JP2016181257A - ファンデルワールス相互作用から生じる圧力の計算方法および、高分子−低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法 - Google Patents

ファンデルワールス相互作用から生じる圧力の計算方法および、高分子−低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法 Download PDF

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智教 川上
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Abstract

【課題】
高分子と低分子の混合系における、スケールされた非結合性相互を用いた分子動力学シミュレーションにおいて、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を求め、正確な圧力の計算方法を提供する。
【解決手段】
コンピュータに、原子の座標 、スケール値など初期条件を入力し、(1)分子内力・分子間力を計算し、(2)カットオフ半径内のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→rcを計算し、(3)カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を計算し、(4)PvdW 0→rcとPvdW rc→∞との和からPvdW 0→∞計算し、(5)微小時間Δt後の原子の座標、速度を数値積分によって更新し、さらに、(5)の更新値を初期値として(1)〜(5)を再度実行させ、これを規定回数繰り返すことを含む圧力の計算方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、コンピュータを利用した分子動力学シミュレーションにおける、高分子中に低分子が存在する系におけるファンデルワールス相互作用から生じる圧力の計算方法および、高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法に関する。
分子動力学シミュレーションは、分子や分子集合体の高次構造や物性を詳細に解析するための手法として広く用いられる。分子動力学シミュレーションは、近年のコンピュータの発達により、合成高分子や生体高分子といったソフトマターの研究にもよく適用されるようになってきた。
合成高分子の分子動力学シミュレーションの適用例として、高分子分離膜における物質透過性予測が挙げられる(非特許文献1)。物質の膜透過性を予測するにあたり重要な物理量としては、透過物質である低分子の高分子膜への溶解性を示す溶解度係数がある。溶解度係数を分子動力学シミュレーションから求めるためには、低分子と高分子の相互作用エネルギーを高精度に計算する必要がある。しかし高分子の遅い分子運動のため、高分子中の低分子は通常の分子動力学シミュレーションの計算時間ではほとんど移動しない。そのため限定された空間の相互作用エネルギーしかサンプリングできず、統計力学的に高精度に溶解度係数を求めることができない。
低分子の移動を促すため、低分子と高分子間の非結合相互作用を時間とともにスケールし非結合性相互作用を増減させるという方法で、低分子の運動性を向上させ統計精度を高めた高精度な相互作用エネルギー計算手法が考案された(特許文献1)。
特開2011-123874号公報
Y. Tamai, H. Tanaka, and K. Nakanishi, Macromolecules, 28, 2544-2554(1995)
分子動力学シミュレーションにおいて、系の全圧力Ptotalは、下記数式(1)のように表される。
Figure 2016181257
(ただし、Pintraは分子内相互作用から生じる圧力、PvdW 0→∞はファンデルワールス相互作用から生じる圧力、Pcoulomb 0→∞はクーロン相互作用から生じる圧力、PKは原子の運動エネルギーより生じる圧力である。)
ファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞は、カットオフ半径内のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→rcとカットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の和で表される。
ここで、特許文献1のようにスケールした非結合性相互作用を使用した場合、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を計算できないという問題があった、すなわち、ファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞を正確に求める手法は未だ提唱されておらず、そのため、系の全圧力Ptotalも正確に求めることができなかった。
一方、十分に大きなカットオフ半径を用いれば圧力PvdW rc→∞の項は0に漸近するため、正確な圧力に近い値を得ることができる。しかし計算時間の観点から一般的に好適に用いられるカットオフ半径を用いた時に比べ長時間の計算を要するため、大きなカットオフ半径を用いることは非効率的である。
正確な圧力を計算できないことによる問題点として、分子動力学シミュレーションにおける現実系を再現するために行う、圧力を一定に制御した状態のシミュレーションを正しく行えないことが挙げられる。圧力を制御するために、ある状態における系の瞬間の圧力を計算し、その圧力が設定圧力に近づくようにシミュレーションセルを変形させる方法が用いられるが、正確な圧力を計算できない場合、シミュレーションセルの大きさを過大評価あるいは過小評価し、その結果、密度や空隙率が正しく計算できず、正確に相互作用エネルギーを求めることができなかった。
以上述べたように、高分子と低分子の混合系において、スケールされた非結合性相互を用いた分子動力学シミュレーションでは、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を求め、正確な圧力を計算する方法は未だ提唱されていない。そこで本発明では、上記問題を解決したスケールされた非結合性相互を用いた場合のファンデルワールス相互作用から生じる圧力の計算方法を提供することを目的とする。
本発明は上記課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明は以下のとおりである。
コンピュータを利用した高分子と低分子の混合系の分子動力学シミュレーションにおいて、下記数式(2)のように、
(i)低分子の分子内vdW相互作用Vvdw low-intra(r, λlow-intra)と、
(ii)高分子の分子内vdW相互作用Vvdw poly-intra(r, λpoly-intra)と、
(iii)低分子‐低分子間vdW相互作用Vvdw low-low(r, λlow-low)と、
(iv)高分子‐高分子間vdW相互作用Vvdw poly-poly(r, λpoly-poly)と、
(v)低分子‐高分子間vdW相互作用Vvdw low-poly(r, λlow-poly)
との和(0≦λ≦1、ただし(i)から(v)のλのうち少なくとも1つは0≦λ<1)で表される、非結合性相互作用のスケール値λを含むスケールファンデルワールス(vdW)相互作用ポテンシャルVvdW(r, λ)を用いた場合の前記混合系のファンデルワールス(vdW)相互作用から生じる圧力の計算方法であって、
Figure 2016181257
コンピュータに、
・前記高分子と前記低分子に含まれる原子の座標r
および、必要に応じ
・原子の速度v
の初期値、
ならびに
・結合情報
・原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ
・原子の質量m
・非結合性相互作用のスケール値λ
・相互作用計算のカットオフ半径r
を入力した後、コンピュータに、
(ステップ1)原子の座標r、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λ、ならびに下記数式(3)で示したポテンシャル関数Vtotalを原子の座標rで微分した式を用いて、前記高分子および前記低分子の分子内力(数式(3)第1項から第4項の微分の和)および分子間力(数式(3)第5項と第6項の微分の和)を計算するステップ;
Figure 2016181257
(ただし、R、θ、φ、ωはそれぞれ注目する結合の距離、変角の角度、二面角の角度、反転の角度を表す。)
(ステップ2)ステップ1で計算した分子間力の一つであるファンデルワールス(vdW)力(数式(3)第5項の微分)と、原子の座標rからビリアル定理を用いて圧力PvdW 0→rcを計算するステップ;
