンの不均衡を算出するために使われ、それにより強度、進路又はエネルギー状態を予測することができる。
旋回が選択される場合、例えば、阻害剤を散布された水の上を循環するサイクロンの半円柱は、水の質量の半分のみ蒸発させ、急速にエネルギーを喪失して質量を減少させると仮定すると、その半円柱は、未処理の半円柱が有する遠心牽引力に対向する能力を急速に失う。乱流のカオス的反応が生じ、それによって角速度が低下し、まずサイクロンの目が、目の加速度方向に長軸を有する楕円型に変形し、さらに対抗遠心力が低下する。そして、サイクロンの目における処理部分が減速するにつれてその部分で回転半径が増大するように当該目が洋なし型になると見込まれる。あえて言うなら、上記対抗遠心力は未処理の半円柱の遠心力のたかだか半分の力であり、反対方向に作用する未処理の半球の加速度の半分ほどの力となるであろう。この例では、上記阻害剤の処理を施された半球の遠心加速度はわずか0.181/2 = 0.0905 ft/sec2 (0.028 meters/sec2)となるであろう。
サイクロン合成パラメータは、誘導されたサイクロンのエネルギー状態、進路又は強度が予測できるように算出される。1又は複数のパラメータがベクトル的に加算又は重み付けされ、サイクロンの予測合成ベクトルにさまざまな効果をもたらす。旋回が選択された上記の例では、2分間にわたって加速度ベクトルが積分され、結果的に速度ベクトルが形成されるが、0.0905 ft/sec2 × 120 sec = 10.86 ft/sec (3.3 meters/sec)が得られる。言い換えると、下記式のようになる。
Figure 2016506241
直角に作用するこのベクトルは、既存の現速度ベクトルに沿って、暴風の進路と速さベクトルに加算され、結果として暴風の進路と速さ/速度ベクトルを得ることができる。この例では、積分の最大時間間隔の最適推定値として二分間が選択された。これは、加速が表面摩擦の増加に阻まれることより、周囲の流れから暴風の速度が制限されるのと同じように、暴風に作用する不均衡な遠心力によって得られる全速度も制限されるからである。このように、加速度ベクトルを速度ベクトルに統合することにより、注入されたエネルギー転移阻害剤のサイクロンへの誘導効果は定量化される。
そして、この合成ベクトルは、サイクロンの変化したエネルギー状態、進路、強度又はこれらの組み合わせを予測するために使用される。この合成ベクトルは、暴風を大陸から遠ざけるため、又は海洋生態系に必須の光合成機能を脅かす海上のホットスポットに向けて暴風を運ぶために選ばれる。進路と速度ベクトルを標準的な海図に当てはめ、目標進路を選択し、暴風の進路と速度ベクトルに対して直角に描かれた暴風の目の加速度ベクトルでベクトルの三角形を閉じることで生じるベクトル図の解は、暴風を目標進路に送るために導き出され、それによってサイクロンのどの部分に処理を施すべきかをユーザに通知することができる。
サイクロンの予測進路は、サイクロンのさらなる誘導のために評価されてもよい。暴風が前進するにつれて、最初の処理として誘導とその処理の補正が行われた後に、追跡データとしてのベクトル図が繰り返し得られるようになる。
図4は、サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化するための装置(400)を示したブロック図である。こうした装置(400)により、図3や上述の他の図に示された方法を実現することができる。本発明に係る他のシステムでは、別途請求項に記載するように、構成要素の数を増減してもよい。
装置(400)は、プロセッサ(402)やメモリ(403)と通信を行う入出力通信器(401)を有する。入出力通信器(401)は例えば、キーボード、ポインティングデバイス、ディスプレイ又はその他の機器である。入出力通信器(401)は任意の形式のデータを送受信することができる。当該データは、例えば、海図、米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration; NOAA)及び/又はその他の情報源から得られるデータである。例えば、入出力通信器(401)は、選択された大気パラメータ又はその他のデータをプロセッサ(402)に供給することができる。メモリ(403)は少なくともプロセッサと通信し、例えば、プロセッサ(402)によって実行されるプログラム指示、プロセッサ(402)によって使われる且つ生成されるデータ、入出力データ及びその他管理指示などの情報を保存及び検索することができる。上記メモリは、揮発性又は不揮発性の、任意の好適なコンピュータ読み取り可能なメモリであってよい。
プロセッサ(402)は、好適にプログラムされた電子プロセッサであり、例えば、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array; FPGA)特定用途向け集積回路(application specific integrated circuit; ASIC)又はその他の形式の処理回路である。なお、プロセッサ(402)は単一ユニットである必要はなく、任意の数のユニットから構成されてもよい。
