JP2016207742A - モールドコイルの製造方法、モールドコイルの製造システム、及びモールドコイルの設計方法 - Google Patents

モールドコイルの製造方法、モールドコイルの製造システム、及びモールドコイルの設計方法 Download PDF

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Abstract

【課題】仮に硬化樹脂内にボイドによる空隙が発生した場合であっても、その空隙による部分放電を抑制する。【解決手段】モールドコイルの製造方法は、導体を巻回して形成したコイル本体を液状の樹脂に浸してコイル本体の内部に樹脂を含浸させる含浸工程を備える。含浸工程は、パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い第1圧力になるように雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含んでいる。【選択図】図6

Description

本発明の実施形態は、モールドコイルの製造方法、モールドコイルの製造システム、及びモールドコイルの設計方法に関する。
例えば計器用変成器やモールド変圧器などの機器に用いられるもので、導体を巻回した後に樹脂注型したモールドコイルがある。このようなモールドコイルは、成形硬化した樹脂の内部にボイド(気泡)が発生し、そのボイドによってモールドコイル内に空隙が形成されることがある。すると、モールドコイルの使用時に空隙内で部分放電が発生し、その結果、モールドコイル自身や、モールドコイルに接続された機器などの寿命を低下させるおそれがある。そのため、従来は、樹脂注型を行う際に、樹脂注型用の型の内部を真空排気して雰囲気圧力を減圧し、樹脂内の空気を樹脂外に放出させることで、成形硬化した樹脂内にボイドによる空隙が発生することを抑制していた。
しかし、例えばコイル本体の導体の巻き方によっては、導体間に樹脂を十分に含浸させることが難しい。このため、成形硬化した樹脂内から空隙を完全に排除することは困難であった。
特開平9−232176号公報
そこで、仮に硬化樹脂内にボイドによる空隙が発生した場合であっても、その空隙による部分放電を抑制することができるモールドコイルの製造方法、モールドコイルの製造システム、及びモールドコイルの設計方法を提供する。
実施形態のモールドコイルの製造方法は、導体を巻回して形成したコイル本体を液状の樹脂に浸して前記コイル本体の内部に前記樹脂を含浸させる含浸工程を備える。前記含浸工程は、パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い第1圧力になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含んでいる。
また、実施形態のモールドコイルの製造システムは、導体を巻回して形成したコイル本体を収容することができる収容部を有し、前記収容部内に前記コイル本体が収容されるとともに液状の樹脂が貯留され、前記コイル本体が前記樹脂に浸されて前記コイル本体に前記樹脂を含浸させる含浸工程を行うことができる含浸装置と、前記収容部内の雰囲気圧力を調整することができる圧力調整装置と、前記含浸装置と前記圧力調整装置との駆動を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記含浸工程において、前記圧力調整装置を駆動させることで、パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い第1圧力になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理を実行することができる。
また、実施形態のモールドコイルの設計方法は、導体を巻回して形成したコイル本体を液状の樹脂に浸して前記コイル本体の内部に前記樹脂が含浸される含浸工程によって製造されるモールドコイルについて、前記モールドコイルの定格電圧に対して、隣接する前記導体間の電圧を、前記含浸工程時の雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離とからパッシェンの法則によって求められる火花電圧よりも低い値に設定する。
第1実施形態による、モールドコイルの製造システムの概略構成の一例を示す図 第1実施形態について、含浸装置の概略構成の一例を示す図 第1実施形態について、製造システムで行われる工程の一例を示すフローチャート 第1実施形態について、含浸工程を示すフローチャート 第1実施形態について、各工程における収容部内の温度を示す図 第1実施形態について、各工程における収容部内の雰囲気圧力を示す図 パッシェン曲線の一例を示す図 第2実施形態ついて、制御システムで行われる工程を示すフローチャート 第2実施形態について、含浸工程を示すフローチャート 第2実施形態について、各工程における収容部内の雰囲気圧力を示す図
以下、複数の実施形態によるモールドコイルの製造方法及びモールドコイルの製造システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
第1実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。まず、図1及び図2を参照して、モールドコイルの製造システム10(以下、製造システム10と称する)の概略構成について説明する。図1に示す製造システム10は、コイル本体91を樹脂注型したモールドコイル90を製造するための製造システムである。モールドコイル90は、コイル本体91を、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂いわゆるモールド樹脂92で樹脂注型して構成される。コイル本体91は、例えば図2に示すような絶縁被覆で覆われた線状の導体911やシート状の導体を巻回して形成されている。また、導体911の隣接する層間には、層間絶縁紙912が設けられている。