(ステップ3)原子の座標r、原子のポテンシャルパラメータタイプ、ポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λおよび相互作用計算のカットオフ半径rから、下記数式(4A)および(4B)を用いて圧力PvdW rc→∞を計算するステップ;
Figure 2016181257
(ただし、Mはポテンシャルパラメータタイプの総数、Nα、Nβはそれぞれポテンシャルパラメータタイプα、βを持つ原子の数、diag[・・・]は対角行列を表す。)
(ステップ4)下記数式(5)によりファンデルワールス(vdW)相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞を計算するステップ;
Figure 2016181257
(ステップ5)原子の質量m、分子内力、分子間力を用いて、微小時間Δt後の
・原子の座標r
・原子の速度v
を数値積分によって更新するステップ:
を実行させ、
さらに、ステップ5で更新した微小時間Δt後の原子の座標r、原子の速度vを初期値としてステップ1〜ステップ5を再度実行させ、これを繰り返すことを含むファンデルワールス(vdW)相互作用から生じる圧力の計算方法。
また、本発明は、上記の圧力の計算方法を用いた高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法を含む。
本発明の圧力の計算方法を示すフローチャートである。 本発明の圧力の計算方法を利用した高分子-低分子間の相互作用エネルギーや高分子中の低分子の配置のサンプリング方法を示すフローチャートである。 実施例1〜6、比較例1〜6における非結合性相互作用のスケール値と密度の関係を示す図である。 実施例1〜6、比較例1〜6における非結合性相互作用のスケール値と空隙率の関係を示す図である。 実施例5、比較例5、比較例7〜9におけると計算実行時間と密度、カットオフ半径の関係を示す図である。
図1に本発明の計算方法のフローを示す。以下、本発明の好ましい実施形態を、図1のフローに従って説明する。
本発明の計算方法においては、まず、コンピュータに、計算に必要な諸条件を入力する。計算に必要な諸条件を入力するに際しては、コンピュータに読み取り可能な形態で、高分子と低分子に含まれる原子の座標rの初期値、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ、原子の質量m、非結合性相互作用のスケール値λ、相互作用計算のカットオフ半径rを入力する。また、必要に応じて原子の速度vの初期値を入力することもできるが、入力しなければマクスウェル分布に従うよう計算された原子の速度が初期速度として与えられるよう構成すればよい。
入力方法は特に限定されないが、一般に入手可能な分子モデル作成ソフトウェアやテキストエディタなどが利用でき、当該情報が記述されたファイルをコンピュータに読み取らせ、メモリに格納することが好ましい。
〔ステップ1〕
高分子および低分子の分子内力(数式(3)第1項から第4項の微分の和)および分子間力(数式(3)第5項と第6項の微分の和)を計算するステップ1においては、メモリに格納された原子の座標r、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λ、ならびに数式(3)で示したポテンシャル関数Vtotalを原子の座標rで微分した式を用いて分子内力・分子外力を計算し、メモリに格納する。
ここで、数式(3)の右辺第1項Vbond(R)は結合長、第2項Vangle(θ)は結合角、第3項Vtorsion(φ)は二面角、第4項Vinversion(ω)は反転、第5項Vvdw(r,λ)はファンデルワールス(vdW)、第6項Vcoulomb(r,λ)はクーロンのそれぞれポテンシャル関数を表わす。なお、数式(3)の右辺第1項から第4項を総称して分子内ポテンシャル関数と呼び、右辺第5項、第6項をまとめて分子間ポテンシャル関数と呼ぶ。また、分子内ポテンシャル関数、分子間ポテンシャル関数を原子の位置で微分した式を用いて計算した力をそれぞれ分子内力、分子間力と呼ぶ。
数式(3)における各ポテンシャル関数の具体的な表式は下記数式(6)で表される。
Figure 2016181257
数式(6)の右辺第5項、第6項はスケールされた非結合性相互作用を表し、非結合性相互作用のスケール値λ=1のときスケールされていない一般的な分子動力学シミュレーションで使用するポテンシャル関数に等しい。
スケールされたvdW相互作用である第5項Vvdw(r,λ)の具体的な関数形としては、下記数式(7)に示したレナードジョーンズポテンシャルやモースポテンシャル、バッキンガムポテンシャルが好ましく用いられる。
Figure 2016181257
数式(7)において、m1、m2は型を決定する乗数であり、LJm1/m2型と表記するとき、LJ12/6型、LJ9/6型、LJ12/4型、LJ6/4型、LJ12/10型が好適に用いられる。さらにLJ12/6型には定数A,BやvdWポテンシャルの深さと斥力が生じる位置を決めるパラメータD、Rの置き方により下記数式(8)で示したDreiding型〔 S. L. Mayo 、B. D. Olafson 、W. A. Goddard III 、J. Phys. Chem.、1990、94、p.8897.〕やAmber型〔W. D. Cornell、P. Cieplak 、C. I. Bayly 、I. R. Gould 、K. M. Merz jr 、D. M. Ferguson 、D. C. Spellmeyer 、T. Fox 、J. W. Caldwell、P. A. Kollman 、J. Am. Chem. Soc.、1995、117、p.5179〕、OPLS型[W. L. Jorgensen、D. S. Maxwell、Julian Tirado-Rives、J. Am. Chem. Soc.、1996、118、p.11225]、CHARMM型[B. R. Brooks、R. E. Bruccoleri、B. D. Olafson、D. J. States、S. Swaminathan、M. Karplus、J. Comput. Chem.、1983、4、p.187]などいくつかの形式が存在し、どのLJ12/6型でも好適に用いることができる。
Figure 2016181257
上記数式(6)中の結合長、結合角、二面角、反転おけるそれぞれの力の定数Kbond、Kangle、Ktorsion、Kinversionおよびそれぞれの平衡位置R0、θ0、φ0、ω0、数式(7)中のvdWポテンシャルの深さと斥力が生じる位置を決めるパラメータD、Rには、DREIDING、AMBER、hybrid/UA[A. L. Frischknecht、J. G. Curro、Macromolecules、2003、36、p.2122]、桑島らのパラメータ〔桑島聖、野間祐之、逢坂俊郎、“非晶高分子のMD計算用力場パラメータについてii:ポリオレフィン”、第4回計算化学シンポジウム&CCS展 講演要旨集、日本化学プログラム交換機構(1994)〕等の公知のパラメータを用いることができる。
計算精度について考慮した場合、以下に述べる方法によってポテンシャルパラメータを
決定することがさらに好ましい。
上記数式(3)および数式(6)の第1項から第4項で表わされる分子内ポテンシャル関数のパラメータは量子化学計算によって決定することが好ましい。量子化学計算としては、HF法〔A.ザボ,N.S.オストランド,「新しい量子化学」,東京大学出版会(1987).〕を用いることが好ましく、B3LYP法〔A. D. Becke, J. Chem. Phys., 1993, 98, p.5648/C. Lee, W. Yang, R. G. Parr, Phys. Rev. B, 1988, 37, p.785/B. Miehlich, A. Savin, H. Stoll,H. Preuss, Chem. Phys. Lett., 1989, 157,p.200.〕を用いることがさらに好ましい。
HF法やB3LYP法を用いる場合、1電子軌道を展開する基底関数を指定する必要がある。計算時間と計算精度を考慮すると、6−31G(d)基底関数、6−31G(d,p)基底関数、6−31+G(d,p)基底関数〔W. J.Hehre, R. Ditchfield, J.A. Pople, J. Chem. Phys. 1972, 56, p.2257, P. C. Hariharan, J.A. Pople, Theoret. Chimica Acta, 1973, 28, p.213.〕が好適に用いられる。
上記数式(3)および数式(6)の第5項Vvdw(r,λ)で表わされるvdWポテンシャルのパラメータについては、密度と蒸発熱の実験値を再現するように決定することが好ましい。