例えば、プロセッサ(402)は、パラメータ基準値を決定するための好適なプログラミングによって構成されてもよい。当該パラメータ基準値は、サイクロンのエネルギー状態を表し、海からサイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受ける。プロセッサ(402)はさらに、パラメータの合成値を決定するための好適なプログラミングによって構成されてもよい。例えば、プロセッサ(402)は、所定の場所における海の表層内に散布されたエネルギー転移阻害剤の、水の蒸発潜熱、散布されたエネルギー転移阻害剤に最も近接した水蒸気のモル分率、又はその他のエネルギー転移パラメータへの効果を算出することができる。典型的には、プロセッサ(402)は、数式、アルゴリズム又はその他の関連性を使って、エネルギー転移阻害剤のサイクロンパラメータへの効果を算出する。例えば、プロセッサ(402)は、サイクロンの質量若しくは遠心力、旋回又はその他のパラメータに対する、少なくとも1つのエネルギー転移阻害剤の効果を算出することができる。プロセッサはサイクロンのエネルギー、進路、強度又はこれらの組み合わせを算出することができる。
必要に応じて繰り返しサイクロン合成パラメータを推定する上記プロセッサ(402)を構成することにより、上記装置(400)は、上述したように、サイクロンに影響を及ぼすことに関連した少なくとも1つのパラメータを定量化するために使用されてもよい。プロセッサ(402)は、合成値に基づいて、サイクロンのエネルギー状態、進路及び強度等のパラメータの予測値を生成することができる。さらに、プロセッサ(402)はエネルギー状態、進路及び強度の予測値を評価し、エネルギー転移阻害剤をさらに散布すべきかどうかを、エネルギー転移阻害剤のさらなる散布についての算出効果に基づいて決定することができる。このように、サイクロンのエネルギー、進路、強度又はこれらの組み合わせを、サイクロンのさらなる誘導のために評価することができる。サイクロンのさらなる誘導が求められる場合には、プロセッサは繰り返し合成パラメータを算出することができる。
例えば、サイクロンの目の動きは潜水艦で追跡することができ、且つ上昇するどのような旋回気流をも考慮して、エネルギー転移阻害剤をさらに導入することで制御することができる。例えば、暴風の進路は、例えば自然の旋回気流から算出されるベクトルI(102)、例えばNOAAによって供給された予測モデルベクトル、又は図2及び図3に示すようなサイクロンに影響を及ぼす方法から算出される合成ベクトル、すなわちベクトルIIである。例えば、ベクトルIIIは最初、サイクロンの目標進路の方向でベクトルIに垂直である。その後旋回力を修正することで、最終的に得られたサイクロンの進路、例えばベクトルIを、サイクロンの目標進路、例えばベクトルIIに移動させるようにして、ベクトルIIIをさらに調整することができる。
サイクロンの制御が確立されれば、サイクロンを人間の居住地区から離れるように誘導し、勢力が弱まった状態で海岸へと導いて干ばつ地域に送ることが可能である。また、サイクロンを海の過熱状態の領域に向かって誘導し、プランクトンと藻類の肥沃なコロニーを維持するのに役立て、地球規模の人口増加や経済発展から生じている大気中酸素の欠乏を防止することが可能である。サイクロンを海上のホットスポットに向かわせることにより、農業のためにより好ましい天候を世界中の乾燥地帯の国々において作り出すことができる。これは、特に新興国家の間で、農業に関する気候改善及び経済の自給自足につながる一連の天候工学活動における最初の取り組みである。例えば、エネルギー転移阻害剤をアフリカ海岸の角と呼ばれる地域に沿って適用することにより、西から大西洋へと流れる多くのサイクロン系が海へと流れていくのを防ぐことができる。これらのサイクロン系で取り込まれた水分は、陸上にとどまりその地域の雨量を増加させる。これにより、大西洋のその地域で形成されるサイクロンの数を減少させることができ、サイクロンの多くはカリブ海の諸島及びその先に移動する。
この手法には、比較的低いコスト、公衆の安全性の向上、既存の技術への信頼、海に関わる全ての国々の利益となるような原子力の平和的利用などの利点がある。加えて、使用される阻害剤は無害且つ容易に調整可能であり、最適で最も効果的な配合の決定に迅速に対応することが可能である。エネルギー転移阻害剤は複数のタンクに分けて保存され、潜水艦の配管システムを経由して混ぜ合わされ、種々の混合物を生成することができる。当該種々の混合物は海へ投入され、処理中の特定の暴風に対しどの混合物が最も効果的かを発見する助けとなる。
本発明は多種多様な方法で実現することができ、上述の方法と装置は多種多様の同様な方法で組み合わされ再配置することができ、且つそれらの方法は1又は複数の好適な電子回路(例えば、特殊機能を実行するために相互接続した個別論理ゲート又は特定用途向け集積回路)によって実行することができると期待されている。上述の手順は必要に応じて繰り返し実行されることが理解されるであろう。理解しやすくするため、発明の態様は、例えばプログラム可能なコンピュータシステムの要素若しくは特殊な回路によって、1又は複数のプロセッサにより実行されるプログラム指示によって、又はその両方の組み合わせによって実行される動作の観点から記載されている。