図1に示すように、製造システム10は、含浸装置20、圧力調整装置30、樹脂供給装置40、及び制御装置50を備えている。含浸装置20は、型21を有している。型21は、コイル本体91内にモールド樹脂92を含浸させる含浸工程の際に、液状のモールド樹脂92を貯留するための容器である。型21は、例えば金属製の金型であって、厚さ1〜5mm程度の鋼板を曲げ加工して形成された複数の部材を組み合わせて構成されている。
型21は、本体部211と、蓋部212と、を有している。本体部211は、上方が開口した二重の円筒によって容器状に形成されており、その容器状の内側にコイル本体91を収容する収容部213を有している。蓋部212は、本体部211の上側の開口を開閉するように設けられている。コイル本体91は、蓋部212を開放した状態で、本体部211の収容部213に収容される。そして、コイル本体91が収容部213内に収容された後、蓋部212によって収容部213の上部の開口が閉鎖される。
型21は、注入口214、排気口215、及び樹脂流路216を有している。注入口214及び排気口215は、型21の内部つまり収容部213内と、型21の外部とを連通している。注入口214は、例えば蓋部212に設けられており、蓋部212の外方側は、供給管41を介して樹脂供給装置40に接続されている。また、注入口214の収容部213側は、樹脂流路216に接続されている。
樹脂流路216は、含浸装置20の外部この場合樹脂供給装置40から供給された液状のモールド樹脂92を収容部213の底部へと導く経路である。例えば樹脂流路216は、管状であって、収容部213の内部において型21の外周側に設けられている。樹脂流路216は、収容部213の上部から底部に亘って設けられている。そして、樹脂流路216の吐出口217は、収容部213の底部付近に設けられている。
樹脂供給装置40は、液状のモールド樹脂92を減圧して内部の空気を脱気した状態で、そのモールド樹脂92を型21の収容部213内に供給するものである。樹脂供給装置40から吐出された液状のモールド樹脂92は、供給管41を通って注入口214から樹脂流路216に入る。そして、モールド樹脂92は、樹脂流路216を通って収容部213の底部側に導かれて、吐出口217から収容部213内に注入される。モールド樹脂92は、樹脂供給装置40によって所定温度例えば50〜60℃程度の比較的低い温度に加熱され、流動性を有した状態で注入口214から収容部213内に注入される。
排気口215は、例えば蓋部212に設けられており、排気管31を介して圧力調整装置30に接続されている。圧力調整装置30は、収容部213内の雰囲気圧力Pxを調整することができる。この場合、圧力調整装置30は、例えば減圧及び加圧を行うことができる両用ポンプである。すなわち、圧力調整装置30は、収容部213内の空気を真空排気して収容部213内を減圧状態にすること、及び収容部213内に大気圧を超える圧力を加えて収容部213内を加圧状態にすることが可能である。なお、圧力調整装置30は、減圧ポンプと加圧ポンプとを個別に有し、減圧ポンプと加圧ポンプとを切り替えるように構成したものでもよい。モールド樹脂92の注入によって押された収容部213内の空気は、排気口215から排気管31を通り、圧力調整装置30によって収容部213の外部に排出される。
含浸装置20は、加熱装置22を一体に有している。加熱装置22は、型21の周囲に設けられており、型21を加熱することで、収容部213内を加熱することができる。この場合、加熱装置22は、型21を加熱することで、間接的に収容部213内に注入されたモールド樹脂92を加熱することができる。加熱装置22は、例えば電磁誘導によって型21に渦電流を生じさせて加熱するものや抵抗加熱によるものなどであるが、これら以外の加熱方式を採用することもできる。
また、含浸装置20は、温度検出部23を有している。温度検出部23は、例えばサーミスタや熱電対などの温度センサであって、型21に設けられている。温度検出部23は、収容部213内に注入されたモールド樹脂92の温度を直接的に検出するものでもよいし、型21の温度を検出することで間接的に収容部213内のモールド樹脂92の温度を検出するものでもよい。
加熱装置22と、温度検出部23と、圧力調整装置30と、樹脂供給装置40とは、それぞれ制御装置50に電気的に接続されている。制御装置50は、例えばCPU、ROM、RAM、及び書き換え可能なフラッシュメモリなどを有するマイクロコンピュータを主体に構成されており、製造システム10の全体を制御する。制御装置50は、温度検出部23の検出結果に基づいて、加熱装置22、圧力調整装置30、及び樹脂供給装置40の駆動を制御することができる。
次に、製造システム10で行われる各工程について、図3〜図7も参照して説明する。
まず、図1において、型21の蓋部212が開放され、コイル本体91が、型21の収容部213内に配置される。そして、蓋部212が閉鎖されて収容部213が密閉された後、モールドコイルの製造工程が開始される(図3のスタート)。
モールドコイル90の製造工程が開始されると、図3に示すように、まずステップ10の脱気工程とステップS20の予熱工程とが行われ、その後、ステップS30の含浸工程と、ステップS40の硬化工程と、ステップS50の離型工程と、が順に行われる。この場合、ステップS10の脱気工程とステップS20の予熱工程とは、同時進行で行われる。なお、脱気工程が行われた後に予熱工程が行われてもよいし、逆に予熱工程が行われた後に脱気工程が行われてもよい。