上記数式(3)および数式(6)の第6項Vcoulomb(r,λ)のクーロンポテンシャルのパラメータ、すなわち電荷については、QEq法〔A.K.Rappe,W.A.Goddard III,J.Phys.Chem.,95,3358-3363(1991).〕等の学術的に信頼性の高い手法を用いて決定することが好ましく、量子化学計算から静電ポテンシャル(ESP)を求め、ESPフィッティングして電荷を決定することがさらに好ましい。静電ポテンシャルを求めるための量子化学計算としては、HF法やB3LYP法を好適に用いることができ、基底関数としては6−31G(d)基底関数、6−31G(d,p)基底関数、6−31+G(d,p)基底関数が好適に用いられ、さらに好ましくは、aug−cc−pVDZ基底関数、aug−cc−pVTZ基底関数、aug−cc−pVQZ基底関数〔T.H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys.,90,1007 (1989).〕が用いられる。ESPフィッティングして電荷を求める手法としては、MK法〔B. H. Besler, K. M. Merz Jr, P. A. Kollman, J. Comput. Chem., 1990 11, p.431.〕やCHelpG法〔C. M. Breneman, K. B. Wiberg, J. Comput. Chem., 1990, 11, p.361.〕といった方法を好適に用いることができる。
以上のような量子化学計算を実行するために、有償または無償で入手可能な種々の量子化学計算プログラムパッケージを利用することができる。例えば、Gaussian (登録商標)09 Revision C.01, M. J. Frisch他, ガウシアン社(Gaussian, Inc.), Pittsburgh PA, 2002.〕、GAMESS〔M. W. Schmidt 他, J. Comput. Chem., 1993, 14, p.1347.〕といったプログラムを好適に用いることができる。
高分子分離膜のように高分子中に低分子が存在する系において、上記数式(3)および数式(6)の第5項・第6項における非結合性相互作用は、下記数式(9)のように
(i)低分子の分子内非結合性相互作用Vlow-intra(r, λlow-intra)、
(ii)高分子の分子内非結合性相互作用Vpoly-intra(r, λpoly-intra)、
(iii)低分子−低分子間非結合相互作用Vlow-low(r, λlow-low)、
(iv)高分子‐高分子間非結合性相互作用Vpoly-poly(r, λpoly-poly)、
(v)低分子‐高分子間非結合性相互作用Vlow-poly(r, λlow-poly)の五種類の和で表される。
Figure 2016181257
非結合性相互作用のスケール値λの範囲として0≦λ≦1を用いることができるが、(i)から(v)いずれかのλのうち1つ以上0≦λ<1である必要がある。(i)から(v)それぞれのλの範囲として、λpoly-intra=λlow-lowpoly-poly=1、0≦λlow-intra≦1、0≦λlow-poly<1とすることが好ましい。これは高分子内、高分子間および低分子間に関する非結合性相互作用をスケールしないことを示す。このような取り扱いにより、高分子の平衡構造を維持しながら低分子の運動性を上昇させることができる。なお、低分子を1分子のみとして計算を行う場合には、λlow-lowは設定不要であり、水やメタンなど分子内非結合相互作用を持たない低分子の計算を行う場合には、λlow-intraの設定は不要である。一般的に分子動力学シミュレーションでは、分子内非結合相互作用は1−4相互作用以上を扱うため、1−2、1−3相互作用までしか存在しない水やメタンは、分子内非結合相互作用を計算しない。なお1−Xとは基準となる原子を1とし、共有結合でつながっている隣の原子を2、さらに2と共有結合でつながっている原子を3と順に番号付けしたときの相互作用ペアを表す。
さらにλpoly-intra=λlow-lowpoly-poly=λlow-intra=1、0≦λlow-poly<1とすることが特に好ましい。λlow-intra=1とすることによって、分子内水素結合を持つ低分子の配座を維持しながら低分子の運動性を上昇させることができる。エチレングリコールのような分子内水素結合を持つ低分子は、分子内非結合性をスケールすると水素結合が弱まるため本来とるべき配座を再現しない。このように分子内非結合性相互作用が低分子のコンフォメーションに大きく寄与する場合、低分子内の非結合性相互作用をスケールしなければ低分子内の配座を維持しながら運動性を上昇させることができる。
λlow-polyについては、十分に低分子に高分子中を運動させるために、λlow-poly≦0.3が好ましく、λlow-poly≦0.2がより好ましく、λlow-poly≦0.1が特に好ましい。
数式(7)、数式(8)におけるエネルギーと力の距離依存性を調節するパラメータδについては、δ=0m2とし、かつ非結合性相互作用のスケール値λが非常に小さい値をとる場合に、数式(3)および数式(6)の第5項Vvdw(r,λ)で表わされるファンデルワールス(vdW)相互作用が急激に変化し、数値積分の安定性が低下する。この傾向は原子間の距離が近距離となった場合に特に顕著になる。この問題を解決するために、非結合性相互作用のスケール値λの最小値を非常に小さな値に設定する場合には、δ>0m2とすることが好ましい。さらに好ましくは、δ≧5.0×10-212である。一方、δの値が大きすぎると、スケール値が変化した際、vdW力の変化が大きくなりすぎるため、δ≦5.0×10-192とすることが好ましい。このδの値としては、δ=1.0×10-202が好適に用いられる。さらにカットオフ半径rcは、計算時間と計算精度の観点から8Å≦rc≦12Åが好ましく、rc=10Åが特に好ましい。
〔ステップ2〕
カットオフ半径内のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→rcを計算するステップ2では、ステップ1で計算したファンデルワールス力(数式(3)第5項の微分)と、原子の座標rとから、下記数式(10A)および(10B)で表されるビリアル定理を用いて圧力PvdW 0→rcを計算する。
Figure 2016181257
(ここでFvdWは注目する原子i、j間に働くファンデルワールス力、l, m(=1、2、3)はベクトルの成分を表す。)
〔ステップ3〕
カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を計算するステップ3では、原子の座標r、原子のポテンシャルパラメータタイプ、ポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λおよび相互作用計算のカットオフ半径rから前記数式(4A)および(4B)を用いて圧力PvdW rc→∞計算する。
数式(4A)の通り圧力PvdW rc→∞は対角項のみで、非対角項は0となる。なお数式(4B)におけるスケールされたファンデルワールス相互作用として前述の様々な関数形を用いることができる。
前述のように、これまで、非結合性相互作用のスケール値λを含むポテンシャルでの圧力PvdW rc→∞の計算方法が確立されていなかったが、本発明者らの検討の結果、数式(8)のDreiding型レナードジョーンズポテンシャルを数式(4B)に代入して得られた解析解である下記数式(11A)および(11B)と数式(4A)から圧力Prc→∞を計算する方法が好ましいことが見出された。
Figure 2016181257
〔ステップ4〕
ファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞を計算するステップ4では、数式(5)の通り、ステップ2およびステップ3で計算したカットオフ半径内のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→rcとカットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力Prc→∞の和から圧力PvdW 0→∞を計算する。
また数式(1)に、数式(4A)および数式(4B)、数式(5)、数式(10A)および数式(10B)より求めたPvdW 0→∞を代入することにより全圧力Ptotalを求めることができる。なおファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞以外の圧力の詳細な表式もビリアル定理から導くことができ、参考文献[Glenn J. Martyna, Mark E. Tuckerman, Douglas J. Tobias, Michael L. Klein, Mol. Phys., 1996, 87, p.1117.]に記述されている。この文献の全圧力の表式はクーロン相互作用から生じる圧力Pcoulomb 0→∞を、Ewald法やParticle Mesh Ewald(PME)法といった無限遠のクーロン相互作用の寄与を考慮できる方法を用いた場合の表式である。本発明においてもEwald法やPME法を用いることが好ましく、このような取り扱いをすることで無限遠までの相互作用を考慮した正確な全圧力Ptotalを得ることができる。