さらに、本発明は、一連の適切な指示を保存しているコンピュータ読み取り可能な記録媒体のいかなる形態においても完全に具体化されると考えることができる。当該コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータベースのシステムのような指示実行システム、装置若しくは機器、プロセッサ内臓システム、又は記録媒体から指示を取得しそれらの指示を実行することが可能な他のシステムによって又はこれらと接続して使用される。ここで使われているように、「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、指示実行システム、装置若しくは機器によって又はこれらと接続して使用されるプログラムを備え、保存し又は移動させるあらゆる手段であればよい。コンピュータ読み取り可能な媒体は、例えば、限定はしないが、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線若しくは半導体システムの装置又は機器である。コンピュータ読み取り可能な媒体のより詳細な例では(完全に網羅されていないが)、1又は複数の配線を有する電気接続、ポータブルフロッピーディスク、RAM(random-access memory)、ROM(read-only memory)、EPROM(erasable programmable read-only memory)又はフラッシュメモリ、及び光ファイバーを含む。
このように、本発明は上述の形態だけでなく他の異なる形態において具体化されてもよく、これらすべての形態は本発明の範囲に含まれると考えられる。ただし、「具備する」及び「具備し」という用語は、本出願において使用される場合、記載された特徴、ステップ又は構成要素の存在について規定しており、その他の1又は複数の特徴、ステップ、構成要素又はそれらのグループの存在又は追加を除外するものではない。
上述の特定の実施形態は例示にすぎず、決して限定的に捉えられるべきではない。本発明の範囲は以下の請求項によって決定されるものであり、請求項の範囲内のあらゆる変更や等価物は本発明に含まれるとする。
105・・・散布装置
401・・・入出力通信器
402・・・プロセッサ
403・・・メモリ

Claims (15)

  1. 表層を有する海上でサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    エネルギー転移阻害剤を、所定の場所で前記表層内に散布し(202)、
    前記エネルギー転移阻害剤が散布された所定の場所の近位で、海からサイクロンへのエネルギー転移を妨げる(203)
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  2. 請求項1に記載のサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    前記エネルギー転移阻害剤は、海からサイクロンへの前記エネルギー転移が減少するように水の蒸気圧を修正する
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  3. 請求項1に記載のサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    前記エネルギー転移阻害剤は、前記サイクロンの角運動量の転移を修正する
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  4. 請求項1に記載のサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    前記エネルギー転移阻害剤は、サイクロンの強度又は進路を修正する
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  5. 請求項1に記載のサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    前記エネルギー転移阻害剤は、船、航空機、地上の所定の場所又はこれらの組み合わせから散布される
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  6. 請求項2に記載のサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    前記エネルギー転移阻害剤は、長鎖脂肪酸、エステル、アルコール及び蝋状物質からなる群から選ばれる
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  7. 請求項6に記載のサイクロンに影響を及ぼす方法であって、
    前記エネルギー転移阻害剤は、デカン酸と大豆油との混合物を含む