ステップS10の脱気工程は、ステップS30の含浸工程の前に行われる工程である。脱気工程は、樹脂供給装置40において、モールド樹脂92を、大気圧より低く、かつ、後述する第1圧力P1よりも低い第2圧力P2で脱気する工程である。モールド樹脂92の周囲の圧力を大気圧よりも低い圧力にすることで、液状のモールド樹脂92内の空気を外部に放出する。これにより、モールドコイル90内にボイドが発生することを抑制することができる。
ステップS20の予熱工程は、ステップS30の含浸工程の前に行われる工程であって、含浸工程においてモールド樹脂が貯留される容器すなわち型21を予熱温度T0に加熱する工程である。ステップS20で予熱工程が実行されると、制御装置50は、加熱装置22を駆動させることで、図5に示すように収容部213内を予熱温度T0まで上昇させる。予熱温度T0は、例えば100℃程度である。予熱処理を行うことで、型21の収容部213内及びコイル本体91が乾燥するとともに、収容部213内及びコイル本体91の温度分布が均一になる。これにより、次の含浸工程で収容部213内に注入されるモールド樹脂92の流動性を向上させることができる。
図3のステップS30の含浸工程は、コイル本体91の内部にモールド樹脂92を含浸させる工程である。この場合、コイル本体91の内部とは、図2に示すように、主に隣接する導体911間及び層間絶縁紙912間を意味する。含浸工程が実行されると、制御装置50は、図4に示すように、ステップS31において圧力調整処理を実行する。圧力調整処理は、パッシェンの法則に基づいて求められる最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも、収容部213内の雰囲気圧力Pxが高い値になるように、収容部213内の雰囲気圧力Pxを調整する処理である。
ここで、パッシェンの法則によれば、次の式(1)で示すように、平行な電極間で火花放電が生じる火花電圧Vが、気体の圧力Pと電極間の絶縁距離Lの積の関数であることがわかる。
V=F(P・L)・・・式(1)
図7は、絶縁距離Lを変化させた場合における火花電圧Vと気体の圧力Pとの関係を示したパッシェン曲線を示している。この場合、曲線Aは、絶縁距離L=1.00(mm)のパッシェン曲線を示している。曲線Bは、絶縁距離L=0.40(mm)のパッシェン曲線を示している。曲線Cは、絶縁距離L=0.10(mm)のパッシェン曲線を示している。そして、曲線Dは、絶縁距離L=0.04(mm)のパッシェン曲線を示している。火花電圧Vは、各パッシェン曲線A〜Dで示すように、最低火花電圧Vminを最下点にして、二次曲線的に増加する。すなわち、最低火花電圧Vminにおける圧力P0を境界にして、圧力Pの減少側又は増加側のいずれの領域においても、火花電圧Vが高くなっている。
本実施形態において、例えば図2に示すように、モールド樹脂92内に複数の小さなボイド(気泡)が生じ、その複数のボイドが集まることによって、モールドコイル90内に空隙93が生じることがある。この場合、上述の絶縁距離Lは、隣接する導体911間の絶縁距離L1に相当し、上述の圧力Pは、モールドコイル90内の空隙93内の雰囲気圧力Pyに相当する。ここで、空隙93内には、含浸工程時における収容部213内の空気が封入されている。この場合、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールド樹脂92からの揮発成分、水分、構造的要因、注入時や硬化時の温度など複数の要因が関係して定まる。そのため、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、含浸工程時の収容部213内の雰囲気圧力Pxと同一の値にはなり難く、また、どの程度の値となっているかを把握することは困難である。しかし、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールド樹脂92からの揮発成分などによって、含浸工程時の収容部213内の雰囲気圧力Pxよりも高くなる傾向がある。
この場合、上述したパッシェンの法則によれば、火花電圧Vは、空隙93内の雰囲気圧力Pyと導体911間の絶縁距離L1とによって定まるところ、導体911間の絶縁距離L1は、コイル本体91の設計段階で決定されるため、コイル本体91に固有の値である。したがって、モールドコイル90内に生じた空隙93で絶縁劣化を起こすか否かは、空隙93内の雰囲気圧力Py、つまり含浸工程時における収容部213の雰囲気圧力Pxに大きく依存する。
そこで、制御装置50は、図4のステップS31で示すように、含浸工程において圧力調整処理を実行する。これにより、制御装置50は、圧力調整装置30を駆動させて、図6に示すように含浸工程時における収容部213の雰囲気圧力Pxを第1圧力P1に調整(この場合、減圧)する。第1圧力P1は、コイル本体91の隣接する導体911間の絶縁距離L1について、パッシェンの法則に基づいて求められた最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも高い圧力である。この場合、第1圧力P1は、上述した最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも大きく、かつ、大気圧Pt未満の値である。ちなみに、本実施形態の場合、大気圧Ptは、約100(kPa)としている。
また、本実施形態において、第1圧力P1は、図7のパッシェンの法則に基づいて、コイル本体91の隣接する導体911間の分担電圧Vdにおける圧力Pdよりも高い値に設定されている。この分担電圧Vdは、モールドコイル90の定格電圧における導体911間の分担電圧を意味する。