〔ステップ5〕
微小時間Δt後の原子の座標r、原子の速度vを数値積分によって更新するステップ5においては、原子の質量m、分子内力、分子間力を用いて、微小時間Δt後の原子の座標と速度を数値積分によって計算し、更新する。
数値積分には、差分近似法や予測子−修正子法〔岡崎進,「コンピューターシミュレーションの基礎」,化学同人(2000).〕などの一般的な解法を好適に用いることができる。異なる時定数の力ごとに大きさの異なる時間刻みΔtを設定することのできる多重時間刻み数値積分(RESPA法)法〔G. J. Martyna、Mol. Phys.、1996、87、p.1117.〕を用いると、シミュレーション時間を短縮できるためさらに好ましい。
〔ステップ1〜ステップ5の繰り返し〕
以後、ステップ5で更新した微小時間Δt後の原子の座標r、原子の速度vを初期値としてステップ1〜ステップ5を再度実行させることを繰り返し、あらかじめ規定した回数実行する。
ステップ1〜ステップ5の繰り返し回数は、本発明の最初に行われる諸条件の入力に際し初期条件として入力するか、またはあらかじめプログラム内に記述しておくことで規定する。
微小時間Δtは、最も速い時定数の運動をとらえることができるよう十分小さな値でなければならない。一般的に最も速い時定数を持つ運動は水素原子を含む結合の伸縮運動である。この伸縮運動を精度良くとらえることができ、かつ計算時間の観点から微小時間Δtは、0.1フェムト秒以上0.3フェムト秒以下であることが好ましく、0.25フェムト秒がより好ましい。
また繰り返し回数は、系の平衡構造における構造の揺らぎが十分にシミュレーション時間中にあらわれる程度の回数が必要である。系の構造によって必要な繰り返し回数nは異なるが、高分子と低分子の混合系であれば8000000回(微小時間Δtが0.25フェムト秒のとき2ナノ秒)以上が好ましく、16000000回(微小時間Δtが0.25フェムト秒のとき4ナノ秒)以上がより好ましい。
〔結果の出力〕
本発明の計算方法においては、ステップ1〜ステップ5を所定回数繰り返した後に、ファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞を出力する。ステップ1〜ステップ5の所定回数の繰り返し時点における瞬間値、あるいは一定回数繰り返して得られた平均値のどちらか一方または両方を出力することができる。
また、本発明においては、必要に応じ、上記のように出力した圧力PvdW 0→∞の値を用いて諸物理量や原子の座標を計算し、出力することができる。出力する諸物理量は特に限定されず、全圧力Ptotal、系の密度などが挙げられる。出力する諸物理量は、所定回数の繰り返し時点における瞬間値、あるいは一定回数繰り返して得られた平均値のどちらか一方または両方とすることができる。原子の座標については、分子動力学シミュレーション最大の特徴である原子の時間経過による運動をとらえることができるという性質から、ある繰り返し回数における瞬間値を出力することが好ましい。
以上の手順を実行すれば、高分子中に低分子が存在する系においてスケールされた非結合性相互作用を用いた場合に、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を求められず正確な圧力を計算できないという課題を解決することができる。
〔相互作用エネルギーまたは配置のサンプリング〕
特に、本発明の計算方法は、高分子-低分子間の相互作用エネルギーや、高分子中の低分子の配置のサンプリングを行うために好適に用いることができる。様々なλlow-polyにおいて、図1のフローに従ったシミュレーションを並列に実行することにより、様々なλlow-polyにおける低分子‐高分子間非結合性相互作用Vlow-polyや高分子中の低分子の配置をサンプリング可能である。しかしλlow-polyが大きい場合は高分子中を低分子が移動し難いため、十分なサンプリングを行うには独立な初期配置を複数用意する必要があり、計算時間が長くなる。
そこで、前述の所定回数のステップ1〜ステップ5の繰り返しの後に、λlow-polyを0≦λlow-poly≦1の範囲で増減させるステップ6を加えることにより、様々なλlow-polyにおける低分子‐高分子間非結合性相互作用や高分子中の低分子の配置を、短時間かつ高い統計精度でサンプリングすることができる。
以下、本サンプリング方法の好ましい実施形態を、図2のフローに従って説明する。なお、図1と同様の部分は省略し、本サンプリング方法特有の操作に絞り説明する。
本サンプリング方法においては、非結合性相互作用のスケール値λの範囲として0≦λ≦1を用いることができるが、λpoly-intra=λlow-lowpoly-poly=λlow-intra=1、0≦λlow-poly≦1とすることが好ましい。λpoly-intra=λlow-lowpoly-poly=λlow-intra=1とする理由は前述の通りである。λlow-polyの初期値は0≦λlow-poly≦1の範囲であればどのような値でもよいが、数値処理の行いやすさの観点から0または1が好ましい。
図2のステップ1〜図2ステップ5までは、図1のステップ1〜図1ステップ5までと同様である。
〔ステップ6〕
ステップ6は、所定回数(後述する「Δn」回)のステップ1〜ステップ5の繰り返しに1回、ステップ1〜5にさらに加えて実行される。λlow-polyの値を増減させるステップ6においては、λlow-polyの増減間隔Δλをλlow-polyに加減する。なおλlow-polyの増減の規則は、λlow-polyが0から1まで変化するようなものであればどのようなものでも構わないが、様々なλlow-polyの状態の相互作用をサンプリングするという観点から、ステップ1〜5、および所定回数に1回のステップ1〜ステップ6の繰り返しにおいて、ステップ6の実行時に1回以上λlow-poly=0およびλlow-poly=1となるよう設定することが好ましい。
さらに、ステップ6の実行時に1回以上λlow-poly=0およびλlow-poly=1となるよう設定する場合、各λlow-polyにおける低分子‐高分子間非結合性相互作用と、熱力学的積分法、自由エネルギー摂動法、ベネット受容比法またはマルチステイトベネット受容比法を組み合わせることにより、高分子中に低分子が溶解するときの自由エネルギーを求めることができる。なお、熱力学的積分法の場合は相互作用をλで微分した値を用いる。
増減間隔Δλは、0<Δλ≦1となる値であればどのような値であってもよい。ステップ6を実行したときに1回以上λlow-poly=0およびλlow-poly=1なるようにするためには、λlow-polyにm回(mは自然数)加えるまたは引いたときに1または0となる増減間隔Δλを設定することが好ましい。また自由エネルギー計算まで考慮に入れると、Δλが大きすぎる場合、隣り合うλlow-poly+mΔλの状態とλlow-poly+(m±1)Δλの状態間のエネルギー差が大きく、正確に自由エネルギーを求めることができない。一方Δλが小さすぎると、自由エネルギーの計算精度は上がるものの、それに伴い計算コストも上昇する。これらの観点から、増減間隔Δλは0.01以上0.3以下が好ましく、0.03以上0.2以下がさらに好ましく、0.05以上0.15以下が特に好ましい。
ステップ6を実施する間隔Δnは1以上の値であれば、どのような値でもよい。しかし、Δnが小さすぎるとサンプリングできる空間は増加するものの局所的な構造のサンプリング効率が低下する、一方Δnが大きすぎるとサンプリングできる空間が狭くなる。そこで、Δnは1以上10000以下が好ましく、100以上7000以下がより好ましく、500以上5000以下が特に好ましい。
所定回数に1回ステップ6を実施する回を含めた全体の繰り返し回数nとステップ6を実施する間隔Δnを用いると、ステップ6を実施するのはnをΔnで割った余りが0に等しいときである。
本サンプリング方法においては、ステップ1〜ステップ5、および所定回数に1回のステップ1〜ステップ6を繰り返した後に、高分子−低分子間の相互作用エネルギーVlow-polyおよび原子の座標rを出力する。ここでは、ステップ1〜ステップ5(ステップ6を実施する回を含む)の所定回数の繰り返し時点における瞬間値、あるいは一定回数ごとに得られた平均値のどちらか一方または両方を出力することができる。ただし原子の座標rに関しては平均値に物理的な意味が乏しいため瞬間値を出力することが好ましい。また各λlow-polyでのサンプリングという観点から、各λlow-poly毎に高分子−低分子間の相互作用エネルギーVlow-polyおよび原子の座標rを出力することが好ましい。
〔プログラムおよび記録媒体〕