    サイクロンに影響を及ぼす方法。
  8. サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法であって、
    サイクロンのエネルギー状態を表し、海から前記サイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受けるサイクロンパラメータの基準値を決定し(302)、
    水の蒸発潜熱を妨げる前記エネルギー転移阻害剤の、前記サイクロンパラメータの前記基準値への効果を算出して前記サイクロンパラメータの合成値を決定する(304)
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法。
  9. 請求項8に記載のサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法であって、
    前記サイクロンパラメータは、旋回力を含む
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法。
  10. 請求項8に記載のサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法であって、さらに
    前記エネルギー状態、前記サイクロンの進路及び前記サイクロンの強度のうち少なくとも1つを、前記合成値に基づき予測する
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法。
  11. 請求項10に記載のサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法であって、さらに
    エネルギー転移阻害剤のさらなる散布についての算出効果に基づいてエネルギー転移阻害剤をさらに散布すべきかどうかを決定するため、前記エネルギー状態の予測、進路の予測及び強度の予測のうち少なくとも1つを評価する
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法。
  12. サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置(400)であって、
    データを送受信する入出力器(401)と、
    前記入出力器と通信し、
    前記サイクロンのエネルギー状態を表し、海から前記サイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受けるパラメータを前記入出力器からのデータに基づき定量化し、
    前記パラメータの基準値を決定し、所定の場所において表層内に散布された前記エネルギー転移阻害剤の効果に基づき、前記パラメータの合成値を決定する
    プロセッサ(402)と、
    前記プロセッサと通信するメモリ(403)と
    を具備する
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置。
  13. 請求項12に記載のサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置であって、
    前記プロセッサは、前記合成値に基づき前記パラメータの予測値を生成し、
    前記パラメータは、前記サイクロンのエネルギー状態、進路及び強度のうち少なくとも1つを含む
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置。
  14. 請求項13に記載のサイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置であって、
    前記プロセッサは、
    エネルギー転移阻害剤のさらなる散布についての算出効果に基づいてエネルギー転移阻害剤をさらに散布するかどうかを決定するための前記予測値を評価する
    サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する装置。
  15. コンピュータにより実行されるとき、サイクロンに影響を及ぼすパラメータを定量化する方法を前記コンピュータに実行させるコンピュータ読み取り可能なプログラムコードを有する、コンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体であって、
    前記方法は、
    サイクロンのエネルギー状態を表し、海から前記サイクロンへのエネルギー転移を妨げるエネルギー転移阻害剤によって影響を受けるサイクロンパラメータの基準値を決定し(302)、
    水の蒸発潜熱を妨げる前記エネルギー転移阻害剤の、前記サイクロンパラメータの前記基準値への効果を算出して前記サイクロンパラメータの合成値を決定する(304)
    コンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体。
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