例えば、図7を参照して、分担電圧Vdが300Vである場合について説明する。この場合、導体911間の絶縁距離L1が1.00(mm)であれば、分担電圧Vd=300(V)における圧力Pdは、パッシェン曲線Aに基づいて約2.5(kPa)になる。したがって、この場合の第1圧力P1は、2.5(kPa)<P1<Ptの値に設定される。また、導体911間の絶縁距離L1が0.40(mm)であれば、分担電圧Vd=300(V)における圧力Pdは、パッシェン曲線Bに基づいて約6.5(kPa)になる。したがって、この場合の第1圧力P1は、6.5(kPa)<P1<Ptの値に設定される。
更に、導体911間の絶縁距離L1が0.10(mm)であれば、分担電圧Vd=300(V)における圧力Pdは、パッシェン曲線Cに基づいて約25(kPa)になる。したがって、この場合の第1圧力P1は、25.0(kPa)<P1<Ptの値に設定される。そして、導体911間の絶縁距離L1が0.04(mm)であれば、分担電圧Vd=300(V)における圧力Pdは、パッシェン曲線Dに基づいて約65(kPa)になる。したがって、この場合の第1圧力P1は、65.0(kPa)<P1<Ptの値に設定される。
次に、制御装置50は、図4のステップS32において注入処理を実行する。制御装置50は、注入処理を実行すると、樹脂供給装置40を駆動させて、型21の収容部213内に対するモールド樹脂92の注入を開始する。すると、図3のステップS10の脱気工程によって第2圧力P2で脱気つまり脱泡された液状のモールド樹脂92が、樹脂供給装置40から吐出される。そして、樹脂供給装置40から吐出されたモールド樹脂92は、注入口214から樹脂流路216を通り、収容部213の底部に導かれて、収容部213内に貯留される。このとき、モールド樹脂92の液面は、収容部213の底部側から上方へ向かって徐々に上昇する。これにより、コイル本体91は、コイル本体91の下部側から上部側へ向かって徐々に液状のモールド樹脂92に浸かっていく。
また、モールド樹脂92の注入によって押し出された収容部213内の空気は、圧力調整装置30によって収容部213外に排出される。また、この場合、樹脂供給装置40から吐出されるモールド樹脂92の温度は、使用可能時間(ポットライフ)を考慮して、50〜60℃と比較的低温に設定されているため、収容部213内の予熱温度T0(例えば、約100℃)よりも低い。そのため、モールド樹脂92が収容部213内に注入されると、型21の熱がモールド樹脂92に移動し、これにより図5に示すように、収容部213内の温度が予熱温度T0よりも低い温度に(例えば、約80℃)に低下する。
次に、制御装置50は、図4のステップS33において、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かを判断する。この場合、所定位置は、コイル本体91の上端部を覆う位置である。本実施形態の場合、所定位置は、図2に一点鎖線H2で示すように、蓋部212の下面に到達する位置である。なお、図2は、注入処理の途中、つまり、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達する前の状態を示している。モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かの判断は、例えば型21の所定位置、この場合蓋部212の下面にモールド樹脂92の液面を検出するセンサを設けて、このセンサが液面を検出したことで判断することができる。
液面を検出するセンサは、例えば一対の電極で構成されたものを採用することができる。この場合、電極にモールド樹脂92が接触することで、電極間の電気抵抗が変化する。制御装置50は、この電極間の電気抵抗の変化を検出することで、モールド樹脂92が所定位置に到達したと判断することができる。また、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かの判断は、例えば収容部213の容積及びコイル本体91の体積と、樹脂供給装置40から吐出したモールド樹脂92の吐出量と、に基づいて判断してもよい。
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達していない間、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(図4のステップS33でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したと判断すると(ステップS33でYES)、ステップS34へ移行し、樹脂供給装置40の駆動を停止させて、モールド樹脂92の注入を停止する。そして、制御装置50は、含浸工程を終了し(リターン)、図3のステップS40に移行して硬化工程を実行する。
ステップS40の硬化工程は、ステップS30の含浸工程の後に行われる工程である。この硬化工程は、コイル本体91の導体911間に含浸されたモールド樹脂92を加熱してモールド樹脂92を硬化させる工程である。ステップS40で硬化工程が実行されると、制御装置50は、加熱装置22を駆動させて、モールド樹脂92を、予熱温度T0よりも高い第2温度T2に加熱する。第2温度T2は、例えば約110℃であり、予熱温度T0(約100℃)よりも高く、かつ、第1温度T1(約80℃)よりも高い値に設定されている。
その後、モールド樹脂92の硬化が完了すると、図3のステップS50へ移行して離型工程が実行される。そして、作業者は、離型工程において、モールドコイル90を型21から離型する。これにより、モールドコイル90が完成する。ちなみに、ステップS40の硬化工程において、モールド樹脂92の硬化が完了したか否かは、例えば硬化工程を開始してからの経過時間、つまりモールド樹脂92の加熱時間によって判断することができる。また、例えばモールド樹脂92の表面状態を測定できるセンサを設け、そのセンサの検出結果に基づいて、モールド樹脂92の硬化が完了したか否かを判断してもよい。