本発明のプログラムは、コンピュータの構成要素に上記の圧力の計算方法または相互作用エネルギーと配置のサンプリング方法の各ステップにおける計算手段として動作させるものである。このプログラムを用いれば、上述の計算方法を実行することができる。
また、本発明の記録媒体は、当該プログラムをコンピュータ読み取り可能に記録したものである。この記録媒体のプログラムをコンピュータにて読み取って実行すれば、上述の計算方法を実行することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは例示的なものであって限定的なものではない。
[実施例1]
ポリジメチルシロキサン(PDMS)4分子/水1分子の系について、分子動力学シミュレーションを実施した。分子動力学シミュレーションは東レ株式会社で独自に開発したFORTRANプログラムを用いて行い、分子軌道計算は汎用プログラムGaussian(登録商標)09を用いて行った。また、計算にはクロック周波数2.93GHzのCore i7(登録商標)870を搭載したコンピュータ、およびクロック周波数2.7HzのXeon(登録商標)E5-2680を搭載したコンピュータを用いた。
アクセルリス社(現:バイオビア社)製の分子設計システムMaterials Studio(登録商標)7.0上で下記構造式(1)に示すポリマーを作成した。
Figure 2016181257
構造式(1)において、n=40(分子量=2996)とした。次いで、Materials Studio(登録商標)7.0 Amorphous Cell Moduleを用いて、表1に示した組成で、PDMS分子と水分子を三次元周期境界条件下でランダムに配置し、系を作成した。Materials Studio(登録商標)7.0の外部出力機能を使用し、作成した系の原子の座標r 、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプ、原子の質量m、基本セルベクトルhが記載された分子構造ファイルを作成した。
次に、テキストエディタを用いて分子構造ファイルに記載されたポテンシャルパラメータタイプに対応したポテンシャルパラメータを記述したパラメータファイルを作成した。
さらにテキストエディタを用いて非結合性相互作用のスケール値λ、相互作用計算のカットオフ半径r、図1計算フローにおけるループの繰り返しを規定する回数n、出力する物理量とその出力間隔、設定温度T0、設定圧力P0、熱浴の慣性量Q、barostatの慣性量Wを記述した計算条件ファイルを作成した。
作成した分子構造ファイル、パラメータファイル、計算条件ファイルを分子動力学シミュレーションプログラムで読み取らせ、データをメモリに格納した。
Figure 2016181257
計算条件ファイルにおいて、非結合性相互作用のスケール値λを相互作用の種類ごとに設定した。低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.1、高分子の分子内非結合性相互作用と、高分子‐高分子間非結合性相互作用のそれぞれのスケール値λpoly-intra=λpoly-poly=1とした。本実施例における低分子は水1分子であるため、低分子の分子内非結合性相互作用のスケール値λlow-intra および低分子‐低分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-lowは設定しない。
また、計算条件ファイルにおける他のパラメータとして、カットオフ半径r=10オングストローム、図1計算フローにおけるループの繰り返しを規定する回数を16000000回、出力する物理量を原子の座標r、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞および密度とし、その出力間隔を下記ステップ1〜ステップ5のループを4000回繰り返すごとに1回とした。
温度制御にNose−Hoover法〔M.Tuckerman,B.J.Berne,G.J.Martyna,J.Chem.Phys.,1992, 97,p.1990.〕、圧力制御にParrinello−Rahman法〔M. Parrinello、A. Rahman、J. Appl. Phys.、1981、52、p.7182〕を用いて、原子数・温度・圧力一定(NPT)アンサンブルを構成することにより、系を設定温度T0、設定圧力P0に制御した状態で下記ステップ1〜ステップ5を実施した。なお、設定温度T0=20℃、設定圧力P0=1atm、熱浴の慣性量Q=120.95(kJ・ps2)/mol、barostatの慣性量W=483.79(kJ・ps2)/molとした。
NPTアンサンブルにおける分子動力学シミュレーションを実施するためには、下記ステップ5において原子の座標r、原子の速度v、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルh、基本セルベクトルの速度hvを更新することが必要である。そのため分子構造ファイルおよび計算条件ファイルで入力していない、原子の速度v、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルの速度hvに初期値を与える必要がある。そこで原子の速度vの初期値としてT0=20℃におけるマクスウェル分布に従うよう計算された速度を、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルの速度hvの初期値として全ての成分に0を与えメモリに格納した。
〔ステップ1〕
メモリに格納された原子の座標r、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λ、ならびに数式(8)で示したDreiding型のvdWポテンシャルを含む、数式(6)で示したポテンシャル関数Vtotalを原子の座標rで微分した式を用いて分子内力・分子外力を計算しメモリに格納した。
また、数式(8)中のδ=1.0×10-20とし、数式(6)第6項のクーロンポテンシャルおよびその力の計算にはEwald法を用い、Ewald法のパラメータとして逆空間のクーロンポテンシャルにα=0.21オングストローム-1、|n| max=50を用いて計算した。
ポテンシャルパラメータの設定は以下の通りである。まず、PDMS分子については、分子内ポテンシャルパラメータとして、結合長・結合角の平衡位置R0、θ0にはHF/6-31G(d,p)レベルの分子軌道計算によって決定した値を、力の定数Kbond、Kangle、Ktorsion、Kinversionおよび平衡位置φ0、ω0にはAMBERパラメータ、hybrid/UAパラメータおよび桑島ポテンシャルパラメータを用いた。vdWポテンシャルの深さと斥力が生じる位置を決めるパラメータD、RにはAMBERパラメータ、および桑島ポテンシャルパラメータを用い、電荷はB3LYP/6-31G(d,p)レベルの分子軌道計算によって決定した値を用いた。
水分子については、結合長・結合角の平衡位置R0、θ0にはTIP3Pパラメータ[W. L. Jorgensen 、R. W. Impey 、J. Chandrasekhar 、 J. D. Madura、M. L. Klein 、J. Chem. Phys.、1983、79、p.926.〕を用い、結合長・結合角の力の定数Kbond、KangleはIRの実測値を再現するように決定した値を用い、vdWポテンシャルの深さと斥力が生じる位置を決めるパラメータD、Rと電荷にはTIP3Pパラメータを用いた。
〔ステップ2〕
ステップ1で計算した分子間力の一つであるvdW力(数式(8)の微分)と、原子の座標rからビリアル定理(数式(10A)および(10B))を用いて圧力PvdW 0→rcを計算しメモリに格納した。
〔ステップ3〕
原子の座標r、原子のポテンシャルパラメータタイプ、ポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λおよび相互作用計算のカットオフ半径rと数式(4A)、(11A)、(11B)から圧力PvdW rc→∞を計算しメモリに格納した。
〔ステップ4〕
ステップ2および3で計算したカットオフ半径内のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→rcとカットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の和から圧力PvdW 0→∞を計算しメモリに格納した。
〔ステップ5〕
メモリに格納された原子の質量m、原子の座標r、原子の速度v、熱浴の慣性量Q、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、barostatの慣性量W、基本セルベクトルh、基本セルベクトルの速度hv、分子内力、分子間力を用いて、微小時間Δt後の原子の座標r、原子の速度v、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルh、基本セルベクトルの速度hvを数値積分によって計算し、更新した。数値積分には多重時間刻み数値積分法(RESPA法)を用い、時間刻みΔtは表2に示した値を用いた。
Figure 2016181257
ステップ5で更新した微小時間Δt後の原子の座標r、原子の速度v、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルh、基本セルベクトルの速度hvを初期値としてステップ1〜ステップ5を再度実行させることをn=16000000回繰り返した。RESPA法における最小の時間刻みが0.25フェムト秒であるため、この繰り返し回数は4ナノ秒に相当する。
なお本実施例ではNose−Hoover法により温度、Parrinello−Rahman法により圧力を制御しているためスッテプ5において熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルh、基本セルベクトルの速度hvを更新した。
ステップ1〜ステップ5を4000回(1ピコ秒に相当)繰り返すごとに、原子の座標r、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞および密度を出力した。また計算終了時(ステップ1〜ステップ5を16000000回繰り返し終了後)にカットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞および密度の平均値を計算した。
なお、本実施例の計算では構造緩和のための予備計算として、上述の計算の前に20℃の原子数・温度・体積一定(NVT)アンサンブルの分子動力学シミュレーションを10ピコ秒、1atm/20℃のNPTアンサンブルの分子動力学シミュレーションを90ピコ秒、1atmの分子動力学シミュレーションにおいて温度を20℃〜500℃まで200ピコ秒周期で上昇下降を繰り返し緩和させるシミュレーテッドアニーリングを14サイクル(2800ピコ秒に相当)、1atm/20℃のNPTアンサンブルの分子動力学シミュレーションを300ピコ秒実施した。
分子動力学シミュレーション終了後、非結合性相互作用のスケール値λの違いによるPDMS構造の変化を明らかにするため、分子動力学シミュレーションで得られた原子の座標rの時系列データとMaterials Studio(登録商標)7.0 Atom Volumes And Surfaces toolを用いてConnolly Surface法[M. L. Connolly, 1983, Science, 221, p.709.]により自由体積を求め、数式(12)で示される系の空隙率を計算した。
Figure 2016181257
[実施例2]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.3としてメモリに格納し、それ以外は実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施して、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[実施例3]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.4としてメモリに格納し、それ以外は実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施して、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[実施例4]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.5としてメモリに格納し、それ以外は実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施して、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[実施例5]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.6としてメモリに格納し、それ以外は実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施して、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[実施例6]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.8としてメモリに格納し、それ以外は実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施して、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例1]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.1としてメモリに格納し、ステップ1およびステップ2を実施した後、ステップ3を実施せず、ステップ4およびステップ5を実施し、以後ステップ1〜2、ステップ4〜5を16000000回繰り返し実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
ステップ3を実施しないという以外は実施例1と同条件であり、この操作はカットオフ半径から無限遠までのファンデルワールス相互作用から生じる圧力を無視することに相当する。
[比較例2]
比較例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.3としてメモリに格納し、それ以外は比較例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例3]
比較例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.4としてメモリに格納し、それ以外は比較例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例4]
比較例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.5としてメモリに格納し、それ以外は比較例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例5]
比較例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.6としてメモリに格納し、それ以外は比較例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例6]
比較例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.8としてメモリに格納し、それ以外は比較例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
実施例1〜6、比較例1〜6で得られたカットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率、および同じ低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-polyにおける実施例と比較例の空隙率の比を表3にまとめた。また低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-polyに対する密度および空隙率を図3、4に示した。
PDMSの密度の実験値は0.971g/cm3[I. Vinckier, P. Moldenaers, J. Mewis, Journal of Rheology, 1996, 40, p.613.]である。図3より実施例は実験値と同程度の密度を持つが、比較例においては密度が小さくなることがわかる。さらに図4より比較例は実施例より3割程度大きな空隙を持つことがわかる。よって圧力一定のアンサンブルでの分子動力学シミュレーションでは、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を考慮しなければ、系の密度を過小に評価し、系の空隙率を過大に評価することになる。
Figure 2016181257
上記実施例および比較例では計算時間およびvdW相互作用エネルギーの計算精度の関係から一般的に好ましく用いられるカットオフ半径r=10オングストロームを用いた。
しかしカットオフ半径を大きくすれば計算時間が増加するが、カットオフ半径内のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW 0→rcの寄与が増加するため、PvdW 0→rcがPvdW 0→rc+PvdW rc→∞に漸近する。
[比較例7]