本実施形態の構成によれば、含浸工程は、圧力調整処理を含んでいる。圧力調整処理は、パッシェンの法則を用いて、雰囲気圧力Pxと、隣接する導体911間の距離である絶縁距離L1と、の積に基づいて求められる最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも高い値である第1圧力P1になるように雰囲気圧力Pxを調整する処理である。
すなわち、パッシェンの法則によれば、図7に示すように、最低火花電圧Vminにおける圧力P0を境界にして、圧力Pの減少側又は増加側のいずれの領域においても、火花電圧Vが高くなっている。そのため、モールドコイル90内に空隙93が生じた場合、その空隙93内の雰囲気圧力Pyを、最低火花電圧Vminにおける圧力P0に対して減少又は増加する方向に遠ざかるように調整することで、火花電圧Vを高い値にして部分放電を抑制することができる。
しかし、上述したように、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールド樹脂92からの揮発成分などによって、含浸工程時の雰囲気圧力Pxよりも高くなる傾向がある。また、モールドコイル90の使用時にコイル本体91が通電されると、コイル本体91が発熱し、その熱によって空隙93内の空気が加熱されて膨張する。したがって、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールドコイル90の使用時に特に高くなり易い。そのため、含浸工程時の雰囲気圧力Pxを、最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも低い値にすると、モールドコイル90の使用時に、空隙93内の雰囲気圧力Pyが含浸工程時の雰囲気圧力Pxよりも高くなることによって、かえって最低火花電圧Vminにおける圧力P0に近づくことになる。すると、火花電圧Vが含浸工程時よりも低くなって、かえって部分放電が生じ易くなるおそれがある。
そこで、本実施形態では、含浸工程時の雰囲気圧力Pxを、パッシェンの法則に基づいて求められる最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも高い値である第1圧力P1になるように調整している。これによれば、モールドコイル90内に空隙93内の雰囲気圧力Pyが、含浸工程時の雰囲気圧力Pxよりも高くなったとしても、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、最低火花電圧Vminにおける圧力P0から離れる方向、つまり火花電圧Vが高く方向に増加する。これにより、空隙93内における絶縁抵抗が増大し、空隙93内での部分放電を効果的に抑制することができる。
また、第1圧力P1は、隣接する導体911間つまり隣接する層間の分担電圧Vdにおける圧力Pdよりも高い値に設定されている。これによれば、第1圧力P1における火花電圧Vは、モールドコイル90を定格電圧で使用した際の導体911間の分担電圧Vdよりも高い値になる。そして、モールドコイル90に空隙93が生じた場合に、その空隙93内の雰囲気圧力Pyは、含浸工程時の雰囲気圧力Pxつまり第1圧力P1よりも高くなる傾向にある。そのため、空隙93における火花電圧Vは、第1圧力P1における火花電圧Vよりも更に高くなる。すなわち、含浸工程時の雰囲気圧力Pxを導体911間の分担電圧Vdにおける圧力Pdよりも高い値に調整することで、空隙93における火花電圧Vを、モールドコイル90を定格電圧で使用した際の導体911間の分担電圧Vdよりも高い値にすることができる。したがって、仮にモールドコイル90内にボイドによる空隙93が発生した場合であっても、その空隙93による部分放電を更に効果的に抑制することができる。
また、製造システム10は、含浸工程の前に脱気工程を行う。脱気工程は、モールド樹脂92を、大気圧Ptよりも低く、かつ、第1圧力P1よりも低い第2圧力P2で脱気する工程である。これによれば、含浸工程において収容部213内に注入されるモールド樹脂92内に含まれる空気を、極力排除することができる。したがって、モールドコイル90内にボイドが発生して空隙93が形成されることを抑制することができ、その結果、空隙93による部分放電を極力防止することができる。
この場合、含浸工程は、型21の内部つまり収容部213内にモールド樹脂92を注入する注入処理を含んでいる。ここで、例えば液状のモールド樹脂92を、コイル本体91の上方からコイル本体91に注ぐようにして収容部213内に注入すると、液状のモールド樹脂92は、導体911や層間絶縁紙912に当たって飛散し易くなる。すると、収容部213内に注入された液状のモールド樹脂92は、空気を巻き込みながら収容部213内に貯留される。そのため、液状のモールド樹脂92をコイル本体91の上部に当てながら注入した場合、モールドコイル90内にボイドが発生して空隙93が形成され易くなる。
一方、本実施形態において、含浸装置20は、樹脂流路216を有している。樹脂流路216は、含浸装置20の外部この場合樹脂供給装置40から供給された液状のモールド樹脂92を、収容部213内の底部に導く経路である。これにより、本実施形態における注入処理は、モールド樹脂92の液面を収容部213の底部から上方へ向かって徐々に上昇させるようにして、モールド樹脂92を収容部213内に注入するようになっている。つまり、本実施形態における注入処理は、コイル本体91に当たる前に、収容部213内に貯留される。これによれば、液状のモールド樹脂92をコイル本体91の上部に当てながら注入した場合に比べて、液状のモールド樹脂92が空気を巻き込むことを抑制することができる。したがって、モールドコイル90内にボイドが発生して空隙93が形成されることを抑制することができ、その結果、空隙93による部分放電を更に硬化的に防止することができる。