計算条件ファイルにおいてカットオフ半径r=12オングストロームとする以外は比較例5と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例8]
計算条件ファイルにおいてカットオフ半径r=15オングストロームとする以外は比較例5と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
[比較例9]
計算条件ファイルにおいてカットオフ半径r=17オングストロームとする以外は比較例5と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞の平均値、密度の平均値、空隙率を計算した。
実施例5、比較例5、比較例7〜9において分子動力学シミュレーションプログラムを実行するにあたりその計算実行時間を、今回用いたコンピュータの標準シェルであるcshの”time”コマンドを用いて測定し出力した。
得られた分子動力学シミュレーションプログラムの計算実行時間および密度を図5に示した。カットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を考慮しない比較例5、比較例7〜9においても、カットオフ半径を17オングストローム程度まで大きくすれば、カットオフを行ったことによる影響が小さくなり実験値の密度に近づくが、計算時間も2倍弱に増加した。
一方、実施例5ではカットオフ半径から無限遠のファンデルワールス相互作用から生じる圧力PvdW rc→∞を考慮したため、短い計算時間で現実系に近い密度再現する高精度な計算を行うことができた。
[実施例7]
ポリジメチルシロキサン(PDMS)4分子/エチレングリコール(EG)1分子の系を作成し、低分子の分子内非結合性相互作用のスケール値λlow-intra=1.0と設定する以外実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施した。得られた原子の座標rの時系列データと結合情報からエチレングリコールのO-C-C-O二面角の平均値を計算した。
エチレングリコールの力場パラメータについては分子内ポテンシャルパラメータの力の定数Kbond、Kangle、Ktorsion、Kinversionおよび平衡位置R0、θ0、φ0、ω0として、HF/6-31G(d,p)レベルの分子軌道計算によって決定したパラメータ、AMBERパラメータ、hybrid/UAパラメータおよび桑島ポテンシャルパラメータを用い、vdWパラメータにはAMBERパラメータ、および桑島ポテンシャルパラメータを用い、電荷はB3LYP/6-31G(d,p)レベルの分子軌道計算によって決定した値を用いた。なおO-C-C-O二面角、H-O-C-C二面角パラメータは、分子軌道計算により仮パラメータを設定した後、NMRにより測定されたバルク溶液中のO-C-C-O二面角の平均値φ=72°[G. Chidichimo, D. Imbardelli, M. Longeri, A. Saupe, Mol. Phys., 1988, 65, 1143]を再現するよう調整したものを用いた。
[実施例8]
ポリジメチルシロキサン(PDMS)4分子/エチレングリコール(EG)1分子の系について、低分子の分子内非結合性相互作用のスケール値λlow-intra=0.1とする以外実施例7と同条件で分子動力学シミュレーションを実施し、エチレングリコールのO-C-C-O二面角の平均値を計算した。
実施例7、実施例8で計算したエチレングリコールのO-C-C-O二面角の平均値およびNMR測定による実験値を表4にまとめた。表4より実施例7はバルク状態の実験値に近い値でありゴーシュ体が支配的である。バルク中とポリマー中のエチレングリコールのコンフォメーションは必ずしも一致する必要はないが、実施例7、実施例8におけるPDMSのようにエチレングリコールに対し特異的に相互作用する官能基を有していない場合は、バルク状態のコンフォメーションとの差異はあまり大きくないと考えられるため、O-C-C-O二面角の平均値はバルク中の実験値と近いはずである。
一方、実施例8では実験値と異なりトランス体が支配的である。これは低分子の分子内非結合性相互作用のスケール値λlow-intra=0.1としたことにより、エチレングリコールの分子内水素結合が弱まり、分子内のコンフォメーションが崩れてしまったためである。
よってエチレングリコールなど低分子内の非結合性相互作用がコンフォメーションに大きく寄与している低分子では、低分子の分子内非結合性相互作用のスケール値λlow-intra=1.0とし、低分子内非結合性相互作用をスケールしないことが好ましいといえる。
Figure 2016181257
[実施例9]
実施例1の計算条件ファイルにおいて低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-poly=0.8としてメモリに格納し、それ以外は実施例1と同条件で分子動力学シミュレーションを実施して、ステップ1〜ステップ5のループを4000回繰り返すごとにPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-poly、原子の座標を出力した。同様の手順の計算を独立な7種類の初期配置について実施し、初めに計算を行った初期配置を含め8種類の独立な配置から得られたPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-polyの平均値を計算した。またcshの”time”コマンドを用い、8種類の独立な配置の計算が全て終了するまでの時間を測定した。
[実施例10]
ポリジメチルシロキサン(PDMS)4分子/水1分子の系について、図2のフローに従い分子動力学シミュレーションを実施し、様々なλlow-polyにおけるPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-polyをサンプリングした。
実施例1と同様に、表1に示した組成で、PDMS分子と水分子を三次元周期境界条件下でランダムに配置し、系を作成した。Materials Studio(登録商標)7.0の外部出力機能を使用し、作成した系の原子の座標r 、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプ、原子の質量m、基本セルベクトルhが記載された分子構造ファイルを作成した。
次に、テキストエディタを用いて分子構造ファイルに記載されたポテンシャルパラメータタイプに対応したポテンシャルパラメータを記述したパラメータファイルを作成した。
さらにテキストエディタを用いて非結合性相互作用のスケール値λ、λlow-polyの増減間隔Δλ、Δλを加減する間隔Δn、相互作用計算のカットオフ半径r、図2計算フローにおけるループの繰り返しを規定する回数n、出力する物理量とその出力間隔、設定温度T0、設定圧力P0、熱浴の慣性量Q、barostatの慣性量Wを記述した計算条件ファイルを作成した。
作成した分子構造ファイル、パラメータファイル、計算条件ファイルを分子動力学シミュレーションプログラムで読み取らせ、データをメモリに格納した。
計算条件ファイルにおいて、非結合性相互作用のスケール値λを相互作用の種類ごとに設定した。低分子‐高分子間非結合性相互作用のスケール値の初期値をλlow-poly=1、高分子の分子内非結合性相互作用と、高分子‐高分子間非結合性相互作用のそれぞれのスケール値λpoly-intra=λpoly-poly=1とした。実施例1同様に低分子の分子内非結合性相互作用のスケール値λlow-intra および低分子‐低分子間非結合性相互作用のスケール値λlow-lowは設定しない。λlow-polyの増減間隔Δλ=0.1とし、Δλを加減する間隔Δn=4000回とした。さらに、カットオフ半径r=10オングストローム、図2計算フローにおけるループの繰り返しを規定する回数n=16000000回とした。出力する物理量をPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-poly、原子の座標rとしその出力間隔を図2のステップ1〜ステップ5(Mod(n,Δn)=0のときはステップ6も含む)のループを1000回繰り返すごとに1回とした。
実施例1同様、温度制御にNose−Hoover法、圧力制御にParrinello−Rahman法を用いて、原子数・温度・圧力一定(NPT)アンサンブルを構成することにより、系を設定温度T0、設定圧力P0に制御した状態で図2ステップ1〜ステップ6を実施した。なお、設定温度T0=20℃、設定圧力P0=1atm、熱浴の慣性量Q=120.95(kJ・ps2)/mol、barostatの慣性量W=483.79(kJ・ps2)/molとした。
また原子の速度vの初期値としてT0=20℃におけるマクスウェル分布に従うよう計算された速度を、熱浴の位置ζ、熱浴の速度ζv、基本セルベクトルの速度hvの初期値として全ての成分に0を与えメモリに格納した。ステップ1〜ステップ5は実施例1と同様に実施した。ステップ1〜ステップ5を4000回繰り返す毎に、下記ステップ6を1回実行した。