なお、製造システム10は、ステップS40の硬化工程を1次硬化工程とし、ステップS50の離型工程の前又は後に実行される2次硬化工程を更に備えていてもよい。2次硬化工程は、ステップS40の1次硬化工程時の第2温度T2よりも高い温度で、モールド樹脂92を更に硬化させる工程である。
また、加熱装置22は、含浸装置20の型21に内蔵されたものでなく、型21を収容して加熱することができる硬化炉等であってもよい。
また、圧力調整処理は、圧力調整装置30のみによって行うのではなく、樹脂供給装置40と圧力調整装置30との協働によって行うようにしてもよい。この場合、第1圧力P1を、大気圧Pt以上にすることができる。すなわち、例えば第1圧力P1を大気圧Pt以上に設定するとともに、樹脂供給装置40から吐出されるモールド樹脂92の吐出圧力を第1圧力P1以上にする。この場合、モールド樹脂92が収容部213内に注入されると、収容部213内の空気がモールド樹脂92によって圧縮される。すると、収容部213内の雰囲気圧力Pxが上昇して、第1圧力P1以上の圧力になろうとする。このとき、圧力調整装置30が収容部213内の空気を排気することで、収容部213内の雰囲気圧力Pxを第1圧力P1に維持するように調整される。これによれば、空隙93内の圧力を、大気圧Pt以上の圧力にすることができるため、更に効果的に空隙93における部分放電を抑制することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図8〜図10を参照して説明する。
この第2実施形態は、含浸工程の前に減圧工程を実行する点、及び含浸工程の具体的内容が、上記第1実施形態と異なる。すなわち、第2実施形態において、制御装置50は、モールドコイル90の製造工程が開始されると、図8に示すように、ステップS30の含浸工程の前に、ステップS60の減圧工程が実行される。ステップS60の減圧工程は、ステップS10の脱気工程及びステップS20の予熱工程の前後、又はこれら脱気工程及び予熱工程と並行して実行される。
ステップS60の減圧工程は、圧力調整装置30を駆動させることで、図10に示すように、型21の収容部213内の雰囲気圧力Pxを第2圧力P2に減圧する工程である。本実施形態の場合、第2圧力P2は、大気圧Ptよりも低く、かつ最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも低い値に設定されている。なお、第2圧力P2は、大気圧Ptよりも低ければよいため、最低火花電圧Vminにおける圧力P0以上の値であってもよい。
制御装置50は、図8において、ステップS60の減圧工程、ステップS10の脱気工程、及びステップS20の予熱工程を実行した後、ステップS70の含浸工程を実行する。含浸工程が実行されると、制御装置50は、まず図9に示すステップS71において、1次注入処理を実行する。制御装置50は、1次注入処理を実行すると、樹脂供給装置40を駆動させて、収容部213内に対してモールド樹脂92の注入を開始する。その際、収容部213内の雰囲気圧力Pxは、図8のステップS60における減圧工程によって、図10に示すように大気圧Ptより低い第2圧力P2に減圧されている。したがって、コイル本体91内の空気量が減少しており、コイル本体91内にモールド樹脂92が含浸し易くなっている。これにより、コイル本体91内に空隙が発生することを抑制することができる。
次に、制御装置50は、図9のステップS72において、モールド樹脂92の液面が第1位置H1に到達したか否かを判断する。この場合、第1位置H1は、例えば図2に一点鎖線H1で示すように、コイル本体91の上端部よりも若干高い位置であり、かつ、蓋部212の下面つまり第2位置H2よりも低い位置である。モールド樹脂92の液面が第1位置H1にある場合、コイル本体91の上端部は、モールド樹脂92に覆われている。
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第1位置H1に到達していない間、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(図9のステップS72でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第1位置H1に到達したと判断すると(ステップS72でYES)、ステップS73へ移行して一旦停止処理を実行する。制御装置50は、一旦停止処理を実行すると、樹脂供給装置40の駆動を一旦停止させて、モールド樹脂92の注入を一旦停止する。
次に、制御装置50は、ステップS74において圧力調整処理を実行する。制御装置50は、圧力調整処理を実行すると、圧力調整装置30の駆動を制御して、図10に示すように収容部213内の雰囲気圧力Pxを第1圧力P1になるように調整(この場合、昇圧)する。この場合、第1圧力P1は、大気圧Ptよりも高い圧力に設定されている。つまり、第3実施形態において、ステップS74の圧力調整処理は、加圧処理と称することもできる。