〔ステップ6〕
メモリに格納されたλlow-polyに増減間隔Δλ(0.1)を次の規則に従い加減した。
〔Δλ加減規則〕
1.λlow-poly=0となるまで、ステップ6に到達する毎にΔλを引く。
2.λlow-poly=0に到達したら、λlow-poly=1となるまでステップ6に到達する毎にΔλを加える。
3.λlow-poly=1に到達したら、λlow-poly=0となるまでステップ6に到達する毎にΔλを引く。
4.上記1〜3の操作を、繰り返しの規定回数nに到達するまで繰り返す。
このようにしてステップ6で更新されたλlow-polyを用いて再びステップ1〜ステップ5を実施した。繰り返しの規定回数に到達後、λlow-poly=0.8におけるPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-polyの平均値を計算した。またcshの”time”コマンドを用い、計算が終了するまでの時間を測定した。
実施例9、実施例10で計算したPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-polyおよび計算実行時間を表5にまとめた。表5より実施例9、実施例10どちらのPDMS−水間の非結合相互作用Vlow-polyもほぼ同じ精度で計算できていることがわかる。しかし実施例10は実施例9の約1/8の計算時間で終了しており、効率が非常に高いといえる。
Figure 2016181257

Claims (9)

  1. コンピュータを利用した高分子と低分子の混合系の分子動力学シミュレーションにおいて、下記数式(2)のように、
    (i)低分子の分子内vdW相互作用Vvdw low-intra(r, λlow-intra)と、
    (ii)高分子の分子内vdW相互作用Vvdw poly-intra(r, λpoly-intra)と、
    (iii)低分子‐低分子間vdW相互作用Vvdw low-low(r, λlow-low)と、
    (iv)高分子‐高分子間vdW相互作用Vvdw poly-poly(r, λpoly-poly)と、
    (v)低分子‐高分子間vdW相互作用Vvdw low-poly(r, λlow-poly)
    との和(0≦λ≦1、ただし(i)から(v)のλのうち少なくとも1つは0≦λ<1)で表される、非結合性相互作用のスケール値λを含むスケールファンデルワールス(vdW)相互作用ポテンシャルVvdW(r, λ)を用いた場合の前記混合系のファンデルワールス(vdW)相互作用から生じる圧力の計算方法であって、
    Figure 2016181257
    コンピュータに、
    ・前記高分子と前記低分子に含まれる原子の座標r
    および、必要に応じ
    ・原子の速度v
    の初期値、
    ならびに
    ・結合情報
    ・原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ
    ・原子の質量m
    ・非結合性相互作用のスケール値λ
    ・相互作用計算のカットオフ半径r
    を入力した後、コンピュータに、
    (ステップ1)原子の座標r、結合情報、原子のポテンシャルパラメータタイプおよびポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λ、ならびに下記数式(3)で示したポテンシャル関数Vtotalを原子の座標rで微分した式を用いて、前記高分子および前記低分子の分子内力(数式(3)第1項から第4項の微分の和)および分子間力(数式(3)第5項と第6項の微分の和)を計算するステップ;
    Figure 2016181257
    (ただし、R、θ、φ、ωはそれぞれ注目する結合の距離、変角の角度、二面角の角度、反転の角度を表す。)
    (ステップ2)ステップ1で計算した分子間力の一つであるファンデルワールス(vdW)力(数式(3)第5項の微分)と、原子の座標rからビリアル定理を用いて圧力PvdW 0→rcを計算するステップ;
    (ステップ3)原子の座標r、原子のポテンシャルパラメータタイプ、ポテンシャルパラメータ、非結合性相互作用のスケール値λおよび相互作用計算のカットオフ半径rから、下記数式(4A)および(4B)を用いて圧力PvdW rc→∞を計算するステップ;
    Figure 2016181257
    (ただし、Mはポテンシャルパラメータタイプの総数、Nα、Nβはそれぞれポテンシャルパラメータタイプα、βを持つ原子の数、diag[・・・]は対角行列を表す。)
    (ステップ4)下記数式(5)によりファンデルワールス(vdW)相互作用から生じる圧力PvdW 0→∞を計算するステップ;
    Figure 2016181257
    (ステップ5)原子の質量m、分子内力、分子間力を用いて、微小時間Δt後の
    ・原子の座標r
    ・原子の速度v
    を数値積分によって更新するステップ:
    を実行させ、
    さらに、ステップ5で更新した微小時間Δt後の原子の座標r、原子の速度vを初期値としてステップ1〜ステップ5を再度実行させ、これを繰り返すことを含むファンデルワールス(vdW)相互作用から生じる圧力の計算方法。
  2. ステップ1において数式(3)におけるスケールされたvdW相互作用ポテンシャルVvdW(r, λ)が数式(8)に示したDreiding型レナードジョーンズポテンシャルであり、数式(4A)、数式(11A)および(11B)を用いてPvdW rc→∞を計算する、請求項1に記載の圧力の計算方法。
    Figure 2016181257
    (ここで注目する二つの原子をi,jとし、δはエネルギーと力の距離依存性を調節するパラメータ、D、RはvdWポテンシャルの深さと斥力が生じる位置を決めるパラメータ、r2 ijはij間の距離とし、0≦λij≦1、δ≧0mとする。)
    Figure 2016181257
  3. 非結合性相互作用のスケール値をλlow-intra=λpoly-intra=λlow-low=λpoly-poly=1、0≦λlow-poly<1とすることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力の計算方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の圧力の計算方法を用いて圧力を計算することを含む高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法。
  5. 請求項1または2に記載の圧力の計算方法を用いて圧力を計算することを含む高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法であって、λlow-intra=λpoly-intra=λlow-low=λpoly-poly=1とし、所定回数のステップ1〜ステップ5の繰り返しに1回、さらに
    (ステップ6)λlow-polyを0≦λlow-poly≦1の範囲で増減するステップ;
    を実行させ、
    さらに、ステップ5で更新した微小時間Δt後の原子の座標rおよび原子の速度v、ならびにステップ6で増減させたλlow-polyを初期値としてステップ1〜ステップ5を再度実行させ、これを繰り返すことを含む、高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法。
  6. ステップ1〜5、および所定回数に1回のステップ1〜ステップ6の繰り返しにおいて、ステップ6の実行時に1回以上λlow-poly=0およびλlow-poly=1となるよう設定する、請求項5に記載の高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法。
  7. ステップ6におけるλlow-polyの増減間隔Δλが0.01以上0.3以下である、請求項5または6に記載の高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法。
  8. 請求項1〜3のいずれかに記載の圧力の計算方法または、請求項4〜7のいずれかに記載の高分子-低分子間の相互作用エネルギーまたは高分子中の低分子の配置のサンプリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
  9. 請求項8に記載のプログラムをコンピュータに読み取り可能に記録した記録媒体。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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