ここで、ステップS74の圧力調整処理(加圧処理)によって、収容部213内の雰囲気圧力Pxが大気圧Ptよりも高い第1圧力P1になると、コイル本体91の周囲を覆う液状のモールド樹脂92は、第1圧力P1で加圧される。この場合、コイル本体91の周囲を覆う液状のモールド樹脂92には、そのモールド樹脂92内に形成された空隙93を圧縮するような圧力が加わる。すると、モールド樹脂92内の空隙93の容積が小さくなって、空隙93内の雰囲気圧力Pyが、収容部213内の雰囲気圧力Pxよりも上昇する。
次に、制御装置50は、ステップS75において仮硬化処理を実行する。仮硬化処理は、加熱装置22を駆動させて、モールド樹脂92を加熱させて所定粘度になるまで硬化させる処理である。なお、仮硬化処理は、例えばコイル本体91に通電し、抵抗加熱によってコイル本体91の温度を上昇させることで、コイル本体91周辺のモールド樹脂92を硬化させる処理であってもよい。
仮硬化処理は、コイル本体91周辺のモールド樹脂92が所定の粘度よりも高い粘度になるまで、例えばモールド樹脂92がゲル化点を超えるまで行われる。この場合、ゲル化点とは、モールド樹脂92の粘度が上昇して流動性が無くなり、モールド樹脂92内の空気が移動不可となった状態を言う。モールド樹脂92がゲル化点を超えるまで仮硬化処理を行うことで、空隙93の容積が変化しなくなる。これにより、空隙93内の雰囲気圧力Pyが、収容部213内の雰囲気圧力Pxよりも高い値に維持される。
その後、制御装置50は、ステップS76において2次注入処理を実行し、樹脂供給装置40を再度駆動させて、モールド樹脂92の注入を再開する。この2次注入処理において、収容部213内の雰囲気圧力Pxは、圧力調整装置30によって大気圧Pt以下に調整される。この場合、モールド樹脂92の注入によって押し出された収容部213内の空気は、圧力調整装置30によって収容部213外に排出される。
その後、制御装置50は、図9のステップS77において、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達したか否かを判断する。この場合、第2位置H2は、第1位置H1よりも高い位置であって、コイル本体91の上端部を覆う位置、つまり第1実施形態の所定位置と同等の高さ位置である。
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達していない間、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(ステップS77でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達したと判断すると(ステップS77でYES)、ステップS78へ移行し、樹脂供給装置40の駆動を停止させて、モールド樹脂92の注入を停止する。そして、制御装置50は、含浸工程を終了する(リターン)。その後、図8におけるステップS40の硬化工程と、ステップS50の離型工程と、が順に実行される。
これによれば、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
更に、含浸工程前に減圧工程を実行して、収容部213内を大気圧Ptよりも低く、かつ、最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも低い圧力に減圧することで、モールド樹脂92がコイル本体91の内部に浸透し易くなる。これにより、モールドコイル90内にボイドによる空隙93の発生を更に効果的に抑制することができる。
ここで、第1実施形態において、空隙93内の雰囲気圧力Pyを高い圧力にするためには、図4のステップS31における圧力調整処理において、収容部213内の雰囲気圧力Pxを極力高い圧力にすることが望ましい。すなわち、圧力調整処理においては、第1圧力P1を極力高い圧力にすることが望ましい。一方、第2実施形態において、図8のステップS60における減圧工程では、収容部213内の雰囲気圧力Pxを極力低い圧力にすることが望ましい。そのため、圧力調整処理と、減圧工程とは、収容部213内の雰囲気圧力Pxを相反する値に調整するものであるため、両立が難しい。
これに対し、本実施形態の圧力調整処理は、コイル本体91がモールド樹脂92に浸された後に、収容部213の雰囲気圧力Pxを、大気圧Ptよりも高い第1圧力P1で加圧する処理である。これにより、コイル本体91の周囲を覆う液状のモールド樹脂92を、大気圧Ptよりも高い第1圧力P1で加圧することで、モールド樹脂92内に形成された空隙93を圧縮することができる。したがって、モールド樹脂92内の空隙93の容積が小さくなって、空隙93内の雰囲気圧力Pyを、収容部213内の雰囲気圧力Pxよりもより上昇させることができる。
すなわち、本実施形態では、コイル本体91がモールド樹脂92に浸されて、コイル本体91の内部にモールド樹脂92が浸透した後に、圧力調整処理が行われる。したがって、減圧工程における第2圧力P2と、圧力調整処理における第1圧力P1とが、相互に影響を与えることがないため、減圧処理と圧力調整処理との両立が容易になる。その結果、減圧処理と圧力調整処理との両方を行うことで、減圧工程によって空隙93の発生を抑制しつつ、更に、空隙93が発生したとしてもその空隙93内の圧力を上昇させることで部分放電をより効果的に抑制することができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、モールドコイルの設計方法である。本実施形態の設計方法は、モールドコイル90の定格電圧に対して、隣接する導体911間の分担電圧Vdを、含浸工程時の雰囲気圧力Pxと、隣接する導体911間の絶縁距離L1とから、パッシェンの法則によって求められる火花電圧Vよりも低い値に設定するものである。
具体例について図7を参照して説明する。例えば導体911間の絶縁距離L1が1.00(mm)であって、含浸工程時の雰囲気圧力Pxが2.5(kPa)である場合、隣接する導体911間の分担電圧Vdは、パッシェン曲線Aに基づく火花電圧V=300(V)未満の値に設定される。また、導体911間の絶縁距離L1が0.40(mm)であって、含浸工程時の雰囲気圧力Pxが6.5(kPa)である場合、隣接する導体911間の分担電圧Vdは、パッシェン曲線Bに基づく火花電圧V=300(V)未満の値に設定される。
更に、導体911間の絶縁距離L1が0.10(mm)であって、含浸工程時の雰囲気圧力Pxが25(kPa)である場合、隣接する導体911間の分担電圧Vdは、パッシェン曲線Cに基づく火花電圧V=300(V)未満の値に設定される。そして、導体911間の絶縁距離L1が0.04(mm)であって、含浸工程時の雰囲気圧力Pxが65(kPa)である場合、隣接する導体911間の分担電圧Vdは、パッシェン曲線Dに基づく火花電圧V=300(V)未満の値に設定される。
これによれば、隣接する導体911間の分担電圧Vdは、モールドコイル90の定格電圧における火花電圧Vよりも低い値となる。つまり、モールドコイル90を定格電圧で使用した場合であっても、導体911間に火花電圧V以上の電圧が印加されることを防ぐことができる。これにより、仮にモールドコイル90内にボイドによる空隙93が発生した場合であっても、その空隙93による部分放電を抑制することができる。
以上説明した実施形態によれば、含浸工程は、パッシェンの法則を用いて、雰囲気圧力と、隣接する導体間の距離である絶縁距離と、の積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い値になるように雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含んでいる。これによれば、モールドコイルの使用時等において、空隙内の雰囲気圧力が含浸工程時の雰囲気圧力より高くなったとしても、その空隙内の雰囲気圧力によって定まる火花電圧を増大させることができる。そのため、空隙内における絶縁抵抗が増大し、空隙内での部分放電を効果的に抑制することができる。
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図面中、10はモールドコイルの製造システム、20は含浸装置、213は収容部、216は樹脂流路、30は圧力調整装置、50は制御装置、90はモールドコイル、91はコイル本体、911は導体、92はモールド樹脂(樹脂)を示す。

Claims (8)

  1. 導体を巻回して形成したコイル本体を液状の樹脂に浸して前記コイル本体の内部に前記樹脂を含浸させる含浸工程を備え、
    前記含浸工程は、
    パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い第1圧力になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含んでいる、
    モールドコイルの製造方法。
  2. 前記第1圧力は、隣接する前記導体間の分担電圧における圧力よりも高い値である、
    請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。
  3. 前記樹脂を、大気圧よりも低く、かつ、前記第1圧力よりも低い圧力で脱気する脱気工程を更に備えている、
    請求項1又は2に記載のモールドコイルの製造方法。
  4. 前記含浸工程は、前記コイル本体が収容された収容部に前記樹脂を注入する注入処理を含み、
    前記注入処理は、前記樹脂の液面を前記収容部の底部から上昇させるように前記樹脂を前記収容部内に注入する処理である、
    請求項1から3のいずれか一項に記載のモールドコイルの製造方法。
  5. 前記第1圧力は、大気圧よりも高い圧力であって、
    前記圧力調整処理は、前記コイル本体が前記樹脂に浸された後に行われる、
    請求項1から4のいずれか一項に記載のモールドコイルの製造方法。
  6. 導体を巻回して形成したコイル本体を収容することができる収容部を有し、前記収容部内に前記コイル本体が収容されるとともに液状の樹脂が貯留され、前記コイル本体が前記樹脂に浸されて前記コイル本体に前記樹脂を含浸させる含浸工程を行うことができる含浸装置と、
    前記収容部内の雰囲気圧力を調整することができる圧力調整装置と、
    前記含浸装置と前記圧力調整装置との駆動を制御する制御装置と、を備え、
    前記制御装置は、前記含浸工程において、前記圧力調整装置を駆動させることで、パッシェンの法則を用いて前記雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い第1圧力になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理を実行することができる、
    モールドコイルの製造システム。
  7. 前記含浸装置は、外部から供給された液状の前記樹脂を前記収容部の底部に導く樹脂流路を有している、
    請求項6に記載のモールドコイルの製造システム。
  8. 導体を巻回して形成したコイル本体を液状の樹脂に浸して前記コイル本体の内部に前記樹脂が含浸される含浸工程によって製造されるモールドコイルについて、
    前記モールドコイルの定格電圧に対して、隣接する前記導体間の電圧を、前記含浸工程時の雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離とからパッシェンの法則によって求められる火花電圧よりも低い値に設定する、
    モールドコイルの設計方法。
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